説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】製造プロセス中に磁性体膜の材料の拡散を防止しながら、高い磁気シールド効果を有するヘテロ構造磁気シールドを備えた半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置10は、半導体基板20、半導体基板20の主面上に形成され、かつ多層配線層11Bを含む半導体素子12、および半導体素子12を被覆するヘテロ構造磁気シールド170を含む。ヘテロ構造磁気シールド170は、第一の磁気シールド積層構造16Aと磁気シールド積層構造16Aを覆う第二の磁気シールド積層構造16Bを含む。第一および第二の磁気シールド積層構造16Aおよび16Bは、いずれも、半導体素子12を被覆する磁性体からなる磁気シールド膜および半導体素子12と磁気シールド膜との間に介在し磁性体の拡散を防止するバッファ膜とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化および高性能化に伴い、その電子機器に組み込まれる半導体デバイスの応答速度の高速化が要求されている。この要求に応え、デバイスの動作周波数は高くなり、半導体デバイスの内部配線を伝搬する信号の周波数も高くなっている。信号の高周波化に伴い、電磁放射ノイズの伝播によって、他の電子機器への電磁妨害がもたらされることがある。また、半導体デバイスの配線構造の微細化により、隣接配線間で発生するノイズ(配線間クロストーク)が顕著になると、半導体デバイスの誤動作が生じる懸念がある。このため、デバイスの高速化を進めながら、なおかつ、半導体デバイスの高信頼性を確保するためには、電磁放射ノイズを可能な限り低減することが望ましい。
【0003】
電磁放射ノイズを低減するための手段として、特許文献1〜3には、磁性体の磁気損失を利用する方法が開示されている。
特許文献1(特開平6−21060号公報)には、フェリ磁性体膜を含む多層配線構造を有する半導体デバイスが開示されている。この多層配線構造では、半導体基板上に、配線層、層間絶縁膜、フェリ磁性体膜、層間絶縁膜および配線層がこの順に形成されている。配線層と配線層との間にはフェリ磁性体膜が介在し、電磁シールド機能を発揮する。
特許文献2(特開平9−330929号公報)には、金属配線層を含む絶縁層上に磁性体層が形成された半導体装置が開示されている。
特許文献3(特開平8−298310号公報)には、基板上にスピネル構造フェライト層を有する半導体デバイスの製造方法が開示されている。同文献によれば、基板上にテンプレート層を形成し、テンプレート層上にスピネル構造を有するフェライト膜を形成すると、フェライト膜の熱処理をせずに、優れた磁気特性を有する膜を得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−21060号公報
【特許文献2】特開平9−330929号公報
【特許文献3】特開平8−298310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、半導体デバイス中に磁性体膜を設ける場合、この磁性体膜を構成する金属元素が拡散することで半導体デバイスの電気特性が劣化することが懸念される。その理由は、半導体デバイスの製造プロセス中の熱履歴によって、磁性体膜の構成材料の拡散が促進され、デバイス、配線層に達し、金属汚染により電気特性を劣化させるためであると推察される。たとえば、特許文献1に開示されている多層配線構造では、製造プロセス中に、フェリ磁性体膜の材料が層間絶縁膜を介して拡散して金属汚染を引き起こすおそれがある。
【0006】
一方、半導体基板内の多層配線中に磁性体膜を設ける場合、磁性体膜の膜厚には配線設計上の制限があり、配線設計に合わないような厚い磁性体膜は用いることはできない。そのため、設計ルールに合うような膜厚で優れた磁気シールド効果を有するような磁性体膜が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
基板と、
前記基板の主面上に形成され、かつ配線層を含む半導体素子と、
前記半導体素子を被覆する磁気シールドと、
を含み、
前記磁気シールドが、第一の構造体と前記第一の構造体を被覆する第二の構造体とを有し、
前記第一および第二の構造体が、いずれも、
前記半導体素子を被覆する磁性体からなる磁気シールド膜と、
前記半導体素子と前記磁気シールド膜との間に介在し前記磁性体の拡散を防止するバッファ膜とを有する、半導体装置が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
基板の主面上に配線層を含む半導体素子を形成する工程と、
前記半導体素子を被覆する磁気シールドを形成する工程と、
を含み、
磁気シールドを形成する前記工程が、
前記半導体素子を被覆する第一の構造体を形成する工程と、
前記第一の構造体を被覆する第二の構造体を形成する工程と、
を含み、
第一および第二の構造体を形成する前記工程が、いずれも、
前記半導体素子を被覆し、かつ磁性体の拡散を防止するバッファ膜を形成する工程と、
前記バッファ膜を被覆し、かつ前記磁性体からなる磁気シールド膜を形成する工程と、を含む、半導体装置の製造方法が提供される。
【0009】
本発明による半導体装置およびその製造方法では、半導体素子と磁気シールド膜との間にバッファ膜が介在するので、磁気シールド膜の磁性体材料が半導体素子に拡散し金属汚染を引き起こすことが抑制される。
また、本発明による半導体装置およびその製造方法では、バッファ膜と磁気シールド膜の積層構造から構成された構造体を多層膜化したヘテロ構造磁気シールドを設けることで、一つの磁気シールド膜の厚さを薄くしても、高い磁気シールド効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気シールド膜の磁性体材料が半導体素子に拡散し金属汚染を引き起こすことを抑制しながら、高い磁気シールド効果を実現し得る半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【図2】図1の半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図3】実施形態における積層膜のX線回折データを示す図である。
【図4】実施形態における積層膜の断面STEM像を示す図である。
【図5】実施形態における積層膜のX線回折データを示す図である。
【図6】実施形態におけるNi−Zn系フェライトのX線回折強度の酸素濃度依存性を示す図である。
【図7】実施形態における積層膜の磁気ヒステリシスの測定結果を示す図である。
【図8】実施形態における積層膜のX線回折強度と飽和磁化の関係を示す図である。
【図9】実施形態における積層膜の電流−電圧特性を示す図である。
【図10】実施形態における積層膜の裏面SIMSの結果を示す図である。
【図11】実施形態における積層膜のフェライト膜厚と磁気ヒステリシスの関係を示す図である。
【図12】実施形態におけるヘテロ構造磁気シールドの構成を示す断面図である。
【図13】図12のヘテロ構造磁気シールドのX線回折データを示す図である。
【図14】図12のヘテロ構造磁気シールドの磁気ヒステリシスを示す図である。
【図15】図12のヘテロ構造磁気シールドの電流−電圧特性のグラフを表す図である。
【図16】実施形態におけるインダクタの構成を示す斜視図である。
【図17】実施形態におけるインダクタと磁気シールド膜の構成を示す断面図である。
【図18】実施形態におけるインダクタ特性と透磁率および抵抗率の関係を示す図である。
【図19】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図20】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図21】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図22】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図23】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図24】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図25】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図26】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図27】実施形態におけるメモリセルの基本構造およびその等価回路を示す図である。
【図28】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図29】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図30】実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図31】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【図32】実施形態における積層膜の断面STEM像を示す図である。
【図33】実施形態における積層膜に対して用いた2層モデルを示す図である。
【図34】実施形態における2層モデルの1層あたりの磁気ヒステリシスを示す図である。
【図35】実施形態における2層モデル積層膜の磁気ヒステリシスを示す図である。
【図36】実施形態における保磁力Hcおよび飽和磁化Msの2層モデルによる計算値および実測値を示す図である。
【図37】実施形態におけるインダクタ周辺の磁場強度分布を示した図である。
【図38】実施形態におけるインダクタンス特性の抽出に用いたπ型等価回路を示した図である。
【図39】実施形態におけるインダクタンスの周波数依存性を示した図である。
【図40】実施形態におけるインダクタのQ値の周波数依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の種々の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号が付され、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
【0013】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
図1に示した半導体装置10は、基板(シリコン基板等の半導体基板20)、半導体基板20の主面上に形成され、かつ配線層(多層配線層11B)を含む半導体素子12、および半導体素子12を被覆する磁気シールド(ヘテロ構造磁気シールド170)を含む。
【0014】
ヘテロ構造磁気シールド170は、第一の構造体(第一の磁気シールド積層構造16A)と第一の磁気シールド積層構造16Aを被覆する第二の構造体(第二の磁気シールド積層構造16B)が基板側からこの順に積層された構成である。ヘテロ構造磁気シールド170は、半導体素子12の上面を選択的に被覆するように設けられてもよい。
【0015】
第一の磁気シールド積層構造16Aおよび第二の磁気シールド積層構造16Bは、いずれも、半導体素子12を被覆する磁性体からなる磁気シールド膜および半導体素子12と磁気シールド膜との間に介在し磁性体の拡散を防止するバッファ膜とを有する。
