説明

車輪可動装置

【課題】車輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高める仕組みを簡素にするのにより好適な車輪可動装置を実現する。
【解決手段】車輪可動装置は、車両の後輪10a,10bに制駆動力を個別に付与するモータ12a,12b及びブレーキ13a,13bと、後輪10a,10bの間を連結するサブフレーム14を備え、サブフレーム14は、各後輪10a,10bに付与される制駆動力の差に起因するモーメントによって車両の旋回方向に回動して後輪10a,10bの向きを可変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車輪を操舵する車輪可動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の車輪を操舵する機構として、車両の一対の車輪(例えば、左右の後輪)の向きを変える操舵部と、各車輪に制動力又は駆動力(以下、制駆動力)を付与する制駆動部を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、操舵部は、各後輪にロッドを介して連結したアクチュエータなどを有し、アクチュエータを駆動して後輪の舵角を調整する。制駆動部は、各後輪に実装したホイールモータなどを有し、ホイールモータを駆動して大きさが異なる制駆動力を各後輪に個別に付与する。
【0004】
このような車輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用した車輪可動装置は、車両が旋回するに際し、操舵部で車輪舵角を調整すると同時に、制駆動部で各車輪の制駆動力を調整する。これによって車両の重心まわりに生じる旋回モーメントを調整して車両の旋回性能を高めることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−25629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1などの従前の方式は、車輪の舵角を変えるためのアクチュエータや、アクチュエータ用の駆動制御回路などを専用部品として車両に搭載することが余儀なくされる。したがって、車輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高めるに際し、車輪を操舵する仕組みが煩雑になるし、製造コストなどが増大するおそれもある。
【0007】
本発明は、車輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高める仕組みを簡素にするのにより好適な車輪可動装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の車輪可動装置は、車両の少なくとも一対の車輪のそれぞれに制駆動力を付与する制駆動手段と、前記各車輪を連結する車輪連結部材とを備え、前記車輪連結部材は、前記各車輪に付与される制駆動力の差に由来して前記車両の旋回方向に回動されてなることを特徴とする。
【0009】
すなわち、車両を旋回するに際し、車両の例えば左右の後輪に大きさが異なる制駆動力を個別に付与すると、その制駆動力差に由来して車両の旋回運動を補助する旋回ヨーモーメントを発生させることができる。また各車輪の制駆動力差に由来するモーメントによって車輪連結部材が旋回方向に回動するため、車輪の舵角を変化させることができる。このように後輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高めるに際し、車輪の舵角を調整するアクチュエータ等を設けずに済むことから、車輪を操舵する仕組みが簡素になる。
【0010】
この場合において、前記制駆動手段は、前記旋回方向の外周側に位置する車輪に対し、前記旋回方向の内周側の車輪に付与するものよりも大きい制駆動力を付与する。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、前記車輪連結部材は、前記車輪のそれぞれに固定されたサスペンション機構と、該各サスペンション機構を連結する枠体を有し、前記枠体は、前記車輪間の中央に位置する軸まわりに回動可能に軸支される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、前記車輪連結部材は、前記車輪のそれぞれに固定されたサスペンション機構と、該各サスペンション機構を連結する棒状のリンク部材を有し、前記サスペンション機構のそれぞれは、前記旋回方向に回動可能に軸支される。これによれば、サスペンション機構の回動支点から車輪までの距離が比較的小さくなる。