説明

車両の制御装置

【課題】車輪速センサの故障時に差動装置を過度な負荷から保護することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】駆動制御ECUは、車輪速センサの故障時において、エンジン回転数センサおよびモータジェネレータの回転数センサから入力される信号に基づき、差動装置の入力回転数RevFinを算出する(ステップS11)。そして、差動装置の入力回転数RevFinが、差動装置において許容される左右の車輪の回転数差から求められる上限値を超えないよう、駆動力発生装置を制御する(ステップS13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、差動装置を保護するための車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、それぞれの車輪に車輪速センサを設置した車両においては、車輪速センサにより検出された各車輪の回転数に基づいてエンジンの出力や車輪ごとに加える制動力を制御する制御装置を備えたものがある。
【0003】
この種の制御装置として、通常のスリップ時にはエンジンの出力を低下させるとともに、スリップが解消しない場合にはスリップを起こしている車輪に制動力を加えるようにし、車輪速センサに故障が発生した場合には、不必要なエンジンの出力低減や車輪に対する制動力の増加を防止するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載された従来の制御装置は、駆動輪および非駆動輪に車輪速センサおよびブレーキ装置がそれぞれ設置されており、駆動輪の回転速度と非駆動輪の回転速度との差が第1の閾値を超えた場合には、駆動輪にスリップが発生していると判断しスロットルバルブの開度を小さくする出力制御を実行するとともに、第1の閾値より大きい第2の閾値を超えた場合にはスリップしている駆動輪のブレーキ装置を作動させるブレーキ制御を実行するようになっている。
【0005】
また、この特許文献1に記載された従来の制動装置は、車速センサにより検出された車速と左右の車輪に設置された車輪速センサにより検出された車輪の速度とを比較し、車速と左右の車輪の回転速度の平均値との差が所定値以上となった場合には、車輪速センサに故障が発生していると判断するようになっている。したがって、算出した左右の駆動輪の回転速度の差が車輪速センサの故障に起因して第2の閾値を超えていると判断した場合には、スリップ解消時に実行するブレーキ制御を禁止することにより、不要なブレーキ制御の実行を防止するようになっていた。
【0006】
また、加速時にスリップが発生し左右の駆動輪の回転数差が所定値以上になった場合に、差動装置を構成する部品が過度な負荷により焼付きを起こさないようエンジンの出力制御を行い、左右の駆動輪の回転数差に起因する過度な負荷から差動装置を保護する制御装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2に記載された従来の制御装置は、駆動輪に車輪速センサおよびブレーキ装置がそれぞれ設置されており、加速時において左右の駆動輪の回転数差が所定値以上になった場合には、各駆動輪のブレーキ装置を駆動させるとともに、エンジンに対するフュエルカットを実行することにより左右の駆動輪の回転数差を低下させ、差動装置に過度な負荷が加わることを防止するようになっていた。
【特許文献1】特開平8−318836号公報
【特許文献2】特開平8−216736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の従来の制御装置にあっては、車輪速センサの故障時に、各車輪に対する不必要な制動力の付与を防止するようになっているものの、車輪速センサの故障時に、差動装置を左右の車輪の回転数差に起因する過度な負荷から保護するようなものではなかった。
【0009】
また、特許文献2に記載の従来の制御装置にあっては、加速スリップ時において車輪速センサから入力される各車輪の回転数に基づいてエンジンの出力を低下させ、車輪の回転数差を下げることにより差動装置を保護するようになっているものの、車輪速センサが故障した場合については考慮されておらず、車輪速センサの故障時に差動装置を左右の車輪の回転数差に起因する過度な負荷から保護するようなものではなかった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、車輪速センサの故障時に差動装置を過度な負荷から保護することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)駆動力発生装置および前記駆動力発生装置から出力される駆動力を左右の車輪に分配するとともに前記左右の車輪の差動を許容する差動装置を備えた車両に搭載される車両の制御装置であって、前記駆動力発生装置と前記差動装置とを接続する接続部材の回転数を検出し、検出した回転数に基づいて前記差動装置の入力回転数を算出する入力回転数算出手段と、前記左右の車輪のそれぞれの回転数を測定する車輪速センサと、前記車輪速センサの故障を検出する故障検出手段と、前記差動装置において許容される左右の車輪の回転数差から求められる前記入力回転数の上限値を記憶する記憶手段と、前記故障検出手段により前記車輪速センサの故障が検出された場合には、前記入力回転数が前記記憶手段に記憶された上限値を超えないよう前記駆動力発生装置を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成により、車輪速センサに故障が発生し、差動装置に接続された左右の車輪の回転数差が算出できない場合においても、差動装置の入力回転数が上限値を超えないよう駆動力発生装置の出力を制御するので、差動装置における左右の車輪の回転数差が許容される回転数差を超えることを防止し、差動装置を過度な負荷から保護することが可能となる。
【0013】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記制御手段は、前記差動装置の入力回転数が前記上限値より小さい所定の閾値に達した場合には、前記駆動力発生装置による駆動力の出力を停止させるよう前記駆動力発生装置を制御することを特徴とする。
【0014】
この構成により、差動装置の入力回転数が上限値に達する前に駆動力発生装置の出力を停止させるので、差動装置を過度な負荷から保護することができるとともに、差動装置の入力回転数が閾値に達していない場合には駆動力発生装置による駆動力の出力を低下させないことにより、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0015】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(3)前記制御手段は、前記差動装置の入力回転数が前記上限値より小さい所定の閾値に達した場合には、前記入力回転数の増加に応じて前記駆動力発生装置による駆動力の出力を制限する度合いを高めることにより、前記入力回転数が前記上限値に達したときに前記駆動力発生装置による駆動力の出力を停止させることを特徴とする。
【0016】
この構成により、差動装置の入力回転数が上限値に達したときには駆動力発生装置の出力を停止させるので、差動装置を過度な負荷から保護することができるとともに、差動装置の入力回転数の増加に応じて駆動力発生装置の出力の制限の度合いを高め出力を徐々に低下させることができるので、運転者に運転状況の急激な変化を与えることなく差動装置を過度な負荷から保護することができる。
【0017】
