説明

半導体層構造及び半導体層構造の製造方法

【課題】半導体材料の応力及び亀裂のない堆積のための基板と、かかる基板の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体層構造の製造方法にあたり、a)半導体材料からなる基板を準備し、b)前記基板上に第二の半導体材料からなる層を施与して、半導体構造を作製し、c)該半導体層構造中に軽ガスイオンを注入して、半導体層構造内に空洞を含む層を作製し、d)前記空洞を規定種の不純物原子によって安定化し、e)該半導体層構造上に少なくとも1層のエピタキシャル層を施与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層構造及び半導体層構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能エレクトロニクス並びにオプトエレクトロニクス用の最新素子の実現のために、先行技術においては、通常、非常に費用をかけて、コスト集中的にのみ製造することができる基板を使用している。更に、これらの基板は、しばしば高い欠陥密度を有する。
【0003】
選択的なコスト的に有利かつ品質的に高価な代替基板を作製するには、所望の基板材料の薄層(数十nm)を、品質的に高価かつコスト的に有利な基板上に、例えばシリコンウェーハ上に堆積させることからなる。この場合に、更なる層の欠陥が少ないエピタキシャル成長を可能にする格子適合された基板が得られる。
【0004】
しかしながら、この場合に、基板の主な物理的特性、特に熱膨張係数が決定的要因となる。従って、このことが問題となるのは、例えばIII−V族化合物半導体、例えばGaNの有機金属気相エピタキシー(MOCVD)による成長が、しばしば、素子製造に十分な品質を保証するために、1000℃より高い比較的高温で行われるからである。明らかにより低い熱膨張係数を有する基板上にかかる高温で堆積された層を冷却すると、まず堆積された層の引張歪みが起こり、そして更なる過程においてしばしば層の破断が起こり、層は使用不可能となる。
【0005】
N.H. Zhang他著、Journal of Crystal Growth 280,346−351(2005)には、異なる組成及び/又は構造の中間層を堆積に際して使用することが、発生する歪みを補償すべく提案されている。
【0006】
明白な欠点は、中間層の作製のために、一般に、所望の層の堆積のためのものとは別の方法工程及び方法パラメータが必要となるので、その複雑な方法運用である。
【0007】
原則的に、いわゆる"準拠基板(compliant Substrate)"又は適合基板は、もう一つの可能性である。これは、所望の基板材料の薄層が別の基板上に施与された基板を意味し、この基板と施与される層との間には弱い機械的接続があるに過ぎない。
【0008】
かかる方法は、例えばHobart他著、Journal of Electronic Materials 29(7),897−900(2000)に記載されている。この場合にまず、Si1-xGex層をSOI("シリコン・オン・インシュレーター")上に堆積させるが、その際、埋設された二酸化ケイ素層は更にホウ素及びリンでドーピングされている。このホウ素−リン−ケイ酸塩層は、約800℃の温度以上で粘性流動しうる特性を有し、このことは、その上に堆積された各々の層の応力緩和を可能にする。
【0009】
しかしながら、この場合に、堆積された層が前記基板上で凹凸をもたらすという問題が現れる。この理由は、ホウ素−リン−ケイ酸塩層が高粘度であることと、堆積された層が室温への冷却に際して熱収縮することが避けられないことにある。最新の半導体素子の製造は、該層の平坦性に高い要求が課されるので、このことは重大な欠点である。かかる凹凸は、かかる材料系において、今までは(上記刊行物に記載されるように)基板のパターン形成によってのみ達成することができ、このことは多方面で望ましくない。
【0010】
更なる欠点は、かかる基板の製造の複雑さから生ずるものである。殆ど、技術的に高価な方法、例えば"スマートカット法"又は高ドーズ酸素イオン注入("SIMOX"法)を基礎とするSOI("シリコン・オン・インシュレーター")ウェハが使用される。
【0011】
かかる仮想基板のもう一つの製造方法は、例えばEP1437764号A1及びWO2004/082001号A1に記載されているが、該方法は、非格子適合基板上に緩和層を可能にするために、特にシリコン上に成長した緩和されたSi1-xGex層上で引き伸ばされたシリコン層("ストレインド・シリコン")を作製するために基板中に欠陥領域を意図的に製造する。
【0012】
ここでは、既に以前から堆積された層又は堆積された層系の下方に欠陥領域を作製するのに用いられているイオン注入工程が使用される。この欠陥領域は、後続の熱による後処理に際して元の基板中に転位及び積層欠陥の形成をもたらし、それは堆積された層もしくは層系に緩和作用を有する。この方法についての前提条件は、イオン注入工程後の熱による後処理によって緩和しうるシリコン基板上の薄い欠陥が少ない層である。
【0013】
しかしながらこの場合に、作製された欠陥領域は短時間にわたってのみ安定に保たれるだけで、より長い工程時間では消えてしまうとうい問題がある。
【0014】
これは、オストワルド成長が起こることと関係しており、従って複数の空洞が空孔拡散によってそのサイズ分布を粗大化し、それが一体化することでより大きな少ない空洞となる。それによって、作製された空洞の密度は、エネルギー的理由から空洞間で転位もしくは積層欠陥をもはや形成しないほど小さくなる。この問題は、高温での長い工程時間の場合に、例えば前記の層構造上へのMOCVDによる層堆積の場合に生ずる。小さすぎる空洞の密度のため、層構造の緩和は冷却時にもはや不可能なので、堆積された層の破断が起こる。
【0015】
万一空洞密度を増大させても前記問題は、この空洞の臨界密度以降では(特に引き続いての1000℃以上の温度での高温処理で)堆積された層の開裂が起こりうるため制約付きでのみ解決される。
【非特許文献1】N.H. Zhang他著、Journal of Crystal Growth 280,346−351(2005)
【非特許文献2】Hobart他著、Journal of Electronic Materials 29(7),897−900(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の課題は、半導体材料の応力及び亀裂のない堆積のための基板と、かかる基板の製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題は、半導体層構造の製造方法において、
a)半導体材料からなる基板を準備する工程、
b)前記基板上に第二の半導体材料からなる層を施与して、半導体構造を作製する工程、
c)該半導体層構造中に軽ガスイオンを注入して、半導体層構造内に空洞を含む層を作製する工程、
d)前記空洞を規定種の不純物原子によって安定化する工程、
e)該半導体層構造上に少なくとも1層のエピタキシャル層を施与する工程
を含む方法によって解決される。
【0018】
工程a)で準備される基板は、有利には単結晶シリコンからなるウェハである。
【0019】
更に、接合法により製造された半導体ウェハを使用することも好ましい。
【0020】
同様に、SOI("シリコン・オン・インシュレーター")ウェハを基板として使用することが好ましい。
【0021】
しかしながら、該基板は、多結晶半導体材料も含んでよい。
【0022】
