酸化亜鉛系半導体の成長方法及び半導体発光素子の製造方法
【目的】
ZnO単結晶基板上に平坦性と配向性に優れるとともに、欠陥・転位密度が低く、不純物の界面蓄積やZnO系成長層への拡散が抑制されたZnO系単結晶の成長方法を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を提供することにある。
【解決手段】
MOCVD法により、酸素を含まない有機金属化合物と水蒸気とを用い、ZnO単結晶基板上に600℃以上900℃未満の成長温度で熱安定状態のZnO系単結晶を成長する工程を有する。
ZnO単結晶基板上に平坦性と配向性に優れるとともに、欠陥・転位密度が低く、不純物の界面蓄積やZnO系成長層への拡散が抑制されたZnO系単結晶の成長方法を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を提供することにある。
【解決手段】
MOCVD法により、酸素を含まない有機金属化合物と水蒸気とを用い、ZnO単結晶基板上に600℃以上900℃未満の成長温度で熱安定状態のZnO系単結晶を成長する工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系半導体の成長方法及び半導体素子の製造方法に関し、特に、MOCVD法により、ZnO基板上に酸化亜鉛系半導体層を成長する方法及び酸化亜鉛系半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等にも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
一般に、酸化亜鉛系化合物半導体の結晶成長方法として、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法や、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、PLD法(Pulsed Laser Deposition)法などが利用されている。MBE法は、超高真空下での結晶成長法であり、装置が高価で生産性が低いなどの問題がある。これに対し、MOCVD法は、装置が比較的安価であるとともに、大面積成長や多数枚同時成長が可能で、スループットが高く、量産性やコスト面においても優れているという利点を有している。
【0004】
ところで、従来のIII−V族系化合物半導体の単結晶成長技術においては、成長する結晶と同種の単結晶基板上に簡便に単結晶成長が可能であった。ところが、MOCVD法を用い、ZnO単結晶基板上に酸化亜鉛系単結晶(以下、ZnO系単結晶ともいう。)を直接成長することは困難であった。
【0005】
より具体的には、ZnO単結晶基板上に、MOCVD法を用いて、例えば、500℃程度以上の高温でZnO系結晶層の成長を実施しても、粒状、針状(ウィスカー)、柱状(ロッド)、板状(ディスク)、またはそれらの密集した結晶層になり易い。また、単結晶化しても膜中の結晶軸が僅かにずれた領域が多数存在する結晶層になる。このように、ZnO基板上に高温で優れた平坦性、配向性を有する高品質なZnO系単結晶層を成長できないという問題があった。
【0006】
一方、結晶成長に用いられるZnO基板の製造上の問題が指摘されている。例えば、水熱合成法により製造したインゴット(バルク単結晶)に含まれる不純物が、基板表面に存在し、エピタキシャル成長層に欠陥や転位を発生させる、また、基板の切出し(スライス)工程における加工歪みが基板表面に残り、エピタキシャル成長層に欠陥や転位を発生させるというものである(特許文献1)。
【0007】
このような問題を回避するために、緩衝層(バッファ層)を用いて結晶成長を行う方法が実施されている(例えば、特許文献1、2)。より詳細には、MOCVD法において、一般的にZnO単結晶を成長するための結晶成長の温度よりも低い成長温度、例えば、500℃未満の低温でZnO単結晶基板上にZnO結晶を成長し、平坦で緻密なアモルファス状、微粒子状の多結晶を形成し、500℃程度以上の高温で熱処理することで結晶性を回復させる、いわゆるバッファ層技術が用いられる。
【0008】
しかし、バッファ層の上に500℃程度以上の高温でZnO系結晶の成長を試みると、やはり平坦性、配向性が劣る結晶層しか形成できない。そのため、バッファ層技術を応用した単結晶層形成技術等が開発されている(例えば、特許文献2)。
【0009】
また、ZnO系結晶を用いた半導体素子の高性能化、高信頼度化を図るには、結晶欠陥の少ないかつ平坦性と配向性に優れた理想結晶に近い結晶成長方法の開発が極めて重要である。特に、ZnO系結晶を用いた半導体発光素子を製造するには、電子を発光層に効率良く注入するn型ZnO系結晶層、発光効率の高い発光層、正孔を発光層に注入するp型ZnO系結晶層が必要である。これら半導体発光素子の各層を得るには、平坦性と配向性が優れ、欠陥(Zn欠損、酸素欠損、複合欠陥)や転位(螺旋転位、刃状転位)の密度が低いZnO系結晶が得られる結晶成長技術の確立が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第404499号公報
【特許文献2】特開2006−73726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ZnO単結晶基板が近年の基板製造技術の進歩により半導体素子製造用基板として高い品質に達していると考えられるものの、このような高品質のZnO基板を用いた場合であっても、MOCVD法によるZnO系半導体結晶の成長において、以下のような問題点を有しているという知見を得、かかる特有の問題を解決せんとしてなされたものである。すなわち、本発明は、ZnO単結晶基板上にバッファ層を成長した後、当該バッファ層上にZnO系結晶を成長する従来の製造方法においては、ZnO基板由来の不純物であるLi(リチウム)、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)等がZnO基板と結晶成長層との界面に蓄積されること、また、このような基板由来の不純物がZnO系結晶成長層に拡散するという知見を得て、かかる問題を解決せんとしてなされたものである。
【0012】
本発明の目的は、ZnO単結晶基板上に平坦性と配向性に優れるとともに、欠陥・転位密度が低く、不純物の界面蓄積(パイルアップ)やZnO系結晶成長層への拡散が抑制されたZnO系単結晶の成長方法を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を提供することにある。さらに、製造歩留まりが高く、量産性に優れた半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、MOCVD法により酸化亜鉛(ZnO)単結晶の基板上にZnO系結晶層を成長する方法であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、
基板上に600℃以上900℃未満の成長温度でZnO系単結晶を成長する単結晶成長工程を有することを特徴としている。
【0014】
本発明において、上記ZnO系単結晶層を成長する工程は、酸素ガス排除雰囲気下で行われることができ、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることが好ましい。
【0015】
また、上記極性酸素材料は、水蒸気及び低級アルコール類のアルコールのうち少なくとも1つを含むことができる。
【0016】
また、上記ZnO系単結晶は、フランク・ファンデアメルベ様式によって成長された熱安定状態の単結晶層であり、あるいは、上記ZnO系単結晶の成長温度は、上記ZnO系単結晶の成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度であることを1つの特徴としている。
【0017】
また、上記基板は、水熱合成法で製造された基板であること1つの特徴としている。
【0018】
さらに、上記基板はc面ZnO単結晶基板、あるいは結晶成長面はZn極性面であることを1つの特徴としている。
【0019】
さらに、上記ZnO系単結晶層上に、n型及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層を成長する工程と、を有していてもよい。
【0020】
また、本発明は、MOCVD法によりZnO単結晶の基板上にZnO系半導体層を積層して形成された半導体素子であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、かつ、600℃以上900℃未満の成長温度で基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、
上記ZnO系単結晶層上に成長された、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層と、を有することを特徴としている。
【0021】
上記基板に由来する基板由来不純物のZnO系単結晶層における濃度は、基板由来不純物の濃度を超えないことを1つの特徴としている。
【0022】
また、ZnO系単結晶層における基板由来不純物の濃度は、当該基板由来不純物がアルミニウム(Al)である場合には、1×1015cm−3以下であり、基板由来不純物がリチウム(Li)である場合には、1×1014cm−3以下であることを1つの特徴としている。
【0023】
上記デバイス層はp型ZnO系単結晶層を含むことができ、あるいは、上記半導体素子は半導体発光ダイオード(LED)であって、デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むことを1つの特徴としている。
【0024】
また、本発明は、不純物としてAl,Li,Siの少なくとも一つを所定の濃度で含むZnO系単結晶基板と、
ZnO系単結晶基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、を含み、
SIMS分析(二次イオン質量分析)で測定した場合に、上記ZnO系単結晶基板と上記ZnO系単結晶層との界面に上記不純物の蓄積が観測されず、かつ、
SIMS分析で測定した場合に、上記ZnO系単結晶層中の不純物の濃度が上記所定の濃度よりも低いこと、を特徴とするZnO系単結晶層付き基板である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】結晶成長に用いたMOCVD装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図3】基板上にZnO単結晶層を成長した実施例1の成長層の構成を示す断面図である。
【図4】基板上にZnO単結晶層を成長した実施例2の成長層の構成を示す断面図である。
【図5】実施例2の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図6】基板上にZnO単結晶層及びZnO系単結晶層を成長した実施例3の成長層の構成を示す断面図である。
【図7】比較例1の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図8】基板上にバッファ層及びZnO単結晶層を成長した比較例1の成長層の構成を示す断面図である。
【図9】比較例2の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図10】比較例3の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶成長層の成長条件、評価結果及び物性の一覧である。
【図12】実施例1のZnO成長層(EMB1)表面のSEM像である。
【図13】実施例1のZnO成長層(EMB1)表面のAFM像である。
【図14】実施例1のZnO成長層(EMB1)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図15】実施例1のZnO成長層(EMB1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、不純物濃度プロファイルを示している。
【図16】実施例2のZnO成長層(EMB2)表面のAFM像である。
【図17】実施例2のZnO成長層(EMB2)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図18】実施例2のZnO成長層(EMB2)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図19】実施例3のZnO成長層(EMB3)表面のAFM像である。
【図20】実施例3のZnO成長層(EMB3)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図21】実施例3のZnO成長層(EMB3)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図22】比較例1のZnO成長層(CMP1)のSEM像である。
【図23】比較例1のZnO成長層(CMP1)のAFM像である。
【図24】比較例1のZnO成長層(CMP1)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である
【図25】比較例1のZnO成長層(CMP1)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図26】比較例2のZnO成長結晶(CMP2)表面のSEM像である。
【図27】比較例3のZnO成長結晶(CMP3)表面のSEM像である。
【図28】キャリアガス中の残留酸素濃度と成長層に拡散する不純物濃度との関係を表す図である。
【図29】成長条件範囲及び成長層の平坦性・配向性との関係を示す図である。
【図30】MgxZn(1−x)O(x=0.11〜0.40)成長層のAFM像を示す図である。
【図31】ZnO系半導体発光素子(LED)の製造に用いられるデバイス層付き基板の積層構造を示す断面図である。
【図32】半導体発光素子(LED)の上面図及び断面図である。
【図33】ZnO系半導体発光素子を用いたLEDランプの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下においては、MOCVD法によりZnO単結晶基板上に単結晶性及び平坦性に優れた酸化亜鉛(ZnO)系半導体結晶層を成長する方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る実施例の成長方法及び成長層の特徴、構成及び効果を説明するための比較例についても詳述する。また、本発明の成長方法により形成された半導体素子として、半導体発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を例に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、結晶成長に用いたMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。また、結晶成長材料については後に詳述する。
【0028】
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、気体材料ガスを供給する部分と、これらのガスを輸送する機能を備えた輸送部とから構成されている。
【0029】
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化し蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
【0030】
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガスを流量調整装置(マスフローコントローラ)21S にて所定の流量とし、ガス供給弁21Mを通してDMZn格納容器21Cに送り、DMZn蒸気を窒素ガス中に飽和させる。そして、DMZn飽和窒素ガスを取出し弁21E、圧力調整装置21Pを通して、成長待機時には第1ベント配管(以下、第1VENTライン(VENT1)という。)28Vに、成長時には第1ラン配管(以下、第1RUNライン(RUN1)という。)28Rに供給する。なお、この際、圧力調整装置21Pによって格納容器内圧を一定に調整する。またDMZn格納容器は恒温槽21Tで一定温度に保たれる。
【0031】
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する格納容器22C(Cp2Mg),23C(TEGa)に流量調整装置22S、23Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁22E、23E及び圧力調整装置22P、23Pを通して、成長待機時には第1VENTライン(VENT1)28Vに、成長時には第1RUNライン(RUN1)28Rにこれらのガスが供給される。
【0032】
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水蒸気)は格納容器24Cに流量調整装置24Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁24E、圧力調整装置24Pを通して、成長待機時には第2ベント配管(以下、第2VENTライン(VENT2)という。)29Vに、成長時には第2ラン配管(以下、第2RUNライン(RUN2)という。)29Rに供給される。
【0033】
p型不純物源としては、気体材料であるNH3(アンモニア)ガスを用いた。NH3ガスは、流量調整装置25Sにより所定の流量が供給される。待機時には第2VENTライン(VENT2)29V、成長時には第2RUNライン(RUN2)29Rに供給される。なお、当該ガスは、窒素やAr(アルゴン)などの不活性ガスで希釈されていても構わない。
【0034】
上記した液体または固体材料の蒸気と気体材料(以下、材料ガスという。)は、第1RUNライン(RUN1)28R、第2RUNライン(RUN2)29Rを通して反応容器部5Bのシャワーヘッド30に供給される。なお、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rのそれぞれにも流量調整装置20C、20Bが設けられており、材料ガスはキャリアガス(窒素ガス)によって反応容器(チャンバ)39の上部に取付けられたシャワーヘッド30に送り込まれる。
【0035】
なお、シャワーヘッド30は、基板10の主面(成長面)に対向する噴出面を有し、当該噴出面内に亘って材料ガスの噴出孔が列及び行方向に多数(例えば、数10〜100)形成されている。また、当該噴出面の有効噴出直径はφ75mmである。
【0036】
当該噴出孔は、第1RUNライン(RUN1)28Rから供給される有機金属化合物材料ガス(II族ガス)が噴出される第1の噴出孔と、第2RUNライン(RUN2)29Rから供給されるH2O(水蒸気)(VI族ガス)が噴出される第2の噴出孔と、からなっている。そして、第1RUNライン28Rからのガスと第2RUNライン29Rからのガスは混合されずにそれぞれ第1の噴出孔及び第2の噴出孔から噴出されるように構成されている。第1の噴出孔及び第2の噴出孔はほぼ同数で互いに数mmの間隔で設けられ、有機金属化合物材料ガス及びH2Oが均一に混合するように、各列及び各行において交互に配置されている。
【0037】
反応容器39内には材料ガスを基板10に吹付けるシャワーヘッド30、基板10、基板10を保持するサセプタ19、サセプタ19を加熱するヒーター49が設置されている。そして、ヒーター49によって基板を室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。
【0038】
なお、本実施例における基板温度とは、基板を載置するサセプタ19の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ19から基板10への熱伝達は直接接触、およびサセプタ19と基板10間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板10の表面温度はサセプタ19の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
【0039】
また、反応容器39にはサセプタ19を回転させる回転機構が設けられている。より詳細には、サセプタ19はサセプタ支持筒48に支持され、サセプタ支持筒48はステージ41上に回転自在に支持されている。そして、回転モータ43がサセプタ支持筒48を回転させることによりサセプタ19(すなわち、基板10)を回転させる。なお、上記したヒーター49は、サセプタ支持筒48内に設置されている。
【0040】
排気部5Cは、容器内圧力調整装置51と排気ポンプ52で構成されており、容器内圧力調整装置51にて反応容器39内の圧力を0.01kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
【0041】
[結晶成長材料]
本実施例においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
【0042】
本実施例においては、DMZn、Cp2Mg、TEGa(半導体材料用高純度品)を用いたが、II族材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)、MeCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム)等を用いることができる。また、III族材料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
【0043】
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、H2O(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ+、δ−に大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
【0044】
また、H2O分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp3型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp3型混成軌道を取る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、H2O(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはH2O(超純水:関東化学(株)製、規格:Ultrapur)を用い、比較例にはO2(酸素)、N2O(亜酸化窒素)を用いた。
【0045】
p型不純物材料としては、結晶成長過程において閃亜鉛鉱構造、ウルツ鉱構造のO(酸素)サイトに置換し易い化合物が適している。特に、NH3は、上記H2Oと同様な作用があり適している。具体的には、p型不純物材料として、NH3(アンモニア)、(CH3)2NNH2(ジメチルヒドラジン)、(CH3)NHNH2(モノメチルヒドラジン)などのヒドラジン類、PH3(フォスフィン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル燐化合物、AsH3(アルシン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル砒素化合物などを利用できる。
【0046】
キャリアガス(雰囲気ガス)としては、上記した結晶成長材料と反応しない不活性ガスが適している。また、H2O(水蒸気)、NH3など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)またはN2(窒素)などの不活性ガスを利用できる。
【0047】
実施例1においては、残留O2濃度が5ppm未満のJIS1級グレードのN2(窒素)ガスをキャリアガスとして用いた。また、実施例2においては残留O2濃度が0.1ppm未満の超高純度N2ガスを用い、実施例3及び比較例1〜3においては残留O2濃度が1ppb未満の超高純度N2ガスを用いた。
【0048】
なお、N2(窒素)は、通常、空気の液化及び蒸発による精留で製造する。そのため、残留不純物としてO2(酸素)が含まれている。JIS1級品では5ppm以下、超高純度品(超高純度N2)では0.1ppm未満含まれている。また、超高純度N2は純化器に通すことによって1ppb未満まで高純度化が可能である。
【0049】
ZnO(酸化亜鉛)基板は、ウルツ鉱(ウルツァイト)構造の結晶で、代表的な基板切り出し面には、{0001}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるr面がある。また、c面には、Zn極性面(+c面)とO極性面(−c面)がある。
【0050】
以下に説明する実施例及び比較例においては、水熱合成法(hydrothermal method)で製造されたインゴットより切出されたZnO単結晶基板を用いた。なお、高温熱処理(1000℃以上)等の処理により残留Li濃度を低減した基板を用いた。
【0051】
また、ZnO単結晶基板10として、基板主面(結晶成長面)がZn極性面(+c面)である基板(以下、c面ZnO単結晶基板ともいう。)が好ましい。下記実施例及び比較例においては、結晶成長面がZn極性面である基板を用いた。また、基板主面(結晶成長面)がa軸およびm軸の何れかに傾いた基板であることが好ましい。下記実施例及び比較例においては、具体的には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた0.5°オフ基板)を用いた。
【0052】
また、以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。
【0053】
[ZnO単結晶の成長方法]
本実施例においては、まず、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のダメージ層の薄いZnO単結晶基板を選別した。当該選別した基板にエッチングを行い、ダメージ層を除去した。エッチング液として、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)0.2mol/L溶液とEDA(エチレンジアミン)の99%溶液を20:1の比で混ぜた混合溶液を用いた。このエッチング液(EDTA・2Na:EDA=20:1)のエッチングレートは0.7μm/h(である。なお、当該エッチング液は、特開2007−1787に開示されている。また、エッチング液の混合比は5:1〜30:1程度で良好にエッチングを行うことができる。
