説明

車両の制御装置

【課題】道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合において、適切な時点(地点)にて運転者に的確な情報を提供し、又は、車両が安定して走行できるように車両を制御すること。
【解決手段】車両前方にある道路の勾配情報Kr,Prに基づいて、車両の運転者が道路の前方を見通せない区間(見通し不可区間)が車両前方に存在するか否かが判定され、見通し不可区間が存在すると判定された場合、勾配情報に基づいて見通し不可区間の終了地点(見通し地点Pm)が設定される。この見通し地点Pmと現在の車両位置Pvhとに基づいて、運転者に対する報知制御、車両の速度制御、及び、車両の操舵比制御のうち少なくとも1つ以上の制御が実行される。これらの制御実行に使用されるパラメータは、見通し地点Pmの前方にある道路のカーブ情報Rc,Pc、勾配情報に基づいて調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両前方にある道路の勾配情報に基づいて車両を制御するものに係わる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者が前方のカーブの存在を十分に視認して走行している場合でも運転者にカーブの存在を知らせる報知が不必要になされる事態の発生を防止するため、「勾配変化地点の先にコーナ開始点が存在し、そのコーナ開始点が視認できないと判定されたとき、その旨を運転者に報知する」ことが記載されている。
【特許文献1】特開2006−308331号公報
【0003】
ところで、このように道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合、運転者に報知する時点(地点)を何れの時点(地点)に設定するかが重要である。しかしながら、上記文献には、運転者に報知する時点(地点)を何れの時点(地点)に設定するかについて記載されていない。加えて、このような場合、運転者に対する報知のみならず、車両が安定して走行できるように車両の速度等を制御する必要も生じる。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合において、適切な時点(地点)にて運転者に的確な情報を提供し得、又は、車両が安定して走行できるように車両を制御する、車両の制御装置を提供することにある。
【0005】
本発明に係る車両の第1の制御装置は、車両の位置(Pvh)を取得する車両位置取得手段と、前記車両の前方にある道路の勾配情報(Kr,Pr)を取得する道路勾配取得手段と、前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない区間である見通し不可区間(Pv1−Pm)が前記車両の前方に存在するか否かを判定する区間判定手段と、前記見通し不可区間が存在すると判定された場合、前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて前記見通し不可区間が終了する地点である見通し地点(Pm)を設定する地点設定手段と、前記見通し地点(Pm)と前記車両位置(Pvh)とに基づいて、前記車両の運転者に対して報知を行う制御、前記車両の速度の制御、及び、前記車両の操舵比(SG)の制御のうち少なくとも1つ以上の制御を実行する制御手段と、を備えている。
【0006】
ここにおいて、前記見通し不可区間は、通常、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する場合における前記上り勾配の区間内に存在し得る。また、前記見通し地点は、一般に、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する地点近傍の上り勾配の区間内に設定される。前記見通し地点は、運転者の眼の位置と、車両の前端部の位置と、道路勾配とから幾何学的に決定される地点、或いは、この地点よりも手前側の地点に設定され得る。前記操舵比とは、操向車輪の(中立位置からの)舵角に対するステアリングホイールの(中立位置からの)回転角度の割合である。
【0007】
これによれば、道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合において、見通し地点、即ち、車両の運転者が道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点、を基準として、適切な時点(地点)にて運転者に対する報知を行うことができる。或いは、見通し地点を基準として、車速を制御し、車両の操舵比を制御することで、車両が安定して走行できるように車両を制御することができる。
【0008】
具体的には、報知制御では、例えば、見通し地点の位置に基づいて、運転者に対して「上り勾配によって前方の見通しが低下するであろう、或いは、低下している」旨が報知される時点(地点)が決定される。車速制御では、例えば、見通し不可区間において、不必要に車速が増加しないように、見通し地点の位置を利用して加速の制限や減速によって車速が制御される。操舵比制御では、例えば、見通し地点通過後において運転者が前方を見通せるようになったときに慌ててステアリングホイール操作を急激に行ったことで操向車輪の舵角が急激に変化しないように、見通し地点の位置を利用して操舵比が適切に調整される。
【0009】
上記第1の制御装置においては、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路のカーブ情報(Rc,Pc)を取得するカーブ情報取得手段を備え、前記制御手段は、前記カーブ情報(Rc,Pc)に基づいて、前記少なくとも1つ以上の制御の実行に使用される制御パラメータを調整するように構成されることが好適である。
【0010】
これによれば、見通し地点の前方にあるカーブ(特に、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する場合における下り勾配の区間内のカーブ)の情報(曲率半径等)に応じて、報知制御、速度制御、及び操舵比制御を適切に調整することができる。