具体的には、第一の磁気シールド積層構造16Aは、半導体素子12の上面を被覆する磁性体からなる第一の磁気シールド膜15Aと、半導体素子12と磁気シールド膜15Aとの間に介在し磁性体の拡散を防止する第一のバッファ膜14Aとからなる。また、第一の磁気シールド積層構造16A上に形成される第二の磁気シールド積層構造16Bは、第一の磁気シールド積層構造16Aと同様の積層構造を有する。図1では、第二の磁気シールド積層構造16Bは、磁気シールド膜15Aの上部に設けられてこれを覆う第二の磁気シールド膜15Bと、磁気シールド膜15Aと磁気シールド膜15Bとの間に介在し磁性体の拡散を防止する第二のバッファ膜14Bとからなる。
【0016】
ヘテロ構造磁気シールド170は、磁気シールド膜とバッファ膜とが順次積層された基本構造体が少なくとも2層以上積層されていればよい。図1では、磁気シールド積層構造が2層重ねて形成されているヘテロ構造磁気シールド170の例を示したが、ヘテロ構造磁気シールド170は任意の層数を重ねて形成してもよい。ここで、ヘテロ構造磁気シールド170は、磁気シールド膜がバッファ膜に挟まれる構造、もしくは、バッファ膜が磁気シールド膜に挟まれる構造を有している。
【0017】
半導体素子12と第一のバッファ膜14Aとの間には、SiO2膜などの絶縁膜(誘電体膜)13が形成され、半導体素子12とすべての磁気シールド積層構造が電気的に絶縁されている。
【0018】
第一および第二の磁気シールド膜15A、15Bを構成する磁性体は、軟磁性の強磁性体である。第一および第二の磁気シールド膜15A、15Bは、たとえば同種の膜である。
第一および第二の磁気シールド膜15A、15Bを構成する磁性体は、たとえばフェライトであり、さらに具体的には、スピネル型結晶構造を持つフェライト(スピネル型フェライト)とする。
スピネル型フェライトは、XFe24およびY1-nnFe24のうちの少なくとも一方の酸化物磁性体を主成分として含む。ここで、Xは、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群から選択される一種の元素である。YとZは互いに異なる元素である。Yは、Ni、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種の元素であり、Zは、Y以外の元素であって、Ni、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種である。また、nは、0<n<1を満たす数である。
【0019】
第一および第二のバッファ膜14A、14Bは、たとえば同種の膜である。また、第一および第二のバッファ膜14A、14Bは、各々独立して、タングステン(W)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)およびルテニウム(Ru)の中から選択された一種の高融点金属膜、もしくは、W、Ta、TiおよびRuの中から選択された少なくとも一種の元素を含む合金膜であればよい。あるいは、第一および第二のバッファ膜14A、14Bは、W、Ta、TiおよびRuからなる群から選択される一または二以上の元素を含む膜であってもよく、当該元素の窒化膜または当該元素の酸化膜を含んでもよい。これらのバッファ膜は、高融点金属膜、合金膜、酸化膜および窒化膜の中から選択された複数の膜(たとえば、Ti/TiN膜やTa/TaN膜)からなる積層構造を有していてもよい。バッファ膜は、磁気シールド膜の磁性体材料の半導体素子12への拡散を防止する機能を有する。特に窒化膜は、磁性体材料の拡散を防止する点で好ましいものである。
なお、本明細書では、積層構造を「上層/下層(基板側)」と表す。
【0020】
さらに、第一および第二のバッファ膜14A、14Bとしては、第一および第二の磁気シールド膜15A、15Bとの格子整合性が高い膜を用いることができる。こうすることにより、第一および第二の磁気シールド膜15A、15Bの結晶性を高めることができる。従って、バッファ膜および磁気シールド膜の積層構造を用いると、高い磁気シールド効果を得ることができる。さらに、バッファ膜と磁気シールド膜との格子整合性が高いために、バッファ膜および磁気シールド膜の界面において、磁気シールド膜の結晶性が特に高い。よって、磁気シールド積層膜を2層以上重ねたヘテロ構造磁気シールド170の構造を用いると、界面数が増すために、実効的に磁気シールド効果が改善される。ここでいう改善とは、磁気シールド膜の総膜厚が同等な場合において、ヘテロ構造磁気シールドを用いることで、磁気シールド効果が高まることを意味する。
【0021】
なお、本明細書での「磁気シールド効果」とは、磁性体の透磁率、磁化による磁束密度、磁気共鳴による磁気損失、もしくは渦電流損失といった物理的な特性に基づく電磁ノイズ抑制効果を指す。
【0022】
次に、半導体素子12の構成を説明する。
図1の例では、半導体素子12は、半導体基板20上に形成されたトランジスタT1、T2を含む。これらトランジスタT1、T2の各々は、ゲート電極、ソース拡散領域およびドレイン拡散領域(拡散層18)を含むn型またはp型のMOSトランジスタである。トランジスタT1は、STI(Shallow Trench Isolation)などの素子分離領域21、22により他の素子と分離され、トランジスタT2も、STIなどの素子分離領域22、23により他の素子と分離されている。
【0023】
トランジスタT1、T2の上には第一層間絶縁膜26が形成されている。第一層間絶縁膜26には、トランジスタT1のソース拡散領域またはドレイン拡散領域の一方に接続されたコンタクトプラグ41Aと、トランジスタT1のソース拡散領域またはドレイン拡散領域の他方に接続されたコンタクトプラグ41Bとが形成されている。コンタクトプラグ41A上に導電層51Aが、コンタクトプラグ41B上に導電層51Bがそれぞれ形成されている。さらに、第一層間絶縁膜26には、トランジスタT2のソース拡散領域またはドレイン拡散領域の一方に接続されたコンタクトプラグ42Aと、トランジスタT2のソース拡散領域またはドレイン拡散領域の他方に接続されたコンタクトプラグ42Bとが形成されている。コンタクトプラグ42A上に導電層52Aが、コンタクトプラグ42B上に導電層52Bがそれぞれ形成されている。
トランジスタT1、T2、コンタクトプラグ41A、41B、42A、42Bおよび第一層間絶縁膜26は、トランジスタ層11Aを構成する。
【0024】
第一層間絶縁膜26上には、第二層間絶縁膜27、第三層間絶縁膜28および第四層間絶縁膜29が下からこの順に積層されている。第二層間絶縁膜27、第三層間絶縁膜28および第四層間絶縁膜29は、多層配線層11Bを構成する。第三層間絶縁膜28と第四層間絶縁膜29には、インダクタ62を構成する埋め込み配線が形成されている。この多層配線層11Bとトランジスタ層11Aは、タングステン(W)などのコンタクトプラグ41A、41B、42A、42Bを介して電気的に相互接続されている。第一〜第四層間絶縁膜26〜29は、たとえば低誘電率材料からなる。低誘電率材料としては、たとえば、SiOC、SiC、SiOF、多孔質SiO2、または多孔質SiOCが挙げられる。
【0025】
次に、図2(A)〜図2(C)を参照しながら、半導体装置10の製造方法を説明する。図2(A)〜図2(C)は、図1に示した半導体装置10の製造工程を示す断面図である。
半導体装置10の製造方法は、たとえば以下の工程を含む:
ステップ11:半導体基板20の主面上に配線層(多層配線層11B)を含む半導体素子12を形成する工程、および
ステップ12:半導体素子12を被覆する磁気シールド(ヘテロ構造磁気シールド170)を形成する工程。
【0026】
ヘテロ構造磁気シールド170を形成する工程(ステップ12)は、
ステップ21:半導体素子12を被覆する第一の構造体(第一の磁気シールド積層構造16A)を形成する工程、および
ステップ22:第一の構造体を被覆する第二の構造体(第二の磁気シールド積層構造16B)を形成する工程
を含む。
【0027】
第一の磁気シールド積層構造16Aおよび第二の磁気シールド積層構造16Bを形成する工程(ステップ21〜22)は、いずれも、
ステップ31:半導体素子12を被覆し、かつ磁性体の拡散を防止するバッファ膜を形成する工程、および
ステップ32:バッファ膜を被覆し、かつ磁性体からなる磁気シールド膜を形成する工程
を含む。
【0028】
また、半導体素子12を形成するステップ11の後、半導体素子12を被覆する絶縁膜30を形成する工程をさらに含み、ヘテロ構造磁気シールド170を形成するステップ12において、ヘテロ構造磁気シールド170が絶縁膜30を被覆するようにヘテロ構造磁気シールド170を形成する。
以下、さらに具体的に説明する。
【0029】
図2(A)に示すように、シリコン基板等の半導体基板20上に、Tr1、Tr2等の所定の素子を形成し、トランジスタ層11Aを得る。
そして、トランジスタ層11A上に、多層配線層11Bを形成し、半導体素子12を得る。多層配線層11Bの形成工程は、インダクタ62(図1)を形成する工程を含む。
具体的には、トランジスタ層11Aの上に、第二層間絶縁膜27、第三層間絶縁膜28および第四層間絶縁膜29を積層する。第二層間絶縁膜27、第三層間絶縁膜28および第四層間絶縁膜29には、たとえばダマシンプロセス(シングルダマシンプロセスまたはデュアルダマシンプロセス)により埋め込み配線60、61が形成される。ダマシンプロセスでは、フォトリソグラフィー工程により、第二層間絶縁膜27に溝を形成し、当該溝にバリアメタルおよびCuシード膜をスパッタ法で順次形成し、続いて、電解めっき法により当該溝の内部にCu膜を成長させて当該溝にCu膜を埋設する。その後、化学機械的研磨法(Chemical Mechanical Polishing:CMP)により余剰のCu膜を除去する。これにより、第二層間絶縁膜27に埋め込み配線60が形成される。第三層間絶縁膜28および第四層間絶縁膜29にも、同様のプロセスで埋め込み配線が形成される。
【0030】
そして、図2(A)に示すように、半導体素子12の多層配線層11Bの上に、絶縁膜13を形成する。絶縁膜13は、Cuの酸化防止およびCuの拡散防止のための配線キャップとして機能する。絶縁膜13の材料は、たとえば、SiNもしくはSiCNである。または、絶縁膜13は、ハードマスク絶縁膜を含む多層絶縁膜や、パッシベーション用の絶縁膜であってもよい。ヘテロ構造磁気シールド170と半導体素子12とが絶縁される限りにおいて、特に絶縁膜13の膜種に限定はない。
【0031】
次に、図2(B)に示すように、絶縁膜13上に、たとえばDC(Direct Current)スパッタ法により第一のバッファ膜14Aを形成する。続いて、この第一のバッファ膜14A上に、たとえばRF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタ法により、スピネル型結晶構造を有するフェライトからなる第一の磁気シールド膜15Aを形成し、第一の磁気シールド積層構造16Aを得る。ここで、第一の磁気シールド積層構造16Aの形成時のプロセス温度の上限を、多層配線層11Bのプロセス温度の上限に準じた300〜400℃の範囲内に設定することができる。
さらに、図2(C)に示すように、同様のプロセスを用いて、第一の磁気シールド膜15A上に、第二のバッファ膜14Bおよび第二の磁気シールド膜15Bを順次形成し、第二の磁気シールド積層構造16Bを得る。こうして、第一の磁気シールド積層構造16Aと第二の磁気シールド積層構造16Bから構成されるヘテロ構造磁気シールド170が得られる。
なお、第一の磁気シールド積層構造16Aと第二の磁気シールド積層構造16Bから構成されるヘテロ構造磁気シールド170については、同様のプロセスを用いて任意の総数を重ねてもよい。
【0032】
以上により、図1に示した半導体装置10が得られる。