したがって、車輪を操舵するに際し、各車輪の前後移動量を抑えつつ操舵角を確保できるから、車輪を操舵する機構がよりコンパクトになるし、車両の旋回運動が小回りのよいものになる。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、前記車両のハンドルの操作角度を計測する操舵角センサと、前記各車輪の車輪速を計測する車輪速センサと、前記車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、前記制駆動手段に制御指令を出力するコントローラを備え、前記コントローラは、前記操舵角センサ及び前記車輪速センサの各計測データから算定した前記車両の目標ヨーレートと、前記ヨーレートセンサから取り込んだ実ヨーレートデータとの差分データを演算し、該差分データをゼロに近づけるように駆動指令を生成して前記制駆動手段に出力する。これによれば、車両が旋回するに際し、その車両の実ヨーモーメントを目標ヨーモーメントに簡単かつ的確に合わせることができることから、車両の旋回性能が高まる。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、前記車両のハンドルの操作角度を計測する操舵角センサと、前記車輪の舵角を計測する車輪角度センサと、前記制駆動手段に制御指令を出力するコントローラを備え、前記コントローラは、前記操舵角センサの計測データから算定した前記車輪の目標角度と、前記車輪角度センサから取り込んだ実角度データとの差分データを算出し、該差分データをゼロに近づけるように駆動指令を生成して前記制駆動手段に出力する。これによれば、車両が旋回するに際し、その車両の車輪舵角を目標角度に簡単かつ的確に合わせることができることから、車両の旋回性能が高まる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車輪の舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高める仕組みを簡素にするのにより好適な車輪可動装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第一の実施形態)
本発明を適用した車輪可動装置の第一の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の車輪可動装置の構成を示す図である。
【0017】
図1に示すように、自動車などの車両の車輪を操舵する車輪可動装置は、車両の一対の車輪(例えば、左右の後輪10a,10b)に対して制動力又は駆動力(以下、制駆動力)を個別に付与する制駆動手段(例えば、モータ12a,12b及びブレーキ13a,13b)などを備えている。
【0018】
ここで、本実施形態の車輪可動装置は、後輪10aと後輪10bの間を連結する車輪連結部材としてのサブフレーム14が取り付けられている。サブフレーム14は、後輪10a,10bに付与される制駆動力の差に起因するモーメントによって車両の旋回方向つまり操舵方向に回動して後輪10a,10bの向きを可変する。
【0019】
すなわち、車両を旋回するに際し、後輪10a,10bに大きさが異なる制駆動力を個別に与えると、その制駆動力差に由来して車両の旋回運動を補助する方向に旋回ヨーモーメントを発生させることができる。また後輪10a,10bの制駆動力差に由来して生じるモーメントによってサブフレーム14が旋回方向に回動するため、サブフレーム14の両端側に固定された後輪10a,10bの舵角を変化させることができる。このように後輪10a,10bの舵角制御と制駆動力の制御を併用して車両の旋回性能を高めるに際し、車輪の舵角を調整するアクチュエータ等を設けずに済む。したがって、車輪を操舵する仕組みが簡素になる結果、製造コストの増大などを抑制できる。
【0020】
より詳細に、本実施形態の車輪可動装置について説明する。図1に示すように、サブフレーム14は、後輪10a,10bの間に介在している。ここでのサブフレーム14は、横方向に延びた矩形の外枠14aと、外枠14aの各長辺部の中央を縦方向に連結する支持部材14bを有する。なお、ここでの縦方向は、車両が直進する際の進行方向に対応し、横方向は、縦方向に直交する水平方向に対応する。外枠14aは、縦方向に間隔をあけて対向した長辺部と、各長辺部の両端を縦方向に連結する短辺部を有するフレームである。支持部材14bは、ジョイント18を介して旋回方向に回動可能に車体に軸支されている。ジョイント18は、後輪10aと後輪10bの間の中央に位置する鉛直回転軸との接合部である。すなわち、サブフレーム14は、地面に対して水平な面内でジョイント18を支点として回動可能に軸支されている。
【0021】
