説明

半導体装置、電力変換装置及び半導体装置の製造方法

【課題】RCスナバ回路の抵抗Rの値を任意に設計可能な半導体スナバ回路を用いた半導体装置、電力変換装置、半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ユニポーラ動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換用の還流ダイオードを含む半導体装置、この半導体装置を用いた電力変換装置、更には、この半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力エネルギの変換手段の1つとして、インバータ等の電力変換装置が一般に使用されている。電力変換装置は、MOSFETやIGBT等のスイッチング素子や還流ダイオードなどの電力用の半導体装置を、用途や電力の大きさに応じた組み合わせで構成されている。電力変換装置には高い効率で安定した動作が求められるため、その構成要素である半導体装置には、スイッチング素子及び還流ダイオードのいずれにおいても、低損失で且つ誤動作等が起こりにくい安定動作が求められる。
【0003】
還流ダイオードの動作によって発生する損失は主に2つあり、1つは順バイアスにより導通している際にダイオード内の電圧降下によって生じる導通損失であり、もう1つは導通状態から逆バイアスにより遮断状態に移行する逆回復動作時に生じる逆回復損失がある。逆回復損失は、導通によって還流ダイオードの素子内部に遮断状態に比べて蓄積されている過剰キャリアが、遮断状態へと移行する際の消滅過程において逆回復電流として過渡的に流れることで発生する。そのため、逆回復損失は、逆回復動作直前の過剰キャリアの量や逆回復動作時の過剰キャリアの消滅速度に依存する。
【0004】
逆回復損失を低減するために、過剰キャリアの量を低減する従来技術として、炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ユニポーラ動作をするショットキーバリアダイオードは、逆回復電流Irの成分が多数キャリアで構成されているため、過剰キャリアによる逆回復電流Irは大きく減るという利点はあるものの、逆回復電流Irの抵抗制限による逆回復時間tがほとんど制御できないため、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しない。この電流・電圧の振動現象は、サージ電圧による素子の破壊、振動動作中の損失の増大、周辺の回路の誤動作などを引き起こすため、安定動作の阻害要因となる欠点を有している。
【0006】
振動現象を抑制するために、バイポーラ動作の還流ダイオードにおいて、所定の容量を有するキャパシタを当該還流ダイオードに並列に接続した半導体装置が知られている(例えば特許文献2参照)。還流ダイオードの定格電流Iに対し不等式:

C/I<10(pF/A) ……(1)

を満たすキャパシタCを還流ダイオードに並列に接続することで還流ダイオードの逆回復損失を低減しつつ、逆回復動作時における振動現象の抑制を図るものである。
【0007】
このため、本発明者らは、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制するためには、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオードに、キャパシタC及び抵抗Rを1チップにモノリシックに集積化した半導体スナバ回路を形成することを検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−510000号公報
【特許文献2】特開2004−281462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、単一チップとしてモノリシックに集積化した半導体スナバ回路を形成する場合、所望の抵抗Rの値に応じて、抵抗の異なる半導体基体(ウエハ)が必要になるのでウエハコストが上昇する。又、モノリシックに集積化されているか否かを問わず、抵抗Rを導電材料で実現する場合、高いRを得るためには、例えば、多結晶シリコン層等の導電体薄膜を形成する場合、数十μm以上の厚さが必要であるので、製造コストが上昇する。更に、還流ダイオードとスイッチング素子とをモノリシックに集積化したい場合、スナバ領域の比抵抗を調整する必要があるので、抵抗R部を選択的にエピタキシャル成長させる必要が生じ、ウエハコストやプロセスコストが増大する問題がある。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑え、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を抑制することが容易に可能であって、且つ、所望の抵抗Rの値を任意に設計可能な還流ダイオードを含む半導体装置、この半導体装置を用いた電力変換装置、及び、この半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ユニポーラ動作をする還流ダイオードと、還流ダイオードに並列接続され、キャパシタ及び抵抗をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路とを備える半導体装置において、抵抗が、半導体スナバ回路の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含む。
【0012】
本発明の高抵抗層は、例えば、半導体基体へ、ボロン、アルミニウム又は遷移金属を導入し、熱処理を行うことによって形成することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置を示す回路図である。
【図2】図1の回路図を実現する、第1の実施の形態に係る半導体装置の実装図である。
【図3】図2に使用される還流ダイオードの断面図である。
【図4】図2に使用される、第1の実施の形態に係る半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図5】第1の実施の形態に係る半導体装置の他の回路図である。
【図6】図2に使用される、第1の実施の形態に係る他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図7】図4に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その1)。
【図8】図4に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その2)。
【図9】図4に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その3)。
【図10】図6に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その1)。
【図11】図6に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その2)。
【図12】図6に対応する半導体装置の製造方法を説明する図である(その3)。
【図13】図1の回路を用いた電力変換装置の回路図である。
【図14】図27の回路を用いた別の電力変換装置の回路図である。
【図15】第1の実施の形態に係る他の半導体装置を示す回路図である。
【図16】図1の回路図を実現する別の実装図である。
【図17】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図18】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図19】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図20】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図21】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図22】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図23】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図24】第1の実施の形態に係る更に他の半導体装置(半導体スナバ回路)の断面図である。
【図25】本発明の第1の実施の形態のキャパシタ容量に対する振動現象の計算結果である。
【図26】本発明の第1の実施の形態のキャパシタ容量比の最適値を示す特製図である。
【図27】本発明の第2の実施の形態を示す回路図である。
【図28】図27の回路図を実現する、第2の実施の形態に係る半導体装置の実装図である。
【図29】図28の絶縁基板に実装される第2の実施の形態に係るスイッチング素子の断面図である。
【図30】第2の実施形態に係る電力変換装置(Hブリッジ)の回路図である。
【図31】第3の実施の形態に係る半導体装置(還流ダイオード)の断面図である。
【図32】第3の実施の形態に係るスイッチング素子の断面図である。
【図33】第3の実施の形態に係る他のスイッチング素子の断面図である。
【図34】第3の実施の形態に係る更に他のスイッチング素子の断面図である。
【図35】第3の実施の形態に係る他の半導体装置(還流ダイオード)の断面図である。
【図36】第4の実施の形態に係る半導体装置の実装図である。
【図37】図36の絶縁基板に実装される第半導体チップ(スナバ内蔵還流ダイオード)の断面図である。
【図38】第4の実施の形態に係る他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の断面図である。
【図39】第5の実施の形態に係る半導体装置の実装図である。
【図40】図38に対応する半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の製造方法を説明する図である(その1)。
【図41】図38に対応する半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の製造方法を説明する図である(その2)。
【図42】図38に対応する半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の製造方法を説明する図である(その3)。
【図43】第4の実施の形態に係る他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の断面図である。
【図44】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の断面図である。
【図45】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)の断面図である。
【図46】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図47】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図48】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図49】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図50】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図51】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図52】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図53】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図54】第4の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵還流ダイオード)断面図である。
【図55】第5の実施の形態に係る半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図56】第5の実施の形態に係る他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図57】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図58】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図59】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図60】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図61】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図62】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【図63】第5の実施の形態に係る更に他の半導体装置(スナバ内蔵スイッチング素子)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の第1〜第5の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
又、以下に示す第1〜第5の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置は、図1に示すように、ユニポーラ動作(もしくはユニポーラ動作と同等の動作)をする還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210と抵抗220を含むように構成され、スナバ機能を有するように半導体チップで形成された半導体スナバ回路200とが、共にアノード端子300並びにカソード端子400に接続するように、並列接続された半導体装置である。なお、図1においては、半導体スナバ回路200の構成として、アノード端子300側にキャパシタ210が、カソード端子側に抵抗220が接続するような場合を示しているが、図5に示すように、アノード端子300側に抵抗220が、カソード端子側にキャパシタ210が接続していても良い。又、キャパシタ210と抵抗220は少なくとも直列接続していれば、複数の部位に分割されて形成されていても良いし、例えば交互に形成されていても良い。又、詳細は後述するが、例えば、pn接合ダイオードの構造であっても、導通時にp型領域から注入される過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することにより、ユニポーラ動作と同等の動作を行うため、このような「ユニポーラ動作と同等」の特性を有するダイオードについても、本発明で説明される「ユニポーラ動作するダイオード」に含まれるものとする。
【0018】
第1の実施の形態に係る半導体装置では、一例として、図2に示すように、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を別の半導体チップとして用意し、絶縁基板500上に、ハイブリッドに集積化した場合について説明する。絶縁基板500としては、例えばセラミック板などで形成された絶縁性を有し、且つ、支持体としての機能を有する基板であれば種々の基板が採用可能であり、有機系の種々な合成樹脂、セラミック、ガラス等の無機系の材料が使用可能である。有機系の樹脂材料としては、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が、使用可能で、又板状にする際の芯となる基材は、紙、ガラス布、ガラス基材などが使用される。無機系の基板材料として一般的なものはセラミックである。又、放熱特性を高めるものとして金属基板、透明な基板が必要な場合には、ガラスが用いられる。セラミック基板の素材としてはアルミナ(Al23)、ムライト(3Al23・2SiO2)、ベリリア(BeO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(SiC)等が使用可能である。更に、鉄、銅などの金属上に耐熱性の高いポリイミド系の樹脂板を積層して多層化した金属ベースの基板(金属絶縁基板)でも構わない。
【0019】
又、半導体スナバ回路200の構成としては、例えば、図1に示すように、キャパシタ210と抵抗220が直列接続した所謂RCスナバの構成とした場合について説明する。更に、半導体スナバ回路200は、例えば炭化珪素を半導体基体材料とし、且つ、アノード端子300とカソード端子400が互いに対面するように電極形成された、所謂縦型の半導体チップからなる場合について説明する。又、還流ダイオード100に関しては、例えば炭化珪素を半導体基体材料としたショットキーバリアダイオードの場合について説明する。ショットキーバリアダイオードについても、アノード端子300とカソード端子400が互いに対面するように電極形成された、所謂縦型のショットキーバリアダイオードを一例として説明する。
【0020】
図2においては、絶縁基板500上に、例えば銅やアルミニウムなどの金属材料からなるアノード側金属膜310とカソード側金属膜410が形成されている。カソード側金属膜410上には、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のそれぞれの半導体チップのカソード端子400が、例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のそれぞれの半導体チップのアノード端子300は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボンなどの金属配線320、330を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。
【0021】
図3に断面構造図を示すように、還流ダイオード100は、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型である基板領域10上にn型のドリフト領域11が形成された基板材料で構成されている。基板領域10としては、例えば抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域11としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものが採用可能で、例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μm程度とすれば、耐圧が600Vクラスのものが実現可能であるが、耐圧クラスは限定されるものではない。
【0022】
なお、図3では、半導体基体が、基板領域10とドリフト領域11の2層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の例にはよらない基板領域10のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に3層以上の多層の基板を使用してもかまわない。又、第1の実施の形態に係る還流ダイオード100においては、基板材料を炭化珪素で形成した場合について説明するが、シリコンやガリウム砒素など他の半導体材料で構成されていてもかまわない。
【0023】
図3に示すように、ドリフト領域11の表面には、表面電極13が設けられ、基板領域10の裏面には、基板領域10と接するように裏面電極14が形成されている。ここで、「ドリフト領域11の表面」とは、ドリフト領域11の基板領域10との接合面に対向する側の主面である。裏面電極14は、ドリフト領域11及び基板領域10を介して、表面電極13に対向して配置されたことになる。
【0024】
表面電極13は、ドリフト領域11との間にショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層もしくは多層の金属材料から構成されている。ショットキー障壁を形成する金属材料としては、例えば、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金などを用いることができる。又、表面電極13はアノード端子300として外部電極との接続をするために、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極14は基板領域10とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極14はカソード端子400として外部電極と接続をする。このように、図3に示す還流ダイオード100は、表面電極13がアノード電極、裏面電極14がカソード電極としたダイオードとして機能する。
【0025】
一方、図4に断面構造図を示すように、半導体スナバ回路200は、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型である基板領域10上にn型のドリフト領域11が形成されて、半導体基体を構成している。即ち、n型である基板領域10とn型のドリフト領域11とからなる半導体基体が形成されている。基板領域10としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域11としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができ、例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μm程度にすれば、耐圧が600Vクラスのものが実現可能であるが、耐圧クラスは任意に設計可能で、限定されるものではない。なお、図4では、半導体基体が、基板領域10とドリフト領域11の2層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域10のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に3層以上の多層の基板を使用してもかまわない。
【0026】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200においては、図4に示すように、半導体基体の所定領域に、半導体基体を構成する半導体材料よりも比抵抗の高い炭化珪素からなり、且つボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗層91が形成されている。図4では、半導体基体の材料を炭化珪素で形成した場合として説明するが、半導体基体は、シリコンやガリウム砒素など他の半導体材料で構成されていてもかまわない。
【0027】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200では、高抵抗層91に接するように、例えばシリコン酸化膜などの誘電体薄膜からなるキャパシタ誘電体領域12が形成されている。高抵抗層91、及びn型である基板領域10とn型のドリフト領域11は抵抗Rとして機能し、キャパシタ誘電体領域12はキャパシタCの容量や耐圧等の電気的特性を規定する。
【0028】
ここで、高抵抗層91に添加されているボロン又はアルミニウムは、ドーパントとして機能するのではなく、高抵抗層91中においてキャリアの捕獲中心を形成し、添加された領域中のキャリアをトラップする作用を有している。添加された領域中のキャリアが欠乏した結果、高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域11の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになる。なお、高抵抗層91の比抵抗は、ボロン又はアルミニウムの添加量によって変化させることが可能である。このように、抵抗Rを、基板領域10とドリフト領域11の比抵抗や厚さを変えることなく、高抵抗層91の比抵抗及び深さを変化させることによって、容易に必要な抵抗値を得ることができる。
【0029】
即ち、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200によれば、図4のような構成にすることによって、支持基体としてどのような半導体基体を用いても、抵抗Rが任意の抵抗値を有する半導体スナバ回路200を形成できるため、設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0030】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200においては、抵抗Rが、少なくとも還流ダイオード100に含まれる抵抗値よりも大きくなるように、高抵抗層91を形成する高抵抗材料の比抵抗を、例えば、10Ωcm、高抵抗層の厚さが1μm程度のものが採用可能である。なお、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200においては、基板領域10高抵抗層にボロンが添加されている場合を例にしているが、遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されていても良い。これらの不純物を添加することによっても、ボロンやアルミニウムを添加した場合と同様の作用・効果を得ることができる。
【0031】