本実施形態によれば、第一の磁気シールド積層構造16Aと第二の磁気シールド積層構造16Bから構成されるヘテロ構造磁気シールド170を設けることにより、半導体装置の製造プロセス中に、磁性体膜の材料の拡散を効果的に抑制することができる。
また、本実施形態において、格子整合性の高いバッファ膜と磁気シールド膜の積層構造を多層膜化したヘテロ構造磁気シールド170を形成することで、薄い膜厚の磁気シールド膜を用いて、高い磁気シールド効果を得ることが可能である。
【0033】
また、多層配線中に磁性体膜を設ける場合、磁性体膜の形成温度は、配線形成プロセス温度に適合していなければならない。たとえば、背景技術の項で前述した特許文献3では、スピネル構造金属酸化物層の形成は配線形成プロセス温度に準じたプロセスを用いているが、スピネル構造金属酸化物層の下層のテンプレート層にアニール処理が用いられており、多層配線中に磁性体膜を設けるようなプロセスには適していない。
これに対し、本実施形態によれば、配線形成プロセスに適合したプロセスで、半導体基板内の多層配線中に磁性体膜を設け、磁性体膜の薄膜化と高い磁気シールド効果を同時に実現することが可能となる。たとえば、ヘテロ構造磁気シールド170を形成する工程(ステップ12)は、450℃以下のプロセス温度で行われる。
また、ダマシンプロセスでは、層間絶縁膜の耐熱性が低いことを考慮してプロセス温度の上限を350〜400℃の範囲内に設定するのが一般的である。その理由は、低誘電率材料の構成原子間の結合力が比較的弱いため、高熱処理を受けると低誘電率材料の熱分解や脱ガスが生じるからである。よって、多層配線層11Bを形成する場合、その多層配線層11Bとともに第一の磁気シールド膜15Aを形成するプロセスでも、そのプロセス温度の上限をたとえば350〜400℃の範囲内に設定する。
【0034】
また、本実施形態の磁気シールド構造では、磁性体材料の拡散防止機能を有する第一のバッファ膜14Aの上に第一の磁気シールド膜15Aが順次形成される磁気シールド積層膜であるので、磁性材料の拡散が防止され、金属汚染が起こらない構造を実現している。
【0035】
以下、Ni−Znスピネル型フェライト(Ni1-nZnnFe24、0<n<1)からなる磁気シールド膜を用いた種々の積層磁気シールド構造の特性の測定結果について説明する。バッファ膜はDCスパッタ法により形成され、バッファ膜上に、Ni0.5Zn0.5Fe24のターゲット材料を用いたRFスパッタ法により磁気シールド膜が成膜されている。Ni−Znスピネル型フェライト(以下、単に「Ni−Zn系フェライト」とも呼ぶ。)の成膜条件は、RFパワーを3kWとし、チャンバ内に導入したガス種をアルゴン(Ar)ガスおよび酸素(O2)ガスとしたものである。まず、Ni−Znスピネルフェライト膜とバッファ膜からなる磁気シールド積層膜に関する特性結果について述べる。
【0036】
図3は、100nm膜厚のバッファ膜上に、磁気シールド膜として200nm膜厚のNi−Zn系フェライト膜が形成された場合のX線回折(X-Ray Diffraction: XRD)データを表すグラフである。図3において、グラフの横軸は散乱角2θ(単位:°、θ:ブラッグ反射角)を示し、縦軸はXRD強度を任意単位(arb. unit)で示している。バッファ膜には、アモルファス酸化ケイ素(SiO2)、窒化タンタル(TaN)、チタン(Ti)を用い、Ni−Zn系フェライト膜は、酸素濃度8%で成膜したものを用いている。
【0037】
バッファ膜の材料がSiO2である(図3中「/SiO2」)場合とTaNである場合(図3中「/TaN」)を比較すると、TaNを用いた方が、スピネル(311)強度が非常に高いことがわかる。この理由としては、TaN膜の最配向面とNi−Zn系フェライト膜の最配向面(すなわちスピネル(311)面)との格子整合性が良好であり、Ni−Zn系フェライトの初期のグレイン成長時に、スピネル(311)面が成長しやすいことが推察される。
一方、バッファ膜にTiを用いた場合(図3中「/Ti」)では、スピネル{111}の強い配向が起きていることがわかる。これは、同様に、Tiの(002)面とNi−Zn系フェライトのスピネル{111}面の格子整合性が良好であるためである。なお、{111}面は、具体的には、(111)面およびその等価面をいう。
【0038】
以上より、バッファ膜の材料の選択により、配向面の選択、および高結晶化が可能であるといえる。
たとえば、磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(311)面を有していてもよく、このとき、バッファ膜が、TaNを主成分として含んでもよい。また、このときさらに、第一の磁気シールド積層構造16Aが、第二のバッファ膜14Bと第二の磁気シールド膜15Bとからなり、第二の磁気シールド積層構造16Bが第一の磁気シールド積層構造16Aの上部を被覆し、第二の磁気シールド積層構造16Bにおける磁性体が、膜厚方向に配向した(311)面を有していてもよい。
また、図5を参照して後述するように、バッファ膜が、TaNを主成分として含み、磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(400)面を有してもよい。
また、バッファ膜が、Tiを主成分として含み、磁気シールド膜が、膜厚方向に配向した{111}面を有してもよい。
図3で用いたバッファ膜は、LSI中の多層配線形成プロセスにおけるバリアメタルとして用いられており、半導体プロセスへの親和性が高い。
【0039】
図3においては、バッファ膜Ti上と、バッファ膜TaN上で、Ni−Zn系フェライト膜の配向面が異なることを示した。次に、Ni−Zn系フェライトの配向性の差を調べるために、断面STEM(scanning transmisson electron microscope:走査透過型電子顕微鏡)を用いた微細構造観察を行った。
図4(A)および図4(B)は、図3のX線回折データに対応した積層膜、すなわちNi−Zn系フェライト/TaNとNi−Zn系フェライト/Tiの断面STEM像を示す図である。バッファ膜がTiの場合(図4(A))、Ni−Zn系フェライトは、バッファ膜Tiの構造に沿ってグレイン成長しており、明らかにバッファ膜がTaNの場合(図4(B))とグレイン成長の仕方が異なっている。バッファ膜Ti上でのNi−Zn系フェライトのグレイン成長における優先配向面が、図3で示したスピネル(111)面の配向に相当していると考えられる。したがって、バッファ膜の結晶構造を制御して磁気シールド膜の配向面を制御することにより、電磁ノイズの周波数や電磁ノイズの伝播方向に合わせた高い電磁ノイズ抑制効果を実現することが可能となる。
【0040】
図5は、積層膜のX線回折データを示す図であり、Ni−Zn系フェライト/TaNの積層膜の酸素濃度0、4、8(%)でのX線回折データを示している。図5より、酸素濃度を8%とした条件下でのスピネル(311)面の強度が非常に高く、酸素濃度を4%とした条件下ではスピネル(400)面の配向が強く生じていることがわかる。
成膜時の酸素濃度を8%としたとき、Ni−Zn系フェライト膜にスピネル(400)面の配向は観測されない。これは、Ni−Zn系フェライトの結晶格子中に占める酸素イオンの配置や鉄の価数が酸素濃度の影響を受けて、Ni−Zn系フェライトの結晶構造が変化したからである。ゆえに、成膜時の酸素濃度によって、Ni−Zn系フェライトの配向面を制御することが可能である。
【0041】
図6は、上記Ni−Zn系フェライトに関するスピネル(311)面のX線回折強度の酸素濃度依存性を示す図である。図6は、Ni−Zn系フェライト/TaN積層構造における(311)面のX線回折強度とNi−Zn系フェライト膜の成膜時酸素濃度の関係をプロットしたグラフである。ここでは、バッファ膜TaNを用いた2層膜を用いている。図6のグラフの横軸は成膜時の酸素濃度(単位:%)を示し、その縦軸は(311)面のX線強度(単位:arb. unit)を示している。
【0042】
図6より、スピネル(311)面の配向性は、酸素濃度にも強く依存し、酸素濃度が8%程度で、最も高くなることがわかる。ここでは、フェライトスパッタ時のチャンバ内圧力Pが3.2mTorr(図中「○」)および6.4mTorr(図中「▽」)のデータを示しており、配向性は、主に酸素濃度により決まることがわかる。
【0043】
図7は、図3に示した結晶性を有する、Ni−Zn系フェライト/TaNとNi−Zn系フェライト/SiO2、Ni−Zn系フェライト/Tiの3つの積層構造の磁気ヒステリシスの測定結果を示すグラフである。図7のグラフの横軸は外部磁場Hex(単位:kOe)を示し、その縦軸は磁化Ms(単位:kG)を示している。図3と比較すると、Ni−Zn系フェライトの高結晶化によりスピネル(311)面の強度が高まると、飽和磁化が大きくなり、保磁力が低下し、透磁率が大きくなることが分かる。したがって、バッファ膜として特にTaN膜を使用することで、Ni−Zn系フェライトの高結晶化と磁気シールド効果のより一層の向上が可能となる。
【0044】
図8は、スピネル(311)面の強度と飽和磁化の関係をプロットしたグラフである。図8より、スピネル(311)面の強度と飽和磁化には正の相関関係があることがわかる。ゆえに、より高い磁気シールド効果を得るには、スピネル(311)面の高配向が必要である。Ni−Zn系フェライト膜のスピネル(311)面の高配向に寄与するバッファ膜TaNは、高いシールド効果を得るために好適なバッファ膜であることが分かる。
【0045】
図9は、Ni−Zn系フェライト/TaN積層構造の電流−電圧特性を示すグラフである。図9は、Ni−Zn系フェライト膜の成膜時酸素濃度依存性をプロットしたグラフであり、Ni−Zn系フェライト膜の成膜時の酸素濃度(O2/Ar)を0%、4%、8%および12%とした場合の測定値がプロットされている。
【0046】
図9のグラフによれば、酸素濃度8%と12%の条件下では、Ni−Zn系フェライト膜が高抵抗化していることが分かる。これら2つの条件では、図8の高飽和磁化の条件も満たしており、高抵抗、高飽和磁化および高透磁率のいずれをも実現することができる。一方、酸素濃度が0%と4%の条件下では、酸素欠陥によりNi−Zn系フェライト膜は低抵抗化する。ただし、パーマロイ(NiFeの合金)、アモルファス磁性体(CoZrTaなど)の軟磁性体の電気抵抗率は、10-5〜10-6Ω・cmのオーダーであるので、酸素濃度が0%と4%の条件下で形成されたNi−Zn系フェライト膜は、当該他の軟磁性体と比べて遙かに高い電気抵抗率を有しており、高周波での渦電流損失を充分に抑制することができる。
【0047】
次に、膜厚100nmのSiO2膜上に膜厚15nmのTaN膜をバッファ膜として形成し、このTaN膜上に膜厚200nmのNi−Zn系フェライト膜を磁気シールド膜として形成した。この構成において、バッファ膜であるTaNの磁性材料に対する拡散防止効果について調べた。
図10は、裏面二次イオン質量分析(backside Secondary Ion Mass Spectrometry:裏面SIMS)の結果を示すグラフである。なお、裏面SIMSとは、SIMSによる試料裏面からの深さ方向分析を意味する。試料として、Ni−Zn系フェライト/TaN/SiO2の3層構造を、窒素雰囲気中350℃の下で7時間アニール処理したものが使用された。図10のグラフ中、破線は、TaN膜とSiO2膜との界面位置を表している。このグラフから明らかなように、破線よりもSiO2膜側の領域にNi、Zn、Feが拡散して侵入していない。すなわち、TaN膜が拡散防止膜として機能していることが分かる。図1のバッファ膜14A、14Bとして、W膜、Ru膜、Ta膜、Ti膜およびTiN膜の各々を用いた場合でも、TaN膜の場合と同様に拡散防止効果を得ることができる。従って、本実施形態の磁気シールド膜が拡散防止膜に囲まれた構造を半導体基板中に形成すると、層間膜中への金属汚染の恐れがないため、たとえば半導体装置の信頼性および製造歩留まりを向上させることが可能となる。
