説明

半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法

【課題】本発明は、基板の反りを抑制し、界面反射の影響を低減して高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】c面からなる主面106を有し、主面に凹部110aが設けられたサファイア基板105と、サファイア基板の主面の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層110と、第1バッファ層の上に設けられ、窒化物半導体からなる半導体層190と、を備えた半導体素子が提供される。第1バッファ層は、サファイア基板の凹部の上に設けられた空洞110aを有し、第1バッファ層は、第1領域110eと、第1領域とサファイア基板との間に設けられ第1領域よりも炭素濃度が高い第2領域110fと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、半導体発光素子やHEMT(High Electron Mobility Transistor)素子等の各種の半導体素子に用いられている。このような窒化物半導体において、例えば用いられるサファイア基板とその上に形成される窒化物半導体との間の熱膨張係数などの差によってウェーハの反りやウェーハの割れが発生するという問題がある。
【0003】
そして、窒化物半導体を用いた半導体発光素子である近紫外LED(Light Emitting Diode)素子(例えば発光波長が例えば400nm未満)は、白色LED等の蛍光体励起用光源として期待されているが、効率が低いことが問題となっている。
【0004】
効率が低いことの原因の1つは、サファイア基板とGaN結晶との間の格子不整合による高密度の貫通転移である。これに対し、本発明者は、従来の低温成長のAlNまたはGaN等に代わりに、基板界面側に炭素または水素を高濃度で含む高温成長の厚膜の単結晶AlN(Al組成のAlGaNを含む)をバッファ層として用いることにより、その上に成長するGaN層の結晶品質を大幅に改善でき、高効率の発光素子が作製できることを見いだしている(例えば、特許文献1参照)。この方法を用いて作製した素子において、可視LEDに匹敵する70%を超える内部発光効率を実現している。
【0005】
しかし、この場合でも、サファイアとGaN系混晶とで屈折率が異なるため、界面に斜めに入射する発光が反射され、結果として効率が半分近くに低下する。
【0006】
一方、青色LED等の可視LEDにおいては、表面に二次元的に配置された凹凸を形成したサファイア基板の上に、低温成長の薄膜のAlN、GaNまたはAlGaN等の低温成長のバッファ層を介してGaN層を成長して、平坦化した表面上に素子部を形成することにより、界面反射の影響を低減し、高効率化が図られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかし、この薄膜の低温成長のバッファ層を用いた手法を厚膜の高温成長単結晶バッファ層に適用することは困難である。すなわち、AlNやAlGaNは成長の方向の選択性が低いため、異なる方向の面を有する凹凸の結晶面に異なる方位の結晶が成長する結果、成長した結晶が多結晶となるためである。
【0008】
このように、表面に二次元的に配置された凹凸が形成されたサファイア基板上に、高温成長の厚膜の単結晶性のAlN(高Al組成のAlGaNを含む)の層を形成する技術は知られておらず、界面反射の影響を低減して光取り出し効率が高めつつ、内部発光効率の高い半導体装置を実現することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3648386号公報
【特許文献2】米国特許第6870191B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、基板の反りを抑制し、界面反射の影響を低減して高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板と、前記サファイア基板の前記主面の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層と、前記第1バッファ層の上に設けられ、窒化物半導体からなる半導体層と、を備え、前記第1バッファ層は、前記サファイア基板の前記凹部の上に設けられた空洞を有し、前記第1バッファ層は、第1領域と、前記第1領域と前記サファイア基板との間に設けられ前記第1領域よりも炭素濃度が高い第2領域と、を有することを特徴とする半導体素子が提供される。
【0012】
また、本発明の他の一態様によれば、上記の半導体素子と、前記半導体素子から放出された光を吸収し、前記光とは異なる波長の光を放出する波長変換層と、を備えたことを特徴とする半導体装置が提供される。
【0013】
また、本発明の他の一態様によれば、c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板と、前記サファイア基板の前記主面の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層と、を備えた半導体ウェーハであって、前記第1バッファ層は、前記サファイア基板の前記凹部の上に設けられた空洞を有し、前記第1バッファ層は、第1領域と、前記第1領域と前記サファイア基板との間に設けられ前記第1領域よりも炭素濃度が高い第2領域と、を有することを特徴とする半導体ウェーハが提供される。
【0014】
また、本発明の他の一態様によれば、c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板の前記主面の上に、第1の温度と、1.5から15の第1のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第1層をエピタキシャル成長し、前記第1層の上に、前記1の温度よりも高い第2の温度と、前記第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第2層をエピタキシャル成長し、前記第2層の上に、前記第2の温度よりも高い第3の温度と、前記第1のV族/III族比と前記第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第3層をエピタキシャル成長して、前記凹部の上に空洞を形成し、前記空洞を前記第1層、前記第2層及び前記第3層の少なくともいずれかで覆うことを特徴とする半導体結晶の成長方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板の反りを抑制し、界面反射の影響を低減して高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の要部の構成を例示する顕微鏡写真図である。
【図3】第1の比較例のAlN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
【図4】第2の比較例のAlN層とGaN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
【図5】第3の比較例のAlN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の動作を例示する模式図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る別の半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る別の半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の構成を例示する模式的断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る半導体ウェーハの構成を例示する模式的断面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る半導体結晶の成長方法を例示するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
また、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0018】
(第1の実施の形態)
以下では、本発明の第1の実施形態を半導体発光素子に適用した場合について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図1に表したように、本発明の第1の実施形態に係る半導体素子11は、サファイア基板105と、サファイア基板105の主面106の上に設けられた第1バッファ層110と、第1バッファ層110の上に設けられた窒化物半導体からなる半導体層190と、を備える。
【0019】
本具体例では、半導体層190は、第1バッファ層110の上に設けられた第2バッファ層120と、第2バッファ層120の上に設けられたn型半導体層140と、n型半導体層140の上に設けられた発光層150と、発光層150の上に設けられたp型半導体層160と、を有する。
【0020】
そして、半導体素子11は、n型半導体層140に電気的に接続された第1電極(n側電極140e)と、p型半導体層160に電気的に接続された第2電極(p側電極160e)と、をさらに備えている。
【0021】
サファイア基板105の主面106は、サファイアのc面とされる。すなわち、主面106は、サファイアのc面に対して実質的に平行である。
【0022】
ここで、本願明細書において、「平行」及び「垂直」は、それぞれ厳密な平行及び垂直を含む他、例えば製造工程におけるのばらつきを含み、実質的に平行である状態及び実質的に垂直である状態を含む。