該基板は、更に、シリコン層、シリコン−ゲルマニウム(SiGe)層又はゲルマニウム層を含む層構造であってもよい。
【0023】
一般に、単結晶又は多結晶の層を堆積できる全ての基板が適している。
【0024】
工程b)で施与される第二の半導体材料からなる層は、有利には単結晶シリコンカーバイド層である。
【0025】
しかしながら、シリコン−ゲルマニウム層又はシリコン−ゲルマニウム層を含む層構造も、工程b)で施与される層として好ましい。
【0026】
本発明による方法の工程b)において、第二の半導体材料からなる層を施与して、半導体構造を作製することは、化学的気相堆積("Chemical Vapor Deposition"、CVD)、分子ビームエピタキシー("Molecular Beam Epitaxy"、MBE)又はイオンビーム合成("Ion Beam Synthesis"、IBS)によって行うことが好ましい。
【0027】
工程b)における層の施与に使用される方法に応じて、層厚は、CVDの場合には0.5nm〜100μmが、MBEの場合には0.5nm〜5μmが、そしてIBSの場合には0.5nm〜1μmが好ましい。
【0028】
特に有利には、工程b)で施与される層の層厚は、使用される方法とは無関係に1〜500nmである。
【0029】
本発明による方法の工程c)において、半導体層構造中に軽ガスイオンが注入される。
【0030】
該ガスイオンの注入は、施与された層と基板との間の境界面より下方の深部領域に又は工程b)で施与された層の内部で行ってよい。
【0031】
この場合に、注入エネルギーは、第一の場合に、空洞が、基板と施与された層との間の境界面より若干下に、従って有利にはその境界面の0〜500nm下の領域に生ずるように選択される。
【0032】
軽ガスイオンの注入によって、空洞もしくは気泡("バブル")が半導体層構造中に作製される。
【0033】
注入されるガスイオンは、水素イオンであることが好ましい。
【0034】
また、ヘリウムイオン、ネオンイオン及びアルゴンイオンの群から選択される1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入も好ましい。
【0035】
その希ガスイオンの注入は、前記の原子種の混合物の注入であっても、又は前記の原子種の別々の注入を組み合わせたものであってもよい。
【0036】
従って例えば、ヘリウムイオン注入とネオンイオン注入とを組み合わせることができる。
【0037】
しかしながらまた、水素イオン注入と、ヘリウムイオン、ネオンイオン及びアルゴンイオンの群から選択される1種又は複数種の原子種の希ガスイオン注入とを組み合わせたものも好ましい。
【0038】
従って例えば、水素イオン注入とヘリウムイオン注入とを組み合わせることもできる。
【0039】
例えばシリコン基板上の70nm厚のSiC層のためには、例えばヘリウムイオンについての注入エネルギー22keV及びドーズ量約2×1016cm-2が選択される。その際、これにより、施与された層と基板との間の境界面より約0〜70nm下方に欠陥領域がもたらされる。
【0040】
施与された層の内部に欠陥領域を作製するためには、より低い注入エネルギーを選択することができる。
【0041】
その注入エネルギーは、堆積された層の厚さ及び種類に依存して、1keV〜2MeVの範囲にあることが好ましい。
【0042】
特に、注入エネルギーが10〜200keVの範囲にあることが好ましい。
【0043】
しかしながらこの場合に、注入エネルギー20〜50keVが殊に好ましい。
【0044】
注入温度の選択により、空洞の生成の時点を制御することができる:
低い注入温度と高いドーズ量とを選択した場合に、注入直後に既にある一定の大きさの空洞が作製される。
【0045】
しかしながら、約400℃といったより高い注入温度を選択して、まず空洞用の核のみを作製し、その核によりその好適な不純物原子による安定化後に、900〜1250℃温度と2時間又はそれより長い処理期間の長期の高温工程でさえも、約10nmの平均空洞直径を有する薄い空洞分布を得ることが好ましいと見なされている。
【0046】
特に、後の層の開裂は、1250℃の温度までの高温工程において回避することができる。
【0047】
注入されるべき水素イオン又は希ガスイオンのドーズ量の選択は、施与される層の種類及び厚さ並びに注入エネルギーに依存する。
【0048】
有利には、注入されるべき水素イオン及び/又は希ガスイオンのドーズ量は、1×1013〜1×1017cm-2の範囲にある。
【0049】
特に、ドーズ量は、1×1015cm-2〜5×1016cm-2の範囲にあることが好ましい。
【0050】
当業者には、得られる不純物原子の濃度は、注入されるドーズ量と熱的拡散に依存することが知られている。従って、必要なドーズ量は、有利には実験的に決められる。
【0051】
半導体層構造を注入の間にイオンビームに対して傾斜させることも同様に好ましい。
【0052】
半導体層構造をイオンビームに対して0〜60゜の角度だけ傾斜させることが好ましい。
【0053】
特に、0〜30゜の角度が好ましく、その際、0〜15゜の角度が殊に好ましい。
【0054】
本発明による方法の工程d)において、半導体層構造中の空洞を、酸素、窒素及び炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子によって安定化させる。
【0055】
これは、基板及び/又は施与された層中に、既にその原子種の不純物原子が、有利には作製された半導体層構造の少なくとも600℃での熱処理によって、少なくとも空洞を含む層の範囲内に存在する場合について行われる。
【0056】
その際に、不純物原子は、基板材料との化合物の形で固溶化されていても、又は析出物として存在してもよい。
【0057】
しかしながら、別個の熱処理は必要なく、それはまた工程e)による少なくとも1層のエピタキシャル層の施与を少なくとも600℃の温度で行う場合には好ましくない。
【0058】
前記温度より低い温度では、堆積された層の緩和に必要とされるような十分な平面状の欠陥密度は達成されない。
【0059】
半導体層構造を1300℃又はそれより高い温度の非常に高温で熱処理することは原則的に可能である。しかしながら、ここでは、かかる温度では不純物原子で安定化された空洞の場合でも不所望な効果をもたらしうるオストワルド成長の動力学を考慮せねばならない。とりわけ、施与された層の剥離並びに粗大化による空洞の激しすぎる密度低下を避けるのに重要である。従って、半導体層構造の熱処理もしくは半導体層構造へのエピタキシャル層の堆積は、600〜1250℃の温度で行われる。
【0060】
基板もしくは少なくとも作製された空洞の領域において、有利には窒素、酸素及び炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子が十分な濃度で存在しない場合には、有利には前記の原子種のイオンを半導体層構造に注入することは、工程d)において行われる。
【0061】
この場合に、注入は、有利には不純物原子の最大濃度と注入されるガスイオンの最大濃度とが一致するか、又はそれらが少なくとも類似の深部領域に存在するように選択される。
【0062】
従って、10〜200keVの注入エネルギーを選択することが好ましい。
【0063】
半導体層構造上に、最後に、工程e)において少なくとも1層のエピタキシャル層を施与する。
【0064】
その少なくとも1層のエピタキシャル層は、単結晶シリコンからなる1層であることが好ましい。
【0065】