【0054】
上記エッチング液に、室温で、20min(分)間浸し表面層をエッチングした。その後、水洗にてエッチング液を除去し、有機溶剤洗浄(アセトンまたはアルコール)にて脱水した。最後に、有機溶剤を加熱し、蒸気雰囲気中にて乾燥した。なお、温度および時間等のエッチング条件は、基板表面処理、保管状態により異なる。
【0055】
図2に示す結晶成長シーケンスを参照して本実施例における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0056】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板(以下、ZnO基板又は単に基板ともいう。)10を反応容器39内のサセプタ19にセットし、真空に排気後、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0057】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。また、本実施例においては、窒素ガスはJIS1級(残留O2濃度≦5ppm)品を用いた。
【0058】
なお、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからシャワーヘッド30に供給するガス流量は、常に一定流量に保った。すなわち、成長待機時及び成長時などにおいて有機金属材料ガス及び気体材料を供給する際には、有機金属材料ガス及び気体材料の流量分だけ第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rに設けた流量調整装置20C、20Bの流量を増減し、シャワーヘッド30に供給するガス流量を一定に保った。
【0059】
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させた(T=T2)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともにH2O(水蒸気)の流量(FH2O)を640μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた(T=T3)。
【0060】
基板温度が所定の高成長温度Tg(本実施例においては、Tg=800℃)になって(T=T4)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T5)。なお、キャリアガスである窒素(N2)ガスをシャワーヘッド30からZnO基板10の表面の全面に吹付けて結晶成長を行ったので、成長雰囲気のO2濃度はキャリアガスの残留O2濃度と同じである。すなわち、本実施例においては、成長雰囲気のO2濃度は5ppm以下である。また、この点は以下に説明する実施例及び比較例においても同様である。
【0061】
成長開始(T=T5)から60min経過時(T=T6)において、DMZnを第1RUNライン28Rから第1VENTライン28Vに切替えて成長を終了した。このように60min間の成長(成長時間EG=60min)を行い、図3の断面図に示すように、厚さ約1μm(マイクロメートル)のアンドープZnO単結晶層11Aを形成した。なお、ここで、当該所定の高成長温度とは、熱安定状態(熱平衡状態)の成長が行われる温度(高温)を意味し、当該高温成長(Tg=800℃)により単結晶の成長を行った。なお、「熱安定状態(熱平衡状態)」の定義については、後に詳述する。
【0062】
成長終了後、圧力を80kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T7〜T8)。その後、圧力をポンプ真空(〜10−1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。なお、冷却中の圧力減圧とH2O供給停止は、室温(RT)まで待ってから切換えても良い。
【0063】
上記したように、実施例1においては、
(1)ダメージ層の薄いZnO単結晶基板、すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリアガスとして、残留O2濃度の低い(JIS1級、残留O2濃度≦5ppm)窒素(N2)ガスを用い(雰囲気O2濃度≦5ppm)、
(4)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(5)高成長温度(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長を行った。
【実施例2】
【0064】
上記したMOCVD装置を用い、ZnO単結晶基板上にZnO単結晶の成長を行った。本実施例においては、キャリアガスとして、残留O2濃度を0.1ppm未満とした超高純度窒素(N2)ガスを使用した。また、成長時間(図2,EG)を25minとし、図4に示すように、厚さ約0.4μmのアンドープZnO単結晶層11Bを形成した。
【0065】
なお、上記した点以外のZnO単結晶基板、基板のエッチング処理、成長材料、成長シーケンス(図2)及び成長条件などの成長方法は実施例1の場合と同様である。
【0066】
すなわち、実施例2においては、
(1)XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリア(雰囲気)ガスとして、残留O2濃度を0.1ppm未満とした窒素(N2)ガスを用い(雰囲気O2濃度<0.1ppm)、
(4)水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(5)高温成長(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長を行った。
【実施例3】
【0067】
本実施例においては、上記したMOCVD装置を用い、ZnO単結晶基板上にZnO単結晶、及び当該ZnO単結晶上にZnO系単結晶(MgxZn(1−x)O,x=0.40)の成長を行った。
【0068】
基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1及び2と同様である。図5に示す結晶成長シーケンスを参照して本実施例における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0069】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板10をサセプタ19にセットし、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T11)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0070】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。
【0071】
なお、本実施例においては、超高純度N2を純化器に通すことによって残留O2濃度を1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)に高純度化したものをキャリアガスとして用いた。
【0072】
また、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからシャワーヘッド30に供給するガスの総流量を、成長待機時、成長時及び成長終了後の一定期間においても一定流量に保った点は実施例1及び2と同様である。
【0073】
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させた(T=T12)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともにH2O(水蒸気)の流量(FH2O)を640μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた(T=T13)。
【0074】
基板温度が所定の成長温度Tg(本実施例においては、Tg=800℃)になって(T=T14)から1分間待ち、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T15)。
【0075】
成長開始(T=T15)から4.5min経過時(T=T16)において、DMZnを第1RUNライン(RUN1)28Rから第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えて成長を終了した。このように成長時間(EG1)が4.5min間の成長を行い、図6に示すように、厚さが約70nm(ナノメートル)のアンドープZnO単結晶層11Cを形成した。
【0076】
DMZnを第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えた後、1分間待ち、圧力を10kPaに降下させた(T=T17〜T18)。なお、この期間、H2O(水蒸気)の流量は640μmol/minで維持した。圧力が10kPaになった時点(T=T18)でH2O(水蒸気)の流量を20μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた。その後、1分間待機して安定させた後、DMZnの流量を10μmol/minに、Cp2Mgの流量(FCP2Mg)を0.55μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T19)。
【0077】
成長開始から40min経過時(T=T20)において、DMZn及びCp2Mgを第1RUNライン(RUN1)28Rから第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えて成長を終了した。このようにZnO単結晶層11Cよりも低圧及び低水蒸気流量の条件で、成長時間(EG2)が40min間の成長を行い、図6に示すように、厚さ約70nmのアンドープMgxZn(1−x)O(x=0.40)単結晶層12を形成した。なお、上記成長温度Tg(=800℃)を維持しつつ(T=T14〜T21)、アンドープZnO単結晶層11C及びアンドープMgxZn(1−x)O単結晶層12の成長を行った。
【0078】
成長終了後、圧力を10kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T21〜T22)。その後、圧力をポンプ真空(〜10−1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。
【0079】
なお、ここで、当該所定の成長温度とは、熱安定状態(熱平衡状態)の成長が行われる温度(高温)を意味し、当該高温成長(Tg=800℃)により単結晶層11C及び12の成長を行った。
【0080】
また、本実施例では、Mgを含まない結晶(ZnO結晶)の場合よりも低圧(減圧)及び低水蒸気流量の条件でMgZnO結晶の成長を行ったのは、次の理由による。すなわち、低圧(10kPa)で成長するとガス濃度が薄くなり成長速度を遅くできる。また、低水蒸気流量にすることで、有機金属材料との不要な反応を抑制できる。そこで、歪みを内在したMgZnO結晶層の成長には、成長速度を遅くし、不要な反応を抑えた低圧、低水蒸気流量の条件が特に適しており、欠陥や転位の導入の抑制に有効である。また、成長速度が遅くなることで成長層厚に対する水蒸気供給量(積分値)は増加するので、低圧、低水蒸気流量環境においても欠陥(特に、酸素欠損)の無いMgZnO単結晶層を成長することができる。
【0081】
上記したように、実施例3においては、
(1)ダメージ層の薄いZnO単結晶基板、すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリアガスとして、超高純度窒素ガスを更に純化器に通した残留O2濃度の極めて低い(残留O2濃度<1ppb)窒素(N2)ガスを用い、
(4)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn,Cp2Mg)を用い、
(5)熱安定状態以上の高温成長(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長と、ZnO単結晶よりも低圧及び低水蒸気流量条件によりZnO系単結晶(MgxZn(1−x)O,x=0.40)の成長を行った。
【0082】
上記した実施例1ないし3により、平坦性と配向性に優れ、さらに基板とZnO系単結晶層との界面に基板不純物の蓄積が無く、またZnO系単結晶層中に基板不純物が拡散しないZnO系単結晶層を得た。特に、低圧、低水蒸気流量で成長したMgZnO層の結晶性も良好であることが確認できた。これら結晶成長層の詳細な評価結果、物性等については後に詳述する。
【0083】
[比較例1〜3]
上記した実施例1〜3により成長したZnO系単結晶層の評価のため、比較例として以下の成長方法、成長条件で結晶成長を行った。
【0084】
(比較例1)
基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1〜3と同様である。図7に示す結晶成長シーケンスを参照して比較例1における成長方法について以下に詳細に説明する。なお、実施例1〜3と異なる点を主に説明する。
【0085】
まず、ZnO単結晶基板10をサセプタ19にセットし、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T41)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0086】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。なお、比較例1においては、純化器により残留O2濃度を1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)に高純度化したN2ガスを用いた。また、第1RUNライン28R及び第2RUNライン29Rからシャワーヘッド30に供給するガスの総流量を、常に一定流量に保った点は実施例1〜3と同様である。
【0087】
次に、基板温度を室温(RT)から800℃への昇温を開始するのと同時にH2O(水蒸気)の流量を640μmol/minに調整して第2RUNライン29RからZnO基板10に吹付けた(T=T42)。基板温度が800℃に到達してから10分間この状態を保ち、基板の熱処理を行った(T=T43〜T44)。
【0088】
基板温度を800℃から降温し、所定の温度(低温、Tb=400℃)になってから1分間待機し、DMZnの流量を1μmol/minに調整して低温緩衝層(バッファ層)61を成長した。図8に示すように、15分間の成長時間(図7,BG)によりバッファ層61として層厚が約25nmの低温ZnO単結晶層(LT-ZnO)を成長した(T=T45〜T46)。
【0089】
次に、バッファ層61の結晶性と平坦性の回復のため、基板を900℃まで昇温し、10分間保持してバッファ層61の熱処理(アニール)を行った(T=T47〜T48)。
【0090】
圧力を10kPaから80kPaに昇圧すると同時に基板温度を800℃まで降温した(T=T48〜T49)。圧力が80kPa、温度が800℃になってから1分間待機し、DMZnの流量を10μmol/minに調整し、結晶成長を開始した(T=T50)。35分間の成長(図7,GC1、T=T50〜T51)により、厚さが約0.57μmのZnO単結晶層62をバッファ層61上に形成した(図8)。
【0091】
成長が終了した後の冷却(T=T52〜T53)、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0092】
上記したように、比較例1においては、
(i)XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(ii)基板のエッチング処理(20min)を行い、
(iii)キャリアガスとして、残留O2濃度が極めて低い(残留O2濃度<1ppb)窒素(N2)ガスを用い、
(iv)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(v)基板熱処理(Tanl=800℃)を行い、
(vi)低温成長(Tbuf=400℃)によりバッファ層を形成し、かつバッファ層のアニール(Tcry=900℃)を行い、
(vii)高温成長(Tg=800℃)によりバッファ層上にZnO結晶の成長を行った。
【0093】
(比較例2,3)
比較例2,3においては、ZnO単結晶基板上に、それぞれZnO結晶層CMP2,CMP3の成長を行った。基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1〜3、比較例1と同様である。それぞれ図9及び図10に示す比較例2及び比較例3の結晶成長シーケンスを参照して比較例2及び比較例3における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0094】
比較例2及び比較例3においては、キャリアガスとして、超高純度窒素ガスをさらに純化した残留O2濃度が1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)の窒素(N2)ガスを用いた。また、有機金属材料として、実施例1〜3及び比較例1と同様に、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn)を用いた。
【0095】
比較例2及び比較例3において用いた酸素源は、実施例1〜3及び比較例1と異なっている。すなわち、酸素源として、比較例2においては酸素ガス(O2)を用い、比較例3においては亜酸化窒素ガス(N2O)を用いた。
【0096】
比較例2における結晶成長シーケンスを図9に示す。図9に示すように、比較例2の結晶成長シーケンスは、基板温度を600℃として結晶成長を行った点において実施例1の結晶成長シーケンス(図2)と異なっている。
【0097】
より詳細には、反応容器39内の圧力を10kPa(T=T61〜T62)から80kPaに上昇させ。次に、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するのと同時にO2(酸素ガス)の流量(FO2)を640μmol/minに調整し、第2RUNライン(RUN2)29Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹付けた(T=T63)。
【0098】
基板温度が成長温度Tg(=600℃)になって(T=T64)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、シャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した。60分間の成長(GC2=60min)を行い(T=T65〜T66)、厚さ約1μmのアンドープZnO単結晶層を形成した。
【0099】
成長が終了した後の冷却、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0100】
なお、酸素源としてO2を用いた場合、400℃程度以上の基板温度でZnO結晶が成長し、500℃程度から熱安定状態の結晶が得られ、650℃程度で成長上限温度(結晶成長しなくなる温度)に達した。比較例1においては、XRDの(002)2θ回折強度が最も強くなる600℃で成長した。
【0101】
比較例3における結晶成長シーケンスを図10に示す。図10に示すように、比較例3の結晶成長シーケンスは、基板温度を1000℃として結晶成長を行った点において実施例1及び比較例2の結晶成長シーケンス(図2、図9)と異なっている。
【0102】
より詳細には、反応容器39内の圧力を10kPa(T=T71〜T72)から80kPaに上昇させる。次に、基板温度を室温から昇温を開始するのと同時にN2O(亜酸化窒素ガス)の流量(FN2O)を20000μmol/minに調整し、第2RUNライン(RUN2)29Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹付けた(T=T73)。
【0103】
基板温度が成長温度Tg(=1000℃)になって(T=T74)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、シャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した。60分間の成長(GC3=60min)を行い(T=T75〜T76)、厚さ約1μmのアンドープZnO単結晶層を形成した。
【0104】
成長が終了した後の冷却、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0105】
なお、酸素源としてN2Oを用いた場合、900℃程度以上の基板温度でZnO結晶が成長した。成長開始温度が高いこともあり、熱安定状態の結晶であった。比較例3においては、装置の成長限界温度1000℃で成長した。
【0106】
[結晶成長層の詳細な評価結果及び物性]
以下に、上記した実施例1〜3、及び比較例1〜3における結晶成長層の評価結果及び物性等について図を参照して詳細に説明する。なお、図11は、上記実施例及び比較例の各結晶成長層の成長条件、評価結果及び物性の一覧を示している。また、図11に示すように、以下においては、理解の容易さのため、実施例1,2,3の結晶成長層をそれぞれEMB1,EMB2,EMB3と称し、比較例1,2,3の結晶成長層をそれぞれCMP1,CMP2,CMP3と称して説明する。上記した結晶成長層について、以下の方法により評価・分析を行った。
【0107】
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び平坦性は、RHEED(reflection high-energy electron diffraction)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
【0108】
なお、XRD分析において、上記実施例および比較例ではc面ZnO単結晶基板10上にZnO系結晶層を成長したので、XRDの2θ測定およびω(ロッキングカーブ)測定を行い、c軸長については(002)2θで、配向性(チルティング、ツイスティングの程度)については(002)ω、(100)ω の半値幅(FWHM:full width at half maximum)で評価した。もっとも、1μm程度以下の薄膜の場合、(002)ω測定値は基板のX線回折強度が強く、また成長層のX線回折強度が弱いため、正確に評価できない。一方で、(100)ω測定は、c軸を基準に89°で入射・回折させることで薄膜(30nm程度)でも感度良く配向性を評価できる。以上より、ZnO系結晶層のXRD評価は、(100)ωのFWHM値を指標とした。
【0109】
なお、本発明に用いた、水熱合成法によって製造されたZnO単結晶基板の結晶性は良好であり、表面をエッチング処理した基板の(002)ωと(100)ω の半値幅は、それぞれ27arcsec、29arcsec程度であった。経験的には、それぞれの半値幅が35arcsec、35arcsec未満ならば、本発明の半導体発光素子用基板として好ましく用いることができる。
【0110】
<1.実施例1の成長層:EMB1>
実施例1は、バッファ層を形成せずに、ZnO基板上にZnO単結晶層11A(EMB1、図11参照)を直接成長した場合である。すなわち、成長温度Tg=800℃で熱安定状態のZnO単結晶層をZnO基板上に直接成長した。ただし、キャリアガスには、残留O2濃度が5ppm以下のJIS1級グレードの窒素(N2)ガスを用いた。
【0111】
一般的に、結晶基板上に薄膜を成長する場合の成長過程として、以下の成長様式(モード)が知られている(例えば、「結晶成長ハンドブック」、日本結晶成長学会、1995)。
(a)フランク・ファンデアメルベ(Frank-van der Merwe)様式
層状成長の様式である。すなわち、まず基板上に2次元的な核が形成され、これらが面に沿って次第に成長し、互いに合体して層状の成長を行う様式である。
(b)ボルマ・ウェーバ(Volmer-Weber)様式
エピタキシャル層の形成初期から3次元的な島状成長が生じる成長様式である。すなわち、まず基板上に3次元の島(クラスタ)が形成され、これらが次第に成長し、互いに合体し、やがて連続的な膜が形成される。
(c)ストランスキ・クラスタノフ(Stranski-Krastanow)様式
成長初期はフランク・ファンデアメルベ様式と同様に2次元的に成長した後、その上にボルマ・ウエーバ様式と同様に3次元的な島が形成され、成長していく様式である。
(平坦性)
実施例1のZnO成長層11A(EMB1)の表面は鏡面であった。また、微分偏向顕微鏡、SEM、AFMにより表面状態を詳細に観察した。図12は、成長層表面のSEM像であり、平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図13は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS(またはRq、二乗平均粗さ)=0.18nmと優れていた。また、AFM観察において、成長層表面にステップとテラスが認められた。すなわち、層単位で成長する2次元結晶成長過程であることがわかった。c面を主面(成長面)として成長したZnO単結晶は、バイレイヤー単位でステップフロー成長し、また成長条件によっては、ステップバンチングする場合もあると考えられる。これらの観察結果から広域領域から微小領域に至るまで(巨視的及び微視的にも)高い平坦性を有していることが確認された。
(配向性)
基板に対する配向性については、XRDの(002)2θ測定において34.42°に単一ピークが観測された。また、図14及び図11に示すように、(100)ωのロッキングカーブの半値全幅(FWHM)は35.9arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図15は、ZnO成長層(EMB1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li及びSiの濃度の深さ方向プロファイルを示している。ここで特に注目すべきことは、ZnO基板10とZnO単結晶層11(ZnOエピ層)との界面に、基板由来の不純物であるLi、Siが全く蓄積(パイルアップ)していないことである。
