説明

車両用制御装置および車両用制御方法

【課題】前後輪の駆動力の配分量を理想的な駆動力の配分量に一致させつつ、モータ内の作動油の温度を上昇させて燃費の悪化を改善する。
【解決手段】ECUは、アクセルペダルの踏み込み量がゼロである場合に(S100にてYES)、実モータ温度と理想モータ温度との偏差を算出するステップ(S102)と、モータの必要発熱量を推定するステップ(S104)と、モータ発熱を要する場合に(S106にてYES)、モータの出力電力あるいは回生電力を算出するステップ(S108)と、オルタネータにおける発電電力あるいは吸収電力を算出するステップ(S110)と、モータおよびオルタネータを制御するステップ(S112)と、駆動力の配分量の目標値との偏差を算出するステップ(S114)と、制動装置を制御するステップ(S116)と、エンジンを制御するステップ(S118)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の駆動輪を駆動する内燃機関と車両の前後方向で異なる位置に設けられる第2の駆動輪を駆動するモータとが搭載された車両の制御に関し、特に、モータの温度が低い場合の車両の駆動力の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、前輪をエンジンにより駆動し、後輪をモータにより駆動する4輪駆動車が公知である。たとえば、特開2007−112195号公報は、モータへの電力供給を、バッテリとジェネレータのどちらかに切換え制御することにより、前輪をエンジンで駆動し後輪をモータで駆動するハイブリッド車両の燃費を向上させるハイブリッド車両のモータ電力供給制御装置を開示する。このハイブリッド車両のモータ電力供給制御装置は、前輪駆動軸と後輪駆動軸の一方を駆動するエンジンと、他方を駆動するモータと、エンジンにより駆動されて発電しモータへ電力供給可能なジェネレータとを備え、エンジンによる2輪駆動モードとエンジンとモータによる4輪駆動モードの切換えが可能なハブリッド車両のモータへの電力供給を制御するモータ電力供給制御装置において、ジェネレータの発電電力が充電可能で充電電力をモータに供給可能なバッテリと、ジェネレータの発電電力をバッテリに充電する際の充電電力量の発電に要した単位充電電力量当たりの燃料消費量を示すバッテリ充電分燃料消費率を演算するバッテリ充電分燃料消費率演算手段と、4輪駆動時の目標モータ出力を実現するために必要な駆動電力をモータに供給する際に、バッテリ充電分燃料消費率に基づいて算出したバッテリ供給時の燃料消費量とエンジン運転状態に基づいて算出したジェネレータ供給時の燃料消費量との比較結果に基づいて、バッテリとジェネレータのうちの燃料消費量の少ない方を電力供給源として選択するモータ電力供給源選択手段と、を備えて構成したことを特徴とする。
【0003】
上述した公報に開示されたハイブリッド車両のモータ電力供給制御装置によると、バッテリを設けてバッテリとジェネレータからモータへ電力供給可能とし、バッテリに蓄えられている充電電力の単位電力量当たりの燃料消費量を示すバッテリ充電分燃料消費率に基づいてモータ駆動電力をバッテリから供給した時の燃料消費量を算出し、このバッテリ供給時の燃料消費量を、モータ駆動電力をジェネレータから供給した時の燃料消費量と比較して、4輪駆動時にモータが必要とする駆動電力を、燃料消費量の少ない方を選択して供給できるよう構成したので、エンジンで駆動する2輪駆動モードとエンジンとモータで駆動する4輪駆動モードの切換えが可能なハブリッド車両の燃費を向上できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、駆動力を発生させるモータ内に貯留される作動油の温度が低い場合は作動油の粘性が高いため、攪拌抵抗の増加により燃費が悪化する場合がある。そのため、モータを作動させることにより生じるジュール熱によりモータの温度を速やかに上昇させて作動油の温度を上昇させる必要がある。
【0006】
しかしながら、モータの作動により発熱させる場合には、内燃機関を動力源とするオルタネータを用いて発電する必要があるため、内燃機関の負荷が増加し、さらに、発電した電力を用いてモータを駆動させるため結果的に車両の前後輪の駆動力に変化が生じる。そのため、前後輪での駆動力の配分量が理想的な駆動力の配分量と一致しないという問題がある。
【0007】
上述した公報に開示されたハイブリッド車両のモータ電力供給制御装置においては、このような問題について何ら考慮されておらず解決することはできない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、前後輪の駆動力の配分量を理想的な駆動力の配分量に一致させつつ、モータ内の作動油の温度を上昇させて燃費の悪化を改善する車両用制御装置および車両用制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る車両用制御装置は、内燃機関と第1の回転電機とを駆動源とする車両に搭載される車両用制御装置である。車両は、内燃機関によって駆動される第1の駆動輪と、内燃機関の動力を用いて発電するための第2の回転電機と、第1の駆動輪とは車両の前後方向に対して異なる位置に設けられ、第2の回転電機によって発電された電力を用いて第1の回転電機によって駆動される第2の駆動輪とを含む。第1の回転電機内には作動油が貯留する。この車両用制御装置は、作動油の温度を推定するための推定手段と、車両の走行状態に基づいて第1および第2の駆動輪に対する駆動力の配分量の目標値を設定するための目標値設定手段と、推定手段によって推定された作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、作動油の温度がしきい値以上である場合よりも第1の回転電機の作動により生じる熱量が増加するように第1および第2の回転電機を制御するための第1の制御手段と、第1の制御手段によって第1および第2の回転電機が作動することにより変動した駆動力の配分量が目標値になるように、第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するための第2の制御手段とを含む。第8の発明に係る車両用制御方法は、第1の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0010】
