説明

エンジンの減速制御装置

【課題】エンジンの減速時に燃料カットを行い、EGR弁を開作動し、吸気制御弁を閉作動するエンジンにおいて、減速時に排気通路内で排圧が相対的に低下している状態でも、排気通路から吸気通路へのガス還流量を確実に増大し、排気浄化装置の冷却を回避する。
【解決手段】エンジン1の減速状態がアクセル開度センサ34で検出されたとき、コントロールユニット30は、燃料カットを行い、EGR弁19を開作動し、吸気制御弁15を閉作動し、かつ、EGR通路8との接続部より下流の排気通路3に配設された可変容量式過給機11のタービン部13に備えられた可動ベーン13bで形成されるノズルの開度を閉方向に制御することにより、排気通路3において少なくともEGR通路8との接続部における排圧を上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの減速制御装置、特に減速時に燃料カットが行われるエンジンの減速制御装置に関し、減速時におけるエンジン制御の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンの排気通路には、例えば排気ガス中に含まれる炭化水素や一酸化炭素を酸化し、あるいは窒素酸化物を還元して、排気ガスを浄化するための排気浄化装置が配設されている。このような排気浄化装置は、貴金属類を主成分とする触媒を利用するので、排気浄化装置が活性状態になるためには、排気浄化装置がエンジンから排出される排気ガスで暖められ、触媒作用が開始する活性化温度まで昇温する必要がある。
【0003】
一方、運転者が加速を要求せず、アクセルペダルの踏込みを中止するエンジンの減速時には、エンジンの燃料噴射を停止する燃料カットを行うことが知られている。この燃料カット時には、エンジンで燃焼が起きていないがエンジンは回転しているので、比較的低温の新気が排気浄化装置にそのまま流入して排気浄化装置が冷却されてしまう。その結果、排気浄化装置が未だ活性状態になっていない場合は、排気浄化装置が活性状態になるまでの時間が長くなるという不具合が生じ、あるいは、排気浄化装置が活性状態であった場合は、排気浄化装置が冷えて活性状態でなくなるという不具合が生じる。
【0004】
そこで、このような問題に対処するために、特許文献1には、エンジンの吸気通路と排気通路とを連通するEGR通路と、排気通路から吸気通路へのガス還流量を調量するためのEGR弁とが備えられているエンジンにおいて、燃料カット時には、EGR弁を全開とし、かつ、吸入空気量を調量するために吸気通路に配設された吸気制御弁を全閉とする技術が開示されている。
【0005】
このようにすれば、新気の吸入量が減少し、かつ、排気浄化装置に流入するガス量が減少するから、排気浄化装置の冷却が遅延されることとなる。加えて、排気通路から吸気通路へのガス還流量が増大するから、ガスが(燃焼は起きていないけれども)熱源であるエンジン本体を通過する割合が増え(一方で、排気浄化装置に流入するガスの割合が減り)、ガス自身の冷却が遅延されて、ガスが排気浄化装置に流入した場合でも、排気浄化装置を冷却する度合いが低下することとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2007−16611(段落0024)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、そもそも減速時は吸入空気量の減少やエンジン回転数の低下(自動変速機の場合のギヤ段の自動シフトアップによる)等に起因して排気通路内での排圧が相対的に低下しているから、たとえEGR弁を前記技術のように全開としても、排気通路から吸気通路へのガス還流量がそれほど増大せず(排気浄化装置に流入するガス量がそれほど減少せず)、その結果、ガスが熱源であるエンジン本体を通過する割合がそれほど増えず、ガス自身の冷却遅延効果がそれほど得られず、ガスが排気浄化装置に流入した場合における排気浄化装置の冷却度合いの低下効果がそれほど得られないこととなる。
【0008】
本発明は、エンジンの減速時に燃料カットが行われ、かつ、EGR弁を開作動し、吸気制御弁を閉作動するエンジンにおける前記のような不具合に対処するもので、たとえ減速時に排気通路内での排圧が相対的に低下している状態でも、排気通路から吸気通路へのガス還流量を確実に増大し、もって排気浄化装置の冷却を回避することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。