【0112】
以上の評価結果から、実施例1の高温成長のZnO単結晶層(EMB1)は、フランク・ファンデアメルベ様式により成長された単結晶層であり、熱安定状態の単結晶層であり、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物の蓄積が無く、欠陥・転位密度の低い完全性の高いZnO単結晶層であることがわかった。
【0113】
本明細書でいう「熱安定状態」の結晶とは、化学結合状態が安定した結晶を指す。より詳細には、フランク・ファンデアメルベ成長様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”の結晶であり、熱力学的には“熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。
【0114】
例えば、本実施例1による高温(800℃)で成長したZnO結晶の化学結合状態は、熱化学的に安定した結合をとっている(基底状態)。そのため、熱処理によって容易に結晶の状態が変移することはない。
【0115】
一方、後述する「準熱安定状態」の結晶とは、化学結合状態が不安定な結晶を指す。より詳細には、ストランスキ・クラスタノフ成長様式又はそれに近似した様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”であり、熱力学的には“準熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。なお、正確には非熱平衡状態であるが、最安定状態でない薄膜単結晶層の状態を、多結晶薄膜の状態と区別するために準熱平衡状態と定義する。一例を挙げれば、低温(例えば、400℃)で成長したZnOバッファ層は準熱平衡状態であり、その化学結合状態は熱化学的に安定な状態(熱安定状態)まで遷移していない。従って、高温(例えば、900℃)での熱処理により結晶の状態は著しく変移し、表面エネルギが最低となるステップとテラス状になる。すなわち、熱安定状態に変移する。
【0116】
なお、付言すれば、「非熱安定状態」の結晶とは、結晶工学的に“アモルファス”や“多結晶”であり、熱力学的には“非熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。一例を挙げれば、低温(例えば、400℃)で成長したZnOアモルファスまたは多結晶バッファ層は「非熱平衡状態」である。従って、高温(例えば、900℃)での熱処理により結晶結合状態及び表面状態は著しく変移する。しかし、始発状態がアモルファスまたは多結晶状態なので、完全性の高い単結晶、また表面状態もステップとテラスで構成された状態まで変移できない。すなわち、「熱安定状態」への遷移はできない。
【0117】
以上説明したように、ZnO基板に熱安定状態のZnO単結晶を直接成長する本実施例の成長方法によれば、準熱安定状態の成長層であるバッファ層(例えば、後述する比較例1)を用いずに、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物の蓄積が無く、欠陥・転位密度の低い完全性の高い積層構造を形成することが可能である。
【0118】
<2.実施例2の成長層:EMB2>
実施例2は、実施例1と同様な製造方法を用いたが、さらにキャリアガスとして残留O2濃度が0.1ppm未満(残留O2濃度<0.1ppm)の窒素(N2)ガスを使用した点において異なっている。
(平坦性、配向性)
本実施例のZnO単結晶層11B(EMB2)は、実施例1と同様にSEM評価によって平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図16は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS(二乗平均粗さ)=0.31nmと優れていた。また、図17に示すように、(100)ωのロッキングカーブのFWHMは33.0arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図18は、ZnO成長層(EMB2)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li及びSiの濃度の深さ方向プロファイルを示している。実施例1と同様に、ZnO基板10及びZnO単結晶層11B(ZnO成長層)の界面に、基板由来の不純物(基板含有不純物)であるLi、Si、Alの蓄積(パイルアップ)は見られない。また、これらの不純物は、ZnO成長層EMB2(厚層60nm〜70nm)中においても検出下限界以下である。なお、SIMSデータにおいては、基板から成長層側へ不純物が数10nm程拡散しているように見える。しかし、後述する実施例3のSIMSデータ(図21)において、Mgのプロファイルを考慮するに、SIMS測定の深さ方向の分解能が数10nm程度あると解される。従って、不純物の拡散が起こっているとは言い切れないと考えられる。
【0119】
実施例1と同様に、本実施例2による高温成長のZnO単結晶は、熱処理によって容易に結晶の状態が変移することのない熱安定状態の結晶である。すなわち、フランク・ファンデアメルベ成長様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”の結晶であり、熱力学的には“熱平衡状態”の結晶である。
【0120】
以上説明したように、さらに高純度の窒素(N2)ガス(残留O2濃度<0.1ppm)をキャリアガス(雰囲気ガス)として使用した本方法によれば、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物蓄積及び成長層中への不純物拡散が無く、欠陥・転位密度の低い非常に完全性の高いZnO単結晶層の成長が可能であることがわかった。
【0121】
<3.実施例3の成長層:EMB3>
実施例3においては、実施例2と同様な製造方法を用いて第1のZnO系結晶層(ZnO)11Cを成長し、当該結晶層上に、低圧及び低水蒸気流量条件で第2のZnO系結晶(MgZnO)層12(EMB3)を成長した場合である(図6)。なお、キャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した。
(平坦性、配向性)
本実施例のMgxZn(1−x)O(x=0.40)単結晶層12(EMB3)は、実施例1及び2と同様にSEM評価によって平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図19は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS=0.56nmと優れていた。なお、第2のZnO系結晶層12をMgxZn(1−x)O層としたことで、ステップバンチングが発生しているが、結晶性は劣化していない。また、図20に示すように、(100)ωのロッキングカーブのFWHMは29.0arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図21は、第1のZnO系結晶層(ZnO)11C及び第2のZnO系結晶(MgZnO)層12(EMB3)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li、Si、Alの濃度の深さ方向プロファイルを示している。
【0122】
ここで注目すべきことは、実施例1及び実施例2と同様に、界面の不純物蓄積(パイルアップ)が無く、第1層のZnO層(第1のZnO系結晶層11C)で不純物Li、Si、Al等が検出下限界以下まで低減している点にある。さらに、注目すべきは、第2層のMgxZn(1−x)O(x=0.4)層においても不純物が検出下限界以下まで低減している点にある。
【0123】
ところで、MgZnO結晶は、ZnO結晶よりa軸長は長くc軸長が短い。そして、Mg組成が大きくなるに従いZnO結晶との格子定数差は大きくなる。実施例3のMgZnO層はZnO層に対してa軸長が整合したコヒーレントな状態で積層しており、格子歪みを大きく受けている。このように、格子歪みを強く受けたMgZnO層の成長においても、成長層中への不純物の拡散が無く、欠陥・転位密度の低い非常に完全性の高いZnO系単結晶層の成長が可能であることがわかった。
【0124】
<4.比較例1〜3の成長層:CMP1〜3>
4.1 比較例1の成長層(CMP1)
比較例1の成長層は、準熱安定状態の単結晶バッファ層(低温成長バッファ層)61を形成し、高温(900℃)でのアニールによる結晶性回復を実施して熱安定状態のZnO単結晶層に変移させた後、バッファ層61上に高温(800℃)で成長したZnO単結晶層62(CMP1)である。
(平坦性)
図22は、比較例1のZnO成長層62(CMP1)のSEM像を示している。ZnO単結晶層62(CMP1)の表面は鏡面であり、平坦かつ良好な表面モフォロジを有していた。また、図23は、成長層表面のAFM像を示している。AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS=0.12nmと平坦性は優れていた。これらの観察結果から広域領域から微小領域に至るまで高い平坦性を有していた。
(配向性)
基板に対する配向性は、XRDの(002)2θ測定において34.42°に単一ピークが観測された。また、図24に示すように、(100)ωロッキングカーブのFWHMは30.2arcsecと狭く、結晶配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図25は、ZnO成長層(CMP1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li,Si及びAlの濃度の深さ方向プロファイルを示している。上記した実施例1〜3とは異なり、ZnO基板10及びZnO成長層(バッファ層)61の界面に、基板由来の不純物であるLi、Si、Alの蓄積(パイルアップ)が観測された。さらに、図25に示されるように、これらの不純物はZnO成長層62中においても検出されており、ZnO成長層62中に拡散することが分かった。
【0125】
上記したように、比較例1の成長方法においては、平坦性及び配向性に優れたZnO結晶層が成長できているにも関わらず、基板界面における不純物のパイルアップ及びZnO成長層中への不純物の拡散という問題点がある。つまり、準熱安定状態のバッファ層形成技術を用いた成長方法で得られるZnO結晶には、欠陥および転位密度を一定水準以下(XRDでは評価不能な水準)に低減することはできず、不純物の基板界面における蓄積及びZnO成長層中への拡散を防止することはできない。
【0126】
基板不純物の界面での蓄積及びZnO成長層中への拡散は、ZnO単結晶基板上に形成された準熱安定状態の単結晶バッファ層が熱処理により熱安定状態へ遷移する過程で、基板の不純物や付着物を固溶することに起因する。例えば、Liが存在すればZn(1−x)LixO結晶を生成し、Siが存在すればZn(1−x)SixO結晶を生成し、Alが存在すればZn(1−x)AlxO結晶を生成し、Gaが存在すればZn(1−x)GaxO結晶を生成し、Inが存在すればZn(1−x)InxO結晶を生成する(変性結晶の生成)。このように、熱処理によりバッファ層は不純物を固溶するために、結晶性が十分に回復しないという問題もある。また、このような現象はMOCVD法に限らず、MBE法、PLD法により成長した場合でも同様に起こりうる問題であり、本問題の解決は重要である。不純物の蓄積及び成長層中への拡散は、例えば、半導体素子において、当該半導体素子の電気抵抗を増加させ、また、順方向電圧(Vf)を上昇させる等の問題を生じさせる。
【0127】
4.2 比較例2の成長層(CMP2)
比較例2の成長層(CMP2)は、酸素源として酸素(O2)を用いた点、及びキャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した点を除いて、実施例2と同様な方法によりZnO単結晶基板上に成長したZnO結晶である(図11参照)。なお、成長温度、VI/II比等の成長条件は酸素ガスに適した条件を用いた。
(平坦性・配向性)
図26は、比較例2のZnO成長結晶(CMP2)表面のSEM像を示している。基板上に成長した結晶は、六角柱状の多結晶で平坦性も配向性も有していなかった。この結果は、酸素ガス(O2)は2次元結晶成長過程を阻害し、3次元状の結晶成長を促進することに起因すると考えられる。従って、酸素ガス(O2)を用いる比較例2の方法は、多層積層構造が必要な半導体発光素子等の半導体素子の製造には適さないものであった。
【0128】
4.3 比較例3の成長層(CMP3)
比較例3の成長層(CMP3)は、酸素源として亜酸化窒素(N2O)を用いた点、及びキャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した点を除いて、実施例2と同様な方法によりZnO単結晶基板上に成長したZnO結晶である(図11参照)。なお、VI/II比はN2Oガスに適した値に調整し、成長温度に関しては装置の上限温度の1000℃とした。
(平坦性・配向性)
図27は、比較例3のZnO成長結晶(CMP3)表面のSEM像を示している。板状(ディスク状)とウォール状(thin wall)が複合した多結晶であった。
【0129】
亜酸化窒素(N2O)は安定なガスであり、結晶成長に用いるには成長温度を900℃以上とする必要がある。主に、熱分解により放出する酸素ラジカル(O*)が酸素源になる。酸素ラジカルも酸素(O2)と同様に2次元結晶成長過程を阻害し、3次元状の結晶成長を促進することが良好な層状単結晶が得られない原因と考えられる。従って、亜酸化窒素(N2O)を用いる比較例3の方法は、多層積層構造が必要な半導体発光素子等の半導体素子の製造には適さないものであった。
【0130】
[高品質単結晶層成長の要因]
上記実施例1〜3において説明したように、本発明によれば、平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO系単結晶層をZnO単結晶基板上に直接成長することが可能である。このような高品質の単結晶層の成長が可能になった要因、及び成長条件について詳細に検討した。
【0131】
まず、従来技術においては、MOCVD法により、ZnO単結晶基板上に結晶が熱安定状態となる高温で、平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO単系結晶層を成長することはできなかった。その理由として、六方晶構造のZnO系結晶は、c軸に強く配向した柱状結晶が成長し易い特徴があり、一旦異常成長(非2次元成長)を開始すると、その成長モードで成長が進行してしまうからである。また、高温成長(600℃以上、特には700℃以上)においては酸素欠損が起き易く不純物濃度が高くなるとされている。しかし、熱安定状態の結晶は、元来結晶の化学的・物理的安定性が高く、熱安定状態の結晶を成長する技術は半導体素子用の積層結晶を製造するには必要不可欠である。
【0132】
また、従来、バッファ層を用いる成長技術が用いられていたが、準熱安定状態の成長層であるバッファ層を用いる成長技術においては、基板との界面に基板由来の不純物が蓄積(パイルアップ)し、また、バッファ層上のZnO系結晶成長層中に当該基板不純物が拡散する問題が明らかになった(例えば、上記した比較例1)。
【0133】
本発明においては、ZnO系単結晶基板上に平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO系単結晶層を成長するために、水蒸気と構成分子内に酸素を含まない有機金属材料とを使用し、熱安定状態の結晶が成長する高温で結晶成長を行った。また、成長雰囲気から酸素(O2)ガスを排除することで、不純物拡散の無い、さらに低欠陥・低転位のZnO系単結晶層を成長することが可能となった。また、基板ダメージ層の厚さ(XRD測定)に応じて当該ダメージ層をエッチングにより除去することで、当該基板ダメージの影響を受けずに平坦性と配向性に優れ、かつ低欠陥・低転位密度の単結晶層を成長することが可能となった。かかる成長方法の作用・効果、成長条件等について、以下に詳細に説明する。
【0134】
[結晶成長材料及び熱安定状態の結晶成長]
ZnO単結晶基板上に、優れた平坦性と配向性、そして欠陥・転位密度の低い熱安定状態の単結晶層を成長させるためには、水蒸気と分子内に酸素を含まない有機金属材料とを使用し、高温で成長することが必要であることがわかった。
【0135】
前述のように、酸素源としてのH2O(水蒸気)は、大きな分極を有する極性酸化ガスであり、高温においても酸化物結晶表面への配向吸着性が優れており、有機金属化合物材料と表面で反応する。また、構成分子内に酸素原子を含まない有機金属材料は、H2O(水蒸気)との反応性が高い。平坦性の優れた結晶成長を実現するには、第1に、成長に関わる化学種(水蒸気、有機金属化合物、それらの分解中間体等)が基板表面で反応すること、第2に成長に関わる化学種が結晶表面でマイグレーションし、結晶安定サイトに収まり結晶化する過程が必要である(2次元結晶成長過程)。従って、H2Oと酸素を含まない有機金属化合物とは、その両方の機能を備える優れた材料の組み合わせである。つまり、水蒸気が酸化物結晶表面に吸着し、有機金属化合物が、吸着した水蒸気を攻撃し、反応・マイグレーションしながら、結晶安定サイトに収まる。この作用により、平坦性の優れた結晶成長が可能となる。同時に、基板への高い配向性と欠陥・転位密度の低い結晶成長が可能となる。
【0136】
また、熱安定状態の単結晶層(“高温単結晶”ともいう。)、すなわち、高温で結晶成長がなされ、結晶学的には完全結晶、また熱力学的にもステップ&テラス状の最安定表面になっている(熱平衡状態)の単結晶層は、成長後の熱処理によって状態変化は生じない。高温単結晶は、結晶学的には完全結晶、また熱力学的にもステップ&テラス状の最安定表面になっているので、熱処理による状態変化はない。尚、当該高温成長の具体的な成長温度については後に詳述する。
【0137】
当該高温単結晶層の成長様式においては、高温成長であることから化学種の表面マイグレーションが十分であり、2次元結晶成長モードにて結晶成長が進行する。すなわち、結晶種はステップ&テラス状の表面のキンク点またはステップ端に結合して成長する。そのため結晶中に欠陥や転位が導入され難く、完全性の高い結晶を成長することができる。成長層への基板不純物の拡散は、成長層中の結晶欠陥・転位を介してなされるので、欠陥及び転位密度の低い熱安定状態(高温成長)のZnO系単結晶層においては、基板不純物の成長層中への拡散が抑制される。
【0138】
一方、準熱安定状態の単結晶層である“低温単結晶”(バッファ層)は、結晶学的には完全結晶であるが、表面状態は最安定表面にはなっていない(準熱平衡状態)。そして、当該低温単結晶は、熱処理によってステップ&テラス状の最安定表面に変化する。しかし、熱処理によって結晶性の回復を図っても限界があり、基板の欠陥や転位が引継がれるため、バッファ層を用いた成長においてもバッファ層上に完全性の高い結晶層は形成されない。例えば、比較例1の、バッファ層上の高温成長層にLi、Si、Al等の基板由来の不純物が拡散するのはこのためであると解される。
【0139】
換言すれば、低温でバッファ層の結晶成長を行い、熱処理によってバッファ層の結晶性を回復するバッファ層技術では、平坦性と配向性に優れ、かつ低欠陥・低転位密度の完全性の高い単結晶層を成長する上では限界があることが分かった。また、バッファ層技術においては、基板不純物がZnO基板とZnO成長層との界面に蓄積する問題と、基板不純物が成長層中に拡散するなどの問題があることが分かった。そして、これらの問題は、バッファ層を形成せずに直接ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系単結晶を成長する本発明の方法によって解決された。
【0140】
[成長雰囲気及び欠陥・転位密度]
上記した成長層の詳細な評価結果から、成長雰囲気から無極性酸化ガスである酸素(O2)ガスを排除することが、不純物拡散の無い、低欠陥・低転位密度のZnO系単結晶層を成長するために重要であることがわかった。
【0141】
比較例2および比較例3の結果から明らかなように、O2又はN2Oを酸素源として用いた場合、3次元結晶成長過程で成長し、針状(ウィスカー)、柱状(ロッド状)、板状(ディスク状)の結晶になる。これは、O2,N2O分子は、直線状の分子構造をしているため、ZnO結晶の表面原子配列の影響を受けにくく、結晶表面の不特定な位置でZnO結晶を生成する。従って、2次元及び3次元混在の結晶成長過程となり、欠陥(酸素欠損)や転位密度は増加する。
【0142】
つまり、結晶成長過程においてO2ガス又はN2Oガス(無極性酸化ガス)は、2次元結晶成長過程を阻害し3次元結晶成長過程を促進するため、ZnO系結晶層の平坦性と配向性を悪化させる。これらのことから、水蒸気とDMZnを用いた成長法であっても、成長雰囲気中に微量な酸素が存在すると、XRD分析においては識別できない程度ではあるが、ZnO単結晶中に欠陥や転位が成長雰囲気の酸素濃度に応じた密度で導入される。
【0143】
本実施例に用いた水熱合成法のZnO単結晶基板には、その製造方法からLi(リチウム)が比較的高い濃度で残留することがある。また、基板の導電型制御のためAl(アルミニウム)が所要濃度添加されている。一方、成長層中の欠陥(Zn欠損、酸素欠損、複合欠陥)、転位(刃状転位、螺旋転位)は、基板結晶中の不純物拡散を容易にする。そのため、Li、Al等の基板由来の不純物がZnO成長層へ拡散する。当然、水熱合成法以外のインゴット以外で製造されたZnO単結晶基板においても起こる。
このように、基板不純物がZnO成長層へ拡散すると、半導体発光素子などを製造した場合に電気的特性や光学的特性を低下させるので問題となる。例えば、p型制御などの導電型制御を困難にし、Vf(順方向電圧)の上昇やVr(逆方向電圧)の低下を招く、発光効率を低下させる等の問題が生じる。
【0144】
そこで、反応室に流入する窒素ガス(キャリアガス)の残留酸素濃度を0.1ppm以下に低減し、酸素濃度(O2濃度)が0.1ppm以下の成長雰囲気で結晶成長を行うことによって、高度な平坦性と配向性を有し、欠陥・転位密度の低いZnO系結晶層が得られた。その結果、基板不純物の拡散を十分に抑制することができ(例えば、実施例2、3)、高品質のZnO系結晶積層構造の形成が可能となった。つまり、欠陥・転位によって基板から不純物がZnO系結晶成長層中に拡散するということは、ZnO系結晶成長層に不純物ドープした場合には、当該ドープした不純物が当該ZnO系結晶層から隣接する結晶層に拡散することを意味する。さらに、欠陥・転位は、半導体発光素子等の半導体素子の動作中に増殖するので、かかる不純物拡散はさらに深刻な問題となる。本発明によれば、結晶積層構造の形成においても欠陥・転位密度が低く、不純物の拡散を抑制することができるので、高性能な半導体素子の製造に適している。
【0145】
図28は、キャリアガス中の残留酸素濃度と成長層に拡散する基板含有不純物(基板不純物)の濃度との関係を表している。基板含有不純物の成長層への拡散は、SIMS分析によって評価した。実験は、超高純度N2(残留O2濃度が1ppb未満)と、超高純度N2をベースガスとしO2濃度を100ppmとした混合ガスとを用い、キャリアガスの残留O2濃度を異ならせて成長を行ってO2濃度と成長層に拡散する不純物濃度との関係を調べた。
【0146】
なお、図中、基板含有不純物(Al及びLi)の濃度(Al(sub),Li(sub))、Al及びLiの検出下限界、Siのバックグランドを破線で示している。また、ハッチングを施して示している領域が残留O2濃度に対する成長層の拡散不純物濃度を表している。すなわち、成長雰囲気のO2濃度が同一であっても、欠陥、転位種と不純物種により拡散の程度が異なるため、成長層に拡散する不純物の濃度には一定の幅がある。また、図中、1Enは指数表記であり、例えば、1E17は1×1017を表している。
【0147】
成長層の欠陥・転位は、基板結晶中の不純物拡散を容易にするので、成長層中に拡散する不純物の濃度は、成長層の欠陥・転位密度に依存する。すなわち、成長層の欠陥・転位密度が高いほど拡散による不純物濃度は増加する。
【0148】
図28に示すように、残留O2濃度が5ppmのキャリアガスを用いて(成長雰囲気で)成長を行った場合、成長層へは基板と同等な濃度の不純物が拡散することがわかった。これは、当該O2濃度の成長雰囲気で形成された成長層に拡散可能な不純物の濃度が基板含有不純物濃度を超えるためであると考えられる。
【0149】
なお、前述のように、O2濃度が5ppmの成長雰囲気で形成した成長層においては、ZnO基板10とZnO単結晶層11との界面の基板不純物の蓄積(パイルアップ)は生じない(実施例1、図15)。従って、半導体素子に適用した場合、基板不純物の蓄積による電気抵抗の増加、順方向電圧(Vf)の上昇等の問題は回避することができる。
【0150】
また、O2濃度が1ppm以下の成長雰囲気で成長を行った場合、成長層の不純物濃度は基板不純物濃度よりも低くなった(例えば、実施例2)。さらに、O2濃度が0.1ppm以下の成長雰囲気で成長を行った場合、不純物濃度の検出下限界を下回り、成長層の不純物濃度は測定することができない程であった。より具体的には、基板含有不純物がアルミニウム(Al)である場合には、基板に由来する不純物の濃度は1×1015cm−3以下であり、リチウム(Li)である場合には当該基板由来不純物の濃度は1×1014cm−3以下である。
つまり、成長雰囲気のO2濃度が1ppmを境に、基板に含まれている不純物(Li、Si、Al)のZnO成長層中への拡散を十分に抑制することができた。さらに、図28に示すように、成長雰囲気のO2濃度を0.1ppm未満とすることによって、不純物濃度が1×1017cm−3を超える基板を用いる場合であっても、ZnO成長層中への基板不純物の拡散を検出下限値以下まで抑制することができた。
【0151】