又、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の高抵抗層92は、図6に示すようにアルゴンが添加された非晶質層もしくは多結晶層でも良い。非晶質層や多結晶層中のキャリアの移動度は、ドリフト領域11の移動度と比較して1/100以下の大きさであり、ボロンやアルミニウム、遷移金属を添加した場合と同様に、高い比抵抗を有する高抵抗層を得ることができる。又、図4や図6では、半導体基体の導電型をn型としているがp型でも勿論良い。
【0032】
又、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200のキャパシタ誘電体領域12については、必要な耐圧並びに必要なキャパシタCの容量の大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、キャパシタ誘電体領域12の破壊防止のため、還流ダイオード100よりも高いことが望ましい。又、キャパシタCの容量については、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に、ドリフト領域11のショットキー界面に生じる空乏層容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、充分なスナバ機能を発揮し、且つ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、後述する計算結果が示すように、概ね、空乏層容量の10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。例えば、還流ダイオード100よりも耐圧が高くなるように、キャパシタ誘電体領域12の厚みは、1μm程度とし、キャパシタCの容量が還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏層容量と同程度にすることが可能である。なお、キャパシタ誘電体領域12は、シリコン酸化膜以外の誘電体薄膜でも、所定の耐圧を有し、且つキャパシタCとして機能する誘電体薄膜であればどのような材料でも良い。
【0033】
図4に示すように、キャパシタ誘電体領域12に接するように表面電極13が設けられ、表面電極13に対向し、且つ基板領域10と接するように裏面電極14が形成されている。表面電極13はアノード端子300として外部電極と接続するように、例えば金属材料で形成されており、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いた単層、多層の構造としても良い。同様に、裏面電極14についても、カソード端子400として外部電極と接続するように、例えば金属材料で形成されており、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いた単層、多層の構造としても良い。このように、図4に示す半導体スナバ回路200は、表面電極13が図3に示す還流ダイオード100のアノード電極に、裏面電極14が図3に示す還流ダイオード100のカソード電極に、接続する半導体RCスナバとして機能する。
【0034】
[半導体装置の製造方法(第1の製造方法)]
次に、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の製造方法について、図7〜図9を用いて説明する。
【0035】
(a)先ず図7に示すように、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型である基板領域10上にn型のドリフト領域11を形成した炭化珪素半導体基体を用意する。基板領域10としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域11としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができる。
【0036】
(b)次に図8に示すように、n型のドリフト領域11にボロン、アルミニウム、又は遷移金属であるバナジウム、クロム、鉄、ニッケルのいずれかをイオン注入する。加速電圧Vaccとしては数十〜数百KeV、注入ドーズ量Φとしては、1×1012〜1×1016cm−3程度が適している。第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の製造方法においては、注入時の半導体基体の温度を室温で行っているが、半導体基体を加熱しながらイオン注入を行ってもかまわない。イオン注入後に熱処理を行い、高抵抗層91を形成する。前述のように、ドリフト領域11に注入されたボロン、アルミニウム、又は遷移金属であるバナジウム、クロム、鉄、ニッケルはキャリアの捕獲中心を形成し、添加された領域中のキャリアをトラップするため、添加された領域中のキャリアが欠乏し、高抵抗層が形成される。熱処理の温度としては、例えば800〜1700℃程度が適当である。
【0037】
(c)次に図9に示すように、高抵抗層91に接するように、例えばシリコン酸化膜などの誘電体薄膜からなるキャパシタ誘電体領域12を形成する。酸化膜に接するように表面電極13、n型である基板領域10に接するように裏面電極14を形成すれば、図4に示した半導体装置が完成する。
【0038】
[半導体装置の製造方法(第2の製造方法)]
なお、図6に示した半導体装置のように高抵抗層92を非晶質層又は多結晶層を用いて製造する場合は、図10〜図12に示すような製造方法が適用できる。
【0039】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の他の製造方法(第2の製造方法)は、基本的には図7〜図9の製造方法(第1の製造方法)と同じであるが、高抵抗層91を形成する際に、図11に示すように、アルゴンのイオン注入を行い、アルゴンイオンによる注入損傷を利用して注入領域を非晶質化させる点が、図7〜図9における製造方法(第1の製造方法)と異なっている。この際の加速電圧Vaccとしては例えば数十〜数百KeVを用いることができ、注入ドーズ量Φとしては、ドリフト領域が非晶質化、もしくはそれに類する結晶状態になるようなドーズ量が好ましい。非晶質層や多結晶層中のキャリアの移動度は、ドリフト領域11の移動度と比較して1/100以下の大きさであり、ボロンやアルミニウム、遷移金属を添加した場合と同様に、高い比抵抗を有する高抵抗層を得ることができる。
【0040】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200においては、後述するように、還流ダイオード100として例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合に、ユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象を、従来のバイポーラ動作のダイオードにおいてはスナバ機能を実現するのに必須であったフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗など外付けのディスクリート部品をメイン電流が流れる経路に形成する手法を用いずに、小容量で小サイズのキャパシタCと抵抗Rを有する半導体スナバ回路200を並列接続することで、容易に且つ効果的に振動現象を抑制できることを特徴としている。又、効果的にスナバ機能を発揮する設計式として:

C=1/(2πfR) ……(2)

が一般的に知られており(fは振動現象の周波数)、第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200によれば、式(2)を満たすように、半導体スナバ回路200のキャパシタCと抵抗Rを容易に設定することができる。
【0041】
[電力変換装置(コンバータ)]
図1及び図2に示した第1の実施の形態に係る半導体装置(100,200)は、例えば図13に示すような電力エネルギの変換手段の1つとして、一般的に使用されるコンバータ等の電力変換装置において、電源電圧(+V)(例えば400V)に対して逆バイアス接続になるように接続され、電流を還流する受動素子Aとして使用される。
【0042】
第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の動作モードは、MOSFETやIGBT等のスイッチング素子のスイッチング動作に連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。電力変換装置においては、電流を還流する受動素子には、スイッチング素子と同様に、低損失で且つ誤動作等が起こりにくい安定動作が求められる。第1の実施の形態に係る電力変換装置(コンバータ)においては、図13中のスイッチング素子DがIGBTで構成されている場合について例示するが、スイッチング素子DはIGBTに限定されるものではない。
【0043】
(a)先ず、スイッチング素子Dがオンし、スイッチング素子Dに電流が流れている状態においては、受動素子Aは逆バイアス状態となり遮断状態になる。図3に示す還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、アノード端子300とカソード端子400間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域11中には表面電極13とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタCとして機能するキャパシタ誘電体領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。このように、受動素子Aが逆バイアス状態となる遮断状態においては、受動素子Aがショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の機能を有する。
【0044】
(b)次に、スイッチング素子Dがオフし、スイッチング素子Dがオフ状態に移行するのに連動して、受動素子Aは順バイアス状態となり導通状態に移行する。図3に示す還流ダイオード100のドリフト領域11中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極13とドリフト領域11との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、ドリフト領域11中をほぼ裏面電極14側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、還流ダイオード100が逆バイアス状態から順バイアス状態に移行する際に、キャパシタ誘電体領域12に充電されていた電荷が過渡電流として放電される。第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200では、キャパシタ誘電体領域12が規定するキャパシタCの容量が還流ダイオード100に形成されていた空乏層容量と同程度と小容量であるため、放電によって流れる過渡電流は流れるものの、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。半導体スナバ回路200は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、還流ダイオード100のみが導通状態となる。第1の実施の形態に係る還流ダイオード100では、還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されているため、一般的なシリコン材料からなるpn接合ダイオードに比べて、ドリフト領域11の抵抗を低抵抗で形成することができるため、順バイアス導通時の導通損失を低減することができる。このように、導通状態においても、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
【0045】
(c)次に、スイッチング素子Dがターンオンし、スイッチング素子Dがオン状態に移行するのに連動して、受動素子Aは逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図3に示す還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、裏面電極14側からドリフト領域11中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧が、ショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、更にショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されると、ドリフト領域11中には表面電極13とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態へと移行する。この導通状態から遮断状態に移行する際に、導通時に還流ダイオードの素子内部に蓄積されている過剰キャリアが遮断状態へと移行する際に消滅する過程において、過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、受動素子A並びにスイッチング素子Dに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生することから、還流ダイオードで発生する逆回復電流は極力小さいほうが良い。
【0046】
[電力変換装置(インバータブリッジ)]
図1及び図2に示した第1の実施の形態に係る半導体装置(100,200)は、例えば、図14に示すような3相交流モータを動かす3相インバータブリッジのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のそれぞれの電流を還流する受動素子B1,B2,B3,B4,B5,B6として使用される。第1の実施の形態に係る半導体スナバ回路200の動作モードは、MOSFETやIGBT等のスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のスイッチング動作に連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。電力変換装置においては、電流を還流する受動素子B1,B2,B3,B4,B5,B6には、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6と同様に、低損失で且つ誤動作等が起こりにくい安定動作が求められる。
【0047】
図14に示す3相インバータブリッジにおいては、電源電圧(+V)(例えば400V)に対して、上アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Q1,Q3,Q5と受動素子B1,B3,B5と、下アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Q2,Q4,Q6と受動素子B2,B4,B6とを、逆バイアス接続になるように直列に接続して使用される。この接続がU,V,Wの3相分接続され、3相インバータを構成する。
【0048】
本発明の半導体装置の動作モードは、上アームもしくは下アームのどちらかのスイッチング素子がスイッチング動作した場合に、スイッチング動作していないアームのスイッチング素子及び受動素子が連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。ここでは、図14中の3相U,V,Wのうちの1相(U相)の動作を用いて半導体装置の動作を説明することとし、更に、一例として下アームのスイッチング素子Q2がスイッチング動作をし、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bとが還流動作をする場合について説明する。
【0049】
(a)先ず、スイッチング素子Q2がオンし、スイッチング素子Q2に電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。下アームの導通状態にあるスイッチング素子Q2に並列に接続されている受動素子Bにおいては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200は遮断状態を維持する。即ち、還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオード(図3)については、その両端に印加されている電圧がスイッチング素子Qのオン電圧程度と低いものの逆バイアス電圧が印加されるためである。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタCとして機能するキャパシタ誘電体領域12が、やはりスイッチング素子Qのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態になるためである。一方、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が共に印加されているため、遮断状態を維持する。即ち、スイッチング素子QであるIGBTについては、図29に示すように、エミッタ端子301とコレクタ端子401間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域23中にはウェル領域24とのpn接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。又、図3に示す還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、表面電極3と裏面電極4間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。又、図4に示す半導体スナバ回路200においても、キャパシタCとして機能するキャパシタ誘電体領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。このように、下アームのスイッチング素子Qが導通状態のときには、上下アーム共に受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の機能を有する。
【0050】
(b)次に、下アームのスイッチング素子Qがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。例えば図14に示すようなモータ用インバータブリッジ(L負荷回路)では、スイッチング素子Qがターンオフする際には、電圧上昇と電流遮断の位相がずれるため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、先ずスイッチング素子Qの電圧上昇が起こる。先ず、下アームのターンオフするスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200共に、スイッチング素子Qの電圧上昇に伴って、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。即ち、図3に示す還流ダイオード100においては、電圧の上昇に伴ってドリフト領域2中に表面電極3側から空乏層が広がる際に、電子が裏面電極4側に過渡電流として流れ、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ容量として働くキャパシタ誘電体領域12が印加電圧に応じて充電されるため過渡電流が流れる。この半導体スナバ回路200のキャパシタ誘電体領域12のキャパシタ容量の充電作用によって、スイッチング素子Qのコレクタ/エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇を緩和し、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生を抑制することができる。つまり、第1の実施の形態に係る半導体装置においては、スイッチング素子Q1,Q2と並列接続することで、スイッチング素子Q1,Q2自体がターンオフ動作をする際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧を低減し、より安定動作を実現することができる。そして、スイッチング素子Q1,Q2の電圧上昇後、電流は所定の速度で遮断する。このとき、IGBTでは、導通時に基板領域21から注入されたホール電流の影響で電流の遮断速度は制限され損失は生じるものも、電流遮断による振動現象は起こりにくく、結果として安定動作に寄与している。このため、下アームのスイッチング素子Qの電流が遮断した後は、下アームのスイッチング素子Q及び受動素子Bは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。一方、上アームのスイッチング素子Qと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Qのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。図3に示す還流ダイオード100のドリフト領域2中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極3とドリフト領域2との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、ドリフト領域2中をほぼ表面裏面電極34側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、還流ダイオード100が逆バイアス状態から順バイアス状態に移行する際に、キャパシタ誘電体領域12に充電されていた電荷が過渡電流として放電される。第1の実施の形態に係る半導体装置では、キャパシタ誘電体領域12が規定するキャパシタCの容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600に形成されていた空乏層容量と同程度と小容量であるため、放電によって流れる過渡電流は流れるものの、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。半導体スナバ回路200は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断される。又、並列接続されているスイッチング素子Qについても、コレクタ/エミッタ間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号はオフ状態を維持するように制御されることと、基板領域21とバッファ領域22との間のpn接合が逆バイアス状態となるためオフ状態を維持する。ただし、コレクタ/エミッタ間の電圧状態が変位するため、スイッチング素子600中のドリフト領域23中に生じていた空乏層の容量変化に伴うキャパシタCとしての放電による過渡電流は流れるが、半導体スナバ回路200と同様に、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、上アームの半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、還流ダイオード100のみが導通状態となる。第1の実施の形態に係る半導体装置においては、還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されているため、一般的なシリコン材料からなるpn接合ダイオードに比べて、ドリフト領域2の抵抗を低抵抗で形成することができるため、順バイアス導通時の導通損失を低減することができる。このように、導通状態においても、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
【0051】
(c)次に、下アームのスイッチング素子Qがターンオンし、再びスイッチング素子Qがオン状態に移行する動作について説明する。例えば図14に示すようなモータ用インバータブリッジ(L負荷回路)では、スイッチング素子Qがターンオンする際には、電流上昇と電圧低下の位相がずれるため、比較的高い電圧が印加された状態で、スイッチング素子Qに電流が流れ始める。下アームのターンオフするスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200共に、スイッチング素子Qに電流が流れ、コレクタ/エミッタ間の電圧が低下するのに伴って、電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。このとき、図3に示す還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域2中に広がっていた空乏層は表面電極3側に徐々に狭まり、裏面電極4側側からドリフト領域2中に電子が過渡電流として流れる。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ容量として働くキャパシタ誘電体領域12が印加電圧の減少と共に放電されるため過渡電流が流れる。この過渡電流は、並列するスイッチング素子600に流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ回路200及び還流ダイオード100は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、スイッチング素子600のみが導通状態となる。一方、上アームのスイッチング素子Qと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Qのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図3に示す還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、表面裏面電極34側からドリフト領域2中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧が、ショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、更にショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されると、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態へと移行する。この導通状態から遮断状態に移行する際に、導通時に還流ダイオードの素子内部に蓄積されている過剰キャリアが遮断状態へと移行する際に消滅する過程において、過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、受動素子B並びに下アームのスイッチング素子Qに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生することから、還流ダイオードで発生する逆回復電流は極力小さいほうが良い。
