説明

内燃機関の制御装置及び車両の制御装置

【課題】内燃機関の制御装置及び車両の制御装置において、製造コストの増加を抑制しながら内燃機関に発生する振動を低減可能とする。
【解決手段】内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出すエンジン12と、モータ16による発電またはバッテリ31の蓄電により駆動可能なモータ19とを動力源として有し、エンジン12の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン12におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン回転数及びエンジン出力トルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し可能な内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を搭載した車両の振動には、燃焼によりクランク軸の微小な回転速度の変化の反作用としての回転振動成分と、ピストンの上下動の反作用としての上下振動成分があることが知られている。この2種類の振動成分を低減するものとして、下記特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された車両制振装置では、回転数検出手段が、回転振動成分と上下振動成分との合成ベクトルからなる車両振動の一次周波数成分とクランク角との位相差に関連する内燃機関の回転数を検出し、タイミング決定手段が、両振動成分の低減が可能なトルク授受タイミングを状態量に基づいて決定し、制御手段が、この決定されたタイミングに基づいてトルク授受手段を制御し、実際の車両振動により発電/電動切り替えタイミングを制御している。
【0004】
【特許文献1】特開平07−091306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の車両制振装置にあっては、実際の車両振動により発電電動機の発電/電動の切り替えタイミングを制御することで、2種類の振動成分を低減するようにしている。ところが、この従来の車両制振装置では、発電電動機を高精度に制御する必要があり、制御精度の高い発電電動機やこの発電電動機を制御する制御装置が必要となり、製造コストの増大を招いてしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、製造コストの増加を抑制しながら内燃機関に発生する振動を低減可能とする内燃機関の制御装置及び車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出す内燃機関において、前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御する、ことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の内燃機関の制御装置では、所定の要求パワーに対して最適な静粛性を確保できる機関回転数と出力トルクとの関係を表すマップを有し、ドライバの要求トルクに応じて前記マップを用いて前記内燃機関の回転数及び出力トルクを設定することを特徴としている。
【0009】
また、本発明の車両の制御装置は、内燃機関と電気モータとを動力源として走行可能な車両において、前記内燃機関は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し可能であり、前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、前記電気モータの出力トルクを制御する、ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の車両の制御装置は、内燃機関の出力トルクを車両の走行状態に応じた最適な変速比に制御可能な無段変速機を有する車両において、前記内燃機関は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し可能であり、前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、前記無段変速機の変速比を制御する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、内燃機関におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、内燃機関の回転数及び出力トルクを制御している。従って、内燃機関の回転数と出力トルクが制御され、燃焼により発生するトルク変動とピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうことで、製造コストの増加を抑制しながら、内燃機関に発生する振動を低減することができる。
【0012】
また、本発明の車両の制御装置によれば、内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、内燃機関におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、電気モータの出力トルクを制御する。従って、現在の車両のパワーを維持しながら、内燃機関に発生する振動を低減することができる。
【0013】
本発明の車両の制御装置によれば、内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、内燃機関におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、無段変速機の変速比を制御する。従って、現在の車両のパワーを維持しながら、内燃機関に発生する振動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る内燃機関の制御装置及び車両の制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係るハイブリッド車両の制御装置における概略構成図、図2は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置における駆動力制御を表すフローチャート、図3は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置における最適静粛動作線を表す最小振動マップ、図4は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置における最適燃費動作線を表す最適燃費マップ、図5−1は、内燃機関の低回転時におけるトルク変動を表すグラフ、図5−2は、内燃機関の中回転時におけるトルク変動を表すグラフである。
【0016】
本実施例が適用された車両は、ハイブリッド車両であって、動力源として、エンジン(内燃機関)と電気モータと発電機が搭載されており、このエンジンと電気モータと発電機は、動力分配統合機構により接続され、エンジンの出力を発電機と駆動輪とに振り分けると共に、電気モータからの出力を駆動輪に伝達したり、減速機を介してドライブシャフトから駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能する。
【0017】
