車両のクラッチ制御装置
【課題】ドグクラッチの断接時に、駆動輪の回転数変動により、ギヤ鳴り、破損、変速ショックの発生を抑制可能な車両のクラッチ制御装置を提供すること。
【解決手段】車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、自動変速機ATの変速を制御するとともに、自動変速機ATの変速中は、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2を切断状態とするとともに、変速終了後に、噛合状態とする指令を行なう統合コントローラ14を備えた車両のクラッチ制御装置であって、統合コントローラ14は、左右駆動輪LT,RTの回転速度の変化が、あらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置とした。
【解決手段】車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、自動変速機ATの変速を制御するとともに、自動変速機ATの変速中は、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2を切断状態とするとともに、変速終了後に、噛合状態とする指令を行なう統合コントローラ14を備えた車両のクラッチ制御装置であって、統合コントローラ14は、左右駆動輪LT,RTの回転速度の変化が、あらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源と変速機との間に、変速の際に駆動源と変速機とを切り離すドグクラッチを備えた車両のクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源と駆動輪との間に設けられた伝達機構に、変速の際に連結状態を切り換えるドグクラッチを備えたものが、例えば、特許文献1などにより知られている。
【0003】
この従来技術には、二組の遊星歯車機構を組み合わせて四つの回転要素を有する歯車機構を備え、回転要素のいずれかが、内燃機関からトルクが入力される入力要素とされるとともに、他のいずれかの要素が、入力要素のトルクに対する反力トルクが発電機から入力される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−155891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなドグクラッチの連結状態を切り換える場合、入力側と出力側との回転数を一致させてクラッチを締結させる。しかしながら、入力側と出力側とで、所定値以上(例えば、200rpm程度)の回転数差があると、クラッチ断切時に、クラッチが破損したり、ショックが生じたりするおそれがある。
【0006】
すなわち、ドグクラッチの入力側と出力側との回転数差が大きいと、ドグクラッチの歯と歯が急速度でぶつかり、クラッチの破損や変速ショックが生じるおそれがある。特に、車両が、ラフロードや氷結路や雪道などの非安定路を走行した場合に、駆動輪に回転数変動が生じやすいため、ドグクラッチの入出力軸で回転数差が生じやすく、上記問題が生じる可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ドグクラッチの断接時に、駆動輪の回転数変動により、ドグクラッチの破損、変速ショックの発生を抑制可能な車両のクラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両のクラッチ制御装置は、車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、変速機の変速を制御するとともに、変速機の変速中は、ドグクラッチを切断状態とするとともに、変速終了後に、噛合状態とする指令を行なう制御手段を備えた車両のクラッチ制御装置であって、制御手段は、駆動輪の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両のクラッチ制御装置にあっては、変速時には、制御手段は、ドグクラッチを切断状態として、変速機の変速動作を行なった後、ドグクラッチの駆動源からの入力側と駆動輪への出力側との回転数を略一致させた後に、ドグクラッチを噛合させる。
【0010】
このとき、路面状態などの外乱要因などにより、駆動輪に回転速度変動が生じている場合、ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度を一致させることが難しく、この回転速度不一致状態でドグクラッチを噛合させると、クラッチの破損などが生じる。
【0011】
そこで、本発明では、制御手段は、駆動輪の回転速度変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態を示す場合は、変速を制限する。したがって、駆動輪に上述のような回転数変化が生じている場合、変速が制限されることで、ドグクラッチの断接も制限される。よって、ドグクラッチは、入力側と出力側との回転速度不一致状態で噛合されるのが制限され、ドグクラッチの破損や変速ショックなどの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のクラッチ制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の自動変速機ATの一例を示す概略図である。
【図3】図2に示す自動変速機ATの遊星歯車PGの共線図である。
【図4】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の自動変速機ATにおける変速特性図である。
【図5】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の統合コントローラ14にて実行される変速制限判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪加速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪加速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1において駆動輪スリップが生じたときに、トルク抑制制御が実行された場合の作動例を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1において非安定路の走行時に、加速度ハンチングに基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1において制動操作が行なわれた場合の作動例を示すタイムチャートである。
【図12】実施例2の変速禁止と変速許可の判定を行なう部分の構成を示すブロック図である。
【図13】実施例2における変速禁止処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】本発明の電気自動車への適用例を示す概略図である。
【図15】本発明のシリーズ式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【図16】本発明のシリーズパラレル式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【図17】本発明のシリーズパラレル式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明の実施の形態のクラッチ制御装置は、駆動輪(LT,RT)に駆動力を与える駆動源(Eng,MG)と、この駆動源(Eng,MG)と前記駆動輪(LT,RT)との間に介在されて、前記駆動源(Eng,MG)から伝達される回転数を変速させて前記駆動輪(LT,RT)へ伝達する変速機(AT)と、この変速機(AT)と前記駆動源(Eng,MG)との間に設けられ、駆動力を伝達する噛合状態と、駆動力を伝達しない切断状態とに切換可能なドグクラッチ(CL2)と、前記駆動輪(LT,RT)の回転速度を含む車両状態を検出する車両状態検出手段と、この車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、前記変速機(AT)の変速を制御するとともに、前記変速機(AT)の変速中は、前記ドグクラッチ(CL2)を前記切断状態とするとともに、変速終了後に、前記噛合状態とする制御手段(14)と、を備えた車両のクラッチ制御装置であって、前記制御手段(14)は、前記駆動輪(LT,RT)の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置である。
【実施例1】
【0015】
図1〜図11に基づき、この発明の最良の実施の形態の実施例1のクラッチ制御装置について説明する。
【0016】
まず、図1の実施例1の制御装置が適用された後輪駆動式のハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す概略図に基づき、駆動系および制御系の構成を説明する。
【0017】
実施例1のFR式のハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、駆動源としてエンジンEngと、モータジェネレータMGと、を備えている。そして、エンジンEngとモータジェネレータMGとを結ぶ駆動伝達経路の途中に、第1クラッチCL1が設けられ、また、モータジェネレータMGと自動変速機ATとの駆動伝達経路の途中に、第2クラッチCL2が設けられている。また、自動変速機ATの出力側には、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、が設けられている。
【0018】
実施例1のハイブリッド車両の駆動系は、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、準電気自動車走行モード(以下、「準EVモード」という。)と、等の走行モードを有する。
【0019】
「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。
【0020】
「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータアシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。「準EVモード」は、第1クラッチCL1が締結状態であるがエンジンEngをOFFとし、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。
【0021】
エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
【0022】
第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時締結(ノーマルクローズ)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng〜モータジェネレータMG間の締結/半締結/開放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、開放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/開放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
【0023】
モータジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク抑制制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうものである。
【0024】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMG側の入力側部材101と自動変速機AT側(駆動輪側)の出力側部材102とが噛み合ってトルク伝達を行なうドグクラッチであり、油圧(押付力)に応じて噛合状態と切断状態とに切り換えられる。この第2クラッチCL2は、自動変速機ATおよびファイナルギヤFGを介し、モータジェネレータMG側から入力軸IPSへ出力されたトルクを左右駆動輪LT,RTへと伝達する。
【0025】
