説明

車両転覆軽減の方法および装置

車両の転覆事象を検出する方法を提供する。車両の横運動エネルギが、車両縦速度および車両横滑り角に応答して判定される。車両の横加速度が、測定される。タイヤ垂直力が、測定される。転覆潜在力インデックスが、横運動エネルギおよび横加速度に応答して判定される。転覆インデックスが、横加速度の要因およびタイヤ垂直力の要因によって転覆潜在力インデックスに重みを付けることによって判定される。比較を行って、転覆インデックスが所定の閾値を超えるかどうかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には車両が転覆する傾向を推定する方法に関し、より具体的には、車両の転覆事象への接近を検出し、実際の転覆の可能性を減らすために訂正行動をもたらす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイナミック・スタビリティ・コントロール(dynamic stability control)システムが、車両で、車両の実際の転覆を防ぐために実施されてきた。車両の転覆は、高い重心を有する車両、特に異なる地理的位置で複数の目的に使用される車両に関する、増大する懸念事項になってきた。車両は、異なるタイプの運転条件の下で車両に働く力に起因して転覆する可能性を有する場合がある。車両が転覆する傾向を有する時を予測し、そのような傾向を有する車両が転覆するのを妨げるために調整を行う方法が使用されてきた。
【0003】
本明細書で使用される転覆事象は、現在の車両運転条件(たとえば、速度、操舵角、横加速度など)が、転覆が実際に発生し得る閾値に達する瞬間と定義される。通常、スタビリティ・コントロール・システムは、ロール角またはロール・レート(roll rate)を測定することによって、転覆事象が発生する傾向を検出し、または推定する。これは、車両が移動している各瞬間のロール角を判定する専用センサを必要とする。センサは、コストが高く、専用の配線およびパッケージング位置を必要とする。車両製造業者は、常に、同一の結果を得ることができる一方、コストが低く、車両の構成要素の個数を最小にする、信頼性のある方法を探している。
【0004】
アンダーステアを誘発し、横加速度を制限するのにディファレンシャル・ブレーキング(differential braking)を使用することも既知である。そのような方法に、ESC(electronic stability control)およびアクティブ・ロール・マネジメント(active roll management)が含まれる。これらのシステムは、通常、臨界横加速度、ホイール・リフト検出、車両ロール・レート(ロール角)、およびロール・エネルギを検出する。サスペンション・ベースのシステムは、アクティブ・ロール・コントロール(active roll control)およびアクティブ・ダンパ・コントロール(active damper control)を使用する。ステアリング・ベースのシステムは、通常、アクティブ・フロント・ステア(active front steer)(操舵角オーバーレイ)および4輪ステアリング(アクティブ・リア・ステア(active rear steer)を使用して、タイヤ・リフトの発生を制御する。これらの方法のそれぞれが、通常は、車両慣性ベースのセンサを使用する。
【0005】
車両の転覆事象を検出し、実際の転覆の可能性を減らす訂正行動をもたらすもう1つの方法が、2003年11月21日出願の保留中の米国特許出願第10/719968号(以下では‘968出願と呼称する)に記載されており、その開示は、参照によって本明細書に組み込まれている。開示された発明は、車両の横運動エネルギおよび横加速度を使用して転覆傾向を検出することによって、車両の転覆事象を検出し、実際の転覆を妨げる訂正行動をもたらす方法を提供する。その発明の一態様で、車両の転覆傾向を検出する方法が提供される。車両の横運動エネルギが、車両縦速度および車両横滑り角に応答して判定される。次に、車両の横加速度が測定される。転覆潜在力インデックスが、横運動エネルギおよび横加速度に応答して判定される。転覆インデックスが、横加速度という要因によって転覆潜在力インデックスに重みを付けることによって判定される。比較を行って、転覆インデックスが所定の閾値を超えるかどうかを判定する。
【0006】