【0011】
また、前記制御手段は、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路の前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて(特に、見通し地点(Pm)の前方にある道路の下り勾配(−Kr)の程度に基づいて)、前記少なくとも1つ以上の制御の実行に使用される制御パラメータを調整するように構成されてもよい。
【0012】
これによれば、見通し地点の前方にある道路(特に、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する場合における下り勾配の区間内の道路)の勾配情報(下り勾配の程度等)に応じて、報知制御、速度制御、及び操舵比制御を適切に調整することができる。
【0013】
本発明に係る車両の第2の制御装置は、車両の速度(Vx)を取得する車速取得手段と、前記車両の位置(Pvh)を取得する車両位置取得手段と、前記車両の前方にある道路の勾配情報(Kr,Pr)を取得する道路勾配取得手段と、前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点(Pm)を設定する地点設定手段と、前記見通し地点(Pm)を通過する際の前記車両の速度の目標である通過車速(Vm)を決定する通過車速決定手段と、前記見通し地点(Pm)、前記通過車速(Vm)、及び、前記車両位置(Pvh)に基づいて目標車速(Vt)を決定する目標車速決定手段と、前記車両の速度(Vx)と前記目標車速(Vt)とに基づいて、前記車両の速度を制御する車速制御手段と、を備えている。
【0014】
これによれば、道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合において、見通し地点を適正な車速をもって車両が通過することができる。従って、車両が見通し地点を通過した後において運転者が前方を見通せるようになったときに、見通し地点の前方にある道路のカーブ形状、勾配等に応じた適正な車速をもって、車両が見通し地点前方の道路に進入できる。
【0015】
具体的には、前記通過車速決定手段は、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路の前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路の下り勾配(−Kr)の程度が大きいほど、前記通過車速(Vm)をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。
【0016】
一般に、見通し地点通過後において運転者が前方を見通せるようになったときに、車両前方の道路の下り勾配が大きいほど、運転者の心理的な緊張が高くなる。従って、上記構成によれば、見通し地点前方にある道路の下り勾配が大きい場合には、見通し地点通過時の車速を小さくして運転者の安心感を確保でき、見通し地点前方にある道路の下り勾配が小さい場合には、見通し地点通過時の車速を大きくして車両が不必要に減速されることを抑制できる。
【0017】
また、前記通過車速決定手段は、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路のカーブ情報(Rc,Pc)に基づいて、前記見通し地点(Pm)の前方にあるカーブの曲率半径(Rm)が小さいほど、前記通過車速(Vm)をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。これによれば、車両が見通し地点を通過した後において運転者が前方を見通せるようになったときに、見通し地点の前方にあるカーブの曲率半径に応じた適正な車速をもって、車両が見通し地点前方のカーブに進入できる。
【0018】
また、前記地点設定手段は、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路の前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路の下り勾配(−Kr)の程度が大きいほど、前記見通し地点(Pm)をより前記車両に近い地点に設定するように構成されることが好適である。これによれば、見通し地点前方にある道路の下り勾配が大きいほど、車速制御の実行時期を早めることができ、運転者が十分な余裕をもって見通し地点前方の下り勾配の道路に進入できる。
【0019】
或いは、前記地点設定手段は、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路のカーブ情報(Rc,Pc)に基づいて、前記見通し地点(Pm)の前方にあるカーブの曲率半径(Rm)が小さいほど、前記見通し地点(Pm)をより前記車両に近い地点に設定するように構成されることが好適である。これによれば、見通し地点前方にあるカーブの曲率半径が小さいほど、車速制御の実行時期を早めることができ、運転者は、十分な余裕をもって見通し地点前方の下り勾配のカーブに進入できる。
【0020】
本発明に係る車両の第3の制御装置は、前記車両の位置(Pvh)を取得する車両位置取得手段と、前記車両の前方にある道路の勾配情報(Kr,Pr)を取得する道路勾配取得手段と、前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点(Pm)を設定する地点設定手段と、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路のカーブ情報(Rc,Pc)を取得するカーブ情報取得手段と、前記車両位置(Pvh)、前記見通し地点(Pm)、及び、前記カーブ情報(Rc,Pc)に基づいて、前記車両が前記見通し地点(Pm)を通過した後に、前記車両の操舵比(SG)を調整する操舵比制御手段とを備えている。
【0021】