即ち、図1に示すように、本実施例のハイブリッド車両11は、エンジン(内燃機関)12と、エンジン12の出力軸としてのクランクシャフト13の回転変動を吸収するダンパ装置14と、クランクシャフト13にこのダンパ装置14を介して接続された3軸式の動力分配統合機構15と、動力分配統合機構15に接続された発電可能なモータ(MG1)16と、動力分配統合機構15に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸17に取り付けられた減速ギヤ18と、この減速ギヤ18に接続されたモータ(MG2)19と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、ハイブリッドECUという)20とを有している。
【0018】
エンジン12は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料を使用し、内部でこの燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し、動力を出力する内燃機関である。このエンジン12は、運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)21により燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御指令を受けている。エンジンECU21は、ハイブリッドECU20と通信可能であり、ハイブリッドECU20からの制御信号によりエンジン12を運転制御すると共に必要に応じてエンジン12の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0019】
動力分配統合機構15は、外歯歯車のサンギヤ22と、このサンギヤ22と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ23と、サンギヤ22に噛合すると共にリングギヤ23に噛合する複数のピニオンギヤ24と、複数のピニオンギヤ24を自転、且つ、公転自在に保持するキャリア25とを有し、サンギヤ22とリングギヤ23とキャリア25とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構15にて、キャリア25にはエンジン12のクランクシャフト13が、サンギヤ22にはモータ16が、リングギヤ23にはリングギヤ軸17を介して減速ギヤ18がそれぞれ連結されている。そして、モータ16が発電機として機能するときにはキャリア25から入力されるエンジン12からの動力をサンギヤ22側とリングギヤ23側にそのギヤ比に応じて分配し、モータ16が電動機として機能するときにはキャリア25から入力されるエンジン12からの動力とサンギヤ22から入力されるモータ16からの動力を統合してリングギヤ23側に出力する。リングギヤ23に出力された動力は、リングギヤ軸17からギヤ機構26及びデファレンシャルギヤ27を介して、最終的には車両の駆動輪28に出力される。
【0020】
モータ16及びモータ19は、いずれも発電機として駆動することができると共に、電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ29,30を介してバッテリ31と電力のやりとりを行う。インバータ29,30とバッテリ31とを接続する電力ライン32は、各インバータ29,30が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータ16,19いずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。従って、バッテリ31は、モータ16,19のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータ16,19により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ31は充放電されない。
【0021】
モータ16,19は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)33により駆動制御されている。モータECU33には、モータ16,19を駆動制御するために必要な信号、例えば、モータ16,19の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ34,35からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータ16,19に印加される相電流などが入力されており、モータECU33からは、インバータ29,30へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU33は、ハイブリッドECU20と通信しており、ハイブリッドECU20からの制御信号によってモータ16,19を駆動制御すると共に必要に応じてモータ16,19の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0022】
バッテリ31は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)36によって管理されている。バッテリECU36には、バッテリ31を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ31の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ31の出力端子に接続された電力ライン32に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ31に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ31の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU20に出力する。なお、バッテリECU36では、バッテリ31を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0023】
また、車両には、駆動輪28に対応して油圧ブレーキ装置37が設けられている。この油圧ブレーキ装置37には、油圧制御装置38から調圧された制動油圧が供給されるようになっており、この油圧制御装置38は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)39によって管理されている。ブレーキECU39には、油圧制御装置38を管理するのに必要な後述する信号が入力される。即ち、ブレーキECU39は、ハイブリッドECU20と通信しており、ハイブリッドECU20からの制御信号によって油圧制御装置38を駆動制御すると共に必要に応じて油圧制御装置38の運転状態に関するデータをハイブリッドECU20に出力する。
【0024】
ハイブリッドECU20は、CPU41を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU41の他に処理プログラムを記憶するROM42と、データを一時的に記憶するRAM43と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを有している。ハイブリッドECU20には、イグニッションスイッチ44からのイグニッション信号、シフトレバー45の操作位置を検出するシフトポジションセンサ46からのシフトポジション信号、アクセルペダル47の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ48からのアクセル開度、ブレーキペダル49の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ50からのペダルストローク、車速センサ51からの車速V、ステアリングホイール近傍に設けられたオートクルーズスイッチ52からの定速走行用のセット信号やキャンセル信号などが入力ポートを介して入力されている。
