説明

電界効果トランジスタ

【課題】蛇行した形状に形成されたリセス部を備えることにより、オン抵抗を低減することができる電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【解決手段】電界効果トランジスタ1は、チャネル層11と、チャネル層11とヘテロ接合を構成するキャリア供給層12と、キャリア供給層12の表面から掘り下げて形成されたリセス部13と、リセス部13に沿って形成された第1絶縁層31と、第1絶縁層31の上に形成された第1ゲート電極23と、リセス部13に対してチャネル長方向の一方側に形成されたソース電極21と、リセス部13に対してチャネル長方向の他方側に形成されたドレイン電極22とを備える。リセス部13は、ソース電極21とドレイン電極22とが平面視で平行に対向するチャネル長の範囲内において、蛇行しながらチャネル長方向と交差する方向に延長されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関し、ヘテロ構造を有する電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ構造を有する電界効果トランジスタは、次世代のパワーエレクトロニクスのキーデバイスとして注目されている。電界効果トランジスタに対する高耐圧化、大電流化への要求は更に高まっている。
【0003】
図10は、従来のヘテロ接合を用いたHFET(Heterostructure Field Effect Transistor;ヘテロ構造電界効果トランジスタ)の一例の構造図である。従来のHFETの構造は、基板110の上に、チャネル層111とキャリア供給層112とが順次形成されている。キャリア供給層112の上に電極として、ソース電極121とドレイン電極122とが形成され、キャリア供給層112の表面に絶縁層131が形成されている。ソース電極121とドレイン電極122との間であって、絶縁層131の上にゲート電極123が形成されている。チャネル層111は、アンドープのGaN(窒化ガリウム)からなり、キャリア供給層112は、n型のAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)からなる。
【0004】
キャリア供給層112で発生した電子は、チャネル層111に集まり、チャネル層111/キャリア供給層112界面近傍のチャネル層111側の領域に、2次元電子ガス層(2DEG層115)からなるチャネルを形成する。2DEG層115は、電子が走行するチャネルとなり、高い移動度を持つ電子走行領域となる。ゲート電極123に印加する電圧によって2次元電子ガスの濃度を制御し、ソース電極121−ドレイン電極122間に流れる電流を制御している。
【0005】
従来のHFETにおいては、ゲート電極123に電圧を印加しないときに、ソース電極121とドレイン電極122との間に電流が流れ続ける、いわゆるノーマリーオンの動作をする。近年では、パワーエレクトロニクスの分野において、ゲート電極に電圧を印加しないときに、ソース電極とドレイン電極との間に電流が流れない、いわゆるノーマリーオフの動作をする電界効果トランジスタが望まれている。
【0006】
このような背景から、高電子移動度トランジスタ(HEMT=High Electron Mobility Transistor、電界効果トランジスタ)において、ノーマリーオフの動作の実現を可能にする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図11Aに、従来の高電子移動度トランジスタの断面図を示す。図11Bは、図11Aの矢符C−Cでの断面を示す平面構造図である。なお、図10に示したHFETと同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0008】
図11Aに示した高電子移動度トランジスタは、窒化物系化合物半導体からなる電子走行層(チャネル層111)と電子供給層(キャリア供給層112)とのヘテロ接合構造を有し、電子供給層には凹部(リセス部113)が形成され、少なくともゲート直下に相当する部分の電子走行層の上面が凹部の底面を構成している。リセス部113を形成することによって、2DEG層115へのゲート電圧の影響を大きくし、閾値電圧を高くしている。特に、チャネル層111までリセス部113を掘り下げた場合、2DEG層115を分断できることから、確実にノーマリーオフで動作する。
【0009】
従来の電界効果トランジスタでは、図11Bに示すように、絶縁層131を介してリセス部113に充填されたゲート電極123は、平面視においてソース電極121およびドレイン電極122と平行に対向した形状である。つまり、リセス部113は、平面視で平行に形成されている。
【0010】
しかしながら、パワーエレクトロニクスの分野においては、従来の電界効果トランジスタよりもオン抵抗(オン状態でのソース電極−ドレイン電極間の抵抗)を低減することが望まれている。オン抵抗が低減されると、素子での電力損失を低減することができる。また、素子での発熱を低減することができるので、熱設計が容易になる。それによって、素子のさらなる高耐圧化、大電流化が実現される。