また、上記(1)から(3)に記載の車両の制御装置において、(4)前記制御手段は、前記故障検出手段により検出された車輪速センサの故障が前記左右の車輪のうちいずれか一方に対する車輪速センサのみである場合には、もう一方の車輪に対する車輪速センサにより測定された回転数と、前記入力回転数算出手段により算出された入力回転数との絶対値の差が前記上限値より小さい所定の閾値を超えないよう前記駆動力発生装置を制御することを特徴とする。
【0018】
この構成により、左右の車輪の回転数を測定する車輪速センサのうちいずれか一方のみが故障した場合には、もう一方の車輪速センサにより測定された車輪の回転数を用いて駆動力発生装置の出力を制限することができるので、差動装置の入力回転数のみに基づいて駆動力発生装置の出力を制限する場合と比較して、もう一方の車輪速センサにより測定された車輪の回転数の分だけ差動装置の入力回転数に対する制限が緩和されることになる。
【0019】
また、上記(1)から(4)に記載の車両の制御装置において、(5)前記駆動力発生装置が内燃機関を備えており、前記制御手段は、前記内燃機関への吸気流量を調整するスロットル弁の開度を下げることにより前記入力回転数が前記上限値を超えないようにすることを特徴とする。
【0020】
この構成により、駆動力発生装置が内燃機関を備えている場合には、内燃機関の出力を低下させることにより差動装置を過度な負荷から保護することが可能となる。
【0021】
また、上記(1)から(5)に記載の車両の制御装置において、(6)前記駆動力発生装置が回転電機を備えており、前記制御手段は、前記回転電機に供給される電流値を低下させることにより前記入力回転数が前記上限値を超えないようにすることを特徴とする。
【0022】
この構成により、駆動力発生装置が回転電機を備えている場合には、回転電機に供給される電流値を低下させ回転電機の出力を低下させることにより差動装置を過度な負荷から保護することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車輪速センサの故障時に差動装置を過度な負荷から保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両の概略構成図である。なお、本実施の形態においては、制御装置がエンジンおよびモータジェネレータを組み合わせた4輪駆動のハイブリッド車両に搭載される場合について説明する。
【0026】
本実施の形態に係るハイブリッド車両1は、エンジン11と、エンジン11の出力軸であるクランクシャフトに図示しないダンパを介して接続された3軸式の動力分配機構13と、動力分配機構13に接続されたモータジェネレータMG1と、変速機15を介して動力分配機構13に接続されたモータジェネレータMG2と、動力分配機構13から出力された動力を前側プロペラシャフト17と後側プロペラシャフト18とに分配して伝達可能なトランスファ20と、ハイブリッド車両1の全体をコントロールするハイブリッドECU(Electronic Control Unit)22と、を備える。
【0027】
エンジン11は、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の供給を受けて動力を出力する内燃機関により構成されており、エンジンECU24により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。エンジンECU24には、エンジン11に対して設けられこのエンジン11の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。
【0028】
エンジンECU24は、ハイブリッドECU22と通信しており、ハイブリッドECU22からの制御信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン11を運転制御する。また、エンジンECU24は、必要に応じてエンジン11の運転状態に関するデータをハイブリッドECU22に出力する。
【0029】
動力分配機構13は、例えば、サンギヤ、リングギヤ、複数のピニオンギヤ、および複数のピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持するキャリアを有する遊星歯車機構により構成されている。
【0030】
動力分配機構13には、エンジン11のクランクシャフト、モータジェネレータMG1、およびモータジェネレータMG2に連結された変速機15がそれぞれ接続されている。動力分配機構13は、モータジェネレータMG1が発電機として機能するときにはエンジン11から入力される動力をモータジェネレータMG1側とリングギヤ軸26側とに分配し、モータジェネレータMG1が電動機として機能するときにはエンジン11からの動力とモータジェネレータMG1からの動力を統合してリングギヤ軸26に出力する。リングギヤ軸26に出力された動力は、トランスファ20に入力されるようになっている。
【0031】
トランスファ20は、駆動軸としてのリングギヤ軸26と前側プロペラシャフト17と後側プロペラシャフト18とに接続された図示しないセンターデファレンシャルや当該センターデファレンシャルの差動作用を制限する差動制限機構等を含み、リングギヤ軸26に出力された動力を前側プロペラシャフト17と後側プロペラシャフト18とに分配して伝達可能なものである。
【0032】
トランスファ20により前側プロペラシャフト17に出力された動力は、前側デファレンシャルギヤ27を介して前輪としての車輪29a、29bに出力され、トランスファ20により後側プロペラシャフト18に出力された動力は、後側デファレンシャルギヤ28を介して後輪としての車輪29c、29dに出力される。
【0033】
モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2は、いずれも周知の同期発電電動機により構成されており、インバータ34、35を介してバッテリ36と電力のやり取りを行う。インバータ34、35とバッテリ36とは互いに電力ラインで接続されており、モータジェネレータMG1、MG2のいずれか一方により発電される電力を他方のモータジェネレータで消費できるようになっている。
【0034】
モータジェネレータMG1、MG2は、モータECU33により駆動制御されている。モータECU33は、モータジェネレータMG1、MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータジェネレータMG1、MG2の回転子の回転位置を表す信号、モータジェネレータMG1、MG2に印加される相電流を表す信号、モータジェネレータMG1、MG2の温度を表す信号を、それぞれの信号を出力する周知のセンサから取得するようになっている。また、モータECU33は、インバータ34、35へスイッチング制御信号を出力するようになっている。
【0035】
なお、本実施の形態に係るエンジン11、モータジェネレータMG1およびMG2は、本発明に係る駆動力発生装置を構成する。
【0036】
モータECU33は、ハイブリッドECU22と通信するようになっており、ハイブリッドECU22から取得した制御信号等に基づいてモータジェネレータMG1、MG2を駆動制御するとともに、モータジェネレータMG1、MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU22に出力するようになっている。
【0037】
バッテリECU37は、バッテリ36を管理するために必要な信号、例えば、バッテリ36の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ36の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた電流センサからの充放電電流、バッテリ36に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度等を入力するようになっている。また、バッテリECU37は、バッテリ36の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU22やエンジンECU24に出力するようになっている。更に、バッテリECU37は、電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてバッテリ36の残容量SOCを算出するようになっている。
