水ジェット推進艇の失火検出装置
【課題】制御に基づいた失火をエンジン等の異常による失火と誤認することのない水ジェット推進艇の失火検出装置を提供すること。
【解決手段】エンジンの駆動により推進機が作動して推進する水ジェット推進艇に失火検出装置Aを設けた。失火検出装置Aを、電気制御装置50による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射するインジェクタ35と、インジェクタ35からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火プラグと、エンジンに失火が生じたことを検出する酸素センサ51と、失火が発生したことを報知する警告ランプ14bおよびブザー14c等で構成した。そして、失火が電気制御装置50の制御に基づく失火である場合に、警告ランプ14bおよびブザー14cが警告を報知しないようにした。
【解決手段】エンジンの駆動により推進機が作動して推進する水ジェット推進艇に失火検出装置Aを設けた。失火検出装置Aを、電気制御装置50による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射するインジェクタ35と、インジェクタ35からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火プラグと、エンジンに失火が生じたことを検出する酸素センサ51と、失火が発生したことを報知する警告ランプ14bおよびブザー14c等で構成した。そして、失火が電気制御装置50の制御に基づく失火である場合に、警告ランプ14bおよびブザー14cが警告を報知しないようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水ジェット推進艇の中には、エンジンの回転速度が所定の回転速度に達した場合に、所定の失火率でエンジンを失火させる制御を行うことにより、過度の高速回転をしてエンジンに機械的な支障が生じることを防止したものがある(例えば、特許文献1参照)。この水ジェット推進艇では、内燃機関(エンジン)の回転速度が所定の高速回転速度に達する直前の設定回転速度に達したときに、内燃機関の点火時期を遅角させるようにしている。そして、それでも内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度を越えたときには、内燃機関の失火率を、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達する直前の失火率よりも高くするとともに、点火時期を進角させるようにしている。
【0003】
このため、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達しそうになると、内燃機関の回転速度が減少して、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度になることが抑制される。そして、その抑制にもかかわらず、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達してしまうと、失火率を高めることによって、内燃機関の回転速度を効果的に減少させる。これによって、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度を大きく超えることがより確実に防止され、無理な駆動をしてエンジンに支障が生じることが防止される。
【特許文献1】特許第3321007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンにおいては、制御によって意図的に失火を発生させるだけでなく、例えば、点火プラグの損傷や劣化などにより意図しない失火が発生することがある。そして、水ジェット推進艇が備えるエンジンのように、内部に水が浸入する虞が、自動車用エンジン等よりも大きなエンジンでは、意図しない失火が発生する可能性はさらに高くなる。このような意図しない異常失火が発生すると未燃ガスが発生して排気ガスの性状が悪化することがあり、排気管内でアフターファイアが発生することもある。そして、排気管内に触媒を搭載している場合には、アフターファイアの発生によりその触媒が劣化する虞もある。
【0005】
そこで、失火の発生を検出して運転者に警告を発し、さらには、排気ガスの性状悪化や触媒の劣化を最小限に抑えることのできるエンジン制御を行うことが望ましいが、前述した従来の水ジェット推進艇では、異常失火だけでなく、制御に基づいた意図的な失火も生じるため、全ての失火に対して警告を発すると制御による失火であるにもかかわらず運転者がエンジン異常であると誤認してしまう虞がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、その目的は、制御に基づいた失火をエンジン等の異常による失火と誤認することのない水ジェット推進艇の失火検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置の構成上の特徴は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、燃料噴射手段からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、所定の失火条件を満たしたときに点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、エンジンに失火が生じたことを検出する失火検出手段と、失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する失火報知手段と、失火検出手段が検出した失火が失火制御手段の制御に基づく失火である場合に、失火報知手段による報知を禁止する報知禁止手段とを備えたことにある。
【0008】
このように構成した本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置は、エンジンに失火が発生したときに、報知手段がその失火が発生したことを報知するように構成されているが、その失火が失火制御手段の制御に基づく意図的な失火である場合には、その報知が報知禁止手段によって禁止される。このため、異常による失火が発生したときにだけ、報知手段による報知が行われるようになり、運転者が制御による失火をエンジン等に異常が生じたことによる失火と誤認することがなくなる。
【0009】
この場合の報知手段としては、警告ランプやブザー等の視覚や聴覚から報知できる装置を用いることができる。また、失火制御手段の制御による失火は、失火させることがエンジンにとって好ましい所定の失火条件を満たしたときに実行されるもので、この場合には、燃料噴射手段による燃料噴射や点火手段による燃料の点火も停止される。したがって、失火させても、未燃ガスが発生することがなくなり、排気管内で未燃ガスが燃焼する、いわゆるアフターファイアも生じなくなる。また、報知禁止手段は、制御装置が実行するプログラムで構成することができる。
【0010】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置の他の構成上の特徴は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、燃料噴射手段からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、所定の失火条件を満たしたときに点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火がエンジンに生じたことを検出する失火検出手段と、失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する異常失火報知手段とを備えたことことにある。
【0011】
これによると、失火検出手段は、失火制御手段の制御に基づいた失火は検出せず、異常の発生に基づいた失火のみを検出するため、報知手段による報知を禁止するための報知禁止手段を設ける必要がなくなる。すなわち、異常失火報知手段は、失火検出手段がエンジンの異常失火を検出したときに、そのまま失火が発生したことを報知するようになる。この場合、失火制御手段の制御による失火があったときに、その失火が発生したことを報知する制御失火報知手段を設けることもできる。これによると、すべての失火を報知できるとともに、その失火が異常の発生によるものか、制御によるものかを誤認することがなくなる。
【0012】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、失火検出手段を、エンジンの回転速度の変動を検出するエンジン回転変動検出手段で構成し、エンジン回転変動検出手段が検出したエンジン回転速度の変動幅が、予め設定されたエンジン回転速度の変動幅基準値から外れた場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断することにある。
【0013】
この場合のエンジン回転速度の変動幅には、エンジン回転速度増加の変動幅だけでなく、エンジン回転速度低下の変動幅も含む。そして、エンジン回転速度が所定の時間毎の変動幅に基づいて予め設定された変動幅の基準値から外れた場合、すなわち、エンジン回転速度に急激な変動が生じたときに、失火制御手段の制御に基づく失火以外の異常失火が発生していると判断する。この場合の予め設定された変動幅の基準値とは、正常なエンジン回転速度の変動幅として設定した一定の値であってもよいし、更新しながら順次記憶していった値であってもよい。例えば、所定時間当たりのエンジン回転速度の変動幅の平均値を算出して順次その値を更新していくことにより求めた所定幅を有する正常な変動の範囲内であると判断できる値とすることができる。
【0014】
そして、エンジンの回転変動幅がその変動幅の基準値から外れた場合に、エンジン等に異常が発生したことに起因する失火が生じていると判断する。なお、エンジン回転変動検出手段としては、通常、電子制御によって駆動するエンジンに搭載されているクランク軸の回転角を検出するクランク角センサや、エンジンの気筒近傍に設けられピストンの上下動に追従して回転するカムの回転位置を検出するカムポジションセンサ等を用いることができる。これによると、新たな装置を設ける必要がなくなるため部品点数の増加を抑えることができ、さらに、低コスト化、エンジンのコンパクト化および軽量化等が可能になる。
【0015】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、失火検出手段を、エンジンから延びる排気管内に設けられ、エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を停止させることにある。
【0016】
異常による失火が発生すると、未燃ガスが発生するため排気ガスの空燃比が基準値から大幅に狂うが、その際に、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいた燃料の噴射を続けると、燃料噴射量が不適正になり所望のエンジン出力が得られなくなる。すなわち、エンジンが複数の気筒を備えている場合に、一部の気筒の失火により空燃比に異常が生じていても、全気筒の空燃比が異常であると判断してしまうためである。そこで、異常失火と判断された場合には、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行わないことで、燃料噴射量が不適正になることを防ぐことができる。この場合、燃料噴射手段による燃料噴射量は一定になるか、または燃料噴射手段による燃料の噴射は停止される。また、空燃比検出手段としては、酸素センサや排ガスセンサを用いることができる。
【0017】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管を集合部に集合させるとともに、失火検出手段を、各排気管における排気ポートと集合部との間にそれぞれ設けられ、エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0018】
これによると、空燃比検出手段を各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。なお、空燃比に基づく正常な電圧値については、エンジン回転速度、スロットル開度および吸気圧等の値を用いたマップにより予め設定しておくことができる。
【0019】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、失火検出手段を、各気筒に設けられエンジンの振動を検出する振動検出手段で構成し、振動検出手段が検出したエンジンの振動に基づく燃焼信号と、点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、点火信号に対応して発生する燃焼信号の出力値が、予め設定された正常な燃焼信号の出力基準値よりも低い場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0020】
これによると、振動検出手段を各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガス中に未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気管に触媒が設けられている場合には、アフターファイアが生じてその触媒が劣化することを防ぐこともできる。なお、振動検出手段としては、ノックセンサを用いることができ、これによると、エンジンの外壁にノックセンサを取り付けるだけですむため、取り付けに手間がかからず、ノックセンサを取り付けるためのエンジンの加工も最小限ですむ。
【0021】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、失火検出手段を、各気筒に設けられ、各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備えた点火コイルで構成し、点火コイルが検出したイオン電流値に基づく燃焼信号と、点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、点火信号に対する燃焼信号がなかった場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0022】
これによると、イオン電流検出回路を備えた点火コイルを各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガス中に未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気管に触媒が設けられている場合には、アフターファイアが生じてその触媒が劣化することを防ぐこともできる。さらに、点火コイルは、各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出することにより失火の検出を行うため、直接的な検出ができ、点火に対して燃焼が起こったかどうかを確実かつ迅速に判定できる。これによって、失火検出の精度が向上する。
【0023】
また、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒において、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が所定時間内に何度発生しているかを求める失火比率判定手段を設け、失火比率判定手段によって求められた失火比率が、所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0024】
これによると、失火比率が所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、比較的軽微な異常失火においては燃料噴射の停止を行わずにすむ。この結果、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになり、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇の運転フィーリングが悪化することを防止できる。また、失火比率判定手段としては、前述した各失火検出手段と、制御装置が備えるタイマとで構成することができる。
【0025】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管内に触媒を設けるとともに、排気管内における触媒の近傍に触媒の温度を測定する触媒温度センサを設け、触媒温度センサが検出した触媒の温度が予め設定した触媒温度基準値以上である場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0026】
これによると、触媒の温度が触媒温度基準値以上になった場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、触媒の温度が触媒温度基準値以下である触媒の劣化が懸念されない場合には、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになる。これによって、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇の運転フィーリングが悪化することを防止できる。また、触媒温度基準値としては、触媒が高温となって劣化する虞のある温度よりも少し低い温度を設定することが好ましい。また、触媒温度が、触媒が良好に機能する触媒活性温度以上であり、かつ触媒温度基準値未満である場合は、燃料噴射の停止は行わず、運転者への報知のみを行うようにしてもよい。
【0027】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を設け、所定の失火条件を、エンジン回転速度検出手段が検出するエンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度以上になることとしたことにある。
【0028】
水ジェット推進艇においては、ジェットポンプが一時的に空中に露出した場合などにエンジンが過回転状態になる場合があり、このような過回転状態になったときにはエンジンの回転速度を下げるために失火制御が行われる。この一時的な過回転は正常な作動状態において生じるものであり異常発生によるものではない。このため、過回転時に、失火制御手段の制御による失火が発生した場合には、その失火が発生したことを運転者に報知しないことで、運転者が、失火制御手段の制御による失火を異常失火と誤認することを回避できる。
【0029】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、ジェットポンプにより汲み上げられた水をエンジンの冷却水として用いる冷却構造を設けるとともに、冷却水の量を測定する冷却水量測定手段または冷却水の温度を測定する温度測定手段を設け、所定の失火条件を、冷却水量測定手段が測定する冷却水の量が所定の冷却水最低しきい量よりも少ないか、または温度測定手段が測定する冷却水の温度が所定の冷却水最高しきい温度よりも高くなることとしたことにある。
【0030】
エンジンの冷却水を外部から取り込む水ジェット推進艇では、異物の混入などにより、冷却水の流路に詰まりが発生して流路を循環する冷却水の量が少なくなってオーバーヒートが発生する虞がある。また、単に冷却水の温度が上昇してオーバーヒートが発生することもある。したがって、このような場合には、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを運転者に報知しないことで、運転者が、失火制御手段の制御による失火を異常による失火と誤認することを回避できる。また、運転者は、失火制御手段の制御による失火が発生したことでオーバーヒートが発生した虞があることを知ることができ、適切な処置を行うことができる。
【0031】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、水ジェット推進艇が転覆したことを検出する転倒検出手段を設け、所定の失火条件を、転倒検出手段が水ジェット推進艇の転覆を検出することとしたことにある。水ジェット推進艇が転覆した場合には、冷却水の流路からエンジン側に水が浸入することを防止するためにエンジンの駆動を停止させる。このような場合には、運転者は水ジェット推進艇から離脱していると考えられることから、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを報知しないことで、運転者に対する無駄な報知を省略することができる。
【0032】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンを潤滑するための潤滑油の圧力を測定する油圧測定手段を設け、所定の失火条件を、油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなることとしたことにある。油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなったときに、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを報知しないことで、運転者は、その失火が異常による失火でなく、油圧に低下が発生しているためであることを知ることができ、適切な処置を行うことができる。
【0033】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段およびエンジンに備わったスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段を設け、所定の失火条件を、エンジン回転速度検出手段が検出するエンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつスロットル開度検出手段が検出するスロットルバルブの開度が所定のスロットル開度最低しきい値以下になることとしたことにある。
【0034】
このように、エンジンの回転速度がエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつスロットルバルブの開度がスロットル開度最低しきい値以下のとき、すなわち、エンジンが低回転低負荷のときにも、通常、失火制御手段の制御により失火を発生させている。この場合、複数の気筒のうちの一部だけを作動させることで、エンジンが低回転低負荷のときの制御による失火を運転者が異常による失火と誤認することを防止することができる。また、エンジンが低回転低負荷のときに複数の気筒のうちの一部だけを作動させることで燃料の節約ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、同実施形態に係る失火検出装置A(図8参照)を備えた水ジェット推進艇10を示している。この水ジェット推進艇10では、艇体11がデッキ11aとハル11bとで構成されており、その艇体11の上部における中央よりもやや前部側部分に操舵ハンドル12が設けられ、艇体11の上部における中央部にシート13が設けられている。操舵ハンドル12は、艇体11に設けられた操舵軸(図示せず)の上端部に取り付けられており、操舵軸を中心として回転可能になっている。
【0036】
そして、操舵ハンドル12の右側(右舷側)のグリップ12aの近傍には、図3に示したように、スロットルレバー12bが設けられている。スロットルレバー12bは、運転者の操作により、基部を中心として回転してグリップ12a側に移動するようになっており、解放時には、グリップ12aから離れた状態になる。また、スロットルレバー12bの基部側部分には、スロットルレバー12bの操作量を検出するアクセルポジションセンサ12cが設けられている。そして、操舵ハンドル12の中央部には、本発明の失火報知手段を構成するメーター14が設けられている。
【0037】
このメーター14は、図4に示したように、水ジェット推進艇10の航走速度を示す速度計14aやLEDからなる警告ランプ14b等の各表示部および警報を発生するブザー14c(図8参照)等を備えている。さらに、メーター14には、エンジン冷却水の温度を示す水温表示部14d、後述するエンジン20に異常が生じたことを示すエンジン異常表示部14e、エンジン20がエンジンオーバーヒート状態であることを示すオーバーヒート表示部14f、エンジンオイルの油圧が低下したことを示す油圧低下表示部14gおよび後述する触媒45の温度を示す触媒温度表示部14h等が備わっている。
【0038】
艇体11の内部は、前部から中央部にかけて形成されたエンジンルームERと、後部に形成されたポンプルームPRとで構成されている。そして、エンジンルームERには、燃料タンク15、エンジン20、吸気管31等からなる吸気装置30および排気マニホールド41等からなる排気装置40などが設置され、ポンプルームPRには、ジェットポンプ等からなる推進機16などが設置されている。また、エンジンルームER内における前部側には、外部の空気をエンジンルームER内に導くための空気ダクト17が設けられている。この空気ダクト17は、艇体11の上部からエンジンルームERの底部まで上下に延びるように形成され、外部の空気を上端部から吸い込み、下端部からエンジンルームER内に導く構成をとっている。
【0039】
燃料タンク15は、底面が後部よりも前部が高くなった傾斜面に形成された略矩形の容器で構成されており、複数の振動吸収材(図示せず)を介してエンジンルームERの前部側に設置されている。また、燃料タンク15の内部には、燃料ポンプ15a、レギュレータ15bおよびフィルタ15c等が収容された燃料ポンプモジュールが、上面を燃料タンク15から露出させた状態で設置されている。そして、燃料ポンプ15aが駆動すると、燃料タンク15内の燃料は、燃料ポンプモジュール内に吸い込まれ、レギュレータ15bによって圧力が一定になるように調整されたのちに、フィルタ15cによって異物を除去される。そして、燃料ポンプモジュールから延びる燃料配管15d等を通過してエンジン20に送られる。