自動変速機ATは、図2に示すように、遊星歯車PG、ロークラッチLC、ハイクラッチHCを備えている。遊星歯車PGは、入力軸IPSが第2クラッチCL2の出力側部材102に結合され、サンギヤSgが入力軸IPSに結合され、キャリアCaが出力軸OTSに結合されている。そして、リングギヤRgは、ロークラッチLCによりハウジングHSに結合および結合解除可能であるとともに、ハイクラッチHCによりサンギヤSg(入力軸IPS)と結合および結合解除可能となっている。
【0026】
したがって、本実施例1に用いた自動変速機ATは、Lowギヤ(低ギヤ段)とHiギヤ(高ギヤ段)との2段階に変速することができる。すなわち、Lowギヤは、ハイクラッチHCを解放させる一方で、ロークラッチLCを締結して形成することができる。この場合、リングギヤRgが固定され、図3の共線図に示すように、サンギヤSgが、入力軸IPSと一体に回転し、キャリアCaは出力軸OTSと一体に減速回転される。
【0027】
Hiギヤは、ハイクラッチHCを締結させる一方で、ロークラッチLCを解放させて形成することができる。この場合、サンギヤSg、キャリアCa、リングギヤRgが、一体に等速回転される。
【0028】
実施例1のハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、インバータ8と、バッテリー9と、統合コントローラ(制御手段)14と、変速機コントローラ15と、クラッチコントローラ16と、エンジンコントローラ17と、モータコントローラ18と、バッテリーコントローラ19と、を備えている。さらに、ハイブリッド車両の制御系は、車両状態検出手段として、第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)と、第2クラッチ出力回転数センサ7と、アクセルセンサ10と、エンジン回転数センサ11と、クラッチ油温センサ12と、ストローク位置センサ13と、車速センサ30と、車輪速センサ31と、ブレーキセンサ32と、パーキングブレーキセンサ33と、を備えている。
【0029】
インバータ8は、直流/交流の変換を行ない、モータジェネレータMGの駆動電流を生成する。バッテリー9は、モータジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータ8を介して蓄積する。
【0030】
統合コントローラ14は、バッテリー状態、アクセル開度、車速(変速機出力回転数に同期した値)、車輪速度、ブレーキ状態から目標駆動トルクなどの指令値を演算する。そして、この演算結果に基づき、各アクチュエータ(モータジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機AT)に対する指令値を、各コントローラ15,16,17,18,19へと送信する。
【0031】
変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。
【0032】
クラッチコントローラ16は、第2クラッチ入力回転数センサ6と第2クラッチ出力回転数センサ7とクラッチ油温センサ12とからのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からの第1クラッチ油圧指令値と第2クラッチ油圧指令値に対して、クラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する。
【0033】
エンジンコントローラ17は、エンジン回転数センサ11からのセンサ情報を入力するとともに、統合コントローラ14からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク抑制制御を行なう。モータコントローラ18は、統合コントローラ14からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータジェネレータMGの制御を行なう。さらに、エンジンコントローラ17とモータコントローラ18とで協調し、加速の際に、駆動輪にいわゆるホイールスピンが生じた場合に、エンジントルクおよびモータトルクを制御して、ホイールスピンを抑えるトルク抑制制御を実行する。
【0034】
バッテリーコントローラ19は、バッテリー9の充電状態(SOC)を管理し、その情報を統合コントローラ14へと送信する。
【0035】
ブレーキコントローラ20は、車輪速センサ31やブレーキセンサ32などの入力に基づいて、ブレーキ装置21の油圧を制御して、いわゆるABS制御や、車両姿勢制御を実行する。
【0036】
アクセルセンサ10は、図外のアクセルペダルの操作伝達系に設けられ、アクセル開度を検出する。車速センサ30は、自動変速機ATの出力側に設けられ、車速を検出する。車輪速センサ31は、車両の4輪にそれぞれ設けられ、各輪の回転速度を、独立して検出する。ブレーキセンサ32は、ブレーキペダル(図示省略)の踏込ストロークを検出する。パーキングブレーキセンサ33は、図外のパーキングブレーキ操作レバーが設定量以上操作されたことを検出する。
【0037】
次に、実施例1の統合コントローラ14において実行される変速制御について簡単に説明する。統合コントローラ14では、アクセル開度Apoと車速Vspとに基づき、図4に示す変速特性に従って、ギヤ段を、LowギヤとHiギヤとに切り換える処理を行なう。また、統合コントローラ14は、自動変速機ATの変速動作中は、第2クラッチCL2を切断状態とし、変速終了後に、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させた上で、第2クラッチCL2を噛合させる。
【0038】
次に、統合コントローラ14の変速制御において、本発明の特徴である、変速制限判定処理の流れを、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0039】
ステップS1〜S4により、変速制限状態判定を行なう。変速制限状態判定は、駆動輪の回転速度変化が、第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させることが困難な、所定以上の不安定な状態であるか否かを判定するものであり、変速制限状態と判定した場合には、変速を制限する。本実施例1では、このステップS1〜S4の変速制限状態判定では、駆動輪スリップ状態であるか否かの判定と、砂利道や悪路などの路面に凹凸を有したり、路面摩擦係数(以下、摩擦係数をμと表記する)が変化したりする非安定路を走行中であるか否かの判定を行なう。なお、駆動輪スリップは、過大な駆動トルクにより発生する他、悪路、砂利道、未塗装路などの非安定路や、凍結路、雪道などの低μ路走行時にも発生する。
【0040】
そこで、まず、ステップS1では、駆動輪スリップが生じているか否か判定し、駆動輪スリップが生じている場合には、ステップS2に進み、駆動輪スリップが生じていない場合は、ステップS4に進む。なお、本実施例1では、駆動輪スリップ判定は、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth(例えば、Vth=3〜5km/h)以上の場合、または、駆動輪加速度が、スリップ判定加速度閾値ath(ath=50km/h/s)以上の場合に、駆動輪スリップと判定する。
【0041】
ここで、加速度は、車輪速度を微分して演算するが、他のセンサのノイズ影響も想定されるため、車輪速度の微分値に、フィルタ処理を施したものを、車輪加速度として使用している。
【0042】
ステップS2では、駆動輪加速度が一定であるか否か判定し、加速度が一定の場合は、ステップS10に進み、一定でない場合は、ステップS3に進む。
【0043】
ステップS3では、現在の駆動輪状態が、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定にすることが可能な状態であるか否かを判定し、可能な場合はステップS10に進み、一定でない場合はステップS5に進む。
【0044】
上記のように、本実施例1では、駆動輪スリップ判定が成されていても、ステップS2において、駆動輪加速度が一定と判定されれば、変速禁止フラグをOFFとする。すなわち、駆動輪加速度が、一定である場合は、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数目標値を、その加速度に基づいて設定することが可能であるから、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させることが可能である。
【0045】
また、上記のように、駆動輪スリップ判定が成されていても、ステップS3において、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御可能と判定された場合、ステップS2と同様に、変速を許可する。さらに、本実施例1では、トルク抑制制御に基づいて変速許可として変速が実行される場合には、変速後の出力トルクは、トルク傾き制限を付けて、変速後の駆動輪スリップを防止するようにしている。
【0046】
なお、トルク抑制制御は、前述のように、エンジンコントローラ17およびモータコントローラ18を用いてエンジンEngおよびモータジェネレータMGの出力トルクを制御して、左右駆動輪LT,RTのスリップを抑制する制御であるが、これに加え、ブレーキコントローラ20によりブレーキ装置21を制御して、駆動輪に制動力を与える制御を含んでいてもよい。したがって、モータジェネレータMGおよびエンジンEngのトルク抑制制御を行なった場合は、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数を制御することができ、一方、ブレーキ装置21により駆動輪速度を制御した場合は、第2クラッチCL2の出力側部材102の回転数を制御することができる。
【0047】
一方、ステップS1においてNOと判定されて進むステップS4では、非安定路判定を行なう。非安定路とは、砂利道や悪路などのように、凹凸が連続した路面や、積雪部分や凍結部分が、不連続な路面μが不安定な路面を指している。このような路面では、車輪速度が、図10に示すように、不規則になり、加速度も上下する。
【0048】
そこで、本実施例1では、非安定路の判定を、車輪に加速度ハンチングが生じているか否かで判定し、加速度ハンチングが生じている場合は、ステップS5に進み、加速度ハンチングが生じていない場合は、ステップS8に進む。なお、加速度ハンチング判定は、図10に示すように、車輪加速度が、あらかじめ設定された加速度ハンチング閾値±Hthを、交互に越えた場合に、加速度ハンチングが生じていると判定される。
【0049】
ステップS5では、変速を禁止し、ステップS6に進む。以上のように、駆動輪スリップが生じていて、かつ、駆動輪加速度が一定でなく、しかも、トルク抑制制御によっても、駆動輪加速度を一定にできない第1の場合と、左右駆動輪LT,RTのいずれかにハンチング閾値を越える加速度ハンチングが生じている第2の場合との、いずれかの場合に、駆動輪速度変化が所定以上の不安定な状態、すなわち、変速制限状態であるとして、変速を禁止する。
【0050】
ステップS6では、現在の変速機の変速段が、Lowギヤであるか否か判定し、Lowギヤである場合は、ステップS7に進み、Lowギヤでない場合は、そのまま1回の処理を終了する。
【0051】
ステップS7では、車速をLowギヤで許容される速度の範囲内に収めるように、エンジンおよびモータジェネレータを制御する。例えば、本実施例1において、Lowギヤで走行できる許容速度範囲内の最高車速が100km/hであるとすると、このステップS7では、車速を100km/h以下に制限する。
【0052】
ステップS8では、車速が制動時速度閾値Vth2以上(図11参照)で、ブレーキあるいはパーキングブレーキが、制動操作状態(ON)であるか否か判定し、制動状態ではステップS9に進んで変速禁止処理を実行した後、そのまま1回の処理を終了する。なお、制動時速度閾値Vth2は、急制動時に、車輪スリップが生じうる速度、例えば、20〜40km/hの範囲内の速度に設定されている。また、ステップS8において、制動状態でない場合、ステップS11に進む。ステップS10およびステップS11では、駆動輪速度が安定していることから、変速禁止フラグをOFFとして、1回の処理を終了する。
【0053】
次に、実施例1の作用について説明する。
