説明

ダイヤモンド半導体素子およびその製造方法

【課題】最大発振周波数fmaxを高くしてダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を大きく向上させ、かつ電圧降下を小さく抑えることにより実用レベルに到達させること。
【解決手段】「ソース・ゲート電極間隔dSG、ゲート・ドレイン電極間隔dGDを狭くすること」と「ソース電極の厚さt、ドレイン電極の厚さtを厚くすること」とを両立させるために、ソース電極およびドレイン電極を、エッチング溶液を用いてエッチングする層とレジストを用いてリフトオフする層とに分けて形成する。これにより電極の逆メサ部を小さくすることができるため、ソース電極とゲート電極との間隔を小さくして最大発振周波数fmaxを上げ、かつソース電極およびドレイン電極の厚みを厚くして電圧降下を小さく抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド半導体素子に関し、より詳細には、ダイヤモンド半導体素子に特有の結晶欠陥の発生を抑えた半導体素子構造、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、様々な材料の中でも最高の熱伝導率を有し、半導体の中で最大の絶縁破壊電界強度を有している。したがって、ダイヤモンドは、高電圧、大電流動作が必要とされる大電力半導体素子に最も適した半導体材料である。さらに、ダイヤモンドにおける電子および正孔は、高い移動度ならびに飽和速度を有するために、ダイヤモンドは、高い周波数において動作可能な高周波半導体素子としても適している。高周波ダイヤモンド半導体素子は、マイクロ波帯およびミリ波帯領域の高周波数帯域において、大電力を制御する半導体素子である。
【0003】
図5A〜Cは、従来のダイヤモンド半導体素子の製造工程を示す図である。以下、非特許文献1において開示された従来技術によるダイヤモンド半導体トランジスタの製造工程について説明する(面方位については、非特許文献2を参照)。
【0004】
まず、図5Aのように単結晶ダイヤモンド基板1−31を用意する。単結晶ダイヤモンド基板(substrate)1−31の表面の面方位
【0005】
【数1】

【0006】
は、正確に[001]方向に面方位を持っている。
【0007】
次に、図5Bに示すように、単結晶ダイヤモンド基板1−31上に単結晶ダイヤモンド薄膜1−32を結晶成長させる。結晶成長工程において、単結晶ダイヤモンド薄膜1−32の表面に平行となるように、二次元的な正孔チャンネル1−33を形成する。単結晶ダイヤモンド(diamond)薄膜1−32の表面の面方位
【0008】
【数2】

【0009】
および、正孔チャンネル1−33(channel)の形成面の面方位
【0010】
【数3】

【0011】
は、単結晶ダイヤモンド基板1−31の表面の面方位と等しくなるので、正確に[001]方向に面方位を持っている。
【0012】
さらに、図5Cに示すように、単結晶ダイヤモンド薄膜1−32の表面上に、ソース電極1−34、ゲート電極1−35、ドレイン電極1−36をそれぞれ形成する。ゲート(gate)電極35の長手方向
【0013】
【数4】

