説明

共振回路及びその製造方法並びに電子装置

【課題】振動子の構造寸法のばらつきに起因する共振周波数の変動を抑制することのできる共振回路及びその製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の共振回路30は、基板と、該基板上に形成された固定電極12、及び、該固定電極の少なくとも一部に対向する可動部を備えた可動電極13を有するMEMSレゾネータ10と、該MEMSレゾネータにバイアス電圧を印加するための電圧印加手段20と、を具備し、前記電圧印加手段は、前記可動部を構成する層と同じ層で構成され、該層の厚みで抵抗値が変化する補償用抵抗R11と、該補償用抵抗に接続され、前記可動部を構成する層と異なる構造で構成される基準抵抗R12とを分圧抵抗とし、前記補償用抵抗と前記基準抵抗の接続点電位を前記MEMSレゾネータの少なくとも一方の端子10bに出力し、前記抵抗値の変化により前記層の厚みと正の相関を有する前記バイアス電圧を前記振動子に与える分圧回路を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共振回路及びその製造方法並びに電子装置に係り、特に、MEMSレゾネータを用いた共振回路の構成及び製法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子デバイス市場においては、MEMS(Micro Electro-Mechanical System)技術を用いた製品が加速的に浸透しつつある。MEMS技術を用いた製品とは、半導体製造技術を用いて基板上に形成された微小な構造体(MEMS構造体)を有する電気機械装置(MEMS装置)を言う。MEMS技術を用いたデバイスの具体的な事例としては、加速度センサ、角速度センサ、慣性センサ、圧力センサ等の各種のマイクロセンサ等が挙げられるが、その市場は近年急速に拡大しつつある。このように、MEMS技術は新たなデバイスの創出の可能性を多分に秘めており、今後は微小メカニカルリレー(スイッチ)や可変容量素子等の微小構造体の特徴を生かしたデバイスやそれらの組み合わせが順次実用化されていく見込みである。
【0003】
MEMS技術を用いた新しい応用例としてMEMSレゾネータを備えた共振回路が挙げられる。この種のMEMSレゾネータを備えた共振回路の動作原理としては、静電駆動・検出方式、圧電駆動・検出方式が代表的なものであるが、特に前者はCMOSプロセスのような半導体プロセスとの整合性がよく、小型化や低コスト化に有利な手法といえる。この静電駆動・検出方式は、可動電極と固定電極を有するMEMSレゾネータを形成し、静電力に起因する可動電極の振動を可動電極と固定電極の間の静電容量の変化によって検出するものである。共振回路の一般的な透過特性及び位相特性の例は図3(a)及び(b)に示されている。この種の共振回路を開示する文献としては、以下の特許文献1乃至3がある。
【特許文献1】米国特許第6249073号明細書
【特許文献2】米国特許第6424074号明細書
【特許文献3】特開2004−58228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の共振回路においては、MEMSレゾネータの構造寸法がばらつくことで共振周波数が変動する。したがって、共振周波数の精度を確保するには、製造時における構造寸法のばらつきの低減が必要であり、当該ばらつきが低減できなければ製造後のトリミング工程等を設けることで周波数を補正する必要が生ずるなど、製造工程が複雑化し、製造コストが上昇する。
【0005】
特に、MEMSレゾネータの構造寸法のうち、可動電極の可動部の厚みは共振周波数に直接に大きな影響を及ぼすとともに当該可動部の厚みは数um以下ときわめて薄いため、僅かなばらつきでも共振周波数を大きく変動させることになる。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、振動子の構造寸法のばらつきに起因する共振周波数の変動を抑制することのできる共振回路及びその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる実情に鑑み、本発明の共振回路は、基板と、該基板上に形成された固定電極、及び、該固定電極の少なくとも一部に対向する可動部を備えた可動電極を有するMEMSレゾネータと、該MEMSレゾネータにバイアス電圧を印加するための電圧印加手段と、を具備し、前記電圧印加手段は、前記可動部を構成する層と同じ層で構成され、該層の厚みで抵抗値が変化する補償用抵抗と、該補償用抵抗に接続され、前記可動部を構成する層と異なる構造で構成される基準抵抗とを分