ここにおいて、前記見通し地点(Pm)の前方にあるカーブの曲率半径(Rm)が小さいほど、前記操舵比(SG)がより大きい値に調整されることが好適である。また、前記車両の車速(車両が見通し地点を通過した後の車速)が大きいほど、前記操舵比(SG)がより大きい値に調整されることが好適である。
【0022】
上述のように、見通し地点は、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する地点近傍に設定される。従って、車両が見通し地点を通過後、車輪の接地荷重の配分が「後輪側が大きい配分」から「前輪側が大きい配分」へと変化する。このような後輪側から前輪側への荷重移動が発生する際に運転者がステアリングホイールを操作すると、前輪の接地荷重の増大に起因して前輪(操向車輪)に発生する横力が通常よりも大きくなる。この場合、運転者が想像する以上の過剰なヨーレイトが発生して車両の安定性が損なわれる場合がある。
【0023】
上記構成によれば、見通し地点の前方にある道路のカーブ情報に基づいて操舵比が大きくなるように制御されるから(従って、操向車輪の舵角が小さくされて)、上述した見通し地点通過後の荷重移動に起因する過剰なヨーレイトの発生を抑制することができる。
【0024】
本発明に係る車両の第4の制御装置は、前記車両の位置(Pvh)を取得する車両位置取得手段と、前記車両の前方にある道路の勾配情報(Kr,Pr)を取得する道路勾配取得手段と、前記勾配情報(Kr,Pr)に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点(Pm)を設定する地点設定手段と、前記見通し地点(Pm)の前方にある道路のカーブ情報(Rc,Pc)を取得するカーブ情報取得手段と、前記車両位置(Pvh)と前記見通し地点(Pm)とに基づいて、前記車両が前記見通し地点(Pm)を通過する前に、前記車両の運転者に対して、前記見通し地点(Pm)の前方の前記カーブ情報(Rc,Pc)を報知する報知手段とを備えている。なお、前記報知手段は、前記車両位置(Pvh)と前記見通し地点(Pm)とに基づいて、前記車両が前記見通し地点(Pm)を通過する前に、前記車両の運転者に対して、前記見通し地点(Pm)の前方の前記勾配情報(Kr,Pr)を報知するように構成されることが好ましい。
【0025】
これによれば、運転者が、見通し地点の前方のカーブ情報(或いは、勾配情報)を車両が見通し地点を通過する前に知ることができるから、運転者は、十分な余裕をもって見通し地点前方のカーブに進入できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明による車両の制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。本装置は、車両の動力源であるエンジンEGと、自動変速機TMと、ブレーキアクチュエータBRKと、操舵比制御装置VGと、電子制御ユニットECUと、ナビゲーション装置NAVとを備えている。
【0028】
エンジンEGは、例えば、内燃機関である。即ち、運転者によるアクセルペダル(加速操作部材)APの操作に応じてスロットルアクチュエータTHによりスロットル弁TVの開度が調整される。スロットル弁TVの開度に応じて調整される吸入空気量に応じた量の燃料が燃料噴射アクチュエータFI(インジェクタ)により噴射される。これにより、運転者によるアクセルペダルAPの操作に応じた出力トルクが得られるようになっている。
【0029】
自動変速機TMは、複数の変速段を有する多段自動変速機、或いは、変速段を有さない無段自動変速機である。自動変速機TMは、エンジンEGの運転状態、及びシフトレバー(変速操作部材)SFの位置に応じて、減速比(EG出力軸(=TM入力軸)の回転速度/TM出力軸の回転速度)を自動的に(運転者によるシフトレバーSFの操作によることなく)変更可能となっている。
【0030】
ブレーキアクチュエータBRKは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、モータ等を備えた周知の構成を有している。ブレーキアクチュエータBRKは、非制御時では、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)BPの操作に応じた制動圧力(ブレーキ液圧)を車輪WH**のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給し、制御時では、ブレーキペダルBPの操作(及びアクセルペダルAPの操作)とは独立してホイールシリンダWC**内の制動圧力を車輪毎に調整できるようになっている。
【0031】
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示していて、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示している。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl, 右前輪ホイールシリンダWCfr, 左後輪ホイールシリンダWCrl, 右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示している。
【0032】
操舵比制御装置VGは、アッパステアリングコラムとロアステアリングコラムとの相対回転角度を調整するモータを備えた周知の構成を有している。このモータを制御することで、「操舵比」、即ち、操向車輪(前輪WHf*)の(中立位置からの)舵角に対するステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度の割合を、無段階に変更するようになっている。
【0033】