【0014】
は、[100]方向となる。
【0015】
上に説明した従来方法により作製したトランジスタの特性は、非特許文献1に詳細に開示されている。全て、ゲート長0.2μmのトランジスタの特性に統一して(ゲート幅によって規格化した)、トランジスタ特性データが開示されている。非特許文献1によれば、このトランジスタの最大相互コンダクタンスgmmaxは、高々150mS/mmであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公平8−15162号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】嘉数誠 他、「ダイヤモンドMESFETの高周波特性」、日本応用物理学会誌「応用物理」、第73巻、第3号(2004年3月号)、Page363-367
【非特許文献2】C、キッテル、「固体物理学入門」、丸善出版、第5版、上巻、Page11-22
【非特許文献3】嘉数誠、外6名、「ダイヤモンドMESFETの高周波特性」応用物理、日本応用物理学会、2004年、第73巻,第3号、P.0363‐0367
【非特許文献4】M. Kasu, “Influence of epitaxy on hydrogen-passivated diamond ”Diamond and Related Materials ,2004, No.13, P.226-232
【非特許文献5】J. Ruan et al. “Cathodoluminescence and annealing study of plasma-deposited polycrystalline diamond films” J. Appl. Phys. 69(9), 1 May 1991
【非特許文献6】嘉数、他、「ダイヤモンドMESFETの高周波特性」、応用物理、2004、年第73巻、第3号、P.363〜367
【非特許文献7】F. P. Bundy, H. P. Bovenkerk, H. M. Strong, and R. H. Wentorf, ”Diamond-Graphite Equilibrium Line from Growth and Graphitization of Diamond”, The Journal of Chemical Physics, August, 1961, Vol. 35, Number 2, pp.383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、ダイヤモンド単結晶は、他の半導体、例えばシリコン,ガリウム砒素、インジウム燐,窒化ガリウム等と比較して、結晶欠陥密度が格段に高いという問題があった。そのため、高い熱伝導率、高い絶縁破壊電界、良好な高周波数特性などのダイヤモンドの本来の物理的性質を、トランジスタ特性に反映させることができていない。未だ、ダイヤモンド半導体を使用したトランジスタの実用化には至っていない。この問題については、非特許文献1で述べられている。したがって、ダイヤモンド単結晶を用いた実用的なトランジスタを実現させるためには、ダイヤモンド特有の結晶欠陥の発生を抑制する方法によって素子を作成しなければならない。
【0019】
本発明の第1の目的は、ダイヤモンド基板の面方位をわずかに[001]方向からずらすことにより、ダイヤモンド特有の結晶欠陥の発生を著しく抑えることにある。
【0020】
ダイヤモンドは、材料最高の熱伝導率を有し、半導体最大の絶縁破壊電界強度を有するために、高電圧、大電流動作可能な大電力半導体素子に最も適した半導体材料であることが理論的に明らかになっている。それに加えて、高い電子および正孔の移動度、飽和速度を有するために高い周波数での動作可能な高周波半導体素子としても適していることも知られている。
【0021】
また図13A〜Gに、従来のダイヤモンド半導体素子作製の工程を示す。表面近傍に二次元正孔チャンネルを有するダイヤモンド単結晶薄膜2−11(図13A)上に、金(Au)を蒸着させ、Au薄膜2−12を形成する(図13B)。そのAu薄膜2−12の上にレジスト2−13を塗布する(図13C)。次に、フォトリソグラフィーまたは電子ビームで露光および現像を行ってレジスト2−13の一部を除去し、ゲート電極を形成する領域上のレジスト2−13に開口部を形成する(図13D)。次に、試料をAuエッチング液に浸し、レジスト2−13の開口部付近のAu薄膜2−12をエッチングする(図13E)。
【0022】
図13Eに示すように、Au薄膜2−12はレジスト2−13の開口部から露出した表面をエッチングされ、そこから深さ方向(ダイヤモンド単結晶薄膜2−11に対して垂直な方向)と同時に横方向(ダイヤモンド単結晶薄膜2−11に対して水平な方向)にもエッチングされる。そのため、Au薄膜2−12は、レジスト2−13の下の領域も削られる。この抉るように削られた部分をアンダーカットという。このようにエッチング溶液によって横方向へエッチングされる際、Au薄膜2−12とレジスト2−13との付着力がAu薄膜12とダイヤモンド単結晶薄膜2−11との付着力よりも強いため、横方向へのエッチング速度は、レジスト2−13側が遅く、ダイヤモンド単結晶薄膜2−11側が速くなる。そのため、Au薄膜2−12のエッチングされた側の端面の角度θは、およそ45度になる。つまり、エッチングにより2つに分割されたAu薄膜2−12は、それぞれ下側よりも上側の方が幅の広い逆メサ形状になる。
【0023】
次に、Al(アルミニウム)の蒸着を行う(図13F)。レジスト2−13およびAu薄膜2−12の開口部を通ってダイヤモンド単結晶薄膜2−11の表面に直接蒸着されるAlと、レジスト2−13上に蒸着されるAlとは、それぞれAl薄膜2−15G、2−15を形成する。次にレジスト2−13をリフトオフするために試料をリフトオフ液に浸し、レジスト2−13およびその上に蒸着されたAl薄膜2−15を除去する(図13G)。ここで、Au薄膜2−12の一方をソース電極2−16Sとし、他方のAu薄膜2−12をドレイン電極2−16Dとし、ダイヤモンド単結晶薄膜2−11表面に残ったAl薄膜2−15Gをゲート電極2−17Gとする。このとき、厚さt、tは0.6μmであり、ゲート電極2−17Gのソース側の端からドレイン側の端までの長さに相当するゲート長dは0.2μmである。
【0024】
ダイヤモンド半導体には、他の半導体、例えばシリコン,ガリウム砒素,インジウム燐,窒化ガリウムと異なり、トランジスタの電子、正孔が走行するチャンネルが表面から0.1μm以内でなければならないという物理に由来する制約がある(非特許文献3参照)。
【0025】
この物理的な制約の下、ダイヤモンド半導体素子の増幅度である相互コンダクタンスgを上げ、高周波特性における動作周波数の上限である最大発振周波数fmaxを実用レベルまで向上させるためには、ソース電極2−16Sのダイヤモンド単結晶薄膜2−11と接している面の端とゲート電極2−17Gのソース側の端との間のソース・ゲート電極間隔dSG、およびゲート電極2−17Gのドレイン側の端とドレイン電極2−16Dのダイヤモンド単結晶薄膜2−11と接している面の端との間のゲート・ドレイン電極間隔dGDを狭める必要がある。これは、他の半導体ではそれほど問題ではないが、ダイヤモンド半導体素子ではその物理的性質に由来する重要な解決すべき課題である。さらに最大発振周波数fmaxを上げるためには、図13Gのゲート長dをできるだけ狭める必要もある。
【0026】
非特許文献4では、ソース電極2−16Sとドレイン電極2−16Dとの間の間隔は、2.6μmまたは2.7μmであり、ゲート長dは0.2μmであるから、ソース・ゲート電極間隔dSG、ゲート・ドレイン電極間隔dGDはそれぞれ1.3〜1.4μmであると開示している。
【0027】
他方で、トランジスタ動作時に無駄な電圧降下を生じさせないためには、ソース電極抵抗およびドレイン電極抵抗をできるだけ減らさなければならない。ソース電極抵抗およびドレイン電極抵抗を下げるためには、ソース電極2−16Sの厚さt,ドレイン電極2−16Dの厚さtをできるだけ厚くする必要がある。
【0028】
しかしながら、Au薄膜2−12をエッチングする過程で、ソース電極2−16Sおよびドレイン電極2−16Dのゲート電極2−17G側の端面に図13Eに示すような角度θがおよそ45度の逆メサ構造が生じるため、ソース・ゲート電極間隔dSG、ゲート・ドレイン電極間隔dGDは、ソース電極2−16Sの厚さt、ドレイン電極2−16Dの厚さtより狭くすることができないという問題があった。つまり、従来の技術では、「ソース・ゲート電極間隔、ゲート・ドレイン電極間隔を狭くすること」と「ソース電極の厚さ、ドレイン電極の厚さを厚くすること」との2つの要件を同時に満足させることができなかった。
【0029】
図14A〜Cに、従来の方法で作製したダイヤモンドトランジスターの特性を示す。これは非特許文献3で開示された結果であって、全てゲート長0.2μmのトランジスタの特性に統一している。図14Aに示すドレイン電流電圧特性において、ゲート長dで規格化した最大ドレイン電流は、高々0.35A/mmである。また、図14Bに示す相互コンダクタンスgのゲート電圧V依存性(伝達特性)において、ゲート長dで規格化した最大相互コンダクタンスgmmaxは、高々150mS/mmである。さらに図14Cに示す電力利得Uの周波数f依存性において、動作周波数の上限の最大発振周波数fmaxは、高々81GHzである。また図では示されていないが、ドレイン絶縁破壊電圧は、高々45Vである。
【0030】
よって本発明の第2の目的は、「ソース・ゲート電極間隔dSG、ゲート・ドレイン電極間隔dGDを狭くすること」と「ソース電極の厚さt、ドレイン電極の厚さtを厚くすること」とを両立することにより、最大発振周波数fmaxを高くしてダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を大きく向上させ、かつ電圧降下を小さく抑えることにより実用レベルに到達させることにある。
【0031】
また、従来のダイヤモンド単結晶薄膜の作製方法について図22A、22Bを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−1を用意する(図22A)。次いで、マイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとしてダイヤモンド単結晶基板3−1上に基板温度700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−2を1−5μm程度積層する(図22B)。CVD法により得られたダイヤモンド薄膜の表面はas-grownの状態で水素終端されており表面伝導性を有し、P型半導体として機能する。
【0032】
非特許文献5では、シリコン基板上に形成されたダイヤモンド薄膜の結晶性を良くするために、1×10‐6Torrの真空にされたセラミックチューブ内に上記ダイヤモンド薄膜を配置し、真空中で、1000℃以上の高温アニールを行うことが記載されている。
【0033】
さて、図22A、22Bにて説明した従来のダイヤモンド単結晶薄膜の作製方法にて作製されたダイヤモンド単結晶薄膜は室温で平均移動度が800cm/Vs程度であり、高品質薄膜が再現性良く得られている。しかしながら、上記ダイヤモンド単結晶薄膜中には、成長丘、異常成長粒子等の多数の結晶欠陥や不純物が存在する。
【0034】
また、非特許文献5では、アニールを行う温度が1200℃以上になると、ダイヤモンド薄膜の劣化に伴うband−A発光(欠陥に由来する発光)が増大している。すなわち、特許文献2では、1200℃以上で結晶性の劣化が増大してしまう。
【0035】
アニールを高温にすればするほど結晶性は良くなるので、より高温でアニールを行うことが望ましい。しかしながら、非特許文献5では、結晶性を良くするために高温にすると、ある温度(1200℃)以上になると、ダイヤモンド薄膜のグラファイト化が進み、結晶性の劣化が増大してしまう。
【0036】
よって本発明の第3の目的は、ダイヤモンド薄膜内に存在する結晶欠陥、不純物等を減少させ、高品質なダイヤモンド薄膜を作製可能なダイヤモンド薄膜作製方法を提供することにある。
【0037】
また、ダイヤモンドは、ケイ素(Si)に比べ、半導体としての物理特性において優れていることが知られている。ダイヤモンド素子は、Si素子の高温動作で5倍、高電圧性能で30倍、高速化では3倍の特性を有することが理論上確認されている。そのため、ダイヤモンドは、高い熱伝導率、絶縁破壊電界強度を有する高出力デバイスや、高いキャリアの移動度、飽和ドリフト速度を有する高周波デバイス等を実現するものとして期待されている。つまり、ダイヤモンド半導体を用いた電界効果トランジスタ(FET),バイポーラートランジスターにより、従来の半導体を遥かに越えた、高周波で駆動し、大電力動作可能な電子素子になる。また、ダイヤモンド半導体を用いた半導体レーザー、発光ダイオードが実現すると波長が225ナノメートルの紫外領域の高輝度発光素子が実現することが理論上明らかとなっている(非特許文献6参照)。
【0038】
ダイヤモンドは、バンドキャップが5.5eVであり本来絶縁体であるが、Siの場合と同様に、III 族元素であるBをドーピングすると、アクセプター凖位を形成し、理論上はp型半導体になるとされている。
【0039】
トランジスタまたは光デバイス構造中のp型半導体層は、正孔濃度が1.0×1015cm‐3未満の場合、絶縁体と同様に高抵抗であるため、p型半導体として十分に機能せず、用を成さない。また、このトランジスタまたは光デバイス構造中のp型半導体層は、そのドーパント元素の密度が1.0×1021cm‐3を越える場合、金属的な電気伝導を示すようになるため、この場合もp型半導体として十分に機能せず、用を成さない。したがって、p型半導体層は、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0040】
また、半導体中の正孔濃度およびドーパント原子濃度は温度に依存するため、デバイスの実用性を保証するには、室温(300K)付近の動作温度において上記要件を満たすことが重要である。さらに、家電、電力機器、産業機器などの大電力において用いる場合には、特に高温状態での動作が求められるため、室温よりも高い温度、例えば500K付近においても上記要件を満たすことが必要となる。
【0041】
しかしながら、図38に示すように、ダイヤモンドにボロン(B)をドーピングする従来の技術では、B原子濃度1.0×1021cm‐3の時でも、室温(300K)において6×1014cm‐3の正孔濃度しか得られないという問題があった。図38は、横軸に測定温度(K)、縦軸に従来のp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm−3)をとり、従来のp型ダイヤモンド半導体中のB原子濃度毎に測定値をプロットしたものである。この値は、300Kにおいて実用上要求される1.0×1015cm‐3を満たさないため、その結果、ダイヤモンド半導体をトランジスタや光デバイスとして実用化することができないという問題があった。
【0042】
また、ダイヤモンド半導体の300K付近での正孔濃度を高める手段として、B原子濃度を1.0×1021cm‐3よりさらに高くすることが考えられるが、B原子濃度が1.0×1021cm‐3より高くなると、ダイヤモンドの結晶品質が劣悪になり、ダイヤモンドの半導体としての性質が失われるので実用にはならないという問題があった。
【0043】
よって本発明の第4の目的は、室温(300K)以上において正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下である実用的なp型ダイヤモンド半導体とその製造方法を提供することにある。
【0044】
ダイヤモンドは、上述のように物質中最高の熱伝導率(22W/cmK)と絶縁破壊電界(>10MV/cm)、高いキャリア移動度(電子:4500cm/Vs、ホール:3800cm/Vs)を兼ね備えた半導体であり、高効率ドーピングが実現すればSi、GaAs、GaNを凌駕する高周波高出力で動作するトランジスタが実現する。
【0045】
ダイヤモンドにドーピングを行う方法の1つにイオン注入法がある。このイオン注入法は不純物を高電圧で加速し、数kV〜数MVのエネルギーを与え、結晶中に不純物イオンを導入する手法であり、高エネルギープロセスを伴うため、加速電圧に比例して結晶中にダメージ(結晶欠陥、アモルファス層等)が生じる。このダメージは適切な高温アニール処理を行うことによって除去することができ、それによってドーパントが電気的に活性化され、注入された不純物による半導体特性が現れる。但し、ダイヤモンドは常圧(1気圧)下では熱力学的に準安定層であるため、通常用いられている常圧又は真空下でのアニールでは、高品質ダイヤモンド半導体が得られない。そのため、特許文献1では下記に示すように高圧力下での高温アニールを行っている。
【0046】
図43A−43Eに、従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す。ダイヤモンド単結晶(図43A)に、イオン注入装置にてドーパント(ホウ素)を加速電圧150kV、ドーズ両1×1016cm−2の条件で打ち込み(図43B−43C)、5GPa、1700Kの圧力、温度で1時間焼成(アニール)する(図43D)。
【0047】
しかしながら、このようにアニール処理をしたダイヤモンド薄膜は高抵抗であり、半導体的特性を示さないという問題があった。これは、高温高圧アニール処理の過程でダイヤモンド表面のエッチングが起こり、イオン注入された層が削られてしまうためである(図43D)。このように、従来手法ではイオン注入により形成されたダイヤモンド層が、高温高圧アニール中にエッチングされてしまい、ダイヤモンド半導体が得られないという問題があった。
【0048】
よって本発明の第5の目的は、イオン注入したダイヤモンドの高温高圧アニールにより起こるダイヤモンド表面のエッチングを防ぎ、従来の方法では得られない高品質P型、N型ダイヤモンド半導体を得るダイヤモンド半導体の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0049】
本発明は、上記第2の目的を達成するために、本発明の態様は、ダイヤモンド半導体素子であって、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極がダイヤモンド単結晶薄膜上にそれぞれ離間して形成されたダイヤモンド半導体素子において、ソース電極は、ダイヤモンド単結晶薄膜側の第1の領域と、第1の領域以外の第2の領域とを含み、第1の領域のゲート電極側の第1の端面とゲート電極との間の第1の距離は、第2の領域のゲート電極側の第2の端面とゲート電極との間の第2の距離以下であり、ドレイン電極は、ダイヤモンド単結晶薄膜側の第3の領域と、第3の領域以外の第4の領域とを含み、第3の領域のゲート電極側の第3の端面とゲート電極との間の第3の距離は、第4の領域のゲート電極側の第4の端面とゲート電極との間の第4の距離以下であることを特徴とする。
【0050】
前記第1の距離が、0.1μmから10μmの範囲にあり、第2の距離が、第1の距離から30μmの範囲にあることができる。
【0051】
前記第3の距離が、0.1μmから50μmの範囲にあり、第4の距離が、第3の距離から50μmの範囲にあることができる。
【0052】
前記第1の領域の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、第2の領域の厚さは、0.2μm以上であることができる。
【0053】
前記第3の領域の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、第4の領域の厚さは、0.2μm以上であることができる。
【0054】
本発明の態様は、ダイヤモンド半導体素子であって、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極がダイヤモンド単結晶薄膜上にそれぞれ離間して形成されたダイヤモンド半導体素子において、ソース電極は、ダイヤモンド単結晶薄膜上に形成された第1の下部金属膜と、第1の下部金属膜上に形成された第1の上部金属膜とを少なくとも含み、第1の下部金属膜のゲート電極側の第1の端面とゲート電極との間の第1の距離は、第1の上部金属膜のゲート電極側の第2の端面とゲート電極との間の第2の距離以下であり、ドレイン電極は、ダイヤモンド単結晶薄膜上に形成された第2の下部金属膜と、第2の下部金属膜上に形成された第2の上部金属膜とを少なくとも含み、第2の下部金属膜のゲート電極側の第3の端面とゲート電極との間の第3の距離は、第2の上部金属膜のゲート電極側の第4の端面とゲート電極との間の第4の距離以下であることを特徴とする。
【0055】
前記第1の距離が、0.1μmから10μmの範囲にあり、第2の距離が、第1の距離から30μmの範囲にあることができる。
【0056】
前記第3の距離が、0.1μmから50μmの範囲にあり、第4の距離が、第3の距離から50μmの範囲にあることができる。
【0057】
前記第1の下部金属膜の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、第1の上部金属膜の厚さは、0.2μm以上であることができる。
【0058】
請求項10に記載の発明は、請求項6乃至9に記載のダイヤモンド半導体素子であって、第2の下部金属膜の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、第2の上部金属膜の厚さは、0.2μm以上であることを特徴とする。