【0025】
また、ハイブリッドECU20は、前述したように、エンジンECU21、モータECU33、バッテリECU36、ブレーキECU39と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU21、モータECU33、バッテリECU36、ブレーキECU39と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0026】
このように構成された本実施例のハイブリッド車両11は、運転者によるアクセルペダル47の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸17に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求駆動力がリングギヤ軸17に出力されるように、エンジン12とモータ16とモータ19が駆動制御される。
【0027】
エンジン12とモータ16とモータ19の駆動制御としては、要求駆動力に見合う駆動力がエンジン12から出力されるようにエンジン12を駆動制御すると共に、エンジン12から出力される駆動力の全てが動力分配統合機構15とモータ16とモータ19とによってトルク変換されてリングギヤ軸17に出力されるように、モータ16及びモータ19を駆動制御するトルク変換運転モード、要求駆動力とバッテリ31の充放電に必要な電力との和に見合う駆動力がエンジン12から出力されるようにエンジン12を駆動制御すると共に、バッテリ31の充放電を伴ってエンジン12から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構15とモータ16とモータ19とによるトルク変換を伴って要求駆動力がリングギヤ軸17に出力されるようモータ16及びモータ19を駆動制御する充放電運転モード、エンジン12の駆動を停止してモータ19からの要求駆動力に見合う駆動力をリングギヤ軸17に出力するよう駆動制御するモータ運転モードなどがある。
【0028】
また、油圧制御装置38による油圧ブレーキ装置37の作動制御としては、要求制動力に見合う制動力が油圧ブレーキ装置37から出力されるように油圧制御装置38を作動制御する。即ち、ブレーキペダル49のペダルストロークに応じてドライバの要求制動力を検出し、この要求制動力に対してモータ19による回生ブレーキを実行し、要求制動力から回生制動力を減算した要求油圧制動力に基づいて油圧制御装置38を制御し、油圧ブレーキ装置37を作動する。
【0029】
実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、上述したように、ドライバの要求トルクに基づいてハイブリッド車両11の走行に必要な要求出力が設定され、この要求出力がエンジン12の出力とモータ19の出力に配分される。この場合、ドライバの要求トルクに対して配分されたエンジン12の出力を設定するとき、一般的に、最適燃費動作線(図4参照)を用いてエンジン12の目標エンジン回転数と目標エンジントルクを設定し、スロットル開度を制御することで、エンジン出力を制御している。
【0030】
ところで、エンジン12を搭載したハイブリッド車両11では、エンジン12の駆動に伴う振動が発生する。このエンジン12の振動には、燃焼によりクランクシャフト13の微小な回転速度の変化の反作用としての回転振動成分(回転トルク変動)と、ピストンの上下往復移動の反作用としての上下振動成分(上下トルク変動)があり、この2種類の振動成分を適正に低減する必要がある。
【0031】
本出願人は、この回転振動成分と上下振動成分の発生状況及びその大きさについて解析してみた。即ち、エンジン12の低回転時には、図5−1に示すように、クランク角の変位に伴って、大きな回転振動成分A(図5−1にて、実線)が周期的に発生すると共に、小さな上下振動成分B(図5−1にて、点線)が周期的に発生している。そのため、この回転振動成分Aと上下振動成分Bとが打ち消しあうことで、結果として、ハイブリッド車両11には、総合振動成分C(図5−1にて、一点鎖線)が作用することとなる。
【0032】
また、エンジン12の中回転時には、図5−2に示すように、クランク角の変位に伴って、所定の回転振動成分A(図5−2にて、実線)が周期的に発生すると共に、所定の小さな上下振動成分B(図5−2にて、点線)が周期的に発生している。この場合、この回転振動成分Aと上下振動成分Bとが逆位相となることから、両者が打ち消しあうことで、結果として、ハイブリッド車両11には、小さい総合振動成分C(図5−2にて、一点鎖線)が作用することとなる。
【0033】
このような解析から、実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン12の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン12におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン12の回転数及び出力トルクを制御している。この場合、所定の要求パワーに対して最適な静粛性を確保できるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を表すマップを予め用意し、ドライバの要求トルクに応じてこのマップを用いてエンジン回転数及びエンジン出力トルクを設定している。
【0034】
即ち、エンジン12の運転状態(エンジン回転数など)に応じて、回転振動成分Aと上下振動成分Bとの大きさが異なり、両者が打ち消しあうことで、総合振動成分Cが両者単独の振動成分A,Bより小さくなる領域を見つける。この場合、エンジン形態に応じて発生する振動成分が異なることから、エンジン形態ごとに予め実験により回転振動成分Aと上下振動成分Bとが打ち消しあい、総合振動成分Cが最小となる領域(エンジン回転数−エンジン出力トルク)を見つけ、マップ化しておく。また、エンジンの基本的な設計事項に基づいてWeibe関数(一次元のエンジン解析ソフトの燃焼モデルとして使用され、実験により得られた燃焼圧力から計算された燃焼割合のプロフィールを近似する関数)などにより机上計算により回転振動成分Aを算出すると共に、エンジンの基本的な設計事項に基づいて理論値として上下振動成分Bを算出し、総合振動成分Cが最小となる領域(エンジン回転数−エンジン出力トルク)を見つけてマップ化してもよい。
【0035】
また、実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン12の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン12におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン12の回転数及び出力トルクを制御すると共に、モータ(電気モータ)19の出力トルクを制御している。
【0036】
ここで、実施例1のハイブリッド車両の制御装置による駆動力制御について、図2のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0037】
実施例1のハイブリッド車両の制御装置による駆動力制御において、図2に示すように、ステップS11にて、ハイブリッドECU20は、アクセル開度センサ48が検出したアクセル開度と、車速センサ51が検出したハイブリッド車両11の車速を読み込む。ステップS12では、このアクセル開度と車速に基づいてドライバの要求トルクTrを算出する。ステップS13にて、ドライバの要求トルクTrとドライブシャフトの回転数Ndに基づいてハイブリッド車両11の要求パワーPhを算出する。なお、ドライブシャフトの回転数Ndは、駆動輪28に設けられた図示しない車輪速センサの検出結果に基づいて算出すればよい。