本装置は、車輪WH**の車輪速度を検出する車輪速度センサWS**と、ホイールシリンダWC**内の制動圧力を検出する制動圧力センサPW**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)角度を検出するステアリングホイール角度センサSAと、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向の加速度(減速度)を検出する前後加速度センサGXと、車体横方向の加速度を検出する横加速度センサGYと、エンジンEGの出力軸の回転速度を検出するエンジン回転速度センサNEと、アクセルペダル(加速操作部材)APの操作量を検出する加速操作量センサASと、ブレーキペダルBPの操作量を検出する制動操作量センサBSと、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサHSと、スロットル弁TVの開度を検出するスロットル弁開度センサTSと、ステアリングホイールSWの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサSTと、を備えている。
【0034】
電子制御ユニットECUは、パワートレイン系及びシャシー系を電子制御するマイクロコンピュータである。電子制御ユニットECUは、上述の各種アクチュエータ、上述の各種センサ、及び自動変速機TMと、電気的に接続され、又はネットワークで通信可能となっている。電子制御ユニットECUは、互いに通信バスCBで接続された複数の制御ユニット(ECU1〜ECU5)から構成される。
【0035】
電子制御ユニットECU内のECU1は、車輪ブレーキ制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、ヨーレイトセンサYR等からの信号に基づいてブレーキアクチュエータBRKを制御することで、周知の車両安定性制御(ESC制御)、アンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)等の制動圧力制御(車輪ブレーキ制御)を実行するようになっている。また、ECU1は、車輪速度センサWS**の検出結果(車輪速度Vw**)に基づいて車両速度(車速)Vxを演算するようになっている。
【0036】
電子制御ユニットECU内のECU2は、エンジン制御ユニットであり、加速操作量センサAS等からの信号に基づいてスロットルアクチュエータTH及び燃料噴射アクチュエータFIを制御することでエンジンEGの出力トルク制御(エンジン制御)を実行するようになっている。
【0037】
電子制御ユニットECU内のECU3は、自動変速機制御ユニットであり、シフト位置センサHS等からの信号に基づいて自動変速機TMを制御することで減速比制御(変速機制御)を実行するようになっている。
【0038】
電子制御ユニットECU内のECU4は、電動パワーステアリング制御ユニットであり、操舵トルクセンサST等からの信号に基づいて電動パワーステアリング装置EPSを制御することでパワーステアリング制御を実行するようになっている。
【0039】
電子制御ユニットECU内のECU5は、操舵比制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、ナビゲーション装置NAV等からの信号に基づいて操舵比制御装置VGを制御することで操舵比を調整するようになっている。
【0040】
ナビゲーション装置NAVは、ナビゲーション処理装置PRCを備えていて、ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段(グローバル・ポジショニング・システム)GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、記憶部MAP、及び表示部(ディスプレー)MTRと電気的に接続されている。ナビゲーション装置NAVは、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信可能となっている。
【0041】
車両位置検出手段GPSは、人工衛星からの測位信号を利用した周知の手法の一つにより車両の位置(緯度、経度等)を検出可能となっている。ヨーレイトジャイロGYRは、車体の角速度(ヨーレイト)を検出可能となっている。入力部INPは、運転者によるナビゲーション機能に係わる操作を入力するようになっている。記憶部MAPは、地図情報、道路情報等の各種情報を記憶している。
【0042】
ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、及び記憶部MAPからの信号を総合的に処理し、その処理結果(ナビゲーション機能に係わる情報)を表示部MTRに表示するようになっている。
【0043】
(車両の制御の概要)
以下、図2を参照しながら、本装置(前記第1の制御装置に対応)により実行される車両の制御の概要について説明する。
【0044】
先ず、道路勾配情報取得手段A1では、道路の勾配情報Kr,Pr(位置Prと、その位置における道路勾配Kr)が取得される。勾配情報Kr,Prは、記憶部MAPの地図情報のデータベース(地図データベース)に記憶されている。
【0045】
見通し不可区間判定手段A2では、勾配情報Kr,Prに基づいて、道路勾配(上り勾配)によって運転者が前方を見通すことができない区間(見通し不可区間)が車両前方に存在するか否かが判定される。見通し不可区間は、後述する図4に示すように、勾配情報Kr,Prを用いて、幾何学的に決定され得る。或いは、見通し不可区間の始点、及び、終点の位置を、地図データベースに予め記憶しておくこともできる。
【0046】
見通し不可区間判定手段A2により見通し不可区間が存在するとの判定がなされると、見通し地点設定手段A3にて、見通し不可区間の終了地点(見通し地点Pm)が設定される。見通し地点Pmは、車両の運転者が道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である。見通し地点Pmは、後述する図4に示すように、勾配情報Kr,Prを用いて、幾何学的に決定され得る。
【0047】
