車両の制御装置
【課題】 走行中の車両において惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 車両の制御装置は、車両の車速Vが下限側車速V0および上限側車速V1で決定される車速域内にあるとき、車速Vが車速V0以上であればフューエルカットによりエンジンを停止させてクラッチを開放して惰行により車両を走行させ、車速Vが車速V0を下回ると燃料供給によりエンジンを始動させてクラッチを係合して加速させる(定速フリーラン)。車両を停止させる必要があるときは、車両が停止するまでフューエルカットによりエンジンを停止させてクラッチを開放して惰行により車両を走行させた後(停止フリーラン)、クラッチを係合してエンジンブレーキおよびブレーキ装置による制動を付与する。これにより、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて燃費を向上させることができる。
【解決手段】 車両の制御装置は、車両の車速Vが下限側車速V0および上限側車速V1で決定される車速域内にあるとき、車速Vが車速V0以上であればフューエルカットによりエンジンを停止させてクラッチを開放して惰行により車両を走行させ、車速Vが車速V0を下回ると燃料供給によりエンジンを始動させてクラッチを係合して加速させる(定速フリーラン)。車両を停止させる必要があるときは、車両が停止するまでフューエルカットによりエンジンを停止させてクラッチを開放して惰行により車両を走行させた後(停止フリーラン)、クラッチを係合してエンジンブレーキおよびブレーキ装置による制動を付与する。これにより、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて燃費を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行している車両を制御する車両の制御装置に関し、特に、車両に搭載されたエンジンの始動または停止を制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関としてのエンジンを搭載した車両の燃料消費率(所謂、燃費)を向上させるために、種々の提案が盛んになされている。例えば、下記特許文献1には、クルーズコントロール中においてフューエルカット制御領域を拡大することによって車両の燃費を向上させる車両用燃料供給制限装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献2には、交差点から車両本体の現在位置までの距離を加味して、車両が制動動作中であると判断される場合に、フューエルカットとクラッチオフを行うことによって燃費を向上させる自動車用停止制御装置が開示されている。
【0003】
また、例えば、下記引用文献3には、前方の信号機の赤信号による車両の停止回数を低減させるとともに、前方の信号機を通過できないときにはエンジン停止を行う車両の制御装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献4には、車両の前方の信号が赤信号であるか否かを認識し、信号が赤信号であり、低速度で走行している場合には、エンジンによる駆動を禁止するハイブリッド車の駆動制御装置が開示されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献5には、例えば、渋滞などによって車両が継続して停止する継続時間を推定し、継続時間が所定時間以上のときにのみ自動的にエンジンを停止させる一方で、エンジンを停止させることが適当ではない状況では継続時間が所定時間以上であってもエンジンを自動的に停止させない車両のエンジン自動停止装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献6には、エンジンを自動的に停止させる際にブースタ負圧を判定し、ブースタ負圧が所定値よりも低下しているときには、エンジンを自動的に停止させないエンジン自動停止始動制御装置が開示されている。さらに、例えば、下記特許文献7には、運転者による低燃費モードの設定に応じて、あるいは、先行車および後続車との位置関係に応じてエンジン回転数の上限値を変更させて燃費を向上させるクルーズコントロール装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−108798号公報
【特許文献2】特開平8−337135号公報
【特許文献3】特開2008−296798号公報
【特許文献4】特開2004−239127号公報
【特許文献5】特許2000−120461号公報
【特許文献6】特開2006−200370号公報
【特許文献7】特開2003−343305号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記従来の各装置のように、例えば、フューエルカットによって燃費を向上させるためには、フューエルカット時間を長くする、言い換えれば、エンジンが駆動力を発生させないで惰行により車両を走行させる時間や距離を長くするほど有効である。しかしながら、車両走行中においては、例えば、渋滞や信号機の存在などによって十分なフューエルカット時間すなわち惰行による走行時間や走行距離を確保できない場合がある。この場合、燃費向上効果が十分に得られない可能性がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、走行中の車両において惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる車両の制御装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、少なくとも走行中の車両のエンジンを始動または停止制御する車両の制御装置において、走行中の車両の車速を検出する車速検出手段と、走行中の車両の車速域を決定する下限側車速と上限側車速とを設定する車速域設定手段と、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以上であるときに前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるとともに、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速未満となったときに前記エンジンを始動させて車両を加速させ、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるエンジン作動制御手段とを備えたことにある。
【0009】
この場合、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるとき、運転者による車両の加速操作に関わらず、前記エンジンを始動または停止させるとよい。また、この場合、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるときの減速度を、車両が走行している路面の勾配に応じて補正するとよい。
【0010】
これらによれば、車両が下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で走行している状況では、エンジン作動制御手段は、車速が下限側車速以上であればエンジンを停止して下限側車速まで車両を惰行により減速させることができ、車速が下限側車速を下回るとエンジンを始動させて上限側車速以下まで加速させることができる。このため、車両を下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で走行させることにより、確実に車両を惰行により走行させることができて惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0011】
