説明

薄膜トランジスタ基板および表示デバイス

【課題】ソース電極とドレイン電極のドライエッチングレートの低下や、エッチング残さを引き起こすことがなく、半導体層と、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の間からバリアメタルを省略することができる薄膜トランジスタ基板および表示デバイスを提供する課題とする。
【解決手段】半導体層1、ソース電極2、ドレイン電極3、透明導電膜4を有する薄膜トランジスタ基板において、ソース電極2とドレイン電極3は、ドライエッチング法によるパターニングで形成されたGe:0.3原子%〜1.2原子%、Co:0.05原子%〜2.0原子%、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜0.5 原子%を含有するAl合金薄膜より成り、半導体層1と直接接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ基板および表示デバイスに関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどのアクティブマトリクス型の液晶表示装置においては、薄膜トランジスタ:Thin Film Transistor(以降、TFTともいう。)がスイッチング素子として用いられている。そのTFT素子の概略縦断面図を図1に示す。TFT素子は、ガラス基板5上に形成されたゲート電極6と、そのゲート電極6の上にゲート絶縁膜7を介して設けられたノンドープの半導体シリコン層1a、そして、そのノンドープの半導体シリコン層1aに接触する不純物ドープされた半導体シリコン層1bからなる。ノンドープの半導体シリコン層1aと不純物ドープされた半導体シリコン層1bをまとめて半導体層1と呼ぶ。この不純物ドープされた半導体シリコン1b層は、それぞれAl合金などの配線金属で電気的に接続されている。これらの配線金属をソース電極2、ドレイン電極3と呼ぶ。ドレイン電極3には、更に液晶表示部に使用される透明導電膜4が接続されている。
【0003】
これらソース電極やドレイン電極に用いられる素材として、特許文献1、特許文献2等として従来から様々なAl合金が提案されている。これらの先行技術文献に記載されたソース電極やドレイン電極は、半導体層や液晶表示部に使用される透明導電膜(以下、ITO膜ともいう。)に直接接触しないよう、それらの間にバリアメタルとしてMo、Cr、Ti、W等の高融点金属からなる積層膜が介装されている。
【0004】
これまで、ドレイン電極と透明導電膜(ITO膜)との間に存在するバリアメタルを省略する技術については、例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5等として種々の提案がなされているが、ソース電極やドレイン電極と、薄膜トランジスタの半導体層間に設けられるバリアメタルを省略する技術については、未だ検討が十分になされていない状況であった。また、アクティブマトリクス型の液晶表示装置については、モバイル用途を中心に高精細化のニーズが高く、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の微細加工(特にドライエッチング)の要求が高まっているが、この面でも未だに検討が十分になされていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−45555号公報
【特許文献2】特開2005−171378号公報
【特許文献3】特開2004−214606号公報
【特許文献4】特開2005−303003号公報
【特許文献5】特開2006−23388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)においてパネルの大型化が進む一方、高精細化のニーズも高まってきており、LCDの高精細化、すなわち、ソース電極やドレイン電極といったAl合金薄膜の配線幅の微細化が要求されてきている。現在、Al合金薄膜の配線幅は、最小で3.0μm程度まで微細化されてきているが、数年後には1.5μm程度まで更に微細化されることが予測される。このAl合金薄膜の配線幅の微細化には、CD(Critical Dimension)制御と呼ばれる配線幅のサブミクロン制御を採用することが重要であり、これまでのウエットエッチングによる配線パターンニングに替わって、プラズマを用いたドライエッチングを行うことで、マスクで設定された配線幅通りにエッチングする技術が必須となる。
【0007】
Al合金のドライエッチングに使用するハロゲンガスとしては、AlとF(フッ素)の化合物が不揮発性であるため、フッ素を使用することはできず、塩素(Cl)、三塩化ホウ素(BCl)、臭化水素(HBr)のいずれかの少なくとも1種を含むエッチャントガスが用いられる。
【0008】