【0038】
そして、ステップS14にて、ハイブリッド車両11の要求パワーPhに基づいてエンジン指令パワーPeとモータ指令パワーPmを算出する。この場合、例えば、バッテリ31の充電量に基づいてモータ指令パワーPmを設定し、ハイブリッド車両11の要求パワーPhからモータ指令パワーPmを減算することで、エンジン指令パワーPeを設定する。
【0039】
ステップS15では、エンジン指令パワーPeに基づいて最適静粛動作線を用いて目標エンジン回転数とエンジン指令トルクを求める。この最適静粛動作線は、図3に示すように、エンジン回転数とエンジントルクとの関係にて、最適な静粛性、つまり、上述したエンジン12の回転振動成分と上下振動成分とが打ち消しあうことで総合振動成分が最小となる量的関係を表したものであり、この最適静粛動作線に対して、複数種類のパワー線P1〜P4が設定される。従って、例えば、エンジン指令パワーPeがパワー線P1に該当すれば、このパワー線P1と最適静粛動作線の交点におけるエンジン回転数が目標エンジン回転数Netであり、エンジントルクがエンジン指令トルクTetとなる。
【0040】
なお、エンジン指令パワーPeに基づいて最適静粛動作線を用いて目標エンジン回転数とエンジン指令トルクを求めるとき、エンジン12の運転状態に応じて最適静粛動作線と最適燃費動作線を選択的に使用してもよい。つまり、エンジン12の回転振動成分と上下振動成分とが打ち消しあうことで設定される総合振動成分が十分に低減されないとき、例えば、図5−1に示すエンジン12の低回転時には、最適燃費動作線を用いて目標エンジン回転数とエンジン指令トルクを求めてもよい。この最適燃費動作線は、図4に示すように、エンジン回転数とエンジントルクとの関係にて、最適な燃費を確保できる量的関係を表したものであり、この最適燃費動作線に対して、複数種類のパワー線P1〜P4が設定される。従って、例えば、エンジン指令パワーPeがパワー線P1に該当すれば、このパワー線P1と最適燃費動作線の交点におけるエンジン回転数が目標エンジン回転数Netであり、エンジントルクがエンジン指令トルクTetとなる。
【0041】
そして、ステップS16にて、決定された目標エンジン回転数Netに基づいて目標スロットル開度を設定し、ステップS17にて、エンジンECU21は、この目標スロットル開度に基づいて電子スロットル装置を駆動することで、エンジン12を制御する。
【0042】
一方、ステップS14で、モータ指令パワーPmが設定されると、ステップS18にて、このモータ指令パワーPmに基づいてモータ19のモータ指令トルクTmtを演算する。そして、ステップS19にて、モータECU33は、このモータ指令トルクTmtに基づいてモータ19を制御する。
【0043】
更に、ステップS15で、目標エンジン回転数Netが設定されると、ステップS20にて、目標エンジン回転数Netとドライブシャフトの回転数に基づいてモータ16の目標発電機回転数を演算し、ステップS21にて、目標エンジン回転数Netと目標発電機回転数Ngtと実際の発電機回転数Ngとエンジン指令トルクTetに基づいてモータ16の発電機指令トルクTgtを演算する。そして、ステップS22にて、モータECU33は、この発電機指令トルクTgtに基づいてモータ16を制御する。
【0044】
このように実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出すエンジン12と、モータ13による発電またはバッテリ31の蓄電により駆動可能なモータ19とを動力源とを有し、エンジン12の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン12におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン回転数及びエンジン出力トルクを制御している。
【0045】
従って、エンジン回転数とエンジン出力トルクが制御され、燃焼により発生するトルク変動とピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうことで、別途に高精度な電気モータを設けることなく、エンジン12に発生する振動を低減することができ、また、製造コストの増加を抑制することができる。
【0046】
また、実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、所定のエンジン要求パワーに対して最適な静粛性を確保できるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を表すマップを有し、ドライバの要求トルクに応じてマップを用いてエンジン回転数及びエンジン出力トルクを設定している。従って、制御の簡素化を可能とすることができる。
【0047】
また、実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン12の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン12におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン回転数及びエンジン出力トルクを制御すると共に、モータ19の出力トルクを制御している。従って、現在のハイブリッド車両11のパワーを維持しながら、エンジン12やハイブリッド車両11に発生する振動を低減することができる。
【実施例2】
【0048】
図6は、本発明の実施例2に係る車両の制御装置における概略構成図、図7は、実施例2の車両の制御装置における駆動力制御を表すフローチャートである。
【0049】
本実施例が適用された車両は、動力源として、エンジン(内燃機関)が搭載され、変速機として、ベルト式無段変速機が適用されており、エンジンは、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料を使用し、内部でこの燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し、動力を出力する内燃機関である。
【0050】
実施例2の車両の制御装置において、図6に示すように、エンジン110の出力側には、トランスアクスル120が配置されている。このトランスアクスル120は、トランスアクスルハウジング121と、このトランスアクスルハウジング121に取付けられたトランスアクスルケース122と、このトランスアクスルケース122に取付けられたトランスアクスルリヤカバー123とにより構成されている。
【0051】
このトランスアクスルハウジング121の内部には、トルクコンバータ130が収容されている。一方、トランスアクスルケース122とトランスアクスルリヤカバー123とにより構成されるケース内部には、ベルト式無段変速機100を構成する2つのプーリであるプライマリプーリ150及びセカンダリプーリ160と、プライマリ油圧室155と、セカンダリ油圧室164と、ベルト210とが収納されている。なお、140は前後進切換機構、190は車輪220にエンジン110の駆動力を伝達する最終減速機、200は動力伝達経路である。
【0052】
発進機構であるトルクコンバータ130は、駆動源からの駆動力、即ち、エンジン110からの出力トルクを増加、あるいは、そのままベルト式無段変速機100に伝達するものである。このトルクコンバータ130は、少なくともポンプ(ポンプインペラ)131と、タービン(タービンインペラ)132と、ステータ133と、ロックアップクラッチ134と、ダンパ装置135とにより構成されている。
【0053】
