説明

減筒を経てエンジン出力トルクが増大されるハイブリッド車

【課題】ハイブリッド車に於ける過給式エンジンが過給リーン運転されている状態で出力トルクの増大が求められたとき、中間空燃比領域通過によるNOx排出量の増加を抑制してエンジン出力トルク増大要求に応ずることができるようにする。
【解決手段】エンジン目標トルクの増大に対してエンジンの燃料供給量を増大させるに先立って、モータにて車輌駆動を補助しつつ一度エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させてエンジンを理論空燃比またはその近傍の空燃比による運転(概ストイキ運転)にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を備えたエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車に係り、特にエンジンがリーン空燃比にて過給運転されている過給リーン運転からその出力トルクを増大させるときにもNOxの排出が抑制されたハイブリッド車を提供することに係わる。
【背景技術】
【0002】
過給機を備え、過給運転されるエンジンに於いては、過給度の増減により気筒内へ供給される空気の量が増減するので、過給度の制御と空燃比の制御とは関連する。そこで、過給式ディーゼルエンジンの排気系に設けられたNOx吸着触媒より蓄積されたNOxを放出させて触媒を再生したいとき、空燃比を下げるために過給度を下げることが、下記の特許文献1に記載されている。また、排気ターボ過給機により過給を行うエンジンに於いては、過給度を上げるには先ずエンジンが加速されなければならないので、過給度の上昇によるエンジン出力増大には必然的に遅れが伴うことに鑑み、吸気絞り弁が急速に開かれたエンジン出力急上昇の要求に対しては、燃料噴射量を増大補正することが、下記の特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2000−282926号公報
【特許文献2】特開2004−60479号公報
【0003】
一方、エンジン運転に於ける空燃比と排気中のNOx排出量の間には、図4に示す如く空燃比が14.6近辺の理論空燃比(ストイキ)運転域と空燃比が20ないしそれ以上のリーン運転域との中間に於いてNOxの排出量高くなるという関係があるので、過給式エンジンをストイキ運転からリーン運転への切換えるとき、過給の立上がりに遅れがあると、上記のNOx排出量が高い中間空燃比領域に於ける運転時間が長くなり、NOx排出量が増大することに対処し、過給式エンジンをストイキ運転から過給リーン運転へ切換えるときには、過給機が立ち上がるまで過給機をバイパスするバイパス弁を開いておき、過給機が立ち上がったところでバイパス弁を閉じて吸気供給量を一挙に増大させ、中間空燃比領域を速やかに通過してストイキ運転から過給リーン運転に達するようにすることが、下記の特許文献3に記載されている。
【特許文献3】特開平4−17742号公報
【0004】
また、過給機を備えたエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車に於いて、目標過給圧に対する実過給圧の追従には遅れが伴うことに対処し、スロットル開度センサ等により検出されるアクセル操作に応じて目標過給圧を算出するとき、目標過給圧と過給圧検出手段により検出された実過給圧との差をモータにより補うようにすることが、下記の特許文献4および5に記載されている。
【特許文献4】特開平11−148388号公報
【特許文献5】特開2004−92456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輌走行中に車輌駆動トルクの増大が求められたとき、それをエンジン出力トルクの増大に頼るとすれば、当然エンジンでの燃料供給量を増大させることになるが、過給式エンジンが過給リーン運転されているときには、空燃比は27程度の非常に高い値にあるので、そのまま燃料供給量を増大させたのでは、空燃比が16〜18の如き中間値に留まる時間が長くなり、上に図4を参照して記載した通り、排気中に於けるNOxの排出量が増大する恐れがある。本発明は、車輌が過給式エンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車である場合に、エンジン出力トルクに対する要求をモータにより一時的にアシストすることができることと、車輌用エンジンは多気筒エンジンであるという事実を踏まえて、車輌駆動トルクの増大が求められたとき、NOx排出量の増加を抑制してそれに応ずることのできるハイブリッド車を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、過給機を備えたエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車にして、前記エンジンが過給リーン運転されている状態からその出力トルクを増大させるとき、燃料供給量を増大させるに先立って、前記モータにて車輌駆動を補助しつつ一度前記エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させて該エンジンを概ストイキ運転するようになっていることを特徴とするハイブリッド車を提案するものである。ここで、概ストイキ運転とは、図4に示したような空燃比に対するNOx排出量の変化特性で見て、NOx排出量がピーク値を呈する空燃比領域を避け、それより空燃比が低い側にあって理論空燃比を含む適当な空燃比の領域に於ける運転を指すものとする。