本発明のさまざまな目的および利益は、添付図面に鑑みて読まれる時に、好ましい実施形態の次の詳細な説明から、当業者に明白になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、車両の横運動エネルギおよび横加速度に基づいて、車両の転覆事象を検出し、実際の転覆を妨げる訂正行動をもたらす方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、車両の転覆事象を検出する方法が提供される。車両の横運動エネルギが、車両縦速度および車両横滑り角に応答して判定される。車両の横加速度が、測定される。転覆潜在力インデックスが、横運動エネルギおよび横加速度に応答して判定される。転覆インデックスが、横加速度の要因およびタイヤ垂直力の要因によって転覆潜在力インデックスに重みを付けることによって判定される。比較を行って、転覆インデックスが所定の閾値を超えるかどうかを判定する。
【0009】
本発明のさまざまな目的および利益は、添付図面に鑑みて読まれる時、好ましい実施形態の次の詳細な説明から、当業者に明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
’968出願による車両が転覆する傾向を推定する方法は、車両縦速度および車両横滑り角に応答して車両の横運動エネルギを判定するステップと、車両の横加速度を測定するステップと、横運動エネルギおよび横加速度に応答して転覆潜在力インデックスを判定するステップとを含む。
【0011】
本発明による方法は、ホイール・リフト事象の可能性のよりよい推定を可能にし、これによって制御調整の作動をより簡単にすることのできる追加要因を追加する。車両の横運動エネルギの判定と共に感知されたタイヤ情報を利用することによって、より堅牢な制御アルゴリズムを設計できるようになる。また、タイヤ情報を使用することによって、軽く減衰された(または、非常に摩耗したダンパを有する)車両でのよりよい応答がもたらされる。というのは、慣性センサが、ホイール・リフトを正しく識別しない場合があり、車両を転覆させる形で車両ブレーキを作動させる可能性があるからである。たとえば、軽く減衰された車両の車体は、サスペンション(したがってサスペンション情報)と位相はずれになり、これによって、車両の実際の挙動と矛盾する可能性がある制御システムの応答を作成する可能性がある。本発明による転覆軽減戦略の実施に、車両ロール・レートおよび横加速度を使用する標準的な車両スタビリティ・コントロール・システム、追加センサ情報を使用する機能強化された電子ステアリング・コントロール、および追加センサ情報を使用する機能強化されたロール軽減機能性を含めることができる。計算された車両ロール・インデックスおよび電子ステアリング・コントロールが、本発明に従って追加センサ情報を使用する時に、より正確な応答を有することが予想される。
【0012】
ここで図面、特に図1を参照すると、転覆事象を判定し、実際の転覆の可能性を減らすために制御行動を提供する転覆感知システムのブロック図が示されている。コントローラ12が、車両10(図2に図示)全体に配置された、車両運転パラメータを監視する複数の感知デバイスに結合される。コントローラ12は、車両10が潜在的に転覆する状態にある時を判定し、予想される転覆を妨げる制御行動を提供するために車両運転パラメータに関する信号を複数の感知デバイスから受け取る。複数のセンサに、車両10のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサ14、車両10の速度を感知する車輪センサ16、車両10の横加速度(aym)38を感知する横加速度センサ18、および車両10の操舵角を感知するハンドル・センサ20が含まれる。車両固有動的モデル22が、転覆事象の発生を判定する時に固有の車両特性を提供するために、コントローラのメモリ内、またはその代わりに別々のメモリ・ストレージ・デバイス内に保管される。
【0013】
