内燃機関の制御装置
【課題】 空燃比切換時において気筒内に燃料を噴射するインジェクタの制御を適切に行い、トルク変動を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 機関運転状態に応じて気筒内酸素量mo2が推定され、気筒内酸素量mo2に応じて燃料噴射パラメータQ*が算出される。インジェクタによる燃料噴射は、燃料噴射パラメータQ*に応じて制御される。空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるとき、またはその逆に切り換えるときにおける空燃比移行中の燃料噴射パラメータQ*は、空燃比切換後の目標燃料噴射パラメータQ*tgt及び目標気筒内酸素量mo2tgt、並びに切換前の初期燃料噴射パラメータQ*ini及び初期気筒内酸素量mo2iniに応じて滑らかに変化するように設定される(S97〜S99)。
【解決手段】 機関運転状態に応じて気筒内酸素量mo2が推定され、気筒内酸素量mo2に応じて燃料噴射パラメータQ*が算出される。インジェクタによる燃料噴射は、燃料噴射パラメータQ*に応じて制御される。空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるとき、またはその逆に切り換えるときにおける空燃比移行中の燃料噴射パラメータQ*は、空燃比切換後の目標燃料噴射パラメータQ*tgt及び目標気筒内酸素量mo2tgt、並びに切換前の初期燃料噴射パラメータQ*ini及び初期気筒内酸素量mo2iniに応じて滑らかに変化するように設定される(S97〜S99)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの一部を吸気系に還流する排ガス還流装置を備えた内燃機関の制御装置に関し、特にインジェクタによる燃料噴射などの制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関で燃焼する混合気の空燃比を、理論空燃比よりリーン側のリーン空燃比に設定するリーンバーン運転を行っているときに、排ガス中のNOxを吸収するリーンNOx触媒を備えた排ガス浄化装置が示されている。この装置では、リーンバーン運転を継続すると、リーンNOx触媒に吸収されたNOx量が増加するので、そのNOx量が許容限界を超える前に空燃比を理論空燃比よりリッチ化することにより、リーンNOx触媒に吸収されたNOxの還元が行われる。このような空燃比のリッチ化を以下「NOx還元リッチ化」という。
【0003】
【特許文献1】特許第2600492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された装置では、NOx還元リッチ化を行うときは、空燃比は、先ずリーン空燃比からリッチ空燃比にステップ的に切り換えられ、NOxの還元が終了した時点で、リッチ空燃比からリーン空燃比にステップ的に戻される。そのため、空燃比の切換時に機関出力トルクの変動を起こすという課題があった。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、空燃比切換時において気筒内に燃料を噴射するインジェクタの制御を適切に行い、トルク変動を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、吸気系(4)を介して気筒(3a)に空気を吸入し、インジェクタ(6)から噴射された燃料を前記気筒(3a)内に供給するとともに、内燃機関(3)から排出された排ガスの一部を排ガス還流装置(14)により前記吸気系(4)に還流排ガスとして還流する内燃機関の制御装置において、前記吸気系(4)を介して前記気筒(3a)に吸入される吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段(2,7)と、前記吸入空気量(Fa)を検出する吸入空気量検出手段(27)と、前記排ガス還流装置(14)による還流排ガスの流量(Fe)を推定する還流排ガス流量推定手段と、前記検出された吸入空気量(Fa)、及び前記推定された還流排ガス流量(Fe)に基づいて、前記気筒内に存在する酸素量(mo2)を推定する気筒内酸素量推定手段(2)と、前記内燃機関の回転数(Ne)を検出する回転数検出手段(22)と、該検出された内燃機関の回転数(Ne)、及び前記推定された気筒内酸素量(mo2)に基づいて、燃料噴射パラメータ(Q*)を決定する燃料噴射パラメータ決定手段(2)と、該決定された燃料噴射パラメータ(Q*)に基づいて、前記インジェクタ(6)を制御するインジェクタ制御手段(2)と、前記気筒内で燃焼する混合気の空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることを指令する切換指令手段(2)とを備え、前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換指令手段により前記空燃比の切換が指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量(mo2ini)、及び切換後の目標気筒内酸素量(mo2tgt)とに応じて、前記燃料噴射パラメータ(Q*)を滑らかに変化するように決定することを特徴とする。
【0007】
具体的には、前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換前の推定気筒内酸素量(mo2ini)と切換後の目標気筒内酸素量(mo2tgt)の差(|mo2ini−mo2tgt|)に対する、切換指令後の推定気筒内酸素量の変化量(|mo2v−mo2ini|)の比率(Oxyratio)を算出する比率算出手段と、前記比率(Oxyratio)が増加するほど、増加するように比率パラメータ(Q*ratio)を設定する比率パラメータ設定手段とを備え、前記切換前の燃料噴射パラメータの値(Q*ini)、前記切換後の燃料噴射パラメータの目標値(Q*tgt)、及び前記比率パラメータ(Q*ratio)とを用いて、前記燃料噴射パラメータ(Q*)を決定することが望ましい。
【0008】
前記比率パラメータ設定手段は、前記空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるときは、前記比率(Oxyratio)の変化に対する前記比率パラメータ(Q*ratio)の変化率(dQ*ratio/dOxyratio)が、前記比率(Oxyratio)が増加するほど徐々に増加するように前記比率パラメータ(Q*ratio)を設定し、前記空燃比をリッチ空燃比からリーン空燃比に切り換えるときは、前記変化率(dQ*ratio/dOxyratio)が、前記比率(Oxyratio)が増加するほど徐々に減少するように前記比率パラメータ(Q*ratio)を設定することが望ましい。
【0009】
また、前記比率パラメータ設定手段は、前記リーン空燃比に応じて前記比率パラメータ(Q*ratio)を補正することが望ましい。具体的には、前記空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるときは、前記リーン空燃比が小さいほど前記比率パラメータ(Q*ratio)が増加するように補正し、前記空燃比をリッチ空燃比からリーン空燃比に切り換えるときは、前記リーン空燃比が小さいほど前記比率パラメータ(Q*ratio)が減少するように補正することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることが指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量、及び切換後の目標気筒内酸素量とに応じて、燃料噴射パラメータが滑らかに変化するように決定されるので、空燃比切換時のトルクショックを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば4気筒(1つのみ図示)のディーゼルエンジンである。各気筒3aのピストン3bとシリンダヘッド3cの間には、燃焼室3dが形成されている。燃焼室3dには、吸気管4(吸気系)および排気管5が接続されており、これらの吸気ポートおよび排気ポートには、吸気弁および排気弁(いずれも図示せず)がそれぞれ設けられている。また、シリンダヘッド3cには、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6および筒内圧センサ21が、燃焼室3dに臨むように取り付けられている。
【0012】
インジェクタ6は、シリンダヘッド3cの中央に配置されており、コモンレールを介して高圧ポンプ(いずれも図示せず)に接続されている。燃料タンク(図示せず)の燃料は、高圧ポンプで昇圧された後、コモンレールを介してインジェクタ6に送られ、インジェクタ6から燃焼室3dに噴射される。インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間(開弁時間)Deおよび噴射タイミング(開弁タイミング)TMeは、図2に示される電子制御ユニット(以下「ECU」という)2からの制御信号によって制御される。以下の説明では図2も合わせて参照する。
【0013】
筒内圧センサ21(燃焼状態検出手段)は、例えば圧電素子タイプのものであり、燃焼室3d内の圧力(以下「筒内圧」という)Pの変化に応じて、圧電素子(図示せず)が変位することにより、筒内圧Pの変化量ΔPを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号を積分することによって、筒内圧Pを求める。
【0014】
また、エンジン3のクランクシャフト3eには、マグネットロー夕22aが取り付けられている。このマグネットロータ22aとMREピックアップ22bによって、クランク角センサ22(回転数検出手段)が構成されている。クランク角センサ22は、クランクシャフト3eの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0015】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30度)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)Neを求める。TDC信号は、各気筒のピストン3bが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、4気筒タイプの本例では、クランク角180度ごとに出力される。
【0016】
吸気管4の吸気マニホルド4aの集合部よりも上流側には、スロットル弁7(吸入量制御手段)が設けられており、スロットル弁7には、これを駆動するアクチュエータ8が連結されている。アクチュエータ8は、モータやギヤ機構(いずれも図示せず)などで構成されており、その動作がECU2からの制御信号で制御されることにより、スロットル弁7の開度(以下「スロットル弁開度」という)THが変化し、それに応じて、燃焼室3dに吸入される吸入空気量が制御される。スロットル弁開度THは、スロットル弁開度センサ23によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0017】
吸気マニホルド4aには、吸気圧センサ24および吸気温センサ25が設けられている。吸気圧センサ24は、吸気マニホルド4a内の圧力(以下「インマニ圧」という)Piを検出し、吸気温センサ25は、サーミスタなどで構成され、吸気マニホルド4a内の温度(以下「インマニ温度」という)Tsを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。エンジン3の本体には、エンジン水温センサ26が取り付けられている。エンジン水温センサ26は、サーミスタなどで構成され、エンジン3の本体内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)Twを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0018】
また、吸気管4には過給装置9が設けられている。過給装置9は、夕ーボチャージャ式の過給機10と、これに連結されたアクチュエータ11と、べーン開度制御弁12を備えている。過給機10は、吸気管4のスロットル弁7よりも上流側に設けられた回転自在のコンプレッサブレード10aと、排気管5の途中に設けられたタービンブレード10bおよび複数の回動自在の可変ベーン10c(2つのみ図示)と、これらのブレード10a,10bを一体に連結するシャフト10dを有している。過給機10は、排気管5内の排ガスによってタービンブレード10bが回転駆動されるのに伴い、これと一体のコンプレッサブレード10aが回転駆動されることによって、過給動作を行う。
【0019】
各可変べーン10cは、アクチュエータ11に連結されており、その開度(以下「ベーン開度」という)VOがアクチュエータ11を介して制御される。アクチュエータ11は、負圧によって作動するダイアフラム式のものであり、負圧ポンプ(図示せず)に接続されていて、その途中に前記べーン開度制御弁12が設けられている。負圧ポンプは、エンジン3を動力源として作動し、発生した負圧をアクチュエータ11に供給する。ベーン開度制御弁12は、電磁弁で構成されており、その弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ11に供給される負圧が変化し、それに伴い、可変べーン10cのべーン開度VOが変化することによって、過給圧が制御される。
【0020】
また、吸気管4の過給機10よりも上流側には、エアフローセンサ27(吸入空気量検出手段)が設けられている。エアフローセンサ27は、吸気管4内を流れる吸入空気量Faを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、吸気管4の吸気マニホールド4aは、その集合部から分岐部にわたって、スワール通路4bとバイパス通路4cに仕切られている。バイパス通路4cには、燃焼室3d内にスワールを発生させるためのスワール装置13が設けられている。スワール装置13は、スワール弁13a、これを駆動するアクチュエータ13b、およびスワール制御弁13cを備えている。アクチュエータ13bおよびスワール制御弁13cはそれぞれ、過給装置9のアクチュエータ11およびベーン開度制御弁12と同様に構成されており、スワール制御弁13cは前記負圧ポンプに接続されている。以上の構成により、スワール制御弁13cの弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ13bに供給される負圧が変化し、スワール弁13aの開度SVOが変化することによって、スワールの強さが制御される。
【0021】
また、吸気マニホルド4aのスワール通路4bの集合部の部分と、排気管5の後述する酸化触媒15のすぐ下流側との間には、排ガス還流管(以下「EGR管」という)14aが接続されており、このEGR管14aとその途中に設けられた排ガス還流制御弁(以下「EGR制御弁」という)14bによって、排ガス還流装置(以下「EGR装置」という)14が構成されている。このEGR管14aを介して、エンジン3の排ガスの一部が還流排ガスとして吸気管4に還流される。EGR制御弁14bは、リニア電磁弁で構成されており、その開度(以下「EGR弁開度」、という)LEがECU2からの制御信号に応じて制御されることによって、還流排ガス流量Feが制御される。EGR弁開度LEは、EGR弁開度センサ28によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0022】