また、勾配情報Kr,Prに基づいて、見通し地点Pmよりも前方(車両から離れる側)の勾配情報Kr,Prを取得し、見通し地点Pmの前方の下り勾配の程度が大きいほど、見通し地点Pmを手前側(車両に近い側)に調整することができる。
【0048】
車両位置取得手段A4では、車両の現在位置Pvhが取得される。車両位置Pvhは、グローバル・ポジショニング・システムGPSを用いて検出される。
【0049】
制御手段A5では、見通し地点Pmと車両位置Pvhとの関係に基づいて、報知制御手段A6による運転者への報知制御、車速制御手段A7による車速制御、及び、操舵比制御手段A8による操舵比制御の少なくとも1つを含む、運転を補助する制御が実行される。具体的には、報知制御では、運転者に対して「上り勾配によって前方の見通しが低下するであろう、或いは、低下している」旨が報知される。車速制御では、見通し不可区間において、不必要に車速が増加しないように、加速の制限や減速によって車速が制御される。操舵比制御においては、運転者が先を見渡せるようになったときに、慌ててステアリングホイール操作を行わないように操舵比が適切に調整される。
【0050】
車速取得手段A9では、車両の速度Vxが取得される。車速Vxに基づいて、制御手段A5での制御が実行され得る。例えば、車速Vxに基づいて、運転者に報知するタイミング、車速制御の実行を開始するタイミングが決定される。
【0051】
具体的には、見通し地点Pmを通過する際の車速(通過車速Vm)が決定され、減速度Gxc(所定値)を考慮して、見通し地点Pmと通過車速Vmとに基づいて、車両が見通し地点Pmに接近していく際の目標車速を演算するための特性Vtchが決定される。この特性Vtchと車両位置Pvhとに基づいて、車両位置Pvhにおける目標車速Vtが決定される。そして、目標車速Vtと実際の車速Vxとが比較され、車速Vxが目標車速Vtを超えたとき、車速制御(車両の減速、或いは、加速制限)が開始される。
【0052】
また、見通し地点Pmよりも距離Lhだけ手前側の地点が、報知を行うための基準地点Phとして設定される。上述の車速制御と同様、減速度Gxc(所定値)を考慮して、報知基準地点Phと通過車速Vmとに基づいて、車両が報知基準地点Phに接近していく際の報知車速を演算するための特性Vhchが決定される。この特性Vhchと車両位置Pvhとに基づいて、車両位置Pvhにおける報知車速Vhが決定される。そして、報知車速Vhと実際の車速Vxとが比較され、車速Vxが報知車速Vhを超えたとき、運転者への報知が実行される。
【0053】
報知基準地点Phは、車速制御の基準となる見通し地点Pmよりも距離Lhだけ手前に設定される。このため、先ず、運転者への報知が実行され、その後、車速制御が開始される。
【0054】
また、道路カーブ情報取得手段A10を備えることもできる。道路カーブ情報取得手段A10では、道路のカーブ情報Rc,Pc(位置Pcと、その位置におけるカーブ形状(曲率半径)Rc)が取得される。このカーブ情報Rc,Pcを用いて、制御手段A5での制御が実行され得る。
【0055】
例えば、車両が見通し地点Pmを通過した後、見通し地点Pmの前方のカーブ情報Rc,Pc、或いは、勾配情報Kr,Prに基づいて、車両の操舵比SGを調整することができる。また、見通し地点Pmの前方のカーブ情報Rc,Pc、或いは、勾配情報Kr,Prに基づいて、車両が見通し地点Pmを通過する前に、運転者に対して、見通し地点Pmよりも前方の道路形状がどのようになっているかについての情報(例えば、○○○メートルの直線の後、半径△△△メートルのカーブがあります、□□%の急な下り坂があります等)を報知することができる。このように、視認できない見通し地点Pmよりも前方の、カーブ形状(曲率半径)や下り勾配の具体的な情報を知らせることで、運転者は運転に余裕を持つことができる。
【0056】
(車両の速度制御の概要)
以下、図3を参照しながら、本装置(前記第2の制御装置に対応)により実行される車両の速度制御の概要について説明する。
【0057】
先ず、見通し地点設定手段A11では、図4に示す方法によって、勾配情報Kr,Prに基づいて見通し地点Pmが設定される。即ち、図4に示すように、運転者の眼の位置と車両の前端部の位置とから、下方向の視野限界Syが幾何学的に決定される。例えば、車両が位置Pv1にある場合、上り勾配の路面が運転者の前方視界を遮ることになる。一方、車両が見通し地点Pmまで進行すると、視野限界Syは路面に遮られなくなり、運転者は前方が見通せるようになる。
【0058】
以上のように、道路勾配Krとその位置Prとに基づいて、見通し不可区間Kmf(区間:Pv1−Pm)、及び、見通し地点(車両の運転者が道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点であり、見通し不可区間の終了地点)Pmを演算することができる。なお、見通し不可区間Kmfの開始地点は、例えば、見通し地点Pmから予め定められた所定距離だけ手前側の地点に設定され得る。また、このような見通し不可区間Kmf、及び見通し地点Pmを求める演算を予め行っておき、この演算結果を、地図データベースに記憶しておくことができる。
【0059】
見通し地点調整手段A12では、上述のカーブ情報Rc,Pcに基づいて、見通し地点Pmの位置を調整することができる。見通し地点Pmは、実際の見通し地点(図4に示すように幾何学的に決定される地点)よりも距離Lmだけ手前側に設定され得る。ここで、距離Lmは、見通し地点Pmの前方の下り勾配(−Kr)が大きいほど、より大きい値に設定され得る。また、カーブ情報Rc,Pcに基づいて、距離Lmを設定することができる。具体的には、見通し地点Pmの前方のカーブの曲率半径Rmが小さいほど、距離Lmがより大きい値に設定され得る。
【0060】
このように距離Lmを設定するのは、見通し地点Pmの前方の下り勾配やカーブ形状等を考慮して、報知や車速制御を早めに開始・実行するためである。ここで、勾配Krは、上り勾配では正の値をとり、下り勾配では負の値をとる。従って、「−Kr」は下り勾配の程度を表す。
【0061】