プラズマによって解離されたCl等のハロゲンラジカルは、被エッチング物であるAl合金表面のAlと反応してAlCl等の塩基物を形成する。これらAlCl等の塩基物は、基板バイアス印加によるイオンボンバードアシスト効果によって気相中に蒸発し、基板が載置されている真空容器外に排気される。生成された塩基物の蒸気圧が低い場合、エッチングレートの低下を招いてスループットの低下を引き起こす。また、Al合金表面に塩基物を形成したまま蒸発せずに残留するため、エッチング残さ(ドライエッチング中に発生するエッチンングの残り)が発生する。更に、これらアルミエッチングではレジストとの選択比が小さいため、エッチングレートの低下はレジストの膜厚を厚くせざるをえず、リソグラフィーでの解像力を落とすため、微細なパターンの解像を困難にする。
【0009】
アクティブマトリクス型の液晶表示装置においては、前記したように、モバイル用途を中心に高精細化のニーズが高く、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の微細加工(特にドライエッチング)の要求が高まっているが、未だに検討が十分になされていない状況であった。また、モバイル用途として、近年、多結晶ポリシリコンTFTが注目されているが、薄膜トランジスタの半導体層としての多結晶ポリシリコンと、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の間からバリアメタルを省略する技術等については、まだ検討が不十分な状況である。
【0010】
本発明は、上記従来の状況を鑑みてなされたもので、ソース電極およびドレイン電極のドライエッチングレートの低下や、エッチング残さを引き起こすことがなく、薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の間からバリアメタルを省略することができる薄膜トランジスタ基板および表示デバイスを提供すること、更には、ドレイン電極と透明導電膜との間に存在するバリアメタルをも省略することができる薄膜トランジスタ基板および表示デバイスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極、ドレイン電極、および透明導電膜を有する薄膜トランジスタ基板において、前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング法によるパターニングで形成された、Ge:0.3原子%〜1.2原子%、Co:0.05原子%〜2.0原子%、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜1.0 原子%を含有するAl合金薄膜より成るものであって、更に、前記ソース電極およびドレイン電極は、多結晶ポリシリコン或いは連続粒界結晶ポリシリコンで成る半導体層と直接接続していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板である。
【0012】
請求項2記載の発明は、薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極、ドレイン電極、および透明導電膜を有する薄膜トランジスタ基板において、前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング法によるパターニングで形成された、Ge:0.3原子%〜1.2原子%、Co:0.05原子%〜0.2原子%未満、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜0.5 原子%を含有するAl合金薄膜より成るものであって、更に、前記ソース電極およびドレイン電極は、多結晶ポリシリコン或いは連続粒界結晶ポリシリコンで成る半導体層と直接接続していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板である。
【0013】
請求項3記載の発明は、更に、前記ドレイン電極が、前記透明導電膜と直接接続している請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ基板である。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記ソース電極およびドレイン電極が、スパッタリング法により形成されたものである請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板である。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記ソース電極およびドレイン電極は、塩素(Cl)、三塩化ホウ素(BCl)、臭化水素(HBr)のいずれかの少なくとも1種を含むエッチャントガスを用いたドライエッチング法で形成されたものである請求項1乃至4のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板である。
【0016】