圧抵抗として備え、前記補償用抵抗と前記基準抵抗の接続点電位を前記MEMSレゾネータの少なくとも一方の端子に出力し、前記抵抗値の変化により前記層の厚みと正の相関を有する前記バイアス電圧を前記振動子に与える分圧回路を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電圧印加手段が可動部を構成する層と同じ層で構成される補償用抵抗を含み、可動部の層の厚みが変化して共振周波数が変動しようとすると、同じ層の厚みで補償用抵抗の抵抗値が変化し、これによってバイアス電圧が変動して共振周波数の変動を抑制するので、共振周波数の変動が自律的に抑制されるため、共振周波数精度の向上及び安定化を図ることができ、共振周波数の精度が許容範囲内となればトリミング工程などを省略することも可能になる。
【0009】
本発明の一の態様においては、前記分圧回路では前記補償用抵抗側に前記基準抵抗側よりも高い電位が供給され、前記補償用抵抗は、前記層の厚みと負の相関を有する抵抗値を備えた抵抗層で構成される。これによれば、分圧回路において補償用抵抗側に基準抵抗側よりも高い電位が供給され、補償用抵抗が層の厚みと負の相関を有する抵抗値を備えた抵抗層で構成されることにより、層の厚みと接続点電位とが負の相関を有することとなるので、これをMEMSレゾネータの一方の端子に供給することで層の厚みと正の相関を有するバイアス電圧を与えることが可能になる。
【0010】
本発明の他の態様においては、前記電圧印加手段は、前記接続点電位を前記MEMSレゾネータの一方の端子に出力するとともに、前記MEMSレゾネータの他方の端子に他の電位を出力する。これによれば、電圧印加手段が接続点電位をMEMSレゾネータの一方の端子に出力するとともに他方の端子には他の電位を出力することで、MEMSレゾネータの両端子の電位が共に電圧印加手段によって与えられるので、任意のバイアス電圧をMEMSレゾネータに印加する事が可能となる。
【0011】
本発明の別の態様においては、MEMSレゾネータの両側の入力端及び出力端にそれぞれ設けられた入力側結合容量及び出力側結合容量をさらに具備する。これによれば、MEMSレゾネータの両側に入力側結合容量と出力側結合容量が設けられることで、外部接続回路との間が直流的に分離されるため、外部回路の電位によらず、MEMSレゾネータに所望のバイアス電圧を印加することができ、その結果、共振周波数の変動の抑制効果も高めることができる。
【0012】
次に、本発明の共振回路の製造方法は、固定電極及び該固定電極の少なくとも一部に対向する可動部を備えた可動電極を有するMEMSレゾネータと、該MEMSレゾネータにバイアス電圧を印加するための電圧印加手段とを具備する共振回路の製造方法において、前記電圧印加手段は、補償用抵抗と基準抵抗とを分圧抵抗として備え、前記補償用抵抗と前記基準抵抗の接続点電位を前記MEMSレゾネータの少なくとも一方の端子に出力し、前記層の厚みと正の相関を有する前記バイアス電圧を前記振動子に与える分圧回路を有し、前記可動部を形成するとともに、前記可動部と同じ層で前記補償用抵抗を形成する工程と、前記可動部と異なる構造で前記基準抵抗を形成する工程と、を具備することを特徴とする。ここで、可動部と補償用抵抗を形成する工程と、基準抵抗を形成する工程はいずれの工程を先に実施しても構わない。
【0013】
次に、本発明の電子装置は、上記のいずれかに記載の共振回路と、該共振回路に接続される信号回路部とが同一基板上に形成されてなることを特徴とする。これによれば、MEMSレゾネータ及び電圧印加手段を含む共振回路と信号回路部とを同一基板上に一体に構成できるため、コンパクトに構成できるとともに、特に、MEMSレゾネータ及び信号回路部といった複数の構成要素を並行して形成することにより同一工程で複数の構成要素を形成することが可能になるので、製造効率の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【0014】
この場合に、前記可動部と前記補償用抵抗とが前記基板上に形成された収容空間内に共に配置されることが好ましい。これによれば、可動部と補償用抵抗とが収容空間内に共に配置されることで、素子間の動作温度を抑圧する事ができ、その結果、補償用抵抗による共振周波数の補償作用を高めることができる。
【0015】