車両運転パラメータ・データを複数のセンサから取り出した後に、コントローラは、車両10の横運動エネルギ(lateral kinetic energy)24を判定する。運動エネルギ24および横加速度(aym)38は、転覆潜在力インデックス(Φ)26の判定に使用される。その後、転覆インデックス(Φ)28が、転覆潜在力インデックス(Φ)26に重みを付けることによって判定される。転覆インデックス(Φ)28が、現在の車両運転パラメータが維持される場合に実際の転覆が発生し得るクリティカル・ステージにあるとコントローラ12が判定した場合に、コントローラ12は、転覆事象を検出し、実際の転覆を妨げる訂正行動を行うための制御信号を供給する。コントローラ12は、実際の転覆を妨げる少なくとも1つの制御行動を提供するために特定のデバイスまたは副コントローラに信号を供給する。制御行動に、エンジン出力の変更25またはブレーキの作動27などのエンジン・トルク減少、ハンドル角調整29、またはサスペンション調整31を含めることができる。好ましい実施形態では、タイヤ荷重感知機構100が、転覆インデックス(Φ)28に加えられる要因を判定するために含まれるセンサのうちの1つとして含まれる。タイヤ荷重感知機構100およびその実施は、下で詳細に説明する。
【0014】
図2に、バンまたはスポーツ・ユーティリティ・ビークルなどのばね上重量高重心(C.G.)32を有する車両10を示す。y軸34およびz軸36は、道路に沿って移動している間の車両ばね上重量重心32の方向面を表す。軸の組は、車両ばね上重量重心32に対して固定されており、車両ばね上重量重心32と共に回転する。車両10は、y軸34に沿って車両10が働かせるベクトル力である横加速度(aym)38を有する。横加速度(aym)38は、車両ばね上重量重心に取り付けられた加速度計によって測定され、部分的に車両加速度に、部分的に重力に基づく。z軸36に沿って働く力は、
g cos(φ)
によって表される重力30であり、ここで、gは、重力定数であり、φは、横加速度(aym)38および/または存在する場合に路面のスーパー・エレベーション・アングル(super elevation angle)に関する車両ばね上重量重心12のロール角である。車両10は、0°のロール角を有する平らな表面で運転されている間に、cos0°=1なので、重力定数(g)と等しい重力30を有する。公称高さ(h)は、道路から車両ばね上重量重心12までで測定され、半トラック幅(d)は、タイヤの外側の縁から車両ばね上重量重心12までの幅を表す。公称高さ(h)および半トラック幅(d)は、車両固有動的モデル22の一部としてメモリに保管される。
【0015】
図3は、車両10が水平から角度θだけ傾けられている間の、車両10の第1側面の車輪の第1対が路面に接触し、車輪の第2対が路面から持ち上げられている車両10を表す。傾けられた位置にある間に車両ばね上重量重心12に作用する正味の重力31は、次の式によって表される。
g cos(φ)/cos(θ)
再構成された座標軸の組が、傾けられた車両10に関して示されている。z’軸26は、車両ばね上重量重心12に作用する正味の重力に平行であり、横加速度(aym)38のy’軸35は、必ず0と等しい。
【0016】
実際の転覆に必要なポテンシャル・エネルギの最小量は、正味の重力に、静的条件の公称高さと式
(g cosφ/cosθ)*Δh
によって定義される転覆の限界での車両ばね上重量重心32の最終的な高さとの間の高さの差をかけたものである。(h)が、すべての車輪が路面に接触している間(図2に示されているように)の車両ばね上重量重心12の公称高さとして定義される場合に、車両ばね上重量重心12の現在の高さは、式
d sin(θ)+h cos(θ)
によって定義することができ、車両10が実際の転覆の限界にある時の車両ばね上重量重心12の最終的な高さは、式
【0017】
【数1】

によって定義される。したがって、転覆に必要な車両ばね上重量重心12の高さの変化(Δh)は、式
【0018】
【数2】

によって定義され、この式は、
【0019】
【数3】

になる。車両10の横運動エネルギは、ローリング運動を介して非常にすばやくポテンシャル・エネルギに変換できるので、車両10は、横運動エネルギが、実際の転覆に必要なポテンシャル・エネルギの最小量以上である場合に、いつでも転覆する可能性を有する。横運動エネルギは、式
【0020】
【数4】

によって定義され、ここで、Vは、車両の横速度であり、したがって、
【0021】
【数5】

であり、これは、
【0022】
【数6】

になり、
【0023】
【数7】

になる。横速度(V)は、縦速度(V)および車両横滑り角(β)から、
=Vβ
として計算することができる。縦速度(V)は、道路に沿って移動する車両10の速度であり、車輪速度センサによって測定される。車両横滑り角(β)は、コントローラがヨー・レート、横加速度(aym)38、ハンドル角、および車両10の特定の車両動的モデルを監視することによって判定される。
【0024】