請求項6記載の発明は、前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング前のフォトリソグラフィー現像の際に、その表面が、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に曝されて形成されたものである請求項5に記載の薄膜トランジスタ基板である。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板が設けられていることを特徴とする表示デバイスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ソース電極およびドレイン電極のドライエッチングレートの低下や、エッチング残さを引き起こすことがなく、薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極やドレイン電極といった配線金属の間からバリアメタルを省略することが可能となる。また、ドレイン電極と透明導電膜との間に存在するバリアメタルをも省略することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】液晶表示装置に用いられるTFT素子を示す縦断面図である。
【図2】実施例1に係るエッチングレート評価のプロセスフローを示すもので、(a)はシリコン基板上に酸化膜とAl合金薄膜を形成した状態を示す側面図、(b)はフォトリソグラフィーによりレジストの塗布、露光、現像を行ってレジストパターンを形成した状態を示す側面図、(c)はレジストパターンをマスクにしてAl合金薄膜のドライエッチングを行う状態を示す側面図、(d)はレジスト除去を行った後の状態を示す側面図である。
【図3】実施例2に係る評価用素子(pn接合素子)の作製プロセスを示すもので、(a)はp型低抵抗Si基板の上に多結晶シリコンの膜を形成した状態を示す側面図、(b)は多結晶シリコン膜へBFイオンを注入する状態を示す側面図、(c)はBFイオン注入後に熱処理により多結晶シリコン膜をp型多結晶シリコン膜とした状態を示す側面図、(d)はp型多結晶シリコン膜の上にn型多結晶シリコンの膜を形成した状態を示す側面図、(e)はn型多結晶シリコン膜の上にAl合金の膜を形成した後にエッチングをして作成した評価用素子(pn接合素子)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の薄膜トランジスタ基板の構造を、図1に基づいて説明する。前記したように、液晶ディスプレイなどのアクティブマトリクス型の液晶表示装置においては、薄膜トランジスタがスイッチング素子として用いられている。このTFT素子は、ガラス基板5上に形成されたゲート電極6と、そのゲート電極6の上にゲート絶縁膜7を介して設けられたノンドープの半導体シリコン層1a、そして、そのノンドープの半導体シリコン層1aに接触する不純物ドープされた半導体シリコン層1bから構成されている。このノンドープの半導体シリコン層1aと不純物ドープされた半導体シリコン層1bをまとめて半導体層1と呼ぶ。この不純物ドープされた半導体シリコン1b層は、それぞれAl合金などの配線金属で電気的に接続されている。これらの配線金属をソース電極2、ドレイン電極3と呼ぶ。ドレイン電極3には、更に液晶表示部に使用される透明導電膜4が接続されている。
【0022】
本発明者らは、Alに種々の元素を添加した薄膜を用いて評価用素子を形成し、Al/Siの相互拡散(Al原子とSi原子との相互拡散)、電気抵抗率、耐ヒロック性を調べた。その結果、Alに、Geを添加し、更にCoを添加し、その上にLaおよび/またはNdを添加することが、上記特性に対し有効であることを見いだした。
【0023】
AlにSiを添加すると、Siの添加量の増加とともにAl原子とSi原子との相互拡散を抑制する効果が向上することが知られているが、AlにGeを添加することでも、Al原子とSi原子との相互拡散を抑制する効果を得ることができる。尚、AlにGeを添加した方が、Siを添加するよりITO膜とのダイレクトコンタクトが取れるという面で優れている。一方で、これらを単独で用いた場合(AlにGeのみを添加した場合)には、Al/Siの相互拡散を抑制できる温度の上限は250℃程度である。しかし、Al−Ge合金に更にCoを添加(AlにGeを添加し、更にCoを添加)して、GeとCoを含有するAl合金にすると、Al/Siの相互拡散がより高温まで抑制できることを見いだした。
【0024】
相互拡散を抑制するメカニズムは、次のように考察される。まず、Geを含有させる効果としては、Siを主成分とする半導体層から、ソース電極やドレイン電極といったAl薄膜中へSi原子が拡散するのを防止する効果を有する。即ち、あらかじめAl薄膜中にSi原子と同効元素であるGe原子を添加しておくことで、拡散のドライビングフォースである濃度差を低減することができる。また、Coを含有させる効果としては、Al合金薄膜とSi半導体層との界面(Al合金薄膜/Si半導体層界面)に拡散防止層を形成するためと考えられる。即ち、Coは低温で容易にSiと反応しシリサイドを形成する。一旦、シリサイドが生成されると、シリサイド層がバリアとして働き、それ以上相互拡散が進まないものと考えられる。これらの相乗効果により飛躍的に改善され、Al/Siの相互拡散がより高温まで抑制できるものと考えられる。