ポンプ131は、エンジン110のクランクシャフト111と同一の軸線を中心に回転可能な中空軸136に取付けられている。つまり、ポンプ131は、中空軸136と共にクランクシャフト111と同一の軸線を中心に回転可能である。また、ポンプ131は、フロントカバー137に接続されている。このフロントカバー137は、エンジン110のドライブプレート112を介してクランクシャフト111に連結されている。
【0054】
タービン132は、ポンプ131と対向するように配置されている。このタービン132は、中空軸136内部に配置され、クランクシャフト111と同一の軸線を中心に回転可能なインプットシャフト138に取付けられている。つまり、タービン132は、インプットシャフト138と共にクランクシャフト111と同一の軸線を中心に回転可能である。
【0055】
ポンプ131とタービン132との間には、ワンウェイクラッチ139を介してステータ133が配置されている。このワンウェイクラッチ139は、トランスアクスルハウジング121に固定されている。また、タービン132とフロントカバー137との間には、ロックアップクラッチ134が配置されており、このロックアップクラッチ134は、ダンパ装置135を介してインプットシャフト138に連結されている。なお、ポンプ131やフロントカバー137により形成されるケーシングには、図示しない作動油供給制御装置から作動油が供給されている。
【0056】
ここで、このトルクコンバータ130の動作について説明する。エンジン110からの出力トルクは、クランクシャフト111からドライブプレート112を介して、フロントカバー137に伝達される。ロックアップクラッチ134がダンパ装置135により解放されている場合は、フロントカバー137に伝達されたエンジン110からの出力トルクがポンプ131に伝達され、このポンプ131とタービン132との間を循環する作動油を介して、タービン132に伝達される。そして、タービン132に伝達されたエンジン110からの出力トルクは、インプットシャフト138に伝達される。つまり、トルクコンバータ130は、インプットシャフト138を介して、エンジン110からの出力トルクを増加してベルト式無段変速機100に伝達する。この場合、ステータ133によりポンプ131とタービン132との間を循環する作動油の流れを変化させることで、所定のトルク特性を得ることができる。
【0057】
一方、ロックアップクラッチ134がダンパ装置135によりロック(フロントカバー137と係合)されている場合は、フロントカバー137に伝達されたエンジン110からの出力トルクは、作動油を介さずに直接インプットシャフト138に伝達される。つまり、トルクコンバータ130は、インプットシャフト138を介して、エンジン110からの出力トルクをそのままベルト式無段変速機100に伝達する。
【0058】
トルクコンバータ130と前後進切換機構140との間には、オイルポンプ126が設けられている。このオイルポンプ126は、ロータ127と、ハブ128と、ボディ129とにより構成されている。このオイルポンプ126は、ロータ127により円筒形状のハブ128を介してポンプ131に接続されている。また、ボディ129がトランスアクスルケース122に固定されている。また、ハブ128は、中空軸136にスプライン嵌合されている。従って、オイルポンプ126は、エンジン110からの出力トルクがポンプ131を介してロータ127に伝達されるために駆動することができる。
【0059】
前後進切換機構140は、トルクコンバータ130を介して伝達されたエンジン110からの出力トルクをベルト式無段変速機100のプライマリプーリ150に伝達するものである。この前後進切換機構140は、少なくとも遊星歯車装置141と、フォワードクラッチ142と、リバースブレーキ143とにより構成されている。この遊星歯車装置141は、サンギヤ144と、ピニオン145と、リングギヤ146とにより構成されている。
【0060】
サンギヤ144は、図示しない連結部材にスプライン嵌合されている。この連結部材は、後述するプライマリプーリ150のプライマリプーリ軸151にスプライン嵌合されている。従って、サンギヤ144に伝達されたエンジン110からの出力トルクは、プライマリプーリ軸151に伝達される。
【0061】
ピニオン145は、サンギヤ144と噛み合い、その周囲に複数個(例えば、3個)配置されている。各ピニオン145は、サンギヤ144の周囲で一体に公転可能に支持する切換用キャリヤ147に保持されている。この切換用キャリヤ147は、その外周端部においてリバースブレーキ143に接続されている。
【0062】
リングギヤ146は、切換用キャリヤ147に保持された各ピニオン145と噛み合い、フォワードクラッチ142を介してトルクコンバータ130のインプットシャフト138に接続されている。
【0063】
フォワードクラッチ142は、作動油供給制御装置からインプットシャフト138の図示しない中空部に供給された作動油により、ON/OFF制御されるものである。フォワードクラッチ142のOFF時には、インプットシャフト138に伝達されたエンジン110からの出力トルクがリングギヤ146に伝達される。一方、フォワードクラッチ142のON時には、リングギヤ146とサンギヤ144と各ピニオン145とが互いに相対回転することなく、インプットシャフト138に伝達されたエンジン110からの出力トルクが直接サンギヤ144に伝達される。
【0064】
リバースブレーキ143は、作動油供給制御装置から作動油が供給された図示しないブレーキピストンにより、ON/OFF制御されるものである。リバースブレーキ143がON時には、切換用キャリヤ147がトランスアクスルケース122に固定され、各ピニオン145がサンギヤ144の周囲を公転できない状態となる。リバースブレーキ143がOFF時には、切換用キャリヤ147が解放され、各ピニオン145がサンギヤ144の周囲を公転できる状態となる。
【0065】
ベルト式無段変速機100のプライマリプーリ150は、前後進切換機構140を介して伝達されたエンジン110からの出力トルクを、ベルト210によりセカンダリプーリ160に伝達するものである。このプライマリプーリ150は、プライマリプーリ軸151と、プライマリ固定シーブ152と、プライマリ可動シーブ153と、プライマリピストン部154と、プライマリ油圧室155とにより構成されている。
【0066】
プライマリプーリ軸151は、軸受211,212により回転可能に支持されている。また、プライマリプーリ軸151は、内部に図示しない作動油通路を有しており、この作動油通路には、作動油供給制御装置からプライマリ油圧室155に供給される作動油が流入する。
【0067】
プライマリ固定シーブ152は、プライマリ可動シーブ153と対向する位置にプライマリプーリ軸151と一体回転するように設けられている。ここでは、プライマリ固定シーブ152は、プライマリプーリ軸151の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、プライマリ固定シーブ152は、プライマリプーリ軸151の外周に一体的に形成されている。
【0068】
プライマリ可動シーブ153は、プライマリプーリ軸151の外周面にスプライン嵌合することで、このプライマリプーリ軸151に軸方向に摺動可能に支持されている。このプライマリ固定シーブ152とプライマリ可動シーブ153との間、即ち、プライマリ固定シーブ152のプライマリ可動シーブ153に対向する面と、プライマリ可動シーブ153のプライマリ固定シーブ152に対向する面との間で、V字形状のプライマリ溝210aが形成されている。
【0069】