【0040】
エンジン20は、エンジンルームERの後部側(艇体11内の底部中央)に設置されている。このエンジン20は、図5ないし図7に示したように、4気筒エンジンからなっており、クランク軸21が収容されたクランクケース22の上部にシリンダヘッド23を形成して本体の外郭部が構成されている。このシリンダヘッド23内には、コンロッド24を介してクランク軸21に連結されたピストン25が上下移動可能な状態で収容されており、ピストン25の上下運動がクランク軸21に伝達されて回転運動になる。また、シリンダヘッド23には、1気筒当たりが1個の吸気弁26と1個の排気弁27との2個の弁で構成される各気筒が設けられている。そして、吸気弁26と排気弁27とがタイミングチェーン(図示せず)を介してクランク軸21に連結された吸気カム軸26aと排気カム軸27aによってそれぞれ駆動される。
【0041】
各気筒の吸気弁26に連通する吸気ポート入口26bは、吸気管31等で構成される吸気装置30に接続されている。また、排気弁27に連通する排気ポート出口27bは、4つの小さな排気管を介してシリンダヘッド23の側部に設けられた集合部41aに接続されている。そして、集合部41aは1本の大きな排気マニホールド41になって下流側に延びている。各排気ポート出口27bにそれぞれ接続された4つの小さな排気管と、排気マニホールド41と、後述する排気管42とで本発明に係る排気管が構成される。吸気弁26は、吸気のときに開いて吸気ポート入口26bを介して吸気装置30から供給される空気をシリンダヘッド23内に送り、排気のときに閉じる。排気弁27は、排気のときに開いて排気ポート出口27bを介してシリンダヘッド23から吐出されるガスを集合部41aを介して排気装置40に送り出す。
【0042】
吸気装置30は、シリンダヘッド23に接続された吸気管31と、吸気管31の上流端に接続された吸気チャンバ32と、吸気管31の所定部分に設けられたスロットルボディ33等で構成されている。吸気チャンバ32は、空気ダクト17を介して船外の空気を吸引し、その空気を吸気ダクト(図示せず)を介してスロットルボディ33に送る。スロットルボディ33は、スロットルバルブ34を備えており、スロットルバルブ34の回転によって開閉することにより、シリンダヘッド23内に供給される空気の流量を調節する。すなわち、スロットルバルブ34は、軸部34aを中心として回転する円板体で構成されており、軸部34aはモータ34bの作動によって回転するように構成されている。そして、このスロットルバルブ34の開度の調節は、操舵ハンドル12に設けられたスロットルレバー12bを回転操作することによって行われる。
【0043】
また、エンジン20には、燃料供給装置を介して燃料タンク15から燃料が供給される。この燃料供給装置は、燃料ポンプ15a、本発明の燃料噴射手段としてのインジェクタ35および燃料レール36等で構成され、燃料ポンプ15aの作動によって、燃料タンク15から取り出される燃料は、インジェクタ35によって霧状にされて各気筒内に噴射される。この際、燃料は吸気装置30から供給される空気と混合され混合気となってシリンダヘッド23内に送られる。また、エンジン20は点火コイル37および点火プラグ38を備えた点火装置も備えており、点火コイル37は、点火のタイミングに合わせて電流を点火プラグ38に送る。これによって、点火プラグ38は、放電して混合気を着火して爆発させる。この爆発によって、ピストン25が上下に移動しその移動によってクランク軸21が回転駆動する。
【0044】
エンジン20の後部からはクランク軸21にカップリング21aを介して連結されたインペラ軸16aが後方のポンプルームPR内に延びている。このインペラ軸16aは、艇体11の船尾に設けられた推進機16の内部に設置されたインペラに連結され、エンジン20の駆動によるクランク軸21の回転力をインペラに伝達してインペラを回転させる。このインペラの回転によって、水ジェット推進艇10に推進力が生じる。また、推進機16は、艇体11の底部に開口する水導入口16bと船尾に開口する水噴射口(図示せず)とを備えており、水導入口16bから導入される水をインペラの回転により水噴射口から噴射させることにより艇体11に推進力を生じさせる。
【0045】
また、推進機16における水噴射口の近傍には、前端部の口径がやや大きく後端部の口径がやや小さく設定された筒状のステアリングノズル18が取り付けられ、ステアリングノズル18にボウル形状のリバースゲート19が取り付けられている。ステアリングノズル18は、前端部の上下部分が回転軸を介して推進機16に支持され、回転軸を中心として後部側部分が左右方向に回転可能になっている。このステアリングノズル18は、操舵ハンドル12に接続されており、操舵ハンドル12の操作に連動して回転する。また、リバースゲート19は、ステアリングノズル18に対して上下方向に回転することにより、水ジェット推進艇10の進行方向を前後に切り換える。
【0046】
排気装置40は、エンジン20に接続された屈曲した管からなる排気マニホールド41、排気管42、排気管42の後端部に接続されたタンク状のウォーターロック43等で構成されている。排気マニホールド41は、エンジン20の各気筒における排気弁27側からやや下方に延びて集合部41aで集合しており、その先端部は、排気管42に接続されている。排気管42は、排気マニホールド41との接続部から一旦前方斜め上方に向かって延びている。そして、排気管42の先端側部分は、エンジン20の前方で右舷側から左舷側に向かって延びたのちにエンジン20の斜め上方を通過して後方に向って延びている。
【0047】
そして、排気管42の後端部は、ウォーターロック43の前部に接続されている。また、ウォーターロック43の後部上面からは、排気管(図示せず)が後方に向って延びている。この排気管の上流端部は、ウォーターロック43の上部に連通しており、下流側が一旦上方に延びたのちに下方後部に延びて、下流端部は艇体11の後端下部に開口している。また、図示していないが、排気マニホールド41および排気管42の上流側部分は、二重管で構成されており、内部側部分が、エンジン20から排出される排気ガスを通過させるための排気ガス通路を構成し、外部側部分が、エンジン20等を冷却したのちの冷却水を通過させるための冷却水通路を構成している。
【0048】
冷却水通路は、排気管42の下流側部分で排気ガス通路と合流しており、この合流部で、排気ガス通路を通過する排気ガスと冷却水通路を通過する冷却水とが混合される。冷却水通路を通過する冷却水は、艇体11の底部における後部側部分から取り込まれた海水等の水からなっており、この冷却水は、艇体11内に設置された各冷却水路を通過することによりエンジン20等の各部分を冷却したのちに、冷却水通路を通過して排気ガスとともに外部に放出される。
【0049】
排気マニホールド41および排気管42に設けられた冷却水通路やエンジン20を冷却する冷却水路で本発明に係る冷却構造が構成される。また、排気管42の排気ガス通路内における所定部分には、触媒45が設置されている。触媒45は、ハニカム状に形成された基材の表面を白金などでコーティングして構成され、排気管42内を通過する排気ガスを浄化する。このように構成された排気装置40は、外部の海水等が、エンジン20側に浸入することを防止した状態で、排気ガスを外部に排出する。
【0050】
また、本実施形態に係る失火検出装置Aは、前述した各装置の外に、図8に示した、水ジェット推進艇10が備える各装置を制御する電気制御装置50と、酸素センサ51、燃料圧力センサ52、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58、転倒状態検出センサ59およびノックセンサ61の各センサとを備えている。さらに、水ジェット推進艇10には、スタートスイッチ等の各種のスイッチなど水ジェット推進艇10を走行させるために必要な各種の装置も備えている。
【0051】
また、電気制御装置50は、CPU、ROM、RAMおよびタイマ等を含んでおり、CPUは、ROMに記憶された各種のプログラムやRAMに記憶されたデータ等に基づいて、図8の電気制御装置50内に示した各種の制御や演算を行うとともに、各種のセンサ等が検出した結果をデータとして取り込む。酸素センサ51は、本発明に係る空燃比検出手段を構成するもので、排気マニホールド41の排気ガス通路に設置され排気マニホールド41の排気ガス通路を通る排気ガス中の酸素濃度を検出する。そして、電気制御装置50は、酸素センサ51の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。
【0052】
燃料圧力センサ52は、燃料配管15dに設置され燃料配管15d内を流れる燃料の圧力を検出する。電気制御装置50は、燃料圧力センサ52の検出値に基づいて、燃料圧力が適正値になるように燃料ポンプ15aの駆動制御を行う。スロットルポジションセンサ53は、本発明に係るスロットル開度検出手段を構成するもので、スロットルバルブ34の軸部34aに取り付けられて、軸部34aの回転角度からスロットルバルブ34の開度を検出する。前述したように、スロットルバルブ34の開度の調節は、操舵ハンドル12に設けられたスロットルレバー12bを回転操作することによって行われるため、スロットルポジションセンサ53の検出値から、アクセルポジションセンサ12cが検出するスロットルレバー12bの操作量に対する実際のスロットルバルブ34の開度を知ることができる。
【0053】
また、吸気圧センサ54は、吸気管31に設置され吸気管31内を通る空気の圧力を検出する。そして、電気制御装置50は、スロットルポジションセンサ53の検出値と、吸気圧センサ54の検出値とから吸入空気量を演算する。得られた演算値は、燃料補正制御に利用される。また、クランク角センサ55は、クランク軸21の近傍に設置されてクランク軸21の回転角を検出し、カムポジションセンサ56は、吸気カム軸26aまたは排気カム軸27aの近傍に設置されて、吸気カム軸26aまたは排気カム軸27aの回転角を検出する。このクランク角センサ55とカムポジションセンサ56とで本発明に係るエンジン回転変動検出手段およびエンジン回転速度検出手段が構成される。
【0054】
そして、電気制御装置50は、クランク角センサ55の検出値と、カムポジションセンサ56の検出値とからエンジン回転速度を演算する。この演算値は、エンジン20の回転が過高速回転であるオーバーレボ状態になっているか否かの判定に利用される。サーモセンサ57は、本発明に係る温度測定手段を構成するもので、排気マニホールド41の冷却水通路におけるエンジン20の近傍に設置され排気マニホールド41の冷却水通路を通る冷却水の温度を検出する。この検出値は、エンジン20がオーバーヒート状態になっているか否かの判定に利用される。そして、オーバーヒート状態であれば、メーター14のオーバーヒート表示部14fが点灯する。
【0055】
油圧センサ58は、本発明に係る油圧測定手段を構成するもので、エンジン20のクランクケース22に設けられ、クランクケース22内に設けられた潤滑油流路を流れるエンジンオイルの圧力を検出する。また、転倒状態検出センサ59は、本発明に係る転倒検出手段を構成するもので、エンジン20の近傍に設置され、水ジェット推進艇10が転覆したときにその転倒状態を検出する。ノックセンサ61は、本発明に係る振動検出手段を構成するもので、各気筒にそれぞれ設定されている。このノックセンサ61は、それぞれの気筒に燃焼異常が生じたことを振動により検出する。
【0056】
そして、電気制御装置50は、オーバーレボ状態、オーバーヒート状態、エンジンオイルの油圧が所定値以下に低下した状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当したときに、点火コイル37を制御して点火プラグ38による混合気の点火を停止して失火を発生させる。その際、インジェクタ35からエンジン20への燃料噴射も停止させる。また、エンジン20の回転速度の変動に異常が生じる等、不都合が生じた場合には、電気制御装置50の制御と関係なく失火が発生する。
【0057】
そして、メーター14は、異常による失火が発生したときに電気制御装置50から送信される異常のデータに基づいて警告ランプ14bを点滅させるとともに、ブザー14cを発音させる。また、電気制御装置50のROMには、図9および図10に示したプログラムが書き込まれている。このプログラムは、異常失火が発生したときに、警告ランプ14bを点滅させるとともに、ブザー14cを発音させるためのものである。なお、電気制御装置50は、本発明に係る燃料噴射制御手段や失火制御手段等の制御手段を構成する。
【0058】
以上のように構成された水ジェット推進艇10を航走させるときには、まず、スタートスイッチをオンに操作する。これによって、エンジン20が始動して水ジェット推進艇10は航走可能な状態になる。そして、シート13に座った運転者が操舵ハンドル12を操舵するとともに、スロットルレバー12bを操作することにより水ジェット推進艇10は各操作に応じて所定の方向に所定の速度で航走を開始する。この際、スロットルバルブ34は、アクセルポジションセンサ12cが検出するスロットルレバー12bの操作量に応じた電気制御装置50の制御により、エンジン20を駆動させる。また、航走の際に、エンジン20に異常失火が生じると、図9または図10に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。
【0059】
まず、図9に示したプログラムは、ステップ100において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ102に進んで、エンジン回転速度低下幅を算出する処理が行われる。この処理は、予め、クランク角センサ55の検出値、カムポジションセンサ56の検出値およびスロットルポジションセンサ53の検出値から各スロットル開度毎のエンジン回転速度を演算しておき、この複数の演算値から正常時におけるエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅を算出しておき、このエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅に対する今回のエンジン回転速度の低下幅を算出することにより行う。
【0060】
つぎに、ステップ104において、ステップ102の処理で求めたエンジン回転速度低下幅が、予め記憶されているエンジン回転速度低下幅記憶値と所定の係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。エンジン回転速度低下幅記憶値は、前述したエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅であり、係数は、エンジン回転速度低下幅記憶値との積が、失火が発生していると判断できる値になるようにして設定したばらつきを考慮した任意の数値である。ここで、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ106に進む。
【0061】
ステップ106では、エンジン回転速度低下幅記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、エンジン回転速度低下幅記憶値を算出するための複数の演算値の中に、ステップ102で算出した演算値を加えるとともに、複数の演算値の中から一番古い演算値を削除して新たなエンジン回転速度低下幅記憶値が求められる。そして、この新たなエンジン回転速度低下幅記憶値がRAMに記憶される。そして、プログラムは、ステップ102に進み、以下、ステップ104で「Yes」と判定する間は、前述したステップ102〜106の処理が繰り返される。
【0062】
そして、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも大きくなって、すなわち、エンジン回転速度が急に低下して、ステップ104において「No」と判定すると、プログラムはステップ108に進む。ステップ108においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0063】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50の制御によるものであるため、ステップ108において、「Yes」と判定して、ステップ102に進む。以下、ステップ104において「No」と判定しても、ステップ108において、「Yes」と判定する限り、ステップ102,104,108の処理が繰り返される。この場合、メーター14における失火原因を示す所定の表示部が点灯する。また、ステップ102で読み込んだエンジン回転速度低下幅をエンジン回転速度低下幅記憶値に更新する処理は行われず、前回のプログラム実行の際に、ステップ106で記憶されたエンジン回転速度低下幅記憶値がそのまま記憶されている。
【0064】
そして、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも大きくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ108において「No」と判定すると、ステップ110に進む。ステップ110では、警告を発するための処理、すなわち、電気制御装置50からメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ112において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ114において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ102に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ102〜114の処理が繰り返される。
【0065】
また、図10に示したプログラムでは、失火が発生したときに、その失火が電気制御装置50の制御によるものか異常の発生によるものかの判断を、エンジン回転速度低下幅でなく、エンジン回転速度変動幅に基づいて行う。したがって、ステップ202においては、エンジン回転速度変動幅を算出する処理が行われる。この処理は、予め、クランク角センサ55の検出値およびカムポジションセンサ56の検出値からエンジン回転速度を順次演算し、この複数の演算値からエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅を算出しておき、このエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅に対する今回のエンジン回転速度の変動幅を算出することにより行う。この場合、スロットルポジションセンサ53の検出値は考慮していないが、前述した図9のプログラムのように、スロットルポジションセンサ53の検出値を考慮してエンジン回転速度変動幅を算出してもよい。
【0066】
つぎに、ステップ204において、ステップ202の処理で求めたエンジン回転速度変動幅が、予め記憶されているエンジン回転速度変動幅記憶値と所定の係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。エンジン回転速度変動幅記憶値は、前述したエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅であり、係数は、エンジン回転速度変動幅記憶値との積が、失火が発生していると判断できる値になるようにして設定したばらつきを考慮した任意の数値である。ここで、エンジン回転速度変動幅が、エンジン回転速度変動幅記憶値と係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ206に進む。
【0067】
ステップ206では、エンジン回転速度変動幅記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、エンジン回転速度変動幅記憶値を算出するための複数の演算値の中に、ステップ202で算出した算演値を加えるとともに、複数の演算値の中から一番古い演算値を削除して新たなエンジン回転速度変動幅記憶値が求められる。そして、この新たなエンジン回転速度変動幅記憶値がRAMに記憶される。また、このプログラムにおけるステップ200,208〜214では、前述したプログラムのステップ100,108〜114で行われる処理と同一の処理が行われる。
【0068】
以上のように、本実施形態に係る水ジェット推進艇10の失火検出装置Aでは、エンジン20に失火が発生したときに、警告ランプ14bが点滅し、ブザー14cが警告音を発音するように構成されているが、その失火が電気制御装置50の制御に基づく失火である場合には、警告ランプ14bの点滅や、ブザー14cの発音は行われないように構成されている。すなわち、図9のステップ108および図10のステップ208において「Yes」と判定することにより、本発明に係る報知禁止手段が構成される。このため、運転者が、異常失火が生じたことを確実に知ることができるとともに、制御による失火をエンジン20に異常が生じたことによる失火と誤認することがなくなる。
【0069】
また、電気制御装置50の制御による失火が生じたときには、インジェクタ35による燃料噴射や点火プラグ38による燃料の点火も停止される。このため、制御による失火が生じても、未燃ガスが発生することがなくなり、排気管42内でアフターファイアが生じることもなくなる。また、本実施形態では、失火検出手段を、通常水ジェット推進艇に備わっているクランク角センサ55、カムポジションセンサ56およびスロットルポジションセンサ53で構成したため、失火検出装置Aを構成する新たな部品点数の増加を抑えることができ、低コスト化、エンジン20のコンパクト化および軽量化が可能になる。
【0070】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態に係る失火検出装置Bを示している。この失火検出装置Bでは、前述した失火検出装置Aの酸素センサ51に代えて空燃比センサ62が設けられている。空燃比センサ62は、各気筒から延びる各排気管(集合部41aの上流側部分)にそれぞれ設けてもよいし、前述した酸素センサ51に代えて、排気マニホールド41の排気ガス通路に設置してもよく、排気マニホールド41の排気ガス通路を通る排気ガスから燃料と空気との質量比である空燃比を検出する。この空燃比センサ62としては、例えば、内外面に白金コーティングによる電極を持つジルコニア固体電解質の管からなるセンサを用いることができる。この空燃比センサ62では、酸素分圧の高い方から酸素分圧の低い方に向かって酸素イオンが流れることで電極間の酸素分圧比の対数に比例する起電力が発生する。
【0071】
この起電力による電圧値を測定するとともに、その電圧値が正常な範囲内であるか否かを判断することによって、空燃比の変動を検出できるとともに、失火が発生しているか否かが判断できる。そして、電気制御装置50bは、空燃比センサ62の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。この失火検出装置Bおよび失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0072】
また、失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図12に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。このプログラムは、ステップ300において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ302に進んで、空燃比センサ62が活性化しているか否かの判定が行われる。空燃比センサ62は、所定の温度以下の場合には検出精度が良くないため、所定の温度まで加熱することが好ましく、ここでは、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達し、かつ安定した状態であるか否かの判定が行われる。
【0073】
ここで、空燃比センサ62の温度が所定の温度以下で「No」と判定すると、プログラムはステップ302の処理を繰り返す。そして、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達してステップ302において、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ304に進み、空燃比センサ62の検出に基づく空燃比センサ電圧値のデータを読み取る処理が行われる。ついで、ステップ306において、ステップ304の処理で求めた空燃比センサ電圧値が、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。
【0074】
空燃比センサ電圧記憶値は、クランク角センサ55の検出値、カムポジションセンサ56の検出値、スロットルポジションセンサ53の検出値および吸気圧センサ54の検出値から各エンジン回転速度、各スロットル開度および各吸気圧に対応する空燃比センサ電圧値を算出して記憶したものである。また、下限係数は、空燃比センサ電圧記憶値との積が、空燃比の正常範囲から小さい方に外れていると判断できる値であり、ばらつきを考慮して設定した任意の数値である。上限係数は、空燃比センサ電圧記憶値との積が、空燃比の正常範囲から大きい方に外れていると判断できる値であり、ばらつきを考慮して設定した任意の数値である。
【0075】