換言すれば、成長雰囲気から酸素ガス(無極性酸化ガス)を排除した雰囲気において熱安定状態の単結晶層の成長を行うことが成長層中への基板不純物の拡散を抑制する上で重要である。以下、当該雰囲気を酸素ガス排除雰囲気(広義では、無極性酸化ガス排除雰囲気)と称する。そして、上記したように、当該酸素ガス排除雰囲気は、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることがより好ましい。特に、酸素ガス濃度が0.1ppm未満の雰囲気で成長を行えば不純物拡散、成長層の欠陥・転位密度を大きく低減できるので、後述する導電型(p型)制御の観点及び半導体素子の動作、特に大電流密度で動作させる半導体発光素子の動作の観点からさらに好ましい。
【0152】
また、ZnO系結晶層の欠陥・転位密度が低減したことで、残留キャリア密度も低下した。ZnO結晶成長層においては、ドナー濃度Nd=6×1015cm−3以下(CV測定)であった。またMgZnO結晶成長層においては、高抵抗(pn判定不可)であった。
【0153】
なお、上記した成長雰囲気のO2濃度を単位基板面積当たりに流入する酸素分子流量(SF)で規定すると以下のようになる。すなわち、本発明において使用したシャワーヘッド30の有効噴出直径はφ75mmであるので、有効噴出面積は44.16cm2である。ところで、キャリアガス(窒素ガス)中の残留O2濃度が1ppmの場合のモル流量FO2は、FO2=(4/22.4)×(1×10−6)=0.17μmol/minである。
【0154】
従って、単位基板面積当たりの残留酸素の流入モル流量SFO2は、SFO2=0.17(μmol/min)/44.16=3.85×10−3(μmol/(min・cm2))である。すなわち、単位基板面積当たりの残留酸素の流入モル流量SFO2が、3.85×10−3μmol/(min・cm2)以下(成長雰囲気のO2濃度が1ppm以下に対応)であれば、基板に含まれている不純物のZnO成長層中への拡散を十分に抑制することができる。また、前述したのと同様に、SFO2が、3.85×10−4μmol/(min・cm2)未満(O2濃度が0.1ppm未満に対応)であることがさらに好ましい。
【0155】
以上説明したように、本発明の製造方法は、平坦性と配向性に優れた単結晶層の成長が可能であることに加え、(i)欠陥・転位密度を低減し、基板不純物の蓄積及びZnO系結晶層への拡散を抑止する、(ii)ドープしたZnO系結晶層から他の結晶層への不純物拡散を抑止する、(iii)欠陥・転位の増殖を抑える、など優れた効果を有する。従って、半導体素子等への適用にあたっては、不純物濃度制御(キャリア密度)、不純物濃度プロファイル制御、急峻な界面制御が可能となり、優れた特性のn型ZnO系結晶層、発光層、p型ZnO系結晶層及び積層構造が形成でき、発光効率の高いZnO系結晶系半導体発光素子の製造が可能となる。
【0156】
特に、ZnO系半導体素子を実現するうえで最大の問題点は、良好な導電性のp型結晶が得られない点にあった。すなわち、良好な導電性のp型結晶が得られない主な原因は、酸素空孔により発生する負電荷の残留キャリア(電子)や、欠陥や転位に由来する負電荷のキャリア(電子)が、p型不純物より発生する正電荷のキャリア(正孔)を補償することにある。従って、欠陥・転位密度が低い完全性の高いZnO系結晶の成長が可能な本発明によれば当該問題点を克服することができ、優れた電気的特性、光学的特性を有する半導体発光素子の製造が可能となる。
【0157】
[基板の表面ダメージ層の除去]
ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系結晶層を、優れた平坦性と配向性、及び欠陥・転位密度の低い結晶を成長させるためにはZnO基板表面の僅かな厚みのダメージ層及び付着物を除去することが重要である。
【0158】
すなわち、ダメージ層は、僅かな表層部分であるが、確実に熱安定状態のZnO系結晶の成長(2次元成長過程)を阻害し、成長層の平坦性を悪化させる。すなわち、成長に関わる化学種(水蒸気、有機金属化合物、それらの分解中間体等)のマイグレーションを妨害し、各原子の結晶安定サイト以外で結晶化を誘導するためである。また、欠陥や転位を導入する問題もある。
【0159】
基板表面のダメージ層の厚さは、XRDの非対称反射にて測定できる。例えば、c面を主面(結晶成長面)とする基板ならば、(100)ωのロッキングカーブのFWHMで測定できる。この測定は、基板主面に対して略平行にX線を入射(入射角=89°)することにより、表層20nm程度の厚さでも十分に測定可能である。
【0160】
基板表面ダメージ層及び表面付着物をエッチング以外で取除くことは困難である。例えば、基板表面ダメージ層は、酸化性ガス(O2、N2O、H2O、等)雰囲気中、1000℃程度の熱処理程度では、格子の振動エネルギが不足しており結晶性回復できない。また、基板表面付着物(例えば研磨材のシリカ等)は、酸性ガス雰囲気中では脱離除去できない。よってエッチングによる除去が有効である。ところが、付着物はエッチングにより簡便に除去できるが、ダメージ層は厚すぎるとエッチングにより除去しきれない。単純にエッチング時間を長くするだけでは、欠陥・転位、潜傷、歪み蓄積部のエッチング速度が速いので基板表面は凹凸になる。
【0161】
高温(600℃以上)の熱安定状態でZnO系結晶層を成長する場合、過多なエッチングによる凹凸は、2次元結晶成長過程を乱してZnO系結晶層を凹凸状にする。そのため、ダメージ層の薄いZnO単結晶基板を用いることが重要である。
【0162】
エッチング時間は、ダメージ層の厚さ((100)ωのFWHM)により10分〜150分程度実施すれば良い。10分未満では付着物の除去が十分でない場合があり、また150分以上必要な場合はダメージ層が厚すぎ、エッチング面が凹凸になる。
【0163】
具体的には、ダメージ層をエッチングで除去するには、(100)ωのFWHMが60arcsec(ダメージ層厚:1.4μm)未満が良く、好ましくは50arcsec(同:0.7μm)未満が良い。さらに好ましくは40arcsec(同:0.21μm)未満が良く、35arcsec未満ならエッチングの必要はない。
【0164】
なお、一旦ZnO結晶層を成長したZnO成長層付き基板は、表面にダメージ層及び付着物が無いので、エッチング処理無しに反応容器にセットしてZnO結晶層を成長できる。また、成長層が付いていなくとも、XRDの結果等からZnO単結晶基板の表面にダメージ層が無いと判断できる場合には、そのまま用いることができる。
【0165】
[結晶成長条件]
ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系結晶層であって、優れた平坦性と配向性、及び欠陥・転位密度の低い結晶を成長させる成長条件について詳細に検討した。図29に示すように(二重線で囲んで示している)、熱安定状態のZnO系結晶層を広範な成長条件範囲で成長可能なことを示している。また、図30は、ZnO系結晶の一例として、MgxZn(1−x)O(x=0.11〜0.40)成長層のAFM像を示している。尚、図に記載の結果は検討結果の一例であり、詳細には、熱安定状態のZnO系結晶層を以下の条件で成長することができる。
【0166】
成長温度については、600℃以上から成長上限温度である900℃までの範囲で、成長表面が平坦で、(100)ωのFWHMが35arcsec以下と狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れた結晶層が得られることが確認された。なお、平坦性と配向性が向上する650℃以上がさらに好ましい。さらに好適には、欠陥・転位密度が非常に低くなる700℃温度以上が良い。厳密には、成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度範囲(成長上限温度の−20℃〜−200℃の温度範囲)が良い。
【0167】
成長圧力については、低圧(減圧)から常圧までの広い圧力範囲で可能である。好ましくは、成長圧力1kPa以上が良い。成長圧力を低くすると成長速度が低下する。特に、1kPa以下(800℃の場合)にすると成長速度は極端に低下するので実用的に1kPa以上が良い。また、上限は装置の高圧密閉性能の限界である120kPa程度まで実施したが、問題なく成長することができた。
【0168】
成長速度については、0.1nm/min〜70nm/minの範囲が適当である。例えば、半導体発光素子を製造する場合において、n型ZnO系半導体層、発光層、p型ZnO系半導体層を成長する際に、半導体層の機能(量子井戸構造層、電流拡散層など)、不純物濃度制御、残留キャリア密度制御等の目的にあわせた成長速度を選択すれば良い。例えば、成長速度を、ZnO基板への成長初期は配向性向上を目的に1nm/min〜10nm/minとし、n型ZnO系半導体層の成長時は50nm/min程度とし、発光層の成長時は残留キャリア密度を低く抑える目的で0.1nm/min〜1nm/minとするなどである。
【0169】
VI/II比(= FH2O/FDMZn比)は、水蒸気流量とDMZn流量比であるが、VI/II比は、2程度以上なら良く、上限は配管またはシャワーヘッド内で水蒸気が凝集を起こさない飽和水蒸気量の70%程度までが良い。実用的には1000程度あれば十分である。
【0170】
結晶組成については、ZnO系結晶層としては、MgxZn(1−x)O (0≦x≦0.68)結晶を用いることができる。図30に示すように、AFMの観察エリア1μm2における表面粗さRMS(またはRq、二乗平均粗さ)は、0.15〜0.65nmと優れた平坦性が確認された。なお、xが0.68より大きいとMgZnO結晶の一部が岩塩型結晶のMgOに相分離を起こすので0.68以下が良い。なお、MgZnO結晶を成長するには、Cp2Mg等の有機金属材料を用いればよい。
【0171】
不純物ドープについては、n型化するにはTEGa等の有機金属を加えればよく、p型化するにはNH3等を用いれば良い。
【0172】
[半導体素子]
本発明を半導体素子に適用した例として、ZnO系半導体発光素子(LED:発光ダイオード)の製造に用いられるデバイス層付き基板70の積層構造を図31に示す。なお、ここで、デバイス層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指す。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体及びp型半導体のpn接合によって構成される構造層を含む。また、n型半導体層、発光層及びp型半導体層から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体構造層を、特に、発光デバイス層という。
【0173】
図31に示すように、LEDデバイス層付き基板70は、ZnO単結晶基板71上にデバイス層75が形成されている。デバイス層75は、n型ZnO系半導体層72、発光層73、p型ZnO系半導体層74から構成されている。また、n型ZnO系半導体層72は、成長開始時の結晶性を向上するための第1n型ZnO系半導体層72A、電流拡散層である第2n型ZnO系半導体層72B、正孔のバリアとして機能する第3n型ZnO系半導体層72Cから構成されている。同様に、p型ZnO系半導体層74は、電子のバリアとして機能する第1p型ZnO系半導体層74A、電極との接触抵抗を低くする第2p型ZnO系半導体層74Bから構成されている。
【0174】
デバイス層75の半導体積層構造は、上記した実施例の成長方法に基づいて、あるいは適宜改変して形成すればよい。例えば、実施例3の成長方法の成長シーケンス及び成長条件と同様にして、材料ガス、ドーパントガス等を切り換えて、各半導体層を順次成長することができる。また、各半導体層の組成(バンドギャップ)、層厚、導電型及びドープ濃度(キャリア濃度)などは、半導体発光素子の所要特性等に応じて適宜改変又は選択することができる。例えば、第1n型ZnO系半導体層72Aの代わりにアンドープのZnO層を採用し、第2n型ZnO系半導体層72BはGaドープのZnO層であり、第3n型ZnO系半導体層72CはGaドープのMgxZn1−xO層であり、発光層73はZnO層及びMgxZn1−xO層からなる量子井戸(QW)発光層であり、第1p型ZnO系半導体層74Aは窒素(N)ドープのMgxZn1−xO層であり、第2p型ZnO系半導体層74Bは窒素(N)ドープのZnO層であるように形成することができる。
【0175】
なお、例えば、本発明の方法でn型ZnO系半導体層72を形成する場合、n型不純物としてAl(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)の何れか1以上の不純物を添加する。本発明によればZnO系半導体層中の欠陥・転位密度が非常に低いので、他の層に添加不純物が拡散することが無い。そのため、添加した不純物は補償されないのでキャリアの活性化率が高くなる。よって、必要以上に不純物を添加する必要もなく、n型ZnO系半導体層の結晶性を低下させることもない。
【0176】
また、基板に含有されているLi,Na,K(水熱合成法による基板の場合)などのアルカリ金属が、ZnO系半導体成長層に拡散しないので、積層したZnO系半導体層の機能が損なわれることが無い。
【0177】
なお、成長層に基板から拡散する拡散不純物は、n型ZnO系半導体層、p型ZnO系半導体層の伝導性制御や、発光層のキャリア再結合効率を考慮した場合、1×1016(個・cm−3)以下が望ましく、更に5×1015(個・cm−3)以下が好ましく、また、最も好ましくは1×1015(個・cm−3)以下である。より具体的には、以下の関係が成り立てばよい。
【0178】
(n型層)
n型ZnO系半導体層の場合、n型不純物を1×1017〜5×1019(個・cm−3)の範囲で添加してn型層とするので、拡散不純物濃度が添加不純物濃度の1/10〜1/100であれば問題とならない。好ましくないが、拡散不純物がn型不純物(Al、Ga、In、等)ならば、1/10以上でも問題ない。このような状況を勘案すると、実用的な範疇においては、1×1016(個・cm−3)以下が好ましい。
【0179】
(p型層)
p型ZnO系半導体層の場合、p型不純物を5×1018〜5×1020(個・cm−3)の範囲で添加してp型層とするので、拡散不純物濃度が添加不純物濃度の1/100〜1/1000であれば問題ない。なお、ZnO系半導体においては、p型添加不純物の活性化率が低いために添加不純物濃度は高くなる。また、発生した正孔を補償する不純物Li,K,Naは極力低濃度であることが望ましい。このような状況を勘案すると、実用的な範疇においては、1×1015(個・cm−3)以下が好ましい。
【0180】
(発光層)
発光層の場合、非発光センタ(非輻射遷移)となり発光効率を低下させるLi,K,Naの濃度は、1×1015(個・cm−3)以下が好ましい。また、発光センタ(輻射遷移)となる不純物であっても、ドナー・バンド間遷移、アクセプタ・バンド間遷移、ドナー・アクセプタ間遷移など発光スペクトルをブロードにする問題を起こすので、意図しない拡散不純物濃度は5×1015(個・cm−3)以下が好ましい。
【0181】
また、特に、量子井戸(QW)活性層の場合では、結晶層(ウエル層、バリア層)の層厚の揺らぎが量子準位エネルギ、量子準位密度等を変化させ、発光波長、内部量子効率等に大きく影響するので、平坦性及び単結晶性に優れたZnO系半導体層を用いる効果はさらに顕著である。
【0182】
上記LEDデバイス層付き基板70にn側電極及びp側電極を形成し、スクライブ及びブレーキングにより個片化することによって半導体発光素子(LED)を形成することができる。
【0183】
本発明による半導体層は平坦性に優れているので、半導体プロセスにおいても高い精度が得られるとともに、劈開やブレーキング等における製造歩留まりも高い。
【0184】
また、本発明の適用例として、ZnO系半導体発光素子(LED)80の構造を図32(a)、(b)に示す。図32(a)は、半導体発光素子80の上面図であり、図32(b)は、図32(a)の線A−Aにおける断面図である。
【0185】
ZnO系半導体発光素子80は、ZnO基板81上に、デバイス層を構成するn型ZnO系半導体層82A、発光層82B、p型ZnO系半導体層82Cを有している。また、n型ZnO系半導体層82Aにはn側接続電極83としてTi/Auが形成され、p型ZnO系半導体層82C上にはp側透光性電極84としてNi−O/Au、及びp側接続電極85としてNi/Pt/Auが形成されている。なお、ここで、「X/Y」との表記は、XがZnO系半導体層側に形成され、Yがその上に積層された構造を意味する。
【0186】
MgZnO系半導体層は、酸化物透光性導電膜と接合性が良好であるため、n側接続電極83にITO等、p側透光性電極84にCuAlO2等、さらにp側接続電極85にNi2O等を使用することができる。このような構成にすれば、透明半導体発光素子を形成できる。なお、図中、矢印は投光方向を示している。
【0187】
また、本発明の適用例として、ZnO系半導体発光素子を用いたLEDランプ90の構造を図33に示す。ZnO系半導体発光素子93は、例えば、上記したZnO系半導体発光素子80と同様の構成を有している。ZnO系半導体発光素子93は、フレーム91上に銀ペースト92によって固着及び電気的に接続されている。また、ZnO系半導体発光素子93は、蛍光体層94で封入されている。ZnO系半導体発光素子93の上部電極は、金ワイヤ95で電極端子97に接続されている。これらの構成要素は樹脂モールド96で封止され、LEDランプ90が構成されている。
【0188】
ZnO系半導体発光素子93の屈折率はnLED=2.0であり、樹脂モールド96の樹脂の屈折率はnMOLD=1.5で、空気nAIR=1.0の関係にあり、ZnO系半導体発光素子93及び樹脂モールド96の屈折率差は0.5であり、また、樹脂モールド96及び空気の屈折率差は0.5である。従って、ZnO系半導体発光素子93からの光取出し効率は非常に高く、発光出力の大きい紫外〜有色LEDの製造が可能である。
【0189】
上記した実施例においては、ZnO系結晶として、MgxZn(1−x)Oを例に説明したが、ZnOベースの他の化合物結晶であってもよい。例えば、Zn(亜鉛)の一部がカルシウム(Ca)で置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。あるいは、O(酸素)の一部がセレン(Se)、硫黄(S)やテルル(Te)などで置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。
【0190】
また、上記した実施例においては、半導体発光素子(LED)を例に説明したが、本発明はこれに限らず一般の半導体素子、電子デバイスに適用することができる。例えば、表面弾性波デバイス、MOSFET等の電子デバイス、半導体レーザー(LD)、半導体受光素子等の光半導体など、広範な素子に適用することができる。
【0191】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、平坦性及び配向性に優れるとともに、低欠陥・低転位密度の完全性の高いZnO系単結晶層の成長が可能である。より具体的には、基板不純物の蓄積、ZnO系結晶層への不純物拡散及び成長結晶層間の不純物拡散を抑制することができ、また、欠陥・転位の増殖を抑制することができる、など優れた効果を有する。
【0192】
従って、半導体素子等への適用においては、優れた不純物濃度制御及び不純物濃度プロファイル制御、急峻な界面制御が可能となり、高品質の結晶積層構造を形成できるため、優れた特性の半導体素子を提供することができる。さらに、電気的特性及び発光効率に優れたZnO系結晶系半導体発光素子の製造が可能となる。
【0193】
特に、ZnO系半導体素子を実現するうえで最大の課題であったp型導電性制御の問題を克服することができる。すなわち、欠陥や転位に起因してp型不純物による正電荷のキャリア(正孔)が補償される問題を解決し、良好な導電性のp型結晶を得ることができる。
【0194】
従って、本発明によれば、平坦性及び配向性に優れ、欠陥・転位密度が低い完全性の高いZnO系結晶の成長が可能であり、優れた電気的特性、光学的特性等を有する高性能で、歩留まりの高い半導体発光素子等の半導体素子の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0195】
5 MOCVD装置
10,71,81 基板
11A,11B,11C ZnO単結晶層
12 MgxZn(1−x)O単結晶層
EMB1,2,3 実施例1,2,3の結晶成長層
CMP1,2,3 比較例1,2,3の結晶成長層
30 シャワーヘッド
70 デバイス層付き基板
72 n型ZnO系半導体層
73 発光層
74 p型ZnO系半導体層
75 デバイス層
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系半導体の成長方法及び半導体素子の製造方法に関し、特に、MOCVD法により、ZnO基板上に酸化亜鉛系半導体層を成長する方法及び酸化亜鉛系半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。特に、励起子の束縛エネルギーが60meV、また屈折率n=2.0と半導体発光素子に極めて適した物性を有している。また、発光素子、受光素子に限らず、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等にも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
一般に、酸化亜鉛系化合物半導体の結晶成長方法として、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法や、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、PLD法(Pulsed Laser Deposition)法などが利用されている。MBE法は、超高真空下での結晶成長法であり、装置が高価で生産性が低いなどの問題がある。これに対し、MOCVD法は、装置が比較的安価であるとともに、大面積成長や多数枚同時成長が可能で、スループットが高く、量産性やコスト面においても優れているという利点を有している。
【0004】
ところで、従来のIII−V族系化合物半導体の単結晶成長技術においては、成長する結晶と同種の単結晶基板上に簡便に単結晶成長が可能であった。ところが、MOCVD法を用い、ZnO単結晶基板上に酸化亜鉛系単結晶(以下、ZnO系単結晶ともいう。)を直接成長することは困難であった。
【0005】
より具体的には、ZnO単結晶基板上に、MOCVD法を用いて、例えば、500℃程度以上の高温でZnO系結晶層の成長を実施しても、粒状、針状(ウィスカー)、柱状(ロッド)、板状(ディスク)、またはそれらの密集した結晶層になり易い。また、単結晶化しても膜中の結晶軸が僅かにずれた領域が多数存在する結晶層になる。このように、ZnO基板上に高温で優れた平坦性、配向性を有する高品質なZnO系単結晶層を成長できないという問題があった。
【0006】
一方、結晶成長に用いられるZnO基板の製造上の問題が指摘されている。例えば、水熱合成法により製造したインゴット(バルク単結晶)に含まれる不純物が、基板表面に存在し、エピタキシャル成長層に欠陥や転位を発生させる、また、基板の切出し(スライス)工程における加工歪みが基板表面に残り、エピタキシャル成長層に欠陥や転位を発生させるというものである(特許文献1)。
【0007】
このような問題を回避するために、緩衝層(バッファ層)を用いて結晶成長を行う方法が実施されている(例えば、特許文献1、2)。より詳細には、MOCVD法において、一般的にZnO単結晶を成長するための結晶成長の温度よりも低い成長温度、例えば、500℃未満の低温でZnO単結晶基板上にZnO結晶を成長し、平坦で緻密なアモルファス状、微粒子状の多結晶を形成し、500℃程度以上の高温で熱処理することで結晶性を回復させる、いわゆるバッファ層技術が用いられる。
【0008】
しかし、バッファ層の上に500℃程度以上の高温でZnO系結晶の成長を試みると、やはり平坦性、配向性が劣る結晶層しか形成できない。そのため、バッファ層技術を応用した単結晶層形成技術等が開発されている(例えば、特許文献2)。
【0009】
また、ZnO系結晶を用いた半導体素子の高性能化、高信頼度化を図るには、結晶欠陥の少ないかつ平坦性と配向性に優れた理想結晶に近い結晶成長方法の開発が極めて重要である。特に、ZnO系結晶を用いた半導体発光素子を製造するには、電子を発光層に効率良く注入するn型ZnO系結晶層、発光効率の高い発光層、正孔を発光層に注入するp型ZnO系結晶層が必要である。これら半導体発光素子の各層を得るには、平坦性と配向性が優れ、欠陥(Zn欠損、酸素欠損、複合欠陥)や転位(螺旋転位、刃状転位)の密度が低いZnO系結晶が得られる結晶成長技術の確立が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第404499号公報
【特許文献2】特開2006−73726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ZnO単結晶基板が近年の基板製造技術の進歩により半導体素子製造用基板として高い品質に達していると考えられるものの、このような高品質のZnO基板を用いた場合であっても、MOCVD法によるZnO系半導体結晶の成長において、以下のような問題点を有しているという知見を得、かかる特有の問題を解決せんとしてなされたものである。すなわち、本発明は、ZnO単結晶基板上にバッファ層を成長した後、当該バッファ層上にZnO系結晶を成長する従来の製造方法においては、ZnO基板由来の不純物であるLi(リチウム)、Si(シリコン)、Al(アルミニウム)等がZnO基板と結晶成長層との界面に蓄積されること、また、このような基板由来の不純物がZnO系結晶成長層に拡散するという知見を得て、かかる問題を解決せんとしてなされたものである。
【0012】
本発明の目的は、ZnO単結晶基板上に平坦性と配向性に優れるとともに、欠陥・転位密度が低く、不純物の界面蓄積(パイルアップ)やZnO系結晶成長層への拡散が抑制されたZnO系単結晶の成長方法を提供することにある。また、高性能かつ高信頼性の半導体素子、特に、発光効率及び素子寿命に優れた高性能な半導体発光素子を提供することにある。さらに、製造歩留まりが高く、量産性に優れた半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、MOCVD法により酸化亜鉛(ZnO)単結晶の基板上にZnO系結晶層を成長する方法であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、