【0010】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの吸気通路と排気通路とを連通するEGR通路に配設され、排気通路から吸気通路へのガス還流量を調量するためのEGR弁と、前記EGR通路との接続部より上流の吸気通路に配設され、吸入空気量を調量するための吸気制御弁と、前記EGR通路との接続部より下流の排気通路に配設され、排気ガスを浄化するための排気浄化装置と、エンジンの減速状態を検出する減速検出手段と、この減速検出手段でエンジンの減速状態が検出されたとき、エンジンの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、この燃料供給停止手段で燃料供給が停止されたとき、前記EGR弁を開作動し、前記吸気制御弁を閉作動する減速制御手段とを有するエンジンの減速制御装置であって、前記減速検出手段でエンジンの減速状態が検出されたとき、排気通路において少なくとも前記EGR通路との接続部における排圧を上昇させる排圧上昇手段が備えられていることを特徴とする。
【0011】
ここで、EGR弁について「開作動」とは、EGR弁の開度を全閉以外の開度とすることをいい、好ましくは、EGR弁を通常制御していたならば設定されたであろう開度以上に大きい開度とすることをいう。同様に、吸気制御弁について「閉作動」とは、吸気制御弁の開度を全開以外の開度とすることをいい、好ましくは、吸気制御弁を通常制御していたならば設定されたであろう開度以下に小さい開度とすることをいう。
【0012】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記排圧上昇手段は、前記EGR通路との接続部より下流の排気通路に配設された可変容量式過給機のタービン部に備えられた可動ベーンで形成されるノズルの開度を閉方向に制御するものであることを特徴とする。
【0013】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、前記減速制御手段は、前記温度検出手段で検出された温度が所定温度よりも低いときに限り、前記EGR弁を開作動し、前記吸気制御弁を閉作動することを特徴とする。
【0014】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、前記減速制御手段は、前記吸気制御弁の閉作動時の開度を、前記温度検出手段で検出された温度に応じて設定することを特徴とする。
【0015】
次に、本願の請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記減速制御手段は、前記吸気制御弁の閉作動時の開度を、該吸気制御弁より下流の吸気圧力が所定の目標圧力になる開度に設定することを特徴とする。
【0016】
次に、本願の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、前記減速制御手段は、前記目標圧力を、前記温度検出手段で検出された温度に応じて設定することを特徴とする。
【0017】
次に、本願の請求項7に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、前記減速制御手段は、前記EGR弁の開作動時の開度を、該EGR弁の開度の増大に対するガス還流量の増加率が所定値よりも小さくなり始める開度に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
まず、請求項1に記載の発明によれば、エンジンの減速時(エンジンの減速状態が検出されたとき)に燃料カット(エンジンの燃料供給の停止)が行われ、かつ、EGR弁を開作動し、吸気制御弁を閉作動するエンジンにおいて、減速時には、排気通路において少なくともEGR通路との接続部における排圧を上昇させるようにしたから、たとえ減速時に排気通路内での排圧が相対的に低下している状態でも、少なくとも排気通路とEGR通路との接続部では排圧が上昇することとなり、その結果、EGR通路を介しての排気通路から吸気通路へのガス還流量が確実に増大することとなる。
【0019】
その結果、ガスが(燃焼は起きていないけれども)熱源であるエンジン本体を通過する割合が増え(一方で、排気浄化装置に流入するガスの割合が減り)、ガス自身の冷却が遅延されて、ガスが排気浄化装置に流入した場合でも、排気浄化装置を冷却する度合いが確実に低下することとなる。すなわち、排気浄化装置の冷却が回避されることとなる。
【0020】