【0011】
そこで、オン抵抗を低減するためには、ゲート長を短くすることが考えられ、短ゲート長の電界効果型トランジスタを製造する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、素子のゲート長を短くする微細化技術には、製造装置の加工精度などによる限界があり、また、ゲート長を短くすることによって、短チャネル効果による閾値電圧の低下が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−183733号公報
【特許文献2】特開2001−210658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の電界効果トランジスタ(HFET、HEMT)では、オン抵抗が低減されていないため、素子のさらなる高耐圧化、大電流化は実現できない。また、ゲート長を短くすることによって、オン抵抗は低減できるが、素子の微細化の限界、短チャネル効果による閾値電圧の低下といった他の問題が生じる。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、蛇行した形状に形成されたリセス部を備えることにより、オン抵抗を低減することができる電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る電界効果トランジスタは、基板の上に形成されたチャネル層と、前記チャネル層の上に形成され、前記チャネル層とヘテロ接合を構成するキャリア供給層と、前記キャリア供給層の表面から掘り下げて形成されたリセス部と、前記リセス部に沿って形成された第1絶縁層と、前記第1絶縁層の上に形成された第1ゲート電極と、前記キャリア供給層の上であって、前記リセス部に対してチャネル長方向の一方側に形成されたソース電極と、前記キャリア供給層の上であって、前記リセス部に対して前記チャネル長方向の他方側に形成されたドレイン電極とを備え、前記リセス部は、前記ソース電極と前記ドレイン電極とが平面視で平行に対向する前記チャネル長の範囲内において、蛇行しながら前記チャネル長方向と交差する方向に延長されていることを特徴とする。
【0016】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタでは、リセス部は、蛇行した形状に形成されているので、直線的に形成した形状よりも、リセス部の境界の長さが増加している。つまり、境界の長さ(チャネル幅)を増加させることによって、ソース電極−ドレイン電極間の抵抗を低減し、第1ゲート電極に一定の電圧を印加したときに流れるチャネル電流を増加できる。
【0017】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記リセス部は、前記チャネル層まで掘り下げて形成されていることを特徴とする。
【0018】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタは、キャリア供給層を分断して、リセス部の下側で2DEG層を分断することにより、電界効果トランジスタは確実にノーマリーオフで動作できる。
【0019】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記リセス部は、平面視において一定幅で延長されていることを特徴とする。
【0020】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタは、最適なゲート長を保つことができるため、特性の安定した電界効果トランジスタが得られる。
【0021】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記リセス部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視における複数の屈曲部を連結して形成され、複数の前記屈曲部のなす角度は、鈍角であることを特徴とする。
【0022】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタでは、第1ゲート電極は、ドレイン電極側に対して屈曲した屈曲部であっても鈍角とすることにより、電界が集中されにくい構造となっているので、第1ゲート電極にかかる電界強度を低減できる。
【0023】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記リセス部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視における円弧を有する複数の弧状部を連結して形成されていることを特徴とする。
【0024】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタでは、第1ゲート電極は、ドレイン電極側に対して複数の弧状部を連結して滑らかな曲線とすることにより、電界が集中されにくい構造となっているので、第1ゲート電極にかかる電界強度を低減できる。