ここで、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ308に進む。ステップ308では、空燃比センサ電圧記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、所定のエンジン回転速度、スロットル開度または吸気圧に対する空燃比センサ電圧記憶値がステップ304で読み込んだ空燃比センサ電圧記憶値に更新される。そして、プログラムは、ステップ304に進み、以下、ステップ306で「Yes」と判定する間は、ステップ304〜308の処理が繰り返される。
【0076】
そして、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなって、ステップ306において「No」と判定すると、プログラムはステップ310に進む。ステップ310においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0077】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ310において、「Yes」と判定して、ステップ304に進む。この場合、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50bの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。また、ステップ304で読み込んだ空燃比センサ電圧値は更新されず、前回のプログラム実行の際に、ステップ308で記憶された空燃比センサ電圧値がそのまま空燃比センサ電圧記憶値として記憶されている。また、メーター14における失火原因を示す所定の表示部が点灯する。
【0078】
以下、ステップ306において「No」と判定しても、ステップ310において、「Yes」と判定する限り、ステップ304,306,310の処理が繰り返される。そして、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ310において「No」と判定すると、プログラムは、ステップ312に進む。
【0079】
ステップ312では、電気制御装置50bからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ314において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ316において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ318に進み、空燃比センサ62の搭載状態、すなわち、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。この場合、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられていない状態とは、1個の空燃比センサ62が排気マニホールド41の集合部41a近傍またはその下流側に設けられた状態をいう。
【0080】
空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ318において、「Yes」と判定すると、ステップ320に進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ304に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ318において、「No」と判定すると、ステップ322に進んで、電気制御装置50bによる燃料噴射補正制御をキャンセルする処理が行われる。ここでは、どの気筒に失火が発生しているかが分からないまま、燃料噴射補正制御を継続して間違った燃料噴射補正制御が行われることを防止する。そして、プログラムは、ステップ304に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ304〜322の処理が繰り返される。
【0081】
本実施形態によると、異常失火と判断された場合には、電気制御装置50bによる燃料噴射量補正制御を行わないことで、燃料噴射量が不適正になることを防ぐことができる。また、空燃比センサ62を各気筒から延びる各排気管にそれぞれ設けることにより、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。失火検出装置Bおよび失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の作用効果については、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同様である。
【0082】
(第3実施形態)
図13は、本発明の第3実施形態における失火検出装置Cを示している。この失火検出装置Cでは、前述した失火検出装置Aの酸素センサ51に代えてノックセンサ61が用いられている。ノックセンサ61は、エンジン20の異常燃焼による振動を検出し、この振動を電気信号に変換して電気制御装置50cに送信する。そして、電気制御装置50cは、この電気信号から、ノックセンサ61の電圧値が正常な範囲内であるか否かを判断することによって、ノッキングや失火が発生しているか否かを判定する。
【0083】
さらに、電気制御装置50cは、ノックセンサ61の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。この場合のノックセンサ61は、シリンダヘッド23に1個だけ設けてもよいし、排気マニホールド41における各気筒の排気弁27に連通する4つの排気ポート出口27bにそれぞれ設けてもよい。この失火検出装置Cおよび失火検出装置Cを備えた水ジェット推進艇のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0084】
また、失火検出装置Cを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図14に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。このプログラムは、ステップ400において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ402に進んで、点火コイル37から点火プラグ38に送られる点火信号に異常が発生しているか否かの判定が行われる。これは、本発明に係る点火手段としての点火装置に異常が発生しているか否かを判定するためのステップで、点火装置に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ404に進み、ノックセンサ入力電圧に異常が発生しているか否かの判定が行われる。
【0085】
これは、ノックセンサ61に異常が発生しているか否か、例えば、ノックセンサ61と電気制御装置50cとを接続する配線に断線が生じているか否か等を判定するためのステップで、ノックセンサ61に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ406に進む。ステップ406では、ノックセンサ電圧値が、予め設定されている基準ノック発生判定電圧値よりも大きいか否かの判定が行われる。基準ノック発生判定電圧値は、エンジン20にノッキングが発生していると判定できるノックセンサ61の検出電圧値として予め設定した値である。
【0086】
ここで、ノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも小さく、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ402に進む。そして、点火装置およびノックセンサ61に異常が発生せず、ステップ406で「No」と判定する間は、ステップ402〜406の処理が繰り返される。そして、エンジン20にノッキングが発生してノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも大きくなり、ステップ406において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ408に進む。ステップ408においては、ノックセンサ61の搭載状態、すなわち、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。この場合、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられていない状態とは、1個のノックセンサ61が排気マニホールド41の集合部41aに設けられた状態をいう。
【0087】
ノックセンサ61が各気筒毎に設けられてなく、ステップ408において、「No」と判定すると、ステップ410に進んで、電気制御装置50cからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ412において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ414において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。ついで、プログラムは、ステップ402に進み、以下、前述した処理が繰り返される。
【0088】
また、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ408において、「Yes」と判定すると、ステップ416に進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理、または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ402に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402〜416の処理が繰り返される。また、点火装置に異常が生じていて、ステップ402で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ418に進み、電気制御装置50cからメーター14の所定部分に点火装置に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。
【0089】
この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402,418の処理が繰り返される。また、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ404で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ420に進む。ステップ420では、電気制御装置50cからメーター14の所定部分にノックセンサ61に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402,404,420の処理が繰り返される。
【0090】
本実施形態では、ノックセンサ61を、排気マニホールド41における各気筒の排気弁27に連通する4つの排気ポート出口27bにそれぞれ設けることができ、これによって、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になる。このため、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射を停止させたり、スロットルバルブ34の開度を調整してエンジン20の回転速度を低下させたりして、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気マニホールド41内や排気管42内でアフターファイアが生じて排気マニホールド41に設けた触媒45が劣化することを防ぐこともできる。さらに、ノックセンサ61は、シリンダヘッド23や排気マニホールド41の外壁に取り付けるだけですむため、取り付けに手間がかからず、ノックセンサ61を取り付けるためのエンジン20の加工も最小限ですむ。
【0091】
(第4実施形態)
図15は、本発明の第4実施形態における失火検出装置Dを示している。この失火検出装置Dでは、イオン電流検出回路を備えた本発明に係る点火コイルとしてのイオン電流検出回路付点火コイル37aが設けられているとともに、触媒45の温度を検出するために触媒温度センサ63も設けられている。触媒温度センサ63は、触媒45またはその近傍に設置されている。空燃比センサ62や触媒温度センサ63等は、電気制御装置50dに接続されている。また、この失火検出装置Dおよび失火検出装置Dを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0092】
また、失火検出装置Dを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図16ないし図19に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。まず、図16に示したプログラムは、ステップ500において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ502に進んで、イオン電流検出回路付点火コイル37aが発信するイオン電流波形による燃焼/失火信号を読み込む処理が行われる。このイオン電流検出回路付点火コイル37aは、イオン電流検出回路を備えており、電気制御装置50dは、イオン電流検出回路付点火コイル37aが検出したイオン電流信号を燃焼信号に変換し、点火信号入力後に燃焼信号がなかった場合に失火が生じていると判定する。
【0093】
点火信号入力後に燃焼信号の入力があれば、ステップ504において「Yes」と判定して、プログラムは、ステップ502に進み、以下、失火が発生して燃焼信号がなくなるまで、ステップ502,504の処理が繰り返される。そして、燃焼信号がなくなってステップ504において、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ506に進み、スロットルポジションセンサ53等の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0094】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ506において、「Yes」と判定して、ステップ502に進む。この場合の失火は電気制御装置50dの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。以下、ステップ504において「No」と判定しても、ステップ506において、「Yes」と判定する限り、ステップ502〜506の処理が繰り返される。そして、失火により燃焼信号はなくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ506において「No」と判定すると、プログラムは、図17ないし図19にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンa,b,cのいずれかを実行する。
【0095】
まず、図17に示した異常失火発生時の対処パターンaでは、ステップ508aにおいて、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ510aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ512aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、ステップ514aにおいて、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。
【0096】
さらに、ステップ516aにおいて、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理やエンジン部品を保護するための種々の制御が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。この場合、ステップ514aの処理とステップ516aとの処理は、どちらか一方だけを選択して実行するようにしてもよい。
【0097】
また、図18に示した異常失火発生時の対処パターンbでは、ステップ508bにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上で、触媒温度基準値未満であるか否かの判定が行われる。この触媒温度基準値とは、触媒45に劣化が生じる虞のある所定の高温よりも少し低い温度であり、予め設定した温度である。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上基準値未満であれば、ステップ508bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ510bに進む。
【0098】
ステップ510bにおいては、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われ、続いて、ステップ512bにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ514bにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進む。また、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上基準値未満でなく、ステップ508bにおいて、「No」と判定すると、ステップ516bに進んで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0099】
そして、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であれば、「Yes」と判定して、ステップ518bに進み、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ510bに進み、以下、前述したステップ510b〜514bの処理を行ったのちにステップ502に進む。また、ステップ510bにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以下であれば、「No」と判定して、ステップ502に進む。この場合、異常失火は生じているが、触媒45の温度が触媒45を劣化させるほどのものでないため、警告の報知や、燃料噴射停止等の処理は行わない。そして、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。
【0100】
また、図19に示した異常失火発生時の対処パターンcでは、ステップ508cにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。この失火比率の失火基準値とは、失火が生じる頻度が運転フィーリングを悪化させるものでない範囲で最大に近い値として、予め設定した失火比率の値である。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ508cにおいて、「Yes」と判定して、ステップ510cに進む。ステップ510cにおいては、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われ、続いて、ステップ512cにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ514cにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進む。
【0101】
また、失火比率が失火基準値以上で、ステップ508cにおいて、「No」と判定すると、ステップ516cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ510cに進み、以下、前述したステップ510c〜514cの処理を行ったのちにステップ502に進む。そして、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。
【0102】
本実施形態によると、イオン電流検出回路付点火コイル37aが各気筒毎に設けられているため、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、イオン電流検出回路付点火コイル37aは、イオン電流を検出することにより失火の検出を行うため、点火に対して燃焼が起こったかどうかを確実かつ迅速に判定でき、失火検出の精度が向上する。
【0103】
また、触媒45の温度が触媒温度基準値以上になった場合に、失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、触媒45の劣化が懸念される場合以外は、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになり、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇10の運転フィーリングが悪化することを防止できる。さらに、失火比率が失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止することにより、比較的軽微な異常失火においては燃料噴射の停止を行わずにすむ。
【0104】
(変形例1)
図20ないし図23は、第4実施形態に係る失火検出装置Dを用いて、図12に示したプログラムの変形例を実行するためのフローチャートを示している。このプログラムは、ステップ600において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ602に進んで、空燃比センサ62が活性化しているか否かの判定が行われる。ここで、空燃比センサ62の温度が所定の温度以下で「No」と判定すると、プログラムはステップ602の処理を繰り返す。そして、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達してステップ602において、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ604に進み、空燃比センサ62の検出に基づく空燃比センサ電圧値のデータを読み取る処理が行われる。
【0105】
ついで、ステップ606において、ステップ604の処理で求めた空燃比センサ電圧値が、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。ここで、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ608に進む。ステップ608では、所定のエンジン回転速度、スロットル開度または吸気圧に対する空燃比センサ電圧記憶値がステップ604で読み込んだ空燃比センサ電圧記憶値に更新される。そして、プログラムは、ステップ604に進み、以下、ステップ606で「Yes」と判定する間は、ステップ604〜608の処理が繰り返される。
【0106】
空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなって、ステップ606において「No」と判定すると、プログラムはステップ610に進む。ステップ610においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0107】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ610において、「Yes」と判定して、ステップ604に進む。この場合、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50dの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。また、ステップ604で読み込んだ空燃比センサ電圧値は更新されず、前回のプログラム実行の際に、ステップ608で記憶された空燃比センサ電圧値がそのまま空燃比センサ電圧記憶値として記憶されている。以下、ステップ606において「No」と判定しても、ステップ610において、「Yes」と判定する限り、ステップ604,606,610の処理が繰り返される。
【0108】
そして、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ610において「No」と判定すると、プログラムは、図21ないし図23にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンd,e,fのいずれかを実行する。まず、図21に示した異常失火発生時の対処パターンdでは、ステップ614aにおいて、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ616aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ618aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ620aに進み、空燃比センサ62の搭載状態、すなわち、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。
【0109】
空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ620aにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ622aに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ620aにおいて、「No」と判定すると、ステップ624aに進んで、電気制御装置50dによる燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜624aの処理が繰り返される。