次に、請求項2に記載の発明によれば、既存の可変容量式過給機のタービン部を利用して、減速時における前記排圧の上昇を実行することができる。つまり、減速時における前記排圧の上昇を達成するための専用の機器を別途排気通路に設ける必要がなくなる。
【0021】
なお、これと同様に、前記排圧上昇手段は、前記EGR通路との接続部より下流の排気通路に配設された排気シャッタ弁の開度を閉方向に制御するものであってもよい。
【0022】
これらにおいて、前記可変容量式過給機のタービン部又は前記排気シャッタ弁は、排気浄化装置の上流側、下流側のいずれに配設されていても構わない。
【0023】
次に、請求項3に記載の発明によれば、排気浄化装置の温度が所定温度よりも低いときに限り、EGR弁の開作動、吸気制御弁の閉作動を行うようにしたから、EGR弁を強制的に開く方向に制御することの弊害(すなわち、次に運転者が加速を要求してアクセルペダルの踏込みを行った場合は、EGR弁を閉じる方向に制御することになるが、そのEGR弁の閉動作遅れに伴うガス還流量の減少遅れが生じるという問題)が減少し、また、吸気制御弁を強制的に閉じる方向に制御することの弊害(すなわち、次に運転者が加速を要求してアクセルペダルの踏込みを行った場合は、吸気制御弁を開く方向に制御することになるが、その吸気制御弁の開動作遅れに伴う新気量の増加遅れが生じるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の低下が抑制されることとなる。
【0024】
ここで、前記所定温度は、例えば、排気浄化装置の活性化温度、あるいはそれより高い温度等とする。そうすれば、排気浄化装置が十分に活性状態にあるときは、EGR弁及び吸気制御弁は通常制御されることになるが、排気浄化装置が十分に活性状態にあるから、比較的低温の新気が排気浄化装置にそのまま流入しても、排気浄化装置が活性状態でなくなるまで冷えるという可能性は低いものである。
【0025】
また、排気浄化装置の温度は、例えば、エンジンの冷却水の温度や、排気浄化装置に流入する直前又は排気浄化装置から流出した直後の排気ガスの温度等に関連付けて検出することができる。すなわち、前記温度検出手段は、排気浄化装置の温度を直接検出するものの他、前記のような関連する他の温度を検出するものを含む。
【0026】
次に、請求項4に記載の発明によれば、吸気制御弁を閉作動するときの開度を、排気浄化装置の温度に応じて設定するようにしたから、吸気制御弁は様々な開度をとることとなり、吸気制御弁を常に全閉に固定することの弊害(すなわち、次の加速時における新気量の増加遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0027】
そして、例えば、排気浄化装置の温度が高いほど吸気制御弁の開度を大きくすれば、排気浄化装置の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0028】
次に、請求項5に記載の発明によれば、吸気制御弁を閉作動するときの開度を、吸気制御弁より下流の吸気圧力が所定の目標圧力になる開度に設定するようにしたから、これによっても、吸気制御弁は様々な開度をとることとなり、吸気制御弁を常に全閉に固定することの弊害(すなわち、次の加速時における新気量の増加遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0029】
ここで、前記目標圧力は、例えば、大気圧(1気圧=101.325kPa)等とする。そうすれば、排気浄化装置の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0030】
次に、請求項6に記載の発明によれば、前記目標圧力を、排気浄化装置の温度に応じて設定するようにしたから、例えば、排気浄化装置の温度が高いほど前記目標圧力を高くすれば、結局、排気浄化装置の温度が高いほど吸気制御弁の開度を大きくすることとなり、これによっても、排気浄化装置の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0031】
次に、請求項7に記載の発明によれば、EGR弁を開作動するときの開度を、該EGR弁の開度の増大に対するガス還流量の増加率が所定値よりも小さくなり始める開度に設定するようにしたから、EGR弁は様々な開度をとることとなり、EGR弁を常に全開に固定することの弊害(すなわち、次の加速時におけるガス還流量の減少遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0032】
