説明

車両の駆動力制御装置及びその方法

【課題】主駆動輪のスリップ時に従駆動輪を最適に制御することである。
【解決手段】車両の駆動力制御装置は、主駆動輪がスリップしたらモータの駆動によって従駆動輪を駆動するものであり、主駆動輪の駆動力とモータ4の駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出し(ステップS690)、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪のスリップ状態を制御する(ステップS700、ステップS710、ステップS720)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主駆動輪を駆動する内燃機関(エンジン)で発電機を駆動し、その発電機でモータを駆動して4輪駆動状態を実現する車両の駆動力制御装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動力制御装置として、主駆動輪を駆動する内燃機関で発電機を駆動し、その発電機でモータを駆動するものがある(例えば特許文献1参照)。そして、この車両の駆動力制御装置では、モータにより従駆動輪を駆動し、4輪駆動状態を実現している。
【特許文献1】特開2005−57936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような従来技術では、主駆動輪のスリップ(例えば加速スリップ)を検出したときに、従駆動輪を駆動させて、4輪駆動状態にしている。しかし、従駆動輪に駆動力を発生させるために発電機を駆動し内燃機関の出力トルクを減少させてしまうと、内燃機関の出力トルクにより駆動される主駆動輪の駆動力の低下が大きくなる。この結果、車両が減速してしまう場合がある。
本発明の課題は、主駆動輪のスリップ時の車両駆動力を最適に制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明は、内燃機関の回転数が増加すると発電機の電力が増加し、従駆動輪の駆動力が増加する。また、本発明は、主駆動輪がスリップしたらモータの駆動によって従駆動輪を駆動する。そして、本発明は、主駆動輪の駆動制御により、主駆動輪の駆動力とモータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力の増加方向に主駆動輪のスリップ状態を制御する。
ここで、主駆動輪のスリップが増加すると、主駆動輪の駆動力が減少するために、主駆動輪を駆動する内燃機関の出力トルクが減少する。その一方で、内燃機関の出力トルク(出力負荷)の減少により、内燃機関の回転数を増加させることができ、発電機の電力を増加させモータを駆動させて従駆動輪の駆動力を増加させることができる。そして、車両駆動力は、このときの主駆動輪の駆動力及び従駆動輪の駆動力に応じた値になる。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、主駆動輪のスリップ状態に応じて、該主駆動輪の駆動力及び従駆動輪の駆動力、すなわち車両総駆動力も変化する。そのため、主駆動輪の駆動制御により、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪のスリップ状態を制御することで、主駆動輪のスリップ時の車両総駆動力を増加方向に制御でき、主駆動輪のスリップ時の車両総駆動力を最適に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明を適用した車両である。
図1は、本実施形態に係る車両のシステム構成を説明する図である。図1に示すように、車両は、左右前輪1L,1Rが、内燃機関であるエンジン2によって駆動される主駆動輪となる。また、左右後輪3L,3Rが、モータ4によって駆動可能な従駆動輪となる。エンジン2の出力トルクTeを、変速機30及びディファレンスギア31を通じて左右前輪1L,1Rに伝達する。
【0007】
変速機30は、現在の変速のレンジを検出するシフト位置検出手段32を備える。シフト位置検出手段32は、検出したシフト位置信号を4WDコントローラ8に出力する。
変速機30は、不図示の変速制御部からのシフト命令に基づき変速操作を行う。変速制御部は、例えば車速とアクセル開度に基づく変速シフトスケジュールをテーブル等の情報として有する。変速制御部は、そのようなテーブル等の情報を参照し、現在の車速及びアクセル開度に基づき変速点を通過すると判定するとシフト命令を変速機30に出力する。
【0008】
エンジン2の吸気管路14(例えばインテークマニホールド)内には、メインスロットルバルブ15とサブスロットルバルブ16とを備える。アクセルペダル17の踏み込み量等に応じてメインスロットルバルブ15のスロットル開度を調整制御する。アクセルペダル17の踏み込み量に機械的に連動するか、又はアクセルペダル17の踏み込み量を検出するアクセルセンサ40の踏み込み量検出値に応じて、エンジンコントローラ18が電気的に調整制御することで、スロットル開度を調整する。ここで、アクセルペダル17は、アクセル開度指示装置(加速指示操作部)を構成する。アクセルセンサ40は、4WDコントローラ8にも踏み込み量検出値を出力する。
【0009】
また、ステップモータ19をアクチュエータとして、そのステップ数に応じた回転角によりサブスロットルバルブ16の開度を調整制御する。モータコントローラ20からの駆動信号によってステップモータ19の回転角を調整制御する。なお、サブスロットルバルブ16は、不図示のスロットルセンサを備える。スロットルセンサで検出されるスロットル開度検出値に基づいて、ステップモータ19のステップ数をフィードバック制御する。
【0010】
ここで、サブスロットルバルブ16のスロットル開度をメインスロットルバルブ15の開度以下等に調整することによって、運転者のアクセルペダルの操作とは独立に、エンジン2の出力トルクを制御できる。
また、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数検出センサ21を備える。エンジン回転数検出センサ21は、検出した信号をエンジンコントローラ18及び4WDコントローラ8に出力する。また、ブレーキストロークセンサ35を備える。ブレーキストロークセンサ35は、ブレーキペダル34のストローク量を検出する。ブレーキストロークセンサ35は、検出したブレーキストローク量を制動コントローラ36及び4WDコントローラ8に出力する。