また、排気管5の過給機10よりも下流側には、上流側から順に、酸化触媒15およびNOx吸収触媒16が設けられている。酸化触媒15は、排ガス中のHCおよびCOを酸化し、排ガスを浄化する。また、NOx吸収触媒16は、リーンな酸化雰囲気下において、排ガス中のNOxを吸収するとともに、吸収したNOxを、リッチな還元雰囲気下において還元する。
【0023】
さらに、排気管5の過給機10と酸化触媒15との間には、酸素濃度センサ29が設けられている。酸素濃度センサ29は、排ガス中の酸素濃度λをリニアに検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この酸素濃度λに基づいて、燃焼室3dで燃焼されるガスの空燃比A/Fを算出する。ECU2にはさらに、アクセル開度センサ30(アクセル踏込み量検出手段)から、エンジン3により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0024】
ECU2は、本実施形態において、吸入空気量制御手段、還流排ガス流量推定手段、気筒内酸素量推定手段、回転数検出手段、燃料噴射パラメータ決定手段、インジェクタ制御手段、切換指令手段、比率算出手段、及び比率パラメータ設定手段を構成する。ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種センサ21〜30からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、各種の演算処理を実行する。具体的には、上記の検出信号からエンジン3の運転状態を判別し、その判別結果に基づいてエンジン3の燃焼モードを決定するとともに、決定した燃焼モードなどに応じ、スロットル弁開度THを介して吸入空気量を制御するとともに、インジェクタ6による燃料噴射などを制御する。
【0025】
上記のエンジン3の燃焼モードは、低温燃焼モードと、それ以外の通常燃焼モードに大別される。低温燃焼モードは、エンジン3の暖機終了後、低負荷域で実行されるものであり、ー方、通常燃焼モードは、それよりも高い負荷域で実行される。また、両燃焼モードでは、空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御したリーン運転が通常、行われるとともに、NOx吸収触媒16に吸収されたNOxを還元するため、あるいはNOx吸収触媒16に付着した燃料中のイオウを脱離するために、空燃比を理論空燃比よりもリッチ化するリッチ運転が適宜、行われる。低温燃焼モードでは、以下に説明する主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準LTC制御」という)が実行され、通常燃焼モードでは、スロットル弁開度TH及びEGR弁開度LEの変更により吸入空気量の制御が可能な低負荷側で、主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準STD制御」という)が実行され、スロットル弁7を全開とし、EGR制御弁14bを全閉とする高負荷側で、アクセル開度AP及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「ペダル基準STD制御」という)が実行される。
【0026】
以下、ECU2で実行される処理について説明する。ECU2は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じて図3に示すA*マップを検索し、空気調節パラメータA*を決定する。空気調節パラメータA*は、目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVORを要素とするベクトルである。A*マップ上の番地i,jの格子点には、対応するエンジン回転数Ne及びアクセル開度APに適した目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVOが設定されている。そしてECU2は、実際のスロットル弁開度TH,EGR弁開度LE,ベーン開度VO,及びスワール弁開度SVOが、A*マップから検索された目標開度となるように対応するアクチュエータを駆動する。これにより、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じた吸入空気量、還流排ガス流量、過給圧、及びスワールの制御が行われる。
【0027】
なお、A*マップは、上述したO2基準LTC制御、O2基準STD制御、及びペダル基準STD制御のそれぞれに対応して設けられており、さらにこれらの各制御毎に、通常リーン運転用マップ、PM(Particulate Matter)酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップが設定されている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
【0028】
次にECU2による燃料噴射制御について説明する。図4は、O2基準LTC制御及びO2基準STD制御に用いられる気筒内状態パラメータ[O2]の算出処理を示している。この気筒内状態パラメータ[O2]は、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すものであり、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiの計3つのパラメータで構成される。この気筒内酸素量mo2は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する酸素の量を表し、気筒内不活性ガス量mint は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する不活性ガス(酸素以外の燃焼に寄与しないガス)の量を表し、また、実インマニ温度Tiは、吸気マニホルド4aの実際の温度を表す。このうち、気筒内酸素量mo2は、燃焼に主要な影響を及ぼす主パラメータである。これに対し、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiは、気筒内酸素量mo2を補完する副パラメータであり、エンジン3の定常状態では、気筒内酸素量mo2に応じてほぼ一義的に定まるとともに、過渡状態では、後述するように、気筒内酸素量mo2を補正するのに用いられる。
【0029】
この処理ではまず、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Tsから、実インマニ温度Tiを次式(1)によって算出する(ステップ31)。
Ti=Ts(τo・s+1) (1)
ここで、τo:吸気温センサの時定数
s :ラプラス変換演算子
このような算出によって、吸気温センサ25の検出結果に基づき、その応答遅れを補償しながら、実インマニ温度Tiをリアルタイムで正しく推定することができる。
【0030】
次に、気筒内酸素量mo2を推定によって算出する(ステップ32)。この算出は、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、およびステップ31で推定された実インマニ温度Tiに応じ、さらに後述するEGRモデルを用いて、次の手順で行われる。
【0031】
A.EGR率Riの推定
B.気筒内酸素量mo2の推定
A.EGR率Riの推定
EGR率Riの基本式は、次式(2)で与えられる。
Ri=Fe_hat/Fi (2)
ここで、Fiは、気筒に流入する総ガス流量、Fe_hatは、気筒3aに流入する還流排ガス流量の予測値(推定した還流排ガス流量)であり、リーン運転とリッチ運転の間の過渡状態におけるEGR装置14の応答遅れを考慮して求められる。
【0032】
式(2)中の総ガス流量Fiは、周知のスピードデンシティの式から、次式(3)で算出される。
Fi=Ne・Vd・Pi・ηv/(60×2R・Ti) (3)
ここで、Ne:エンジン回転数(rpm)
Vd:エンジンの押しのけ容積
Pi:インマニ圧
ηv:エンジンの体積効率
R :気体定数
Ti:インマニ温度
なお、上記の体積効率ηvは、例えば、実験結果に基づいてあらかじめ設定したマップから、エンジン回転数Neおよびインマニ圧Piに応じてマップ値を求めるとともに、求めたマップ値を実インマニ温度Tiに応じて補正することによって求められる。
【0033】
一方、吸気マニホルド4aに対して、一定温度の条件の下で、理想気体の法則を適用すると、還流排ガス流量Fe、吸入空気量Faおよび総ガス流量Fiの間には、次式(4)の関係が成立する。
dPi/dt=(R・Ti/Vi)・(Fe+Fa−Fi) (4)
ここで、Vi:インマニ容積
式(4)を還流排ガス流量Feについて解くと、次式(5)が得られる。
Fe=(dPi/dt)・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (5)
【0034】
また、ラプラス変換演算子sを導入し(dPi/dt=sPi)、式(5)を書き換えると、次式(6)が得られる。
Fe=s・Pi・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (6)
一方、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、EGR装置14の応答の一次遅れを考慮すると、次式(7)で表される。
Fe_hat=(1/(τs+1))・Fe (7)
【0035】
したがって、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、両式(6)(7)から、次式(8)のように求められる。
Fe_hat=(s・Pi/(τs+1))(Vi/(R・Ti))
−(1/(τs+1))・Fa+(1/(τs+1))・Fi
(8)
ここで、s・Pi/(τs+1)は、数値差分フィルタs/(τs+1)を用いたdPi/dtの近似値であり、時定数τは、実験結果に基づいて決定される。
【0036】
したがって、式(3)で算出した総ガス流量Fiと、式(8)で算出した過渡状態での還流排ガス流量の予測値Fe_hatを、式(2)に代入することによって、過渡状態でのEGR率Riを算出することができる。
また、定常状態では、次式(9)が成立するので、
Fe_hat=Fe=Fi−Fa (9)
この式(9)と式(2)から、定常状態でのEGR率Riは次式(10)によって算出される。
Ri=(Fi−Fa)/Fi (10)
【0037】
B.気筒内酸素量mo2の推定
次いで、上記のようにして求めた総ガス流量FiおよびEGR率Riなどに基づいて、気筒内酸素量mo2を推定する。
【0038】
気筒内酸素量mo2の基本式は、次式(11)で与えられる。
mo2=ma×φ(O2)a +me×φ(O2)e (11)
ここで、ma :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する空気量
me :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する還流排ガス量
φ(O2)a :空気中の酸素濃度(定数)
φ(O2)e :還流排ガス中の酸素濃度
式(11)の空気量ma および還流排ガス量me は、総ガス流量FiおよびEGR率Riから、それぞれ次式(12)(13)によって算出される。
ma = (Fi×(1−Ri)×60×2)/(Ne×ncyl) (12)
me = (Fi×Ri×60×2)/(Ne×ncyl) (13)
ここで、ncyl:エンジンの気筒数
【0039】
また、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e は、EGR装置14の応答遅れを考慮すると次式(14)によって算出できる。
【数1】
ここで、iは燃焼サイクルを表す添え字であり(累乗を意味するものではない)、a0,a1,a2,…anは、実験結果に基づき、エンジン3の運転状態および排気マニホルドの容積によって決定される重み係数である。
【0040】
また、φ(O2)exh は、排ガス中の酸素濃度であり、リーン運転においては、次式(15)によって算出される。
【数2】
ここで、mf は気筒に噴射される燃料量、Lstは、燃料のタイプに応じて決定される理論空燃比である。すなわち、式(15)中のmf×Lst×φ(O2)a は、リーン運転において噴射燃料量mf の完全燃焼により消費される酸素量に相当する。なお、式(14)(15)によれば、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e を算出するには、排ガス中の酸素濃度φ(O2)exh の初期値が必要である。このφ(O2)exh の初期値は、例えば、エンジン3の始動直後にEGR動作を停止するという条件が設定されている場合には、φ(O2)e =0であることから、そのときの吸入空気量Faおよび燃料噴射量mf などに応じ、式(14)などを用いて求めることができる。
【0041】
したがって、式(14)で算出した還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e と、式(12)(13)で算出した空気量ma および還流排ガス量me を、式(11)に代入することによって、リーン運転での気筒内酸素量mo2を算出することができる。また、リッチ運転では、気筒内酸素が燃焼によって完全に消費されることで、φ(O2)exh =0になるので、これを式(14)に代入することによって、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e が求められ、気筒内酸素量mo2を算出することができる。
【0042】
図4に戻り、前記ステップ32に続くステップ33では、気筒内不活性ガス量mint を算出する。前述したように、気筒内不活性ガスは、気筒3a内に存在するガスのうちの、酸素以外のガスであるので、気筒内不活性ガス量mint は、ステップ32で求めた気筒内酸素量mo2を用いて、次式(16)によって算出される。
mint =(ma+me)−mo2 (16)
【0043】
次いで、ステップ31〜33でそれぞれ推定した実インマニ温度Ti、気筒内酸素量mo2および気筒内不活性ガス量mint を1組として、気筒内状態パラメータ[O2]を決定し(ステップ34)、本処理を終了する。
【0044】
以上から明らかなように、この気筒内状態パラメータ[O2〕の算出処理では、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Ts、およびEGRモデルを用い、過渡状態を含むすべての運転状態において、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが推定される。そして、これらの3つのパラメータを1組として、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表す気筒内状態パラメータ[O2]が決定される。なお、気筒内状態パラメータ[O2]は、上記のように燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すので、これにエンジン水温Twを含めてもよい。
【0045】
図5は、Q*i,jマップの設定処理を示している。このQ*i,jマップは、定常状態において、気筒内状態パラメータ[O2〕およびエンジン回転数Neに対して最適な燃料噴射パラメータQ*i,jを定めるものである。燃料噴射パラメータQ*i,jは、インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間Deおよび噴射タイミングTMeの計3つの制御パラメータで構成され、添え字iは、エンジン回転数Neの番地を、添え字jは、気筒内状態パラメータ[O2]の番地を、それぞれ表す。この設定処理は、ベンチ試験(ベンチマーク試験)においてあらかじめ実行される。
