説明

III族窒化物半導体光素子、III族窒化物半導体光素子を形成する方法、III族窒化物半導体膜を成長する方法及びエピタキシャル基板

【課題】p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム系半導体領域15及び窒化ガリウム系半導体領域19は、基板13の主面13a上に設けられる。窒化ガリウム系半導体領域19は、p型ドーパントとしてマグネシウムを含むIII族窒化物半導体膜21を有しており、III族窒化物半導体膜21は、III族構成元素としてアルミニウムを含む。III族窒化物半導体膜21の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、III族窒化物半導体膜21の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にある。また、III族窒化物半導体膜21の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、III族窒化物半導体膜21の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体光素子、III族窒化物半導体光素子を形成する方法、III族窒化物半導体膜を成長する方法、及びエピタキシャル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III族窒化物半導体素子が記載されている。III族窒化物半導体素子は、5×1016cm−3以上5×1018cm−3以下の酸素濃度を有する窒化ガリウム系半導体領域を含む。特許文献1では、この窒化ガリウム系半導体領域は、良好な表面モフォロジを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4375497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
c面と異なるIII族窒化物半導体面上に作製されるIII族窒化物半導体光素子においては、p型III族窒化物半導体はMgといったp型ドーパントを含み、このp型III族窒化物半導体の抵抗はn型III族窒化物半導体の抵抗に比べて高い。このp型III族窒化物半導体の抵抗を下げることによって、III族窒化物半導体光素子の特性を向上できる。p型III族窒化物半導体における高抵抗の理由の一つは、高い活性化エネルギのMgをp型ドーパントに用いることにある。
【0005】
また、III族窒化物半導体からなる半極性面及び無極性面上に成長されたIII族窒化物半導体光素子においては、電気的特性、特に動作電圧の低減には、p型層内の不純物濃度の低減とp型層の結晶品質の向上とが必要である。p型層の抵抗を低減するためには、主にMg濃度を増加させることに依っていた。しかしながら、Mg濃度をさらに増加させることは、p型層の結晶品質を劣化させることになり、この結晶品質の劣化は、結果として動作電圧の増大になる。
【0006】
発明者ら様々な実験によれば、p型III族窒化物半導体は、意図的に添加されるp型ドーパントだけでなく、意図的に添加されない他の不純物(例えば、酸素や水素)も含まれる。p型III族窒化物半導体のMgが水素と結合させるとき、この水素はMgの活性化を妨げる。
【0007】
本発明の一側面は、このような事情を鑑みて為されたものであり、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子を提供することを目的とすることにある。また、本発明の別の側面は、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子を形成する方法及びIII族窒化物半導体膜を成長する方法を提供することを目的とすることにある。さらに、本発明の更なる別の側面は、上記のIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板を提供することを目的とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子は、(a)窒化ガリウム系半導体からなる主面を有する基板と、(b)III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含み、前記基板の前記主面の上に設けられた第1のIII族窒化物半導体膜とを備える。前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい。
【0009】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電的特性のp型のIII族窒化物半導体膜を得る。上記の酸素濃度範囲及び水素濃度範囲では、酸素濃度及び水素濃度は正の相関を示す。これ故に、III族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。また、これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。
【0010】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子によれば、マグネシウム添加による第1のIII族窒化物半導体膜における結晶品質の低下を低減できる。
【0011】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子によれば、酸素によるキャリア補償に打ち勝って適切な正孔濃度を提供できる。
【0012】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子は、前記基板の前記主面の上に設けられ、n型ドーパントを含む第2のIII族窒化物半導体膜と、480nm以上550nm以下の範囲にピーク波長を有する光を発生可能でありIII族窒化物半導体からなる活性層とを更に備えることができる。前記活性層は前記第1のIII族窒化物半導体膜と前記第2のIII族窒化物半導体膜との間に設けられる。
【0013】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、良好な電気特性を有するp型III族窒化物半導体は、長波長の発光素子を提供するために好適である。
【0014】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜は、AlGaN層及びInAlGaN層のいずれかを含むことができる。
【0015】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、AlGaN層及びInAlGaN層といったIII族窒化物半導体に、良好な電気特性を提供できる。
【0016】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜は、当該III族窒化物半導体発光素子のp型クラッド層に含まれることが好ましい。
【0017】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、p型クラッド層を低抵抗にすることは、発光特性の向上に役立つ。
【0018】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の上に設けられ、p型ドーパントを含む第3のIII族窒化物半導体膜と、前記第3のIII族窒化物半導体膜に接触を成す電極とを更に備えることができる。前記第2のIII族窒化物半導体膜のバンドギャップは前記第3のIII族窒化物半導体膜のバンドギャップより大きい。このIII族窒化物半導体光素子によれば、第3のIII族窒化物半導体膜に接触を成す電極からの電流が、第1のIII族窒化物半導体膜に供給される。
【0019】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の比抵抗は40Ωcm以下であることができる。このIII族窒化物半導体光素子によれば、第3のIII族窒化物半導体膜に接触を成す電極からの電流が、40Ωcm以下の比抵抗を有する第1のIII族窒化物半導体膜に供給される。
【0020】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上80度以下の範囲の角度を成すことができる。
【0021】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、10度以上80度以下の範囲の角度を成す半極性面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜を設けることができる。10度以下の傾斜角を有する半導体面は、極性面に近い性質を有する。80度以上の傾斜角を有する半導体面は、無極性に近い性質を有する。