【0023】
サファイア基板105の主面106の法線と、サファイアのc面の法線と、の角度に関して望ましい条件に関しては後述する。
【0024】
そして、サファイア基板105は、主面106に設けられた凹部105aを有する。凹部105aは、主面106において二次元的に配置されている。
【0025】
第1バッファ層110は、結晶性のAlNからなる。ただし、AlNに例えばGaNがドーピングされたものを用いても良い。すなわち、第1バッファ層110には、高Al組成のAlGaNを含む結晶性のAlNが用いられる。後述するように、第1バッファ層110はバッファ層として機能する。
【0026】
第1バッファ層110は、空洞110aを有する。空洞110aは、サファイア基板105の凹部105aに対応した位置に設けられている。すなわち、空洞110aは、凹部105aの上に設けられている。
【0027】
第1バッファ層110の上面(主面106とは反対側の面)は、実質的に平坦である。すなわち、第1バッファ層110の下面(主面106の側の面)においては空洞110aが設けられ、第1バッファ層110の下面は凹凸を有するが、第1バッファ層110の上面は、第1バッファ層110の下面の側に空洞110aがあることの影響を受けず、平坦な面となっている。例えば、第1バッファ層110の上面は、原子レベルで平坦化されている。
【0028】
すなわち、空洞110aは、第1バッファ層110の上面で塞がれている。第1バッファ層110の上面において、空洞110aは実質的に開口しておらず、また、例えば、第1バッファ層110の上面には、空洞110aに起因した凹凸が実質的に無い。
【0029】
そして、第1バッファ層110のサファイア基板105の側の炭素濃度は、第1バッファ層110のサファイア基板105とは反対側の濃度よりも高い。
【0030】
すなわち、第1バッファ層110は、第1領域110eと、第1領域110eとサファイア基板105との間に設けられ第1領域110eよりも炭素濃度が高い第2領域110fと、を有する。本具体例では、第1領域110eは、図1に例示した第2層112及び第3層113であり、第2領域110fは、図1に例示した第1層111である。
【0031】
第2バッファ層120は、GaNまたはAlGaNからなる。第2バッファ層120は、第1バッファ層110とn型半導体層140との間の格子歪みを緩和させる。
【0032】
以下、半導体素子11の具体例を説明する。
サファイア基板105としては、c面を主面106とするサファイア基板が用いられる。c面の法線とサファイア基板105の法線との角度の差は、例えば0.05度以下とすることが望ましい。サファイア基板105の主面106には、例えば、径が2.0μm(マイクロメートル)で深さが1μmの凹部105aが、例えば1.5μmの間隔で設けられている。
【0033】
このサファイア基板105の主面106の上に第1バッファ層110が設けられている。
第1バッファ層110は、例えば、第1層111と、第1層111の上に設けられた第2層112と、第2層112の上に設けられた第3層113と、を有する。
【0034】
第1層111は、高炭素濃度の第1AlNバッファ層である。第1層111における炭素濃度は、例えば1×1019cm−3〜5×1020cm−3とされ、第1層111の厚さは、例えば3nm(ナノメートル)〜20nmとされる。
【0035】
第2層112は、高純度第1AlNバッファ層である。第2層112における炭素濃度は、例えば1×1016cm−3〜1×1019cm−3とされ、第2層112の厚さは、例えば0.2μm〜0.5μmとされる。
【0036】
第3層113は、高純度第2AlNバッファ層である。第3層113における炭素濃度は、例えば1×1016cm−3〜1×1019cm−3とされ、第3層113の厚さは、例えば1.5μm〜3.0μmとされる。
【0037】
第1バッファ層110の上に第2バッファ層120が設けられる。第2バッファ層120は、ノンドープGaNバッファ層である。第2バッファ層120の厚さは、例えば2μmである。
【0038】
第2バッファ層120の上にn型半導体層140が設けられる。n型半導体層140は、第2バッファ層120の上に設けられたSiドープn型GaNコンタクト層141と、Siドープn型GaNコンタクト層141の上に設けられたSiドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層142と、を有する。
【0039】
Siドープn型GaNコンタクト層141におけるSi濃度は、例えば1×1019cm−3〜2×1019cm−3とされ、Siドープn型GaNコンタクト層141の厚さは、例えば4μmとされる。
【0040】
Siドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層142におけるSi濃度は、例えば2×1018cm−3とされ、Siドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層142の厚さは、例えば0.02μmとされる。
【0041】
なお、Siドープn型GaNコンタクト層141の一部の面が露出し、後述するn側電極140eが設けられる。
【0042】
Siドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層142の上に、発光層150が設けられる。発光層150は、Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層152とGaInN井戸層151とが交互に8周期積層されてなる多重量子井戸構造を有している。
【0043】
Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層152におけるSi濃度は、例えば1.2×1019cm−3〜2.1×1019cm−3とされ、Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層152の厚さは、例えば9.0nmとされる。
【0044】
GaInN井戸層151における発光波長のピーク波長は、例えば383nmであり、GaInN井戸層151の厚さは、例えば4.5nmとされる。
【0045】
発光層150のサファイア基板105とは反対の側の最終のバリア層としては、Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層153が設けられる。
Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層153におけるSi濃度は、例えば1.2×1019cm−3〜2.1×1019cm−3とされ、Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層153の厚さは、例えば4.5nmとされる。
【0046】
このような発光層150の発光波長のピーク波長は、370nm以上400nm未満である。
【0047】
本具体例においては、発光層150の上に、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155が設けられる。低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155におけるSi濃度は、例えば1×1015cm−3〜3×1018cm−3とされ、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155の厚さは、例えば4.5nmとされる。
【0048】
低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155の上にp型半導体層160が設けられる。p型半導体層160は、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155の上に設けられたMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161と、Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161の上に設けられたMgドープp型GaNコンタクト層162と、を有する。
【0049】
Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161の下側(サファイア基板105の側、すなわち、発光層150の側)におけるMg濃度は、例えば2×1019cm−3であり、上側(サファイア基板105とは反対の側、すなわち、Mgドープp型GaNコンタクト層162の側)におけるMg濃度は、1×1019cm−3とされる。Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161の厚さは、例えば24nmとされる。
【0050】
Mgドープp型GaNコンタクト層162の下側(サファイア基板105の側)におけるMg濃度は、例えば5×1018cm−3であり、上側(サファイア基板105とは反対の側)におけるMg濃度は、5×1019cm−3〜9×1019cm−3とされる。Mgドープp型GaNコンタクト層162の厚さは、例えば0.3μmとされる。
【0051】
これらの各層は、サファイア基板105の上に、例えば有機金属気相成長法を用いて順次積層される。
【0052】
なお、第1バッファ層110(第1〜第3層111〜113)は、サファイア基板105との結晶型の差異を緩和する働きをし、特に螺旋転位を低減する。すなわち、サファイア基板105の凹部105aを含めて、表面を原子レベルで平坦化し、第1バッファ層110の上に成長する第2バッファ層120(GaN格子歪緩和層)における欠陥低減と歪緩和の効果を最大にする。