しかも、少なくとも排気通路とEGR通路との接続部では排圧が上昇しているから、EGR弁を全開としなくても、EGR通路を介しての排気通路から吸気通路へのガス還流量が相当量増大しており、したがって、ガス自身の冷却遅延効果は十分に得られる状況にあるのである。以下、発明の最良の実施形態を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、本発明の最良の実施形態に係るエンジン1の減速制御装置10の制御システムを含む全体構成図である。ディーゼルエンジン1は、吸気通路2及び排気通路3を有し、吸気通路2の終端部である吸気ポートには吸気弁4が、排気通路3の始端部である排気ポートには排気弁5がそれぞれ備えられていると共に、燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁6及びシリンダボア内を上下動するピストン7が気筒毎に設けられている。ディーゼルエンジン1は、さらに、吸気通路2と排気通路3とを連通するEGR通路8を具備している。
【0034】
吸気通路2には、上流側から、過給機11のブロア部12、このブロア部12で圧縮昇温された吸気を冷却するインタークーラ14、及び、吸入空気量を調量するための吸気制御弁15がこの順に配設されている。
【0035】
排気通路3には、上流側から、過給機11のタービン部13、排気ガス中に含まれる炭化水素や一酸化炭素を酸化(燃焼)して排気ガスを浄化するための酸化触媒(DOC:排気浄化装置)16、及び、排気ガス中に含まれる煤等の排気微粒子を捕集するためのパティキュレートフィルタ(DPF)17がこの順に配設されている。
【0036】
EGR通路8には、排気通路3側から、排気通路3から吸気通路2へ還流されるガスを冷却するEGRクーラ18、及び、排気通路3から吸気通路2へのガス還流量を調量するためのEGR弁19がこの順に配設されている。
【0037】
その場合に、前記吸気制御弁15は、吸気通路2とEGR通路8との接続部より上流に配設されている。また、前記酸化触媒16は、排気通路3とEGR通路8との接続部より下流に配設されている。
【0038】
このエンジン1のコントロールユニット30は、エンジン1の冷却水の温度を検出する水温センサ(温度検出手段)31からの信号、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ32からの信号、酸化触媒16から流出した直後の排気ガスの温度を検出する排気ガス温度センサ(温度検出手段)33からの信号、及び、運転者により踏込み操作されるアクセルペダル20の踏込み量を検出するアクセル開度センサ(減速検出手段)34からの信号等を入力する。
【0039】
そして、コントロールユニット30は、前記各種信号が示すエンジン1の運転状態に応じて、燃料噴射弁6、吸気制御弁15、EGR弁19、及び、過給機11のタービン部13に備えられた可動ベーン13b等に制御信号を入力する。
【0040】
図2は、前記過給機11のタービン部13の構成を拡大して示す断面図である。本実施形態においては、前記過給機11は、タービン部13に備えられた可動ベーン13b…13bで形成されるノズルの開度を調節することにより過給効率が制御可能とされた周知の可変容量式過給機(VGT)である。
【0041】
すなわち、排気通路3に配設されたVGT11のタービン部13には、図中の矢印方向に流動してくる排気ガスの圧力で回転するタービン翼13aが備えられ、このタービン翼13aの周囲に複数の可動ベーン13b…13bが設けられて、隣接するベーン13b,13b同士でタービン翼13aに向けて排気ガスを噴出するためのノズル13dが形成されている。
【0042】
各可動ベーン13b…13bは軸13c…13c回りに回動可能であり、これらベーン13b…13bの回動によりノズル13d…13dの開度が変化するようになっている。
【0043】
例えば、図2に実線で示すように、隣接するベーン13b,13b同士を近接するように回動すれば、ノズル13dの開度が小さく閉じられる。すなわち、ノズル13dの開度は閉方向に制御される。特に、エンジン1の回転数が小さいときにノズル13dの開度を小さくすると、タービン翼13aに向けて噴出する排気ガスの流速が高まり、かつ、その流れがタービン翼13aの接線方向に向くので、過給効率が高まることとなる。そして、これと引き換えに、排気通路3内では、排気弁5が備えられた排気ポートからこのタービン部13までの範囲で排圧が上昇することとなる。
【0044】