【0052】
第1の実施の形態に係る3相インバータブリッジでは、還流ダイオード100を炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードで形成しており、一般的なシリコンで形成されたpn接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。更に、第1の実施の形態に係る3相インバータブリッジにおいては、従来技術である受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合では本質的に解決できなかったユニポーラ動作に固有の逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。即ち、第1の実施の形態に係る3相インバータブリッジにおいては、還流ダイオード100が逆回復動作する場合に、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧が印加され過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始めるのとほぼ同時に、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200中のキャパシタ誘電体領域12からなるキャパシタCにも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ回路200に流れる過渡電流は、キャパシタ誘電体領域12が規定するキャパシタCの大きさと基板領域11の抵抗R成分の大きさで決まり、自由に設計することができる。
【0053】
第1の実施の形態に係る3相インバータブリッジにおいては、キャパシタCの大きさを、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流とほぼ同等となるような容量で設定しているため、下アームのスイッチング素子Qのスイッチング速度をほぼ変えることなく、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和することができる。更に、半導体スナバ回路200に流れる電流を基板領域11の抵抗R成分で消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギを吸収し、振動現象を素早く収束することができる。つまり、還流ダイオード100が有する過渡損失と導通損失を低減する性能を保持し、且つ、ユニポーラ動作に固有の本質的な振動現象を半導体スナバ回路200で解決することができる。
【0054】
第1の実施の形態に係る受動素子では、還流ダイオード100を炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードで形成しており、一般的なシリコンで形成されたpn接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。これは、両者の遮断・導通のメカニズムの違いで説明することができる。
【0055】
先ず、一般的なシリコンで形成されたpn接合ダイオードは、順バイアス導通時には少数キャリア注入によるドリフト領域の電導度変調効果があるため、耐圧を確保しつつ導通損失を極力低減するために、ドリフト領域の厚みを小さく、且つ、不純物密度を小さく形成するのが一般である。しかしながら、例えば600Vクラスのpn接合ダイオードを実現しようとすると、例えばドリフト領域の不純物密度が1014cm-3程度、厚みが50μm程度と比較的ドリフト領域の厚い基板を使用する必要がある。そして、導通時には電導度変調効果によって、流れる電流の大きさに応じて、少数キャリアと多数キャリアがほぼ同等の濃度になるようにドリフト領域に注入されるため、例えば数100A/cm程度の順バイアス電流が流れた場合、多数キャリア(電子)及び少数キャリア(ホール)の濃度が共に1017cm-3台となる程度に、過剰キャリアが注入される。
【0056】
一方、ショットキーバリアダイオードについては、導通時に流れる電流が多数キャリアである電子のみで構成され、遮断状態に移行する際に発生する過剰なキャリアの量自体が、ほぼ還流ダイオード100に空乏層が形成される際に空乏層中から排出されるキャリアの量のみしか発生しない。つまり、例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmのドリフト領域11が全域空乏化した場合にも、上記pn接合ダイオードと単純に比較して、キャリア密度が10分の1、キャリアの分布しているドリフト領域の厚みが10分の1となるため、トータルで100分の1程度の過剰キャリアしか発生しない。このことから、第1の実施の形態に係る受動素子において、還流ダイオード100にユニポーラ動作をする素子を用いることで、逆回復電流を大幅に低減し、その結果、逆回復損失を大幅に低減することができる。このように、逆回復損失低減の効果は、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
【0057】
更に、第1の実施の形態に係る受動素子においては、半導体スナバ回路200を備えることにより、従来技術である受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合では本質的に解決できなかったユニポーラ動作に固有の逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。この振動現象自体は、還流ダイオードが組み込まれた電力変換装置の回路中に生じる寄生インダクタンスLsと、還流ダイオードの逆回復動作時の逆回復電流Irの遮断速度(dIr/dt)の相互作用によってサージ電圧Vsが生じ、これを起点として発生することが一般的に知られている。この電流・電圧の振動現象は、サージ電圧による素子の破壊、振動動作中の損失の増大、周辺の回路の誤動作などを引き起こすため、安定動作の阻害要因となるため、抑制することが求められる。このため、振動現象を低減するためには、逆回復動作時の電流の遮断速度(dI/dt)を緩和することと、更には振動している電流をいち早く減衰し振動を収束させる機構が必要となる。
【0058】
しかしながら、従来のユニポーラ動作をするショットキーバリアダイオードのみでは、逆回復電流Irの成分が多数キャリアで構成されているため、過剰キャリアによる逆回復電流Irは大きく減るものの、逆回復電流Irの抵抗制限による逆回復時間tがほとんど制御できないことから、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しない。その理由として大きく2つ挙げられる:
(i)1つは、ショットキーバリアダイオードにおいては、遮断状態から導通状態に注入される過剰キャリアが、遮断状態のドリフト領域中に形成されている空乏層領域を補充する多数キャリアのみで構成されている点である。つまり、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流の遮断速度(dI/dt)はほとんど空乏層領域の形成速度にのみ依存し、且つ、少数キャリアがほとんど存在しないためpn接合ダイオードのようなライフタイム制御法をそのまま用いることはできない。このため、ショットキーバリアダイオードには、スイッチング素子のスイッチング速度を向上することによる過渡損失の低減と振動現象の抑制機構にトレードオフの関係が生じる。
【0059】
(ii)もう1つは、ショットキーバリアダイオードは導通時にほとんど多数キャリアのみで流れるため、導通時も遮断直前においても、素子内部のドリフト領域の厚み並びに不純物密度に準じた抵抗で変わらないことから、それ自体にはpn接合ダイオードのような逆回復電流Irを抵抗制限する機構を有していない。そのため、ショットキーバリアダイオードは逆回復時において電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しないのである。更に、半導体材料として炭化珪素などワイドギャップ半導体を用いていることで、素子自体の抵抗が小さいため導通損失を低減できる反面、振動現象がより起きやすくなっている。このことから、ショットキーバリアダイオードには、導通時の損失と振動現象の抑制機構にトレードオフの関係が生じる。
【0060】
これに対して、第1の実施の形態に係る受動素子においては、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を並列接続する簡便な構成により、過渡損失並びに導通損失を低減しつつ、且つ、振動現象を抑制することができる。
【0061】
即ち、第1の実施の形態に係る受動素子においては、還流ダイオード100が逆回復動作する場合に、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧が印加され過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始めるのとほぼ同時に、半導体スナバ回路200中のキャパシタ誘電体領域12からなるキャパシタCにも同等の逆バイアス電圧が印加され、半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ回路200に流れる過渡電流は、キャパシタ誘電体領域12が規定するキャパシタCの大きさと基板領域10の抵抗R成分の大きさで決まり、自由に設計することができる。この並列に接続された半導体スナバ回路200の効果は3つある:
(i)1つ目は、還流ダイオード100と並列に形成された半導体スナバ回路200は電圧の過渡変動がないと動作しないため、スイッチング素子Dのスイッチング速度には影響を与えず、スイッチング速度に依存する損失は従来と同様に低く抑えることができることである;
(ii)2つ目は、還流ダイオード100が逆回復動作に入ったときに、還流ダイオード100と並列接続されたにキャパシタの容量成分並びに抵抗成分が作動し、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和することができ、サージ電圧そのものを低減できることである;
(iii)更に3つ目は、半導体スナバ回路200に流れた電流を基板領域10の抵抗R成分で電力消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギを吸収し、振動現象を素早く収束することができる。
【0062】
つまり、還流ダイオード100が有する過渡損失と導通損失を低減する性能を保持し、且つ、ユニポーラ動作に固有の本質的な振動現象を半導体スナバ回路200で解決するのが本発明の第1の実施の形態に係る受動素子の特徴である。
【0063】
一般に、RCスナバ構成は回路として見れば従来から知られた回路であるが、スナバ回路を半導体基体上に形成する半導体スナバ回路200は、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作を有する還流ダイオード100と組み合わせることで、初めてスナバ回路として充分機能する。つまり、電力変換装置に一般的に用いられてきたシリコンからなるpn接合ダイオードをにおいては、電力容量の制限で半導体チップ上のスナバ回路は事実上困難であり、ディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタCとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗Rを電力変換装置のメイン電流が流れる経路である半導体パッケージの内側もしくは外側に構成する必要があるためである。その理由は、スナバ回路が充分機能を果たすためには、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和するためにはダイオードに流れる逆回復電流と同程度の過渡電流が流れるキャパシタCの大きさが必要であり、且つ、振動現象を減衰するためには、そのキャパシタCに流れる電流を消費可能な電力容量を有する抵抗Rが必要となる。上述したように、pn接合ダイオードは還流する電流の大きさによって、逆回復電流の大きさが変化し、例えば、ユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードに比べて100倍もの逆回復電流が発生する。ダイオードに流れる電流密度が更に大きくなったり、又耐圧クラスが大きくなるほど、導通時に注入される過剰キャリアは増大し、逆回復電流は更に大きくなる。そのため、キャパシタCを半導体チップ上に形成しようとすると、厚みは必要耐圧で制限されるため、単純に見ると面積を100倍にする必要がある。又、抵抗Rに関しても消費すべき電力が100倍となるため体積を100倍にする必要があり、結果としてチップサイズが100倍必要となる。このことから、従来の技術の延長では電力変換装置におけるスナバ回路を半導体チップで形成するという発想は事実上困難であった。
【0064】
本発明の第1の実施の形態に係る受動素子においては、還流ダイオード100に流れる過渡電流が高々ドリフト領域2に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成しているところが従来技術と異なる点である。更に、本発明の構成により、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない、以下のような効果を得ることができる:
(イ)先ず、振動現象を低減するためのスナバ機能が、ユニポーラ動作のダイオードとの組み合わせにより、全電流範囲、全温度範囲において有効に働くということである。上述したように、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流は、逆バイアス電圧によって空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアで構成されているため、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。又同様の理由で、還流ダイオードの温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、且つ振動現象を抑制することができる;
(ロ)又、図2に示すようにスナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100の直近に低インダクタンスで実装することができることから、例えば従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタCとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗Rとを用いるスナバ回路の場合に比べて、更に過渡損失を低減し且つ振動現象を抑制できることである。これは、還流ダイオード100に並列接続されるスナバ回路中に生じる寄生インダクタンスが大きいほど、スナバ回路に流れる過渡電流が制限されるため還流ダイオードに流れる逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和しにくくなることと、スナバ回路中のキャパシタCに印加される電圧に寄生インダクタンスで発生する逆起電力が重畳されるため、キャパシタCの耐圧範囲で動作するには、スイッチング時間を遅くする必要があるためである。つまり、第1の実施の形態に係る受動素子においては寄生インダクタンスを低減することで、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を適切に緩和し振動現象を抑制することができる。
【0065】
(ハ)更に、スナバ回路を還流ダイオード100の直近に実装することは、不要なノイズ放射を低減することにもなる。例えば従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタCとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗Rとを用いるスナバ回路の場合では、還流ダイオード100で発生した振動電流はこれらの部品を通り、還流ダイオード100に戻る経路を通る。その際に抵抗Rにより振動電流が抑制されていくが、それまでの間にこの電流経路が作る面が一種のループアンテナとして働き、ノイズを放射する。スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成した場合には、還流ダイオード100の直近に実装していることから、振動電流の電流経路が作る面の大きさがディスクリート部品を用いた場合よりも格段に小さくなり、振動電流によるノイズ放射が低減される。これにより、ノイズによる制御回路等の誤動作を防ぐことができる。
【0066】
(ニ)更に、第1の実施の形態に係る受動素子においては、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができるため、簡便で且つ容易に振動現象を抑制することができ、更に従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる。
【0067】
(ホ)更に、一例として説明したように、例えば還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。つまり、所定の耐圧を得るために、ワイドバンドギャップ半導体により空乏層の厚みを小さくできるほど、還流ダイオード100自体の抵抗が小さく低導通損失を低減できるのであるが、その反面、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)が高くなり、且つ振動した電流のエネルギが消費されないため、振動現象がより顕著となる性質を有しているからである。即ち、還流ダイオード100として、例えばシリコンからなるショットキーバリアダイオードを用いた場合においても、本発明の効果として一定レベルの効果は得られるものの、ドリフト領域2の不純物密度や厚みの制限により、還流ダイオード中に炭化珪素に比べて大きな抵抗成分が残るため、ダイオード自体で振動現象が減衰しやすい。このことから、還流ダイオード100が炭化珪素などのワイドバンドギャップ半導体で構成することで、より顕著に低導通損失と振動現象の緩和を両立することができる。なお、第1の実施の形態に係る受動素子においては、還流ダイオード100の半導体材料を炭化珪素とした場合で説明しているが、窒化ガリウムやダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体を用いても同様の効果を得ることができる。
【0068】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る受動素子の一例として図1〜図4を用いて、キャパシタ210と抵抗220の直列接続からなるRCスナバ回路を説明してきたが、例えば図15に示すように、抵抗220に並列に接続するようにダイオード230を有していても良い。少なくとも、キャパシタCと抵抗Rを少なくとも有するように構成された半導体スナバ回路200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。
【0069】
又、実装形態の一例として示した図2のセラミック基板を用いた半導体パッケージ以外にも、図16に示すように、例えば金属基材420を支持基材及びカソード端子とし、アノード端子340とモールド樹脂510からなるような所謂モールドパッケージ型の実装形態を用いても良し、他の実装形態をとっていても良い。又、第1の実施の形態に係る受動素子においては、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200がそれぞれ1チップずつの場合を示しているが、一方もしくは両方が複数のチップで構成されていても勿論良い。
【0070】
更に、図4においては、半導体基体の表面に高抵抗層を形成しているが、図17に示すように半導体基体の裏面に高抵抗層を形成してもかまわない。
【0071】
又、第1の実施の形態に係る受動素子を説明するに当たって、半導体スナバ回路200の構造の一例として図4を用いて説明していたが、図18〜図23に示すように、キャパシタC(図18〜図21)並びに抵抗R(図22、図23)を半導体基体上に別の構成で形成していても勿論良い。
【0072】
図18は、図4で示したシリコン酸化膜等の誘電体薄膜からなるキャパシタ誘電体領域12の代わりに、pn接合の空乏層をキャパシタ誘電体領域として用いる場合を示している。図4で説明した場合には、還流ダイオード100が逆回復動作する際に印加される電圧を、キャパシタ誘電体領域12のキャパシタC成分によって充電することで振動現象を抑制していたのに対し、図18においては、p型の炭化珪素からなる反対導電型領域15とn型のドリフト領域11とのpn接合に逆バイアス電圧が印加されることで形成される空乏層をキャパシタ誘電体領域として使用することができる。この空乏層をキャパシタCの成分として用いる利点としては、シリコン酸化膜等の誘電体薄膜のキャパシタ誘電体領域12に比べると、過渡電流による劣化が比較的少ない半導体材料、即ち炭化珪素で形成しているため長期信頼性の点で有利である。
【0073】
なお、ドリフト領域11に空乏層を形成する方法でキャパシタ誘電体領域を得る他の構成として、図19に示すように、例えばドリフト領域11に、ドリフト領域11とショットキー接合を形成する金属材料からなる表面電極12を形成することもできる。ショットキー接合以外にもヘテロ接合など、逆バイアス電圧が印加されると空乏層が形成される構成であれば、どのような構成でも同様に、空乏層を形成してキャパシタ誘電体領域を実現することができる。
【0074】
なお、図18及び図19の構成では、順バイアス時に順方向電流が流れることが懸念されるが、図18及び図19のドリフト領域の抵抗値が還流ダイオードのドリフト領域の抵抗に比べて少なくとも小さいため、電流の大部分は低抵抗の還流ダイオードに流れるれるため順バイアス時の導通損失には影響しない。
【0075】
又、図20及び図21に示すように、キャパシタCを構成する部位として、複数の領域が直列もしくは並列に形成されていても良い。図20は、図4で説明したキャパシタ誘電体領域12によるキャパシタCの成分と図18で説明したp型の炭化珪素からなる反対導電型領域15を形成することで得られる空乏層を利用したキャパシタCの成分を直列に接続した場合である。
【0076】
又、図21は、誘電体薄膜からなるキャパシタ誘電体領域12による容量成分と、図19で説明した空乏層によるキャパシタ誘電体領域の容量成分とを並列に接続した場合を示している。いずれにしても、キャパシタCの容量成分を半導体基体上に構成することができればどのような領域で構成しても良い。
【0077】
図22は、図4で示した高抵抗層91、及びn型である基板領域10とn型のドリフト領域11からなる抵抗Rの成分以外の抵抗成分を含んだ場合を示している。図22では、図4で用いた高抵抗層91、及びn型である基板領域10とn型のドリフト領域11の抵抗成分に加えて、キャパシタ誘電体領域12上に、例えば多結晶シリコン層等の導電体薄膜で抵抗領域16を形成し、抵抗Rを構成する抵抗成分を追加している。多結晶シリコンからなる抵抗領域16は不純物密度を変えることで抵抗値を自由に変えられるところが利点として挙げられ、図4に示した構造に対して、より詳細な抵抗Rの調整が可能である。
【0078】
図23は抵抗Rの成分として、図4で説明した高抵抗層91、及びn型である基板領域10とn型のドリフト領域11と図22で説明した抵抗領域16を直列に接続した場合を示している。このように、抵抗Rの成分についても、半導体支持基体上に構成することができればどのような領域で構成しても良い。
【0079】
なお、第1の実施の形態に係る受動素子においては、半導体スナバ回路200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、例えば窒化シリコンや窒化アルミニウムやアルミナなどの絶縁基板材料を基板領域としていても勿論良い。
【0080】
図24は一例として窒化シリコンからなる絶縁基板17上に高抵抗層91、及びn型のドリフト領域11を形成した場合を示している。このように、基板材料がシリコン等の半導体基体からならなくても、図2に示すようにチップ材料として半導体チップと同等に扱えて実装できる構成であればどのような構成でも良い。又、図24においては、絶縁基板17とドリフト領域11とが接する場合を示しているが、それらの間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていても良い。
