説明

動力システムのトルク制御装置

【課題】動力システムのトルク制御装置に関し、トルク制御にかかるアクチュエータの新規の追加を容易にする。
【解決手段】動力システムの目標トルクに応じた目標トルク信号を、予め設定された分配優先順位に従って各アクチュエータ2、4、12へ分配する。各アクチュエータ2、4、12の信号の入力部には、分配される信号のうち当該アクチュエータ2、4、12の動作特性に合った信号のみを当該アクチュエータ2、4、12の指令信号として通過させる信号処理フィルタ6、8、14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の動力システムのトルク制御装置であり、より詳しくは、複数のアクチュエータを協働させてトルクの制御を行うトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力システムとして内燃機関が用いられている。内燃機関は、スロットル、点火装置、燃料噴射装置等の複数のアクチュエータを有し、これらアクチュエータを協働させることで所望のトルクを実現することができる。内燃機関のトルクは各アクチュエータの動作によって決まるため、そのトルク制御においては各アクチュエータをどのように動作させるか決定する必要がある。
【0003】
トルク制御の1つの方法として、目標トルクをそれぞれのアクチュエータに分配し、分配された分の目標トルクが内燃機関で実現されるように各アクチュエータを動作させる方法が考えられる。例えば、スロットルと点火装置とを用いてトルク制御を行う場合には、スロットル分の目標トルクに応じてスロットル開度を制御し、点火装置分の目標トルクに応じて点火時期を制御すればよい。目標トルクの各アクチュエータへの分配には、ローパスフィルタ等の信号処理フィルタを用いることができる。
【0004】
特許文献1には、動力装置として内燃機関と電動機(モータ)とを備えるハイブリッド動力システムが記載されている。このシステムでは、目標伝達トルクをクラッチとモータとに分配する手段としてローパスフィルタが用いられている。具体的には、クラッチ制御装置に供給される目標伝達トルクから、クラッチ制御では対応できない高周波数の信号成分がローパスフィルタによって除去される。そして、高周波数の信号成分が除去された目標伝達トルクを実現するようにクラッチ制御が行われるとともに、ローパスフィルタで除去した高周波数の信号成分を実現するようにモータ制御が行われる。
【特許文献1】特開平11−159364号公報
【特許文献2】特開平10−23609号公報
【特許文献3】特開平5−163996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルク制御にかかるアクチュエータを2つ備えるシステムでは、特許文献1に記載のシステムのように目標トルクの供給経路にローパスフィルタを配置することで、ローパスフィルタのカットオフ周波数を基準として目標トルクを2つのアクチュエータに分配することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のシステム構成は、トルク制御にかかるアクチュエータが新規に追加される可能性のあるシステムには、そのまま適用することはできない。特許文献1に記載のシステム構成に単純にアクチュエータを追加したとしても、追加したアクチュエータに目標トルクを分配する手段がないからである。特許文献1に記載のシステム構成においてトルク制御にかかるアクチュエータを新規に追加する場合には、フィルタの追加や既存フィルタの信号通過特性の見直しが必用になると考えられる。しかし、特許文献1には、その方法についての記載はない。
【0007】
動力システムにおいてトルク制御の高精度化を実現するためには、トルク制御にかかるアクチュエータの数を増やすことが有効である。また、既存のシステムであっても、トルク制御にかかるアクチュエータを後から追加することができれば、トルク制御の高精度化を図ることができる。その場合、制御構造の変更の必用が無いこと、或いは、制御構造の変更が最小限であることが、アクチュエータの追加の容易性、すなわち、システムの拡張性を確保する上で重要となる。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、トルク制御にかかるアクチュエータの新規の追加が容易な動力システムのトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、動力システムのトルク制御装置であって、
入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクを前記動力システムに実現させる複数のアクチュエータと、
前記動力システムの目標トルクに応じた目標トルク信号を、予め設定された分配優先順位に従って各アクチュエータへ分配する信号分配構造と、
各アクチュエータの信号の入力部に設けられて、前記信号分配構造から供給される信号のうち当該アクチュエータの動作特性に合った信号のみを当該アクチュエータの指令信号として通過させる信号処理フィルタと、
を備えることを特徴としている。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度の低い順に前記分配優先順位が設定されていることを特徴としている。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記信号分配構造は、前記信号処理フィルタを通過前の信号から通過後の信号を差し引いた信号を次位のアクチュエータへ供給する構造であることを特徴としている。
【0012】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、
前記信号分配構造は、前記アクチュエータが動作可能な信号域のうち特定信号域に対応する信号のみを通過させる第2信号処理フィルタを含み、前記第2信号処理フィルタを通過後の信号を前記アクチュエータへ供給し、前記第2信号処理フィルタを通過前の信号から通過後の信号を差し引いた信号を次位のアクチュエータへ供給する構造であることを特徴としている。
【0013】
第5の発明は、第4の発明において、
前記第2信号処理フィルタを通過前の信号から、前記第2信号処理フィルタ並びに前記信号処理フィルタを通過後の信号と、次位のアクチュエータへ供給される信号とを差し引いた信号に基づき、前記第2信号処理フィルタの信号通過特性を補正する信号通過特性補正手段をさらに備えることを特徴としている。
【0014】
第6の発明は、第4の発明において、
前記第2信号処理フィルタとして信号通過特性の異なる複数のフィルタが用意され、
前記複数のフィルタの中から前記動力システムの運転状態に応じた適宜のフィルタを選択するフィルタ選択手段をさらに備えることを特徴としている。
【0015】
第7の発明は、第6の発明において、
前記フィルタ選択手段は、指令信号によって前記アクチュエータを動作させたときに予想されるトルクの応答感度の良否に応じて、前記第2信号処理フィルタとして使用するフィルタを決定することを特徴としている。
【0016】
第8の発明は、第3の発明において、
前記信号処理フィルタの最大通過周波数は、対応するアクチュエータで実現可能と予想される最大応答周波数よりも低く設定されていることを特徴としている。
【0017】
第9の発明は、第3の発明において、
最下位のアクチュエータにかかる信号処理フィルタを通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る場合に、その差分信号を目標トルク信号の生成に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴としている。
【0018】
第10の発明は、第3の発明において、
前記複数のアクチュエータのそれぞれに信号通過特性の異なる複数の信号処理フィルタが設定され、
前記動力システムの目標トルクの変化を予測する予測手段と、
予測される目標トルクの変化に基づき、前記複数のアクチュエータ間における前記信号処理フィルタの組み合わせを決定する組み合わせ決定手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0019】
第11の発明は、第3の発明において、
前記信号処理フィルタは指令信号の最大値及び最小値を制限する飽和要素を含み、
前記飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る場合に、その差分信号を目標トルク信号の生成に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴としている。
【0020】
第12の発明は、第11の発明において、
前記差分信号が目標トルク信号の生成に反映されてから所定時間が経過した後も前記差分が無くならない場合には、目標トルク信号の生成に異常が生じていると判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴としている。
【0021】
第13の発明は、第3の発明において、
前記信号処理フィルタは前記アクチュエータの動作によって実現されるトルクの可変範囲に応じて指令信号の最大値及び最小値を制限する飽和要素を含み、
前記飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る状態が所定時間継続する場合には、前記アクチュエータに異常が生じていると判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴としている。
【0022】
第14の発明は、第3の発明において、
前記アクチュエータの動作目標値と実際値との間に差分が有る場合に、その差分信号を前記アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴としている。
【0023】
第15の発明は、第3の発明において、
前記アクチュエータに入力された指令信号のトルク換算値と前記アクチュエータの動作によって実現されたトルクとの間に差分が有る場合に、その差分信号を前記アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴としている。
【0024】
第16の発明は、第1乃至第15の何れか1つの発明において、
前記の複数のアクチュエータ、信号処理フィルタ及び信号分配構造からなる複数の制御グループと、
前記複数の制御グループの中から前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択するグループ選択手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0025】
第17の発明は、第16の発明において、
前記グループ選択手段は、前記動力システムの目標トルクに基づいて前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択することを特徴としている。
【0026】
第18の発明は、第16の発明において、
前記グループ選択手段は、各アクチュエータの状態に基づいて前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択することを特徴としている。
【0027】
第19の発明は、第1乃至第15の何れか1つの発明において、
前記複数のアクチュエータに優先されて指令信号が決定される優先アクチュエータと、
前記信号分配構造によって前記複数のアクチュエータに分配される目標トルク信号から前記優先アクチュエータに入力される指令信号を差し引く目標トルク信号補正手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【0028】
第20の発明は、第1乃至第19の何れか1つの発明において、
前記動力システムは自動車に搭載される内燃機関であることを特徴としている。
【0029】
第21の発明は、第20の発明において、
前記アクチュエータとして、吸入空気量を調整するスロットルと、点火時期を調整する点火装置とを含むことを特徴としている。
【0030】
第22の発明は、第20の発明において、
前記アクチュエータとして、吸気バルブのリフト量を変更する可変リフト機構と、点火時期を調整する点火装置とを含むことを特徴としている。
【0031】
第23の発明は、第21又は第22の発明において、
前記アクチュエータとして、燃料噴射時期及び燃料噴射量を調整する燃料噴射装置をさらに含むことを特徴としている。
【0032】
第24の発明は、第21乃至第23の何れか1つの発明において、
前記アクチュエータとして、前記内燃機関によって駆動される補機をさらに含むことを特徴としている。
【0033】
第25の発明は、第1乃至第19の何れか1つの発明において、
前記動力システムは内燃機関と電動機とからなるハイブリッド動力システムであり、前記アクチュエータとして前記電動機を含むことを特徴としている。
【0034】
第26の発明は、第20乃至第25の何れか1つの発明において、
前記信号分配構造に供給される目標トルク信号から、特定周波数域の信号成分を取り除く特定信号除去フィルタをさらに備えることを特徴としている。
【0035】
第27の発明は、第26の発明において、
前記特定信号除去フィルタは、車両の固有周波数と同じ周波数の信号成分を目標トルク信号から取り除くことを特徴としている。
【0036】
第28の発明は、第20乃至第25の何れか1つの発明において、
前記内燃機関の回転速度に応じて前記信号処理フィルタの信号通過特性を変更する信号通過特性変更手段をさらに備えることを特徴としている。
【0037】
第29の発明は、第20乃至第25の何れか1つの発明において、
前記動力システムは前記内燃機関の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機を含み、
現在の機関回転速度において前記の各アクチュエータを動作させることで実現可能なトルクの可変範囲を予測するトルク可変範囲予測手段と、
現在の運転条件のもとでの目標トルクの変化範囲を予測する目標トルク変化範囲予測手段と、
実現可能なトルク可変範囲が目標トルクの変化範囲に対して不足する場合に、前記変速機の変速比を調整してトルク可変範囲が拡大する方向に機関回転速度を変化させる変速比制御手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
第1の発明によれば、目標トルク信号が各アクチュエータに分配されることで、目標トルクの実現のために複数のアクチュエータが重複して動作してしまうことはない。また、各アクチュエータには、そのアクチュエータの動作特性に合った信号のみを通過させる信号処理フィルタが組み合わせられているので、アクチュエータの動作能力を超える指令信号が入力されることは防止される。アクチュエータを新規に追加する場合は、アクチュエータと、そのアクチュエータの動作特性に合った信号のみを通過させる信号処理フィルタとを1セットとして信号分配構造に組み込めばよい。その際、既存の信号処理フィルタの信号通過特性を見直す必要は無く、アクチュエータの追加に伴う制御構造の変更の必用は無いか、変更の必用が有ったとしても最小限に止めることができる。
【0039】
第2の発明によれば、動作に対するトルクの応答感度の低いアクチュエータから優先的に目標トルク信号が分配される。これによれば、トルク制御のための負担が1つのアクチュエータに偏ることはなく、応答感度の低いアクチュエータから応答感度の高いアクチュエータまで、全てのアクチュエータを有効に活用することができる。
【0040】
第3の発明によれば、アクチュエータを新規に追加する場合に既存の制御構造を変更する必要は無い。また、信号分配構造に追加する信号処理フィルタの位置によって、新規追加するアクチュエータへの目標トルク信号の分配優先順位を決定することができる。さらに、信号分配構造内の各信号処理フィルタの位置を組替えるだけで、各アクチュエータの分配優先順位を容易に変更することができる。
【0041】
第4の発明によれば、複数のアクチュエータ間で動作可能な信号域が重複している場合に、その重複信号域で動作させるアクチュエータを任意に選定することができる。具体的には、重複信号域で動作させたいアクチュエータ以外については、重複信号域に対応する信号が通過しないように、つまり、重複信号域を特定信号域に含まないように第2信号処理フィルタの信号通過特性を設定すればよい。また、各第2信号処理フィルタにおける特定信号域の設定を変更することで、上記の重複信号域で動作させるアクチュエータを他のアクチュエータに変更することもできる。