基板上に600℃以上900℃未満の成長温度でZnO系単結晶を成長する単結晶成長工程を有することを特徴としている。
【0014】
本発明において、上記ZnO系単結晶層を成長する工程は、酸素ガス排除雰囲気下で行われることができ、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることが好ましい。
【0015】
また、上記極性酸素材料は、水蒸気及び低級アルコール類のアルコールのうち少なくとも1つを含むことができる。
【0016】
また、上記ZnO系単結晶は、フランク・ファンデアメルベ様式によって成長された熱安定状態の単結晶層であり、あるいは、上記ZnO系単結晶の成長温度は、上記ZnO系単結晶の成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度であることを1つの特徴としている。
【0017】
また、上記基板は、水熱合成法で製造された基板であること1つの特徴としている。
【0018】
さらに、上記基板はc面ZnO単結晶基板、あるいは結晶成長面はZn極性面であることを1つの特徴としている。
【0019】
さらに、上記ZnO系単結晶層上に、n型及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層を成長する工程と、を有していてもよい。
【0020】
また、本発明は、MOCVD法によりZnO単結晶の基板上にZnO系半導体層を積層して形成された半導体素子であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、かつ、600℃以上900℃未満の成長温度で基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、
上記ZnO系単結晶層上に成長された、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層と、を有することを特徴としている。
【0021】
上記基板に由来する基板由来不純物のZnO系単結晶層における濃度は、基板由来不純物の濃度を超えないことを1つの特徴としている。
【0022】
また、ZnO系単結晶層における基板由来不純物の濃度は、当該基板由来不純物がアルミニウム(Al)である場合には、1×1015cm−3以下であり、基板由来不純物がリチウム(Li)である場合には、1×1014cm−3以下であることを1つの特徴としている。
【0023】
上記デバイス層はp型ZnO系単結晶層を含むことができ、あるいは、上記半導体素子は半導体発光ダイオード(LED)であって、デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むことを1つの特徴としている。
【0024】
また、本発明は、不純物としてAl,Li,Siの少なくとも一つを所定の濃度で含むZnO系単結晶基板と、
ZnO系単結晶基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、を含み、
SIMS分析(二次イオン質量分析)で測定した場合に、上記ZnO系単結晶基板と上記ZnO系単結晶層との界面に上記不純物の蓄積が観測されず、かつ、
SIMS分析で測定した場合に、上記ZnO系単結晶層中の不純物の濃度が上記所定の濃度よりも低いこと、を特徴とするZnO系単結晶層付き基板である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】結晶成長に用いたMOCVD装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図3】基板上にZnO単結晶層を成長した実施例1の成長層の構成を示す断面図である。
【図4】基板上にZnO単結晶層を成長した実施例2の成長層の構成を示す断面図である。
【図5】実施例2の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図6】基板上にZnO単結晶層及びZnO系単結晶層を成長した実施例3の成長層の構成を示す断面図である。
【図7】比較例1の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図8】基板上にバッファ層及びZnO単結晶層を成長した比較例1の成長層の構成を示す断面図である。
【図9】比較例2の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図10】比較例3の結晶成長シーケンスを示す図である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶成長層の成長条件、評価結果及び物性の一覧である。
【図12】実施例1のZnO成長層(EMB1)表面のSEM像である。
【図13】実施例1のZnO成長層(EMB1)表面のAFM像である。
【図14】実施例1のZnO成長層(EMB1)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図15】実施例1のZnO成長層(EMB1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、不純物濃度プロファイルを示している。
【図16】実施例2のZnO成長層(EMB2)表面のAFM像である。
【図17】実施例2のZnO成長層(EMB2)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図18】実施例2のZnO成長層(EMB2)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図19】実施例3のZnO成長層(EMB3)表面のAFM像である。
【図20】実施例3のZnO成長層(EMB3)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である。
【図21】実施例3のZnO成長層(EMB3)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図22】比較例1のZnO成長層(CMP1)のSEM像である。
【図23】比較例1のZnO成長層(CMP1)のAFM像である。
【図24】比較例1のZnO成長層(CMP1)のXRD(100)ωのロッキングカーブを示す図である
【図25】比較例1のZnO成長層(CMP1)の深さ方向のSIMS測定結果である。
【図26】比較例2のZnO成長結晶(CMP2)表面のSEM像である。
【図27】比較例3のZnO成長結晶(CMP3)表面のSEM像である。
【図28】キャリアガス中の残留酸素濃度と成長層に拡散する不純物濃度との関係を表す図である。
【図29】成長条件範囲及び成長層の平坦性・配向性との関係を示す図である。
【図30】MgxZn(1−x)O(x=0.11〜0.40)成長層のAFM像を示す図である。
【図31】ZnO系半導体発光素子(LED)の製造に用いられるデバイス層付き基板の積層構造を示す断面図である。
【図32】半導体発光素子(LED)の上面図及び断面図である。
【図33】ZnO系半導体発光素子を用いたLEDランプの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下においては、MOCVD法によりZnO単結晶基板上に単結晶性及び平坦性に優れた酸化亜鉛(ZnO)系半導体結晶層を成長する方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る実施例の成長方法及び成長層の特徴、構成及び効果を説明するための比較例についても詳述する。また、本発明の成長方法により形成された半導体素子として、半導体発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を例に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、結晶成長に用いたMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。また、結晶成長材料については後に詳述する。
【0028】
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、気体材料ガスを供給する部分と、これらのガスを輸送する機能を備えた輸送部とから構成されている。
【0029】
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化し蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
【0030】
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガスを流量調整装置(マスフローコントローラ)21S にて所定の流量とし、ガス供給弁21Mを通してDMZn格納容器21Cに送り、DMZn蒸気を窒素ガス中に飽和させる。そして、DMZn飽和窒素ガスを取出し弁21E、圧力調整装置21Pを通して、成長待機時には第1ベント配管(以下、第1VENTライン(VENT1)という。)28Vに、成長時には第1ラン配管(以下、第1RUNライン(RUN1)という。)28Rに供給する。なお、この際、圧力調整装置21Pによって格納容器内圧を一定に調整する。またDMZn格納容器は恒温槽21Tで一定温度に保たれる。
【0031】
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する格納容器22C(Cp2Mg),23C(TEGa)に流量調整装置22S、23Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁22E、23E及び圧力調整装置22P、23Pを通して、成長待機時には第1VENTライン(VENT1)28Vに、成長時には第1RUNライン(RUN1)28Rにこれらのガスが供給される。
【0032】
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水蒸気)は格納容器24Cに流量調整装置24Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁24E、圧力調整装置24Pを通して、成長待機時には第2ベント配管(以下、第2VENTライン(VENT2)という。)29Vに、成長時には第2ラン配管(以下、第2RUNライン(RUN2)という。)29Rに供給される。
【0033】
p型不純物源としては、気体材料であるNH3(アンモニア)ガスを用いた。NH3ガスは、流量調整装置25Sにより所定の流量が供給される。待機時には第2VENTライン(VENT2)29V、成長時には第2RUNライン(RUN2)29Rに供給される。なお、当該ガスは、窒素やAr(アルゴン)などの不活性ガスで希釈されていても構わない。
【0034】
上記した液体または固体材料の蒸気と気体材料(以下、材料ガスという。)は、第1RUNライン(RUN1)28R、第2RUNライン(RUN2)29Rを通して反応容器部5Bのシャワーヘッド30に供給される。なお、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rのそれぞれにも流量調整装置20C、20Bが設けられており、材料ガスはキャリアガス(窒素ガス)によって反応容器(チャンバ)39の上部に取付けられたシャワーヘッド30に送り込まれる。
【0035】
なお、シャワーヘッド30は、基板10の主面(成長面)に対向する噴出面を有し、当該噴出面内に亘って材料ガスの噴出孔が列及び行方向に多数(例えば、数10〜100)形成されている。また、当該噴出面の有効噴出直径はφ75mmである。
【0036】
当該噴出孔は、第1RUNライン(RUN1)28Rから供給される有機金属化合物材料ガス(II族ガス)が噴出される第1の噴出孔と、第2RUNライン(RUN2)29Rから供給されるH2O(水蒸気)(VI族ガス)が噴出される第2の噴出孔と、からなっている。そして、第1RUNライン28Rからのガスと第2RUNライン29Rからのガスは混合されずにそれぞれ第1の噴出孔及び第2の噴出孔から噴出されるように構成されている。第1の噴出孔及び第2の噴出孔はほぼ同数で互いに数mmの間隔で設けられ、有機金属化合物材料ガス及びH2Oが均一に混合するように、各列及び各行において交互に配置されている。
【0037】
反応容器39内には材料ガスを基板10に吹付けるシャワーヘッド30、基板10、基板10を保持するサセプタ19、サセプタ19を加熱するヒーター49が設置されている。そして、ヒーター49によって基板を室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。
【0038】
なお、本実施例における基板温度とは、基板を載置するサセプタ19の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ19から基板10への熱伝達は直接接触、およびサセプタ19と基板10間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板10の表面温度はサセプタ19の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
【0039】
また、反応容器39にはサセプタ19を回転させる回転機構が設けられている。より詳細には、サセプタ19はサセプタ支持筒48に支持され、サセプタ支持筒48はステージ41上に回転自在に支持されている。そして、回転モータ43がサセプタ支持筒48を回転させることによりサセプタ19(すなわち、基板10)を回転させる。なお、上記したヒーター49は、サセプタ支持筒48内に設置されている。
【0040】
排気部5Cは、容器内圧力調整装置51と排気ポンプ52で構成されており、容器内圧力調整装置51にて反応容器39内の圧力を0.01kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
【0041】
[結晶成長材料]
本実施例においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
【0042】
本実施例においては、DMZn、Cp2Mg、TEGa(半導体材料用高純度品)を用いたが、II族材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)、MeCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム)等を用いることができる。また、III族材料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
【0043】
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、H2O(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ+、δ−に大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
【0044】
また、H2O分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp3型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp3型混成軌道を取る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、H2O(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはH2O(超純水:関東化学(株)製、規格:Ultrapur)を用い、比較例にはO2(酸素)、N2O(亜酸化窒素)を用いた。
【0045】
p型不純物材料としては、結晶成長過程において閃亜鉛鉱構造、ウルツ鉱構造のO(酸素)サイトに置換し易い化合物が適している。特に、NH3は、上記H2Oと同様な作用があり適している。具体的には、p型不純物材料として、NH3(アンモニア)、(CH3)2NNH2(ジメチルヒドラジン)、(CH3)NHNH2(モノメチルヒドラジン)などのヒドラジン類、PH3(フォスフィン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル燐化合物、AsH3(アルシン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル砒素化合物などを利用できる。
【0046】
キャリアガス(雰囲気ガス)としては、上記した結晶成長材料と反応しない不活性ガスが適している。また、H2O(水蒸気)、NH3など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)またはN2(窒素)などの不活性ガスを利用できる。
【0047】
実施例1においては、残留O2濃度が5ppm未満のJIS1級グレードのN2(窒素)ガスをキャリアガスとして用いた。また、実施例2においては残留O2濃度が0.1ppm未満の超高純度N2ガスを用い、実施例3及び比較例1〜3においては残留O2濃度が1ppb未満の超高純度N2ガスを用いた。
【0048】
なお、N2(窒素)は、通常、空気の液化及び蒸発による精留で製造する。そのため、残留不純物としてO2(酸素)が含まれている。JIS1級品では5ppm以下、超高純度品(超高純度N2)では0.1ppm未満含まれている。また、超高純度N2は純化器に通すことによって1ppb未満まで高純度化が可能である。
【0049】
ZnO(酸化亜鉛)基板は、ウルツ鉱(ウルツァイト)構造の結晶で、代表的な基板切り出し面には、{0001}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるr面がある。また、c面には、Zn極性面(+c面)とO極性面(−c面)がある。
【0050】
以下に説明する実施例及び比較例においては、水熱合成法(hydrothermal method)で製造されたインゴットより切出されたZnO単結晶基板を用いた。なお、高温熱処理(1000℃以上)等の処理により残留Li濃度を低減した基板を用いた。
【0051】
また、ZnO単結晶基板10として、基板主面(結晶成長面)がZn極性面(+c面)である基板(以下、c面ZnO単結晶基板ともいう。)が好ましい。下記実施例及び比較例においては、結晶成長面がZn極性面である基板を用いた。また、基板主面(結晶成長面)がa軸およびm軸の何れかに傾いた基板であることが好ましい。下記実施例及び比較例においては、具体的には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた0.5°オフ基板)を用いた。
【0052】
また、以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。
【0053】
[ZnO単結晶の成長方法]
本実施例においては、まず、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のダメージ層の薄いZnO単結晶基板を選別した。当該選別した基板にエッチングを行い、ダメージ層を除去した。エッチング液として、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)0.2mol/L溶液とEDA(エチレンジアミン)の99%溶液を20:1の比で混ぜた混合溶液を用いた。このエッチング液(EDTA・2Na:EDA=20:1)のエッチングレートは0.7μm/h(である。なお、当該エッチング液は、特開2007−1787に開示されている。また、エッチング液の混合比は5:1〜30:1程度で良好にエッチングを行うことができる。
【0054】
上記エッチング液に、室温で、20min(分)間浸し表面層をエッチングした。その後、水洗にてエッチング液を除去し、有機溶剤洗浄(アセトンまたはアルコール)にて脱水した。最後に、有機溶剤を加熱し、蒸気雰囲気中にて乾燥した。なお、温度および時間等のエッチング条件は、基板表面処理、保管状態により異なる。
【0055】
図2に示す結晶成長シーケンスを参照して本実施例における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0056】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板(以下、ZnO基板又は単に基板ともいう。)10を反応容器39内のサセプタ19にセットし、真空に排気後、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0057】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。また、本実施例においては、窒素ガスはJIS1級(残留O2濃度≦5ppm)品を用いた。
【0058】
なお、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからシャワーヘッド30に供給するガス流量は、常に一定流量に保った。すなわち、成長待機時及び成長時などにおいて有機金属材料ガス及び気体材料を供給する際には、有機金属材料ガス及び気体材料の流量分だけ第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rに設けた流量調整装置20C、20Bの流量を増減し、シャワーヘッド30に供給するガス流量を一定に保った。
【0059】
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させた(T=T2)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともにH2O(水蒸気)の流量(FH2O)を640μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた(T=T3)。
【0060】
基板温度が所定の高成長温度Tg(本実施例においては、Tg=800℃)になって(T=T4)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T5)。なお、キャリアガスである窒素(N2)ガスをシャワーヘッド30からZnO基板10の表面の全面に吹付けて結晶成長を行ったので、成長雰囲気のO2濃度はキャリアガスの残留O2濃度と同じである。すなわち、本実施例においては、成長雰囲気のO2濃度は5ppm以下である。また、この点は以下に説明する実施例及び比較例においても同様である。
【0061】
成長開始(T=T5)から60min経過時(T=T6)において、DMZnを第1RUNライン28Rから第1VENTライン28Vに切替えて成長を終了した。このように60min間の成長(成長時間EG=60min)を行い、図3の断面図に示すように、厚さ約1μm(マイクロメートル)のアンドープZnO単結晶層11Aを形成した。なお、ここで、当該所定の高成長温度とは、熱安定状態(熱平衡状態)の成長が行われる温度(高温)を意味し、当該高温成長(Tg=800℃)により単結晶の成長を行った。なお、「熱安定状態(熱平衡状態)」の定義については、後に詳述する。
【0062】
成長終了後、圧力を80kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T7〜T8)。その後、圧力をポンプ真空(〜10−1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。なお、冷却中の圧力減圧とH2O供給停止は、室温(RT)まで待ってから切換えても良い。
【0063】
上記したように、実施例1においては、
(1)ダメージ層の薄いZnO単結晶基板、すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリアガスとして、残留O2濃度の低い(JIS1級、残留O2濃度≦5ppm)窒素(N2)ガスを用い(雰囲気O2濃度≦5ppm)、
(4)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(5)高成長温度(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長を行った。
【実施例2】
【0064】
上記したMOCVD装置を用い、ZnO単結晶基板上にZnO単結晶の成長を行った。本実施例においては、キャリアガスとして、残留O2濃度を0.1ppm未満とした超高純度窒素(N2)ガスを使用した。また、成長時間(図2,EG)を25minとし、図4に示すように、厚さ約0.4μmのアンドープZnO単結晶層11Bを形成した。
【0065】
なお、上記した点以外のZnO単結晶基板、基板のエッチング処理、成長材料、成長シーケンス(図2)及び成長条件などの成長方法は実施例1の場合と同様である。
【0066】
すなわち、実施例2においては、
(1)XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリア(雰囲気)ガスとして、残留O2濃度を0.1ppm未満とした窒素(N2)ガスを用い(雰囲気O2濃度<0.1ppm)、
(4)水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(5)高温成長(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長を行った。
【実施例3】
【0067】
本実施例においては、上記したMOCVD装置を用い、ZnO単結晶基板上にZnO単結晶、及び当該ZnO単結晶上にZnO系単結晶(MgxZn(1−x)O,x=0.40)の成長を行った。
【0068】
基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1及び2と同様である。図5に示す結晶成長シーケンスを参照して本実施例における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0069】
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板10をサセプタ19にセットし、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T11)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0070】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。