なお、このような電子装置の例としては、上記信号回路部として負性抵抗を有する増幅回路を用いて発振回路を構成する場合が挙げられる。また、上記基板としては、シリコン基板等の半導体基板、ガラス基板、セラミックス基板などが挙げられるが、振動子としてMEMSレゾネータを構成する場合には、シリコン基板等の半導体基板を用いた半導体装置を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可動部の構造寸法のばらつきに起因する振動子の共振周波数の変動を抑制し、共振回路の周波数特性の精度の向上を図ることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本実施形態の共振回路に用いることのできるMEMSレゾネータ10の構成例を示す概略斜視図、図2は図1のA−A線及びB−B線に沿った断面を示す同振動子10の断面図(a)及び(b)である。
【0018】
MEMSレゾネータ10は、シリコン単結晶等の半導体よりなる基板1上に構成される。基板1上には酸化シリコン(SiO)等の絶縁膜2が形成され、さらに絶縁膜2上には窒化シリコン等の振動子10の下地層11が形成される。下地層11上には、ドーピングにより導電性が付与された多結晶シリコン等よりなる固定電極12と、同様の材質よりなる可動電極13とが形成される。ここで、振動子10の振動子電極を構成する固定電極12の一部と可動電極13の可動部13aは基板1上において適宜の間隔(数um以下)で相互に上下方向に対向配置される。そして、可動部13aは固定電極12との間に生ずる静電引力に応じて図2に二点鎖線で示すように撓み、固定電極12との間の対向間隔を変化させる方向に可動に構成される。
【0019】
なお、図示のMEMSレゾネータ10は可動電極13が片持ち梁状に構成されることにより可動部13aとされた片持ち梁構造を有するが、これは本発明の振動子の一例に過ぎず、本発明においては、MEMSレゾネータの可動部が両持ち梁状に構成されたもの、円盤状に構成されたものなど、種々の形状、構造を採用したものを用いることが可能である。
【0020】
図3は本発明に係る共振回路の上記MEMSレゾネータ10の電気的特性を示す概略特性図である。ここで、図3(a)はMEMSレゾネータ10に交流信号を入力したときの通過特性を示すグラフ、図3(b)は位相変位を示すグラフである。このように、MEMSレゾネータ10は適宜の共振周波数を有する共振特性を備えているが、この共振周波数fは、以下の式(1)で示される。
=(1/2π)・(k/meff1/2・・・(1)
ここで、kはMEMSレゾネータ10の構造から決定されるばね定数、meffは同構造の有効質量である。
【0021】
一方、MEMSレゾネータ10の固定電極12と可動電極13の間に適宜のバイアス電圧(直流バイアス)を印加すると両電極の間に静電引力が発生し、上記ばね定数kを減少させる様に作用する。このため、上記式(1)により共振周波数fが低下する。そして、一般に、バイアス電圧が増加するほど共振周波数fは減少することになる。
【0022】
図4は、MEMSレゾネータ10に印加したバイアス電圧Vbを変化させたときの交流信号の共振特性を示すグラフである。このように、バイアス電圧Vbが増加するほど共振周波数fは低下する。
【0023】
図5は、第1実施形態に用いられるMEMSレゾネータ10を含む共振回路30の構成を示す回路図である。この例では、共振回路30の入力端30aと出力端30bがMEMSレゾネータ10の両端子10a、10b(いずれか一方が上記固定電極12に接続された側の端子で、いずれか他方が上記可動電極13に接続された側の端子)に接続されるとともに、MEMSレゾネータ10の入力側端子10aと入力端30aとの間、並びに、出力側端子10bと出力端30bとの間には電圧印加手段であるバイアス回路20が接続されている。また、入力端30aには入力側結合容量Caが接続され、出力端30bには出力側結合容量Cbが接続される。
【0024】
バイアス回路20は、MEMSレゾネータ10の両端に直流バイアス電圧を印加するための構成部分である。バイアス回路20は、補償用抵抗R11と、基準抵抗R12とが直列に接続されてなり、両抵抗の直列回路の両端に電圧が印加される分圧回路21を有する。図示例の場合、分圧回路21では、補償用抵抗R11側に高電位である直流電源電位Vdcが供給され、基準抵抗R12側が低電位である接地電位に接続されている。そして、補償用抵抗R11と基準抵抗R12の接続点電位VpがMEMSレゾネータ10の出力側端子10bに与えられる。この接続点電位Vpは、分圧回路21の両端の電位差圧Vdcと分圧比Dv=R12/(R11+R12)に応じた電位Vp=Dv・Vdcとなる。
【0025】