【0081】
以上、第1の実施の形態に係る受動素子では、スナバ回路を半導体チップ上に形成した場合を説明してきたが、例えば、図13に示すような回路構成にて、スイッチング素子Dの駆動端子につながっているゲート駆動回路中にスナバ回路を形成しても良い。上述したように、本発明の第1の実施の形態に係る受動素子の特徴は、還流ダイオード100に流れる過渡電流が高々ドリフト領域11に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、その空乏層容量に相応な小さなキャパシタC成分と、発生した小さな過渡電流を消費する小さな抵抗RとからなるRC直列回路を並列接続することで、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない新たな効果を得ることができる。
【0082】
更に、本発明の構成では、ダイオードに流れる電流経路で発生する損失に比べて、スナバ回路では大幅に小さい損失しか発生しないため、従来ダイオードに流れる経路にしか設置できなかったスナバ回路を熱的な容量の小さいゲート駆動回路に設置することができるためである。このようにスナバ回路をゲート駆動回路に組み込むことで、電力変換装置として容易に小型化、低コスト化することができる。
【0083】
図25及び図26はスナバ回路に用いるキャパシタ容量Cの大きさに対して、振動現象の抑制効果との関係とキャパシタ容量Cに流れる過渡電流による損失の増加しろとの関係について、一例として回路シミュレータを用いて計算した結果である。スナバ回路の振動低減は、回路中の寄生インダクタンスLsと還流ダイオードのキャパシタ容量成分C0と還流ダイオードに並列接続されたスナバ回路のキャパシタ容量Cと抵抗Rで構成された簡単な回路で計算できる。
【0084】
例えば、回路中の寄生インダクタンスをLs=99nH、抵抗R=40Ωに固定して、C/C0の大きさによって、振動現象の減衰時間やスナバ回路で発生する過渡損失の増加しろの変化を検証すれば良い。なお、還流ダイオードのキャパシタ容量C0は例えば150pFとした。先ず、C/C0が大きくなるほど、振動現象の減衰時間は小さくなる。
【0085】
図26の左側の軸は、スナバ回路がない場合において電圧もしくは電流振動が1/10に減衰するまでの時間をt0とし、スナバ回路を追加した際にスナバ回路がない場合と同等の振動となるまでの時間をtとした場合の、振動現象収束時間比t/t0を示している。
【0086】
図25から、C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になっている。一方、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。又、図26の右軸に示すように、スナバ回路に形成するキャパシタ容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。なお、E0は還流ダイオードに流れる過渡電流で発生する損失である。
【0087】
図25及び図26から、第1の実施の形態に係る受動素子で用いるスナバ回路のキャパシタ容量Cの大きさは還流ダイオード100の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の大きさに比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第1の実施の形態で説明したどの構造例においても得ることができる。
【0088】
以上において説明したとおり、本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、RCスナバ回路の抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【0089】
本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、更に、スナバ基板とは材質の異なる半導体基板を抵抗Rとして用いる場合に比して製造コストを低減できる。
【0090】
(第2の実施の形態)
図27に示すように、第2の実施の形態に係る半導体装置は、第1の実施の形態で説明したのと同様のユニポーラ動作(もしくはユニポーラ動作と同等の動作)をする還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210と抵抗220を含むように構成された半導体スナバ回路200に加え、スイッチング素子600が、それぞれエミッタ端子301並びにコレクタ端子401に接続するように、並列接続された半導体装置である。図27で示した半導体スナバ回路200の構成並びに還流ダイオード100の構成は、第1の実施の形態と同じ構成であり、還流ダイオード100は、例えば炭化珪素ショットキーバリアダイオードであり、半導体スナバ回路200は、例えば炭化珪素半導体RCスナバである。一方、スイッチング素子600は、例えばシリコンIGBTである。なお、IGBTは、エミッタ端子301とコレクタ端子401が互いに対面するように電極形成された、所謂縦型のIGBTであるとして例示的に説明する。
【0091】
第2の実施の形態に係る半導体装置では、一例として、図28に示すように、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とスイッチング素子600とが別の半導体チップとしてハイブリッドに実装(集積化)された場合について説明する。図28においては、図2と同様に半導体パッケージの一例としてセラミック基板を用いた場合について説明する。カソード側金属膜410上には、還流ダイオード100、半導体スナバ回路200更にはスイッチング素子600のそれぞれの半導体チップのコレクタ端子401側が例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、還流ダイオード100、半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600のそれぞれの半導体チップのエミッタ端子301側は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボンなどの金属配線320、330、350を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。更に、第2の実施の形態に係る半導体装置においては、スイッチング素子600のゲート端子から金属配線710を介して、ゲート側金属膜700に接続された構成となっている。
【0092】
図29に示すように、第2の実施の形態に係る半導体装置をなすスイッチング素子600は、例えば、シリコンを材料としたp型の基板領域21上に、n型のバッファ領域22を介して、n型のドリフト領域23が形成された半導体基体(21,22,23)を用いている。基板領域21としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域23としては、例えばn型の不純物密度が1013〜1016cm-3、厚みが数10〜数100μmのものを用いることができる。ドリフト領域23の不純物密度を1014cm-3程度、厚みを50μm程度とすれば、耐圧が600Vクラスのものになるが、例示に過ぎないので、耐圧はこの値に限定されるものではない。バッファ領域22はドリフト領域23に高電界が印加された際に、基板領域21とパンチスルーするのを防止するために形成される。第2の実施の形態に係る半導体装置では一例として、基板領域21を支持基材とした場合について説明するが、バッファ領域22やドリフト領域23を支持基材としても良い。バッファ領域22は基板領域と21とドリフト領域23とがパンチスルーしなければ、省略することも可能である。
【0093】
ドリフト領域23中の表層部にp型のウェル領域24が、更にウェル領域24中の表層部にn型エミッタ領域25が形成されている。そして、ドリフト領域23、ウェル領域24及びエミッタ領域25の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜26を介して、例えばn型の多結晶シリコンからなるゲート電極27が配設されている。更に、エミッタ領域25並びにウェル領域24に接するように例えばアルミニウム材料からなるエミッタ電極28が形成されている。エミッタ電極28とゲート電極27との間には互いに接しないように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜29が形成されている。又、基板領域21にオーミック接続するようにコレクタ電極30が形成されている。このように、第2の実施の形態に係る半導体装置に用いるIGBTは、ゲート電極27が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
【0094】
第2の実施の形態で一例として使用する還流ダイオードは、第1の実施の形態に係る半導体装置の説明で、図3に一例として示した還流ダイオード(図3ではショットキーバリアダイオード)の構成で説明したものと同様とする。ただし、図4に示す半導体スナバ回路200については、基本的な構成は第1の実施の形態と同様とするものの、スナバ機能を効果的に発揮するためには、新たに並列されたスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ容量を考慮したキャパシタ誘電体領域12によるキャパシタCの設定と基板領域10による抵抗Rの設定をすることが望ましい。ただし後述するように、本発明の効果を発揮する還流ダイオード100に逆回復電流が流れる状態においては、並列されたスイッチング素子600は必ず遮断状態にあるため、その過渡電流に応じたキャパシタC及び抵抗Rの設定は第1の実施の形態で説明した範囲で対応可能である。つまり、基板領域10は必要な抵抗値の大きさに応じて、基板の抵抗率や厚みとすることができ、例えば抵抗率が数mΩcmから数100Ωcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることで対応可能である。又、キャパシタCの容量についても、必要耐圧を最低限満たすようにして、必要な容量が得られるように、キャパシタ誘電体領域12の厚みや面積を変えることで対応可能である。
【0095】
即ち、第2の実施の形態に係る半導体装置のキャパシタ誘電体領域12の厚みや面積は、還流ダイオード100並びにスイッチング素子600が遮断状態時(高電圧印加時)にそれぞれ充電される空乏層容量の和に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、必要となるチップの面積やスナバ機能としての効果を考えると、数分の1程度から数倍程度の範囲が望ましい。例えば還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように、例えばキャパシタ誘電体領域12の厚みは1μmとし、キャパシタCの容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏層容量の和と同程度としたものを用いることが可能である。
【0096】
スイッチング素子600が並列に接続された第2の実施の形態に係る半導体装置においても、後述するように、還流ダイオード100として例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合に、ユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象を、従来のバイポーラ動作のダイオードにおいてはスナバ機能を実現するのに必須であったフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗など外付けのディスクリート部品を用いずに、小容量で小サイズのキャパシタCと抵抗Rを有する半導体スナバ回路200を並列接続することで、容易に且つ効果的に振動現象を抑制できることを特徴としている。
【0097】
[電力変換装置]
第2の実施形態で説明する半導体装置は、第1の実施の形態に係る半導体装置で図14を用いて説明した3相交流インバータブリッジや、図30に示すような所謂Hブリッジなどの電力変換装置に用いることができる。
【0098】
例えば図14に示す3相交流インバータブリッジにおいては、第1の実施形態で説明したとおり、電源電圧(+V)(例えば、400V)に対して、上アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Qと受動素子Bと、下アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Qと受動素子Bとを、逆バイアス接続になるように直列に接続して使用される。この接続がU,V,Wの3相分接続され、3相交流インバータブリッジを構成する。3相交流インバータブリッジの動作モードは、上アームもしくは下アームのどちらかのスイッチング素子Q,Qがスイッチング動作した場合に、スイッチング動作していないアームのスイッチング素子及び受動半導体素子が連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。
【0099】
ここでは、第1の実施形態と重複する説明を省略するが、下アームの導通状態にあるスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bにおいては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200は遮断状態を維持する。即ち、還流ダイオードであるショットキーバリアダイオードについては、その両端に印加されている電圧がスイッチング素子Qのオン電圧程度と低いものの逆バイアス電圧が印加されるためである。半導体スナバ回路200においては、キャパシタCのキャパシタ誘電体領域12が電圧が変化するときのみ動作するため、スイッチング素子Qのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態では遮断状態となる。
【0100】
一方、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が共に印加されているため、遮断状態を維持する。即ち、図29に断面構造を示すスイッチング素子QであるIGBTについては、エミッタ端子301とコレクタ端子401間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域23a中にはウェル領域24aとのpn接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。又、還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、表面電極13と裏面電極14間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域11中には表面電極13とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。又、図4に示す半導体スナバ回路200においても、キャパシタCをなすキャパシタ誘電体領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
【0101】
第2の実施の形態に係る電力変換装置においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流が高々ドリフト領域11及び23に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成しているところが従来技術と異なる点である。更に、第2の実施の形態に係る電力変換装置の構成により、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない新たな効果を得ることができる:
(イ)1つは、振動現象を低減するためのスナバ機能が、スイッチング素子600が並列に接続されていても、ユニポーラ動作のダイオードとの組み合わせにより、全電流範囲、全温度範囲において有効に働くということである。ショットキーバリアダイオードの逆回復電流は、逆バイアス電圧によって空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアで構成されているということと、並列に接続されているスイッチング素子に生じる過渡電流も、空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアで構成されていることにより、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。又、同様の理由で、還流ダイオードの温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、且つ振動現象を抑制することができる;
(ロ)もう1つは、図28に示すようにスナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の直近に低インダクタンスで実装することができることから、例えば従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタCとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗Rとを用いるスナバ回路の場合に比べて、更に過渡損失を低減し且つ振動現象を抑制できることである。これは、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に並列接続されるスナバ回路中に生じる寄生インダクタンスが大きいほど、スナバ回路に流れる過渡電流が制限されるため還流ダイオードに流れる逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和しにくくなることと、スナバ回路中のキャパシタCに印加される電圧に寄生インダクタンスで発生する逆起電力が重畳されるため、キャパシタCの耐圧範囲で動作するには、スイッチング時間を遅くする必要があるためである。つまり、第2の実施の形態に係る電力変換装置においては寄生インダクタンスを低減することで、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を適切に緩和し振動現象を抑制することができる;
(ハ)更に、第2の実施の形態に係る電力変換装置においては、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができるため、簡便で且つ容易に振動現象を抑制することができ、更に従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる;
(ニ)又、半導体スナバ回路200の抵抗成分を半導体基体で形成し図28に示すような半導体パッケージに直接実装することができるため、高い放熱性を得ることができる。そのため、外付けの抵抗等に比べて、より高密度の抵抗設計が可能となる。つまり、破壊に対する耐性が高くより小型化が実現可能である;
(ホ)又、本発明の第1の実施形態と同様に、例えば還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、より顕著に低導通損失と振動現象の緩和を両立することができる。なお、第2の実施の形態に係る電力変換装置においては、還流ダイオード100の半導体材料を炭化珪素とした場合で説明しているが、窒化ガリウムやダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体を用いても同様の効果を得ることができる。
【0102】
なお、第2の実施の形態に係る電力変換装置においても、半導体スナバ回路200の構成を、第1の実施の形態で説明した図15に対応する抵抗220に並列に接続するようにダイオード230を有した構成としても良い。少なくとも、キャパシタCと抵抗Rを少なくとも有するように構成された半導体スナバ回路200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。又、実装形態についても、第1の実施の形態と同様に、図16に対応する所謂モールドパッケージ型の実装形態を用いても良し、他の実装形態をとっていても良い。又、第2の実施の形態に係る電力変換装置においては、還流ダイオード100、半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600とがそれぞれ1チップずつの場合を示しているが、少なくともいずれかが複数のチップで構成されていても勿論良い。
【0103】
又、第2の実施の形態に係る電力変換装置を説明するに当たって、半導体スナバ回路200の構造の一例として図4を用いて説明していたが、第1の実施の形態と同様に、図18〜図23に示すように、キャパシタC(図18〜図21)並びに抵抗R(図22、1014)を半導体基体上に別の構成で形成していても勿論良い。又、第2の実施の形態に係る電力変換装置においても、半導体スナバ回路200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、例えば図24に示すように、窒化シリコンや窒化アルミニウムやアルミナなどの絶縁基板材料を基板領域としていても勿論良い。なお、図24においては、絶縁基板17とドリフト領域11とが接する場合を示しているが、それらの間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていても良い。
【0104】
以上、第2の実施の形態に係る電力変換装置では、スナバ回路を半導体チップ上に形成した場合を説明してきたが、例えば、図14に示すような回路構成において、スイッチング素子Qやスイッチング素子Qの駆動端子につながっているゲート駆動回路中にスナバ回路を形成しても良い。上述したように、第2の実施の形態に係る電力変換装置の特徴は、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流がそれぞれのドリフト領域に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、その空乏層容量に相応な小さなキャパシタC成分と、発生した小さな過渡電流を消費する小さな抵抗Rを並列接続することで、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない新たな効果を得ることができるからである。
【0105】
更に、第2の実施の形態に係る電力変換装置の構成では、ダイオードに流れる電流経路で発生する損失に比べて、スナバ回路では大幅に小さい損失しか発生しないため、従来ダイオードに流れる経路にしか設置できなかったスナバ回路を熱的な容量の小さいゲート駆動回路に設置することができるためである。このようにスナバ回路をゲート駆動回路に組み込むことで、電力変換装置として容易に小型化、低コスト化することができる。
【0106】
又、第1の実施の形態で図25と図26を用いて説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタ容量Cの大きさは、遮断状態における還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ容量成分の総和C0に対して、C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。又、スナバ回路に形成するキャパシタ容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。
【0107】
このことから、第2の実施の形態に係る電力変換装置で用いるスナバ回路のキャパシタ容量Cの大きさは還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第2の実施の形態で説明したどの構造例においても得ることができる。
【0108】
以上において説明したとおり、本発明の第2の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、RCスナバ回路の抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【0109】
本発明の第2の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、更に、スナバ基板とは材質の異なる半導体基板を抵抗Rとして用いる場合に比して製造コストを低減できる。
【0110】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態においては、第2の実施の形態で説明した還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とスイッチング素子600とが並列接続した構成において、還流ダイオード100及びスイッチング素子600がそれぞれショットキーバリアダイオード及びIGBT以外の素子で構成された場合について説明する。
【0111】
図31は図3に対応する、第3の実施の形態に係る還流ダイオード100の一例を示し、図32は図29に対応するスイッチング素子600の一例としてMOSFETの断面構造を示す。第3の実施の形態に係る半導体装置においても、第1及び第2の実施の形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