プライマリピストン部154は、環状部材であり、プライマリプーリ軸151と同一回転軸を中心に配置されている。また、プライマリピストン部154は、プライマリ可動シーブ153を挟んでプライマリ固定シーブ152と軸方向において対向するように配置されている。このプライマリピストン部154の径方向内側端部は、プライマリプーリ軸151に固定される。従って、プライマリピストン部154は、プライマリ可動シーブ153と一体回転するように設けられている。
【0070】
プライマリ油圧室155は、プライマリ可動シーブ153をプライマリ固定シーブ152側に押圧することで、このプライマリ可動シーブ153のプライマリ固定シーブ152に対する軸方向への移動及び移動の規制を行う位置決め油圧室であり、プライマリプーリ軸151と、プライマリ可動シーブ153と、プライマリピストン部154とにより形成される空間部である。プライマリ可動シーブ153には、軸方向の一方に突出、即ち、軸受212側に突出する環状の突出部153aが形成されている。一方、プライマリピストン部154には、軸方向の他方向に突出、即ち、プライマリ可動シーブ153側に突出する環状の突出部155aが形成されている。ここで、この突出部153aと突出部155aとの間には、例えば、シールリングなどのシール部材が設けられている。つまり、プライマリ油圧室155は、図示しないシール部材によりシールされている。
【0071】
このプライマリ油圧室155には、プライマリプーリ軸151の図示しない作動油通路に流入した作動油供給制御装置からの作動油が供給される。つまり、プライマリ油圧室155に作動油を供給し、この供給された作動油の圧力、即ち、プライマリ油圧室155の油圧により、プライマリ可動シーブ153を軸方向に摺動させ、プライマリ可動シーブ153をプライマリ固定シーブ152に対して接近あるいは離隔させるものである。プライマリ油圧室155は、このプライマリ油圧室155の油圧により、プライマリ可動シーブ153をプライマリ固定シーブ152側に押圧することで、プライマリ溝210aに巻き掛けられるベルト210に対するベルト挟圧力を発生させ、プライマリ可動シーブ153のプライマリ固定シーブ152に対する軸方向における位置を変更する。これにより、変速比を変更することができる。
【0072】
一方、ベルト式無段変速機100のセカンダリプーリ160は、ベルト210によりプライマリプーリ150に伝達されたエンジン110からの出力トルクをベルト式無段変速機100の最終減速機190に伝達するものである。このセカンダリプーリ160は、セカンダリプーリ軸161と、セカンダリ固定シーブ162と、セカンダリ可動シーブ163と、セカンダリ油圧室164、セカンダリピストン部165とにより構成されている。
【0073】
セカンダリプーリ軸161は、軸受213,214により回転可能に支持されている。また、セカンダリプーリ軸161は、内部に図示しない作動油通路を有しており、この作動油通路には、作動油供給制御装置からセカンダリ油圧室164に供給される作動油が流入する。
【0074】
セカンダリ固定シーブ162は、セカンダリ可動シーブ163と対向する位置にセカンダリプーリ軸161と一体回転するように設けられている。ここでは、セカンダリ固定シーブ162は、セカンダリプーリ軸161の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、セカンダリ固定シーブ162は、セカンダリプーリ軸161の外周に一体的に形成されている。
【0075】
セカンダリ可動シーブ163は、セカンダリプーリ軸161の外周面にスプライン嵌合することで、このセカンダリプーリ軸161に軸方向に摺動可能に支持されている。このセカンダリ固定シーブ162とセカンダリ可動シーブ163との間、即ち、セカンダリ固定シーブ162のセカンダリ可動シーブ163に対向する面と、セカンダリ可動シーブ163のセカンダリ固定シーブ162と対向する面との間で、V字形状のセカンダリ溝210bが形成されている。なお、166は、パーキングブレーキギヤである。
【0076】
セカンダリ油圧室164は、セカンダリ可動シーブ163をセカンダリ固定シーブ162側に押圧するものであり、セカンダリプーリ軸161と、セカンダリ可動シーブ163と、セカンダリプーリ軸161に固定された円板形状のセカンダリピストン部165とにより形成される空間部である。セカンダリ可動シーブ163には、軸方向の一方に突出、即ち、最終減速機190側に突出する環状の突出部163aが形成されている。一方、セカンダリピストン部165には、軸方向の他方向に突出、即ち、セカンダリ可動シーブ163側に突出する環状の突出部165aが形成されている。ここで、この突出部163aと突出部165aとの間には、例えば、シールリングなどの図示しないシール部材が設けられている。つまり、セカンダリ油圧室164は、図示しないシール部材によりシールされている。
【0077】
このセカンダリ油圧室164には、セカンダリプーリ軸161の図示しない作動油通路に流入した作動油供給制御装置からの作動油が供給される。つまり、セカンダリ油圧室164に作動油を供給し、この供給された作動油の圧力、即ち、セカンダリ油圧室164の油圧により、セカンダリ可動シーブ163を軸方向に摺動させ、セカンダリ可動シーブ163をセカンダリ固定シーブ162に対して接近あるいは離隔させるものである。セカンダリ油圧室164は、このセカンダリ油圧室164の油圧により、セカンダリ可動シーブ163をセカンダリ固定シーブ162側に押圧することで、セカンダリ溝210bに巻き掛けられるベルト210に対するベルト挟圧力を発生させ、ベルト210のプライマリプーリ150及びセカンダリプーリ160に対する接触半径を一定に維持する。
【0078】
セカンダリプーリ160と最終減速機190との間には、動力伝達経路200が配置されている。この動力伝達経路200は、セカンダリプーリ軸161と平行なインターミディエイトシャフト201と、カウンタドライブピニオン202、カウンタドリブンギヤ203と、ファイナルドライブピニオン204とにより構成されている。インターミディエイトシャフト201は、軸受215,216により回転可能に支持されている。カウンタドライブピニオン202は、セカンダリプーリ軸161の軸線方向のうちパーキングブレーキギヤ166が固定されていない側に延在する部分に固定されており、軸受217,218により回転可能に保持されている。カウンタドリブンギヤ203は、インターミディエイトシャフト201に固定されており、カウンタドライブピニオン202と噛み合わされている。また、ファイナルドライブピニオン204は、インターミディエイトシャフト201に固定されている。
【0079】
ベルト式無段変速機100の最終減速機190は、動力伝達経路200を介して伝達されたエンジン110からの出力トルクを車輪220,220から路面に伝達するものである。この最終減速機190は、中空部が形成されたデフケース191と、ピニオンシャフト192と、デフ用ピニオン193,194と、サイドギヤ195,196とにより構成されている。
【0080】
デフケース191は、軸受197,198により回転可能に支持されている。また、このデフケース191の外周には、リングギヤ199が設けられており、このリングギヤ199がファイナルドライブピニオン204と噛み合わされている。ピニオンシャフト192は、デフケース191の中空部に取付けられている。デフ用ピニオン193,194は、このピニオンシャフト192に回転可能に取付けられている。サイドギヤ195,196は、このデフ用ピニオン193,194の両方に噛み合わされている。このサイドギヤ195,196は、それぞれドライブシャフト221,222に固定されている。
【0081】