【0038】
変速機15は、モータジェネレータMG2の回転軸31とリングギヤ軸26との接続および接続の解除を実行するとともに、回転軸31とリングギヤ軸26との接続時にこれらの軸間の変速比を複数段階に設定可能となっている。したがって、モータジェネレータMG2から出力される動力は、変速機15により減速されてリングギヤ軸26に入力される。逆に、リングギヤ軸26を伝達する動力は、変速機15により増速されてモータジェネレータMG2に入力されるようになっている。
【0039】
ECB_ECU38は、図示しない油圧式のブレーキアクチュエータを制御して、車輪29a〜29dに摩擦制動力を付与するようになっている。このブレーキアクチュエータは、油圧発生源としてのポンプ、アキュムレータ、ソレノイドバルブ、および車輪29a〜29dごとに独立に制動トルクを付与可能とするための複数のバルブなどにより構成されている。
【0040】
また、ECB_ECU38は、車輪29a〜29dにそれぞれ設置されたホイールシリンダに加えられる油圧、車輪速センサ45a〜45dにより検出される車輪速、図示しない操舵角センサにより検出される操舵角を入力するとともに、ハイブリッドECU22およびエンジンECU24との間で通信により各種信号の受渡しを行うようになっている。
【0041】
ECB_ECU38は、ハイブリッド車両1に作用させるべき制動トルクのうち、車輪29a〜29dに作用させる分の制動トルクが発生するようブレーキアクチュエータを制御する。また、ECB_ECU38は、車輪速センサ45a〜45dにより検出される車輪速や、周知のセンサにより検出される車両前後および横方向の加速度、ヨーレート、操舵角などの各種パラメータに基づいて、ABS(Anti-lock Brake System)制御やTRC(Traction Control)制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御を実行するようになっている。
【0042】
ABS制御は、車輪速センサ45a〜45dや図示しない加速度センサから入力される信号に基づき、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こる車輪29a〜29dのロックを抑制するようになっている。
【0043】
VSC制御は、ハイブリッド車両1の旋回時において、車輪速センサ45a〜45d、操舵角センサおよびヨーレートセンサから入力される信号に基づき、運転者による急激なハンドル操作や滑りやすい路面における車輪29a〜29dの横滑りを検知して、各車輪29a〜29dに加える制動力およびエンジン11やモータジェネレータMG1、MG2の出力を制御し、ハイブリッド車両1のスピンやコースアウトなどを抑制するようになっている。また、TRC制御は、車輪速センサ45a〜45dなどABS制御で使用されるセンサから入力される信号を利用して、ハイブリッド車両1の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。
【0044】
ハイブリッドECU22は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力インターフェースを有している。ハイブリッドECU22は、アクセルペダル46の踏込み量を検出するアクセルポジションセンサ47からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル48の踏込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ49からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ50からの車速Vや、イグニッション信号、シフトポジション信号などを入力するようになっている。
【0045】
また、ハイブリッドECU22は、上述したように、エンジンECU24やモータECU33、バッテリECU37、ECB_ECU38等と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU33、バッテリECU37、ECB_ECU38等と各種制御信号やデータの受渡しを行うようになっている。
【0046】
なお、ハイブリッドECU22は、後述するように、本発明に係る車両の制御装置、故障検出手段、記憶手段および制御手段を構成する。
【0047】
ハイブリッド車両1は、さらに、エンジン11の図示しないクランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ41と、モータジェネレータMG1の回転子の回転数を検出するMG1回転数センサ42と、モータジェネレータMG2の回転子の回転数を検出するMG2回転数センサ43と、を備えている。
【0048】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る差動装置を示す図である。なお、以下の説明においては、前側デファレンシャルギヤ27と後側デファレンシャルギヤ28とを区別して説明する必要がない場合には、後側デファレンシャルギヤ(以下、単に差動装置という)28を用いて説明する。また、各車輪29a〜29dや各車輪速センサ45a〜45dを区別して説明する必要がない場合には、それぞれ車輪29、車輪速センサ45として説明する。
【0049】
差動装置28は、軸受56、57により回転自在に支持された中空のデフケース55を有し、このデフケース55の外周にはファイナルドライブピニオン54と噛み合うファイナルリングギヤ58が設けられている。これらのファイナルドライブピニオン54およびファイナルリングギヤ58は、ファイナルギヤ対65を構成している。
【0050】
また、本実施の形態におけるファイナルリングギヤ58の回転数、すなわちファイナルギヤ対65の出力回転数は、本発明における差動装置の入力回転数を意味する。
【0051】
また、デフケース55の内部には2つのピニオンギヤ60が取り付けられたピニオンシャフト59が配置されている。このピニオンギヤ60には2つのサイドギヤ61、69が噛み合わされている。サイドギヤ61、69は、左右のドライブシャフト62L、62Rを介して車輪29c、29dにそれぞれ連結されている。
【0052】
車両1が直進走行をしており、車輪29cと車輪29dとの回転数が等しい場合には、左右のドライブシャフト62L、62Rは等しい回転数で回転するため、サイドギヤ61、69も互いに同じ回転数で回転する。したがって、差動装置28において、ファイナルギヤ対65の出力回転数と、ドライブシャフト62L、62Rの回転数とは等しくなる。
【0053】
これに対し、車両1が左に旋回している場合には、車輪29dの回転数は車輪29cの回転数よりも増加する。この場合、ピニオンギヤ60が回転することにより、ドライブシャフト62L、62Rの回転数に差、すなわち差回転が生じることが許容される。
【0054】
この状態において、ファイナルギヤ対65の出力回転数は、ドライブシャフト62Lの回転数およびドライブシャフト62Rの回転数の平均の回転数と等しくなる。
【0055】
このため、差動装置28においてドライブシャフト62L、62Rに発生しうる最大の回転数の差、すなわち差回転数は、車輪29c、29dのうち、いずれか一方の車輪が停止した場合であり、このとき、他方の車輪はファイナルギヤ対65の出力回転数の2倍の回転数で回転するため、差回転数はファイナルギヤ対65の出力回転数の2倍となる。