【0048】
次に、バッファ膜TaN100nm上にNi−Zn系フェライト膜を200、400、600、800(nm)と各々成膜した積層膜(図11(A))の磁気特性の磁性体膜厚依存性について調べた。図11(B)に、各々の膜厚での磁気ヒステリシスデータを示す。図11(B)は、積層膜のフェライト膜厚と磁気ヒステリシスの関係を示す図であり、フェライト膜厚を大きくすると、飽和磁化が低下していることが分かる。これは、Ni−Zn系フェライト膜の厚膜化では結晶性が特に改善されないということを示している。加えて、膜厚を大きくすると、低抵抗化し、磁性体膜中で発生する渦電流損失が増加し、磁気シールド効果は低下してしまう。
【0049】
以上により、バッファ膜TaNでは、Ni−Zn系フェライトのスピネル(311)面の成長が促進されること、Ni−Zn系フェライトの厚膜化では、結晶化が進まず、磁気特性が改善されないことを示した。この結果から、バッファ膜TaNとNi−Zn系フェライト膜の積層膜では、バッファ膜TaNとNi−Zn系フェライト膜の界面の結晶性が支配的であると考えられる。界面を利用する、つまり、バッファ膜TaNと磁気シールド膜Ni−Zn系フェライト膜を順次に積層することによって、実効的に結晶性を高めることができ、磁気シールド効果も高められる。また、薄膜化して積層することで、実効的に磁性体膜の渦電流損失を低減することが可能である。
【0050】
以下、バッファ膜および磁気シールド膜を順次積層した構造であるヘテロ構造磁気シールドに関する種々の特性結果について説明する。Ni−Zn系フェライト/TaNの積層膜を1層と考え、2、3、4層と多層膜化した水準を用いた。ヘテロ構造磁気シールドにおけるNi−Zn系フェライトの総膜厚は200nmとし、TaNの膜厚は各々25nmとした。
【0051】
図12(A)〜図12(D)は、それぞれ、1〜4層として用いたヘテロ構造磁気シールドの構成を示す断面図である。図12(A)〜図12(D)におけるすべての構造で、Ni−Zn系フェライト膜の総膜厚は200nmであり、バッファ膜TaNは1層あたり25nmとしている。Ni−Zn系フェライトは、スピネル(311)面の強度が最も高かった、酸素濃度8%(チャンバー内圧力P=3.2mtorr)、300℃の条件で、RFマグネトロンスパッタを用いて各々成膜した。バッファ膜TaNについては、DCスパッタを用いて、室温にて成膜を行った。
【0052】
図13は、図12(A)〜図12(D)に示したヘテロ構造磁気シールドに対応するX線回折データを示す図である。図13から、積層数が増すほど、Ni−Zn系フェライトのスピネル(311)強度が増している。これは、図32(A)および図32(B)を参照して後述するように、バッファ膜とNi−Zn系フェライトの界面付近に、高い結晶層が存在していることによる。
また、バッファ膜/Ni−Zn系フェライト膜の界面付近と、それ以外の場所の結晶化度が同等であれば、Ni−Zn系フェライト膜厚が一定で、積層数に応じてスピネル(311)強度が増すということは起き得ない。従って、バッファ膜とNi−Zn系フェライト膜の界面付近には高結晶層が存在している。上記界面の高結晶層を多く用いる、つまり、ヘテロ構造化することで、Ni−Zn系フェライト膜厚が同じであるヘテロ構造磁気シールドにおいても、実効的に高いスピネル(311)強度を得ることができるため、高い磁気シールド効果を得ることができる。
【0053】
かかるへテロ構造磁気シールドは、たとえばNi−Zn系フェライト上にTaNを成膜し、その上にNi−Zn系フェライトを成膜することで形成される。また、へテロ構造化において、(311)強度が増すのは、バッファ膜TaNの効果によりNi−Zn系フェライトの(311)面の高配向することで起きる。ここで、前記へテロ構造における、Ni−Zn系フェライトの実効的な(311)高配向効果は、Ni−Zn系フェライト上のバッファ膜も、TaN膜のように、当該バッファ膜上に、次に成膜されるNi−Zn系フェライトの高配向を起こす効果を有するような膜構造を保っていることが不可欠である。
すなわち、図3に示したように、Ni−Zn系フェライトの(311)高配向は、(110)配向したバッファ膜TaN構造による。仮に、Ni−Zn系フェライト上に成膜したTaNが、(110)配向を有していない場合は、へテロ構造化において、(110)配向を有していないTaN上に成膜されるNi−Zn系フェライトの実効的な(311)高配向は起きないと考えられる。
【0054】
図13に示したヘテロ構造におけるX線回折結果より、前記Ni−Zn系フェライト/TaN構造の多層化により、Ni−Zn系フェライトの(311)強度とともに、バッファ膜TaNの(110)強度が増していることが分かる。このことから、へテロ構造におけるNi−Zn系フェライト上のバッファ膜TaNは、バッファ膜上にNi−Zn系フェライトを成膜した際も、Ni−Znフェライトの(311)高配向に寄与するような、(110)配向したバッファ膜TaNとして機能するといえる。へテロ構造化によるNi−Zn系フェライト膜の(311)高配向効果は、TaN(110)のバッファ膜としての効果に依るとともに、前記バッファ膜(110)構造がNi−Zn系フェライト上に成膜された場合においても、(110)構造を保って、順次積層されるNi−Zn系フェライトに対しても、同様に(311)高配向効果を有するために得られると考えられる。
【0055】
図32(A)および図32(B)は、作成した積層膜の断面STEM像を示す図である。図32(A)は、図12(A)の構造に対応し、シリコン基板(図中「Si」)にNi−Zn系フェライト膜/TaNバッファ膜の積層体を1層形成した構造体の断面図である。図32(B)は、図12(D)の構造に対応し、シリコン基板図中「Si」にNi−Zn系フェライト膜/TaNバッファ膜の積層体を4層形成した構造体の断面図である。
【0056】
図32(A)より、1層膜では、Ni−Zn系フェライト膜とTaNバッファ膜との界面から50nm程度の厚さの領域において、フェライト膜が緻密な高結晶層として形成されていることがわかる。また、図32(B)より、4層膜では、Ni−Zn系フェライト膜が厚さ方向全体にわたって高結晶化しており、バッファ層を挟んで高結晶層の積層体が形成されていることがわかる。
【0057】
図14(A)および図14(B)は、図12(A)〜図12(D)それぞれのヘテロ構造磁気シールドの磁気ヒステリシスを示す図である。図14(A)は、図14(B)の一部を拡大して示す図である。図14(A)および図14(B)より、ヘテロ構造化により、保磁力が低減され、飽和磁化(ここでは、外部磁場10kOeでの磁化とする)が増加することが分かる。保磁力の低減は、膜厚が薄いNi−Zn系フェライト膜の個々の層の磁化反転が、1層のNi−Zn系フェライト膜と比較すると、容易になったためである。また、ヘテロ構造磁気シールドのように、磁気シールド膜を多層化することで飽和磁化が増加するのは、多層化によって、図13を参照して前述したように、同じ総膜厚のNi−Zn系フェライトの結晶性が実効的に高まったためである。
【0058】
次に、ヘテロ構造磁気シールドの電気特性について述べる。図15は、Ni−Zn系フェライト/TaNのへテロ積層構造の電流−電圧特性を示すグラフである。図15のグラフによれば、Ni−Zn系フェライト/TaNにより構成される多層磁気シールド膜は1〜4層のすべての構造において、MΩcmオーダーの同等の抵抗率を有することがわかる。よって、ヘテロ構造磁気シールドは、高い抵抗率を維持しながら、透磁率を高めることができ、高い磁気シールド効果を有する膜として機能すると考えられる。つまり、Ni−Zn系フェライト/TaNのヘテロ構造磁気シールド積層構造は、高配向性、高抵抗率、高透磁率を実現できる構造であるといえる。ヘテロ構造磁気シールド多層構造において、抵抗率のオーダーはMΩcmであり、ヘテロ構造化によらず、同等である。
図14および図15より、バッファ膜、磁気シールド膜の積層化により、絶縁性を保ちながら、透磁率を高めることが可能であることがわかる。
【0059】
つづいて、へテロ構造における磁気特性の改善効果を定量的に議論する。図32(A)より、TaN上のNi−Zn系フェライトの初期成長層50nmは高結晶層であり、高飽和磁化、低保磁力な膜、つまり高透磁率な膜であると推察される。
そこで、以下、初期成長層の効果について、磁気特性関する定量的な解析をおこなった。TaN上の50nm厚の高結晶Ni−ZnフェライトをA層、それ以外のNi−ZnフェライトをB層とした「2層モデル」を用いて、へテロ構造の磁気特性の改善効果の妥当性を以下に示す。Ni−ZnフェライトおよびバッファTaN膜のヘテロ構造磁気シールド中のNi−Znフェライトがバッファ膜TaN上の50nm膜厚のA層、およびそれ以外の箇所のフェライト層をB層とした「2層」よりなるという意味で、「2層モデル」としている。
A層と1層あたり50nm厚相当のB層とを「2層モデル」に適用すると、Ni−Zn系フェライト/TaNのヘテロ構造は、図33のように表せる。たとえば、1層膜は、1層のA層と3層のB層とからなり、4層膜は、4層のA層からなると考える。
【0060】
磁気特性の定量的な議論を行う際に、双曲線正接関数(tangent hyperbolic)を用いて磁気ヒステリシスを表すこととする。
すなわち、磁気ヒステリシスを、外部磁場Hを変数として以下の式(a)と表す。
【0061】
【数1】

【0062】
上記式(a)において、aおよびbは定数、M0は飽和磁化、Hcは保磁力である。また、50nm相当のA層およびB層の磁化を、それぞれM(H)AおよびM(H)Bと表すと、積層構造の磁化は、以下の式(b)で表される。
【0063】
【数2】

【0064】
上記式(b)において、tAおよびtBは、それぞれ、積層構造中のAおよびB層の総膜厚である。よって、図33で、1層構造の磁化はM(H)A+M(H)Bで与えられ、4層構造の磁化は4M(H)Aで与えられる。2層モデルと上記式(a)および(b)から、図14の実測データをフィッティングして、A層およびB層それぞれの磁気ヒステリシスが図34のように抽出される。図34は、2層モデルの1層あたりの磁気ヒステリシスを示す図である。図34より、B層に比べて、TaN上の初期成長層であるA層が高飽和磁化、低保磁力な層である。これは、断面TEM(図32)、X線回折(図13)、磁気ヒステリシス(図14)の実測データから、A層が(311)の高結晶層で、高透磁率を有することとも一致する。
【0065】
図34で得られたA層、B層の磁気ヒステリシスから、2層モデルを用いて図33に示した各ヘテロ構造の磁気ヒステリシスをそれぞれ計算して得られた結果を図35に示す。図35より、図14の実測データと同様に、へテロ構造化により、高飽和磁化、低保磁力、つまり高透磁率化が起きていることがわかる。
【0066】
図36は、保磁力Hcおよび飽和磁化Msについて、図14の実測データと図35の2層モデルによる計算結果を示す図である。図36より、2層モデルが実測結果を非常に良く再現していることが分かる。したがって、TaN上のNi−Zn系フェライトの初期成長層は高結晶な、高透磁率な層であり、へテロ構造化によって、磁気シールドフェライト膜の磁気シールド効果を高めることが可能であると言える。
【0067】
次に、ヘテロ構造磁気シールド170の磁気シールド効果についてさらに説明する。