急加速時、あるいは低μ路での加速時などにおいて、駆動輪スリップが生じた場合、駆動輪速度が、従動輪速度に対し、スリップ判定速度閾値Vth以上大きな値になるか、あるいは、スリップ判定加速度閾値ath以上となると、ステップS1→S2の処理が成される。そして、駆動輪の加速度が一定でなく、かつ、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御できないと判定された場合、ステップS2→S3→S5の処理に基づいて、変速が禁止される。
【0054】
ここで、図6は、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上となった例を示しており、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを越えてから、スリップ判定速度閾値Vth未満となるまでの間、すなわち、t51の時点からt52の時点の間、変速禁止フラグがONとなる。
【0055】
したがって、駆動輪スリップが生じ、駆動輪の回転速度が不安定な状態では、変速要求が生じても変速が成されることがない。すなわち、変速時には、第2クラッチCL2を切断し、ロークラッチLCおよびハイクラッチHCの締結切換を行なった後に、第2クラッチCL2を噛合させる。この第2クラッチCL2を噛合させる際に、駆動輪スリップが生じていると、第2クラッチCL2のサンギヤSg側である出力側部材102の回転状態が、回転数の予測が不可能な不安定な状態となる。この場合、第2クラッチCL2のモータジェネレータMG側である入力側部材101の回転数を、出力側部材102の回転数に一致させることが難しい。そして、この回転不一致状態で、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2を噛合させると、ギヤ鳴りが生じたり、歯が欠けたり、ショックが生じたりするおそれがある。
【0056】
それに対し、本実施例1では、駆動輪スリップが生じているt51とt52の間で、変速を禁止することで、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2では、入力側部材101と出力側部材102との回転不一致状態で、噛合されることがなく、ギヤ鳴り、破損、ショックの発生を防止できる。
【0057】
さらに、変速禁止フラグをONとした場合、ステップS6→S7の処理に基づいて、自動変速機ATが、Lowギヤの場合は、車速制限処理が実施される。したがって、Lowギヤで変速禁止を行なっても、エンジンEngやモータジェネレータMGに過回転が生じるのを防止できる。
【0058】
次に、図7は、駆動輪加速度が、スリップ判定加速度閾値ath以上となった場合を示しており、この場合も、ステップS1→S2→S3の処理に基づいて、駆動輪の回転状態が、回転数の予測が不可能な不安定な状態であり、変速が禁止される。この場合、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上高くなる前の時点で、変速禁止フラグがONとなり得るものであり、駆動輪速度のみで判定するものよりも、応答速度を高めることが可能である。
【0059】
したがって、駆動輪スリップが生じており、かつ、トルク抑制制御により駆動輪か速度を一定に抑制できない場合は、変速要求が生じても変速が成されることがない。なお、この変速禁止処理時に、ステップS6→S7の処理に基づいて、車速制限によるエンジンEngおよびモータジェネレータMGの過回転防止を図る点は、図6の場合と同様である。
【0060】
次に、駆動輪加速度が一定の場合の動作を図8に基づいて説明する。本実施例1では、ステップS2の判定に基づいて、駆動輪速度あるいは駆動輪加速度が、スリップ判定速度閾値Vthあるいはスリップ判定加速度閾値athを越えていても、駆動輪加速度が一定であれば、変速禁止フラグをOFFとする。
【0061】
すなわち、例えば、低μ路で一定の加速度で加速を行なっている場合などのように、駆動輪加速度が、一定である場合には、所定時間後の第2クラッチCL2の噛合時点に、第2クラッチCL2の出力側部材102の回転数を推定可能であり、かつ、これに基づいて入力側部材101の回転数目標値を、駆動輪加速度に基づいて設定可能である。この場合、第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側との回転数を一致させる制御が可能である。
【0062】
そこで、図8に示す例では、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上となり、かつ、駆動輪加速度も、スリップ判定加速度閾値athを超えて、t71の時点で、いったん、変速禁止フラグがONとなっている。しかし、駆動輪加速度が一定である場合、その後、ステップS2→S10の処理に基づいて、t72の時点で、変速禁止フラグがOFFとなって、変速が許可される。
【0063】
したがって、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0064】
次に、図9は、ステップS3において、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御可能と判定された場合の駆動輪加速度変化の例を示している。
【0065】
この図9に示す例では、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを越えた時点t81で、変速禁止フラグがONとなるが、さらに、この時点から、駆動輪スリップを抑制するトルク抑制制御が実行され、トルク指令値が漸次減少されている。
【0066】
そして、その後の、トルク抑制制御により、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを下回り、駆動輪加速度を一定にすることが可能であると判定された時点t82で、変速禁止フラグがOFFとなり、トルク抑制制御も終了している。さらに、変速禁止フラグのOFFにより変速が実行され、この変速に伴い、T82〜t83の間の時点で、変速用の回転数制御が実行されている。すなわち、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させるべく、モータジェネレータMGにトルク指令が出力されている。
【0067】
さらに、本実施例1では、トルク抑制制御を行なったことによる変速許可により、変速が実施された場合、トルク指令値には、トルクに傾き制限が付けられ、トルクの立上がりが緩やかであり、変速後のスリップを防止するようにしている。
【0068】
以上のように、駆動輪スリップが生じても、トルク抑制制御により駆動輪加速度を安定させることができる場合、直ちに、変速禁止フラグをOFFとするため、変速が必要な状況では、可能な限り変速を実行させ、動力性能の向上が可能となる。しかも、このようにトルク抑制制御により変速が許可された場合は、変速後のトルクの立ち上がりを緩やかに制御して、変速後に駆動輪スリップが生じるのを防止できる。
【0069】
次に、図10に基づいて、悪路、砂利道などのように凹凸が連続する路面や、路面μが不安定な路面などの非安定路を走行した場合の作用を説明する。上述のような非安定路を走行した場合、駆動輪速度および従動輪速度は、ほぼ一致し駆動輪スリップは生じないものの、図示のように、小刻みに上下する。このとき、図示の例では、駆動輪速度は、スリップ判定速度閾値Vthを越えることが無く、ステップS1においてNOと判定されている。
【0070】
しかしながら、このような非安定路、特に、砂利道や悪路などでは、駆動輪および従動輪の加速度は、図示のように、ハンチング閾値±Hthを交互に超える加速度ハンチングが生じる。
【0071】
このように、駆動輪スリップが生じなくても、加速度ハンチングが生じた場合、ステップS1→S4→S5の処理が成され、変速禁止フラグがONとなり、変速が禁止される。なお、この場合も、ステップS6→S7の処理に基づいて、自動変速機ATのギヤ段がLowギヤの場合には、速度制限が実施される。
【0072】
次に、図11に基づいて、車速が制動時速度閾値Vth2よりも高い速度での走行中において、運転者がブレーキペダルあるいはパーキングブレーキレバーによるブレーキ操作を行なった場合の動作を説明する。このように、ブレーキ操作により、車速が変化した場合、この車速変化により変速要求が生じる場合がある。しかしながら、ブレーキ操作時には、駆動輪速度は、不安定になり、車速よりも低速となるスリップが生じた場合には、第2クラッチCL2において、入力側部材101の回転数を、出力側部材102の回転数に一致させるのが難しくなる。
【0073】
そこで、ブレーキ操作時には、ステップS1→S2→S8→S9の処理に基づいて、駆動輪スリップおよび加速度ハンチングが生じていなくても、変速禁止フラグがONとなり、変速が禁止される。
【0074】
したがって、ブレーキ操作で駆動輪速度が不安定になった状態で変速が実施されることが無く、第2クラッチのCL2を結合させる時に、入力側部材101と出力側部材102とで回転数が不一致になることを防止できる。
【0075】
以上説明してきたように、実施例1のハイブリッド車両のクラッチ制御装置では、以下に列挙する効果が得られる。
a)統合コントローラ14は、左右駆動輪LT,RTの回転数変化が不安定な変速制限状態となった場合には、変速を禁止するようにした。よって、左右駆動輪LT,RTの回転数変化が不安定になって、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102とが回転速度不一致状態で噛合されるのが制限され、ギヤ鳴りやギヤの破損やショックなどの発生を抑制できる。
【0076】
b)回転数変化が変速制限状態となった場合として、駆動輪スリップが生じている状態が含まれている。この駆動輪スリップが生じている場合、駆動輪回転速度の予測が困難であり、第2クラッチCL2において、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させるのが困難である。よって、このように第2クラッチCL2において、入出力側の回転を一致させるのが困難な状態を、既存のセンサ(車輪速センサ31)を用いて容易に判定可能である。
【0077】
c)回転数変化が変速制限状態となった場合として、悪路、低μ路などの非安定路面走行状態が含まれている。このような非安定路面走行時には、駆動輪回転速度の予測が困難であり、第2クラッチCL2において、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させるのが困難である。また、悪路走行時は、既存のセンサ(車輪速センサ31など)を用いて容易に判定することが可能である。よって、このように第2クラッチCL2において、入出力側の回転を一致させるのが困難な状態を、既存のセンサ(車輪速センサ31)を用いて容易に判定することができる。
【0078】
d)変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、駆動輪加速度が略一定の場合は、変速制限をキャンセルするようにした。すなわち、駆動輪加速度が略一定の場合には、駆動輪速度を予測することは可能である。したがって、第2クラッチCL2おいても、この予測に基づいて、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは可能である。
【0079】
よって、このように駆動輪加速度が略一定の場合には、変速禁止をキャンセルすることにより、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0080】
e)変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、トルク抑制制御により駆動輪スリップが、変速制限状態に該当しない状態に移行可能と判定した場合、変速制限をキャンセルするようにした。すなわち、トルク抑制制御により駆動輪スリップを抑制可能な場合は、第2クラッチCL2において、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは可能である。
【0081】
よって、変速禁止をキャンセルすることにより、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0082】
f)非安定路判定を、駆動輪の加速度が、あらかじめ設定されたハンチング閾値を超えた加速度ハンチング状態で検出するようにしたため、既存の車輪速センサ31を用いて容易に非安定路判定が可能となる。