ベルト式無段変速機100のベルト210は、プライマリプーリ150を介して伝達されたエンジン110からの出力トルクをセカンダリプーリ160に伝達するものである。このベルト210は、プライマリプーリ150のプライマリ溝210aとセカンダリプーリ160のセカンダリ溝210bとの間に巻き掛けられている。また、ベルト210は、例えば、多数の金属製の駒と複数本のスチールリングで構成された無端ベルトである。
【0082】
ドライブシャフト221,222は、その一方の端部にそれぞれサイドギヤ195,196が固定され、他方の端部に車輪220,220が取付けられている。
【0083】
作動油供給制御装置は、少なくともベルト式無段変速機100の各構成部品の潤滑部分や、各油圧室(プライマリ油圧室155、セカンダリ油圧室164)に作動油を供給するものである。
【0084】
ここで、上述したベルト式無段変速機100の動作について説明する。まず、一般的な車両の前進、後進について説明する。車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が前進ポジションを選択した場合は、図示しない電子制御ユニット(ECU)が、作動油供給制御装置から供給された作動油によりフォワードクラッチ142をON、リバースブレーキ143をOFFとし、前後進切換機構140を制御する。これにより、インプットシャフト138とプライマリプーリ軸151が直結状態となる。つまり、遊星歯車装置141のサンギヤ144とリングギヤ146を直接連結し、エンジン110のクランクシャフト111の回転方向と同一方向にプライマリプーリ軸151を回転させ、このエンジン110からの出力トルクをプライマリプーリ150に伝達する。プライマリプーリ150に伝達されたエンジン110からの出力トルクは、ベルト210を介してセカンダリプーリ160に伝達され、このセカンダリプーリ160のセカンダリプーリ軸161を回転させる。
【0085】
セカンダリプーリ160に伝達されたエンジン110の出力トルクは、セカンダリプーリ軸161から動力伝達経路200のカウンタドライブピニオン202及びカウンタドリブンギヤ203を介して、インターミディエイトシャフト201に伝達され、インターミディエイトシャフト201を回転させる。インターミディエイトシャフト201に伝達された出力トルクは、ファイナルドライブピニオン204及びリングギヤ199を介して最終減速機190のデフケース191に伝達され、このデフケース191を回転させる。デフケース191に伝達されたエンジン110からの出力トルクは、デフ用ピニオン193,194及びサイドギヤ195,196を介してドライブシャフト221,222に伝達され、その端部に取付けられた車輪220,220に伝達され、車輪220,220を回転させ、車両は前進する。
【0086】
一方、車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が後進ポジションを選択した場合は、ECUが、作動油供給制御装置から供給された作動油によりフォワードクラッチ142をOFF、リバースブレーキ143をONとし、前後進切換機構140を制御する。これにより、遊星歯車装置141の切換用キャリヤ147がトランスアクスルケース122に固定され、各ピニオン145が自転のみを行うように切換用キャリヤ147に保持される。従って、リングギヤ146がインプットシャフト138と同一方向に回転し、このリングギヤ146と噛合っている各ピニオン145もインプットシャフト138と同一方向に回転し、この各ピニオン145と噛合っているサンギヤ144がインプットシャフト138と逆方向に回転する。つまり、サンギヤ144に連結されているプライマリプーリ軸151は、インプットシャフト138と逆方向に回転する。これにより、セカンダリプーリ160のセカンダリプーリ軸161、インターミディエイトシャフト201、デフケース191、ドライブシャフト221,222などは、運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転し、車両が後進する。
【0087】
また、ECUは、車両の速度や運転者のアクセル開度などの諸条件と記憶部に記憶されているマップ(例えば、機関回転数とスロットル開度に基づく最適燃費曲線など)とに基づいて、エンジン110の運転状態が最適となるようにベルト式無段変速機100の変速比を制御する。このベルト式無段変速機100の変速比の制御には、変速比の変更と、変速の固定とがある。この変速比の変更、変速比の固定は、プライマリプーリ150のプライマリ油圧室155の油圧を制御することで行われる。
【0088】
変速比の変更は、主に、作動油供給制御装置からプライマリ油圧室155への作動油の供給、あるいは、プライマリ油圧室155からプライマリプーリ150の外部への作動油の排出により、プライマリ可動シーブ153がプライマリプーリ軸151の軸方向に摺動し、プライマリ固定シーブ152とこのプライマリ可動シーブ153との間の間隔、即ち、プライマリ溝210aの幅が調整される。これにより、プライマリプーリ150におけるベルト210の接触半径が変化し、プライマリプーリ150の回転数とセカンダリプーリ160の回転数との比である変速比が無段階(連続的)に制御される。また、変速比の固定は、主に、プライマリ油圧室155からプライマリプーリ150の外部への作動油の排出の禁止により行われる。
【0089】
なお、セカンダリプーリ160においては、セカンダリ油圧室164に作動油供給制御装置から供給される作動油の油圧を図示しない挟圧力調圧バルブにより制御することで、セカンダリ固定シーブ162とこのセカンダリ可動シーブ163とによりベルト210を挟み付けるベルト挟圧力が調整される。これにより、プライマリプーリ150とセカンダリプーリ160との間に巻き掛けられたベルト210のベルト張力が制御される。
【0090】
実施例2の車両の制御装置では、ドライバの要求トルクに基づいて車両の走行に必要な要求出力が設定され、この要求出力に応じてエンジン110が制御される。この場合、ドライバの要求トルクに応じたエンジン110の出力を設定するとき、一般的に、最適燃費動作線を用いてエンジン110の目標エンジン回転数と目標エンジントルクを設定し、スロットル開度を制御することで、エンジン出力を制御している。
【0091】
ところで、エンジン110の振動には、燃焼によりクランクシャフト111の微小な回転速度の変化の反作用としての回転振動成分(回転トルク変動)と、ピストンの上下往復移動の反作用としての上下振動成分(上下トルク変動)があり、この2種類の振動成分を適正に低減する必要がある。そこで、実施例2の車両の制御装置では、エンジン110の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン110におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン110の回転数及び出力トルクを制御している。この場合、所定の要求パワーに対して最適な静粛性を確保できるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を表すマップを予め用意し、ドライバの要求トルクに応じてこのマップを用いてエンジン回転数及びエンジン出力トルクを設定している。
【0092】
即ち、エンジン110の運転状態(エンジン回転数など)に応じて、回転振動成分と上下振動成分との大きさが異なり、両者が打ち消しあうことで、総合振動成分が両者単独の振動成分より小さくなる領域を見つける。この場合、エンジン形態に応じて発生する振動成分が異なることから、エンジン形態ごとに回転振動成分と上下振動成分とが打ち消しあい、総合振動成分が最小となる領域(エンジン回転数−エンジン出力トルク)を見つけ、マップ化しておく。