一方、バイアス回路20には、MEMSレゾネータ10の入力側端子10aに接続された電位供給部22が設けられ、この電位供給部22は抵抗R13を介して定電位(図示例では接地電位)に接続され、MEMSレゾネータ10の入力側端子10aに電位Vqを与える。ここで、本実施形態では接続点電位Vpは常に電位Vqより高くなるように構成される。このようにして、MEMSレゾネータ10には、上記バイアス回路20の分圧回路21が供給する電位Vpと、電位供給部22が供給する電位Vqとの差に相当するバイアス電圧Vb=Vp−Vqが印加される。なお、この共振回路30は入力端30aと出力端30bが外部回路に接続されて用いられるが、外部回路とは入力側結合容量Ca及び出力側結合容量Cbにより直流的に分離されるので、MEMSレゾネータ10にはバイアス回路20による上記バイアス電圧Vbのみが直流バイアスとして印加される。
【0026】
なお、この第1実施形態では、MEMSレゾネータ10の出力側端子10bに分圧回路21による電位Vpが供給され、入力側端子10aに他の電位Vqが電位供給部22により供給されるが、これとは逆に、入力側端子10aに分圧回路21による電位Vpが供給され、出力側端子10bに他の電位Vqが供給されるように構成してもよい。また、バイアス回路20がMEMSレゾネータ10のいずれか一方の端子に電位Vpを供給する分圧回路21のみで構成されていてもよい。
【0027】
図6は、第2実施形態の共振回路30′の構成を示す回路図である。この例では、MEMSレゾネータ10の両端に共に分圧回路による電位Vp、Vqを供給するバイアス回路20′が設けられる点で第1実施形態と異なるが、他の構成は全て同一であるので、説明を省略する。
【0028】
ここで、MEMSレゾネータ10の出力側端子10bには第1実施形態と同様の補償用抵抗R11及び基準抵抗R12を備えた分圧回路21が接続される。ここで、この分圧回路21では、補償用抵抗R11側が高電位のVdc1に接続され、基準抵抗R12側が低電位の接地電位に接続される。
【0029】
また、MEMSレゾネータ10の入力側端子10aには基準抵抗R14及び補償用抵抗R15を備えた分圧回路22′が接続される。この分圧回路22′は、基準抵抗R14側が高電位のVdc2に接続され、補償用抵抗R15側が低電位の接地電位に接続される。
【0030】
この場合には、MEMSレゾネータ10の入力側端子10aに基準抵抗R14及び補償用抵抗R15を備えた分圧回路22′の接続点電位Vqが供給され、出力側端子10bに補償用抵抗R11及び基準抵抗R12を備えた分圧回路21の接続点電位Vpが供給されるので、MEMSレゾネータ10のバイアス電圧は上記と同様にVb=Vp−Vqとなる。なお、この実施形態でも接続点電位Vpは常に接続点電位Vqより高い電位とされる。
【0031】
上記の各実施形態において、補償用抵抗R11は、上記振動子10の可動部13aと同一の層で構成される。例えば、可動部13aと補償用抵抗R11は、共通の導電層を成膜し、この導電層を一括してパターニングすることによって同時に構成される。
【0032】
図7は、MEMSレゾネータ10と補償用抵抗R11の構成を模式的に(すなわち、実際の配置とは無関係に隣接配置した状態で)示す図である。MEMSレゾネータ10は上述のように固定電極12と可動電極13を有するが、可動電極13は、固定電極12の固定電極12と対向する可動部13aを有し、この可動部13aの厚みHと、可動部13aの張り出し方向(図示左右方向)の長さ(梁長さ)Lo(固定電極12と重なる範囲において張り出し方向に延在する長さ)とによってMEMSレゾネータ10の共振周波数fnが以下の式(1′)のように算出できることが知られている。
fn=(1/2π)・(35E/33ρ)1/2・H/Lo・・・(1′)
ここで、Eは可動部13aを構成する素材のヤング率、ρは同素材の密度である。したがって、上記式(1′)により、可動部13aの厚みHが増加すると共振周波数fnが増加し、可動部13aが薄くなると共振周波数fnが低下すること、すなわち、厚みHと共振周波数fnとが正の相関を有することがわかる。
【0033】
一方、補償用抵抗R11の抵抗値は、平面方向の両端部近傍(図示左右の端部近傍)を接続点として用いる場合を考えると、両端部間の長さLr、当該長さ方向と直交する図示しない幅Wr、厚みは可動部13aと同じHであるから、以下の式(2)によって与えられる。
R11=ρr・Lr/(Wr・H)・・・(2)
ここで、ρrは素材の抵抗率である。したがって、この式(2)により、補償用抵抗R11の抵抗層の厚みHが増加すると抵抗値は減少し、厚みHが減少すると抵抗値は増加すること、すなわち、厚みHと補償用抵抗R11の抵抗値とが負の相関を有することがわかる。
【0034】