【0083】
g)変速を制限した場合、自動変速機ATがLowギヤに固定されると、車速を上昇させたときに、駆動源としてのモータジェネレータMGやエンジンEngに過回転が生じるおそれがある。本実施例1では、変速禁止時に、自動変速機ATがLowギヤの場合は、車速制限を実施することで、このような過回転の発生を防止できる。
【0084】
h)制動時には、駆動輪速度が車体速度よりも大幅に低下して、駆動輪スリップが生じるおそれがある。このような制動時の駆動輪スリップが生じた場合も、第2クラッチCL2において、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは困難となる場合がある。
【0085】
そこで、本実施例1では、図外のフットペダル操作による制動ならびにパーキングブレーキレバー操作による制動時には、変速を禁止し、制動時に変速を行なって第2クラッチCL2において、ギヤ鳴りやギヤの破損やショックなどが発生するのを抑制できる。
【0086】
i)駆動輪スリップが生じても、トルク抑制制御により駆動輪加速度を安定させることができる場合、直ちに、変速禁止フラグをOFFとするようにしたため、変速が必要な状況では、可能な限り変速を実行させ、動力性能の向上が可能となる。しかも、このようにトルク抑制制御により変速が許可された場合は、変速後のトルクの立ち上がりを緩やかに制御して、変速後に駆動輪スリップが生じるのを防止できる。
【0087】
(他の実施例)
以下に、他の実施例について説明するが、これら他の実施例は、実施例1の変形例であるため、その相違点についてのみ説明し、実施例1あるいは他の実施例と共通する構成については共通する符号を付けることで説明を省略する。
【実施例2】
【0088】
実施例2は、実施例1の変形例であり、駆動輪の回転数変化に基づいて、ステップS10およびステップS11の変速禁止フラグをONとしても、第2クラッチCL2における入出力の回転差が、許容範囲で有れば変速禁止を緩和する変速禁止緩和処理を行なうようにした例である。実施例2では、このように、変速禁止緩和処理を行なうことで、変速による動力性能を、高めることが可能である。
【0089】
以下、その構成を説明する。
実施例2では、図12に示すように、締結時間演算部201、許容差回転加速度演算部202、変速許可判断部203、を備えている。
【0090】
締結時間演算部201は、第2クラッチCL2の締結を指令してから実際に締結するまでに要する時間である締結時間Tcを、下記式(1)により、制御サンプリング時間、電気的なクラッチ応答遅れ時間、機械的なクラッチ応答遅れ時間に基づいて演算する。
締結時間Tc
=制御サンプリング時間+電気的遅れ時間+機械的応答遅れ時間 ・・・(1)
なお、機械的な応答遅れ時間は、温度などによって変動するため、温度を入力とするマップを用いて、締結時間Tcを演算するようにしている。
【0091】
許容差回転加速度演算部202は、締結時間演算部で得られた締結時間Tcと、あらかじめ設定された第2クラッチCL2を噛合する際に許容された許容差回転(例えば、200rpm)とに基づいて、第2クラッチCL2を締結可能な駆動輪の許容差回転加速度を演算する。なお、許容差回転加速度は、下記の式(2)により演算する。
許容差回転加速度=(クラッチ許容差回転)/締結時間Tc ・・・(2)
変速許可判断部203は、許容差回転加速度演算部202で演算した許容差回転加速度と、実際の第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102との差回転加速度とを比較し、実際の駆動輪加速度が、許容差回転加速度以下であれば変速を許可する。すなわち、変速許可判断部203では、第2クラッチCL2の入力側の回転数(モータ回転数)と、出力側の回転数(駆動輪速)とを入力し、差回転加速度を演算する。
【0092】
なお、許容差回転加速度演算部202で演算した許容差回転加速度は、例えば、第2クラッチCL2の締結時間Tcが50msで、許容差回転が±200rpmだとすると、許容差回転加速度は、200rpm/50msとなる。そこで、実際の第2クラッチCL2の差回転加速度が200rpm/50ms以内であれば、変速を許可し、200rpm/50ms以上であれば、変速禁止とする。
【0093】
すなわち、図13のフローチャートは、実施例1のステップS10およびS11の処理の変形例である実施例2の処理を示しており、ステップS201において、実際の第2クラッチCL2の差回転加速度が、許容差回転加速度(=クラッチ許容差回転/締結時間)よりも大きい場合には、ステップS202に進んで変速禁止とするが、許容差回転加速度以下であれば、ステップS203に進んで変速を許可する。なお、他の処理は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0094】
(実施例2の効果)
以上のように、実施例2では、左右駆動輪LT,RTの回転速度変化が、変速を禁止する状態であっても、ドグクラッチ式の第2クラッチCL2における実際の差回転加速度が、許容差回転加速度内であれば、変速禁止をキャンセルするようにした。
【0095】
したがって、左右駆動輪LT,RTの回転速度変化に基づく変速禁止により、ギヤ鳴りや破損やショックの発生などの抑制を図りながらも、変速禁止判定の緩和により、悪路などの非安定路における、変速による動力性能向上を図ることが可能となる。
【0096】
以上、本発明のクラッチ制御装置を、実施の形態および実施例1,2に基づき説明してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0097】
例えば、実施例1,2では、駆動源として、エンジンEngとモータジェネレータMGとを備えたものを示したが、これに限定されるものではなく、図14に示すように、駆動源としてモータジェネレータMGのみを備えた電気自動車にも適用できる。
【0098】
また、実施例1,2では、ハイブリッド車両として、エンジンEngとモータジェネレータMGの両方の駆動力を駆動輪に伝達できる、いわゆるパラレル式のものを示したが、モータMOの駆動力のみを駆動輪に伝達し、エンジンEngはジェネレータGEの発電に用いるいわゆる図15に示すようなシリーズ式のものにも適用することができる。
【0099】
あるいは、図16および図17に示すような、シリーズパラレル式のものにも適用することができる。なお、図16,図17において、PGは遊星歯車を示している。また、図14〜図17において、ドグクラッチは、自動変速機ATに内蔵され、実施例1,2と同様に、駆動源と自動変速機ATの入力軸IPSとの間に設けられているものとする。
【0100】
また、実施例1,2において、変速機として、低速ギヤ段として、Lowギヤ、高速ギヤ段としてHiギヤの、2段階の有段変速機を示したが、この有段の数は、2に限らず、3以上の複数段であってもよい。その場合、低速ギヤ段は、1速に限らず、高速ギヤ段に対して、相対的に低いギヤ段であればよい。同様に、高速ギヤ段も、最も高いギヤに限らず、低速ギヤ段に対して、相対的に高いギヤ段であればよい。
【0101】
また、実施例1,2では、非安定路の走行を検出する手段として、車輪速度の加速度ハンチングを検出するものを示したが、これに限定されず、加速度センサや、車載カメラや、外部情報通信機器などからの信号から検出するものなどの他の手段を用いてもよい。
【0102】
また、実施例1,2では、駆動輪の回転速度変化が、変速制限状態であっても、所定の条件が成立した場合は、変速を禁止せずに、変速を許可するものを示したが、このような許可条件を設定することなく、変速制限状態の場合、変速を完全に禁止するようにしてもよい。
【0103】
なお、ドグクラッチとして、実施例1,2では、第2クラッチCL2を示したが、これに限定されるものではない。例えば、実施例1,2で示した、ロークラッチLCおよびハイクラッチHCに適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
実施例1,2では、FRハイブリッド車両に適用した例を示したが、例えば、FFハイブリッド車両や電気自動車や燃料電池車に対しても本発明の制御装置を適用することができる。要するに、ドグクラッチを有した車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0105】
6 第2クラッチ入力回転数センサ(車両状態検出手段)
7 第2クラッチ出力回転数センサ(車両状態検出手段)
10 アクセルセンサ(車両状態検出手段)
11 エンジン回転数センサ(車両状態検出手段)
12 クラッチ油温センサ(車両状態検出手段)
13 ストローク位置センサ(車両状態検出手段)
14 統合コントローラ(制御手段)
22 ブレーキセンサ(車両状態検出手段)
23 パーキングブレーキセンサ(車両状態検出手段)
30 車速センサ(車両状態検出手段)
31 車輪速センサ(車両状態検出手段)
32 ブレーキセンサ(車両状態検出手段)
33 パーキングブレーキセンサ(車両状態検出手段)
101 入力側部材
102 出力側部材
AT 自動変速機
ath スリップ判定加速度閾値
CL2 第2クラッチ(ドグクラッチ)
Eng エンジン(駆動源)
LT 左駆動輪
RT 右駆動輪
MG モータジェネレータ(駆動源)
MO モータ(駆動源)
Vth スリップ判定速度閾値
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源と変速機との間に、変速の際に駆動源と変速機とを切り離すドグクラッチを備えた車両のクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源と駆動輪との間に設けられた伝達機構に、変速の際に連結状態を切り換えるドグクラッチを備えたものが、例えば、特許文献1などにより知られている。
【0003】
この従来技術には、二組の遊星歯車機構を組み合わせて四つの回転要素を有する歯車機構を備え、回転要素のいずれかが、内燃機関からトルクが入力される入力要素とされるとともに、他のいずれかの要素が、入力要素のトルクに対する反力トルクが発電機から入力される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−155891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなドグクラッチの連結状態を切り換える場合、入力側と出力側との回転数を一致させてクラッチを締結させる。しかしながら、入力側と出力側とで、所定値以上(例えば、200rpm程度)の回転数差があると、クラッチ断切時に、クラッチが破損したり、ショックが生じたりするおそれがある。
【0006】
すなわち、ドグクラッチの入力側と出力側との回転数差が大きいと、ドグクラッチの歯と歯が急速度でぶつかり、クラッチの破損や変速ショックが生じるおそれがある。特に、車両が、ラフロードや氷結路や雪道などの非安定路を走行した場合に、駆動輪に回転数変動が生じやすいため、ドグクラッチの入出力軸で回転数差が生じやすく、上記問題が生じる可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ドグクラッチの断接時に、駆動輪の回転数変動により、ドグクラッチの破損、変速ショックの発生を抑制可能な車両のクラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両のクラッチ制御装置は、車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、変速機の変速を制御するとともに、変速機の変速中は、ドグクラッチを切断状態とするとともに、変速終了後に、噛合状態とする指令を行なう制御手段を備えた車両のクラッチ制御装置であって、制御手段は、駆動輪の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両のクラッチ制御装置にあっては、変速時には、制御手段は、ドグクラッチを切断状態として、変速機の変速動作を行なった後、ドグクラッチの駆動源からの入力側と駆動輪への出力側との回転数を略一致させた後に、ドグクラッチを噛合させる。
【0010】