高周波ノイズの抑制には、高周波帯での磁気損失を利用しており、磁気損失が起こる周波数は、磁気共鳴周波数により決まる。磁気共鳴周波数は、磁気異方性磁場に比例し、異方性が高いものほど、共鳴周波数が高周波側にシフトする。磁気異方性は、形状による制御が可能であり、薄膜では、膜厚が薄いほど、面直方向の反磁場が増すために、面内の磁気異方性が増加し、磁気共鳴周波数が高まる。したがって、本実施形態で提案したヘテロ構造磁気シールドを用いると、バッファ膜、磁気シールド膜の2層の積層磁気シールド構造と比べて、磁気シールド膜の1層あたりの膜厚を薄くして、1層あたりの磁気共鳴周波数を高めることができ、より高周波の信号に対しても、磁気シールド効果を得ることが可能である。
【0068】
磁気損失は、高周波帯での磁性体の負の透磁率成分に起因した現象である。磁気共鳴周波数以上の高周波帯では、外部磁場の印加に対して、磁性体の磁気モーメントが追随できなくなり、磁気損失が発生する。この損失が、負の透磁率成分に相当する。一方、ヘテロ構造磁気シールドに用いるバッファ膜は非磁性体であり、周波数に依らず、透磁率は常に1である。よって、ヘテロ構造磁気シールドを用いることで、高周波帯での負の透磁率成分を実効的に減らすことが可能である。これは、高周波数での磁気損失の低減と等価であり、高い磁気シールド効果を得ることが可能である。
【0069】
ヘテロ構造磁気シールド170は、半導体素子12内の多層配線層11Bの配線を伝搬する信号に起因して発生する電磁場をシールドする機能を有する。インダクタ62を構成する配線を高周波の電流信号が流れた場合にインダクタ62で発生した磁束を磁気シールド膜15に集中させることにより、インダクタ62のインダクタンスLやQ値(quality factor)を向上させることが可能である。このため、インダクタ62の高性能化と小型化が可能である。後述する多層配線構造のインダクタと、本実施形態の磁気シールド構造とを組み合わせることで、インダクタ62の小型化を実現することができる。たとえば、LCR回路構成を含むRFアナログ回路では、半導体チップの集積度が増すにつれて、インダクタの高性能化と小面積化が急務となっている。このため、インダクタの寸法を変更することなくインダクタンスLを増加させる、もしくはインダクタを小面積化しても充分に高いインダクタンスLを得ることが必要である。
【0070】
図16および図17は、磁気シールド効果を確かめるシミュレーション用のインダクタの構造を示す図である。図16は、インダクタIの構成を示す斜視図であり、図17(A)および図17(B)は、インダクタIおよび磁気シールド膜の断面構造を示す図である。このインダクタIは、M1〜M5の5つの金属配線層で形成された平面インダクタであり、引き出し配線64、65を介して、入力、出力ポートとして機能するPort1、2に接続されている。また、平面視において、インダクタIの外径は、各辺の長さが約17μmとなる正方形状である。インダクタIの配線幅/スペースは、2μm/0.5μmである。
【0071】
図18は、図17に示したインダクタI上に磁気シールド膜を配置した場合のシミュレーションの結果を示す図である。磁気シールド膜には、抵抗率ρ=1μΩcm、10MΩcm、比透磁率μ=2、10のものを各々用い、空芯構造との比較を行った。ここでは、磁気シールド膜の膜厚は200nmとし、以上の実施形態にて検討した構造と同様の構造としている。ρ=1μΩcmは、パーマロイなどの軟磁性体と同等の抵抗率であり、ρ=10MΩcmは、本検討で得られたNi−Zn系フェライトを用いヘテロ構造磁気シールドと同等の抵抗率である。μ=2で、ρ=1μΩcmとρ=10MΩcmのインダクタンスを比較すると、ρ=1μΩcmの膜では、高周波での損失が大きく、インダクタンスが低下していることがわかる。本実施形態におけるρ=10MΩcmの磁気シールド膜は、渦電流損失を特に低減でき、より高い磁気シールド効果を有することがわかる。
図18より、ヘテロ構造磁気シールドを用いることで、より高い磁気シールド効果を得ることができる。
【0072】
また、へテロ構造磁気シールドに関しても、同様の電磁界シミュレーションを行った。図17(B)中の磁気シールド膜に、図14、図15で得られた電磁気特性の実測データ、実測した評価構造を用いた。実測した評価構造とは、図12で示したものである。その際の、インダクタ周辺の磁場強度分布を図37に示す。
【0073】
まず、図37より、磁性膜無しの場合に比べて、1層および4層の磁気シールド膜を用いた場合、インダクタ誘起磁場の広がりが抑えられていることがわかり、インダクタ誘起磁場の効率化に繋がっている。さらに、1層および4層磁気シールド膜を用いることで、インダクタ中心の誘起磁場強度が高まっていることがわかる。4層磁気シールド膜を用いた際に、磁場の広がりを抑える効果、誘起磁場強度を高める効果が顕著である。これは、へテロ構造化による、図14で示した高透磁率化の効果と、図15に示したような低損失特性によると考えられる。へテロ構造化により、損失特性が高まれば、透磁率が高まったとしても、高周波帯での損失により、磁場強度が低減する恐れがある。しかしながら、へテロ構造磁気シールドでは、低損失特性を維持しながら、高透磁率を有するため、図37で示したように、高周波帯での高い磁気シールド効果を得ることができる。
【0074】
以上説明したヘテロ構造化による効果は、たとえばNi−Zn系フェライトとTaNバッファ膜を用いた実施形態において、TaNバッファ膜上でのNi−Zn系フェライトの(311)高配向が起きる範囲においては、層数に依らない。
また、以上の検討においては、フェライト総膜厚を200nmと固定して、ヘテロ構造化の検討をおこなったが、たとえばバッファ膜TaN上において、(311)高配向のNi−Zn系フェライトが得られる範囲では、フェライト、TaNの総膜厚に限定はない。
【0075】
次に、図17(B)に示した磁気シールド膜に、へテロ構造磁気シールド構造を用いた際のインダクタ特性を、π型等価回路モデルを用いて算出した。用いたπ型等価回路を図38に示す。へテロ構造磁気シールド膜として、1層膜および4層膜の磁気ヒステリシス(図14)と、抵抗率ρ=10MΩcmの実測データ(図15)および評価構造(図12)を適用した。
【0076】
以下に、図38に示したπ型等価回路のYパラメータからインダクタ特性を算出する方法を示す。Port1、Port2は各々、図16に示したPortに相当する。図38に示した等価回路において、V2=0Vとすると、V1、I1およびY11の関係は、以下の式(1)のようになる。
【0077】
【数3】

【0078】
上記式(1)中、Y11は、R、Lおよび各周波数ωを用いて以下の式(2)で表される。
【0079】
【数4】

【0080】
上記式(2)の第1項は、Y11の実数部に対応し、第2項のjを除いた部分はY11の虚数部に対応する。ここで、Q値の定義は、以下の式(3)で示される。
【0081】
【数5】

【0082】
よって、Q値は、以下の式(4)としてY11から求めることができる。
【0083】
【数6】

【0084】
また、R、Lは、上記式(2)より、以下の式(5)および式(6)として求められる。
【0085】
【数7】

【0086】
【数8】

【0087】
電磁界シミュレーションで算出されYパラメータを上記式(1)〜式(6)に適用して、インダクタンスL、Q値を各々算出し、プロットしたグラフを図39および図40に示す。これらのグラフにおいて、横軸は周波数(単位:GHz)に対応し、縦軸は、インダクタンスL(図39)およびエネルギー損失に逆比例するQ値(図40)にそれぞれ対応している
【0088】
まず、図39のインダクタンスの周波数特性の結果から、磁気シールド膜を用いない場合に比べて、磁気シールド1層膜構造および4層膜構造をインダクタのコアとして用いることで、インダクタンスが向上していることがわかる。1層膜構造を用いた場合、磁性体膜を用いない場合に比較して、5%の改善効果が得られる。4層膜の場合は、磁気シールド膜を用いない場合と比較して、10%の改善効果が得られる。
【0089】
磁気シールド膜を用いることで、GHz帯での改善効果が得られるのは、本願磁気シールド膜がρ〜10MΩcmと非常に渦電流損失が小さく、GHz帯での磁場閉じ込め効果を有する磁気シールド膜であることに起因する。さらに、4層膜で非常に高い改善効果が得られるのは、図14に示したように、4層膜構造では、1層膜構造と比べて、低保磁力かつ高飽和磁化を有する膜で、磁場への応答性が非常に高い高透磁率な膜であるためである。4層膜構造でも低損失を維持できるため、磁気特性の改善効果がGHz帯のインダクタ特性の高い改善効果に繋がっている。
【0090】
これらの結果は、図37のインダクタンス誘起磁場分布と対応しており、インダクタの誘起磁場の閉じ込め効果、磁場強度の向上効果によって、へテロ構造を用いることで、インダクタンスを高めることができる。また、4層膜構造では、磁場の閉じ込め、向上効果が高いために、インダクタンスの向上率も、1層膜構造と比較して高くなっている。
【0091】
また、図40は、Q値の周波数依存性を示す図である。磁性体膜を用いない場合、1層膜磁気シールドを用いた場合、および4層膜磁気シールド膜を用いた場合をそれぞれプロットしている。Q値とは、エネルギー損失に逆比例する値で、たとえば、半導体基板中の低抵抗な箇所での渦電流損失などを反映する。
図40より、1層膜磁気シールドを用いた場合、磁性体膜を用いない場合と比較して、Q値が5GHz帯で2%向上する。4層磁気シールド膜を用いた場合、磁性体膜を用いない場合と比較して、5GHz帯で4%向上する。
【0092】
磁性体膜を用いない場合と比べて、本実施形態における磁気シールド膜を用いると、図37のように、インダクタ誘起磁場の広がりが抑えられる。誘起磁場の漏れが半導体基板中の低抵抗部である、Cu配線、Si基板などに到達すると、渦電流損失が発生し、インダクタのQ値が低下する。本実施形態における磁気シールド膜では、インダクタ誘起磁場の広がりが抑えられることで、磁性体膜を用いない場合よりも損失を低減することが可能であり、こうした磁気シールド膜を用いることで、Q値が向上する。
【0093】
さらに、1層磁気シールド膜と比べて、4層シールド膜では、より高いQ値が得られた。これは、図37のように、1層磁気シールド膜よりも、4層磁気シールド膜を用いることで、より高い磁場の閉じ込め効果が得られ、損失が低減されるためである。
【0094】
以上においては、平面インダクタでの特性向上効果を示したが、本実施形態および本明細書の他の実施形態において、インダクタの形状によらず、インダクタの誘起磁束密度を高めることが可能であり、インダクタの特性を向上させることが可能である。
また、インダクタに対して適用するヘテロ構造磁気シールドは、積層化により、実効的に高透磁率化が起こる範囲において、または、LSI配線中のデザインルールに則る範囲において、へテロ構造の磁気シールド膜(たとえばNi−Zn系フェライト膜)およびバッファ膜(たとえばTaN膜)の積層数に限定は無い。
【0095】
以下の実施形態では、第一の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0096】
(第二の実施形態)
図19(A)〜図19(C)、図20(A)、図20(B)、図21(A)および図21(B)は、本実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。図19(A)〜図21(B)を参照しながら、本実施形態における半導体装置10A(図21(B))およびその製造方法について説明する。
【0097】
まず、第一の実施形態に準じて、図1に示したトランジスタ層11Aとインダクタ62の配線を含む多層配線層11Bとを形成する。