有利には、少なくとも1層のエピタキシャル層は、窒化物化合物半導体を含む。
【0066】
有利には、前記の少なくとも1層のエピタキシャル層は、基板の半導体材料とは明らかに異なる熱膨張係数、すなわちより高い熱膨張係数を有する半導体材料を含む。
【0067】
例えば、全ての化合物半導体は、シリコンとは大きく異なる熱膨張係数、すなわちより大きな熱膨張係数を有する(第1表を参照)。
【0068】
堆積される層は、一般に、II−IV族化合物半導体とIII−V族化合物半導体である。特に、該層は、AlxGa1-xN、AlxGayIn1-x-yN、AlxGayIn1-x-yP、AlxGa1-xSb、AlxGayIn1-x-yaSb1-a、AlxGayIn1-x-yabSb1-a-b、GaAs、ZnO、CdTe、CdS、CdSe及びCdSxSe1-xからなる層である。
【0069】
特に、積層物も上記の化合物半導体の組合せとして考慮でき、それは好ましい。
【0070】
【表1】

【0071】
第1表:選択された半導体材料についての熱膨張係数
この場合に、前記の層は、その使用目的に相応して当然のように任意の種類の不純物原子でドープされていてよい。
【0072】
所望の方位もしくは結晶構造に応じて、基板としてシリコンを使用する場合に、(100)半導体ウェハ、(110)半導体ウェハ、(111)半導体ウェハ又は方位差を有する半導体ウェハを使用することができる。
【0073】
半導体層構造がシリコンウェハ上のシリコンカーバイド層である場合に、窒化物化合物半導体の堆積と、それによるオプトエレクトロニクスにおける使用のための出発材料の製造が好ましい。
【0074】
この場合に、シリコンカーバイド層は、1nm〜500nm厚であることが好ましい。
【0075】
特に、層厚は、30nm〜150nmであることが好ましく、その際、層厚は、50nm〜100nmであることが殊に好ましい。
【0076】
堆積された窒化物層の厚さは、有利には(後の使用に相応して)100nm〜100μmであり、その際、層厚は、200nm〜20μmの範囲であることが特に好ましく、そして500nm〜5μmの厚さを有する層が殊に好ましい。
【0077】
それがシリコンカーバイド層上のGaN/AlNからなる層構造である場合に、1010cm-2以下の貫通転位密度が、有利には106〜1010cm-2の範囲の貫通転位密度が達成されうる。
【0078】
また本発明の課題は、半導体材料からなる基板であってその上に第二の半導体材料からなる層が存在する基板と、更に不純物原子で富化された領域であって、第二の半導体材料からなる層中か又は第二の半導体材料からなる層と基板との間の境界面より規定の深度だけ下方に存在する領域と、更に不純物原子で富化された領域内部に、イオン注入によって作製された空洞を含む層と、更に第二の半導体材料からなる層上に堆積された少なくとも1層のエピタキシャル層と、空洞を含む層内の転位及び積層欠陥からの欠陥領域とを含む半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層が十分に亀裂を含まず、かつ少なくとも1層のエピタキシャル層の残留応力が1GPa以下である半導体層構造によって解決される。
【0079】
この場合に、本発明の範囲では、亀裂とは、少なくとも1層のエピタキシャル層の応力誘導性破断を表し、その際、この破断は基板にまで至ることがある。
【0080】
かかる亀裂は、光学顕微鏡法、走査型電子顕微鏡法、走査型原子間力顕微鏡法又はX線トポグラフィー法によって確認することができる。
【0081】
有利には、少なくとも1層のエピタキシャル層の残留応力は、370MPa以下である。
【0082】
少なくとも1層のエピタキシャル層の粗度は、有利には7.0nmRMS以下、特に有利には0.5〜2.0nmRMSである。
【0083】
半導体材料からなる基板は、有利には単結晶シリコンからなるウェハである。
【0084】
またSOIウェハを基板として準備することも好ましい。
【0085】
更にまた、接合法により製造された半導体ウェハも基板として好ましい。
【0086】
しかしながら、該基板は、多結晶半導体材料も含んでよい。
【0087】
しかしながら、それはシリコン層、シリコン−ゲルマニウム層又はゲルマニウム層を含む基板であってもよい。
【0088】
不純物原子で富化された領域は、有利には酸素、窒素又は炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子で富化されている。
【0089】
不純物原子で富化された領域内部の空洞を含む層は、有利には軽ガスイオンの注入によって作製されている。
【0090】
注入されるガスイオンは、水素イオンであることが好ましい。
【0091】
また、注入されるガスイオンは、ヘリウムイオン、ネオンイオン及びアルゴンイオンの群から選択される1種又は複数種の原子種の希ガスイオンである。
【0092】
更にまた、空洞を、ヘリウムイオン、ネオンイオン及びアルゴンイオンの群から選択される1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入を組み合わせることによって作製することも好ましい。
【0093】
例えば、空洞は、ヘリウムイオンの注入と、ネオンイオン又はアルゴンイオンの追加的な注入とによって作製されていてよい。また相応のガス混合物も、空洞の作製のために考慮できる。
【0094】
しかしながらまた、水素イオン注入と、ヘリウムイオン、ネオンイオン及びアルゴンイオンの群から選択される1種又は複数種の原子種の希ガスイオン注入とを組み合わせることによって空洞を作製することも好ましい。
【0095】
例としては、ここでは、水素注入された空洞とヘリウム注入された空洞との組合せも挙げられる。
【0096】
基板上に存在する、第二の半導体材料からなる層は、単結晶シリコンからなる基板上の、有利には単結晶シリコンカーバイド層、特に有利にはイオンビーム合成によるシリコンカーバイドである。
【0097】
シリコンカーバイドの格子定数の相対膨張率(relative Dehnung)は、このシリコンカーバイド層中では0.2%未満であり、これはシリコンカーバイド層の残留応力1GPa未満に相当する。
【0098】
少なくとも1層の、シリコンカーバイド層上に堆積されたエピタキシャル層の残留応力は、その際、370MPa以下である。
【0099】
従って、本発明は、単結晶シリコンからなる基板上のイオンビーム合成によるシリコンカーバイドからなる層を含む半導体層構造であって、高解像度X線回折によって測定された該層中のシリコンカーバイドの格子定数の相対膨張率が0.2%以下である半導体層構造にも関する。
【0100】
格子定数及びその相対膨張率は、この場合に例えば高解像度X線回折(HR−XRD)によって測定される。歪みのない値に対して測定された格子定数についての変位は、半導体材料の弾性特性、従って弾性率によって換算することによって、該材料の残留応力について示される値となる。
【0101】
基板上に存在する、第二の半導体材料からなる層は、多結晶シリコンカーバイド上の単結晶シリコンカーバイド層からなる層構造であってよい。
【0102】
半導体層構造上の少なくとも1層のエピタキシャル層は、有利には、基板の半導体材料にとは明らかに異なる熱膨張係数、すなわちそれより高い熱膨張係数を有する半導体材料を含む。
【0103】
有利には、第一のエピタキシャル層は、窒化物化合物半導体を含む。半導体層構造上に、窒化物化合物半導体を含む第二のエピタキシャル層が施与されていることが好ましい。第一のエピタキシャル層は、有利には窒化アルミニウムを含み、第二のエピタキシャル層は、有利には窒化ガリウムを含む。