【0025】
Al/Siの相互拡散がより高温まで抑制できる一方で、Al−Ge−Co合金よりなる薄膜では、耐ヒロック性が十分ではない。しかし、Al−Ge−Co合金に更にLaおよび/またはNdを添加することで、耐ヒロック性が向上することが分かった。
【0026】
ドレイン電極は、以上のような成分組成のAl合金よりなるので、薄膜トランジスタの半導体層のほか、透明電動膜ともバリアメタルを介さずに直接接続させることができる。これは、主にAl合金がCoを含有することによる。即ち、加熱によってCoの金属間化合物が粒界および粒内に析出することにより、透明電動膜との界面に導電パスが形成されるためと考えられる。
【0027】
ソース電極およびドレイン電極は、Al合金をフォトリソグラフィー、ドライエッチングによるパターニングで形成する必要がある。前記したような成分組成のAl合金の場合、生成されたGe、Co、Laおよび/またはNdの塩化物は、AlClに比べて蒸気圧が低いため、Ge、Co、Laおよび/またはNdといった添加元素の含有量はできるだけ少なくする必要がある。
【0028】
従って、本発明によれば、ソース電極およびドレイン電極のドライエッチングレートの低下を引き起こすことがなく、薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極やドレイン電極といったAl合金の間からバリアメタルを省略することが可能となる。また、ドレイン電極と透明導電膜との間に存在するバリアメタルをも省略することも可能となる。即ち、これらの間にバリアメタルを形成する必要がなく、微細な配線パターニングのスループリットを落とすことなく形成することができる。
【0029】
本発明の薄膜トランジスタ基板において、ソース電極およびドレイン電極を形成するAl合金薄膜へ添加するGe、Co、Laおよび/またはNdといった添加元素の含有量は、Ge:0.3原子%〜1.2 原子%、Co:0.05原子%〜2.0原子%、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜1.0 原子%としている。その理由を以下に説明する。
【0030】
Ge:0.3原子%〜1.2 原子%としているのは、Ge:0.3原子%未満では、Al/Siの相互拡散の抑制効果が低下してAl/Siの相互拡散の抑制が不十分となり、Ge:1.2原子%超では、ドライエッチングレートが大幅に低下するからである。Geの含有量の好ましい下限は0.3原子%、より好ましい下限は0.4原子%であり、好ましい上限は0.8原子%、より好ましい上限は0.5原子%である。
【0031】
また、Co:0.05原子%〜2.0原子%としているのは、Co:0.05原子%未満では、Al/Siの相互拡散の抑制効果が低下してAl/Siの相互拡散の抑制が不十分となるからであり、Co:2.0原子%超では、ドライエッチングレートが大幅に低下するからである。Coの含有量の好ましい下限は0.1原子%であり、好ましい上限は1.0原子%、より好ましい上限は0.6原子%である。また、0.2原子%未満であることが更に好ましい。
【0032】
更には、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜1.0原子%としているのは、Laおよび/またはNd:0.1原子%未満では、耐ヒロック性の向上効果が低下して耐ヒロック性が不十分となり、Laおよび/またはNd:1.0原子%超では、ドライエッチングレートが大幅に低下するからである。Laおよび/またはNdの含有量の好ましい上限は0.5原子%、より好ましい上限は0.35原子%である。
【0033】
Al/Siの相互拡散の始まる温度は、半導体層が多結晶シリコンである場合には一層高くなるので、半導体層が多結晶ポリシリコンであることが推奨される。また、多結晶シリコンと同様、連続粒界結晶ポリシリコンにも本発明は適用することができる。
【0034】
尚、ソース電極およびドレイン電極を形成するAl合金薄膜はスパッタリング法により形成されていることが望ましい。即ち、ソース電極およびドレイン電極のAl合金薄膜の形成に際し、その形成方法は特には限定されないが、スパッタリング法を適用することが望ましい。スパッタリング法によれば、使用するターゲットの組成を調整することにより容易に所望の成分組成を得ることができるからである。
【0035】
本発明に係る薄膜トランジスタ基板は、種々の電子機器に用いることができる。例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスクなどの表示デバイスの薄膜トランジスタ基板として用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の発明例および比較例について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術範囲に含まれる。