【0011】
制動コントローラ36は、入力したブレーキストローク量に応じて、車両に作用する制動力を制御する。具体的には、制動コントローラ36は、各車輪1L,2R,3L,3Rに装備したディスクブレーキ等の制動装置37FL,37FR,37RL,37RRを通じて、車両に作用する制動力を制御する。また、駆動モードスイッチ39は、2WDと4WDとの切替指令を出力する。
また、エンジン2の回転トルクTeの一部を無端ベルト6を介して発電機7に伝達する。発電機7は、エンジン2の回転数Neにプーリ比を乗じた回転数Nhで回転する。
【0012】
図2及び図3は、4WDコントローラ8等の詳細を示す。図2及び図3に示すように、出力電圧Vを調整するための電圧調整器22(レギュレータ)を備える。電圧調整器22は、4WDコントローラ8の発電機制御部8Eからの発電機制御指令値c1(デューティ比)に応じて界磁電流Ifhを調整することで、エンジン2に対する発電機7の発電負荷及び発電する電圧Vを制御する。すなわち、電圧調整器22は、発電機制御部8Eから発電機制御指令c1(デューティ比)を入力し、その発電機制御指令c1に応じたデューティ比に発電機7の界磁電流Ifhを調整する。さらに、電圧調整器22は、発電機7の出力電圧Vを検出し、その検出値を4WDコントローラ8に出力する。なお、発電機7の回転数Nhは、エンジン2の回転数Neからプーリ比に基づき演算できる。
【0013】
図1に示すように、発電機7が発電した電力を電線9を介してモータ4に供給する。ここで、発電機回転数が大きくなるほど発電機7が発電した電力は大きくなる。電線9の途中にはジャンクションボックス10を備える。モータ4(電動機)の駆動軸は、減速機11及びクラッチ12を介して後輪3L,3Rに接続可能になっている。符号13はデフを表す。
【0014】
また、ジャンクションボックス10内には電流センサ23(図2参照)を備える。電流センサ23は、発電機7からモータ4に供給される電力の電機子電流値Iatを検出する。そして、電流センサ23は、検出した電機子電流Iatの信号を4WDコントローラ8に出力する。また、電線9を流れる電圧値(モータ4の電圧)を4WDコントローラ8で検出する。また、リレー24は、4WDコントローラ8から指令によってモータ4に供給される電圧(電流)の遮断及び接続を制御する。
【0015】
また、4WDコントローラ8は、モータ4の界磁電流Ifmを制御する。このとき、4WDコントローラ8は、その界磁電流Ifmの調整によって駆動トルクを目標トルク指令値である目標モータトルクTmになるように調整する。なお、符号25はモータ4の温度を測定するサーミスタである。
また、モータ4の駆動軸の回転数Nmを検出するモータ用回転数センサ26を備える。モータ用回転数センサ26は、検出したモータ4の回転数信号を4WDコントローラ8に出力する。
また、各車輪1L,1R,3L,3Rには、車輪速センサ27FL,27FR,27RL,27RRを備える。各車輪速センサ27FL〜27RRは、対応する車輪1L,1R,3L,3Rの回転速度に応じたパルス信号を車輪速検出値として4WDコントローラ8に出力する。
【0016】
図3は、4WDコントローラ8の構成を示す。図3に示すように、4WDコントローラ8は、目標モータトルク演算部8A、モータ制御部8B、リレー制御部8C、クラッチ制御部8D、発電機制御部8E、ロールバック判断部8F及び目標スリップ量設定部8Gを備える。4WDコントローラ8は、駆動モードスイッチ39が4WD状態の場合に作動する。
リレー制御部8Cは、発電機7からモータ4への電力供給の遮断・接続を制御する。リレー制御部8Cは、4輪駆動状態となっている間は、リレー24を接続状態とする。クラッチ制御部8Dは、クラッチ12の状態を制御する。クラッチ制御部8Dは、4輪駆動状態と判定している間はクラッチ12を接続状態に制御する。
目標モータトルク演算部8Aは、余剰トルク演算部8Aa、加速アシストトルク演算部8Ab及びモータトルク決定部8Acを備える。
余剰トルク演算部8Aaは、前輪の加速スリップに応じた余剰のエンジントルクを演算
する手段である。余剰トルク演算部8Aaは、所定のサンプリング時間毎に、入力した各信号に基づき、所定の処理を行う。
【0017】
図4は、余剰トルク演算部8Aaの処理手順を示す。
図4に示すように、先ずステップS10において、前輪1L,1Rの車輪速から後輪3L,3Rの車輪速を減算することで、前輪1L,1Rの加速スリップ量であるスリップ速度ΔVFを求める。ここで、前輪1L,1Rの車輪速及び後輪3L,3Rは、車輪速車輪速センサ27FL〜27RRからの信号に基づき演算する。スリップ速度ΔVFの演算は、例えば次のようになる。
【0018】
先ず、前輪1L,1Rにおける左右輪速の平均値である平均前輪速VWf、及び後輪3L,3Rにおける左右輪速の平均値である平均後輪速VWrをそれぞれ算出する。次に、平均前輪速VWfと平均後輪速VWrとの偏差から、主駆動輪である前輪1L,1Rの加速スリップ度合を示すスリップ速度(加速スリップ量)ΔVFを、下記(1)式により算出する。
ΔVF=VWf−VWr ・・・(1)
【0019】
続いてステップS20において、前記ステップS10で算出したスリップ速度ΔVFが零(所定値)よりも大きいか否かを判定する。ここで、スリップ速度ΔVFが零以下の場合(ΔVF≦0)、前輪1L,1Rが加速スリップしていないと推定する。そして、ステップS30に進む。また、スリップ速度ΔVFが零よりも大きい場合(ΔVF>0)、前輪1L,1Rが加速スリップしていると推定する。そして、ステップS40に進む。
ステップS30では、Tm1に零を代入する。そして、復帰する(該図4の処理を終了する)。
【0020】
ステップS40では、前輪1L,1Rの加速スリップを抑えるために必要な吸収トルクTΔVFを算出する。具体的には、前記ステップS10で求めたスリップ速度ΔVFを基に、下記(2)式により吸収トルクTΔVFを算出する。
TΔVF=K1×ΔVF ・・・(2)
この(2)式によれば、吸収トルクTΔVFは、加速スリップ量(スリップ速度ΔVF)に比例した量となる。
続いてステップS50において、現在の発電機7の負荷トルクTGを算出する。具体的には、下記(3)式により算出する。
TG=K2・(V×Ia)/(K3×Nh) ・・・(3)
ここで、Vは発電機7の電圧である。Iaは発電機7の電機子電流である。Nhは発電機7の回転数である。K3は効率である。K2は係数である。
【0021】