【0112】
図31に示すように、第3の実施の形態に係る還流ダイオード100は、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型である基板領域41上にn型のドリフト領域42が形成された基板材料で構成されている。基板領域41としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域42としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができる。例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μm程度に設定すれば、耐圧が600Vクラスのものになるが、例示に過ぎないので、耐圧はこの値に限定されるものではない。なお、第3の実施の形態に係る半導体装置では、半導体基体が、基板領域41とドリフト領域42の2層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域41のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に3層以上の多層の基板を使用してもかまわない。
【0113】
図31に示すように、第3の実施の形態に係る還流ダイオード100は、ドリフト領域42の基板領域41との接合面に対向する主面に接するように、炭化珪素よりもバンドギャップの小さい多結晶シリコンからなるヘテロバンドギャップ半導体領域43が堆積されている。ドリフト領域42とヘテロバンドギャップ半導体領域43の接合部は、炭化珪素と多結晶シリコンによりヘテロ接合ダイオードが形成されており、その接合界面にはエネルギ障壁が存在している。ヘテロ接合ダイオードは、ヘテロバンドギャップ半導体領域43の不純物密度を変えることで、ヘテロ接合部のエネルギ障壁の高さを制御することができるため、必要な耐圧に応じて、最適な障壁高さを得ることができる。ここでは、一例としてp型で不純物密度が1019cm-3、厚みが0.5μmとした場合で説明する。
【0114】
又、第3の実施の形態に係る半導体装置においてはヘテロバンドギャップ半導体領域43に接するように表面電極44が、基板領域41に接するように裏面電極45がそれぞれ形成されている。表面電極44はアノード端子302として外部電極との接続をするために、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極45は基板領域41とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極45はカソード端子402として外部電極と接続をする。このように、図31に示す還流ダイオード100は、表面電極44がアノード電極、裏面電極45がカソード電極としたダイオードとして機能する。
【0115】
一方、図32に示すように、第3の実施の形態に係るスイッチング素子600は、炭化珪素からなるMOSFETを一例として示している。図32中、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型である基板領域51上にn型のドリフト領域52が形成された基板材料で構成されている。基板領域51としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域52としては、例えばn型の不純物密度が1014〜1017cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができる。例えば不純物密度を2×1016cm-3、厚みを5μm程度とすれば、耐圧が600Vクラスのものになるが、例示に過ぎないので、耐圧はこの値に限定されるものではない。第3の実施の形態に係る半導体装置では一例として、基板領域51を支持基材とした場合について説明するが、ドリフト領域52を支持基材としても良い。
【0116】
ドリフト領域52中の表層部にp型のウェル領域53が、更にウェル領域53中の表層部にn型ソース領域54が形成されている。そして、ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55を介して、例えばn型の多結晶シリコンからなるゲート電極56が配設されている。更に、ソース領域54並びにウェル領域53に接するように例えばアルミニウム材料からなるソース電極57が形成されている。ソース電極57とゲート電極56との間には互いに接しないように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜58が形成されている。又、基板領域51にオーミック接続するようにドレイン電極59が形成されている。このように、第3の実施の形態に係るスイッチング素子600としてのMOSFETは、ゲート電極56が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
【0117】
第3の実施の形態に係る半導体装置においても、図31で示した還流ダイオード100と図32で示したスイッチング素子600とを、図4で示した半導体スナバ回路200と共に並列接続して使用するが、スナバ機能を効果的に発揮するためには、還流ダイオード100とスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ容量を考慮したキャパシタ誘電体領域12によるキャパシタCの設定と、基板領域10による抵抗Rの設定をすることが望ましい。第1及び第2の実施の形態と同様に、第3の実施の形態に係る半導体装置においては、例えば還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように例えば厚みは1μmとし、キャパシタCの容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏層容量の和と同程度としたものを用いることが可能である。
【0118】
[電力変換装置]
第3の実施形態で説明する半導体装置は、第1及び第2の実施の形態と同様に、図14を用いて説明した3相交流インバータブリッジや、図30に示すような所謂Hブリッジなどの電力変換装置に用いることができる。
【0119】
(a)先ず、図14中のスイッチング素子Qがオンし、スイッチング素子Qに電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。下アームの導通状態にあるスイッチング素子Qは、炭化珪素材料からなるMOSFETで構成されているため、第2の実施の形態で説明したIGBTに比べて、低オン抵抗で導通することができる。これは、炭化珪素材料のバンドギャップがシリコン材料に比べて約3倍大きく、最大絶縁電界が約1桁大きいため、ドリフト領域52に厚みを小さく且つ不純物密度大きくすることができるためである。このため、IGBTのようなバイポーラ型の動作とせずとも、ドリフト領域52の抵抗を低くすることができる。又、下アームの導通状態にあるスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bにおいては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200は遮断状態を維持する。即ち、還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオード(図31)については、その両端に印加されている電圧がスイッチング素子Qのオン電圧程度と低いものの、逆バイアス電圧が印加されるためである。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタCをなすキャパシタ誘電体領域12が、やはりスイッチング素子Qのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態になるためである。一方、上アームのスイッチング素子Qと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が共に印加されているため、遮断状態を維持する。即ち、図32に示すスイッチング素子600であるMOSFETについては、ソース端子302とドレイン端子402間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域52中にはウェル領域53とのpn接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。又、図31に示す還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードにおいては、表面電極44と裏面電極45間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域42中にはヘテロバンドギャップ半導体領域43とのヘテロ接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。又、図4に示す半導体スナバ回路200においても、キャパシタCをなすキャパシタ誘電体領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
【0120】
このように、下アームのスイッチング素子Qが導通状態のときには、上下アーム共に受動素子は第2の実施の形態で構成されている従来技術と同様の機能を有する。
【0121】
(b)次に、下アームのスイッチング素子Qがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。例えば図14に示すようなモータ用インバータブリッジ(L負荷回路)では、スイッチング素子Qがターンオフする際には、電圧上昇と電流遮断の位相がずれるため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、先ずスイッチング素子Qの電圧上昇が起こる。先ず、下アームのターンオフするスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200共に、スイッチング素子Qの電圧上昇に伴って、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。即ち、図31に示す還流ダイオード100においては、電圧の上昇に伴ってドリフト領域42中にヘテロバンドギャップ半導体領域43側から空乏層が広がる際に、電子が裏面電極45側に過渡電流として流れ、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ容量として働くキャパシタ誘電体領域12が印加電圧に応じて充電されるため過渡電流が流れる。この、半導体スナバ回路200のキャパシタ誘電体領域12のキャパシタ容量の充電作用によって、スイッチング素子Qのコレクタ/エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇を緩和し、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生を抑制することができる。つまり、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6と受動素子B1,B2,B3,B4,B5,B6とを並列接続することで、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6自体がターンオフ動作をする際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧を低減することができる。そして、図32に示すような炭化珪素からなるMOSFETでは、電圧上昇後、電流は急峻に遮断する。これは、第2の実施の形態で説明したIGBTとは異なり、導通時にユニポーラ動作をしているため、電圧の上昇によって空乏層から吐き出された電子電流が空乏層の伸びの速さに応じて遮断されるためである。つまり、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6が炭化珪素からなるMOSFETになることによって、導通時においては低オン抵抗を実現できるものの、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6の遮断性能の速さによって、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6自体のターンオフ時に振動現象が生じやすく、更に抵抗が小さいため振動現象の減衰がなかなか生じないという問題が生じてしまうのであるが、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、並列に受動素子B1,B2,B3,B4,B5,B6が形成されているため、効果的に振動現象を緩和することができる。即ち、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6の電流が遮断された際に、回路中の寄生インダクタンスと共振し電流及び電圧に振動現象が始まるものの、それぞれの受動素子B1,B2,B3,B4,B5,B6を構成する半導体スナバ回路200中のキャパシタ誘電体領域12からなるキャパシタCにも同等の電圧が印加され相応の過渡電流が流れ始める。すると、キャパシタCによって電流振動の傾き(dI/dt)を緩和し、基板領域10の抵抗R成分で寄生インダクタンスLsで生じたエネルギを消費するため、振動現象を素早く収束することができる。このことから、第3の実施の形態に係る電力変換装置のように、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6がユニポーラ型で高速遮断性能を有している場合にも、振動現象を抑制することができる。又、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6がより導通損失が小さいワイドギャップ半導体からなり、振動現象にとっては減衰しにくい構成であっても、導通損失を悪化させることなく、容易に振動現象を減衰することができる。このように、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6においても導通損失と過渡損失を高い次元で両立できるような構成、即ち高速動作が可能なユニポーラ型であることや低オン抵抗が実現できるワイドバンドギャップ半導体の構成と組み合わせることで、更に高い効果を引き出すことができる。そして、下アームのスイッチング素子Qの電流が遮断した後は、下アームのスイッチング素子Q及び受動素子Bは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。一方、上アームのスイッチング素子Qと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Qのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。図31に示す還流ダイオード100のドリフト領域42中に広がっていた空乏層が後退し、ヘテロバンドギャップ半導体領域43とドリフト領域42との間に形成されているヘテロ接合部にヘテロ障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。ヘテロ接合ダイオードはヘテロ接合部からドリフト領域42側並びにヘテロバンドギャップ半導体領域43側にそれぞれ広がる内蔵電位の和によって決まる電圧降下で順方向電流が流れるものの、価電子帯側の正孔に対するヘテロ障壁が大きいため、電流はドリフト領域42中をほぼヘテロバンドギャップ半導体領域43側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。このとき、第2の実施の形態で説明したショットキーバリアダイオードでは、ショットキー障壁高さが表面電極13のショットキーメタル固有の仕事関数差で一義的に決まるため、所定の耐圧を得るために、ドリフト領域13の不純物密度や厚みが制限されるのに対して、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、ヘテロ障壁をヘテロバンドギャップ半導体領域43の不純物密度を制御することによって変えることができるため、ドリフト領域42の抵抗をより低抵抗にすることができる。つまり、導通時の損失をより低減することができる。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、還流ダイオード100が逆バイアス状態から順バイアス状態に移行する際に、キャパシタ誘電体領域12に充電されていた電荷が過渡電流として放電される。第3の実施の形態に係る電力変換装置では、キャパシタ誘電体領域12が規定するキャパシタCの容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子Qに形成されていた空乏層容量と同程度と小容量であるため、放電によって流れる過渡電流は流れるものの、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。半導体スナバ回路200は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断される。又、並列接続されているスイッチング素子Qについても、ドレイン/ソース間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号はオフ状態を維持するように制御されることと、ウェル領域53とドリフト領域52との間のpn接合が順バイアス状態となるものの内蔵電位が2〜3Vと大きいことからオフ状態を維持する。ただし、ドレイン/ソース間の電圧状態が変位するため、スイッチング素子Q中のドリフト領域52中に生じていた空乏層の容量変化に伴うキャパシタCとしての放電による過渡電流は流れるが、半導体スナバ回路200と同様に、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、上アームの半導体スナバ回路200及びスイッチング素子Qは過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、還流ダイオード100のみが導通状態となる。
【0122】
(c)次に、下アームのスイッチング素子Qがターンオンし、再びスイッチング素子Qがオン状態に移行する動作について説明する。図14に示すようなモータ用インバータブリッジ(L負荷回路)では、スイッチング素子Qがターンオンする際には、電流上昇と電圧低下の位相がずれるため、比較的高い電圧が印加された状態で、スイッチング素子Qに電流が流れ始める。下アームのターンオフするスイッチング素子Qに並列に接続されている受動素子Bについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200共に、スイッチング素子Qに電流が流れ、ドレイン/ソース間の電圧が低下するのに伴って、電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。このとき、図31に示す還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域42中に広がっていた空乏層はヘテロバンドギャップ半導体領域43側に徐々に狭まり、裏面電極45側からドリフト領域42中に電子が過渡電流として流れる。又、図4に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ容量として働くキャパシタ誘電体領域12が印加電圧の減少と共に放電されるため過渡電流が流れる。この過渡電流は、並列するスイッチング素子Qに流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ回路200及び還流ダイオード100は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、スイッチング素子Qのみが導通状態となる。一方、上アームのスイッチング素子Qと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Qのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図31に示す還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードにおいては、ヘテロバンドギャップ半導体領域43側からドリフト領域42中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧が、ヘテロ接合部のヘテロ障壁高さに応じた電圧以下になり、更にヘテロ接合部に逆バイアス電圧が印加されると、ドリフト領域42中にはヘテロバンドギャップ半導体領域43とのヘテロ接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態へと移行する。
【0123】
第3の実施の形態に係る電力変換装置では、第1及び第2の実施の形態で説明したショットキーバリアダイオードと同様に、ユニポーラ動作を有しているため、一般的なシリコンで形成されたpn接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。更に、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、ショットキーバリアダイオードよりも導通損失を低減可能なヘテロ接合ダイオードに半導体スナバ回路200を組み合わせることによって、導通損失と過渡損失を高い次元で両立することができる。即ち、第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、還流ダイオード100が逆回復動作する場合に、ドリフト領域42中に逆バイアス電圧が印加され過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始めるのとほぼ同時に、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6及び半導体スナバ回路200中のキャパシタ誘電体領域12からなるキャパシタCにも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6及び半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、キャパシタCの大きさを、還流ダイオード100及びスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6に流れる過渡電流とほぼ同等となるような容量で設定しているため、下アームのスイッチング素子Qのスイッチング速度をほぼ変えることなく、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和することができる。更に、半導体スナバ回路200に流れる電流を基板領域10の抵抗R成分で消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギを吸収し、振動現象を素早く収束することができる。つまり、還流ダイオード100がヘテロ接合ダイオードとなり導通損失が小さくなっても、第2の実施の形態で説明したショットキーバリアダイオードを用いた場合と同様に、ユニポーラ動作に固有の本質的な振動現象を半導体スナバ回路200で解決することができる。このことから、低オン抵抗が実現できるヘテロ接合ダイオードと組み合わせることで、更に高い効果を引き出すことができる。
【0124】
第3の実施の形態に係る電力変換装置においても、還流ダイオード100及びスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6に流れる過渡電流が高々ドリフト領域42及び52に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成しているところが従来技術と異なる点である。第3の実施の形態に係る電力変換装置の構成のようにスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6もユニポーラ型とすることで、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合に加えて、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6がターンオフする場合においても、全電流範囲、全温度範囲においてスナバ機能が有効に働く。
【0125】
[他のユニポーラ素子]
スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6は、MOSFET以外にも、例えば図33及び図34に示すような他のユニポーラ素子を用いても同様の効果を得ることができる。図33に例示したユニポーラ素子は、炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域61上にn型ドリフト領域(第1の半導体領域)62が形成され、ドリフト領域62の基板領域61との接合面に対向する主面に接するように、例えばn型多結晶シリコンからなるヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63が形成されている。つまり、ドリフト領域(第1の半導体領域)62とヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63の接合部は、炭化珪素と多結晶シリコンのヘテロ接合からなっており、その接合界面にはエネルギ障壁が存在している。ヘテロバンドギャップ半導体領域63とドリフト領域62との接合面に共に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜64が形成されている。又、ゲート絶縁膜64上にはゲート電極65が形成され、ヘテロバンドギャップ半導体領域63のドリフト領域62との接合面に対向する対面にはソース電極66が、ヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63とオーミック接続されるように形成されている。更に、基板領域61にはドレイン電極(第1主電極)68が基板領域61に接続するように形成され、ドレイン電極(第1主電極)68は、間接的にドリフト領域(第1の半導体領域)62とオーミック接続される。基板領域61を省略可能な場合は、ドレイン電極(第1主電極)68は、直接的にドリフト領域(第1の半導体領域)62とオーミック接続される。なお、ゲート電極65とソース電極66を絶縁するように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜67が形成されている。
【0126】
図33のスイッチング素子においても、MOSFETと同様に、ソース電極(第2主電極)66を接地し、ドレイン電極(第1主電極)67に正電位が印加されるようにして使用する。ゲート電極65を例えば接地電位もしくは負電位とした場合、図33のスイッチング素子は遮断状態を保持する。即ち、ヘテロバンドギャップ半導体領域63とドリフト領域62とのヘテロ接合界面には、伝導電子に対するエネルギ障壁が形成されているためである。一方、遮断状態から導通状態へと転じるべくゲート電極65に正電位を印加した場合、図33のスイッチング素子は、ゲート絶縁膜64を介してゲート電界が及ぶヘテロバンドギャップ半導体領域63並びにドリフト領域62の表層部には電子の蓄積層が形成されるので、ヘテロバンドギャップ半導体領域63並びにドリフト領域62の表層部においては自由電子が存在可能なポテンシャルとなり、ドリフト領域62側に伸びていたエネルギ障壁が急峻になり、エネルギ障壁厚みが小さくなる。その結果、電子電流が導通する。このとき、図33に示すスイッチング素子においては、電流の導通・遮断を制御する所謂チャネル部分の長さが、ヘテロ障壁によって形成されるエネルギ障壁の厚み程度であり、MOSFETにおいて耐圧保持に必要な所定のチャネル長に比べて小さいため、より低抵抗で導通することができる。このため、上述したように、半導体スナバ回路200によって導通損失と過渡損失を更に高いレベルで両立することができる。
【0127】
次に、図33に示すスイッチング素子を導通状態から遮断状態に移行すべく、再びゲート電極65を接地電位とすると、ヘテロバンドギャップ半導体領域63並びにドリフト領域62のヘテロ接合界面に形成されていた伝導電子の蓄積状態が解除され、エネルギ障壁中のトンネリングが止まる。そして、ヘテロバンドギャップ半導体領域63からドリフト領域62への伝導電子の流れが止まり、更にドリフト領域62中にあった伝導電子は基板領域61に流れ枯渇すると、ドリフト領域62側にはヘテロ接合部から空乏層が広がり遮断状態となる。
【0128】
又、図33のスイッチング素子においては、例えばソース電極66を接地し、ドレイン電極67に負電位が印加された逆方向導通(還流動作)も可能である。例えばソース電極66並びにゲート電極65を接地電位とし、ドレイン電極67に所定の正電位が印加されると、伝導電子に対するエネルギ障壁は消滅し、ドリフト領域62側からヘテロバンドギャップ半導体領域63側に伝導電子が流れ、逆導通状態となる。このとき、正孔の注入はなく伝導電子のみで導通するため、逆導通状態から遮断状態に移行する際の逆回復電流による損失も小さい。なお、上述したゲート電極65を接地にせずに制御電極として使用する場合も可能である。このように、図33のスイッチング素子においては、ユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用ができるため、例えば、還流ダイオード100を図33のスイッチング素子で共用することができる。即ち、図33に示すスイッチング素子では還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100と図33に示すスイッチング素子を1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。このことにより、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができるため、半導体スナバ回路200による振動現象を更に低減することができる。又、チップサイズの低減によってコストが低減されると共に、還流ダイオード100と図33に示すスイッチング素子とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ回路200に必要なキャパシタ容量Cも小さくすることができる。つまり、小型で低コストで振動現象を抑制することができる。
【0129】
以上、図33に示すスイッチング素子においては、ヘテロバンドギャップ半導体領域63に用いる材料として多結晶シリコンを用いた例で説明したが、炭化珪素とヘテロ接合を形成する材料であれば単結晶シリコン、アモルファスシリコン等他のシリコン材料やゲルマニュウムやシリコンゲルマニュウム等他の半導体材料や6H、3C等炭化珪素の他のポリタイプなど、どの材料でも構わない。又、ドリフト領域62としてn型の炭化珪素を、ヘテロバンドギャップ半導体領域63としてp型多結晶シリコンを用いて例示的に説明しているが、それぞれn型の炭化珪素とp型多結晶シリコン、p型の炭化珪素とp型多結晶シリコン、p型の炭化珪素とn型多結晶シリコンの如何なる組み合わせでも良い。
【0130】
次に図34は、スイッチング素子として使用可能なユニポーラ素子の他の例として、接合型のFET(JFET)の断面構造を例示するもので、炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域71上にn型ドリフト領域72が形成され、n型ソース領域73とp型ゲート領域74が形成されており、ゲート領域74はゲート電極75に接続されており、ソース領域73はソース電極76に接続されており、基板領域71はドレイン電極78に接続されている。なお、符号77は層間絶縁膜である。
【0131】
図34のJFETはMOSFETと同様に、ユニポーラ動作をするため、MOSFETで得られる効果と同様の効果を得ることができる。更に、JFETにおいては、MOSFETにおいては必須のゲート絶縁膜が不要のため、信頼性の確保という観点では例えば200℃を超えるような高い温度での動作が比較的容易である。このことから、JFETを用いることで、第3の実施の形態に係る電力変換装置の特徴である使用温度領域によらず振動現象を抑制できる効果をより強みとして活かせることができる。なお、高温用途においては、半導体スナバ回路200においても、例えば図18、図19などキャパシタ容量としてシリコン酸化膜を用いない空乏層容量を用いる構成のほうが、信頼性を確保しつつ、効果を発揮することができる。
【0132】
このように、第3の実施の形態に係る電力変換装置に用いるスイッチング素子についてMOSFET以外のスイッチング素子を用いた場合の効果について説明してきたが、還流ダイオード100についても、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をするダイオードであれば同様の効果を得ることができる。
【0133】
例えば、図35に示すようなpn接合ダイオードの構造であっても、導通時にp型領域から注入される小数キャリアからなる過剰キャリアを、金や白金を用いた重金属拡散、電子線を用いた電子線照射、プロトン等を用いたイオン照射などの方策により、過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することによって、ほとんどユニポーラ動作と同等の動作をする場合においても適用可能であり、第3の実施の形態に係る半導体装置として説明してきた効果を同じように得ることができる。
【0134】
図35に示す還流ダイオード100は、pn接合ダイオードがソフトリカバリダイオードで構成されている場合であり、例えばシリコンからなるn型基板領域81上にn型ドリフト領域82が形成された半導体基体で構成されている。基板領域81としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域82としては、例えばn型の不純物密度が1013〜1017cm-3、厚みが数〜数100μmのものを用いることができ、例えば不純物密度を1014cm-3、厚みを50μm程度とすれば、耐圧が600Vクラスのものになるが、例示に過ぎないので、耐圧はこの値に限定されるものではない。
【0135】
なお、図35に示す還流ダイオード100では、半導体基体が、基板領域81とドリフト領域82の2層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域81のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に3層以上の多層の基板を使用してもかまわない。
【0136】
図35に示す還流ダイオード100では、ドリフト領域82の基板領域81との接合面に対向する主面に接するように反対導電型領域(p型領域)83が形成され、反対導電型領域83に接続するように表面電極84が、基板領域81と接するように裏面電極85が形成されている。なお、図35で示した還流ダイオードはpn接合のみで形成されているが、例えば一部がショットキーダイオードとして働くように構成されていても良いし、他の構成含んでいても良い。
【0137】
図35に示すpn接合ダイオードがソフトリカバリダイオードとして働くようにする1つの手法として、例えば導通時にドリフト領域82中に注入される少数キャリアのライフタイムを制御する方法がある。例えば、ドリフト領域82中にイオン照射などを用いて、反対導電型領域83に近い側と基板領域81に近い側とで少数キャリアのライフタイム時間が異なるように制御して、逆回復時に流れる少数キャリアによる過渡電流は小さくしつつ、基板領域81側に滞留していた少数キャリアの減少時間を緩和し、大電流時の逆回復動作においては振動現象が起こらないようにすることができる。しかしながら、少数キャリアのライフタイムを制御したpn接合ダイオードにおいては、少数キャリアのライフタイムは電流の大きさによらず短くなることから、電流が小さいときには、逆回復時において瞬時に少数キャリアが消滅してしまい、ほとんどユニポーラ動作と同じ動作をすることになる。この場合は、図35に示すダイオードに流れる過渡電流は、図3などで説明したユニポーラ型のダイオードと同じように空乏層が広がる際の多数キャリアの移動による電流が流れるため、半導体スナバ回路200がない状態だと振動現象が生じる。しかし、図1に例示したのと同様に、半導体スナバ回路200を並列接続することでの低電流時においての振動現象を緩和することができる。つまり、ソフトリカバリダイオードと半導体スナバ回路との組み合わせによって、大電流時も小電流時も振動現象を緩和することができる。
【0138】
なお、図35では、ソフトリカバリダイオードを一例として第3の実施の形態に係る電力変換装置の効果を説明してきたが、大電流時に逆回復特性がソフト化されていないファストリカバリダイオードを用いた場合にも、ユニポーラ動作と同等の動作をする電流領域があれば、少なくとも低電流時の振動現象を抑制する効果を得ることができる。又、例えば炭化珪素からなるpn接合ダイオードなど、シリコン材料に比べて熱処理による結晶の回復が起こりにくい材料においては、例えばイオン注入によってp型領域を形成した場合など、少数キャリアのライフタイムが元々小さいダイオードにおいても、上記で説明したように、振動現象を抑制する効果を得ることができる。又、いずれの構造においても、少なくとも電流が流れず少数キャリアが注入されない条件でpn接合ダイオードを逆回復動作させる場合にも本発明の効果を得ることができる。このように、少なくともユニポーラ動作と同等の動作を一部でも有するダイオードであれば逆回復動作時に振動現象を低減するという本発明の効果を得ることができる。なお、図35に示した還流ダイオード100は、スイッチング素子が並列接続されていない場合でも同様の効果を発揮するため、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のみの並列接続としても良い。
【0139】
第3の実施の形態に係る電力変換装置においては、還流ダイオードとスイッチング素子の組み合わせはどれを組み合わせても良く、例えば還流ダイオードは第2の実施の形態で説明したショットキーバリアダイオードを用いて、スイッチング素子は第3に実施の形態で説明したMOSFETを組み合わせ等ても良い。又、還流ダイオードとスイッチング素子とを同一チップ上に形成していても良い。
【0140】
以上、第3の実施の形態に係る電力変換装置では、スナバ回路を半導体チップ上に形成した場合を説明してきたが、第1及び第2の実施の形態で説明してきたように、スイッチング素子の駆動端子につながっているゲート駆動回路中にスナバ回路を形成しても良い。又、スイッチング素子及び還流ダイオードの各組み合わせによる効果は上述した場合と同じ効果を得ることができる。いずれの場合においても、第3の実施の形態に係る電力変換装置の構成では、ダイオードに流れる電流経路で発生する損失に比べて、スナバ回路では大幅に小さい損失しか発生しないため、従来ダイオードに流れる経路にしか設置できなかったスナバ回路を熱的な容量の小さいゲート駆動回路に設置することができる。このようにスナバ回路をゲート駆動回路に組み込むことで、電力変換装置として容易に小型化、低コスト化することができる。
【0141】
又、既に第1の実施の形態で図25と図26を用いて説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタ容量Cの大きさは、遮断状態における還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ容量成分の総和C0に対して、C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。又、スナバ回路に形成するキャパシタ容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。このことから、第3の実施の形態に係る電力変換装置で用いるスナバ回路のキャパシタ容量Cの大きさは還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第3の実施の形態に係る電力変換装置で説明したどの構造例においても得ることができる。
【0142】
以上において説明したとおり、本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、RCスナバ回路の抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【0143】
本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、更に、スナバ基板とは材質の異なる半導体基板を抵抗Rとして用いる場合に比して製造コストを低減できる。
【0144】
(第4の実施の形態)
図36は第4の実施の形態に係る半導体装置の実装図、図37は図36の実装図に用いられている半導体チップの断面構造図の一例である。つまり、図37に示す断面構造図に示すように、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とが、1つのチップ上にモノリシックに集積化されている。なお、第4の実施の形態に係る半導体装置においては、第1〜第3の実施の形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
【0145】
図36に示すように、カソード側金属膜410上には、スナバ内蔵還流ダイオード800のカソード端子400側が、例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、スナバ内蔵還流ダイオード800の半導体チップのアノード端子300側は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボンなどの金属配線320を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。
【0146】
図37に示すように、スナバ内蔵還流ダイオード800は、右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分で構成されている。還流ダイオード100の部分は、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域10上にn型ドリフト領域11が形成された半導体基体で構成されている。基板領域10としては、例えば抵抗率が数mから数10mΩcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域11としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができ、例えば不純物密度を1016cm-3、厚みを5μm程度とすれば、耐圧が600Vクラスのものになるが、例示に過ぎないので、耐圧はこの値に限定されるものではない。なお、図37では、半導体基体が、基板領域10とドリフト領域11の2層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域10のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に3層以上の多層の基板を使用してもかまわない。
【0147】
図37中の右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分は、ドリフト領域11の基板領域10との接合面に対向する主面に接するように表面電極13が形成され、更には表面電極13に対向し、且つ基板領域10と接するように裏面電極14が形成されている。表面電極13は、ドリフト領域11との間にショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層もしくは多層の金属材料から構成されており、例えば、ショットキー障壁を形成する金属材料としては、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金などを用いることができる。又、表面電極13はアノード端子300として外部電極との接続をするために、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極14は基板領域10とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極14はカソード端子400として外部電極と接続をする。このように、図37に示す還流ダイオード100は、表面電極13がアノード電極、裏面電極14がカソード電極としたダイオードとして機能する。
【0148】
更に、図37に示すスナバ内蔵還流ダイオード800においては、ドリフト領域11と表面電極13との接合面の端部に、ドリフト領域11と表面電極13とそれぞれ接するように、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜18が形成されている。フィールド絶縁膜18は、還流ダイオード100を半導体チップとして製造する際に、例えばチップ外周部のショットキー接合部における電界集中を緩和するために、一般的に用いられる構造である。図37では、一例としてフィールド絶縁膜18の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていても勿論良い。
【0149】
又、フィールド絶縁膜18が形成される外周端部の構成として、例えば図38に示すように、ドリフト領域11中の表面電極13とフィールド絶縁膜18とが接する界面部分の直下に、ボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗材料からなる電界緩和層93を形成しても良い。電界緩和層93に添加されているボロン又はアルミニウムは、高抵抗層91中においてキャリアの捕獲中心として働き、添加された領域中のキャリアをトラップする作用し、添加された領域中のキャリアが欠乏するので、電界緩和層93の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域11の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになる。そのため、ダイオードの逆方向へ高電圧を印加した際には、印加された高電圧の大部分は高抵抗半導体材料からなる電界緩和層93に印加されることになり、ドリフト領域11と表面電極13との界面に印加される電界を緩和することができ、ダイオードの高耐圧化を図ることができる。
【0150】
一方、図37中の左側破線の左側において、フィールド絶縁膜18の所定領域直下のドリフト領域11に、ドリフト領域11の比抵抗よりも比抵抗の高い炭化珪素からなり、且つボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗層91が形成され、高抵抗層91により抵抗Rを実現する抵抗領域16を構成している。そして、フィールド絶縁膜18の所定領域に接するように表面電極13が形成され、表面電極13が還流ダイオード100、アノード端子300と同電位となっている。つまり、図37の左側に示す半導体スナバ回路200は、高抵抗層91は抵抗Rとして機能し、フィールド絶縁膜18はキャパシタCの容量や耐圧等の電気的特性を規定する。
【0151】
なお、図37に示すスナバ内蔵還流ダイオード800においては、高抵抗層にボロン又はアルミニウムが添加されている場合を例にしているが、遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されていても良い。これらの不純物を添加することによっても、ボロンやアルミニウムを添加した場合と同様の作用・効果を得ることができる。 又、高抵抗層91には、図51に示すようにアルゴンが添加された非晶質層もしくは多結晶層を用いても良い。非晶質層や多結晶層中のキャリアの移動度は、ドリフト領域11の移動度と比較して1/100以下の大きさであり、図4に示した場合と同様、高い比抵抗を有する高抵抗層を得ることができる。
【0152】
又、フィールド絶縁膜18についても、必要な耐圧並びに必要なキャパシタCの容量の大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、半導体スナバ回路200の機能としてだけではなく、還流ダイオード100の電界緩和という機能を満たすために、フィールド絶縁膜18の破壊防止のため、還流ダイオード100で形成されるショットキーバリアダイオードよりも高いことが望ましい。又、キャパシタCの容量については、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏層容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、必要となるチップの面積やスナバ機能としての効果を考えると、数分の1程度から数倍程度の範囲が望ましい。
【0153】
[半導体装置の製造方法]
次に図40〜図42の図を用いて、図38に示した第4の実施の形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
【0154】
(a)先ず図40に示すように、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域10上にn型ドリフト領域11を形成した炭化珪素半導体基体を用意する。基板領域10としては、例えば抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域11としては、例えばn型の不純物密度が1015〜1018cm-3、厚みが数〜数10μmのものを用いることができる。
【0155】
(b)次に図41に示すように、n型ドリフト領域11の所定箇所にボロン、アルミニウム、又は遷移金属であるバナジウム、クロム、鉄、ニッケルのいずれかをフォトレジスト96をマスク材にして選択的にイオン注入する。加速電圧Vaccとしては数十〜数百KeV、注入ドーズ量Φとしては、1×1012〜1×1016cm−3程度が適している。第4の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の説明においてはイオン注入時のマスク材にレジストを用いて例示的に説明しているが、シリコン酸化膜などをフォトリソグラフィとエッチングを併用してパターニングしてマスク材に用いてもかまわない。又、第4の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の説明においては、注入時の半導体基体の温度を室温で行っているが、半導体基体を加熱しながらイオン注入を行ってもかまわない。イオン注入後に熱処理を行い、抵抗Rを実現する抵抗領域16となる高抵抗層91及び電界緩和層93を形成する。ドリフト領域11に注入されたボロン、アルミニウム、又は遷移金属であるバナジウム、クロム、鉄、ニッケルは、キャリアの捕獲中心を形成し、添加された領域中のキャリアをトラップするため、添加された領域中のキャリアが欠乏し、高抵抗層91が形成される。熱処理の温度としては、例えば800〜1700℃程度が適当である。このようにして、高抵抗層91と電界緩和層93を形成すると、同一のイオン注入を用いて、高抵抗層91と電界緩和層93を同時に形成することができるため、製造プロセスの短縮化やフォトリソグラフィなどで使用するレチクル(マスク)数の低減化を図ることができ、更なるプロセスコスト削減を図ることができる。