【0025】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記第1絶縁層は、前記キャリア供給層の上に延長して形成された表面絶縁部を備え、前記第1ゲート電極は、前記表面絶縁部の上に形成された電界緩和部を備え、前記電界緩和部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視で前記ドレイン電極と平行に対向した形状であることを特徴とする。
【0026】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタでは、電界緩和部は、ドレイン電極に対して平行に対向させることにより、電界が集中されにくい構造となっていることから、第1ゲート電極にかかる電界強度を低減できる。また、電界緩和部により、第1ゲート電極と第1絶縁層との接触面積を確保できるため、剥がれにくくなり、歩留まりを向上できる。
【0027】
本発明に係る電界効果トランジスタは、前記キャリア供給層の上に形成された第2絶縁層と、前記第1ゲート電極の上に形成された第2ゲート電極とを備え、前記第2ゲート電極は、前記第1ゲート電極よりも前記ドレイン電極側に突出した形状であることを特徴とする。
【0028】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタは、第2ゲート電極を形成することにより、第1ゲート電極の下部に集中する電界を第2ゲート電極に分散して、第1ゲート電極の下部にかかる電界集中を緩和できる。
【0029】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記第2ゲート電極の前記ドレイン電極側の側面は、平面視で前記ドレイン電極と平行に対向した形状であることを特徴とする。
【0030】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタでは、第2ゲート電極は、ドレイン電極に対して平行に対向させることにより、電界が集中されにくい構造となっていることから、第2ゲート電極にかかる電界強度を低減できる。
【0031】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記チャネル層は、GaNで形成され、前記キャリア供給層は、AlGaNで形成されていることを特徴とする。
【0032】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタは、窒化物半導体を用いることによって、電子の飽和速度が大きく、耐圧が高く、熱伝導性が大きいため放熱性がよく、高温での動作が可能であり、有害物質を含まない電界効果トランジスタを提供することができる。
【0033】
本発明に係る電界効果トランジスタでは、前記第1ゲート電極は、前記リセス部を充填して形成されていることを特徴とする。
【0034】
したがって、本発明に係る電界効果トランジスタは、第1ゲート電極を最適な形状に形成できるため、特性の安定した電界効果トランジスタが得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る電界効果トランジスタによれば、リセス部は、蛇行した形状に形成されているので、直線的に形成した形状よりも、リセス部の境界の長さが増加している。つまり、境界の長さ(チャネル幅)を増加させることによって、ソース電極−ドレイン電極間の抵抗を低減し、第1ゲート電極に一定の電圧を印加したときに流れるチャネル電流を増加できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明の実施の形態1に係る電界効果トランジスタの断面図である。
【図1B】図1Aの矢符A−Aでの断面を示す平面構造図である。
【図1C】図1Aに示した電界効果トランジスタの平面図である。
【図2】図1Aの矢符A−Aでの断面の変形例1を示す平面構造図である。
【図3】図1Aの矢符A−Aでの断面の変形例2を示す平面構造図である。
【図4】図11Bのソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。
【図5】図1Bのソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。
【図6】図2のソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。
【図7】図3のソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。
【図8】シミュレーションで得られた抵抗値の特性図表である。
【図9A】本発明の実施の形態2に係る電界効果トランジスタの断面図である。
【図9B】図9Aの矢符B−Bでの断面を示す電界効果トランジスタの平面構造図である。
【図9C】図9Aに示した電界効果トランジスタの平面図である。
【図10】従来のヘテロ接合を用いたHFETの一例の構造図である。
【図11A】従来の高電子移動度トランジスタの断面図である。