【0059】
前記第1の下部金属膜は、金またはそれを含む合金でできており、第1の上部金属膜は、金、白金,パラジウム,チタン,モリブデン,タングステンのいずれかの金属または、それを含む合金とすることができる。
【0060】
前記第2の下部金属膜は、金またはそれを含む合金でできており、第2の上部金属膜は、金、白金,パラジウム,チタン,モリブデン,タングステンのいずれかの金属または、それを含む合金とすることができる。
【0061】
本発明の別の態様は、ダイヤモンド半導体素子作製方法であって、ダイヤモンド単結晶薄膜上に第1の金属膜を形成するステップと、第1の金属膜上に第2の金属膜を形成するステップと、第2の金属膜の第1の領域に第1の金属膜の表面まで達する第1の開口部を形成するステップと、開口部から露出している第1の金属膜の表面の一部にエッチングを行い、ダイヤモンド単結晶薄膜の表面まで達する第2の開口部を形成するステップと、第2の開口部から露出しているダイヤモンド単結晶薄膜上に第3の金属膜を形成するステップとを備えたことを特徴とする。
【0062】
前記第1の開口部を形成するステップでは、第1の開口部の幅が第2の金属膜の厚さよりも大きくなるように、第1の開口部を形成することができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、ダイヤモンド半導体において、ソース電極およびドレイン電極を、リフトオフする層と、エッチングする層とに分けて形成することにより、「ソース・ゲート電極間隔、ゲート・ドレイン電極間隔を狭くすること」と「ソース電極の厚さ、ドレイン電極の厚さを厚くすること」とを両立させてダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を大きく向上させ、実用レベルに到達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】本発明の第1の実施形態に掛かるダイヤモンド半導体素子の構造を示す図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態に掛かるダイヤモンド半導体素子の構造を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の構造を示す図である。
【図3A】第1の実施形態のダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図3B】第1の実施形態のダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図3C】第1の実施形態のダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図3D】第1の実施形態のダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図4A】本発明の第1の実施形態に掛かるダイヤモンド半導体素子のトランジスタの特性である。
【図4B】本発明の第1の実施形態に掛かるダイヤモンド半導体素子のトランジスタの特性である。
【図5A】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図5B】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図5C】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。
【図6】ダイヤモンド基板を除去した構造の本発明に掛かるダイヤモンド半導体素子の構造を示す図である。
【図7A】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7B】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7C】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7D】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7E】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7F】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7G】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7H】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7I】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図7J】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図8A】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子を用いたゲート長0.2μmのダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を示す図であって、ドレイン電流電圧特性を示す図である。
【図8B】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子を用いたゲート長0.2μmのダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を示す図であって、相互コンダクタンスgのゲート電圧V依存性(伝達特性)を示す図である。
【図8C】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子を用いたゲート長0.2μmのダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を示す図であって、電力利得Uの周波数f依存性を示す図である。
【図9A】下部ソース・ゲート間隔dSGBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図9B】上部ソース・ゲート間隔dSGTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図10A】ゲート・下部ドレイン間隔dGDBとドレイン絶縁破壊電圧VBRとの関係を示す図である。
【図10B】ゲート・上部ドレイン間隔dGDTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図11A】下部ソース電極2−6SBの厚さtSBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図11B】上部ソース電極2−6STの厚さtSTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図12A】下部ドレイン電極2DBの厚さtDBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図12B】上部ドレイン電極2DBの厚さtDTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す図である。
【図13A】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13B】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13C】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13D】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13E】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13F】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図13G】従来技術によるダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す図である。
【図14A】従来技術によるダイヤモンド半導体素子を用いたトランジスタの特性であって、ドレイン電流電圧特性を示す図である。
【図14B】従来技術によるダイヤモンド半導体素子を用いたトランジスタの特性であって、相互コンダクタンスgのゲート電圧V依存性(伝達特性)を示す図である。
【図14C】従来技術によるダイヤモンド半導体素子を用いたトランジスタの特性であって、電力利得Uの周波数f依存性を示す図である。
【図15A】本発明の実施例1によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図15B】本発明の実施例1によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図15C】本発明の実施例1によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図15D】本発明の実施例1によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図16A】本発明の実施例2によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図16B】本発明の実施例2によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図16C】本発明の実施例2によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図16D】本発明の実施例2によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17A】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17B】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17C】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17D】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17E】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図17F】本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18A】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18B】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18C】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18D】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18E】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図18F】本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図19A】本発明の実施例5によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図19B】本発明の実施例5によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図19C】本発明の実施例5によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図19D】本発明の実施例5によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図20A】本発明の実施例6によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図20B】本発明の実施例6によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図20C】本発明の実施例6によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図20D】本発明の実施例6によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明するための図である。
【図21】本発明の一実施形態に係る、ダイヤモンド及びグラファイトの安定な領域を示す図である。
【図22A】従来の方法によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明する為の図である。
【図22B】従来の方法によるダイヤモンド薄膜の作製方法を説明する為の図である。
【図23A】本発明の実施例1による高圧高温アニール前後のダイヤモンド単結晶薄膜上に作製した電界効果トランジスタの電流−電圧特性を比較するための図である。
【図23B】本発明の実施例1による高圧高温アニール前後のダイヤモンド単結晶薄膜上に作製した電界効果トランジスタの電流−電圧特性を比較するための図である。
【図24】本発明の実施形態に係るドーパント原子の、原料ガス中の濃度とp型ダイヤモンド半導体中の濃度との関係を示す図である。
【図25】本発明の実施形態4に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Al原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図26】本発明の実施形態5に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Be原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図27】本発明の実施形態6に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Ca原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図28】本発明の実施形態7に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Cd原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図29】本発明の実施形態8に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Ga原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図30】本発明の実施形態9に係るp型ダイヤモンド半導体中の各In原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図31】本発明の実施形態11に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Mg原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図32】本発明の実施形態12に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Zn原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図33】本発明の実施形態15に係るMESFET(金属−半導体 電界効果トランジスター)の断面構成図を示す図である。
【図34】本発明の実施形態16に係るMISFET(金属−絶縁膜−半導体 電界効果トランジスタ)の断面構成図を示す図である。
【図35】本発明の実施形態17に係るnpn型バイポーラートランジスターの断面構成図を示す図である。
【図36】本発明の実施形態18に係るpnp型バイポーラートランジスターの断面構成図を示す図である。
【図37】本発明の実施形態19に係る発光ダイオード(LED)の断面構成図を示す図である。
【図38】従来のp型ダイヤモンド半導体中の各B原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図39】本発明の実施形態10に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Li原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す図である。
【図40A】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40B】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40C】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40D】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40E】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40F】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図40G】本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41A】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41B】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41C】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41D】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41E】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図41F】本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図42】ホウ素(B)をドーパントとしてイオン注入を行ったダイヤモンド薄膜の高温高圧アニール前後のカソードルミネッセンス(CL)スペクトル(測定温度:10K)を示す図である。
【図43A】従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図43B】従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図43C】従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図43D】従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【図43E】従来の技術によるイオン注入法を用いたダイヤモンド半導体の作製工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
第1の目的を達成するため、本発明に係るダイヤモンド半導体素子は、単結晶ダイヤモンド基板、単結晶ダイヤモンド薄膜、正孔もしくは電子チャンネルの各面方位、並びに、ゲート電極の形成方向を、本発明特有の方向とすることを特徴としている。以下、この第1の目的を達成するための本発明に係るダイヤモンド半導体素子の構造と製造方法を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1A、1Bは、本発明の実施形態1に係るダイヤモンド半導体素子の構造図である。図1Bの断面図に示したように、単結晶ダイヤモンド基板1−1の上に、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2が形成されている。単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の中には、二次元の正孔または電子チャンネル1−3が形成されている。そして、単結晶ダイヤモンド基板1−1の面方位と単結晶ダイヤモンド基板1−1の結晶軸[001]方向との成す角度をαs、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の面方位と単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の結晶軸[001]方向との成す角度をαd、チャンネル1−3の面方位と単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の結晶軸[001]方向との成す角度をαcとする。図1Aの上面図に示したように、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面上には、ソース電極1−4、ゲート電極1−5、ドレイン電極1−6がそれぞれ形成されている。単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の内部に形成されるチャンネル1−3は、点線で示してある。ゲート電極1−5の長手方向
【0066】
【数5】