第1の発明によると、作動油の温度がしきい値よりも低い場合には、作動油の温度がしきい値以上である場合よりも第1の回転電機が作動することにより生じる熱量が増加するように第1および第2の回転電機が制御される。そのため、作動油の温度を速やかに上昇させることができる。その結果、作動油の粘性を低くすることができるため、攪拌抵抗を小さくして、燃費の悪化を改善することができる。さらに、第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御することにより、第1および第2の回転電機が作動することにより変動した駆動力の配分量を目標値に近づけることができる。そのため、前後輪の駆動力の配分量を理想的な駆動力の配分量に一致させつつ、モータ内の作動油の温度を温度を上昇させて燃費の悪化を改善する車両用制御装置および車両用制御方法を提供することができる。
【0011】
第2の発明に係る車両用制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、第2の制御手段は、内燃機関の出力を増減させて駆動力の配分量が目標値になるように第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する。第9の発明に係る車両用制御方法は、第2の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0012】
第2の発明によると、作動油の温度がしきい値よりも低い場合には、第1および第2の回転電機を作動させることにより、前後輪の駆動力の配分量が変動する。そのため、内燃機関の出力を制御することにより、第1の駆動輪の駆動力を増減させて、駆動力の配分量を目標値に近づけることができる。
【0013】
第3の発明に係る車両用制御装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含む。第2の制御手段は、制動装置の制御により制動力を増減させて駆動力の配分量が目標値になるように第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する。第10の発明に係る車両用制御方法は、第3の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0014】
第3の発明によると、作動油の温度がしきい値よりも低い場合には、第1および第2の回転電機を作動させることにより、前後輪の駆動力の配分量が変動する。そのため、制動装置により生じる制動力を制御することにより、第1および第2の駆動輪の駆動力を増減させて、駆動力の配分量を目標値に近づけることができる。
【0015】
第4の発明に係る車両用制御装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含む。第1の制御手段は、作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、第1の回転電機の回生動作を実施するとともに、回生動作により生じた電力が第2の回転電機によって消費されるように第1および第2の回転電機を制御する。第2の制御手段は、第1の制御手段によって実施された第1の回転電機の回生動作による制動力の増加分を制動装置の制御により減少させて駆動力の配分量が目標値になるように第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する。第11の発明に係る車両用制御方法は、第4の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0016】
第4の発明によると、第1の回転電機の回生動作を実施することにより制動力が増加する。そのため、制動装置の制御により制動力の増加分を減少させることにより、駆動力の配分量を目標値に近づけることができる。
【0017】
第5の発明に係る車両用制御装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、前記内燃機関に連結される無段変速機をさらに含む。第2の制御手段は、無段変速機の変速比を増減させて駆動力の配分量が目標値になるように第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する。第12の発明に係る車両用制御方法は、第5の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0018】
第4の発明によると、作動油の温度がしきい値よりも低い場合には、第1および第2の回転電機を作動させることにより、前後輪の駆動力の配分量が変動する。そのため、無段変速機の変速比を制御することにより、第1の駆動輪の駆動力を増減させて、駆動力の配分量を目標値に近づけることができる。
【0019】
第6の発明に係る車両用制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、推定手段は、実測値、第1の回転電機の温度、第1の回転電機を構成する部品の温度および第1の回転電機の作動履歴のうちの少なくともいずれか一つに基づいて作動油の温度を推定する。第13の発明に係る車両用制御方法は、第6の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0020】
第6の発明によると、作動油の温度の実測値、第1の回転電機の温度、第1の回転電機を構成する部品の温度および第1の回転電機の作動履歴のうちの少なくともいずれか一つに基づいて作動油の温度を推定することができるため、第1の回転電機において生じる熱量の増加の要否を判断することができる。
【0021】
第7の発明に係る車両用制御装置においては、第1〜6のいずれかの発明の構成に加えて、第1の制御手段は、作動油の温度が車両の走行状態に基づいて設定される理想温度になるための熱量を生じさせるために第1の回転電機と第2の回転電機との間で授受する必要がある電力を算出するための手段と、算出された電力が第1の回転電機と第2の回転電機との間で授受するように第1および第2の回転電機を制御するための手段とを含む。第14の発明に係る車両用制御方法は、第7の発明に係る車両用制御装置と同様の構成を有する。
【0022】
第7の発明によると、第1の回転電機と第2の回転電機との間で電力が授受されることによりジュール熱が生じて第1の回転電機の温度を上昇させることができる。そのため、作動油の温度が上昇するため、攪拌抵抗が小さくなり燃費の悪化の改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る車両の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る車両用制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図3】本実施の形態に係る車両用制御装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図4】モータ温度の変化と理想温度の変化とを示すタイミングチャートである。