また、この場合、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定する停止予測判定手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されて車両が停止するとき、前記エンジンの停止を継続して車両を惰行により減速させるとよい。そして、この場合には、前記停止予測判定手段は、例えば、車両の外部から提供される交通情報に基づいて、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定するとよく、前記交通情報は、例えば、走行中の車両の前方に存在する信号機が赤信号である情報、走行中の車両の前方に発生した渋滞情報および走行中の車両の前方にカーブが存在する情報のうちの少なくとも一つであるとよい。また、この場合には、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されたとき、前記エンジンの始動および停止の制御デューティー比を小さくするとよい。
【0012】
これらによれば、走行中の車両を停止させる必要が予測される場合、例えば、車両前方に存在する信号機が赤信号である場合や、前方に渋滞が発生している場合、前方にカーブが存在する場合などであっても、車両が停止するまで、エンジン作動制御手段はエンジンの停止を継続させて車両を惰行により減速させることができる。したがって、確実に車両を惰行により走行させることができて惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0013】
また、車両を停止させる必要が予測されるときに制御デューティー比を小さくすることにより、エンジンを停止させて惰行により車両を走行させる頻度が相対的に多くなるため、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0014】
また、これらの場合、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定された車両の停止位置を特定する停止位置特定手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記停止位置特定手段によって特定された車両の停止位置と自車両との間の距離に基づいて前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させるとよい。そして、この場合には、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以下であるときに、前記停止位置特定手段によって特定された停止位置まで制動力を付与するブレーキ装置を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記ブレーキ装置が付与する制動力によって車両に発生する減速度に基づいて前記ブレーキ装置が制動力の付与を開始する時点および車速を決定し、前記決定した時点における車速と前記車速検出手段によって検出された車速とが一致するように前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させるとよい。
【0015】
これらによれば、車両を停止させる必要が予測される場合に、特定した車両の停止位置まで車両を惰行により継続して減速させている状況において、例えば、ブレーキ装置によって制動力が付与される機会を極めて少なくすることができ、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。すなわち、車両が惰行により減速しながら車両の停止位置まで走行するときに、ブレーキ装置によって制動力が付与された結果、車両が停止位置まで走行できなければ、エンジンを始動させて車両を加速する必要がある。これに対して、例えば、惰行により走行している車両に対して、停止位置近傍でブレーキ装置が制動力を付与すれば、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0016】
また、これらの場合、前方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する前方車間距離検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0017】
これによれば、前方を走行する車両と自車両との間の距離が所定の距離以下となる状況では、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。ここで、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンによるエンジンブレーキを付与することができる。これにより、前方を走行する車両と自車両との間の距離を、エンジンブレーキにより適切に保つことができる。
【0018】
また、これらの場合、後方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する後方車間距離検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記後方車間距離検出手段によって検出された前記後方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0019】
これによれば、後方を走行する車両と自車両との間の距離が所定の距離以下となる状況では、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。このため、エンジンの始動および停止に伴う後方を走行する車両に対する影響を排除することができる。
【0020】
また、これらの場合、車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記路面勾配検出手段によって検出された前記路面の勾配が予め設定された所定の勾配よりも大きいとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0021】
これによれば、車両を効率よく(燃費を悪化させることなく)加速させたり、惰行によって適切に減速させることが困難な状況で、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。これにより、燃費の悪化を抑制することができる。
【0022】
さらに、これらの場合、車両に搭載されたブレーキ装置におけるブレーキブースタ負圧を検出するブースタ負圧検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記ブースタ負圧検出手段によって検出された前記ブレーキブースタ負圧の絶対値が予め設定された所定の値以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0023】
これらによれば、ブレーキ装置のブレーキブースタ負圧(絶対値)が小さいときには、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。これにより、エンジンを始動(作動)させてブレーキ装置のブレーキブースタ負圧を常に適正に確保することができる。
【0024】