転覆潜在力インデックス(Φ)26は、車両横運動エネルギと転覆に必要な最小ポテンシャル・エネルギの間の差から判定される。転覆潜在力インデックス(Φ)26は、次の式によって定義される。
【0025】
【数8】

【0026】
転覆潜在力インデックス(Φ)26を上の不等性条件から判定する際には、cosφが無視される。コントローラによって適用される転覆アルゴリズムの目的は、転覆事象を検出することである。転覆事象は、実際の転覆を妨げるために訂正行動が行われる状態と定義される。これは、転覆角が過度になり、実際の転覆をもたらす前に、転覆事象が識別されることを必要とする。不等式からロール角を省略することが大きい誤差をもたらすかどうかを判定する際に、25°のロール角φが、上の不等式で考慮され、ここで、cos(25°)は0.9と等しい。25°と等しいφを使用することによって転覆潜在力インデックス(Φ)26でcosφを無視することの影響は、転覆潜在力インデックス(Φ)26の0.4%未満である。0.4%の誤差は、車両パラメータおよび推定された車両横滑り角の不確実性より小さく、したがって、転覆潜在力インデックス(Φ)26を判定する時に、ロール角φを無視してもよい。
【0027】
転覆潜在力インデックス(Φ)26が正の時に、車両10は、転覆の可能性を有する。転覆の可能性は、転覆潜在力インデックス(Φ)26の増加に伴って増える。しかし、大きい転覆潜在力インデックス(Φ)26だけでは、必ずしも車両10が転覆することが示されない。大きい運動エネルギを、位置エネルギに変換する必要がある。これは、通常、車両10が、通常は低μ表面での大きい横滑りの後に高μ表面またはこぶに触れた時に発生する。車両10が高μ表面に触れた時に、車両10の横加速度(aym)38が、非常にすばやく増加する。好ましい実施形態では、転覆が発生するために、測定された横加速度(aym)38が、静的臨界横加速度の80%を超える必要がある。しかし、他の好ましい実施形態では、めいめいの車両について転覆が発生するために、測定された横加速度(aym)38を、静的臨界横加速度の100%未満の任意の変数とすることができる。静的臨界横加速度は、平らな表面で車両10を転覆させるのに必要な加速度と定義され、次の式によって表される。
(d/h)*g
測定された横加速度(aym)38および静的臨界横加速度から転覆インデックス(Φ)28を判定する際に、転覆インデックス(Φ)28は、次の式によって定義される。
【0028】
【数9】

【0029】
転覆インデックス(Φ)28は、測定された加速度から静的臨界横加速度を引いたものによって重みを付けた転覆潜在力インデックス(Φ)26である。測定された横加速度(aym)38の絶対値が、臨界加速度の80%未満である時に、このインデックスは0であり、実際の転覆の可能性は、存在しない。転覆インデックス(Φ)28が正の数になる時に、転覆インデックス(Φ)28が、所定の閾値と比較される。転覆インデックス(Φ)28が所定の閾値を超える場合に、コントローラ12は、車両10が転覆するのを妨げる制御行動を行うために信号を供給する。
【0030】
’968出願では、タイヤ垂直力、計算された転覆インデックス、およびゆっくり増加するハンドル角操作中の車両状態を示す複数のグラフが示されている(図4〜6を参照されたい)。また、タイヤ垂直力、計算されたロール・インデックス、およびすばやい操舵操作中の車両状態を示す複数のグラフが示されている(図7〜9を参照されたい)。これらの多彩なグラフは、車両が、説明された操作中に経時的にどのように応答するかを示す。本発明による車両転覆軽減戦略を実施しない車両での車両が転覆事象を有する可能性の判定において、これらと同一の操作の下で、類似する車両応答があることが予想される。しかし、本発明による車両転覆軽減戦略を実施する車両は、下で説明するように、この軽減戦略が実施される時に異なる応答を有する。
【0031】
好ましい実施形態では、タイヤ力センサ情報が、転覆インデックス(Φ)28の式に含まれる。図4に、横加速度と、上で説明したものなどの他の動的車両要因とによって引き起こされる可能性がある荷重を受けている車両タイヤ102が示されている。図示の車両タイヤ102に、タイヤ荷重感知機構100が含まれる。タイヤ荷重感知機構100は、タイヤ力を推定するか測定することのできる任意の適当な感知機構とすることができる。この力を定量化する方法の1つは、タイヤ102の接地面104の長さLを測定し、接地面104長さの変化を測定することによるものとすることができる。接地面104は、タイヤ102のうちで地面と接触している表面と定義することができる。