【0042】
第2信号処理フィルタを通過前の信号から、第2信号処理フィルタ並びに信号処理フィルタを通過後の信号と、次位のアクチュエータへ供給される信号とを差し引いた信号は、当該アクチュエータでも次位のアクチュエータでも動作が実現されない誤差信号となる。第5の発明によれば、この誤差信号に基づいて第2信号処理フィルタの信号通過特性を補正することで、何れのアクチュエータでも実現されない信号域を無くすことができる。
【0043】
第6の発明によれば、複数のアクチュエータ間で動作可能な信号域が重複している場合に、その重複信号域で動作させるアクチュエータを動力システムの運転状態に応じて切り替えることができ、動力システムの運転状態に合った最適なトルク制御を実現することができる。
【0044】
第7の発明によれば、第2信号処理フィルタとして使用するフィルタを動力システムの運転状態に応じて決定する際、アクチュエータを動作させたときに予想されるトルクの応答感度の良否を考慮することで、精度の高いトルク制御を実現できる最適なアクチュエータを選定することが可能になる。
【0045】
第8の発明によれば、アクチュエータの実際の最大応答周波数は機差バラツキや経年変化のために設計値よりも低い場合があるが、そのような場合において信号処理フィルタを通過する信号がアクチュエータの最大応答周波数を超えることを防止できる。
【0046】
最下位のアクチュエータにかかる信号処理フィルタを通過前の信号と通過後の信号との差分信号は、目標トルク信号のうち何れのアクチュエータでも対応できない信号域を示している。第9の発明によれば、この差分信号を目標トルク信号の生成に反映することで、目標トルク信号を実現可能な信号域内で生成することが可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0047】
第10の発明によれば、目標トルクの変化を予測し、その予測に応じて各アクチュエータへの目標トルク信号の分配を変更することができるので、各アクチュエータの動作の最適化によって目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0048】
飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との差分信号は、当該アクチュエータの動作によっては実現できない大きさのトルクを示している。第11の発明によれば、この差分信号を目標トルク信号の生成に反映することで、実現可能な大きさの範囲内に目標トルク信号を制限することが可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0049】
第12の発明によれば、飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との差分信号を利用して、目標トルク信号が正常に生成されているか否か診断することできる。
【0050】
第13の発明によれば、飽和要素の最大値及び最小値はアクチュエータの動作によって実現されるトルクの可変範囲に応じて制限されるので、飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との間に差分がある場合は、アクチュエータは所望の動作を実現してないことになる。したがって、飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との差分を見ることで、アクチュエータが正常に動作しているか否か診断することできる。
【0051】
アクチュエータの動作能力の限界を超える指令信号がアクチュエータに入力されたとき、アクチュエータの動作目標値と実際値との間には差分が生じる。第14の発明によれば、その差分信号を当該アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映することで、アクチュエータに入力される指令信号がその能力限界内に収まるような目標トルクの分配が可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0052】
アクチュエータの動作能力の限界を超える指令信号がアクチュエータに入力されたとき、アクチュエータに入力された指令信号のトルク換算値とアクチュエータの動作によって実現されたトルクとの間には差分が生じる。第15の発明によれば、その差分信号を当該アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映することで、アクチュエータに入力される指令信号がその能力限界内に収まるような目標トルクの分配が可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0053】
第16の発明によれば、複数の制御グループの中から動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択可能とすることで、ダイナミックレンジの大きなトルク制御の実現が可能になる。また、システム設計の自由度が向上するという利点もある。
【0054】
第17の発明によれば、目標トルクに応じて制御グループを切り替えることで、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0055】
第18の発明によれば、各アクチュエータの状態に基づいて制御グループを切り替えることで、個々のアクチュエータの状態がトルク制御に与える影響を緩和することが可能になる。
【0056】
第19の発明によれば、特定のアクチュエータの動作を他のアクチュエータの動作に優先したい要求がある場合に、その特定のアクチュエータ(優先アクチュエータ)を含むアクチュエータ全体の動作によって目標トルクを実現しつつ、前記要求も実現することができる。
【0057】
第20の発明によれば、自動車に搭載される内燃機関のトルク制御において、トルク制御にかかるアクチュエータの新規の追加を容易にすることができる。
【0058】
第21の発明によれば、スロットル開度の制御で実現するトルクと、点火時期の制御で実現するトルクとに目標トルクを分配してトルク制御を行うことができる。
【0059】
第22の発明によれば、吸気バルブのリフト量の制御で実現するトルクと、点火時期の制御で実現するトルクとに目標トルクを分配してトルク制御を行うことができる。
【0060】
第23の発明によれば、燃料噴射時期及び燃料噴射量の制御で実現可能なトルクにも目標トルクを分配してトルク制御を行うことができる。
【0061】
第24の発明によれば、補機による負荷の制御で実現可能なトルクにも目標トルクを分配してトルク制御を行うことができる。
【0062】
第25の発明によれば、内燃機関と電動機とからなるハイブリッド動力システムにおいて、トルク制御にかかるアクチュエータの新規の追加を容易にすることができる。
【0063】
第26の発明によれば、目標トルク信号から特定周波数域の信号成分が取り除かれることで、内燃機関から特定周波数域の振動が発生することを防止することができる。
【0064】
第27の発明によれば、目標トルク信号から車両の固有周波数と同じ周波数の信号成分が取り除かれることで、車両の振動を抑制することができる。
【0065】
内燃機関では、各アクチュエータによって実現可能な目標トルク信号の信号域は機関回転速度に依存する。第28の発明によれば、機関回転速度に応じて信号処理フィルタの信号通過特性を変更することで、各アクチュエータの動作能力に応じた目標トルク信号の分配が可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0066】
また、内燃機関では、アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度は機関回転速度に依存する。第29の発明によれば、変速機の変速比を制御して機関回転速度を変化させることで、アクチュエータによるトルク可変範囲が目標トルクの変化範囲をカバーするようにアクチュエータを動作させることが可能であり、高い精度で目標トルクを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下では、本発明のトルク制御装置を自動車に搭載される内燃機関(以下、エンジンという)、特に、火花点火式のエンジンに適用した場合の実施の形態について説明する。
【0068】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。エンジンは、そのトルク制御にかかる複数のアクチュエータ2、4、12を備えている。これらアクチュエータ2、4、12は、入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクをエンジンに実現させるものである。ここでは、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置、アクチュエータC12を燃料噴射装置とする。スロットルは、その開度によってエンジンのトルクを制御することができ、点火装置は、その点火時期によってエンジンのトルクを制御することができる。また、燃料噴射装置は、その燃料噴射量や燃料噴射時期によってエンジンのトルクを制御することができる。
【0069】
本実施の形態のトルク制御装置は、トルク制御に使用するアクチュエータを容易に追加できるという特徴を有している。まず、アクチュエータA2とアクチュエータB4とを用いたトルク制御の方法について説明し、次に、トルク制御に使用するアクチュエータとしてアクチュエータC12を新たに追加する方法について説明する。
【0070】
エンジンの制御装置(トルク制御装置よりも上位の制御装置)には、各種のトルク要求が供給される。これらトルク要求には、ドライバからの要求の他、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからの要求も含まれている。エンジンの制御装置は、これら各種のトルク要求をまとめたものをエンジンの目標トルクとし、それをデジタル信号化した目標トルク信号をトルク制御装置に供給する。
【0071】
トルク制御装置は、目標トルク信号を2つのアクチュエータ2、4に指令信号として分配する。目標トルク信号の分配には、フィルタ6、8が用いられる。フィルタ6、8は、各アクチュエータ2、4の信号の入力部に設けられ、対応するアクチュエータ2、4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させる。アクチュエータA2に組み合わせられるフィルタA6は、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい周波数域の信号を通過させるフィルタ(ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の狭義のフィルタ)と、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限するガード(飽和要素)等から構成されている。同様に、アクチュエータB4に組み合わせられるフィルタB8は、アクチュエータB4が動作可能な、或いは動作させたい周波数域の信号を通過させるフィルタと、アクチュエータB4が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限するガード等から構成されている。これらフィルタ6、8は、第1の発明にかかる「信号処理フィルタ」に相当する。
【0072】
トルク制御装置の信号分配構造では、目標トルク信号を各アクチュエータ2、4に分配する上での優先順位が予め設定されている。分配優先順位は任意に設定することができるが、図1に示す構成では、アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度の低い順に分配優先順位が設定されている。すなわち、トルク応答感度の低いスロットル(アクチュエータA)2の方が、トルク応答感度の高い点火装置(アクチュエータB)4よりも分配優先順位を上に設定されている。このように分配優先順位を設定すれば、トルク制御のための負担が1つのアクチュエータに偏ることはなく、応答感度の低いアクチュエータから応答感度の高いアクチュエータまで、全てのアクチュエータを有効に活用することが可能になる。なお、各アクチュエータ2、4の分配優先順位は、具体的には、対応するフィルタ6、8の信号分配構造内の位置によって決まる。
【0073】
図1に示す構成では、上位のアクチュエータA2に対応するフィルタA6には、目標トルク信号がそのまま入力される。アクチュエータA2には、フィルタA6を通過した信号が指令信号として入力される。下位のアクチュエータB4に対応するフィルタB8には、上位のフィルタA6を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が入力される。この差分信号は、目標トルク信号のうちアクチュエータA2では実現できない、或いは実現されない信号である。この差分信号がフィルタB8に入力され、フィルタB8を通過した信号が指令信号としてアクチュエータB4に入力される。これにより、目標トルクのうちアクチュエータA2で実現されるトルク範囲は全てアクチュエータA2に実現させ、アクチュエータA2で実現されないトルク範囲のみアクチュエータB4に実現させることができる。
【0074】
なお、場合よっては、アクチュエータB4の方を優先してトルク制御に使用したいという要望もありうる。その場合には、フィルタA6の位置とフィルタB8の位置とを入れ替えるだけでよい。ただし、当然のことながら、その場合にもフィルタA6にはアクチュエータA2が接続され、フィルタB8にはアクチュエータB4が接続されている。このように信号分配構造内のフィルタ6、8の位置を入れ替えることで、目標トルクのうちアクチュエータB4で実現されるトルク範囲は全てアクチュエータB4に実現させ、アクチュエータB4で実現されないトルク範囲のみアクチュエータA2に実現させることが可能になる。
【0075】
アクチュエータC12を追加する場合には、アクチュエータC12の動作特性に合った信号のみを通過させるフィルタC14を信号の入力部に設け、このフィルタC14を上記の信号分配構造に組み込む。具体的には、図1中に破線で示すように、フィルタB8を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号がフィルタC14に入力されるようにすればよい。この差分信号は、目標トルク信号のうちアクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現できない、或いは実現されない信号である。この差分信号がフィルタC14に入力され、フィルタC14を通過した信号が指令信号としてアクチュエータC12に入力される。これにより、目標トルクのうちアクチュエータA2で実現されるトルク範囲は全てアクチュエータA2に実現させ、アクチュエータA2で実現されないトルク範囲のうちアクチュエータB4で実現されるトルク範囲は全てアクチュエータB4に実現させ、アクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現されないトルク範囲のみアクチュエータC12に実現させることができるようになる。
【0076】
なお、上記のようにアクチュエータC12を追加する場合、アクチュエータC12の分配優先順位は最下位となる。しかし、前述のように、各アクチュエータ2、4、12の分配優先順位は、対応するフィルタ6、8、14の位置によって自由に変更することができる。例えば、フィルタA6とフィルタB8との間にフィルタC14を差し込めば、アクチュエータC12の分配優先順位をアクチュエータA2の次位とすることができる。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態のトルク制御装置の構成によれば、アクチュエータC12を新規に追加する場合、既存の制御構造を変更する必要は無い。具体的には、既存アクチュエータ2、4への新たなフィルタの追加や、既存フィルタ6、8の信号通過特性の見直しは必要はない。また、信号分配構造に追加するフィルタC14の位置によって、新規追加するアクチュエータC12への目標トルク信号の分配優先順位を決定することができる。さらに、信号分配構造内の各フィルタ6、8、14の位置を組替えるだけで、各アクチュエータ2、4、12の分配優先順位を容易に変更することができる。
【0078】
実施の形態2.