このとき、路面状態などの外乱要因などにより、駆動輪に回転速度変動が生じている場合、ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度を一致させることが難しく、この回転速度不一致状態でドグクラッチを噛合させると、クラッチの破損などが生じる。
【0011】
そこで、本発明では、制御手段は、駆動輪の回転速度変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態を示す場合は、変速を制限する。したがって、駆動輪に上述のような回転数変化が生じている場合、変速が制限されることで、ドグクラッチの断接も制限される。よって、ドグクラッチは、入力側と出力側との回転速度不一致状態で噛合されるのが制限され、ドグクラッチの破損や変速ショックなどの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のクラッチ制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の自動変速機ATの一例を示す概略図である。
【図3】図2に示す自動変速機ATの遊星歯車PGの共線図である。
【図4】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の自動変速機ATにおける変速特性図である。
【図5】実施例1のクラッチ制御装置が適用されたハイブリッド車両の統合コントローラ14にて実行される変速制限判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪加速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1において駆動輪スリップが生じた場合に、駆動輪加速度に基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1において駆動輪スリップが生じたときに、トルク抑制制御が実行された場合の作動例を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1において非安定路の走行時に、加速度ハンチングに基づいて作動した例を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1において制動操作が行なわれた場合の作動例を示すタイムチャートである。
【図12】実施例2の変速禁止と変速許可の判定を行なう部分の構成を示すブロック図である。
【図13】実施例2における変速禁止処理における処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】本発明の電気自動車への適用例を示す概略図である。
【図15】本発明のシリーズ式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【図16】本発明のシリーズパラレル式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【図17】本発明のシリーズパラレル式のハイブリッド車両への適用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明の実施の形態のクラッチ制御装置は、駆動輪(LT,RT)に駆動力を与える駆動源(Eng,MG)と、この駆動源(Eng,MG)と前記駆動輪(LT,RT)との間に介在されて、前記駆動源(Eng,MG)から伝達される回転数を変速させて前記駆動輪(LT,RT)へ伝達する変速機(AT)と、この変速機(AT)と前記駆動源(Eng,MG)との間に設けられ、駆動力を伝達する噛合状態と、駆動力を伝達しない切断状態とに切換可能なドグクラッチ(CL2)と、前記駆動輪(LT,RT)の回転速度を含む車両状態を検出する車両状態検出手段と、この車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、前記変速機(AT)の変速を制御するとともに、前記変速機(AT)の変速中は、前記ドグクラッチ(CL2)を前記切断状態とするとともに、変速終了後に、前記噛合状態とする制御手段(14)と、を備えた車両のクラッチ制御装置であって、前記制御手段(14)は、前記駆動輪(LT,RT)の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置である。
【実施例1】
【0015】
図1〜図11に基づき、この発明の最良の実施の形態の実施例1のクラッチ制御装置について説明する。
【0016】
まず、図1の実施例1の制御装置が適用された後輪駆動式のハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す概略図に基づき、駆動系および制御系の構成を説明する。
【0017】
実施例1のFR式のハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、駆動源としてエンジンEngと、モータジェネレータMGと、を備えている。そして、エンジンEngとモータジェネレータMGとを結ぶ駆動伝達経路の途中に、第1クラッチCL1が設けられ、また、モータジェネレータMGと自動変速機ATとの駆動伝達経路の途中に、第2クラッチCL2が設けられている。また、自動変速機ATの出力側には、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、が設けられている。
【0018】
実施例1のハイブリッド車両の駆動系は、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、準電気自動車走行モード(以下、「準EVモード」という。)と、等の走行モードを有する。
【0019】
「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。
【0020】
「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータアシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。「準EVモード」は、第1クラッチCL1が締結状態であるがエンジンEngをOFFとし、モータジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。
【0021】
エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
【0022】
第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時締結(ノーマルクローズ)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng〜モータジェネレータMG間の締結/半締結/開放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、開放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/開放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
【0023】
モータジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク抑制制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうものである。
【0024】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMG側の入力側部材101と自動変速機AT側(駆動輪側)の出力側部材102とが噛み合ってトルク伝達を行なうドグクラッチであり、油圧(押付力)に応じて噛合状態と切断状態とに切り換えられる。この第2クラッチCL2は、自動変速機ATおよびファイナルギヤFGを介し、モータジェネレータMG側から入力軸IPSへ出力されたトルクを左右駆動輪LT,RTへと伝達する。
【0025】
自動変速機ATは、図2に示すように、遊星歯車PG、ロークラッチLC、ハイクラッチHCを備えている。遊星歯車PGは、入力軸IPSが第2クラッチCL2の出力側部材102に結合され、サンギヤSgが入力軸IPSに結合され、キャリアCaが出力軸OTSに結合されている。そして、リングギヤRgは、ロークラッチLCによりハウジングHSに結合および結合解除可能であるとともに、ハイクラッチHCによりサンギヤSg(入力軸IPS)と結合および結合解除可能となっている。
【0026】
したがって、本実施例1に用いた自動変速機ATは、Lowギヤ(低ギヤ段)とHiギヤ(高ギヤ段)との2段階に変速することができる。すなわち、Lowギヤは、ハイクラッチHCを解放させる一方で、ロークラッチLCを締結して形成することができる。この場合、リングギヤRgが固定され、図3の共線図に示すように、サンギヤSgが、入力軸IPSと一体に回転し、キャリアCaは出力軸OTSと一体に減速回転される。
【0027】
Hiギヤは、ハイクラッチHCを締結させる一方で、ロークラッチLCを解放させて形成することができる。この場合、サンギヤSg、キャリアCa、リングギヤRgが、一体に等速回転される。
【0028】
実施例1のハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、インバータ8と、バッテリー9と、統合コントローラ(制御手段)14と、変速機コントローラ15と、クラッチコントローラ16と、エンジンコントローラ17と、モータコントローラ18と、バッテリーコントローラ19と、を備えている。さらに、ハイブリッド車両の制御系は、車両状態検出手段として、第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)と、第2クラッチ出力回転数センサ7と、アクセルセンサ10と、エンジン回転数センサ11と、クラッチ油温センサ12と、ストローク位置センサ13と、車速センサ30と、車輪速センサ31と、ブレーキセンサ32と、パーキングブレーキセンサ33と、を備えている。
【0029】
インバータ8は、直流/交流の変換を行ない、モータジェネレータMGの駆動電流を生成する。バッテリー9は、モータジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータ8を介して蓄積する。
【0030】
統合コントローラ14は、バッテリー状態、アクセル開度、車速(変速機出力回転数に同期した値)、車輪速度、ブレーキ状態から目標駆動トルクなどの指令値を演算する。そして、この演算結果に基づき、各アクチュエータ(モータジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機AT)に対する指令値を、各コントローラ15,16,17,18,19へと送信する。
【0031】
変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。
【0032】
クラッチコントローラ16は、第2クラッチ入力回転数センサ6と第2クラッチ出力回転数センサ7とクラッチ油温センサ12とからのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からの第1クラッチ油圧指令値と第2クラッチ油圧指令値に対して、クラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する。
【0033】
エンジンコントローラ17は、エンジン回転数センサ11からのセンサ情報を入力するとともに、統合コントローラ14からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク抑制制御を行なう。モータコントローラ18は、統合コントローラ14からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータジェネレータMGの制御を行なう。さらに、エンジンコントローラ17とモータコントローラ18とで協調し、加速の際に、駆動輪にいわゆるホイールスピンが生じた場合に、エンジントルクおよびモータトルクを制御して、ホイールスピンを抑えるトルク抑制制御を実行する。
【0034】
バッテリーコントローラ19は、バッテリー9の充電状態(SOC)を管理し、その情報を統合コントローラ14へと送信する。
【0035】