本発明と共に使用することのできるセンサの一例が、2003年10月3日出願の保留中の米国出願特許第10/678537号明細書に記載されており、その開示は、参照によって本明細書に組み込まれている(以下では’537出願と呼称する)。’537出願に記載されているように、荷重を受けたタイヤのたわみ領域の検出に’537出願で使用される手法は、タイヤ102に取り付けられた検出器の加速度計106によって、回転するタイヤの加速度を感知することである。加速度計106は、半径方向加速度と接線方向加速度の両方または一方を測定するのに使用することができる。検出器は、好ましくはタイヤ102の内側表面に位置決めされ、より好ましくはタイヤ102の内側トレッド・ライニングに位置決めされる。タイヤ102が回転し、加速度計106が平らなたわみ領域から外れている時に、高い向心加速度が感知される。逆に、加速度計が平らなたわみ領域にある時および回転していない時に、低い加速度が感知される。たわみ点は、加速度が高い値と低い値の間で推移する点で判定され、これによって接地面104の長さLが定義される。接地面104長さを検出する任意の他の方法および機構を、本発明の範囲から逸脱せずに使用できることを諒解されたい。具体的には、接地面104の長さLを、圧力感知機構、温度感知機構、またはこれらの感知機構の任意の組合せによって定量化することができる。タイヤ荷重感知機構100が、各車両タイヤ102に関して使用されることが好ましい。その形で、タイヤ荷重と、車両が地面に接触している各位置でのタイヤ荷重の間の差とを、より正確に検出することができる。任意の他の力感知機構(または接地面測定システム)を本発明と共に使用して、所望のタイヤ荷重情報を供給することもできることも諒解されたい。
【0032】
上で説明した転覆インデックス(Φ)28に加えられるタイヤ荷重の使用は、複数の領域で転覆軽減戦略の性能および応答を向上させるためである。具体的には、車両の荷重変動に起因する可能性がある車両重心に対するシフトの向上した検出を有することができる。さらに、さまざまな車両タイプに類似する制御プログラムを利用することによって効率を達成することができる。というのは、タイヤ荷重要因が、タイヤ荷重感知機構100が設置された車両の特定の荷重特性に対する車両応答に合わせて自動的に調整されるからである。タイヤ荷重感知機構100は、路面状態を常に監視し、測定し、それに対して調整するという利益も提供する。同様に、タイヤ荷重感知機構100は、車両に据え付けられたタイヤ・サイズおよびタイヤ・タイプに起因する全体的なシステム応答を調整することができる。転覆インデックス(Φ)28の判定にタイヤ荷重感知機構100を使用することによって得られるもう1つの利益は、各タイヤ102が、車両の運転中の作動およびブレーキ荷重変動によって影響を受けることである。したがって、タイヤ荷重感知を含む転覆インデックス(Φ)28は、転覆事象を検出しながら、タイヤのそれぞれに対するこれらの継続的に変化する要因について調整することができる。
【0033】
実施された時に、タイヤ荷重感知機構100は、好ましくは測定されたタイヤ垂直荷重を判定する。タイヤ荷重を、タイヤ・ベースの測定から暗黙のうちに推定することもできることを諒解されたい。感知されたタイヤ荷重の関数が、転覆インデックス(Φ)28に加算される。感知されたタイヤ荷重という追加要因は、ホイール・リフト状態を識別するためのさらなる制御リードをもたらす。すなわち、タイヤ荷重要因情報は、コントローラがホイール・リフト状態をよりすばやくより前もって判定することを可能にする。測定された力の値が処理され、その結果、総合的な転覆インデックス(Φ)28が、より大きいコマンドおよびより大きい位相リードを有する制御行動を引き起こすように、力実施関数が適合される。これによって、制御作動をより正確な時に行うことが可能になる。
【0034】