一方、基準抵抗R12は可動部13aとは異なる構造、例えば、別の工程で形成される異なる層で構成されるか、或いは、外付けの抵抗で構成される。したがって、補償用抵抗R11が可動部13aと層の厚みHに関して共通し、これによって可動部13aの厚みHのばらつきと連動して補償用抵抗R11の厚みHがばらつくのに対して、基準抵抗12は可動部13aの厚みHのばらつきとは必ずしも連関しない。なお、上記の説明では、可動部13aの厚みと補償用抵抗R11の厚みとが同一であるとしたが、両者が同じ層で構成されていれば製造時における厚みのばらつきによる厚みの増減が連動していることから、両者の厚みが必ずしも一致している必要はない。
【0035】
そして、上記のバイアス回路部20、20′はいずれも層の厚みHが所定量だけ増大したときにR11の抵抗値が下がるために、供給電位Vpが上昇するように構成される。具体的には、補償用抵抗R11が低下すると、基準抵抗R12が同様に低下しない限り、分圧比Dvが増加するために接続点電位Vpが高電位側に移動する。このように、本実施形態では、層の厚みHとバイアス電圧Vb=Vp―Vqが正の相関を有するため、上記式(1′)と図4に示す特性により、可動部13aの厚みHの変化(例えば所定量の増加)に起因して共振周波数fnが変動しようとすると、同じ厚みHの変化に起因する補償用抵抗R11の抵抗値の変化がバイアス電圧の変化を招いてこれを抑制し、全体として可動部13aの厚みのばらつきによる共振周波数の変動が低減される。
【0036】
なお、上記事項は第1実施形態と第2実施形態のいずれの実施形態でも共通である。ただし、第2実施形態においては、補償用抵抗R15を補償用抵抗R11と同様に可動部13aと同じ層で構成することで、厚みHが増加すると補償用抵抗R15の抵抗値が低下して分圧回路22′の接続点電位Vqが低下するので、上記と同様にバイアス電圧Vb=Vp−Vq(Vp>Vq)を増加させる方向に作用する。したがって、この分圧回路22′も可動部13aの厚みHの変化に起因する共振周波数fnの変動を抑制する働きを示す。
【0037】
したがって、第2実施形態では、抵抗R15を抵抗R11と同様に可動部13aと同じ層で構成する補償用抵抗とすることで電位VpとVqが共に変化する結果、厚みHの変化によるバイアス電圧Vpの変化率を高めることを可能にしている。もっとも、図示例において、抵抗R11のみ補償用抵抗としてもよく、抵抗R15のみを補償用抵抗としてもよい。抵抗R11が補償用抵抗で、抵抗R15が補償用抵抗でなければ、第1実施形態と同等に電位Vqは他の定電位に接続されることで与えられる構成となる。
【0038】
なお、上記各実施形態では、分圧回路21に含まれる補償用抵抗R11を層の厚みと負の相関を有する抵抗値を備える抵抗層で構成したが、たとえば、抵抗層の表裏両面に電極を接続し、層の厚みと正の相関を有する抵抗値を備える抵抗層で構成してもよい。この場合には、分割回路21において補償用抵抗R11と基準抵抗R12の接続位置を置換し、補償用抵抗R11を低電位側に接続すればよい。同様に、第2実施形態の分圧回路22′においては補償用抵抗R15を上記と同様に層の厚みと正の相関を備える抵抗値を有する抵抗層とする場合には、補償用抵抗R15を高電位側に、基準抵抗R14を低電位側に接続すればよい。
【0039】
また、上記各実施形態では、電位Vpが電位Vqより高い電位である場合について説明したが、逆に、電位Vpが電位Vqよりも低い電位であるように構成してもよい。この場合においても、分割回路21の補償用抵抗R11と基準抵抗R12の接続位置を置換すればよく、また、第2実施形態では分圧回路22′の基準抵抗R14と補償用抵抗R15の接続位置を置換すればよい。
【0040】
図8(a)は、上記第1実施形態の構成を模式的に示す概略斜視図である。この図においては、基板及びその上に形成される絶縁膜、下地層、層間絶縁膜等を省略してある。図示例では、基板上に形成した第1導電層により固定電極12を形成し、その後、固定電極12上に図示しない絶縁膜(犠牲層となるもの)を形成してから、第2導電層により可動電極13及び補償用抵抗R11を形成する。ここで、可動電極13の可動部13aと補償用抵抗R11の抵抗層は第2導電層の形成及びそのパターニングによって一括して形成される。
【0041】
また、基準抵抗R12を構成する抵抗層は、可動部13aの形成工程とは異なる工程で形成される。たとえば、第1導電層の形成及びそのパターニングによって固定電極12と一括して形成できる。もっとも、補償用抵抗11の形成工程と基準抵抗R12の形成工程とが異なる工程であるものの、同種の材料や成膜方法を採用した工程である点で共通する場合には、両工程により形成した構造寸法に関連が生ずる可能性があるので、基準抵抗R12の形成工程は、補償用抵抗R11の形成工程とは形成材料と形成方法の少なくとも一方が異なることが好ましい。例えば、形成材料としては、導電性を有する多結晶シリコンに対して金属層や基板内の不純物領域を用いること、或いは、形成方法としては、CVD法に対してスパッタリング法、蒸着法、イオン注入法などを用いることなどが挙げられる。