ブレーキコントローラ20は、車輪速センサ31やブレーキセンサ32などの入力に基づいて、ブレーキ装置21の油圧を制御して、いわゆるABS制御や、車両姿勢制御を実行する。
【0036】
アクセルセンサ10は、図外のアクセルペダルの操作伝達系に設けられ、アクセル開度を検出する。車速センサ30は、自動変速機ATの出力側に設けられ、車速を検出する。車輪速センサ31は、車両の4輪にそれぞれ設けられ、各輪の回転速度を、独立して検出する。ブレーキセンサ32は、ブレーキペダル(図示省略)の踏込ストロークを検出する。パーキングブレーキセンサ33は、図外のパーキングブレーキ操作レバーが設定量以上操作されたことを検出する。
【0037】
次に、実施例1の統合コントローラ14において実行される変速制御について簡単に説明する。統合コントローラ14では、アクセル開度Apoと車速Vspとに基づき、図4に示す変速特性に従って、ギヤ段を、LowギヤとHiギヤとに切り換える処理を行なう。また、統合コントローラ14は、自動変速機ATの変速動作中は、第2クラッチCL2を切断状態とし、変速終了後に、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させた上で、第2クラッチCL2を噛合させる。
【0038】
次に、統合コントローラ14の変速制御において、本発明の特徴である、変速制限判定処理の流れを、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0039】
ステップS1〜S4により、変速制限状態判定を行なう。変速制限状態判定は、駆動輪の回転速度変化が、第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させることが困難な、所定以上の不安定な状態であるか否かを判定するものであり、変速制限状態と判定した場合には、変速を制限する。本実施例1では、このステップS1〜S4の変速制限状態判定では、駆動輪スリップ状態であるか否かの判定と、砂利道や悪路などの路面に凹凸を有したり、路面摩擦係数(以下、摩擦係数をμと表記する)が変化したりする非安定路を走行中であるか否かの判定を行なう。なお、駆動輪スリップは、過大な駆動トルクにより発生する他、悪路、砂利道、未塗装路などの非安定路や、凍結路、雪道などの低μ路走行時にも発生する。
【0040】
そこで、まず、ステップS1では、駆動輪スリップが生じているか否か判定し、駆動輪スリップが生じている場合には、ステップS2に進み、駆動輪スリップが生じていない場合は、ステップS4に進む。なお、本実施例1では、駆動輪スリップ判定は、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth(例えば、Vth=3〜5km/h)以上の場合、または、駆動輪加速度が、スリップ判定加速度閾値ath(ath=50km/h/s)以上の場合に、駆動輪スリップと判定する。
【0041】
ここで、加速度は、車輪速度を微分して演算するが、他のセンサのノイズ影響も想定されるため、車輪速度の微分値に、フィルタ処理を施したものを、車輪加速度として使用している。
【0042】
ステップS2では、駆動輪加速度が一定であるか否か判定し、加速度が一定の場合は、ステップS10に進み、一定でない場合は、ステップS3に進む。
【0043】
ステップS3では、現在の駆動輪状態が、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定にすることが可能な状態であるか否かを判定し、可能な場合はステップS10に進み、一定でない場合はステップS5に進む。
【0044】
上記のように、本実施例1では、駆動輪スリップ判定が成されていても、ステップS2において、駆動輪加速度が一定と判定されれば、変速禁止フラグをOFFとする。すなわち、駆動輪加速度が、一定である場合は、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数目標値を、その加速度に基づいて設定することが可能であるから、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させることが可能である。
【0045】
また、上記のように、駆動輪スリップ判定が成されていても、ステップS3において、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御可能と判定された場合、ステップS2と同様に、変速を許可する。さらに、本実施例1では、トルク抑制制御に基づいて変速許可として変速が実行される場合には、変速後の出力トルクは、トルク傾き制限を付けて、変速後の駆動輪スリップを防止するようにしている。
【0046】
なお、トルク抑制制御は、前述のように、エンジンコントローラ17およびモータコントローラ18を用いてエンジンEngおよびモータジェネレータMGの出力トルクを制御して、左右駆動輪LT,RTのスリップを抑制する制御であるが、これに加え、ブレーキコントローラ20によりブレーキ装置21を制御して、駆動輪に制動力を与える制御を含んでいてもよい。したがって、モータジェネレータMGおよびエンジンEngのトルク抑制制御を行なった場合は、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数を制御することができ、一方、ブレーキ装置21により駆動輪速度を制御した場合は、第2クラッチCL2の出力側部材102の回転数を制御することができる。
【0047】
一方、ステップS1においてNOと判定されて進むステップS4では、非安定路判定を行なう。非安定路とは、砂利道や悪路などのように、凹凸が連続した路面や、積雪部分や凍結部分が、不連続な路面μが不安定な路面を指している。このような路面では、車輪速度が、図10に示すように、不規則になり、加速度も上下する。
【0048】
そこで、本実施例1では、非安定路の判定を、車輪に加速度ハンチングが生じているか否かで判定し、加速度ハンチングが生じている場合は、ステップS5に進み、加速度ハンチングが生じていない場合は、ステップS8に進む。なお、加速度ハンチング判定は、図10に示すように、車輪加速度が、あらかじめ設定された加速度ハンチング閾値±Hthを、交互に越えた場合に、加速度ハンチングが生じていると判定される。
【0049】
ステップS5では、変速を禁止し、ステップS6に進む。以上のように、駆動輪スリップが生じていて、かつ、駆動輪加速度が一定でなく、しかも、トルク抑制制御によっても、駆動輪加速度を一定にできない第1の場合と、左右駆動輪LT,RTのいずれかにハンチング閾値を越える加速度ハンチングが生じている第2の場合との、いずれかの場合に、駆動輪速度変化が所定以上の不安定な状態、すなわち、変速制限状態であるとして、変速を禁止する。
【0050】
ステップS6では、現在の変速機の変速段が、Lowギヤであるか否か判定し、Lowギヤである場合は、ステップS7に進み、Lowギヤでない場合は、そのまま1回の処理を終了する。
【0051】
ステップS7では、車速をLowギヤで許容される速度の範囲内に収めるように、エンジンおよびモータジェネレータを制御する。例えば、本実施例1において、Lowギヤで走行できる許容速度範囲内の最高車速が100km/hであるとすると、このステップS7では、車速を100km/h以下に制限する。
【0052】
ステップS8では、車速が制動時速度閾値Vth2以上(図11参照)で、ブレーキあるいはパーキングブレーキが、制動操作状態(ON)であるか否か判定し、制動状態ではステップS9に進んで変速禁止処理を実行した後、そのまま1回の処理を終了する。なお、制動時速度閾値Vth2は、急制動時に、車輪スリップが生じうる速度、例えば、20〜40km/hの範囲内の速度に設定されている。また、ステップS8において、制動状態でない場合、ステップS11に進む。ステップS10およびステップS11では、駆動輪速度が安定していることから、変速禁止フラグをOFFとして、1回の処理を終了する。
【0053】
次に、実施例1の作用について説明する。
急加速時、あるいは低μ路での加速時などにおいて、駆動輪スリップが生じた場合、駆動輪速度が、従動輪速度に対し、スリップ判定速度閾値Vth以上大きな値になるか、あるいは、スリップ判定加速度閾値ath以上となると、ステップS1→S2の処理が成される。そして、駆動輪の加速度が一定でなく、かつ、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御できないと判定された場合、ステップS2→S3→S5の処理に基づいて、変速が禁止される。
【0054】
ここで、図6は、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上となった例を示しており、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを越えてから、スリップ判定速度閾値Vth未満となるまでの間、すなわち、t51の時点からt52の時点の間、変速禁止フラグがONとなる。
【0055】
したがって、駆動輪スリップが生じ、駆動輪の回転速度が不安定な状態では、変速要求が生じても変速が成されることがない。すなわち、変速時には、第2クラッチCL2を切断し、ロークラッチLCおよびハイクラッチHCの締結切換を行なった後に、第2クラッチCL2を噛合させる。この第2クラッチCL2を噛合させる際に、駆動輪スリップが生じていると、第2クラッチCL2のサンギヤSg側である出力側部材102の回転状態が、回転数の予測が不可能な不安定な状態となる。この場合、第2クラッチCL2のモータジェネレータMG側である入力側部材101の回転数を、出力側部材102の回転数に一致させることが難しい。そして、この回転不一致状態で、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2を噛合させると、ギヤ鳴りが生じたり、歯が欠けたり、ショックが生じたりするおそれがある。
【0056】
それに対し、本実施例1では、駆動輪スリップが生じているt51とt52の間で、変速を禁止することで、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2では、入力側部材101と出力側部材102との回転不一致状態で、噛合されることがなく、ギヤ鳴り、破損、ショックの発生を防止できる。
【0057】
さらに、変速禁止フラグをONとした場合、ステップS6→S7の処理に基づいて、自動変速機ATが、Lowギヤの場合は、車速制限処理が実施される。したがって、Lowギヤで変速禁止を行なっても、エンジンEngやモータジェネレータMGに過回転が生じるのを防止できる。
【0058】
次に、図7は、駆動輪加速度が、スリップ判定加速度閾値ath以上となった場合を示しており、この場合も、ステップS1→S2→S3の処理に基づいて、駆動輪の回転状態が、回転数の予測が不可能な不安定な状態であり、変速が禁止される。この場合、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上高くなる前の時点で、変速禁止フラグがONとなり得るものであり、駆動輪速度のみで判定するものよりも、応答速度を高めることが可能である。
【0059】
したがって、駆動輪スリップが生じており、かつ、トルク抑制制御により駆動輪か速度を一定に抑制できない場合は、変速要求が生じても変速が成されることがない。なお、この変速禁止処理時に、ステップS6→S7の処理に基づいて、車速制限によるエンジンEngおよびモータジェネレータMGの過回転防止を図る点は、図6の場合と同様である。
【0060】
次に、駆動輪加速度が一定の場合の動作を図8に基づいて説明する。本実施例1では、ステップS2の判定に基づいて、駆動輪速度あるいは駆動輪加速度が、スリップ判定速度閾値Vthあるいはスリップ判定加速度閾値athを越えていても、駆動輪加速度が一定であれば、変速禁止フラグをOFFとする。
【0061】
すなわち、例えば、低μ路で一定の加速度で加速を行なっている場合などのように、駆動輪加速度が、一定である場合には、所定時間後の第2クラッチCL2の噛合時点に、第2クラッチCL2の出力側部材102の回転数を推定可能であり、かつ、これに基づいて入力側部材101の回転数目標値を、駆動輪加速度に基づいて設定可能である。この場合、第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側との回転数を一致させる制御が可能である。
【0062】