【0022】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成すことができる。
【0023】
このIII族窒化物半導体光素子によれば、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成す半導体面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜を設けることができる。80度以下の傾斜角を有する半導体面は、半極性の性質を有する。
【0024】
本発明の別の側面は、III族窒化物半導体光素子を形成する方法である。このの方法は、(a)アルミニウム原料及びマグネシウム原料を成長炉に供給しながら、互いに異なる複数の成膜条件で、複数の基板の上にそれぞれIII族窒化物半導体膜を成長炉で成長する工程と、(b)前記III族窒化物半導体膜の各々に含まれる酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もる工程と、(c)前記酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もった後に、あるマグネシウム濃度において、前記酸素濃度と及び前記水素濃度が正の相関を示す酸素濃度範囲及び水素濃度範囲を見出す工程と、(d)III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、(e)III族窒化物半導体膜を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長して、エピタキシャル基板を形成する工程と、(f)前記エピタキシャル基板の上に電極を形成する工程とを備える。前記基板は、III族窒化物半導体からなる主面を有し、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記基板の前記主面の法線に対して傾斜し、前記エピタキシャル基板を形成する前記工程は、前記酸素濃度範囲及び前記水素濃度範囲のいずれか一方の濃度範囲内の濃度を提供できる成膜条件を用いて、前記アルミニウム原料及び前記マグネシウム原料を前記成長炉に供給しながら、p型III族窒化物半導体領域を前記成長基板の前記主面の上に成長する工程を含む。
【0025】
このIII族窒化物半導体光素子を形成する方法によれば、酸素濃度及び水素濃度が正の相関を示す酸素濃度範囲及び水素濃度範囲を見積もった後に、アルミニウム原料及びマグネシウム原料を成長炉に供給しながら、p型III族窒化物半導体領域を成長する。III族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。この作製方法によれば、III族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電気的特性のp型のIII族窒化物半導体膜を得ることができる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。また、これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。
【0026】
本発明の別の側面に係る製造方法は、前記基板を準備する工程を更に備えことができる。前記基板の前記主面は、前記成長基板の前記主面における成長条件を決定するための、且つ前記III族窒化物半導体光素子のための面方位を有する。前記成長基板の前記主面は、該III族窒化物半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上80度以下の範囲の角度を成す。
【0027】
この形成方法によれば、10度以上80度以下の範囲の角度を成す半極性面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜を設けることができる。10度未満の傾斜角を有する半導体面は、極性面に近い性質を有する。80度を超える傾斜角を有する半導体面は、無極性に近い性質を有する。
【0028】
本発明の別の側面に係る製造方法は、前記基板を準備する工程を更に備えることができる。前記基板の前記主面は、前記成長基板の前記主面における成長条件を決定すると共に前記III族窒化物半導体光素子のための面方位を有する。前記成長基板の前記主面は、該III族窒化物半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度より大きく90度以下の範囲の角度を成す。
【0029】
この形成方法によれば、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成す半導体面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜を設けることができる。80度以下の傾斜角を有する半導体面は、半極性の性質を有する。
【0030】
また、本発明の別の側面は、III族窒化物半導体光素子を形成する方法である。この方法は、(a)III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、(b)III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長して、エピタキシャル基板を形成する工程と、(c)前記エピタキシャル基板の上に電極を形成する工程とを備える。前記成長基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい。
【0031】
この製造方法によれば、第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電気的特性のp型のIII族窒化物半導体膜を得る。上記の酸素濃度範囲及び水素濃度範囲では、酸素濃度及び水素濃度は正の相関を示す。これ故に、III族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。また、これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。
【0032】
本発明の更なる別の側面は、III族窒化物半導体膜を成長する方法である。この方法は、(a)III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、(b)III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長する工程とを備える。前記成長基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい。
【0033】
この成長方法によれば、上記の酸素濃度範囲及び水素濃度範囲では、酸素濃度及び水素濃度は正の相関を示す。これ故に、III族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電的特性のp型のIII族窒化物半導体膜を得る。
【0034】
本発明の更なる別の側面は、III族窒化物半導体膜を成長する方法である。この方法は、(a)III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、(b)III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長する工程とを備える。前記成長基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい。
【0035】
この成長方法によれば、第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電的特性のp型のIII族窒化物半導体膜を得る。上記の酸素濃度範囲及び水素濃度範囲では、酸素濃度及び水素濃度は正の相関を示す。これ故に、III族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。
【0036】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下であり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上であることが好適である。
【0037】