【0056】
つまり、差動装置28においては、ドライブシャフト62L、62Rに対し、ファイナルギヤ対65の出力回転数の2倍の差回転が発生し得る。
【0057】
ハイブリッドECU22は、ドライブシャフト62L、62Rに対する差回転が過度に大きくなり差動装置28を構成する部品が耐久限界に達することを防止するよう、車輪速センサ45から入力される各車輪29の回転数を取得し、各車輪29の差回転、すなわちドライブシャフト62L、62Rの差回転が所定の限界値αを超えないように制御する。ここで、所定の限界値αは、差動装置28を構成するピニオンギヤ60などのギヤ類、ベアリング、およびワッシャなどに焼付きが発生しない限界の差回転数を表しており、予め実験的な測定により求められている。
【0058】
車輪速センサ45は、例えば、磁界の変化を測定する半導体式センサと、磁性粉が充填されたゴムにより形成され円周方向にN極およびS極が均等に配置されている磁気ロータと、によって構成されている。車輪29の回転とともに磁気ロータが回転すると、車輪速に応じた磁界の変化が発生し、半導体式センサは、この磁界の変化に応じて、車輪速を表す信号をECB_ECU38に送信するようになっている。
【0059】
以下、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を構成するハイブリッドECUの特徴的な構成について、図1および図2を参照して説明する。
【0060】
車両1の制御装置を構成するハイブリッドECU22は、エンジン11、モータジェネレータMG1、MG2と前側デファレンシャルギヤ27、後側デファレンシャルギヤ28とを接続する接続部材の回転数を検出し、検出した回転数に基づいて前側デファレンシャルギヤ27、後側デファレンシャルギヤ28の入力回転数を算出するようになっている。
【0061】
本発明に係る接続部材とは、エンジン11のクランクシャフト、リングギヤ軸26、回転軸31、前側プロペラシャフト17、後側プロペラシャフト18、ファイナルドライブピニオン54、またはファイナルリングギヤ58であって、エンジン11やモータジェネレータMG1、MG2から発生した駆動力を前側デファレンシャルギヤ27、後側デファレンシャルギヤ28に伝達する部材で、かつ、駆動力伝達時の回転数が前側デファレンシャルギヤ27の回転数、または後側デファレンシャルギヤ28の回転数と相関関係のあるものを意味する。
【0062】
本実施の形態においては、ハイブリッドECU22は、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43から入力される信号に基づいて、ファイナルリングギヤ58の回転数を算出するようになっている。したがって、本実施の形態に係るハイブリッドECU22、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43は、本発明に係る入力回転数算出手段を構成する。
【0063】
ハイブリッドECU22は、回転数の検出に用いる接続部材と、ファイナルリングギヤ58との減速比をROMに予め記憶しておき、この接続部材の回転数を周知の回転数センサを用いて検出すると、ROMに記憶されている減速比に基づいて、差動装置28の入力回転数としてのファイナルリングギヤ58の回転数を算出する。
【0064】
本実施の形態においては、ハイブリッドECU22は、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43から入力される信号と、変速機15における変速状態を表す信号を取得するようになっており、これらの信号と、ROMに記憶されている減速比に基づいてファイナルリングギヤ58の回転数を算出するようになっている。
【0065】
また、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45a〜45dの故障を検出するようになっている。
【0066】
具体的には、ECB_ECU38は、車輪速センサ45a〜45dの出力値の異常、またはVSC制御やTRC制御に必要な信号を出力するセンサ類に故障が発生したと判断した場合に、車輪速センサに故障が発生していることを表す故障フラグが設定された信号をハイブリッドECU22に送信するようになっている。
【0067】
ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した信号に設定される故障フラグに基づいて、車輪速センサ45a〜45dの故障を検出するようになっている。
【0068】
また、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45a〜45dの故障を検出した場合には、前側デファレンシャルギヤ27、後側デファレンシャルギヤ28の入力回転数がROMに記憶された上限値α/2を超えないようエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2を制御するようになっている。
【0069】
具体的には、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45a〜45dの故障を検出した場合には、上記のように算出した差動装置28の入力回転数と、ROMに記憶されている出力制限マップとを参照する。
【0070】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る出力制限マップを示す図である。
【0071】
図3(a)に示すように、出力制限マップは、差動装置28(図1参照)の入力回転数RevFinと、駆動力発生装置における駆動力の出力度合いとを対応づけたものである。
【0072】
駆動力発生装置の出力度合いとは、運転者によるアクセルペダル46(図1参照)の踏込み量に応じて、通常時に駆動力発生装置から出力される駆動力に対する車速制限時に出力される駆動力の割合を意味し、0%と100%との間の値を取るようになっている。
【0073】
具体的には、ハイブリッドECU22(図1参照)は、車速制限が行われていない通常の走行時において、ハイブリッド車両1の速度やアクセルペダル46(図1参照)の踏込み量に基づき、周知の方法によってエンジン11(図1参照)およびモータジェネレータMG1、MG2(図1参照)の出力値を算出するようになっている。
【0074】
さらに、ハイブリッドECU22(図1参照)は、運転者によるアクセルペダル46(図1参照)の踏込み量に対する駆動力の出力度合いを示した出力制限マップをROMに記憶している。ハイブリッドECU22は、車速制限時においては、算出されたエンジン11(図1参照)およびモータジェネレータMG1、MG2(図1参照)の出力値が制限されるよう、出力制限マップに基づいて補正し、この補正された出力値になるようスロットルバルブの制御およびモータトルクの制御をすることにより、車速を制限するようになっている。
【0075】
したがって、エンジン11(図1参照)およびモータジェネレータMG1、MG2(図1参照)の出力値が補正されていない状態を100%の出力度合いと定義し、アクセルペダル46の踏込み量にかかわらず出力値が零となっている状態を0%の出力度合いと定義する。
【0076】
この出力制限マップは、差動装置28(図1参照)の入力回転数RevFinが所定の閾値K1を超えた場合において、入力回転数RevFinの増加に応じてエンジン11(図1参照)の出力度合いが減少するように定義されている。
【0077】