このために、第1バッファ層110の厚さは、1.0μm以上が望ましく、2.0μよりも厚くすることがさらに望ましい。
【0053】
一方、サファイア基板105と第1バッファ層110との歪みによるそりを防止するためには、第1バッファ層110の厚さは6μm以下が望ましい。
【0054】
図1に例示したように、第1バッファ層110の下面には、サファイア基板105の凹部105aに起因した空洞110aが形成されている。この空洞110aは、サファイア基板105の側に向かって拡開している。すなわち、空洞110aの側面110sは、逆テーパ状の形状を有する。
【0055】
そして、空洞110aの径は、上側に行くほど狭くなっている。すなわち、空洞110aを主面106に対して平行な平面で切断したときの空洞110aの幅は、サファイア基板105とは反対の側の方がサファイア基板105の側よりも狭い。すなわち、空洞110aは、砲弾の形状を有し、その砲弾の形状は、砲弾の先がサファイア基板105とは反対の側を向いた形状である。
【0056】
空洞110aのサファイア基板105の側の径は、例えば、サファイア基板105に設けられる凹部105aの径以下となる。すなわち、例えば、凹部105aの径が2.0μmである場合は、空洞110aのサファイア基板105の側の径は、例えば、1.3μmである。そして、空洞110aの長さ(サファイア基板105の主面106に対して垂直な方向の長さ)は、例えば、1.5〜4.5μmである。
【0057】
そして、空洞110aの上側(サファイア基板105とは反対の側)の面における曲率は、発光層150の発光波長のピーク波長以下である。
【0058】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の要部の構成を例示する顕微鏡写真図である。
すなわち、同図は、半導体素子11において、サファイア基板105の上に第1バッファ層110を形成した後の第1バッファ層110の走査電子顕微鏡写真図である。同図(a)は、サファイア基板105及び第1バッファ層110を斜め方向から撮影した写真であり、同図(b)は、サファイア基板105及び第1バッファ層110の断面を、断面に対してほぼ垂直な方向から撮影した写真である。
【0059】
図2(a)及び(b)に表したように、サファイア基板105の表面に凹部105aが形成されている。そして、サファイア基板105の上に第1バッファ層110が形成されている。そして、凹部105aの上に、砲弾の形状の空洞110aが形成されている。そして、第1バッファ層110の上面は平坦である。
【0060】
そして、空洞110aは第1バッファ層110の上面において露出していない。すなわち、空洞110aは、第1バッファ層110のサファイア基板105とは反対の側の面で塞がれている。
【0061】
このように、第1バッファ層110において、サファイア基板105の上に設けられた凹部105aに対応して配置され、上面が第1バッファ層110によって塞がれた空洞110aが設けられている、このような空洞110aは、例えば、以下のようにして形成することができる。
【0062】
すなわち、第1のV族/III族比と第1の温度によって第1層111をエピタキシャル成長し、その上に、第1の温度よりも高い第2の温度と第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比とによって第2層112をエピタキシャル成長し、その上に、第2の温度よりもさらに高い第3の温度と、第1のV族/III族比と第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、によって第3層113をエピタキシャル成長する。これにより、サファイア基板105の凹部105aの上に空洞110aを形成し、そして、空洞110aを第1〜第3層111〜113で覆う。なお、上記のV族/III族比は、例えば、結晶成長させるときの原料ガスのアンモニア供給量/Al原料供給量の比である。
【0063】
すなわち、第3層113の形成の際のV族/III族比を、第1層111及び第2層112のときの間に下げると供に、温度を、第1層111及び第2層112よりもさらに高温にすることによって、Al原子の移動度が高まるため、横方向(主面に対して平行な方向)の成長が加速される。これにより、空洞110aの径が、AlN層を成長していくと供に小さくなり、空洞110aが塞がれ、第1バッファ層110の上面が平坦化される。
【0064】
なお、高いV族/III族比の第2層112(高純度第1AlNバッファ層)によって、AlNの結晶品質が高まっているため、第3層113を成長させる際の高温下でもサファイア基板105の変性は抑制される。
【0065】
このように、本実施形態に係る半導体素子11における第1バッファ層110は、サファイア基板105の主面106の上に、第1の温度と、1.5から15の第1のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第1層111と、第1層111の上に、第1の温度よりも高い第2の温度と、第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第2層112と、第2層112の上に、第2の温度よりも高い第3の温度と、第1のV族/III族比と第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第3層113と、を有する。
【0066】
これにより、第1バッファ層110によって上部が塞がれ、砲弾の形状の空洞110aを有し、上面が平坦化された第1バッファ層110を形成することができる。
【0067】
本発明者は、深さが0.5μ〜2μmの凹凸加工を施したサファイア基板上に、高温にて単結晶AlNを形成し、さらにこの上にGaNを成長する実験を行った。この実験結果を、比較例として説明する。
【0068】
(第1の比較例)
第1の比較例では、低温成長バッファを用いた青色LEDなどで採用される台形の凸部を形成したサファイア基板上に単結晶AlN層を形成した。
図3は、第1の比較例のAlN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
図3に表したように、第1の比較例においては、サファイア基板105の上の台形の凸部105bの側面に、基準となるc軸とは異なる方位のAlN微結晶110pが放射状に形成された。そして、AlN層110xの下部には、複雑な形状の空洞110yが形成された。また、凸部105bを起点にして広がるc軸方位の結晶間にも隙間が広く形成され、合体することはなく、AlN層110xは全体として多結晶状態となった。
【0069】
(第2の比較例)
第2の比較例では、凹部105aを形成したサファイア基板の上に単結晶AlN層を形成した。この時、AlN層の成膜条件が本実施形態の場合と異なり、第3層113の形成の際に、V族/III族比が、第1層111及び第2層112のときと同様に高く、そして、成長温度は、第2層112と同じ温度であり、比較的低い温度である。
【0070】
図4は、第2の比較例のAlN層とGaN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
すなわち、同図(a)及び(b)は、それぞれ、AlN層の上面及びAlN層の断面を例示している。同図(c)及び(d)は、それぞれ、AlN層の上に形成されたGaN層の上面及び断面を例示している。なお、この場合のAlN層の厚さは2μmである。
【0071】
図4(a)及び(b)に表したように、第2の比較例の場合には、サファイア基板105の凹部105aの上において、単結晶のAlN層110xに凹部110zが形成されている。すなわち、サファイア基板105の凹部105aの側壁を基点として単結晶のAlN層110xが成長している。そして、さまざまな配向のAlN微結晶110pは、凹部105aの底部から成長したc軸配向の結晶と、サファイア基板105の凹部105a以外の表面から横方向に成長したc軸配向の結晶の間の狭い範囲に閉じ込められている。ただし、単結晶のAlN層110xの上面において、凹部110zは塞がれることなく、凹部110zは開口している。
【0072】
このような構造の単結晶のAlN層110xの上に成長させたGaN層の結晶は、方位の異なるAlN微結晶110pの影響をあまり受けることなく、比較的高品質の結晶を成長できる。
【0073】
しかしながら、図4(c)及び(d)に表したように、GaN層120xには、AlN層110xの凹部110zに対応した空洞120yが形成されている。そして、GaN層120xの表面には、高密度のピット120z(穴)が認められた。このようなGaN層120xの上に、n型半導体層140、発光層150、p型半導体層160、n側電極140e及びp側電極160eを形成して発光素子を作製した場合には、このピット120zにおいて例えば電極材料が拡散し、短絡等の不良や信頼性劣化の要因となる。
【0074】
このGaN層120xの表面のピット120zは、サファイア基板105の上にAlN層110xを成長させるときのAlN層110xの凹部110zの側面の形状に大きく依存する。すなわち、特に、AlN層110xの上面付近において、凹部110zの径が層厚方向の中央部よりも狭いとき、すなわち、AlN層110xの凹部110zの側面が逆テーパ状の側面のときにピット120zの大きさと数が抑制されることがわかった。
【0075】
これは、AlN層110xの凹部110zの側面から成長するGaN結晶の成長方向が下方の成分を含むため、凹部110zの開口を縮小するようにGaN層110xが成長し、これにより、AlN層110xの凹部110zの上部に与える影響を抑制するためであると考えられる。
【0076】
そして、AlN層110xの凹部110zの側面を逆テーパ状にすることで、ピット120zの生成が抑制され、その上に形成された発光素子は正常に動作した。