【0104】
かかる半導体層構造上に、賦活化により0.1〜7.0eVのエネルギーの光を発するオプトエレクトロニクス半導体素子を製造することができる。
【0105】
該基板上に存在する、第二の半導体材料からなる層の場合には、SiGe層又は最上層がSiGe層である層構造であることも好ましい。エピタキシャル層は、前記の場合に、有利にはそのSiGe層又はそのSiGeを含む層構造上に施与されているエピタキシャルシリコン層である。
【0106】
本発明による方法及び本発明による半導体層構造を、以下に、特に有利な実施態様で、かつ3C−SiCをシリコン上に含む半導体層構造の場合について説明すべきである。
【0107】
本発明による方法は、100nm〜100μm厚、従って例えば2.5μm厚である比較的厚く亀裂を含まない層であって、例えば高い熱膨張係数を有するAlxGa1-xNを含む層を、低い熱膨張係数を有するイオンビーム合成による半導体層構造上に、例えばシリコン上の3C−シリコンカーバイド上に、有機金属気相堆積(MOCVD)に典型的な約1100℃の高い温度で堆積させるのに特により適していることが明らかになった。
【0108】
本発明の範囲では、イオンビーム合成による半導体層構造への欠陥構造の導入が、窒化物化合物半導体の後の亀裂及び応力のない堆積のために好ましいことが確認された。
【0109】
このためには、3C−SiC−Si半導体層構造中に、軽ガスイオン、例えば水素、ヘリウム、ネオン又はアルゴン(又はそれらの組合せも)の注入によって欠陥富化領域を、3C−SiCとシリコンとの間の境界面の若干下で、従って有利にはその境界面の0〜500nm下方の深部区域で作製し、それがガス充填された気泡もしくは空洞からなり、かつ場合により付加的に前記気泡もしくは空洞の間の転位ネットワーク及び積層欠陥からなることが好ましい。上述の注入は、同様に3C−SiC層中でのみ行うことができ、これは前記境界面より上に欠陥に付随する空洞構造をもたらす。
【0110】
この欠陥構造により、後により高い熱膨張係数を有する材料を高温で(従って少なくとも600℃〜最大でシリコンの融点の若干下で)成長させることで、シリコン基板の上部の冷却工程の間に熱的応力を可塑的に緩和することができ、そこでは気泡もしくは空洞の間に転位及び積層欠陥が形成され、かつ/又は前記空洞中にシリコンが封入される。
【0111】
とりわけ、転位及び積層欠陥の形成並びに空洞中のシリコンの封入により、層構造上に施与された1層もしくは複数の層の引っ張り応力は、冷却過程に際して動的に減衰され、そして層構造の表面近隣領域によって吸収されることとなる。
【0112】
先行技術において既に知られた問題は、III−V族半導体層のMOCVD堆積に際して存在する典型的な成長速度(一般に1μm/h)と、それと高温での長い工程時間であるが、それはイオン注入によって製造される空洞がオストワルド成長の現象の影響下にあり、小さな空洞が空孔拡散によって粗大化するためである。これは、前記空洞の密度の経時的な低下をまねく。それと共に、転位の形成は、その転位のエネルギーがその線形膨張とともに増大するためエネルギー的に不利であり、このことにより、転位はもはや形成されず、かつ緩和効果がもはや存在しなくなる。
【0113】
Donnelly他著、Nuclear Instruments and Methods B 175−177(2001)/132−139から、例えば炭素又は酸素を、後に気泡からなる欠陥領域をヘリウム注入に引き続き熱処理によって作製する領域に注入することによって、オストワルド成長の現象もしくは小さい気泡を一体化してより大きな空洞となることを弱めることができることは既に知られていた。このことは、特に空洞を安定化して、金属不純物のゲッタリングを最適化するために試みられていた。
【0114】
本発明の範囲では、イオン注入によってシリコン中に作製された空洞を、酸素イオン、窒素イオン又は炭素イオンの注入又はこれらのイオン種の注入の組み合わせによって、高温でさえも、特にDonnellyによって考慮された900℃と30分という時間範囲と温度範囲より広い範囲でさえも安定化できることが確認された。
【0115】
この場合に、不純物原子は、イオン注入によって、ヘリウム気泡の作製後にも当該深部領域に導入することができる。
【0116】
特に、それにより空洞のより大きな面密度と、ひいては緩和する欠陥構造のより大きな密度とが実現でき、それにより堆積された層の十分な緩和を達成することができる。このことは初めて、シリコンとは大きく異なる熱膨張係数を有する半導体のエピタキシャル層の堆積を可能にする。
【0117】
特に、高密度の空洞によって、その間の距離を、転位及び積層欠陥からの欠陥構造が、約600℃の低い温度までこれらの空洞間に形成されうるほどエネルギー的に有利となるまで縮めることができる。従って、半導体層構造上のエピタキシャル層の動的緩和が可能である。
【0118】
空洞が存在しないか、あるいは空洞の密度が低いのであれば、2つの空洞間の距離は大きく、従って転位及び積層欠陥は、これらの欠陥のエネルギーがその膨張に依存するためエネルギー的に不利である。従って、安定な高密度の空洞を作製することが試みられる。
【0119】
特に、これらの空洞は熱的に安定でなくてははらず、従って25〜1250℃の温度の範囲では一体化せず、断熱層を断熱層形成する必要がある。
【0120】
空洞は、更に、更なる素子関連の方法工程を可能にするために機械的に安定でなければならない。当業者には、空洞の熱安定性は、より高いもしくはより低い酸素注入ドーズ量によって更に高めるあるいは低くすることができると知られている。
【0121】
特に、MOCVDでの典型的な堆積時間及び温度は、不純物ゲッタリングに相応するパラメーターより高いことを指摘する。
【0122】
実験的に、不純物原子の後注入は、空洞の安定化のために前注入より好ましいことが確認された。前注入は、それ以外が同じパラメータであっても、後注入と比較して、基板の層構造の一部にブリスター、従って剥離をもたらす。従って、不純物原子の後注入によって、より高い空洞密度、ひいては緩和する欠陥のより高い密度を達成することができる。
【0123】
発明者は、安定化効果が、一方で、強力なSi−O結合又はSi−C結合の形成に起因することを認識しており、膨張した空洞の変更のためにまずはそれを開かねばならない。他方で、不純物原子注入によって、ヘリウムと空孔複合体の拡散性が低下し、これはヘリウム気泡もしくは空洞のオストワルド成長を強く制限する。
【0124】
これにより、空洞の密度は、高い温度で長時間にわたってさえ、従って数時間及び1050℃以上の温度でも大きく、所望な可塑的な緩和のための転位の形成は、エネルギー的に有利なままである。
【0125】
従って、イオンビーム合成による層構造の作製と、出発基板内での高温安定性の欠陥領域の提供との組み合わせは、大きく異なる熱膨張係数を有する半導体層もしくは半導体層構造の堆積のために理想的な基板をもたらす。
【0126】
イオンビーム合成による半導体層構造は、イオンを基板の規定の深度に注入し、次いでこれを熱処理し、それにより基板中に埋設された単結晶層を、そして単結晶層の上方と下方とに遷移領域を形成し、引き続き上部基板層並びに単結晶層上に存在する遷移領域を除去して、それにより単結晶層を露出させることにより製造することができる。
【0127】
所望のイオン種を相応の条件でイオン注入することによって、まず基板原子と注入されたイオンとから意図した化合物の小さなエピタキシャル微結晶を作製する。熱処理工程において、この微結晶を一体として、関連した単結晶層を形成する。