【0071】
なお、本実施例においては、超高純度N2を純化器に通すことによって残留O2濃度を1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)に高純度化したものをキャリアガスとして用いた。
【0072】
また、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからシャワーヘッド30に供給するガスの総流量を、成長待機時、成長時及び成長終了後の一定期間においても一定流量に保った点は実施例1及び2と同様である。
【0073】
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させた(T=T12)。圧力が80kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともにH2O(水蒸気)の流量(FH2O)を640μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた(T=T13)。
【0074】
基板温度が所定の成長温度Tg(本実施例においては、Tg=800℃)になって(T=T14)から1分間待ち、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T15)。
【0075】
成長開始(T=T15)から4.5min経過時(T=T16)において、DMZnを第1RUNライン(RUN1)28Rから第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えて成長を終了した。このように成長時間(EG1)が4.5min間の成長を行い、図6に示すように、厚さが約70nm(ナノメートル)のアンドープZnO単結晶層11Cを形成した。
【0076】
DMZnを第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えた後、1分間待ち、圧力を10kPaに降下させた(T=T17〜T18)。なお、この期間、H2O(水蒸気)の流量は640μmol/minで維持した。圧力が10kPaになった時点(T=T18)でH2O(水蒸気)の流量を20μmol/minに調整して第2RUNライン(RUN2)29RからZnO基板10に吹付けた。その後、1分間待機して安定させた後、DMZnの流量を10μmol/minに、Cp2Mgの流量(FCP2Mg)を0.55μmol/minに調整し、第1RUNライン(RUN1)28Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した(T=T19)。
【0077】
成長開始から40min経過時(T=T20)において、DMZn及びCp2Mgを第1RUNライン(RUN1)28Rから第1VENTライン(VENT1)28Vに切替えて成長を終了した。このようにZnO単結晶層11Cよりも低圧及び低水蒸気流量の条件で、成長時間(EG2)が40min間の成長を行い、図6に示すように、厚さ約70nmのアンドープMgxZn(1−x)O(x=0.40)単結晶層12を形成した。なお、上記成長温度Tg(=800℃)を維持しつつ(T=T14〜T21)、アンドープZnO単結晶層11C及びアンドープMgxZn(1−x)O単結晶層12の成長を行った。
【0078】
成長終了後、圧力を10kPaに保ったまま、基板温度が200℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T21〜T22)。その後、圧力をポンプ真空(〜10−1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。
【0079】
なお、ここで、当該所定の成長温度とは、熱安定状態(熱平衡状態)の成長が行われる温度(高温)を意味し、当該高温成長(Tg=800℃)により単結晶層11C及び12の成長を行った。
【0080】
また、本実施例では、Mgを含まない結晶(ZnO結晶)の場合よりも低圧(減圧)及び低水蒸気流量の条件でMgZnO結晶の成長を行ったのは、次の理由による。すなわち、低圧(10kPa)で成長するとガス濃度が薄くなり成長速度を遅くできる。また、低水蒸気流量にすることで、有機金属材料との不要な反応を抑制できる。そこで、歪みを内在したMgZnO結晶層の成長には、成長速度を遅くし、不要な反応を抑えた低圧、低水蒸気流量の条件が特に適しており、欠陥や転位の導入の抑制に有効である。また、成長速度が遅くなることで成長層厚に対する水蒸気供給量(積分値)は増加するので、低圧、低水蒸気流量環境においても欠陥(特に、酸素欠損)の無いMgZnO単結晶層を成長することができる。
【0081】
上記したように、実施例3においては、
(1)ダメージ層の薄いZnO単結晶基板、すなわち、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(2)基板のエッチング処理(20min)を行って、ダメージ層を除去し、
(3)キャリアガスとして、超高純度窒素ガスを更に純化器に通した残留O2濃度の極めて低い(残留O2濃度<1ppb)窒素(N2)ガスを用い、
(4)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn,Cp2Mg)を用い、
(5)熱安定状態以上の高温成長(Tg=800℃)によりZnO単結晶の成長と、ZnO単結晶よりも低圧及び低水蒸気流量条件によりZnO系単結晶(MgxZn(1−x)O,x=0.40)の成長を行った。
【0082】
上記した実施例1ないし3により、平坦性と配向性に優れ、さらに基板とZnO系単結晶層との界面に基板不純物の蓄積が無く、またZnO系単結晶層中に基板不純物が拡散しないZnO系単結晶層を得た。特に、低圧、低水蒸気流量で成長したMgZnO層の結晶性も良好であることが確認できた。これら結晶成長層の詳細な評価結果、物性等については後に詳述する。
【0083】
[比較例1〜3]
上記した実施例1〜3により成長したZnO系単結晶層の評価のため、比較例として以下の成長方法、成長条件で結晶成長を行った。
【0084】
(比較例1)
基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1〜3と同様である。図7に示す結晶成長シーケンスを参照して比較例1における成長方法について以下に詳細に説明する。なお、実施例1〜3と異なる点を主に説明する。
【0085】
まず、ZnO単結晶基板10をサセプタ19にセットし、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T41)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。
【0086】
次に、第1RUNライン(RUN1)28R及び第2RUNライン(RUN2)29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド30に送気し、ZnO基板10に吹付けた。なお、比較例1においては、純化器により残留O2濃度を1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)に高純度化したN2ガスを用いた。また、第1RUNライン28R及び第2RUNライン29Rからシャワーヘッド30に供給するガスの総流量を、常に一定流量に保った点は実施例1〜3と同様である。
【0087】
次に、基板温度を室温(RT)から800℃への昇温を開始するのと同時にH2O(水蒸気)の流量を640μmol/minに調整して第2RUNライン29RからZnO基板10に吹付けた(T=T42)。基板温度が800℃に到達してから10分間この状態を保ち、基板の熱処理を行った(T=T43〜T44)。
【0088】
基板温度を800℃から降温し、所定の温度(低温、Tb=400℃)になってから1分間待機し、DMZnの流量を1μmol/minに調整して低温緩衝層(バッファ層)61を成長した。図8に示すように、15分間の成長時間(図7,BG)によりバッファ層61として層厚が約25nmの低温ZnO単結晶層(LT-ZnO)を成長した(T=T45〜T46)。
【0089】
次に、バッファ層61の結晶性と平坦性の回復のため、基板を900℃まで昇温し、10分間保持してバッファ層61の熱処理(アニール)を行った(T=T47〜T48)。
【0090】
圧力を10kPaから80kPaに昇圧すると同時に基板温度を800℃まで降温した(T=T48〜T49)。圧力が80kPa、温度が800℃になってから1分間待機し、DMZnの流量を10μmol/minに調整し、結晶成長を開始した(T=T50)。35分間の成長(図7,GC1、T=T50〜T51)により、厚さが約0.57μmのZnO単結晶層62をバッファ層61上に形成した(図8)。
【0091】
成長が終了した後の冷却(T=T52〜T53)、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0092】
上記したように、比較例1においては、
(i)XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、
(ii)基板のエッチング処理(20min)を行い、
(iii)キャリアガスとして、残留O2濃度が極めて低い(残留O2濃度<1ppb)窒素(N2)ガスを用い、
(iv)材料ガスとして、水蒸気(H2O)と、酸素を含まない有機金属化合物を用い、
(v)基板熱処理(Tanl=800℃)を行い、
(vi)低温成長(Tbuf=400℃)によりバッファ層を形成し、かつバッファ層のアニール(Tcry=900℃)を行い、
(vii)高温成長(Tg=800℃)によりバッファ層上にZnO結晶の成長を行った。
【0093】
(比較例2,3)
比較例2,3においては、ZnO単結晶基板上に、それぞれZnO結晶層CMP2,CMP3の成長を行った。基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、室温で20min間、表面層をエッチングした点は実施例1〜3、比較例1と同様である。それぞれ図9及び図10に示す比較例2及び比較例3の結晶成長シーケンスを参照して比較例2及び比較例3における成長方法について以下に詳細に説明する。
【0094】
比較例2及び比較例3においては、キャリアガスとして、超高純度窒素ガスをさらに純化した残留O2濃度が1ppb未満(残留O2濃度<1ppb)の窒素(N2)ガスを用いた。また、有機金属材料として、実施例1〜3及び比較例1と同様に、酸素を含まない有機金属化合物(DMZn)を用いた。
【0095】
比較例2及び比較例3において用いた酸素源は、実施例1〜3及び比較例1と異なっている。すなわち、酸素源として、比較例2においては酸素ガス(O2)を用い、比較例3においては亜酸化窒素ガス(N2O)を用いた。
【0096】
比較例2における結晶成長シーケンスを図9に示す。図9に示すように、比較例2の結晶成長シーケンスは、基板温度を600℃として結晶成長を行った点において実施例1の結晶成長シーケンス(図2)と異なっている。
【0097】
より詳細には、反応容器39内の圧力を10kPa(T=T61〜T62)から80kPaに上昇させ。次に、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するのと同時にO2(酸素ガス)の流量(FO2)を640μmol/minに調整し、第2RUNライン(RUN2)29Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹付けた(T=T63)。
【0098】
基板温度が成長温度Tg(=600℃)になって(T=T64)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、シャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した。60分間の成長(GC2=60min)を行い(T=T65〜T66)、厚さ約1μmのアンドープZnO単結晶層を形成した。
【0099】
成長が終了した後の冷却、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0100】
なお、酸素源としてO2を用いた場合、400℃程度以上の基板温度でZnO結晶が成長し、500℃程度から熱安定状態の結晶が得られ、650℃程度で成長上限温度(結晶成長しなくなる温度)に達した。比較例1においては、XRDの(002)2θ回折強度が最も強くなる600℃で成長した。
【0101】
比較例3における結晶成長シーケンスを図10に示す。図10に示すように、比較例3の結晶成長シーケンスは、基板温度を1000℃として結晶成長を行った点において実施例1及び比較例2の結晶成長シーケンス(図2、図9)と異なっている。
【0102】
より詳細には、反応容器39内の圧力を10kPa(T=T71〜T72)から80kPaに上昇させる。次に、基板温度を室温から昇温を開始するのと同時にN2O(亜酸化窒素ガス)の流量(FN2O)を20000μmol/minに調整し、第2RUNライン(RUN2)29Rを通してシャワーヘッド30からZnO基板10に吹付けた(T=T73)。
【0103】
基板温度が成長温度Tg(=1000℃)になって(T=T74)から1分間待機し、DMZnの流量(FDMZn)を10μmol/minに調整し、シャワーヘッド30からZnO基板10に吹き付け結晶成長を開始した。60分間の成長(GC3=60min)を行い(T=T75〜T76)、厚さ約1μmのアンドープZnO単結晶層を形成した。
【0104】
成長が終了した後の冷却、真空までの減圧、水蒸気の供給停止等の一連の工程は実施例1〜3と同様である。
【0105】
なお、酸素源としてN2Oを用いた場合、900℃程度以上の基板温度でZnO結晶が成長した。成長開始温度が高いこともあり、熱安定状態の結晶であった。比較例3においては、装置の成長限界温度1000℃で成長した。
【0106】
[結晶成長層の詳細な評価結果及び物性]
以下に、上記した実施例1〜3、及び比較例1〜3における結晶成長層の評価結果及び物性等について図を参照して詳細に説明する。なお、図11は、上記実施例及び比較例の各結晶成長層の成長条件、評価結果及び物性の一覧を示している。また、図11に示すように、以下においては、理解の容易さのため、実施例1,2,3の結晶成長層をそれぞれEMB1,EMB2,EMB3と称し、比較例1,2,3の結晶成長層をそれぞれCMP1,CMP2,CMP3と称して説明する。上記した結晶成長層について、以下の方法により評価・分析を行った。
【0107】
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び平坦性は、RHEED(reflection high-energy electron diffraction)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
【0108】
なお、XRD分析において、上記実施例および比較例ではc面ZnO単結晶基板10上にZnO系結晶層を成長したので、XRDの2θ測定およびω(ロッキングカーブ)測定を行い、c軸長については(002)2θで、配向性(チルティング、ツイスティングの程度)については(002)ω、(100)ω の半値幅(FWHM:full width at half maximum)で評価した。もっとも、1μm程度以下の薄膜の場合、(002)ω測定値は基板のX線回折強度が強く、また成長層のX線回折強度が弱いため、正確に評価できない。一方で、(100)ω測定は、c軸を基準に89°で入射・回折させることで薄膜(30nm程度)でも感度良く配向性を評価できる。以上より、ZnO系結晶層のXRD評価は、(100)ωのFWHM値を指標とした。
【0109】
なお、本発明に用いた、水熱合成法によって製造されたZnO単結晶基板の結晶性は良好であり、表面をエッチング処理した基板の(002)ωと(100)ω の半値幅は、それぞれ27arcsec、29arcsec程度であった。経験的には、それぞれの半値幅が35arcsec、35arcsec未満ならば、本発明の半導体発光素子用基板として好ましく用いることができる。
【0110】
<1.実施例1の成長層:EMB1>
実施例1は、バッファ層を形成せずに、ZnO基板上にZnO単結晶層11A(EMB1、図11参照)を直接成長した場合である。すなわち、成長温度Tg=800℃で熱安定状態のZnO単結晶層をZnO基板上に直接成長した。ただし、キャリアガスには、残留O2濃度が5ppm以下のJIS1級グレードの窒素(N2)ガスを用いた。
【0111】
一般的に、結晶基板上に薄膜を成長する場合の成長過程として、以下の成長様式(モード)が知られている(例えば、「結晶成長ハンドブック」、日本結晶成長学会、1995)。
(a)フランク・ファンデアメルベ(Frank-van der Merwe)様式
層状成長の様式である。すなわち、まず基板上に2次元的な核が形成され、これらが面に沿って次第に成長し、互いに合体して層状の成長を行う様式である。
(b)ボルマ・ウェーバ(Volmer-Weber)様式
エピタキシャル層の形成初期から3次元的な島状成長が生じる成長様式である。すなわち、まず基板上に3次元の島(クラスタ)が形成され、これらが次第に成長し、互いに合体し、やがて連続的な膜が形成される。
(c)ストランスキ・クラスタノフ(Stranski-Krastanow)様式
成長初期はフランク・ファンデアメルベ様式と同様に2次元的に成長した後、その上にボルマ・ウエーバ様式と同様に3次元的な島が形成され、成長していく様式である。
(平坦性)
実施例1のZnO成長層11A(EMB1)の表面は鏡面であった。また、微分偏向顕微鏡、SEM、AFMにより表面状態を詳細に観察した。図12は、成長層表面のSEM像であり、平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図13は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS(またはRq、二乗平均粗さ)=0.18nmと優れていた。また、AFM観察において、成長層表面にステップとテラスが認められた。すなわち、層単位で成長する2次元結晶成長過程であることがわかった。c面を主面(成長面)として成長したZnO単結晶は、バイレイヤー単位でステップフロー成長し、また成長条件によっては、ステップバンチングする場合もあると考えられる。これらの観察結果から広域領域から微小領域に至るまで(巨視的及び微視的にも)高い平坦性を有していることが確認された。
(配向性)
基板に対する配向性については、XRDの(002)2θ測定において34.42°に単一ピークが観測された。また、図14及び図11に示すように、(100)ωのロッキングカーブの半値全幅(FWHM)は35.9arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図15は、ZnO成長層(EMB1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li及びSiの濃度の深さ方向プロファイルを示している。ここで特に注目すべきことは、ZnO基板10とZnO単結晶層11(ZnOエピ層)との界面に、基板由来の不純物であるLi、Siが全く蓄積(パイルアップ)していないことである。
【0112】
以上の評価結果から、実施例1の高温成長のZnO単結晶層(EMB1)は、フランク・ファンデアメルベ様式により成長された単結晶層であり、熱安定状態の単結晶層であり、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物の蓄積が無く、欠陥・転位密度の低い完全性の高いZnO単結晶層であることがわかった。
【0113】
本明細書でいう「熱安定状態」の結晶とは、化学結合状態が安定した結晶を指す。より詳細には、フランク・ファンデアメルベ成長様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”の結晶であり、熱力学的には“熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。
【0114】
例えば、本実施例1による高温(800℃)で成長したZnO結晶の化学結合状態は、熱化学的に安定した結合をとっている(基底状態)。そのため、熱処理によって容易に結晶の状態が変移することはない。
【0115】
一方、後述する「準熱安定状態」の結晶とは、化学結合状態が不安定な結晶を指す。より詳細には、ストランスキ・クラスタノフ成長様式又はそれに近似した様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”であり、熱力学的には“準熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。なお、正確には非熱平衡状態であるが、最安定状態でない薄膜単結晶層の状態を、多結晶薄膜の状態と区別するために準熱平衡状態と定義する。一例を挙げれば、低温(例えば、400℃)で成長したZnOバッファ層は準熱平衡状態であり、その化学結合状態は熱化学的に安定な状態(熱安定状態)まで遷移していない。従って、高温(例えば、900℃)での熱処理により結晶の状態は著しく変移し、表面エネルギが最低となるステップとテラス状になる。すなわち、熱安定状態に変移する。
【0116】
なお、付言すれば、「非熱安定状態」の結晶とは、結晶工学的に“アモルファス”や“多結晶”であり、熱力学的には“非熱平衡状態”の結晶であると定義することができる。一例を挙げれば、低温(例えば、400℃)で成長したZnOアモルファスまたは多結晶バッファ層は「非熱平衡状態」である。従って、高温(例えば、900℃)での熱処理により結晶結合状態及び表面状態は著しく変移する。しかし、始発状態がアモルファスまたは多結晶状態なので、完全性の高い単結晶、また表面状態もステップとテラスで構成された状態まで変移できない。すなわち、「熱安定状態」への遷移はできない。
【0117】
以上説明したように、ZnO基板に熱安定状態のZnO単結晶を直接成長する本実施例の成長方法によれば、準熱安定状態の成長層であるバッファ層(例えば、後述する比較例1)を用いずに、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物の蓄積が無く、欠陥・転位密度の低い完全性の高い積層構造を形成することが可能である。
【0118】
<2.実施例2の成長層:EMB2>
実施例2は、実施例1と同様な製造方法を用いたが、さらにキャリアガスとして残留O2濃度が0.1ppm未満(残留O2濃度<0.1ppm)の窒素(N2)ガスを使用した点において異なっている。
(平坦性、配向性)
本実施例のZnO単結晶層11B(EMB2)は、実施例1と同様にSEM評価によって平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図16は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS(二乗平均粗さ)=0.31nmと優れていた。また、図17に示すように、(100)ωのロッキングカーブのFWHMは33.0arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図18は、ZnO成長層(EMB2)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li及びSiの濃度の深さ方向プロファイルを示している。実施例1と同様に、ZnO基板10及びZnO単結晶層11B(ZnO成長層)の界面に、基板由来の不純物(基板含有不純物)であるLi、Si、Alの蓄積(パイルアップ)は見られない。また、これらの不純物は、ZnO成長層EMB2(厚層60nm〜70nm)中においても検出下限界以下である。なお、SIMSデータにおいては、基板から成長層側へ不純物が数10nm程拡散しているように見える。しかし、後述する実施例3のSIMSデータ(図21)において、Mgのプロファイルを考慮するに、SIMS測定の深さ方向の分解能が数10nm程度あると解される。従って、不純物の拡散が起こっているとは言い切れないと考えられる。
【0119】
実施例1と同様に、本実施例2による高温成長のZnO単結晶は、熱処理によって容易に結晶の状態が変移することのない熱安定状態の結晶である。すなわち、フランク・ファンデアメルベ成長様式で成長し、結晶工学的に“単結晶”の結晶であり、熱力学的には“熱平衡状態”の結晶である。
【0120】
以上説明したように、さらに高純度の窒素(N2)ガス(残留O2濃度<0.1ppm)をキャリアガス(雰囲気ガス)として使用した本方法によれば、平坦性及び配向性に優れ、界面での不純物蓄積及び成長層中への不純物拡散が無く、欠陥・転位密度の低い非常に完全性の高いZnO単結晶層の成長が可能であることがわかった。
【0121】
<3.実施例3の成長層:EMB3>
実施例3においては、実施例2と同様な製造方法を用いて第1のZnO系結晶層(ZnO)11Cを成長し、当該結晶層上に、低圧及び低水蒸気流量条件で第2のZnO系結晶(MgZnO)層12(EMB3)を成長した場合である(図6)。なお、キャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した。
(平坦性、配向性)
本実施例のMgxZn(1−x)O(x=0.40)単結晶層12(EMB3)は、実施例1及び2と同様にSEM評価によって平坦かつ良好な表面モフォロジを有していることが確認された。また、図19は、成長層表面のAFM像を示し、平坦性は、AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS=0.56nmと優れていた。なお、第2のZnO系結晶層12をMgxZn(1−x)O層としたことで、ステップバンチングが発生しているが、結晶性は劣化していない。また、図20に示すように、(100)ωのロッキングカーブのFWHMは29.0arcsecと狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図21は、第1のZnO系結晶層(ZnO)11C及び第2のZnO系結晶(MgZnO)層12(EMB3)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li、Si、Alの濃度の深さ方向プロファイルを示している。