【0046】
この処理ではまず、アクセル開度AP、ベーン開度制御弁12の開度やEGR弁開度LEなどをある一定の値に制御しながら、燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeをチューニング(調整)する(ステップ41)。次いで、この状態で、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ42)。この判定は、適当な所定の1つの基準、例えば、NOxの排出量が最小(NOxベスト)、燃費が最良(燃費ベスト)、または出力が最大(出力ベスト)などの基準に基づいて行われる。あるいは、これらの複数の基準ごとに、判定を行い、燃料噴射パラメータQ* を設定してもよい。
【0047】
ステップ42の答がYESで、燃焼状態が最適になったときには、そのときのエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jに対し、そのときの燃料噴射パラメータQ* を割り当てる(ステップ43)。これにより、1つの燃料噴射パラメータQ*i,jが決定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i、jに対して、燃料噴射パラメータQ* の割当てが完了したか否かを判別する(ステップ44)。この答がNOのときには、前記ステップ41〜43を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。これにより、図6に示すようなQ*i,jマップが得られ、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応するすべての番地i,jに対して、燃料噴射パラメータQ*i,jが割り当てられる。
【0048】
したがって、エンジン3の定常状態において、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]が求まれば、それらの番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出すことによって、そのときの燃焼室3dの状態に最適な燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeを、一義的に決定することができる。また、燃料噴射パラメータQ*i,jが決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTも、番地i,jを関数として一義的に決定され、決定したトルクTi,jは、Ti,jマップとして記憶される(図示せず)。
【0049】
なお、これらのQ*i,jマップおよびTi,jマップは、リーン運転用およびリッチ運転用に別個に設定されている。リーン運転用マップとしては、通常リーン運転用マップ及びPM(Particulate Matter)酸化用マップが設けられ、リッチ運転用マップとしては、NOx還元用マップおよびイオウ脱離用マップが設けられている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
【0050】
また、本実施形態のエンジン制御では、燃料噴射パラメータQ* およびトルクTを含むすべての制御パラメータが、番地i,jを基準として設定される。
上記のQ*i,jマップは、エンジン3が定常状態にあることを前提にして設定されている。これは、定常状態であれば、ある気筒内酸素量mo2に対して、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiがほぼ一義的に定まり、三者間の関係がほぼ一定とみなせることから、これらの三者によって代表される燃焼室3dの状態に対し、最適な燃料噴射パラメータQ* もまた一義的に定まるためである。しかし、過渡状態では、上記の三者の関係が定常状態からずれてしまい、例えば気筒内酸素量mo2が同じであっても、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが定常状態とは異なる値になるため、それに応じて燃焼状態も変化する。このため、過渡状態では、Q*i,jマップを参照しただけでは、最適な燃料噴射パラメータQ* を求めることができない。
【0051】
以上の観点から、過渡状態において気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiのずれが燃焼に及ぼす影響を定量的に補償するために、次式(17)で表される補正関数f(α,β)i,jが導入される。
f(α,β)i,j=(mint /mints)-αi,j×(Ti/Tis)βi,j (17)
この補正関数f(α,β)i,jは、次式(18)に示すように、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2を、それと等価な定常状態での気筒内酸素量(以下「仮想気筒内酸素量」という)mo2v に変換するのに用いられる。
mo2v =mo2×f(α,β)i,j (18)
【0052】
式(17)中のmints、Tis はそれぞれ、定常状態における気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。また、同式中のmint 、Tiはそれぞれ、前述した手法によって算出される過渡状態での実際の気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。すなわち、同式中の第1項(mint /mints)-αi,jは、気筒内不活性ガス量のずれによる燃焼への影響度合を表し、第2項(Ti/Tis)βi,jは、インマニ温度のずれによる燃焼への影響度合を表す。また、αi,j、βi,jは、これらの影響度合を規定するための補正変数である。このため、EGR装置14が停止されていて、気筒内不活性ガス量の影響がないとみなされる運転状態では、補正変数αは値0に設定される。
【0053】
図7は、補正変数αi,j、βi,jの設定処理を示している。この処理は、前述したQ*i,jマップの設定処理と同様、ベンチ試験においてあらかじめ実行される。この処理ではまず、エンジン3が一定のエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]で運転されている定常状態から、ベーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、気筒内不活性ガス量mint のみをオフセットする(少量変化させる)(ステップ61)。次いで、このオフセット状態で、燃料噴射パラメータQ* をチューニングしながら、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ62)。この判定は、Q*i,jマップの設定に用いた前述した基準と同じ基準に基づいて行われる。
【0054】
ステップ62の答がYESになったときには、そのときの燃焼状態に最も近い定常状態での燃焼状態を、仮想燃焼状態として、Q*i,jマップから選択する(ステップ63)。この選択は、例えば、Q*i,jマップ上の各番地i,jにおける熱発生率の近似関数をあらかじめ求めておき、オフセット前のエンジン回転数Neに相当する番地i上において、そのときの熱発生率に最も近い近似関数値を有する番地jを特定することによって行われる。このように番地i,jが特定されると、気筒内状態パラメータ[O2〕もまた特定され、そのうちの気筒内酸素量mo2が仮想気筒内酸素量mo2v として求められる。
【0055】
次いで、補正変数αを算出する(ステップ64)。この算出は次のようにして行われる。すなわち、上記ステップ63で仮想気筒内酸素量mo2vが求められ、気筒内酸素量mo2は、式(11)から随時、算出されるので、これらのmo2v 値、mo2値と式(18)から、次式(19)によって、補正関数f(α,β)i,jが求められる。
f(α,β)i,j =mo2v/mo2 (19)
【0056】
一方、式(17)中の気筒内不活性ガス量mint は式(16)によって随時、算出され、定常状態での気筒内不活性ガス量mintsは、オフセット前の番地jから既知であるとともに、Ti/Tis は、実インマニ温度Tiをオフセットしていないことから、値1に等しい。したがって、次式(20)が成立し、この式(20)と式(19)から、補正変数αを算出することができる。
f(α,β)i,j =(mint /mints)-αi,j (20)
【0057】
次いで、補正変数βを算出するために、定常状態から、べーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、実インマニ温度Tiのみをオフセットする(ステップ65)。以下、ステップ62〜64と同様にして、燃焼状態が最適になったか否かを判定し(ステップ66)、最適な燃焼状態に最も近い定常での燃焼状態を仮想燃焼状態として選択する(ステップ67)とともに、選択した仮想燃焼状態と式(17)(18)から、補正変数βを算出する(ステップ68)。以上により、1つ番地i,jに対して補正関数α、βが設定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i,jに対して、補正関数α、βの算出が完了したか否かを判別する(ステップ69)。この答がNOのときには、前記ステップ61〜68を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。以上により、すべての番地i,jに対して、補正変数α、βが設定され、αi,jマップおよびβi,jマップとして記憶されるとともに、αi,jおよびβi,jに応じて補正関数f(α,β)i,jが設定される。
【0058】
図8は、以上のようにしてあらかじめ設定したQ*i,jマップおよび補正関数f(α,β)i,jを用い、エンジン3の運転中において燃料噴射パラメータQ*i,jを決定する処理を示す。まず、エンジン3が過渡状態にあるか否かを判別する(ステップ71)。この答がNOで、エンジン3が定常状態のときには、前述した手法によって、定常状態での気筒内状態パラメータ[O2]s (気筒内酸素量mo2s 、気筒内不活性ガス量mints および実インマニ温度Tis)を算出する(ステップ72)。次に、エンジン回転数Neおよび算出した気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jを決定する(ステップ73)とともに、決定した番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ74)。また、αi,jマップおよびβi,jを検索することによって、補正変数α、βを決定する(ステップ75)。
【0059】
前記ステップ71の答がYESで、エンジン3が定常状態から過渡状態に移行したときには、過渡状態での気筒内状態パラメータ[O2](mo2、mint およびTi)を算出する(ステップ76)。そして、算出したmint 値およびTi値、ステップ72で算出した定常状態でのmints値およびTis値と、ステップ75で決定した補正変数α、βを用い、式(17)によって、補正関数f(α,β)を算出する(ステップ77)。次いで、算出した補正関数f(α,β)と、ステップ76で算出した気筒内酸素量mo2を用い、式(18)によって、仮想気筒内酸素量mo2v を算出する(ステップ78)。これにより、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2が、定常状態における仮想気筒内酸素量mo2v に変換される。次に、同じ番地i上において、算出した仮想気筒内酸素量mo2v に最も近い気筒内酸素量mo2を含む気筒内状態パラメータ[O2]を選択し、それに対応する番地i,jを仮想番地i,jvとして決定する(ステップ79)。これにより、図9に示すように、Q*i,jマップ上において、気筒内状態パラメータ[O2]の番地が定常状態のjから仮想番地jvに移動する。そして、仮想番地i,jvに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jv をQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ80)。また、燃料噴射パラメータQ*i,jv が決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTは、Ti,j マップから、T=Ti,jvとして決定することができる。
【0060】
次に、リーン運転からリッチ運転への移行時及びリッチ運転からリーン運転への移行時の燃料噴射制御(以下「空燃比切換制御」という)について説明する。
図10は、空燃比切換制御の状態遷移図であり、4つの状態、すなわちリーン状態、リーン→リッチ状態(リーン状態からリッチ状態への移行状態)、リッチ状態、及びリッチ→リーン状態(リッチ状態からリーン状態への移行状態)が示されている。リーン状態における目標気筒内酸素量mo2tgtL及びリッチ状態における目標気筒内酸素量mo2tgtRは、アクセル開度AP及びエンジン回転数Neに応じて、予めベンチ試験により設定されたマップを用いて決定される。
【0061】
空燃比切換制御は、概略以下のように実行される。
1)通常運転中は、エンジン3はリーン状態で作動する。例えばNOx還元リッチ化が必要となり、リッチ要求(リッチ空燃比への空燃比切換指令)がなされると、エンジン燃焼モードは、リーン→リッチ状態へ移行する。
2)リーン→リッチ状態において、仮想気筒内酸素量mo2vがリッチ状態における目標気筒内酸素量mo2tgtRに達したとき、またはリッチ要求が無くなったとき、エンジン燃焼モードは、リッチ状態へ移行する。なお、リッチ要求がなくなったときは、リッチ状態から直ちにリッチ→リーン状態へ移行することになる。
3)リッチ状態において、リッチ要求がなくなった(リーン空燃比への空燃比切換指令がなされた)ときには、リッチ→リーン状態へ移行する。
4)リッチ→リーン状態において、仮想気筒内酸素量mo2vがリーン状態における目標気筒内酸素量mo2tgtLに達したとき、またはリッチ要求がなされたとき、エンジン燃焼モードは、リーン状態へ移行する。なお、リッチ要求がなされたときは、リーン状態から直ちにリーン→リッチ状態へ移行することになる。
【0062】
リーン状態では、前述したリーン運転用のマップ、すなわち通常リーン運転用マップまたはPM酸化用マップを用いて、空気調節パラメータA*及び燃料噴射パラメータQ*が設定され、リッチ状態では、前述したリッチ運転用のマップ、すなわちNOx還元用マップまたはイオウ脱離用マップを用いて、空気調節パラメータA*及び燃料噴射パラメータQ*が設定される。
【0063】
リーン→リッチ状態またはリッチ→リーン状態では、空気調節パラメータA*は、移行先の対応するマップを用いて算出され、気筒内酸素量mo2が目標気筒内酸素量mo2tgtRまたはmo2tgtLとなるように、主としてスロットル弁開度THが制御される。また燃料噴射パラメータQ*は、以下のように算出される。まず下記式(21)により酸素比率Oxyratioを算出する。酸素比率Oxyratioは、空燃比移行の開始時は値「0」であり、移行完了時に値「1」をとるパラメータであり、空燃比切換の進行度合を示す。
Oxyratio=|mo2v−mo2ini|/|mo2ini−mo2tgt| (21)
ここで、mo2v:仮想気筒内酸素量
mo2ini:切換直前の気筒内酸素量
mo2tgt:切換後の目標気筒内酸素量