その場合に、このタービン部13は、排気通路3とEGR通路8との接続部より下流に配設されている(なお、酸化触媒16に対しては、上流に配設されている)。したがって、ノズル13dの開度を小さくしたときには、排気通路3において少なくともEGR通路8との接続部における排圧が上昇することとなる。
【0045】
一方、図2に鎖線で示すように、隣接するベーン13b,13b同士を離反するように回動すれば、ノズル13dの開度が大きく開かれる。すなわち、ノズル13dの開度は開方向に制御される。特に、エンジン1の回転数が大きいときにノズル13dの開度を大きくすると、タービン翼13aに向けて噴出する排気ガスの流量が高まるので、過給効率が高まることとなる。
【0046】
コントロールユニット30は、これらの可動ベーン13b…13bで形成されるノズル13d…13dの開度を全閉(実線の状態)から全開(鎖線の状態)まで制御するようになっている(図4参照:後述する)。
【0047】
図3は、この排気浄化装置10のコントロールユニット30が行う具体的制御動作の1例を示すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップS1で、各種信号を読み込んだうえで、ステップS2で、酸化触媒16が活性状態か否かを判定する。この判定には、水温センサ31からの信号又は排気ガス温度センサ33からの信号が用いられ、例えば、エンジン1の冷却水の温度が70℃以上、又は酸化触媒16から流出した直後の排気ガスの温度が200℃以上であれば、酸化触媒16が活性状態であると判定する。
【0049】
その結果、酸化触媒16が活性状態であるときは、ステップS3〜S5で、吸気制御弁15、EGR弁19、及びVGT11の可動ベーン13bに対して、それぞれ通常制御を実行し、リターンする。
【0050】
ここで、図4に例示するように、VGT11の可動ベーン13bに対しては、エンジン回転数が大きくなるほど、また、エンジン負荷(吸入空気量や燃料噴射量で代表される)が大きくなるほど、その開度(詳しくはノズル13dの開度)が大きくなるように制御される(最大開状態は全開、最大閉状態は全閉)。これにより得られる効果は前述した通りである。
【0051】
一方、ステップS2で酸化触媒16が活性状態でないときは、ステップS6で、アクセル開度センサ34で検出されるアクセル開度(アクセルペダル20の踏込み量)が全閉(ゼロ)か否かを判定する。
【0052】
その結果、アクセル開度が全閉でないとき、つまりエンジン1が減速状態でないときは、ステップS3〜S5で、吸気制御弁15、EGR弁19、及びVGT11の可動ベーン13bに対して、それぞれ通常制御を実行し、リターンする。
【0053】
これに対し、アクセル開度が全閉であるとき、つまりエンジン1が減速状態であるときは、ステップS7で、燃料噴射弁6を制御してエンジン1の燃料噴射を停止する。つまり燃料カットを行う(燃料供給停止手段)。
【0054】
次いで、ステップS8〜S10で、吸気制御弁15、EGR弁19、及びVGT11の可動ベーン13bに対して、それぞれ減速時の制御を実行し、リターンする。
【0055】
具体的には、ステップS8では、まず、エンジン回転数及び排気ガス温度に応じて目標吸気圧を設定する。ここで、図5に例示するように、目標吸気圧は、エンジン回転数が大きくなるほど、また、排気ガス温度が大きくなるほど、大きくなるように設定される。
【0056】
あるいは、目標吸気圧を、例えば、大気圧(1気圧=101.325kPa)に固定してもよい(図3のステップS8にはこの場合の動作を表示している)。
【0057】
そして、吸気制御弁15の開度を、吸気制御弁15より下流の吸気圧力が設定された目標吸気圧(あるいは大気圧固定)になる開度(βとする:例えば30%)に設定し、吸気制御弁15にそのような制御信号を出力する(閉動作:減速制御手段)。
【0058】
また、ステップS9では、EGR弁19の開度を、EGR弁19の開度の増大に対するガス還流量の増加率が所定値よりも小さくなり始める開度に設定し、EGR弁19にそのような制御信号を出力する。
【0059】
例えば、図6に例示するように、本実施形態に係るエンジン1においては、EGR弁19の開度がゼロ(全閉)から増大していくに従って、ガス還流量が線形に増加していくが、EGR弁19の開度がα(例えば50%)を過ぎると、ガス還流量の増加率が減り始め、それ以降はEGR弁19の開度を増大してもガス還流量はそれほど増加しない。
【0060】
そこで、本実施形態においては、ステップS9で、EGR弁19の開度をαに固定し、EGR弁19にそのような制御信号を出力する(開動作:減速制御手段)。