この方法によれば、マグネシウム濃度が4.8×1019cm−3以下であるとき、マグネシウム添加による第1のIII族窒化物半導体膜における結晶品質の低下を低減できる。また、マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上であるとき、酸素によるキャリア補償に打ち勝って適切な正孔濃度を提供できる。
【0038】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記第1のIII族窒化物半導体膜は、当該III族窒化物半導体光素子のp型クラッド層に含まれることが好適である。この方法によれば、p型クラッド層を低抵抗にすることが発光特性の向上に役立つ。
【0039】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記第1のIII族窒化物半導体膜は、AlGaN層、及びInAlGaN層のいずれかを含むことが好適である。この方法によれば、AlGaN層及びInAlGaN層といったIII族窒化物半導体に、良好な電気特性を提供できる。
【0040】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記p型III族窒化物半導体領域の成長は有機金属気相成長法又は分子線ビームエピタキシ法によって行われることが好ましい。この方法によれば、上記の成膜方法を用いて第1のIII族窒化物半導体膜を成長するとき、意図しない酸素の取り込みが生じる。
【0041】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記成長炉は、前記p型III族窒化物半導体領域を成長するための成長室と、前記成長室の囲む予備室と、前記成長室と前記予備室との圧力差を調整可能な真空排気系とを含むことができる。この方法によれば、成長室と予備室との圧力差を調整可能な真空排気系を用いて成長室において成長される半導体膜における不純物の制御を行うことができる。
【0042】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記成長室の圧力P1と前記予備室の圧力P2とにおいて、前記圧力差(P1−P2)は−2.0パスカル以上であることが好適である。この方法によれば、上記の真空排気系を用いて成長室と予備室との圧力差を調整できる。
【0043】
本発明の別の側面および更なる別の側面に係る方法では、前記第1のIII族窒化物半導体膜の比抵抗は40Ωcm以下であることができる。この方法によれば、40Ωcm以下の比抵抗を有する第1のIII族窒化物半導体膜を成長できる。
【0044】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように、本発明の上記側面によれば、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子が提供される。また、本発明の上記側面によれば、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子を形成する方法が提供される。さらに、本発明の上記側面によれば、電気特性を向上できるIII族窒化物半導体膜を成長する方法が提供される。さらにまた、本発明の更なる別の側面によれば、上記のIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を概略的に示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係る方法における主要な工程を示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る方法における主要な工程を示す図面である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る方法に用いる成長炉を概略的に示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係る方法に用いる成長炉を概略的に示す図面である。
【図6】図6は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図8】図8は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図9】図9は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図10】図10は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図11】図11は、同じ面方位を有する複数のGaN基板上に、様々な成膜条件を適用して作製されたInAlGaN膜における酸素濃度と水素濃度との関係を示す図面である。
【図12】図12は、これらのデバイス構造における電流−電圧特性を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体光素子、III族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板、III族窒化物半導体光素子を形成する方法、III族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板を形成する方法、及びIII族窒化物半導体膜を成長する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0048】
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を概略的に示す図面である。図1の(a)を参照すると、III族窒化物半導体光素子11は、例えば発光ダイオードや半導体レーザといった発光素子に適用可能な構造を有する。図1の(b)を参照すると、III族窒化物半導体光素子に適用な可能なエピタキシャル基板EPが示されている。図1に示されるように、エピタキシャル基板EPにおける半導体膜の積層構造は、III族窒化物半導体光素子11における半導体膜の積層構造と実質的に同じである。
【0049】
III族窒化物半導体光素子11は、基板13と、窒化ガリウム系半導体領域15と、発光層17と、窒化ガリウム系半導体領域19とを備える。基板13は主面13a及び裏面13bを含む。基板13の主面13aは、III族窒化物半導体からなり、このIII族窒化物半導体は、例えばGaN、InGaN、AlGaNといった窒化ガリウム系半導体や、AlNからなることができる。基板13の主面13aは、非極性を示す。この非極性は、半極性及び無極性のいずれかを表す。
【0050】
基板13が無極性の主面13aを有するとき、主面13aは、III族窒化物半導体のa面、m面であることができ、或いはc軸の回りに関する回転によりa面又はm面から傾斜した面であることができる。基板13が半極性の主面13aを有するとき、基板13の主面13aは、基準軸Cxに直交する基準平面Scに対して傾斜する半極性を示しており、基準軸CxはIII族窒化物半導体のc軸方向に延びる。
【0051】
基準平面Scは例えば代表的なc面を示している。基準平面Scはc軸ベクトルVCに直交しており、主面13aには法線ベクトルVNが示されている。c軸ベクトルVCは法線ベクトルVNに対して角度AOFFの角度を成す。この角度AOFFはc面に対するオフ角と呼ばれる。図1を参照すると、III族窒化物半導体の六法晶系の結晶軸a軸、m軸及びc軸を示す結晶座標系CRが示されており、六法晶におけるc面を「(0001)」を表記し、「(000−1)」と表記される面方位は(0001)面に対して反対を向く。また、直交座標系Sは、幾何学座標軸X、Y、Zを示す。傾斜の方向は例えばa軸またはm軸であることができる。窒化ガリウム系半導体領域15、発光層17及び窒化ガリウム系半導体領域19は軸Axに沿って非極性主面上に配列されている。主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxとの成す角度は10度以上90度以下であることができる。
【0052】
窒化ガリウム系半導体領域15及び窒化ガリウム系半導体領域19は、基板13の主面13a上に設けられる。窒化ガリウム系半導体領域19は、p型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜21を有しており、第1のIII族窒化物半導体膜21は、III族構成元素としてアルミニウムを含むことが好ましい。第1のIII族窒化物半導体膜21の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、第1のIII族窒化物半導体膜21の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にある。また、第1のIII族窒化物半導体膜21の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、第1のIII族窒化物半導体膜21の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にある。第1のIII族窒化物半導体膜21の酸素濃度は第1のIII族窒化物半導体膜21のマグネシウム濃度より小さい。