続いてステップS60において、余剰トルク、つまり発電機7で負荷すべき発電負荷トルクThを算出する。具体的には、前記ステップS40で算出した吸収トルクTΔVF及び前記ステップS50で算出した負荷トルクTGを基に、下記(4)式により発電負荷トルクTh算出する。
Th=TG+TΔVF ・・・(4)
この(4)式によれば、吸収トルクTΔVFや負荷トルクTGが大きくなるほど、発電負荷トルクThは大きくなる。
【0022】
続いてステップS70において、発電負荷トルクThが、仕様等から定まる発電機7の最大負荷容量HQより大きいか否かを判定する。ここで、目標発電負荷トルクThが発電機7の最大負荷容量HQを越えている場合(Th>HQ)、ステップS80に進む。また、
発電負荷トルクThが発電機7の最大負荷容量HQ以下の場合(Th≦HQ)、ステップS80をスキップして、ステップS90に進む。
【0023】
ステップS80では、発電負荷トルクThを最大負荷容量HQに制限する(Th=HQ)。そして、ステップS90に進む。
ステップS90では、発電機負荷トルクThに応じた第1目標モータトルクTm1を算出する。そして処理を終了する(該図4の処理を終了する)。第1目標モータトルクTm1は、前輪の加速スリップ量に応じた目標モータトルクとなる。
なお、前記処理では、一度発電機での負荷トルクを求めてから第1目標モータトルクTm1を演算している。しかし、前輪の加速スリップ量に直接所定のゲインを乗算して第1目標モータトルクTm1を演算することもできる。
【0024】
次に、加速アシストトルク演算部8Abの処理を説明する。
加速アシストトルク演算部8Abは、車両速度Vv及びアクセル開度θ(運転者による加速指示量)に応じた第2目標モータトルクTm2を演算する。図5に示すマップに基づき第2目標モータトルクTm2を演算する。ここで、アクセル開度θが大きくなるほど、第2目標モータトルクTm2は大きくなる。また、車両速度Vvが大きくなるほど、第2目標モータトルクTm2は大きくなる。そして、所定の車両速度Vv以上では零となるように第2目標モータトルクTm2を設定する。所定の車両速度とは、例えば、車両が発進状態から脱したと推定される低速の車両速度である。第2目標モータトルクTm2の最大値(図5中のCONSTの部分)が通常想定される路面での発進が可能と思われるモータトルクとなるように、この特性値を設定する。
【0025】
次に、モータトルク決定部8Acは、余剰トルク演算部8Aa及び加速アシストトルク演算部8Abが演算した第1及び第2目標モータトルクTm1,Tm2についてセレクトハイを行う。モータトルク決定部8Acは、そのセレクトハイにより得た大きい方の値を目標モータトルクTmとして決定する。すなわち、加速スリップ量により決定される吸収トルクTΔVF等に応じた第1目標モータトルクTm1と、アクセル開度θ等に応じた第2目標モータトルクTm2とのうち、大きい方の値を目標モータトルクTmに設定する。そして、目標モータトルクTmをモータ制御部8Bに出力する。
【0026】
次に、図6を参照しつつモータ制御部8Bの処理を説明する。
モータ制御部8Bは、所定サンプリング時間毎に作動し、先ずステップS200において、目標モータトルクTmが零よりも大きいか否かを判定する。ここで、目標モータトルクTmが零よりも大きい場合(Tm>0)、前輪1L,1Rが加速スリップしているなど、4輪駆動状態(モータ駆動要求状態)にある。この場合、ステップS210に進む。また、目標モータトルクTmが零以下の場合(Tm≦0)、4輪駆動状態(モータ駆動要求状態)ではないので、ステップS270に進む。
【0027】
ステップS270では、発電停止(目標発電トルクV=0)の信号など2輪駆動状態の各種の信号を出力する。そして復帰する(該図6の処理を終了する)。
ステップS210では、4輪駆動状態から2輪駆動状態への移行か否かを判定する。ここで、2輪駆動状態への移行と判定した場合、ステップS270に進む。また、2輪駆動状態でない場合、すなわち4輪駆動状態であれば、ステップS215に進む。例えば、モータ回転数が許容限界回転数に近づいたと判定したり、変速機30のレンジが非駆動レンジ(パーキング又はニュートラル)となっていたりすると、2輪駆動状態への移行と判定する。
【0028】
ステップS210から進むステップS270の処理では、4輪駆動終了処理を行い、復帰する(該図6の処理を終了する)。例えば、4輪駆動終了処理として、クラッチ制御部8Dにクラッチオフ指令を出力し、発電停止(目標発電トルクV=0)する。ステップS215では、クラッチ制御部8Dにクラッチオン指令を出力する。そして、ステップS220に進む。
【0029】
ステップS220では、モータ用回転数センサ21が検出したモータ4の回転数Nmを入力し、そのモータ4の回転数Nmに応じた目標モータ界磁電流Ifmを算出する。そして、その目標モータ界磁電流Ifmをモータ界磁電流の目標値とする。なお、センサで検出した界磁電流値の目標モータ界磁電流Ifmに対する偏差に基づきフィードバック制御を行う。
【0030】
ここで、モータ4の回転数Nmに対する目標モータ界磁電流Ifmは、回転数Nmが所定回転数以下の場合には一定の所定電流値とする。また、モータ4が所定の回転数以上になった場合には、公知の弱め界磁制御方式で、モータ4の回転数Nmに対して目標モータ界磁電流Ifmを制御する。すなわち、モータ4の回転数Nmが所定値以上になったらモータ4の界磁電流Ifmを小さくして誘起電圧Eを低下させることでモータ4に流れる電流を増加させて所要モータトルクを得るようにする。これは、モータ4が高速回転になるとモータ誘起電圧Eの上昇によりモータトルクが低下するからである。
【0031】
この結果、モータ4が高速回転になってもモータ誘起電圧Eの上昇を抑えてモータトルクの低下を抑制するため、所要のモータトルクを得ることができる。また、モータ界磁電流Ifmを所定の回転数未満と所定の回転数以上との2段階で制御することで、連続的な界磁電流制御に比べ制御の電子回路を安価にできる。
なお、所要のモータトルクに対しモータ4の回転数Nmに応じて界磁電流Ifmを調整することでモータトルクを連続的に補正するモータトルク補正手段を備えることもできる。すなわち、2段階切替えに対し、モータ回転数Nmに応じてモータ4の界磁電流Ifmを調整することもできる。この結果、モータ4が高速回転になってもモータ4の誘起電圧Eの上昇を抑えモータトルクの低下を抑制するため、所要のモータトルクを得ることができる。また、滑らかなモータトルク特性にできるため、2段階制御に比べ車両を安定させて走行させることができるし、常にモータ駆動効率が良い状態にすることもできる。