【0037】
(実施例1)
本発明の発明例および比較例に係るエッチングレート評価のプロセスフローを図2に示す。まず、シリコン基板上に熱酸化法により膜厚100nmの酸化膜(SiO)を形成した。続いて、その酸化膜の上に膜厚300nmのAl合金薄膜をスパッタリング法により成膜した。(以上、図2(a)に示す。)次に、フォトリソグラフィーによりレジストの塗布、露光、現像を行って、レジストパターン(PR)を形成した。そのレジストパターンの形成の際、現像液は水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)を用いている。(以上、図2(b)に示す。)
【0038】
次に、レジストパターンをマスクにしてAl合金薄膜のドライエッチングを行った。ドライエッチングには、特開2004−55842号公報に記載されたICP(誘導結合プラズマ)式ドライエッチング装置を用いた。この特開2004−55842号公報に記載のプラズマ発生装置は、誘導窓が平板タイプのいわゆるTCP(Transfer−Coupled Plosma)タイプのプラズマ処理装置(エッチャー)である。平板の石英誘導窓上に1ターンの13.56MHzのRFアンテナが整合器を介して設置され、石英誘導窓直下に誘導結合によって高密度プラズマが生成される。基板を載置する基板サセプタには400kHzの基板バイアス用低周波を印加したものを用いた。この装置を用いてエッチングを行った。エッチング条件は、ガス流量:Ar/Cl/BCl=300/200/60sccm、ガス圧:1.9Pa、アンテナに印加した電力(ソースRF):500W、基板バイアス:60W、基板温度(サセプタ温度):20℃とした。(以上、図2(c)に示す。)
【0039】
エッチング後には、レジストやAl配線パターンに付着した反応生成物と空気中の水分が反応し、塩酸(HCl)を発生することによってAl合金配線が腐食するアフターコロージョンを防止するために、チャンバーから大気開放せずに真空一貫において、酸素プラズマによる灰化処理(アッシュ)によるレジスト除去を行った。(以上、図2(d)に示す。)エッチング時間を因子として、このようなエッチング及び後処理を実施してエッチンングレートを算出した。
【0040】
このようにして得られた結果を表1に示す。エッチングレートは、純Al薄膜(No.1)に対する比率を示し、0.3以上を合格(○)とした。残さは、Al合金薄膜をエッチングした後に、更にオーバーエッチングを施した後の酸化膜表面の複数箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、直径0.3μm以上の残さの有無を調べ、測定した何れの箇所にも残さが観察されなかったものを合格(○)とした。また、エッチングレートと残さの両項目とも合格(○)であるものを総合判定で合格(○)とした。尚、表1に示すat%とは、原子%のことである。(表2および表3でも同じ。)
【0041】
(実施例1で得られた結果のまとめ)
表1には、Ge、Co、Laおよび/またはNdを含有するAl合金薄膜をソース−ドレイン電極とした実施例を記載している。表1によると、Al合金薄膜(ソース−ドレイン電極)の成分組成が本発明の要件を満足するNo.2〜31は、エッチングレートと残さの両項目で合格(○)であり、総合判定は合格(○)であった。また、ソース−ドレイン電極を純Al薄膜としたNo.1の場合も残さは観察されず、総合判定は合格(○)であった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2−1)
本発明の発明例および比較例に係る評価用素子(pn接合素子)を作製した。このプロセスフローを図3に示す。まず、p型低抵抗シリコン基板上にLPCVD法により膜厚200nmの多結晶シリコン膜を形成した。(以上、図3(a)に示す。)このとき、原料ガスには、SiHを用いた。続いて、BFイオンを10keV、3e15/cmの条件にてイオン注入した。(以上、図3(b)に示す。)次に、このイオン注入後に、800℃、30分の熱処理を行い、p型にドーピングされた多結晶シリコン膜とした。(以上、図3(c)に示す。)更に、このp型多結晶シリコン膜の上に膜厚約40nmのn型にドーピングされた多結晶シリコン膜を形成した。(以上、図3(d)に示す。)このとき、成膜には、SiHとドーピングガスとしてPHを用いた。これにより、多結晶シリコンのpn接合が形成された。
【0044】
そして、この多結晶シリコン膜の上に膜厚約300nmのAl合金薄膜をスパッタリング法により成膜した。次に、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、レジストをマスクとしてAl合金薄膜のエッチングを行うことで、図3(e)に示す評価用素子を形成した。(以上、図3(e)に示す。)尚、このAl合金薄膜の組成は、表2および表3のソース−ドレイン電極の欄に示す通りである。この図3(e)に示す評価用素子において、Al合金薄膜がソース−ドレイン電極に相当し、その下方のn型多結晶シリコン膜およびp型多結晶シリコン膜が薄膜トランジスタの半導体層に相当する。ソース−ドレイン電極(Al合金薄膜)と薄膜トランジスタの半導体層とは、バリアメタルを介在させることなく、直接接続した構造を有している。