【0053】
このIII族窒化物半導体光素子11によれば、第1のIII族窒化物半導体膜21のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、このIII族窒化物半導体膜21に良好な電気特性のp型導電性を付与する。上記の酸素濃度範囲及び水素濃度範囲では、酸素濃度及び水素濃度は正の相関を示す。これ故に、III族窒化物半導体膜21の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。また、これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、結晶品質の改善を可能にする。
【0054】
第1のIII族窒化物半導体膜21は、本実施例では例えばp型クラッド層に含まれることができ、これによってp型クラッド層を低抵抗にすることができる。これは発光特性の向上に役立つ。第1のIII族窒化物半導体膜21は、InX1AlX2Ga1−X1−X2N(0≦X1<1、0≦X2<1、0≦X1+X2≦1、但しInGaNを除く)又はAlX3Ga1−X3N(0≦X3<1)で表される半導体からなることができる。第1のIII族窒化物半導体膜21は、例えばAlGaN層、及びInAlGaN層といったIII族窒化物半導体からなることができる。AlGaN層及びInAlGaN層といった窒化ガリウム系半導体に、良好な電気特性を提供できる。第1のIII族窒化物半導体膜21は、p型クラッド層以外にも広くp型III族窒化物半導体に適用可能である。
【0055】
第1のIII族窒化物半導体膜21のマグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下であることが好ましい。この範囲では、マグネシウム添加により第1のIII族窒化物半導体膜21の結晶品質が低下することを低減できる。また、第1のIII族窒化物半導体膜21のマグネシウム濃度は3×1018cm−3以上であることが好ましい。この範囲では、酸素によるキャリア補償に打ち勝って適切な正孔濃度を提供できる。
【0056】
好適な実施例では、第1のIII族窒化物半導体膜21の比抵抗は40Ωcm以下であることができる。このIII族窒化物半導体光素子11の電極からの電流が、40Ωcm以下の比抵抗を有する第1のIII族窒化物半導体膜21に供給される。
【0057】
III族窒化物半導体光素子11では、窒化ガリウム系半導体領域15は、n型ドーパントを含む第2のIII族窒化物半導体膜25を含むことができる。第2のIII族窒化物半導体膜25は、基板13の主面13a上に設けられる。第2のIII族窒化物半導体膜25は、例えばn型クラッド層に含まれることができる。第2のIII族窒化物半導体膜25は、InY1AlY2Ga1−Y1−Y2N(0≦Y1<1、0≦Y2<1、0≦Y1+Y2≦1、但しInGaNを除く)又はAlY3Ga1−Y3N(0≦Y3<1)で表される半導体からなることができる。第2のIII族窒化物半導体膜25は、例えばAlGaN層、及びInAlGaN層といったIII族窒化物半導体からなることができる。AlGaN層及びInAlGaN層といった窒化ガリウム系半導体に、良好な電気特性を提供できる。
【0058】
窒化ガリウム系半導体領域19は、第3のIII族窒化物半導体膜23を含む。第3のIII族窒化物半導体膜23は、例えばAlGaN層、InAlGaN層及びGaN層といったIII族窒化物半導体からなることができる。AlGaN層及びInAlGaN層といった窒化ガリウム系半導体に、良好な電気特性を提供できる。第1のIII族窒化物半導体膜21のバンドギャップは第3のIII族窒化物半導体膜23のバンドギャップより大きくすることが好ましい。また、第3のIII族窒化物半導体膜23のp型ドーパント濃度は、第1のIII族窒化物半導体膜21のp型ドーパント濃度より大きくすることが好ましい。第3のIII族窒化物半導体膜23は例えばp型コンタクト層であることができる。III族窒化物半導体光素子11は、第3のIII族窒化物半導体膜23に接触を成す電極31を更に備える。このIII族窒化物半導体光素子11によれば、第3のIII族窒化物半導体膜23に接触を成す電極(例えばアノード)31からの電流が第1のIII族窒化物半導体膜21に供給される。第3のIII族窒化物半導体膜23が、良好な電気的特性を示すと共に良好な結晶品質の第1のIII族窒化物半導体膜21上に設けられるので、窒化ガリウム系半導体膜23が良好な結晶品質を有する。これ故に、良好なコンタクト特性が提供される。基板13の裏面13b上には、別の電極(例えばカソード)33が設けられる。
【0059】
発光層17は活性層27を含む。活性層27が第1のIII族窒化物半導体膜21と第2のIII族窒化物半導体膜25との間に設けられる。活性層27は、交互に配列された井戸層29a及び障壁層29bを含む量子井戸構造29を有することができる。井戸層29aは、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等からなることができ、障壁層29bは、例えばGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN等からなることができる。活性層27は、例えば480nm以上550nm以下の範囲にピーク波長を有する光を発生可能であるように設けられる。このIII族窒化物半導体光素子11によれば、良好な電気特性を有するp型III族窒化物半導体は、長波長の発光素子を提供するために好適である。
【0060】
また、発光層17は電子ブロック層35を含む。電子ブロック層35のp型窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなることができる。電子ブロック層35のバンドギャップは第1のIII族窒化物半導体膜(例えばp型クラッド層)21のバンドギャップより大きい。
【0061】
必要な場合には、発光層17は第1の光ガイド層37及び第2の光ガイド層39を含む。活性層27は、第1の光ガイド層37と第2の光ガイド層39との間に設けられている。光ガイド層37、39は窒化ガリウム系半導体からなり、この窒化ガリウム系半導体の一部又は全部は例えばアンドープであることができる。
【0062】
このIII族窒化物半導体光素子11によれば、半極性面や無極性面上に、活性層27、光ガイド層37、39及び窒化ガリウム系半導体層19を設けるので、これらの半導体層におけるピエゾ電界は、c面上における半導体層におけるピエゾ電界に比べて小さい。小さいピエゾ分極により半極性面や無極性面上ではキャリアオーバーフローが発生しにくい。
【0063】
III族窒化物半導体膜(例えばn型クラッド層)25とIII族窒化物半導体膜(例えばp型クラッド層)21との間には、発光層17が設けられる。III族窒化物半導体膜21及びIII族窒化物半導体膜25の屈折率は、光ガイド層37、39の屈折率よりも小さい。III族窒化物半導体膜21及びIII族窒化物半導体膜25は、活性層27に光を閉じ込める。
【0064】
III族窒化物半導体光素子11の一実施例では、基板13の主面13の傾斜角AOFFは、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面Scに対して、10度以上80度以下の範囲の角度を成すことができる。10度以上80度以下の範囲の角度を成す半極性面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜21を設けることができる。10度以下の傾斜角を有する半導体面は、極性面に近い性質を有する。80度以上の傾斜角を有する半導体面は、無極性に近い性質を有する。発光層17の主面は、図1に示されるように、発光層17の主面の法線とc軸の方向とによって規定される上記の傾斜角を有する。
【0065】