また、サブフレーム14は、その各短辺部にサスペンション機構16a,16bを介して後輪10a,10bが固定されている。ここでの後輪10a,10bの向きは同じである。換言すると、後輪10a,10bのスリップ角つまり対地角は同じである。スリップ角とは、後輪10a,10bの向きと車体の進行方向との間に形成される角度である。なお、サブフレーム14は、ばね20及びダンパー22に接続されている。ばね20及びダンパー22は、サブフレーム14に連結した自由端と、規定部材に連結された固定端を有し、中立状態の位置及び姿勢にサブフレーム14を保持する。ここで後輪10a,10bを連結するサブフレーム14及びサスペンション機構16a,16bを含めて後輪モジュールと適宜称する。
【0022】
また、後輪10aに駆動力を与えるモータ12aと、後輪10aに制動力を与えるブレーキ13aと、後輪10aの車輪速を計測する車輪速センサ15aが搭載されている。同様に、後輪10bに駆動力を与えるモータ12bと、後輪10bに制動力を与えるブレーキ13bと、後輪10bの車輪速を計測する車輪速センサ15bが搭載されている。すなわち、左右の後輪10a,10bに大きさが異なる制動力又は駆動力を個別に付与する機構として、モータ12a,12b及びブレーキ13a,13bが配設されている。ここでのモータ12a,12bは、例えばインホイールモータである。
【0023】
図2及び図3は、図1の車輪可動装置の動作を説明するための図である。なお、図示の便宜上、モータ12a,12b及びブレーキ13a,13bなどを省略している。図2に示すように、車両を反時計回りに旋回させるに際し、旋回方向の外周側に位置する後輪10aにモータ12aから駆動力Aを与えるとともに、旋回方向の内周側に位置する後輪10bにモータ12bから駆動力Bを与える。ここでの駆動力Bは、駆動力Aよりも大きいものとする。このように駆動力A及び駆動力Bを与えると、駆動力Aと駆動力Bの大きさの差に由来してジョイント18まわりにモーメントが発生する。
【0024】
したがって、図3に示すように、サブフレーム14は、駆動力Aと駆動力Bの大きさの差に由来して生じたモーメントによってジョイント18を支点として回動する。サブフレーム14が回動すると、それに連動して後輪10a,10bが旋回方向に回転する。これによって後輪10a,10bの向きが旋回方向に合わせられる。すなわち、後輪10a,10bに与える駆動力Aと駆動力Bのトルク差を制御することにより、後輪10a,10bのスリップ角を変化させることができる。
【0025】
また、車両が反時計回りに旋回している過程で、図2に示すように、旋回方向の外周側に位置する後輪10aに対し駆動力Aを与えるとともに、旋回方向の内周側に位置する後輪10bに対し駆動力Bを与えると、駆動力Aと駆動力Bのトルク差に由来して車両の重心まわりに反時計回りの旋回ヨーモーメントが発生する。ここでの旋回ヨーモーメントは、後輪10a,10bの向きを前輪と同相に合わせる操舵力として作用するとともに、車両の旋回運動をアシストする補助力としても作用する。したがって、車両の旋回運動をより高度に制御可能になることから、例えば、旋回中の車両の姿勢を安定化させることができる。
【0026】
なお、駆動力A,Bの大きさについては、車輪速センサ15a,15bの計測データから算出されるモーメントを目標値モーメントに合わせるようにモータ12a,12bのコントローラが決定する。また、後輪10a,10bに対してモータ12a,12bから駆動力を与える場合を例示したが、後輪10a,10bに対してブレーキ13a,13bから制動力を与える場合も基本的に同じである。また、駆動力A又は駆動力Bのトルク差については、車両の駆動時に車体に発生するタイヤ力と称してもよいし、また、図2及び図3の駆動力A又は駆動力Bを示す矢印は、各後輪10a,10bに付与の駆動力に対する反力に対応するが、便宜上、駆動力A又は駆動力Bに対応するものとして説明している。
【0027】
また、本実施形態は、後輪10a,10bに駆動力を与える機構としてモータ12a,12bを搭載した形態を例示したが、後輪10a,10bに大きさが異なる駆動力を付与可能な形態であればよい。例えば、モータ12a,12bに代えて、いわゆる後輪側ディファレンシャルを搭載してもよい。後輪側ディファレンシャルとは、四輪駆動車又は後輪駆動車などに適用される左右トルク分配機構である。また、本実施形態は、後輪10a,10bに適用した例であるが、前輪に適用可能な場合もある。
【0028】
(第二の実施形態)
本発明を適用した車輪可動装置の第二の実施形態について図面を参照して説明する。図4は、本実施形態の車輪可動装置の構成を示す図である。図5は、図4の車輪可動装置の動作を説明するための図である。本実施形態が第一の実施形態と異なる点は、サブフレーム14に代えて、リンク部材24を後輪モジュールに適用したことにある。したがって、第一の実施形態と相互に対応する箇所に同一符号を付し、相違点を中心に説明する。なお、図示の便宜上、モータ12a,12b及びブレーキ13a,13bなどを省略している。