【0032】
続いてステップS250において、目標モータトルクTm及び目標モータ界磁電流Ifmを変数として、マップ等に基づき、対応する目標電機子電流Iaを求める。
続いてステップS260において、前記ステップS250で求めた目標電機子電流Iaに基づき、目標モータトルクとするための目標発電電圧V(=Ia×R+E:Eはモータの誘起電圧、Rは発電機とモータとの間の抵抗)を演算し出力する。そして、処理を終了する(該図6の処理を終了する)。
なお、発電機制御部8Eでは、現在の発電電圧を入力しつつ、目標発電電圧Vとなる発電機制御指令値を演算する。そして、発電機制御部8Eでは、電圧調整器22を介して、その発電機制御指令c1に応じた値に発電機7の界磁電流Ifhを調整することで、発電機7の出力電圧を制御する。
【0033】
次に、ロールバック判断部8Fの処理を説明する。
ロールバック判断部8Fでは、車両がロールバックしているか否かを判断して、ロールバック判定フラグFrをモータ制御部8Bに出力する。ロールバック判断では、先ず、変速機30のシフトが前進駆動レンジか否かを判定する。その後、ロールバック判断で、前進駆動レンジと判断した場合には、モータの誘起電圧Erが所定のロールバック判断しきい値ErTH(例えば、0.6V)より小さいか否かを判断する。
【0034】
モータ電圧Vm、モータ電機子電流Ia及びモータ抵抗Rに基づいて、下記(5)式をもとにモータの誘起電圧Erを算出する。
Er=Vm−Ia×R ・・・(5)
そして、算出した誘起電圧Erがロールバック判断しきい値ErTHよりも小さい場合(Er<ErTH)、車両がロールバックしていると判断する。そして、ロールバック判定フラグFrを“1”にセットする。また、Er≧ErTHであるときには、ロールバックしていないと判断する。そして、ロールバック判定フラグFrを“0”にリセットする。
【0035】
ここで、車両が前進するときにモータが回転する方向と同じ方向にモータが回転した場合に誘起電圧Erが正の方向に出力されるように設定しておくと、逆に回転した場合は、誘起電圧Erが負値となる。演算上、誘起電圧Erが負値の場合に、“0”とする処理を行うと、車輪速が所定値より高い(車輪が回転している)状態にあるにもかかわらず、誘起電圧Erが“0”となるので、ロールバック判断しきい値ErTHより小さくなる。これにより、モータが前進方向に回転する場合と逆に回転しているとして、ロールバック状態を検出できる。
【0036】
また、前述のロールバック判断は、変速機のシフトが前進駆動レンジにあるときに後進してしまう状態として説明している。しかし、変速機のシフトが後進駆動レンジにあるときに車両が前進してしまう状態もロールバック状態と判断することができる。この場合、変速機のシフトが後進駆動レンジにあるか否かを判定し、変速機のシフトが後進駆動レンジにあり、且つ、モータが車両前進方向に回転していると判定したときにロールバック状態であると判定する。
【0037】
次に、エンジンコントローラ18の処理を説明する。
エンジンコントローラ18では、所定のサンプリング時間毎に、入力した各信号に基づいて図7に示すような処理が行われる。
図7に示すように、先ずステップS300にて、主駆動輪である前輪1L,1Rの加速スリップ量ΔVを算出する。
続いてステップS310において、前記ステップS300で算出した加速スリップ量ΔVが目標スリップ量Tslipを越えているか否かを判定する。ここで、加速スリップ量ΔVが目標スリップ量Tslipを越えている場合(ΔV>Tslip)、ステップS400に進む。また、加速スリップ量ΔVが目標スリップ量Tslip以下の場合(ΔV≦Tslip)、ステップS320に進む。なお、目標スリップ量Tslipは、例えばスリップ率で10%程度である。
【0038】
ステップS320では、アクセルセンサ40からの検出信号等に基づいて、運転者の要求する目標出力トルクTeNを演算する。
続いてステップS330において、スロットル開度やエンジン回転数Ne等に基づき、現在の出力トルクTeを算出する。
続いてステップS340において、偏差分ΔTeを算出する。具体的には、前記ステップS330で算出した現在の出力トルクTeに対する、前記ステップS320で算出した目標出力トルクTeNの偏差分ΔTeを下記(6)式を用いて算出する。そして、ステップS350に進む。
ΔTe=TeN−Te ・・・(6)
【0039】
一方、ステップS400では、いわゆるエンジンTCS(Traction Control System)制御を行い、所定のTCSトルク変化分を、前記ステップS340で算出した偏差分ΔTeに代入する。そして、ステップS350に進む。TCS(TractionControl System)制御は、エンジン2の出力トルクを抑制して前輪1L,1Rのスリップ率の増加を抑制する制御である。
【0040】
ステップS350では、偏差分ΔTeに応じたスロットル開度αの変化分Δαを演算する。そして、その開度の変化分Δαに対応する開度信号をステップモータ19に出力して、復帰する(該図7の処理を終了する)。
なお、前述の説明では、説明を分かりやすくするために、偏差分ΔTeに対応する開度信号Δαを出力するとしている。しかし、実際には、トルク等の変化を滑らかにするために、起動のたびに所定のトルク増加分若しくはトルク減少分ずつ変化させている。
【0041】
図8及び図9は、目標スリップ量の設定処理の処理手順を示す。この処理は、目標スリップ量設定部8Gが行う。
先ずステップS500において、現在のモータトルク指令値(現在のモータトルク)を算出する。
続いてステップS510において、前記ステップS500で算出した現在のモータトルク指令値が車両要求モータトルク未満か否かを判定する。車両要求モータトルクは目標モータトルクである。ここで、現在のモータトルク指令値が車両要求モータトルク未満の場合(現在のモータトルク指令値<車両要求モータトルク)、ステップS520に進む。また、現在のモータトルク指令値が車両要求モータトルク以上の場合(現在のモータトルク指令値≧車両要求モータトルク)、該図8及び図9の処理を終了する(ステップS500から再び処理を開始する)。
【0042】
ステップS520では、現在のモータトルク指令値がモータ特性の限界(出力限界のモータトルク(NTカーブのMax))に達しているか否かを判定する。すなわち、現在のモータトルク指令値が車両要求モータトルクに達していない場合に、さらに、現在のモータトルク指令値がモータ特性の限界(出力限界のモータトルク(NTカーブのMax))か否かを判定する。