【0042】
上記のようにして形成されたMEMSレゾネータ10、補償用抵抗R11、基準抵抗R12の上には層間絶縁膜(図示せず)が形成され、この層間絶縁膜上にはさらに金属膜が形成され適宜にパターニングされることで、層間絶縁膜に形成されたスルーホールを通して下層構造と導電接続された入力側端子10a、出力側端子10b、補償用抵抗端子20a,20b、基準抵抗端子20c,20d、及び、配線10cが形成される。入力側端子10aは可動電極13と導電接続され、出力側端子10bは固定電極10bと導電接続される。出力側端子10bは配線部10cを介して補償用抵抗端子20b及び基準抵抗端子20cに導電接続される。補償用抵抗端子20aと基準抵抗端子20bは補償用抵抗R11の平面方向に延長された長手方向両端部にそれぞれ導電接続され、基準抵抗端子20cと20dは基準抵抗R12の平面方向に延長された長手方向両端部にそれぞれ導電接続される。
【0043】
上記構成において、MEMSレゾネータ10を構成する固定電極12及び可動部13aは、層間絶縁膜などが形成されない収容空間10A(図示二点鎖線で示す。)内に配置される。この収容空間10Aは、基板上に上記各構造を形成した後に、後述する方法でリリース工程において層間絶縁膜を部分的にエッチングすることによって構成される。この収容空間10A内においては、固定電極12と可動部13aは相互に直接対向し、可動部13aが固定電極12の上方において対向間隔を変化させる方向に可動に構成される。
【0044】
図8(b)は、上記第1実施形態の図8(a)に示す構成とは異なる他の構成例を示す概略部分斜視図である。ここで、各端子部や配線の結線関係については上記構成と同様であるので、それらの説明は省略する。この構成例では、基板上に形成される収容空間10A′内に補償用抵抗R11が配置されている点で、図8(a)に示す例とは異なる。このように補償用抵抗R11をMEMSレゾネータ10の配置される収容空間10A′内に配置することで、可動部13aと補償用抵抗R11とを同一の製造条件で形成することができる。
【0045】
図9は、本発明に係る共振回路30と、この共振回路30に接続された信号回路部40とを有する電子装置の実施例を示す概略回路構成図である。ここで、図示例では、第1実施形態の共振回路30を用いた発振回路を構成した場合を示している。なお、この例において第1実施形態の代わりに第2実施形態の共振回路30′を用いても構わない。
【0046】
この実施例では、共振回路30の入力端30a、出力端30bを信号回路部40に接続し、この信号回路部40には、共振回路30と並列に接続された負性抵抗を有する増幅回路INV1と、共振回路30と並列に接続された帰還抵抗Rfbとが設けられる。また、これらの増幅回路INV、帰還抵抗Rfb及び共振回路30の両端部は静電容量Cg及びCdを介して定電位(接地電位)に接続される。また、これらの並列回路は増幅回路INV2に接続され、この増幅回路INV2から出力電位Voutが出力される。
【0047】
図10は、上記バイアス電圧供給部20の抵抗R12、14などの基準抵抗の構成例を示す部分平面図(a)及び部分断面図(b)である。この構成例は、共通の半導体よりなる基板1上にMEMSレゾネータ10及びバイアス回路20を形成する場合の例として構成してある。シリコン基板等の半導体よりなる基板1上には酸化シリコン等よりなる絶縁膜2が形成され、この絶縁膜2上にはアルミニウム等よりなる配線部3B及び3Cが形成される。基板1の表層部には不純物領域1Aが形成され、この不純物領域1A内の表面部分には不純物領域1Aよりさらに不純物濃度を高めて導電性を向上させたコンタクト領域1B、1Cが形成される。ここで、たとえば基板1がp型基板であれば、不純物領域1Aはn型不純物領域であり、コンタクト領域1B、1Cは高濃度n型不純物領域である。上記配線部3B及び3Cはそれぞれ絶縁膜2のスルーホールを通して上記コンタクト領域1B、1Cに導電接続される。
【0048】
上記のように基板1の表層部に形成した不純物領域1Aによって基準抵抗R12を構成することにより、補償用抵抗R11とは抵抗の構成材料も形成方法も異なることから、基板上に形成される可動部13aの構造寸法とは連動しない抵抗要素とすることができる。この場合に、不純物領域1Aの不純物濃度、領域サイズ、コンタクト部1B、1Cの間の平面距離などによって抵抗値を適宜に設定することができる。また、抵抗要素の主要部が基板1の表層部に形成されるため、基板1上に設けられる構造に影響を与えにくく、当該構造の設計上の自由度を高めることができるという利点もある。