【0007】
前記減筒に於ける減筒度は前記モータの電源となるバッテリの充電度に応じて変えられるようになっていてよい。
【0008】
上記の如く燃料供給量を増大させるに先立って、モータにて車輌駆動を補助しつつ一度エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させてエンジンを概ストイキ運転することは、エンジンの出力トルクを所定値以上増大させるとき行われるようになっていてよい。
【発明の効果】
【0009】
過給機を備えたエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車に於いて、エンジンが過給リーン運転されている状態からその出力トルクを増大させるとき、燃料供給量を増大させるに先立って、モータにて車輌駆動を補助しつつ一度エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させてエンジンを概ストイキ運転するようになっていれば、先ずエンジンの減筒により過給機の駆動力を急速に低下させて吸気量を急速に下げ、これによって空燃比を短時間にリーン領域から概ストイキ運転を行う適当な空燃比領域へ移行させ、こうして空燃比が概ストイキ領域へ移行したところで減筒を解除し、要求された増大出力に対応する燃料供給を伴ってエンジンを全筒運転に復筒させれば、空燃比が16〜18の如き中間値を通過する時間を短時間に抑えて、エンジンを過給リーン運転より増量された燃料による概ストイキ運転へ移行させることができる。尚、エンジンが減筒されている間、エンジン出力は当然大きく低下するが、ハイブリッド車に於いてはモータアシストが得られるので、エンジン出力の低下をモータ出力により補うことにより、車輌駆動力をそれまで通りに維持し、或いは更に進んで、燃料増量後のエンジン出力トルクに滑らかにつながるように漸増させることもできる。
【0010】
上記の過給リーン運転より増量された燃料による概ストイキ運転への移行は短時間に行われるので、その間のモータアシストに要するバッテリの電力消費は左程高くはないが、上記の減筒に於ける減筒度がバッテリの充電度に応じて変えられるようになっていれば、過給リーン運転より増量された燃料による概ストイキ運転への移行に要する時間の短縮、即ち中間空燃比通過時に排出されるNOxの量の抑制を、その時のバッテリの充電状態より許される最大限に調節することができる。尚、減筒度をバッテリの充電度に応じて変えるとは、バッテリの充電度に応じて減筒数を0を含む数の間で段階的に変えることを意味する。
【0011】
上記の如く燃料供給量を増大させるに先立って、モータにて車輌駆動を補助しつつ一度エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させてエンジンを概ストイキ運転することが、エンジンの出力トルクを所定値以上増大させるとき行われるようになっていれば、前記所定値として適当な値を設定しておくことにより、エンジン出力トルク増大要求に応える燃料増量が極少量であり、それが直接行われることによっても中間空燃比通過時に排出されるNOx量の増大が極微量である場合にも態々上記のモータアシスト減筒制御が行われることを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明によるハイブリット車の駆動構造の一例を解図的に示す概略図である。但し、本発明の要旨はその作動に関するソフトウエア的事項であり、以下に説明される電子式制御装置内に制御プログラムとして組み込まれているので、図1に表れている構造自体は公知の構造である。
【0013】
図1に於いて、10はエンジンであり、図では4気筒エンジンとして示されている。各気筒からの排気は排気マニホールド12により集められ、排気導管14を経て排気タービン16へ導入されるようになっている。排気タービンを出た排気は排気導管18を経て触媒コンバータ20へ導入され、ここで三元触媒により浄化された後、大気へ放出されるようになっている。
【0014】
排気タービン16は吸気コンプレッサ22を駆動し、排気のエネルギによりエアクリーナ24を経て取り入れられた空気を加圧し、途中にインタークーラ26と吸気絞り弁28を含む吸気管30より吸気マニホールド32を経て各気筒へ吸気を供給するようになっている。
【0015】