【0110】
また、図22に示した異常失火発生時の対処パターンeでは、ステップ614b〜618bにおいて、対処パターンdのステップ614a〜618aと同一の処理を行い、ステップ620bにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ620bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ604に進む。また、失火比率が失火基準値以上であれば、ステップ622bに進む。ステップ622bでは、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ622bにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ624bに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0111】
そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ622bにおいて、「No」と判定すると、ステップ626bに進んで、燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜626bの処理が繰り返される。
【0112】
また、図23に示した異常失火発生時の対処パターンfでは、ステップ614c〜618cにおいて、対処パターンdのステップ614a〜618aと同一の処理を行い、ステップ620cにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上であるか否かの判定が行われる。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度未満で、ステップ620cにおいて、「No」と判定すると、ステップ604に進む。また、触媒活性温度以上で、ステップ620cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ622cに進む。ステップ622cでは、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0113】
ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上で、ステップ622cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ624cに進む。ステップ624cでは、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ624cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ626cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ624cにおいて、「No」と判定すると、ステップ628cに進んで、燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜628cの処理が繰り返される。
【0114】
(第5実施形態)
図24は、本発明の第5実施形態における失火検出装置Eを示している。この失火検出装置Eには、ノックセンサ61が備わっており、このノックセンサ61は電気制御装置50eに接続されている。この失火検出装置Eおよび失火検出装置Eを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。また、失火検出装置Eを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図25ないし図28に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。
【0115】
図25に示したプログラムは、ステップ700において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ702に進んで、点火コイル37から点火プラグ38に送られる点火信号に異常が発生しているか否かの判定が行われる。点火装置に異常がなく、ステップ702で「No」と判定すると、プログラムはステップ704に進み、ノックセンサ入力電圧に異常が発生しているか否かの判定が行われる。ノックセンサ61に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ706に進む。ステップ706では、ノックセンサ電圧値が、予め設定されている基準ノック発生判定電圧値よりも大きいか否かの判定が行われる。
【0116】
ここで、ノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも小さく、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ702に進む。そして、点火装置およびノックセンサ61に異常が発生せず、ステップ706で「No」と判定する間は、ステップ702〜706の処理が繰り返される。そして、エンジン20にノッキングが発生してノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも大きくなり、ステップ706において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ708に進む。ステップ708においては、図26ないし図28にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンg,h,iのいずれかを実行する。
【0117】
まず、図26に示した異常失火発生時の対処パターンgでは、ステップ710aにおいて、電気制御装置50eからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ712aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ714aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、ステップ716aにおいて、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ716aにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ718aに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0118】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ716aにおいて、「No」と判定すると、ステップ720aに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、点火装置に異常が生じていて、図25のフローチャートにおけるステップ702で「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ726に進み、電気制御装置50eからメーター14の所定部分に点火装置に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。
【0119】
この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702,726の処理が繰り返される。また、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ728に進む。ステップ728では、電気制御装置50eからメーター14の所定部分にノックセンサ61に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702,704,728の処理が繰り返される。
【0120】
また、図27に示した異常失火発生時の対処パターンhでは、ステップ710b〜714bにおいて、対処パターンgのステップ710a〜714aと同一の処理を行い、ステップ716bにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ716bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ702に進む。また、失火比率が失火基準値以上であれば、ステップ718bに進む。ステップ718bでは、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ718bにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ720bに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0121】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ718bにおいて、「No」と判定すると、ステップ722bに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702〜722bの処理が繰り返される。また、この場合も、点火装置に異常が生じていて、ステップ702で「Yes」と判定すると、ステップ726における処理が実行され、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、ステップ728における処理が実行される。
【0122】
また、図28に示した異常失火発生時の対処パターンiでは、ステップ710c〜714cにおいて、対処パターンgのステップ710a〜714aと同一の処理を行い、ステップ716cにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上であるか否かの判定が行われる。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度未満で、ステップ716cにおいて、「No」と判定すると、ステップ702に進む。また、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上で、ステップ716cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ718cに進む。ステップ718cでは、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0123】
ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上で、ステップ718cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ720cに進む。ステップ720cでは、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ720cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ722cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられてなく、ステップ720cにおいて、「No」と判定すると、ステップ724cに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。
【0124】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702〜724cの処理が繰り返される。また、この場合も、点火装置に異常が生じていて、ステップ702で「Yes」と判定すると、ステップ726における処理が実行され、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、ステップ728における処理が実行される。この実施形態においても、前述した第4実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0125】
また、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置は、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態では、異常失火が発生したときに、警告ランプ14bを点滅させる処理と、ブザー14cに警告音を発音させる処理との双方の処理を実行しているが、この処理は一方だけにしてもよい。さらに、警告ランプ14bやブザー14c以外の報知手段を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の失火検出装置を備えた水ジェット推進艇を示した側面図である。
【図2】図1に示した水ジェット推進艇の平面図である。
【図3】失火検出装置を示した概略構成図である。
【図4】メーターを示した正面図である。
【図5】エンジンにおける右舷側の側面を示した側面図である。
【図6】スロットルバルブを示した平面図である。
【図7】エンジンおよびその周辺部分を示した断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図9】エンジン回転速度低下幅に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図10】エンジン回転速度変動幅に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図12】空燃比センサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図13】本発明の第3実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図14】ノックセンサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図15】本発明の第4実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図16】点火信号に基づいて異常失火であるか否かを判定するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図17】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図18】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図19】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図20】空燃比センサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図21】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図22】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図23】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図24】本発明の第5実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図25】ノックセンサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図26】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図27】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図28】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0127】
10…水ジェット推進艇、14…メーター、14c…ブザー、14b…警告ランプ、16…推進機、20…エンジン、26…吸気弁、27b…排気ポート出口、27…排気弁、34…スロットルバルブ、35…インジェクタ、37a…イオン電流検出回路付点火コイル、38…点火プラグ、41…排気マニホールド、41a…集合部、45…触媒、50,50b,50c,50d,50e…電気制御装置、51…酸素センサ、52…燃料圧力センサ、53…スロットルポジションセンサ、54…吸気圧センサ、55…クランク角センサ、56…カムポジションセンサ、57…サーモセンサ、58…油圧センサ、59…転倒状態検出センサ、61…ノックセンサ、62…空燃比センサ、63…触媒温度センサ、A,B,C,D,E…失火検出装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水ジェット推進艇の中には、エンジンの回転速度が所定の回転速度に達した場合に、所定の失火率でエンジンを失火させる制御を行うことにより、過度の高速回転をしてエンジンに機械的な支障が生じることを防止したものがある(例えば、特許文献1参照)。この水ジェット推進艇では、内燃機関(エンジン)の回転速度が所定の高速回転速度に達する直前の設定回転速度に達したときに、内燃機関の点火時期を遅角させるようにしている。そして、それでも内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度を越えたときには、内燃機関の失火率を、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達する直前の失火率よりも高くするとともに、点火時期を進角させるようにしている。
【0003】
このため、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達しそうになると、内燃機関の回転速度が減少して、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度になることが抑制される。そして、その抑制にもかかわらず、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度に達してしまうと、失火率を高めることによって、内燃機関の回転速度を効果的に減少させる。これによって、内燃機関の回転速度が所定の高速回転速度を大きく超えることがより確実に防止され、無理な駆動をしてエンジンに支障が生じることが防止される。
【特許文献1】特許第3321007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンにおいては、制御によって意図的に失火を発生させるだけでなく、例えば、点火プラグの損傷や劣化などにより意図しない失火が発生することがある。そして、水ジェット推進艇が備えるエンジンのように、内部に水が浸入する虞が、自動車用エンジン等よりも大きなエンジンでは、意図しない失火が発生する可能性はさらに高くなる。このような意図しない異常失火が発生すると未燃ガスが発生して排気ガスの性状が悪化することがあり、排気管内でアフターファイアが発生することもある。そして、排気管内に触媒を搭載している場合には、アフターファイアの発生によりその触媒が劣化する虞もある。
【0005】
そこで、失火の発生を検出して運転者に警告を発し、さらには、排気ガスの性状悪化や触媒の劣化を最小限に抑えることのできるエンジン制御を行うことが望ましいが、前述した従来の水ジェット推進艇では、異常失火だけでなく、制御に基づいた意図的な失火も生じるため、全ての失火に対して警告を発すると制御による失火であるにもかかわらず運転者がエンジン異常であると誤認してしまう虞がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、その目的は、制御に基づいた失火をエンジン等の異常による失火と誤認することのない水ジェット推進艇の失火検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置の構成上の特徴は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、燃料噴射手段からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、所定の失火条件を満たしたときに点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、エンジンに失火が生じたことを検出する失火検出手段と、失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する失火報知手段と、失火検出手段が検出した失火が失火制御手段の制御に基づく失火である場合に、失火報知手段による報知を禁止する報知禁止手段とを備えたことにある。
【0008】
このように構成した本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置は、エンジンに失火が発生したときに、報知手段がその失火が発生したことを報知するように構成されているが、その失火が失火制御手段の制御に基づく意図的な失火である場合には、その報知が報知禁止手段によって禁止される。このため、異常による失火が発生したときにだけ、報知手段による報知が行われるようになり、運転者が制御による失火をエンジン等に異常が生じたことによる失火と誤認することがなくなる。
【0009】
この場合の報知手段としては、警告ランプやブザー等の視覚や聴覚から報知できる装置を用いることができる。また、失火制御手段の制御による失火は、失火させることがエンジンにとって好ましい所定の失火条件を満たしたときに実行されるもので、この場合には、燃料噴射手段による燃料噴射や点火手段による燃料の点火も停止される。したがって、失火させても、未燃ガスが発生することがなくなり、排気管内で未燃ガスが燃焼する、いわゆるアフターファイアも生じなくなる。また、報知禁止手段は、制御装置が実行するプログラムで構成することができる。
【0010】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置の他の構成上の特徴は、エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいてエンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、燃料噴射手段からエンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、所定の失火条件を満たしたときに点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火がエンジンに生じたことを検出する失火検出手段と、失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する異常失火報知手段とを備えたことことにある。
【0011】
これによると、失火検出手段は、失火制御手段の制御に基づいた失火は検出せず、異常の発生に基づいた失火のみを検出するため、報知手段による報知を禁止するための報知禁止手段を設ける必要がなくなる。すなわち、異常失火報知手段は、失火検出手段がエンジンの異常失火を検出したときに、そのまま失火が発生したことを報知するようになる。この場合、失火制御手段の制御による失火があったときに、その失火が発生したことを報知する制御失火報知手段を設けることもできる。これによると、すべての失火を報知できるとともに、その失火が異常の発生によるものか、制御によるものかを誤認することがなくなる。
【0012】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、失火検出手段を、エンジンの回転速度の変動を検出するエンジン回転変動検出手段で構成し、エンジン回転変動検出手段が検出したエンジン回転速度の変動幅が、予め設定されたエンジン回転速度の変動幅基準値から外れた場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断することにある。
【0013】
この場合のエンジン回転速度の変動幅には、エンジン回転速度増加の変動幅だけでなく、エンジン回転速度低下の変動幅も含む。そして、エンジン回転速度が所定の時間毎の変動幅に基づいて予め設定された変動幅の基準値から外れた場合、すなわち、エンジン回転速度に急激な変動が生じたときに、失火制御手段の制御に基づく失火以外の異常失火が発生していると判断する。この場合の予め設定された変動幅の基準値とは、正常なエンジン回転速度の変動幅として設定した一定の値であってもよいし、更新しながら順次記憶していった値であってもよい。例えば、所定時間当たりのエンジン回転速度の変動幅の平均値を算出して順次その値を更新していくことにより求めた所定幅を有する正常な変動の範囲内であると判断できる値とすることができる。
【0014】
そして、エンジンの回転変動幅がその変動幅の基準値から外れた場合に、エンジン等に異常が発生したことに起因する失火が生じていると判断する。なお、エンジン回転変動検出手段としては、通常、電子制御によって駆動するエンジンに搭載されているクランク軸の回転角を検出するクランク角センサや、エンジンの気筒近傍に設けられピストンの上下動に追従して回転するカムの回転位置を検出するカムポジションセンサ等を用いることができる。これによると、新たな装置を設ける必要がなくなるため部品点数の増加を抑えることができ、さらに、低コスト化、エンジンのコンパクト化および軽量化等が可能になる。