通過車速決定手段A13では、見通し地点Pmの前方の下り勾配(−Kr)に基づいて、通過車速Vmが設定される。通過車速Vmとは、車両が見通し地点Pmを通過する際の車速の目標である。具体的には、下り勾配(−Kr)が大きいほど、通過車速Vmがより小さい値に設定され得る。これは、運転者が、前方の見通しが得られた際の下り勾配(−Kr)が大きいほど心理的な緊張が高まる傾向を有することに基づく。これにより、運転者の安心感が確保される。
【0062】
また、カーブ情報Rc,Pcに基づいて、通過車速Vmを設定することができる。見通し地点Pmの前方のカーブの曲率半径Rmが小さいほど、通過車速Vmがより小さい値に設定され得る。以上のように、見通し地点Pmの前方の下り勾配や、カーブ形状等を考慮して通過車速Vmが設定される。これにより、運転者は安定して見通し地点Pmを通過できる。
【0063】
目標車速・報知車速決定手段A14では、見通し地点Pm、通過車速Vm、及び、車両位置Pvhに基づいて、報知車速Vh、及び目標車速Vtが決定される。具体的には、見通し地点Pmにおける通過車速Vmを起点として、所定の減速特性Gxc(一定値)をもって目標車速Vtを演算する特性(目標車速演算特性)Vtchが決定される。そして、目標車速演算特性Vtchに車両位置Pvhを入力することで、車両位置Pvhにおける目標車速Vt(Vt〔Pvh〕)が決定される。
【0064】
見通し地点Pmよりも距離Lhだけ手前側に報知基準地点Phが設定される。目標車速Vtと同様に、報知基準地点Phにおける通過車速Vmを起点として、減速度Gxcをもって報知車速Vhを演算する特性(報知車速演算特性)Vhchが決定される。そして、報知車速演算特性Vhchを用いて、車両位置Pvhにおける報知車速Vh(Vh〔Pvh〕)が決定される。
【0065】
制御手段A15では、報知制御手段A16により報知制御が実行されて、運転者への報知が行われる。また、車速制御手段A17により車速制御が実行されて、見通し地点Pmに向けて、車両の加速が抑制され、或いは、車両が減速される。
【0066】
具体的には、報知制御手段A16では、実際の車速Vxと報知車速Vhとが比較され、Vx≦Vhのときには運転者への報知は行われない。Vx>Vhとなったときに、「車両前方に見通し不可区間が存在する」旨が運転者に報知される。
【0067】
車速制御手段A17では、実際の車速Vxと目標車速Vtとが比較され、Vx≦Vtのときには車速制御は行われない。Vx>Vtとなったときに、車速制御が開始される。そして、見通し地点Pmに向けて車速制御が実行され、見通し地点Pmを通過すると車速制御は終了する。
【0068】
以下、図5を参照しながら、車速制御手段A17(車速制御)による車両を減速する処理の詳細について説明する。まず、比較手段A17aでは、現在の実際の車速Vxと目標車速Vtとが比較され、VxとVtとの偏差ΔVx(=Vx−Vt)が演算される。車速制御量演算手段A17bでは、車速偏差ΔVxに基づいて車速制御量Gstが演算される。具体的には、偏差ΔVxが負のとき(Vx<Vt)には車速制御量Gstは「0」に演算され、偏差ΔVxが正のとき(Vx>Vt)には偏差ΔVxの増加に応じて車速制御量Gstが増加するように演算される。
【0069】
この車速制御量Gstに基づいて、実際の車速Vxが目標車速Vtを超えないように、エンジン出力低減手段A17cによるエンジン出力の低減(スロットル開度の低減、点火時期の遅角、及び燃料噴射量の低減のうちで少なくとも1つを実行)、変速機制御手段A17dによる変速機制御(シフトダウンによって減速比を増大)によるエンジンブレーキの増大、及び、車輪ブレーキ制御手段A17eによる車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)の付与のうちの少なくとも1つが実行される。
【0070】
運転者によって制動操作部材(ブレーキペダルBP)が操作される場合、車輪ブレーキ制御手段A17eによる制動トルク(制動圧力)と、運転者の操作による制動トルク(制動圧力)とうちで大きい方が最大値選択手段A17gにより選択される。選択された制動トルク(制動圧力)が車輪ブレーキ手段A17h(例えば、ブレーキディスク及びキャリパ)に与えられる。これは、運転者による制動操作のオーバライドを可能とし、運転者が自らの意志をもって車両の減速度を調整できるようにするためである。
【0071】
以上、本発明の実施形態に係る車両の制御装置によれば、車両の前方にある道路の勾配情報Kr,Prに基づいて、車両の運転者が道路の前方を見通せない区間(見通し不可区間)が車両前方に存在するか否かが判定され、見通し不可区間が存在すると判定された場合、勾配情報Kr,Prに基づいて見通し不可区間の終了地点(見通し地点Pm)が設定される。この見通し地点Pmと現在の車両位置Pvhとに基づいて、車両の運転者に対して報知を行う制御、車両の速度の制御、及び、車両の操舵比の制御のうち少なくとも1つ以上の制御が実行される。
【0072】
これによれば、道路の勾配変化によって車両前方の見通しが損なわれる場合において、見通し地点Pm(車両の運転者が道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点)を基準として、適切な時点(地点)にて運転者に対する報知を行うことができる。或いは、見通し地点Pmを基準として、車速を制御し、車両の操舵比を制御することで、車両が安定して走行できるように車両を制御することができる。
【0073】
また、これらの制御実行に使用されるパラメータは、見通し地点Pmの前方にある道路のカーブ情報Rc,Pc、及び、勾配情報Kr,Prに基づいて調整される。これによれば、見通し地点の前方にある道路(特に、道路勾配が上り勾配から下り勾配へと変化する場合における下り勾配の区間内の道路)の情報(曲率半径、下り勾配等)に応じて、報知制御、速度制御、及び操舵比制御を適切に調整することができる。
【0074】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、運転者の加速操作部材APの加速操作量Apに基づいて、目標車速Vt、及び報知車速Vhを調整することができる。この場合の演算を図6に示す。