【0029】
図4に示すように、車両の後輪10aは、その内側にサスペンション機構16aが固定されている。後輪10bも同様に、その内側にサスペンション機構16bが固定されている。サスペンション機構16aは、ジョイント26aを介して旋回方向に回動可能に車体に軸支されている。すなわち、サスペンション機構16aは、地面に対して水平な面内をジョイント26aまわりに回動可能に軸支されている。サスペンション機構16bも同様に、ジョイント26bを介して旋回方向つまり操舵方向に回動可能に車体に軸支されている。このようなサスペンション機構16a,16bの動きに連動して後輪10a,10bのスリップ角が変化する。
【0030】
そして、本実施形態は、サスペンション機構16aとサスペンション機構16bの間を連結するリンク部材24が取り付けられている。リンク部材24は、サスペンション機構16aとサスペンション機構16bの間に介在し、ジョイント26a,26bよりも後方尾に位置するサスペンション機構16a,16bの部分を連結する棒状部材である。ここでのリンク部材24は、サスペンション機構16a,16bを介して後輪10a,10bの操舵方向の角度を同じに合わせる規制部材としての役割を担う。
【0031】
図4に示すように、車両を反時計回りに旋回させるに際し、旋回方向の外周側に位置する後輪10aにモータ12aから駆動力Aを与えるとともに、旋回方向の内周側に位置する後輪10bにモータ12bから駆動力Bを与える。ここでの駆動力Bは、駆動力Aよりも大きいものとする。このように駆動力A及び駆動力Bを与えると、ジョイント26a,26bまわりにモーメントが発生する。
【0032】
したがって、図5に示すように、サスペンション機構16a,16bは、駆動力Aと駆動力Bの大きさの差に由来して生じたモーメントによってジョイント26a,26bを支点として回動する。そして、サスペンション機構16a,16bが回動すると、それに連動して後輪10a,10bが旋回方向に回転する。これによって後輪10a,10bの向きが旋回方向に合わせられる。ただし、後輪10a,10bの舵角は、リンク部材24の矢印X方向の移動に由来して同じものになる。なお、リンク部材24が各サスペンション機構16a,16bの後方尾を連結する例を示したが、これに限られず、要は、サスペンション機構16a,16bを連結する形態であればよい。
【0033】
すなわち、本実施形態は、後輪10a,10bを連結するサスペンション機構16a,16bとリンク部材24などから後輪モジュールを構成する。そして、後輪10a,10bに大きさが異なる制駆動力を与えることにより、制駆動力差に由来して生じるモーメントによって後輪モジュールの全体を旋回方向に回動させる。そして、後輪モジュールに連動して後輪10a,10bの舵角が変わることから、後輪10a,10bの向きが所望の旋回方向に一致する。
【0034】
本実施形態によれば、第一の実施形態と同じ効果に加えて、車両を旋回するに際し、車両の後輪10a,10b及びその周囲のサスペンション機構16a,16bを回転すれば済むから、後輪10a,10bの操舵機構がコンパクトになる。また、モータ12a,12bに例えばインホイールモータを適用することにより、後輪10a,10bの操舵機構が更にコンパクトになる。
【0035】
また、本実施形態は、例えばジョイント26aから後輪10aまでの距離が図1のジョイント18から後輪10bまでの距離よりも小さい。したがって、後輪10a,10bを操舵するに際し、後輪10a,10bの前後移動量を抑えつつ操舵角を確保できるから、車両の旋回運動が小回りのよいものになる。
【0036】
なお、後輪10a,10bに対してモータ12a,12bから駆動力を与える場合を例示したが、後輪10a,10bに対してブレーキ13a,13bから制動力を与える場合も基本的に同じである。
【0037】
(第三の実施形態)
本発明を適用した車輪可動装置の第三の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、図1の車輪可動装置を車両に実装した態様及び車輪可動装置を制御する態様を示すものである。
【0038】
図6は、図1の車輪可動装置を車両に実装した車輪可動システムの構成を示す図である。なお、第一の実施形態と相互に対応する箇所に同一符号を付して説明を省略する。図6に示すように、車両30に搭載される車輪可動システムは、前輪側と後輪側に大別される。前輪側は、車両30の前輪32a,32bに駆動力を与えるエンジン33と、前輪32a,32bの車輪速を計測する車輪速センサ34a,34bを備えている。