【0015】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、失火検出手段を、エンジンから延びる排気管内に設けられ、エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を停止させることにある。
【0016】
異常による失火が発生すると、未燃ガスが発生するため排気ガスの空燃比が基準値から大幅に狂うが、その際に、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいた燃料の噴射を続けると、燃料噴射量が不適正になり所望のエンジン出力が得られなくなる。すなわち、エンジンが複数の気筒を備えている場合に、一部の気筒の失火により空燃比に異常が生じていても、全気筒の空燃比が異常であると判断してしまうためである。そこで、異常失火と判断された場合には、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行わないことで、燃料噴射量が不適正になることを防ぐことができる。この場合、燃料噴射手段による燃料噴射量は一定になるか、または燃料噴射手段による燃料の噴射は停止される。また、空燃比検出手段としては、酸素センサや排ガスセンサを用いることができる。
【0017】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管を集合部に集合させるとともに、失火検出手段を、各排気管における排気ポートと集合部との間にそれぞれ設けられ、エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0018】
これによると、空燃比検出手段を各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。なお、空燃比に基づく正常な電圧値については、エンジン回転速度、スロットル開度および吸気圧等の値を用いたマップにより予め設定しておくことができる。
【0019】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、失火検出手段を、各気筒に設けられエンジンの振動を検出する振動検出手段で構成し、振動検出手段が検出したエンジンの振動に基づく燃焼信号と、点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、点火信号に対応して発生する燃焼信号の出力値が、予め設定された正常な燃焼信号の出力基準値よりも低い場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0020】
これによると、振動検出手段を各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガス中に未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気管に触媒が設けられている場合には、アフターファイアが生じてその触媒が劣化することを防ぐこともできる。なお、振動検出手段としては、ノックセンサを用いることができ、これによると、エンジンの外壁にノックセンサを取り付けるだけですむため、取り付けに手間がかからず、ノックセンサを取り付けるためのエンジンの加工も最小限ですむ。
【0021】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、失火検出手段を、各気筒に設けられ、各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備えた点火コイルで構成し、点火コイルが検出したイオン電流値に基づく燃焼信号と、点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、点火信号に対する燃焼信号がなかった場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0022】
これによると、イオン電流検出回路を備えた点火コイルを各気筒から延びる各排気管毎に設けたので、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガス中に未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気管に触媒が設けられている場合には、アフターファイアが生じてその触媒が劣化することを防ぐこともできる。さらに、点火コイルは、各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出することにより失火の検出を行うため、直接的な検出ができ、点火に対して燃焼が起こったかどうかを確実かつ迅速に判定できる。これによって、失火検出の精度が向上する。
【0023】
また、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒において、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が所定時間内に何度発生しているかを求める失火比率判定手段を設け、失火比率判定手段によって求められた失火比率が、所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0024】
これによると、失火比率が所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、比較的軽微な異常失火においては燃料噴射の停止を行わずにすむ。この結果、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになり、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇の運転フィーリングが悪化することを防止できる。また、失火比率判定手段としては、前述した各失火検出手段と、制御装置が備えるタイマとで構成することができる。
【0025】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管内に触媒を設けるとともに、排気管内における触媒の近傍に触媒の温度を測定する触媒温度センサを設け、触媒温度センサが検出した触媒の温度が予め設定した触媒温度基準値以上である場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止することにある。
【0026】
これによると、触媒の温度が触媒温度基準値以上になった場合に、失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、触媒の温度が触媒温度基準値以下である触媒の劣化が懸念されない場合には、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになる。これによって、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇の運転フィーリングが悪化することを防止できる。また、触媒温度基準値としては、触媒が高温となって劣化する虞のある温度よりも少し低い温度を設定することが好ましい。また、触媒温度が、触媒が良好に機能する触媒活性温度以上であり、かつ触媒温度基準値未満である場合は、燃料噴射の停止は行わず、運転者への報知のみを行うようにしてもよい。
【0027】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を設け、所定の失火条件を、エンジン回転速度検出手段が検出するエンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度以上になることとしたことにある。
【0028】
水ジェット推進艇においては、ジェットポンプが一時的に空中に露出した場合などにエンジンが過回転状態になる場合があり、このような過回転状態になったときにはエンジンの回転速度を下げるために失火制御が行われる。この一時的な過回転は正常な作動状態において生じるものであり異常発生によるものではない。このため、過回転時に、失火制御手段の制御による失火が発生した場合には、その失火が発生したことを運転者に報知しないことで、運転者が、失火制御手段の制御による失火を異常失火と誤認することを回避できる。
【0029】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、ジェットポンプにより汲み上げられた水をエンジンの冷却水として用いる冷却構造を設けるとともに、冷却水の量を測定する冷却水量測定手段または冷却水の温度を測定する温度測定手段を設け、所定の失火条件を、冷却水量測定手段が測定する冷却水の量が所定の冷却水最低しきい量よりも少ないか、または温度測定手段が測定する冷却水の温度が所定の冷却水最高しきい温度よりも高くなることとしたことにある。
【0030】
エンジンの冷却水を外部から取り込む水ジェット推進艇では、異物の混入などにより、冷却水の流路に詰まりが発生して流路を循環する冷却水の量が少なくなってオーバーヒートが発生する虞がある。また、単に冷却水の温度が上昇してオーバーヒートが発生することもある。したがって、このような場合には、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを運転者に報知しないことで、運転者が、失火制御手段の制御による失火を異常による失火と誤認することを回避できる。また、運転者は、失火制御手段の制御による失火が発生したことでオーバーヒートが発生した虞があることを知ることができ、適切な処置を行うことができる。
【0031】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、水ジェット推進艇が転覆したことを検出する転倒検出手段を設け、所定の失火条件を、転倒検出手段が水ジェット推進艇の転覆を検出することとしたことにある。水ジェット推進艇が転覆した場合には、冷却水の流路からエンジン側に水が浸入することを防止するためにエンジンの駆動を停止させる。このような場合には、運転者は水ジェット推進艇から離脱していると考えられることから、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを報知しないことで、運転者に対する無駄な報知を省略することができる。
【0032】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンを潤滑するための潤滑油の圧力を測定する油圧測定手段を設け、所定の失火条件を、油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなることとしたことにある。油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなったときに、失火制御手段の制御により失火が発生しても、失火が発生したことを報知しないことで、運転者は、その失火が異常による失火でなく、油圧に低下が発生しているためであることを知ることができ、適切な処置を行うことができる。
【0033】
本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置のさらに他の構成上の特徴は、水ジェット推進艇に、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段およびエンジンに備わったスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段を設け、所定の失火条件を、エンジン回転速度検出手段が検出するエンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつスロットル開度検出手段が検出するスロットルバルブの開度が所定のスロットル開度最低しきい値以下になることとしたことにある。
【0034】
このように、エンジンの回転速度がエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつスロットルバルブの開度がスロットル開度最低しきい値以下のとき、すなわち、エンジンが低回転低負荷のときにも、通常、失火制御手段の制御により失火を発生させている。この場合、複数の気筒のうちの一部だけを作動させることで、エンジンが低回転低負荷のときの制御による失火を運転者が異常による失火と誤認することを防止することができる。また、エンジンが低回転低負荷のときに複数の気筒のうちの一部だけを作動させることで燃料の節約ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、同実施形態に係る失火検出装置A(図8参照)を備えた水ジェット推進艇10を示している。この水ジェット推進艇10では、艇体11がデッキ11aとハル11bとで構成されており、その艇体11の上部における中央よりもやや前部側部分に操舵ハンドル12が設けられ、艇体11の上部における中央部にシート13が設けられている。操舵ハンドル12は、艇体11に設けられた操舵軸(図示せず)の上端部に取り付けられており、操舵軸を中心として回転可能になっている。
【0036】
そして、操舵ハンドル12の右側(右舷側)のグリップ12aの近傍には、図3に示したように、スロットルレバー12bが設けられている。スロットルレバー12bは、運転者の操作により、基部を中心として回転してグリップ12a側に移動するようになっており、解放時には、グリップ12aから離れた状態になる。また、スロットルレバー12bの基部側部分には、スロットルレバー12bの操作量を検出するアクセルポジションセンサ12cが設けられている。そして、操舵ハンドル12の中央部には、本発明の失火報知手段を構成するメーター14が設けられている。
【0037】
このメーター14は、図4に示したように、水ジェット推進艇10の航走速度を示す速度計14aやLEDからなる警告ランプ14b等の各表示部および警報を発生するブザー14c(図8参照)等を備えている。さらに、メーター14には、エンジン冷却水の温度を示す水温表示部14d、後述するエンジン20に異常が生じたことを示すエンジン異常表示部14e、エンジン20がエンジンオーバーヒート状態であることを示すオーバーヒート表示部14f、エンジンオイルの油圧が低下したことを示す油圧低下表示部14gおよび後述する触媒45の温度を示す触媒温度表示部14h等が備わっている。
【0038】
艇体11の内部は、前部から中央部にかけて形成されたエンジンルームERと、後部に形成されたポンプルームPRとで構成されている。そして、エンジンルームERには、燃料タンク15、エンジン20、吸気管31等からなる吸気装置30および排気マニホールド41等からなる排気装置40などが設置され、ポンプルームPRには、ジェットポンプ等からなる推進機16などが設置されている。また、エンジンルームER内における前部側には、外部の空気をエンジンルームER内に導くための空気ダクト17が設けられている。この空気ダクト17は、艇体11の上部からエンジンルームERの底部まで上下に延びるように形成され、外部の空気を上端部から吸い込み、下端部からエンジンルームER内に導く構成をとっている。
【0039】
燃料タンク15は、底面が後部よりも前部が高くなった傾斜面に形成された略矩形の容器で構成されており、複数の振動吸収材(図示せず)を介してエンジンルームERの前部側に設置されている。また、燃料タンク15の内部には、燃料ポンプ15a、レギュレータ15bおよびフィルタ15c等が収容された燃料ポンプモジュールが、上面を燃料タンク15から露出させた状態で設置されている。そして、燃料ポンプ15aが駆動すると、燃料タンク15内の燃料は、燃料ポンプモジュール内に吸い込まれ、レギュレータ15bによって圧力が一定になるように調整されたのちに、フィルタ15cによって異物を除去される。そして、燃料ポンプモジュールから延びる燃料配管15d等を通過してエンジン20に送られる。
【0040】
エンジン20は、エンジンルームERの後部側(艇体11内の底部中央)に設置されている。このエンジン20は、図5ないし図7に示したように、4気筒エンジンからなっており、クランク軸21が収容されたクランクケース22の上部にシリンダヘッド23を形成して本体の外郭部が構成されている。このシリンダヘッド23内には、コンロッド24を介してクランク軸21に連結されたピストン25が上下移動可能な状態で収容されており、ピストン25の上下運動がクランク軸21に伝達されて回転運動になる。また、シリンダヘッド23には、1気筒当たりが1個の吸気弁26と1個の排気弁27との2個の弁で構成される各気筒が設けられている。そして、吸気弁26と排気弁27とがタイミングチェーン(図示せず)を介してクランク軸21に連結された吸気カム軸26aと排気カム軸27aによってそれぞれ駆動される。
【0041】
各気筒の吸気弁26に連通する吸気ポート入口26bは、吸気管31等で構成される吸気装置30に接続されている。また、排気弁27に連通する排気ポート出口27bは、4つの小さな排気管を介してシリンダヘッド23の側部に設けられた集合部41aに接続されている。そして、集合部41aは1本の大きな排気マニホールド41になって下流側に延びている。各排気ポート出口27bにそれぞれ接続された4つの小さな排気管と、排気マニホールド41と、後述する排気管42とで本発明に係る排気管が構成される。吸気弁26は、吸気のときに開いて吸気ポート入口26bを介して吸気装置30から供給される空気をシリンダヘッド23内に送り、排気のときに閉じる。排気弁27は、排気のときに開いて排気ポート出口27bを介してシリンダヘッド23から吐出されるガスを集合部41aを介して排気装置40に送り出す。
【0042】
吸気装置30は、シリンダヘッド23に接続された吸気管31と、吸気管31の上流端に接続された吸気チャンバ32と、吸気管31の所定部分に設けられたスロットルボディ33等で構成されている。吸気チャンバ32は、空気ダクト17を介して船外の空気を吸引し、その空気を吸気ダクト(図示せず)を介してスロットルボディ33に送る。スロットルボディ33は、スロットルバルブ34を備えており、スロットルバルブ34の回転によって開閉することにより、シリンダヘッド23内に供給される空気の流量を調節する。すなわち、スロットルバルブ34は、軸部34aを中心として回転する円板体で構成されており、軸部34aはモータ34bの作動によって回転するように構成されている。そして、このスロットルバルブ34の開度の調節は、操舵ハンドル12に設けられたスロットルレバー12bを回転操作することによって行われる。
【0043】
また、エンジン20には、燃料供給装置を介して燃料タンク15から燃料が供給される。この燃料供給装置は、燃料ポンプ15a、本発明の燃料噴射手段としてのインジェクタ35および燃料レール36等で構成され、燃料ポンプ15aの作動によって、燃料タンク15から取り出される燃料は、インジェクタ35によって霧状にされて各気筒内に噴射される。この際、燃料は吸気装置30から供給される空気と混合され混合気となってシリンダヘッド23内に送られる。また、エンジン20は点火コイル37および点火プラグ38を備えた点火装置も備えており、点火コイル37は、点火のタイミングに合わせて電流を点火プラグ38に送る。これによって、点火プラグ38は、放電して混合気を着火して爆発させる。この爆発によって、ピストン25が上下に移動しその移動によってクランク軸21が回転駆動する。
【0044】
エンジン20の後部からはクランク軸21にカップリング21aを介して連結されたインペラ軸16aが後方のポンプルームPR内に延びている。このインペラ軸16aは、艇体11の船尾に設けられた推進機16の内部に設置されたインペラに連結され、エンジン20の駆動によるクランク軸21の回転力をインペラに伝達してインペラを回転させる。このインペラの回転によって、水ジェット推進艇10に推進力が生じる。また、推進機16は、艇体11の底部に開口する水導入口16bと船尾に開口する水噴射口(図示せず)とを備えており、水導入口16bから導入される水をインペラの回転により水噴射口から噴射させることにより艇体11に推進力を生じさせる。
【0045】
また、推進機16における水噴射口の近傍には、前端部の口径がやや大きく後端部の口径がやや小さく設定された筒状のステアリングノズル18が取り付けられ、ステアリングノズル18にボウル形状のリバースゲート19が取り付けられている。ステアリングノズル18は、前端部の上下部分が回転軸を介して推進機16に支持され、回転軸を中心として後部側部分が左右方向に回転可能になっている。このステアリングノズル18は、操舵ハンドル12に接続されており、操舵ハンドル12の操作に連動して回転する。また、リバースゲート19は、ステアリングノズル18に対して上下方向に回転することにより、水ジェット推進艇10の進行方向を前後に切り換える。
【0046】
排気装置40は、エンジン20に接続された屈曲した管からなる排気マニホールド41、排気管42、排気管42の後端部に接続されたタンク状のウォーターロック43等で構成されている。排気マニホールド41は、エンジン20の各気筒における排気弁27側からやや下方に延びて集合部41aで集合しており、その先端部は、排気管42に接続されている。排気管42は、排気マニホールド41との接続部から一旦前方斜め上方に向かって延びている。そして、排気管42の先端側部分は、エンジン20の前方で右舷側から左舷側に向かって延びたのちにエンジン20の斜め上方を通過して後方に向って延びている。
【0047】
そして、排気管42の後端部は、ウォーターロック43の前部に接続されている。また、ウォーターロック43の後部上面からは、排気管(図示せず)が後方に向って延びている。この排気管の上流端部は、ウォーターロック43の上部に連通しており、下流側が一旦上方に延びたのちに下方後部に延びて、下流端部は艇体11の後端下部に開口している。また、図示していないが、排気マニホールド41および排気管42の上流側部分は、二重管で構成されており、内部側部分が、エンジン20から排出される排気ガスを通過させるための排気ガス通路を構成し、外部側部分が、エンジン20等を冷却したのちの冷却水を通過させるための冷却水通路を構成している。
【0048】
冷却水通路は、排気管42の下流側部分で排気ガス通路と合流しており、この合流部で、排気ガス通路を通過する排気ガスと冷却水通路を通過する冷却水とが混合される。冷却水通路を通過する冷却水は、艇体11の底部における後部側部分から取り込まれた海水等の水からなっており、この冷却水は、艇体11内に設置された各冷却水路を通過することによりエンジン20等の各部分を冷却したのちに、冷却水通路を通過して排気ガスとともに外部に放出される。
【0049】
排気マニホールド41および排気管42に設けられた冷却水通路やエンジン20を冷却する冷却水路で本発明に係る冷却構造が構成される。また、排気管42の排気ガス通路内における所定部分には、触媒45が設置されている。触媒45は、ハニカム状に形成された基材の表面を白金などでコーティングして構成され、排気管42内を通過する排気ガスを浄化する。このように構成された排気装置40は、外部の海水等が、エンジン20側に浸入することを防止した状態で、排気ガスを外部に排出する。
【0050】
また、本実施形態に係る失火検出装置Aは、前述した各装置の外に、図8に示した、水ジェット推進艇10が備える各装置を制御する電気制御装置50と、酸素センサ51、燃料圧力センサ52、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58、転倒状態検出センサ59およびノックセンサ61の各センサとを備えている。さらに、水ジェット推進艇10には、スタートスイッチ等の各種のスイッチなど水ジェット推進艇10を走行させるために必要な各種の装置も備えている。
【0051】
また、電気制御装置50は、CPU、ROM、RAMおよびタイマ等を含んでおり、CPUは、ROMに記憶された各種のプログラムやRAMに記憶されたデータ等に基づいて、図8の電気制御装置50内に示した各種の制御や演算を行うとともに、各種のセンサ等が検出した結果をデータとして取り込む。酸素センサ51は、本発明に係る空燃比検出手段を構成するもので、排気マニホールド41の排気ガス通路に設置され排気マニホールド41の排気ガス通路を通る排気ガス中の酸素濃度を検出する。そして、電気制御装置50は、酸素センサ51の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。
【0052】
燃料圧力センサ52は、燃料配管15dに設置され燃料配管15d内を流れる燃料の圧力を検出する。電気制御装置50は、燃料圧力センサ52の検出値に基づいて、燃料圧力が適正値になるように燃料ポンプ15aの駆動制御を行う。スロットルポジションセンサ53は、本発明に係るスロットル開度検出手段を構成するもので、スロットルバルブ34の軸部34aに取り付けられて、軸部34aの回転角度からスロットルバルブ34の開度を検出する。前述したように、スロットルバルブ34の開度の調節は、操舵ハンドル12に設けられたスロットルレバー12bを回転操作することによって行われるため、スロットルポジションセンサ53の検出値から、アクセルポジションセンサ12cが検出するスロットルレバー12bの操作量に対する実際のスロットルバルブ34の開度を知ることができる。
【0053】
また、吸気圧センサ54は、吸気管31に設置され吸気管31内を通る空気の圧力を検出する。そして、電気制御装置50は、スロットルポジションセンサ53の検出値と、吸気圧センサ54の検出値とから吸入空気量を演算する。得られた演算値は、燃料補正制御に利用される。また、クランク角センサ55は、クランク軸21の近傍に設置されてクランク軸21の回転角を検出し、カムポジションセンサ56は、吸気カム軸26aまたは排気カム軸27aの近傍に設置されて、吸気カム軸26aまたは排気カム軸27aの回転角を検出する。このクランク角センサ55とカムポジションセンサ56とで本発明に係るエンジン回転変動検出手段およびエンジン回転速度検出手段が構成される。