【0045】
このようにして作製された評価用素子(pn接合素子)について、250〜400℃の温度で、30分間の熱処理を施した。そして、熱処理後のpn接合素子について、電流電圧特性を測定することにより、Al原子とSi原子の相互拡散の程度を調べた。即ち、多結晶シリコン(半導体層)中のSi原子とAl合金膜(ソース−ドレイン電極)中のAl原子との拡散現象は、pn接合素子の電流電圧特性を測定することにより評価できる。正常なpn接合を有する素子は、n型領域に負の電圧、p型領域に正の電圧(正バイアス)を印可することで電流を流し、逆にn型領域に正の電圧、p型領域に負の電圧(逆バイアス)を印可することで電流を遮断するという整流性を有する。しかし、Al合金薄膜(ソース−ドレイン電極)からAl原子がpn接合領域に拡散してしまうと、正常な整流性が得られなくなる。即ち、逆バイアスを印可した場合でも電流を遮断できなくなってしまう。従って、逆バイアス時に流れる電流(リーク電流)の大小を評価することでAl原子とSi原子の相互拡散の影響を把握することができる。そこで、このリーク電流の値を測定し、このリーク電流の測定値よりAl原子とSi原子の相互拡散の程度を評価した。評価した素子のサイズは、30μm×30μmのpn接合面積を有しており、これに逆バイアスとして+1Vを印加した際の電流値をリーク電流と定義した。尚、表2および表3には、リーク電流を「E−X(整数)」というように示しているが、これは「10−X」を意味する。
【0046】
この結果を表2および表3の相互拡散の欄に示す。ソース−ドレイン電極(Al合金薄膜)と薄膜トランジスタの半導体層との間にバリアメタルとしてCrを介在させたものについてのリーク電流は4.0×10−9Aであり、その10倍の値(4.0×10−8A)と比較し、リーク電流が小さいものを○、リーク電流が大きいものを×として示した。即ち、リーク電流が4.0×10−8A以下のものを良好、リーク電流が4.0×10−8A超のものを不適とした。
【0047】
また、熱処理によるヒロックの発生について、次のようにして評価した。前記pn接合素子試料に対し、10μm幅のラインアンドスペースパターンの配線を形成し、350℃にて30分の真空熱処理を行った。その後、電子顕微鏡で配線表面を観察し、直径0.1μm 以上のヒロックの個数をカウントした。ヒロック密度が、1×10個/m以下のものを良好(○)、1×10個/m超のものを不良(×)とした。この結果を表2および表3のヒロック耐性の欄に示す。
【0048】
(実施例2−2)
ガラス基板上に膜厚300nm のAl合金薄膜を、スパッタリング法により成膜した。次に、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、レジストをマスクとしてAl合金薄膜のエッチングを行い、幅100μm、長さ10mmのストライプパターン形状に加工した。尚、このAl合金薄膜の組成も、表2のソース−ドレイン電極の欄に示す通りである。
【0049】
上記エッチング後のAl合金膜について、250〜400℃の温度で30分間の熱処理を施した。そして、この熱処理後のAl合金薄膜について、四端子法により電気抵抗率を測定した。この結果を表2および表3の電気抵抗率の欄に示す。尚、純Al薄膜の電気抵抗率(3.3μΩcm)の約1.3倍の電気抵抗率(4.3μΩcm)を基準値とし、この基準値以下のものを良好とし、基準値を超えるものを不良とした。
【0050】
(実施例2−3)
Al合金電極と透明導電膜とを直接接続した際の接触性(コンタクト抵抗)を調べた。表2および表3に示す種々のAl合金電極上にITO膜が形成された試料をArガス雰囲気下、圧力0.4Pa、温度200℃の条件にて形成した。ITO膜は、酸化インジウムに10質量%の酸化スズを加えたものを使用した。
【0051】
コンタクト抵抗率は、10μm角のコンタクトホールを有するケルビンパターンを作製し、四端子法にて測定した。Cr薄膜とITOとのコンタクト抵抗率2×10−4Ωcmを基準値とし、この基準値以下のものを良好(○)、基準値を超えるものを不良(×)とした。評価結果を表2および表3に示す。尚、表2および表3には、コンタクト抵抗率を「E−X(整数)」というように示しているが、これは「10−X」を意味する。
【0052】
尚、表2および表3に示すNo.は、表1に示すNo.と、ソース−ドレイン電極の成分組成が一致しないが、表2および表3に対応No.として表1のNo.に該当するNo.を示す。表1に該当するNo.がない場合は、「−」と記載している。
【0053】
(実施例2で得られた結果のまとめ)