次いで、図19(A)に示すように、多層配線層11Bの上に第五層間絶縁膜30を形成する。その後、エッチング加工により図19(A)に示した第五層間絶縁膜30の所定の領域を選択的に除去し、凹部(溝)35、36を選択的に形成する(図19(B))。凹部(溝)35は、インダクタ62の形成領域の上部に形成され、凹部(溝)36は、トランジスタ層11Aのトランジスタ上部と、多層配線層11Bの配線上部に選択的に形成される。ここで、多層配線層11Bの一部はインダクタ62を構成している。
【0098】
次に、ヘテロ構造磁気シールドを、第五層間絶縁膜30の凹部または凸部(凹部35、36)の面に沿って形成する。まず、図19(B)に示した構造の全面上に、スパッタ法にて第一のバッファ膜14Eを成膜する。続けて、バッファ膜14Eの上に、たとえばRFマグネトロンスパッタ法により第一の磁気シールド膜15Eを形成し、第一の磁気シールド積層構造16Eを形成する。ここで、磁気シールド膜15Eの形成時のプロセス温度の上限を、多層配線層11Bの低温プロセス(めっき法やスパッタ法)の温度の上限に準じた350〜400℃の範囲内に設定すればよい。
その後、積層と同様に、DCスパッタ法により、第一の磁気シールド膜15Eを連続的に被覆する第二のバッファ膜14Fを形成する。そして、第二のバッファ膜14F上にRFマグネトロンスパッタ法により第二の磁気シールド膜15Fが形成され、第二の磁気シールド積層構造16Fが形成される(図19(C))。
【0099】
続けて、磁気シールド膜の構成材料が、多層配線中に拡散しないように、再び上部バッファ膜(第三のバッファ膜14G)を成膜し、第二の磁気シールド膜15Fをカバーする。上部バッファ膜14Gは、たとえば磁気シールドを構成する第一および第二のバッファ膜14E、14Fと同種の材料からなる膜である。
ここでは、バッファ膜、磁気シールド膜の積層構造において、磁気シールド膜を2層用いたヘテロ構造磁気シールド171の例を示しているが、ヘテロ構造磁気シールドの総数の制限は特にない。
【0100】
次に、バッファ膜および磁気シールド膜の一部を選択的に除去して半導体素子の上面の一部を被覆するヘテロ構造磁気シールド171を形成する。
まず、図19(C)の積層構造の全面上に、酸化ケイ素または窒化ケイ素などのハードマスク材料からなる第六層間絶縁膜31を形成する(図20(A))。この第六層間絶縁膜31の上面を、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)により平坦化する(図20(B)の第六層間絶縁膜31C)。
その後、このマスクパターンを用いたエッチングにより、バッファ膜および磁気シールド膜の積層構造ならびに第六層間絶縁膜31Cからなる積層構造を選択的に加工する。その結果、インダクタ62の形成領域を選択的に被覆するヘテロ構造磁気シールド171が形成される(図21(A))。ヘテロ構造磁気シールド171は、少なくともインダクタ62の形成領域を被覆するように、さらに具体的にはインダクタ62の形成領域を選択的に覆うように形成される。
【0101】
次に、図21(A)に示した積層構造の全面に第七層間絶縁膜32を形成し、第七層間絶縁膜32の上面をCMPで平坦化することで図21(B)の半導体装置10Aを得る。図21(B)に示されるように、ヘテロ構造磁気シールド171を完全に被覆するように第七層間絶縁膜32が形成されている。ヘテロ構造磁気シールド171に関して、磁気シールド膜がバッファ膜に囲まれている構造であれば、層数の限定はない。なお、図21(B)の工程後に、図21(B)の構造に新たな配線を設けてもよい。
また、図21(B)に示されるようにヘテロ構造磁気シールド171は第七層間絶縁膜32の中に埋め込まれている。このため、図21(B)の構造にさらに上部配線層を設ける場合でも、ヘテロ構造磁気シールド171が、この上部配線層の形成工程に影響を与えることはない。
【0102】
本実施形態によれば、第一の実施形態における作用効果に加えて、さらに以下の作用効果が得られる。
半導体装置10Aは、磁気シールドを被覆する第三のバッファ膜14Gをさらに含むため、磁気シールド膜の構成材料の多層配線への拡散をより一層確実に抑制できる。
【0103】
また、前述した通り、LCR回路構成を含むRFアナログ回路では、半導体チップの集積度が増すにつれて、インダクタの高性能化と小面積化が急務となっている。このため、インダクタの寸法を変更することなくインダクタンスLを増加させる、もしくは、インダクタを小面積化しても充分に高いインダクタンスLを得ることが必要である。本実施形態は、ヘテロ構造磁気シールド171の高透磁率磁性材料をインダクタのコアとして使用することができるので、インダクタの透磁率を大きくし、磁束密度を高密度化することができる。したがって、インダクタの高性能化や小面積化を実現することが可能である。
【0104】
(第三の実施形態)
図22(A)、図22(B)、図23(A)、図23(B)、図24(A)、図24(B)、図25(A)、図25(B)および図26は、本実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。図22(A)〜図26を参照しながら、本実施形態における半導体装置10B(図26)およびその製造方法について説明する。
【0105】
まず、第二の実施形態に準じて、図1に示したトランジスタ層11Aとインダクタ62の配線を含む多層配線層11Bおよび第五層間絶縁膜30を形成する。その後、第三層間絶縁膜28、第四層間絶縁膜29および第五層間絶縁膜30の多層構造をエッチングで加工することにより図22(A)に示す凹部35E、36E、37Eを選択的に形成する。凹部(溝)35E、37Eは、インダクタ62の外側の領域に形成され、凹部(溝)36Eは、インダクタ62の巻き線構造の中心領域に形成される。第二の実施形態との違いは、インダクタ62の中心領域を凹構造が貫いている点である。本実施形態では、インダクタ62を構成する配線がスパイラル状に形成されており、インダクタ62の中心領域において、絶縁膜30に凹部が設けられている。
【0106】
その後、第二の実施形態の手順に準じて、図22(B)〜図26の順に形成する。ここでは、第一のバッファ膜14P(図22(B))、第一の磁気シールド膜15P(図23(A))からなる、磁気シールド積層構造16P、および、第二のバッファ膜14Q(図23(B))、第二の磁気シールド膜15Qからなる、磁気シールド積層構造16Q、および上部バッファ膜として機能する第三のバッファ膜14Rを順に積層したヘテロ構造磁気シールド172の構造を用いている(図24(A))。ヘテロ構造磁気シールド172は、絶縁膜の凹凸部を被覆し、磁気シールド膜がバッファ膜に囲まれている限りにおいて、積層数の限定はない。その後、ヘテロ構造磁気シールド172を覆う絶縁膜を形成(図24(B))、平坦化し(図25(A)))、ヘテロ構造磁気シールド172とともに加工する(図25(B))。その後、基板全面を覆う第七層間絶縁膜33を形成し、図26に示した半導体装置10Bを得る。
なお、図25(B)の工程後に、新たな配線を第一の実施形態に示したような方法で形成してもよい。図26に示したように、磁気シールド構造は第七層間絶縁膜33の中に埋め込まれている。このため、図26の構造にさらに上部配線層を設ける場合でも、磁気シールド構造が、この上部配線層の形成工程に影響を与えることはない。
【0107】
本実施形態における半導体装置10Bおよびその製造方法は、上記第一および第二の実施形態の半導体装置10および10Aとその製造方法と同様の効果を奏し、さらに以下に説明する効果を奏する。
【0108】
半導体装置10Bでは、インダクタ62の中心において、多層磁気シールド構造(ヘテロ構造磁気シールド172)が絶縁膜の凹凸部の面に形成されている。このように、ノイズ発生源となり得る配線構造の位置および形状に応じてできるだけ磁気シールド効果を発揮するように、ヘテロ構造磁気シールド172の凹凸形状を制御することができる。このため、膜厚方向に伝播するノイズ成分のみならず、膜厚方向に垂直な方向へ伝播するノイズ成分をも低減させることが可能である。
【0109】
また、第一の実施形態のヘテロ構造磁気シールド170は、図1に示される通り、ヘテロ構造磁気シールド170の(膜厚、面直方向)に磁化困難軸が生じやすく、ヘテロ構造磁気シールド170の面内方向に磁化容易軸が生じやすい。このため、面内方向に伝播するノイズ成分を低減させる効果が相対的に高く、膜厚方向に伝播するノイズ成分を低減させる効果が相対的に低い。これに対して、本実施形態のヘテロ構造磁気シールド172は、凹凸形状であるので、膜厚方向へ伝播するノイズ成分をより一層効果的に低減させることができる。
【0110】
さらに、図26に示されるように、半導体装置10Bでは、ヘテロ構造磁気シールド172の凹部がインダクタ62の中心を貫くように巻き線構造の中心領域に形成されている。同時に、ヘテロ構造磁気シールド172は、インダクタ62を外側から包囲するように形成されている。このため、ヘテロ構造磁気シールド170のような一様な平坦な膜と比較して、インダクタのインダクタンスLをより一層向上させることができ、インダクタで発生する磁束をさらに効率的に利用することができる。
【0111】
(第四の実施形態)
本実施形態の半導体装置の半導体素子は、配線層とこの配線層内に形成された配線に電気的に接続された磁気抵抗素子とを有する複数のメモリセルを含む。この半導体装置は、少なくともこれらメモリセルの形成領域を被覆するように形成された磁気シールド膜を含む。ここで、磁気抵抗素子は、たとえば、トンネル磁気抵抗(Tunneling MagnetoResistive:TMR)素子や巨大磁気抵抗(Giant MagnetoResistive:GMR)素子であればよい。
【0112】
図31は、本実施形態の半導体装置の構成を示す断面図である。図31に示す半導体装置10Cは、図27(A)および図27(B)に示す基本構造を持つメモリセルを含む半導体素子と、これを被覆する磁気シールド構造とを有する。図27(A)は、メモリセルの基本構造を概略的に示す断面図であり、図27(B)は、図27(A)のメモリセルの等価回路図である。図28、図29(A)、図29(B)、図30(A)および図30(B)は、半導体装置10Cの製造工程を示す断面図である。
【0113】
まず、図27(A)および図27(B)を参照しつつ、メモリセルの基本構造を説明する。このメモリセルは、TMR素子80を利用したMRAM(Magnetic Random Access Memory)素子である。図27(A)に示されるように、TMR素子80は、トンネル絶縁膜82を強磁性層(ピン層)81と強磁性層(フリー層)83とで挟み込んだ積層構造を有する。MRAM素子は、このTMR素子80のトンネル磁気抵抗効果を利用した不揮発性メモリである。
【0114】
図27(A)に示されるように、メモリセルは、TMR素子80、書き込み配線84、トランジスタTr、ワード線用配線85、ビット線用配線86および配線87を含む。トンネル絶縁膜82を挟み込む強磁性層81、83のうち一方の強磁性層81にはビット線用配線86が接続されており、他方の強磁性層83は、配線87を介してトランジスタTrのドレイン領域に接続されている。図27(B)に示されるようにトランジスタTrのソース領域は接地されている。トランジスタTrのゲート電極は、ワード線用配線85を介してワード線WLに接続されている。TMR素子80の一方の強磁性層81は、ビット線用配線86を介してビット線BLに接続されている。
【0115】
強磁性層81、83の構成材料としては、たとえば、CoPtやFePtが挙げられる。トンネル絶縁膜82の構成材料には、Al23などのアモルファス膜、あるいは、MgOやMgO/Mgなどの単結晶膜を用いればよい。強磁性層81、83の各々は多層構造であってもよい。
【0116】