【0054】
そして、電気制御装置50は、クランク角センサ55の検出値と、カムポジションセンサ56の検出値とからエンジン回転速度を演算する。この演算値は、エンジン20の回転が過高速回転であるオーバーレボ状態になっているか否かの判定に利用される。サーモセンサ57は、本発明に係る温度測定手段を構成するもので、排気マニホールド41の冷却水通路におけるエンジン20の近傍に設置され排気マニホールド41の冷却水通路を通る冷却水の温度を検出する。この検出値は、エンジン20がオーバーヒート状態になっているか否かの判定に利用される。そして、オーバーヒート状態であれば、メーター14のオーバーヒート表示部14fが点灯する。
【0055】
油圧センサ58は、本発明に係る油圧測定手段を構成するもので、エンジン20のクランクケース22に設けられ、クランクケース22内に設けられた潤滑油流路を流れるエンジンオイルの圧力を検出する。また、転倒状態検出センサ59は、本発明に係る転倒検出手段を構成するもので、エンジン20の近傍に設置され、水ジェット推進艇10が転覆したときにその転倒状態を検出する。ノックセンサ61は、本発明に係る振動検出手段を構成するもので、各気筒にそれぞれ設定されている。このノックセンサ61は、それぞれの気筒に燃焼異常が生じたことを振動により検出する。
【0056】
そして、電気制御装置50は、オーバーレボ状態、オーバーヒート状態、エンジンオイルの油圧が所定値以下に低下した状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当したときに、点火コイル37を制御して点火プラグ38による混合気の点火を停止して失火を発生させる。その際、インジェクタ35からエンジン20への燃料噴射も停止させる。また、エンジン20の回転速度の変動に異常が生じる等、不都合が生じた場合には、電気制御装置50の制御と関係なく失火が発生する。
【0057】
そして、メーター14は、異常による失火が発生したときに電気制御装置50から送信される異常のデータに基づいて警告ランプ14bを点滅させるとともに、ブザー14cを発音させる。また、電気制御装置50のROMには、図9および図10に示したプログラムが書き込まれている。このプログラムは、異常失火が発生したときに、警告ランプ14bを点滅させるとともに、ブザー14cを発音させるためのものである。なお、電気制御装置50は、本発明に係る燃料噴射制御手段や失火制御手段等の制御手段を構成する。
【0058】
以上のように構成された水ジェット推進艇10を航走させるときには、まず、スタートスイッチをオンに操作する。これによって、エンジン20が始動して水ジェット推進艇10は航走可能な状態になる。そして、シート13に座った運転者が操舵ハンドル12を操舵するとともに、スロットルレバー12bを操作することにより水ジェット推進艇10は各操作に応じて所定の方向に所定の速度で航走を開始する。この際、スロットルバルブ34は、アクセルポジションセンサ12cが検出するスロットルレバー12bの操作量に応じた電気制御装置50の制御により、エンジン20を駆動させる。また、航走の際に、エンジン20に異常失火が生じると、図9または図10に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。
【0059】
まず、図9に示したプログラムは、ステップ100において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ102に進んで、エンジン回転速度低下幅を算出する処理が行われる。この処理は、予め、クランク角センサ55の検出値、カムポジションセンサ56の検出値およびスロットルポジションセンサ53の検出値から各スロットル開度毎のエンジン回転速度を演算しておき、この複数の演算値から正常時におけるエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅を算出しておき、このエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅に対する今回のエンジン回転速度の低下幅を算出することにより行う。
【0060】
つぎに、ステップ104において、ステップ102の処理で求めたエンジン回転速度低下幅が、予め記憶されているエンジン回転速度低下幅記憶値と所定の係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。エンジン回転速度低下幅記憶値は、前述したエンジン回転速度の所定時間当たりの低下幅であり、係数は、エンジン回転速度低下幅記憶値との積が、失火が発生していると判断できる値になるようにして設定したばらつきを考慮した任意の数値である。ここで、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ106に進む。
【0061】
ステップ106では、エンジン回転速度低下幅記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、エンジン回転速度低下幅記憶値を算出するための複数の演算値の中に、ステップ102で算出した演算値を加えるとともに、複数の演算値の中から一番古い演算値を削除して新たなエンジン回転速度低下幅記憶値が求められる。そして、この新たなエンジン回転速度低下幅記憶値がRAMに記憶される。そして、プログラムは、ステップ102に進み、以下、ステップ104で「Yes」と判定する間は、前述したステップ102〜106の処理が繰り返される。
【0062】
そして、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも大きくなって、すなわち、エンジン回転速度が急に低下して、ステップ104において「No」と判定すると、プログラムはステップ108に進む。ステップ108においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0063】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50の制御によるものであるため、ステップ108において、「Yes」と判定して、ステップ102に進む。以下、ステップ104において「No」と判定しても、ステップ108において、「Yes」と判定する限り、ステップ102,104,108の処理が繰り返される。この場合、メーター14における失火原因を示す所定の表示部が点灯する。また、ステップ102で読み込んだエンジン回転速度低下幅をエンジン回転速度低下幅記憶値に更新する処理は行われず、前回のプログラム実行の際に、ステップ106で記憶されたエンジン回転速度低下幅記憶値がそのまま記憶されている。
【0064】
そして、エンジン回転速度低下幅が、エンジン回転速度低下幅記憶値と係数との積よりも大きくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ108において「No」と判定すると、ステップ110に進む。ステップ110では、警告を発するための処理、すなわち、電気制御装置50からメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ112において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ114において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ102に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ102〜114の処理が繰り返される。
【0065】
また、図10に示したプログラムでは、失火が発生したときに、その失火が電気制御装置50の制御によるものか異常の発生によるものかの判断を、エンジン回転速度低下幅でなく、エンジン回転速度変動幅に基づいて行う。したがって、ステップ202においては、エンジン回転速度変動幅を算出する処理が行われる。この処理は、予め、クランク角センサ55の検出値およびカムポジションセンサ56の検出値からエンジン回転速度を順次演算し、この複数の演算値からエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅を算出しておき、このエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅に対する今回のエンジン回転速度の変動幅を算出することにより行う。この場合、スロットルポジションセンサ53の検出値は考慮していないが、前述した図9のプログラムのように、スロットルポジションセンサ53の検出値を考慮してエンジン回転速度変動幅を算出してもよい。
【0066】
つぎに、ステップ204において、ステップ202の処理で求めたエンジン回転速度変動幅が、予め記憶されているエンジン回転速度変動幅記憶値と所定の係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。エンジン回転速度変動幅記憶値は、前述したエンジン回転速度の所定時間当たりの変動幅であり、係数は、エンジン回転速度変動幅記憶値との積が、失火が発生していると判断できる値になるようにして設定したばらつきを考慮した任意の数値である。ここで、エンジン回転速度変動幅が、エンジン回転速度変動幅記憶値と係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ206に進む。
【0067】
ステップ206では、エンジン回転速度変動幅記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、エンジン回転速度変動幅記憶値を算出するための複数の演算値の中に、ステップ202で算出した算演値を加えるとともに、複数の演算値の中から一番古い演算値を削除して新たなエンジン回転速度変動幅記憶値が求められる。そして、この新たなエンジン回転速度変動幅記憶値がRAMに記憶される。また、このプログラムにおけるステップ200,208〜214では、前述したプログラムのステップ100,108〜114で行われる処理と同一の処理が行われる。
【0068】
以上のように、本実施形態に係る水ジェット推進艇10の失火検出装置Aでは、エンジン20に失火が発生したときに、警告ランプ14bが点滅し、ブザー14cが警告音を発音するように構成されているが、その失火が電気制御装置50の制御に基づく失火である場合には、警告ランプ14bの点滅や、ブザー14cの発音は行われないように構成されている。すなわち、図9のステップ108および図10のステップ208において「Yes」と判定することにより、本発明に係る報知禁止手段が構成される。このため、運転者が、異常失火が生じたことを確実に知ることができるとともに、制御による失火をエンジン20に異常が生じたことによる失火と誤認することがなくなる。
【0069】
また、電気制御装置50の制御による失火が生じたときには、インジェクタ35による燃料噴射や点火プラグ38による燃料の点火も停止される。このため、制御による失火が生じても、未燃ガスが発生することがなくなり、排気管42内でアフターファイアが生じることもなくなる。また、本実施形態では、失火検出手段を、通常水ジェット推進艇に備わっているクランク角センサ55、カムポジションセンサ56およびスロットルポジションセンサ53で構成したため、失火検出装置Aを構成する新たな部品点数の増加を抑えることができ、低コスト化、エンジン20のコンパクト化および軽量化が可能になる。
【0070】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態に係る失火検出装置Bを示している。この失火検出装置Bでは、前述した失火検出装置Aの酸素センサ51に代えて空燃比センサ62が設けられている。空燃比センサ62は、各気筒から延びる各排気管(集合部41aの上流側部分)にそれぞれ設けてもよいし、前述した酸素センサ51に代えて、排気マニホールド41の排気ガス通路に設置してもよく、排気マニホールド41の排気ガス通路を通る排気ガスから燃料と空気との質量比である空燃比を検出する。この空燃比センサ62としては、例えば、内外面に白金コーティングによる電極を持つジルコニア固体電解質の管からなるセンサを用いることができる。この空燃比センサ62では、酸素分圧の高い方から酸素分圧の低い方に向かって酸素イオンが流れることで電極間の酸素分圧比の対数に比例する起電力が発生する。
【0071】
この起電力による電圧値を測定するとともに、その電圧値が正常な範囲内であるか否かを判断することによって、空燃比の変動を検出できるとともに、失火が発生しているか否かが判断できる。そして、電気制御装置50bは、空燃比センサ62の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。この失火検出装置Bおよび失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0072】
また、失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図12に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。このプログラムは、ステップ300において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ302に進んで、空燃比センサ62が活性化しているか否かの判定が行われる。空燃比センサ62は、所定の温度以下の場合には検出精度が良くないため、所定の温度まで加熱することが好ましく、ここでは、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達し、かつ安定した状態であるか否かの判定が行われる。
【0073】
ここで、空燃比センサ62の温度が所定の温度以下で「No」と判定すると、プログラムはステップ302の処理を繰り返す。そして、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達してステップ302において、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ304に進み、空燃比センサ62の検出に基づく空燃比センサ電圧値のデータを読み取る処理が行われる。ついで、ステップ306において、ステップ304の処理で求めた空燃比センサ電圧値が、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。
【0074】
空燃比センサ電圧記憶値は、クランク角センサ55の検出値、カムポジションセンサ56の検出値、スロットルポジションセンサ53の検出値および吸気圧センサ54の検出値から各エンジン回転速度、各スロットル開度および各吸気圧に対応する空燃比センサ電圧値を算出して記憶したものである。また、下限係数は、空燃比センサ電圧記憶値との積が、空燃比の正常範囲から小さい方に外れていると判断できる値であり、ばらつきを考慮して設定した任意の数値である。上限係数は、空燃比センサ電圧記憶値との積が、空燃比の正常範囲から大きい方に外れていると判断できる値であり、ばらつきを考慮して設定した任意の数値である。
【0075】
ここで、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ308に進む。ステップ308では、空燃比センサ電圧記憶値を更新する処理が行われる。ここでは、所定のエンジン回転速度、スロットル開度または吸気圧に対する空燃比センサ電圧記憶値がステップ304で読み込んだ空燃比センサ電圧記憶値に更新される。そして、プログラムは、ステップ304に進み、以下、ステップ306で「Yes」と判定する間は、ステップ304〜308の処理が繰り返される。
【0076】
そして、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなって、ステップ306において「No」と判定すると、プログラムはステップ310に進む。ステップ310においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0077】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ310において、「Yes」と判定して、ステップ304に進む。この場合、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50bの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。また、ステップ304で読み込んだ空燃比センサ電圧値は更新されず、前回のプログラム実行の際に、ステップ308で記憶された空燃比センサ電圧値がそのまま空燃比センサ電圧記憶値として記憶されている。また、メーター14における失火原因を示す所定の表示部が点灯する。
【0078】
以下、ステップ306において「No」と判定しても、ステップ310において、「Yes」と判定する限り、ステップ304,306,310の処理が繰り返される。そして、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ310において「No」と判定すると、プログラムは、ステップ312に進む。
【0079】
ステップ312では、電気制御装置50bからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ314において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ316において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ318に進み、空燃比センサ62の搭載状態、すなわち、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。この場合、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられていない状態とは、1個の空燃比センサ62が排気マニホールド41の集合部41a近傍またはその下流側に設けられた状態をいう。
【0080】
空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ318において、「Yes」と判定すると、ステップ320に進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ304に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ318において、「No」と判定すると、ステップ322に進んで、電気制御装置50bによる燃料噴射補正制御をキャンセルする処理が行われる。ここでは、どの気筒に失火が発生しているかが分からないまま、燃料噴射補正制御を継続して間違った燃料噴射補正制御が行われることを防止する。そして、プログラムは、ステップ304に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ304〜322の処理が繰り返される。
【0081】
本実施形態によると、異常失火と判断された場合には、電気制御装置50bによる燃料噴射量補正制御を行わないことで、燃料噴射量が不適正になることを防ぐことができる。また、空燃比センサ62を各気筒から延びる各排気管にそれぞれ設けることにより、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。失火検出装置Bおよび失火検出装置Bを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の作用効果については、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同様である。
【0082】
(第3実施形態)
図13は、本発明の第3実施形態における失火検出装置Cを示している。この失火検出装置Cでは、前述した失火検出装置Aの酸素センサ51に代えてノックセンサ61が用いられている。ノックセンサ61は、エンジン20の異常燃焼による振動を検出し、この振動を電気信号に変換して電気制御装置50cに送信する。そして、電気制御装置50cは、この電気信号から、ノックセンサ61の電圧値が正常な範囲内であるか否かを判断することによって、ノッキングや失火が発生しているか否かを判定する。
【0083】
さらに、電気制御装置50cは、ノックセンサ61の検出値に基づいて、インジェクタ35からシリンダヘッド23内に噴射される燃料と空気との混合気の濃度やその噴射量を調整する燃料補正制御を行う。この場合のノックセンサ61は、シリンダヘッド23に1個だけ設けてもよいし、排気マニホールド41における各気筒の排気弁27に連通する4つの排気ポート出口27bにそれぞれ設けてもよい。この失火検出装置Cおよび失火検出装置Cを備えた水ジェット推進艇のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aおよび失火検出装置Aを備えた水ジェット推進艇10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0084】
また、失火検出装置Cを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図14に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。このプログラムは、ステップ400において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ402に進んで、点火コイル37から点火プラグ38に送られる点火信号に異常が発生しているか否かの判定が行われる。これは、本発明に係る点火手段としての点火装置に異常が発生しているか否かを判定するためのステップで、点火装置に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ404に進み、ノックセンサ入力電圧に異常が発生しているか否かの判定が行われる。
【0085】
これは、ノックセンサ61に異常が発生しているか否か、例えば、ノックセンサ61と電気制御装置50cとを接続する配線に断線が生じているか否か等を判定するためのステップで、ノックセンサ61に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ406に進む。ステップ406では、ノックセンサ電圧値が、予め設定されている基準ノック発生判定電圧値よりも大きいか否かの判定が行われる。基準ノック発生判定電圧値は、エンジン20にノッキングが発生していると判定できるノックセンサ61の検出電圧値として予め設定した値である。
【0086】
ここで、ノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも小さく、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ402に進む。そして、点火装置およびノックセンサ61に異常が発生せず、ステップ406で「No」と判定する間は、ステップ402〜406の処理が繰り返される。そして、エンジン20にノッキングが発生してノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも大きくなり、ステップ406において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ408に進む。ステップ408においては、ノックセンサ61の搭載状態、すなわち、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。この場合、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられていない状態とは、1個のノックセンサ61が排気マニホールド41の集合部41aに設けられた状態をいう。
【0087】
ノックセンサ61が各気筒毎に設けられてなく、ステップ408において、「No」と判定すると、ステップ410に進んで、電気制御装置50cからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ412において、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ414において、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。ついで、プログラムは、ステップ402に進み、以下、前述した処理が繰り返される。
【0088】
また、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ408において、「Yes」と判定すると、ステップ416に進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理、または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ402に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402〜416の処理が繰り返される。また、点火装置に異常が生じていて、ステップ402で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ418に進み、電気制御装置50cからメーター14の所定部分に点火装置に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。
【0089】