【0067】
と単結晶ダイヤモンド薄膜の結晶軸[110]との成す角度をβとする。αs、αd、αcおよびβについては、後述する。次に、本ダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する。
【0068】
図3A〜3Dは、本発明に係るダイヤモンド半導体素子の作成工程を説明する図である。図3Aに示すように、まず、面方位が主に結晶軸の[001]方向を向いている単結晶ダイヤモンド基板1−1を用意する。
【0069】
次に、図3Bに示すように、単結晶ダイヤモンド基板1−1表面の面方向
【0070】
【数6】

【0071】
が、単結晶ダイヤモンド基板1−1の結晶軸の[001]方向からαs(°)傾くように、表面研磨を行う。この表面研磨は、例えば、次のような手順により実行できる。まず、予めX線回折測定によって、基板表面の[001]面方位からの傾斜角度を測定しておく。そして、単結晶ダイヤモンド基板1−1を試料台にワックスで接着する。その後、鉄の平板上にダイヤモンド砥粒(粒径0.3μmから1μm)をオイルと一緒に塗布する。単結晶ダイヤモンド基板1−1が接着されたこの試料台を鉄の平面上に置いて、試料台を固定した状態で、鉄の平板を回転させ研磨を行う。一定の時間の研磨をした後に、X線回折測定により傾斜角度を測定し、所望の角度αsが得られるまで、上述した研磨とX線回折測定を繰返す。すなわち、図3Bに示したように、研磨によって単結晶ダイヤモンド基板面方位が所定のαsとなるように、基板を削り取る。αs(°)傾ける面は、後述する次の工程において、単結晶ダイヤモンド薄膜を成長させる面だけでもよい。
【0072】
次に、図3Cに示すように、αsの面方位角度を形成した単結晶ダイヤモンド基板1−1上に単結晶ダイヤモンド薄膜1−2を結晶成長させる。この薄膜の結晶成長は、例えば、マイクロ波プラズマCVD法により実行できる。より詳細には、単結晶ダイヤモンド基板1−1が置かれた反応管内に、原料ガスとしてメタンガスと水素ガス(メタンガスの流量比は1%)を供給する。反応管内の真空度は50Torrにし、2.45GHz、1.3kWのマイクロ波を照射し、反応管内にプラズマを発生させる。単結晶ダイヤモンド基板1−1の温度は、700度に設定する(以上、条件1)。単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面の面方位
【0073】
【数7】

【0074】
は、単結晶ダイヤモンド基板1−1面と同様に、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の結晶軸の[001]方向から、αd(°)傾けて形成することができる。
【0075】
また単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の内部には、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面に沿って、二次元の正孔または電子チャンネル1−3を形成する。チャンネル1−3は、上記の単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の場合と同様に、例えば、マイクロ波プラズマCVD法により形成する。すなわち、反応管内の温度、真空度、マイクロ波の条件は同じとして、原料ガスの条件を水素ガスのみに変える(条件2)。作成途中の単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面に、この条件2によって、プラズマを15分間照射することにより、チャンネル1−3が形成される。その後、元の条件(条件1)に戻し、再び単結晶ダイヤモンド薄膜1−2を形成することによって、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の内部にチャンネル1−3を形成することができる。
【0076】
尚、上述した条件1、条件2は、正孔チャンネルを用いる場合の例である。電子チャンネルを用いてダイヤモンド半導体素子を構成する場合には、原料ガスとして、水素、メタンガス、フォスフィン(PH3)ガスを使用することが出来る(条件3)。この場合は、まず条件1で、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2を形成し、条件3に変更して電子チャンネル1−3を形成し、条件1に戻し、再び単結晶ダイヤモンド薄膜1−2を形成する。二次元のチャンネル1−3の形成面の面方位
【0077】
【数8】

【0078】
は、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の結晶軸の[001]方向から、αc(°)傾けて形成することが出来る。
【0079】
次に、図3Dに示すように、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面にソース電極1−4,ゲート電極1−5,ドレイン電極1−6を形成する。単結晶ダイヤモンド薄膜1−2表面の上方から見ると、ソース電極1−4直下とドレイン電極1−6直下にチャンネル1−3が存在する(チャンネル1−3は、図3Dの上面図において点線で示してある)。ゲート電極1−5は、ソース電極1−4とドレイン電極1−6の中間に配置する。単結晶ダイヤモンド薄膜1−2表面の上方から見た場合に、ゲート電極1−5は、チャンネル1−3と交差するように配置する。チャンネル1−3の上方のゲート電極1−5の長手方向
【0080】
【数9】

【0081】
は、図3Dで示したように、単結晶ダイヤモンド薄膜結晶軸の[110]方向、もしくは結晶軸の[110]方向からβ(度)傾いた方向となるようにゲート電極1−5を作製する。上述の各工程によって、本発明に掛かるダイヤモンド半導体素子構造による電界効果トランジスタが完成する。
【0082】
ここで、αs、αd、αcの関係についてさらに説明する。まず前述した単結晶ダイヤモンド基板1−1の研磨工程により、αsを決定した後、そのまま、単結晶ダイヤモンド薄膜層1−2およびチャンネル1−3を形成すれば、αs=αd=αcとなる。しかし、この条件には限定されることは無く、それぞれの角度を独立に制御することも可能である。例えば、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2を形成した後、電極を形成する前に、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の表面を研磨して傾斜させることにより、αdとαsを異なる角度とすることも出来る。また、チャンネル1−3の形成する直前に、一旦反応管より取り出して、それまで形成した単結晶ダイヤモンド薄膜表面を研磨して傾斜させ、その後、チャンネル1−3を形成することで、αsとαcを独立に制御することも可能である。
【0083】
図4A、4Bは、上述した本発明に掛かる工程により作製された電界効果トランジスタの特性を示す図である。 図4Aは、最大相互コンダクタンスgmmaxと各面方位の[001]方向からの傾斜角度(αs、αc、αd)との関係を示す図である。ここでは、同時にαs、αd、αcを同じ角度として、変化させている。相互コンダクタンスは、電界効果トランジスタの性能を表す最も基本的なパラメータである。一般に、結晶欠陥の存在は、代表的なデバイス性能gmによって評価することが可能である。gmが高ければ、結晶欠陥が少ないと評価できる。尚、図4Bにおいて後述するβの値は0°である。
【0084】
従来技術によって作製されたトランジスタにおいては、単結晶ダイヤモンド基板等の面方位は、正確に[001]方向を向いている。すなわち、αs=0°、αc=0°、αd=0°の状態となる。この場合、gmmaxは40〜80mS/mm程度であった。
【0085】
図4Aから分かるように、αs、αc、αdを大きくするに従って、gmmaxは急激に増加し、αs=0.05°,αc=0.05°,αd=0.05°の条件では、gmmax=310〜390mS/mmとなる。αs、αc、αdが0.05°〜1.1°の範囲で、gmmaxは300mS/mm以上となる。一方、αs、αc、αdが1.1°を越えると、gmmaxは急激に減少する。このように、αs、αc、αdを0.05°〜1.1°の範囲とすることによって、従来技術と比べて格段に大きいgmmaxを得ることが出来る。上述のように、単結晶ダイヤモンド基板等の面方位をわずかに[001]方向からずらすことによって、ダイヤモンド特有の結晶欠陥の発生を著しく抑えることができ、高い電界効果トランジスタの相互コンダクタンスが得られる。
【0086】
図4Bは、最大相互コンダクタンスgmmaxとゲート電極の長手方向の[110]方向からの傾斜角度βとの関係を示す図である。この場合、αs=αc=αd=0.05°である。
【0087】
従来技術においては、ゲート電極の長手方向には[100]方向が用いられてきた。すなわち、ゲート電極の長手方向を[100]方向に向けたときは、図4Bにおいてβ=±45°とした状態に相当する。従来技術であるβ=±45°のこの条件においては、gmmaxは高々25mS/mmであった。
【0088】
本発明に係るダイヤモンド半導体素子においては、βを−30°〜30°の範囲において、gmmaxは100mS/mm以上であり、β=0°(g=[110]に相当)ではgmmaxは200mS/mmにも達する。このように、ゲート電極1−5を形成する方向を上述の範囲に最適化することにより、初めて実用レベルの相互コンダクタンスを有するダイヤモンド半導体を用いた電界効果トランジスタを作製することができる。
【0089】
以上の説明においては、チャンネル1−3が単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の内部に構成されている場合について説明してきた。しかしながら、チャンネル1−3を形成する工程の後に、再び単結晶ダイヤモンド薄膜を2形成させないで、チャンネル1−3の表面上に、直接、ソース電極1−4,ゲート電極1−5,ドレイン電極1−6を形成する構造によっても、半導体素子として動作させることができる。すなわち、図1Bにおけるチャンネル1−3の上方に形成した単結晶ダイヤモンド薄膜1−2層が無い構成も可能となる。この場合、チャンネル1−3の表面の面方位と単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の結晶軸[001]方向との成す角度αc、および単結晶ダイヤモンド基板1−1の面方位と単結晶ダイヤモンド基板1−1の結晶軸[001]方向との成す角度αsを、それぞれ、上述した範囲に設定することにより、より簡易な構成で、同様の結晶欠陥の発生を抑制する効果が得られる。したがって、図1Bに示したように、チャンネル1−3が、単結晶ダイヤモンド薄膜層1−2の厚み方向のちょうど中間部に位置する構造に限定されないことは言うまでもない。
【0090】
さらに、図1における単結晶ダイヤモンド基板1−1を、ソース電極1−4,ゲート電極1−5,ドレイン電極1−6を形成する前に除去して、結果的に、単結晶ダイヤモンド基板1−1がない構造も取り得る。すなわち、図6に示すように、図1から単結晶ダイヤモンド基板1−1を取り除いて、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2、チャンネル1−3、ソース電極1−4,ゲート電極1−5,ドレイン電極1−6からなる構造によっても、本発明特有の効果が得られる。この場合には、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2は、膜単体でも構造的に自立できるように、比較的厚い膜厚となる。単結晶ダイヤモンド基板1−1の除去は、例えば研磨によって行うことが出来る。
【0091】
次に、本明細書において使用されている面方位の定義について説明する。[110]方向や[100]方向は、単結晶ダイヤモンド基板1−1面の主な方向、または単結晶ダイヤモンド薄膜1−2表面の主な方向を[001]方向と指定した際の、方向の定義であることはいうまでもない。ダイヤモンドは、結晶学的に立方格子(立方結晶)の格子系を取る。一般に、結晶面は、その面が形成される際に切らなければならない原子間の結合の数が少ないほど、出現しやすいという性質がある。そのためダイヤモンドの場合、出現しやすい面方位は、[001]、[111]、[011]である。前述のように、ダイヤモンドは立方晶系であるので、[001]、[100]、[010]等は物理的に等価である。数学的には、[100]、[−100]、[010]、[0−10]、[00―1]も存在する。しかし、結晶の対称性からこれらはすべて[001]と等価である(詳細は、非特許文献2を参照)。本明細書においては、単結晶ダイヤモンド基板1−1面の主な方向、または、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2表面の主な方向を[001]方向と記載している。尚、「主な方向」は、上述した最も出現しやすい面方位ということを表している。
【0092】
単結晶ダイヤモンド基板1−1面の主な方向、または単結晶ダイヤモンド薄膜1−2表面の主な方向を[001]方向と定義した場合、ゲート電極1−5の長手方向の好ましい方向である[100]方向は、[010]方向と結晶学的に等価である。したがって、[100]方向という本明細書の記載は、[010]方向をも当然に含むものである。尚、先にも述べたように、[100]、[−100]、[010]、[0−10]、[00―1]は等価であり、これらを総称して、ゲート電極1−5の長手方向の好ましい方向である[100]方向としている。[110]方向についても、総称であることに注意すべきである。
【0093】
図3A〜3Dに示した工程においては、単結晶ダイヤモンド基板1−1を用いた。しかし、単結晶ダイヤモンド基板1−1を用いない場合であっても、単結晶ダイヤモンド薄膜1−2の面方位、または、チャンネル1−3面の面方位が、図4において説明したαd、αcのそれぞれの角度範囲にあれば、同様に相互コンダクタンスを大きくする効果があることは言うまでも無い。単結晶ダイヤモンド基板1−1を使用しない場合には、例えば、Ir(イリジウム金属)、MgO、Siを基板として使用することが可能である。単結晶ダイヤモンド薄膜を形成させることの出来る基板であればよい。
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2に係るダイヤモンド半導体素子の構造を示す図である。本実施形態の構造は、大電力動作に適した構造である。本実施形態においては、ゲート電極を、競技場のトラックの形状に配置している。単結晶ダイヤモンド基板1−11の上に、単結晶ダイヤモンド薄膜1−12、並びに、単結晶ダイヤモンド薄膜の内部に二次元の正孔もしくは電子チャンネル1−13が形成されている。図2に示したように、チャンネルは小判型の形状をしている。そして、単結晶ダイヤモンド薄膜1−12の表面上には、ソース電極1−14、ゲート電極1−15、ドレイン電極1−16がチャンネル1−13の上方に形成されている。最内部にある小判型形状のドレイン電極1−16の周囲を囲むようにして、外周に向かって順次、ゲート電極1−15、およびソース電極1−14が形成されている。
【0094】
図2には、明示されていないが、本実施形態においても、単結晶ダイヤモンド基板1−11、単結晶ダイヤモンド薄膜1−12、チャンネル1−13の各面方位は、それぞれ、実施形態1の場合と同じ範囲のαs、αd、αcとなるようにする。小判型形状の両端の2つの円弧部分を除く、直線状の領域において、ゲート電極1−15の長手方向は、結晶軸[110]方向からβ度傾いた向きとなるように、各電極が配置されている。図4に示した場合と同様に、相互コンダクタンスを大きくする効果があることは言うまでも無い。
【0095】
以上、詳細に述べたように、単結晶ダイヤモンド薄膜、単結晶ダイヤモンド基板、またはチャンネル形成面の面方位をわずかに[001]方向からずらすことによって、ダイヤモンド特有の結晶欠陥の発生を著しく抑えるという本発明特有の効果を得ることができる。格段に高い電界効果トランジスタの相互コンダクタンスが得られ、実用に供することのできるダイヤモンド半導体素子を実現することができる。
【0096】
次に、第2の目的を達成するための本発明に係るダイヤモンド半導体素子およびその作製方法を詳細に説明する。
(実施形態3)
図7A〜Jに、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の作製工程を示す。ダイヤモンド単結晶であって、その表面に平行な2次元的な正孔チャンネルを有する薄膜2−1(以降、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1と記す)を用意する(図7A)。ダイヤモンド単結晶薄膜2−1の表面全体に、厚さが0.1μmとなるようにAuを蒸着させ、Au薄膜2−2Bを形成する(図7B)。次にAu薄膜2−2B上のゲート電極を設ける領域に20μm幅でレジスト2−3を塗布し(図7C)、その上から試料の表面全面にAu薄膜2−2Tを蒸着させる(図7D)。このとき、Au薄膜2−2Tの厚さは0.4μmである。
【0097】
次に、レジスト2−3をリフトオフし、レジスト2−3とその上に蒸着されているAu薄膜2−2Tの一部を除去して、Au薄膜2−2Tに開口部2−7を形成する(図7E)。上手くレジスト2−3をリフトオフするためには、レジスト2−3の長手方向に垂直でダイヤモンド単結晶薄膜2−1の面と水平な方向の距離は、Au薄膜2−2Tのダイヤモンド単結晶薄膜2−1の面と垂直な方向の厚さよりも長くする必要がある。次にレジスト2−4を試料全面に塗布する(図7F)。Au薄膜2−2Bとレジスト2−4とが接している領域内のゲート電極を形成する領域に0.05μm幅で露光および現像を行い、レジスト2−4の一部を除去してAu薄膜2−2Bに開口部2−8を形成する(図7G)。
【0098】
次にエッチング溶液で、開口部2−8から露出しているAu薄膜2−2Bの一部をエッチングする(図7H)。エッチングは等方的に起きることから、レジスト2−4の下の領域のAu薄膜2−2Bもエッチングされ、アンダーカットが生じる。エッチングは、Au薄膜2−2Tに達する前に止める。
【0099】
次に、Alを試料全面に蒸着させる(図7I)。Alの一部は、Au薄膜2−2Bの開口部2−8からダイヤモンド単結晶薄膜2−1に蒸着され、Al薄膜2−5Gを形成する。一方、その他の大部分は、レジスト2−4上に蒸着されてAl薄膜2−5を形成する。その後レジスト2−4のリフトオフを行い、レジスト2−4およびレジスト2−4上のAl薄膜2−5を除去する(図7J)。
【0100】
ここで、Au薄膜2−2Bの一方を下部ソース電極2−6SBとし、他方を下部ドレイン電極2−6DBとする。また、下部ソース電極2−6SB上のAu薄膜2−2Tを上部ソース電極2−6STとし、下部ドレイン電極2−6DB上のAu薄膜2−2Tを上部ドレイン電極2−6DTとする。但し、本明細書においては下部ソース電極、上部ソース電極と分けて記載しているが、下部ソース電極2−6SBと上部ソース電極2−6STとは、上下合わせて1つのソース電極として機能することから、下部ソース電極2−6SBと上部ソース電極2−6STとで1つのソース電極と見なすことができる。下部ドレイン電極と上部ドレイン電極も同様に1つのドレイン電極と見なすことができる。また、Al薄膜2−5Gをゲート電極2−7Gとする。
【0101】
本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子においては、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1は単結晶および多結晶のいずれでも良く、また、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1中のチャンネルは電子および正孔のいずれであってもよい。
【0102】
ここで、ゲート長をdとし、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1の表面と接している下部ソース電極2−6SBの端とゲート電極2−7Gのソース側の端との間の下部ソース・ゲート間隔をdSGBとし、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1の表面と接している下部ドレイン電極2−6DBの端とゲート電極2−7Gのドレイン側の端との間のゲート・下部ドレイン間隔をdGDBとする。また、上部ソース電極2−6STの端とゲート電極2−7Gのソース側の端との間の上部ソース・ゲート間隔をdSGTとし、上部ドレイン電極2−6DTの端とゲート電極2−7Gのドレイン側の端との間のゲート・上部ドレイン間隔をdGDTとする。
【0103】
ソース電極全体の厚さをtとし、その内、下部ソース電極2−6SBの厚さをtSBとし、上部ソース電極2−6STの厚さをtSTとする。ドレイン電極全体の厚さをtとし、その内、下部ドレイン電極2−6DBの厚さをtDBとし、上部ドレイン電極2−6DBの厚さをtDTとする。
【0104】
このように、ソース電極およびドレイン電極を、エッチング溶液を用いてエッチングする層とレジストを用いてリフトオフする層とに分けて形成する。これにより電極の逆メサ部を小さくすることができるため、ソース電極とゲート電極との間隔を小さくして最大発振周波数fmaxを上げ、かつソース電極およびドレイン電極の厚みを厚くして電圧降下を小さく抑えることができる。
【0105】
また、本実施形態では、ソース電極およびドレイン電極は、それぞれ上部金属膜であるAu薄膜2−2Tと下部金属膜であるAu薄膜2−2Bとの2層の金属膜から形成されているが、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1と接する金属膜の厚さを薄くすることができればソース電極およびドレイン電極は幾層であってもよい。
【0106】
また、本実施形態では、下部ソース電極2−6SBおよび下部ドレイン電極2−6DBのゲート電極2−7G側の端面が逆メサ形状である。しかし、本発明で重要なことは、「ソース・ゲート電極間隔、ゲート・ドレイン電極間隔を狭くする」ための層と、「ソース電極の厚さ、ドレイン電極の厚さを厚くする」ための層とを別々に形成することにあるので、下部ソース電極2−6SBおよび下部ドレイン電極2−6DBのゲート電極2−7G側の端面の構造は逆メサ構造に限定されない。
【0107】
図8A〜Cに、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子を用いたダイヤモンド電界効果トランジスタの特性を示す。ここで用いるダイヤモンド半導体素子の各寸法は、d=0.2μm、dSGB=dGDB=0.1μm、dSGT=dGDT=1μm、tSB=tDB=0.05μm、tST=tDT=10μmである。
【0108】
図8Aに、本実施形態に係るダイヤモンド電界効果トランジスタのドレイン電流電圧特性を示す。最大ドレイン電流IDmaxは、従来型での値が0.35A/mmであったのに対し、本実施形態では1A/mmに達する。図8Bに、本実施形態に係るダイヤモンド電界効果トランジスタの相互コンダクタンスgのゲート電圧V依存性(伝達特性)を示す。最大相互コンダクタンスgmmaxは、従来型での値が150mS/mmであったのに対し、本実施形態では520mS/mmに達する。図8Cに、本実施形態に係るダイヤモンド電界効果トランジスタの電力利得Uの周波数f依存性を示す。図8Cに示すように最大発振周波数fmaxは、従来型での値が81GHzであったのに対し、本実施形態では310GHzに達する。
【0109】
このように、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子は、電界効果トランジスタ特性を従来のダイヤモンド半導体素子に対して大きく改善し、実用レベルのダイヤモンドトランジスターを可能とする。
【0110】
本発明の一実施形態に係るダイヤモンドトランジスターの寸法による特性の変化について、図7Jを参照しながら詳述する。ゲート電極2−7Gの形状がいわゆるT型ゲート(またはマッシュルーム型ゲートとも呼ぶ)などの場合には、ゲート電極2−7Gのダイヤモンド単結晶薄膜表面と接している部分における距離をゲート長dとする。またこのような場合、下部ソース・ゲート間隔dSGB、上部ソース・ゲート間隔dSGTを、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1の表面と接している部分のゲート電極2−7Gのソース側の端からそれぞれ下部ソース電極2−6SB、上部ソース電極2−6STまでの距離とし、ゲート・下部ドレイン間隔dGDB、ゲート・上部ドレイン間隔dGDTを、ダイヤモンド単結晶薄膜2−1の表面と接している部分のゲート電極2−7Gのドレイン側の端からそれぞれ下部ドレイン電極2−6DB、上部ドレイン電極2−6DTまでの距離とする。また、図9A、9B〜12A、12Bにおいて用いるダイヤモンド半導体素子は、変数として用いる箇所の寸法以外は、d=0.2μm、dSGB=dGDB=0.1μm、dSGT=10μm、dGDT=50μm、tSB=tDB=0.05μm、tST=tDT=10μmの寸法を有するものとする。
【0111】
図9Aに、下部ソース・ゲート間隔dSGBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。dSGBが増加すると、fmaxは減少するが、dSGBが0.1μmから10μmまで増加するとき、fmaxは250GHzから100GHzまでの減少に止まり、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることができる。
【0112】
図9Bに、上部ソース・ゲート間隔dSGTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。dSGTが増加すると、fmaxは減少するが、dSGBが0.07μmから30μmまで増加するとき、fmaxは250GHzから120GHzまでの減少に止まり、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることができる。
【0113】
図10Aに、ゲート・下部ドレイン間隔dGDBとドレイン絶縁破壊電圧VBRとの関係を示す。dGDBが増加すると、VBRは増加するが、dGDBが0.05μmから0.1μmあたりで急激に増加し、0.1μm以上の範囲において、VBRは100V以上になる。従来の構成におけるVBRの45Vに比べて良好な特性を得ることができる。ただしdGDBが50μmを越えると、fmaxが減少する。
【0114】
図10Bに、ゲート・上部ドレイン間隔dGDTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。dGDTが増加すると、3μmまではfmaxが増加するが、それ以上では、fmaxは減少する。ここでdGDTが30μmのとき、fmaxは140GHzを示し、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を示すことができた。
【0115】
図11Aに、下部ソース電極2−6SBの厚さtSBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。tSBが増加するとfmaxは減少するが、tSBが0.01μmから0.2μmまで増加するとき、fmaxは260GHzから130GHzまでの減少に止まり、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることかができる。
【0116】
図11Bに、上部ソース電極2−6STの厚さtSTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。tSTが増加すると、fmaxも増加するが、tSTが0.2μmのとき、fmaxは100GHzであり、tSTが100μmのときには、fmaxは270GHzに達する。これにより、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることかができる。
【0117】
図12Aに、下部ドレイン電極2−6DBの厚さtDBと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。tDBが増加すると、fmaxは減少するが、tDBが0.01μmから0.2μmまで増加するとき、fmaxは300GHzから100GHzまでの減少に止まり、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることかができる。
【0118】
図12Bに、上部ドレイン電極2−6DBの厚さtDTと最大発振周波数fmaxとの関係を示す。tDTが増加すると、fmaxは増加するが、tDTが0.2μmのとき、fmaxは100GHzであり、tDTが100μmのときには、fmaxは280GHzに達する。これにより、従来の構成におけるfmaxの81GHzに比べて良好な特性を得ることかができる。
【0119】
表1は、ソース電極およびドレイン電極の材料がAuである従来のダイヤモンド半導体素子と、下部ソース電極2−6SB、下部ドレイン電極2−6DBの材料がAuPt合金である本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子との最大発振周波数fmaxを示したものである。このとき上部ソース電極2−6ST、上部ドレイン電極2−6DTの材料はAuである。上述のダイヤモンド半導体素子の電極材料にはAuを用いているが、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の電極材料に組成比がAu:Pt=8:2であるAuPt合金を用いると、fmaxは220GHzへ飛躍的に増加する。
【0120】
【表1】