エンジン10の出力軸34には遊星歯車装置による差動連結装置36を介して第一の電動発電機(M/G1)38と駆動輪に対する駆動軸40とが差動関係に連結されており、駆動軸40上に第二の電動発電機(M/G2)42のロータが装着され、駆動軸40と一体となって回転するようになっている。駆動軸40は差動歯車装置44および一対の車軸46を経て一対の駆動輪48を駆動するようになっている。第一の電動発電機38および第二の電動発電機42のステータコイルはインバータ50を経てバッテリ52と電気的に接続されている。かかる駆動構造に於いては、エンジンの出力軸34と第一の電動発電機38と駆動軸40とが差動連結装置36を介して相互に差動的に連結された状態にあるので、変速機がなくても、エンジン回転数に対し第一の電動発電機38の回転速度を変えることにより車速を無段に変更することができる。
【0016】
54はマイクロコンピュータを備えた電子式制御装置であり、エンジン回転数センサ56よりエンジン回転数を示す信号、車速センサ58より車速を示す信号、バッテリ52よりその充電状態(SOC)を示す信号、過給圧センサ60より過給圧を示す信号を供給されると共に、図には示されていないアクセルペダルよりアクセル開度を示す信号を供給され、これらの信号より得られる情報とマイクロコンピュータに組み込まれた制御プログラムとに基づいて制御演算を行い、吸気絞り弁28を制御すると共にエンジンに於ける燃料の供給および点火時期を制御し、インバータ50を操作して第一の電動発電機38および第二の電動発電機42の作動を制御する。
【0017】
図2は、本発明のハイブリッド車に於いて行われるエンジン出力制御の一例を示すフローチャートである。かかる制御作動は、主として電子式制御装置54に於いて、そこに組み込まれたマイクロコンピュータによる演算操作として行われ、車輌の運転中数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返し行われる。
【0018】
制御が開始されると、ステップ10に於いて、エンジンが過給リーン運転中であるか否かが判断される。答がノーであれば、本発明に係る制御は必要とされないので、その回の制御はこれにて終了する。答がイエスであれば、制御はステップ20へ進む。
【0019】
ステップ20に於いては、アクセル開度や車速に基づき算出されるエンジンの所要目標トルクTreqの今回のフローに於ける値Treq(N)と前回のフローに於ける値Treq(N−1)の差から、エンジン出力トルクに要求された増大値ΔTreqが算出され、次いでステップ30に於いて、ΔTreqが或る所定値tc以上であるか否かが判断される。ΔTreqに対する所定値tcの大きさは、ΔTreqがtcを越えない程度のエンジン出力トルクに対する増大要求であるときには、本発明による制御を行うには及ばないと判断するに適当な値である。ステップ30の答がノーであるときにも、本発明による制御は必要とされないので、この回の制御はこれにて終了する。答がイエスあれば制御はステップ40へ進む。
【0020】
ステップ40に於いては、エンジンの減筒がなされる。これは、例えば4気筒エンジンの場合に2気筒に対する燃料の供給を遮断すること、或いはそれと共に更に当該気筒の吸気弁および排気弁を閉じた状態に保つことによってなされてよい。尚、減筒は、気筒数を半減する減筒の外に、半数より少ない数によるより緩やかな減筒、または半数より多い数によるより急激な減筒が行われてもよく、その選択がバッテリの充電状態によって行われるようになっていてよい。
【0021】
その後、制御はステップ50へ進み、過給圧Pscがある所定値Pscl以上であるか否かが判断される。制御がステップ50に達するのはステップ10に於いて過給リーン運転であると判断されたときであり、所定値Psclは過給がかなり低下したときの圧力とされているので、当初の答はイエスであり、制御はステップ60へ進む。
【0022】
ステップ60に於いては、エンジンに要求されている出力トルク、即ちエンジン目標トルクTreqとエンジンが実際に出力しているトルクTengの差から、モータにて補助されるべきモータアシストトルクΔTmoassが算出され、次いでステップ70にてΔTmoassのトルクをモータアシストすることが行われる。この場合、図1に例示した如き駆動系では、第一の電動発電機38はエンジンの出力トルクを検出する手段として使用されるのが便利であるので、モータアシストは第二の電動発電機42により行われるのが便利である。ステップ40にて開始された減筒により過給圧Pscが所定値Pscl以下に下がるまで、制御はステップ50、60、70を巡回して続けられる。
【0023】
ステップ40にて開始された減筒により過給圧Pscが所定値Pscl以下に下がり、ステップ50の答がイエスよりノーに転ずると、制御はステップを80へ進む。
【0024】
ステップ80に於いては、空燃比をリーン空燃比Raflより概ストイキ運転を行う適当な空燃比Rafsに変更することが行われ、またステップ90に於いて、減筒を解除して全筒運転とする復筒が行われる。
【0025】