【0064】
次に下記式(22)に示すように、酸素比率Oxyratioに応じて比率パラメータQ*ratioを算出する。関数f(Oxyratio)については、後述する。そして、比率パラメータQ*ratioを下記式(23)に適用して、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
Q*ratio=f(Oxyratio) (22)
Q*=Q*ini+Q*ratio×(Q*tgt−Q*ini) (23)
ここで、Q*ini:切換直前の燃料噴射パラメータ
Q*tgt:切換後の目標燃料噴射パラメータ
【0065】
式(21)〜(23)を用いた燃料噴射パラメータQ*の算出は、空燃比の切換に伴うトルクショックを抑制するために行うものである。以下、関数f(Oxyratio)をどのように設定すべきかについて説明する。
【0066】
図11は、燃料供給量を一定とした状態で、吸入空気量を変化させることにより、空燃比を変化させたときの、エンジン出力トルクの変化を示す。空燃比A/F=28のリーン状態から吸入空気量を減少させて空燃比をリッチ化していくと、出力トルクは最初は小さい傾きで減少し、空燃比が低下するにしたがって、より大きな傾きで減少する。すなわち、この変化特性は、リニアなものではなく、指数関数的なものである。
【0067】
このように、空燃比の変化に対するトルクの変化は、非線形なものであるため、空燃比切換時においてトルク変化を抑制するためには、非線形な燃料量の調節が必要となる。すなわち、リーン状態からリッチ状態へ移行するときは、燃料量は最初は徐々に増加させ、空燃比が減少するほど、より迅速に増加させる必要がある一方、リッチ状態からリーン状態へ移行するときは、燃料量を最初は迅速に減少させ、空燃比が増加するにつれて、減少速度を低下させる必要がある。
なお、空燃比切換時においては、燃料噴射タイミングTMe及び燃料噴射圧力Peも同様に、非線形に変化させる必要がある。
【0068】
さらにリッチ状態における目標空燃比は、ほぼ固定されているが、リーン状態における空燃比は、エンジン負荷に応じて変化する。例えば、エンジン負荷が増加するほど、リーン状態の空燃比(リーン空燃比)が減少するように設定した場合、リーン→リッチ状態では、エンジン負荷が高くなるほど、より迅速に燃料量を増加させる必要がある。また、リッチ→リーン状態では、エンジン負荷が高くなるほど、より低い速度で燃料量を減少させる必要がある。
【0069】
以上の検討結果から、本実施形態では、リーン→リッチ状態において、図12(a)に示すような関数f(Oxyratio)を用いて、比率パラメータQ*ratioを算出し、リッチ→リーン状態において、図12(b)に示すような関数f(Oxyratio)を用いて、比率パラメータQ*ratioを算出するようにしている。図12(a)の曲線L1がリーン空燃比が大きい時の特性を示し、曲線L2がリーン空燃比が小さい時の特性を示す。同様に、図12(b)の曲線L3がリーン空燃比が大きい時の特性を示し、曲線L4がリーン空燃比が小さい時の特性を示す。
【0070】
図12(a)に示す関数f(Oxyratio)は、酸素比率Oxyratioの変化に対する比率パラメータQ*ratioの変化率dQ*ratio/dOxyratio、すなわち曲線の傾きが、酸素比率Oxyratioが増加するほど徐々に増加するように設定されている。一方図12(b)に示す関数f(Oxyratio)は、変化率dQ*ratio/dOxyratioが、酸素比率Oxyratioが増加するほど徐々に減少するように設定されている。この傾向は、リーン空燃比が大きいほど顕著であり、小さい時は変化率dQ*ratio/dOxyratioの変化は少ない。リーン→リッチ状態(図12(a))では、曲線L1を基準とすると、リーン空燃比が小さくなるほど比率パラメータQ*ratioが増加するように補正することが望ましく、またリッチ→リーン状態(図12(b))では、曲線L3を基準とすると、リーン空燃比が小さくなるほど比率パラメータQ*ratioが減少するように補正することが望ましい。
図12に示す関数f(Oxyratio)を用いることにより、空燃比切換時におけるトルク変動を適切に抑制することができる。
【0071】
次に図13及び図14を参照して、空燃比切換時においてECU2で実行される燃料噴射制御処理について説明する。
図13は、リーン運転からリッチ運転への移行時に実行される燃料噴射制御を含む制御処理を示している。この処理ではまず、今回がリーン運転からリッチ運転への切換指令がなされた直後のループであるか否かを判別する(ステップ91)。この答がYESで、切換指令直後のときには、リッチ運転における目標トルクTRi,j,目標燃料噴射パラメータQ*tgt,及び目標気筒内酸素量mo2tgtを決定する(ステップ92)。具体的には、リッチ運転用のTRi,jマップ上において、エンジン回転数Neが移行直前と同じで、かつ移行直前のトルクTLi,jvと同じトルク値を有する番地i,jを特定し、その番地i,jのトルクTRi,j(=TLi,jv)を移行先の目標トルクとして設定する。このように移行先の番地i,jが特定されると、それに応じて、目標燃料噴射パラメータQ*tgtや目標気筒内酸素量mo2tgt(mo2tgtR)も自動的に定まる。またこの時点の気筒内酸素量mo2及び燃料噴射パラメータQ*を、それぞれ初期気筒内酸素量mo2ini及び初期燃料噴射パラメータQ*iniとして記憶する。
【0072】
次いで、ステップ92で設定した目標トルクTRi,jに応じて、目標スロットル開度THRと、移行期間に相当するオーバーシュート時間TMosを設定する(ステップ93)とともに、これらの設定に従って、スロットル弁7を駆動した後、ステップ94に進む。また、前記ステップ91の答がNOで、移行直後でないときには、ステップ92、93をスキップし、ステップ94に進む。このステップ94では、実際の気筒内酸素量mo2を算出し、次いで、算出した気筒内酸素量mo2を補正関数f(α,β)i,jで補正することによって、仮想気筒内酸素量mo2v を算出する(ステップ95)。
【0073】
次に、算出した仮想気筒内酸素量mo2v が、ステップ92で求めた目標気筒内酸素量mo2tgtにほぼ等しくなったか否かを判別する(ステップ96)。この答がNOのときには、リッチ運転への移行中であるので、仮想気筒内酸素量mo2v 、初期気筒内酸素量mo2ini、及び目標気筒内酸素量mo2tgtを前記式(21)に適用し、酸素比率Oxyratioを算出する(ステップ97)。ステップS98では、酸素比率Oxyratioに応じて図12(a)に示す曲線L1及びL2に対応するQ*ratioテーブルを検索し、エンジン負荷(具体的にはトルクTRi,jあるいはアクセル開度AP)に応じた補間演算を行って、比率パラメータQ*ratioを算出する。ステップS99では、比率パラメータQ*ratio、初期燃料噴射パラメータQ*ini及び目標燃料噴射パラメータQ*tgtを、前記式(23)に適用し、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
【0074】
一方、ステップ96の答がYESで、仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgtにほぼ等しくなったときには、移行期間が終了したと判定して、スロットル開度THを目標スロットル開度THRに設定する(ステップ100)とともに、燃料噴射パラメータQ* を目標燃料噴射パラメータQ*tgtに設定する(ステップ101)。次いで、酸素濃度センサ29の検出結果に応じ、スロットル開度THや過給圧などを微調整することによって、空燃比A/Fを調整し(ステップ102)、本処理を終了する。移行期間が終了した後には、リッチ運転用のQ*Ri,jマップに基づき、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメー夕〔O2]に応じた定常状態での燃料噴射制御が行われる。
【0075】
図14は、リッチ運転からリーン運転への移行時に実行される燃料噴射制御を含む制御処理を示している。この処理は、リッチ/リーンの関係が逆である以外は、図13の処理と基本的に同様にして行われる。すなわち、リッチ運転からリーン運転への切換指令直後に(ステップ111:YES)、リーン運転における目標トルクTLi,j,目標燃料噴射パラメータQ*tgt,及び目標気筒内酸素量mo2tgtを決定する(ステップ112)。具体的には、リーン運転用のTLi,jマップ上において、エンジン回転数Neが移行直前と同じで、かつ移行直前のトルクTRi,jvと同じトルク値を有する番地i,jを特定し、その番地i,jのトルクTLi,j(=TRi,jv)を移行先の目標トルクとして設定する。さらに移行先の番地i,jに応じて、目標燃料噴射パラメータQ*tgtや目標気筒内酸素量mo2tgt(mo2tgtL)を決定する。またこの時点の気筒内酸素量mo2及び燃料噴射パラメータQ*を、それぞれ初期気筒内酸素量mo2ini及び初期燃料噴射パラメータQ*iniとして記憶する。
【0076】
次いで、目標トルクTLi,jに応じて、目標スロットル開度THLおよびオーバーシュート時間TMosを設定し(ステップ113)、これらの設定に従って、スロットル弁7を駆動する。次に、実際の気筒内酸素量mo2を算出する(ステップ114)とともに、算出した気筒内酸素量mo2を補正関数f(α,β)i.jで補正し、仮想気筒内酸素量mo2vを算出する(ステップ115)。
【0077】
仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgtに達しておらず(ステップ116:NO)、移行中のときには、仮想気筒内酸素量mo2v 、初期気筒内酸素量mo2ini、及び目標気筒内酸素量mo2tgtから酸素比率Oxyratioを算出する(ステップ117)。次いで、酸素比率Oxyratioに応じて図12(b)に示す曲線L3及びL4に対応するQ*ratioテーブルを検索し、エンジン負荷(具体的にはトルクTLi,jまたはアクセル開度AP)に応じた補間演算を行って、比率パラメータQ*ratioを算出する(ステップ118)。ステップ119では、比率パラメータQ*ratio、初期燃料噴射パラメータQ*ini及び目標燃料噴射パラメータQ*tgtを、前記式(23)に適用し、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
【0078】
一方、仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgt とほぼ等しくなり(ステップ116:YES)、移行期間が終了したときには、スロットル開度THを目標スロットル開度THLに制御する(ステップ120)とともに、燃料噴射パラメータQ* を目標燃料噴射パラメータQ*tgtに設定し(ステップ121)、本処理を終了する。移行期間が終了した後には、リーン運転用のQ*Li,jマップに基づき、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に応じた定常状態での燃料噴射制御が行われる。
【0079】
以上のように本実施形態では、空燃比を切り換えるときは、切換前の初期気筒内酸素量mo2ini、及び切換後の目標気筒内酸素量mo2tgtに応じて、燃料噴射パラメータQ*を滑らかに変化させるようにしたので、空燃比切換時のトルク変動を抑制することができる。より具体的には、空燃比切換の進行度合を示す酸素比率Oxyratioを算出し、酸素比率Oxyratioに応じて比率パラメータQ*ratioを算出し、比率パラメータQ*ratioにより燃料噴射パラメータQ*を滑らかに変化させるようにしている。そして、比率パラメータQ*ratioの設定は、図11に示す、空燃比変化に対するトルク変化の特性を考慮して、図12に示すように、酸素比率Oxyratio及びエンジン負荷などの運転状態に応じて行われるので、空燃比切換時のエンジン負荷に拘わらずトルク変動を十分に抑制することができる。
【0080】
本実施形態では、ECU2が、NOx還元またはイオウ脱離のための空燃比リッチ化時期、すなわちリーン運転からリッチ運転への切換時期、及びその空燃比リッチ化の終了時期、すなわちリッチ運転からリーン運転への切換時期を判断し、空燃比切換指令を行うとともに、該切換指令に対応した吸入空気量の制御及び燃料噴射制御処理を実行する。したがって、ECU2が、切換指令手段、吸入空気量制御手段の一部、燃料噴射パラメータ決定手段、比率算出手段、及び比率パラメータ設定手段を構成する。より具体的には、図8,図13及び図14の処理が、燃料噴射パラメータ決定手段に相当し、図13のステップ97及び図14のステップ117が比率算出手段に相当し、図13のステップ98及び図14のステップ118が比率パラメータ設定手段に相当する。
【0081】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、燃料噴射パラメータQ*は、噴射時間De、噴射タイミングTMe及び噴射圧Peで構成されているが、これらの1つまたは2つであってもよい。さらに、上述した実施形態ではディーゼルエンジンの制御に本発明を適用した例を示したが、本発明は、ガソリンエンジンの制御にも適用可能である。
【0082】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を適用した制御装置を内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】制御装置を示すブロック図である。
【図3】A*マップを示す図である。
【図4】気筒内状態パラメータの算出処理を示すフローチャートである。
【図5】Q*i,jマップの設定処理を示すフローチャートである。
【図6】Q*i,jマップを示す図である。
【図7】補正変数αi,j及びβi,jの設定処理を示すフローチャートである。
【図8】燃料パラメータQ*の設定処理を示すフローチャートである。
【図9】仮想番地i,jvを求める方法を説明する図である。
【図10】空燃比切換制御にかかる状態遷移図である。
【図11】空燃比を変化させたときの機関出力トルクの変化を説明するための図である。
【図12】酸素比率(Oxyratio)から比率パラメータ(Q*ratio)を算出するための関数(テーブル)を示す図である。
【図13】リーン運転からリッチ運転への移行時に実行される制御処理を示すフローチャートである。
【図14】リッチ運転からリーン運転への移行時に実行される制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
2 電子制御ユニット(吸入空気量制御手段、還流排ガス流量推定手段、気筒内酸素量推定手段、燃料噴射パラメータ決定手段、インジェクタ制御手段、切換指令手段、比率算出手段、比率パラメータ設定手段)
3 内燃機関
3a 気筒
4 吸気管(吸気系)
6 インジェクタ
7 スロットル弁(吸入空気量制御手段)
14 排ガス還流装置
22 クランク角センサ(回転数検出手段)
27 エアーフローセンサ(吸入空気量検出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの一部を吸気系に還流する排ガス還流装置を備えた内燃機関の制御装置に関し、特にインジェクタによる燃料噴射などの制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関で燃焼する混合気の空燃比を、理論空燃比よりリーン側のリーン空燃比に設定するリーンバーン運転を行っているときに、排ガス中のNOxを吸収するリーンNOx触媒を備えた排ガス浄化装置が示されている。この装置では、リーンバーン運転を継続すると、リーンNOx触媒に吸収されたNOx量が増加するので、そのNOx量が許容限界を超える前に空燃比を理論空燃比よりリッチ化することにより、リーンNOx触媒に吸収されたNOxの還元が行われる。このような空燃比のリッチ化を以下「NOx還元リッチ化」という。