【0093】
また、実施例2の車両の制御装置では、エンジン110の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン110におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン110の回転数及び出力トルクを制御すると共に、ベルト式無段変速機100の変速比を制御している。
【0094】
ここで、実施例2の車両の制御装置による駆動力制御について、図7のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0095】
実施例2の車両の制御装置による駆動力制御において、図7に示すように、ステップS31にて、ECUは、アクセル開度と車速を読み込み、ステップS32では、このアクセル開度と車速に基づいてドライバの要求トルクTrを算出する。ステップS33にて、ドライバの要求トルクTrとドライブシャフトの回転数Ndに基づいて車両の要求パワーPhを算出する。なお、ドライブシャフトの回転数Ndは、駆動輪220,220に設けられた図示しない車輪速センサの検出結果に基づいて算出すればよい。
【0096】
そして、ステップS34にて、車両の要求パワーPhに基づいてエンジン指令パワーPeを算出し、ステップS35では、エンジン指令パワーPeに基づいて最適静粛動作線を用いて目標エンジン回転数とエンジン指令トルクを求める。この最適静粛動作線は、上述した実施例1で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0097】
そして、ステップS36にて、決定された目標エンジン回転数Netに基づいて目標スロットル開度を設定し、ステップS37にて、ECUは、この目標スロットル開度に基づいて電子スロットル装置を駆動することで、エンジン110を制御する。
【0098】
一方、ステップS35で、目標エンジン回転数Netが設定されると、ステップS38にて、目標エンジン回転数Netとドライブシャフトの回転数に基づいてベルト式無段変速機100の変速比を演算し、ステップS39にて、ECUは、この変速比に基づいてベルト式無段変速機100を制御する。
【0099】
このように実施例2の車両の制御装置にあっては、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出すエンジン110と、ベルト式無段変速機100を有し、エンジン110の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン110におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン回転数及びエンジン出力トルクを制御している。
【0100】
従って、エンジン回転数とエンジン出力トルクが制御され、燃焼により発生するトルク変動とピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうことで、別途に高精度な電気モータを設けることなく、エンジン110に発生する振動を低減することができ、また、製造コストの増加を抑制することができる。
【0101】
また、実施例2の車両の制御装置では、エンジン110の燃焼により発生するトルク変動と、エンジン110におけるピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、エンジン回転数及びエンジン出力トルクを制御すると共に、ベルト式無段変速機100の変速比を制御している。従って、現在の車両のパワーを維持しながら、エンジン110や車両に発生する振動を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置及び車両の制御装置は、内燃機関の燃焼により発生するトルク変動とピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように機関回転数及び出力トルクを制御することで、製造コストの増加を抑制しながら内燃機関に発生する振動を低減可能とするものであり、いずれの内燃機関に適用しても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施例1に係るハイブリッド車両の制御装置における概略構成図である。
【図2】実施例1のハイブリッド車両の制御装置における駆動力制御を表すフローチャートである。
【図3】実施例1のハイブリッド車両の制御装置における最適静粛動作線を表す最小振動マップである。
【図4】実施例1のハイブリッド車両の制御装置における最適燃費動作線を表す最適燃費マップである。
【図5−1】内燃機関の低回転時におけるトルク変動を表すグラフである。
【図5−2】内燃機関の中回転時におけるトルク変動を表すグラフである。
【図6】本発明の実施例2に係る車両の制御装置における概略構成図である。
【図7】実施例2の車両の制御装置における駆動力制御を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
11 ハイブリッド車両
12,110 エンジン(内燃機関)
15 動力分配統合機構
16 モータ、MG1(発電機)
19 モータ、MG2(電気モータ)
20 ハイブリッド用電子制御ユニット、ハイブリッドECU
21 エンジン用電子制御ユニット、エンジンECU
33 モータ用電子制御ユニット、モータECU
100 ベルト式無段変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出す内燃機関において、
前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御する、
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
所定の要求パワーに対して最適な静粛性を確保できる機関回転数と出力トルクとの関係を表すマップを有し、ドライバの要求トルクに応じて前記マップを用いて前記内燃機関の回転数及び出力トルクを設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
内燃機関と電気モータとを動力源として走行可能な車両において、
前記内燃機関は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し可能であり、
前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、前記電気モータの出力トルクを制御する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
内燃機関の出力トルクを車両の走行状態に応じた最適な変速比に制御可能な無段変速機を有する車両において、
前記内燃機関は、内部で燃料を燃焼させることで発生した熱エネルギによりピストンを往復移動させて回転エネルギとして取り出し可能であり、
前記内燃機関の燃焼により発生するトルク変動と、前記内燃機関における前記ピストンの往復移動により発生するトルク変動とが互いに打ち消しあうように、前記内燃機関の回転数及び出力トルクを制御すると共に、前記無段変速機の変速比を制御する、
ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−53757(P2010−53757A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218715(P2008−218715)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】