【0122】
ここで注目すべきことは、実施例1及び実施例2と同様に、界面の不純物蓄積(パイルアップ)が無く、第1層のZnO層(第1のZnO系結晶層11C)で不純物Li、Si、Al等が検出下限界以下まで低減している点にある。さらに、注目すべきは、第2層のMgxZn(1−x)O(x=0.4)層においても不純物が検出下限界以下まで低減している点にある。
【0123】
ところで、MgZnO結晶は、ZnO結晶よりa軸長は長くc軸長が短い。そして、Mg組成が大きくなるに従いZnO結晶との格子定数差は大きくなる。実施例3のMgZnO層はZnO層に対してa軸長が整合したコヒーレントな状態で積層しており、格子歪みを大きく受けている。このように、格子歪みを強く受けたMgZnO層の成長においても、成長層中への不純物の拡散が無く、欠陥・転位密度の低い非常に完全性の高いZnO系単結晶層の成長が可能であることがわかった。
【0124】
<4.比較例1〜3の成長層:CMP1〜3>
4.1 比較例1の成長層(CMP1)
比較例1の成長層は、準熱安定状態の単結晶バッファ層(低温成長バッファ層)61を形成し、高温(900℃)でのアニールによる結晶性回復を実施して熱安定状態のZnO単結晶層に変移させた後、バッファ層61上に高温(800℃)で成長したZnO単結晶層62(CMP1)である。
(平坦性)
図22は、比較例1のZnO成長層62(CMP1)のSEM像を示している。ZnO単結晶層62(CMP1)の表面は鏡面であり、平坦かつ良好な表面モフォロジを有していた。また、図23は、成長層表面のAFM像を示している。AFMの観察エリア1μm2において表面粗さRMS=0.12nmと平坦性は優れていた。これらの観察結果から広域領域から微小領域に至るまで高い平坦性を有していた。
(配向性)
基板に対する配向性は、XRDの(002)2θ測定において34.42°に単一ピークが観測された。また、図24に示すように、(100)ωロッキングカーブのFWHMは30.2arcsecと狭く、結晶配向性に優れていることが確認された。
(欠陥・転位密度、不純物拡散)
図25は、ZnO成長層(CMP1)の深さ方向のSIMS測定結果であり、Li,Si及びAlの濃度の深さ方向プロファイルを示している。上記した実施例1〜3とは異なり、ZnO基板10及びZnO成長層(バッファ層)61の界面に、基板由来の不純物であるLi、Si、Alの蓄積(パイルアップ)が観測された。さらに、図25に示されるように、これらの不純物はZnO成長層62中においても検出されており、ZnO成長層62中に拡散することが分かった。
【0125】
上記したように、比較例1の成長方法においては、平坦性及び配向性に優れたZnO結晶層が成長できているにも関わらず、基板界面における不純物のパイルアップ及びZnO成長層中への不純物の拡散という問題点がある。つまり、準熱安定状態のバッファ層形成技術を用いた成長方法で得られるZnO結晶には、欠陥および転位密度を一定水準以下(XRDでは評価不能な水準)に低減することはできず、不純物の基板界面における蓄積及びZnO成長層中への拡散を防止することはできない。
【0126】
基板不純物の界面での蓄積及びZnO成長層中への拡散は、ZnO単結晶基板上に形成された準熱安定状態の単結晶バッファ層が熱処理により熱安定状態へ遷移する過程で、基板の不純物や付着物を固溶することに起因する。例えば、Liが存在すればZn(1−x)LixO結晶を生成し、Siが存在すればZn(1−x)SixO結晶を生成し、Alが存在すればZn(1−x)AlxO結晶を生成し、Gaが存在すればZn(1−x)GaxO結晶を生成し、Inが存在すればZn(1−x)InxO結晶を生成する(変性結晶の生成)。このように、熱処理によりバッファ層は不純物を固溶するために、結晶性が十分に回復しないという問題もある。また、このような現象はMOCVD法に限らず、MBE法、PLD法により成長した場合でも同様に起こりうる問題であり、本問題の解決は重要である。不純物の蓄積及び成長層中への拡散は、例えば、半導体素子において、当該半導体素子の電気抵抗を増加させ、また、順方向電圧(Vf)を上昇させる等の問題を生じさせる。
【0127】
4.2 比較例2の成長層(CMP2)
比較例2の成長層(CMP2)は、酸素源として酸素(O2)を用いた点、及びキャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した点を除いて、実施例2と同様な方法によりZnO単結晶基板上に成長したZnO結晶である(図11参照)。なお、成長温度、VI/II比等の成長条件は酸素ガスに適した条件を用いた。
(平坦性・配向性)
図26は、比較例2のZnO成長結晶(CMP2)表面のSEM像を示している。基板上に成長した結晶は、六角柱状の多結晶で平坦性も配向性も有していなかった。この結果は、酸素ガス(O2)は2次元結晶成長過程を阻害し、3次元状の結晶成長を促進することに起因すると考えられる。従って、酸素ガス(O2)を用いる比較例2の方法は、多層積層構造が必要な半導体発光素子等の半導体素子の製造には適さないものであった。
【0128】
4.3 比較例3の成長層(CMP3)
比較例3の成長層(CMP3)は、酸素源として亜酸化窒素(N2O)を用いた点、及びキャリアガスとして残留O2濃度が1ppb未満の窒素(N2)ガスを使用した点を除いて、実施例2と同様な方法によりZnO単結晶基板上に成長したZnO結晶である(図11参照)。なお、VI/II比はN2Oガスに適した値に調整し、成長温度に関しては装置の上限温度の1000℃とした。
(平坦性・配向性)
図27は、比較例3のZnO成長結晶(CMP3)表面のSEM像を示している。板状(ディスク状)とウォール状(thin wall)が複合した多結晶であった。
【0129】
亜酸化窒素(N2O)は安定なガスであり、結晶成長に用いるには成長温度を900℃以上とする必要がある。主に、熱分解により放出する酸素ラジカル(O*)が酸素源になる。酸素ラジカルも酸素(O2)と同様に2次元結晶成長過程を阻害し、3次元状の結晶成長を促進することが良好な層状単結晶が得られない原因と考えられる。従って、亜酸化窒素(N2O)を用いる比較例3の方法は、多層積層構造が必要な半導体発光素子等の半導体素子の製造には適さないものであった。
【0130】
[高品質単結晶層成長の要因]
上記実施例1〜3において説明したように、本発明によれば、平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO系単結晶層をZnO単結晶基板上に直接成長することが可能である。このような高品質の単結晶層の成長が可能になった要因、及び成長条件について詳細に検討した。
【0131】
まず、従来技術においては、MOCVD法により、ZnO単結晶基板上に結晶が熱安定状態となる高温で、平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO単系結晶層を成長することはできなかった。その理由として、六方晶構造のZnO系結晶は、c軸に強く配向した柱状結晶が成長し易い特徴があり、一旦異常成長(非2次元成長)を開始すると、その成長モードで成長が進行してしまうからである。また、高温成長(600℃以上、特には700℃以上)においては酸素欠損が起き易く不純物濃度が高くなるとされている。しかし、熱安定状態の結晶は、元来結晶の化学的・物理的安定性が高く、熱安定状態の結晶を成長する技術は半導体素子用の積層結晶を製造するには必要不可欠である。
【0132】
また、従来、バッファ層を用いる成長技術が用いられていたが、準熱安定状態の成長層であるバッファ層を用いる成長技術においては、基板との界面に基板由来の不純物が蓄積(パイルアップ)し、また、バッファ層上のZnO系結晶成長層中に当該基板不純物が拡散する問題が明らかになった(例えば、上記した比較例1)。
【0133】
本発明においては、ZnO系単結晶基板上に平坦性と配向性に優れ、かつ欠陥・転位密度の低いZnO系単結晶層を成長するために、水蒸気と構成分子内に酸素を含まない有機金属材料とを使用し、熱安定状態の結晶が成長する高温で結晶成長を行った。また、成長雰囲気から酸素(O2)ガスを排除することで、不純物拡散の無い、さらに低欠陥・低転位のZnO系単結晶層を成長することが可能となった。また、基板ダメージ層の厚さ(XRD測定)に応じて当該ダメージ層をエッチングにより除去することで、当該基板ダメージの影響を受けずに平坦性と配向性に優れ、かつ低欠陥・低転位密度の単結晶層を成長することが可能となった。かかる成長方法の作用・効果、成長条件等について、以下に詳細に説明する。
【0134】
[結晶成長材料及び熱安定状態の結晶成長]
ZnO単結晶基板上に、優れた平坦性と配向性、そして欠陥・転位密度の低い熱安定状態の単結晶層を成長させるためには、水蒸気と分子内に酸素を含まない有機金属材料とを使用し、高温で成長することが必要であることがわかった。
【0135】
前述のように、酸素源としてのH2O(水蒸気)は、大きな分極を有する極性酸化ガスであり、高温においても酸化物結晶表面への配向吸着性が優れており、有機金属化合物材料と表面で反応する。また、構成分子内に酸素原子を含まない有機金属材料は、H2O(水蒸気)との反応性が高い。平坦性の優れた結晶成長を実現するには、第1に、成長に関わる化学種(水蒸気、有機金属化合物、それらの分解中間体等)が基板表面で反応すること、第2に成長に関わる化学種が結晶表面でマイグレーションし、結晶安定サイトに収まり結晶化する過程が必要である(2次元結晶成長過程)。従って、H2Oと酸素を含まない有機金属化合物とは、その両方の機能を備える優れた材料の組み合わせである。つまり、水蒸気が酸化物結晶表面に吸着し、有機金属化合物が、吸着した水蒸気を攻撃し、反応・マイグレーションしながら、結晶安定サイトに収まる。この作用により、平坦性の優れた結晶成長が可能となる。同時に、基板への高い配向性と欠陥・転位密度の低い結晶成長が可能となる。
【0136】
また、熱安定状態の単結晶層(“高温単結晶”ともいう。)、すなわち、高温で結晶成長がなされ、結晶学的には完全結晶、また熱力学的にもステップ&テラス状の最安定表面になっている(熱平衡状態)の単結晶層は、成長後の熱処理によって状態変化は生じない。高温単結晶は、結晶学的には完全結晶、また熱力学的にもステップ&テラス状の最安定表面になっているので、熱処理による状態変化はない。尚、当該高温成長の具体的な成長温度については後に詳述する。
【0137】
当該高温単結晶層の成長様式においては、高温成長であることから化学種の表面マイグレーションが十分であり、2次元結晶成長モードにて結晶成長が進行する。すなわち、結晶種はステップ&テラス状の表面のキンク点またはステップ端に結合して成長する。そのため結晶中に欠陥や転位が導入され難く、完全性の高い結晶を成長することができる。成長層への基板不純物の拡散は、成長層中の結晶欠陥・転位を介してなされるので、欠陥及び転位密度の低い熱安定状態(高温成長)のZnO系単結晶層においては、基板不純物の成長層中への拡散が抑制される。
【0138】
一方、準熱安定状態の単結晶層である“低温単結晶”(バッファ層)は、結晶学的には完全結晶であるが、表面状態は最安定表面にはなっていない(準熱平衡状態)。そして、当該低温単結晶は、熱処理によってステップ&テラス状の最安定表面に変化する。しかし、熱処理によって結晶性の回復を図っても限界があり、基板の欠陥や転位が引継がれるため、バッファ層を用いた成長においてもバッファ層上に完全性の高い結晶層は形成されない。例えば、比較例1の、バッファ層上の高温成長層にLi、Si、Al等の基板由来の不純物が拡散するのはこのためであると解される。
【0139】
換言すれば、低温でバッファ層の結晶成長を行い、熱処理によってバッファ層の結晶性を回復するバッファ層技術では、平坦性と配向性に優れ、かつ低欠陥・低転位密度の完全性の高い単結晶層を成長する上では限界があることが分かった。また、バッファ層技術においては、基板不純物がZnO基板とZnO成長層との界面に蓄積する問題と、基板不純物が成長層中に拡散するなどの問題があることが分かった。そして、これらの問題は、バッファ層を形成せずに直接ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系単結晶を成長する本発明の方法によって解決された。
【0140】
[成長雰囲気及び欠陥・転位密度]
上記した成長層の詳細な評価結果から、成長雰囲気から無極性酸化ガスである酸素(O2)ガスを排除することが、不純物拡散の無い、低欠陥・低転位密度のZnO系単結晶層を成長するために重要であることがわかった。
【0141】
比較例2および比較例3の結果から明らかなように、O2又はN2Oを酸素源として用いた場合、3次元結晶成長過程で成長し、針状(ウィスカー)、柱状(ロッド状)、板状(ディスク状)の結晶になる。これは、O2,N2O分子は、直線状の分子構造をしているため、ZnO結晶の表面原子配列の影響を受けにくく、結晶表面の不特定な位置でZnO結晶を生成する。従って、2次元及び3次元混在の結晶成長過程となり、欠陥(酸素欠損)や転位密度は増加する。
【0142】
つまり、結晶成長過程においてO2ガス又はN2Oガス(無極性酸化ガス)は、2次元結晶成長過程を阻害し3次元結晶成長過程を促進するため、ZnO系結晶層の平坦性と配向性を悪化させる。これらのことから、水蒸気とDMZnを用いた成長法であっても、成長雰囲気中に微量な酸素が存在すると、XRD分析においては識別できない程度ではあるが、ZnO単結晶中に欠陥や転位が成長雰囲気の酸素濃度に応じた密度で導入される。
【0143】
本実施例に用いた水熱合成法のZnO単結晶基板には、その製造方法からLi(リチウム)が比較的高い濃度で残留することがある。また、基板の導電型制御のためAl(アルミニウム)が所要濃度添加されている。一方、成長層中の欠陥(Zn欠損、酸素欠損、複合欠陥)、転位(刃状転位、螺旋転位)は、基板結晶中の不純物拡散を容易にする。そのため、Li、Al等の基板由来の不純物がZnO成長層へ拡散する。当然、水熱合成法以外のインゴット以外で製造されたZnO単結晶基板においても起こる。
このように、基板不純物がZnO成長層へ拡散すると、半導体発光素子などを製造した場合に電気的特性や光学的特性を低下させるので問題となる。例えば、p型制御などの導電型制御を困難にし、Vf(順方向電圧)の上昇やVr(逆方向電圧)の低下を招く、発光効率を低下させる等の問題が生じる。
【0144】
そこで、反応室に流入する窒素ガス(キャリアガス)の残留酸素濃度を0.1ppm以下に低減し、酸素濃度(O2濃度)が0.1ppm以下の成長雰囲気で結晶成長を行うことによって、高度な平坦性と配向性を有し、欠陥・転位密度の低いZnO系結晶層が得られた。その結果、基板不純物の拡散を十分に抑制することができ(例えば、実施例2、3)、高品質のZnO系結晶積層構造の形成が可能となった。つまり、欠陥・転位によって基板から不純物がZnO系結晶成長層中に拡散するということは、ZnO系結晶成長層に不純物ドープした場合には、当該ドープした不純物が当該ZnO系結晶層から隣接する結晶層に拡散することを意味する。さらに、欠陥・転位は、半導体発光素子等の半導体素子の動作中に増殖するので、かかる不純物拡散はさらに深刻な問題となる。本発明によれば、結晶積層構造の形成においても欠陥・転位密度が低く、不純物の拡散を抑制することができるので、高性能な半導体素子の製造に適している。
【0145】
図28は、キャリアガス中の残留酸素濃度と成長層に拡散する基板含有不純物(基板不純物)の濃度との関係を表している。基板含有不純物の成長層への拡散は、SIMS分析によって評価した。実験は、超高純度N2(残留O2濃度が1ppb未満)と、超高純度N2をベースガスとしO2濃度を100ppmとした混合ガスとを用い、キャリアガスの残留O2濃度を異ならせて成長を行ってO2濃度と成長層に拡散する不純物濃度との関係を調べた。
【0146】
なお、図中、基板含有不純物(Al及びLi)の濃度(Al(sub),Li(sub))、Al及びLiの検出下限界、Siのバックグランドを破線で示している。また、ハッチングを施して示している領域が残留O2濃度に対する成長層の拡散不純物濃度を表している。すなわち、成長雰囲気のO2濃度が同一であっても、欠陥、転位種と不純物種により拡散の程度が異なるため、成長層に拡散する不純物の濃度には一定の幅がある。また、図中、1Enは指数表記であり、例えば、1E17は1×1017を表している。
【0147】
成長層の欠陥・転位は、基板結晶中の不純物拡散を容易にするので、成長層中に拡散する不純物の濃度は、成長層の欠陥・転位密度に依存する。すなわち、成長層の欠陥・転位密度が高いほど拡散による不純物濃度は増加する。
【0148】
図28に示すように、残留O2濃度が5ppmのキャリアガスを用いて(成長雰囲気で)成長を行った場合、成長層へは基板と同等な濃度の不純物が拡散することがわかった。これは、当該O2濃度の成長雰囲気で形成された成長層に拡散可能な不純物の濃度が基板含有不純物濃度を超えるためであると考えられる。
【0149】
なお、前述のように、O2濃度が5ppmの成長雰囲気で形成した成長層においては、ZnO基板10とZnO単結晶層11との界面の基板不純物の蓄積(パイルアップ)は生じない(実施例1、図15)。従って、半導体素子に適用した場合、基板不純物の蓄積による電気抵抗の増加、順方向電圧(Vf)の上昇等の問題は回避することができる。
【0150】
また、O2濃度が1ppm以下の成長雰囲気で成長を行った場合、成長層の不純物濃度は基板不純物濃度よりも低くなった(例えば、実施例2)。さらに、O2濃度が0.1ppm以下の成長雰囲気で成長を行った場合、不純物濃度の検出下限界を下回り、成長層の不純物濃度は測定することができない程であった。より具体的には、基板含有不純物がアルミニウム(Al)である場合には、基板に由来する不純物の濃度は1×1015cm−3以下であり、リチウム(Li)である場合には当該基板由来不純物の濃度は1×1014cm−3以下である。
つまり、成長雰囲気のO2濃度が1ppmを境に、基板に含まれている不純物(Li、Si、Al)のZnO成長層中への拡散を十分に抑制することができた。さらに、図28に示すように、成長雰囲気のO2濃度を0.1ppm未満とすることによって、不純物濃度が1×1017cm−3を超える基板を用いる場合であっても、ZnO成長層中への基板不純物の拡散を検出下限値以下まで抑制することができた。
【0151】
換言すれば、成長雰囲気から酸素ガス(無極性酸化ガス)を排除した雰囲気において熱安定状態の単結晶層の成長を行うことが成長層中への基板不純物の拡散を抑制する上で重要である。以下、当該雰囲気を酸素ガス排除雰囲気(広義では、無極性酸化ガス排除雰囲気)と称する。そして、上記したように、当該酸素ガス排除雰囲気は、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることがより好ましい。特に、酸素ガス濃度が0.1ppm未満の雰囲気で成長を行えば不純物拡散、成長層の欠陥・転位密度を大きく低減できるので、後述する導電型(p型)制御の観点及び半導体素子の動作、特に大電流密度で動作させる半導体発光素子の動作の観点からさらに好ましい。
【0152】
また、ZnO系結晶層の欠陥・転位密度が低減したことで、残留キャリア密度も低下した。ZnO結晶成長層においては、ドナー濃度Nd=6×1015cm−3以下(CV測定)であった。またMgZnO結晶成長層においては、高抵抗(pn判定不可)であった。
【0153】
なお、上記した成長雰囲気のO2濃度を単位基板面積当たりに流入する酸素分子流量(SF)で規定すると以下のようになる。すなわち、本発明において使用したシャワーヘッド30の有効噴出直径はφ75mmであるので、有効噴出面積は44.16cm2である。ところで、キャリアガス(窒素ガス)中の残留O2濃度が1ppmの場合のモル流量FO2は、FO2=(4/22.4)×(1×10−6)=0.17μmol/minである。
【0154】
従って、単位基板面積当たりの残留酸素の流入モル流量SFO2は、SFO2=0.17(μmol/min)/44.16=3.85×10−3(μmol/(min・cm2))である。すなわち、単位基板面積当たりの残留酸素の流入モル流量SFO2が、3.85×10−3μmol/(min・cm2)以下(成長雰囲気のO2濃度が1ppm以下に対応)であれば、基板に含まれている不純物のZnO成長層中への拡散を十分に抑制することができる。また、前述したのと同様に、SFO2が、3.85×10−4μmol/(min・cm2)未満(O2濃度が0.1ppm未満に対応)であることがさらに好ましい。
【0155】
以上説明したように、本発明の製造方法は、平坦性と配向性に優れた単結晶層の成長が可能であることに加え、(i)欠陥・転位密度を低減し、基板不純物の蓄積及びZnO系結晶層への拡散を抑止する、(ii)ドープしたZnO系結晶層から他の結晶層への不純物拡散を抑止する、(iii)欠陥・転位の増殖を抑える、など優れた効果を有する。従って、半導体素子等への適用にあたっては、不純物濃度制御(キャリア密度)、不純物濃度プロファイル制御、急峻な界面制御が可能となり、優れた特性のn型ZnO系結晶層、発光層、p型ZnO系結晶層及び積層構造が形成でき、発光効率の高いZnO系結晶系半導体発光素子の製造が可能となる。
【0156】
特に、ZnO系半導体素子を実現するうえで最大の問題点は、良好な導電性のp型結晶が得られない点にあった。すなわち、良好な導電性のp型結晶が得られない主な原因は、酸素空孔により発生する負電荷の残留キャリア(電子)や、欠陥や転位に由来する負電荷のキャリア(電子)が、p型不純物より発生する正電荷のキャリア(正孔)を補償することにある。従って、欠陥・転位密度が低い完全性の高いZnO系結晶の成長が可能な本発明によれば当該問題点を克服することができ、優れた電気的特性、光学的特性を有する半導体発光素子の製造が可能となる。
【0157】
[基板の表面ダメージ層の除去]
ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系結晶層を、優れた平坦性と配向性、及び欠陥・転位密度の低い結晶を成長させるためにはZnO基板表面の僅かな厚みのダメージ層及び付着物を除去することが重要である。
【0158】
すなわち、ダメージ層は、僅かな表層部分であるが、確実に熱安定状態のZnO系結晶の成長(2次元成長過程)を阻害し、成長層の平坦性を悪化させる。すなわち、成長に関わる化学種(水蒸気、有機金属化合物、それらの分解中間体等)のマイグレーションを妨害し、各原子の結晶安定サイト以外で結晶化を誘導するためである。また、欠陥や転位を導入する問題もある。
【0159】
基板表面のダメージ層の厚さは、XRDの非対称反射にて測定できる。例えば、c面を主面(結晶成長面)とする基板ならば、(100)ωのロッキングカーブのFWHMで測定できる。この測定は、基板主面に対して略平行にX線を入射(入射角=89°)することにより、表層20nm程度の厚さでも十分に測定可能である。
【0160】
基板表面ダメージ層及び表面付着物をエッチング以外で取除くことは困難である。例えば、基板表面ダメージ層は、酸化性ガス(O2、N2O、H2O、等)雰囲気中、1000℃程度の熱処理程度では、格子の振動エネルギが不足しており結晶性回復できない。また、基板表面付着物(例えば研磨材のシリカ等)は、酸性ガス雰囲気中では脱離除去できない。よってエッチングによる除去が有効である。ところが、付着物はエッチングにより簡便に除去できるが、ダメージ層は厚すぎるとエッチングにより除去しきれない。単純にエッチング時間を長くするだけでは、欠陥・転位、潜傷、歪み蓄積部のエッチング速度が速いので基板表面は凹凸になる。
【0161】
高温(600℃以上)の熱安定状態でZnO系結晶層を成長する場合、過多なエッチングによる凹凸は、2次元結晶成長過程を乱してZnO系結晶層を凹凸状にする。そのため、ダメージ層の薄いZnO単結晶基板を用いることが重要である。
【0162】
エッチング時間は、ダメージ層の厚さ((100)ωのFWHM)により10分〜150分程度実施すれば良い。10分未満では付着物の除去が十分でない場合があり、また150分以上必要な場合はダメージ層が厚すぎ、エッチング面が凹凸になる。
【0163】
具体的には、ダメージ層をエッチングで除去するには、(100)ωのFWHMが60arcsec(ダメージ層厚:1.4μm)未満が良く、好ましくは50arcsec(同:0.7μm)未満が良い。さらに好ましくは40arcsec(同:0.21μm)未満が良く、35arcsec未満ならエッチングの必要はない。
【0164】
なお、一旦ZnO結晶層を成長したZnO成長層付き基板は、表面にダメージ層及び付着物が無いので、エッチング処理無しに反応容器にセットしてZnO結晶層を成長できる。また、成長層が付いていなくとも、XRDの結果等からZnO単結晶基板の表面にダメージ層が無いと判断できる場合には、そのまま用いることができる。
【0165】
[結晶成長条件]
ZnO単結晶基板上に熱安定状態のZnO系結晶層であって、優れた平坦性と配向性、及び欠陥・転位密度の低い結晶を成長させる成長条件について詳細に検討した。図29に示すように(二重線で囲んで示している)、熱安定状態のZnO系結晶層を広範な成長条件範囲で成長可能なことを示している。また、図30は、ZnO系結晶の一例として、MgxZn(1−x)O(x=0.11〜0.40)成長層のAFM像を示している。尚、図に記載の結果は検討結果の一例であり、詳細には、熱安定状態のZnO系結晶層を以下の条件で成長することができる。
【0166】
成長温度については、600℃以上から成長上限温度である900℃までの範囲で、成長表面が平坦で、(100)ωのFWHMが35arcsec以下と狭く、ZnO単結晶基板に対する配向性に優れた結晶層が得られることが確認された。なお、平坦性と配向性が向上する650℃以上がさらに好ましい。さらに好適には、欠陥・転位密度が非常に低くなる700℃温度以上が良い。厳密には、成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度範囲(成長上限温度の−20℃〜−200℃の温度範囲)が良い。
【0167】
成長圧力については、低圧(減圧)から常圧までの広い圧力範囲で可能である。好ましくは、成長圧力1kPa以上が良い。成長圧力を低くすると成長速度が低下する。特に、1kPa以下(800℃の場合)にすると成長速度は極端に低下するので実用的に1kPa以上が良い。また、上限は装置の高圧密閉性能の限界である120kPa程度まで実施したが、問題なく成長することができた。
【0168】