【0061】
また、ステップS10では、VGT11の可動ベーン13bの開度を、最大閉状態(全閉:図2の実線の状態)に固定し、可動ベーン13bにそのような制御信号を出力する(閉動作:排圧上昇手段)。
【0062】
以上のような制御動作で得られる作用を図7のタイムチャートを参照して説明する。
【0063】
いま、運転者がアクセルペダル20の踏込みを中止して減速が開始すると(ステップS6でYES)、通常制御(ステップS3〜S5)から減速時制御(ステップS8〜S10)に移行する。
【0064】
その結果、吸気制御弁15の開度は、符号アで示すように、全閉ではないβに制御(閉作動)される。また、EGR弁19の開度は、符号イで示すように、全開ではないαに制御(開作動)される。さらに、VGT11のベーン13bの開度は、符号ウで示すように、全閉に固定(閉作動)される。
【0065】
この状態から、次に運転者がアクセルペダル20の踏込みを再開して加速が開始すると(ステップS6でNO)、減速時制御(ステップS8〜S10)から通常制御(ステップS3〜S5)に移行する。
【0066】
その結果、吸気制御弁15の開度は、新気量を増加させるために大きくされる。また、EGR弁19の開度は、ガス還流量を減少させるために小さくされる。さらに、VGT11のベーン13bの開度は、過給効率を高めるために大きくされる(図4参照)。
【0067】
このとき、減速時に、吸気制御弁15の開度を全閉としていないから、吸気制御弁15の開動作遅れに伴う新気量の増加遅れの問題が減少することとなる。また、EGR弁19の開度を全開としていないから、EGR弁19の閉動作遅れに伴うガス還流量の減少遅れの問題が減少することとなる。
【0068】
このように、本実施形態に係るエンジン1の減速制御装置10においては、エンジン1の減速時(エンジン1の減速状態が検出されたとき)に(ステップS6でYES)燃料カット(エンジン1の燃料供給の停止)が行われ(ステップS7)、かつ、EGR弁19が開作動され(ステップS9)、吸気制御弁15が閉作動される(ステップS8)。
【0069】
しかも、減速時には、排気通路3において少なくともEGR通路8との接続部における排圧を上昇させるようにしたから(ステップS10)、たとえ減速時に排気通路3内での排圧が相対的に低下している状態でも、少なくとも排気通路3とEGR通路8との接続部では排圧が上昇することとなり、その結果、EGR通路8を介しての排気通路3から吸気通路2へのガス還流量が確実に増大することとなる。
【0070】
その結果、ガスが(燃焼は起きていないけれども)熱源であるエンジン1本体を通過する割合が増え(一方で、酸化触媒16に流入するガスの割合が減り)、ガス自身の冷却が遅延されて、ガスが酸化触媒16に流入した場合でも、酸化触媒16を冷却する度合いが確実に低下することとなる。すなわち、酸化触媒16の冷却が回避されることとなる。
【0071】
また、VGT11のタービン部13を利用して、減速時における前記排圧の上昇を実行するようにしたから(図2参照)、減速時における前記排圧の上昇を達成するための専用の機器を排気通路3に新設する必要がなくなる。
【0072】
また、酸化触媒16の温度が所定温度(水温センサ31の場合の70℃、又は排気ガス温度センサ33の場合の200℃)よりも低いときに限り(ステップS2でNO)、EGR弁19の開作動(ステップS9)、吸気制御弁15の閉作動(ステップS8)を行うようにしたから、EGR弁19を強制的に開く方向に制御することの弊害(すなわち、次に運転者が加速を要求してアクセルペダル20の踏込みを行った場合は、EGR弁19を閉じる方向に制御することになるが、そのEGR弁19の閉動作遅れに伴うガス還流量の減少遅れが生じるという問題)が減少し、また、吸気制御弁15を強制的に閉じる方向に制御することの弊害(すなわち、次に運転者が加速を要求してアクセルペダル20の踏込みを行った場合は、吸気制御弁15を開く方向に制御することになるが、その吸気制御弁15の開動作遅れに伴う新気量の増加遅れが生じるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の低下が抑制されることとなる。
【0073】
しかも、ステップS2では酸化触媒16が活性状態か否かを判定するようにしたから、酸化触媒16が十分に活性状態にあるときは(ステップS2でYES)、EGR弁19及び吸気制御弁15は通常制御されることになるが(ステップS3,S4)、酸化触媒16が十分に活性状態にあるから、比較的低温の新気が酸化触媒16にそのまま流入しても、酸化触媒16が活性状態でなくなるまで冷えるという可能性は低いものである。