【0077】
しかしながら、その発光素子の発光効率は、通常の発光素子に対して数%程度改善されるものの、大きくは改善しなかった。この構成の場合には、GaN層120xを成長させたウェーハは全体的に褐色に着色しており、この着色が発光効率の改善を妨げていると考えられた。このウェーハの着色は、AlN層110xに形成される凹部110zの部分に形成された低品質のGaN結晶が光吸収源になることに起因している。この吸収は、波長が400nm未満の近紫外域では特に問題となる。
【0078】
このため、AlN層110xに形成される凹部110zを、AlN層110xの表面に開口させないことが重要であると考えられた。
【0079】
(第3の比較例)
第3の比較例では、AlN層110xの層厚を6μmと、第2の比較例に対して3倍に厚くして、AlN層110xの凹部110zをAlN層110xで覆うことを試みたものである。
図5は、第3の比較例のAlN層の表面状態を例示する顕微鏡写真図である。
すなわち、同図(a)及び(b)は、それぞれ、AlN層の上面及びAlN層の断面を例示している。
【0080】
図5(a)及び(b)に表したように、AlN層110xの層厚を厚くしても、凹部110zは、AlN層110xの上面に開口したままであり、凹部110zの開口の解消は困難であった。
【0081】
AlN層110xの成長の際に、螺旋転位などの貫通転位は成長方向に伝播するため、横方向成長により表面開口部に集まる。このため、表面開口部付近に強い歪が集中する結果、開口部が形成されていると考えられる。この効果は、本実施形態に係る半導体素子11における円状(すなわち主面106に対して垂直な平面で切断した時の形状が円状)の凹部110aの様に、開口部の形状の対称性が高いときに特に強いと考えられる。
【0082】
図5(a)に例示したように、凹部110zの開口部の形状は必ずしも円ではない。特に、サファイア基板105の結晶方位がc面からずれた場合には、凹部110zの開口部の形状は複雑な形状となり、凹部110zが残留し易いことがわかった。これは、AlN層110xの結晶中の歪が不均一になり、歪が局所的に集中するためと考えられる。
【0083】
これに対して、図2に例示したように、本実施形態に係る半導体素子11における第1バッファ層110(AlN層)においては、サファイア基板105の凹部105aに対応した空洞110aが形成され、すなわち、上記の凹部110zが第1バッファ層110に覆われており、第1バッファ層110の表面に開口していない。これにより、第1バッファ層110の上に形成されるGaN結晶(第2バッファ層120)の品質が向上し、ウェーハの着色が解消でき、高い発光効率を達成できる。
【0084】
すなわち、上記の第2及び第3の比較例におけるAlN層110xの凹部110zのAlN層110xの表面における開口部の残留状況は、サファイア基板105の凹部105aの径にも依存するが、AlN層110xの凹部110zの側面の形状に大きく依存する。AlN層110xの下側(サファイア基板105の側)から層厚方向の中央部にかけての凹部110z(空洞110a)の径がほぼ一定であり、中央部から上側(サファイア基板105とは反対の側)にかけての径が急速に縮小する場合に、凹部110zの開口部が形成され難いことが分かった。すなわち、凹部110z(空洞110a)の壁面が逆テーパ状で、凹部110z(空洞110a)が砲弾の形状を有している場合に、開口部が形成され難い。
【0085】
このような側面形状は、例えば、AlN層の成長初期にV族/III族比を極端に低下させて第1層111(高炭素濃度層)を成長した後に、成長温度を高温化しつつV族/III族比を一旦高くして第2層112を成長し、その後、さらに成長温度を高めると供にV族/III族比を低くして第3層113を成長することにより形成できる。
【0086】
すなわち高いV族/III族比においては、AlN結晶は垂直方向に成長する。このため、垂直方向に伸びる螺旋転位間の反応が促進され結晶品質が急速に高まる。また、AlN結晶の側面は、主面106に対して垂直に近く、応力集中が抑止される。
【0087】
低いV族/III族比では、AlN結晶は水平方向に成長し易く、高品質化されたAlN結晶の表面付近が優先的に横方向に成長する。そして、凹部105aの上端の会合部の結晶品質が高いことと、会合部が上下に薄いために歪が逃げ易く集中しないため、開口の発生が抑制される。さらに、サファイア基板105の熱損傷が問題とならない間に成長温度をさらに高めることにより、AlN結晶の横方向の成長がより促進され、結晶品質が高まる。
【0088】
これにより、本実施形態に係る半導体素子11においては、第1バッファ層110中の空洞110aが第1バッファ層110の上面で塞がれ、第1バッファ層110の上面は平坦化され、この上に成長させる例えばGaN結晶を高品質にすることができる。半導体素子11によれば、凹凸を有するサファイア基板上に高温成長の単結晶性AlNバッファ層を形成し、界面反射の影響を低減して高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子が提供できる。
【0089】
本実施形態に係る半導体素子11において、用いられるサファイア基板105における結晶方位ずれは、少なくとも0.3度以内が必要であり、第1バッファ層110のより均一な平坦化のためには、0.15度以内が望ましい。すなわち、サファイア基板105における結晶方位は、第1バッファ層110の成長の途中で形成される凹部110zの上部の歪分布に影響すると考えられる。サファイア基板105における結晶方位ずれを上記のように制御することで、凹部110zの上部の歪分布を均一化でき、凹部110zの開口の径を効率的に縮小することができる。
【0090】
第1バッファ層110を形成する際のAlN結晶の成長初期で、高炭素濃度の第1層111を形成することは、凹部110zを形成する基となる螺旋転位の低減のために、必須である。
【0091】
なお、第1バッファ層110の厚さは、結晶品質的には1μm以上あれば十分であるが、凹部110zを消滅させ第1バッファ層110の上面を平坦化するためには、2μm以上とすることが望ましい。
【0092】
本実施形態に係る半導体素子11において、第1バッファ層110中の空洞110aは、ウェーハの反り及びウェーハの割れを抑制することに大きな効果がある。。特に、空洞110aは二次元的に分布しているために、不均一な歪の残留が生じにくい。。特に、空洞110aは二次元的に分布しているために、不均一な歪の残留が生じにくい。
【0093】
すなわち、半導体素子11を形成する際に、サファイア基板105上にAlNからなる第1バッファ層110を形成する際に、空洞が無い場合には、サファイア基板105と第1バッファ層110との間の熱膨張係数の差などに起因する応力により、ウェーハ(サファイア基板105と第1バッファ層110との積層体)に反りが発生し、また、割れが発生することがある。この時、第1バッファ層110に空洞110aを設けることで、この応力が抑制され、ウェーハの反り及びウェーハの割れの発生を大幅に抑制できる。このような効果は、例えば、第1バッファ層110の上にGaN結晶を成長させ、それを用いた例えばHEMT素子などを作製する際にも大きな効果を発揮し、高い歩留まりの半導体素子及びその製造方法を提供できる。
【0094】
このようなウェーハの反り及び割れの抑制の観点からは、第1バッファ層110中の空洞110aによる歪緩和効果を考慮すると、第1バッファ層110の厚さは、5μm以下が望ましく、3μm以下とすることがさらに望ましい。
【0095】
このためには、サファイア基板105の凹部105aの径を6μm以下とすることが望ましい。凹部105aの形成の際の加工の容易さを考慮すると、凹部105aの径は、0.5μm〜6μmに設定すれば良い。凹部105aの上に形成されるAlN層110xの凹部110zにおけるAlN結晶の横方向の成長速度は、縦方向の半分程度のためである。
【0096】
サファイア基板105に設けられる凹部105aの密度は、半導体素子11における光散乱効果のためには高い方が望ましい。この観点から、凹部105aどうしの間隔は、凹部105aの径の1.5倍以下が望ましい。
【0097】
サファイア基板105上のAlN成長機構において、AlN結晶の成長初期に形成された微結晶が合体して低欠陥化し、AlNにおいて最終的に約0.5μmの周期の構造が形成される。この低欠陥化過程を阻害しないためには、凹部105aどうしの間隔は、0.5μm以上にすることが望ましい。
【0098】
以上から、面方位ずれが0.15度以内のc面を主面106とするサファイア基板105上に、径が1.5μm〜5.0μm程度で、相互の間隔が0.5μm〜4.0μm程度の凹部105aを形成することが望ましい。
【0099】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る半導体素子の動作を例示する模式図である。
すなわち、同図は、本実施形態に係る半導体素子11における光の特性を例示している。
図6に表したように、第1バッファ層110中に砲弾の形状の空洞110aを設けることで、発光層150から発光した光は、第1バッファ層110とサファイア基板105との界面において効率的に反射され、サファイア基板105の下方(主面106とは反対の側の方向)に効率的に取り出される。
【0100】
例えば、主面106に対して比較的垂直な方向で進行する光L1は、空洞110aを透過し、サファイア基板105を通過して、半導体素子11の外部に取り出される。
【0101】
そして、主面に対して比較的浅い角度で進行する光L2は、例えば、第1バッファ層110の下面(すなわち、第1層111とサファイア基板105との界面)及び空洞110aの表面で反射され、上方向に進行し、例えば、図示しないn側電極140eまたはp側電極160eで反射して、サファイア基板105に向けて再度進行して、外に取り出される。