【0043】
NTカーブは、モータトルクとモータ回転数との関係を示す一般的な特性図である。ここで、現在のモータトルク指令値がモータ特性の限界に達している場合、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。また、現在のモータトルク指令値がモータ特性の限界に達していない場合、ステップS530に進む。
ステップS530では、現在のモータ回転数を算出する。続いてステップS540において、現在の発電機回転数を算出する。続いてステップS550において、前記ステップS530及びステップS540で算出した現在のモータ回転数及び発電機回転数を基に、出力可能モータトルクを算出する。
【0044】
図8のステップS550内に示すように、発電機回転数Ngが大きくなるほど、モータトルクは大きくなる。また、エンジン回転数が大きくなるほど発電機回転数Ngが大きくなるから、エンジン回転数が大きくなるほどモータトルクは大きくなる。また、モータ回転数Nmが大きくなるほど、モータトルクは大きくなる。このような特性から、現在のモータ回転数及び発電機回転数に対応する出力可能モータトルクを算出する。
【0045】
続いてステップS560において、前記ステップS550で算出した出力可能モータトルク算出値が、前記ステップS500で算出した現在のモータトルク指令値よりも大きいか否かを判定する。
例えば、一般的に発電機7の界磁電流の上昇遅れに合わせて、モータトルクの上昇も遅れるようにしている。すなわち、ある程度の大きさでモータトルクを出力可能な状態にあっても、モータトルク側を制御するモータトルク指令値にフィルタ等を介在させて、発電機7の界磁電流の上昇の遅れとの調整を図っている。
【0046】
ここで、出力可能モータトルクが現在のモータトルク指令値よりも大きい場合(出力可能モータトルク算出値>現在のモータトルク指令値)、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。また、出力可能のモータトルク指令値が現在のモータトルク指令値以下の場合(出力可能モータトルク≦現在のモータトルク指令値)、ステップS570に進む。
【0047】
ステップS570では、現在の前輪の駆動力(前輪伝達駆動力)を算出する。具体的には、下記(7)式により前輪の駆動力を算出する。
前輪駆動力=エンジン伝達トルク(Ne・トルク容量係数)・トルク比・ギア比) ・・・(7)
ここで、Neは現在のエンジン回転数である。
続いてステップS580において、前輪μ(前輪における路面摩擦係数μ)を算出する。具体的には、前記ステップS570で算出した前輪の駆動力を基に、下記(8)式により前輪μを算出する。
前輪μ=(前輪駆動力/前輪荷重)/重力加速度 ・・・(8)
【0048】
続いてステップS590において、前記ステップS580で算出した前輪μが所定値以下か否かを判定する。ここで、前輪μが所定値以下の場合(前輪μ≦所定値)、すなわち低路面μの場合、ステップS600に進む。また、前輪μが所定値よりも大きい場合(前輪μ>所定値)、すなわち高路面μの場合、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。
【0049】
ステップS600では、現在のモータ回転数、モータトルク指令値(現在のモータ出力トルク)、発電機回転数(GEN回転数)及びシステム効率を基に、現在の発電機の駆動トルク(GEN駆動トルク)を算出する。具体的には、下記(9)式により発電機の駆動トルクを算出する。
発電機の駆動トルク=((K・現在のモータ出力トルク・モータ回転数)/システム効率)/発電機回転数 ・・・(9)
ここで、Kは係数である。例えば、この(9)式によれば、発電機回転数が大きくなるほど、発電機7の駆動トルクは小さくなる。
【0050】
続いてステップS610において、エンジン発生トルク、前輪駆動トルク(前輪駆動力)、エンジン補機トルク及び前記ステップS600で算出した発電機の駆動トルク(GENトルク)を基に、エンジン余剰トルクを算出する。具体的には、下記(10)式によりエンジン余剰トルクを算出する。
エンジン余剰トルク=エンジントルク−前輪駆動トルク−エンジン補機トルク−GENトルク ・・・(10)
【0051】
続いてステップS620において、前記ステップS610で算出したエンジン余剰トルクが零よりも大きいか、すなわちエンジン余剰トルクが残っているか否か(TCS等が動作しているか否か)を判定する。ここで、エンジン余剰トルクが零よりも大きい場合、すなわちエンジン余剰トルクが残っている場合、又はTCS等が動作中の場合、図9に示すステップS630に進む。また、そうでない場合、すなわちエンジン余剰トルクがない場合、又はまだTCS等が動作していない場合、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。
【0052】
ステップS630では、車両要求モータトルク及び現在のモータ回転数を基に、発電機の必要回転数(必要発電機回転数)を算出する。
図9のステップS630内に示すように、発電機回転数Ngが大きくなるほど、モータトルクTmは大きくなる。また、モータ回転数Nmが大きくなるほど、モータトルクTmは大きくなる。このような特性から、車両要求モータトルク及び現在のモータ回転数に対応する、発電機の必要回転数を算出する。
【0053】
続いてステップS640において、前記ステップS630で算出した必要発電機回転数(必要GEN回転数)を基に、必要なエンジン回転数を算出する。具体的には、下記(11)式によりエンジン回転数を算出する。
エンジン回転数=必要GEN回転数/現在のギア比 ・・・(11)
このエンジン回転数は、車両要求モータトルクを実現可能な値になる。
【0054】
続いてステップS650において、前記ステップS640で算出した目標エンジン回転数が現在のエンジン回転数よりも大きいか否かを判定する。ここで、目標エンジン回転数が現在のエンジン回転数よりも大きい場合(目標エンジン回転数>現在のエンジン回転数)、ステップS660に進む。また、目標エンジン回転数が現在のエンジン回転数以下の場合(目標エンジン回転数≦現在のエンジン回転数)、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。
【0055】
ステップS660では、前輪のスリップ率を算出する。