III族窒化物半導体光素子11の別の実施例では、基板13の主面13aは、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面Scに対して、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成すことができる。80度より大きく90度以下の範囲の角度を成す半導体面上に、良好な電気的特性を有する第1のIII族窒化物半導体膜21を設けることができる。80度以下の傾斜角を有する半導体面は、半極性の性質を有する。
【0066】
次いで、エピタキシャル基板及びIII族窒化物半導体光素子を形成する方法並びにIII族窒化物半導体膜を成長する方法を説明する。図2及び図3は、本実施の形態に係る方法における主要な工程を示す図面である。また、図4及び図5は、本実施の形態に係る方法に用いる成長炉を概略的に示す図面である。図6〜図10は、本実施の形態に係る方法における主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【0067】
有機金属気相成長法により発光素子のエピタキシャル構造を作製する。原料にはトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH)を用いた。ドーパントガスとして、シラン(SiH)及びビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CPMg)を用いる。引き続く説明では、例えば半極性主面を有するIII族窒化物半導体基板として、六方晶系半極性窒化ガリウム基板を用いることができる。また、例えば無極性主面を有するIII族窒化物半導体基板として、六方晶系無極性窒化ガリウム基板を用いることができる。以下の説明において、酸素は、例えばIII族原料及び窒素原料等に含まれる不純物、成長炉に残留する不純物、及び成長炉内の治具からの不純物として提供される。水素は、例えば原料からの不純物として提供される。引き続く説明では、六方晶系半極性窒化ガリウム基板を参照しながら説明する。
【0068】
工程S201では、成膜に用いる成長炉10を準備する。成長炉10は、チャンバを含み、チャンバは、III族窒化物半導体を成長するための成長室41と、成長室41に隣接する予備室42と、成長室41と予備室42との圧力差を調整可能な真空排気系43とを含む。真空排気系43は、排気ポンプ43a及び圧力調整装置43bを含む。排気ポンプ43aは、ラインL1を介して成長室41に接続される。圧力調整装置43bは、排気ポンプ43aと予備室42との間に設けられ、成長室41と予備室42との圧力差を調整する。圧力調整装置43bはラインL2を介してラインL1又は排気ポンプ43aに接続される。成長室41には、基板を搭載するためのサセプタ45が設けられる。サセプタ45は、成長中に回転Rが可能なように支持される。サセプタ45の主面には、基板SUBが配置される。成長室41及び予備室42は、サセプタ45及び仕切部材46によって区切られる。サセプタ45と仕切部材46との間にはギャップGAPがあり、このギャップGAPを介して成長室41及び予備室42は互いに接続される。予備室42には、サセプタ45の温度を調整するための加熱装置(例えばヒータ)48が配置される。成長室41は、ラインL3を介して供給系47に接続され、供給系47は成長室41に原料SGを供給する。予備室42は、ラインL4を介して供給系47に接続され、供給系47は予備室42にパージガスPGを供給する。成長室41及びと予備室42では、それぞれ、真空排気系43によって排気EX1、EX2が行われる。成長室41と予備室42との圧力差は、圧力調整装置43bによって所望の圧力差範囲に維持される。この成長炉10は、有機金属気相成長法の適用に好適な構造を有するが、この成膜方法は分子線ビームエピタキシ法にも適用可能である。これらの成膜方法を用いてIII族窒化物半導体膜を成長するとき、意図しない酸素の取り込みが生じる。
【0069】
後の説明から理解されるように、この成長炉10によれば、成長室41と予備室42との圧力差を調整可能な真空排気系43を用いて、成長室41において成長される半導体膜における不純物の制御を行うことができる。成長室41の圧力P1と予備室42の圧力P2とにおいて、この圧力差(P1−P2)は−2.0パスカル以上であることが好適である。この方法によれば、上記の真空排気系43を用いて成長室41と予備室42との圧力差を調整できる。圧力差(P1−P2)は+2.0パスカル以下であることが好適である。
【0070】
工程S202では、図6の(a)部に示されるように、複数の基板を準備した。基板の前記主面は、後ほど準備する成長基板の主面における成長条件を決定するための、且つIII族窒化物半導体光素子のための面方位を有する。本実施例では、窒化ガリウム基板が用いられる。窒化ガリウム基板の主面は、c面からm面方向及び/又はa面方向に10〜90度の角度で傾斜している。窒化ガリウム基板50の主面50aは上記の角度範囲内のある面方位を有する。反応炉10内にGaN基板50を設置した後に、必要な場合には、図6の(b)部に示されるように、成長炉10を用いてGaN基板50のサーマルクリーニングを行う。摂氏1050度の温度で、NHとHを含むガスG0を成長炉10に流しながら、10分間の熱処理を行う。
【0071】
次いで、工程S203において、図6の(c)部に示されるように、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスGを成長炉10に導入して、アルミニウム原料及びマグネシウム原料を含むガスGASを成長炉10に供給しながら、互いに異なる複数の成膜条件で、それぞれIII族窒化物半導体膜52を複数の基板50上に成長炉10で成長する。この結果、複数のエピタキシャル基板が得られ、これらのエピタキシャル基板は、複数の基板50上にはそれぞれ互いに異なる複数の成膜条件で成膜された互いに異なる品質のIII族窒化物半導体膜52を有する。III族窒化物半導体膜52の成膜において、その酸素濃度がIII族窒化物半導体膜52のマグネシウム濃度より小さくなる成膜条件を用いる。一実施例では、例えばTMG、TMA、NH、SiHを含む原料ガスを成長炉10に供給して、半極性主面を有するGaN基板上にAlGaN層をエピタキシャルに成長する。この膜厚は例えば1200nmである。
【0072】
工程S204では、III族窒化物半導体膜52の各々に含まれる酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もる。見積りには、例えば二次イオン質量分析法(酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度)及びCV法(マグネシウム濃度)を用いることができる。
【0073】
工程S205では、酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もった後に、あるマグネシウム濃度において、酸素濃度と及び水素濃度が正の相関を示す酸素濃度範囲及び水素濃度範囲を見出す。一実施例では、III族窒化物半導体膜52の酸素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、1.5×1018cm−3以下の範囲にあることができる。また、III族窒化物半導体膜52の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、1.5×1018cm−3以下の範囲にあることができる。
【0074】
ここまでの工程は、半導体素子を作製する通常の工程とは異なる。引き続き、半導体素子を作製する工程を行う。工程S101では、図7の(a)部に示されるように、III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する。ここでは、この成長基板の主面の面方位は、工程S202で準備された基板50の面方位と実質的に同じであることが好ましくが、工程S102からS205を様々なオフ角の基板を用いて繰り返し行うことによって、所望のオフ角の範囲において、正の相関を示す濃度範囲を得ることができる。成長基板として窒化ガリウム基板51を準備する。窒化ガリウム基板51の主面51aは上記の角度範囲内の傾斜角AOFFの面方位を有する。反応炉10内にGaN基板51を設置した後に、図7の(b)部に示されるように、成長炉10を用いてGaN基板51のサーマルクリーニングを行う。
【0075】
工程S102では、III族窒化物半導体膜を含む半導体領域を基板51の主面51aの上に成長して、エピタキシャル基板を形成する。引き続き、工程S102を具体的に説明する。
【0076】