【図11B】図11Aの矢符C−Cでの断面を示す平面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<実施の形態1>
図1Aないし図1Cに基づいて、本発明の実施の形態1に係る電界効果トランジスタについて説明する。
【0038】
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る電界効果トランジスタの断面図である。図1Bは、図1Aの矢符A−Aでの断面を示す平面構造図である。図1Cは、図1Aに示した電界効果トランジスタの平面図である。なお、ハッチングは図の見易さを考慮して省略するが、主要部(第1ゲート電極23)にはハッチングを入れてある。
【0039】
本実施の形態に係る電界効果トランジスタ1は、基板10の上に形成されたチャネル層11と、チャネル層11の上に形成され、チャネル層11とヘテロ接合を構成するキャリア供給層12と、キャリア供給層12の表面から掘り下げて形成されたリセス部13と、リセス部13に沿って形成された第1絶縁層31と、第1絶縁層31の上に形成された第1ゲート電極23と、キャリア供給層12の上であって、リセス部13に対してチャネル長方向Xの一方側に形成されたソース電極21と、キャリア供給層12の上であって、リセス部13に対してチャネル長方向Xの他方側に形成されたドレイン電極22とを備える。
【0040】
リセス部13は、ソース電極21とドレイン電極22とが平面視で平行に対向するチャネル長Lchの範囲内において、蛇行しながらチャネル長方向Xと交差する方向に延長されている。以下では、平面視において、チャネル長方向Xと直行する方向をチャネル幅方向Yと呼ぶ。したがって、リセス部13は、蛇行した形状に形成されているので、直線的に形成した形状よりも、リセス部13の境界の長さが増加している。つまり、境界の長さ(チャネル幅)を増加させることによって、ソース電極21−ドレイン電極22間の抵抗を低減し、第1ゲート電極23に一定の電圧を印加したときに流れるチャネル電流を増加できる。
【0041】
以下では、各部について詳細に説明する。
【0042】
基板10は、Si基板である。なお、基板10は、チャネル層11とある程度格子整合する基板であればよく、例えば、サファイア基板、SiC基板またはGaN基板でも構わない。
【0043】
チャネル層11とキャリア供給層12とはヘテロ接合を構成しており、キャリア供給層12で発生した電子は、チャネル層11に集まり、チャネル層11とキャリア供給層12との界面のチャネル層11側の領域に2DEG層15として2次元電子ガス層からなるチャネルを形成する。2DEG層15は、電子が走行するチャネルとなり、高い移動度を持つ電子走行領域となる。
【0044】
つまり、ソース電極21とドレイン電極22との間に電子を流すチャネルとして、チャネル層11とキャリア供給層12との界面に2DEG層15が形成される。第1ゲート電極23に印加する電圧によって電界効果トランジスタ1に流れる電流を制御できる。
【0045】
チャネル層11は、GaNで形成され、キャリア供給層12は、AlGaNで形成されている。したがって、窒化物半導体を用いることによって、電子の飽和速度が大きく、耐圧が高く、熱伝導性が大きいため放熱性がよく、高温での動作が可能であり、有害物質を含まない電界効果トランジスタを提供することができる。
【0046】
なお、チャネル層11とキャリア供給層12とは、ヘテロ接合を構成していれば、各層を構成する元素および各元素の組成比を適宜選択して形成できる。例えば、Al0.1Ga0.9N/Al0.3Ga0.7NまたはGaN/AlGaInN(窒化アルミニウムガリウムインジウム)の組み合わせ等が挙げられる。(「/」は左を下層とし、右を上層として積層していることを意味している)。
【0047】
ソース電極21およびドレイン電極22は、Ti/Al/Au(チタン/アルミニウム/金)で形成されている。なお、ソース電極21およびドレイン電極22に用いられる材料は、導電性を示す金属であり、キャリア供給層12とオーミック接合を形成する物質であればよい。
【0048】
第1絶縁層31は、SiO2で形成されている。なお、第1絶縁層31に用いられる材料は、絶縁性を有する物質であればよく、例えば、SiN(窒化シリコン)、Al23(アルミナ)、HfOX(酸化ハフニウム)またはAlN(窒化アルミニウム)などが挙げられる。
【0049】
第1ゲート電極23は、WN/Au(窒化タングステン/金)で形成されている。なお、第1ゲート電極23に用いられる材料は、導電性を示す金属であり、第1絶縁層31との密着性があればよい。
【0050】
第1ゲート電極23は、リセス部13を充填して形成されている。つまり、第1ゲート電極23は、リセス部13に延長して形成されている。リセス部13に延長された第1ゲート電極23を、便宜上、第1ゲート電極23dとする。また、ソース電極−ドレイン電極間における電流経路であり、第1ゲート電極23dの底面に相当する部分を下部領域25と呼ぶ。したがって、第1ゲート電極23を最適な形状に形成できるため、特性の安定した電界効果トランジスタが得られる。