【0003】
【特許文献1】特許第2600492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された装置では、NOx還元リッチ化を行うときは、空燃比は、先ずリーン空燃比からリッチ空燃比にステップ的に切り換えられ、NOxの還元が終了した時点で、リッチ空燃比からリーン空燃比にステップ的に戻される。そのため、空燃比の切換時に機関出力トルクの変動を起こすという課題があった。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、空燃比切換時において気筒内に燃料を噴射するインジェクタの制御を適切に行い、トルク変動を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、吸気系(4)を介して気筒(3a)に空気を吸入し、インジェクタ(6)から噴射された燃料を前記気筒(3a)内に供給するとともに、内燃機関(3)から排出された排ガスの一部を排ガス還流装置(14)により前記吸気系(4)に還流排ガスとして還流する内燃機関の制御装置において、前記吸気系(4)を介して前記気筒(3a)に吸入される吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段(2,7)と、前記吸入空気量(Fa)を検出する吸入空気量検出手段(27)と、前記排ガス還流装置(14)による還流排ガスの流量(Fe)を推定する還流排ガス流量推定手段と、前記検出された吸入空気量(Fa)、及び前記推定された還流排ガス流量(Fe)に基づいて、前記気筒内に存在する酸素量(mo2)を推定する気筒内酸素量推定手段(2)と、前記内燃機関の回転数(Ne)を検出する回転数検出手段(22)と、該検出された内燃機関の回転数(Ne)、及び前記推定された気筒内酸素量(mo2)に基づいて、燃料噴射パラメータ(Q*)を決定する燃料噴射パラメータ決定手段(2)と、該決定された燃料噴射パラメータ(Q*)に基づいて、前記インジェクタ(6)を制御するインジェクタ制御手段(2)と、前記気筒内で燃焼する混合気の空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることを指令する切換指令手段(2)とを備え、前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換指令手段により前記空燃比の切換が指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量(mo2ini)、及び切換後の目標気筒内酸素量(mo2tgt)とに応じて、前記燃料噴射パラメータ(Q*)を滑らかに変化するように決定することを特徴とする。
【0007】
具体的には、前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換前の推定気筒内酸素量(mo2ini)と切換後の目標気筒内酸素量(mo2tgt)の差(|mo2ini−mo2tgt|)に対する、切換指令後の推定気筒内酸素量の変化量(|mo2v−mo2ini|)の比率(Oxyratio)を算出する比率算出手段と、前記比率(Oxyratio)が増加するほど、増加するように比率パラメータ(Q*ratio)を設定する比率パラメータ設定手段とを備え、前記切換前の燃料噴射パラメータの値(Q*ini)、前記切換後の燃料噴射パラメータの目標値(Q*tgt)、及び前記比率パラメータ(Q*ratio)とを用いて、前記燃料噴射パラメータ(Q*)を決定することが望ましい。
【0008】
前記比率パラメータ設定手段は、前記空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるときは、前記比率(Oxyratio)の変化に対する前記比率パラメータ(Q*ratio)の変化率(dQ*ratio/dOxyratio)が、前記比率(Oxyratio)が増加するほど徐々に増加するように前記比率パラメータ(Q*ratio)を設定し、前記空燃比をリッチ空燃比からリーン空燃比に切り換えるときは、前記変化率(dQ*ratio/dOxyratio)が、前記比率(Oxyratio)が増加するほど徐々に減少するように前記比率パラメータ(Q*ratio)を設定することが望ましい。
【0009】
また、前記比率パラメータ設定手段は、前記リーン空燃比に応じて前記比率パラメータ(Q*ratio)を補正することが望ましい。具体的には、前記空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比に切り換えるときは、前記リーン空燃比が小さいほど前記比率パラメータ(Q*ratio)が増加するように補正し、前記空燃比をリッチ空燃比からリーン空燃比に切り換えるときは、前記リーン空燃比が小さいほど前記比率パラメータ(Q*ratio)が減少するように補正することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることが指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量、及び切換後の目標気筒内酸素量とに応じて、燃料噴射パラメータが滑らかに変化するように決定されるので、空燃比切換時のトルクショックを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば4気筒(1つのみ図示)のディーゼルエンジンである。各気筒3aのピストン3bとシリンダヘッド3cの間には、燃焼室3dが形成されている。燃焼室3dには、吸気管4(吸気系)および排気管5が接続されており、これらの吸気ポートおよび排気ポートには、吸気弁および排気弁(いずれも図示せず)がそれぞれ設けられている。また、シリンダヘッド3cには、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6および筒内圧センサ21が、燃焼室3dに臨むように取り付けられている。
【0012】
インジェクタ6は、シリンダヘッド3cの中央に配置されており、コモンレールを介して高圧ポンプ(いずれも図示せず)に接続されている。燃料タンク(図示せず)の燃料は、高圧ポンプで昇圧された後、コモンレールを介してインジェクタ6に送られ、インジェクタ6から燃焼室3dに噴射される。インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間(開弁時間)Deおよび噴射タイミング(開弁タイミング)TMeは、図2に示される電子制御ユニット(以下「ECU」という)2からの制御信号によって制御される。以下の説明では図2も合わせて参照する。
【0013】
筒内圧センサ21(燃焼状態検出手段)は、例えば圧電素子タイプのものであり、燃焼室3d内の圧力(以下「筒内圧」という)Pの変化に応じて、圧電素子(図示せず)が変位することにより、筒内圧Pの変化量ΔPを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号を積分することによって、筒内圧Pを求める。
【0014】
また、エンジン3のクランクシャフト3eには、マグネットロー夕22aが取り付けられている。このマグネットロータ22aとMREピックアップ22bによって、クランク角センサ22(回転数検出手段)が構成されている。クランク角センサ22は、クランクシャフト3eの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0015】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30度)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)Neを求める。TDC信号は、各気筒のピストン3bが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、4気筒タイプの本例では、クランク角180度ごとに出力される。
【0016】
吸気管4の吸気マニホルド4aの集合部よりも上流側には、スロットル弁7(吸入量制御手段)が設けられており、スロットル弁7には、これを駆動するアクチュエータ8が連結されている。アクチュエータ8は、モータやギヤ機構(いずれも図示せず)などで構成されており、その動作がECU2からの制御信号で制御されることにより、スロットル弁7の開度(以下「スロットル弁開度」という)THが変化し、それに応じて、燃焼室3dに吸入される吸入空気量が制御される。スロットル弁開度THは、スロットル弁開度センサ23によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0017】
吸気マニホルド4aには、吸気圧センサ24および吸気温センサ25が設けられている。吸気圧センサ24は、吸気マニホルド4a内の圧力(以下「インマニ圧」という)Piを検出し、吸気温センサ25は、サーミスタなどで構成され、吸気マニホルド4a内の温度(以下「インマニ温度」という)Tsを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。エンジン3の本体には、エンジン水温センサ26が取り付けられている。エンジン水温センサ26は、サーミスタなどで構成され、エンジン3の本体内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)Twを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0018】
また、吸気管4には過給装置9が設けられている。過給装置9は、夕ーボチャージャ式の過給機10と、これに連結されたアクチュエータ11と、べーン開度制御弁12を備えている。過給機10は、吸気管4のスロットル弁7よりも上流側に設けられた回転自在のコンプレッサブレード10aと、排気管5の途中に設けられたタービンブレード10bおよび複数の回動自在の可変ベーン10c(2つのみ図示)と、これらのブレード10a,10bを一体に連結するシャフト10dを有している。過給機10は、排気管5内の排ガスによってタービンブレード10bが回転駆動されるのに伴い、これと一体のコンプレッサブレード10aが回転駆動されることによって、過給動作を行う。
【0019】
各可変べーン10cは、アクチュエータ11に連結されており、その開度(以下「ベーン開度」という)VOがアクチュエータ11を介して制御される。アクチュエータ11は、負圧によって作動するダイアフラム式のものであり、負圧ポンプ(図示せず)に接続されていて、その途中に前記べーン開度制御弁12が設けられている。負圧ポンプは、エンジン3を動力源として作動し、発生した負圧をアクチュエータ11に供給する。ベーン開度制御弁12は、電磁弁で構成されており、その弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ11に供給される負圧が変化し、それに伴い、可変べーン10cのべーン開度VOが変化することによって、過給圧が制御される。
【0020】
また、吸気管4の過給機10よりも上流側には、エアフローセンサ27(吸入空気量検出手段)が設けられている。エアフローセンサ27は、吸気管4内を流れる吸入空気量Faを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、吸気管4の吸気マニホールド4aは、その集合部から分岐部にわたって、スワール通路4bとバイパス通路4cに仕切られている。バイパス通路4cには、燃焼室3d内にスワールを発生させるためのスワール装置13が設けられている。スワール装置13は、スワール弁13a、これを駆動するアクチュエータ13b、およびスワール制御弁13cを備えている。アクチュエータ13bおよびスワール制御弁13cはそれぞれ、過給装置9のアクチュエータ11およびベーン開度制御弁12と同様に構成されており、スワール制御弁13cは前記負圧ポンプに接続されている。以上の構成により、スワール制御弁13cの弁開度がECU2からの制御信号で制御されることにより、アクチュエータ13bに供給される負圧が変化し、スワール弁13aの開度SVOが変化することによって、スワールの強さが制御される。
【0021】
また、吸気マニホルド4aのスワール通路4bの集合部の部分と、排気管5の後述する酸化触媒15のすぐ下流側との間には、排ガス還流管(以下「EGR管」という)14aが接続されており、このEGR管14aとその途中に設けられた排ガス還流制御弁(以下「EGR制御弁」という)14bによって、排ガス還流装置(以下「EGR装置」という)14が構成されている。このEGR管14aを介して、エンジン3の排ガスの一部が還流排ガスとして吸気管4に還流される。EGR制御弁14bは、リニア電磁弁で構成されており、その開度(以下「EGR弁開度」、という)LEがECU2からの制御信号に応じて制御されることによって、還流排ガス流量Feが制御される。EGR弁開度LEは、EGR弁開度センサ28によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0022】
また、排気管5の過給機10よりも下流側には、上流側から順に、酸化触媒15およびNOx吸収触媒16が設けられている。酸化触媒15は、排ガス中のHCおよびCOを酸化し、排ガスを浄化する。また、NOx吸収触媒16は、リーンな酸化雰囲気下において、排ガス中のNOxを吸収するとともに、吸収したNOxを、リッチな還元雰囲気下において還元する。
【0023】
さらに、排気管5の過給機10と酸化触媒15との間には、酸素濃度センサ29が設けられている。酸素濃度センサ29は、排ガス中の酸素濃度λをリニアに検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この酸素濃度λに基づいて、燃焼室3dで燃焼されるガスの空燃比A/Fを算出する。ECU2にはさらに、アクセル開度センサ30(アクセル踏込み量検出手段)から、エンジン3により駆動される車両のアクセルペダル(図示せず)の踏込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0024】
ECU2は、本実施形態において、吸入空気量制御手段、還流排ガス流量推定手段、気筒内酸素量推定手段、回転数検出手段、燃料噴射パラメータ決定手段、インジェクタ制御手段、切換指令手段、比率算出手段、及び比率パラメータ設定手段を構成する。ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種センサ21〜30からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、各種の演算処理を実行する。具体的には、上記の検出信号からエンジン3の運転状態を判別し、その判別結果に基づいてエンジン3の燃焼モードを決定するとともに、決定した燃焼モードなどに応じ、スロットル弁開度THを介して吸入空気量を制御するとともに、インジェクタ6による燃料噴射などを制御する。
【0025】