この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402,418の処理が繰り返される。また、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ404で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ420に進む。ステップ420では、電気制御装置50cからメーター14の所定部分にノックセンサ61に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ402,404,420の処理が繰り返される。
【0090】
本実施形態では、ノックセンサ61を、排気マニホールド41における各気筒の排気弁27に連通する4つの排気ポート出口27bにそれぞれ設けることができ、これによって、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になる。このため、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射を停止させたり、スロットルバルブ34の開度を調整してエンジン20の回転速度を低下させたりして、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、排気マニホールド41内や排気管42内でアフターファイアが生じて排気マニホールド41に設けた触媒45が劣化することを防ぐこともできる。さらに、ノックセンサ61は、シリンダヘッド23や排気マニホールド41の外壁に取り付けるだけですむため、取り付けに手間がかからず、ノックセンサ61を取り付けるためのエンジン20の加工も最小限ですむ。
【0091】
(第4実施形態)
図15は、本発明の第4実施形態における失火検出装置Dを示している。この失火検出装置Dでは、イオン電流検出回路を備えた本発明に係る点火コイルとしてのイオン電流検出回路付点火コイル37aが設けられているとともに、触媒45の温度を検出するために触媒温度センサ63も設けられている。触媒温度センサ63は、触媒45またはその近傍に設置されている。空燃比センサ62や触媒温度センサ63等は、電気制御装置50dに接続されている。また、この失火検出装置Dおよび失火検出装置Dを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0092】
また、失火検出装置Dを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図16ないし図19に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。まず、図16に示したプログラムは、ステップ500において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ502に進んで、イオン電流検出回路付点火コイル37aが発信するイオン電流波形による燃焼/失火信号を読み込む処理が行われる。このイオン電流検出回路付点火コイル37aは、イオン電流検出回路を備えており、電気制御装置50dは、イオン電流検出回路付点火コイル37aが検出したイオン電流信号を燃焼信号に変換し、点火信号入力後に燃焼信号がなかった場合に失火が生じていると判定する。
【0093】
点火信号入力後に燃焼信号の入力があれば、ステップ504において「Yes」と判定して、プログラムは、ステップ502に進み、以下、失火が発生して燃焼信号がなくなるまで、ステップ502,504の処理が繰り返される。そして、燃焼信号がなくなってステップ504において、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ506に進み、スロットルポジションセンサ53等の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0094】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ506において、「Yes」と判定して、ステップ502に進む。この場合の失火は電気制御装置50dの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。以下、ステップ504において「No」と判定しても、ステップ506において、「Yes」と判定する限り、ステップ502〜506の処理が繰り返される。そして、失火により燃焼信号はなくなっているが、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ506において「No」と判定すると、プログラムは、図17ないし図19にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンa,b,cのいずれかを実行する。
【0095】
まず、図17に示した異常失火発生時の対処パターンaでは、ステップ508aにおいて、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ510aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ512aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、ステップ514aにおいて、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。
【0096】
さらに、ステップ516aにおいて、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理やエンジン部品を保護するための種々の制御が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進み、以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。この場合、ステップ514aの処理とステップ516aとの処理は、どちらか一方だけを選択して実行するようにしてもよい。
【0097】
また、図18に示した異常失火発生時の対処パターンbでは、ステップ508bにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上で、触媒温度基準値未満であるか否かの判定が行われる。この触媒温度基準値とは、触媒45に劣化が生じる虞のある所定の高温よりも少し低い温度であり、予め設定した温度である。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上基準値未満であれば、ステップ508bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ510bに進む。
【0098】
ステップ510bにおいては、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われ、続いて、ステップ512bにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ514bにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進む。また、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上基準値未満でなく、ステップ508bにおいて、「No」と判定すると、ステップ516bに進んで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0099】
そして、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であれば、「Yes」と判定して、ステップ518bに進み、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ510bに進み、以下、前述したステップ510b〜514bの処理を行ったのちにステップ502に進む。また、ステップ510bにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以下であれば、「No」と判定して、ステップ502に進む。この場合、異常失火は生じているが、触媒45の温度が触媒45を劣化させるほどのものでないため、警告の報知や、燃料噴射停止等の処理は行わない。そして、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。
【0100】
また、図19に示した異常失火発生時の対処パターンcでは、ステップ508cにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。この失火比率の失火基準値とは、失火が生じる頻度が運転フィーリングを悪化させるものでない範囲で最大に近い値として、予め設定した失火比率の値である。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ508cにおいて、「Yes」と判定して、ステップ510cに進む。ステップ510cにおいては、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われ、続いて、ステップ512cにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ514cにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ502に進む。
【0101】
また、失火比率が失火基準値以上で、ステップ508cにおいて、「No」と判定すると、ステップ516cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ510cに進み、以下、前述したステップ510c〜514cの処理を行ったのちにステップ502に進む。そして、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、前述した各種の処理が繰り返される。
【0102】
本実施形態によると、イオン電流検出回路付点火コイル37aが各気筒毎に設けられているため、どの気筒で失火が発生しているのかが検出可能になり、異常失火をしている気筒に対する燃料の噴射だけを停止させることができる。この結果、排気ガスに未燃ガスが混ざることが防止でき、排気ガスの性状悪化を防止することができる。また、イオン電流検出回路付点火コイル37aは、イオン電流を検出することにより失火の検出を行うため、点火に対して燃焼が起こったかどうかを確実かつ迅速に判定でき、失火検出の精度が向上する。
【0103】
また、触媒45の温度が触媒温度基準値以上になった場合に、失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する構成にしたので、触媒45の劣化が懸念される場合以外は、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返さなくてもすむようになり、燃料噴射の停止と再開を頻繁に繰り返すことによって水ジェット推進艇10の運転フィーリングが悪化することを防止できる。さらに、失火比率が失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止することにより、比較的軽微な異常失火においては燃料噴射の停止を行わずにすむ。
【0104】
(変形例1)
図20ないし図23は、第4実施形態に係る失火検出装置Dを用いて、図12に示したプログラムの変形例を実行するためのフローチャートを示している。このプログラムは、ステップ600において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ602に進んで、空燃比センサ62が活性化しているか否かの判定が行われる。ここで、空燃比センサ62の温度が所定の温度以下で「No」と判定すると、プログラムはステップ602の処理を繰り返す。そして、空燃比センサ62の温度が所定の温度に達してステップ602において、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ604に進み、空燃比センサ62の検出に基づく空燃比センサ電圧値のデータを読み取る処理が行われる。
【0105】
ついで、ステップ606において、ステップ604の処理で求めた空燃比センサ電圧値が、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、予め記憶されている空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さいか否かの判定が行われる。ここで、空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも大きく、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも小さく、「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ608に進む。ステップ608では、所定のエンジン回転速度、スロットル開度または吸気圧に対する空燃比センサ電圧記憶値がステップ604で読み込んだ空燃比センサ電圧記憶値に更新される。そして、プログラムは、ステップ604に進み、以下、ステップ606で「Yes」と判定する間は、ステップ604〜608の処理が繰り返される。
【0106】
空燃比センサ電圧値が、空燃比センサ電圧記憶値と下限係数との積よりも小さいか、または、空燃比センサ電圧記憶値と上限係数との積よりも大きくなって、ステップ606において「No」と判定すると、プログラムはステップ610に進む。ステップ610においては、スロットルポジションセンサ53、吸気圧センサ54、クランク角センサ55、カムポジションセンサ56、サーモセンサ57、油圧センサ58および転倒状態検出センサ59の各センサのいずれかの検出値が失火条件を満たしているか否か、すなわちオーバーレボ状態、オーバーヒート状態、油圧低下状態、転倒状態またはアイドリング状態のいずれか一つに該当するか否かが判定される。
【0107】
ここで、失火条件のいずれかが満たされていれば、ステップ610において、「Yes」と判定して、ステップ604に進む。この場合、エンジン20に失火が生じていても、その失火は電気制御装置50dの制御によるものであり、失火とともに、エンジン20への燃料の噴射も停止される。また、ステップ604で読み込んだ空燃比センサ電圧値は更新されず、前回のプログラム実行の際に、ステップ608で記憶された空燃比センサ電圧値がそのまま空燃比センサ電圧記憶値として記憶されている。以下、ステップ606において「No」と判定しても、ステップ610において、「Yes」と判定する限り、ステップ604,606,610の処理が繰り返される。
【0108】
そして、失火条件のいずれも満たされてなく、ステップ610において「No」と判定すると、プログラムは、図21ないし図23にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンd,e,fのいずれかを実行する。まず、図21に示した異常失火発生時の対処パターンdでは、ステップ614aにおいて、電気制御装置50dからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ616aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ618aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ620aに進み、空燃比センサ62の搭載状態、すなわち、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。
【0109】
空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ620aにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ622aに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ620aにおいて、「No」と判定すると、ステップ624aに進んで、電気制御装置50dによる燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜624aの処理が繰り返される。
【0110】
また、図22に示した異常失火発生時の対処パターンeでは、ステップ614b〜618bにおいて、対処パターンdのステップ614a〜618aと同一の処理を行い、ステップ620bにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ620bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ604に進む。また、失火比率が失火基準値以上であれば、ステップ622bに進む。ステップ622bでは、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ622bにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ624bに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0111】
そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ622bにおいて、「No」と判定すると、ステップ626bに進んで、燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜626bの処理が繰り返される。
【0112】
また、図23に示した異常失火発生時の対処パターンfでは、ステップ614c〜618cにおいて、対処パターンdのステップ614a〜618aと同一の処理を行い、ステップ620cにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上であるか否かの判定が行われる。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度未満で、ステップ620cにおいて、「No」と判定すると、ステップ604に進む。また、触媒活性温度以上で、ステップ620cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ622cに進む。ステップ622cでは、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0113】
ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上で、ステップ622cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ624cに進む。ステップ624cでは、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。空燃比センサ62が各気筒毎に設けられており、ステップ624cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ626cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ624cにおいて、「No」と判定すると、ステップ628cに進んで、燃料噴射補正制御をキャンセルする処理または、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ604に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ604〜628cの処理が繰り返される。
【0114】
(第5実施形態)
図24は、本発明の第5実施形態における失火検出装置Eを示している。この失火検出装置Eには、ノックセンサ61が備わっており、このノックセンサ61は電気制御装置50eに接続されている。この失火検出装置Eおよび失火検出装置Eを備えた水ジェット推進艇10のそれ以外の部分の構成は、前述した失火検出装置Aと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。また、失火検出装置Eを備えた水ジェット推進艇10が航走する際に、エンジン20に異常失火が生じると、図25ないし図28に示したプログラムにしたがって警報が発せられる。
【0115】
図25に示したプログラムは、ステップ700において開始され、エンジン20が始動すると、プログラムはステップ702に進んで、点火コイル37から点火プラグ38に送られる点火信号に異常が発生しているか否かの判定が行われる。点火装置に異常がなく、ステップ702で「No」と判定すると、プログラムはステップ704に進み、ノックセンサ入力電圧に異常が発生しているか否かの判定が行われる。ノックセンサ61に異常がなく、「No」と判定すると、プログラムはステップ706に進む。ステップ706では、ノックセンサ電圧値が、予め設定されている基準ノック発生判定電圧値よりも大きいか否かの判定が行われる。
【0116】
ここで、ノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも小さく、「No」と判定すると、プログラムは、ステップ702に進む。そして、点火装置およびノックセンサ61に異常が発生せず、ステップ706で「No」と判定する間は、ステップ702〜706の処理が繰り返される。そして、エンジン20にノッキングが発生してノックセンサ電圧値が、基準ノック発生判定電圧値よりも大きくなり、ステップ706において「Yes」と判定すると、プログラムはステップ708に進む。ステップ708においては、図26ないし図28にそれぞれ示した異常失火発生時の対処パターンg,h,iのいずれかを実行する。
【0117】
まず、図26に示した異常失火発生時の対処パターンgでは、ステップ710aにおいて、電気制御装置50eからメーター14に指令データを送信する処理が行われる。そして、ステップ712aにおいて、警告ランプ14bを点滅させる処理が行われ、ステップ714aにおいて、ブザー14cに警告音を発音させる処理が行われる。そして、ステップ716aにおいて、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ716aにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ718aに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0118】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ716aにおいて、「No」と判定すると、ステップ720aに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、点火装置に異常が生じていて、図25のフローチャートにおけるステップ702で「Yes」と判定すると、プログラムは、ステップ726に進み、電気制御装置50eからメーター14の所定部分に点火装置に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。
【0119】
この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702,726の処理が繰り返される。また、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、プログラムはステップ728に進む。ステップ728では、電気制御装置50eからメーター14の所定部分にノックセンサ61に異常が発生していることを報知するための信号データが送信される。この場合、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702,704,728の処理が繰り返される。
【0120】
また、図27に示した異常失火発生時の対処パターンhでは、ステップ710b〜714bにおいて、対処パターンgのステップ710a〜714aと同一の処理を行い、ステップ716bにおいて、失火比率が失火基準値未満であるか否かの判定が行われる。ここで、失火比率が失火基準値未満であれば、ステップ716bにおいて、「Yes」と判定して、ステップ702に進む。また、失火比率が失火基準値以上であれば、ステップ718bに進む。ステップ718bでは、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ718bにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ720bに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。
【0121】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、空燃比センサ62が各気筒毎に設けられてなく、ステップ718bにおいて、「No」と判定すると、ステップ722bに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702〜722bの処理が繰り返される。また、この場合も、点火装置に異常が生じていて、ステップ702で「Yes」と判定すると、ステップ726における処理が実行され、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、ステップ728における処理が実行される。
【0122】