【0121】
表2は、ソース電極およびドレイン電極の材料がAuである従来のダイヤモンド半導体素子と、上部ソース電極2−6ST、上部ドレイン電極2−6DTの材料が、組成比がAu:Pt=8:2であるAuPt合金、Pt、Pd、Ti、Mo、Wである本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子との最大発振周波数fmaxを示したものである。このとき下部ソース電極2−6SB、下部ドレイン電極2−6DBの材料はAuである。上述のダイヤモンド半導体素子の電極材料にはAuを用いているが、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド半導体素子の電極材料に表2に示す電極材料を用いると、fmaxは飛躍的に増加する。
【0122】
【表2】

【0123】
このように、下部ソース電極2−6SBおよび下部ドレイン電極2−6DBと、上部ソース電極2−6STおよび上部ドレイン電極2−6DTとは、それぞれ異なる材料で形成することもできる。
【0124】
次に、第3の目的を達成するための本発明に係るダイヤモンド薄膜作製方法を詳細に説明する。
本発明の一実施形態は、ダイヤモンド結晶薄膜をダイヤモンドが安定な高圧力下で十分な温度を与えて焼成(アニール)する事を大きな特徴とする。ダイヤモンド結晶薄膜の結晶性を良くする為の試みは、真空中、1000℃以上の高温アニールを用いて行なわれている(非特許文献5参照)が、ダイヤモンドは元来1.5Gpa以上の超高圧化で安定である為、高温真空アニールでは劣化が起こる。そこで、本発明の一実施形態では、ダイヤモンドが安定な高圧力下でアニールを行う。これにより、結晶中に含まれる格子欠陥等が回復、除去され、ダイヤモンド結晶薄膜を高品質化する事ができる。
【0125】
本明細書において、「(ダイヤモンドが)安定な、安定に」とは、ダイヤモンドがグラファイト化せずにダイヤモンドの状態を保つ状態を指す。すなわち、ダイヤモンドが安定である、とは、高温、高圧でアニールを行っても、グラファイト化せずに、ダイヤモンドの状態を保っている状態である。例えば、単結晶のダイヤモンドの場合、ダイヤモンド単結晶がグラファイト化せずに単結晶状態を保つ状態である。よって、ダイヤモンドが安定な状態になるような高圧下でダイヤモンド結晶薄膜をアニールすることにより、ダイヤモンド結晶薄膜のグラファイト化を防止ないしは軽減することができる。
【0126】
また、ダイヤモンドが安定にアニール出来る領域内でアニールを行う温度(アニール温度、とも呼ぶ)Tおよびアニールを行う圧力(アニール圧力、とも呼ぶ)Pが決定される。この領域は、図21に示される、P>0.71+0.0027TまたはP=0.71+0.0027Tを満たし、なおかつP≧1.5GPaの領域である。このような領域は、図21中の斜線部分である。なお、P≧0.71+0.0027Tの関係式は当業者には良く知られた関係である。そして、温度Tは、550℃であるとより最適である。
【0127】
なお、図21において、記号〇、記号×はダイヤモンド結晶薄膜に高圧高温アニールを行った条件を示す。記号〇はアニール後もダイヤモンド構造が安定であった条件を表し、記号×はアニール後、ダイヤモンド基板がグラファイト化した条件を表す。
【0128】
本発明の一実施形態では、アニール温度およびアニール圧力を上記領域内で設定すれば、すなわち、ダイヤモンドが安定となるアニール温度およびアニール圧力を設定すれば、ダイヤモンド結晶薄膜の劣化を軽減することができる。また、アニール温度を高くしても、アニール圧力を高くすれば、上記領域内に収まるので、アニール温度を高く設定することができる。よって、結晶の欠陥を減少させることが可能となる。従って、本発明の一実施形態によれば、ダイヤモンド結晶薄膜の高品質化を図ることができる。
【0129】
上記アニールは、ダイヤモンド単結晶基板上に、マイクロ波プラズマCVD装置等によりダイヤモンド結晶薄膜を形成し、該ダイヤモンド結晶薄膜が形成されたダイヤモンド単結晶基板を超高圧高温焼成炉に入れて行うことができる。
【0130】
また、上記ダイヤモンド結晶薄膜が形成されたダイヤモンド単結晶基板を2つ用意し、それぞれのダイヤモンド結晶薄膜の表面(ダイヤモンド結晶薄膜における、ダイヤモンド単結晶基板とその上に形成されたダイヤモンド結晶薄膜との界面と対向する面)同士を接触するように、上記2つの基板を重ね合わせて、アニールを行っても良い。なお、この重ね合わせを、2つのダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部が接触するように行えば良い。このように重ね合わせることによって、アニール中、ダイヤモンド結晶薄膜の表面が空気中に曝される表面が無くなる、もしくは減少するので、空気中の酸素、窒素、水蒸気の影響を軽減することができる。また、アニール中は、圧力をかけるためにサンプルの周りをNaCl等により囲むことになるが、上記重ね合わせによって、アニール中に、NaCl等がダイヤモンド結晶薄膜の表面に付着することを軽減することができる。
【0131】
このように、2つのダイヤモンド結晶薄膜をそれぞれの表面を内側になるように重ね合わせることによって、2つのダイヤモンド結晶薄膜のそれぞれについて、対向する方のダイヤモンド結晶薄膜に対する保護部材として機能させることができる。すなわち、一方のダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部と他方のダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部とを接触させることにより、一方で他方の接触領域を覆うことになる。このように重ね合わせてアニールすることによって、2つのダイヤモンド結晶基板のそれぞれについて表面を保護しあいながら、一度にほぼ同一の位置にてアニールを行える、または2つの基板を別個にアニールするのに必要なスペースよりも少ないスペースにてアニールを行うことができる。よって、アニールを行うためのスペースを小さくすることができるので、一度にアニールを行える基板の数を増加させることができ、高品質なダイヤモンド結晶薄膜をより効率良く作製することができる。
【0132】
さらに、ダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部に、絶縁体薄膜、金属薄膜、合金等の保護部材を形成して、アニールを行うようにしても良い。このようにダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部を保護部材にて覆ってアニールを行うので、上記重ね合わせと同様に、アニール中における、空気中の酸素、窒素、水蒸気の影響を軽減することができる。また、アニール中における、NaCl等のダイヤモンド結晶薄膜の表面への付着を軽減することができる。
【0133】
なお、本明細書において、「保護部材」とは、ダイヤモンド結晶薄膜の表面への、空気中の各成分や圧力印加に用いるNaCl等の材料の影響を軽減するための部材である。この保護部材は、ダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部を覆う、または該少なくとも一部に形成されることによって機能する。すなわち、ダイヤモンド結晶薄膜の表面に保護部材が存在することによって、空気中の酸素、窒素、水蒸気等の各成分や、圧力印加に用いるNaCl等の材料が、ダイヤモンド結晶薄膜の表面に到達、付着するのを防ぐ、ないしは軽減することが可能となる。
【0134】
なお、本発明の一実施形態では、ダイヤモンド結晶薄膜を形成する基板は、ダイヤモンド単結晶基板に限定されず、例えば、ダイヤモンド多結晶基板、シリコン基板など他の基板を用いても良い。
また、基板上に形成されるダイヤモンド結晶薄膜も、ダイヤモンド単結晶薄膜でも良いし、ダイヤモンド多結晶薄膜であっても良い。
【0135】
以下、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド薄膜作製方法を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、ダイヤモンド単結晶薄膜は任意の厚さであって良く、下記実施例の値に限定されるものではない。
【0136】
(実施例1)
本発明の実施例1によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図15A〜15Dを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−11を用意する(図15A)。次いで、ダイヤモンド単結晶基板3−11上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−12を1−5μm程度積層する(図15B)。このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。本実施例では、マイクロ波プラズマCVD法を用いているが、ダイヤモンド薄膜が形成できる手法であれば成長方法は問わない。
【0137】
その後、ダイヤモンド単結晶薄膜3−12が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−11を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下で上記ダイヤモンド単結晶薄膜3−12のアニールを行う(図15C)。該アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図15D)。
【0138】
ところで、予備実験として図21に示すようにダイヤモンド結晶薄膜が形成されたダイヤモンド単結晶基板を様々の温度、圧力条件下でアニールしているが、1200℃、6GPaという条件はダイヤモンドが安定にアニールできる領域に位置している。
【0139】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、特性の比較を行った。ちなみに、ホール測定より得られる半導体の移動度は結晶性と密接に関連しており、結晶性が良いほど移動度が上昇する。本実施例ではサンプル間でのばらつきを抑えるため同条件で数個のサンプルを作製し、ホール測定を行い移動度の平均値(平均移動度)を求めている。
【0140】
表3から分かるように、アニール前のサンプル(図15B)、すなわち従来方法で作製したサンプルの室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図15D)は、平均移動度は1000cm/Vsとなり平均移動度は上昇している。
【0141】
また、高温高圧アニール前後のダイヤモンド結晶薄膜を用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製し、電流−電圧(Ids−Vds)測定を行い、特性を比較した(図23)。なお、上記FETでは、ソース、ドレイン電極には金を、ゲート電極としてはアルミニウムを使用しており、ゲート長は5μm、ゲート幅は100μmである。また、ゲート電圧は0−3.5Vで0.5V刻みで測定している。
【0142】
図23から分かるように、アニール前に見られた電流リークがアニール後には殆ど無くなり、特性が改善された。
これらの結果から、基板に形成されたダイヤモンド結晶薄膜に対して高圧高温アニールを行うことにより、ダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド結晶薄膜が高品質化されている事がわかる。このとき、アニール温度およびアニール圧力は、ダイヤモンドが安定となるように設定されているので、ダイヤモンド結晶薄膜の劣化を抑えることができる。さらに、ダイヤモンドが安定にアニールできる領域である限り、アニール温度は高くすることができるので、更なる欠陥の減少を図ることができる。
【0143】
【表3】

【0144】
(実施例2)
本発明の実施例2によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図16A〜16Dを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−21を用意する(図16A)。次いで、ダイヤモンド単結晶基板3−21上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−22を1−5μm程度積層する(図16B)。このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。また、本実施例では、上述のようにして作製されたダイヤモンド単結晶薄膜3−22が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−21を2枚用意する。
【0145】
その後、図16Cに示すように2枚のダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面が内側になるように重ね合わせた後、すなわち、2枚のダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面同士が接触するように重ね合わせた後、該重ね合わされた基板を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下でアニールを行う。
【0146】
なお、上記重ね合わせは、人の手で行っても良いし、基板を挟持し、該挟持された基板を所定の位置に配置する手段および該手段を駆動するための駆動手段を有する配置手段によって行っても良い。このような配置手段を用いる場合は、モータ等の駆動手段を駆動することにより、一方の、ダイヤモンド単結晶基板3−21を挟持し、他方の、ダイヤモンド単結晶基板3−21に対して、2枚のダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面が合わさるようにして、上記挟持されたダイヤモンド単結晶基板3−21を配置する。
このように、本実施例では、2つのダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面が接触するように重ね合わせることができれば、いずれの手段を用いても良い。
【0147】
上記アニールが終了すると、重ねあわされた2つの基板をそれぞれ分離すると、上記アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図16D)。
【0148】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、特性の比較を行った。表3から分かるように、アニール前のサンプル(図16B)、すなわち従来方法で作製したサンプルの室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図16D)は、1300cm/Vsとなり平均移動度は上昇した。これらの結果から高圧高温アニールによりダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド薄膜が高品質化されている事が理解される。また、本実施例では、アニール中、ダイヤモンド結晶薄膜の表面同士を接触するようにしているので、ダイヤモンド結晶薄膜に対する、空気中の、窒素、酸素、水蒸気等の影響を軽減することができる。また、上記重ね合わせにより、圧力をかけるために基板の周りに配置したNaClが、アニール中にダイヤモンド結晶薄膜の表面に付着することを減少させることができる。
【0149】
なお、本実施例では、2つのダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面同士を、該表面の全面が接触するように重ね合わせているが、これに限定されない。本実施例では、アニール中において、ダイヤモンド単結晶薄膜3−22の表面に対する、空気中の各成分や圧力印加に用いるNaCl等の影響を軽減することが重要であって、そのために、アニール中、上記表面を少しでも露出させないことが重要である。よって、本発明の一実施例では、2つの基板の重ね合わせを、2つのダイヤモンド結晶薄膜の表面の少なくとも一部が接触するように行えば、上記影響を軽減できる。
【0150】
このように、本実施例では、アニール中の、ダイヤモンド結晶薄膜の表面への、空気中の各成分や圧力印加に用いるNaCl等の影響を軽減するために、ダイヤモンド結晶薄膜の表面の露出を減少できれば良いので、2つのダイヤモンド結晶薄膜の表面が内側になるように重ね合わせることに限定されない。例えば、ダイヤモンド結晶薄膜の少なくとも一部に、保護部材としての、ダイヤモンド結晶基板や実施例3や4で後述する酸化物、窒化物、金属、合金等を配置することにより、上記少なくとも一部を保護部材にて覆うようにして、アニールを行うようにしても良い。
【0151】
(実施例3)
本発明の実施例3によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図17A〜17Fを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−31を用意する(図17A)。次いで、ダイヤモンド単結晶基板3−31上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−32を1−5μm程度積層する(図17B)。このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。
【0152】
その後、図17Cに示すようにダイヤモンド単結晶薄膜3−32上に、保護部材としての保護膜3−33を形成する。この保護膜3−33は、0.5μm程度の膜厚を有する様々な金属化合物とすることができる。このような保護膜3−33の材料を、これに限定されないが、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(AlO)等とすることができる。これら、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムは、ECRスパッタ法にて形成すれば良い。
【0153】
次いで、保護膜3−33およびダイヤモンド単結晶薄膜3−32が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−31を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下で上記ダイヤモンド単結晶薄膜3−32のアニールを行う(図17D)。該アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図17E)。次いで、保護膜3−33を除去するエッチングを行う(図17F)。
【0154】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、サンプルの特性比較を行った。表3から分かるように、アニール前のサンプル(図17B)、すなわち従来方法で作製したサンプルの室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図17F)の平均移動度は保護膜の種類によらず1300cm/Vsとなり従来方法より上昇した。これらの結果から高圧高温アニールによりダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド結晶薄膜が高品質化されている事が理解される。また、本実施例では、アニール中、ダイヤモンド結晶薄膜の表面には保護膜が形成されているので、ダイヤモンド結晶薄膜表面に対する、空気中の、窒素、酸素、水蒸気等の影響を軽減することができる。また、上記保護膜により、圧力をかけるために基板の周りに配置したNaClが、アニール中にダイヤモンド結晶薄膜の表面に付着することを減少させることができる。
【0155】
なお、本実施例では、保護膜3−33をダイヤモンド単結晶薄膜3−32の表面全面に形成しているが、これに限定されない。本実施例では、アニール中において、ダイヤモンド単結晶薄膜3−32の表面に対する、空気中の各成分や圧力印加に用いるNaCl等の影響を軽減することが重要であって、そのために、アニール中、上記表面を少しでも露出させないことが重要である。よって、本発明の一実施例では、保護膜をダイヤモンド単結晶薄膜の少なくとも一部に形成すれば、上記影響を軽減できる。
【0156】
(実施例4)
本発明の実施例4によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図18A〜18Fを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−41を用意する(図18A)。次いで、ダイヤモンド単結晶基板3−41上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−42を1−5μm程度積層する(図18B)。このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。
【0157】
その後、図18Cに示すようにダイヤモンド単結晶薄膜3−42上に、保護部材としての保護膜3−43を形成する。この保護膜3−43は、0.5μm程度の膜厚を有する様々の金属膜または合金膜とすることができる。このような保護膜3−43の材料を、これに限定されないが、例えば、白金(Pt)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン−アルミニウム合金(Ti65%−Al35%)等とすることができる。これら、白金、チタン、タングステン、パラジウム、モリブデン、チタン−アルミニウム合金等は真空蒸着法にて形成すれば良い。
また、本実施例では合金としてチタン−アルミニウム合金を用いたが、Pt,Ti,W,Pd,Moのうち少なくとも1種の金属を含む合金であれば良い。
【0158】
次いで、保護膜3−43およびダイヤモンド単結晶薄膜3−42が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−41を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下で上記ダイヤモンド単結晶薄膜3−42のアニールを行う(図18D)。該アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図18E)。次いで、保護膜3−43を除去するエッチングを行う(図18F)。
【0159】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、サンプルの特性比較を行った。表3から分かるように、アニール前のサンプル(図18B)、すなわち従来方法で作製したサンプルの室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図18F)の平均移動度は保護膜の種類によらず1300cm/Vsとなり従来方法より上昇した。これらの結果から高圧高温アニールによりダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド結晶薄膜が高品質化されている事が理解される。また、本実施例では、アニール中、ダイヤモンド結晶薄膜の表面には保護膜が形成されているので、ダイヤモンド結晶薄膜表面に対する、空気中の、窒素、酸素、水蒸気等の影響を軽減することができる。また、上記保護膜により、圧力をかけるために基板の周りに配置したNaClが、アニール中にダイヤモンド結晶薄膜の表面に付着することを減少させることができる。
【0160】
(実施例5)
本発明の実施例5によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図19A〜19Dを用いて説明する。面方位が(111)であるダイヤモンド単結晶基板3−51を用意する(図19A)。次いで、ダイヤモンド単結晶基板3−51上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃で、面方位が(111)であるダイヤモンド単結晶薄膜3−52を1−5μm程度積層する(図19B)。このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。
【0161】
その後、ダイヤモンド単結晶薄膜3−52が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−51を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下で上記ダイヤモンド単結晶薄膜3−52のアニールを行う(図19C)。該アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図19D)。
【0162】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、特性の比較を行った。表3から分かるように、アニール前のサンプル(図19B)、すなわち従来方法で作製したサンプルの室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図19D)は1200cm/Vsとなり平均移動度は上昇している。これらの結果から高圧高温アニールによりダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド結晶薄膜が高品質化されている事がわかる。
【0163】
(実施例6)
本発明の実施例6によるダイヤモンド薄膜の作製方法について図20A〜20Dを用いて説明する。面方位が(100)であるダイヤモンド単結晶基板3−61を用意する(図20A)。ダイヤモンド単結晶基板3−61上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガス(ガス濃度0.5%)とし、基板温度650−700℃でダイヤモンド単結晶薄膜3−62を1−5μm程度積層する(図20B)。本実施例では、ダイヤモンド結晶薄膜の成長中の基板温度(ダイヤモンド結晶薄膜を形成する際の、基板を熱するための温度)、メタン流量等を制御しているので、平均自乗粗さで1μmの範囲で30nm以下の表面平坦性を有するダイヤモンド結晶薄膜を得ることができる。
【0164】
上記基板温度およびメタン流量の制御条件を以下に示す。すなわち、基板温度については、650℃以上700℃以下に制御する。すなわち、基板温度は、ダイヤモンド結晶薄膜を形成する際の成長温度以上であり、700℃以下の温度で制御される。また、メタン流量については、水素流量に対するメタン流量の比率(流量(sccm)の比)である、メタン流量/水素流量が、0%より大きく、0.5%以下となるように制御する。反応ガスが水素のみ(上記比率が0%)の場合は、ダイヤモンド結晶薄膜は成長しないので、上記比率は、0%よりも大きく設定する必要がある。ただし、上記比率が、0%より大きく0.1%よりも小さい場合は、上記比率が0.1%以上、0.5%以下の場合に比べて、成長速度が遅くなるので、上記比率を、0.1%以上、0.5%以下とすることが好ましい。
【0165】
すなわち、本実施例では、上記基板温度の制御または上記メタン流量の制御の少なくとも一方を制御することにより、ダイヤモンド結晶薄膜の表面平坦性を向上することができる。
【0166】
このようにして形成されたダイヤモンド単結晶薄膜には、欠陥や不純物が含まれていることがある。また、本実施例では、上述のようにして作製されたダイヤモンド単結晶薄膜3−62が形成されたダイヤモンド単結晶基板3−61を2枚用意する。
【0167】
その後、図20Cに示すように2枚のダイヤモンド単結晶薄膜3−62の表面が内側になるように重ね合わせた後、該重ね合わされた基板を超高圧高温焼成炉内に配置し、1200℃、6GPaの条件下でアニールを行う。上記アニールが終了すると、重ねあわされた2つの基板をそれぞれ分離すると、上記アニールによって、欠陥や不純物を減少させた、高品質なダイヤモンド結晶薄膜を得る(図20D)。
【0168】
高圧高温アニール前後でダイヤモンド結晶薄膜のホール測定を行い、特性の比較を行った。表3から分かるように、アニール前のサンプル(図20B)、すなわち従来方法で作製したサンプル室温での平均移動度は800cm/Vs程度となった。一方、高圧高温アニール後のサンプル(図20D)は、1500cm/Vsとなり平均移動度は上昇した。これらの結果から高圧高温アニールによりダイヤモンド結晶薄膜中の欠陥が減少し、ダイヤモンド薄膜が高品質化されている事が分かる。
【0169】
次に、第4の目的を達成するための本発明に係るp型ダイヤモンド半導体およびその製造方法を詳細に説明する。
【0170】
本発明では、p型ダイヤモンド半導体における正孔濃度とドーパント原子濃度とを同時に改善するために、ダイヤモンドのp型ドーパント元素として、Bよりも活性化エネルギーが低い、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)または亜鉛(Zn)を用いる。その結果として、さらにこれらp型ダイヤモンドを構造の一部に用いることによって、300Kにおいても機能する、MES型、MIS型電界効果トランジスタ(FET),PNP型、NPN型バイポーラートランジスター、半導体レーザー、発光ダイオードの半導体素子が実現できる。
(実施形態4)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Alを含む有機金属原料である、トリメチルアルミニウム((CHAl:TMAl)およびトリエチルアルミニウム((CAl:TEAl)のいずれかを用いる。または、このドーパントガスを用いる代わりに、固体のAlをプラズマ中に挿入し、気化したAlをドーパントガスとして使用することもできる。
【0171】
得られるダイヤモンド半導体膜のホール測定を行い、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることが確認することができる。
【0172】
図24に、本発明の実施形態に係るドーパント原子の、原料ガス中の濃度とp型ダイヤモンド半導体中の濃度との関係を示す。SIMS(2次イオン質量分析)測定によりダイヤモンド半導体膜中のAl原子濃度を測定し、原料ガス中の炭素(C)の原子数に対するAlの原子数の比率(Al/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のAl原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24に示すように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
となる。
【0173】
図25に、本発明の実施形態4に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Al原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図25は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のAl原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0174】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、2.0×1017cm‐3以上のAl原子濃度が必要である。また、1.0×1021cm‐3を越えるAl原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Alをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルの300K付近におけるドーパント原子濃度は、2.0×1017cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0175】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するAlの原子数の比率(Al/C)は、2ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0176】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図25を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるAl原子濃度として、図25から2.6×1016cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するAlの原子数の比率(Al/C)は、(1)式から0.26ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0177】
p型ダイヤモンド半導体膜中のAl原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0178】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態4に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とAl原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域における条件の下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態4は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態4のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0179】
さらに、ドーパントガスとして、本発明のトリメチルアルミニウム((CHAl:TMAl)、トリエチルアルミニウム((CAl:TEAl)または塩化アルミニウム(AlCl)を用いた場合に得られる、各p型ダイヤモンド半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を表4に示す。
【0180】
【表4】