【0102】
そして、主面に対してさらに比較的浅い角度で進行する光L3は、例えば、空洞110aで屈折して、上方向に進行し、n側電極140eまたはp側電極160eで反射して、サファイア基板105に向けて再度進行して、外に取り出される。
【0103】
すなわち、半導体素子11においては、第1バッファ層110中の空洞110aが、上側の先端部がとがった形状であり、中央部及び下側が緩やかな曲面の形状であり、これにより、発光層150から放射する光(光L1〜L3)を、主面106の法線に沿った方向に、効果的に反射または屈折させる。
【0104】
この時、空洞110aの内部には、結晶方位の異なる低品位のAlN結晶が存在するが、AlNは十分バンドギャップが広いため光吸収損失は無視でき、光散乱効果を発揮する。そして、第1バッファ層110の上面は平坦化しているため、この上に設けられる第2バッファ層120であるGaN層の結晶品位は高く、着色されておらず、実質的に光を吸収しない。
【0105】
上記のように、第1バッファ層110の空洞110aにおけるAlN層110xの側面の形状を逆テーパ状にし、発光層150からの斜め入射光を垂直な方向へと反射または屈折させる。この空洞110aの形状は、第1バッファ層110の結晶成長時のV族/III族比の制御によって形成される。第1バッファ層110の空洞110aは、サファイア基板105と反対側の先端が発光波長以下の曲率の形状を有しており、屈折率が等価的に徐々に変化するため、反射を防ぐ働きがあり、発光層150で発光した光を効率的に取り出すことができる。
【0106】
これにより、半導体素子11においては、高い発光効率を達成できる。すなわち、半導体素子11においては、電流値が20mAの時に21mWが得られ、これは、平坦なサファイア基板上に形成した半導体素子に比較して、1.2倍の発光効率である。
【0107】
この方法を用いて作製した素子ウェーハを用いることにより、特別な後工程を用いることなく、例えば400nmよりも短波長の高性能紫外域発光素子を、高歩留まりかつ低コストで生産できる。
【0108】
なお、後述するように、このような半導体素子11を蛍光体と組みあわせて例えば白色光を発光する半導体装置を作製することができる。この時、半導体素子11のサファイア基板105の下側(主面106とは反対の側)から、蛍光体で波長変換されて生成された光がサファイア基板105に入射する。この時、サファイア基板105の凹部105aの底面を実施的に平面にすることで、蛍光体で生成された光が凹部105aの底面で反射し、サファイア基板105よりも第1バッファ層110の側に進行して第1バッファ層110の側の種々の層によって吸収されることを抑制する。これにより、半導体素子11を蛍光体と組みあわせた半導体装置において高い発光効率を実現することができる。
【0109】
なお、第1バッファ層110の上に設けられる第2バッファ層120(GaN格子歪緩和層)は、第1バッファ層110の上における3次元島状成長により、欠陥低減と歪緩和の役割を果たす。第2バッファ層120の成長表面の平坦化には、第2バッファ層120の平均の厚さは、1μm以上とすることが望ましい。第2バッファ層120における結晶品質の再現性と、そりの低減の観点からは、第2バッファ層120の平均的な厚さは、1〜3μmが適切である。
【0110】
上記のような第1バッファ層110及び第2バッファ層120を採用することで、従来の低温成長バッファ層と比較して、転位密度は1/10以下となる。
【0111】
このため、第2バッファ層120の上に設けられる各種の半導体層の成長において、通常は異常成長のために採用困難な高い成長温度と高いV族/III族比を用いた結晶成長が可能となる。このため、素子構造部における点欠陥の発生が抑制され、高Al組成のAlGaNやバリア層に対して高濃度ドーピングが可能となる。
【0112】
以下、本実施形態に係る半導体素子11の製造方法に一例について説明する。
先ず、例えば、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングにより凹部105aが形成されたサファイア基板105を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor deposition)装置のヒーターを兼ねたサセプタ上に載置する。
【0113】
MOCVD装置のガス導入管から、高純度水素(H)を主体としたガスを、毎分3×10−2−3の流量で導入し、チャンバ内の大気を置換した後に、内部の圧力を10〜30kPaの範囲に設定する。
【0114】
次いで、サファイア基板105を水素(H)ガス中で加熱し、サファイア基板105の表面を清浄化する。 そして、基板温度を1150℃〜1200℃に設定し、アンモニア(NH)ガスとトリメチルアルミニウム(Al(CH)とをチャンバ内に導入して、第1層111(高炭素濃度第1AlNバッファ層)を3nm〜20nmの厚さで成長させる。
【0115】
ここで、第1層111の結晶方位の乱れを少なくするために、V族原料とIII族原料の反応管への供給比(V族/III族比)が適切に制御される。すなわち、第1層111の形成においては、高品質膜の成長のために、V族/III族比は0.7〜50の範囲に制御されることが望ましく、さらに、高品質膜を再現性良く得るにはV族/III族比が1.5〜15の範囲に制御されることがさらに望ましい。
【0116】
そして、基板温度を1270℃〜1330℃に昇温し、第2層112及び第3層となるAlNを、1μm〜5μmの厚さで成長させ、AlNの表面を平坦化する。
【0117】
このとき、第2層112の形成においては、V族/III族比を250〜10000程度にする。すなわち、第2層112である厚さが0.2μ〜0.5μmのAlNの成長においては、V族/III族比を250〜10000程度の高いV族/III族比とすることで、結晶品質を高める。これにより、サファイア基板105の凹部105aに上に形成されるAlN層110xの凹部110zの側面は、サファイア基板105の主面106に対して実質的に垂直、または、上方に向けて径が拡大した形状となる。
【0118】
なお、この第2層112の形成におけるV族/III族比は、1000〜5000に設定することがさらに望ましい。これにより、AlN層110xの凹部110zの側面の形状が安定し、再現性が高まる。
【0119】
そして、第3層113の形成においては、基板温度をさらに10℃〜30℃上昇させと供に、V族/III族比を、第1層111と第2層112との間である50〜250に低下させ、AlNを2〜3μmの厚さで成長させる。この条件によって、第3層113の成長においては、AlNの横方向(サファイア基板105の主面106に対して平行な方向)への成長が促進され、AlN層110xの凹部110zの上部の開口部が急速に縮小する。そして、AlN層110xの凹部110zの上部がAlN層110xによって塞がれ、AlN層110xの上面が平坦化され、第1バッファ層110の内部に断面が砲弾の形状の空洞110aが形成される。
【0120】
そして、基板温度を1150℃〜1250℃の、従来のGaNの成長温度より高温に設定し、第2バッファ層120(ノンドープGaNバッファ層)を成長する。
【0121】
その後、基板温度を1100℃〜1200℃に低下させ、モノシランガスを添加して、Siドープn型GaNコンタクト層141を成長させる。
【0122】
第1バッファ層110の上に成長させる第2バッファ層120及びSiドープn型GaNコンタクト層141の成長においては、V族/III族比を10000以上と高い比率にすることが望ましい。
【0123】
そして、基板温度を1000℃〜1050℃に設定した後、半導体素子11の素子構造部を成長する。
【0124】
III族原料としては、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH)、トリメチルガリウム(Ga(CH)及びトリメチルインジウム(In(CH)を用いることができる。
【0125】
V族原料としては、例えば、アンモニア(NH)ガスを用いることができる。
【0126】
n型ドーピング用原料としては、例えばモノシラン(SiH)ガスを用いることができる。
【0127】
p型ドーピング用原料としては、ビスシクロペンタディエニールマグネシウム(CpMg)及びビスメチルシクロペンタディエニールマグネシウム(MCpMg)を用いることができる。
【0128】
次に、n側電極140eを形成するために、p型半導体層160、発光層150及びn型半導体層140の一部をドライエッチングにより取り除き、n型半導体層140のSiドープn型GaNコンタクト層141の一部を露出させる。
【0129】
露出部の一部にn側電極140eの一部となる例えばAl合金を蒸着し、650℃の窒素雰囲気でシンター処理を行い、n側オーミック電極部140oを形成する。残りの部分には、反射率を高めるための誘電体多層膜180であるSiO/TiO積層膜を介して、金からなるパッド領域140pを形成する。n側オーミック電極部140o及びパッド領域140pが、n側電極140eとなる。この構造により、フリップチップ構造で特に問題となる電極部での光吸収損失を低減できる。なお、n側電極140eとして、Ag/Pdの積層膜を用いても良く、これにより、構造が簡略化できる。
【0130】
次いでp側電極160eを形成するために、n型半導体層140及びp型半導体層160の表面全体に、例えば熱CVD装置を用いて、SiO膜を400nmの厚さで形成する。そして、レジストリフトオフ用のパターニングされたレジストを、n型半導体層140及びp型半導体層160の上に形成し、Mgドープp型GaNコンタクト層162の上のSiO膜をフッ化アンモン処理で取り除く。そして、SiO膜が取り除かれた領域に、例えば真空蒸着装置を用いて、反射性のAgを200nmの厚さで形成し、350℃の酸素雰囲気で1分間シンター処理を行う。