【図5】モータ温度と効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態において、車両10は、エンジン20と、高電圧オルタネータ30と、無段変速機40と、補機バッテリ50と、前輪72と、後輪74と、制動装置76と、後輪駆動装置90と、ECU(Electronic Control Unit)100と、アクセルペダル150と、アクセルポジションセンサ300と、車輪速センサ302と、切換スイッチ304とを含む。なお、車両10は、特に4輪の車両に限定されるものではなく、少なくとも車両の前後方向について異なる位置に設けられる2以上の駆動軸を有する車両であればよい。
【0026】
エンジン20は、第1の駆動輪を駆動させる内燃機関である。本実施の形態において「第1の駆動輪」は、前輪72であるが、後輪74であってもよい。エンジン20は、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよく、特に限定されるものではない。
【0027】
エンジン20には、電子スロットル42が設けられる。電子スロットル42は、スロットルバルブ44と、スロットルモータ(図示せず)と、スロットルポジションセンサ46とを含む。スロットルモータは、ECU100からの制御信号に基づいてスロットルバルブ44の開度(以下、スロットル開度という)を変更する。スロットルポジションセンサ46は、スロットル開度を検出する。スロットルポジションセンサ46は、検出したスロットル開度を示す信号をECU100に送信する。
【0028】
無段変速機40は、エンジン20の出力軸に連結される。無段変速機40は、エンジン20からの動力を変速して前輪72に伝達する。無段変速機40は、ベルト式無段変速機であってもよいし、トロイダル式無段変速機であってもよく、特に限定されるものではない。
【0029】
高電圧オルタネータ30は、エンジン20の動力を用いて発電する回転電機である。高電圧オルタネータ30の発電量は、ECU100により制御される。
【0030】
高電圧オルタネータ30は、発電した電力をDC−DCコンバータ52およびインバータ60に供給する。高電圧オルタネータ30により発電された電力は、DC−DCコンバータ52を用いた補機バッテリ50の充電と、インバータ60を用いたリアモータ80の駆動とに利用される。
【0031】
高電圧オルタネータ30の入力軸には、プーリ32が連結される。プーリ32は、エンジン20の出力軸に連結されたプーリ22とベルト28により連結される。そのため、エンジン20の作動によりプーリ22の回転力は、ベルト28を経由してプーリ32に伝達される。そのため、エンジン20の作動により高電圧オルタネータ30が作動することとなる。なお、高電圧オルタネータ30は、リアモータ80において生じた電力をプーリ32の回転力に変換するなどして吸収(消費)する。
【0032】
補機バッテリ50は、ECU100、モータECU200あるいは車両10に搭載される電気機器等に電力を供給する。補機バッテリ50は、たとえば、12Vのバッテリである。
【0033】
DC−DCコンバータ52は、ECU100からの制御信号に基づいて高電圧オルタネータ30により発電された電力を用いて補機バッテリ50を充電する。
【0034】
後輪駆動装置90は、モータECU200と、インバータ60と、リアモータ80と、トランスアクスル70とを含む。
【0035】
インバータ60は、高電圧オルタネータ30により発電された電力をリアモータ80を作動させる電力の形式に変換してリアモータ80に供給する。たとえば、インバータ60は、高電圧オルタネータ30により発電された直流電力を交流電力に変換してリアモータ80に供給する。インバータ60からリアモータ80に対して供給される電力は、モータECU200により制御される。リアモータ80は、インバータ60から供給される電力により第2の駆動輪を駆動させる。第2の駆動輪は、第1の駆動輪と車両10の前後方向に対して異なる位置に設けられる。本実施の形態において、「第2の駆動輪」は、後輪74であるが前輪72であってもよい。すなわち、リアモータ80の回転力は、トランスアクスル70を経由して後輪74に伝達される。
【0036】
トランスアクスル70は、リアモータ80の出力を後輪74に伝達する。トランスアクスル70は、たとえば、内部に減速機を有しており、リアモータ80の出力を減速して後輪74に伝達する。
【0037】
リアモータ80は、交流電力を用いて駆動する回転電機である。なお、リアモータ80は、直流電力を用いて駆動する回転電機であってもよい。リアモータ80は、インバータ60から電力の供給を受けて駆動したり、後輪74の路面からの反力を用いて回生動作を実施することにより発電したりする。
【0038】
リアモータ80およびトランスアクスル70の内部には、作動油が貯留されており、リアモータ80およびトランスアクスル70の作動により攪拌されて各部に作動油が供給される。
【0039】
制動装置76は、円板形状のブレーキディスク77と、油圧を用いてブレーキディスク77の回転を制限するためのブレーキキャリパ78と、ブレーキキャリパ78に対して油圧を供給するブレーキアクチュエータ79とを含む。
【0040】
ブレーキキャリパ78は、ブレーキディスク77の回転軸方向についての両端面を挟み込むように設けられる。ブレーキキャリパ78は、ブレーキアクチュエータ79から供給される油圧を用いて回転を制限する。ブレーキディスク77の回転が制限されることにより制動力が発生する。
【0041】
ブレーキアクチュエータ79は、ECU100からのブレーキ制御信号に基づいてオイルポンプおよびソレノイドバルブ等を用いて油圧を発生させて、ブレーキキャリパ78に発生した油圧を供給する。
【0042】
なお、ブレーキキャリパ78には、ブレーキアクチュエータ79により発生される油圧が供給されるほか、運転者のブレーキペダル(図示せず)に対する操作力に基づいて発生する油圧が供給される。すなわち、車両10の制動力は、ブレーキアクチュエータ79および/または運転者のブレーキペダルの操作力により発生する。
【0043】
図1は、車両10の後方左側の後輪74に設けられるブレーキディスク77およびブレーキキャリパ78のみを図示しているが、ブレーキディスク77およびブレーキキャリパ78は、車両10の全車輪に設けられるものとする。本実施の形態においては、前輪72および後輪74の各車輪の制動力は、ブレーキアクチュエータ79により独立して制御されるものとして説明するが、少なくとも前後輪の制動力がブレーキアクチュエータ79により独立して制御されればよい。