【0049】
図11は、基準抵抗の他の構成例を模式的に示す回路図である。図11(a)に示す例は基板に形成された電界効果トランジスタ(FET)のゲートに所定のゲート電圧を印加したときのチャネル抵抗を抵抗要素としたもの、図11(b)に示す例はゲートをソースに接続した定電流源を構成して抵抗要素として用いるものである。また、図11(c)に示す例はpチャネル型MOSFETとnチャネル型MOSFETのそれぞれのゲートとソースを接続して直列に接続された分圧回路を構成した例を示すが、当該分圧回路のいずれか一方を基準抵抗とし、他方を上記の補償用抵抗と置き換えることにより、上記バイアス回路を構成できる。
【0050】
なお、上記基準抵抗は、基板内に形成されたポリ抵抗などの抵抗体を所望値にトリミングなどで調整したものでも良い。
また、上記MEMSレゾネータが形成された基板外に別素子で配置されていても良い。
要は、上記補償用抵抗R11もしくはR15、またはその両方と連動して抵抗値が変わらない構造体もしくは素子で形成されていれば良い。
【0051】
最後に、図12を参照して、本発明に係る共振回路の製造方法について説明する。この例では、図12(a)に示す半導体基板(例えば、単結晶シリコン等よりなるp型半導体基板)1を用意し、次に、図12(b)に示すように、基板1上に酸化シリコン等よりなる絶縁膜2を形成する。次に、図12(c)に示すように、特にMEMSレゾネータ10の下に形成される窒化シリコン等の絶縁膜よりなる下地層11を形成する。この下地層11は、後述するリリース工程においてリリースエッチングの停止層として機能するものである。
【0052】
その後、図12(d)に示すように、下地層11上に導電性を有する多結晶シリコン等の第1導電層を成膜し、パターニングすることによって固定電極12を形成する。この工程は、例えば、多結晶シリコンを成膜した後に不純物を注入して導電性を付与し、その後、レジスト形成、エッチング等のパターニング処理を行うことで実施できる。そして、図12(e)に示すように、この固定電極12上にPSG(リンドープガラス)等の絶縁膜よりなる犠牲層3を形成する。
【0053】
さらに、図12(f)に示すように、犠牲層3の上には上記と同様の導電性の多結晶シリコン等の第2導電層を成膜し、パターニングすることにより可動電極13及び抵抗層R11を同時に形成する。ここで、可動電極13は上述のように固定電極12と対向する可動部13aを備えている。また、抵抗層R11は上述の補償用抵抗を構成するもので、可動電極13(の可動部13a)と同一の方法(すなわち、同一の成膜プロセス及びパターニングプロセス)で形成される。したがって、可動部13aと抵抗層R11は基本的に同様の成膜量とパターニング精度で形成されているため、構造寸法、たとえば、厚み、平面形状の長さや幅のばらつきが連動する傾向を有する。すなわち、一般に可動部13aの或る構造寸法が設計値より大きくなれば、抵抗層R11の同じ構造寸法も設計値より大きくなる。特に、可動部13aと抵抗層R11の厚みは本来小さな寸法とされるので、その厚みのばらつきの割合は他の構造寸法よりきわめて大きく、その分、上述のように共振周波数に対する影響も大きい。
【0054】
その後、図12(g)に示すように、酸化シリコン等よりなる層間絶縁膜4、6、8と、アルミニウム等よりなる配線層5、7とが交互に積層される。また、図示しないが、基準抵抗である別の抵抗層R11やその他の抵抗層R13及びこれらを接続する配線部を含む構造部分も基板1上に形成され、これによってバイアス回路20が基板1上に一体に構成される。この場合、MEMSレゾネータ10とバイアス回路20は上記配線層5,7を介して接続される。さらに、上記の信号回路部40を構成する構造部分もまた基板1上に一体に構成されることで、上述の電子装置が一体に構成されることが好ましい。
【0055】
上記層間絶縁膜8上にはレジスト等の樹脂や窒化シリコン等よりなる保護膜9が形成され、この保護膜9のMEMSレゾネータ10の上方位置に開口部9aを形成する。そして、この開口部9aを通して緩衝フッ酸等のエッチング液やエッチングガスにより、その下方にある上記犠牲層3及び層間絶縁膜4,6,8を除去し、収容空間10Aを形成する(リリース工程)。これによって可動部13aが解放されて可動に構成され、MEMSレゾネータ10が動作可能な状態とされる。
【0056】
なお、上述の図8(b)に示すように抵抗層R11が配置される収容空間10A′を形成する場合も、その製造方法は上記と何ら変わるものではなく、上記リリース工程において除去する範囲を抵抗層R11の形成領域にも亘るように設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る共振回路の振動子の構成例を示す概略斜視図。