上記のエンジン3の燃焼モードは、低温燃焼モードと、それ以外の通常燃焼モードに大別される。低温燃焼モードは、エンジン3の暖機終了後、低負荷域で実行されるものであり、ー方、通常燃焼モードは、それよりも高い負荷域で実行される。また、両燃焼モードでは、空燃比を理論空燃比よりもリーン側に制御したリーン運転が通常、行われるとともに、NOx吸収触媒16に吸収されたNOxを還元するため、あるいはNOx吸収触媒16に付着した燃料中のイオウを脱離するために、空燃比を理論空燃比よりもリッチ化するリッチ運転が適宜、行われる。低温燃焼モードでは、以下に説明する主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準LTC制御」という)が実行され、通常燃焼モードでは、スロットル弁開度TH及びEGR弁開度LEの変更により吸入空気量の制御が可能な低負荷側で、主として気筒内酸素量及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「O2基準STD制御」という)が実行され、スロットル弁7を全開とし、EGR制御弁14bを全閉とする高負荷側で、アクセル開度AP及びエンジン回転数Neに基づく燃料噴射制御(以下「ペダル基準STD制御」という)が実行される。
【0026】
以下、ECU2で実行される処理について説明する。ECU2は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じて図3に示すA*マップを検索し、空気調節パラメータA*を決定する。空気調節パラメータA*は、目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVORを要素とするベクトルである。A*マップ上の番地i,jの格子点には、対応するエンジン回転数Ne及びアクセル開度APに適した目標スロットル弁開度THR、目標EGR弁開度LER、目標ベーン開度VOR及び目標スワール弁開度SVOが設定されている。そしてECU2は、実際のスロットル弁開度TH,EGR弁開度LE,ベーン開度VO,及びスワール弁開度SVOが、A*マップから検索された目標開度となるように対応するアクチュエータを駆動する。これにより、エンジン回転数Ne及びアクセル開度APに応じた吸入空気量、還流排ガス流量、過給圧、及びスワールの制御が行われる。
【0027】
なお、A*マップは、上述したO2基準LTC制御、O2基準STD制御、及びペダル基準STD制御のそれぞれに対応して設けられており、さらにこれらの各制御毎に、通常リーン運転用マップ、PM(Particulate Matter)酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップが設定されている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
【0028】
次にECU2による燃料噴射制御について説明する。図4は、O2基準LTC制御及びO2基準STD制御に用いられる気筒内状態パラメータ[O2]の算出処理を示している。この気筒内状態パラメータ[O2]は、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すものであり、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiの計3つのパラメータで構成される。この気筒内酸素量mo2は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する酸素の量を表し、気筒内不活性ガス量mint は、燃料の噴射前に気筒3a内に存在する不活性ガス(酸素以外の燃焼に寄与しないガス)の量を表し、また、実インマニ温度Tiは、吸気マニホルド4aの実際の温度を表す。このうち、気筒内酸素量mo2は、燃焼に主要な影響を及ぼす主パラメータである。これに対し、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiは、気筒内酸素量mo2を補完する副パラメータであり、エンジン3の定常状態では、気筒内酸素量mo2に応じてほぼ一義的に定まるとともに、過渡状態では、後述するように、気筒内酸素量mo2を補正するのに用いられる。
【0029】
この処理ではまず、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Tsから、実インマニ温度Tiを次式(1)によって算出する(ステップ31)。
Ti=Ts(τo・s+1) (1)
ここで、τo:吸気温センサの時定数
s :ラプラス変換演算子
このような算出によって、吸気温センサ25の検出結果に基づき、その応答遅れを補償しながら、実インマニ温度Tiをリアルタイムで正しく推定することができる。
【0030】
次に、気筒内酸素量mo2を推定によって算出する(ステップ32)。この算出は、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、およびステップ31で推定された実インマニ温度Tiに応じ、さらに後述するEGRモデルを用いて、次の手順で行われる。
【0031】
A.EGR率Riの推定
B.気筒内酸素量mo2の推定
A.EGR率Riの推定
EGR率Riの基本式は、次式(2)で与えられる。
Ri=Fe_hat/Fi (2)
ここで、Fiは、気筒に流入する総ガス流量、Fe_hatは、気筒3aに流入する還流排ガス流量の予測値(推定した還流排ガス流量)であり、リーン運転とリッチ運転の間の過渡状態におけるEGR装置14の応答遅れを考慮して求められる。
【0032】
式(2)中の総ガス流量Fiは、周知のスピードデンシティの式から、次式(3)で算出される。
Fi=Ne・Vd・Pi・ηv/(60×2R・Ti) (3)
ここで、Ne:エンジン回転数(rpm)
Vd:エンジンの押しのけ容積
Pi:インマニ圧
ηv:エンジンの体積効率
R :気体定数
Ti:インマニ温度
なお、上記の体積効率ηvは、例えば、実験結果に基づいてあらかじめ設定したマップから、エンジン回転数Neおよびインマニ圧Piに応じてマップ値を求めるとともに、求めたマップ値を実インマニ温度Tiに応じて補正することによって求められる。
【0033】
一方、吸気マニホルド4aに対して、一定温度の条件の下で、理想気体の法則を適用すると、還流排ガス流量Fe、吸入空気量Faおよび総ガス流量Fiの間には、次式(4)の関係が成立する。
dPi/dt=(R・Ti/Vi)・(Fe+Fa−Fi) (4)
ここで、Vi:インマニ容積
式(4)を還流排ガス流量Feについて解くと、次式(5)が得られる。
Fe=(dPi/dt)・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (5)
【0034】
また、ラプラス変換演算子sを導入し(dPi/dt=sPi)、式(5)を書き換えると、次式(6)が得られる。
Fe=s・Pi・Vi/(R・Ti)−Fa+Fi (6)
一方、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、EGR装置14の応答の一次遅れを考慮すると、次式(7)で表される。
Fe_hat=(1/(τs+1))・Fe (7)
【0035】
したがって、還流排ガス流量の予測値Fe_hatは、両式(6)(7)から、次式(8)のように求められる。
Fe_hat=(s・Pi/(τs+1))(Vi/(R・Ti))
−(1/(τs+1))・Fa+(1/(τs+1))・Fi
(8)
ここで、s・Pi/(τs+1)は、数値差分フィルタs/(τs+1)を用いたdPi/dtの近似値であり、時定数τは、実験結果に基づいて決定される。
【0036】
したがって、式(3)で算出した総ガス流量Fiと、式(8)で算出した過渡状態での還流排ガス流量の予測値Fe_hatを、式(2)に代入することによって、過渡状態でのEGR率Riを算出することができる。
また、定常状態では、次式(9)が成立するので、
Fe_hat=Fe=Fi−Fa (9)
この式(9)と式(2)から、定常状態でのEGR率Riは次式(10)によって算出される。
Ri=(Fi−Fa)/Fi (10)
【0037】
B.気筒内酸素量mo2の推定
次いで、上記のようにして求めた総ガス流量FiおよびEGR率Riなどに基づいて、気筒内酸素量mo2を推定する。
【0038】
気筒内酸素量mo2の基本式は、次式(11)で与えられる。
mo2=ma×φ(O2)a +me×φ(O2)e (11)
ここで、ma :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する空気量
me :各燃焼サイクルにおいて気筒に流入する還流排ガス量
φ(O2)a :空気中の酸素濃度(定数)
φ(O2)e :還流排ガス中の酸素濃度
式(11)の空気量ma および還流排ガス量me は、総ガス流量FiおよびEGR率Riから、それぞれ次式(12)(13)によって算出される。
ma = (Fi×(1−Ri)×60×2)/(Ne×ncyl) (12)
me = (Fi×Ri×60×2)/(Ne×ncyl) (13)
ここで、ncyl:エンジンの気筒数
【0039】
また、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e は、EGR装置14の応答遅れを考慮すると次式(14)によって算出できる。
【数1】
ここで、iは燃焼サイクルを表す添え字であり(累乗を意味するものではない)、a0,a1,a2,…anは、実験結果に基づき、エンジン3の運転状態および排気マニホルドの容積によって決定される重み係数である。
【0040】
また、φ(O2)exh は、排ガス中の酸素濃度であり、リーン運転においては、次式(15)によって算出される。
【数2】
ここで、mf は気筒に噴射される燃料量、Lstは、燃料のタイプに応じて決定される理論空燃比である。すなわち、式(15)中のmf×Lst×φ(O2)a は、リーン運転において噴射燃料量mf の完全燃焼により消費される酸素量に相当する。なお、式(14)(15)によれば、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e を算出するには、排ガス中の酸素濃度φ(O2)exh の初期値が必要である。このφ(O2)exh の初期値は、例えば、エンジン3の始動直後にEGR動作を停止するという条件が設定されている場合には、φ(O2)e =0であることから、そのときの吸入空気量Faおよび燃料噴射量mf などに応じ、式(14)などを用いて求めることができる。
【0041】
したがって、式(14)で算出した還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e と、式(12)(13)で算出した空気量ma および還流排ガス量me を、式(11)に代入することによって、リーン運転での気筒内酸素量mo2を算出することができる。また、リッチ運転では、気筒内酸素が燃焼によって完全に消費されることで、φ(O2)exh =0になるので、これを式(14)に代入することによって、還流排ガス中の酸素濃度φ(O2)e が求められ、気筒内酸素量mo2を算出することができる。
【0042】
図4に戻り、前記ステップ32に続くステップ33では、気筒内不活性ガス量mint を算出する。前述したように、気筒内不活性ガスは、気筒3a内に存在するガスのうちの、酸素以外のガスであるので、気筒内不活性ガス量mint は、ステップ32で求めた気筒内酸素量mo2を用いて、次式(16)によって算出される。
mint =(ma+me)−mo2 (16)
【0043】
次いで、ステップ31〜33でそれぞれ推定した実インマニ温度Ti、気筒内酸素量mo2および気筒内不活性ガス量mint を1組として、気筒内状態パラメータ[O2]を決定し(ステップ34)、本処理を終了する。
【0044】
以上から明らかなように、この気筒内状態パラメータ[O2〕の算出処理では、エアフローセンサ27で検出された吸入空気量Fa、吸気圧センサ24で検出されたインマニ圧Pi、吸気温センサ25で検出されたインマニ温度Ts、およびEGRモデルを用い、過渡状態を含むすべての運転状態において、気筒内酸素量mo2、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが推定される。そして、これらの3つのパラメータを1組として、燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表す気筒内状態パラメータ[O2]が決定される。なお、気筒内状態パラメータ[O2]は、上記のように燃料の噴射直前における気筒3a内の状態を表すので、これにエンジン水温Twを含めてもよい。
【0045】
図5は、Q*i,jマップの設定処理を示している。このQ*i,jマップは、定常状態において、気筒内状態パラメータ[O2〕およびエンジン回転数Neに対して最適な燃料噴射パラメータQ*i,jを定めるものである。燃料噴射パラメータQ*i,jは、インジェクタ6の噴射圧力Pe、噴射時間Deおよび噴射タイミングTMeの計3つの制御パラメータで構成され、添え字iは、エンジン回転数Neの番地を、添え字jは、気筒内状態パラメータ[O2]の番地を、それぞれ表す。この設定処理は、ベンチ試験(ベンチマーク試験)においてあらかじめ実行される。
【0046】
この処理ではまず、アクセル開度AP、ベーン開度制御弁12の開度やEGR弁開度LEなどをある一定の値に制御しながら、燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeをチューニング(調整)する(ステップ41)。次いで、この状態で、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ42)。この判定は、適当な所定の1つの基準、例えば、NOxの排出量が最小(NOxベスト)、燃費が最良(燃費ベスト)、または出力が最大(出力ベスト)などの基準に基づいて行われる。あるいは、これらの複数の基準ごとに、判定を行い、燃料噴射パラメータQ* を設定してもよい。
【0047】
ステップ42の答がYESで、燃焼状態が最適になったときには、そのときのエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jに対し、そのときの燃料噴射パラメータQ* を割り当てる(ステップ43)。これにより、1つの燃料噴射パラメータQ*i,jが決定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i、jに対して、燃料噴射パラメータQ* の割当てが完了したか否かを判別する(ステップ44)。この答がNOのときには、前記ステップ41〜43を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。これにより、図6に示すようなQ*i,jマップが得られ、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に対応するすべての番地i,jに対して、燃料噴射パラメータQ*i,jが割り当てられる。
【0048】
したがって、エンジン3の定常状態において、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]が求まれば、それらの番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出すことによって、そのときの燃焼室3dの状態に最適な燃料噴射パラメータQ* 、すなわち噴射圧力Pe、噴射時間Teおよび噴射タイミングTMeを、一義的に決定することができる。また、燃料噴射パラメータQ*i,jが決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTも、番地i,jを関数として一義的に決定され、決定したトルクTi,jは、Ti,jマップとして記憶される(図示せず)。
【0049】