【0131】
このようにして、銀を主体とするp側電極160eが形成できる。そして、p側電極160eの周囲に、保護膜を兼ねた絶縁膜(SiO膜)が形成される。そして、p側電極160eの上を、金を主体としたパッド層にて表面を覆う。その後、劈開またはダイヤモンドブレード等により切断し個別のLED素子を形成する。
【0132】
これにより、図1に例示した半導体素子11が製造できる。
この製造方法によれば、例えば、サファイア基板105の上に形成したバッファ層(例えばAlN層及びGaN層)の上に、素子部(n型半導体層140、発光層150及びp型半導体層160)を形成した後に、サファイア基板とバッファ層とを削除して、素子部の下面に凹凸を形成して光取り出し効率を高める従来の特殊な後工程を用いることを必要とせず、高効率の紫外発光ダイオードを高歩留まりで安価に生産できる。
【0133】
なお、本実施形態に係る半導体素子11においては、空洞110aを有し上面が平坦化された第1バッファ層110の上に、低欠陥結晶の第2バッファ層120を形成できることの利点を生かして、紫外域での高効率発光を得るために、発光層150自体の高効率化と、発光層150からの電子のあふれを防ぐための高Al組成で膜厚が厚いMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161の採用と、を可能にする各種の工夫がなされている。
【0134】
すなわち、発光層150のバリア層(Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層152及びSiドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層153)に、高濃度のSiをドープし、井戸層(GanInN井戸層151)における電子濃度を高めることにより、発光再結合寿命が短くなり、発光層150自体の効率が向上する。
【0135】
なお、バリア層におけるSi濃度が1.2×1019cm−3よりも低いと、発光再結合寿命を短くする効果が不十分であり、バリア層中におけるSi濃度が2.1×1019cm−3よりも高いと結晶品質が低下する。
【0136】
また、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155は、n型半導体層140のSi濃度が高いことに起因してビルトインポテンシャルによる電界がMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161に集中し、Mg原子が発光層150へドリフトすることよるMg原子の異常拡散を防止する働きがある。
【0137】
これにより、信頼性と効率を低下させることなく、高Al組成であるMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161の低抵抗化が可能となる。
【0138】
また、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155によって、低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層155とMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161との界面付近の電子濃度が低下するため、Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161への電子オーバーフローを抑制できる。
【0139】
なお、上記の界面付近のホール濃度が上昇するため、界面での非発光再結合も増大するが、転位密度が低いこととバリア層にAlGaNInN四元混晶(In組成が0.3%〜2.0%)を用いていることから、この損失は低くできる。
【0140】
Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161におけるMg濃度は、発光層150の側が高く、Mgドープp型GaNコンタクト層162の側が低くなっている。これにより、正孔の注入を阻害するMgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層161中のピエゾ電界を打ち消し、動作電圧の低減とともにキャリア閉じ込め効果を改善する。
【0141】
なお、Mgドープp型GaNコンタクト層162の上側(サファイア基板105とは反対の側)におけるMg濃度が1×1020cm−3よりも高い場合は、発光層150へのMgの拡散が生じ、効率と信頼性が劣化し易くなる。また、Mgドープp型GaNコンタクト層162におけるMg濃度が5×1018cm−3よりも低い場合は、動作電圧が上昇する。
【0142】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る別の半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図7に表したように、本実施形態に係る半導体素子12においては、n型半導体層140が、Siドープn型AlGaNコンタクト層141aとSiドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層142とを有し、発光層150が、Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層152とAlGaInN井戸層151aとの積層構造を有している。これ以外は、図1に例示した半導体素子11と同様なので説明を省略する。
【0143】
すなわち、図1に例示した半導体素子11におけるGaNの禁制体幅よりも短波長の発光素子である半導体素子12において、上記のバッファ構造が適用されている。そして、発光層150の量子井戸の井戸層にAlが添加されていることと、下地層としてGaNの代わりに発光波長エネルギーよりも広いバンドギャップのAlGaNを用いている。
【0144】
発光波長が280nmよりも短波長域では、発光層150には高Al組成のAlGaNが用いられる。このような素子においては、水平方向(主面106に対して平行な方向)への光の放射が増大するため、上記の空洞110aを有する第1バッファ層110を用いることが、高効率化に特に有効になる。
【0145】
図8は、本発明の第1の実施形態に係る別の半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図8に表したように、本実施形態に係る別の半導体素子30は、HEMT半導体素子である。すなわち、半導体素子30も、c面からなる主面106を有し、主面106に凹部110aが設けられたサファイア基板105と、サファイア基板105の主面106の上に設けられ、空洞110aを有する第1バッファ層110と、第1バッファ層110の上に設けられ、窒化物半導体からなる半導体層390と、を備える。
【0146】
半導体層390は、第1バッファ層110の上に設けられ、GaNまたはAlGaNからなる第2バッファ層120と、第2バッファ層120の上に設けられたGaN層303と、GaN層303の上に設けられたAlGaN層304と、を有する。
【0147】
そして、AlGaN層304の上にはソース電極305及びドレイン電極306が設けられ、ソース電極305とドレイン電極306との間にはゲート電極307が設けられている。なお、本具体例では、ゲート電極307は、絶縁膜308を介してAlGaN層304の上に設けられているが、絶縁膜308は省略することができる。
【0148】
このように半導体素子30は、AlGaN/GaNヘテロ界面を有するHEMTである。半導体素子30においては、サファイア基板105の上に空洞110aを有する第1バッファ層110を設けることで、サファイア基板105の反りを抑制し、割れを防止することができる。
【0149】
そして、第1バッファ層110は空洞110aを有しつつ、その上面が実質的に平坦とされているので、その上に形成される半導体層190の結晶品質を高めることができる。
【0150】
このように、本実施形態は、半導体発光素子の他、HEMTを含む、窒化物半導体を用いた種々の半導体素子に適用できる。
【0151】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むものや、導電型などを制御するために添加される各種のドーパントのいずれかをさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0152】
(第2の実施の形態)
図9は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の構成を例示する模式的断面図である。
図9に表したように、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置201は、第1の実施形態に係る半導体素子11と蛍光体とを組み合わせた白色LEDである。
【0153】
すなわち、本実施形態に係る半導体装置201は、本発明の実施形態に係る半導体素子11と、半導体素子11から放出された光を吸収し、前記光とは異なる波長の光を放出する波長変換部(蛍光体)と、を備える。
なお、半導体装置201においては、本発明の実施形態のいずれかに係る半導体素子及びその変形の半導体素子を用いることができるが、以下では、上記の半導体素子11を用いる場合として説明する。
【0154】
半導体装置201においては、セラミック等からなる容器22の内面に反射膜23が設けられており、反射膜23は容器22の内側面と底面に分離して設けられている。反射膜23は、例えばアルミニウム等からなるものである。このうち容器22の底部に設けられた反射膜23の上に、半導体素子11がサブマウント24を介して設置されている。