成長速度については、0.1nm/min〜70nm/minの範囲が適当である。例えば、半導体発光素子を製造する場合において、n型ZnO系半導体層、発光層、p型ZnO系半導体層を成長する際に、半導体層の機能(量子井戸構造層、電流拡散層など)、不純物濃度制御、残留キャリア密度制御等の目的にあわせた成長速度を選択すれば良い。例えば、成長速度を、ZnO基板への成長初期は配向性向上を目的に1nm/min〜10nm/minとし、n型ZnO系半導体層の成長時は50nm/min程度とし、発光層の成長時は残留キャリア密度を低く抑える目的で0.1nm/min〜1nm/minとするなどである。
【0169】
VI/II比(= FH2O/FDMZn比)は、水蒸気流量とDMZn流量比であるが、VI/II比は、2程度以上なら良く、上限は配管またはシャワーヘッド内で水蒸気が凝集を起こさない飽和水蒸気量の70%程度までが良い。実用的には1000程度あれば十分である。
【0170】
結晶組成については、ZnO系結晶層としては、MgxZn(1−x)O (0≦x≦0.68)結晶を用いることができる。図30に示すように、AFMの観察エリア1μm2における表面粗さRMS(またはRq、二乗平均粗さ)は、0.15〜0.65nmと優れた平坦性が確認された。なお、xが0.68より大きいとMgZnO結晶の一部が岩塩型結晶のMgOに相分離を起こすので0.68以下が良い。なお、MgZnO結晶を成長するには、Cp2Mg等の有機金属材料を用いればよい。
【0171】
不純物ドープについては、n型化するにはTEGa等の有機金属を加えればよく、p型化するにはNH3等を用いれば良い。
【0172】
[半導体素子]
本発明を半導体素子に適用した例として、ZnO系半導体発光素子(LED:発光ダイオード)の製造に用いられるデバイス層付き基板70の積層構造を図31に示す。なお、ここで、デバイス層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指す。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体及びp型半導体のpn接合によって構成される構造層を含む。また、n型半導体層、発光層及びp型半導体層から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体構造層を、特に、発光デバイス層という。
【0173】
図31に示すように、LEDデバイス層付き基板70は、ZnO単結晶基板71上にデバイス層75が形成されている。デバイス層75は、n型ZnO系半導体層72、発光層73、p型ZnO系半導体層74から構成されている。また、n型ZnO系半導体層72は、成長開始時の結晶性を向上するための第1n型ZnO系半導体層72A、電流拡散層である第2n型ZnO系半導体層72B、正孔のバリアとして機能する第3n型ZnO系半導体層72Cから構成されている。同様に、p型ZnO系半導体層74は、電子のバリアとして機能する第1p型ZnO系半導体層74A、電極との接触抵抗を低くする第2p型ZnO系半導体層74Bから構成されている。
【0174】
デバイス層75の半導体積層構造は、上記した実施例の成長方法に基づいて、あるいは適宜改変して形成すればよい。例えば、実施例3の成長方法の成長シーケンス及び成長条件と同様にして、材料ガス、ドーパントガス等を切り換えて、各半導体層を順次成長することができる。また、各半導体層の組成(バンドギャップ)、層厚、導電型及びドープ濃度(キャリア濃度)などは、半導体発光素子の所要特性等に応じて適宜改変又は選択することができる。例えば、第1n型ZnO系半導体層72Aの代わりにアンドープのZnO層を採用し、第2n型ZnO系半導体層72BはGaドープのZnO層であり、第3n型ZnO系半導体層72CはGaドープのMgxZn1−xO層であり、発光層73はZnO層及びMgxZn1−xO層からなる量子井戸(QW)発光層であり、第1p型ZnO系半導体層74Aは窒素(N)ドープのMgxZn1−xO層であり、第2p型ZnO系半導体層74Bは窒素(N)ドープのZnO層であるように形成することができる。
【0175】
なお、例えば、本発明の方法でn型ZnO系半導体層72を形成する場合、n型不純物としてAl(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)の何れか1以上の不純物を添加する。本発明によればZnO系半導体層中の欠陥・転位密度が非常に低いので、他の層に添加不純物が拡散することが無い。そのため、添加した不純物は補償されないのでキャリアの活性化率が高くなる。よって、必要以上に不純物を添加する必要もなく、n型ZnO系半導体層の結晶性を低下させることもない。
【0176】
また、基板に含有されているLi,Na,K(水熱合成法による基板の場合)などのアルカリ金属が、ZnO系半導体成長層に拡散しないので、積層したZnO系半導体層の機能が損なわれることが無い。
【0177】
なお、成長層に基板から拡散する拡散不純物は、n型ZnO系半導体層、p型ZnO系半導体層の伝導性制御や、発光層のキャリア再結合効率を考慮した場合、1×1016(個・cm−3)以下が望ましく、更に5×1015(個・cm−3)以下が好ましく、また、最も好ましくは1×1015(個・cm−3)以下である。より具体的には、以下の関係が成り立てばよい。
【0178】
(n型層)
n型ZnO系半導体層の場合、n型不純物を1×1017〜5×1019(個・cm−3)の範囲で添加してn型層とするので、拡散不純物濃度が添加不純物濃度の1/10〜1/100であれば問題とならない。好ましくないが、拡散不純物がn型不純物(Al、Ga、In、等)ならば、1/10以上でも問題ない。このような状況を勘案すると、実用的な範疇においては、1×1016(個・cm−3)以下が好ましい。
【0179】
(p型層)
p型ZnO系半導体層の場合、p型不純物を5×1018〜5×1020(個・cm−3)の範囲で添加してp型層とするので、拡散不純物濃度が添加不純物濃度の1/100〜1/1000であれば問題ない。なお、ZnO系半導体においては、p型添加不純物の活性化率が低いために添加不純物濃度は高くなる。また、発生した正孔を補償する不純物Li,K,Naは極力低濃度であることが望ましい。このような状況を勘案すると、実用的な範疇においては、1×1015(個・cm−3)以下が好ましい。
【0180】
(発光層)
発光層の場合、非発光センタ(非輻射遷移)となり発光効率を低下させるLi,K,Naの濃度は、1×1015(個・cm−3)以下が好ましい。また、発光センタ(輻射遷移)となる不純物であっても、ドナー・バンド間遷移、アクセプタ・バンド間遷移、ドナー・アクセプタ間遷移など発光スペクトルをブロードにする問題を起こすので、意図しない拡散不純物濃度は5×1015(個・cm−3)以下が好ましい。
【0181】
また、特に、量子井戸(QW)活性層の場合では、結晶層(ウエル層、バリア層)の層厚の揺らぎが量子準位エネルギ、量子準位密度等を変化させ、発光波長、内部量子効率等に大きく影響するので、平坦性及び単結晶性に優れたZnO系半導体層を用いる効果はさらに顕著である。
【0182】
上記LEDデバイス層付き基板70にn側電極及びp側電極を形成し、スクライブ及びブレーキングにより個片化することによって半導体発光素子(LED)を形成することができる。
【0183】
本発明による半導体層は平坦性に優れているので、半導体プロセスにおいても高い精度が得られるとともに、劈開やブレーキング等における製造歩留まりも高い。
【0184】
また、本発明の適用例として、ZnO系半導体発光素子(LED)80の構造を図32(a)、(b)に示す。図32(a)は、半導体発光素子80の上面図であり、図32(b)は、図32(a)の線A−Aにおける断面図である。
【0185】
ZnO系半導体発光素子80は、ZnO基板81上に、デバイス層を構成するn型ZnO系半導体層82A、発光層82B、p型ZnO系半導体層82Cを有している。また、n型ZnO系半導体層82Aにはn側接続電極83としてTi/Auが形成され、p型ZnO系半導体層82C上にはp側透光性電極84としてNi−O/Au、及びp側接続電極85としてNi/Pt/Auが形成されている。なお、ここで、「X/Y」との表記は、XがZnO系半導体層側に形成され、Yがその上に積層された構造を意味する。
【0186】
MgZnO系半導体層は、酸化物透光性導電膜と接合性が良好であるため、n側接続電極83にITO等、p側透光性電極84にCuAlO2等、さらにp側接続電極85にNi2O等を使用することができる。このような構成にすれば、透明半導体発光素子を形成できる。なお、図中、矢印は投光方向を示している。
【0187】
また、本発明の適用例として、ZnO系半導体発光素子を用いたLEDランプ90の構造を図33に示す。ZnO系半導体発光素子93は、例えば、上記したZnO系半導体発光素子80と同様の構成を有している。ZnO系半導体発光素子93は、フレーム91上に銀ペースト92によって固着及び電気的に接続されている。また、ZnO系半導体発光素子93は、蛍光体層94で封入されている。ZnO系半導体発光素子93の上部電極は、金ワイヤ95で電極端子97に接続されている。これらの構成要素は樹脂モールド96で封止され、LEDランプ90が構成されている。
【0188】
ZnO系半導体発光素子93の屈折率はnLED=2.0であり、樹脂モールド96の樹脂の屈折率はnMOLD=1.5で、空気nAIR=1.0の関係にあり、ZnO系半導体発光素子93及び樹脂モールド96の屈折率差は0.5であり、また、樹脂モールド96及び空気の屈折率差は0.5である。従って、ZnO系半導体発光素子93からの光取出し効率は非常に高く、発光出力の大きい紫外〜有色LEDの製造が可能である。
【0189】
上記した実施例においては、ZnO系結晶として、MgxZn(1−x)Oを例に説明したが、ZnOベースの他の化合物結晶であってもよい。例えば、Zn(亜鉛)の一部がカルシウム(Ca)で置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。あるいは、O(酸素)の一部がセレン(Se)、硫黄(S)やテルル(Te)などで置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。
【0190】
また、上記した実施例においては、半導体発光素子(LED)を例に説明したが、本発明はこれに限らず一般の半導体素子、電子デバイスに適用することができる。例えば、表面弾性波デバイス、MOSFET等の電子デバイス、半導体レーザー(LD)、半導体受光素子等の光半導体など、広範な素子に適用することができる。
【0191】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、平坦性及び配向性に優れるとともに、低欠陥・低転位密度の完全性の高いZnO系単結晶層の成長が可能である。より具体的には、基板不純物の蓄積、ZnO系結晶層への不純物拡散及び成長結晶層間の不純物拡散を抑制することができ、また、欠陥・転位の増殖を抑制することができる、など優れた効果を有する。
【0192】
従って、半導体素子等への適用においては、優れた不純物濃度制御及び不純物濃度プロファイル制御、急峻な界面制御が可能となり、高品質の結晶積層構造を形成できるため、優れた特性の半導体素子を提供することができる。さらに、電気的特性及び発光効率に優れたZnO系結晶系半導体発光素子の製造が可能となる。
【0193】
特に、ZnO系半導体素子を実現するうえで最大の課題であったp型導電性制御の問題を克服することができる。すなわち、欠陥や転位に起因してp型不純物による正電荷のキャリア(正孔)が補償される問題を解決し、良好な導電性のp型結晶を得ることができる。
【0194】
従って、本発明によれば、平坦性及び配向性に優れ、欠陥・転位密度が低い完全性の高いZnO系結晶の成長が可能であり、優れた電気的特性、光学的特性等を有する高性能で、歩留まりの高い半導体発光素子等の半導体素子の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0195】
5 MOCVD装置
10,71,81 基板
11A,11B,11C ZnO単結晶層
12 MgxZn(1−x)O単結晶層
EMB1,2,3 実施例1,2,3の結晶成長層
CMP1,2,3 比較例1,2,3の結晶成長層
30 シャワーヘッド
70 デバイス層付き基板
72 n型ZnO系半導体層
73 発光層
74 p型ZnO系半導体層
75 デバイス層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOCVD法により酸化亜鉛(ZnO)単結晶の基板上にZnO系結晶層を成長する方法であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、
前記基板上に600℃以上900℃未満の成長温度でZnO系単結晶を成長する単結晶成長工程を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記単結晶成長工程は、酸素ガス排除雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素ガス排除雰囲気は、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記極性酸素材料は、水蒸気及び炭素数が1〜5の低級アルコール類のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記ZnO系単結晶は、フランク・ファンデアメルベ様式によって成長された熱安定状態の単結晶層であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
前記成長温度は、前記ZnO系単結晶の成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板は、水熱合成法で製造された基板であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板はc面ZnO単結晶基板であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板の結晶成長面はZn極性面であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板の結晶成長面はa軸及びm軸方向の何れかに傾いた基板であることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板の結晶成長面のXRD(100)ωの半値全幅(FWHM)が60arcsec未満であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の結晶成長面は化学エッチャントによりエッチングされ、エッチング後のXRD(100)ωの半値全幅(FWHM)が40arcsec以下であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1に記載の方法。
【請求項13】
前記ZnO系単結晶層上に、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層を成長する工程、を有することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1に記載の方法。
【請求項14】
前記ZnO系半導体層は、MgxZn(1−x)O(x≦0.68)層であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記デバイス層はp型ZnO系半導体層を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むLED(発光ダイオード)デバイス層であることを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
MOCVD法によりZnO単結晶の基板上にZnO系半導体層を積層して形成された半導体素子であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、かつ、600℃以上900℃未満の成長温度で前記基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、
前記ZnO系単結晶層上に成長された、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層と、を有することを特徴とする半導体素子。
【請求項18】
前記基板に由来する基板由来不純物の前記ZnO系単結晶層における濃度は、前記基板の前記基板由来不純物の濃度を超えないことを特徴とする請求項17に記載の半導体素子。
【請求項19】
前記基板の前記基板由来不純物がアルミニウム(Al)である場合、前記基板由来不純物の濃度は1×1015cm−3以下であることを特徴とする請求項18に記載の半導体素子。
【請求項20】
前記基板の前記基板由来不純物がリチウム(Li)である場合、前記基板由来不純物の濃度は1×1014cm−3以下であることを特徴とする請求項18に記載の半導体素子。
【請求項21】
前記基板はc面ZnO単結晶基板であることを特徴とする請求項17ないし20のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項22】
前記ZnO系単結晶層のXRD(100)ωロッキングカーブのFWHM(半値全幅)は40arcsec以下であることを特徴とする請求項17ないし21のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項23】
前記ZnO系単結晶層は、MgxZn(1−x)O(x≦0.68)層であることを特徴とする請求項17ないし22のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項24】
前記デバイス層はp型ZnO系単結晶層を含むことを特徴とする請求項17に記載の半導体素子。
【請求項25】
前記半導体素子は半導体発光ダイオード(LED)であり、前記デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むことを特徴とする請求項17ないし23のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項26】
不純物としてAl,Li,Siの少なくとも一つを所定の濃度で含むZnO系単結晶基板と、
前記ZnO系単結晶基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、を含み、
SIMS分析(二次イオン質量分析)で測定した場合に、前記ZnO系単結晶基板と前記ZnO系単結晶層との界面に前記不純物の蓄積が観測されず、かつ、
SIMS分析で測定した場合に、前記ZnO系単結晶層中の不純物の濃度が前記所定の濃度よりも低いこと、を特徴とするZnO系単結晶層付き基板。
【請求項1】
MOCVD法により酸化亜鉛(ZnO)単結晶の基板上にZnO系結晶層を成長する方法であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、
前記基板上に600℃以上900℃未満の成長温度でZnO系単結晶を成長する単結晶成長工程を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記単結晶成長工程は、酸素ガス排除雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素ガス排除雰囲気は、酸素ガス濃度が1ppm以下の雰囲気であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記極性酸素材料は、水蒸気及び炭素数が1〜5の低級アルコール類のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記ZnO系単結晶は、フランク・ファンデアメルベ様式によって成長された熱安定状態の単結晶層であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
前記成長温度は、前記ZnO系単結晶の成長上限温度よりも20℃ないし200℃低い温度であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板は、水熱合成法で製造された基板であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板はc面ZnO単結晶基板であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板の結晶成長面はZn極性面であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板の結晶成長面はa軸及びm軸方向の何れかに傾いた基板であることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板の結晶成長面のXRD(100)ωの半値全幅(FWHM)が60arcsec未満であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の結晶成長面は化学エッチャントによりエッチングされ、エッチング後のXRD(100)ωの半値全幅(FWHM)が40arcsec以下であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1に記載の方法。
【請求項13】
前記ZnO系単結晶層上に、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層を成長する工程、を有することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1に記載の方法。
【請求項14】
前記ZnO系半導体層は、MgxZn(1−x)O(x≦0.68)層であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記デバイス層はp型ZnO系半導体層を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むLED(発光ダイオード)デバイス層であることを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
MOCVD法によりZnO単結晶の基板上にZnO系半導体層を積層して形成された半導体素子であって、
酸素を含まない有機金属化合物と極性酸素材料とを用い、かつ、600℃以上900℃未満の成長温度で前記基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、
前記ZnO系単結晶層上に成長された、n型ZnO系半導体層及びp型ZnO系半導体層のうち少なくとも1つを含むデバイス層と、を有することを特徴とする半導体素子。
【請求項18】
前記基板に由来する基板由来不純物の前記ZnO系単結晶層における濃度は、前記基板の前記基板由来不純物の濃度を超えないことを特徴とする請求項17に記載の半導体素子。
【請求項19】
前記基板の前記基板由来不純物がアルミニウム(Al)である場合、前記基板由来不純物の濃度は1×1015cm−3以下であることを特徴とする請求項18に記載の半導体素子。
【請求項20】
前記基板の前記基板由来不純物がリチウム(Li)である場合、前記基板由来不純物の濃度は1×1014cm−3以下であることを特徴とする請求項18に記載の半導体素子。
【請求項21】
前記基板はc面ZnO単結晶基板であることを特徴とする請求項17ないし20のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項22】
前記ZnO系単結晶層のXRD(100)ωロッキングカーブのFWHM(半値全幅)は40arcsec以下であることを特徴とする請求項17ないし21のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項23】
前記ZnO系単結晶層は、MgxZn(1−x)O(x≦0.68)層であることを特徴とする請求項17ないし22のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項24】
前記デバイス層はp型ZnO系単結晶層を含むことを特徴とする請求項17に記載の半導体素子。
【請求項25】
前記半導体素子は半導体発光ダイオード(LED)であり、前記デバイス層はn型ZnO系単結晶層、発光層及びp型ZnO系単結晶層を含むことを特徴とする請求項17ないし23のいずれか1に記載の半導体素子。
【請求項26】
不純物としてAl,Li,Siの少なくとも一つを所定の濃度で含むZnO系単結晶基板と、
前記ZnO系単結晶基板上に直接成長されたZnO系単結晶層と、を含み、
SIMS分析(二次イオン質量分析)で測定した場合に、前記ZnO系単結晶基板と前記ZnO系単結晶層との界面に前記不純物の蓄積が観測されず、かつ、
SIMS分析で測定した場合に、前記ZnO系単結晶層中の不純物の濃度が前記所定の濃度よりも低いこと、を特徴とするZnO系単結晶層付き基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図24】
【図25】
【図28】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図12】
【図13】
【図16】
【図19】
【図22】
【図23】
【図26】
【図27】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図24】
【図25】
【図28】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図12】
【図13】
【図16】
【図19】
【図22】
【図23】
【図26】
【図27】
【図30】
【公開番号】特開2010−272807(P2010−272807A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125494(P2009−125494)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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