【0044】
アクセルポジションセンサ300は、アクセルペダル150の踏み込み量を検出する。アクセルポジションセンサ300は、検出したアクセルペダル150の踏み込み量を示す信号をECU100に送信する。
【0045】
車輪速センサ302は、前輪72の車輪速を検出する。車輪速センサ302は、検出した車輪速を示す信号をECU100に送信する。ECU100は、受信した車輪速を示す信号に基づいて車両10の速度を算出する。
【0046】
切換スイッチ304は、運転者が車両10の走行モードを選択するためのスイッチである。本実施の形態において車両10の走行モードとは、エンジン20により前輪72を駆動して、リアモータ80により後輪74を駆動させる4輪駆動走行モード(以下、4WDモードと記載する)と、エンジン20により前輪72を駆動して、リアモータ80を停止して後輪74をフリーの状態とする2輪駆動走行モード(以下、2WDモードと記載する)とを含む。切換スイッチ304は、運転者により走行モードを選択する操作が行なわれると、選択された走行モードに対応する切換信号をECU100に送信する。
【0047】
モータ温度センサ306は、リアモータ80の温度を検出する。モータ温度センサ306は、検出したリアモータ80の温度(以下、実モータ温度と記載する)を示す信号をECU100に送信する。
【0048】
なお、本実施の形態において、モータ温度センサ306により検出されたリアモータ80の温度を作動油の温度として推定するものとして説明する。作動油の温度の推定は、特にリアモータ80の温度の検出により行なわれることに限定されるものではない。作動油の温度の推定は、作動油の温度の実測値、リアモータ80の温度、リアモータ80を構成する部品の温度およびリアモータ80の作動履歴のうちの少なくともいずれか一つに基づいて行なわれればよい。
【0049】
ECU100は、エンジン20、無段変速機40、および、モータECU200を経由してインバータ60等の機器類の作動を制御する。ECU100は、アクセルペダル150の踏み込み量に基づいてスロットル開度、点火時期および燃料噴射量等のエンジン20の制御量を決定し、決定された制御量に対応する制御信号をエンジン20に送信する。
【0050】
ECU100は、車両10の走行状態に応じて、無段変速機40の変速比を制御する。車両10の走行状態とは、たとえば、車両10の速度と、アクセルペダル150の踏み込み量とを含む。ECU100は、車両10の走行状態に基づいて変速比の目標値を決定する。ECU100は、無段変速機40の変速比が決定された変速比の目標値になるように無段変速機40を制御する。
【0051】
さらに、ECU100は、切換スイッチ304からの切換信号に基づいてエンジン20およびリアモータ80により車両10を駆動させたり、エンジン20により車両10を駆動させたりする。
【0052】
具体的には、ECU100は、4WDモードが選択されている場合には、エンジン20を用いて前輪72を駆動し、リアモータ80を用いて後輪74を駆動させるように車両10に搭載された機器類を制御する。また、ECU100は、2WDモードが選択されている場合には、リアモータ80の駆動を停止し、後輪をフリーにした状態で、エンジン20を用いて前輪72を駆動させるように車両10に搭載された機器類を制御する。
【0053】
なお、リアモータ80を用いた後輪74の駆動は、車両10の発進時、予め定められた速度以下あるいは前輪72が空転を開始した場合に行なわれるようにしてもよい。前輪72の空転は、車輪速センサ302により検出される車輪速に基づいて検出すればよい。
【0054】
以上のような構成を有する車両10においては、リアモータ80内に貯留される作動油の温度が低い場合は作動油の粘性が高いため、攪拌抵抗の増加により燃費が悪化する場合がある。そのため、リアモータ80を作動させることにより生じるジュール熱によりリアモータ80の温度を速やかに上昇させて作動油の温度を上昇させる必要がある。
【0055】
しかしながら、リアモータ80の作動により発熱させる場合には、エンジン20を動力源とする高電圧オルタネータ30を用いて発電する必要があるため、エンジン20の負荷が増加し、さらに、発電した電力を用いてリアモータ80を駆動させるため結果的に車両10の前後輪の駆動力に変化が生じる。そのため、前後輪での駆動力の配分量が理想的な駆動力の配分量と一致しない場合がある。
【0056】
そこで、本実施の形態においては、ECU100が、作動油の温度が車両10の走行状態に基づいて設定されるしきい値よりも低い場合に、作動油の温度がしきい値以上である場合よりもリアモータ80の作動により生じる熱量が増加するようにリアモータ80および高電圧オルタネータ30を制御し、リアモータ80および高電圧オルタネータ30の作動により変動した駆動力の配分量が目標値になるように、前輪72および後輪74において生じる駆動力を制御する点に特徴を有する。
【0057】
本実施の形態においては、ECU100は、エンジン20、制動装置76および無段変速機40を制御することにより、前輪72および後輪74において生じる駆動力を制御する。
【0058】
図2に、本実施の形態に係る車両用制御装置であるECU100の機能ブロック図を示す。ECU100は、アクセルポジション判定部102と、温度偏差算出部104と、モータ発熱量推定部106と、発熱要否判定部108と、必要電力算出部110と、オルタ電力算出部112と、モータ・オルタ制御部114と、配分量偏差算出部116と、ブレーキ制御部118と、エンジン制御部120とを含む。
【0059】
アクセルポジション判定部102は、アクセルペダル150の踏み込み量がゼロであるか否かを判定する。アクセルポジション判定部102は、アクセルペダル150の踏み込み量を示すアクセルポジション検出信号に基づいてアクセルペダル150の踏み込み量がゼロであるか否かを判定する。なお、アクセルポジション判定部102は、たとえば、アクセルペダル150の踏み込み量がゼロであると判定すると、アクセルポジション判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0060】
温度偏差算出部104は、実モータ温度と理想モータ温度との差を算出する。理想モータ温度は、リアモータ80内部の作動油の粘性がリアモータ80の作動時に燃費に影響しない程度となる温度であって、車両10の走行状態に応じて設定されるしきい値である。この場合の車両10の走行状態は、たとえば、車両10の速度を含む。
【0061】