【0128】
例としては、ここでは、シリコン中に埋設された3C−SiC層を、シリコン基板中に炭素イオンを注入することによって製造することが挙げられる。
【0129】
作製された化合物半導体層を表面にするために、後続工程で、基板上層並びに単結晶層上にある遷移領域を除去する。このために、有利には化学的エッチング処理が実施される。しかしながら、選択的に、前記層は、酸化に引き続き形成された酸化物を化学的に除去することによって、又はポリシングによって、又は反応性イオンエッチングもしくはプラズマエッチングによって露出させることができる。
【0130】
場合により引き続き、露出した単結晶層の表面を、化学機械的に又は熱処理工程によって高温で、一般に5nmRMS又はそれ未満の表面粗度までに平滑化してよい。
【0131】
1nmRMS又はそれ未満のRMS粗度が好ましく、0.5nmRMS又はそれ未満が特に好ましい。
【0132】
表面の平滑化のための更なる手法は、イオンビーム又はクラスターイオンビームを使用することが提供される。
【0133】
このイオンビーム合成による半導体層構造中にここで転位及び積層欠陥からの熱安定な欠陥構造を作製するために、まず炭素イオン、酸素イオン又は窒素イオン又はそれらの組み合わせを、高くとも5×1017cm-2のドーズ量で、作製された半導体層構造中に注入する。
【0134】
その際に、イオンエネルギーは、注入プロファイルの最大値が、基板とイオンビーム合成による層との間の境界面の若干下、すなわち一般的にその数十nm下となるように選択される。
【0135】
しかしながら注入エネルギーは、注入最大値が、イオンビーム合成による層内にあるように選択することもできる。
【0136】
更に、注入に際しての温度は、半導体層構造のアモルファス化をもたらさないように、従って主に点欠陥のみが生ずるように選択すべきである。純粋シリコンの場合に、従ってその温度は、一般に130℃より高い温度が選択されるので、ここではイオンビームに誘導されるアモルファス化はもはや生じない。
【0137】
更に、注入された水素もしくは希ガスの激しすぎる拡散は、その温度によって制限されるべきであり、従って注入は800℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0138】
注入温度は、有利には130〜800℃であり、その際、250〜500℃の注入温度が特に好ましい。
【0139】
注入温度の選択によって、空洞は既に注入の間に形成するか、又は後の熱処理工程で初めて形成するかに影響を及ぼすことができる。小さい平均空洞直径を有する薄い空洞分布を達成するために、より高い注入温度(〜400℃)が好ましいと見なされる。
【0140】
後続のイオン注入工程において、次いで空洞は、有利には軽ガスイオンの注入によって、例えば水素イオン、ヘリウムイオン、ネオンイオン又はアルゴンイオンの注入によって又は前記の原子種のイオン注入の組み合わせによって形成され、これは、後にシリコン中に圧縮応力の形成をもたらし、かつ転位の形成をもたらしうる。
【0141】
注入エネルギーは、有利には、空洞の最大密度が、酸素、炭素又は窒素の注入工程の注入プロファイルの最大値以内にあるように選択される。
【0142】
引き続きの熱処理工程は、第一に、より大きな空洞の形成をもたらすのと同時に、注入された酸素原子、炭素原子又は窒素原子と基板との化合物形成によって、例えばシリコンの場合に、Si−O−結合、Si−C−結合又はSi−N−結合をもたらし、これは形成された空洞の熱活性化による拡散的サイズ粗大化を強く阻害する。
【0143】
それにより、オストワルド成長の過程は抑えられ、従って空洞の密度低下が抑えられる。
【0144】
従って、イオンビーム合成による層と元の基板との間の境界面より下方に数ナノメートルの比較的小さな空洞を高い密度で有する半導体層構造が得られる。更に、高い密度の別の欠陥がこの位置に存在し、これは格子間の欠陥集合体と転位の形成を促す。
【0145】
その際、この半導体層構造上に、出発基板(及び従って全体の作製された半導体層構造)の半導体材料とは大きく異なる熱膨張率を有する半導体材料からなる層又は層系を、少なくとも600℃の温度で堆積させて、層構造の冷却に際して、不純物原子によって達成された安定化に基づきなおも多数かつ高密度で存在する空洞の間の欠陥富化領域において転位及び積層欠陥が形成される。
【0146】
堆積された半導体層構造は、可塑的な変形によって、基板の定義された領域で、すなわち空洞並びに欠陥構造を含む基板の領域で弾性的に緩和する。従って、冷却工程の間に、後に堆積される層系において応力は動的に減衰され、かつ半導体層構造上に堆積される層の破断を妨げる。
【0147】
この工程によって、また貫通転位("threading dislocation")の形成も低下して、堆積された層もしくは層構造における層緩和が生じるのは、緩和に必要な数の転位が大きく低減されているからである。
【0148】
可能な別形は、空洞を安定化する不純物原子の導入と空洞自体の作製、もしくはその核の作製のための注入工程の順序に関するものである。
【0149】
不純物原子との化合物形成による空洞の安定化は、後に高温処理工程において初めて行われるので、その順序はここでは任意に選択することができる。
【0150】
更なる選択的な実施態様では、更なる層もしくは層構造の堆積が少なくとも600℃の温度で行われる場合に、熱安定性の空洞構造の作製後の別個の熱処理を省くことができる。この場合に、空洞の作製及び不動態化は、層もしくは層構造の堆積と一緒に行うことができる。
【0151】
本発明の更なる別形は、空洞の安定化に必要な不純物原子の提供に関する。出発基板がそれ自体、既に、酸素、炭素、窒素又はこれらの元素と基板との化合物の群から選択されるかかる不純物原子を含むのであれば、有利にはこの不純物原子が、イオンビーム合成による層と基板との間の境界面の後方に多数存在している場合には、これらの元素の注入は省かれる。
【0152】
この場合に、不純物原子は、基板中に固溶化されていても、かつ/又はこれらの不純物原子を含む化合物の析出物で存在してもよい。
【0153】
更に、記載された方法は、例えばIII−V族半導体の大型の実現のための基板を製造することを可能にするが、それは該方法が出発基板の大きさとは無関係であり、従ってこの基板の使用可能性にのみ依存しているからである。特に、ここで通常のシリコンウェハ直径として100mm、150mm、200mm、300mmが挙げられるが、その際、450mmウェハは目下開発段階にある。
【0154】
先行技術では、それに対して潜在的な基板は合成法によって、サファイアについては最大200mmの直径に、もしくは6H−SiC又は4H−SiCについては100mmに制限されている。
【0155】
また、短時間の所要工程時間が特に好ましく、それは緩和に必要な注入ドーズ量が最大で少なくとも1017cm-2の範囲にあり、熱による後処理工程は非常に短く(数秒の範囲)選択できるか、又は後続の処理に依存して完全に省くことができるからである。
【0156】
本発明による半導体層構造は、特にコスト的に有利な発光ダイオード(LED)の実現のために、特にIII−V族半導体、例えばGaN又はInGaNを基礎とする発光ダイオードの実現のために適しており、かつショットキーダイオード、高周波素子及び高性能素子、例えば高電子移動度トランジスタ(HEMTS)であって、とりわけIII−V族半導体、例えばAlN及びGaN並びにSiCを基礎とするものの製造のために適している。