【0181】
表4に示すように、トリメチルアルミニウム((CHAl:TMAl)、トリエチルアルミニウム((CAl:TEAl)を用いた場合の方が、塩化アルミニウム(AlCl)を用いた場合よりも、室温正孔移動度は、約7倍も高く、非常に優れた特性を有している。
【0182】
(実施形態5)
ドーパントをBeにし、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してBe不純物ドープダイヤモンドを作製することができる。このBe不純物ドープダイヤモンドは、イオン注入法の他に、固体のBeをプラズマ中に挿入し、気化したBeをドーパントガスとするマイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製することができる。そのマイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、固体のBe、残部Hなる反応ガスを全流量300ccmを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。ここで反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。
【0183】
次に、得られたBe不純物ドープダイヤモンドにアニールを施す。得られた本発明のBeドープダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、p型半導体であることを確認することができる。
【0184】
SIMS測定によりダイヤンド半導体膜中のBe原子濃度yを測定し、原料ガス中のCの原子数に対するBeの原子数の比率(Be/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のBe原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0185】
1.0×1016cm−3〜1.0×1021cm−3の各Beドーパント原子濃度の試料における、正孔濃度の温度依存性をホール測定で測定した。その結果から、図26に、本発明の実施形態5に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Be原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図26は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のBe原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0186】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm−3を得るためには、7.0×1016cm−3以上のBe原子濃度が必要である。また1.0×1021cm−3を越えるBe原子濃度ではダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こる。従って、Beをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルの300K付近におけるドーパント原子濃度は、7.0×1016cm−3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0187】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するBeの原子数の比率(Be/C)は、0.7ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0188】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図26を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるBe原子濃度として、図26から1.3×1016cm‐3が導出される。
【0189】
Be原子濃度は、1.0×1021cm−3以下の範囲内では、高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0190】
また、本実施形態に係るp型ダイヤモンド半導体は、同じドーパント原子濃度で、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比較して、約25000倍の室温正孔濃度を得ることができる。
【0191】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態5に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とBe原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域における条件の下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態5は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態5のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0192】
(実施形態6)
ドーパントをCaにし、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にCaドーパントを注入してCa不純物ドープダイヤモンドを作製することができる。このCa不純物ドープダイヤモンドは、イオン注入法の他に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製することができる。マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここでドーパントガスには、塩化カルシウムCaClを用いる。または、このドーパントガスを用いる代わりに、固体のCaをプラズマ中に挿入し、気化したCaをドーパントガスとして使用することもできる。
【0193】
SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のCa原子濃度yを測定し、原料ガス中のCの原子数に対するCaの原子数の比率(Ca/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のCa原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0194】
1.0×1016cm−3〜1.0×1021cm−3の各Caドーパント原子濃度の試料における、正孔濃度の温度依存性をホール測定で測定した。その結果から、図27に、本発明の実施形態6に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Ca原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図27は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のCa原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0195】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm−3を得るためには、3.0×1017cm−3以上のCa原子濃度が必要である。また、1.0×1021cm−3を越えるCa原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こる。従って、Caをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルの300K付近におけるドーパント原子濃度は、3.0×1017cm−3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0196】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するCaの原子数の比率(Ca/C)は、3.0ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0197】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図27を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるCa原子濃度として、図27から3.2×1016cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するCaの原子数の比率(Ca/C)は、(1)式から0.32ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0198】
Ca原子濃度は、1.0×1021cm−3以下の範囲内では、高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0199】
また、本実施形態に係るp型ダイヤモンド半導体は、同じドーパント原子濃度で、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比較して、約5.7×10倍の室温正孔濃度を得ることができる。
【0200】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態6に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とCa原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域における条件の下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態6は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態6のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0201】
また、本実施形態で得られるp型ダイヤモンド半導体膜の正孔の室温における移動度は、Ca原子濃度を1.0×1019cm-3とした条件の下で200cm/Vsである。
【0202】
(実施形態7)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Cdを含む有機金属原料である、ジメチルカドミニウム((CHCd:DMCd)およびジエチルカドミニウム((CCd:DECd)のいずれかを用いる。
【0203】
得られたダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることを確認することができる。
【0204】
また、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のCd原子濃度を測定し、原料ガス中のCの原子数に対するCdの原子数の比率(Cd/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のCd原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0205】
図28に、本発明の実施形態7に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Cd原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図28は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)、p型ダイヤモンド半導体中のCd原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0206】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、2.0×1016cm‐3以上のCd原子濃度が必要であることが分かる。また1.0×1021cm‐3を越えるCd原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Cdをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルのドーパント原子濃度は、2.0×1016cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0207】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するCdの原子数の比率(Cd/C)は、0.2ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0208】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図28を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるCd原子濃度として、図28から6.4×1015cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するCdの原子数の比率(Cd/C)は、(1)式から0.064ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0209】
p型ダイヤモンド半導体膜中のCd原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高ければ高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0210】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態7に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とCd原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域における条件の下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態7は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態7のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0211】
さらに、ドーパントガスとして、本発明のジメチルカドミニウム((CHCd:DMCd)、ジエチルカドミニウム((CCd:DECd)または塩化カドミニウム(CdCl)を用いた場合に得られる、各p型ダイヤモンド半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を比較した結果を、表5に示す。
【0212】
【表5】

【0213】
表5に示すように、塩化カドミニウム(CdCl)を用いた場合に比べて、ジメチルカドミニウム((CHCd:DMCd)、ジエチルカドミニウム((CCd:DECd)を用いた場合の方が、室温正孔移動度は8倍以上も高く、非常に優れた特性を有している。
【0214】
(実施形態8)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Gaを含む有機金属原料である、トリメチルガリウム((CHGa:TMGa)またはトリエチルガリウム((CGa:TEGa)を用いる。
【0215】
得られたダイヤモンド半導体膜のホール測定を行い、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることを確認することができる。
【0216】
さらに、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のGa原子濃度を測定し、原料ガス中のCの原子数に対するGaの原子数の比率(Ga/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のGa原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0217】
図29に、本発明の実施形態8に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Ga原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図29は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)、p型ダイヤモンド半導体中のGa原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0218】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、3.0×1016cm‐3以上のGa原子濃度が必要であることが分かる。また1.0×1021cm‐3を越えるGa原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Gaをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルのドーパント原子濃度は、3.0×1016cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0219】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するGaの原子数の比率(Ga/C)は、0.3ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0220】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図29を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるGa原子濃度として、図29から8.1×1015cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するGaの原子数の比率(Ga/C)は、(1)式から0.081ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0221】
p型ダイヤモンド半導体膜中のGa原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0222】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態8に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とGa原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域に含まれる条件下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態8は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態8のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0223】
ドーパントガスとして、本発明のトリメチルアルミニウム((CHAl:TMAl)、トリエチルガリウム((CGa:TEGa)または塩化ガリウム(GaCl)を用いた場合に得られる、各p型ダイヤモンド半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を表6に示す。
【0224】
【表6】

【0225】
表6に示すように、塩化ガリウム(GaCl)を用いた場合よりも、トリメチルアルミニウム((CHGa,TMGa)、トリエチルアルミニウム((CGa,TEGa)を用いた場合の方が、室温正孔移動度が7倍以上も高く、非常に優れた特性を有している。
【0226】
(実施形態9)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Inを含む有機金属原料である、トリメチルインジウム((CHIn:TMIn)、またはトリエチルインジウム((CIn:TEIn)を用いる。
【0227】
得られたダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることを確認することができる。
【0228】
さらに、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のIn原子濃度を測定し、原料ガス中のCの原子数に対するInの原子数の比率(In/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のIn原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0229】
図30に、本発明の実施形態9に係るp型ダイヤモンド半導体中の各In原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図30は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のIn原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0230】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、1.5×1016cm‐3以上のIn原子濃度が必要であることが分かる。また1.0×1021cm‐3を越えるIn原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Inをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の実用レベルのドーパント原子濃度は、1.5×1016cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である。
【0231】
このことから、(1)式を用いて、原料ガス中のCの原子数に対するInの原子数の比率(In/C)は、0.15ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0232】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図30を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるIn原子濃度として、図30から5.1×1015cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するInの原子数の比率(In/C)は、(1)式から0.051ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0233】
p型ダイヤモンド半導体膜中のIn原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高ければ高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0234】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態9に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とIn原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域に含まれる条件下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態9は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態9のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0235】
さらに、ドーパントガスとして、本発明のトリメチルインジウム((CHIn:TMIn)、トリエチルインジウム((CIn:TEIn)または塩化インジウム(InCl)を用いた場合に得られる、各p型半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を表7に示す。
【0236】
【表7】

【0237】
表7に示すように、塩化インジウム(InCl)を用いた場合よりも、トリメチルインジウム((CHIn:TMIn)またはトリエチルインジウム((CIn:TEIn)を用いた場合の方が、室温正孔移動度が7倍以上も高く、非常に優れた特性を有している。
【0238】
(実施形態10)
ドーパントをLiにし、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にLiドーパントを注入してLi不純物ドープダイヤモンドを作製することができる。このLi不純物ドープダイヤモンドは、イオン注入法の他に、固体のLiをプラズマ中に挿入することによりマイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製することができる。流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスを全流量300ccmを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。ここで反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、メチルリチウム(CHLi)、エチルリチウム(CLi)、プロピルリチウム(CLi)のいずれかを用いることができる。
【0239】
次に、得られたLi不純物ドープダイヤモンドにアニールを施す。得られた本発明のLiドープダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、p型半導体であることを確認することができる。さらにSIMS測定よりダイヤンド半導体膜中のLiドーパント原子濃度を測定した。
【0240】
1.0×1016cm−3〜1.0×1021cm−3の各Liドーパント原子濃度の試料における、正孔濃度の温度依存性をホール測定で測定した。その結果から、図39に、本発明の実施形態10に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Li原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図39は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のLi原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0241】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm−3を得るためには、3.0×1017cm−3以上のLi原子濃度が必要である。また1.0×1021cm−3を越えるLi原子濃度ではダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こる。従って、Liをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の、実用レベルの300K付近におけるドーパント原子濃度は、3.0×1016cm−3以上1.0×1021cm‐3以下である必要がある。
【0242】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図39を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるLi原子濃度として、図39から3.2×1016cm‐3が導出される。
【0243】
Li原子濃度は、1.0×1021cm−3以下の範囲内では、高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0244】
また、本実施形態に係るp型ダイヤモンド半導体は、同じドーパント原子濃度で、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比較して、約5700倍の室温正孔濃度を得ることができる。
【0245】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態10に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とLi原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域における条件の下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態10は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態10のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0246】
【表8】

【0247】
(実施形態11)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Mgを含む有機金属原料である、ビスシクロペンタデエニールマグネシウム((CMg:CpMg)、またはビスメチルシクロペンタデエニールマグネシウム((CHMg:MCpMg)を用いる。
【0248】
得られたダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがP型半導体であることを確認することができる。
【0249】
さらにSIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のMg原子濃度を測定し、原料ガス中のCの原子数に対するMgの原子数の比率(Mg/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のMg原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0250】
図31に、本発明の実施形態11に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Mg原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図31は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)をとり、p型ダイヤモンド半導体中のMg原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0251】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、2.0×1018cm‐3以上のMg原子濃度が必要であることが分かる。また1.0×1021cm‐3を越えるMg原子濃度では、ダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Mgをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の実用レベルのドーパント原子濃度は、2.0×1018cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である。
【0252】
このことから、(1)式を用いると、原料ガス中のCの原子数に対するMgの原子数の比率(Mg/C)は、20ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0253】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図31を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるMg原子濃度として、図31から1.0×1017cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するMgの原子数の比率(Mg/C)は、(1)式から1.0ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0254】
p型ダイヤモンド半導体膜中のMg原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高ければ高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0255】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態11に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とMg原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域に含まれる条件下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態11は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態11のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0256】
さらに、ドーパントガスとして、本発明のビスシクロペンタデエニールマグネシウム(CMg:CpMg)、ビスメチルシクロペンタデエニールマグネシウム((CHMg:MCpMg)または塩化マグネシウム(MgCl)を用いた場合に得られる、各p型ダイヤモンド半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を表9に示す。
【0257】
【表9】