所定の閾値K1は、差動装置28の入力回転数RevFinの上限値α/2よりも小さい値であり、エンジン11やモータジェネレータMG1、MG2の諸元値などに基づき、運転者がアクセルペダル46を踏込み続けてもエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力値が十分に制限され、差動装置28の入力回転数RevFinが上限値α/2を超えないような値に設定されている。
【0078】
ハイブリッドECU22は、出力制限マップに基づいてエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力値を制限する場合には、スロットル開度を下げたり、モータジェネレータMG1、MG2に供給される電流を低下させるようになっている。
【0079】
したがって、差動装置28の入力回転数の増加に応じて駆動力発生装置の出力の制限の度合いを高め出力を徐々に低下させることができるので、運転者に運転状況の急激な変化を与えることなく差動装置28を過度な負荷から保護することができる。
【0080】
なお、ハイブリッドECU22は、図3(a)に示す出力制限マップの代わりに、図3(b)に示す出力制限マップを記憶するようにしてもよい。
【0081】
図3(b)に示す出力制限マップにおいては、差動装置28(図1参照)の入力回転数RevFinが所定の閾値K1に達した時点で、アクセルペダル46(図1参照)の踏込み量にかかわらず駆動力発生装置から出力される駆動力が零になるように設定されている。したがって、差動装置28の入力回転数RevFinが所定の閾値K1に達するまでは、駆動力発生装置から出力される駆動力に対する制限がかからず、アクセルペダル46の踏込み量に応じた駆動力が出力されるので、運転者に違和感を与えることを防止するようになっている。
【0082】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る車速制限処理を説明するためのフローチャートである。
【0083】
なお、以下の処理は、ハイブリッドECU22を構成するCPUによって車輪速センサの故障が検出された場合に実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0084】
ハイブリッドECU22は、まず、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43から出力される信号に基づいて、差動装置28の入力回転数RevFinを算出する(ステップS21)。具体的には、ハイブリッドECU22は、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43からリングギヤ軸26の回転数を算出する。そして、このリングギヤ軸26の回転数と、リングギヤ軸26とファイナルリングギヤ58との変速比と、によって差動装置28の入力回転数RevFinを算出する。ここで、リングギヤ軸26とファイナルリングギヤ58との変速比は、ハイブリッドECU22のROMに予め記憶されている。なお、上記のとおり、ハイブリッドECU22は、他の接続部材の回転数に基づいて差動装置28の入力回転数を算出するようにしてもよい。
【0085】
次に、ハイブリッドECU22は、制限車速における差動装置28の入力回転数が、所定の閾値K1を超えているか否かを判断する(ステップS12)。
【0086】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ROMに記憶されている閾値K1と、ステップS11において算出された差動装置28の入力回転数RevFinとを比較し、比較の結果、入力回転数RevFinが所定の閾値K1を超えていると判断した場合には(ステップS12でYes)、ステップS13に移行する。一方、入力回転数RevFinが所定の閾値K1以下であると判断した場合には(ステップS12でNo)、ステップS11に戻る。
【0087】
次に、ハイブリッドECU22は、車速制限を実行する(ステップS13)。具体的には、ハイブリッドECU22は、図3に示した出力制限マップに基づき、エンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限することにより車速を制限し、入力回転数RevFinが上限値α/2以下となるようにする。
【0088】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置は、車輪速センサ45a〜45dに故障が発生し、差動装置28に接続された左右の車輪29c、29dの回転数差が算出できない場合においても、差動装置28の入力回転数が上限値α/2を超えないようエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制御するので、差動装置28における左右の車輪29c、29dの回転数差が許容される回転数差の限界値αを超えることを防止し、差動装置28を過度な負荷から保護することが可能となる。
【0089】
なお、上述した実施の形態においては、複数の車輪速センサのうちのいずれかが故障した場合に、ハイブリッドECU22が車速制限をすることによって差動装置28を保護する場合について説明しているが、これに限定されず、次に説明する第2の実施の形態のように、本発明に係るハイブリッドECU22が、故障した車輪速センサの個数に応じて差動装置28を保護するための制御を選択するようにしてもよい。
【0090】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る車両の制御装置について、図1、図2および図5を参照して説明する。
【0091】
なお、第2の実施の形態に係る車両の制御装置の構成は、上述の第1の実施の形態に係る車両の制御装置の構成とほぼ同様であり、各構成要素については、図1および図2に示した第1の実施の形態と同様の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0092】
ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45のうちのいずれかの故障を検知した場合には、故障した車輪速センサ45の個数を判定し、その結果、故障した車輪速センサ45が1つのみである場合には、故障していない他の車輪速センサ45により取得される車輪速の信号に基づいて、差動装置28の差回転が限界値αを超えないようにエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制御するようになっている。
【0093】
具体的には、ECB_ECU38は、VSC制御およびTRC制御の実行中において、いずれかの車輪速センサ45の出力値に異常が発生していると判断した場合には、この車輪速センサ45の出力値を表すデータに故障フラグを設定し、ハイブリッドECU22にデータを送信する。
【0094】
ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した車輪速を表す信号に設定される故障フラグに基づいて、故障している車輪速センサ45の個数を判定するようになっている。
【0095】
ハイブリッドECU22は、故障している車輪速センサ45が1つのみであると判断した場合には、故障していない車輪速センサ45の出力値を表すデータに基づいて、差動装置28の差回転が限界値αを超えないようにエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制御するようになっている。
【0096】
具体的には、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45のうち、いずれか一方の回転数を表す信号に故障フラグが設定されている場合には、ハイブリッドECU22は、もう一方の回転数を表す信号と、上記のように求められる差動装置28の入力回転数RevFinとを取得する。そして、差動装置28の入力回転数RevFinと故障していない車輪速センサ45により検出された回転数との差が、所定の閾値K2を超えた場合には、上記の方法によりエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限するようになっている。