【0157】
以下に本発明の対象を、実施例と図1〜4をもとに説明する。
【0158】
図1の基板1は、例えば単結晶(111)方位シリコンである。
【0159】
高ドーズ炭素イオン注入(エネルギーE=180keV、ドーズ量D=6.75×1017cm-2、温度T=550℃)によって、埋設された約150nm厚の層2を作製し、該層を、更なるヘリウムイオンによるアモルファス化注入(50keV、D=8.0×1016/cm2、0℃)によって、かつ1:5のHF:HNO3からなる溶液中での化学的エッチングによって露出させる。それにより、約70nm厚のイオンビーム合成による3C−SiC層2が生じ、それは基板1の表面にある。
【0160】
引き続き、400℃の温度で、He+イオンを22keVのエネルギー及び2×1016/cm2のドーズ量で、今までまだ不純物原子を有さなかった領域3に注入する。
【0161】
引き続き直接、同様に400℃の温度で5×1014/cm2のO+イオンの注入をエネルギー85keVで、イオンビーム合成による層2と基板1との間の境界面の数nmから数十nm下方に存在する領域3に行う。
【0162】
それによって、定義された深部領域において、空洞もしくは後の空洞の成長用の核を有する層4が形成し、その際、空洞の最大密度は、最大酸素濃度とほぼ一致する。
【0163】
この半導体層構造上に、次いでMOCVDによって温度1100℃でまず150nm厚の窒化アルミニウム(AlN)からなる層6を堆積させる。
【0164】
温度を1080℃に下げた後に、前駆物質であるテトラエチルガリウムとアンモニアから、窒化ガリウム(GaN)からなる3μm厚の層7が成長する。成長速度は、約1μm/hであるので、全工程は約3時間行った。
【0165】
層の冷却後に、堆積された層は、十分に応力を伴わず、かつ特に亀裂を示さない。これは、空洞4と転位5からの欠陥構造の形成によりもたらされ、その欠陥構造が、基板1と窒化物含有の層6及び7との間の可塑的な緩和を可能にするため層構造における応力を動的に減衰する。このことは、作製された空洞の範囲に基板の側部貫通亀裂(Durchreissen)をもたらさずに起こる。生ずる半導体層構造を、図3に示す。
【0166】
前記方法の別形は、図2に示されるような不純物原子含有層8を有する半導体層構造の使用である。この場合に、酸素注入は省くことができる。空洞は、単にヘリウム注入によって作製され、それは次いで有利には析出物に対して形成される。このエネルギー的に有利な構成は、同様に十分に温度安定性である。
【0167】
引き続き、再び150nm厚の、AlNからなる層6を、そして引き続き3μm厚の、GaNからなる層7を、MOCVDによって成長させる。冷却に際して、その際に再び空洞及び転位から欠陥構造が形成し、そしてそれは異なる熱膨張係数によって制限される層応力を動的に受け止める。得られた層構造を、図4に示す。
【0168】
その代わりに、上述の実施例において、空洞の固定化を、MOCVD堆積前の熱処理工程において、空洞の表面を理想的には不純物原子結合で、この場合にSi−O結合で覆うことによって最適化することができる。かかる方法工程の必要性は、MOCVD堆積の工程時間と温度とに依存するが、それはこれらのパラメータが、空洞もしくはガス充填された気泡のオストワルド成長の動力学を決めるからである。特に、かかる方法工程は、特に長い堆積(>2時間)で高い温度(>1000℃)で行うことが好ましい。とりわけ、ここでは、温度条件は、十分に多くの安定化結合を形成するが、空洞のオストワルド成長が十分に起こらないように選択することができる。
【0169】
更なる別形は、例えば前記に説明した3C−SiC層系の使用に関するものである。この場合に、基板1において、イオンビーム合成による層2の下方に、一般に境界面の0nm〜200nm下方の深部領域に多数の3C−SiC析出物が存在する。従ってこの領域は、高い密度の十分に方位差を有する3C−SiC析出物を有するシリコンマトリクスからなる。
【0170】
ヘリウム注入による空洞の形成と、それに引き続く高温処理に際して、空洞は、この析出物と十分に付加され、またそれにより熱的に固定化されることが明らかとなる。その原因となるのは、一方で、共通の境界面によって、シリコン基板に対する全界面エネルギーが低下する可能性であり、そして他方で、Si−Cの空洞表面での形成である。しかしながら、酸素の更なる注入による固定化効果は更に強化できるので、なおもより強い緩和を達成することができることが明らかとなった。かかる注入工程の必要性は、従って、その都度の使用のために望まれる堆積された層の緩和度からその都度もたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、基板1と厚さd1を有する層2を含む半導体層構造を示している
【図2】図2は、基板1と、厚さd1を有する層2と、規定の不純物原子密度もしくは規定の不純物原子含有析出密度を有する領域8とを含む半導体層構造を示している
【図3】図3は、基板1と、厚さd1の層2と、深度t1に厚さd2を有する不純物原子注入された層3と、空洞もしくは空洞用の核を含む層4と、基板材料とは大きく異なる熱膨張係数を有する厚さd3の更なる層6と及び厚さd4の層7とを含み、転位及び積層欠陥を含む層5に導く半導体層構造を示している
【図4】図4は、基板1と、厚さd1の層2と、規定の不純物原子密度もしくは規定の不純物原子含有析出密度を有する領域8と、深度t1に厚さd2を有するその不純物原子を含む層3と、空洞もしくは空洞用の核を含む層4と、基板材料とは大きく異なる熱膨張係数を有する厚さd3の層6及び厚さd4の層7と、転位を含む層5とを含む半導体層構造を示している
【符号の説明】
【0172】
1 基板、 2 第二の半導体材料からなる層、 3 不純物原子で富化された領域、 4 空洞を含む層、 5 欠陥領域、 6 エピタキシャル層、 7 更なるエピタキシャル層、 8 不純物原子含有層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層構造の製造方法において:
a)半導体材料からなる基板(1)を準備する工程;
b)前記基板(1)上に第二の半導体材料からなる層(2)を施与して、半導体層構造を作製する工程;
c)該半導体層構造中に軽ガスイオンを注入して、その半導体層構造中に空洞を含む層(4)を作製する工程;
d)前記空洞を規定種の不純物原子によって安定化する工程;
e)該半導体層構造上に少なくとも1層のエピタキシャル層(6)を施与する工程