表2および表3によると、No.3〜36は全て、Al合金薄膜(ソース−ドレイン電極)の成分組成が本発明の要件を満足する発明例である。その結果、No.3〜36では、リーク電流、ヒロック耐性、電気抵抗率、コンタクト抵抗の全ての項目で良好であり、総合判定は合格(○)であった。これに対し、ソース−ドレイン電極を純Al薄膜としたNo.1の場合、リーク電流、ヒロック耐性、コンタクト抵抗で良好な結果を得られず、また、ソース−ドレイン電極(Al合金薄膜)と薄膜トランジスタの半導体層との間にバリアメタルとしてCrを介在させたNo.2の場合も、電気抵抗率で不良であり、そのいずれもが総合判定は不合格(×)であった。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
(実施例1と2の総合評価)
Al合金薄膜(ソース−ドレイン電極)の成分組成が、本発明の要件を満足する場合は、実施例1と実施例2のいずれでも総合判定は合格(○)であり、ソース電極およびドレイン電極のドライエッチングレートの低下や、エッチング残さを引き起こすことがなく、且つ、十分に基本的な性能を備えたソース電極やドレイン電極として用いることができる。これに対し、Al合金薄膜(ソース−ドレイン電極)の成分組成が、本発明の要件も満足しない場合や、ソース−ドレイン電極に純Al薄膜を用いた場合、ソース−ドレイン電極(Al合金薄膜)と薄膜トランジスタの半導体層との間にバリアメタルとしてCrを介在させた場合は、少なくとも、実施例1と実施例2のいずれかで総合判定は不合格(×)となり、本発明の課題を解決することはできない。
【符号の説明】
【0057】
1…半導体層
2…ソース電極
3…ドレイン電極
4…透明導電膜
5…ガラス基板
6…ゲート電極
7…ゲート絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極、ドレイン電極、および透明導電膜を有する薄膜トランジスタ基板において、
前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング法によるパターニングで形成された、Ge:0.3原子%〜1.2原子%、Co:0.05原子%〜2.0原子%、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜1.0 原子%を含有するAl合金薄膜より成るものであって、
更に、前記ソース電極およびドレイン電極は、多結晶ポリシリコン或いは連続粒界結晶ポリシリコンで成る半導体層と直接接続していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板。
【請求項2】
薄膜トランジスタの半導体層と、ソース電極、ドレイン電極、および透明導電膜を有する薄膜トランジスタ基板において、
前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング法によるパターニングで形成された、Ge:0.3原子%〜1.2原子%、Co:0.05原子%〜0.2原子%未満、Laおよび/またはNd:0.1原子%〜1.0 原子%を含有するAl合金薄膜より成るものであって、
更に、前記ソース電極およびドレイン電極は、多結晶ポリシリコン或いは連続粒界結晶ポリシリコンで成る半導体層と直接接続していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板。
【請求項3】
更に、前記ドレイン電極が、前記透明導電膜と直接接続している請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ基板。
【請求項4】
前記ソース電極およびドレイン電極が、スパッタリング法により形成されたものである請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板。
【請求項5】
前記ソース電極およびドレイン電極は、塩素(Cl)、三塩化ホウ素(BCl)、臭化水素(HBr)のいずれかの少なくとも1種を含むエッチャントガスを用いたドライエッチング法で形成されたものである請求項1乃至4のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板。
【請求項6】
前記ソース電極およびドレイン電極は、ドライエッチング前のフォトリソグラフィー現像の際に、その表面が、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に曝されて形成されたものである請求項5に記載の薄膜トランジスタ基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板が設けられていることを特徴とする表示デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−35153(P2011−35153A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179678(P2009−179678)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】