【0051】
リセス部13は、チャネル層11まで掘り下げて形成されていることが望ましい。したがって、キャリア供給層12を分断して、リセス部13の下側で2DEG層15を分断することにより、電界効果トランジスタは確実にノーマリーオフで動作できる。
【0052】
また、リセス部13は、平面視において一定幅で延長されていることが望ましい。したがって、最適なゲート長を保つことができるため、特性の安定した電界効果トランジスタが得られる。
【0053】
電界効果トランジスタにおいて、ゲート長が長くなると、ソース電極−ドレイン電極間の抵抗が増大してしまう。一方、ゲート長を短くする場合、微細加工を制御することが困難になり歩留まりが低下することや、短チャネル効果による閾値電圧の低下が問題になる。そのため、素子の特性を安定化するために、ゲート長を一定にすることが望ましい。
【0054】
平面視におけるリセス部13のレイアウトは、図1Bに示すように、蛇行した形状に形成されている。リセス部13は、平面視において、チャネル幅方向Yに平行に延長された領域R1およびR3と、領域R1と領域R3との間で、チャネル長方向Xおよびチャネル幅方向Yに対して斜めに延長された領域R2とからなる。つまり、リセス部13は、連結された台形状に形成されている。
【0055】
第1絶縁層31は、キャリア供給層12の上に形成された表面絶縁部31aを備え、第1ゲート電極23は、表面絶縁部31aの上に延長して形成された電界緩和部23aを備え、電界緩和部23aのドレイン電極22側の側面は、平面視でドレイン電極22と平行に対向した形状である。したがって、電界緩和部23aは、ドレイン電極22に対して平行に対向させることにより、電界が集中されにくい構造となっていることから、第1ゲート電極23にかかる電界強度を低減できる。また、電界緩和部23aにより、第1ゲート電極23と第1絶縁層31との接触面積を確保できるため、剥がれにくくなり、歩留まりを向上できる。
【0056】
また、基板10とチャネル層11との間には、低温成長したGaNからなるバッファ層を形成してもよい。バッファ層を形成することによって、チャネル層11の結晶性を向上させ、深さ方向の耐圧を向上させることができる。
【0057】
また、チャネル層11とキャリア供給層12との間には、スペーサー層を形成してもよい。スペーサー層を形成することによって、2DEG層15の電子移動度を向上させることができる。スペーサー層の材料は、例えば、AlN、AlInN(窒化アルミニウムインジウム)、AlGaInNなどが挙げられる。
【0058】
また、キャリア供給層12の上には、キャップ層を形成してもよい。キャップ層を形成することによって、キャリア供給層12の酸化や不純物の取り込みを防ぐことができる。キャップ層の材料は、例えば、GaNが挙げられる。
【0059】
また、キャリア供給層12の上には、1019/cm3程度のSiドーピングを行ったGaNからなるコンタクト層を形成してもよい。コンタクト層を形成することによって、キャリア供給層12とソース電極21およびドレイン電極22との間で、容易にオーミック接合を形成することができる。
【0060】
リセス部13のレイアウトとして、図1Bを例示したが、他の形状でも構わない。例えば、図2(変形例1)および図3(変形例2)に示した形状でもよい。
【0061】
リセス部13のドレイン電極22側の側面は、平面視における複数の屈曲部を連結して形成され、複数の前記屈曲部のなす角度は鈍角である。したがって、第1ゲート電極23は、ドレイン電極22側に対して屈曲した屈曲部であっても鈍角とすることにより、電界が集中されにくい構造となっているので、第1ゲート電極23にかかる電界強度を低減できる。
【0062】
図2は、図1Aの矢符A−Aでの断面の変形例1を示す平面構造図である。平面視におけるリセス部13のレイアウトの変形例1であり、リセス部13は、屈曲部を連結して三角波状に形成されている。
【0063】
また、リセス部13のドレイン電極22側の側面は、平面視における円弧を有する複数の弧状部を連結して形成されていてもよい(図7参照)。上記の形状であっても、変形例1と同様の効果が得られる。
【0064】
図3は、図1Aの矢符A−Aでの断面の変形例2を示す平面構造図である。平面視におけるリセス部13のレイアウトの変形例2であり、リセス部13は、弧状部を連結して正弦波状に形成されている。
【0065】
次に、本実施の形態に係る電界効果トランジスタ1の製造方法について説明する。
【0066】
基板10の上に、膜厚2μmのGaNからなるチャネル層11と、膜厚30nmのAlGaNからなるキャリア供給層12とを、有機金属CVD(MOCVD)により積層して成膜する。
【0067】
次に、キャリア供給層12の上に、膜厚200nmのソース電極21とドレイン電極22とを蒸着し、キャリア供給層12に対してオーミック接合を形成する。ソース電極21およびドレイン電極22の間隔は、電界効果トランジスタ1の所望する性能に応じて調整される。ソース電極21及びドレイン電極22の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を使用できる。