本実施の形態においては、温度偏差算出部104は、車両10の速度に基づいて、車両10の速度と理想モータ温度との関係を示すマップ等を用いて理想モータ温度を特定し、特定された理想モータ温度と実モータ温度との差を算出する。車両10の速度と理想モータ温度との関係を示すマップは、実験等により適合される。なお、理想モータ温度は、車両10の走行状態の変化に影響を受けない場合は、予め定められた温度であってもよい。なお、温度偏差算出部104は、たとえば、アクセルポジション判定フラグがオンである場合に、実モータ温度と理想モータ温度との差を算出するようにしてもよい。
【0062】
モータ発熱量推定部106は、温度偏差算出部104において算出された実モータ温度と理想モータ温度との差に基づいてリアモータ80において発生する必要がある熱量を推定する。たとえば、モータ発熱量推定部106は、実モータ温度および理想モータ温度の差と後輪駆動装置90内の作動油の体積とに基づいてリアモータ80において発生する必要がある熱量を推定する。
【0063】
発熱要否判定部108は、実モータ温度と理想モータ温度とに基づいてリアモータ80を発熱させる必要があるか否かを判定する。発熱要否判定部108は、実モータ温度が理想モータ温度(しきい値)よりも低い場合にリアモータ80を発熱させる必要があると判定し、実モータ温度が理想モータ温度以上である場合にリアモータ80を発熱させる必要がないと判定する。なお、発熱要否判定部108は、たとえば、リアモータ80を発熱させる必要があると判定した場合に、発熱判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0064】
必要電力算出部110は、発熱要否判定部108にて、リアモータ80を発熱させる必要があると判定された場合に、推定された熱量だけリアモータ80が発熱するためにリアモータ80と高電圧オルタネータ30との間で授受する必要がある電力を算出する。
【0065】
具体的には、必要電力算出部110は、推定された熱量だけリアモータ80が発熱するために必要となるリアモータ80の出力電力および回生電力のうちの少なくともいずれか一方を算出する。必要電力算出部110は、車両の走行状態に応じて出力電力および回生電力のうちのいずれか一方を算出するようにしてもよいし、両方を算出しておき、車両の走行状態に応じてリアモータ80を駆動させるか、回生させるかを選択するようにしてもよい。この場合の車両の走行状態は、車両10の速度を含む。
【0066】
なお、必要電力算出部110は、たとえば、発熱判定フラグがオンである場合に、モータ発熱量推定部106にて推定された熱量だけリアモータ80が発熱するためにリアモータ80と高電圧オルタネータ30との間で授受する必要がある電力を算出するようにしてもよい。
【0067】
オルタ電力算出部112は、必要電力算出部110において算出された電力に基づいて高電圧オルタネータ30の発電電力および吸収電力のうちの少なくともいずれか一方を算出する。オルタ電力算出部112は、必要電力算出部110においてリアモータ80の出力電力が算出された場合には、算出された出力電力を満足する発電電力を算出し、必要電力算出部110においてリアモータ80の回生電力が算出された場合には、算出された回生電力を吸収し得る吸収電力を算出する。吸収電力とは、高電圧オルタネータ30において消費する電力をいう。
【0068】
モータ・オルタ制御部114は、必要電力算出部110およびオルタ電力算出部112における算出結果に基づいてリアモータ80および高電圧オルタネータ30を制御する。
【0069】
たとえば、モータ・オルタ制御部114は、必要電力算出部110によってリアモータ80の出力電力が算出され、オルタ電力算出部112によって発電電力が算出された場合には、算出された出力電力に基づいてリアモータ80を駆動させるようにモータ制御信号を生成して、生成されたモータ制御信号をモータECU200に送信し、算出された発電電力に基づいて高電圧オルタネータ30を作動させるようにオルタネータ制御信号を生成して、生成されたオルタネータ制御信号を高電圧オルタネータ30に送信する。
【0070】
あるいは、モータ・オルタ制御部114は、必要電力算出部110によってリアモータ80の回生電力が算出され、オルタ電力算出部112によって吸収電力が算出された場合には、算出された回生電力に基づいてリアモータ80において回生動作が実施されるようにモータ制御信号を生成して、生成されたモータ制御信号をモータECU200に送信し、吸収電力に基づいて高電圧オルタネータ30において回生された電力が消費されるようにオルタネータ制御信号を生成して、生成されたオルタネータ制御信号を高電圧オルタネータ30に送信する。
【0071】
配分量偏差算出部116は、リアモータ80および高電圧オルタネータ30において発生するトルクにより変動した駆動力の配分量と、車両の走行状態に応じて設定される前輪72および後輪74に対する駆動力の配分量の目標値との偏差を算出する。ここで、前輪72および後輪74に対する駆動力の配分量とは、前輪72および後輪74のそれぞれにおける駆動力をいい、車両10に要求される全体的な駆動力と前輪72および後輪74に対する駆動力の配分比とに基づいて特定される。なお、配分量偏差算出部116は、前後輪の駆動力の配分量の目標値との偏差の算出に代えて前後輪のトルクの配分量の目標値との偏差を算出するようにしてもよい。
【0072】
配分量偏差算出部116は、車両10が走行中であって、アクセルペダル150の踏み込み量がゼロであるときには、車両10の速度に応じてエンジンブレーキ作動時に対応した駆動力の配分量の目標値を設定する。このとき、駆動力の配分量の目標値は、リアモータ80および高電圧オルタネータ30が作動していない場合を想定して設定される。
【0073】
配分量偏差算出部116は、リアモータ80および高電圧オルタネータ30を作動させる場合の前輪72および後輪74の駆動力の配分量と、車両10の走行状態に基づいて設定される駆動力の配分量の目標値との偏差を算出する。
【0074】
ブレーキ制御部118は、配分量偏差算出部116によって算出された偏差が小さくなるように制動装置76を制御する。ブレーキ制御部118は、ブレーキ制御信号を生成して、ブレーキアクチュエータ79に対して生成したブレーキ制御信号を送信する。
【0075】
ブレーキ制御部118は、たとえば、リアモータ80を駆動させてリアモータ80を発熱させる場合においては、後輪74の制動力を増加させるように制動装置76を制御する。後輪74の制動力を増加させることにより、リアモータ80の作動による後輪74の駆動力の増加が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0076】