続いてステップS670において、前記ステップS660で算出した前輪のスリップ率が所定値S1よりも大きいか否かを判定する。ここで、前輪のスリップ率が第1所定値S1よりも大きい場合(前輪のスリップ率>S1)、ステップS680に進む。また、前輪のスリップ率が第1所定値S1以下の場合(前輪のスリップ率≦S1)、ステップS710に進む。
【0056】
ステップS680では、前記ステップS660で算出した前輪のスリップ率が第2所定値S2よりも大きいか否かを判定する。第2所定値S2は、第1所定値S1よりも大きい値である(S2>S1)。ここで、前輪のスリップ率が所定値S2よりも大きい場合(前輪のスリップ率>S2)、ステップS690に進む。また、前輪のスリップ率が所定値S2以下の場合(S1<前輪のスリップ率≦S2)、ステップS720に進む。
【0057】
図10は、スリップ率Sと路面μ値μとの関係を示す特性図である。図10を用いて第1所定値S1及び第2所定値S2との関係を説明する。図10に示すように、スリップ率Sと路面μ値μの関係は、大別して、3つの第1〜第3領域(I)、(II)、(III)に分けることができる。第1領域(I)は、スリップ率Sが大きくなるときに、路面μ値μも大きくなる領域である。又は、スリップ率Sが小さくなるときに、路面μ値μも小さくなる領域である。また、第2領域(II)は、スリップ率Sが大きくなるときに、路面μ値μが小さくなる領域である。また、第3領域(III)は、スリップ率Sが大きくなるときに、路面μ値μが小さくなる領域である。そして、第3領域(III)では、路面μ値μの減少割合が第2領域(II)のものよりも大きい。第1所定値S1は、第1領域(I)と第2領域(II)との境界のスリップ率の値である。また、第2所定値S2は、第2領域(II)と第3領域(III)との境界のスリップ率の値である。また、路面μ値μが小さくなると、操舵により車両にヨーを発生させることができないため、路面μ値μがある値(例えば路面μ値μが0.2)以上になるときのスリップ率を、第2所定値S2とすることもできる。
【0058】
ステップS690では、現在の総駆動力(車両総駆動力)及び前回の総駆動力(車両総駆動力)を算出する。具体的には、下記(12)式及び(13)式によりの現在の総駆動力及び前回の総駆動力を算出する。
現在の総駆動力=現在の前輪駆動力+現在の後輪駆動力 ・・・(12)
前回の総駆動力=前回値の前輪駆動力+前回値の後輪駆動力 ・・・(13)
【0059】
続いてステップS700において、前記ステップS690の算出結果を基に、前回の総駆動力が現在の総駆動力未満か否かを判定する。ここで、前回の総駆動力が現在の総駆動力未満の場合(前回の総駆動力<現在の総駆動力)、すなわち総駆動力が増加方向に変化する場合、ステップS710に進む。また、前回の総駆動力が現在の総駆動力以上の場合(前回の総駆動力≧現在の総駆動力)、すなわち総駆動力が減少方向に変化する場合、ステップS720に進む。
ステップS710では、前輪の目標スリップ量をアップさせる。そして、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。また、ステップS720では、前輪の目標スリップ量をダウンさせる。そして、該図8及び図9の処理を終了する(前記ステップS500から再び処理を開始する)。
【0060】
(動作)
発進時において、前輪に加速スリップが発生する前に、モータ4及び発電機7を制御する。このとき、アクセル開度に応じた目標モータトルクに基づきモータ4及び発電機7を制御する。さらに、主駆動輪である前輪1L,1Rの加速スリップに応じた目標モータトルクを演算する。そして、この目標モータトルクとアクセル開度に応じた目標モータトルクとのセレクトハイを行い、大きい側の目標モータトルクに基づきモータ4及び発電機7を制御する。ここで、主駆動輪である前輪1L,1Rが加速スリップは、路面μが小さいためや運転者によるアクセルペダル17の踏み込み量が大きいことで発生する。このようなモータ4及び発電機7の制御により、発進時の車両の加速性を向上させている。
【0061】
そして、前輪1L,1Rの加速スリップ量ΔVを基に、エンジンTCS制御を行っている。さらに、前輪1L,1Rの目標スリップ量を基に、エンジンTCS制御を行っている(前記図7の処理)。ここで、前輪1L,1Rの目標スリップ量がアップすれば、エンジンTCSが作動し難くなる。この結果、前輪1L,1Rの駆動は抑制され難くなる。また、前輪1L,1Rの目標スリップ量がダウンすれば、エンジンTCSが作動し易くなる。この結果、前輪1L,1Rの駆動は抑制され易くなる。そして、所定の条件を基に、そのような前輪の目標スリップ量を制御(調整)している(前記図8及び図9の処理)。
【0062】
ここで、本システムでは、エンジン2により発電機7を回転駆動し、発電機7によりモータ4を駆動し、モータ4により従駆動輪である後輪3L,3Rを駆動している。よって、本システムでは、エンジン2の回転数を増加させて、後輪3L,3Rの駆動力を増加させている。その反対に、エンジン2の回転数を減少させると、後輪3L,3Rの駆動力が減少する。このようなことから、前輪1L,1Rがスリップしているのにもかかわらず、エンジンTCSが作動しなければ、前輪1L,1Rの駆動力が小さくなるため、エンジン2の回転数が増加する。その結果、後輪3L,3Rの駆動力が増加する。
【0063】
図11は、前輪1L,1Rのスリップ率S、前輪1L,1Rの駆動力、後輪3L,3Rの駆動力及び総駆動力の関係を示す。前記図8及び図9の処理により、図11に示すように、総駆動力の最大値を維持するように、前輪1L,1Rの駆動力(前輪のスリップ率)を増減する制御を行う。このとき、例えば、主駆動輪1L,1Rのスリップ変化時に、主駆動輪1L,1Rの駆動力の増減分と従駆動輪3L,3Rの駆動力の増減分との加算値が増加する場合、すなわち総駆動力が増加方向に変化する場合、主駆動輪1L,1Rのスリップ変化を許容するよう制御する。
また、この実施形態では、主駆動輪を駆動する内燃機関と、前記内燃機関で駆動される発電機と、前記発電機の電力で駆動されて従駆動輪を駆動するモータとを備え、前記内燃機関の回転数が増加すると前記発電機の電力が増加し、前記従駆動輪の駆動力が増加する車両の駆動力制御装置を実現している。
【0064】