【0155】
半導体素子11にはボールボンダによって金バンプ25が形成され、サブマウント24に固定されている。金バンプ25を用いずに、直接サブマウント24へ固定しても良い。
【0156】
これら半導体素子11、サブマウント24、反射膜23の固定には、接着剤による接着や半田等を用いることが可能である。
【0157】
サブマウント24の半導体素子11の側の表面には、半導体素子11のp側電極160eとn側電極140eが絶縁されるようにパターニングされた電極が形成されており、それぞれ容器22側に設けられた図示しない電極に対してボンディングワイヤ26により接続されている。この接続は、内側面の反射膜23と底面の反射膜23との間の部分において行われている。
【0158】
また、半導体素子11やボンディングワイヤ26を覆うように赤色蛍光体を含む第1蛍光体層211が設けられており、この第1蛍光体層211の上には青色、緑色または黄色の蛍光体を含む第2蛍光体層212が形成されている。この蛍光体層上にはシリコン樹脂からなる蓋部27が設けられている。
【0159】
第1蛍光体層211は、樹脂及びこの樹脂中に分散された赤色蛍光体を含む。
赤色蛍光体としては、例えばY23、YVO4、Y2(P,V)O4等を母材として用いることができ、これに3価のEu(Eu3+)を付活物質として含ませる。すなわち、Y23:Eu3+、YVO4:Eu3+等を赤色蛍光体として用いることができる。Eu3+の濃度はモル濃度で1%〜10%とすることができる。赤色蛍光体の母材としてはY23、YVO4の他にLaOSやY2(P, V)O4等を用いることができる。また、Eu3+の他にMn4+等を利用することも可能である。特に、YVO4母体に3価のEuと共に少量のBiを添加することにより380nmの吸収が増大するので、さらに発光効率を高くすることができる。また、樹脂としては、シリコン樹脂等を用いることができる。
【0160】
また、第2蛍光体層212は、樹脂、並びに、この樹脂中に分散された青色、緑色及び黄色の少なくともいずれかの蛍光体を含む。例えば、青色蛍光体と緑色蛍光体とを組み合わせて用いても良く、また、青色蛍光体と黄色蛍光体とを組み合わせ蛍光体を用いても良く、青色蛍光体、緑色蛍光体及び黄色蛍光体を組み合わせた蛍光体を用いても良い。
【0161】
青色蛍光体としては、例えば(Sr, Ca)10(PO46Cl2:Eu2+やBaMg2Al1627:Eu2+等を用いることができる。
緑色蛍光体としては、例えば3価のTbを発光中心とするY2SiO5:Ce3+, Tb3+を用いることができる。この場合、CeイオンからTbイオンへエネルギーが伝達されることにより励起効率が向上する。また、緑色蛍光体として、例えば、Sr4Al1425:Eu2+等を用いることができる。
黄色蛍光体としては、例えばY3Al5:Ce3+等を用いることができる。
また、樹脂として、シリコン樹脂等を用いることができる。
特に、3価のTbは視感度が最大となる550nm付近に鋭い発光を示すので、3価のEuの鋭い赤色発光と組み合わせると発光効率が著しく向上する。
【0162】
本実施形態に係る半導体装置201によれば、半導体素子11から発生した例えば380nmの紫外光は、半導体素子11のサファイア基板105の側に放出され、反射膜23における反射をも利用することにより、各蛍光体層に含まれる上記蛍光体を効率良く励起することができる。
【0163】
例えば、第1蛍光体層211に含まれる3価のEu等を発光中心とする上記蛍光体は、620nm付近の波長分布の狭い光に変換され、赤色可視光を効率良く得ることが可能である。
また、第2蛍光体層212に含まれる青色、緑色、黄色の蛍光体が効率良く励起され、青色、緑色、黄色の可視光を効率良く得ることができる。
これらの混色として白色光やその他様々な色の光を高効率でかつ演色性良く得ることが可能である。
【0164】
このような半導体装置201においては、凹凸を有するサファイア基板上に高温成長の単結晶性AlNバッファ層を形成し、界面反射の影響を低減して高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体装置が提供できる。
【0165】
そして、半導体装置201においては、半導体素子11のサファイア基板105の主面106とは反対の側から、蛍光体で波長変換されて生成された光がサファイア基板105に入射する。この時、サファイア基板105の凹部105aの底面を実施的に平面にすることで、蛍光体で生成された光が凹部105aの底面で反射し、サファイア基板105よりも第1バッファ層110の側に進行して第1バッファ層110の側の種々の層によって吸収されることを抑制する。これにより、半導体装置201においては、さらに高い発光効率を実現することができる。
【0166】
このように、蛍光体の発光を利用する半導体装置では、蛍光体の発光が素子部にて再吸収されないことが重要である。本具体例の半導体装置201では、空洞110aのサファイア基板105側の平坦部が発光を反射するために高効率白色発光を得易い。
【0167】
(第3の実施の形態)
図10は、本発明の第3の実施形態に係る半導体ウェーハの構成を例示する模式的断面図である。
本発明の第3の実施形態に係る半導体ウェーハ21は、c面からなる主面106を有し、主面106に凹部110aが設けられたサファイア基板105と、サファイア基板105の主面106の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層110と、を備える。凹部110aは、主面106において二次元的に配置されている。
【0168】
そして、第1バッファ層110は、サファイア基板105の凹部105aの上に設けられた空洞110aを有する。空洞110aは、第1バッファ層110のサファイア基板105とは反対の側の面で覆われている。第1バッファ層110は、第1領域110eと、第1領域110eとサファイア基板105との間に設けられ第1領域110eよりも炭素濃度が高い第2領域110fと、を有する。
【0169】
サファイア基板105、凹部105a、第1バッファ層110、空洞110a、第1領域110e及び第2領域110fには、第1の実施形態に関して説明した材料及び構成を適用することができる。
【0170】
このような半導体ウェーハ21においては、第1バッファ層110中の空洞110aは、半導体ウェーハの反り及び半導体ウェーハの割れを抑制することに大きな効果がある。特に、空洞110aは二次元的に分布しているために、不均一な歪の残留が生じにくい。また、AlN結晶層中の転位等の結晶欠陥もウェーハ面内での向きによらず均一に低減できる。
【0171】
このような効果は、半導体ウェーハ21の上に、LED等の発光素子やHEMT等のスイッチング素子などの任意の半導体素子を作製する際に大きな効果を発揮し、高い歩留まりの半導体素子の製造を可能とする半導体ウェーハを提供できる。
【0172】
そして、第1バッファ層110の上に、第2バッファ層120、n型半導体層140、発光層150及びp型半導体層160を形成することで、第1バッファ層110の空洞110aによって高効率で光を反射させ、または屈折させ、高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子が製造できる。
【0173】
なお、本実施形態に係る半導体ウェーハ21は、第1バッファ層110の上に設けられ、GaNまたはAlGaNからなる第2バッファ層120をさらに備えることができる。AlNからなる第1バッファ層110の表面は比較的酸化され易いため、第1バッファ層110の上に比較的酸化されにくいGaNまたはAlGaNからなる第2バッファ層120を形成することで、半導体ウェーハ21の保管や輸送における管理がし易くなり、使い易い半導体ウェーハが提供できる。
【0174】
(第4の実施の形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る半導体結晶の成長方法を例示するフローチャート図である。
図11に表したように、本実施形態に係る半導体結晶の成長方法においては、c面からなる主面106を有し、主面106に凹部110aが設けられたサファイア基板105の上に、第1の温度と、1.5から15の第1のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第1層111をエピタキシャル成長する(ステップS110)。凹部110aは、主面106において二次元的に配置されている。
【0175】
そして、第1層111の上に、第1の温度よりも高い第2の温度と、第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第2層112をエピタキシャル成長する(ステップS120)。
【0176】
そして、第2層112の上に、第2の温度よりも高い第3の温度と、第1のV族/III族比と第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第3層をエピタキシャル成長する(ステップS130)。
【0177】
そして、凹部105aの上に空洞110aを形成し、空洞110aを第1層111、第2層112及び第3層113の少なくともいずれかで覆う。
【0178】
上記のサファイア基板105、第1バッファ層110、第1層111、第2層112及び第3層113には、第1の実施形態に関して説明した材料及び構成が適用でき、上記の各層の形成には、第1の実施形態に関して説明した条件が適用できる。そして、空洞110aには、第1の実施形態に関して説明した構成が適用できる。
【0179】