工程S103では、図7の(c)部に示されるように、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG1を成長炉10に供給して、GaN基板51の主面51a上に、n型の窒化ガリウム系半導体領域53をエピタキシャルに成長する。原料ガスG1は、例えばTMG、TMA、NH、SiHを含む。窒化ガリウム系半導体領域53として、例えば摂氏1050度の温度でSiドープAlGaNクラッド層を成長する。このAlGaN層の厚さは例えば2μmである。
【0077】
次いで、摂氏840度に基板温度を下げた後に、必要な場合には、図8の(a)部に示される工程を行う。この工程では、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG2を成長炉10に供給して、アンドープInGaN光ガイド層55aをエピタキシャルに成長する。原料ガスG2は、例えばTMG、TMI、NHを含む。InGaN光ガイド層55aの厚さは、100nmである。
【0078】
引き続き、工程S105では、量子井戸構造を有する活性層を成長する。工程S105では、図8の(b)部に示されるように、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG3を成長炉10に供給して、摂氏840度の基板温度で、GaN障壁層57をInGaN光ガイド層55a上に成長する。原料ガスG2は、例えばTMG、NHを含む。このGaN層57の厚さは例えば15nmである。
【0079】
この後に摂氏790度に基板温度を下げた後に、工程S106では、図8の(c)部に示されるように、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG4を成長炉10に供給して、GaN障壁層57上に、アンドープInGaN井戸層59をエピタキシャルに成長する。原料ガスG4は、例えばTMG、TMI、NHを含む。井戸層59の厚さは例えば3nmである。
【0080】
その後、摂氏840度まで基板温度を上げた後に、厚さ15nmのGaN障壁層57を成長する。必要な場合には、障壁層57の成長及び井戸層59の成長を繰り返す。さらに、必要な場合には、以下の工程を行う。この工程では、摂氏840度の基板温度で、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG5を成長炉10に供給して、光ガイド層55aと同様に、アンドープInGaN光ガイド層55bをエピタキシャルに成長して、図9の(a)部に示されるように、活性層61及び発光層63を作製する。
【0081】
次いで、工程S107では、III族原料及び窒素原料を成長炉10に供給して、第2導電型窒化ガリウム系半導体領域を発光層63上に成長する。このために、工程S108では、基板温度を摂氏1000度に上昇した後に、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG6を成長炉10に導入して、図9の(b)部に示されるように、発光層63上に、電子ブロック層65をエピタキシャルに成長する。原料ガスG6は、例えばTMG、TMA、NH、CPMgを含む。電子ブロック層65の厚さは例えば20nmである。
【0082】
次いで、工程S109において、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG7を成長炉10に導入して、図10の(a)部に示されるように、電子ブロック層65上に、p型クラッド層67をエピタキシャルに成長する。原料ガスG7は、例えばTMG、TMA、NH、CPMgを含む。p型クラッド層67の厚さは例えば400nmである。
【0083】
p型III族窒化物半導体領域70、本実施例では例えばp型クラッド層の成長において、工程205において明らかにされた酸素濃度範囲及び水素濃度範囲のいずれか一方の濃度範囲内の濃度を提供できる成膜条件を用いて、アルミニウム原料及び前記マグネシウム原料を成長炉10に供給しながら、p型III族窒化物半導体領域を成長基板51の主面51a上に成長することが好適である。
【0084】
続けて、工程S110において、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG8を成長炉10に導入して、図10の(b)部に示されるように、p型クラッド層67上にp型コンタクト層69をエピタキシャルに成長する。原料ガスG8は、例えばTMG、NH、CPMgを含む。p型コンタクト層69の厚さは例えば50nmである。
【0085】
この方法によれば、酸素濃度及び水素濃度が正の相関を示す酸素濃度範囲及び水素濃度範囲を見積もった後に、アルミニウム原料及びマグネシウム原料を成長炉に供給しながら、上記のp型III族窒化物半導体領域(例えばp型クラッド層)を成長する。p型クラッド層のためのIII族窒化物半導体膜の成長において酸素濃度及び水素濃度の一方の低減は他方の低減になる。この方法によれば、p型クラッド層のためのIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度の増加を抑制しつつ、良好な電的特性のp型のIII族窒化物半導体膜(例えばp型クラッド層)を得ることができる。酸素はn型ドーパントとして作用するので、酸素濃度の低減はp型ドーパントの補償を低減できる。また、水素は、マグネシウムと結合してマグネシウムの活性化を妨げるので、水素濃度の低減はマグネシウムの活性化率を改善できる。また、これらの酸素及び水素の作用により、所望の電気的特性を実現するためのマグネシウム濃度を低減できる。マグネシウム濃度の低減は、結果的に、例えばp型クラッド層の結晶品質の改善を可能にする。
【0086】
基板温度を室温まで降温した後に、エピタキシャル基板EP1を成長炉から取り出す。エピタキシャル基板EP1は、III族窒化物半導体基板51と、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域53と、発光層63と、第2導電型窒化ガリウム系半導体領域70とを備える。
【0087】
工程S111では、エピタキシャル基板EP1のp型窒化ガリウム系半導体領域70上にアノード電極を形成してp型コンタクト層69に電気的な接続を成すと共に基板51の裏面51bを必要に応じて研磨した後に研磨裏面にカソード電極を形成する。これらの電極は、例えば蒸着により作製される。
【0088】
エピタキシャル基板EP1の作製の一例では、p型クラッド層67のためのIII族窒化物半導体膜の形成に、工程S201〜S205における成膜条件の適用を行った。この結果、p型クラッド層67としてIII族窒化物半導体膜が成長される。その酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上1.5×1018cm−3以下の範囲にある。その水素濃度は1.0×1017cm−3以上1.5×1018cm−3以下の範囲にある。そのマグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下3×1018cm−3以上である。マグネシウム濃度が4.8×1019cm−3以下であるとき、マグネシウム添加によるIII族窒化物半導体膜における結晶品質の低下を低減できる。また、マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上であるとき、酸素によるキャリア補償に打ち勝って適切な正孔濃度を提供できる。このIII族窒化物半導体膜の比抵抗は40Ωcm以下であることができる。
【0089】
(実施例)
図11は、同じ面方位を有する複数のGaN基板上に、様々な成膜条件を適用して作製されたInAlGaN膜における酸素濃度と水素濃度との関係を示す図面である。酸素濃度及び水素濃度の見積もりは二次イオン質量分析法を用いる。図12の実験結果から理解されるように、上記の濃度範囲では、水素濃度と酸素濃度は正の相関を示す。この実験より、エピタキシャル膜中に含まれる酸素濃度は1×1017cm−3以上1.5×1018cm−3以下において、水素濃度は1×1017cm−3以上1.5×1018cm−3以下であるとき、酸素濃度と正の相関を示し、比抵抗が下がりp型InAlGaN半導体層の電気特性が向上する。
【0090】
図4及び図5に示される構造の成長炉10では、成長室41内への成膜に寄与しないガスの混入量を制限できる。つまり、成長炉10には大きく2つの成長室41及び予備室42があり、成長室41は成膜を行うため空間であり、予備室42は成長室41を隣接するように設置された空間である。成長窒41と予備室42とを完全に分離することは困難であるので、成長室41と予備室42との間には数ミリの隙間GAPが設けている。そのため、成長中に微差圧が生じる。これ故に、成長室41に供給する原料の流量や、成膜温度といった成膜条件が見かけ上同じであっても、成長室41内における不純物の混入が異なる。