図2は本発明の実施の形態2としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。エンジンは、そのトルク制御にかかる複数のアクチュエータ2、4を備えている。これらアクチュエータ2、4は、入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクをエンジンに実現させるものである。
【0079】
本実施の形態のトルク制御装置は、複数のアクチュエータ間で動作可能な信号域が重複している場合に、その重複信号域で動作させるアクチュエータを任意に選定することができるという特徴を有している。以下、本実施の形態にかかるトルク制御の方法について説明する。
【0080】
エンジンの制御装置(トルク制御装置よりも上位の制御装置)には、各種のトルク要求が供給される。これらトルク要求には、ドライバからの要求の他、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからの要求も含まれている。エンジンの制御装置は、これら各種のトルク要求をまとめたものをエンジンの目標トルクとし、それをデジタル信号化した目標トルク信号をトルク制御装置に供給する。
【0081】
トルク制御装置は、目標トルク信号を2つのアクチュエータ2、4に指令信号として分配する。各アクチュエータ2、4の信号の入力部には、アクチュエータ2、4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタ6、8がそれぞれ設けられている。アクチュエータA2に組み合わせられるフィルタA6は、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい周波数域の信号を通過させるフィルタ(ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の狭義のフィルタ)と、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限するガード(飽和要素)等から構成されている。同様に、アクチュエータB4に組み合わせられるフィルタB8は、アクチュエータB4が動作可能な、或いは動作させたい周波数域の信号を通過させるフィルタと、アクチュエータB4が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限するガード等から構成されている。これらフィルタ6、8は、第1の発明にかかる「信号処理フィルタ」に相当する。
【0082】
目標トルク信号の各アクチュエータ2、4への分配には、調停フィルタ18が用いられる。調停フィルタ18はフィルタA6の上流に配置されている。上位のアクチュエータA2に対応するフィルタA6には、調停フィルタ18を通過した目標トルク信号が入力される。アクチュエータA2には、フィルタA6を通過した信号が指令信号として入力される。下位のアクチュエータB4に対応するフィルタB8には、調停フィルタ18を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が入力される。この差分信号がフィルタB8に入力され、フィルタB8を通過した信号が指令信号としてアクチュエータB4に入力される。
【0083】
調停フィルタ18は、アクチュエータA2が動作可能な信号域のうち特定信号域に対応する信号のみを通過させるフィルタである。図3は、アクチュエータA2が動作可能な信号域と、アクチュエータB4が動作可能な信号域と、調停フィルタ18の通過信号域(特定信号域)との関係を示す図である。図3においてアクチュエータA2が動作可能な信号域は、フィルタA6の通過信号域に対応している。また、アクチュエータB4が動作可能な信号域は、フィルタB8の通過信号域に対応している。本実施の形態では、調停フィルタ18の通過信号域は、アクチュエータ2、4の両方が動作可能な信号域(重複信号域)内に設定されている。調停フィルタ18は、第4の発明にかかる「第2信号処理フィルタ」に相当する。
【0084】
図2に示す構成では、図3中に曲線で示すような目標トルク信号の入力があった場合、目標トルク信号を示す曲線のうち細線で示す部分のみ調停フィルタ18を通過する。調停フィルタ18を通過した信号はフィルタA6を通ってアクチュエータA2に入力される。アクチュエータA2が動作可能な信号域内であっても、調停フィルタ18の通過信号域から外れている信号は、アクチュエータA2ではなくアクチュエータB4に入力される。目標トルク信号を示す曲線のうち太線で示す部分がアクチュエータB4に入力される信号である。これにより、分配優先順位が上位のアクチュエータA2で実現可能な目標トルク信号の一部を下位のアクチュエータB4に実現させることができる。
【0085】
本実施の形態のトルク制御装置の構成によれば、2つのアクチュエータ2、4間で動作可能な信号域が重複している場合、その重複信号域で動作させるアクチュエータを任意に選定することができる。具体的には、分配優先順位が上位のアクチュエータA2に実現させたい信号域に合わせて調停フィルタ18の通過信号域を設定すればよい。そうすることで、調停フィルタ18の通過信号域以外の重複信号域は、下位のアクチュエータB4に実現させることができる。
【0086】
また、本実施の形態のトルク制御装置の構成によれば、調停フィルタ18の通過信号域の設定を変更することで、各アクチュエータ2、4に実現させる信号域を変更することが可能である。アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置とすれば、エンジンの運転モードや制約等に基づいて調停フィルタ18の通過信号域の設定を変更することで、スロットル開度でエンジントルクを制御する信号域と、点火時期でエンジントルクを制御する信号域とを容易に調停することができる。
【0087】
なお、本実施の形態のトルク制御装置においても、アクチュエータを新規に追加することができる。その場合には、新規追加するアクチュエータの動作特性に合った信号のみを当該アクチュエータの指令信号として通過させるフィルタ(信号処理フィルタ)と、アクチュエータB4でトルク制御を行う信号域と新規追加するアクチュエータでトルク制御を行う信号域とを調停するための調停フィルタ(第2信号処理フィルタ)とを、図2に示す構成に追加すればよい。
【0088】
実施の形態3.
図4は本発明の実施の形態3としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図4に示す構成において実施の形態2と同一の要素には同一の符号を付している。
【0089】
本実施の形態のトルク制御装置は、調停フィルタ18の信号通過特性を補正するための構成を有している。以下、調停フィルタ18の信号通過特性の補正を行う利点と、その方法について図5及び図6を用いて説明する。
【0090】
図5は、アクチュエータA2が動作可能な信号域と、アクチュエータB4が動作可能な信号域と、補正前の調停フィルタ18の通過信号域との関係を示す図である。ここでは、調停フィルタ18の通過信号域が、アクチュエータA2が動作可能な信号域、つまり、フィルタA6の通過信号域を大きく超えている場合を例にとっている。図5中に曲線で示すような目標トルク信号の入力があった場合、目標トルク信号を示す曲線のうち細線で示す部分と点線で示す部分とが調停フィルタ18を通過する。しかし、細線で示す部分の信号はフィルタA6を通過するが、点線で示す部分の信号はフィルタA6で取り除かれてしまう。一方、フィルタB8を通過する信号は、調停フィルタ18の通過信号域から外れている信号、つまり、目標トルク信号を示す曲線のうち太線で示す部分となる。この結果、点線で示す部分の信号はアクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現されない信号となってしまう。
【0091】
調停フィルタ18の信号通過特性の補正は、上記のようなアクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現されない信号域を無くすために行われる。具体的には、新たに設けられた判定部22に、目標トルク信号から各フィルタ6、8を通過した信号を差し引いた信号が入力される。この信号は、上位のアクチュエータA2でも下位のアクチュエータB4でも動作が実現されない誤差信号である。判定部22は、誤差信号が事前に予測されていた許容誤差範囲内か否か判定する。判定の結果、誤差信号が許容誤差範囲を超える場合には、その判定結果が調停フィルタ18の通過信号域の設定に反映される。判定部22は、第5の発明にかかる「信号通過特性補正手段」に相当する。
【0092】
図6は、アクチュエータA2が動作可能な信号域と、アクチュエータB4が動作可能な信号域と、補正後の調停フィルタ18の通過信号域との関係を示す図である。前記の判定結果が反映されることで、調停フィルタ18の通過信号域はフィルタA6の通過信号域からのはみ出しが小さくなる方向に補正される。その結果、図5と図6とを比較して分かるように、目標トルク信号を示す曲線のうち点線で示す部分、すなわち、アクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現されない信号域を縮減することができる。各アクチュエータ2、4には、通過信号域を補正後の調停フィルタ18によって分配された信号が入力される。
【0093】
本実施の形態のトルク制御装置の構成によれば、調停フィルタ18の信号通過特性の設定にずれがある場合、アクチュエータ2、4を動作させる前にそのずれを補正することができる。これにより、アクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現されない信号域を縮減することができ、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0094】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4としてのトルク制御装置は、実施の形態1の構成を基本としつつ、各フィルタ(信号処理フィルタ)の信号通過特性を次のように設定したことに特徴がある。図7は本実施の形態にかかるフィルタの信号通過特性の設定を説明するための図である。
【0095】
図1に示す構成において、各フィルタは、対応するアクチュエータが動作可能な、或いは動作させたい信号域に合わせてその信号通過域が設定されている。しかし、アクチュエータには機差バラツキや経年変化があり、その影響でフィルタの信号通過域がアクチュエータが動作可能な信号域よりも広くなってしまう場合がある。その場合、一部の信号は、フィルタを通過したにもかかわらずアクチュエータでは実現不可能になってしまう。
【0096】
そこで、本実施の形態のトルク制御装置では、各アクチュエータの機差バラツキや経年変化、特に、最大応答周波数の機差バラツキや経年変化を考慮し、予想される最も遅い最大応答周波数にフィルタの最大通過周波数を合わせている。図7に示す信号通過特性の設定では、予想される最も遅いアクチュエータAの最大応答周波数にフィルタAの最大通過周波数が合わせられている。そして、フィルタAの最大通過周波数にフィルタBの最小通過周波数が合わせられている。
【0097】
図7に示す設定によれば、フィルタAを通過する信号がアクチュエータAの最大応答周波数を超えることを防止することができ、フィルタAを通過した信号は全てアクチュエータAによって実現することができる。また、アクチュエータAで実現可能ではあるがフィルタAで取り除かれる信号は、アクチュエータAよりも応答が速いアクチュエータBにて実現させることができる。これにより、何れのアクチュエータでも実現されない信号を無くすことができ、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0098】
実施の形態5.