また、これらの場合、運転者によって操作されて、前記エンジン作動制御手段による前記エンジンの始動および停止を実施するか否かを選択する選択手段を設けるとよい。これにより、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止に対して、運転者の意思を反映させることができる。
【0025】
さらに、これらの場合、車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達するトランスミッションに設けられたクラッチを、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを停止させたときに開放状態に制御するとともに前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを作動させたときに係合状態に制御するクラッチ制御手段を備えるとよい。また、車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達する無段変速機を、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを始動および停止するときにギア比をアップシフト側に変更するギア比制御手段を備えるとよい。
【0026】
これらによれば、エンジン作動制御手段によってエンジンが停止されたとき、すなわち、惰行により車両を走行させるときには、クラッチが開放状態に制御されてエンジンとトランスミッションとの機械的な連結が解除される。したがって、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて、燃費を向上させることができる。また、無段変速機が車両に搭載されている場合には、エンジン作動制御手段によってエンジンが停止されたとき、すなわち、惰行により車両を走行させるときに、無段変速機におけるギア比がアップシフト側に変更されて大きなギア比に維持される。なお、この場合、ギア比制御手段は、現在の車速から決定される(求められる)ギア比よりも大きなギア比を維持するように無段変速機のギア比を制御するようにしてもよい。したがって、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の車両の制御装置の構成を概略的に示した概略図である。
【図2】図1の電子制御ユニットに接続される各種センサ、駆動回路およびスイッチを概略的に示したブロック図である。
【図3】図1の電子制御ユニットによって実行されるフリーラン制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】定速フリーランおよび停止フリーランを説明するための図である。
【図5】惰行減速度を説明するためのモデル図である。
【図6】車速と走行に伴う抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】本発明のフリーラン制御におけるタイムチャートである。
【図8】停止フリーラン開始車速の決定を説明するための図である。
【図9】本発明の変形例に係り、エンジンの始動および停止の制御デューティー比の変更を説明するための図である。
【図10】本発明の変形例に係り、路面の勾配に応じた惰行減速度の補正を説明するための図である。
【図11】本発明の変形例に係り、停止フリーラン開始タイミングを調整する場合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の制御装置10の構成を概略的に示している。車両の制御装置10は、内燃機関であるエンジン11の始動および停止をフューエルタンク12に設けられたフューエルポンプ13を作動させることによって制御するとともに、エンジン11による駆動力を駆動輪に伝達するトランスミッション14に設けられたクラッチ15の開放状態および係合状態を制御して、エンジン11の停止に伴う車両の惰性による走行(所謂、フリーラン)を可能とするものである。さらに、車両の制御装置10は、クラッチ15の係合状態によるエンジンブレーキおよびフットブレーキ装置16による制動力を付与することにより、フリーランによって走行している車両を停止させるものである。
【0029】
このため、車両の制御装置10は、図1および図2に示すように、エンジン11(フューエルポンプ13)およびクラッチ15の作動を統括的に制御する電子制御ユニット20を備えている。電子制御ユニット20は、CPU、ROM、RAM、タイマなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することにより、エンジン11(フューエルポンプ13)およびクラッチ15の作動を制御する。したがって、電子制御ユニット20は、本発明のエンジン作動制御手段、クラッチ制御手段(ギア比制御手段)を実現するものである。
【0030】
そして、電子制御ユニット20の入力側には、図2に示すように、エンジンスロットル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、エンジン出力トルクセンサ23、ギア比センサ24、ブースタ負圧センサ25、車間距離センサ26、車速センサ27、重量センサ28および路面勾配センサ29が接続されている。エンジンスロットル開度センサ21は、エンジン11に組み付けられた図示を省略するスロットルの開度Soを検出し、この検出したスロットルの開度Soを表すスロットル開度信号を電子制御ユニット20に出力する。エンジン回転数センサ22は、エンジン11の作動回転数Rを検出し、この検出したエンジン回転数Rを表す回転数信号を電子制御ユニット20に出力する。エンジン出力トルクセンサ23は、エンジン11の出力軸トルクTを検出し、この検出した出力軸トルクTを表す出力トルク信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0031】
ギア比センサ24は、トランスミッション14がクラッチ15を有さない無段変速機(CVT)である場合にギアポジションなどに基づいてギア比Geを検出し、この検出したギア比Geを表すギア比信号を電子制御ユニット20に出力する。ブースタ負圧センサ25は、フットブレーキ装置16に設けられた図示しないブースタ内の負圧Bを検出し、この検出した負圧Bを表す負圧信号を電子制御ユニット20に出力する。車間距離センサ26は、自車両と先行車との車間距離Lfおよび自車両と後続車との車間距離Lrをそれぞれ検出し、検出した先行車との車間距離Lfを表す先行車間距離信号および後続車との車間距離Lrを表す後続車間距離信号を電子制御ユニット20に出力する。車速センサ27は、車両の車速Vを検出し、この検出した車速Vを表す車速信号を電子制御ユニット20に出力する。重量センサ28は、車両の重量Wを検出し、この検出した重量Wを表す車両重量信号を電子制御ユニット20に出力する。路面勾配センサ29は、車両が走行している路面の勾配Pを検出し、この検出した勾配Pを表す路面勾配信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0032】