【0068】
キャリア供給層12の表面から35nm掘り下げてリセス部13を形成する。掘り下げる深さは、特に限定されず、適宜選択可能である。本実施の形態では、反応性イオンエッチング(RIE)を行ってリセス部13を形成したが、特に限定されず、公知の方法を使用できる。
【0069】
リセス部13の上に、膜厚20nmの第1絶縁層31を公知の方法で形成する。第1ゲート電極23とリセス部13との間が絶縁されていれば、第1絶縁層31は、比較的薄く形成されるのが望ましい。それは、第1絶縁層31が厚くなると、電界効果トランジスタ1の閾値電圧が低くなり、ノーマリーオフで動作しなくなるからである。
【0070】
第1絶縁層31の上に、膜厚200nmの第1ゲート電極23を蒸着等の公知の方法で形成する。このときに、第1ゲート電極23dは、リセス部13に充填される。
【0071】
<シミュレーション結果>
ここで、図11Bに示した従来例のようにリセス部が直線的に形成された場合と、図1B、図2および図3のように蛇行した形状に形成された場合とにおけるオン抵抗の値をシミュレーションして比較し、その結果を以下に示す。
【0072】
図4ないし図7に基づいて、シミュレーションの条件を説明する。
【0073】
図4は、図11Bのソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。つまり、直線状に形成されたリセス部の場合である。図5は、図1Bのソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。つまり、実施の形態1のように台形状に形成されたリセス部の場合である。図6は、図2のソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。つまり、変形例1のように三角波状に形成されたリセス部の場合である。図7は、図3のソース電極−ドレイン電極間における主要な電流経路を平面で表した模式図である。つまり、変形例2のように正弦波状に形成されたリセス部の場合である。なお、図1B、図2、図3および図11Bと同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。また、図4における2DEG層115は、図5ないし図7における2DEG層15に相当し、図4におけるソース電極121は、図5ないし図7におけるソース電極21に相当し、図4におけるドレイン電極122は、図5ないし図7におけるドレイン電極21に相当する。
【0074】
図4ないし図7における斜線の領域は、下部領域25であって、下部領域25以外の領域は、2DEG層15としてある。シミュレーションでは、下部領域25における抵抗率は、2DEG層15の20倍となるように設定した。なお、図4における下部領域25は、ゲート電極123の底面に相当する部分である。
【0075】
図4ないし図7の左端は、ソース電極21端に相当し、図4ないし図7の右端は、ドレイン電極22端に相当する。図5ないし図7には、補助線SL1と補助線SL2とが引いてあり、下部領域25は、補助線SL1と補助線SL2との間で蛇行した形状としてある。図4において、下部領域25は、一定の溝幅Lgでチャネル幅方向Yに直線状に延長された形状である。図5ないし図7において、下部領域25は、一定の溝幅Lgでチャネル幅方向Yに延長されている。
【0076】
図4ないし図7において、ソース電極21とドレイン電極22との間の距離を距離Lsdとし、ソース電極21と補助線SL1との間の距離を距離Lsgとし、補助線SL2とドレイン電極22との間の距離を距離Lgdとしている。なお、図4においては、下部領域25のソース電極21側の端が補助線SL1に相当し、下部領域25のドレイン電極22側の端が補助線SL2に相当する。図5ないし図7においては、下部領域25は、チャネル幅方向Yに沿った周期的な形状とされている。
【0077】
図5(実施の形態1)において、下部領域25では、補助線SL1に沿う領域RG51と、補助線SL1に対して傾斜角θで領域RG51から補助線SL2に向かう領域RG52と、補助線SL2に沿う領域RG53と、補助線SL2に対して傾斜角θで領域RG53から補助線SL1に向かう領域RG54とで1周期が構成され、1周期のチャネル幅方向Yの長さを周期Lwとされている。
【0078】
領域RG51および領域RG53のチャネル幅方向Yの長さを距離L1とし、領域RG52および領域RG54のチャネル幅方向Yの長さを距離L2としてあり、距離L2は距離L1の2倍である。また、傾斜角θは60度である。
【0079】
図6(変形例1)において、下部領域25では、ソース電極21側に突出したくさび状の領域RG61と、ドレイン電極22側に突出したくさび状の領域RG62とで1周期が構成され、1周期のチャネル幅方向Yの長さを周期Lwとされている。
【0080】
領域RG61の先端は補助線SL1と接しており、領域RG62の先端は補助線SL2と接している。領域RG61の先端から伸びる境界線BL1は、補助線SL1に対して傾斜角φをなし、領域RG62の先端から伸びる境界線BL2は、補助線SL2に対して傾斜角φをなす。