なお、これらのQ*i,jマップおよびTi,jマップは、リーン運転用およびリッチ運転用に別個に設定されている。リーン運転用マップとしては、通常リーン運転用マップ及びPM(Particulate Matter)酸化用マップが設けられ、リッチ運転用マップとしては、NOx還元用マップおよびイオウ脱離用マップが設けられている。通常リーン運転用マップ、PM酸化用マップ、NOx還元用マップ、及びイオウ脱離用マップを用いたときの設定空燃比をそれぞれA/FLN,A/FLP,A/FRN,及びA/FRSとすると、A/FLN>A/FLP>A/FRS>A/FRNなる関係が成立する。
【0050】
また、本実施形態のエンジン制御では、燃料噴射パラメータQ* およびトルクTを含むすべての制御パラメータが、番地i,jを基準として設定される。
上記のQ*i,jマップは、エンジン3が定常状態にあることを前提にして設定されている。これは、定常状態であれば、ある気筒内酸素量mo2に対して、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiがほぼ一義的に定まり、三者間の関係がほぼ一定とみなせることから、これらの三者によって代表される燃焼室3dの状態に対し、最適な燃料噴射パラメータQ* もまた一義的に定まるためである。しかし、過渡状態では、上記の三者の関係が定常状態からずれてしまい、例えば気筒内酸素量mo2が同じであっても、気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiが定常状態とは異なる値になるため、それに応じて燃焼状態も変化する。このため、過渡状態では、Q*i,jマップを参照しただけでは、最適な燃料噴射パラメータQ* を求めることができない。
【0051】
以上の観点から、過渡状態において気筒内不活性ガス量mint および実インマニ温度Tiのずれが燃焼に及ぼす影響を定量的に補償するために、次式(17)で表される補正関数f(α,β)i,jが導入される。
f(α,β)i,j=(mint /mints)-αi,j×(Ti/Tis)βi,j (17)
この補正関数f(α,β)i,jは、次式(18)に示すように、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2を、それと等価な定常状態での気筒内酸素量(以下「仮想気筒内酸素量」という)mo2v に変換するのに用いられる。
mo2v =mo2×f(α,β)i,j (18)
【0052】
式(17)中のmints、Tis はそれぞれ、定常状態における気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。また、同式中のmint 、Tiはそれぞれ、前述した手法によって算出される過渡状態での実際の気筒内不活性ガス量および実インマニ温度である。すなわち、同式中の第1項(mint /mints)-αi,jは、気筒内不活性ガス量のずれによる燃焼への影響度合を表し、第2項(Ti/Tis)βi,jは、インマニ温度のずれによる燃焼への影響度合を表す。また、αi,j、βi,jは、これらの影響度合を規定するための補正変数である。このため、EGR装置14が停止されていて、気筒内不活性ガス量の影響がないとみなされる運転状態では、補正変数αは値0に設定される。
【0053】
図7は、補正変数αi,j、βi,jの設定処理を示している。この処理は、前述したQ*i,jマップの設定処理と同様、ベンチ試験においてあらかじめ実行される。この処理ではまず、エンジン3が一定のエンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]で運転されている定常状態から、ベーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、気筒内不活性ガス量mint のみをオフセットする(少量変化させる)(ステップ61)。次いで、このオフセット状態で、燃料噴射パラメータQ* をチューニングしながら、燃焼状態が最適になったか否かを判定する(ステップ62)。この判定は、Q*i,jマップの設定に用いた前述した基準と同じ基準に基づいて行われる。
【0054】
ステップ62の答がYESになったときには、そのときの燃焼状態に最も近い定常状態での燃焼状態を、仮想燃焼状態として、Q*i,jマップから選択する(ステップ63)。この選択は、例えば、Q*i,jマップ上の各番地i,jにおける熱発生率の近似関数をあらかじめ求めておき、オフセット前のエンジン回転数Neに相当する番地i上において、そのときの熱発生率に最も近い近似関数値を有する番地jを特定することによって行われる。このように番地i,jが特定されると、気筒内状態パラメータ[O2〕もまた特定され、そのうちの気筒内酸素量mo2が仮想気筒内酸素量mo2v として求められる。
【0055】
次いで、補正変数αを算出する(ステップ64)。この算出は次のようにして行われる。すなわち、上記ステップ63で仮想気筒内酸素量mo2vが求められ、気筒内酸素量mo2は、式(11)から随時、算出されるので、これらのmo2v 値、mo2値と式(18)から、次式(19)によって、補正関数f(α,β)i,jが求められる。
f(α,β)i,j =mo2v/mo2 (19)
【0056】
一方、式(17)中の気筒内不活性ガス量mint は式(16)によって随時、算出され、定常状態での気筒内不活性ガス量mintsは、オフセット前の番地jから既知であるとともに、Ti/Tis は、実インマニ温度Tiをオフセットしていないことから、値1に等しい。したがって、次式(20)が成立し、この式(20)と式(19)から、補正変数αを算出することができる。
f(α,β)i,j =(mint /mints)-αi,j (20)
【0057】
次いで、補正変数βを算出するために、定常状態から、べーン開度制御弁12の開度および/またはEGR弁開度LEを変化させることによって、実インマニ温度Tiのみをオフセットする(ステップ65)。以下、ステップ62〜64と同様にして、燃焼状態が最適になったか否かを判定し(ステップ66)、最適な燃焼状態に最も近い定常での燃焼状態を仮想燃焼状態として選択する(ステップ67)とともに、選択した仮想燃焼状態と式(17)(18)から、補正変数βを算出する(ステップ68)。以上により、1つ番地i,jに対して補正関数α、βが設定される。次いで、Ne値および[O2]値のすべての番地i,jに対して、補正関数α、βの算出が完了したか否かを判別する(ステップ69)。この答がNOのときには、前記ステップ61〜68を繰り返し、YESになったときに、本処理を終了する。以上により、すべての番地i,jに対して、補正変数α、βが設定され、αi,jマップおよびβi,jマップとして記憶されるとともに、αi,jおよびβi,jに応じて補正関数f(α,β)i,jが設定される。
【0058】
図8は、以上のようにしてあらかじめ設定したQ*i,jマップおよび補正関数f(α,β)i,jを用い、エンジン3の運転中において燃料噴射パラメータQ*i,jを決定する処理を示す。まず、エンジン3が過渡状態にあるか否かを判別する(ステップ71)。この答がNOで、エンジン3が定常状態のときには、前述した手法によって、定常状態での気筒内状態パラメータ[O2]s (気筒内酸素量mo2s 、気筒内不活性ガス量mints および実インマニ温度Tis)を算出する(ステップ72)。次に、エンジン回転数Neおよび算出した気筒内状態パラメータ[O2]に対応する番地i,jを決定する(ステップ73)とともに、決定した番地i,jに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jをQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ74)。また、αi,jマップおよびβi,jを検索することによって、補正変数α、βを決定する(ステップ75)。
【0059】
前記ステップ71の答がYESで、エンジン3が定常状態から過渡状態に移行したときには、過渡状態での気筒内状態パラメータ[O2](mo2、mint およびTi)を算出する(ステップ76)。そして、算出したmint 値およびTi値、ステップ72で算出した定常状態でのmints値およびTis値と、ステップ75で決定した補正変数α、βを用い、式(17)によって、補正関数f(α,β)を算出する(ステップ77)。次いで、算出した補正関数f(α,β)と、ステップ76で算出した気筒内酸素量mo2を用い、式(18)によって、仮想気筒内酸素量mo2v を算出する(ステップ78)。これにより、過渡状態における実際の気筒内酸素量mo2が、定常状態における仮想気筒内酸素量mo2v に変換される。次に、同じ番地i上において、算出した仮想気筒内酸素量mo2v に最も近い気筒内酸素量mo2を含む気筒内状態パラメータ[O2]を選択し、それに対応する番地i,jを仮想番地i,jvとして決定する(ステップ79)。これにより、図9に示すように、Q*i,jマップ上において、気筒内状態パラメータ[O2]の番地が定常状態のjから仮想番地jvに移動する。そして、仮想番地i,jvに対応する燃料噴射パラメータQ*i,jv をQ*i,jマップから読み出し、燃料噴射パラメータQ* として決定する(ステップ80)。また、燃料噴射パラメータQ*i,jv が決定されると、そのときに得られるエンジン3のトルクTは、Ti,j マップから、T=Ti,jvとして決定することができる。
【0060】
次に、リーン運転からリッチ運転への移行時及びリッチ運転からリーン運転への移行時の燃料噴射制御(以下「空燃比切換制御」という)について説明する。
図10は、空燃比切換制御の状態遷移図であり、4つの状態、すなわちリーン状態、リーン→リッチ状態(リーン状態からリッチ状態への移行状態)、リッチ状態、及びリッチ→リーン状態(リッチ状態からリーン状態への移行状態)が示されている。リーン状態における目標気筒内酸素量mo2tgtL及びリッチ状態における目標気筒内酸素量mo2tgtRは、アクセル開度AP及びエンジン回転数Neに応じて、予めベンチ試験により設定されたマップを用いて決定される。
【0061】
空燃比切換制御は、概略以下のように実行される。
1)通常運転中は、エンジン3はリーン状態で作動する。例えばNOx還元リッチ化が必要となり、リッチ要求(リッチ空燃比への空燃比切換指令)がなされると、エンジン燃焼モードは、リーン→リッチ状態へ移行する。
2)リーン→リッチ状態において、仮想気筒内酸素量mo2vがリッチ状態における目標気筒内酸素量mo2tgtRに達したとき、またはリッチ要求が無くなったとき、エンジン燃焼モードは、リッチ状態へ移行する。なお、リッチ要求がなくなったときは、リッチ状態から直ちにリッチ→リーン状態へ移行することになる。
3)リッチ状態において、リッチ要求がなくなった(リーン空燃比への空燃比切換指令がなされた)ときには、リッチ→リーン状態へ移行する。
4)リッチ→リーン状態において、仮想気筒内酸素量mo2vがリーン状態における目標気筒内酸素量mo2tgtLに達したとき、またはリッチ要求がなされたとき、エンジン燃焼モードは、リーン状態へ移行する。なお、リッチ要求がなされたときは、リーン状態から直ちにリーン→リッチ状態へ移行することになる。
【0062】
リーン状態では、前述したリーン運転用のマップ、すなわち通常リーン運転用マップまたはPM酸化用マップを用いて、空気調節パラメータA*及び燃料噴射パラメータQ*が設定され、リッチ状態では、前述したリッチ運転用のマップ、すなわちNOx還元用マップまたはイオウ脱離用マップを用いて、空気調節パラメータA*及び燃料噴射パラメータQ*が設定される。
【0063】
リーン→リッチ状態またはリッチ→リーン状態では、空気調節パラメータA*は、移行先の対応するマップを用いて算出され、気筒内酸素量mo2が目標気筒内酸素量mo2tgtRまたはmo2tgtLとなるように、主としてスロットル弁開度THが制御される。また燃料噴射パラメータQ*は、以下のように算出される。まず下記式(21)により酸素比率Oxyratioを算出する。酸素比率Oxyratioは、空燃比移行の開始時は値「0」であり、移行完了時に値「1」をとるパラメータであり、空燃比切換の進行度合を示す。
Oxyratio=|mo2v−mo2ini|/|mo2ini−mo2tgt| (21)
ここで、mo2v:仮想気筒内酸素量
mo2ini:切換直前の気筒内酸素量
mo2tgt:切換後の目標気筒内酸素量
【0064】
次に下記式(22)に示すように、酸素比率Oxyratioに応じて比率パラメータQ*ratioを算出する。関数f(Oxyratio)については、後述する。そして、比率パラメータQ*ratioを下記式(23)に適用して、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
Q*ratio=f(Oxyratio) (22)
Q*=Q*ini+Q*ratio×(Q*tgt−Q*ini) (23)
ここで、Q*ini:切換直前の燃料噴射パラメータ
Q*tgt:切換後の目標燃料噴射パラメータ
【0065】
式(21)〜(23)を用いた燃料噴射パラメータQ*の算出は、空燃比の切換に伴うトルクショックを抑制するために行うものである。以下、関数f(Oxyratio)をどのように設定すべきかについて説明する。
【0066】
図11は、燃料供給量を一定とした状態で、吸入空気量を変化させることにより、空燃比を変化させたときの、エンジン出力トルクの変化を示す。空燃比A/F=28のリーン状態から吸入空気量を減少させて空燃比をリッチ化していくと、出力トルクは最初は小さい傾きで減少し、空燃比が低下するにしたがって、より大きな傾きで減少する。すなわち、この変化特性は、リニアなものではなく、指数関数的なものである。
【0067】
このように、空燃比の変化に対するトルクの変化は、非線形なものであるため、空燃比切換時においてトルク変化を抑制するためには、非線形な燃料量の調節が必要となる。すなわち、リーン状態からリッチ状態へ移行するときは、燃料量は最初は徐々に増加させ、空燃比が減少するほど、より迅速に増加させる必要がある一方、リッチ状態からリーン状態へ移行するときは、燃料量を最初は迅速に減少させ、空燃比が増加するにつれて、減少速度を低下させる必要がある。
なお、空燃比切換時においては、燃料噴射タイミングTMe及び燃料噴射圧力Peも同様に、非線形に変化させる必要がある。
【0068】
さらにリッチ状態における目標空燃比は、ほぼ固定されているが、リーン状態における空燃比は、エンジン負荷に応じて変化する。例えば、エンジン負荷が増加するほど、リーン状態の空燃比(リーン空燃比)が減少するように設定した場合、リーン→リッチ状態では、エンジン負荷が高くなるほど、より迅速に燃料量を増加させる必要がある。また、リッチ→リーン状態では、エンジン負荷が高くなるほど、より低い速度で燃料量を減少させる必要がある。
【0069】
以上の検討結果から、本実施形態では、リーン→リッチ状態において、図12(a)に示すような関数f(Oxyratio)を用いて、比率パラメータQ*ratioを算出し、リッチ→リーン状態において、図12(b)に示すような関数f(Oxyratio)を用いて、比率パラメータQ*ratioを算出するようにしている。図12(a)の曲線L1がリーン空燃比が大きい時の特性を示し、曲線L2がリーン空燃比が小さい時の特性を示す。同様に、図12(b)の曲線L3がリーン空燃比が大きい時の特性を示し、曲線L4がリーン空燃比が小さい時の特性を示す。
【0070】