また、図28に示した異常失火発生時の対処パターンiでは、ステップ710c〜714cにおいて、対処パターンgのステップ710a〜714aと同一の処理を行い、ステップ716cにおいて、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上であるか否かの判定が行われる。ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度未満で、ステップ716cにおいて、「No」と判定すると、ステップ702に進む。また、触媒温度センサ63の検出値が、触媒活性温度以上で、ステップ716cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ718cに進む。ステップ718cでは、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上であるか否かの判定が行われる。
【0123】
ここで、触媒温度センサ63の検出値が、触媒温度基準値以上で、ステップ718cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ720cに進む。ステップ720cでは、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられているか否かが判定される。ノックセンサ61が各気筒毎に設けられており、ステップ720cにおいて、「Yes」と判定すると、ステップ722cに進んで、失火が発生している気筒に対する燃料の噴射を停止する処理が行われる。そして、プログラムは、ステップ702に進む。また、ノックセンサ61が各気筒毎に設けられてなく、ステップ720cにおいて、「No」と判定すると、ステップ724cに進んで、スロットルバルブ34の開度を調整することによりエンジン20の回転速度を低下させる処理が行われる。
【0124】
そして、プログラムは、ステップ702に進む。以下、エンジン20の駆動を停止させる処理が行われるまで、ステップ702〜724cの処理が繰り返される。また、この場合も、点火装置に異常が生じていて、ステップ702で「Yes」と判定すると、ステップ726における処理が実行され、点火装置に異常は発生していないが、ノックセンサ61に異常が発生していて、ステップ704で「Yes」と判定すると、ステップ728における処理が実行される。この実施形態においても、前述した第4実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0125】
また、本発明に係る水ジェット推進艇の失火検出装置は、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態では、異常失火が発生したときに、警告ランプ14bを点滅させる処理と、ブザー14cに警告音を発音させる処理との双方の処理を実行しているが、この処理は一方だけにしてもよい。さらに、警告ランプ14bやブザー14c以外の報知手段を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の失火検出装置を備えた水ジェット推進艇を示した側面図である。
【図2】図1に示した水ジェット推進艇の平面図である。
【図3】失火検出装置を示した概略構成図である。
【図4】メーターを示した正面図である。
【図5】エンジンにおける右舷側の側面を示した側面図である。
【図6】スロットルバルブを示した平面図である。
【図7】エンジンおよびその周辺部分を示した断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図9】エンジン回転速度低下幅に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図10】エンジン回転速度変動幅に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図12】空燃比センサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図13】本発明の第3実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図14】ノックセンサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図15】本発明の第4実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図16】点火信号に基づいて異常失火であるか否かを判定するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図17】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図18】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図19】図16に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図20】空燃比センサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図21】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図22】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図23】図20に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図24】本発明の第5実施形態に係る失火検出装置の要部を示した構成図である。
【図25】ノックセンサ電圧値に基づいて異常失火を報知するためのプログラムを示したフローチャートである。
【図26】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときの対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図27】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときの他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【図28】図25に示したプログラムで異常失火と判定したときのさらに他の対処方法のプログラムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0127】
10…水ジェット推進艇、14…メーター、14c…ブザー、14b…警告ランプ、16…推進機、20…エンジン、26…吸気弁、27b…排気ポート出口、27…排気弁、34…スロットルバルブ、35…インジェクタ、37a…イオン電流検出回路付点火コイル、38…点火プラグ、41…排気マニホールド、41a…集合部、45…触媒、50,50b,50c,50d,50e…電気制御装置、51…酸素センサ、52…燃料圧力センサ、53…スロットルポジションセンサ、54…吸気圧センサ、55…クランク角センサ、56…カムポジションセンサ、57…サーモセンサ、58…油圧センサ、59…転倒状態検出センサ、61…ノックセンサ、62…空燃比センサ、63…触媒温度センサ、A,B,C,D,E…失火検出装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、
燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいて前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段から前記エンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、
所定の失火条件を満たしたときに前記点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、
前記エンジンに失火が生じたことを検出する失火検出手段と、
前記失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する失火報知手段と、
前記失火検出手段が検出した失火が前記失火制御手段の制御に基づく失火である場合に、前記失火報知手段による報知を禁止する報知禁止手段と
を備えたことを特徴とする水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項2】
エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、
燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいて前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段から前記エンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、
所定の失火条件を満たしたときに前記点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、
前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が前記エンジンに生じたことを検出する失火検出手段と、
前記失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する異常失火報知手段と
を備えたことを特徴とする水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項3】
前記失火検出手段を、前記エンジンの回転速度の変動を検出するエンジン回転変動検出手段で構成し、前記エンジン回転変動検出手段が検出したエンジン回転速度の変動幅が、予め設定されたエンジン回転速度の変動幅基準値から外れた場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項4】
前記失火検出手段を、前記エンジンから延びる排気管内に設けられ、前記エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を停止させる請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項5】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管を集合部に集合させるとともに、前記失火検出手段を、各排気管における前記排気ポートと前記集合部との間にそれぞれ設けられ、前記エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、前記電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項6】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、前記失火検出手段を、各気筒に設けられ前記エンジンの振動を検出する振動検出手段で構成し、前記振動検出手段が検出したエンジンの振動に基づく燃焼信号と、前記点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、前記点火信号に対応して発生する前記燃焼信号の出力値が、予め設定された正常な燃焼信号の出力基準値よりも低い場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項7】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、前記失火検出手段を、各気筒に設けられ、前記各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備えた点火コイルで構成し、前記点火コイルが検出したイオン電流値に基づく燃焼信号と、前記点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、前記点火信号に対する前記燃焼信号がなかった場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項8】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒において、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が所定時間内に何度発生しているかを求める失火比率判定手段を設け、前記失火比率判定手段によって求められた失火比率が、所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1、2、5、6および7のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項9】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管内に触媒を設けるとともに、前記排気管内における前記触媒の近傍に前記触媒の温度を測定する触媒温度センサを設け、前記触媒温度センサが検出した前記触媒の温度が予め設定した触媒温度基準値以上である場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1、2、5、6および7のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項10】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記エンジン回転速度検出手段が検出する前記エンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度以上になることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項11】
前記水ジェット推進艇に、前記ジェットポンプにより汲み上げられた水を前記エンジンの冷却水として用いる冷却構造を設けるとともに、前記冷却水の量を測定する冷却水量測定手段または前記冷却水の温度を測定する温度測定手段を設け、前記所定の失火条件を、前記冷却水量測定手段が測定する冷却水の量が所定の冷却水最低しきい量よりも少ないか、または前記温度測定手段が測定する冷却水の温度が所定の冷却水最高しきい温度よりも高くなることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項12】
前記水ジェット推進艇に、前記水ジェット推進艇が転覆したことを検出する転倒検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記転倒検出手段が前記水ジェット推進艇の転覆を検出することとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項13】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンを潤滑するための潤滑油の圧力を測定する油圧測定手段を設け、前記所定の失火条件を、前記油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項14】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段および前記エンジンに備わったスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記エンジン回転速度検出手段が検出する前記エンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつ前記スロットル開度検出手段が検出するスロットルバルブの開度が所定のスロットル開度最低しきい値以下になることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項1】
エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、
燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいて前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段から前記エンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、
所定の失火条件を満たしたときに前記点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、
前記エンジンに失火が生じたことを検出する失火検出手段と、
前記失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する失火報知手段と、
前記失火検出手段が検出した失火が前記失火制御手段の制御に基づく失火である場合に、前記失火報知手段による報知を禁止する報知禁止手段と
を備えたことを特徴とする水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項2】
エンジンの駆動によりジェットポンプが作動して推進する水ジェット推進艇が備える失火検出装置であって、
燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御に基づいて前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射手段と、
前記燃料噴射手段から前記エンジンに噴射される燃料に点火してエンジンを駆動させる点火手段と、
所定の失火条件を満たしたときに前記点火手段による燃料の点火を停止させる失火制御手段と、
前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が前記エンジンに生じたことを検出する失火検出手段と、
前記失火検出手段がエンジンの失火を検出したときに、失火が発生したことを報知する異常失火報知手段と
を備えたことを特徴とする水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項3】
前記失火検出手段を、前記エンジンの回転速度の変動を検出するエンジン回転変動検出手段で構成し、前記エンジン回転変動検出手段が検出したエンジン回転速度の変動幅が、予め設定されたエンジン回転速度の変動幅基準値から外れた場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項4】
前記失火検出手段を、前記エンジンから延びる排気管内に設けられ、前記エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を停止させる請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項5】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管を集合部に集合させるとともに、前記失火検出手段を、各排気管における前記排気ポートと前記集合部との間にそれぞれ設けられ、前記エンジンから排出される排気ガスの空燃比を所定の出力電圧特性に基づいて検出する空燃比検出手段で構成し、前記空燃比検出手段が検出した空燃比に基づく電圧値が正常な電圧値の範囲内である場合は、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射量補正制御を行い、前記電圧値が正常な電圧値の範囲よりも高いかまたは低い場合は、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項6】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、前記失火検出手段を、各気筒に設けられ前記エンジンの振動を検出する振動検出手段で構成し、前記振動検出手段が検出したエンジンの振動に基づく燃焼信号と、前記点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、前記点火信号に対応して発生する前記燃焼信号の出力値が、予め設定された正常な燃焼信号の出力基準値よりも低い場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項7】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、前記失火検出手段を、各気筒に設けられ、前記各気筒内での燃焼行程において発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備えた点火コイルで構成し、前記点火コイルが検出したイオン電流値に基づく燃焼信号と、前記点火手段に入力される点火信号との発生タイミングを比較し、前記点火信号に対する前記燃焼信号がなかった場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断して、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1または2に記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項8】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒において、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が所定時間内に何度発生しているかを求める失火比率判定手段を設け、前記失火比率判定手段によって求められた失火比率が、所定の失火比率基準値以上であった場合に、その失火比率基準値以上の失火が発生している気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1、2、5、6および7のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項9】
前記エンジンを、複数の気筒を備える多気筒エンジンで構成して、各気筒の排気ポートから延びる排気管内に触媒を設けるとともに、前記排気管内における前記触媒の近傍に前記触媒の温度を測定する触媒温度センサを設け、前記触媒温度センサが検出した前記触媒の温度が予め設定した触媒温度基準値以上である場合に、前記失火制御手段の制御に基づく失火以外の失火が発生していると判断した気筒に対する燃料噴射を停止する請求項1、2、5、6および7のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項10】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記エンジン回転速度検出手段が検出する前記エンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度以上になることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項11】
前記水ジェット推進艇に、前記ジェットポンプにより汲み上げられた水を前記エンジンの冷却水として用いる冷却構造を設けるとともに、前記冷却水の量を測定する冷却水量測定手段または前記冷却水の温度を測定する温度測定手段を設け、前記所定の失火条件を、前記冷却水量測定手段が測定する冷却水の量が所定の冷却水最低しきい量よりも少ないか、または前記温度測定手段が測定する冷却水の温度が所定の冷却水最高しきい温度よりも高くなることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項12】
前記水ジェット推進艇に、前記水ジェット推進艇が転覆したことを検出する転倒検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記転倒検出手段が前記水ジェット推進艇の転覆を検出することとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項13】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンを潤滑するための潤滑油の圧力を測定する油圧測定手段を設け、前記所定の失火条件を、前記油圧測定手段が測定する潤滑油の油圧が所定の油圧最低しきい値よりも小さくなることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【請求項14】
前記水ジェット推進艇に、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段および前記エンジンに備わったスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段を設け、前記所定の失火条件を、前記エンジン回転速度検出手段が検出する前記エンジンの回転速度が所定のエンジン回転速度最低しきい値以下で、かつ前記スロットル開度検出手段が検出するスロットルバルブの開度が所定のスロットル開度最低しきい値以下になることとした請求項1ないし9のうちのいずれか一つに記載の水ジェット推進艇の失火検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2009−121453(P2009−121453A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71024(P2008−71024)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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