トンネル絶縁膜82を挟み込む強磁性層81、83の磁化(スピン)の向きが平行状態にある場合と、強磁性層81、83の磁化の向きが反平行状態にある場合とでは、TMR素子80のトンネル磁気抵抗に差が生じる。そのトンネル磁気抵抗の差を用いてTMR素子80に「0」または「1」のビット情報を記憶させることができる。トンネル磁気抵抗の値は、ワード線WLとビット線BLの出力電圧差として検出され、この検出結果に基づいてビット情報が読み出される。ビット情報の書き換えは、ビット線BLとワード線WLに電流を流して強磁性層81、83に外部磁場を印加することにより行われる。この外部磁場の印加により強磁性層81、83の磁化の向きを平行状態または反平行状態のいずれか一方に設定できる。
【0117】
なお、外部磁場や熱ゆらぎによって、強磁性層81、83の磁化の向きが変動しないように、強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜の多層構造による強磁性膜間の磁気カップリングを導入して強磁性層81、83の少なくとも一方の磁化の向きを制御してもよい。当該多層構造の非磁性膜には、たとえば、Ru、CuまたはCrを使用できる。強磁性層81、83の磁化状態を変える方法は、前述の外部磁場を利用する方法に限定されるものではない。スピン偏極した電子を強磁性層81、83の少なくとも一方に直接流すことによりスピントルクを与えてビット情報の書き込みと読み出しとを同時に行う方法を採用してもよい。
【0118】
次に、図28〜図31を参照しながら、半導体装置10Cの構造および製造工程について説明する。この半導体装置10Cは、各々が図27(A)の基本構造を持つ複数のメモリセルが形成されるメモリ領域と、ロジック回路が形成されるロジック領域とを同一の半導体基板90上に混載したものである。
【0119】
図28には、半導体素子の断面構造の一例が概略的に示されているが、これに限定されるものではない。この半導体素子は、半導体基板90上に形成されたトランジスタTr1、Tr2、Tr3、Tr4を含む。これらトランジスタTr1、Tr2、Tr3、Tr4の各々は、ゲート電極、ソース拡散領域およびドレイン拡散領域を含むn型またはp型のMOSトランジスタである。トランジスタTr1、Tr2、Tr3は、メモリセル用素子であり、トランジスタTr4は、ロジック回路用素子である。トランジスタTr1は、STIなどの素子分離領域91、92により他の素子と分離され、トランジスタTr2は、素子分離領域92、93により他の素子と分離され、トランジスタTr3は、素子分離領域93、94により他の素子と分離され、トランジスタTr4は、素子分離領域94、95により他の素子と分離されている。
【0120】
トランジスタTr1、Tr2、Tr3、Tr4の上には、第一層間絶縁膜100が形成されている。この第一層間絶縁膜100には、トランジスタTr1、Tr2、Tr3、Tr4のソース拡散領域およびドレイン拡散領域に接続されたコンタクトプラグ111A、111B、112A、112B、113A、113B、114A、114Bが埋め込まれている。第一層間絶縁膜100上に第二層間絶縁膜101が形成されている。この第二層間絶縁膜101には、コンタクトプラグ111A、111B、112A、112B、113A、113B、114A、114Bにそれぞれ接続された導電層121A、121B、122A、122B、123A、123B、124A、124Bが埋設されている。第二層間絶縁膜101上には、第三層間絶縁膜102、第四層間絶縁膜103および第五層間絶縁膜104が順次形成されている。
【0121】
メモリ領域においては、第三層間絶縁膜102には、導電層121B、122B、123Bにそれぞれ接続する配線131、132、133が埋設されている。第四層間絶縁膜103には、配線131、132、133にそれぞれ接続されたTMR素子80A、80B、80Cが形成されている。さらに、第五層間絶縁膜104には、TMR素子80A、80B、80Cにそれぞれ接続しビット線として機能する配線141、142、143が埋設されている。一方、ロジック領域においては、第三層間絶縁膜102、第四層間絶縁膜103および第五層間絶縁膜104を連通するスルーホールに配線144、145が埋設されている。
第一〜第五層間絶縁膜100〜104は低誘電率材料からなることが好ましい。低誘電率材料としては、たとえば、SiOC、SiC、SiOF、多孔質SiO2、または多孔質SiOCが挙げられる。
【0122】
次に、半導体装置10Cの製造方法を説明する。
第二、第三の実施形態に記載の方法に準じて、図28に示した多層配線構造の第四層間絶縁膜103および第五層間絶縁膜104をエッチングで加工することにより複数の凹部(溝)を選択的に形成し、図29(A)に示した凹部を有する第四層間絶縁膜103Pおよび第五層間絶縁膜104Pが形成される。
続いて、積層構造の全面上にたとえばスパッタ法により、第一のバッファ膜(下部バッファ膜)14Sが成膜される(図29(B))。第一のバッファ膜14Sの構成材料は、上記第一の実施形態の第一のバッファ膜14A(図1)のそれと同じである。さらに続けて、第一のバッファ膜14Sの上に、たとえばRFマグネトロンスパッタ法により第一の磁気シールド膜15Sが形成される。続けて、第二、第三の実施形態と同様に、第二のバッファ膜14T、第二の磁気シールド膜15Tおよび上部バッファ膜として機能する第三のバッファ膜16Uを順次形成し、図29(B)に示すようなヘテロ構造磁気シールド173を得る。ここで、ヘテロ構造磁気シールド173の形成時のプロセス温度の上限を、多層配線構造の低温プロセス(めっき法やスパッタ法)の温度の上限に準じた350〜400℃の範囲内に設定すればよい。
【0123】
メモリ領域においては、TMR素子80AとTMR素子80Bとの間、並びに、TMR素子80BとTMR素子80Cとの間に、それぞれ、比較的浅い凹部が第五層間絶縁膜104Pに形成されている。また、メモリ領域とロジック領域との間には、比較的深い凹部が第四層間絶縁膜103から第五層間絶縁膜104にわたって形成されている。この凹部は、TMR素子80A、80B、80Cとロジック領域に形成された配線とを磁気的に分離する目的で形成されている。
【0124】
続けて、ヘテロ構造磁気シールド173の全面上に、酸化ケイ素または窒化ケイ素などのハードマスク材料を堆積し、当該堆積されたハードマスク材料にCMPを施すことで、図30(A)のように、平坦化された第六層間絶縁膜105を形成する。
その後、図30(A)の第六層間絶縁膜105をエッチングにより加工して、実質的にロジック領域に開口部を有し、かつメモリ領域を被覆するマスクパターン(図示せず)を形成する。続けて、図30(B)で示すように、このマスクパターンを用いて、ヘテロ構造磁気シールド173を選択的に加工する。その結果、図30(B)に示されるように、実質的にメモリセルの形成領域のみを選択的に被覆する磁気シールド構造が形成されることとなる。
【0125】
その後、図30(B)の積層構造の全面上に層間絶縁膜を形成し、この層間絶縁膜に配線146、147を埋設することで図31の半導体装置10Cを得る。図31に示されるように、磁気シールド構造を完全に被覆するように第七層間絶縁膜106が形成されている。なお、図31の工程後に、新たな配線を設けてもよい。本実施形態では、バッファ膜3層、磁気シールド膜2層のヘテロ構造磁気シールド173を示しているが、磁気シールド膜がバッファ膜に囲まれ、磁気シールド膜の磁性材料の拡散が防止されている限りにおいて、積層数の限定はない。
【0126】
本実施形態の半導体装置10Cおよびその製造方法は、上記第一の実施形態の半導体装置10およびその製造方法と同様の効果を奏し、さらに以下に説明する効果を奏する。
まず、図31に示したように、磁気シールド膜15S、15Tは各々、バッファ膜14S、14Tおよび第三のバッファ膜16Uによって囲まれているので、磁性体材料の拡散を防止することができる。
また、半導体装置10Cは、図31に示されているように、ヘテロ構造磁気シールド173が第五層間絶縁膜104Pに埋設されたビット線用の配線141、142間を磁気的に分離する凹部と、およびビット線用の配線142、143間を磁気的に分離する凹部とを有している。ビット線用の配線141、142、143は、TMR素子80A、80B、80Cにビット情報を書き込む際に書き込み電流を印加される配線である。ビット線用の配線141、142、143の各々は、ヘテロ構造磁気シールド173で覆われているので、書き込み電流の印加で生ずる外部磁場を増大させることが可能となる。これにより、ビット情報の書き込みに必要な電流の振幅を下げることができ、動作電力の低減が可能となる。
【0127】
また、図31に示したヘテロ構造磁気シールド173が存在しなければ、TMR素子80A、80B、80Cが外部から電磁ノイズを浴びると、TMR素子80A、80B、80Cを構成する強磁性層の磁化の向きが変化する可能性がある。図31に示したヘテロ構造磁気シールドにより、TMR素子80A、80B、80Cを当該電磁ノイズの影響から遮断することができ、メモリセルの誤動作を防止することができる。
以上のように、半導体装置10Cは、メモリセルの低消費電力化および高信頼性を実現し得る多層磁気シールド構造を有する。
【0128】
以上、図面を参照して本発明に係る種々の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な形態を採用することもできる。
【符号の説明】
【0129】
10、10A、10B、10C 半導体装置
11A トランジスタ層
11B 多層配線層
12 半導体素子
13 絶縁膜
14A、14B、14E、14F、14P、14Q、14S、14T バッファ膜
14G、14R、16U 第三のバッファ膜
15A、15B、15E、15F、15P、15Q、15S、15T 磁気シールド膜
16A、16B、16E、16F、16P、16Q 磁気シールド積層構造
18 拡散層
20 半導体基板
21〜23 素子分離領域
26 第一層間絶縁膜
27 第二層間絶縁膜
28 第三層間絶縁膜
29 第四層間絶縁膜
30 第五層間絶縁膜
31、31C 第六層間絶縁膜
32、33 第七層間絶縁膜
35、35E、36、36E、37E 凹部
41A、41B、42A、42B コンタクトプラグ
51A、51B、52A、52B 導電層
60、61 埋め込み配線
62 インダクタ
64、65 引き出し配線
80、80A、80B、80C TMR素子
81、83 強磁性層
82 トンネル絶縁膜
84 書き込み配線
85 ワード線用配線
86 ビット線用配線
87 配線
90 半導体基板
91〜95 素子分離領域
100 第一層間絶縁膜
101 第二層間絶縁膜
102 第三層間絶縁膜
103、103P 第四層間絶縁膜
104、104P 第五層間絶縁膜
105 第六層間絶縁膜
106 第七層間絶縁膜
111A、111B、112A、112B、113A、113B、114A、114B コンタクトプラグ
121A、121B、122A、122B、123A、123B、124A、124B 導電層
131〜133 配線
141〜147 配線
170〜173 ヘテロ構造磁気シールド
Tr、Tr1、Tr2、Tr3、Tr4 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面上に形成され、かつ配線層を含む半導体素子と、
前記半導体素子を被覆する磁気シールドと、
を含み、
前記磁気シールドが、第一の構造体と前記第一の構造体を被覆する第二の構造体とを有し、
前記第一および第二の構造体が、いずれも、
前記半導体素子を被覆する磁性体からなる磁気シールド膜と、