また、電子制御ユニット20の出力側には、エンジン11の図示しないスロットルに設けられたスロットルアクチュエータ11aを作動させるための駆動回路30、エンジン11に燃料を供給するフューエルポンプ13を作動させるための駆動回路31およびクラッチ15を電磁的に作動させるための駆動回路32が接続されている。これにより、電子制御ユニット20は、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを電気的に作動制御することによって、エンジン11の回転数および出力トルクを制御することができる。また、電子制御ユニット20は、駆動回路31を介してフューエルポンプを電気的に制御することによって、エンジン11に燃料を供給して始動させ、また、燃料を遮断(カット)することによりエンジン11を停止させることができる。さらに、電子制御ユニット20は、駆動回路32を介して電磁クラッチ15を電気的に制御することによって、エンジン11による駆動力の駆動輪への伝達を制御することができる。
【0033】
また、電子制御ユニット20には、運転者によって操作されて、車両をフリーランにより走行させるか否かを選択するフリーラン選択スイッチ33が接続されている。フリーラン選択スイッチ33は、運転者によってオン状態が選択されると車両をフリーランにより走行させることが選択されたことを表す信号を電子制御ユニット20に出力し、運転者によってオフ状態が選択されると車両をフリーランにより走行させないことが選択されたことを表す信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0034】
次に、電子制御ユニット20によるフリーラン制御を詳細に説明する。電子制御ユニット20は、図3に示すフリーラン制御プログラムを実行することにより、車両をフリーランにより走行させる。すなわち、電子制御ユニット20(より詳しくは、CPU)は、図3に示すフリーラン制御プログラムを所定の短い時間間隔によりステップS10にて実行を開始する。そして、電子制御ユニット20は、続くステップS11にて、各センサ21〜29によって検出された各検出値So,R,T,Ge,B,Lf,Lr,V,W,Pを表す各信号を入力して、ステップS12に進む。
【0035】
ステップS12においては、電子制御ユニット20は、フリーラン選択スイッチ33が運転者によって操作されて、同スイッチ33が車両をフリーランさせることを表すオン状態に操作されているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット20は、フリーラン選択スイッチ33がオン状態に選択されていれば、運転者が車両をフリーランさせることを意図しているため、「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、フリーラン選択スイッチ33が操作されておらずオフ状態に維持されていれば、運転者が車両をフリーランさせることを意図していないため、電子制御ユニット20は、ステップS12にてフリーラン選択スイッチ33がオン状態に操作されるまで「No」の判定を繰り返す。
【0036】
ステップS13においては、電子制御ユニット20は、車両をフリーランさせるためのフリーラン許可条件が成立しているか否かを判定する。以下、このフリーラン許可条件の成否について詳細に説明する。本実施形態においては、フリーラン許可条件として、現在車両が走行している路面の勾配と、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離と、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離と、ブースタの負圧とがそれぞれ予め設定された所定範囲にあることを条件とする。
【0037】
具体的に、路面の勾配については、前記ステップS11にて路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pが予め設定された下限側所定値Plと上限側所定値Puとによって設定される所定範囲にある条件である。言い換えれば、路面の勾配Pが下限側所定値Pl(所定の勾配)未満であるとき、または、路面の勾配Pが上限側所定値Pu(所定の勾配)よりも大きいとき、すなわち、車両が急坂路上にあるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0038】
また、先行車と自車両との車間距離については、前記ステップS11にて車間距離センサ26から入力した先行車間距離信号によって表される先行車との車間距離Lfが予め設定された所定の距離Llaよりも大きい所定範囲にある条件である。後続車と自車両との車間距離については、前記ステップS11にて車間距離センサ26から入力した後続車間距離信号によって表される後続車との車間距離Lrが予め設定された所定の距離Llbよりも大きい所定範囲にある条件である。言い換えれば、車間距離Lfが所定の距離Lla以下であるとき、または、車間距離Lrが所定の距離Llb以下であるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0039】
さらに、ブースタ負圧については、前記ステップS11にてブースタ負圧センサ25から入力した負圧信号によって表されるブースタの負圧B(絶対値)が予め設定された所定の負圧Buよりも大きい所定範囲にある条件である。言い換えれば、ブースタの負圧B(絶対値)が所定の負圧Bu以下であるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0040】
ここで、本実施形態においては、現在車両が走行している路面の勾配Pと、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離Lfと、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離Lrと、ブースタの負圧Bとが全て予め設定された所定範囲にあることをフリーラン許可条件として実施するが、これらの条件のうちの少なくとも一つをフリーラン許可条件として実施してもよい。この場合、望ましくは、少なくとも、ブースタの負圧Bに関する条件を含んでいるとよい。
【0041】
そして、電子制御ユニット20は、上記各条件の全てが成立するときには、フリーランを許可するために「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、上記各条件のうちの少なくとも一つが不成立であるときには、フリーランを許可しないため、電子制御ユニット20は「No」と判定してステップS21に進み、フリーラン制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間経過の後、ふたたび、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
【0042】
ステップS14においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS11にてエンジンスロットル開度センサ21から入力したスロットル開度信号によって表されるスロットルの開度Soに基づき、車両をフリーランにより走行させる車速域を決定するための目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定する。具体的に、電子制御ユニット20は、図示を省略するが、スロットルの開度と車速との予め設定された関係に基づき、入力したスロットル開度信号によって表されるスロットルの開度Soを用いて、まず、図4に示すように、現在運転者が意図している車速域の下限となる目標下限車速V0を設定する。続いて、このように目標下限車速V0を設定すると、電子制御ユニット20は、設定した目標下限車速V0に対してΔVだけ大きくなるように、より詳しくは、エンジン11による出力トルクと回転数とにより定まる最良燃費領域となるように決定されて車両を走行させる車速域の上限となる目標上限車速V1を設定する。そして、電子制御ユニット20は、目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定すると、ステップS15に進む。