【0075】
図6に示すように、加速操作時の修正車速演算手段A19では、加速操作量Apに基づいて、修正車速Vzが演算される。修正車速Vzは、加速操作量ApがAp1(所定値)以下のときには「0(ゼロ)」に、Ap>Ap1のときにはApのAp1からの増加に従って「0」から増加するように、演算される。更に、修正車速Vzには、加速操作量ApがAp2(所定値)以上でVz=Vz1(所定値)で一定となるように上限車速を設けることができる。
【0076】
調整手段(増大手段)A20では、目標車速Vt、及び報知車速Vhに修正車速Vzが加算されて、調整後の目標車速Vt(=Vt+Vz)、及び報知車速Vh(=Vh+Vz)が演算される。このように、加速操作量Apに基づいて演算された修正車速Vzに基づいて目標車速Vt、及び報知車速Vhを増大する方向に調整することで、運転者の加速意志を車速制御に反映することができる。更には、上限車速Vz1が設けられることで、不必要な車両の加速を抑制することができる。
【0077】
また、上記実施形態における報知制御手段A16(図3を参照)では、「車両前方に見通し不可区間が存在する」旨が運転者に報知されるが、見通し地点Pmより手前側を車両が走行中に、見通し地点Pmの前方の道路がどのようになっているかを運転者に報知することができる(前記第4の制御装置に対応)。この場合の演算を図7に示す。
【0078】
図7に示すように、前方情報報知地点設定手段A20では、見通し地点Pmの前方の情報が報知される地点Pzhが設定される。具体的には、現在の車速Vxに基づいて、車速Vxが大きいほど、距離Lzhがより大きい値に決定される。そして、見通し地点Pmより距離Lzhだけ手前側の地点が報知地点Pzhとして設定され得る。距離Lzhは、予め設定された所定値とすることができる。
【0079】
車両位置Pvhが報知地点Pzhと一致したとき、勾配情報Kr,Pr、及び、カーブ情報Rc,Pcに基づいて、見通し地点Pmの前方の道路情報(勾配情報、カーブ情報)が報知される。
【0080】
見通し地点Pm付近では、道路勾配が「上り勾配」から「下り勾配」へと変化する。車両が上り勾配を走行している場合、車輪の接地荷重の配分は「後輪側が大きい配分」となっている。逆に、車両が下り勾配を走行している場合、車輪の接地荷重の配分は「前輪側が大きい配分」となっている。従って、車両が見通し地点Pmを通過する際、後輪側から前輪側への荷重移動が発生する。
【0081】
他方、見通し地点Pmは、運転者にとって前方が見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である。従って、見通し地点Pmの前方にカーブがある場合、車両が見通し地点Pmを通過した直後にて運転者が慌ててステアリングホイールSWを操作する場合がある。このように見通し地点Pm付近でステアリングホイール操作が行われると、上述の荷重移動の影響により(前輪の接地荷重の増大に起因して)、前輪(操向車輪)WHf*に発生する横力が通常よりも大きくなる。この場合、運転者が想像する以上の過剰なヨーレイトが発生して車両の安定性が損なわれる場合がある。
【0082】
このように車両安定性が損なわれるのを防止するため、見通し地点Pmを通過する前に、運転者に対して見通し地点Pmの前方のカーブ形状、道路勾配等の道路情報が提供される。例えば、「○○○メートルの直線の後、半径△△△メートルのカーブがあります」、「□□%の急な下り坂があります」等の情報が提供され得る。これにより、運転者は慌てることなく余裕を持ってステアリングホイール操作を行うことができる。
【0083】
また、上記実施形態では、車両が見通し地点Pmを安定して通過できるように、操舵比を制御することができる(前記第3の制御装置に対応)。この場合の演算を図8に示す。なお、操舵比を大きくすると、ステアリングホイールSWを大きく回転させても前輪(操向車輪)WHf*の操舵角が大きくなり難くなる。
【0084】
先ず、見通し地点Pmと車両位置Pvhとに基づいて、車両と見通し地点Pmとの位置的関係が把握され、これにより、車両が見通し地点Pmを通過したことが判定される。また、カーブ情報Rc,Pcに基づいて、見通し地点Pmの前方のカーブ形状(カーブ半径Rm)が取得される。
【0085】
操舵比設定手段A22では、操舵比SGが、車速Vxに基づいて決定される。即ち、車速Vxが大きくなると操舵比SGが大きい値に調整され、車速Vxが小さくなると操舵比SGが小さい値に調整されるように操舵比SGが決定される。更には、操舵比SGは、見通し地点Pmの前方のカーブの曲率半径Rmにも基づいて決定される。即ち、カーブ曲率半径Rmが大きいとき(例えば、直線の場合)には操舵比SGが小さい値に調整され、カーブ曲率半径Rmが小さくなると操舵比SGが大きい値に調整されるように操舵比SGが決定される。
【0086】
操舵比制御手段A23では、このように決定された操舵比SGとステアリングホイールの舵角θswとに基づいて、モータ回転角演算手段A23aにて、操舵比SGを達成するための目標モータ回転角θmtが決定される。そして、モータ制御手段A23bにて、目標モータ回転角θmtに基づいて電気モータMvが制御される。電気モータMvには回転角センサSNvが設けられていて、実際のモータ回転角θmaが検出される。モータ制御手段A23bでは、目標モータ回転角θmtと実モータ回転角θmaとに基づいて、電気モータMvが制御される。
【0087】
これによれば、車両が見通し地点Pmを通過する際、見通し地点Pmの前方のカーブ情報に基づいて、操舵比SGが大きい値となるように制御され得る。このため、車両が見通し地点Pmを通過する際の上述の荷重移動に起因する過剰なヨーレイトの発生を抑制することができる。
【0088】