その後、制御はステップ100へ進み、過給圧Pscが所定値Psch以上に上昇したか否かが判断される。所定値Pschは概ストイキ運転に適した過給圧の値の標準値ある。ステップ90にて行われた復筒により過給圧は次第に回復してくるが、当初は答はノーであるので、しばらくの間、制御はステップ110へ進む。ステップ110に於いては、エンジンに要求されている出力トルクTreqとエンジンが実際に出力しているトルクTengの差からモータアシストすべきトルクΔTmoassが算出され、次いでステップ120に於いてΔTmoassのトルクをモータアシストすることが行われる。尚、作動としては、ステップ120に於いて行われるモータアシストは、ステップ70にて行われたモータアシストに連続したその続きである。この場合にも、ステップ100の答がイエスとなるまで制御はステップ100、110、120を巡って循環する。
【0026】
復筒により過給圧が回復し、その値がPschを越えることによりステップ100の答がノーからイエスに転ずると、これにて本発明による制御は終了する。
【0027】
図3は、エンジンに要求されるエンジン目標トルクの増大に応じて、上記の要領によりエンジン運転が過給リーン運転より概ストイキ運転へ移行される際の、運転気筒数の変化、過給圧の変化、空燃比の変化、モータアシストトルクの変化を対応させて示す線図である。図中、実線および破線は、エンジン要求トルクの増大に対し行われる減筒の数が比較的大きい場合と小さい場合の対比を示している。減筒数を大きくすることにより、減筒数が小さい場合に比して、エンジン運転を過給リーン運転より概ストイキ運転へ移行させるに要する時間t2−t1は短くなり、NOxの排出量が高い中間空燃比領域を通過する時間がそれだけ短くなるが、モータアシストトルクはより大きくなり、バッテリの負担はより大きくなる。従って、減筒度をバッテリの充電度に応じて許される最大限に調節することにより、バッテリの充電度応じて最大限にNOxの排出を抑制することができる。
【0028】
以上に於いては本発明を一つの実施の形態について詳細に説明したが、かかる実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるハイブリット車の駆動構造の一例を解図的に示す概略図。
【図2】本発明のハイブリッド車に於いて行われるエンジン制御とそれに伴うモータアシスト制御の一例を示すフローチャート。
【図3】エンジン目標トルクの増大に応じてエンジン運転が過給リーン運転より概ストイキ運転へ移行される際の、運転気筒数の変化、過給圧の変化、空燃比の変化、モータアシストトルクの変化を対応させて示す線図。
【図4】エンジン運転に於ける空燃比と排気中のNOx排出量の間の関係を示す線図。
【符号の説明】
【0030】
10…エンジン、12…排気マニホールド、14…排気導管、16…排気タービン、18…排気導管、20…触媒コンバータ、22…吸気コンプレッサ、24…エアクリーナ、26…インタークーラ、28…吸気絞り弁、30…吸気管、32…吸気マニホールド、34…エンジン出力軸、36…差動連結装置、38…第一の電動発電機、40…駆動軸、42…第二の電動発電機、44…差動歯車装置、46…車軸、48…駆動輪、50…インバータ、52…バッテリ、54…電子式制御装置、56…エンジン回転数センサ、58…車速センサ、60…過給圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を備えたエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車にして、前記エンジンが過給リーン運転されている状態からその出力トルクを増大させるとき、燃料供給量を増大させるに先立って、前記モータにて車輌駆動を補助しつつ一度前記エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させて該エンジンを概ストイキ運転するようになっていることを特徴とするハイブリッド車。
【請求項2】
前記減筒に於ける減筒度は前記モータの電源となるバッテリの充電度に応じて変えられるようになっていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項3】
燃料供給量を増大させるに先立って、前記モータにて車輌駆動を補助しつつ一度前記エンジンを減筒して過給度を下げ、過給度が下がったところで復筒すると共に燃料供給量を増大させて該エンジンを概ストイキ運転することは前記エンジンの出力トルクを所定値以上増大させるとき行われるようになっていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−112261(P2006−112261A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298542(P2004−298542)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】