【0081】
図6においては、傾斜角φを10度から60度(10度間隔)までの形状についてシミュレーションを行った(図8参照)。
【0082】
図7(変形例2)においては、下部領域25では、ソース電極21側に突出し半円弧状の領域RG71と、ドレイン電極22側に突出し半円弧状の領域RG72とで1周期が構成され、1周期のチャネル幅方向Yの長さを周期Lwとされている。
【0083】
領域RG71の先端は補助線SL1と接しており、領域RG72の先端は補助線SL2と接している。領域RG71および領域RG72において、円弧の中心から溝幅Lgの中央までの距離を半径rとし、半径rは0.5μmである。
【0084】
図4ないし図7において、距離Lgは0.5μmであり、距離Lsdは6μmであり、距離Lsgは1μmであり、周期Lwは2μmである。距離Lgdは、シミュレーションの条件によって変化する。
【0085】
以上のシミュレーションの条件としたときに、ソース電極−ドレイン電極間における周期Lwあたりのオン抵抗の値と、周期Lwに対応する境界の長さとを計算した。
【0086】
図8は、シミュレーションで得られた抵抗値の特性図表である。なお、それぞれの抵抗値は、図4における抵抗値を1として規格化してあり、境界の長さは、図4における境界の長さを1として規格化してある。
【0087】
図5の形状においては、境界の長さは1.667であり、抵抗値は0.927であった。図6の形状において、傾斜角φが10度のとき、境界の長さは1.015であり、抵抗値は0.991であった。傾斜角φが60度のとき、境界の長さは2.000であり、抵抗値は0.859であった。傾斜角φが大きくなるにつれて、境界の長さは増大され、抵抗値は低減された。図7の形状においては、境界の長さは1.571であり、抵抗値は0.909であった。
【0088】
図8から、図5ないし図7のいずれの形状においても、オン抵抗が低減されていることがわかる。また、図6の形状では、傾斜角φが大きくなるほど、オン抵抗は低減されている。
【0089】
<実施の形態2>
図9Aないし図9Cに基づいて、本発明の実施の形態2に係る電界効果トランジスタについて説明する。なお、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
図9Aは、本発明の実施の形態2に係る電界効果トランジスタの断面図である。図9Bは、図9Aの矢符B−Bでの断面を示す電界効果トランジスタの平面構造図である。図9Cは、図9Aに示した電界効果トランジスタの平面図である。なお、ハッチングは図の見易さを考慮して省略するが、主要部(第1ゲート電極23、第2ゲート電極24)にはハッチングを入れてある。
【0091】
本実施の形態に係る電界効果トランジスタ2は、基板10の上に形成されたチャネル層11と、チャネル層11の上に形成され、チャネル層11とヘテロ接合を構成するキャリア供給層12と、キャリア供給層12の表面から掘り下げて形成されたリセス部13と、リセス部13に沿って形成された第1絶縁層31と、第1絶縁層31の上に形成された第1ゲート電極23と、キャリア供給層12の上であって、リセス部13に対してチャネル長方向の一方側に形成されたソース電極21と、キャリア供給層12の上であって、リセス部13に対してチャネル長方向の他方側に形成されたドレイン電極22とを備える。
【0092】
リセス部13は、ソース電極21とドレイン電極22とが平面視で平行に対向するチャネル長の範囲内において、蛇行しながらチャネル長方向と交差する方向に延長されている。
【0093】
本実施の形態に係る電界効果トランジスタ2は、キャリア供給層12の上に形成された第2絶縁層32と、第1ゲート電極23の上に形成された第2ゲート電極24とを備える。第2ゲート電極24は、第1ゲート電極23よりもドレイン電極22側に突出した形状である。したがって、第2ゲート電極24を形成することにより、第1ゲート電極23の下部に集中する電界を第2ゲート電極24に分散して、第1ゲート電極23の下部にかかる電界集中を緩和できる。
【0094】
第2ゲート電極24のドレイン電極22側の側面は、平面視でドレイン電極22と平行に対向した形状である。したがって、第2ゲート電極24は、ドレイン電極22に対して平行に対向させることにより、電界が集中されにくい構造となっていることから、第2ゲート電極24にかかる電界強度を低減できる。
【0095】
第2絶縁層32は、膜厚200nmのSiNで形成されている。なお、第2絶縁層32に用いられる材料は、絶縁性を有する物質であればよく、例えば、SiO2、Al23、HfOXまたはAlNなどが挙げられる。また、第2ゲート電極24に集中する電界強度を低減するために、第2絶縁層32は、誘電率の高い材料を用いることが望ましい。
【0096】
第2ゲート電極24は、膜厚200nmのAuで形成されている。なお、第2ゲート電極24に用いられる材料は、導電性を示す金属であり、第1ゲート電極23および第2絶縁層32との密着性があればよい。また、第1絶縁層31と第2絶縁層32とを形成した後、第1ゲート電極23と第2ゲート電極24とを連続して形成してもよい。