【0091】
成長室41と予備室42との真空度の制御を行うことができる。この制御無しでは、成長室41内に酸素を含む純度の悪い原料ガスが混入して、その結果、エピタキシャル膜中の酸素濃度を低くすることを困難にする。
【0092】
今回の成膜では、成長室41と予備室42との真空度の制御のために、これらの室間の僅かな差圧を調整する機構を設けている。これ故に、成長室41内へのガスの混入量が調整可能である。具体的には、成長室41と予備室42との差圧を−2.0パスカル以上に調整することが好適であり、また差圧を14パスカル以下に調整することが好適である(正の差圧は成長室41の方が圧力が高く、負の差圧はその逆を表す)。この差圧が14パスカルから−2.0pパスカルへ変化するにつれて、エピタキシャル膜中の酸素濃度も約1.0×1017cm−3から1.5×1018cm−3程度にまで増加し、これに合わせて水素濃度も増加する。
【0093】
発明者らは以下のようにえている。差圧がゼロパスカル以上となるとき、差圧が大きくなるにつれ酸素濃度と水素濃度とは比例関係を保つ。しかし、差圧が20パスカル以上になると、成長室41のガスの流れが乱れるので、エピタキシャル膜の成長そのものの結晶性が悪くなる。これ故に、上記の相関関係は得られない。実験において用いたMg濃度範囲は3×1018cm−3以上4.8×1019cm−3以下である。
【0094】
また、発明者らの実験によれば、エピタキシャル膜中への酸素の取り込み量は、オフ角が10度を超えたあたりから増加し始める。この増加する角度範囲において、成長炉10の差圧を調整することによってエピタキシャル膜中への酸素の取り込み量を制御した成膜を行うとき、酸素濃度と水素濃度は、正の相関(最も好ましい実験結果では、比例関係)が得られる。オフ角が10度以下では、エピタキシャル膜の表面がc面としての性質(つまり、表面原子の状態がc面と近い)を有するので、酸素の取り込み量もc面と同程度である。c面としての性質が表面に現れるとき、必要とするMg度範囲においては、上記の正の相関関係が得られない。
【0095】
発明者らの実験によれば、オフ角が約46度を超えるまで、エピタキシャル膜中に取り込まれる酸素濃度は増加する。この角度を超えたあたりから、90度にかけて再び酸素濃度は減少する傾向にある。しかし、90度の角度で傾いた無極性面の表面における酸素の取り込み量はc面よりも少なく、必要とするMg濃度範囲においては、上記の正の相関関係を示す。
【0096】
正の相関を有する成膜条件で形成されたデバイス構造と、正の相関を有しない成膜条件で形成されたデバイス構造との電気的特性を測定する。図12は、これらのデバイス構造における電流−電圧特性を示す。測定に用いたデバイス構造は、p型GaNコンタクト層(厚さ10nm)/p型InAlGaNクラッド層(厚さ400nm)/n型GaN層(1μm)/半極性面基板を備える。図12の(a)部は、今回の成長条件を用いたデバイス構造における電流−電圧特性を示す。図12の(b)部は、従来の成長条件を用いたデバイス構造における電流−電圧特性を示す。従来条件と今回条件との違いは差圧の制御の有無にあり、今回条件は+2.0パスカルである。温度依存性に関しては、本実施の形態に係るデバイス構造におけるI−V特性の変動幅は、従来条件におけるI−V特性の変動幅の半分程度に小さい。
【0097】
本実施例におけるp型InAlGaNにおける比抵抗は、例えば40Ωcm以下である。さらに好適な値として、活性化処理を行って例えば17Ωcm以下の比抵抗のp型InAlGaN膜が形成できる。
【0098】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本実施の形態によれば、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板が提供される。また、本実施の形態によれば、p型III族窒化物半導体の電気特性を向上できるIII族窒化物半導体光素子を形成する方法が提供される。さらに、本実施の形態によれば、電気特性を向上できるIII族窒化物半導体膜及びエピタキシャル基板を成長する方法が提供される。さらにまた、本実施の形態によれば、上記のIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【符号の説明】
【0100】
EP、EP1…エピタキシャル基板、11…III族窒化物半導体光素子、13…基板、15…窒化ガリウム系半導体領域、17…発光層、19…窒化ガリウム系半導体領域、Cx…基準軸、Sc…基準平面、VN…法線ベクトル、AOFF…角度、21…第1のIII族窒化物半導体膜、25…第2のIII族窒化物半導体膜、23…第3のIII族窒化物半導体膜、31…電極(例えばアノード)、33…別の電極(例えばカソード)、27…活性層、29a…井戸層、29b…障壁層、29…量子井戸構造、35…電子ブロック層、37…第1の光ガイド層、39…第2の光ガイド層、41…成長室、42…予備室、43…真空排気系、43a…排気ポンプ、43b…圧力調整装置、50…基板、51…窒化ガリウム基板、52…III族窒化物半導体膜、53…窒化ガリウム系半導体領域、55a…InGaN光ガイド層、57…GaN障壁層、59…アンドープInGaN井戸層、61…活性層、63…発光層、65…電子ブロック層、67…p型クラッド層、69…p型コンタクト層、70…p型III族窒化物半導体領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体光素子であって、
窒化ガリウム系半導体からなる主面を有する基板と、
III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含み、前記基板の前記主面の上に設けられた第1のIII族窒化物半導体膜と、
を備え、
前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい、III族窒化物半導体光素子。
【請求項2】
前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下である、請求項1に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項3】
前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上である、請求項1又は請求項2に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項4】
前記基板の前記主面の上に設けられ、n型ドーパントを含む第2のIII族窒化物半導体膜と、
480nm以上550nm以下の範囲にピーク波長を有する光を発生可能でありIII族窒化物半導体からなる活性層と、
を更に備え、
前記活性層は前記第1のIII族窒化物半導体膜と前記第2のIII族窒化物半導体膜との間に設けられる、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項5】
前記第1のIII族窒化物半導体膜は、AlGaN層及びInAlGaN層のいずれかを含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項6】
前記第1のIII族窒化物半導体膜は、当該III族窒化物半導体光素子のp型クラッド層に含まれる、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項7】
前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上80度以下の範囲の角度を成す、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項8】
前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成す、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項9】
III族窒化物半導体光素子を形成する方法であって、
アルミニウム原料及びマグネシウム原料を成長炉に供給しながら、互いに異なる複数の成膜条件で、複数の基板の上にそれぞれIII族窒化物半導体膜を成長炉で成長する工程と、
前記III族窒化物半導体膜の各々に含まれる酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もる工程と、
前記酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もった後に、あるマグネシウム濃度において、前記酸素濃度及び前記水素濃度が正の相関を示す濃度範囲を見出す工程と、