図5に、すばやい操舵操作中の車両状態を示すグラフを示す。しかし、’968出願からの上で説明したグラフと反対に、図5では、車両応答のうちの1つが、本発明による転覆軽減戦略の実施に基づいて示されている。操舵角は、線110によって表される。すばやい操舵操作は、左への鋭いターンを行い(右側タイヤの垂直力の増加を引き起こし、左側タイヤのホイール・リフトを引き起こす)、その後、右への鋭いターンを行う(左側タイヤの垂直力の増加を引き起こし、右側タイヤのホイール・リフトを引き起こす)車両10を示す。操舵角110の変化は、当技術分野で「フィッシュ・フック」と称する車両操作またはターンを発生させる。図5には、それぞれ線112および114によって表される、車両10の左前タイヤおよび右前タイヤに適用されるタイヤ・ブレーキ圧も示されている。慣性センサからのデータを実施する転覆軽減戦略を使用して判定された転覆インデックスも示されている(アクティブ転覆管理−ARM)。この転覆インデックスは、線116によって表される。図5の転覆インデックス116のグラフは、制御行動が0.5秒と1.0秒の間の点で発生することを示す。転覆インデックスは、0単位と10単位の間の点まで増える。操舵角110が左から右に向けなおされる時に、転覆インデックス116は、ほぼ0に戻る。操舵角110が再び最大レベルに達する時に、転覆インデックス116が、もう一度、0単位と10単位の間で、約0に戻る前よりわずかに大きい点まで増える。
【0035】
本発明による、上で説明したタイヤ力センサを使用することによる、車両10の左前タイヤおよび右前タイヤに適用されるブレーキ圧も、図5に表されており、それぞれ線118および120によって示されている。計算された転覆インデックスも、図5で線122によって示されている。図5の転覆インデックス122のグラフは、制御行動が約0.5秒で行われることを示す。したがって、転覆インデックス122が、上で説明した転覆インデックス116より早い時刻に増加し始めることが明瞭に示されている。この図からわかるように、転覆インデックス122は、慣性センサだけを使用する転覆インデックス116より大きい振幅を有し、よりすばやく頂点124に達する。したがって、コントローラ12は、転覆事象が発生するのを防ぐ制御行動をより効率的に行うことができる。この転覆インデックスは、20単位と30単位の間の点まで増加する。操舵角110が、左から右に向けなおされる時に、転覆インデックス122は、0の上の点に戻り、これによって、車両タイヤに作用するすべての力に、より応答するままになるが、転覆インデックス116は、ほとんど0まで戻る。操舵角110が、反対方向の最大レベルに達する時に、転覆インデックス122は、もう一度、約0に戻る前の、20単位と30単位の間の点まで増える。やはり、転覆インデックス122が、転覆インデックス116より早い点で応答することがわかる。それに加えて、転覆インデックス122が、転覆インデックス116より長い間アクティブのままになり、これによって、車両の状態により応答するままになることがさらにわかる。これは、線118によってさらに示されており、線118は、ブレーキング圧が、アクティブ転覆管理方式の下で左前タイヤに適用される(ブレーキング圧112)より大きい量でより長い持続時間の間に左前タイヤに印加され続けることを示す。
【0036】
図6に、上で説明したものなどの車両操作中の車両の4つのタイヤの車両タイヤ垂直力を示すグラフを示す。タイヤ荷重の表現が、アクティブ転覆管理(ARM)戦略を使用する車両ならびに本発明による転覆軽減戦略を実施する車両について示されている。図6では、ARMタイヤ垂直荷重が、左前タイヤ126、右前タイヤ128、左後タイヤ130、および右後タイヤ132として示されている。本発明による転覆軽減戦略を使用する車両で経験されるタイヤ垂直荷重も、図6に表されており、左前タイヤ134、右前タイヤ136、左後タイヤ138、および右後タイヤ140として示されている。図5に関して上で説明したものなどの車両操作中に、タイヤ荷重は、実質的に図6に示されたものになる。図6のグラフが示すものは、車両がまず左にターンする時に、左側タイヤのタイヤ垂直荷重が減り、右側タイヤの荷重が増えるということである。車両が、その後、右にターンする時に、右側タイヤのタイヤ垂直荷重が減り、左側タイヤの荷重が増える。図6に示されているように、最初のタイヤ垂直荷重は、車両の前端が、約7500ニュートンの荷重を受け、車両の後端が、約4500ニュートンの荷重を受けることを示す。車両が、図5に示された操作を介して移動し、転覆インデックスが、転覆のより高い潜在力がある点まで増える時に、本発明による転覆軽減方式は、ARM方式より高いタイヤ垂直荷重を維持する。より高いタイヤ垂直荷重が維持される状態で、タイヤに、維持可能な、より大きい量の車両制御がある。すなわち、タイヤは、より高いタイヤ垂直荷重がある時に、移動の表面とのより強い接触を有する。図6に示されているように、本発明による軽減方式は、制御作動を利用して、タイヤを、ARM方式より最初の垂直過重に近い状態に、よりすばやく戻す。
【0037】