【0258】
表9に示すように、塩化マグネシウム(MgCl)を用いた場合よりも、ビスシクロペンタデエニールマグネシウム(CMg:CpMg)、またはビスメチルシクロオエンタデエニールマグネシウム((CHMg:MCpMg)を用いた場合の方が、室温正孔移動度は12倍以上も高く、非常に優れた特性を有している。
【0259】
(実施形態12)
マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、ダイヤモンド単結晶(001)面方位上に、1.0μmの厚さの本発明のダイヤモンド半導体膜を成長させる。反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。ここで、ドーパントガスには、Znを含む有機金属原料である、ジメチル亜鉛((CHZn:DMZn)またはジエチル亜鉛((CZn:DEZn)を用いる。
【0260】
得られたダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることを確認することができる。
【0261】
さらに、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のZn原子濃度を測定し、原料ガス中のCの原子数に対するZnの原子数の比率(Zn/C)x(ppm)を横軸にとり、半導体膜中のZn原子濃度y(cm‐3)を縦軸にとると、その関係は、図24のように、
x(ppm)×1017=y(cm‐3) ……… (1)
になる。
【0262】
図32に、本発明の実施形態12に係るp型ダイヤモンド半導体中の各Zn原子濃度に対する正孔濃度の温度依存性を示す。図32は、横軸に測定温度(K)、縦軸にp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度(cm-3)、p型ダイヤモンド半導体中のZn原子濃度(cm-3)毎に測定値をプロットしたものである。
【0263】
実用レベルの300K付近において正孔濃度1.0×1015cm‐3を得るためには、1.0×1017cm‐3以上のZn原子濃度が必要であることが分かる。また1.0×1021cm‐3を越えるZn原子濃度ではダイヤモンド結晶の品質の劣化が起こることが分かっている。従って、Znをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体素子の実用レベルのドーパント原子濃度は、1.0×1017cm‐3以上1.0×1021cm‐3以下である。
【0264】
このことから、(1)式を用いると、原料ガス中のCの原子数に対するZnの原子数の比率(Zn/C)は、1.0ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0265】
また、ドーパント原子濃度毎に各温度でのp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度の値をプロットした図32を用いて、各温度におけるp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるドーパント原子濃度を求めることができる。例えば、500Kでp型ダイヤモンド半導体中の正孔濃度が1.0×1015cm‐3となるZn原子濃度として、図32から1.6×1016cm‐3が導出される。この場合の原料ガス中のCの原子数に対するZnの原子数の比率(Zn/C)は、(1)式から0.16ppm以上10ppm以下の範囲にする必要があることが分かる。
【0266】
Zn原子濃度は、1.0×1021cm‐3以下の範囲内では、高ければ高いほど、高い正孔濃度が得られ、より実用に適することは言うまでも無い。
【0267】
また、p型半導体として機能するためには、正孔濃度が1.0×1015cm‐3以上で、かつ、ドーパント原子濃度が1.0×1021cm‐3以下であればよい。そのため、実施形態12に係るp型ダイヤモンド半導体は、正孔濃度の1.0×1015cm‐3の線とZn原子濃度の1.0×1021cm‐3の線とによって囲まれた領域に含まれる条件下で、p型半導体として機能する。例えば、実施形態12は、300K以外の温度においてもp型半導体として機能することができる。実施形態12のp型半導体として機能する領域は、Bをドーピングした従来のp型ダイヤモンド半導体と比べ非常に広く、様々な条件下においてp型半導体として機能する点において優れている。
【0268】
さらに、ドーパントガスとして、本発明において用いるジメチル亜鉛((CHZn:DMZn)、ジエチル亜鉛((CZn,DEZn)、または塩化亜鉛(ZnCl)とを用いた場合に得られる、各p型半導体膜の正孔の300Kにおける移動度を表10に示す。
【0269】
【表10】

【0270】
表10に示すように、塩化亜鉛(ZnCl)を用いた場合に比べて、ジメチル亜鉛((CHZn:DMZn)、ジエチル亜鉛((CZn:DEZn)を用いた場合の方が、室温正孔移動度が23倍以上も高く、非常に優れた特性を有している。
【0271】
(実施形態13)
ダイヤモンド粉末に、ドーパントとして、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを混入したものをFe−Ni溶媒に溶かし込む。5.0GPa、約1.4×10℃の条件下に7時間置くことで超高温高圧法により本発明のp型ダイヤモンド半導体膜を得ることができる。得られた本発明のp型ダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがP型半導体であることを確認することができる。
【0272】
さらに、表11に、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のドーパント原子濃度を測定し、原子濃度比率(ドーパント原子/C)を0.01%に一定にしたときの、p型ダイヤモンド半導体膜の300Kでの正孔濃度と正孔移動度を示す。
【0273】
【表11】

【0274】
室温正孔濃度は、従来の技術であるBをドーピングした場合(6.2×1012cm‐3)に比べて、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnは、4.8×10〜7.3.0×10倍も高く、非常に優れている。また、室温正孔移動度に関しては、従来の技術であるBをドーピングした場合(200cm/(Vs))に比べて、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnは、4.7〜5.7倍もあり、非常に優れている。
【0275】
(実施形態14)
ドーパントをAl、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnにし、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にドーパントを注入して不純物ドープダイヤモンドを作製した。次に、得られたダイヤモンドにアニールを施した。得られた本発明の不純物ドープダイヤモンド半導体膜のホール測定を行って、ホール係数の判定を行うと、それらがp型半導体であることを確認することができる。
【0276】
さらに、表12に、SIMS測定によりダイヤモンド半導体膜中のドーパント原子濃度を測定し、ドーパント原子濃度が1.0×1019cm‐3と一定にした時の、p型ダイヤモンド半導体膜の300Kでの正孔濃度、正孔移動度を示す。
【0277】
【表12】

【0278】
室温正孔濃度に関しては、従来の技術であるBをドーピングした場合(3.0×1012cm‐3)に比べて、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnは、1.0×10〜6.7×10倍もあり、非常に優れている。他方、室温正孔移動度に関しても、従来の技術であるBをドーピングした場合(50cm/(Vs))に比べて、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnは、18〜21倍もあり、非常に優れている。
【0279】
(実施形態15)
図33に、本発明の実施形態15に係るMESFET(金属−半導体 電界効果トランジスター)の断面構成図を示す。ダイヤモンド基板4−11上に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、1.0μmの厚さのp型ダイヤモンド半導体膜4−12を成長させる。本実施形態では、反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。このとき、ドーパントとしてAl、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いる。
【0280】
また、ドーパントとしてBeを用いる場合は、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してp型ダイヤモンド半導体膜4−12を作製する。
【0281】
トランジスタ間の電気的な絶縁を図るため、トランジスタ外側の領域で、ダイヤモンド基板4−11が露出するまで、p型ダイヤモンド半導体膜4−12をエッチングする。すなわち、p型ダイヤモンド半導体膜4−12が積層方向に垂直な面の面積がダイヤモンド基板4−11よりも小さくなり、かつダイヤモンド基板4−11の中心付近に位置する部分が残るようにエッチングを行う。
【0282】
p型ダイヤモンド半導体膜4−12上に、ソース電極4−13として金(Au)を、ゲート電極4−14としてAlを、ドレイン電極4−15としてAuを蒸着させ、FETを作製する。
【0283】
表13に、p型ダイヤモンド半導体膜4−12のドーパント原子濃度が1.0×1018cm‐3である従来のMESFETおよび本発明の実施形態15に係るMESFETの、300K時の相互コンダクタンス(gm)(増幅率)を示す。
【0284】
【表13】

【0285】
Bをドーピングしたダイヤモンド半導体膜を有する従来のMESFETでは、gm=0.0001mS/mmであるのに対し、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有するMESFETは、gmがその8.0×10〜1.5×10倍にもなり、非常に優れている。
【0286】
表13に示した実施形態15に係るMESFETのgm値は、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製されたp型ダイヤモンド半導体膜4−12を備えたことによって得られた結果である。p型ダイヤモンド半導体膜4−12の作製方法をイオン注入法または高温高圧合成法とした場合も、相互コンダクタンス(gm)は、実施形態15の半分ほどに減少するが、依然、従来のMESFETに比べて非常に優れている。
【0287】
(実施形態16)
図34に、本発明の実施形態16に係るMISFET(金属−絶縁膜−半導体 電界効果トランジスタ)の断面構成図を示す。ダイヤモンド基板4−21上に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、1.0μmの厚さのダイヤモンド半導体膜4−22を成長させる。本実施形態では、反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。このとき、p型ダイヤモンド半導体膜4−22におけるドーパントとして、Al、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いる。
【0288】
また、ドーパントとしてBeを用いる場合は、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してp型ダイヤモンド半導体膜4−22を作製する。
【0289】
トランジスタ間の電気的な絶縁のために、ダイヤモンド半導体膜4−22の外周部をダイヤモンド基板4−21が露出するまでエッチングする。すなわち、ダイヤモンド半導体膜4−22が積層方向に垂直な面の面積がダイヤモンド基板4−21よりも小さくなり、かつダイヤモンド基板4−21の中心付近に位置する部分が残るようにエッチングを行う。
【0290】
ダイヤモンド半導体膜4−22上に、ソース電極4−23としてAuを、ドレイン電極4−24としてAuを蒸着させ、ゲート領域に絶縁膜4−25としてSiOを、ゲート電極4−26としてAlを蒸着し、FETを作製する。
【0291】
表14に、ダイヤモンド半導体膜4−22のドーパント原子濃度が1.0×1018cm‐3である従来のMESFETおよび本発明の実施形態16に係るMISFETの、300K時の相互コンダクタンス(gm)(増幅率)を示す。
【0292】
【表14】

【0293】
Bをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有する従来のMISFETは、gm=1.0×10−5mS/mmであるのに対し、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnをドーピングしたダイヤモンド半導体膜を有するMISFETは、gmがその7.5×10〜1.3×10倍にもなり、非常に優れている。
【0294】
表14に示した実施形態12に係るMISFETのgm値は、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製されたダイヤモンド半導体膜4−22を備えたことによって得られた結果である。ダイヤモンド半導体膜4−22の作製方法にイオン注入法、高温高圧合成法を用いた場合も、相互コンダクタンス(gm)は実施形態12の半分ほどに減少するが、依然、デバイス特性は従来のMISFETに比べ、非常に優れている。
【0295】
(実施形態17)
図35に、本発明の実施形態17に係るnpn型バイポーラートランジスターの断面構成図を示す。ダイヤモンド基板4−31上に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、5.0μmの厚さのn型ダイヤモンド半導体膜4−32、0.5μmの厚さのp型ダイヤモンド半導体膜4−33およびn型ダイヤモンド半導体膜4−34とを順に成長させる。本実施形態では、反応管中圧力は50Torrであり、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。このとき、p型半導体膜4−33におけるドーパントとして、Al、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いる。
【0296】
また、ドーパントとしてBeを用いる場合は、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してp型ダイヤモンド半導体膜4−33を作製する。
【0297】
トランジスタ間の電気的な絶縁のために、n型ダイヤモンド半導体膜4−32の外周部をダイヤモンド基板4−31が露出するまでエッチングする。また、電極形成のために、図35のようにp型ダイヤモンド半導体膜4−33、n型ダイヤモンド半導体膜4−34にエッチングを施す。n型ダイヤモンド半導体膜4−32上にTiのコレクタ電極4−35を、p型ダイヤモンド半導体膜4−33上にNiのベース電極4−36を、n型ダイヤモンド半導体膜4−34上にTiのエミッター電極4−37を蒸着させる。
【0298】
表15に、p型ダイヤモンド半導体膜4−33のドーパント原子濃度が1.0×1018cm‐3である従来のnpn型バイポーラートランジスターおよび本発明の実施形態17に係るnpn型バイポーラートランジスターの、300K時の電流増幅率βを示す。
【0299】
【表15】

【0300】
Bをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有する従来のnpn型バイポーラートランジスターは、β=1.0×10−2であるのに対し、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有するnpn型バイポーラートランジスターは、電流増幅率βがその5.0×10〜2.0×10倍にもなり、非常に優れている。
【0301】
表15に示した実施形態17に係るnpn型バイポーラートランジスターの電流増幅率βは、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製されたp型ダイヤモンド半導体膜4−33を備えたことによって得られた結果である。p型ダイヤモンド半導体膜4−33の作製方法としてイオン注入法、高温高圧合成法を用いた場合においても、電流増幅率βは、実施形態17の半分ほどに減少するが、依然、従来のnpn型バイポーラートランジスターに比べて非常に優れている。
【0302】
(実施形態18)
図36に、本発明の実施形態18に係るpnp型バイポーラートランジスターの断面構成図を示す。ダイヤモンド基板4−41上に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、5.0μmの厚さのp型ダイヤモンド半導体膜4−42、0.5μmの厚さのn型ダイヤモンド半導体膜4−43、p型ダイヤモンド半導体膜4−44を順に成長させる。本実施形態では、反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。このとき、p型ダイヤモンド半導体膜4−42、4−44におけるドーパントとして、Al、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いる。
【0303】
また、ドーパントとしてBeを用いる場合は、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してp型ダイヤモンド半導体膜4−42、4−44を作製する。
【0304】
トランジスタ間の電気的な絶縁のために、p型ダイヤモンド半導体膜4−42の外周部をダイヤモンド基板4−41が露出するまでエッチングする。また、電極形成のために、図36のようにn型ダイヤモンド半導体膜4−43、p型ダイヤモンド半導体膜4−44にエッチングを施す。p型ダイヤモンド半導体膜4−42上にNiのコレクタ電極4−45を、n型ダイヤモンド半導体膜4−43上にTiのベース電極4−46を、p型ダイヤモンド半導体膜4−44上にNiのエミッター電極4−47を蒸着させる。
【0305】
表16に、p型ダイヤモンド半導体膜4−42、4−44のドーパント原子濃度が1.0×1018cm‐3である従来のpnp型バイポーラートランジスターおよび本発明の実施形態18に係るpnp型バイポーラートランジスターの、300K時の電流増幅率βを示す。
【0306】
【表16】