【0074】
また、減速時に吸気制御弁15を閉作動するときの開度を、吸気制御弁15より下流の吸気圧力が所定の目標圧力になる開度βに設定するようにしたから(ステップS8)、吸気制御弁15は様々な開度をとることとなり、吸気制御弁15を常に全閉に固定することの弊害(すなわち、次の加速時における新気量の増加遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0075】
その場合に、前記目標圧力として、大気圧(1気圧=101.325kPa)に固定した場合には、酸化触媒16の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0076】
また、前記目標圧力を、酸化触媒16の温度に応じて設定するようにしたから(図5参照)、例えば、酸化触媒16の温度が高いほど前記目標圧力を高くすれば、結局、酸化触媒16の温度が高いほど吸気制御弁15の開度を大きくすることとなり、この場合においても、酸化触媒16の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0077】
また、減速時にEGR弁19を開作動するときの開度を、該EGR弁19の開度の増大に対するガス還流量の増加率が所定値よりも小さくなり始める開度αに設定するようにしたから(ステップ9)、EGR弁19は様々な開度をとることとなり、EGR弁19を常に全開に固定することの弊害(すなわち、次の加速時におけるガス還流量の減少遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0078】
しかも、減速時にはVGT11の可動ベーン13bの開度を全閉にしているから(ステップS10)、少なくとも排気通路3とEGR通路8との接続部では排圧が上昇しており、EGR弁19を全開としなくても、EGR通路8を介しての排気通路3から吸気通路2へのガス還流量が相当量増大しており、したがって、ガス自身の冷却遅延効果は十分に得られる状況にある。
【0079】
前記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、さらに種々の修正や変更を施してよいことはいうまでもない。
【0080】
例えば、前記ステップS8においては、吸気制御弁15を閉作動するときの開度を、吸気制御弁15より下流の吸気圧力が所定の目標圧力になる開度に設定するようにしたが、これに代えて、図8に例示するように、吸気制御弁15を閉作動するときの開度を、酸化触媒16の温度に応じて設定するようにしてもよい。
【0081】
このようにしても、吸気制御弁15は様々な開度をとることとなり、吸気制御弁15を常に全閉に固定することの弊害(すなわち、次の加速時における新気量の増加遅れの問題が著しくなるという問題)が減少することとなる。つまり、加速応答性の著しい低下が抑制されることとなる。
【0082】
そして、図例のように、酸化触媒16の温度が高いほど吸気制御弁15の開度を大きくすれば、酸化触媒16の冷却の問題と、加速応答性の低下の問題とがバランスよく解決されることとなる。
【0083】
また、前記実施形態においては、VGT11のタービン部13に備えられた可動ベーン13bの開度を閉方向に制御することにより排圧を上昇するようにしたが、これに代えて、EGR通路8との接続部より下流の排気通路3に配設された排気シャッタ弁(図示せず)の開度を閉方向に制御するようにしてもよい。
【0084】
ただし、いずれの場合も、VGT11のタービン部13又は排気シャッタ弁は、酸化触媒16の上流側、下流側のいずれに配設されていても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、エンジンの減速時に燃料カットが行われ、かつ、EGR弁を開作動し、吸気制御弁を閉作動するエンジンにおいて、たとえ減速時に排気通路内での排圧が相対的に低下している状態でも、排気通路から吸気通路へのガス還流量を確実に増大し、もって排気浄化装置の冷却を回避することが可能な技術であるから、エンジンの減速制御装置、特に減速時に燃料カットが行われるエンジンの減速制御装置の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るエンジンの減速制御装置の制御システムを含む全体構成図である。
【図2】前記減速制御装置に含まれる可変容量式過給機(VGT)のタービン部の構成を拡大して示す断面図である。