【0039】
また、前輪32a,32bの向きを自在に変える前輪操舵機構が設けられている。前輪操舵機構は、運転者により操作されるハンドル36と、ハンドル36の操作角度を計測する操舵角センサ38と、操舵角センサ38の計測データに基づき前輪32a,32bの向きを変える操舵部40を有する。また、車両30の実ヨーレートを計測するヨーレートセンサ42が配設されている。
【0040】
後輪側は、車輪可動装置が搭載されている。ここでの車輪可動装置は、図1に示した後輪10a,10bの操舵機構と、その機構を制御する後輪駆動コントローラ44と、後輪10a,10bのスリップ角を計測する後輪角度センサ46を備えている。後輪駆動コントローラ44は、車輪速センサ34a,34b、操舵角センサ38、ヨーレートセンサ42、及び車輪速センサ15a,15b、後輪角度センサ46などから計測信号を取り込む。また、後輪駆動コントローラ44は、モータ12a,12bやブレーキ13a,13bに駆動信号を出力する。
【0041】
図7は、図6の後輪駆動コントローラ44の構成を示す図である。図7に示すように、後輪駆動コントローラ44は、規範車両モデル算出部50と、減算部52と、コントローラ部54を有する。規範車両モデル算出部50は、操舵角センサ38の操舵角データと、車輪速センサ15a,15b,34a,34bから取り込んだ車輪速データに基づき規範車両モデルの特性を算出し、規範車両モデルの特性から目標ヨーモーメントを決定する。減算部52は、規範車両モデル算出部50から出力の目標ヨーモーメントと、ヨーレートセンサ42から取り込んだ実ヨーモーメントデータとの差分を演算する。
【0042】
コントローラ部54は、減算部52から出力された差分データに基づき、左輪駆動トルク指令を生成してモータ12aに出力するとともに、右輪駆動トルク指令を生成してモータ12bに出力する。具体的には、コントローラ部54は、減算部52から出力された差分データに基づき、その差分をゼロに近づけるように左輪駆動トルク指令及び右輪駆動トルク指令を生成する。すなわち、コントローラ部54は、車両30の実ヨーレートを目標ヨーレートに一致させるための左輪駆動トルク指令及び右輪駆動トルク指令を生成する。
【0043】
モータ12a,12bがトルク指令に基づき後輪10a,10bに駆動力を与えると、その駆動力差に由来して車両30の重心まわりにヨーモーメントが直接的に発生する。また、その駆動力差に由来してサブフレーム14がジョイント18まわりに回動すると、後輪10a,10bのスリップ角が変化して横力が発生するため、車両30の重心まわりのモーメントが生成される。このように発生させたモーメントにより、車両30の実ヨーモーメントを目標ヨーモーメントに簡単かつ的確に合わせることができるため、車両の旋回性能が高まる。
【0044】
(第四の実施形態)
本発明を適用した車輪可動装置の第四の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、後輪10a,10bのスリップ角度を目標角度に合わせる点で、車両30の重心まわりのヨーレートを目標ヨーレートに合わせる第三の実施形態と異なる。したがって、第三の実施形態と相互に対応する箇所に同一符号を付し、相違点を中心に説明する。
【0045】
図8は、本実施形態の後輪駆動コントローラ44aの構成を示す図である。図8に示すように、後輪駆動コントローラ44aは、後輪角度算出部56と、減算部52と、コントローラ部54aを有する。後輪角度算出部56は、操舵角センサ38の計測データに基づき後輪操舵角を算出し、後輪操舵角から目標角度を決定する。減算部52は、後輪角度算出部56から出力の目標角度と、後輪角度センサ46から取り込んだ後輪10a,10bの実スリップ角度との差分を演算する。
【0046】
コントローラ部54aは、減算部52から出力された差分データに基づき、左輪駆動トルク指令を生成してモータ12aに出力するとともに、右輪駆動トルク指令を生成してモータ12bに出力する。具体的には、コントローラ部54は、減算部52から出力された差分データに基づき、その差分をゼロに近づけるように左輪駆動トルク指令及び右輪駆動トルク指令を生成する。すなわち、コントローラ部54aは、後輪10a,10bのスリップ角度を目標角度に一致させるための左輪駆動トルク指令及び右輪駆動トルク指令を生成する。
【0047】