図8は本発明の実施の形態5としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図8に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0099】
本実施の形態では、実施の形態1と同様、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置、アクチュエータC12を燃料噴射装置とする。トルクの応答性を重視した場合、目標トルクの分配優先順位は、上位からスロットル、点火装置、そして、燃料噴射装置の順となる。しかし、エンジンにはトルクの応答性だけでなく、触媒暖機、ノック回避、エンジン保護等、種々の機能の実現が求められる。求められる機能によっては、特定のアクチュエータの動作を常に他のアクチュエータの動作に優先させることが必要になる場合もある。
【0100】
本実施の形態のトルク制御装置は、特定のアクチュエータの動作を他のアクチュエータの動作に優先させるための構成を有している。図8に示す構成では、アクチュエータC12が他に優先させる優先アクチュエータとなっている。この優先アクチュエータC12には、図示しない指示値決定部において他のアクチュエータA2やアクチュエータB4に優先されて指示値が決定される。ここでいう指示値とは、優先アクチュエータが燃料噴射装置である場合には燃料噴射量及び燃料噴射時期である。また、優先アクチュエータが点火装置である場合には点火時期であり、優先アクチュエータがスロットルである場合にはスロットル開度である。指示値はエンジンに要求されるトルク応答性以外の要件や機能から決定される。
【0101】
また、優先アクチュエータC12の指示値は、トルク変換部30においてトルク信号に変換され、目標トルク信号から差し引かれる。そして、指示値の分のトルク信号を差し引かれた目標トルク信号が、優先アクチュエータC12以外のアクチュエータ2、4に分配優先順位に従って分配される。これにより、優先アクチュエータC12を他に優先して動作させつつ、優先アクチュエータC12を含むアクチュエータ2、4、12全体の動作によって目標トルクを実現することができる。
【0102】
なお、図8に示す構成において、目標トルク信号から指示値の分のトルク信号を差し引く構成は、第19の発明にかかる「目標トルク信号補正手段」に相当している。
【0103】
また、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、実施の形態2のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0104】
実施の形態6.
図9は本発明の実施の形態6としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図9に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0105】
図9に示す構成によれば、目標トルクのうちアクチュエータA2で実現されるトルク範囲はアクチュエータA2にて実現され、アクチュエータA2で実現されないトルク範囲はアクチュエータB4にて実現される。しかし、フィルタA6の通過信号域からもフィルタB8の通過信号域からも外れている信号が目標トルク信号に含まれる場合、その信号に対応する目標トルクはアクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現することができない。
【0106】
そこで、図9に示す構成では、フィルタB8を通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る場合に、その差分信号が目標トルク信号の生成部36にフィードバックされるようになっている。最下位のアクチュエータB4にかかるフィルタB8を通過前の信号と通過後の信号との差分信号は、目標トルク信号のうち何れのアクチュエータ2、4でも対応できない信号域を示している。この差分信号が目標トルク信号生成部36にフィードバックされることで、実現可能な信号域内での目標トルク信号の生成が可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0107】
なお、図9に示す構成において、フィルタB8を通過前の信号と通過後の信号との差分信号を目標トルク信号生成部36にフィードバックする構成は、第9の発明にかかる「フィードバック手段」に相当している。
【0108】
実施の形態7.
図10は本発明の実施の形態7としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図10に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0109】
図10に示す構成では、フィルタA6として、信号通過特性の異なる複数のフィルタが用意されている。また、フィルタB8として、信号通過特性の異なる複数のフィルタが用意されている。さらに、フィルタC14として、信号通過特性の異なる複数のフィルタが用意されている。複数のフィルタの中からフィルタA6として使用するフィルタを選択し、また、複数のフィルタの中からフィルタB8として使用するフィルタを選択し、さらに、複数のフィルタの中からフィルタC14として使用するフィルタを選択して組み合わせることで、その組み合わせに応じて各アクチュエータへの目標トルク信号の分配を変更することができる。
【0110】
本実施の形態のトルク制御装置は、以下に説明するように、エンジンの目標トルクの変化を予測し、予測される目標トルクの変化に基づいてフィルタ6、8、14の組み合わせを決定することにしている。なお、そのようにトルク制御装置が機能することで、第10の発明にかかる「予測手段」及び「組み合わせ決定手段」が実現される。
【0111】
図11は目標トルクの変化の一例を示す図である。目標トルクは、ドライバからのトルク要求や、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからのトルク要求を総合して決定される。図中に示すように、目標トルクはステップ的(図中では、減少後、増加)に変化する場合がある。トルク制御装置には、この目標トルクを信号化した目標トルク信号が供給される。
【0112】
アクチュエータAをスロットル、アクチュエータBを点火装置、アクチュエータCを燃料噴射装置とすると(何れも図示略)、目標トルク信号は分配優先順位が高いスロットルに優先的に分配される。しかし、スロットルの動作に対するトルクの応答感度は低いため、目標トルクのステップ的な減少に合わせてスロットルを積極的に閉じ側に動かした場合、次に目標トルクがステップ的に増加したときに必要な開度まで速やかに開くことができない。したがって、この場合は、余りスロットルを動かさず、点火時期によってステップ的な減少分を補償することが目標トルクの実現には有効と考えられる。
【0113】
そこで、前述のように目標トルクの変化を予測し、予測される目標トルクの変化に基づいてフィルタ6、8、14の組み合わせを決定する。目標トルクの決定から目標トルク信号の供給までの間に一定の時間遅れを設けることで、前記一定時間内における目標トルクの変化を予測することができる。図11において時点p1、p2、p3を起点とする点線円で示す範囲の時間が前記一定時間に相当する。
【0114】
フィルタ6、8、14の組み合わせを決定する上では、分配優先順位が上位のフィルタA6から選定していくことが好ましい。ここでは、フィルタA6を選定する上での指針について、図11中に示す時点p1、p2、p3でのフィルタA6の選定を例にとって説明する。まず、時点p1では、目標トルクは一旦ステップ的に減少するが、その後直ぐにステップ的に増加することが予測される。このような場合には、スロットルは余り動かさないほうが良いので、フィルタA6としては、カットオフ周波数が低周波側に設定されたフィルタ(図11中で一点鎖線で示す遅いフィルタ)を選定する。時点p2では、今後目標トルクが増加することが予測されるので、目標トルクの増加に素早く対応すべく、カットオフ周波数が高周波側に設定されたフィルタ(図11中で破線で示す速いフィルタ)を選定する。また、時点p3では、目標トルクは暫く下がり続けることが予測されるので、カットオフ周波数が高周波側に設定されたフィルタを選定する。他のフィルタ6、8の選定も同様にして行う。
【0115】
各フィルタ6、8、14について選定を行った後は、その組み合わせが最適か否か評価することが好ましい。図10に示す構成では、フィルタ6、8、14の組み合わせについての評価を行う評価部38が設けられている。評価部38には、各フィルタ6、8、14を通過した指令信号が入力される。評価部38は、これら指令信号に基づいた各アクチュエータの動作によって実現されるトルクを計算する。そして、計算されたトルクと目標トルクとの差に基づき、選定したフィルタ6、8、14の組み合わせが最適か否か評価する。評価部38による評価結果が各フィルタ6、8、14にフィードバックされることで、最終的に最適な組み合わせが決定される。
【0116】
以上説明したように、本実施の形態のトルク制御装置の構成によれば、予測される目標トルクの変化に応じて各アクチュエータへの目標トルク信号の分配を変更することができるので、各アクチュエータの動作を最適化して目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0117】
実施の形態8.
図12は本発明の実施の形態8としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図12に示す構成において実施の形態2と同一の要素には同一の符号を付している。
【0118】
図12に示す構成では、調停フィルタ18として信号通過特性の異なる2つのフィルタ18a、18bが用意されている。本実施の形態のトルク制御装置は、2つのフィルタ18a、18bの中からエンジンの運転状態に応じた適宜のフィルタを選択して使用する機能を有している。なお、本実施の形態では、実施の形態2と同様、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置とする。
【0119】
2つのフィルタ18a、18bのうち、一方のフィルタはノーマルフィルタ18aといい、もう一方のフィルタはエミッションフィルタ18bという。ノーマルフィルタ18aは、目標トルク信号をスロットル(アクチュエータA)2に優先的に分配するような信号通過特性を有するフィルタである。スロットルによるトルク制御は、ノック、排気温度、燃費等への悪影響が少ないため、通常はこのノーマルフィルタ18aが使用されるようになっている。
【0120】
エミッションフィルタ18bは、触媒温度が低いときのようにエミッションの向上を狙いたい場合に使用するフィルタである。エミッションフィルタ18bは、点火時期の遅角によって排気温度の上昇を図れるように、目標トルク信号を点火装置(アクチュエータB)4に優先的に分配するような信号通過特性を有している。図13には、スロットルで実現可能な信号域と、点火装置で実現可能な信号域と、エミッションフィルタ18bの信号通過特性との関係を示している。なお、図13に示すグラフの縦軸はトルク変化量(Δトルク)であり、横軸は周波数である。エミッションフィルタ18bは、スロットルと点火装置の両方で実現可能な信号域であってトルク変化量がマイナスの信号域における信号を点火装置に供給するように、その信号通過特性を設定されている。
【0121】
本実施の形態のトルク制御装置は、図14のフローチャートに示すルーチンに従って調停フィルタ18を選択する。最初のステップS10では、排気通路に配置される触媒の温度が所定の基準温度α未満か否か判定する。触媒温度は、触媒に配置した温度センサによって直接測定してもよく、排気温度から予測してもよい。判定の結果、触媒温度が基準温度α以上であるならばステップS12に進み、ノーマルフィルタ18aを選択する。判定の結果、触媒温度が基準温度α未満であるならばステップS14に進み、エミッションフィルタ18bを選択する。なお、トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第6の発明にかかる「フィルタ選択手段」が実現される。
【0122】
従来は、触媒暖機を実行する場合、点火時期の遅角量に応じた吸入空気の増量制御と、目標遅角量までの点火時期の遅角制御と、エンジン回転数の安定化制御とを同時に実施する必要があった。しかし、本実施の形態のトルク制御装置によれば、従来のような複雑なロジックを必要とすることなく、目標トルクを実現しながら点火時期の遅角による触媒暖機を行うことができる。
【0123】
実施の形態9.