【0043】
ステップS15においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS14にて設定した目標下限車速V0および目標上限車速V1によって決定される車両の車速域内で車両をフリーランにより走行させるための惰行減速度G1(図4参照)を決定する。以下、この惰行減速度G1の決定を詳細に説明する。
【0044】
本発明における車両のフリーランは、エンジン11を始動させることによって車両の車速Vが目標上限車速V1となるまで加速させ、目標上限車速V1まで車両を加速させると、エンジン11を停止させることによって目標下限車速V0となるまで惰性により減速させて車両を走行させるものである。したがって、電子制御ユニット20は、図5に示すモデルの運動方程式に基づく下記式1に従い、車両が惰性により走行するときの惰行減速度G1(負の値)を演算して決定する。
【数1】
ただし、前記式1中のMは車両の質量を表し、gは重力加速度を表すものである。したがって、前記式1中のMgは前記ステップS11にて重量センサ28から入力した車両重量信号によって表される車両の重量Wとなる。また、前記式1中のPは前記ステップS11にて路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配を表す。また、前記式1中のNはタイヤと路面との間に発生するころがり抵抗を表し、kは所定の比例係数を表し、Vは前記ステップS11にて車速センサ27から入力した車速信号によって表される車速を表す。ここで、図6に示すように、ころがり抵抗Nは車速Vに依存することなくほぼ一定の値であり、前記式1中におけるkV2は空気抵抗を表すものであって車速Vの2乗に比例するものである。
【0045】
このように目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定するとともに、惰行減速度G1を決定することにより、電子制御ユニット20は、目標下限車速V0および目標上限車速V1によって決定される一定の車速域内で車両を定速フリーランにより走行させることができる。すなわち、電子制御ユニット20は、図7にタイムチャートを示すように、車両が発進し、車速センサ27によって検出された車速Vが前記一定の車速域内まで到達すると、定速フリーランにより車両を走行させる。この定速フリーランは、エンジン11の始動および停止を繰り返し実行して、前記一定の車速域内で車両を走行させるものである。すなわち、定速フリーランにおいては、電子制御ユニット20は、エンジン11を始動させることによって目標上限車速V1まで加速させると、エンジン11を停止させ、惰行減速度G1によって目標下限車速V0まで減速させる。そして、車速Vが目標下限車速V0まで減速すると、ふたたび、エンジン11を始動させて目標上限車速V1まで加速させる。
【0046】
ここで、この定速フリーランにおいては、電子制御ユニット20は、図7に示すように、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを作動させて開度Soを小さくする(スロットルを閉じる)。そして、電子制御ユニット20は、車両を目標上限車速V1まで加速させるときには、駆動回路31を介してフューエルポンプを作動させてエンジン11に燃料を供給するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を係合状態(on状態)に制御する。これにより、エンジン11は始動されてエンジン出力軸トルクTを発生し、発生したトルクTによって車両が目標上限車速V1まで加速する。
【0047】
一方、電子制御ユニット20は、車両を目標下限車速V0まで減速させるときには、駆動回路31を介してフューエルポンプを停止させてエンジン11への燃料を遮断(所謂、フューエルカット)するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を開放状態(off状態)に制御する。これにより、エンジン11は停止されて車両は惰行減速度G1で目標下限車速V0まで減速する。
【0048】
なお、定速フリーランにおいては、周期的にエンジン11を始動させるため、エンジン11の回転数Rはほぼ一定の回転数を維持する。また、トランスミッション14がCVTである場合には、電子制御ユニット20は、定速フリーランにおいてギア比Geをアップシフト側に変更して大きなギア比(Hi側)に維持する。なお、この場合、電子制御ユニット20は、車速センサ27から入力した車速信号によって表される車速Vから決定される(求められる)ギア比Geよりも大きな所定のギア比を維持するように制御することも可能である。
【0049】
このように、エンジン11の始動と停止を繰り返し行う定速フリーランにおいては、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)が長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)が長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0050】
前記ステップS15において前記式1に従って惰行減速度G1を演算すると、電子制御ユニット20は、ステップS16に進む。ステップS16においては、電子制御ユニット20は、例えば、定速フリーランにより走行中の車両の前方に信号機が存在してこの信号機が赤信号になって停車する必要が予測されるとき、車両が前方の赤信号まで惰性による走行を継続して効率よく停車できるようするための車速Vf(以下、停止フリーラン開始車速Vfという)を演算する。以下、この停止フリーラン開始車速Vfの演算を詳細に説明する。
【0051】
まず、電子制御ユニット20は、停止フリーラン開始車速Vfを演算するにあたり、走行中の車両の前方に信号機が存在しているか否かを判定する。この場合、電子制御ユニット20は、例えば、車両に搭載されたナビゲーション装置(図示省略)を利用して前方に信号機が存在するか否かを判定したり、車両に搭載された路車間通信装置(図示省略)を利用して外部から得られる情報に基づいて前方に信号機が存在するか否かを判定することができる。
【0052】
そして、車両の前方に信号機が存在する場合、車両が信号機に到達するまでの時間(信号到達時間)を原点とし、車速Vが目標下限車速V0になった時点でエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始したときの時間tと信号機までの距離xとの関係は、図8(a)に示すようになる。このとき、制動を開始する(時点t2)までの間に車両が走行する距離xの変化は、惰行減速度G1を用いた下記式2により表すことができる。
【数2】
ただし、図8(a)に示すように、前記式2におけるt2は信号到達時間を原点としたときの制動時間を表し、x2は時点t2における信号機から車両までの距離を表す。
【0053】
一方で、制動を開始したときの時間tと信号機までの距離xとの関係は、時間tと車速Vとの関係として、図8(b)のように示すことができる。この場合、制動を開始する(時点t2)までの間における車両の車速Vの変化は、目標下限車速V0および惰行減速度G1を用いた下記式3により表すことができる。
【数3】
【0054】
そして、前記式2および前記式3について、時間項(t-t2)を消去すると、下記式4が成立する。
【数4】