を含む製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、工程a)で準備される基板(1)が単結晶シリコンからなるウェハであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、工程a)で準備される基板(1)がSOIウェハであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、工程a)で準備される基板(1)が、接合法で製造された半導体ウェハであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、工程a)で準備される基板(1)が多結晶半導体材料からなる基板であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、工程a)で準備される基板(1)が、シリコン層、シリコン−ゲルマニウム層又はゲルマニウム層を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法において、工程b)で施与される層(2)が単結晶シリコンカーバイド層であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法において、工程b)で施与される層(2)が、高いSiC析出密度の領域と単結晶シリコンカーバイド層を含む層構造であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法において、工程e)で施与される少なくとも1層のエピタキシャル層(6)が、基板(1)の半導体材料とは明らかに異なる熱膨張係数を有する半導体材料であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、工程e)で施与される少なくとも1層のエピタキシャル層(6)が窒化物化合物半導体を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法において、工程b)で施与される層(2)が、シリコン−ゲルマニウム層又はシリコン−ゲルマニウム層を含む層構造であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、工程e)で施与される少なくとも1層のエピタキシャル層(6)がエピタキシャルシリコン層であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法において、工程c)における軽ガスイオンの注入が、水素イオンの注入;1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入;水素イオンの注入と1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入との組み合わせの群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、希ガスイオンが、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13又は14記載の方法において、注入エネルギーを、工程c)において半導体層構造中に作製される空洞を含む層(4)が、施与された層(2)と基板(1)との間の境界面より下方に存在するように選択することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項13又は14記載の方法において、工程c)において半導体層構造中に作製される空洞を含む層(4)が、施与された層(2)の下方に存在することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1から16までのいずれか1項記載の方法において、工程d)での不純物原子による空洞の安定化のために、酸素、窒素及び炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子を半導体層構造中に注入することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、更に、工程d)において、半導体の熱処理を少なくとも600℃の温度で実施することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1から18までのいずれか1項記載の方法において、工程b)における層(2)の施与を化学的気相堆積によって実施することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1から18までのいずれか1項記載の方法において、工程b)における層(2)の施与を分子ビームエピタキシーによって実施することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1から18までのいずれか1項記載の方法において、工程b)における層(2)の施与をイオンビーム合成によって実施することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、イオンを基板(1)の規定の深度に注入し、次いでこれを熱処理し、それにより基板(1)中に埋設された単結晶層(2)が、そしてその単結晶層の上方及び下方に遷移領域が形成され、引き続き上部基板層と単結晶層(2)上にある遷移領域とを除去し、それにより単結晶層(2)を露出させることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、露出された単結晶層(2)の表面を引き続き化学機械的に平坦化することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22又は23記載の方法において、使用される基板(1)がシリコンウェハであり、注入されるイオンが炭素イオンであり、かつ作製される単結晶層(2)がシリコンカーバイド層であることを特徴とする方法。
【請求項25】
半導体材料からなる基板であってその上に第二の半導体材料からなる層(2)が存在する基板(1)と、更に不純物原子で富化された領域であって層(2)中か又は層(2)と基板(1)との間の境界面より下方の規定の深度のいずれかに存在する領域(3)と、更に不純物原子で富化された領域(3)の内部にある層であってイオン注入によって作製された空洞を含む層(4)と、更に少なくとも1層のエピタキシャル層であって層(2)上に施与されている層(6)と、空洞を含む層(4)の内部にある転位及び積層欠陥からなる欠陥領域(5)と、を含む半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)が十分に亀裂を有さず、かつ少なくとも1層のエピタキシャル層(6)の残留応力が1GPa以下である半導体層構造。
【請求項26】
請求項25記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)の残留応力が370MPa以下であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項27】
請求項25又は26記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)の粗度が0.5〜7.0nmRMSである半導体層構造。
【請求項28】
請求項27記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)の粗度が0.5〜2.0nmRMSである半導体層構造。
【請求項29】
請求項25から28までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、基板(1)が単結晶シリコンからなるウェハであることを特徴とする半導体層構造。
【請求項30】
請求項25から28までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、基板(1)がSOIウェハであることを特徴とする半導体層構造。
【請求項31】
請求項25から28までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、基板(1)が、結合法によって製造される半導体ウェハであることを特徴とする半導体層構造。
【請求項32】
請求項25から28までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、基板(1)が多結晶半導体材料からなる基板であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項33】