図7に、車両10が転覆する傾向を推定する方法を示す。ステップ50で、加速度計などのセンサを使用して、横加速度を測定する。ステップ52で、車両の横運動エネルギを判定する。横運動エネルギは、車両縦速度および車両横滑り角から導出される。車両縦速度は、道路に沿って移動する車両10の速度であり、路面に接触する車両車輪から測定することができる。車両横滑り角は、ヨー・レート、ハンドル角、および横加速度に関するデータを提供する車両全体の複数の感知デバイスならびに車両の動的モデルからのデータから取り出されたものに応答してコントローラによって判定することができる。ステップ54で、転覆潜在力インデックスを、ステップ50および52で取り出されたデータに応答して判定する。転覆潜在力インデックスは、横運動エネルギと、転覆に必要な最小ポテンシャル・エネルギとの間の差を提供する。
【0038】
図8に、転覆事象が、実際の転覆を妨げるために訂正行動が行われる瞬間と定義される、車両の転覆事象を推定する方法を示す。ステップ60で、車両の横運動エネルギを、車両縦速度および車両横滑り角から判定する。ステップ62で、横加速度を、加速度計などの感知デバイスから測定する。次に、ステップ64で、横運動エネルギおよび横加速度から、転覆潜在力インデックスを判定する。転覆潜在力インデックスは、横運動エネルギと、転覆に必要な最小ポテンシャル・エネルギとの間の差を提供する。ステップ66で、転覆インデックスを、横加速度の要因によって転覆潜在力インデックスに重みを付けることによって判定する。重み付け係数は、測定された横加速度から、転覆の発生に必要な静的臨界横加速度のある比率を引いた差から導出される。ステップ67で、タイヤ荷重の要因によって潜在力転覆インデックスに重みを付ける。この要因は、上で説明したタイヤ荷重の関数である。ステップ68で、転覆インデックスを所定の閾値と比較する。ステップ70で、転覆インデックスが所定の閾値より大きいかどうかを判定する。転覆インデックスが所定の閾値より小さいという判定が行われた場合には、ステップ60に戻って、運転パラメータに関するデータを取り出して、車両の運動エネルギおよび横加速度に対して変化が発生したかどうかを判定する。転覆インデックスが所定の閾値以上であるという判定がステップ70で行われた場合には、ステップ72で、コントローラが、予想された転覆を妨げるために、運転パラメータのうちの少なくとも1つを変更する制御行動をアクティブ化する。
【0039】
本発明の動作の原理および態様を、好ましい実施形態で説明し、図示した。しかし、本発明を、その趣旨または範囲から外れずに、具体的に説明され、図示されたものと異なる形で実践できることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】転覆事象を判定し、実際の転覆を妨げる転覆感知システムを示すブロック図である。
【図2】重力および横力が車両に働いている重心ばね上重量を示す、車両を示す正面図である。
【図3】車両に即座に転覆する危険がある状態の、車両を示す正面図である。
【図4】車輪内タイヤ感知機構を有する車両タイヤを示す図である。
【図5】すばやい操舵操作中の車両状態を示すグラフである。
【図6】車両タイヤのタイヤ垂直力の比較を示すグラフである。
【図7】車両転覆の傾向を推定する方法を示す図である。
【図8】転覆事象を検出し、実際の転覆を避けるために訂正行動を提供する方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両縦速度および車両横滑り角に基づいて車両の横運動エネルギを判定するステップと、
前記車両の横加速度を測定するステップと、
タイヤ荷重を測定するステップと、
前記横運動エネルギおよび前記横加速度に基づいて転覆潜在力インデックスを判定するステップと、
前記横加速度の要因および前記タイヤ荷重の要因によって前記転覆潜在力インデックスに重みを付けることによって転覆インデックスを判定するステップと、
前記転覆インデックスが所定の閾値を超えるかどうかを判定するステップと
を含む、車両転覆事象の可能性を検出する方法。
【請求項2】
前記測定されるタイヤ荷重が、タイヤ垂直荷重である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定されるタイヤ荷重が、車両タイヤの接地面の長さを測定することと、前記接地面長さの変化を測定することとによって判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記接地面の前記長さが、加速度計、圧力感知機構、および温度感知機構のうちの少なくとも1つによって定量化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記車両の横加速度が、横加速度センサを使用して感知され、