図15は本発明の実施の形態9としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図15に示す構成において実施の形態2と同一の要素には同一の符号を付している。
【0124】
図15に示す構成では、調停フィルタ18として信号通過特性の異なる2つのフィルタ18a、18cが用意されている。本実施の形態のトルク制御装置は、2つのフィルタ18a、18cの中からエンジンの運転状態に応じた適宜のフィルタを選択して使用する機能を有している。なお、本実施の形態では、実施の形態2と同様、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置とする。
【0125】
2つのフィルタ18a、18cのうち、一方のフィルタはノーマルフィルタ18aであり、もう一方のフィルタは燃焼向上フィルタ18cという。ノーマルフィルタ18aは、目標トルク信号をスロットル(アクチュエータA)2に優先的に分配するような信号通過特性を有するフィルタである。
【0126】
燃焼向上フィルタ18cは、燃料性状が悪い場合のように燃焼の悪化を改善したい場合に使用するフィルタである。燃焼向上フィルタ18cは、点火時期の進角によって燃焼の向上を図れるように、目標トルク信号を点火装置(アクチュエータB)4に優先的に分配するような信号通過特性を有している。図16には、スロットルで実現可能な信号域と、点火装置で実現可能な信号域と、燃焼向上フィルタ18cの信号通過特性との関係を示している。なお、図16に示すグラフの縦軸はトルク変化量(Δトルク)であり、横軸は周波数である。燃焼向上フィルタ18cは、スロットルと点火装置の両方で実現可能な信号域であってトルク変化量がプラスの信号域における信号を点火装置に供給するように、その信号通過特性を設定されている。
【0127】
本実施の形態のトルク制御装置は、図17のフローチャートに示すルーチンに従って調停フィルタ18を選択する。最初のステップS20では、燃焼の悪化が検出されたか否か判定する。燃焼の悪化は、エンジン回転数の変動やトルクの変動から間接的に検出することができる。判定の結果、燃焼の悪化が検出されていないときにはステップS22に進み、ノーマルフィルタ18aを選択する。判定の結果、燃焼の悪化が検出されたときにはステップS24に進み、燃焼向上フィルタ18cを選択する。なお、トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第6の発明にかかる「フィルタ選択手段」が実現される。
【0128】
燃焼向上フィルタ18cが無い場合には、燃焼の悪化の有無に関係なく、目標トルクが増大したときにはスロットルが大きく開かれることになる。しかし、燃焼が悪化しているときにスロットル開度を大きくすると、吸気管負圧の低下によって燃料の霧化が悪化し、燃焼の悪化を助長してしまうことになる。この点に関し、本実施の形態のトルク制御装置によれば、燃焼の悪化が検出されたときには、燃焼向上フィルタ18cを用いて目標トルク信号が分配されるので、目標トルクを実現しながら点火時期の進角による燃焼の向上を図ることができる。
【0129】
実施の形態10.
本発明の実施の形態10としてのトルク制御装置は、実施の形態8の構成(図12に示す構成)と実施の形態9の構成(図15に示す構成)とを併せ持っていることに特徴がある。つまり、調停フィルタ18として、信号通過特性の異なる3つのフィルタ、すなわち、ノーマルフィルタ18a、エミッションフィルタ18b及び燃焼向上フィルタ18cを有している。各フィルタ18a、18b、18cの特徴は前述の通りである。
【0130】
本実施の形態のトルク制御装置は、図18のフローチャートに示すルーチンに従って調停フィルタ18を選択する。最初のステップS30では、燃焼の悪化が検出されたか否か判定する。判定の結果、燃焼の悪化が検出されたときにはステップS38に進み、燃焼向上フィルタ18cを選択する。燃焼の悪化が検出されていないときにはステップS32に進み、排気通路に配置される触媒の温度が所定の基準温度α未満か否か判定する。判定の結果、触媒温度が基準温度α未満であるならばステップS36に進み、エミッションフィルタ18bを選択する。そして、触媒温度が基準温度α以上であるならばステップS34に進み、ノーマルフィルタ18aを選択する。なお、トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第6の発明にかかる「フィルタ選択手段」が実現される。
【0131】
本実施の形態のトルク制御装置によれば、目標トルクを実現しながら点火時期の遅角による触媒暖機を行うことができ、また、目標トルクを実現しながら点火時期の進角による燃焼の向上を図ることもできる。
【0132】
実施の形態11.
本発明の実施の形態10としてのトルク制御装置は、実施の形態8の構成(図12に示す構成)を基本としつつ、調停フィルタ18の選択を図22のフローチャートに示すルーチンに従って行うことに特徴がある。本実施の形態では、触媒温度に加えて予想されるトルクの応答感度の良否にも基づいて調停フィルタ18の選択を行う。
【0133】
図19は、スロットルと点火装置の両方で実現可能な信号域とトルクの応答感度との関係について示す図である。スロットルと点火装置の両方で実現可能な信号域は、トルクの応答感度の良否によって高感度域と低感度域とに分けられる。ここでいうトルクの応答感度とは、点火装置の動作量、すなわち、点火時期の変化量に対するトルクの応答感度を意味している。高感度域では、図20に示すように、点火時期の変化量に対するトルクの変化量が大きい。これに対し、低感度域では、図21に示すように、点火時期の変化量に対するトルクの変化量が小さい。本実施の形態では、目標トルク信号が高感度域に属する場合にのみ、エミッションフィルタ18bを使用することにしている。
【0134】
図22に示すルーチンの最初のステップS40では、排気通路に配置される触媒の温度が所定の基準温度α未満か否か判定する。判定の結果、触媒温度が基準温度α以上であるならばステップS44に進み、ノーマルフィルタ18aを選択する。判定の結果、触媒温度が基準温度α未満であるならばステップS42に進み、目標トルク信号が低感度域の信号か否か判定する。低感度域の信号であるならばステップS44に進み、ノーマルフィルタ18aを選択する。高感度域の信号であるならばステップS46に進み、エミッションフィルタ18bを選択する。トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第6の発明及び第7の発明にかかる「フィルタ選択手段」が実現される。
【0135】
本実施の形態のトルク制御装置によれば、調停フィルタ18として使用するフィルタを触媒暖機の必要性に応じて選択する際、点火時期を変化させたときに予想されるトルクの応答感度の良否を考慮することで、点火時期が極端に遅角されることを防止してエンジン制御のロバスト性を高く保つことができる。また、トルクの応答感度の低い点火装置を使用せずにスロットルによるトルク制御を行うことで、精度の高いトルク制御を実現することができる。
【0136】
なお、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態8のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能、すなわち、トルクの応答感度の良否に基づいて調停フィルタ18の選択を行う機能は、実施の形態9、10のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0137】
実施の形態12.
図23は本発明の実施の形態12としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図23に示す構成において実施の形態2と同一の要素には同一の符号を付している。
【0138】
図23に示す構成では、アクチュエータA2とアクチュエータB4とを用いてトルク制御を行う制御グループAと、アクチュエータA2とアクチュエータC12とを用いてトルク制御を行う制御グループBとが設定されている。また、図23に示す構成では、制御グループAと制御グループBの何れか一方を選択し、選択した制御グループに目標トルク信号を供給する選択部44が設けられている。
【0139】
制御グループAには、アクチュエータA2の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタA6と、アクチュエータB4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタB8と、目標トルク信号を各アクチュエータ2、4へ分配するための調停フィルタ18とが設けられている。選択部44によって制御グループAが選択されたとき、フィルタA6には、調停フィルタ18を通過した目標トルク信号が供給され、アクチュエータA2には、フィルタA6を通過した信号が指令信号として入力される。フィルタB8には、調停フィルタ18を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が供給され、アクチュエータB4には、フィルタB8を通過した信号が指令信号として入力される。
【0140】
制御グループBには、アクチュエータA2の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタA6と、アクチュエータC12の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタC14と、目標トルク信号を各アクチュエータ2、12へ分配するための調停フィルタ40とが設けられている。調停フィルタ40は、アクチュエータA2が動作可能な信号域のうち特定信号域に対応する信号のみを通過させるフィルタである。選択部44によって制御グループBが選択されたとき、フィルタA6には、調停フィルタ40を通過した目標トルク信号が供給され、アクチュエータA2には、フィルタA6を通過した信号が指令信号として入力される。フィルタC14には、調停フィルタ40を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が供給され、アクチュエータC12には、フィルタC14を通過した信号が指令信号として入力される。
【0141】
本実施の形態では、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置、アクチュエータC12を燃料噴射装置とする。燃料噴射装置によれば、燃料カットによって大幅なトルクダウンが可能となる。図24には、スロットルで実現可能な信号域と、点火装置で実現可能な信号域と、燃料カット及びスロットルで実現可能な信号域との関係を示している。なお、図24に示すグラフの縦軸はトルク変化量(Δトルク)であり、横軸は周波数である。
【0142】
図24において、スロットルで実現可能な信号域と、点火装置で実現可能な信号域とは、制御グループAを選択することで実現可能な信号域である。一方、燃料カット及びスロットルで実現可能な信号域は、制御グループBを選択することで実現可能な信号域である。図24から分かるように、トルク制御に使用する制御グループを適宜に切り替えることで、ダイナミックレンジの大きなトルク制御を実現することができ、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0143】
本実施の形態のトルク制御装置は、図25のフローチャートに示すルーチンに従って制御グループを選択する。最初のステップS50では、目標トルクの変化量(Δトルク要求)が所定の基準値βよりも小さいか否か判定する。基準値βはマイナスの値である。判定の結果、Δトルク要求が基準値βより小さい場合、すなわち、トルクダウンの要求が大きい場合にはステップS54に進み、制御グループBを選択する。これにより、燃料カットとスロットル制御との組み合わせによって大幅なトルクダウンが可能となる。一方、Δトルク要求が基準値β以上の場合、すなわち、トルクダウンの要求が小さいか或いは無い場合にはステップS52に進み、制御グループAを選択する。トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第16及び第17の発明にかかる「グループ選択手段」が実現される。
【0144】
なお、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、実施の形態1のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0145】
実施の形態13.
図26は本発明の実施の形態13としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図26に示す構成において実施の形態2と同一の要素には同一の符号を付している。
【0146】
図26に示す構成では、アクチュエータD50とアクチュエータB4とを用いてトルク制御を行う制御グループCと、アクチュエータA2とアクチュエータB4とを用いてトルク制御を行う制御グループDとが設定されている。また、図26に示す構成では、制御グループCと制御グループDの何れか一方を選択し、選択した制御グループに目標トルク信号を供給する選択部58が設けられている。
【0147】
制御グループCには、アクチュエータD50の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタD52と、アクチュエータB4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタB8と、目標トルク信号を各アクチュエータ50、4へ分配するための調停フィルタ54とが設けられている。調停フィルタ54は、アクチュエータD50が動作可能な信号域のうち特定信号域に対応する信号のみを通過させるフィルタである。選択部58によって制御グループCが選択されたとき、フィルタD52には、調停フィルタ54を通過した目標トルク信号が供給され、アクチュエータD50には、フィルタD52を通過した信号が指令信号として入力される。フィルタB8には、調停フィルタ54を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が供給され、アクチュエータB4には、フィルタB8を通過した信号が指令信号として入力される。
【0148】
制御グループDには、アクチュエータA2の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタA6と、アクチュエータB4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタB8と、目標トルク信号を各アクチュエータ2、4へ分配するための調停フィルタ18とが設けられている。選択部44によって制御グループDが選択されたとき、フィルタA6には、調停フィルタ18を通過した目標トルク信号が供給され、アクチュエータA2には、フィルタA6を通過した信号が指令信号として入力される。フィルタB8には、調停フィルタ18を通過前の信号から通過後の信号を差し引いた差分信号が供給され、アクチュエータB4には、フィルタB8を通過した信号が指令信号として入力される。
【0149】
本実施の形態では、アクチュエータA2をスロットル、アクチュエータB4を点火装置、アクチュエータD50を可変リフト機構とする。可変リフト機構は、吸気バルブのリフト量を可変にすることができる装置である。可変リフト機構によれば、スロットルを用いることなく、吸気バルブのリフト量を介して筒内への吸入空気量を制御することができる。可変リフト機構により吸入空気量を制御する場合、スロットルは吸気管圧力の制御等、他の用途に用いることができる。本実施の形態のトルク制御装置は、可変リフト機構を用いたトルク制御を基本とし、可変リフト機構が作動できない場合(例えば、フェール時や、油圧駆動式の可変リフト機構における冷間時)に限り、スロットルを用いたトルク制御に切り替えることにしている。
【0150】
本実施の形態のトルク制御装置は、図27のフローチャートに示すルーチンに従って制御グループを選択する。最初のステップS60では、可変リフト機構(VL)が正常に作動可能か否か判定する。判定の結果、可変リフト機構が正常に作動できる場合にはステップS62に進み、制御グループCを選択する。一方、可変リフト機構が正常に作動できない場合にはステップS64に進み、制御グループDを選択する。トルク制御装置により本ルーチンが実行されることで、第16及び第18の発明にかかる「グループ選択手段」が実現される。
【0151】
なお、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態2のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、実施の形態1のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0152】
実施の形態14.