III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、
p型III族窒化物半導体領域を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長して、エピタキシャル基板を形成する工程と、
を備え、
前記基板は、III族窒化物半導体からなる主面を有し、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記基板の前記主面の法線に対して傾斜し、
前記エピタキシャル基板を形成する前記工程は、
前記酸素濃度範囲及び前記水素濃度範囲のいずれか一方の濃度範囲内の濃度を提供できる成膜条件を用いて、前記アルミニウム原料及び前記マグネシウム原料を成長炉に供給しながら、第1のIII族窒化物半導体膜を前記成長基板の前記主面の上に成長する工程を含む、III族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項10】
III族窒化物半導体光素子を形成する方法であって、
III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、
III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜を有する半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長して、エピタキシャル基板を形成する工程と、
を備え、
前記成長基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい、III族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項11】
前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は4.8×1019cm−3以下であり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の前記マグネシウム濃度は3×1018cm−3以上である、請求項9または請求項10に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項12】
前記エピタキシャル基板の上に電極を形成する工程を更に備え、
前記エピタキシャル基板を形成する前記工程は、前記第1のIII族窒化物半導体膜の上にコンタクト層を成長する工程を含み、
前記第1のIII族窒化物半導体膜は、当該III族窒化物半導体光素子のp型クラッド層に含まれる、請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項13】
前記第1のIII族窒化物半導体膜は、AlGaN層、及びInAlGaN層のいずれかを含む、請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項14】
前記p型III族窒化物半導体領域の成長は有機金属気相成長法又は分子線ビームエピタキシ法によって行われる、請求項9〜請求項13のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項15】
前記成長炉は、前記p型III族窒化物半導体領域を成長するための成長室と、前記成長室に隣接する予備室と、前記成長室と前記予備室との圧力差を調整可能な真空排気系とを含む、請求項9〜請求項13のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項16】
前記成長室の圧力P1と前記予備室の圧力P2とにおいて、前記圧力差(P1−P2)は−2.0パスカル以上である、請求項15に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項17】
前記基板を準備する工程を更に備え、
前記基板の前記主面は、前記成長基板の前記主面における成長条件を決定するための、且つ前記III族窒化物半導体光素子のための面方位を有し、
前記成長基板の前記主面は、該III族窒化物半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上80度以下の範囲の角度を成す、請求項9に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項18】
前記基板を準備する工程を更に備え、
前記基板の前記主面は、前記成長基板の前記主面における成長条件を決定するための、且つ前記III族窒化物半導体光素子のための面方位を有し、
前記成長基板の前記主面は、該III族窒化物半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、80度より大きく90度以下の範囲の角度を成す、請求項9に記載されたIII族窒化物半導体光素子を形成する方法。
【請求項19】
III族窒化物半導体膜を成長する方法であって、
アルミニウム原料及びマグネシウム原料を成長炉に供給しながら、互いに異なる複数の成膜条件で、複数の基板の上にそれぞれIII族窒化物半導体膜を成長炉で成長する工程と、
前記III族窒化物半導体膜の各々に含まれる酸素濃度、水素濃度及びマグネシウム濃度を見積もる工程と、
前記酸素濃度、前記水素濃度及び前記マグネシウム濃度を見積もった後に、あるマグネシウム濃度において、前記酸素濃度及び前記水素濃度が正の相関を示す濃度範囲を見出す工程と、
III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、
p型III族窒化物半導体領域を含む半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長する工程と、
を備え、
前記基板は、III族窒化物半導体からなる主面を有し、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記基板の前記主面の法線に対して傾斜し、
前記エピタキシャル基板を形成する前記工程は、
前記酸素濃度範囲及び前記水素濃度範囲のいずれか一方の濃度範囲内の濃度を提供できる成膜条件を用いて、前記アルミニウム原料及び前記マグネシウム原料を成長炉に供給しながら、第1のIII族窒化物半導体膜を前記成長基板の前記主面の上に成長する工程を含む、III族窒化物半導体膜を成長する方法。
【請求項20】
III族窒化物半導体膜を成長する方法であって、
III族窒化物半導体からなる主面を有する成長基板を準備する工程と、
III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜を有する半導体領域を前記成長基板の主面の上に成長する工程と、
を備え、
前記成長基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい、III族窒化物半導体膜を成長する方法。
【請求項21】
前記第1のIII族窒化物半導体膜の比抵抗は40Ωcm以下である、請求項19又は請求項20に記載されたIII族窒化物半導体膜を成長する方法。
【請求項22】
III族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板であって、
窒化ガリウム系半導体からなる主面を有する基板と、
前記基板の前記主面の上に設けられ、III族構成元素としてアルミニウムを含むと共にp型ドーパントとしてマグネシウムを含む第1のIII族窒化物半導体膜と、
を備え、
前記基板の前記主面は、該窒化ガリウム系半導体のc軸方向に延在する軸に直交する面に対して、10度以上90度以下の範囲の角度を成し、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.0×1017cm−3以上の範囲にあり、前記第1のIII族窒化物半導体膜の水素濃度は、1.5×1018cm−3以下の範囲にあり、
前記第1のIII族窒化物半導体膜の酸素濃度は、前記第1のIII族窒化物半導体膜のマグネシウム濃度より小さい、エピタキシャル基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−89706(P2012−89706A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235692(P2010−235692)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】