ここで、見通し地点Pmの前方のカーブ情報が用いられているが、係るカーブ情報を用いることなく、見通し地点Pmを通過する際、操舵比SGを、予め設定された所定値だけ大きい値となるように調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した制御装置により実行される車両の制御の概要について説明するための機能ブロック図である。
【図3】図1に示した制御装置により実行される車両の車速制御の概要について説明するための機能ブロック図である。
【図4】見通し不可区間、及び見通し地点を幾何学的に決定する手法を説明するための図である。
【図5】図3に示した車速制御手段による車両を減速する処理の詳細について説明するための機能ブロック図である。
【図6】運転者の加速操作を考慮して車速制御及び報知制御が実行される場合の処理について説明するための機能ブロック図である。
【図7】見通し地点より手前側を走行中に見通し地点の前方の道路情報を運転者に報知する場合の処理について説明するための機能ブロック図である。
【図8】操舵比を制御する場合の処理について説明するための機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0090】
AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、WS**…車輪速度センサ、PW**…制動圧力センサ、SA…ステアリングホイール角度センサ、EG…エンジン、TM…変速機、BRK…ブレーキアクチュエータ、VG…操舵比制御装置、ECU…電子制御ユニット、NAV…ナビゲーション装置、GPS…グローバル・ポジショニング・システム、MAP…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の位置を取得する車両位置取得手段と、
前記車両の前方にある道路の勾配情報を取得する道路勾配取得手段と、
前記勾配情報に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない区間である見通し不可区間が前記車両の前方に存在するか否かを判定する区間判定手段と、
前記見通し不可区間が存在すると判定された場合、前記勾配情報に基づいて前記見通し不可区間が終了する地点である見通し地点を設定する地点設定手段と、
前記見通し地点と前記車両位置とに基づいて、前記車両の運転者に対して報知を行う制御、前記車両の速度の制御、及び、前記車両の操舵比の制御のうち少なくとも1つ以上の制御を実行する制御手段と、
を備えた車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記見通し地点の前方にある道路のカーブ情報を取得するカーブ情報取得手段を備え、
前記制御手段は、前記カーブ情報に基づいて、前記少なくとも1つ以上の制御の実行に使用される制御パラメータを調整するように構成された車両の制御装置。
【請求項3】
車両の速度を取得する車速取得手段と、
前記車両の位置を取得する車両位置取得手段と、
前記車両の前方にある道路の勾配情報を取得する道路勾配取得手段と、
前記勾配情報に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点を設定する地点設定手段と、
前記見通し地点を通過する際の前記車両の速度の目標である通過車速を決定する通過車速決定手段と、
前記見通し地点、前記通過車速、及び、前記車両位置に基づいて目標車速を決定する目標車速決定手段と、
前記車両の速度と前記目標車速とに基づいて、前記車両の速度を制御する車速制御手段と、
を備えた車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置において、
前記通過車速決定手段は、
前記見通し地点の前方にある道路の前記勾配情報に基づいて、前記見通し地点の前方にある道路の下り勾配の程度が大きいほど、前記通過車速をより小さい値に決定するように構成された車両の制御装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記地点設定手段は、
前記見通し地点の前方にある道路の前記勾配情報に基づいて、前記見通し地点の前方にある道路の下り勾配の程度が大きいほど、前記見通し地点をより前記車両に近い地点に設定するように構成された車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両の位置を取得する車両位置取得手段と、
前記車両の前方にある道路の勾配情報を取得する道路勾配取得手段と、
前記勾配情報に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点を設定する地点設定手段と、
前記見通し地点の前方にある道路のカーブ情報を取得するカーブ情報取得手段と、
前記車両位置、前記見通し地点、及び、前記カーブ情報に基づいて、前記車両が前記見通し地点を通過した後に、前記車両の操舵比を調整する操舵比制御手段と、
を備えた車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両の位置を取得する車両位置取得手段と、
前記車両の前方にある道路の勾配情報を取得する道路勾配取得手段と、
前記勾配情報に基づいて、前記車両の運転者が前記道路の前方を見通せない状態から見通せる状態に変化する地点である見通し地点を設定する地点設定手段と、
前記見通し地点の前方にある道路のカーブ情報を取得するカーブ情報取得手段と、
前記車両位置と前記見通し地点とに基づいて、前記車両が前記見通し地点を通過する前に、前記車両の運転者に対して、前記見通し地点の前方の前記カーブ情報を報知する報知手段と、
を備えた車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−105454(P2010−105454A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277471(P2008−277471)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】