さらに、ブレーキ制御部118は、リアモータ80を駆動させる電力を高電圧オルタネータ30を用いて発電させる場合であって、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれた状態である場合には、前輪72の制動力を減少させるように制動装置76を制御する。前輪72の制動力を減少させることにより、高電圧オルタネータ30の作動による前輪72の駆動力の減少が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0077】
あるいは、ブレーキ制御部118は、車両10が走行中であって、アクセルペダル150の踏み込み量がゼロであって、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれた状態である場合には、リアモータ80を回生させてリアモータ80を発熱させる場合においては、後輪74の制動力を減少させるように制動装置76を制御する。後輪74の制動力を減少させることにより、リアモータ80の回生動作による後輪72の駆動力の減少が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0078】
さらに、ブレーキ制御部118は、リアモータ80において回生された電力を高電圧オルタネータ30において消費させる場合においては、前輪72の制動力を増加させるように制動装置76を制御する。前輪72の制動力を増加させることにより、高電圧オルタネータ30の作動による前輪72の駆動力の増加が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0079】
エンジン制御部120は、配分量偏差算出部116によって算出された偏差が小さくなるようにエンジン20の出力を制御する。エンジン制御部120は、エンジン制御信号を生成して、エンジン20に対して生成したエンジン制御信号を送信する。
【0080】
エンジン制御部120は、たとえば、リアモータ80において回生された電力を高電圧オルタネータ30において消費させる場合には、エンジン20の出力を減少させるようにエンジン20を制御する。エンジン20の出力を減少させることにより、高電圧オルタネータ30の作動による前輪72の駆動力の増加が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0081】
あるいは、エンジン制御部120は、たとえば、リアモータ80を駆動させる電力を高電圧オルタネータ30を用いて発電させる場合には、エンジン20の出力を増加させるようにエンジン20を制御する。エンジン20の出力を増加させることにより、高電圧オルタネータ30の作動による前輪72の駆動力の減少が抑制されるため偏差が小さくなる。
【0082】
なお、本実施の形態においては、偏差を小さくするためにエンジン20および制動装置76を制御するとして説明するが、偏差を小さくするためにエンジン20および制動装置76のうちの少なくともいずれか一方を制御するようにしてもよい。
【0083】
本実施の形態において、アクセルポジション判定部102と、温度偏差算出部104と、モータ発熱量推定部106と、発熱要否判定部108と、必要電力算出部110と、オルタ電力算出部112と、モータ・オルタ制御部114と、配分量偏差算出部116と、ブレーキ制御部118と、エンジン制御部120とは、いずれもECU100のCPU(Central Processing Unit)がメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両10に搭載される。
【0084】
図3を参照して、本実施の形態に係る車両用制御装置であるECU100で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0085】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU100は、アクセルペダル150の踏み込み量がゼロであるか否かを判定する。アクセルペダル150の踏み込み量がゼロである場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。
【0086】
S102にて、ECU100は、実モータ温度と理想モータ温度との差を算出する。S104にて、ECU100は、算出された実モータ温度と理想モータ温度との差に基づいてリアモータ80において発熱が必要とされる熱量を推定する。
【0087】
S106にて、ECU100は、リアモータ80において発熱が必要であるか否かを判定する。リアモータ80において発熱が必要である場合(S106にてYES)、処理はS108に移される。もしそうでない場合(S106にてNO)、この処理は終了する。
【0088】
S108にて、ECU100は、リアモータ80の出力電力または回生電力を算出する。S110にて、ECU100は、高電圧オルタネータ30における発電電力または吸収電力を算出する。S112にて、ECU100は、算出された発電電力が発電するように高電圧オルタネータ30を制御し、発電された電力を用いてリアモータ80を駆動させるようにリアモータ80を制御する。あるいは、ECU100は、算出された回生電力が回生するようにリアモータ80を制御し、回生された電力を高電圧オルタネータ30において消費されるように高電圧オルタネータ30を制御する。
【0089】
S114にて、ECU100は、リアモータ80および高電圧オルタネータ30において発生するトルクにより変動した駆動力の配分量と、車両の走行状態に応じて設定される前輪72および後輪74に対する駆動力の配分量の目標値との偏差を算出する。
【0090】
S116にて、ECU100は、算出された偏差に基づいて制動装置76を制御する。S118にて、ECU100は、算出された偏差に基づいてエンジン20の出力を制御する。
【0091】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る車両用制御装置であるECU100の動作について図4および図5を用いて説明する。
【0092】
長時間停車していた車両10が発進した場合を想定する。このとき、リアモータ80の実モータ温度は、外気温に近い温度となる。
【0093】
たとえば、時間T(0)において、車両10の走行中にアクセルペダル150の踏み込み量がゼロになる場合(S100にてYES)、実モータ温度Tbと理想モータ温度Taとの偏差Ta−Tbが算出され(S102)、算出された偏差Ta−Tbに基づいてリアモータ80において必要とされる発熱量が推定される(S104)。
【0094】