本実施形態に係る半導体結晶の成長方法によれば、第1バッファ層110に空洞110aを形成しつつ、第1バッファ層110の上面を平坦化できる。この空洞110aは、半導体ウェーハの反り及び半導体ウェーハの割れを抑制することに大きな効果があり、LED等の発光素子やHEMT等のスイッチング素子などの各種の半導体素子を作製する際の歩留まりを向上させることができる。そして、第1バッファ層110の上に、第2バッファ層120、n型半導体層140、発光層150及びp型半導体層160を形成することで、第1バッファ層110の空洞110aによって高効率で光を反射させ、または屈折させ、高光取り出し効率と高内部発光効率とを実現できる半導体素子が製造できる。
【0180】
上記の本発明の実施形態に係る半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ及び半導体結晶の成長方法では、発光ピーク波長が370〜400nmの近紫外域の発光素子に適用する場合について主に述べたが、AlNを透過する200nmよりも長波長であれば、370〜400nmよりも短波長の場合にも、本発明の実施形態の構成を適用できる。
【0181】
また、n型ドーパントとしてSiの他に、Sn及びGeを用いることができる。特に、Snをドーピングすれば、高濃度、厚膜のn型コンタクト層を形成することが可能であり、直列抵抗の低減により、低動作電圧の素子が作製できる。また、電極材料としてGeを1%程度含む銀合金を用いても良い。
【0182】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハを構成する、サファイア基板、第1バッファ層、第2バッファ層、第1〜第3層、格子歪み緩和層、半導体層、コンタクト層、クラッド層、スペーサ層、井戸層、バリア層、n型半導体層、発光層、p型半導体層、n側電極、p側電極等の各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0183】
その他、本発明の実施の形態として上述した半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ、半導体結晶の成長方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての半導体素子、半導体装置、半導体ウェーハ、半導体結晶の成長方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0184】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0185】
11、12、30 半導体素子
21 半導体ウェーハ
22 容器
23 反射膜
24 サブマウント
25 金バンプ
26 ボンディングワイヤ
27 蓋部
105、305 サファイア基板
105a、305a 凹部
105b 凸部
106、306 主面
110 第1バッファ層
110a 空洞
110e 第1領域
110f 第2領域
110p 微結晶
110s 側面
110x AlN層
110y 空洞
110z 凹部
111 第1層
112 第2層
113 第3層
120 第2バッファ層
120x GaN層
120y 空洞
120z ピット
140 n型半導体層
140e 第1電極(n側電極)
140o n側オーミック電極部
140p パッド領域
141 Siドープn型GaNコンタクト層
141a Siドープn型AlGaNコンタクト層
142 Siドープn型Al0.13Ga0.87Nクラッド層
150 発光層
151 GaInN井戸層
151a AlGaInN井戸層
152 Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層
153 Siドープn型Al0.08Ga0.91In0.01Nバリア層
155 低Si濃度Al0.08Ga0.91In0.01Nスペーサ層
160 p型半導体層
160e 第2電極(p側電極)
161 Mgドープp型Al0.26Ga074Nクラッド層
162 Mgドープp型GaNコンタクト層
180 誘電体多層膜
190 半導体層
201 半導体装置
211 第1蛍光体層(波長変換層)
212 第2蛍光体層(波長変換層)
303 GaN層
304 AlGaN層
305 ソース電極
306 ドレイン電極
307 ゲート電極
308 絶縁層
390 半導体層
L1〜L3 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板と、
前記サファイア基板の前記主面の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層と、
前記第1バッファ層の上に設けられ、窒化物半導体からなる半導体層と、
を備え、
前記第1バッファ層は、前記サファイア基板の前記凹部の上に設けられた空洞を有し、
前記第1バッファ層は、第1領域と、前記第1領域と前記サファイア基板との間に設けられ前記第1領域よりも炭素濃度が高い第2領域と、を有することを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記半導体層は、
前記第1バッファ層の上に設けられ、GaNまたはAlGaNからなる第2バッファ層と、
前記第2バッファ層の上に設けられたn型半導体層と、
前記n型半導体層の上に設けられた発光層と、
前記発光層の上に設けられたp型半導体層と、
を有することを特徴とする請求項1記載の半導体素子。
【請求項3】
前記第2領域における炭素濃度は、3×1018cm−3以上、5×1020cm−3以下であり、前記第2領域の厚さは、3ナノメートル以上、20ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記第1バッファ層の前記半導体層に対向する面は、平坦であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体素子。
【請求項5】
前記空洞は、前記サファイア基板の側に向かって拡開していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体素子。
【請求項6】
前期空洞の前記サファイア基板とは反対の側の面の曲率は、前記発光層の発光波長のピーク波長以下であり、前記空洞を前記主面に対して平行な平面で切断したときの前記空洞の幅は、前記サファイア基板とは反対の側の方が前記サファイア基板の側よりも小さいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の半導体素子。
【請求項7】
前記発光層の発光波長のピーク波長は、370ナノメートル以上400ナノメートル未満であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1つに記載の半導体素子。
【請求項8】
前記第1バッファ層は、
前記サファイア基板の前記主面の上に、第1の温度と、1.5から15の第1のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第1層と、
前記第1層の上に、前記1の温度よりも高い第2の温度と、前記第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第2層と、
前記第2層の上に、前記第2の温度よりも高い第3の温度と、前記第1のV族/III族比と前記第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長された第3層と、
を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の半導体素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の半導体素子と、
前記半導体素子から放出された光を吸収し、前記光とは異なる波長の光を放出する波長変換層と、
を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板と、
前記サファイア基板の前記主面の上に設けられ、結晶性のAlNからなる第1バッファ層と、
を備えた半導体ウェーハであって、
前記第1バッファ層は、前記サファイア基板の前記凹部の上に設けられた空洞を有し、
前記第1バッファ層は、第1領域と、前記第1領域と前記サファイア基板との間に設けられ前記第1領域よりも炭素濃度が高い第2領域と、を有することを特徴とする半導体ウェーハ。
【請求項11】
c面からなる主面を有し、前記主面に凹部が設けられたサファイア基板の前記主面の上に、
第1の温度と、1.5から15の第1のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第1層をエピタキシャル成長し、
前記第1層の上に、前記1の温度よりも高い第2の温度と、前記第1のV族/III族比よりも高い第2のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第2層をエピタキシャル成長し、
前記第2層の上に、前記第2の温度よりも高い第3の温度と、前記第1のV族/III族比と前記第2のV族/III族比との間の第3のV族/III族比と、による有機金属気相成長法によってAlNからなる第3層をエピタキシャル成長して、前記凹部の上に空洞を形成し、前記空洞を前記第1層、前記第2層及び前記第3層の少なくともいずれかで覆うことを特徴とする半導体結晶の成長方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−219269(P2010−219269A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63998(P2009−63998)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】