そこで、図8に示す例では、駆動輪速度が、従動輪速度よりもスリップ判定速度閾値Vth以上となり、かつ、駆動輪加速度も、スリップ判定加速度閾値athを超えて、t71の時点で、いったん、変速禁止フラグがONとなっている。しかし、駆動輪加速度が一定である場合、その後、ステップS2→S10の処理に基づいて、t72の時点で、変速禁止フラグがOFFとなって、変速が許可される。
【0063】
したがって、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0064】
次に、図9は、ステップS3において、トルク抑制制御により駆動輪加速度を一定に制御可能と判定された場合の駆動輪加速度変化の例を示している。
【0065】
この図9に示す例では、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを越えた時点t81で、変速禁止フラグがONとなるが、さらに、この時点から、駆動輪スリップを抑制するトルク抑制制御が実行され、トルク指令値が漸次減少されている。
【0066】
そして、その後の、トルク抑制制御により、駆動輪速度がスリップ判定速度閾値Vthを下回り、駆動輪加速度を一定にすることが可能であると判定された時点t82で、変速禁止フラグがOFFとなり、トルク抑制制御も終了している。さらに、変速禁止フラグのOFFにより変速が実行され、この変速に伴い、T82〜t83の間の時点で、変速用の回転数制御が実行されている。すなわち、第2クラッチCL2の入力側部材101の回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させるべく、モータジェネレータMGにトルク指令が出力されている。
【0067】
さらに、本実施例1では、トルク抑制制御を行なったことによる変速許可により、変速が実施された場合、トルク指令値には、トルクに傾き制限が付けられ、トルクの立上がりが緩やかであり、変速後のスリップを防止するようにしている。
【0068】
以上のように、駆動輪スリップが生じても、トルク抑制制御により駆動輪加速度を安定させることができる場合、直ちに、変速禁止フラグをOFFとするため、変速が必要な状況では、可能な限り変速を実行させ、動力性能の向上が可能となる。しかも、このようにトルク抑制制御により変速が許可された場合は、変速後のトルクの立ち上がりを緩やかに制御して、変速後に駆動輪スリップが生じるのを防止できる。
【0069】
次に、図10に基づいて、悪路、砂利道などのように凹凸が連続する路面や、路面μが不安定な路面などの非安定路を走行した場合の作用を説明する。上述のような非安定路を走行した場合、駆動輪速度および従動輪速度は、ほぼ一致し駆動輪スリップは生じないものの、図示のように、小刻みに上下する。このとき、図示の例では、駆動輪速度は、スリップ判定速度閾値Vthを越えることが無く、ステップS1においてNOと判定されている。
【0070】
しかしながら、このような非安定路、特に、砂利道や悪路などでは、駆動輪および従動輪の加速度は、図示のように、ハンチング閾値±Hthを交互に超える加速度ハンチングが生じる。
【0071】
このように、駆動輪スリップが生じなくても、加速度ハンチングが生じた場合、ステップS1→S4→S5の処理が成され、変速禁止フラグがONとなり、変速が禁止される。なお、この場合も、ステップS6→S7の処理に基づいて、自動変速機ATのギヤ段がLowギヤの場合には、速度制限が実施される。
【0072】
次に、図11に基づいて、車速が制動時速度閾値Vth2よりも高い速度での走行中において、運転者がブレーキペダルあるいはパーキングブレーキレバーによるブレーキ操作を行なった場合の動作を説明する。このように、ブレーキ操作により、車速が変化した場合、この車速変化により変速要求が生じる場合がある。しかしながら、ブレーキ操作時には、駆動輪速度は、不安定になり、車速よりも低速となるスリップが生じた場合には、第2クラッチCL2において、入力側部材101の回転数を、出力側部材102の回転数に一致させるのが難しくなる。
【0073】
そこで、ブレーキ操作時には、ステップS1→S2→S8→S9の処理に基づいて、駆動輪スリップおよび加速度ハンチングが生じていなくても、変速禁止フラグがONとなり、変速が禁止される。
【0074】
したがって、ブレーキ操作で駆動輪速度が不安定になった状態で変速が実施されることが無く、第2クラッチのCL2を結合させる時に、入力側部材101と出力側部材102とで回転数が不一致になることを防止できる。
【0075】
以上説明してきたように、実施例1のハイブリッド車両のクラッチ制御装置では、以下に列挙する効果が得られる。
a)統合コントローラ14は、左右駆動輪LT,RTの回転数変化が不安定な変速制限状態となった場合には、変速を禁止するようにした。よって、左右駆動輪LT,RTの回転数変化が不安定になって、ドグクラッチ構造の第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102とが回転速度不一致状態で噛合されるのが制限され、ギヤ鳴りやギヤの破損やショックなどの発生を抑制できる。
【0076】
b)回転数変化が変速制限状態となった場合として、駆動輪スリップが生じている状態が含まれている。この駆動輪スリップが生じている場合、駆動輪回転速度の予測が困難であり、第2クラッチCL2において、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させるのが困難である。よって、このように第2クラッチCL2において、入出力側の回転を一致させるのが困難な状態を、既存のセンサ(車輪速センサ31)を用いて容易に判定可能である。
【0077】
c)回転数変化が変速制限状態となった場合として、悪路、低μ路などの非安定路面走行状態が含まれている。このような非安定路面走行時には、駆動輪回転速度の予測が困難であり、第2クラッチCL2において、入力側部材101と出力側部材102との回転数を一致させるのが困難である。また、悪路走行時は、既存のセンサ(車輪速センサ31など)を用いて容易に判定することが可能である。よって、このように第2クラッチCL2において、入出力側の回転を一致させるのが困難な状態を、既存のセンサ(車輪速センサ31)を用いて容易に判定することができる。
【0078】
d)変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、駆動輪加速度が略一定の場合は、変速制限をキャンセルするようにした。すなわち、駆動輪加速度が略一定の場合には、駆動輪速度を予測することは可能である。したがって、第2クラッチCL2おいても、この予測に基づいて、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは可能である。
【0079】
よって、このように駆動輪加速度が略一定の場合には、変速禁止をキャンセルすることにより、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0080】
e)変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、トルク抑制制御により駆動輪スリップが、変速制限状態に該当しない状態に移行可能と判定した場合、変速制限をキャンセルするようにした。すなわち、トルク抑制制御により駆動輪スリップを抑制可能な場合は、第2クラッチCL2において、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは可能である。
【0081】
よって、変速禁止をキャンセルすることにより、自動変速機ATの変速比を、車両状況に対して、最適に設定し、動力性能を向上させることができる。
【0082】
f)非安定路判定を、駆動輪の加速度が、あらかじめ設定されたハンチング閾値を超えた加速度ハンチング状態で検出するようにしたため、既存の車輪速センサ31を用いて容易に非安定路判定が可能となる。
【0083】
g)変速を制限した場合、自動変速機ATがLowギヤに固定されると、車速を上昇させたときに、駆動源としてのモータジェネレータMGやエンジンEngに過回転が生じるおそれがある。本実施例1では、変速禁止時に、自動変速機ATがLowギヤの場合は、車速制限を実施することで、このような過回転の発生を防止できる。
【0084】
h)制動時には、駆動輪速度が車体速度よりも大幅に低下して、駆動輪スリップが生じるおそれがある。このような制動時の駆動輪スリップが生じた場合も、第2クラッチCL2において、入力側部材101の目標回転数を、駆動輪側の出力側部材102の回転数に一致させることは困難となる場合がある。
【0085】
そこで、本実施例1では、図外のフットペダル操作による制動ならびにパーキングブレーキレバー操作による制動時には、変速を禁止し、制動時に変速を行なって第2クラッチCL2において、ギヤ鳴りやギヤの破損やショックなどが発生するのを抑制できる。
【0086】
i)駆動輪スリップが生じても、トルク抑制制御により駆動輪加速度を安定させることができる場合、直ちに、変速禁止フラグをOFFとするようにしたため、変速が必要な状況では、可能な限り変速を実行させ、動力性能の向上が可能となる。しかも、このようにトルク抑制制御により変速が許可された場合は、変速後のトルクの立ち上がりを緩やかに制御して、変速後に駆動輪スリップが生じるのを防止できる。
【0087】
(他の実施例)
以下に、他の実施例について説明するが、これら他の実施例は、実施例1の変形例であるため、その相違点についてのみ説明し、実施例1あるいは他の実施例と共通する構成については共通する符号を付けることで説明を省略する。
【実施例2】
【0088】
実施例2は、実施例1の変形例であり、駆動輪の回転数変化に基づいて、ステップS10およびステップS11の変速禁止フラグをONとしても、第2クラッチCL2における入出力の回転差が、許容範囲で有れば変速禁止を緩和する変速禁止緩和処理を行なうようにした例である。実施例2では、このように、変速禁止緩和処理を行なうことで、変速による動力性能を、高めることが可能である。
【0089】
以下、その構成を説明する。
実施例2では、図12に示すように、締結時間演算部201、許容差回転加速度演算部202、変速許可判断部203、を備えている。
【0090】
締結時間演算部201は、第2クラッチCL2の締結を指令してから実際に締結するまでに要する時間である締結時間Tcを、下記式(1)により、制御サンプリング時間、電気的なクラッチ応答遅れ時間、機械的なクラッチ応答遅れ時間に基づいて演算する。
締結時間Tc
=制御サンプリング時間+電気的遅れ時間+機械的応答遅れ時間 ・・・(1)
なお、機械的な応答遅れ時間は、温度などによって変動するため、温度を入力とするマップを用いて、締結時間Tcを演算するようにしている。
【0091】
許容差回転加速度演算部202は、締結時間演算部で得られた締結時間Tcと、あらかじめ設定された第2クラッチCL2を噛合する際に許容された許容差回転(例えば、200rpm)とに基づいて、第2クラッチCL2を締結可能な駆動輪の許容差回転加速度を演算する。なお、許容差回転加速度は、下記の式(2)により演算する。
許容差回転加速度=(クラッチ許容差回転)/締結時間Tc ・・・(2)
変速許可判断部203は、許容差回転加速度演算部202で演算した許容差回転加速度と、実際の第2クラッチCL2の入力側部材101と出力側部材102との差回転加速度とを比較し、実際の駆動輪加速度が、許容差回転加速度以下であれば変速を許可する。すなわち、変速許可判断部203では、第2クラッチCL2の入力側の回転数(モータ回転数)と、出力側の回転数(駆動輪速)とを入力し、差回転加速度を演算する。
【0092】
なお、許容差回転加速度演算部202で演算した許容差回転加速度は、例えば、第2クラッチCL2の締結時間Tcが50msで、許容差回転が±200rpmだとすると、許容差回転加速度は、200rpm/50msとなる。そこで、実際の第2クラッチCL2の差回転加速度が200rpm/50ms以内であれば、変速を許可し、200rpm/50ms以上であれば、変速禁止とする。
【0093】
すなわち、図13のフローチャートは、実施例1のステップS10およびS11の処理の変形例である実施例2の処理を示しており、ステップS201において、実際の第2クラッチCL2の差回転加速度が、許容差回転加速度(=クラッチ許容差回転/締結時間)よりも大きい場合には、ステップS202に進んで変速禁止とするが、許容差回転加速度以下であれば、ステップS203に進んで変速を許可する。なお、他の処理は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0094】