前記半導体素子と前記磁気シールド膜との間に介在し前記磁性体の拡散を防止するバッファ膜とを有する、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、前記磁気シールドを被覆する上部バッファ膜をさらに含む、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置において、前記磁性体がフェライトである、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記フェライトが、XFe24およびY1-nnFe24のうちの少なくとも一方の酸化物磁性体を主成分として含み、
前記Xが、Ni、Zn、Cu、Co、MnおよびFeからなる群から選択される一種であり、
前記Yが、Ni、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種であり、
前記Zが、Yと異なる元素であってNi、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種であり、
前記nが、0<n<1を満たす数である、半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記バッファ膜が、W、Ta、TiおよびRuからなる群から選択される一または二以上の元素を含む膜である、半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
前記バッファ膜が、W、Ta、TiおよびRuからなる群から選択される一または二以上の元素の窒化膜または前記元素の酸化膜を含む、半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(311)面を有する、半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置において、
前記バッファ膜が、TaNを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(311)面を有する、半導体装置。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置において、
前記第一の構造体が、前記バッファ膜と前記磁気シールド膜とからなり、
前記第二の構造体が前記第一の構造体の上部を被覆し、
前記第二の構造体における前記磁性体が、膜厚方向に配向した(311)面を有する、半導体装置。
【請求項10】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記バッファ膜が、TaNを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(400)面を有する、半導体装置。
【請求項11】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記バッファ膜が、Tiを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、膜厚方向に配向した{111}面を有する、半導体装置。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記半導体素子と前記第一の構造体の前記バッファ膜との間に絶縁膜が設けられた、半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記磁気シールドが、前記半導体素子の上面を選択的に被覆するように設けられた、半導体装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の半導体装置において、
前記絶縁膜に凹部または凸部が設けられ、
前記磁気シールドが、前記絶縁膜の前記凹部または前記凸部の面に沿って設けられた、半導体装置。
【請求項15】
請求項12乃至14いずれか1項に記載の半導体装置において、
前記配線層の一部がインダクタを構成しており、
前記磁気シールドが、少なくとも前記インダクタの形成領域を被覆するように設けられた、半導体装置。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体装置において、
前記インダクタを構成する配線がスパイラル状に形成されており、前記インダクタの中心領域において、前記絶縁膜に凹部が設けられた、半導体装置。
【請求項17】
請求項12または13に記載の半導体装置において、
前記半導体素子が、前記配線層に形成された磁気抵抗素子を有するメモリセルを含み、
前記磁気シールドが、前記メモリセルの形成領域を被覆するように設けられた、半導体装置。
【請求項18】
基板の主面上に配線層を含む半導体素子を形成する工程と、
前記半導体素子を被覆する磁気シールドを形成する工程と、
を含み、
磁気シールドを形成する前記工程が、
前記半導体素子を被覆する第一の構造体を形成する工程と、
前記第一の構造体を被覆する第二の構造体を形成する工程と、
を含み、
第一および第二の構造体を形成する前記工程が、いずれも、
前記半導体素子を被覆し、かつ磁性体の拡散を防止するバッファ膜を形成する工程と、
前記バッファ膜を被覆し、かつ前記磁性体からなる磁気シールド膜を形成する工程と、を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の半導体装置の製造方法において、
磁気シールドを形成する前記工程の後、前記磁気シールドの表面を被覆する上部バッファ膜を形成する工程をさらに含む、半導体装置の製造方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の半導体装置の製造方法において、磁気シールド膜を形成する前記工程が、スピネル型結晶構造を有するフェライトからなる前記磁気シールド膜を形成する工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の半導体装置の製造方法において、
前記フェライトが、XFe24およびY1-nnFe24のうちの少なくとも一方の酸化物磁性体を主成分として含み、
前記Xが、Ni、Zn、Cu、Co、MnおよびFeからなる群から選択される一種であり、
前記Yが、Ni、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種であり、
前記Zが、Yと異なる元素であってNi、Zn、Cu、CoおよびMnからなる群から選択される一種であり、
前記nが、0<n<1を満たす数である、半導体装置の製造方法。
【請求項22】
請求項18乃至21いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、バッファ膜を形成する前記工程が、W、Ta、TiおよびRuからなる群から選択される一または二以上の元素を含む膜を形成する工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の半導体装置の製造方法において、バッファ膜を形成する前記工程が、W、Ta、TiおよびRuからなる群から選択される一または二以上の元素の窒化膜または前記元素の酸化膜を形成する工程を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項24】
請求項18乃至23いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向したスピネル(311)面を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の半導体装置の製造方法において、
前記バッファ膜が、TaNを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向した(311)面を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項26】
請求項25に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第一の構造体が、前記バッファ膜と前記磁気シールド膜とからなり、
前記第二の構造体が前記第一の構造体の上部を被覆し、
前記第二の構造体における前記磁性体が、膜厚方向に配向した(311)面を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項27】
請求項18乃至23いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記バッファ膜が、TaNを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、スピネル型結晶構造を有する前記磁性体からなるとともに、膜厚方向に配向したスピネル(400)面を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項28】
請求項18乃至23いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記バッファ膜が、Tiを主成分として含み、
前記磁気シールド膜が、膜厚方向に配向した{111}面を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項29】
請求項18乃至28いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
半導体素子を形成する前記工程の後、前記半導体素子を被覆する絶縁膜を形成する工程をさらに含み、
磁気シールドを形成する前記工程において、前記磁気シールドが前記絶縁膜を被覆するように前記磁気シールドを形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項30】
請求項29に記載の半導体装置の製造方法において、
前記絶縁膜に凹部または凸部を形成する工程をさらに含み、
磁気シールドを形成する前記工程において、前記凹部または前記凸部の面に沿って前記磁気シールドを形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項31】
請求項18乃至30いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
磁気シールドを形成する前記工程において、前記バッファ膜および前記磁気シールド膜の一部を選択的に除去して前記半導体素子の上面の一部を被覆する前記磁気シールドを形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項32】
請求項18乃至31いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、磁気シールドを形成する前記工程が、450℃以下のプロセス温度で行われる、半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図4】
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【図32】
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【図37】
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【公開番号】特開2010−278418(P2010−278418A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34296(P2010−34296)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】