モータ12a,12bがトルク指令に基づき後輪10a,10bに駆動力を与えると、その駆動力差に由来して車両30の重心まわりにヨーモーメントが直接的に発生する。また、その駆動力差に由来してサブフレーム14がジョイント18まわりに回動すると、後輪10a,10bのスリップ角が変化して横力が発生するため、車両30の重心まわりのモーメントが生成される。このように発生させたモーメントにより、後輪10a,10bのスリップ角度を目標角度に簡単かつ的確に合わせることができるため、車両の旋回性能が高まる。なお、本実施形態の後輪駆動コントローラ44aは、図7に示した第三の実施形態の制御機能を必要に応じて盛り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を適用した第一の実施形態の車輪可動装置の構成を示す図である。
【図2】図1の車輪可動装置の動作の説明図である。
【図3】図1の車輪可動装置の動作の説明図である。
【図4】本発明を適用した第二の実施形態の車輪可動装置の構成を示す図である。
【図5】図4の車輪可動装置の動作の説明図である。
【図6】本発明を適用した第三の実施形態の車輪可動装置を車両に実装した車輪可動システムの構成を示す図である。
【図7】図6の後輪駆動コントローラの構成を示す図である。
【図8】本発明を適用した第四の実施形態の車輪可動装置の後輪駆動コントローラの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10a,10b 後輪
12a,12b モータ
13a,13b ブレーキ
14 サブフレーム
16a,16b サスペンション機構
18 ジョイント
24 リンク部材
44 後輪駆動コントローラ
50 規範車両モデル算出部
52 減算部
54 コントローラ部
56 後輪角度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも一対の車輪のそれぞれに制駆動力を付与する制駆動手段と、前記各車輪を連結する車輪連結部材とを備え、前記車輪連結部材は、前記各車輪に付与される制駆動力の差に由来して前記車両の旋回方向に回動されてなることを特徴とする車輪可動装置。
【請求項2】
前記制駆動手段は、前記旋回方向の外周側に位置する車輪に対し、前記旋回方向の内周側の車輪に付与するものよりも大きい制駆動力を付与することを特徴とする請求項1に記載の車輪可動装置。
【請求項3】
前記車輪連結部材は、前記車輪のそれぞれに固定されたサスペンション機構と、該各サスペンション機構を連結する枠体を有し、前記枠体は、前記車輪間の中央に位置する軸まわりに回動可能に軸支されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輪可動装置。
【請求項4】
前記車輪連結部材は、前記車輪のそれぞれに固定されたサスペンション機構と、該各サスペンション機構を連結する棒状のリンク部材を有し、前記サスペンション機構のそれぞれは、前記旋回方向に回動可能に軸支されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輪可動装置。
【請求項5】
前記車両のハンドルの操作角度を計測する操舵角センサと、前記各車輪の車輪速を計測する車輪速センサと、前記車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、前記制駆動手段に制御指令を出力するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記操舵角センサ及び前記車輪速センサの各計測データから算定した前記車両の目標ヨーレートと、前記ヨーレートセンサから取り込んだ実ヨーレートデータとの差分データを演算し、該差分データをゼロに近づけるように駆動指令を生成して前記制駆動手段に出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車輪可動装置。
【請求項6】
前記車両のハンドルの操作角度を計測する操舵角センサと、前記車輪の舵角を計測する車輪角度センサと、前記制駆動手段に制御指令を出力するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記操舵角センサの計測データから算定した前記車輪の目標角度と、前記車輪角度センサから取り込んだ実角度データとの差分データを算出し、該差分データをゼロに近づけるように駆動指令を生成して前記制駆動手段に出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車輪可動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−276689(P2007−276689A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107472(P2006−107472)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】