【0156】
(c)次に図42に示すように、高抵抗層91に接するように、例えばシリコン酸化膜などの誘電体薄膜からなるキャパシタ誘電体領域12を形成する。このキャパシタ誘電体領域12はフィールド絶縁膜18としても機能する。次にフィールド絶縁膜18(キャパシタ誘電体領域12)の所定位置をフォトリソグラフィとエッチングによりコンタクトホールを形成し、ドリフト領域11及び酸化膜に接するように表面電極13、n型基板領域に接するように裏面電極14を形成すれば、図38に示した半導体装置が完成する。
【0157】
なお、図52に示した半導体装置のように高抵抗層91を非晶質層又は多結晶層を用いて製造する場合は、図10〜図12に示した製造方法と同様の製造方法が適用できる。この場合においても、図40〜図42に示した製造方法と同様に、同一のイオン注入を用いて、高抵抗層91と電界緩和層93を同時に形成することができるため、製造プロセスの短縮化やフォトリソグラフィなどで使用するレチクル(マスク)数を低減化を図ることができ、更なるプロセスコスト削減を図ることができる。
【0158】
第4の実施の形態に係る半導体装置においては、例えば還流ダイオード100のショットキーバリアダイオードよりも耐圧が高くなるように、例えば厚みは1μmとし、キャパシタCの容量が還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏層容量と同程度としたものを用いることが可能である。なお、フィールド絶縁膜18は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、且つ電界緩和機能とキャパシタCとして機能する誘電体材料であればどのような材料でも良い。又、高抵抗層91からなる抵抗領域16により実現される抵抗Rの大きさとしては、効果的に、式(2)で示したスナバの設計式(第1の実施の形態参照)を満たすように設定するのが望ましい。
【0159】
1チップに還流ダイオード100と半導体スナバ回路200がモノリッシックに集積化された第4の実施の形態に係る半導体装置においても、第1〜第3の実施の形態で説明した動作及び効果を得ることができる。更に、第4の実施の形態に係る半導体装置においては、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が支持基体としての基板領域10及びドリフト領域11を共用し、且つ、電極材として表面電極13及び裏面電極14を共用し、還流ダイオード100の電界緩和機能として働くフィールド絶縁膜18もキャパシタCの機能として共用することができる。つまり、これらの部分については、同一プロセスで形成することができるため、製造プロセスを簡易化することができるという効果を奏する。
【0160】
又、第4の実施の形態に係る半導体装置においては、1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。又、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200の表面電極13が共通の電極となり、第2の実施の形態では金属配線320、330で接続されていたのに比べて、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができるため、還流ダイオード100における振動現象を更に低減することができる。
【0161】
更に、第4の実施の形態に係る半導体装置をL負荷回路に用いた場合には、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化した新たな効果を生むことができる。即ち、第1〜第3の実施の形態を通して説明してきたように、還流ダイオード100が遮断時及び導通時には半導体スナバ回路200は動作せずに過渡時のみ動作をし、還流ダイオード100の空乏層容量並びに半導体スナバ回路200のキャパシタ容量Cに起因して発生する過渡電流を消費するべく抵抗R成分で発熱する。一方、還流ダイオード100においては、ターンオン及びターンオフの過渡動作時においては、電流と電圧の位相ずれの影響であまり発熱しない。つまり、還流ダイオード100が最も発熱するのが定常の導通時となる。つまり、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とスイッチング回路の一連の動作の中で、発熱するタイミングが異なる。このため、1チップ化することによって、例えば還流ダイオード100の部分が導通時に発熱している際には半導体スナバ回路200の部分は遮断状態にあり発熱していないため、チップ全体としての温度上昇は別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、1チップ化することによって、還流ダイオード100の導通性能も向上することができる。
【0162】
以上のように、第4の実施の形態に係る半導体装置によれば、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能を共に向上すると同時に、小型で且つ低コストで実現することができる。
【0163】
なお、図43や図53に示したように、高抵抗層91と電界緩和層93とが接するように形成してもかまわない。1つの層で高抵抗層91と電界緩和層93とを兼ねることで、チップの実効面積(機能を有しているチップの面積)を低減することができ、チップ単体の半導体基体コストを更に低減することができる。図43や図53においては、表面電極13が還流ダイオードと半導体スナバ回路とで一体になっているが、図44や図54に示したように表面電極13が別々に形成されていてもかまわない。
【0164】
以上、図37、図38、図43、図44では還流ダイオード100がショットキーバリアダイオードの場合を説明してきたが、図45に示すように、ヘテロ接合ダイオードの場合でも同様に容易に実現することができる。図45に示す半導体装置では、基板領域41、ドリフト領域42、ヘテロバンドギャップ半導体領域43、表面電極44及び裏面電極45からなるヘテロ接合ダイオードに加えて、フィールド絶縁膜46がドリフト領域42とヘテロバンドギャップ半導体領域43との接合面の端部に、ドリフト領域42とヘテロバンドギャップ半導体領域43とそれぞれ接するように形成されている。 図45に示す半導体装置では、フィールド絶縁膜46の所定領域上に、例えば多結晶シリコンからなる抵抗領域47が、更に形成されている。還流ダイオード100の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜18の所定領域直下のドリフト領域42に、半導体基体を構成するドリフト領域42の比抵抗よりも比抵抗の高い炭化珪素からなり、且つボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗層91が形成され、半導体スナバ回路の抵抗Rが、高抵抗層91と多結晶シリコンからなる抵抗領域47とによって構成されている。そして、抵抗領域47に接するように表面電極44が形成され、還流ダイオード100のアノード端子300と同電位となっている。
【0165】
図45においても図37と同様に、フィールド絶縁膜46の端部の形状は鋭角形状でも良いし、図46のようにボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗材料からなる電界緩和層93を形成しても良い。
【0166】
図45に示す半導体装置の動作については、第3の実施の形態で説明した固有の効果と、第4の実施の形態に係る半導体装置で説明した1チップ化した際の効果を実現することができる。図43と図44と同様に、図45と図46に示すように、高抵抗層91と電界緩和層93とが接するように形成してもかまわない。
【0167】
第4の実施の形態に係る半導体装置の他の構造例として、図49と図50に示すような構成で、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化しても良い。図49は図37に対して、還流ダイオード100としてショットキーバリアダイオードの代わりに図35で示したユニポーラ動作と同等の動作を有するpn接合ダイオードを構成した点が異なっている。図37と同様に、1チップ化が容易に実現でき、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能を共に向上すると同時に、小型で且つ低コストで実現することができる。
【0168】
図50は図49に対して、半導体スナバ回路200のキャパシタ容量C成分の一部を反対導電型領域89と低濃度ドリフト領域88との間に形成されるpn接合で構成している点が異なっている。図50に示す半導体装置は、基板領域10と低濃度ドリフト領域88からなる半導体材料を用いて、還流ダイオード100として働く反対導電型領域15と半導体スナバ回路200として働く反対導電型領域89とを同時に、不純物導入と不純物の活性化によって形成することで容易に実現できる。図50に示す構成にすることによって、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを同一プロセスで形成可能なため、製造工程を簡略化でき製造コストを低減することができる。又、図50に示す半導体装置の場合においても、半導体基板を抵抗成分として使用することもでき、振動現象で生じる熱エネルギを半導体基板を通して放熱できるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。なお、図50に示す半導体装置では半導体スナバ回路200のキャパシタ容量成分の構成として、反対導電型領域89と低濃度ドリフト領域88との間に形成されるpn接合の空乏層容量と、フィールド絶縁膜86による容量とが直列に接続した容量の場合を例示しているが、pn接合容量のみの構成としても良い。
【0169】
以上、第4の実施の形態に係る半導体装置として、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化した場合の構成を複数例示してきたが、上記で例示した以外にも、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200の組み合わせを入れ替えて、1チップ化しても勿論良い。又、第4の実施の形態に係る半導体装置においては、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のみが並列接続している場合で例示してきたが、第1〜第3の実施の形態で示したようなスイッチング素子800が並列接続されるような回路においても同様に本発明の効果を発揮することができる。いずれにしても、少なくとも還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化することで、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能を共に向上すると同時に、小型で且つ低コストで実現することができる。
【0170】
又、第1の実施の形態で図25と図26を用いて説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタ容量Cの大きさは、遮断状態における還流ダイオードもしくは還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ容量成分の総和C0に対して、C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。又、スナバ回路に形成するキャパシタ容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。このことから、第4の実施の形態に係る半導体装置で用いるスナバ回路のキャパシタ容量Cの大きさは還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第4の実施の形態に係る半導体装置として説明したどの構造例においても得ることができる。
【0171】
以上において説明したとおり、本発明の第4の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、RCスナバ回路の抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【0172】
本発明の第4の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、更に、スナバ基板とは材質の異なる半導体基板を抵抗Rとして用いる場合に比して製造コストを低減できる。
【0173】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係る半導体装置においては、図55に断面構造図を示すように、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200とが、1つのチップ上にモノリシックに集積化され、スナバ内蔵スイッチング素子900を構成している。そして、図39に示すように、還流ダイオード100を搭載した半導体チップとスナバ内蔵スイッチング素子900を搭載した半導体チップを、絶縁基板500上にハイブリッドに集積化している。
【0174】
図39に示すように、絶縁基板500上にゲート側金属膜700、カソード側金属膜410、アノード側金属膜310がパターニングされ、カソード側金属膜410上には、スナバ内蔵スイッチング素子900のコレクタ端子401側が、還流ダイオード100のカソード端子と共に、例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、スナバ内蔵スイッチング素子900の半導体チップのエミッタ端子301側は、還流ダイオード100のアノード端子と共に、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボンなどの金属配線350を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。なお、第5の実施の形態に係る半導体装置の説明においては、第1〜第4の実施の形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴について詳しく説明する。
【0175】
図55に示すように、スナバ内蔵スイッチング素子900は、右側破線の右側に形成されるスイッチング素子600の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分で構成されている。スイッチング素子600の部分は、一般的なMOSFETの構成が例示されている。例えば、炭化珪素半導体基体からなるn型基板領域51上にn型ドリフト領域52が形成された半導体基体を用い、ドリフト領域52中の表層部にp型ウェル領域53が形成され、ウェル領域53中の表層部にn型ソース領域54が形成されている。そして、ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55を介して、例えばn型多結晶シリコンからなるゲート電極56が配設されている。更に、ソース領域54並びにウェル領域53に接するようにソース電極57が形成され、基板領域51にオーミック接続するようにドレイン電極59が形成されている。このように、第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900に用いるMOSFETはゲート電極56が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
【0176】
図55に示すスナバ内蔵スイッチング素子900においては、ドリフト領域52もしくはウェル領域53の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。フィールド絶縁膜31は、スイッチング素子600を半導体チップとして製造する際に、例えばチップ外周部のpn接合部における電界集中を緩和するために、一般的に用いられる構造である。第5の実施の形態に係る半導体装置においては、図55に一例としてフィールド絶縁膜31の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていても勿論良い。又、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、ウェル領域53の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
【0177】
一方、図55中の左側破線の左側にモノリシックに集積化された半導体スナバ回路200の部分には、半導体基体を構成するドリフト領域52に、ドリフト領域52の比抵抗よりも比抵抗の高い高抵抗層91が形成されている。高抵抗層91は、スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域直下のドリフト領域52に設けられ、ボロン又はアルミニウムを含有した炭化珪素からなる層である。スイッチング素子600のゲート絶縁膜55を形成する際に形成される絶縁膜32、層間絶縁膜(図示なし)、フィールド絶縁膜31等を介して、高抵抗層91に接するように表面電極13が形成され、スイッチング素子600のソース端子57と同電位となっている。
【0178】
第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900は、高抵抗層91が抵抗Rとして機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32がキャパシタCの容量や耐圧等の電気的特性を規定するキャパシタ誘電体領域を構成している。なお、図55に示すスナバ内蔵スイッチング素子900においては、高抵抗層91にボロン又はアルミニウムが添加されている場合を例にしているが、遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されていても良い。これらの不純物を添加することによっても、ボロンやアルミニウムを添加した場合と同様の作用・効果を得ることができる。
【0179】
フィールド絶縁膜31は、必要な耐圧並びに必要なキャパシタCの容量の大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、半導体スナバ回路200の機能としてだけではなく、スイッチング素子600の電界緩和という機能を満たすためのフィールド絶縁膜31の破壊防止のため、スイッチング素子600の耐圧よりも高いことが望ましい。キャパシタCの容量については、同一チップ上のスイッチング素子600とともに並列に接続される還流ダイオード100がそれぞれ遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏層容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、後述するように、スナバ機能としての効果と半導体スナバ回路で発生する損失及び必要となるチップの面積を考えると、10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。スイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように、フィールド絶縁膜31の厚みは、例えば1μmとし、キャパシタCの容量がスイッチング素子600と還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏層容量の和と同程度としたものを用いることが可能である。なお、フィールド絶縁膜31は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、且つ電界緩和機能とキャパシタCとして機能する誘電体材料であればどのような材料でも良い。
【0180】
第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900の高抵抗層91からなる抵抗Rの大きさとしては、効果的に式(2)で示したスナバの設計式(第1の実施の形態参照)を満たすように設定するのが望ましい。
【0181】
図55に示したように、1チップにスイッチング素子600と半導体スナバ回路200が形成されたスナバ内蔵スイッチング素子900を用いた場合にも、第1〜第4の実施の形態で説明した動作及び効果を得ることができる。更に、第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900においては、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200が支持基体としての基板領域51及びドリフト領域52を共用し、スイッチング素子600の電界緩和機能として働くフィールド絶縁膜31もキャパシタCの機能として共用することができるので、これらの部分については、同一プロセスで形成することができるため、製造プロセスを簡易化することができる。
【0182】
又、第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900によれば、1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。又、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200のエミッタ電極28が共通の電極となり、第1〜第4の実施の形態では金属配線350、330で接続されていたのに比べて、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができるため、並列接続している還流ダイオード100の逆回復時における振動現象を更に低減することができる。
【0183】
更に、第5の実施の形態に係る半導体装置を、例えば図14に示すようなインバータブリッジに用いた場合には、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化した新たな効果を生むことができる。即ち、第1〜第3の実施の形態を通して説明してきたように、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、半導体スナバ回路200は振動現象を緩和するべく、還流ダイオード100、スイッチング素子600の空乏層容量並びに半導体スナバ回路200のキャパシタ容量Cに起因して発生する過渡電流を消費し抵抗R成分で発熱する。一方、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、それに並列接続されているスイッチング素子600は導通状態にないため、ほとんど発熱していない。このことから、スナバ内蔵スイッチング素子900に1チップ化することによって、逆回復時に半導体スナバ回路200の部分が発熱している際にはスイッチング素子600の部分は遮断状態にあり発熱していないため、チップ全体としての温度上昇は別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、1チップ化することによって、発熱による高抵抗層91の高集積化が期待できる。以上のように、第5の実施の形態に係る半導体装置によれば、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能を共に向上すると同時に、小型で且つ低コストで実現することができる。
【0184】
なお、図55ではスイッチング素子600がMOSFETの場合を例示的に説明してきたが、第1〜第3の実施の形態で説明した様々なスイッチング素子と半導体スナバ回路200を1チップ化した場合でも同様に容易に実現することができる。例えば、図59に示すように、図55のスイッチング素子600としてMOSFETを用いる代わりに、図34で示したJFETを用いても良い。図59に示すスナバ内蔵スイッチング素子900においては、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域71上にn型ドリフト領域72が形成され、ドリフト領域72の表面にn型ソース領域73とp型ゲート領域74が埋め込まれており、ゲート領域74はゲート電極75に接続されており、ソース領域73はソース電極76に接続されており、基板領域71はドレイン電極78に接続されている。図59においては、ドリフト領域72の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。フィールド絶縁膜31は、スイッチング素子600を半導体チップとして製造する際に、例えばチップ外周部のヘテロ接合部における電界集中を緩和する。図59では、一例としてフィールド絶縁膜31の端部の形状として直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていても勿論良い。又、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、ゲート領域74の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