図28は本発明の実施の形態14としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。エンジンは、そのトルク制御にかかる複数のアクチュエータ2、4を備えている。これらアクチュエータ2、4は、入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクをエンジンに実現させるものである。
【0153】
エンジンの制御装置(トルク制御装置よりも上位の制御装置)には、各種のトルク要求が供給される。これらトルク要求には、ドライバからの要求の他、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからの要求も含まれている。エンジンの制御装置は、これら各種のトルク要求をまとめたものをエンジンの目標トルクとし、それをデジタル信号化した目標トルク信号をトルク制御装置に供給する。図28に示す構成では、目標トルク信号は目標トルク信号生成部74で生成される。
【0154】
トルク制御装置は、目標トルク信号を2つのアクチュエータ2、4に指令信号として分配する。目標トルク信号の分配には、ローパスフィルタ60と飽和要素62、64とが用いられる。ローパスフィルタ60と飽和要素62とは、アクチュエータA2の信号の入力部に設けられている。ローパスフィルタ60は、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい周波数域の信号を通過させ、飽和要素62は、アクチュエータA2が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限する。飽和要素64は、アクチュエータB4の信号の入力部に設けられ、アクチュエータB4が動作可能な、或いは動作させたい振幅域に信号を制限する。ローパスフィルタ60と飽和要素62とにより、アクチュエータA2にかかる「信号処理フィルタ」が構成されている。また、飽和要素64は、アクチュエータB4にかかる「信号処理フィルタ」に相当する。
【0155】
図28に示す構成では、ローパスフィルタ60には、目標トルク信号がそのまま入力される。ローパスフィルタ60で周波数域を制限された信号は、飽和要素62にて大きさを制限される。アクチュエータA2には、飽和要素62を通過した信号が指令信号として入力される。下位のアクチュエータB4に対応する飽和要素64には、ローパスフィルタ60を通過前の信号から飽和要素62を通過後の信号を差し引いた差分信号が入力される。この差分信号は、目標トルク信号のうちアクチュエータA2では実現できない、或いは実現されない信号である。この差分信号が飽和要素64に入力され、飽和要素64を通過した信号が指令信号としてアクチュエータB4に入力される。
【0156】
図28に示す構成によれば、目標トルクのうちアクチュエータA2で実現されるトルク範囲はアクチュエータA2にて実現され、アクチュエータA2で実現されないトルク範囲はアクチュエータB4にて実現される。しかし、飽和要素62や飽和要素64でカットされる信号が目標トルク信号に含まれる場合、それらの信号に対応する目標トルクはアクチュエータA2でもアクチュエータB4でも実現することができない。それらの信号はアクチュエータA2やアクチュエータB4の動作域を超えているためである。
【0157】
そこで、図28に示す構成では、飽和要素62を通過前の信号z1と通過後の信号u1との間に差分が有る場合には、その差分信号w1が異常診断部72に入力される。また、飽和要素64を通過前の信号z2と通過後の信号u2との間に差分が有る場合には、その差分信号w2が異常診断部72に入力される。差分信号w1は目標トルク信号のうちアクチュエータA2の動作域を越えている信号を示し、差分信号w2は目標トルク信号のうちアクチュエータB4の動作域を越えている信号を示している。
【0158】
異常診断部72は、これら差分信号w1、w2を目標トルク信号生成部74にフィードバックするようになっている。目標トルク信号生成部74は、フィードバックされた差分信号w1、w2に基づいて目標トルク信号を制限するか、若しくは、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスにトルク要求の低減を求める。これにより、実現可能な大きさの範囲内に目標トルク信号を制限することが可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0159】
目標トルク信号の大きさが制限されることで、やがては、飽和要素62を通過前の信号z1と通過後の信号u1との間の差分は無くなり、また、飽和要素64を通過前の信号z2と通過後の信号u2との間の差分も無くなる。しかし、目標トルク信号生成部74において目標トルク信号を生成する機能に異常が生じている場合、これらの差分は何時までたっても無くならない。
【0160】
異常診断部72は、入力される差分信号w1、w2に基づいて目標トルク信号生成部74に生じている異常を診断する。具体的には、飽和要素62を通過前の信号z1と通過後の信号u1との間に差分が生じてからの時間を計測し、一定時間経過しても差分信号w1がゼロにならない場合は、目標トルク信号生成部74に異常が生じていると判定するようになっている。また、飽和要素64を通過前の信号z2と通過後の信号u2との間に差分が生じてからの時間を計測し、一定時間経過しても差分信号w2がゼロにならない場合は、目標トルク信号生成部74に異常が生じていると判定するようになっている。
【0161】
なお、図28に示す構成において、差分信号w1、w2を目標トルク信号生成部74にフィードバックする構成は、第11の発明にかかる「フィードバック手段」に相当している。また、異常診断部72は、第12の発明にかかる「異常判定手段」に相当している。
【0162】
また、本実施の形態のトルク制御装置は、次のように変形して実施することもできる。以下に説明する変形例においては、異常診断部72は、第13の発明にかかる「異常判定手段」に相当する。
【0163】
実施の形態14の変形例では、図28に示す構成において、飽和要素62の最大値及び最小値をアクチュエータA2の動作によって実現されるトルクの可変範囲に応じて制限する。これによれば、飽和要素62を通過前の信号z1と通過後の信号u1との間に差分がある場合は、アクチュエータA2は所望の動作を実現してないことになる。異常診断部72では、差分信号w1が0か否かによって、アクチュエータA2が正常に動作しているか否か診断することできる。
【0164】
また、実施の形態14の変形例では、飽和要素64の最大値及び最小値をアクチュエータB4の動作によって実現されるトルクの可変範囲に応じて制限するようにしてもよい。これによれば、飽和要素64を通過前の信号z2と通過後の信号u2との間に差分がある場合は、アクチュエータB4は所望の動作を実現してないことになる。異常診断部72では、差分信号w2が0か否かによって、アクチュエータB4が正常に動作しているか否か診断することできる。
【0165】
実施の形態15.
図29は本発明の実施の形態15としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。エンジンは、そのトルク制御にかかる複数のアクチュエータを備えている。トルク制御装置は、エンジンの目標トルクに応じた目標トルク信号を、予め設定された分配優先順位に従い、各アクチュエータへの指令信号として分配している。図29に示す構成は、分配後の目標トルク信号の処理にかかる構成である。ここでは、1つのアクチュエータ80を例にとって説明するが、他のアクチュエータにも同様の構成が設けられている。
【0166】
図29に示すように、分配後の目標トルク信号(指令信号)は、動作目標値設定部82に入力される。動作目標値設定部82では、アクチュエータ80の動作の目標値が指令信号に応じて設定される。動作目標値とは、アクチュエータ80がスロットルであればその開度であり、アクチュエータ80が点火装置であれば点火時期である。設定された動作目標値は、飽和要素84にてアクチュエータ80が動作可能な範囲にその大きさを制限される。アクチュエータ80には、飽和要素84を通過した動作目標値が入力される。
【0167】
図29に示す構成では、飽和要素84を通過前の動作目標値と通過後の動作目標値との間に差分が有る場合には、その差分値が異常診断部88に入力される。この差分値は動作目標値のうちアクチュエータ80の動作範囲を越えている分を示している。異常診断部88は、この差分値を動作目標値設定部82にフィードバックするようになっている。動作目標値設定部82は、フィードバックされた差分値に基づいて動作目標値を制限する。これにより、アクチュエータ80で実現可能な大きさの範囲内に動作目標値を制限することが可能になる。
【0168】
動作目標値設定部82で動作目標値の大きさが制限されることで、やがては、飽和要素84を通過前の動作目標値と通過後の動作目標値との間の差分は無くなる。しかし、動作目標値設定部82の機能に異常が生じている場合、差分は何時までたっても無くならない。異常診断部88は、入力される差分値に基づいて動作目標値設定部82に生じている異常を診断する。具体的には、飽和要素84を通過前の動作目標値と通過後の動作目標値との間に差分が生じてからの時間を計測し、一定時間経過しても差分値がゼロにならない場合は、動作目標値設定部82に異常が生じていると判定するようになっている。
【0169】
本実施の形態のトルク制御装置の構成は、前述の実施の形態1乃至実施の形態14の何れの構成にも組み合わせることができる。
【0170】
実施の形態16.
図30は本発明の実施の形態16としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。エンジンは、そのトルク制御にかかる複数のアクチュエータ2、4を備えている。これらアクチュエータ2、4は、入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクをエンジンに実現させるものである。
【0171】
エンジンの制御装置(トルク制御装置よりも上位の制御装置)には、各種のトルク要求が供給される。これらトルク要求には、ドライバからの要求の他、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからの要求も含まれている。エンジンの制御装置は、これら各種のトルク要求をまとめたものをエンジンの目標トルクとし、それをデジタル信号化した目標トルク信号rをトルク制御装置に供給する。
【0172】
トルク制御装置は、目標トルク信号rを2つのアクチュエータ2、4に指令信号として分配する。目標トルク信号rの分配には、ローパスフィルタ96が用いられる。ローパスフィルタ96の信号通過特性は、次の(1)式及び(2)式に示す伝達関数で表される。なお、(1)式におけるA、B0、B1及びB2、(2)式におけるC、D0、D1及びD2は何れも定数である。
【0173】
dx/dt=Ax+B0r+B11+B22 ・・・(1)
【0174】
1=Cx+D0r+D11+D22 ・・・(2)
【0175】
図30に示す構成では、目標トルク信号rはローパスフィルタ96に入力され、ローパスフィルタ96で周波数域を制限される。ローパスフィルタ96を通過した信号r1は、アクチュエータA2への指令信号として動作目標値設定部A92に入力される。動作目標値設定部A92では、アクチュエータA2の動作の目標値z1が指令信号r1に応じて設定される。この動作目標値z1は、アクチュエータA2がスロットルであればその開度である。動作目標値z1はアクチュエータ制御部A94に入力され、アクチュエータ制御部A94は動作目標値z1を実現するようにアクチュエータA2の動作を制御する。
【0176】
目標トルク信号rからアクチュエータA2への指令信号r1を差し引いた信号r2が、アクチュエータB4への指令信号として動作目標値設定部B100に入力される。動作目標値設定部B100では、アクチュエータB4の動作の目標値z2が指令信号r2に応じて設定される。この動作目標値z2は、アクチュエータB4が点火装置であれば点火時期である。動作目標値z2はアクチュエータ制御部B102に入力され、アクチュエータ制御部B102は動作目標値z2を実現するようにアクチュエータB4の動作を制御する。
【0177】
図30に示す構成によれば、目標トルク信号rの低周波数成分はアクチュエータA2にて実現され、高周波数成分はアクチュエータB4にて実現される。しかし、ローパスフィルタ96の信号通過特性の設定が適切でない場合、アクチュエータA2の動作域を超える指令信号r1がアクチュエータA2に分配される可能性がある。その場合、アクチュエータA2の動作目標値z1と実際値y1との間には差分信号w1が生じる。また、アクチュエータB4の動作域を超える指令信号r2がアクチュエータB4に分配される可能性もある。その場合は、アクチュエータB4の動作目標値z2と実際値y2との間には差分信号w2が生じる。
【0178】
図30に示す構成では、上記の差分信号w1、w2がローパスフィルタ96の伝達関数にフィードバックされ、信号通過特性が修正されるようになっている。ローパスフィルタ96の信号通過特性が修正されることで、アクチュエータ2、4の動作域を超えないような目標トルク信号rの分配が可能となり、目標トルクの実現精度は高められる。アクチュエータA2の動作目標値z1に実際値y1が一致し、且つ、アクチュエータB4の動作目標値z2に実際値y2が一致したときにはフィードバックループは切れ、ローパスフィルタ96の信号通過特性はそのまま維持される。
【0179】
なお、図30に示す構成において、差分信号w1、w2をローパスフィルタ96の伝達関数にフィードバックする構成は、第14の発明にかかる「フィードバック手段」に相当している。
【0180】
実施の形態17.