【0097】
所定の閾値K2は、差動装置28の入力回転数RevFinの上限値α/2よりも小さい値であり、エンジン11やモータジェネレータMG1、MG2の諸元値などに基づき、運転者がアクセルペダル46を踏込み続けてもエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力が十分に制限され、差動装置28の入力回転数RevFinが上限値α/2を超えないような値に設定されている。なお、K1とK2とは、同じ値であってもよい。
【0098】
一方、ハイブリッドECU22は、複数の車輪速センサ45が故障していると判定した場合には、第1の実施の形態に係る制御と同様に、差動装置28の入力回転数、すなわち差動装置28の入力回転数RevFinが上限値α/2を超えないようエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制御するようになっている。
【0099】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【0100】
なお、以下の処理は、ハイブリッドECU22を構成するCPUによって車輪速センサ45の故障が検出された場合に実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0101】
ハイブリッドECU22は、まず、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43から出力される信号に基づいて、差動装置28の入力回転数RevFinを算出する(ステップS21)。具体的には、ハイブリッドECU22は、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43からリングギヤ軸26の回転数を算出する。そして、リングギヤ軸26の回転数と差動装置28の入力回転数との変速比から差動装置28の入力回転数RevFinを算出する。ここで、リングギヤ軸26の回転数と差動装置28の入力回転数との比は、ハイブリッドECU22のROMに予め記憶されている。
【0102】
次に、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものか否かを判断する(ステップS22)。具体的には、ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した車輪速を表す信号に設定される故障フラグに基づいて、故障している車輪速センサ45の個数を判定するようになっている。ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものであると判断した場合には(ステップS22でYes)、ステップS23に移行する。一方、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものではないと判断した場合には(ステップS22でNo)、ステップS25に移行する。
【0103】
次に、ハイブリッドECU22は、ステップS23において、差動装置28の入力回転数RevFinと、故障していない車輪速センサ45により検出された車輪29の回転数との差の絶対値が所定の閾値K2を超えているか否かを判断する。
【0104】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ステップS21で算出した差動装置28の入力回転数RevFinと、各車輪速センサ45a〜45dからECB_ECU38を介して取得される各車輪29a〜29dの回転数RevFrLH、RevFrRH、RevRrLH、RevRrRHのうち故障していない車輪速センサから取得した回転数との差とを以下のように算出し、算出した値が所定の閾値K2を超えているか否かを判断する。
|RevFin−RevFrLH|>K2
|RevFin−RevFrRH|>K2
|RevFin−RevRrLH|>K2
|RevFin−RevRrRH|>K2
そして、ハイブリッドECU22は、これらの式が1つでも満たされていると判断した場合には(ステップS23でYes)、ステップS24に移行する。一方、ハイブリッドECU22は、これらの式のいずれもが満たされていないと判断した場合には(ステップS23でNo)、ステップS21に移行する。
【0105】
次に、ハイブリッドECU22は、エンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限する(ステップS24)。
【0106】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ステップS21で算出した差動装置28の入力回転数RevFinと、故障していない車輪速センサ45により検出された車輪29の回転数との差の絶対値が所定の閾値K2以下となるよう、エンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を低下させる。これらの出力を低下させる方法は、上記のとおり、スロットル開度を小さくしたり、モータジェネレータMG1、MG2に供給される電流値を小さくすることにより実現される。
【0107】
一方、ハイブリッドECU22は、ステップS22において故障している車輪速センサ45の個数が1つではないと判断した場合には、車輪速センサ45の故障が2輪以上に対するものであると判断し(ステップS25)、制限車速における差動装置28の入力回転数が、所定の閾値K1を超えているか否かを判断する(ステップS26)。
【0108】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ROMに記憶されている閾値K1と、ステップS11において算出された差動装置28の入力回転数RevFinとを比較し、比較の結果、入力回転数RevFinが所定の閾値K1を超えていると判断した場合には(ステップS26でYes)、ステップS27に移行する。一方、入力回転数RevFinが所定の閾値K1以下であると判断した場合には(ステップS26でNo)、ステップS21に戻る。
【0109】
次に、ハイブリッドECU22は、車速制限を実行する(ステップS27)。具体的には、ハイブリッドECU22は、図3に示した出力制限マップに基づき、入力回転数RevFinが上限値α/2以下となるようエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限する。
【0110】
以上のように、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置においては、左右の車輪29の回転数を測定する車輪速センサ45のうちいずれか一方のみが故障した場合には、もう一方の車輪速センサ45により測定された車輪29の回転数を用いてエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限することができるので、差動装置28の入力回転数RevFinのみに基づいてエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力を制限する場合と比較して、もう一方の車輪速センサ45により測定された車輪29の回転数の分だけ差動装置28の入力回転数RevFinに対する制限が緩和されることになる。
【0111】