実モータ温度Tbが理想モータ温度Taよりも低いため、リアモータ80の発熱が必要であると判定される(S106にてYES)。そのため、リアモータ80の出力電力または回生電力が算出され(S108)、算出された出力電力または回生電力に基づいて高電圧オルタネータ30における発電電力または吸収電力が算出される(S110)。
【0095】
算出されたリアモータ80の出力電力および高電圧オルタネータ30の発電電力またはリアモータ80の回生電力および高電圧オルタネータ30の吸収電力に基づいてリアモータ80および高電圧オルタネータ30が制御される(S112)。
【0096】
そして、リアモータ80および高電圧オルタネータ30において発生するトルクにより変動した駆動力の配分量と、車両の走行状態に応じて設定される前輪72および後輪74に対する駆動力の配分量の目標値との偏差が算出される(S114)。算出された偏差が小さくなるように制動装置76およびエンジン20が制御される(S116,S118)。
【0097】
なお、実モータ温度が理想モータ温度よりも高い場合には、リアモータ80の発熱が必要でないと判定されるため(S106にてNO)、上述したようなリアモータ80、高電圧オルタネータ30、エンジン20および制動装置76の制御は実施されない。
【0098】
このような制御が繰り返し行なわれることにより、図4の細実線に示すように、リアモータ80の実モータ温度は、理想モータ温度と一致するように増加していく。そのため、リアモータ80およびトランスアクスル内部の作動油の粘性が低下することにより攪拌抵抗が低下し、燃費の改善が図れることとなる。
【0099】
一方、図4の太破線に示すように、車両10が2WDモードで発進後にリアモータ80を作動させない場合は、リアモータ80の温度の上昇率は低いため、実モータ温度が理想モータ温度になるまで長時間を要する。図5に示すように、リアモータ80の温度と効率との関係は、比例の関係にある。そのため、たとえば、寒冷地など外気温が低い場合であって、リアモータ80の温度の上昇率が低い場合には、実モータ温度が理想モータ温度になるまでの間、リアモータ80の効率が低下した状態が継続するため、燃費が悪化することとなる。
【0100】
以上のようにして、本実施の形態に係る車両用制御装置によると、作動油の温度がしきい値よりも低い場合には、作動油の温度がしきい値以上である場合よりもリアモータが作動することにより生じる熱量が増加するようにリアモータおよび高電圧オルタネータが制御される。そのため、作動油の温度を速やかに上昇させることができる。その結果、作動油の粘性を低くすることができるため、攪拌抵抗を小さくして、燃費の悪化を改善することができる。
【0101】
さらに、前輪および後輪において生じる駆動力を制御することにより、リアモータおよび高電圧オルタネータが作動することにより生じるトルク偏差を小さくすることができる。そのため、前後輪の駆動力の配分量を理想的な駆動力の配分量に一致させつつ、モータ内の作動油の温度を上昇させて燃費の悪化を改善する車両用制御装置および車両用制御方法を提供することができる。
【0102】
さらに、リアモータおよび高電圧オルタネータの作動により駆動力の配分量に変動が生じるため、エンジンの出力を制御することにより、前輪の駆動力を増加させたり、減少させたりして、変動した駆動力の配分量と目標値との偏差を小さくすることができる。あるいは、制動装置により生じる制動力を制御することにより、前輪の駆動力を増減させたり、後輪の駆動力を増減させたりして、変動した駆動力の配分量と目標値との偏差を小さくすることができる。
【0103】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10 車両、20 エンジン、22,32 プーリ、28 ベルト、30 高電圧オルタネータ、40 無段変速機、42 電子スロットル、44 スロットルバルブ、46 スロットルポジションセンサ、50 補機バッテリ、52 コンバータ、60 インバータ、70 トランスアクスル、72 前輪、74 後輪、76 制動装置、77 ブレーキディスク、78 ブレーキキャリパ、79 ブレーキアクチュエータ、80 リアモータ、90 後輪駆動装置、100 ECU、102 アクセルポジション判定部、104 温度偏差算出部、106 モータ発熱量推定部、108 発熱要否判定部、110 必要電力算出部、112 オルタ電力算出部、114 モータ・オルタ制御部、116 配分量偏差算出部、118 ブレーキ制御部、120 エンジン制御部、150 アクセルペダル、200 モータECU、300 アクセルポジションセンサ、302 車輪速センサ、304 切換スイッチ、モータ温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と第1の回転電機とを駆動源とする車両に搭載される車両用制御装置であって、前記車両は、前記内燃機関によって駆動される第1の駆動輪と、前記内燃機関の動力を用いて発電するための第2の回転電機と、前記第1の駆動輪とは前記車両の前後方向に対して異なる位置に設けられ、前記第2の回転電機によって発電された電力を用いて前記第1の回転電機によって駆動される第2の駆動輪とを含み、前記第1の回転電機内には作動油が貯留し、
前記作動油の温度を推定するための推定手段と、
前記車両の走行状態に基づいて前記第1および前記第2の駆動輪に対する駆動力の配分量の目標値を設定するための目標値設定手段と、
前記推定手段によって推定された前記作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、前記作動油の温度が前記しきい値以上である場合よりも前記第1の回転電機の作動により生じる熱量が増加するように前記第1および第2の回転電機を制御するための第1の制御手段と、
前記第1の制御手段によって前記第1および第2の回転電機が作動することにより変動した前記駆動力の配分量が前記目標値になるように、前記第1および前記第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するための第2の制御手段とを含む、車両用制御装置。
【請求項2】
前記第2の制御手段は、前記内燃機関の出力を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含み、
前記第2の制御手段は、前記制動装置の制御により制動力を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項1または2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含み、