図31は本発明の実施の形態17としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態16のトルク制御装置の変形例である。図31に示す構成において実施の形態16と同一の要素には同一の符号を付している。
【0181】
図31に示す構成では、アクチュエータAの動作によって実現された実トルクp1を推定するトルク推定部A110が設けられている。トルク推定部A110は、アクチュエータAの動作の実際値y1から実トルクp1を推定する。また、アクチュエータBの動作によって実現された実トルクp2を推定するトルク推定部B112も設けられている。トルク推定部A110は、アクチュエータBの動作の実際値y2から実トルクp2を推定する。
【0182】
図31に示す構成によれば、目標トルク信号rの低周波数成分はアクチュエータAにて実現され、高周波数成分はアクチュエータBにて実現される。しかし、ローパスフィルタ96の信号通過特性の設定が適切でない場合、アクチュエータAの動作域を超える指令信号r1がアクチュエータAに分配される可能性がある。その場合、指令信号(アクチュエータAにて実現させたい目標トルク)r1と実トルクp1との間には差分信号w1が生じる。また、アクチュエータBの動作域を超える指令信号r2がアクチュエータBに分配される可能性もある。その場合は、指令信号(アクチュエータBにて実現させたい目標トルク)r2と実トルクp2との間に差分信号w2が生じる。
【0183】
図31に示す構成では、上記の差分信号w1、w2がローパスフィルタ96の伝達関数にフィードバックされ、信号通過特性が修正されるようになっている。ローパスフィルタ96の信号通過特性が修正されることで、各アクチュエータの動作域を超えないような目標トルク信号rの分配が可能となり、目標トルクの実現精度は高められる。アクチュエータAの指令信号r1に実トルクp1が一致し、且つ、アクチュエータBの指令信号r2に実トルクp2が一致したときにはフィードバックループは切れ、ローパスフィルタ96の信号通過特性はそのまま維持される。
【0184】
なお、図31に示す構成において、差分信号w1、w2をローパスフィルタ96の伝達関数にフィードバックする構成は、第15の発明にかかる「フィードバック手段」に相当している。
【0185】
実施の形態18.
図32は本発明の実施の形態18としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図32に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0186】
加減速時、エンジンの振動が車両の固有周波数と共振することにより、車両はそのピッチング方向に振動する。このような振動を抑制する方法として、従来は、車両の各運転パターンに対してエンジンのトルク制御にかかる各アクチュエータの操作値を詳細に決定する(適合する)方法が採られていた。しかし、従来方法には、適合のための工数を多く必要とするという課題があった。
【0187】
本実施の形態のトルク制御装置は、多くの適合工数を必要とすることなく車両の振動を抑制できるようにしたことに特徴がある。具体的には、図32に示すように、フィルタ6、8からなる信号分配構造の上流部に制振フィルタ120を配置したことが構造上の特徴である。図33は制振フィルタ120の信号通過特性を示す図である。制振フィルタ120は、車両の固有周波数域と乗員が不快に感じる周波数域の信号のみを通過させるように構成されている。
【0188】
図32に示す構成では、制振フィルタ120に目標トルク信号Treqが入力される。制振フィルタ120は上記のような信号通過特性を有するため、目標トルク信号Treqが制振フィルタ120を通過することで特定周波数域の信号Tvが抽出される。そして、各アクチュエータ2、4には、制振フィルタ120を通過した信号Tvを目標トルク信号Treqから取り除いた信号Tvreqが分配される。例えば、図34(a)に示すような目標トルク信号Treqが入力されたとき、制振フィルタ120からは図34(b)に示すような信号Tvが出力され、各アクチュエータ2、4には図34(c)に示すような信号Tvreqが分配される。制振フィルタ120は、第26及び第27の発明にかかる「特定信号除去フィルタ」に相当している。
【0189】
本実施の形態のトルク制御装置によれば、車両の固有周波数域と乗員が不快に感じる周波数域の信号が予め目標トルク信号から取り除かれるので、各運転パターンに対する各アクチュエータ2、4の操作値を詳細に決定せずとも車両の振動を効果的に抑制することができる。
【0190】
なお、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、その他の実施の形態のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0191】
実施の形態19.
図35は本発明の実施の形態19としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図35に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0192】
図36は、スロットルを開いたときに実現されるトルク応答とエンジン回転速度との関係を示している。この図に示すように、エンジン回転速度が高いほど、スロットルの動作に対するトルク応答感度は高くなる。トルク制御にかかるアクチュエータとしてスロットルと点火装置とを比較した場合、トルク制御に使用可能な周波数域はスロットルの方が低い。しかし、図36に示すような特性を考慮すると、低回転速度では点火装置によらなければ実現不可能な高周波数域でも、高回転速度ではスロットルを用いて実現することが可能となる。図37は、スロットルで実現可能な信号域とエンジン回転速度との関係を示している。
【0193】
本実施の形態では、実施の形態1と同様にアクチュエータA2はスロットル、アクチュエータB4は点火装置とする。アクチュエータA2の信号の入力部には、アクチュエータA2の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタA6が設けられている。また、アクチュエータB4の信号の入力部には、アクチュエータB4の動作特性に合った信号のみを指令信号として通過させるフィルタB8が設けられている。目標トルク信号の分配優先順位は、上位からアクチュエータA2、アクチュエータB4となっている。
【0194】
図35に示す構成では、各フィルタ6、8の通過周波数域をエンジン回転速度に応じて変更する通過周波数域変更部126が設けられている。図37に示すように、エンジン回転速度が高くなるほど、より高い周波数域までスロットルで実現可能となることから、通過周波数域変更部126は、エンジン回転速度が高くなるほどフィルタA6の通過周波数域を高周波数域側に変更するようになっている。フィルタB8に関しても同様である。通過周波数域変更部126は、点火時期の遅角量(或いは進角量)に対するトルク応答感度とエンジン回転速度との関係に応じてフィルタB8の通過周波数域を変更するようになっている。通過周波数域変更部126は、第28の発明にかかる「信号通過特性変更手段」に相当している。
【0195】
本実施の形態のトルク制御装置によれば、スロットルで実現できる周波数域を最大限に利用できるため、点火時期の遅角をトルク制御に用いる回数を低減でき、エンジンの機関効率を高めることができる。また、加速時にスロットルで実現できる周波数域を最大限に利用することが可能となり、加速時のトルクの応答性を向上させることができる。
【0196】
なお、アクチュエータA2はスロットルには限定されず、アクチュエータB4は点火装置には限定されない。エンジンでは、アクチュエータ2、4の種類によらず、各アクチュエータ2、4によって実現可能な目標トルク信号の信号域はエンジン回転速度に依存する。したがって、エンジン回転速度に応じて各フィルタ6、8の信号通過特性を変更することで、各アクチュエータ2、4の動作能力に応じた目標トルク信号の分配が可能になり、目標トルクの実現精度を高めることができる。
【0197】
また、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、その他の実施の形態のトルク制御装置にも追加することが可能である。実施の形態2のトルク制御装置に本実施の形態にかかる新機能を追加する場合には、調停フィルタ18の通過信号域もエンジン回転速度に応じて変更するのが好ましい。
【0198】
実施の形態20.