なお、上述した実施の形態においては、ハイブリッドECU22が車輪速センサ45の故障を検出した時点で故障判定処理を開始する場合について説明しているが、これに限定されず、次に説明する第3の実施の形態のように、本発明に係るハイブリッドECU22が、走行中に故障判定処理を常に実行するようにしてもよい。
【0112】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る車両の制御装置について、図1、図2および図6を参照して説明する。
【0113】
なお、第3の実施の形態に係る車両の制御装置の構成は、上述の第1の実施の形態および第2の実施の形態に係る車両の制御装置の構成とほぼ同様であり、各構成要素については、図1に示した第1の実施の形態および第2の実施の形態と同様の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0114】
ECB_ECU38は、VSC制御およびTRC制御がセンサ等の故障に起因して実行不可能である場合には、VSC制御およびTRC制御が故障状態であることを示す信号をハイブリッドECU22に送信するようになっている。
【0115】
ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38からVSC制御およびTRC制御のうち少なくともいずれか一方が故障状態であることを示す信号をハイブリッドECU22から受信したならば、VSC制御およびTRC制御の故障が車輪速センサ45の故障に起因したものであるか否かを判断するようになっている。
【0116】
この場合、ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した車輪速を表す信号に故障フラグが設定されているか否かを判断し、故障フラグが設定されていると判断した場合には、上記の第2の実施の形態と同様に、故障した車輪速センサ45の数に応じて車速制限の実行、あるいはエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力制限の実行をするようになっている。
【0117】
一方、ハイブリッドECU22は、VSC制御およびTRC制御が故障状態ではない、あるいはVSC制御およびTRC制御の少なくともいずれか一方が故障状態ではあるが車輪速センサ45に故障が生じていないと判断した場合には、左右の車輪29に設置された車輪速センサ45からそれぞれ出力された左右の車輪29の回転数の差を算出し、この差の値が差動装置28の限界値αを超えないようにエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2を制御する周知の出力制御を実行するようになっている。
【0118】
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【0119】
なお、以下の処理は、ハイブリッドECU22を構成するCPUによって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0120】
ハイブリッドECU22は、まず、VSC制御およびTRC制御が故障状態であるか否かを判断する(ステップS31)。
【0121】
具体的には、ECB_ECU38は、VSC制御およびTRC制御がセンサ等の故障に起因して実行不可能である場合には、VSC制御およびTRC制御が故障状態であることを示す信号をハイブリッドECU22に送信する。そして、ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38からVSC制御およびTRC制御のうち少なくともいずれか一方が故障状態であることを示す信号をハイブリッドECU22から受信したならば、VSC制御およびTRC制御が故障状態であると判断する。
【0122】
ハイブリッドECU22は、VSC制御およびTRC制御が故障状態でないと判断した場合には(ステップS31でNo)、車輪速センサ45により出力された信号に基づき、以下の式が成立しているか否かを判断し(ステップS33)、成立していると判断した場合には、周知のVSC制御およびTRC制御に基づいて、差動回転数が上昇しないように制御する(ステップS33)。
|RevFrRH−RevFrLH|>K3
|RevRrRH−RevRrLH|>K3
ここで、閾値K3は、差動装置28の差回転数の限界値αよりも小さい値であり、エンジン11やモータジェネレータMG1、MG2の諸元値などに基づき、運転者がアクセルペダル46を踏込み続けてもエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力値が十分に制限され、差動装置28の差回転数が限界値αを超えないような値に設定されている。
【0123】
なお、ハイブリッドECU22は、ステップS33において上記の式が成立していないと判断した場合には、ステップS31に戻る。
【0124】
一方、ハイブリッドECU22は、VSC制御およびTRC制御が故障状態であると判断した場合には(ステップS31でYes)、車輪速センサ45に故障が発生しているか否かを判断する(ステップS34)。具体的には、ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した車輪速を表す信号を参照し、この信号に故障フラグが設定されている場合には、車輪速センサ45に故障が発生していると判断する。
【0125】
ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45に故障が発生していると判断した場合には(ステップS34でYes)、エンジン回転数センサ41、MG1回転数センサ42およびMG2回転数センサ43から出力される信号に基づいて、上記のステップS35における算出方法と同様の方法により、差動装置28の入力回転数RevFinを算出する(ステップS35)。
【0126】
次に、ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものか否かを判断する(ステップS36)。具体的には、ハイブリッドECU22は、ECB_ECU38から取得した車輪速を表す信号に設定される故障フラグに基づいて、故障している車輪速センサ45の個数を判定するようになっている。ハイブリッドECU22は、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものであると判断した場合には(ステップS36でYes)、ステップS37に移行する。一方、車輪速センサ45の故障が1輪のみに対するものではないと判断した場合には(ステップS36でNo)、ステップS39に移行する。
【0127】
次に、ハイブリッドECU22は、ステップS37において、差動装置28の入力回転数RevFinと、故障していない車輪速センサ45により検出された車輪29の回転数との差の絶対値が所定の閾値K2を超えているか否かを判断する。
【0128】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ステップS35で算出した差動装置28の入力回転数RevFinと、各車輪速センサ45a〜45dからECB_ECU38を介して取得される各車輪29a〜29dの回転数RevFrLH、RevFrRH、RevRrLH、RevRrRHのうち故障していない車輪速センサから取得した回転数との差とを以下のように算出し、算出した値が所定の閾値K2を超えているか否かを判断する。
|RevFin−RevFrLH|>K2
|RevFin−RevFrRH|>K2
|RevFin−RevRrLH|>K2
|RevFin−RevRrRH|>K2
そして、ハイブリッドECU22は、これらの式が1つでも満たされていると判断した場合には(ステップS37でYes)、ステップS38に移行する。一方、ハイブリッドECU22は、これらの式のいずれもが満たされていないと判断した場合には、ステップS34に移行する。