【図3】前記減速制御装置の制御動作の1例を示すフローチャートである。
【図4】前記制御動作で用いられるVGTの可動ベーンの制御の特性を示す概念図である。
【図5】前記制御動作で用いられる目標吸気圧の設定の特性を示す概念図である。
【図6】前記減速制御装置に含まれるEGR弁の開度とガス還流量との関係を示す概念図である。
【図7】前記制御動作で得られる作用を示すタイムチャートである。
【図8】第2の実施形態の制御動作で用いられる吸気制御弁の開度の設定の特性を示す概念図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ディーゼルエンジン
2 吸気通路
3 排気通路
6 燃料噴射弁
8 EGR通路
10 減速制御装置
11 可変容量式過給機(VGT)
13 タービン部
13b 可動ベーン
13d ノズル
15 吸気制御弁
16 酸化触媒(DOC:排気浄化装置)
17 パティキュレートフィルタ(DPF)
19 EGR弁
30 コントロールユニット(燃料供給停止手段、減速制御手段、排圧上昇手段)
31 水温センサ(温度検出手段)
33 排気ガス温度センサ(温度検出手段)
34 アクセル開度センサ(減速検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気通路と排気通路とを連通するEGR通路に配設され、排気通路から吸気通路へのガス還流量を調量するためのEGR弁と、
前記EGR通路との接続部より上流の吸気通路に配設され、吸入空気量を調量するための吸気制御弁と、
前記EGR通路との接続部より下流の排気通路に配設され、排気ガスを浄化するための排気浄化装置と、
エンジンの減速状態を検出する減速検出手段と、
この減速検出手段でエンジンの減速状態が検出されたとき、エンジンの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、
この燃料供給停止手段で燃料供給が停止されたとき、前記EGR弁を開作動し、前記吸気制御弁を閉作動する減速制御手段とを有するエンジンの減速制御装置であって、
前記減速検出手段でエンジンの減速状態が検出されたとき、排気通路において少なくとも前記EGR通路との接続部における排圧を上昇させる排圧上昇手段が備えられていることを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記排圧上昇手段は、前記EGR通路との接続部より下流の排気通路に配設された可変容量式過給機のタービン部に備えられた可動ベーンで形成されるノズルの開度を閉方向に制御するものであることを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、
前記減速制御手段は、前記温度検出手段で検出された温度が所定温度よりも低いときに限り、前記EGR弁を開作動し、前記吸気制御弁を閉作動することを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、
前記減速制御手段は、前記吸気制御弁の閉作動時の開度を、前記温度検出手段で検出された温度に応じて設定することを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記減速制御手段は、前記吸気制御弁の閉作動時の開度を、該吸気制御弁より下流の吸気圧力が所定の目標圧力になる開度に設定することを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記排気浄化装置の温度を検出する温度検出手段が備えられ、
前記減速制御手段は、前記目標圧力を、前記温度検出手段で検出された温度に応じて設定することを特徴とするエンジンの減速制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエンジンの減速制御装置であって、
前記減速制御手段は、前記EGR弁の開作動時の開度を、該EGR弁の開度の増大に対するガス還流量の増加率が所定値よりも小さくなり始める開度に設定することを特徴とするエンジンの減速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−121433(P2009−121433A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298993(P2007−298993)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】