そして、この実施形態において、エンジンコントローラ18のステップS300及びステップS310の処理は、前記主駆動輪のスリップを検出するスリップ検出手段を実現してうる。また、目標モータトルク演算部8A及びモータ制御部8Bは、前記主駆動輪がスリップしたら前記モータの駆動によって前記従駆動輪を駆動する従駆動輪駆動制御手段を実現している。また、4WDコントローラ8のステップS690の処理は、前記主駆動輪の駆動力と前記従駆動輪駆動制御手段により前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出する車両総駆動力算出手段を実現している。また、4WDコントローラ8のステップS700、ステップS710及びステップS720の処理は、前記主駆動輪の駆動制御により、前記車両総駆動力算出手段が算出する車両総駆動力の増加方向に前記主駆動輪のスリップ状態を制御するスリップ状態制御手段を実現している。
【0065】
また、この実施形態では、主駆動輪を駆動する内燃機関の回転数を増加させることで、発電機の電力を増加させてモータの駆動力を増加させ従駆動輪の駆動力を増加させる車両の駆動力制御方法において、前記主駆動輪の駆動力と、前記主駆動輪がスリップしたら前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出し、前記主駆動輪の駆動制御により、前記車両総駆動力の増加方向に前記主駆動輪のスリップ状態を制御する車両の駆動力制御方法を実現している。
【0066】
また、主駆動輪が実際にスリップしている場合の他、主駆動輪がスリップすると予測できるときにも、前記主駆動輪の駆動力と、前記主駆動輪がスリップしたら前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出し、前記主駆動輪の駆動制御により、前記車両総駆動力の増加方向に前記主駆動輪のスリップ状態を制御することもできる。
【0067】
(作用及び効果)
本実施形態における作用及び効果は次のようになる。
(1)エンジン2の回転数が増加すると発電機7の電力が増加し、従駆動輪(後輪)3L,3Rの駆動力が増加する。また、主駆動輪(前輪)1L,1Rがスリップしたら従駆動輪3L,3Rを駆動する。
さらに、主駆動輪1L,1Rの駆動力とモータ4の駆動により駆動される従駆動輪3L,3Rの駆動力との加算値として車両総駆動力を算出する(前記ステップS690)。そして、主駆動輪1L,1Rの駆動制御により、算出した車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御する(前記ステップS700、ステップS710及びステップS720)。具体的には、エンジンTCSの目標スリップ量を大きくして、エンジンTCSの作動の抑制によりエンジンTCSを作動し難くすることで主駆動輪1L,1Rを駆動させてスリップ量を増加させる。
【0068】
これにより、主駆動輪1L,1Rのスリップ状態に応じて、該主駆動輪1L,1Rの駆動力及び従駆動輪3L,3Rの駆動力、すなわち車両総駆動力も変化する。そのため、主駆動輪1L,1Rの駆動制御により、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御することで、主駆動輪1L,1Rのスリップ時の車両総駆動力を増加方向に制御でき、主駆動輪1L,1Rのスリップ時の車両総駆動力を最適に制御できる。
【0069】
(2)従駆動輪3L,3Rを駆動可能な余剰トルクをエンジン2が有する場合、エンジン2の回転数を増加させるために主駆動輪1L,1Rのスリップを増加させる。
これにより、従駆動輪3L,3Rの駆動力の増加はエンジン2の余剰トルクを利用したものとなり、車両総駆動力を増加方向に適切に変化させることができる。
【0070】
(3)エンジンTCS制御が作動していることを前提として(前記ステップS610及びステップS620)、該エンジンTCS制御の作動を抑制して主駆動輪1L,1Rを駆動させて、該主駆動輪1L,1Rのスリップを増加させる。
エンジンTCS制御が作動中であれば、エンジン2には該エンジンTCS制御の作動による余剰トルクが存在する。そして、このエンジンTCS制御の作動の抑制により主駆動輪1L,1Rを駆動させ該主駆動輪1L,1Rのスリップを増加させることで、エンジン2の余剰トルクを利用しつつ従駆動輪3L,3Rの駆動力を増加させることができる。
【0071】
(4)主駆動輪1L,1Rのスリップ率が増加したら主駆動輪1L,1Rの路面μ値が減少する場合(前記ステップS670及びステップS680)、主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御している。
これにより、主駆動輪1L,1Rがスリップする領域を特定して、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御できる。この結果、車両総駆動力を増加方向に適切に変化させることができる。
【0072】
(5)主駆動輪1L,1Rのスリップ率と主駆動輪1L,1Rの路面μ値との関係は、第1〜第3領域に分けることができる。ここで、第1領域は、主駆動輪1L,1Rのスリップ率が増加するほど主駆動輪1L,1Rの路面μ値が増加する領域である。また、第2領域は、主駆動輪1L,1Rのスリップ率が増加するほど主駆動輪1L,1Rの路面μ値が減少する領域である。また、第3領域は、主駆動輪1L,1Rのスリップ率が増加するほど第2領域よりも大きい割合で主駆動輪1L,1Rの路面μ値が減少する領域である。
【0073】
そして、主駆動輪1L,1Rのスリップ率と主駆動輪1L,1Rの路面μ値との関係が第2領域にあるとき、すなわち、主駆動輪1L,1Rのスリップ率が第1所定値S1と第2所定値S2との間にあるとき、主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御している。
これにより、主駆動輪1L,1Rがスリップする領域を特定して、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御できる。この結果、車両総駆動力を増加方向に適切に変化させることができる。
【0074】
(6)主駆動輪1L,1Rの駆動制御による主駆動輪1L,1Rのスリップ変化時に、主駆動輪1L,1Rの駆動力の増減分と従駆動輪3L,3Rの駆動力の増減分との加算値が増加する場合、主駆動輪1L,1Rの駆動制御による該主駆動輪1L,1Rのスリップ状態の制御として、主駆動輪1L,1Rのスリップ変化を許容するよう制御する。
これにより、簡単に、主駆動輪1L,1Rのスリップ時の車両総駆動力を増加方向に制御できる。
【0075】
(7)車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御する処理(前記ステップS700、ステップS710及びステップS720)に進む条件として、出力可能モータトルクが現在のモータトルク指令値以下となる条件を設けている(前記ステップS560)。