【図2】同振動子の縦断面図(a)及び(b)。
【図3】振動子の通過特性及び位相変位の周波数依存性を示すグラフ(a)及び(b)。
【図4】振動子の通過特性のバイアス電圧依存性を示すグラフ。
【図5】共振回路の第1実施形態の構成を示す回路図。
【図6】共振回路の第2実施形態の構成を示す回路図。
【図7】共振回路の振動子と補償用抵抗要素の構造寸法の関係を模式的に示す構成図。
【図8】共振回路の構成要素のより具体的な配置例を示す概略斜視図(a)及び(b)。
【図9】共振回路を含む電子装置の構成例を示す回路図。
【図10】基準抵抗要素の構成例を示す部分平面図(a)及び部分断面図(b)。
【図11】基準抵抗要素の他の構成例を示す回路図(a)乃至(c)。
【図12】共振回路の製造方法を示す概略工程断面図(a)乃至(h)。
【符号の説明】
【0058】
1…基板、2…絶縁膜、10…MEMSレゾネータ、10a、10b…端子部、11…下地層、12…固定電極、13…可動電極、13a…可動部、20…バイアス回路、R11、R15…補償用抵抗、R12、R14…基準抵抗、30、30′…共振回路、40…信号回路部、INV1…負性抵抗を有する増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された固定電極、及び、該固定電極の少なくとも一部に対向する可動部を備えた可動電極を有するMEMSレゾネータと、該MEMSレゾネータにバイアス電圧を印加するための電圧印加手段と、を具備し、
前記電圧印加手段は、前記可動部を構成する層と同じ層で構成され、該層の厚みで抵抗値が変化する補償用抵抗と、該補償用抵抗に接続され、前記可動部を構成する層と異なる構造で構成される基準抵抗とを分圧抵抗として備え、前記補償用抵抗と前記基準抵抗の接続点電位を前記MEMSレゾネータの少なくとも一方の端子に出力し、前記抵抗値の変化により前記層の厚みと正の相関を有する前記バイアス電圧を前記振動子に与える分圧回路を有することを特徴とする共振回路。
【請求項2】
前記分圧回路では前記補償用抵抗側に前記基準抵抗側よりも高い電位が供給され、前記補償用抵抗は、前記層の厚みと負の相関を有する抵抗値を備えた抵抗層で構成されることを特徴とする請求項1に記載の共振回路。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記接続点電位を前記MEMSレゾネータの一方の端子に出力するとともに、前記MEMSレゾネータの他方の端子に他の電位を出力することを特徴とする請求項1に記載の共振回路。
【請求項4】
MEMSレゾネータの両側の入力端及び出力端にそれぞれ設けられた入力側結合容量及び出力側結合容量をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の共振回路。
【請求項5】
固定電極及び該固定電極の少なくとも一部に対向する可動部を備えた可動電極を有するMEMSレゾネータと、該MEMSレゾネータにバイアス電圧を印加するための電圧印加手段とを具備する共振回路の製造方法において、
前記電圧印加手段は、補償用抵抗と基準抵抗とを分圧抵抗として備え、前記補償用抵抗と前記基準抵抗の接続点電位を前記MEMSレゾネータの少なくとも一方の端子に出力し、前記層の厚みと正の相関を有する前記バイアス電圧を前記振動子に与える分圧回路を有し、
前記可動部を形成するとともに、前記可動部と同じ層で前記補償用抵抗を形成する工程と、
前記可動部と異なる構造で前記基準抵抗を形成する工程と、
を具備することを特徴とする共振回路の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の共振回路と、該共振回路に接続される信号回路部とが同一基板上に形成されてなることを特徴とする電子装置。
【請求項7】
前記可動部と前記補償用抵抗とが前記基板上に形成された収容空間内に共に配置されることを特徴とする請求項6に記載の電子装置。
【請求項8】
前記信号回路部が負性抵抗を有する増幅回路を含み、発振回路を構成することを特徴とする請求項6又は7に記載の電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−4104(P2010−4104A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158847(P2008−158847)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】