ここで、前記式4における惰行減速度G1は前記式1により表される。また、前記式4における距離x2は図8(a),(b)に示した下記式5,6から下記式7により表される。
【数5】
【数6】
【数7】
ただし、前記式5〜7におけるG2は、図8(a),(b)に示すように、エンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動に伴って発生する減速度(以下、制動減速度という)である。
【0055】
したがって、前記式1および前記式7を用いることにより、前記式4によれば、車速Vは距離xの関数となり、現在の車両の位置と前方の信号機までの距離xが決まれば、停止フリーラン開始車速Vfを一義的に決定することができる。言い換えれば、前記式4は、停止フリーラン開始車速Vfを演算して決定するための停止フリーラン開始車速関数であり、図4に概略的に示すように、車両の車速Vが前記式4によって決定される停止フリーラン開始車速Vfに到達した時点で車両を停止させるための停止フリーランを開始すれば、信号機手前にてエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始する時点t2(言い換えれば、タイミング)に合わせて、例えば、車速Vを目標下限車速V0に一致させることができて、燃費を最大にすることができる。このように、前記式4(厳密には、前記式4、前記式1および前記式7)に従って停止フリーラン開始車速Vfを演算して決定すると、電子制御ユニット20は、ステップS17に進む。
【0056】
ステップS17においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS11にて入力した車速信号によって表される現在の車速Vが前記ステップS16にて演算して決定した停止フリーラン開始車速Vfであるか否かを判定する。ここで、電子制御ユニット20は、現在の車速Vが停止フリーラン開始車速Vfであるか否かを判定することに合わせて、例えば、路車間通信装置を利用して得られた交通情報に基づき前方に存在する信号機が赤信号となっているか否かを予測判定する。すなわち、電子制御ユニット20は、路車間通信装置を介して得られた交通情報に基づき車両が前方の信号機を通過するタイミングで赤信号になっていると予測される場合には、車両を停止させる必要があると判定する。そして、電子制御ユニット20は、車両を停止させる必要があると予測される状況で、現在の車速Vが停止フリーラン開始車速Vfとなっていれば、「Yes」と判定して、ステップS18に進む。
【0057】
ステップS18においては、電子制御ユニット20は、前方の信号機が赤信号であると予測されるため、車両を停車させる停止フリーランを開始する。すなわち、電子制御ユニット20は、エンジン11を停止させた状態で、図4に示すように、例えば、現在の車速Vが目標下限車速V0となるまで惰行減速度G1で車両を減速させる。そして、電子制御ユニット20は、停止フリーランを開始すると、ステップS20に進む。
【0058】
ここで、この停止フリーランにおいても、電子制御ユニット20は、図7に示すように、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを作動させて開度Soを小さくする(スロットルを閉じる)。そして、電子制御ユニット20は、駆動回路31を介してフューエルポンプを停止させてエンジン11への燃料を遮断(所謂、フューエルカット)するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を開放状態(off状態)に制御する。これにより、エンジン11は停止されて車両は惰行減速度G1で目標下限車速V0まで減速する。なお、停止フリーランにおいては、エンジン11を始動させないため、エンジン11の回転数Rは一様に減少する。また、トランスミッション14がCVTである場合には、電子制御ユニット20は、停止フリーランにおいてギア比Geをアップシフト側に変更して大きなギア比(Hi側)に維持する。このように、エンジン11を停止させる停止フリーランにおいては、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)が車両が停車するまで長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)が長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0059】
一方、前記ステップS17にて、路車間通信装置を介して得られた交通情報に基づき車両が前方の信号機を通過するタイミングで青信号になっていると予測される場合、または、未だ車速Vがフリーラン開始車速Vfとなっていなければ、電子制御ユニット20は、車速Vがフリーラン開始車速Vfとなるまで「No」と判定し続けてステップS19に進む。
【0060】
ステップS19においては、電子制御ユニット20は、上述した定速フリーランと同様に、目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域、言い換えれば、最良燃費領域内で車両を加速させる。ここで、最良燃費領域内で車両を加速させることにより、この加速は、エンジン11が発生する出力軸トルクに対する燃費が最良となる最良燃費曲線に沿ったものとなる。すなわち、最良燃費領域内で車両を加速させることによって、燃費を悪化させることを回避することができる。そして、電子制御ユニット20は、ふたたび、ステップS13に戻り、フリーラン許可条件が成立していればステップS14以降の各ステップ処理を実行し、フリーラン許可条件が成立していなければステップS21にてプログラムの実行を一旦終了する。
【0061】
ステップS20においては、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了させるための停止フリーラン終了条件が成立しているか否かを判定する。以下、この停止フリーラン終了条件の成否について詳細に説明する。本実施形態においては、停止フリーラン終了条件として、現在の車速Vが目標下限車速V0未満となっていること、または、現在車両が走行している路面の勾配、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離およびブースタの負圧のうちのいずれかがそれぞれ予め設定された所定範囲にないことを条件とする。
【0062】
具体的に、車速については、車速センサ27によって検出された車速Vが目標下限車速V0未満であるとき、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。路面の勾配については、路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pが予め設定された下限側所定値Plと上限側所定値Puとによって設定される所定範囲にない条件である。言い換えれば、路面の勾配Pが下限側所定値Pl(所定の勾配)未満であるとき、または、路面の勾配Pが上限側所定値Pu(所定の勾配)よりも大きいとき、すなわち、車両が急坂路上にあるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0063】
また、先行車と自車両との車間距離については、車間距離センサ26から入力した先行車間距離信号によって表される先行車との車間距離Lfが予め設定された所定の距離Llaよりも大きい所定範囲にない条件である。後続車と自車両との車間距離については、車間距離センサ26から入力した後続車間距離信号によって表される後続車との車間距離Lrが予め設定された所定の距離Llbよりも大きい所定範囲にない条件である。言い換えれば、車間距離Lfが所定の距離Lla以下であるとき、または、車間距離Lrが所定の距離Llb以下であるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0064】