図12(a)に示す関数f(Oxyratio)は、酸素比率Oxyratioの変化に対する比率パラメータQ*ratioの変化率dQ*ratio/dOxyratio、すなわち曲線の傾きが、酸素比率Oxyratioが増加するほど徐々に増加するように設定されている。一方図12(b)に示す関数f(Oxyratio)は、変化率dQ*ratio/dOxyratioが、酸素比率Oxyratioが増加するほど徐々に減少するように設定されている。この傾向は、リーン空燃比が大きいほど顕著であり、小さい時は変化率dQ*ratio/dOxyratioの変化は少ない。リーン→リッチ状態(図12(a))では、曲線L1を基準とすると、リーン空燃比が小さくなるほど比率パラメータQ*ratioが増加するように補正することが望ましく、またリッチ→リーン状態(図12(b))では、曲線L3を基準とすると、リーン空燃比が小さくなるほど比率パラメータQ*ratioが減少するように補正することが望ましい。
図12に示す関数f(Oxyratio)を用いることにより、空燃比切換時におけるトルク変動を適切に抑制することができる。
【0071】
次に図13及び図14を参照して、空燃比切換時においてECU2で実行される燃料噴射制御処理について説明する。
図13は、リーン運転からリッチ運転への移行時に実行される燃料噴射制御を含む制御処理を示している。この処理ではまず、今回がリーン運転からリッチ運転への切換指令がなされた直後のループであるか否かを判別する(ステップ91)。この答がYESで、切換指令直後のときには、リッチ運転における目標トルクTRi,j,目標燃料噴射パラメータQ*tgt,及び目標気筒内酸素量mo2tgtを決定する(ステップ92)。具体的には、リッチ運転用のTRi,jマップ上において、エンジン回転数Neが移行直前と同じで、かつ移行直前のトルクTLi,jvと同じトルク値を有する番地i,jを特定し、その番地i,jのトルクTRi,j(=TLi,jv)を移行先の目標トルクとして設定する。このように移行先の番地i,jが特定されると、それに応じて、目標燃料噴射パラメータQ*tgtや目標気筒内酸素量mo2tgt(mo2tgtR)も自動的に定まる。またこの時点の気筒内酸素量mo2及び燃料噴射パラメータQ*を、それぞれ初期気筒内酸素量mo2ini及び初期燃料噴射パラメータQ*iniとして記憶する。
【0072】
次いで、ステップ92で設定した目標トルクTRi,jに応じて、目標スロットル開度THRと、移行期間に相当するオーバーシュート時間TMosを設定する(ステップ93)とともに、これらの設定に従って、スロットル弁7を駆動した後、ステップ94に進む。また、前記ステップ91の答がNOで、移行直後でないときには、ステップ92、93をスキップし、ステップ94に進む。このステップ94では、実際の気筒内酸素量mo2を算出し、次いで、算出した気筒内酸素量mo2を補正関数f(α,β)i,jで補正することによって、仮想気筒内酸素量mo2v を算出する(ステップ95)。
【0073】
次に、算出した仮想気筒内酸素量mo2v が、ステップ92で求めた目標気筒内酸素量mo2tgtにほぼ等しくなったか否かを判別する(ステップ96)。この答がNOのときには、リッチ運転への移行中であるので、仮想気筒内酸素量mo2v 、初期気筒内酸素量mo2ini、及び目標気筒内酸素量mo2tgtを前記式(21)に適用し、酸素比率Oxyratioを算出する(ステップ97)。ステップS98では、酸素比率Oxyratioに応じて図12(a)に示す曲線L1及びL2に対応するQ*ratioテーブルを検索し、エンジン負荷(具体的にはトルクTRi,jあるいはアクセル開度AP)に応じた補間演算を行って、比率パラメータQ*ratioを算出する。ステップS99では、比率パラメータQ*ratio、初期燃料噴射パラメータQ*ini及び目標燃料噴射パラメータQ*tgtを、前記式(23)に適用し、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
【0074】
一方、ステップ96の答がYESで、仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgtにほぼ等しくなったときには、移行期間が終了したと判定して、スロットル開度THを目標スロットル開度THRに設定する(ステップ100)とともに、燃料噴射パラメータQ* を目標燃料噴射パラメータQ*tgtに設定する(ステップ101)。次いで、酸素濃度センサ29の検出結果に応じ、スロットル開度THや過給圧などを微調整することによって、空燃比A/Fを調整し(ステップ102)、本処理を終了する。移行期間が終了した後には、リッチ運転用のQ*Ri,jマップに基づき、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメー夕〔O2]に応じた定常状態での燃料噴射制御が行われる。
【0075】
図14は、リッチ運転からリーン運転への移行時に実行される燃料噴射制御を含む制御処理を示している。この処理は、リッチ/リーンの関係が逆である以外は、図13の処理と基本的に同様にして行われる。すなわち、リッチ運転からリーン運転への切換指令直後に(ステップ111:YES)、リーン運転における目標トルクTLi,j,目標燃料噴射パラメータQ*tgt,及び目標気筒内酸素量mo2tgtを決定する(ステップ112)。具体的には、リーン運転用のTLi,jマップ上において、エンジン回転数Neが移行直前と同じで、かつ移行直前のトルクTRi,jvと同じトルク値を有する番地i,jを特定し、その番地i,jのトルクTLi,j(=TRi,jv)を移行先の目標トルクとして設定する。さらに移行先の番地i,jに応じて、目標燃料噴射パラメータQ*tgtや目標気筒内酸素量mo2tgt(mo2tgtL)を決定する。またこの時点の気筒内酸素量mo2及び燃料噴射パラメータQ*を、それぞれ初期気筒内酸素量mo2ini及び初期燃料噴射パラメータQ*iniとして記憶する。
【0076】
次いで、目標トルクTLi,jに応じて、目標スロットル開度THLおよびオーバーシュート時間TMosを設定し(ステップ113)、これらの設定に従って、スロットル弁7を駆動する。次に、実際の気筒内酸素量mo2を算出する(ステップ114)とともに、算出した気筒内酸素量mo2を補正関数f(α,β)i.jで補正し、仮想気筒内酸素量mo2vを算出する(ステップ115)。
【0077】
仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgtに達しておらず(ステップ116:NO)、移行中のときには、仮想気筒内酸素量mo2v 、初期気筒内酸素量mo2ini、及び目標気筒内酸素量mo2tgtから酸素比率Oxyratioを算出する(ステップ117)。次いで、酸素比率Oxyratioに応じて図12(b)に示す曲線L3及びL4に対応するQ*ratioテーブルを検索し、エンジン負荷(具体的にはトルクTLi,jまたはアクセル開度AP)に応じた補間演算を行って、比率パラメータQ*ratioを算出する(ステップ118)。ステップ119では、比率パラメータQ*ratio、初期燃料噴射パラメータQ*ini及び目標燃料噴射パラメータQ*tgtを、前記式(23)に適用し、燃料噴射パラメータQ*を算出する。
【0078】
一方、仮想気筒内酸素量mo2v が目標気筒内酸素量mo2tgt とほぼ等しくなり(ステップ116:YES)、移行期間が終了したときには、スロットル開度THを目標スロットル開度THLに制御する(ステップ120)とともに、燃料噴射パラメータQ* を目標燃料噴射パラメータQ*tgtに設定し(ステップ121)、本処理を終了する。移行期間が終了した後には、リーン運転用のQ*Li,jマップに基づき、エンジン回転数Neおよび気筒内状態パラメータ[O2]に応じた定常状態での燃料噴射制御が行われる。
【0079】
以上のように本実施形態では、空燃比を切り換えるときは、切換前の初期気筒内酸素量mo2ini、及び切換後の目標気筒内酸素量mo2tgtに応じて、燃料噴射パラメータQ*を滑らかに変化させるようにしたので、空燃比切換時のトルク変動を抑制することができる。より具体的には、空燃比切換の進行度合を示す酸素比率Oxyratioを算出し、酸素比率Oxyratioに応じて比率パラメータQ*ratioを算出し、比率パラメータQ*ratioにより燃料噴射パラメータQ*を滑らかに変化させるようにしている。そして、比率パラメータQ*ratioの設定は、図11に示す、空燃比変化に対するトルク変化の特性を考慮して、図12に示すように、酸素比率Oxyratio及びエンジン負荷などの運転状態に応じて行われるので、空燃比切換時のエンジン負荷に拘わらずトルク変動を十分に抑制することができる。
【0080】
本実施形態では、ECU2が、NOx還元またはイオウ脱離のための空燃比リッチ化時期、すなわちリーン運転からリッチ運転への切換時期、及びその空燃比リッチ化の終了時期、すなわちリッチ運転からリーン運転への切換時期を判断し、空燃比切換指令を行うとともに、該切換指令に対応した吸入空気量の制御及び燃料噴射制御処理を実行する。したがって、ECU2が、切換指令手段、吸入空気量制御手段の一部、燃料噴射パラメータ決定手段、比率算出手段、及び比率パラメータ設定手段を構成する。より具体的には、図8,図13及び図14の処理が、燃料噴射パラメータ決定手段に相当し、図13のステップ97及び図14のステップ117が比率算出手段に相当し、図13のステップ98及び図14のステップ118が比率パラメータ設定手段に相当する。
【0081】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、燃料噴射パラメータQ*は、噴射時間De、噴射タイミングTMe及び噴射圧Peで構成されているが、これらの1つまたは2つであってもよい。さらに、上述した実施形態ではディーゼルエンジンの制御に本発明を適用した例を示したが、本発明は、ガソリンエンジンの制御にも適用可能である。
【0082】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を適用した制御装置を内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】制御装置を示すブロック図である。
【図3】A*マップを示す図である。
【図4】気筒内状態パラメータの算出処理を示すフローチャートである。
【図5】Q*i,jマップの設定処理を示すフローチャートである。
【図6】Q*i,jマップを示す図である。
【図7】補正変数αi,j及びβi,jの設定処理を示すフローチャートである。
【図8】燃料パラメータQ*の設定処理を示すフローチャートである。
【図9】仮想番地i,jvを求める方法を説明する図である。
【図10】空燃比切換制御にかかる状態遷移図である。
【図11】空燃比を変化させたときの機関出力トルクの変化を説明するための図である。
【図12】酸素比率(Oxyratio)から比率パラメータ(Q*ratio)を算出するための関数(テーブル)を示す図である。
【図13】リーン運転からリッチ運転への移行時に実行される制御処理を示すフローチャートである。
【図14】リッチ運転からリーン運転への移行時に実行される制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
2 電子制御ユニット(吸入空気量制御手段、還流排ガス流量推定手段、気筒内酸素量推定手段、燃料噴射パラメータ決定手段、インジェクタ制御手段、切換指令手段、比率算出手段、比率パラメータ設定手段)
3 内燃機関
3a 気筒
4 吸気管(吸気系)
6 インジェクタ
7 スロットル弁(吸入空気量制御手段)
14 排ガス還流装置
22 クランク角センサ(回転数検出手段)
27 エアーフローセンサ(吸入空気量検出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気系を介して気筒に空気を吸入し、インジェクタから噴射された燃料を前記気筒内に供給するとともに、内燃機関から排出された排ガスの一部を排気還流装置により前記吸気系に還流排ガスとして還流する内燃機関の制御装置において、
前記吸気系を介して前記気筒に吸入される吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段と、
前記吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記排気還流装置による還流排ガスの流量を推定する還流排ガス流量推定手段と、
前記検出された吸入空気量、及び前記推定された還流排ガス流量に基づいて、前記気筒内に存在する酸素量を推定する気筒内酸素量推定手段と、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
該検出された内燃機関の回転数、及び前記推定された気筒内酸素量に基づいて、燃料噴射パラメータを決定する燃料噴射パラメータ決定手段と、
該決定された燃料噴射パラメータに基づいて、前記インジェクタを制御するインジェクタ制御手段と、
前記気筒内で燃焼する混合気の空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることを指令する切換指令手段とを備え、
前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換指令手段により前記空燃比の切換が指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量、及び切換後の目標気筒内酸素量とに応じて、前記燃料噴射パラメータを滑らかに変化するように決定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項1】
吸気系を介して気筒に空気を吸入し、インジェクタから噴射された燃料を前記気筒内に供給するとともに、内燃機関から排出された排ガスの一部を排気還流装置により前記吸気系に還流排ガスとして還流する内燃機関の制御装置において、
前記吸気系を介して前記気筒に吸入される吸入空気量を制御する吸入空気量制御手段と、
前記吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記排気還流装置による還流排ガスの流量を推定する還流排ガス流量推定手段と、
前記検出された吸入空気量、及び前記推定された還流排ガス流量に基づいて、前記気筒内に存在する酸素量を推定する気筒内酸素量推定手段と、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
該検出された内燃機関の回転数、及び前記推定された気筒内酸素量に基づいて、燃料噴射パラメータを決定する燃料噴射パラメータ決定手段と、
該決定された燃料噴射パラメータに基づいて、前記インジェクタを制御するインジェクタ制御手段と、
前記気筒内で燃焼する混合気の空燃比をリーン空燃比からリッチ空燃比へ切り換えること、またはリッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換えることを指令する切換指令手段とを備え、
前記燃料噴射パラメータ決定手段は、前記切換指令手段により前記空燃比の切換が指令されたときは、切換前の推定気筒内酸素量、及び切換後の目標気筒内酸素量とに応じて、前記燃料噴射パラメータを滑らかに変化するように決定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−200460(P2006−200460A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13794(P2005−13794)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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