【0185】
一方、図59中の左側破線の左側の半導体スナバ回路200の部分には、半導体基体を構成するドリフト領域11に、ドリフト領域11の比抵抗よりも比抵抗の高い高抵抗層91が形成されている。高抵抗層91は、スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域直下のドリフト領域72に設けられるが、ボロン又はアルミニウムを含有した炭化珪素からなる層である。スイッチング素子600のゲート絶縁膜77を形成する際に形成される絶縁膜32、間絶縁膜(図示なし)及びフィールド絶縁膜31等を介して、高抵抗層91に接するように表面電極13が形成され、スイッチング素子600のソース端子302と同電位となっている。高抵抗層91は抵抗Rとして機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32はキャパシタCの容量や耐圧等の電気的特性を規定するキャパシタ誘電体領域を構成している。
【0186】
なお、第5の実施の形態に係る半導体装置においては、高抵抗層91にボロン又はアルミニウムが添加されている場合を例にしているが、遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されていても良い。これらの不純物を添加することによっても、ボロンやアルミニウムを添加した場合と同様の作用・効果を得ることができる。又、図59においては絶縁膜32が形成された場合について例示しているが、絶縁膜32を介さずフィールド絶縁膜31上に表面電極13が形成されていても勿論良い。
【0187】
図59に示したスナバ内蔵スイッチング素子900の動作については、第1〜第4の実施の形態で説明した固有の効果に加え、1チップ化した際の効果を実現することができる。このような構成することによって、製造工程を更に簡略化し、低コストで実現することができる。
【0188】
図56は図55のスイッチング素子600としてMOSFETを用いる代わりに、図33で示したヘテロ接合部を絶縁ゲート電極で駆動するトランジスタを用いたスナバ内蔵スイッチング素子900を示している。図56に示したスナバ内蔵スイッチング素子900は、例えば炭化珪素のポリタイプが4Hタイプのn型基板領域61上にn型ドリフト領域(第1の半導体領域)62が形成され、ドリフト領域62の基板領域61との接合面に対向する主面に接するように、例えばn型多結晶シリコンからなるヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63が形成されている。そして、ヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63とドリフト領域(第1の半導体領域)62との接合面に共に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜64が形成されている。又、ゲート絶縁膜64上にはゲート電極65が、ヘテロバンドギャップ半導体領域(第2の半導体領域)63のドリフト領域62との接合面に対向する対面にはソース電極(第2主電極)66がオーミック接続され、基板領域61にはドレイン電極(第1主電極)68が接続するように形成され、ドレイン電極(第1主電極)68は、間接的にドリフト領域(第1の半導体領域)62とオーミック接続される。基板領域61を省略可能な場合は、ドレイン電極(第1主電極)68は、直接的にドリフト領域(第1の半導体領域)62とオーミック接続される。
【0189】
図56に示すスナバ内蔵スイッチング素子900においては、ドリフト領域62の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。フィールド絶縁膜31は、スイッチング素子600を半導体チップとして製造する際に、例えばチップ外周部のヘテロ接合部における電界集中を緩和するために用いられる構造である。図56では、一例としてフィールド絶縁膜31の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていても勿論良い。又、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、図57に示すようにボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗材料からなる電界緩和層93を形成しても良い。このような電界緩和層93を設けると、前述のように、電界緩和層93に添加されているボロン又はアルミニウムは、高抵抗層91中においてキャリアの捕獲中心として働き、添加された領域中のキャリアをトラップする作用し、添加された領域中のキャリアが欠乏するので、電界緩和層93の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域62の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになる。そのため、スイッチング素子の逆方向へ高電圧を印加した際には、印加された高電圧の大部分は高抵抗半導体材料からなる電界緩和層93に印加されることになり、ドリフト領域62とヘテロバンドギャップ半導体領域63との界面に印加される電界を緩和することができ、スイッチング素子の高耐圧化を図ることができる。
【0190】
一方、図56中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分においては、スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に多結晶シリコンからなる抵抗領域33が形成されている。図56においてはフィールド絶縁膜31上に直接抵抗領域33が形成された場合について例示しているが、ゲート絶縁膜を形成する際に形成される絶縁膜32を介して抵抗領域33が形成されていても勿論良い。
【0191】
そして、フィールド絶縁膜31の所定領域直下のドリフト領域62には、フィールド絶縁膜31を介して、抵抗領域33と接するように、半導体基体を構成するドリフト領域62の比抵抗よりも比抵抗の高い炭化珪素からなり、且つボロン又はアルミニウムを含有した高抵抗層91が形成されている。フィールド絶縁膜31を介して、高抵抗層91に接するように表面電極13が形成され、スイッチング素子600のソース端子302と同電位となっている。
【0192】
このように、第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900における半導体スナバ回路200は、高抵抗層91及び抵抗領域33は抵抗Rとして機能し、フィールド絶縁膜31はキャパシタCの容量や耐圧等の電気的特性を規定するキャパシタ誘電体領域を構成している。
【0193】
なお、図56においては、高抵抗層91及び電界緩和層93にボロン又はアルミニウムが添加されている場合を例にしているが、遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されていても良い。これらの不純物を添加することによっても、ボロンやアルミニウムを添加した場合と同様の作用・効果を得ることができる。
【0194】
図56に示したスナバ内蔵スイッチング素子900の動作については、第1〜第4の実施の形態で説明した固有の効果に加え、1チップ化した際の効果を奏することができる。
【0195】
第5の実施の形態に係る半導体装置においては、スイッチング素子600をユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用ができるため、例えば、還流ダイオード100についても図56で示した半導体装置の構造を採用することができる。即ち、第5の実施の形態に係る半導体装置においては、還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100とスイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。このことにより、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができるため、半導体スナバ回路200による振動現象を更に低減することができる。配線長がより短くなることは、振動電流により配線から発する放射ノイズを更に低減させる効果もある。又、チップサイズの低減によってコストが低減されると共に、還流ダイオード100とスイッチング素子600とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ回路200に必要なキャパシタ容量Cも小さくすることができる。つまり、小型で低コストで振動現象を抑制することができる。
【0196】
なお、図56においては抵抗Rを抵抗領域33と高抵抗層91とによって構成した例を示したが、図63に示すように抵抗Rを高抵抗層91のみで構成しても良い。又、図58や図59に示したように、高抵抗層91と電界緩和層93とが接するように形成してもかまわない。1つの層で高抵抗層91と電界緩和層93とを兼ねることで、チップの実効面積(機能を有しているチップの面積)を低減することができ、チップ単体の半導体基体コストを更に低減することができる。図58においては、ソース電極66と表面電極13とが一体になっているが、図59に示したようにソース電極66と表面電極13とが別々に形成されていてもかまわない。
【0197】
更には、第5の実施の形態に係るスナバ内蔵スイッチング素子900においては、高抵抗層91及び電界緩和層93にボロン又はアルミニウム、又は遷移金属であるバナジウムやクロム、鉄、ニッケルが添加されている場合を例にしているが、図60〜図62に示すようにアルゴンが添加された非晶質層もしくは多結晶層を用いても良い。非晶質層や多結晶層中のキャリアの移動度は、ドリフト領域11の移動度と比較して1/100以下の大きさであり、図55〜図59に示した場合と同様、高い比抵抗を有する高抵抗層91及び電界緩和層93を得ることができる。
【0198】
以上、第5の実施の形態に係る半導体装置の説明においては、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化する一例を説明してきたが、1チップ化する際に、半導体スナバ回路200の抵抗成分としてば多結晶シリコンからなる抵抗領域33を用いる構造以外にも、半導体基体中の基板領域やドリフト領域を用いても良い。 半導体スナバ回路200のキャパシタ容量成分を規定するキャパシタ誘電体領域としては、シリコン酸化膜等の誘電体薄膜を使用する以外にも、pn接合やヘテロ接合などの逆バイアス時に空乏層をキャパシタ誘電体領域として用いても良い。
【0199】
更に、ショットキーバリアダイオードを内蔵するMOSFETなどのように、スナバ内蔵スイッチング素子900中に還流ダイオード100を内蔵する構成とし、半導体スナバ回路200と共に1チップ化しても良い。いずれの構成においても、第5の実施の形態に係る半導体装置の特徴である振動現象を更に抑制し、過渡性能と導通性能を共に向上すると同時に、小型で且つ低コストで実現することができる。
【0200】
又、第1の実施の形態で図25と図26を用いて説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタ容量Cの大きさは、遮断状態における還流ダイオードもしくは還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ容量成分の総和C0に対して、C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。又、スナバ回路に形成するキャパシタ容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。
【0201】
このことから、第5の実施の形態に係る半導体装置で用いるスナバ回路のキャパシタ容量Cの大きさは還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。第5の実施の形態に係る半導体装置の効果は、第5の実施の形態に係る半導体装置で説明したどの構造例においても得ることができる。
【0202】
以上において説明したとおり、本発明の第5の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、RCスナバ回路の抵抗Rの値を規定する高抵抗層の比抵抗は、半導体基体を構成するドリフト領域の比抵抗よりも数100倍以上高い比抵抗を有することになり、高抵抗層の比抵抗を、ボロン又はアルミニウム等の添加量によって変化させることが可能となるので、抵抗Rを、半導体基体をの比抵抗や厚さを変えることなく、任意に変化させることができるので、半導体スナバ回路の設計の自由度を向上させることが可能となり、且つ、還流ダイオードの導通時の損失並びに過渡動作時の損失は抑えつつ、逆回復動作時に生じる電流・電圧の振動現象を容易に抑制することができる。
【0203】
本発明の第5の実施の形態に係る半導体装置によれば、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、還流ダイオード100に並列接続され、キャパシタ210及び抵抗220をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路200とを備える半導体装置において、抵抗220が、半導体スナバ回路200の基材となる半導体基体の一部に形成され、半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むように構成しているので、更に、スナバ基板とは材質の異なる半導体基板を抵抗Rとして用いる場合に比して製造コストを低減できる。
【0204】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第5の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0205】
既に述べた第1〜第5の実施の形態の説明においては、本発明の具体的な構成及び効果を説明してきたが、半導体スナバ回路200は、少なくとも還流ダイオード100と並列接続されていれば、同一実装基板上に実装されていなくても発振現象を低減する効果を得ることができる。
【0206】
又、第1〜第5の実施の形態において、還流ダイオード100、スイッチング素子600、半導体スナバ回路200の材料として、シリコン材料、炭化珪素材料などを一例として説明してきたが、振動現象の低減効果が得られれば、基板材料はシリコンゲルマニュウム、窒化ガリウム、ダイヤモンドなどその他の半導体材料でも構わない。
【0207】
又、炭化珪素のポリタイプとして4Hタイプを用いて説明したが、6H、3C等その他のポリタイプでも構わない。
【0208】
更に、スイッチング素子600及び還流ダイオード100のドリフト領域としてn型の場合で説明してきたが、p型で構成されていても勿論良い。
【0209】
更に、本発明の半導体装置を適用可能な電力変換装置として、DCDCコンバータや3相交流インバータなどを一例として説明してきたが、図30に示すような一般にHブリッジなどと呼ばれる電力変換装置に用いても良い。いずれにしても、直流電圧を交流電圧に変換するインバータや、交流電圧を直流電圧に変換する整流器や、直流電圧を電圧を変えて出力するDC/DCコンバータなどのように、あらゆるタイプの電力変換装置に適用することができる。そして、本発明の構成を用いる電力変換装置であれば、大電流領域及び小電流領域のいずれの領域においても、更には、低温及び高温時のいずれにおいても、振動現象を低減することができる。このため、導通損失及び過渡損失を低減し高密度化ができると共に、振動現象が低減し安定的に動作させることができるので、装置の基本性能を両立して向上させることができる。
【0210】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0211】
A,B1,B2,B3,B4,B5,B6…受動素子
D,Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6,600,800…スイッチング素子
2…ドリフト領域
3,13,44,84…表面電極
4,14,45,85…裏面電極
11,13,23,23a,42,52,62,72,82…ドリフト領域
12…キャパシタ誘電体領域
12…表面電極
15,83,89…反対導電型領域
16,33…抵抗領域
17,500…絶縁基板
18,31,46,86…フィールド絶縁膜
21,41,51,61,71,81…基板領域
22…バッファ領域
24,24a,53…ウェル領域
25…エミッタ領域
26,55,64,77…ゲート絶縁膜
27,56,65,75…ゲート電極
28…エミッタ電極
29,58,67…層間絶縁膜
30…コレクタ電極
32…絶縁膜
34…表面裏面電極
43、63…ヘテロバンドギャップ半導体領域
47…抵抗領域
54,73…ソース領域
57,66,76…ソース端子(ソース電極)
59,67,68,78…ドレイン電極
74…ゲート領域
88…低濃度ドリフト領域
91,92…高抵抗層
93…電界緩和層
96…フォトレジスト
100…還流ダイオード
200…半導体スナバ回路
210…キャパシタ
220…抵抗
230…ダイオード
300,302,340…アノード端子
301…エミッタ端子
302…ソース端子
310…アノード側金属膜
320,350,710…金属配線
400,402…カソード端子
401…コレクタ端子
402…ドレイン端子
410…カソード側金属膜
420…金属基材
510…モールド樹脂
700…ゲート側金属膜
800…スナバ内蔵還流ダイオード
900…スナバ内蔵スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユニポーラ動作をする還流ダイオードと、
前記還流ダイオードに並列接続され、キャパシタ及び抵抗をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路とを備え、
前記抵抗が、前記半導体スナバ回路の基材となる半導体基体の一部に形成され、前記半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記高抵抗層は、半導体材料からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記高抵抗層は、シリコンよりも禁制帯幅の広い半導体材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記高抵抗層に、遷移金属が添加されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記高抵抗層が、アルゴンが添加された非晶質層又は多結晶層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体スナバ回路が、少なくとも前記キャパシタと前記抵抗とが直列接続され回路を含む2端子素子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記抵抗の大きさが、前記還流ダイオードの抵抗成分の値よりも大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記還流ダイオードに、スイッチング素子が並列接続されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体スナバ回路が、前記還流ダイオードが形成されている半導体チップ内にモノリシックに集積化されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記半導体基体内の活性領域の少なくとも一部に、前記高抵抗層と同一の材料からなり、前記還流ダイオードのアノード電極に直接もしくは間接的に接続した電界緩和層を有することを特徴とする請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記電界緩和層の少なくとも一部が、前記高抵抗層と接していることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記還流ダイオードが、ショットキーバリアダイオードを備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記還流ダイオードが、ヘテロ接合ダイオードを備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記還流ダイオードを構成する半導体基体が、シリコンよりも禁制帯幅の広い半導体材料を備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記半導体スナバ回路が、前記スイッチング素子が形成されている半導体チップ内にモノリシックに集積化されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記半導体スナバ回路が、前記還流ダイオードとともに、前記スイッチング素子が形成されている半導体チップ内にモノリシックに集積化されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記スイッチング素子が、
第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域の一主面に接して前記第1の半導体領域とは禁制帯幅が異なった第2の半導体領域と、
前記第1の半導体領域と前記第2の半導体領域との接合部においてゲート絶縁膜を介して接するゲート電極と、
前記第1の半導体領域と、直接もしくは間接的にオーミック接続された第1主電極と、
前記第2の半導体領域とオーミック接続された第2主電極
とを備える3端子素子であることを特徴とする請求項8,15,16のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記半導体チップ内の活性領域の一部に、前記高抵抗層と同一の材料からなり、前記スイッチング素子の第1主電極に直接もしくは間接的に接続した電界緩和層を有することを特徴とする請求項15又は16に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記電界緩和層の少なくとも一部が前記高抵抗層と接していることを特徴とする請求項18に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記スイッチング素子を構成する半導体基体が、シリコンよりも禁制帯幅の広い半導体材料を備えることを特徴とする請求項8,15〜18のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記第2の半導体領域を構成する半導体材料が、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、多結晶シリコンの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項17に記載の半導体装置。
【請求項22】
ユニポーラ動作をする還流ダイオードと前記還流ダイオードに並列接続され、キャパシタ及び抵抗をモノリシックに集積化した半導体スナバ回路とを備え、
前記抵抗が、前記半導体スナバ回路の基材となる半導体基体の一部に形成され、前記半導体基体の比抵抗よりも高い比抵抗を有する高抵抗層を含む半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基体へ、ボロン、アルミニウム又は遷移金属を導入し、熱処理を行うことによって前記高抵抗層を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項23】
前記高抵抗層の形成と同時に、
前記還流ダイオードチップ内の活性領域の少なくとも一部に、前記高抵抗層と同一の材料からなり、前記還流ダイオードのアノード電極に直接もしくは間接的に接続した電界緩和層を形成することを特徴とする請求項22に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項24】
前記半導体基体へ、前記ボロン、前記アルミニウム又は前記遷移金属をイオン注入法によって導入することを特徴とする請求項22又は23に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項25】
イオン注入法によって、前記半導体基体の内部に、非晶質層又は多結晶層を形成して前記高抵抗層を形成することを特徴とする請求項22に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項26】
前記イオン注入法で用いるイオン種が、アルゴンであることを特徴とする請求項25に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【公開番号】特開2010−206106(P2010−206106A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52565(P2009−52565)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】