さらに、ブースタ負圧については、ブースタ負圧センサ25から入力した負圧信号によって表されるブースタの負圧B(絶対値)が予め設定された所定の負圧Buよりも大きい所定範囲にない条件である。言い換えれば、ブースタの負圧B(絶対値)が所定の負圧Bu以下であるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0065】
そして、電子制御ユニット20は、上記各条件のうちのいずれか一つが成立するときには、停止フリーランを終了するために「Yes」と判定してステップS21に進み、フリーラン制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間経過の後、ふたたび、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。一方、上記各条件の全てが成立するときには、停止フリーランを終了しないため、電子制御ユニット20は「No」と判定し続け、ステップS20を繰り返し実行する。
【0066】
ここで、停止フリーランが終了すると、例えば、図4に示すように、車速Vが目標下限車速V0となった時点t2でエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始して制動減速度G2で車両を減速させて停車させる。一方で、電子制御ユニット20は、エンジン11によるエンジンブレーキによって車両を制動減速度G2で減速させるために、図7に示すように、駆動回路32を介してクラッチ15を係合状態(on状態)に制御する。あるいは、図示しないブレーキアクチュエータを電磁的に制御して、フットブレーキ装置16を自動的に作動させて車両を制動減速度G2で減速させる。そして、車両が信号機の手前で停止すると、例えば、運転者によるブレーキ操作によりフットブレーキ装置16が作動して、車両を停車状態に維持する。
【0067】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、車両が目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域内で走行している状況すなわち定速フリーランでは、電子制御ユニット20は、車速Vが目標下限車速V0以上であればエンジン11を停止して目標下限車速V0まで車両を惰行により減速させることができ、車速Vが目標下限車速V0を下回るとエンジン11を始動させて目標上限車速V1以下まで加速させることができる。このため、車両を目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域内で定速フリーランにより走行させることにより、確実に車両を惰行により走行させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0068】
また、例えば、車両前方に存在する信号機が赤信号であり、走行中の車両を停止させる必要が予測される場合であっても、車両が停止するまで、電子制御ユニット20はエンジン11の停止を継続させて車両を惰行により減速させるすなわち停止フリーランにより走行させることができる。したがって、確実に車両を惰行により走行させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0069】
ここで、例えば、前方の信号機まで車両を停止フリーランにより走行させている状況においては、エンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力が付与される機会を極めて少なくすることができ、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される。すなわち、車両が停止フリーランにより前方の信号機まで走行するときに、エンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力が付与された結果、車両が前方の信号機まで走行できなければ、エンジン11を始動させて車両を加速する必要がある。これに対して、上記実施形態においては、停止フリーランにより車両を信号機近傍まで走行させてエンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力を付与することができるため、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0070】
上記実施形態においては、定速フリーランにおいて、電子制御ユニット20がエンジン11を始動および停止させるときの制御デューティー比を一定として実施した。この場合、図9に示すように、制御デューティー比が細かくなるように変更して実施することも可能である。このように制御デューティー比を細かくすることによって、例えば、最良燃費曲線に沿って車両を加速させるタイミングと、エンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動のタイミングとを合わせやすくなる、すなわち、定速フリーランにおいて惰行減速度G1で減速しているときにエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を行うことがなく、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0071】
また、例えば、渋滞発生時においては、車両を低速で加速または減速する頻度が増加する。この場合、制御デューティー比を細かくすることによって、低速走行時であっても、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0072】
また、上記実施形態においては、前記式1に従って惰行減速度G1を演算して決定する際に路面の勾配Pを用いて演算するように実施した。この場合、図10に示すように、惰行減速度G1の大きさは、現在、車両が登坂路を走行しているか降坂路を走行しているかによって異なる場合がある。このため、路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pを用いることに加えて、例えば、車両に搭載されたナビゲーション装置または路車間通信装置を利用して、現在、車両が登坂路を走行しているか降坂路を走行しているかを判定し、前記式1に従って演算される惰行減速度G1を、登坂路または降坂路に応じて補正するように実施することも可能である。
【0073】
この場合、車両が登坂路を走行している状況では前記式1に従って演算される惰行減速度G1が大きくなるように補正し、車両が降坂路を走行している状況では前記式1に従って演算される惰行減速度G1が小さくなるように補正するとよい。これにより、惰行減速度G1によって車両を目標下限車速V0まで確実に減速させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。したがって、燃費を向上させることができる。