これにより、現在のモータトルク指令値(実際のモータトルク相当)が、出力可能モータトルク(目標モータトルク相当)になった場合にのみ、車両総駆動力の増加方向に主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御する。これは、現在のモータトルク指令値(実際のモータトルク相当)が、出力可能モータトルク(目標モータトルク相当)に到達していなければ、現在のモータトルク指令値(実際のモータトルク相当)が上昇することが見込まれ、車両総駆動力が増加方向に変化すると見込まれるからである。このような場合にまで、主駆動輪1L,1Rのスリップ状態を制御することで、従駆動輪3L,3Rの駆動力を増加させる必要性は低いからである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態を示すシステム構成図である。
【図3】図1における4WDコントローラを示すブロック図である。
【図4】余剰トルク演算部で実行する処理を示すフローチャートである。
【図5】アクセル開度と第2目標モータトルクとの関係を示す図である。
【図6】モータ制御部で実行する処理を示すフローチャートである。
【図7】エンジンコントローラで実行する処理を示すフローチャートである。
【図8】目標スリップ量の設定処理の前半部分を示すフローチャートである。
【図9】目標スリップ量の設定処理の後半部分を示すフローチャートである。
【図10】スリップ率Sと路面μ値との関係を示す特性図である。
【図11】前輪1L,1Rのスリップ率S、前輪1L,1Rの駆動力、後輪3L,3Rの駆動力及び総駆動力の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0077】
1L,1R 前輪、2 エンジン、3L,3R 後輪、4 モータ、7 発電機、8 4WDコントローラ、8A 目標モータトルク演算部、8Aa 余剰トルク演算部、8Ab 加速アシストトルク演算部、8Ac モータトルク決定部、8B モータ制御部、8C リレー制御部、8D クラッチ制御部、8E 発電機制御部、8F ロールバック判断部、8G 目標スリップ量設定部、18 エンジンコントローラ、20 モータコントローラ、36 制動コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主駆動輪を駆動する内燃機関と、前記内燃機関で駆動される発電機と、前記発電機の電力で駆動されて従駆動輪を駆動するモータとを備え、前記内燃機関の回転数が増加すると前記発電機の電力が増加し、前記従駆動輪の駆動力が増加する車両の駆動力制御装置において、
前記主駆動輪がスリップしたら前記モータの駆動によって従駆動輪を駆動する従駆動輪駆動制御手段と、
前記主駆動輪の駆動力と前記従駆動輪駆動制御手段により前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出する車両総駆動力算出手段と、
前記主駆動輪の駆動制御により、前記車両総駆動力算出手段が算出する車両総駆動力の増加方向に前記主駆動輪のスリップ状態を制御するスリップ状態制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記スリップ状態制御手段は、前記従駆動輪を駆動可能な余剰トルクを前記内燃機関が有する場合、前記主駆動輪のスリップを増加させることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
車両は、前記内燃機関の出力トルクを抑制して前記主駆動輪のスリップ率の増加を抑制するTCS(Traction Control System)制御を行っており、
前記スリップ状態制御手段は、前記TCS制御の作動を抑制して前記主駆動輪を駆動させて、該主駆動輪のスリップを増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記スリップ状態制御手段は、前記主駆動輪のスリップ率が増加したら前記主駆動輪の路面μ値が減少する場合、前記主駆動輪のスリップ状態を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記主駆動輪のスリップ率と前記主駆動輪の路面μ値との関係は、前記主駆動輪のスリップ率が増加するほど前記主駆動輪の路面μ値が増加する第1領域と、前記主駆動輪のスリップ率が増加するほど前記主駆動輪の路面μ値が減少する第2領域と、前記主駆動輪のスリップ率が増加するほど前記第2領域よりも大きい割合で前記主駆動輪の路面μ値が減少する第3領域とに分けることができ、
前記スリップ状態制御手段は、前記主駆動輪のスリップ率と前記主駆動輪の路面μ値との関係が前記第2領域にあるとき、前記主駆動輪のスリップ状態を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記スリップ状態制御手段は、前記主駆動輪の駆動制御による該主駆動輪のスリップ変化時に、該主駆動輪の駆動力の増減分と前記従駆動輪駆動制御手段により前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力の増減分との加算値が増加する場合、前記主駆動輪のスリップ状態の制御として、前記主駆動輪のスリップ変化を許容する制御をすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
主駆動輪を駆動する内燃機関の回転数を増加させることで、発電機の電力を増加させてモータの駆動力を増加させ従駆動輪の駆動力を増加させる車両の駆動力制御方法において、
前記主駆動輪の駆動力と、前記主駆動輪がスリップしたら前記モータの駆動によって駆動される従駆動輪の駆動力との加算値として車両総駆動力を算出し、
前記主駆動輪の駆動制御により、前記車両総駆動力の増加方向に前記主駆動輪のスリップ状態を制御すること
を特徴とする車両の駆動力制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−126045(P2010−126045A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304253(P2008−304253)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】