【0307】
Bをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有する従来のpnp型バイポーラートランジスターは、電流増幅率β=1.0×10であるのに対し、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnをドーピングしたp型ダイヤモンド半導体膜を有するpnp型バイポーラートランジスターは、電流増幅率βがその4.0×10〜1.8×10倍にもなり、非常に優れている。
【0308】
表16に示した実施形態18に係るpnp型バイポーラートランジスターの電流増幅率βは、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いて作製されたp型ダイヤモンド半導体膜4−42、4−44を備えたことによって得られた結果である。但し、p型ダイヤモンド半導体膜4−42、4−44の作製方法にイオン注入法、高温高圧合成法を用いた場合においても、電流増幅率βは、実施形態18の半分ほどに減少するが、依然、従来のpnp型バイポーラートランジスターに比べて非常に優れた特性を有している。
【0309】
(実施形態19)
図37に、本発明の実施形態19に係る発光ダイオード(LED)の断面構成図を示す。ダイヤモンド基板4−51上に、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法にて、流量比1%のメタンガス(CH)、ドーパントガス、残部Hなる反応ガスからなる全流量300ccmの混合ガスを原料として、5.0μmの厚さのp型ダイヤモンド半導体膜4−52、0.5μmの厚さのn型ダイヤモンド半導体膜4−53を順に成長させる。本実施形態では、反応管中圧力は50Torrとし、マイクロ波源は、周波数を2.45GHz、出力を1.3kWとする。このとき、p型半導体膜4−52におけるドーパントとして、Al、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いる。
【0310】
また、ドーパントとしてBeを用いる場合は、イオン注入法により、加速電圧150kV、注入量1015cm‐2の条件でダイヤモンド単結晶にBeドーパントを注入してp型ダイヤモンド半導体膜4−52を作製する。
【0311】
LED間の電気的な絶縁、電極形成のため、図37のようにp型ダイヤモンド半導体膜4−52、n型ダイヤモンド半導体膜4−53にエッチングを施す。そしてp型ダイヤモンド半導体膜4−52上にNiのアノード電極4−54を、n型ダイヤモンド半導体膜4−53上にTiのカソード電極4−55を蒸着させる。
【0312】
表17に、従来の発光ダイオード(LED)および本発明の実施形態19に係るLEDの、印加電圧7V、電流密度10A/mmとした場合の波長235nmでの発光輝度(出力電力密度)を示す。
【0313】
【表17】

【0314】
従来の技術であるBの場合、1.0×10ー4mW/mmであったが、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnを用いた場合、出力電力密度は、2.8×10〜7.1×10倍にもなり、非常に優れていることがわかった。
【0315】
図37では、p型ダイヤモンド半導体膜4−52、n型ダイヤモンド半導体膜4−53の順に積層しているが、順番が逆でも、特性が変わらなかった。すなわち、ダイヤモンド基板4−51上に、n型ダイヤモンド半導体膜、p型ダイヤモンド半導体膜の順で積層されたものでも、表17と同じ結果が得られる。
【0316】
表17に示した実施形態19に係るLEDの波長235nmでの発光輝度(出力電力密度)は、マイクロ波プラズマ化学気相堆積法で作製されたp型ダイヤモンド半導体膜4−52を備えたことによって得られた結果である。但し、p型ダイヤモンド半導体膜4−52の作製方法にイオン注入法、高温高圧合成法を用いた場合においても、波長235nmでの発光輝度(出力電力密度)は半分ほどに減少するが、依然、従来のLEDに比べて非常に優れた特性を有している。
【0317】
本発明は、Al、Be、Ca、Cd、Ga、In、Li、MgまたはZnのいずれかをドーパントとするp型ダイヤモンド半導体であることが重要なのであり、各実施形態において用いたp型ダイヤモンド半導体膜の作製方法に限定されない。
【0318】
次に、第5の目的を達成するために本発明に係るダイヤモンド半導体の作製方法を詳細に説明する。
【0319】
本発明は、保護層により表面のイオン注入ダイヤモンド薄膜を保護した上で高温高圧アニールすることにより、高温高圧アニールによる表面のエッチングを防ぎながら、イオン注入により形成されたダメージを除去することを可能にし、高品質なダイヤモンド半導体の作製を可能にする。
(実施形態20)
図40A−40Gに、本発明の実施形態20に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す。ダイヤモンド基板5−11を用意し(図40A)、そのダイヤモンド基板5−11上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとして基板温度700℃でダイヤモンド薄膜5−12を1μm積層する(図40B)。本実施形態ではマイクロ波プラズマCVD法を用いているが、ダイヤモンド薄膜5−12が形成できる手法であれば方法は問わない。また、高温高圧合成により作製したダイヤモンド単結晶を用いてもよい。
【0320】
上記ダイヤモンド薄膜5−12にイオン注入装置を用い、加速電圧60kV、ドーズ量1×1014cm−2でドーパントを打ち込む(図40C、40D)。ここで打ち込むドーパントとしては、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Be、Mg、Ca、P、As、Sb、O、S、Se、Li、Na、Kがある。
【0321】
その後、イオン注入ダイヤモンド薄膜5−13上に保護層(白金)5−14を形成する(図40E)。本実施形態では、保護層5−14に白金を使用しているが、保護層5−14は0.01〜10μmの薄膜を有する様々な金属、合金、酸化物、窒化物及びそれらの多層膜とすることができる。特に、チタン、タングステン、白金、パラジウム、モリブデンの内少なくとも1つを含む金属、あるいはAl1−xSi1−y(0≦x≦1、0≦y≦1)、あるいはこれらの内2種類以上を多層化した層とすることが望ましい。保護層5−14は蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザーアブレーション法により作製することができる。
【0322】
表面に保護層5−14が形成されたイオン注入ダイヤモンド薄膜5−13を、超高温高圧焼成炉内に配置し、3.5GPa以上、600℃以上の圧力、温度下でアニールする(図40F)。すなわち、圧力P(kbar)と温度T(K)とが、式P>7.1+0.027Tの関係(非特許文献7参照)を満たす35kbar以上の圧力、かつ873K以上の温度である条件下でアニールする。
【0323】
保護層5−14を酸で除去すると、半導体ダイヤモンド薄膜5−15が得られる(図40G)。
【0324】
一例として、1400℃、7GPaの条件下で1時間アニールを行って作製した半導体ダイヤモンド薄膜5−15上に電極を形成してホール測定を行い、極性、室温でのキャリア濃度、室温での移動度を求めた。表18に、この場合の半導体ダイヤモンド薄膜5−15の各ドーパントに対する極性、室温でのキャリア濃度、移動度を示す。
【0325】
【表18】

【0326】
表18に示すように、半導体ダイヤモンド薄膜5−15は、イオン注入ダイヤモンド薄膜5−13に保護層5−14を形成した上で、高温高圧アニールすることにより従来の作製方法では得られない高品質なP型及びN型半導体の特性を有している。
【0327】
さらに、図42に、一例としてホウ素(B)をドーパントとしてイオン注入を行ったダイヤモンド薄膜の高温高圧アニール前後のカソードルミネッセンス(CL)スペクトル(測定温度:10K)を示す。高温高圧アニール前のイオン注入ダイヤモンド薄膜5−13ではダイヤモンドに特有のフリーエキシトン(FE)関連発光が見られなかったが、1400℃、7GPaの条件下での高温高圧アニール後の半導体ダイヤモンド薄膜5−15ではFE関連発光が現れた。このFE発光は励起子に由来する発光であって、結晶の品質が高くなるにつれて発光強度が強くなるので、その発光強度により結晶品質を評価することができる。また、ホウ素に由来する束縛励起子発光(BE)も見られることから、ホウ素がダイヤモンド薄膜中でドーパントとして機能していることが分かる。
【0328】
これらのことは、作製された半導体ダイヤモンド薄膜5−15の結晶品質が、高温高圧アニール前のイオン注入ダイヤモンド薄膜5−13より良くなっており、かつ半導体ダイヤモンド薄膜5−15中にはホウ素が存在していることを示している。すなわち、ホウ素のイオン注入によりイオン注入ダイヤモンド薄膜5−13中に結晶欠陥やアモルファス層が導入され、ダイヤモンド結晶の劣化が起こるが、高温高圧アニールにより、これらの結晶欠陥、アモルファス層が除去され、ホウ素がドーパントとして活性化していることを示している。
【0329】
このようにCLの結果もまた、本実施形態に係るダイヤモンド半導体の作製方法により得られる半導体ダイヤモンド薄膜5−15が、従来方法では得られない高品質なP型、N型ダイヤモンド半導体であることを示唆している。
(実施形態21)
図41A−41Fに、本発明の実施形態21に係るダイヤモンド半導体の作製工程を示す。ダイヤモンド基板5−21を用意し(図41A)、そのダイヤモンド基板5−21上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとして基板温度700℃でダイヤモンド薄膜を1μm積層する(図41B)。
【0330】
その後、作製したダイヤモンド薄膜5−22にイオン注入装置を用い、加速電圧60kV、ドーズ量1×1014cm−2でドーパントを打ち込む(図41C−41D)。実施形態20と同様に、ここで打ち込むドーパントとしては、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Be、Mg、Ca、P、As、Sb、O、S、Se、Li、Na、Kがある。
【0331】
上記イオン注入ダイヤモンド薄膜が形成された2つの基板を、イオン注入ダイヤモンド薄膜の表面が内側になるように重ね合わせて超高温高圧焼成炉内に配置する。すなわち、ダイヤモンド基板5−21A上に形成されたダイヤモンド薄膜5−23Aと、ダイヤモンド基板5−21B上に形成されたダイヤモンド薄膜5−23Bとが接し、ダイヤモンド基板5−21A、5−21Bでダイヤモンド薄膜5−23A、5−23Bを挟みこむように重ね合せる。その後、重ねあわされた基板を超高温高圧焼成炉において、3.5GPa以上、600℃以上の圧力、温度下でアニールする(図41E)。すなわち、圧力P(kbar)と温度T(K)とが、式P>7.1+0.027Tの関係(非特許文献7参照)を満たす35kbar以上の圧力、かつ873K以上の温度である条件下でアニールする。
【0332】
高温高圧アニールが終了した後、重ね合わされたダイヤモンド基板5−21A、5−21Bを分離すると、高品質な半導体ダイヤモンド薄膜5−24を得ることができる(図41F)。ダイヤモンド薄膜5−23A、5−23Bは殆ど接着することがないので、ダイヤモンド基板5−21A、5−21Bは、自然に、又は軽い衝撃を加えることで容易に分離することができる。
【0333】
一例として、ダイヤモンド基板5−21にダイヤモンド(100)基板を用い、1400℃、7GPaの条件下で1時間高温高圧アニールを行って作成された半導体ダイヤモンド薄膜5−24上に電極を形成してホール測定を行い、極性、キャリア濃度、室温移動度を求めた。表19に、この場合の半導体ダイヤモンド薄膜5−24の各ドーパントに対する極性、室温でのキャリア濃度、移動度を示す。
【0334】
【表19】

【0335】
表19に示すように、本実施形態において作製される半導体ダイヤモンド薄膜5−24は高い室温移動度を持つことが分かる。これらの結果は、イオン注入ダイヤモンド薄膜5−23の表面を保護した上で高温高圧アニールすることにより、表面のエッチングを防ぎ、従来の方法では得られない高品質なP型及びN型ダイヤモンド半導体を得ることができることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極がダイヤモンド単結晶薄膜上にそれぞれ離間して形成されたダイヤモンド半導体素子において、
前記ソース電極は、前記ダイヤモンド単結晶薄膜側の第1の領域と、該第1の領域以外の第2の領域とを含み、前記第1の領域の前記ゲート電極側の第1の端面と前記ゲート電極との間の第1の距離は、前記第2の領域の前記ゲート電極側の第2の端面と前記ゲート電極との間の第2の距離以下であり、
前記ドレイン電極は、前記ダイヤモンド単結晶薄膜側の第3の領域と、該第3の領域以外の第4の領域とを含み、前記第3の領域の前記ゲート電極側の第3の端面と前記ゲート電極との間の第3の距離は、前記第4の領域の前記ゲート電極側の第4の端面と前記ゲート電極との間の第4の距離以下であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項2】
請求項1に記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第1の距離が、0.1μmから10μmの範囲にあり、前記第2の距離が、前記第1の距離から30μmの範囲にあることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第3の距離が、0.1μmから50μmの範囲にあり、前記第4の距離が、前記第3の距離から50μmの範囲にあることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第1の領域の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、前記第2の領域の厚さは、0.2μm以上であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第3の領域の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、前記第4の領域の厚さは、0.2μm以上であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項6】
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極がダイヤモンド単結晶薄膜上にそれぞれ離間して形成されたダイヤモンド半導体素子において、
前記ソース電極は、前記ダイヤモンド単結晶薄膜上に形成された第1の下部金属膜と、該第1の下部金属膜上に形成された第1の上部金属膜とを少なくとも含み、前記第1の下部金属膜の前記ゲート電極側の第1の端面と前記ゲート電極との間の第1の距離は、前記第1の上部金属膜の前記ゲート電極側の第2の端面と前記ゲート電極との間の第2の距離以下であり、
前記ドレイン電極は、前記ダイヤモンド単結晶薄膜上に形成された第2の下部金属膜と、該第2の下部金属膜上に形成された第2の上部金属膜とを少なくとも含み、前記第2の下部金属膜の前記ゲート電極側の第3の端面と前記ゲート電極との間の第3の距離は、前記第2の上部金属膜の前記ゲート電極側の第4の端面と前記ゲート電極との間の第4の距離以下であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項7】
請求項6に記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第1の距離が、0.1μmから10μmの範囲にあり、前記第2の距離が、前記第1の距離から30μmの範囲にあることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第3の距離が、0.1μmから50μmの範囲にあり、前記第4の距離が、前記第3の距離から50μmの範囲にあることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第1の下部金属膜の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、前記第1の上部金属膜の厚さは、0.2μm以上であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第2の下部金属膜の厚さは、0.01μmから0.2μmの範囲にあり、前記第2の上部金属膜の厚さは、0.2μm以上であることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第1の下部金属膜は、金またはそれを含む合金でできており、前記第1の上部金属膜は、金、白金,パラジウム,チタン,モリブデン,タングステンのいずれかの金属または、それを含む合金でできていることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれかに記載のダイヤモンド半導体素子であって、前記第2の下部金属膜は、金またはそれを含む合金でできており、前記第2の上部金属膜は、金、白金,パラジウム,チタン,モリブデン,タングステンのいずれかの金属または、それを含む合金でできていることを特徴とするダイヤモンド半導体素子。
【請求項13】
ダイヤモンド単結晶薄膜上に第1の金属膜を形成するステップと、
前記第1の金属膜上に第2の金属膜を形成するステップと、
前記第2の金属膜の第1の領域に前記第1の金属膜の表面まで達する第1の開口部を形成するステップと、
前記開口部から露出している前記第1の金属膜の表面の一部にエッチングを行い、前記ダイヤモンド単結晶薄膜の表面まで達する第2の開口部を形成するステップと、
前記第2の開口部から露出している前記ダイヤモンド単結晶薄膜上に第3の金属膜を形成するステップと
を備えたことを特徴とするダイヤモンド半導体素子作製方法。
【請求項14】
請求項13に記載のダイヤモンド半導体素子作製方法であって、前記第1の開口部を形成するステップでは、前記第1の開口部の幅が前記第2の金属膜の厚さよりも大きくなるように、前記第1の開口部を形成することを特徴とするダイヤモンド半導体素子作製方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【図7J】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図17D】
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【図17E】
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【図17F】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図18F】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図19D】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図20D】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40A】
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【図40B】
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【図40C】
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【図40D】
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【図40E】
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【図40F】
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【図40G】
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【図41A】
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【図41B】
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【図41C】
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【図41D】
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【図41E】
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【図41F】
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【図42】
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【図43A】
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【図43B】
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【図43C】
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【図43D】
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【図43E】
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【公開番号】特開2011−176335(P2011−176335A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84108(P2011−84108)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【分割の表示】特願2007−522296(P2007−522296)の分割
【原出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】