請求項25から28までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、基板(1)が、シリコン層、シリコン−ゲルマニウム層又はゲルマニウム層を含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項34】
請求項25から33までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、領域(3)が、酸素、窒素又は炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子で富化されていることを特徴とする半導体層構造。
【請求項35】
請求項25から34までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、層(4)が、水素イオンの注入、1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入、水素イオンの注入と1種又は複数種の原子種の希ガスイオンの注入との組み合わせの群から選択される軽ガスイオンの注入によって作製された空洞を含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項36】
請求項35記載の半導体層構造であって、希ガスイオンが、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの群から選択されることを特徴とする半導体層構造。
【請求項37】
請求項25から36までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、層(2)が単結晶シリコンカーバイド層であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項38】
請求項25から36までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、層(2)が、高いSiC析出密度の領域と単結晶シリコンカーバイド層を含む層構造であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項39】
請求項37から38までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)が、基板(1)の半導体材料とは明らかに異なる熱膨張係数を有する半導体材料を含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項40】
請求項39記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)が窒化物化合物半導体を含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項41】
請求項40記載の半導体層構造であって、半導体層構造上に、窒化物化合物半導体を含む更なるエピタキシャル層(7)が施与されていることを特徴とする半導体層構造。
【請求項42】
請求項41記載の半導体層構造であって、層(6)が窒化アルミニウムを含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項43】
請求項42記載の半導体層構造であって、層(7)が窒化ガリウムを含むことを特徴とする半導体層構造。
【請求項44】
請求項25から36までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、層(2)が、シリコン−ゲルマニウム層又はシリコン−ゲルマニウム層を含む層構造であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項45】
請求項44記載の半導体層構造であって、少なくとも1層のエピタキシャル層(6)がエピタキシャルシリコン層であることを特徴とする半導体層構造。
【請求項46】
単結晶シリコンからなる基板(1)上にイオンビーム合成によるシリコンカーバイドからなる層(2)を含む半導体層構造であって、高解像度X線回折によって測定される層(2)中のシリコンカーバイドの格子定数の相対膨張率が0.2%以下である半導体層構造。
【請求項47】
請求項46記載の半導体層構造であって、基板(1)が、100mm以上の直径を有する半導体層構造。
【請求項48】
請求項46記載の半導体層構造であって、シリコンカーバイドからなる層(2)が、基板(1)の表面より下方に存在する半導体層構造。
【請求項49】
単結晶シリコンからなる基板(1)上にあるシリコンカーバイドからなる層(2)と、層(2)の中又はその下方にある転位を含む欠陥領域(5)と、空洞を含む層(4)と、を含む半導体層構造であって、それらの空洞が、酸素、窒素及び炭素の群から選択される不純物原子を含む半導体層構造。
【請求項50】
請求項49記載の半導体層構造であって、それらの空洞を含む層(4)が、イオン注入に引き続いて熱処理を行うことによって作製された半導体層構造。
【請求項51】
請求項49又は50記載の半導体層構造であって、それらの空洞を含む層(4)が、25〜1250℃の温度での熱開裂に対して抵抗性がある半導体層構造。
【請求項52】
請求項49から51までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、層(2)がイオンビーム合成によるシリコンカーバイドである半導体層構造。
【請求項53】
請求項49から52までのいずれか1項記載の半導体層構造であって、更に、層(2)上に堆積された窒化物化合物半導体を含む少なくとも1層のエピタキシャル層(6)を含む半導体層構造。
【請求項54】
請求項53記載の半導体層構造であって、更に、層(2)と窒化物化合物半導体を含む少なくとも1層のエピタキシャル層(6)との間に存在する1つ又は複数のエピタキシャル中間層を含む半導体層構造。
【請求項55】
窒化物化合物半導体を含む少なくとも1層の単結晶エピタキシャル層(6)と、単結晶シリコンカーバイドからなる層(2)と、層(2)の中又はその下方にある層であってイオン注入によって作製された空洞を含む層(4)と、を含む半導体層構造であって、それらの空洞が、酸素、窒素及び炭素の群から選択される1種又は複数種の原子種の不純物原子を含む半導体層構造。
【請求項56】
請求項55記載の半導体層構造であって、層(4)が、25℃以上で1250℃以下の温度での熱開裂に対して抵抗性である半導体層構造。
【請求項57】
請求項55又は56記載の半導体層構造であって、空洞が、イオン注入に引き続いて熱処理を行うことによって作製された半導体層構造。
【請求項58】
請求項46から57までのいずれか1項記載の半導体層構造上に作製された半導体素子。
【請求項59】
請求項58記載の半導体素子であって、賦活化により0.1eV以上で7eV以下のエネルギーの光を放出する半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−208268(P2007−208268A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24520(P2007−24520)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】