(実施例2の効果)
以上のように、実施例2では、左右駆動輪LT,RTの回転速度変化が、変速を禁止する状態であっても、ドグクラッチ式の第2クラッチCL2における実際の差回転加速度が、許容差回転加速度内であれば、変速禁止をキャンセルするようにした。
【0095】
したがって、左右駆動輪LT,RTの回転速度変化に基づく変速禁止により、ギヤ鳴りや破損やショックの発生などの抑制を図りながらも、変速禁止判定の緩和により、悪路などの非安定路における、変速による動力性能向上を図ることが可能となる。
【0096】
以上、本発明のクラッチ制御装置を、実施の形態および実施例1,2に基づき説明してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0097】
例えば、実施例1,2では、駆動源として、エンジンEngとモータジェネレータMGとを備えたものを示したが、これに限定されるものではなく、図14に示すように、駆動源としてモータジェネレータMGのみを備えた電気自動車にも適用できる。
【0098】
また、実施例1,2では、ハイブリッド車両として、エンジンEngとモータジェネレータMGの両方の駆動力を駆動輪に伝達できる、いわゆるパラレル式のものを示したが、モータMOの駆動力のみを駆動輪に伝達し、エンジンEngはジェネレータGEの発電に用いるいわゆる図15に示すようなシリーズ式のものにも適用することができる。
【0099】
あるいは、図16および図17に示すような、シリーズパラレル式のものにも適用することができる。なお、図16,図17において、PGは遊星歯車を示している。また、図14〜図17において、ドグクラッチは、自動変速機ATに内蔵され、実施例1,2と同様に、駆動源と自動変速機ATの入力軸IPSとの間に設けられているものとする。
【0100】
また、実施例1,2において、変速機として、低速ギヤ段として、Lowギヤ、高速ギヤ段としてHiギヤの、2段階の有段変速機を示したが、この有段の数は、2に限らず、3以上の複数段であってもよい。その場合、低速ギヤ段は、1速に限らず、高速ギヤ段に対して、相対的に低いギヤ段であればよい。同様に、高速ギヤ段も、最も高いギヤに限らず、低速ギヤ段に対して、相対的に高いギヤ段であればよい。
【0101】
また、実施例1,2では、非安定路の走行を検出する手段として、車輪速度の加速度ハンチングを検出するものを示したが、これに限定されず、加速度センサや、車載カメラや、外部情報通信機器などからの信号から検出するものなどの他の手段を用いてもよい。
【0102】
また、実施例1,2では、駆動輪の回転速度変化が、変速制限状態であっても、所定の条件が成立した場合は、変速を禁止せずに、変速を許可するものを示したが、このような許可条件を設定することなく、変速制限状態の場合、変速を完全に禁止するようにしてもよい。
【0103】
なお、ドグクラッチとして、実施例1,2では、第2クラッチCL2を示したが、これに限定されるものではない。例えば、実施例1,2で示した、ロークラッチLCおよびハイクラッチHCに適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
実施例1,2では、FRハイブリッド車両に適用した例を示したが、例えば、FFハイブリッド車両や電気自動車や燃料電池車に対しても本発明の制御装置を適用することができる。要するに、ドグクラッチを有した車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0105】
6 第2クラッチ入力回転数センサ(車両状態検出手段)
7 第2クラッチ出力回転数センサ(車両状態検出手段)
10 アクセルセンサ(車両状態検出手段)
11 エンジン回転数センサ(車両状態検出手段)
12 クラッチ油温センサ(車両状態検出手段)
13 ストローク位置センサ(車両状態検出手段)
14 統合コントローラ(制御手段)
22 ブレーキセンサ(車両状態検出手段)
23 パーキングブレーキセンサ(車両状態検出手段)
30 車速センサ(車両状態検出手段)
31 車輪速センサ(車両状態検出手段)
32 ブレーキセンサ(車両状態検出手段)
33 パーキングブレーキセンサ(車両状態検出手段)
101 入力側部材
102 出力側部材
AT 自動変速機
ath スリップ判定加速度閾値
CL2 第2クラッチ(ドグクラッチ)
Eng エンジン(駆動源)
LT 左駆動輪
RT 右駆動輪
MG モータジェネレータ(駆動源)
MO モータ(駆動源)
Vth スリップ判定速度閾値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に駆動力を与える駆動源と、
この駆動源と前記駆動輪との間に介在されて、前記駆動源から伝達される回転数を変速させて前記駆動輪へ伝達する変速機と、
この変速機と前記駆動源との間に設けられ、駆動力を伝達する噛合状態と、駆動力を伝達しない切断状態とに切換可能なドグクラッチと、
前記駆動輪の回転速度を含む車両状態を検出する車両状態検出手段と、
この車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、前記変速機の変速を制御するとともに、前記変速機の変速中は、前記ドグクラッチを前記切断状態とするとともに、変速終了後に、前記噛合状態とする制御手段と、
を備えた車両のクラッチ制御装置であって、
前記制御手段は、前記駆動輪の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す前記回転速度変化として、駆動輪スリップが生じている状態が含まれることを特徴とする請求項1に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す前記回転速度変化として、悪路など路面に凹凸のある非安定路面走行状態が含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、駆動輪加速度が略一定の場合は、変速制限をキャンセルすることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、駆動輪スリップが生じた場合、駆動輪スリップを抑制するトルク抑制制御を実行し、
前記変速制限判定処理では、前記駆動輪スリップが生じたときに、前記トルク抑制制御により、前記駆動輪スリップが前記変速制限状態に該当しない状態に移行可能と判定した場合は、前記変速制限をキャンセルすることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項6】
前記変速制限判定処理では、前記駆動輪の加速度が、あらかじめ設定されたハンチング閾値を超えた場合に、前記非安定路面走行と判定することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項7】
前記変速機は、相対的に変速比が大きな低ギヤ段と、相対的に変速比が小さな高ギヤ段と、を備え、
前記変速制限判定処理では、前記変速制限時に、前記変速機が低ギヤ段である場合、前記低ギヤ段での許容速度範囲内に速度を制限する速度制限処理を実行することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項8】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態として、制動実行状態が含まれることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項9】
前記変速制限判定処理において、変速制限判定時に、前記ドグクラッチの締結指令から実際に締結するまでに要する締結時間を演算し、前記締結時間に基づいて、前記入力側部材と前記出力側部材との、許容差回転内で締結可能な駆動輪加速度である許容差回転加速度を演算し、実際の駆動輪加速度が前記許容差回転加速度以下であれば、変速を許可する変速禁止緩和処理を実行することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項1】
駆動輪に駆動力を与える駆動源と、
この駆動源と前記駆動輪との間に介在されて、前記駆動源から伝達される回転数を変速させて前記駆動輪へ伝達する変速機と、
この変速機と前記駆動源との間に設けられ、駆動力を伝達する噛合状態と、駆動力を伝達しない切断状態とに切換可能なドグクラッチと、
前記駆動輪の回転速度を含む車両状態を検出する車両状態検出手段と、
この車両状態検出手段が検出する車両状態に応じて、前記変速機の変速を制御するとともに、前記変速機の変速中は、前記ドグクラッチを前記切断状態とするとともに、変速終了後に、前記噛合状態とする制御手段と、
を備えた車両のクラッチ制御装置であって、
前記制御手段は、前記駆動輪の回転速度の変化が、前記ドグクラッチの入力側と出力側との回転速度不一致が生じ得るあらかじめ設定された変速制限状態である場合は、変速を制限する変速制限判定処理を実行することを特徴とする車両のクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す前記回転速度変化として、駆動輪スリップが生じている状態が含まれることを特徴とする請求項1に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す前記回転速度変化として、悪路など路面に凹凸のある非安定路面走行状態が含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態を示す駆動輪スリップが生じた状態において、駆動輪加速度が略一定の場合は、変速制限をキャンセルすることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、駆動輪スリップが生じた場合、駆動輪スリップを抑制するトルク抑制制御を実行し、
前記変速制限判定処理では、前記駆動輪スリップが生じたときに、前記トルク抑制制御により、前記駆動輪スリップが前記変速制限状態に該当しない状態に移行可能と判定した場合は、前記変速制限をキャンセルすることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項6】
前記変速制限判定処理では、前記駆動輪の加速度が、あらかじめ設定されたハンチング閾値を超えた場合に、前記非安定路面走行と判定することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項7】
前記変速機は、相対的に変速比が大きな低ギヤ段と、相対的に変速比が小さな高ギヤ段と、を備え、
前記変速制限判定処理では、前記変速制限時に、前記変速機が低ギヤ段である場合、前記低ギヤ段での許容速度範囲内に速度を制限する速度制限処理を実行することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項8】
前記変速制限判定処理では、前記変速制限状態として、制動実行状態が含まれることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項9】
前記変速制限判定処理において、変速制限判定時に、前記ドグクラッチの締結指令から実際に締結するまでに要する締結時間を演算し、前記締結時間に基づいて、前記入力側部材と前記出力側部材との、許容差回転内で締結可能な駆動輪加速度である許容差回転加速度を演算し、実際の駆動輪加速度が前記許容差回転加速度以下であれば、変速を許可する変速禁止緩和処理を実行することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車両のクラッチ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−185466(P2010−185466A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28054(P2009−28054)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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