前記方法が、さらに、前記車両のヨー・レートを感知することと、前記車両の速度を感知することと、前記車両の操舵角を感知することと、前記車両の前記速度および前記車両の前記操舵角を前記転覆インデックス判定に含めることとを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記転覆インデックスが所定の閾値を超える時に実際の転覆の可能性を減らすための訂正行動を実施するために前記車両のシステムに制御信号を出力するように構成されたコントローラから制御信号を供給するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記訂正行動が、エンジン・トルク減少、操舵角調整、およびサスペンション調整のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エンジン・トルク減少が、エンジン出力の変更および車両ブレーキの作動のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記車両の前記横加速度が、前記車両の重心に取り付けられた加速度計によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
車両の横加速度を感知する横加速度センサと、
前記車両のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサと、
前記車両の速度を感知するセンサと、
前記車両の操舵角を感知するハンドル・センサと、
タイヤ荷重を測定するタイヤ荷重感知機構と、
動的車両モデルを用いてプログラムされたコントローラであって、前記感知された横加速度、ヨー・レート、車両速度、操舵角、およびタイヤ荷重のうちの少なくとも1つを使用して転覆インデックスを判定し、前記転覆インデックスが所定の閾値を超えるかどうかを判定するように構成され、前記転覆インデックスが前記所定の閾値を超える時に実際の転覆の可能性を減らすための訂正行動を実施するために前記車両のシステムに制御信号を出力するようにさらに構成された、コントローラと
を含む、車両の転覆事象を検出する装置。
【請求項11】
前記訂正行動が、エンジン・トルク減少、操舵角調整、およびサスペンション調整のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記エンジン・トルク減少が、エンジン出力の変更および車両ブレーキの作動のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記車両の前記横加速度を測定する、前記車両の重心に取り付けられた加速度計をさらに含む、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記動的車両モデルが、車両公称高さおよび車両半トラック幅を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
車両の横加速度を感知する横加速度センサと、
前記車両のヨー・レートを感知するヨー・レート・センサと、
前記車両の速度を感知するセンサと、
前記車両の操舵角を感知するハンドル・センサと、
タイヤ荷重を測定するタイヤ荷重感知機構と、
請求項1に記載の転覆インデックス判定に前記車両の前記速度および前記車両の前記操舵角を含めるように構成されたコントローラと
を含む、車両の転覆事象を検出する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−532371(P2007−532371A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505219(P2007−505219)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/010014
【国際公開番号】WO2005/095133
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(599153493)ケルシ・ヘイズ、カムパニ (7)
【Fターム(参考)】