図38は本発明の実施の形態20としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成になっている。図38に示す構成において実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付している。
【0199】
エンジンの制御装置(トルク制御装置よりも上位の制御装置)には、各種のトルク要求が供給される。これらトルク要求には、ドライバからの要求の他、VSC、TRC、トランスミッション等の各種デバイスからの要求も含まれている。エンジンの制御装置は、これら各種のトルク要求をまとめたものをエンジンの目標トルクとし、それをデジタル信号化した目標トルク信号をトルク制御装置に供給する。目標トルク信号は各アクチュエータに分配され、各アクチュエータの動作によって目標トルクが実現される。
【0200】
ところが、エンジンでは、アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度はエンジン回転速度に依存する。図39及び図40は、アクチュエータの動作値とトルクとの関係を示す図である。図39はエンジン回転速度がN1のときのトルクの変化を示し、図40はエンジン回転速度がN2(N2≠N1)のときのトルクの変化を示している。各図中に示すように、アクチュエータの動作値の変化に対するトルクの可変範囲は、エンジン回転速度によって異なったものになる。このため、エンジン回転速度によっては、各アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度が低いために、前述のトルク要求を満たすことができないおそれがある。
【0201】
そこで、本実施の形態のトルク制御装置は、車両やエンジンの運転モードごとに必要とされるトルク可変範囲を判断することにしている。例えば、危険回避や制振制御などの場面では、高いトルク応答が求められ、必要とされるトルク可変範囲も広くなる。また、現在のエンジン回転速度において実現可能なトルクの可変範囲をアクチュエータ毎に予測することにしている。そして、予測されるトルク可変範囲が必要なトルク可変範囲に対して不足している場合には、ミッション制御によってエンジン回転速度を変化させることでトルク可変範囲を拡大することにしている。
【0202】
図38に示す構成では、アクチュエータA2によって実現可能なトルク可変範囲は、トルク可変範囲予測部134において予測される。トルク可変範囲予測部134は、アクチュエータA2に入力される指令信号とエンジン回転速度とを条件としてマップを検索し、条件に合ったデータ(トルク可変範囲)をマップから取得する。また、アクチュエータB4によって実現可能なトルク可変範囲は、トルク可変範囲予測部136において予測される。トルク可変範囲予測部136は、アクチュエータB4に入力される指令信号とエンジン回転速度とを条件としてマップを検索し、条件に合ったデータ(トルク可変範囲)をマップから取得する。
【0203】
予測された各アクチュエータ2、4によるトルク可変範囲は、トルク可変範囲不足判定部140に入力される。トルク可変範囲不足判定部140は、現在の運転モードのもとで必要とされるトルク可変範囲、言い換えれば、現在の運転モードのもとでの目標トルクの変化範囲を予測する。そして、予測される必要トルク可変範囲と、各アクチュエータ2、4によって実現可能なトルク可変範囲とを比較し、トルク可変範囲が不足している場合にはミッション制御部132にエンジン回転速度の変更を要求する。
【0204】
ミッション制御部132は、エンジン回転速度の変更要求に応じてトランスミッション(有段変速機でも無段変速機でもよい)の変速比を調整し、トルク可変範囲が拡大する方向にエンジン回転速度を変化させる。ミッション制御部132によるトランスミッションの制御結果は、エンジン制御部130に反映される。エンジン制御部130は、反映されたトランスミッションの制御結果を踏まえて目標トルクを再計算する。
【0205】
なお、図38に示す構成において、トルク可変範囲予測部134、136は、第29の発明にかかる「トルク可変範囲予測手段」に相当している。また、トルク可変範囲不足判定部140は、第29の発明にかかる「目標トルク変化範囲予測手段」に相当している。そして、ミッション制御部132は、第29の発明にかかる「変速比制御手段」に相当している。
【0206】
本実施の形態のトルク制御装置によれば、エンジン制御とミッション制御との連携により、トランスミッションの変速比を制御してエンジン回転速度を変化させることができる。これにより、現在の運転モードにおいて必要とされるトルク可変範囲をカバーするようにアクチュエータ2、4によるトルク可変範囲を拡大することが可能であり、高い精度で目標トルクを実現することができる。
【0207】
なお、本実施の形態のトルク制御装置は、実施の形態1のトルク制御装置に新たな機能を追加した構成を有しているが、本実施の形態で新たに追加された機能は、その他の実施の形態のトルク制御装置にも追加することが可能である。
【0208】
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0209】
本発明は、火花点火式エンジン以外のエンジン、例えば、ディーゼルエンジンにも適用可能である。また、本発明は、エンジンと電動機とからなるハイブリッドシステム等、エンジン以外の動力システムにも適用可能である。
【0210】
また、本発明をエンジンに適用する場合、トルク制御にかかるアクチュエータは、スロットル、点火装置、燃料噴射装置、可変リフト機構には限定されない。例えば、モータアシスト付きターボチャージャ(MAT)を備えるエンジンでは、MATをトルク制御にかかるアクチュエータとして用いることもできる。また、オルタネータ等のエンジンによって駆動される補機によってもその負荷を制御することで、間接的にエンジンのトルク(有効トルク)を制御することができる。したがって、これら補機をトルク制御にかかるアクチュエータとして用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】本発明の実施の形態1としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態2としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態2としてのトルク制御装置の作用を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態3としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態3としてのトルク制御装置の作用を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態3としてのトルク制御装置の作用を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態4にかかるフィルタの信号通過特性の設定を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態5としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態6としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態7としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態7としてのトルク制御装置の作用を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態8としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図13】本発明の実施の形態8おいて実現されるトルク域とエミッションフィルタの信号通過特性との関係について説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態8において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図15】本発明の実施の形態9としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図16】本発明の実施の形態9おいて実現されるトルク域と燃焼向上フィルタの信号通過特性との関係について説明するための図である。
【図17】本発明の実施の形態9において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態10において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図19】本発明の実施の形態11おいて実現されるトルク域とトルクの応答感度との関係について説明するための図である。
【図20】図19のグラフの高感度域におけるトルク変化と点火時期の変化との関係を示す図である。
【図21】図19のグラフの低感度域におけるトルク変化と点火時期の変化との関係を示す図である。
【図22】本発明の実施の形態11において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図23】本発明の実施の形態12としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図24】本発明の実施の形態12おいて実現されるトルク域について説明するための図である。
【図25】本発明の実施の形態12において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図26】本発明の実施の形態13としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図27】本発明の実施の形態13において実行されるフィルタ選択ルーチンのフローチャートである。
【図28】本発明の実施の形態14としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図29】本発明の実施の形態15としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図30】本発明の実施の形態16としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図31】本発明の実施の形態17としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図32】本発明の実施の形態18としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図33】本発明の実施の形態18にかかる制振フィルタの信号通過特性について説明するための図である。
【図34】本発明の実施の形態18としてのトルク制御装置の作用を説明するための図である。
【図35】本発明の実施の形態19としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図36】エンジン回転速度とスロットルに対するトルクの応答感度との関係について説明するための図である。
【図37】本発明の実施の形態19にかかるフィルタの信号通過特性について説明するための図である。
【図38】本発明の実施の形態20としてのトルク制御装置の制御ブロック図である。
【図39】エンジン回転速度とトルクの応答感度との関係について説明するための図である。
【図40】エンジン回転速度とトルクの応答感度との関係について説明するための図である。
【符号の説明】
【0212】
2、4、12、50、80 アクチュエータ
6、8、14、52 フィルタ
18、40、54 調停フィルタ
18a ノーマルフィルタ
18b エミッションフィルタ
18c 燃焼向上フィルタ
22 信号通過特性判定部
30 トルク変換部
36、74 目標トルク信号生成部
38 フィルタ評価部
44、58 制御グループ選択部
60、96 ローパスフィルタ、
62、64、84 飽和要素
72、88 異常診断部
82、92、100 動作目標値設定部
94、102 アクチュエータ制御部
110、112 トルク推定部
120 制振フィルタ
126 通過周波数域変更部
130 エンジン制御部
132 ミッション制御部
134、136 トルク可変範囲予測部
140 トルク可変範囲不足判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力システムのトルク制御装置であって、
入力される指令信号に応じて動作し、その動作に応じたトルクを前記動力システムに実現させる複数のアクチュエータと、
前記動力システムの目標トルクに応じた目標トルク信号を、予め設定された分配優先順位に従って各アクチュエータへ分配する信号分配構造と、
各アクチュエータの信号の入力部に設けられて、前記信号分配構造から供給される信号のうち当該アクチュエータの動作特性に合った信号のみを当該アクチュエータの指令信号として通過させる信号処理フィルタと、
を備えることを特徴とする動力システムのトルク制御装置。
【請求項2】
前記アクチュエータの動作に対するトルクの応答感度の低い順に前記分配優先順位が設定されていることを特徴とする請求項1記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項3】
前記信号分配構造は、前記信号処理フィルタを通過前の信号から通過後の信号を差し引いた信号を次位のアクチュエータへ供給する構造であることを特徴とする請求項1又は2記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項4】
前記信号分配構造は、前記アクチュエータが動作可能な信号域のうち特定信号域に対応する信号のみを通過させる第2信号処理フィルタを含み、前記第2信号処理フィルタを通過後の信号を前記アクチュエータへ供給し、前記第2信号処理フィルタを通過前の信号から通過後の信号を差し引いた信号を次位のアクチュエータへ供給する構造であることを特徴とする請求項1又は2記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項5】
前記第2信号処理フィルタを通過前の信号から、前記第2信号処理フィルタ並びに前記信号処理フィルタを通過後の信号と、次位のアクチュエータへ供給される信号とを差し引いた信号に基づき、前記第2信号処理フィルタの信号通過特性を補正する信号通過特性補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項4記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項6】
前記第2信号処理フィルタとして信号通過特性の異なる複数のフィルタが用意され、
前記複数のフィルタの中から前記動力システムの運転状態に応じた適宜のフィルタを選択するフィルタ選択手段をさらに備えることを特徴とする請求項4記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項7】
前記フィルタ選択手段は、指令信号によって前記アクチュエータを動作させたときに予想されるトルクの応答感度の良否に応じて、前記第2信号処理フィルタとして使用するフィルタを決定することを特徴とする請求項6記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項8】
前記信号処理フィルタの最大通過周波数は、対応するアクチュエータで実現可能と予想される最大応答周波数よりも低く設定されていることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項9】
最下位のアクチュエータにかかる信号処理フィルタを通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る場合に、その差分信号を目標トルク信号の生成に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項10】
前記複数のアクチュエータのそれぞれに信号通過特性の異なる複数の信号処理フィルタが設定され、
前記動力システムの目標トルクの変化を予測する予測手段と、
予測される目標トルクの変化に基づき、前記複数のアクチュエータ間における前記信号処理フィルタの組み合わせを決定する組み合わせ決定手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項11】
前記信号処理フィルタは指令信号の最大値及び最小値を制限する飽和要素を含み、
前記飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る場合に、その差分信号を目標トルク信号の生成に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項12】
前記差分信号が目標トルク信号の生成に反映されてから所定時間が経過した後も前記差分が無くならない場合には、目標トルク信号の生成に異常が生じていると判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴とする請求項11記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項13】
前記信号処理フィルタは前記アクチュエータの動作によって実現されるトルクの可変範囲に応じて指令信号の最大値及び最小値を制限する飽和要素を含み、
前記飽和要素を通過前の信号と通過後の信号との間に差分が有る状態が所定時間継続する場合には、前記アクチュエータに異常が生じていると判定する異常判定手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項14】
前記アクチュエータの動作目標値と実際値との間に差分が有る場合に、その差分信号を前記アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項15】
前記アクチュエータに入力された指令信号のトルク換算値と前記アクチュエータの動作によって実現されたトルクとの間に差分が有る場合に、その差分信号を前記アクチュエータの上流に配置された各信号処理フィルタの信号通過特性の設定に反映させるフィードバック手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項16】
前記の複数のアクチュエータ、信号処理フィルタ及び信号分配構造からなる複数の制御グループと、
前記複数の制御グループの中から前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択するグループ選択手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項17】
前記グループ選択手段は、前記動力システムの目標トルクに基づいて前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択することを特徴とする請求項16記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項18】
前記グループ選択手段は、各アクチュエータの状態に基づいて前記動力システムのトルク制御に使用する制御グループを選択することを特徴とする請求項16記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項19】
前記複数のアクチュエータに優先されて指令信号が決定される優先アクチュエータと、
前記信号分配構造によって前記複数のアクチュエータに分配される目標トルク信号から前記優先アクチュエータに入力される指令信号を差し引く目標トルク信号補正手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項20】
前記動力システムは自動車に搭載される内燃機関であることを特徴とする請求項1乃至19の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項21】
前記アクチュエータとして、吸入空気量を調整するスロットルと、点火時期を調整する点火装置とを含むことを特徴とする請求項20記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項22】
前記アクチュエータとして、吸気バルブのリフト量を変更する可変リフト機構と、点火時期を調整する点火装置とを含むことを特徴とする請求項20記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項23】
前記アクチュエータとして、燃料噴射時期及び燃料噴射量を調整する燃料噴射装置をさらに含むことを特徴とする請求項21又は22記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項24】
前記アクチュエータとして、前記内燃機関によって駆動される補機をさらに含むことを特徴とする請求項21乃至23の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項25】
前記動力システムは内燃機関と電動機とからなるハイブリッド動力システムであり、前記アクチュエータとして前記電動機を含むことを特徴とする請求項1乃至19の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項26】
前記信号分配構造に供給される目標トルク信号から、特定周波数域の信号成分を取り除く特定信号除去フィルタをさらに備えることを特徴とする請求項20乃至25の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項27】
前記特定信号除去フィルタは、車両の固有周波数と同じ周波数の信号成分を目標トルク信号から取り除くことを特徴とする請求項26記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項28】
前記内燃機関の回転速度に応じて前記信号処理フィルタの信号通過特性を変更する信号通過特性変更手段をさらに備えることを特徴とする請求項20乃至25の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。
【請求項29】
前記動力システムは前記内燃機関の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機を含み、
現在の機関回転速度において前記の各アクチュエータを動作させることで実現可能なトルクの可変範囲を予測するトルク可変範囲予測手段と、
現在の運転条件のもとでの目標トルクの変化範囲を予測する目標トルク変化範囲予測手段と、
実現可能なトルク可変範囲が目標トルクの変化範囲に対して不足する場合に、前記変速機の変速比を調整してトルク可変範囲が拡大する方向に機関回転速度を変化させる変速比制御手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項20乃至25の何れか1項に記載の動力システムのトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2008−64001(P2008−64001A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241768(P2006−241768)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】