【0097】
また、本実施の形態において、第1絶縁層31は、第1ゲート電極23の近傍にのみ形成されていても構わない。その場合、第2ゲート電極24とキャリア供給層12とは、第2絶縁層32によって絶縁される。
【0098】
以上のように、本発明を実施するための形態に関して説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1、2 電界効果トランジスタ
10、110 基板
11、111 チャネル層
12、112 キャリア供給層
13、113 リセス部
15、115 2DEG層
21、121 ソース電極
22、122 ドレイン電極
23、23d、123 第1ゲート電極
23a 電界緩和部
24 第2ゲート電極
25 下部領域
31 第1絶縁層
31a 表面絶縁部
32 第2絶縁層
131 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成されたチャネル層と、
前記チャネル層の上に形成され、前記チャネル層とヘテロ接合を構成するキャリア供給層と、
前記キャリア供給層の表面から掘り下げて形成されたリセス部と、
前記リセス部に沿って形成された第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の上に形成された第1ゲート電極と、
前記キャリア供給層の上であって、前記リセス部に対してチャネル長方向の一方側に形成されたソース電極と、
前記キャリア供給層の上であって、前記リセス部に対して前記チャネル長方向の他方側に形成されたドレイン電極とを備えた電界効果トランジスタであって、
前記リセス部は、前記ソース電極と前記ドレイン電極とが平面視で平行に対向する前記チャネル長の範囲内において、蛇行しながら前記チャネル長方向と交差する方向に延長されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の電界効果トランジスタであって、
前記リセス部は、前記チャネル層まで掘り下げて形成されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項3】
請求項1から請求項2までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記リセス部は、平面視において一定幅で延長されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記リセス部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視における複数の屈曲部を連結して形成され、
複数の前記屈曲部のなす角度は、鈍角であること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記リセス部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視における円弧を有する複数の弧状部を連結して形成されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記第1絶縁層は、前記キャリア供給層の上に延長して形成された表面絶縁部を備え、
前記第1ゲート電極は、前記表面絶縁部の上に形成された電界緩和部を備え、
前記電界緩和部の前記ドレイン電極側の側面は、平面視で前記ドレイン電極と平行に対向した形状であること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記キャリア供給層の上に形成された第2絶縁層と、
前記第1ゲート電極の上に形成された第2ゲート電極とを備え、
前記第2ゲート電極は、前記第1ゲート電極よりも前記ドレイン電極側に突出した形状であること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項8】
請求項7に記載の電界効果トランジスタであって、
前記第2ゲート電極の前記ドレイン電極側の側面は、平面視で前記ドレイン電極と平行に対向した形状であること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記チャネル層は、GaNで形成され、前記キャリア供給層は、AlGaNで形成されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一つに記載の電界効果トランジスタであって、
前記第1ゲート電極は、前記リセス部を充填して形成されていること
を特徴とする電界効果トランジスタ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2011−124282(P2011−124282A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278727(P2009−278727)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】