【0129】
次に、ハイブリッドECU22は、エンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力制限を、上記のステップS24と同様の方法により実行する(ステップS38)。
【0130】
一方、ハイブリッドECU22は、ステップS36において故障している車輪速センサ45の個数が1つではないと判断した場合には、車輪速センサ45の故障が2輪以上に対するものであると判断し(ステップS39)、制限車速における差動装置28の入力回転数が、所定の閾値K1を超えているか否かを判断する(ステップS40)。
【0131】
具体的には、ハイブリッドECU22は、ROMに記憶されている閾値K1と、ステップS11において算出された差動装置28の入力回転数RevFinとを比較し、比較の結果、入力回転数RevFinが所定の閾値K1を超えていると判断した場合には(ステップS40でYes)、ステップS41に移行する。一方、入力回転数RevFinが所定の閾値K1以下であると判断した場合には(ステップS40でNo)、ステップS34に戻る。
【0132】
次に、ハイブリッドECU22は、上記のステップS27と同様の方法により、車速制限を実行する(ステップS41)。
【0133】
以上のように、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置においては、VSC制御またはTRC制御の故障の有無、車輪速センサ45の故障の有無および故障の個数に応じて差動装置28を保護するための制御を切り替えることにより、差動装置28の差回転数を限界値以下にするための車速に対する制限またはエンジン11およびモータジェネレータMG1、MG2の出力に対する制限の度合いを適切に設定することが可能となる。
【0134】
なお、以上の説明においては、駆動力発生装置がエンジン11とモータジェネレータMG1、MG2によって構成される場合について説明した。しかしながら、駆動力発生装置は、エンジンのみによって構成されていてもよい。
【0135】
この場合、エンジンECUやトランスミッションECUなどのECUが、エンジンのクランクシャフトの回転数および変速機の変速段に基づいて差動装置28の入力回転数RevFinを算出するようにするのが好適である。また、この場合、ECUは、ROMに記憶する出力制限マップとして、差動装置28の入力回転数と、スロットルバルブの開度に対する制限の度合いを示す開度制限度合いとを対応づけるようにすると好適である。
【0136】
また、以上の説明においては、制御装置が4輪駆動の車両に搭載される場合について説明したが、これに限定されず、制御装置が前輪駆動や後輪駆動などの車両に搭載されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置は、車輪速センサの故障時に差動装置を過度な負荷から保護することができるという効果を奏するものであり、各駆動輪に車輪速センサを備えた車両に搭載される車両の制御装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る差動装置を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る出力制限マップを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る車速制限処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0139】
1 ハイブリッド車両
11 エンジン
13 動力分配機構
15 変速機
17 前側プロペラシャフト
18 後側プロペラシャフト
20 トランスファ
22 ハイブリッドECU(車両の制御装置、入力回転数算出手段、故障検出手段、記憶手段、制御手段)
24 エンジンECU
26 リングギヤ軸
27 前側デファレンシャルギヤ(差動装置)
28 後側デファレンシャルギヤ(差動装置)
29a〜29d 車輪
31 回転軸
33 モータECU
37 バッテリECU
38 ECB_ECU
41 エンジン回転数センサ(入力回転数算出手段)
42 MG1回転数センサ(入力回転数算出手段)
43 MG2回転数センサ(入力回転数算出手段)
45a〜45d 車輪速センサ
46 アクセルペダル
47 アクセルポジションセンサ
48 ブレーキペダル
49 ブレーキペダルポジションセンサ
50 車速センサ
54 ファイナルドライブピニオン
55 デフケース
58 ファイナルリングギヤ
61、69 サイドギヤ
62L、62R ドライブシャフト
65 ファイナルギヤ対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力発生装置および前記駆動力発生装置から出力される駆動力を左右の車輪に分配するとともに前記左右の車輪の差動を許容する差動装置を備えた車両に搭載される車両の制御装置であって、
前記駆動力発生装置と前記差動装置とを接続する接続部材の回転数を検出し、検出した回転数に基づいて前記差動装置の入力回転数を算出する入力回転数算出手段と、
前記左右の車輪のそれぞれの回転数を測定する車輪速センサと、
前記車輪速センサの故障を検出する故障検出手段と、
前記差動装置において許容される左右の車輪の回転数差から求められる前記入力回転数の上限値を記憶する記憶手段と、
前記故障検出手段により前記車輪速センサの故障が検出された場合には、前記入力回転数が前記記憶手段に記憶された上限値を超えないよう前記駆動力発生装置を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記差動装置の入力回転数が前記上限値より小さい所定の閾値に達した場合には、前記駆動力発生装置による駆動力の出力を停止させるよう前記駆動力発生装置を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記差動装置の入力回転数が前記上限値より小さい所定の閾値に達した場合には、前記入力回転数の増加に応じて前記駆動力発生装置による駆動力の出力を制限する度合いを高めることにより、前記入力回転数が前記上限値に達したときに前記駆動力発生装置による駆動力の出力を停止させることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記故障検出手段により検出された車輪速センサの故障が前記左右の車輪のうちいずれか一方に対する車輪速センサのみである場合には、もう一方の車輪に対する車輪速センサにより測定された回転数と、前記入力回転数算出手段により算出された入力回転数との絶対値の差が前記上限値より小さい所定の閾値を超えないよう前記駆動力発生装置を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記駆動力発生装置が内燃機関を備えており、
前記制御手段は、前記内燃機関への吸気流量を調整するスロットル弁の開度を下げることにより前記入力回転数が前記上限値を超えないようにすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記駆動力発生装置が回転電機を備えており、
前記制御手段は、前記回転電機に供給される電流値を低下させることにより前記入力回転数が前記上限値を超えないようにすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−90721(P2010−90721A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258541(P2008−258541)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】