前記第1の制御手段は、前記作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、前記第1の回転電機の回生動作を実施するとともに、前記回生動作により生じた電力が前記第2の回転電機によって消費されるように前記第1および前記第2の回転電機を制御し、
前記第2の制御手段は、前記第1の制御手段によって実施された前記第1の回転電機の回生動作による制動力の増加分を前記制動装置の制御により減少させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項1または2に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記内燃機関に連結される無段変速機をさらに含み、
前記第2の制御手段は、前記無段変速機の変速比を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項1〜4のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記推定手段は、実測値、前記第1の回転電機の温度、前記第1の回転電機を構成する部品の温度および前記第1の回転電機の作動履歴のうちの少なくともいずれか一つに基づいて前記作動油の温度を推定する、請求項1〜5のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記第1の制御手段は、
前記作動油の温度が前記車両の走行状態に基づいて設定される理想温度になるための熱量を生じさせるために前記第1の回転電機と前記第2の回転電機との間で授受する必要がある電力を算出するための手段と、
前記算出された電力が前記第1の回転電機と前記第2の回転電機との間で授受するように前記第1および第2の回転電機を制御するための手段とを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項8】
内燃機関と第1の回転電機とを駆動源とする車両に用いられる車両用制御方法であって、前記車両は、前記内燃機関によって駆動される第1の駆動輪と、前記内燃機関の動力を用いて発電するための第2の回転電機と、前記第1の駆動輪とは前記車両の前後方向に対して異なる位置に設けられ、前記第2の回転電機によって発電された電力を用いて前記第1の回転電機によって駆動される第2の駆動輪とを含み、前記第1の回転電機内には作動油が貯留し、
前記作動油の温度を推定するステップと、
前記車両の走行状態に基づいて前記第1および前記第2の駆動輪に対する駆動力の配分量の目標値を設定するステップと、
前記作動油の温度を推定するステップにて推定された前記作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、前記作動油の温度が前記しきい値以上である場合よりも前記第1の回転電機の作動により生じる熱量が増加するように前記第1および第2の回転電機を制御するステップと、
前記第1および第2の回転電機を制御するステップにて前記第1および第2の回転電機が作動することにより変動した前記駆動力の配分量が前記目標値になるように、前記第1および前記第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するステップとを含む、車両用制御方法。
【請求項9】
前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するステップは、前記内燃機関の出力を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項8に記載の車両用制御方法。
【請求項10】
前記車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含み、
前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するステップは、前記制動装置の制御により制動力を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項8または9に記載の車両用制御方法。
【請求項11】
前記車両は、制動力を発生する制動装置をさらに含み、
前記第1および第2の回転電機を制御するステップは、前記作動油の温度がしきい値よりも低い場合に、前記第1の回転電機の回生動作を実施するとともに、前記回生動作により生じた電力が前記第2の回転電機によって消費されるように前記第1および前記第2の回転電機を制御し、
前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するステップは、前記第1および第2の回転電機を制御するステップにて実施された前記第1の回転電機の回生動作による制動力の増加分を前記制動装置の制御により減少させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第2の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項8または9に記載の車両用制御方法。
【請求項12】
前記車両は、前記内燃機関に連結される無段変速機をさらに含み、
前記第1および第2の駆動輪において生じる駆動力を制御するステップは、前記無段変速機の変速比を増減させて前記駆動力の配分量が前記目標値になるように前記第1の駆動輪において生じる駆動力を制御する、請求項8〜11のいずれかに記載の車両用制御方法。
【請求項13】
前記作動油の温度を推定するステップは、実測値、前記第1の回転電機、前記第1の回転電機を構成する部品の温度および前記第1の回転電機の作動履歴のうちの少なくともいずれか一つに基づいて前記作動油の温度を推定する、請求項8〜12のいずれかに記載の車両用制御方法。
【請求項14】
前記第1および第2の回転電機を制御するステップは、
前記作動油の温度が前記車両の走行状態に基づいて設定される理想温度になるための熱量を生じさせるために前記第1の回転電機と前記第2の回転電機との間で授受する必要がある電力を算出するステップと、
前記算出された電力が前記第1の回転電機と前記第2の回転電機との間で授受するように前記第1および第2の回転電機を制御するステップとを含む、請求項8〜13のいずれかに記載の車両用制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−264901(P2010−264901A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118534(P2009−118534)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】