【0074】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20が、例えば、路車間通信装置を利用して外部から得た交通情報に基づき車両の前方に存在する信号機が赤信号であるか否かを予測して判定し、信号機が赤信号であるときには、停止フリーランにより車両を減速させるように実施した。この場合、車両の前方に存在する信号機が赤信号であるか否かを予測して判定するタイミングや車両が走行する道路事情によっては、青信号で通過できると判定したにもかかわらず、信号機が赤信号となる状況が生じる。このような状況においては、車両を定速フリーランから停止フリーランによる走行に移行する際に運転者が違和感を覚える可能性がある。
【0075】
したがって、このような場合には、電子制御ユニット20は、定速フリーランにより車両を走行させているときに、図11に示すように、例えば、駆動回路32を介して一時的にクラッチ15を係合状態に制御してエンジン11によるエンジンブレーキを発生させ、停止フリーランへの移行タイミングを調整することも可能である。これにより、定速フリーランから停止フリーランにスムーズに移行させることができて、運転者が違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20は、フリーラン許可条件が成立しているときに、定速フリーランおよび停止フリーランにより車両を走行させるように実施した。この場合、原則、電子制御ユニット20はフリーラン許可条件が成立しなくなるとエンジン11の始動および停止を禁止する。しかしながら、先行車との間の車間距離Lfが所定の距離Lla以下となる可能性があるときには、例えば、駆動回路32を介して一時的にクラッチ15を係合状態に制御してエンジン11によるエンジンブレーキを発生させて、車間距離Lfを十分に確保するように実施してもよい。これにより、定速フリーランおよび停止フリーランを継続することができるため、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。したがって、燃費を向上させることができる。
【0077】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20は、フリーラン許可条件が成立しているときに、定速フリーランおよび停止フリーランにより車両を走行させるように実施した。この場合、上記説明したフリーラン許可条件に代えて、または、加えて、例えば、自車両に対して後続車が存在する場合にはフリーランを許可しない条件、車両がエンジン11によるエンジンブレーキや惰行減速度G1によって適切に減速できない急降坂路を走行している場合にはフリーランを許可しない条件、エンジン11を始動させても最適燃費曲線に沿って加速できない急登坂路を走行している場合にはフリーランを許可しない条件などを設定して実施することも可能である。このような条件を設けることにより、定速フリーランおよび停止フリーランを適切に実施することができて、燃費を向上させることができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、惰行減速度G1を演算する前記式1において、ころがり抵抗Nが一定の値であるとして実施した。しかし、ころがり抵抗Nについては、例えば、タイヤの空気圧が増減することによって変化する可能性がある。これにより、演算される惰行減速度G1および停止フリーラン開始車速Vfの精度が悪化することが懸念される。このため、電子制御ユニット20は、例えば、ナビゲーション装置を利用して現在走行している道路を特定し、過去に走行した際の定速フリーランで目標下限車速V0まで減速できたにもかかわらず、今回、同一の道路における定速フリーランで目標下限車速V0まで減速できない場合には、ころがり抵抗Nの値を修正するとともに惰行減速度G1を用いて停止フリーラン開始車速Vfを演算する前記式4(停止フリーラン開始車速関数)を補正することができる。この場合、ころがり抵抗Nが変化したことを運転者に報知することもできる。
【0079】
さらに、上記実施形態においては、制動減速度G2がエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動に伴って発生する減速度であるとし、その値が一定であるとして実施した。この場合、制動減速度G2の大きさに関しては、運転者の好みに合わせて変更することが可能である。具体的には、電子制御ユニット20は、運転者がフットブレーキ装置16を操作して車両を停止させるときの制動タイミングや減速度の大きさを検知して記憶する。そして、電子制御ユニット20は、記憶した制動タイミングや減速度の大きさを停止フリーランにより車両を停止させるときの制動減速度G2に反映させる。これにより、停止フリーランにより車両を停止させる場合に、運転者の好みに合わせて制動減速度G2を発生させることができるため、運転者が覚える違和感を抑制することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…車両の制御装置、11…エンジン、12…フューエルタンク、13…フューエルポンプ、14…トランスミッション、15…クラッチ、16…フットブレーキ装置、20…電子制御ユニット、21…エンジンスロットル開度センサ、22…エンジン回転数センサ、23…エンジン出力トルクセンサ、24…ギア比センサ、25…ブースタ負圧センサ、26…車間距離センサ、27…車速センサ、28…重量センサ、29…路面勾配センサ、30,31,32…駆動回路、33…フリーラン選択スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行している車両を制御する車両の制御装置に関し、特に、車両に搭載されたエンジンの始動または停止を制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関としてのエンジンを搭載した車両の燃料消費率(所謂、燃費)を向上させるために、種々の提案が盛んになされている。例えば、下記特許文献1には、クルーズコントロール中においてフューエルカット制御領域を拡大することによって車両の燃費を向上させる車両用燃料供給制限装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献2には、交差点から車両本体の現在位置までの距離を加味して、車両が制動動作中であると判断される場合に、フューエルカットとクラッチオフを行うことによって燃費を向上させる自動車用停止制御装置が開示されている。
【0003】
また、例えば、下記引用文献3には、前方の信号機の赤信号による車両の停止回数を低減させるとともに、前方の信号機を通過できないときにはエンジン停止を行う車両の制御装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献4には、車両の前方の信号が赤信号であるか否かを認識し、信号が赤信号であり、低速度で走行している場合には、エンジンによる駆動を禁止するハイブリッド車の駆動制御装置が開示されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献5には、例えば、渋滞などによって車両が継続して停止する継続時間を推定し、継続時間が所定時間以上のときにのみ自動的にエンジンを停止させる一方で、エンジンを停止させることが適当ではない状況では継続時間が所定時間以上であってもエンジンを自動的に停止させない車両のエンジン自動停止装置が開示されている。また、例えば、下記特許文献6には、エンジンを自動的に停止させる際にブースタ負圧を判定し、ブースタ負圧が所定値よりも低下しているときには、エンジンを自動的に停止させないエンジン自動停止始動制御装置が開示されている。さらに、例えば、下記特許文献7には、運転者による低燃費モードの設定に応じて、あるいは、先行車および後続車との位置関係に応じてエンジン回転数の上限値を変更させて燃費を向上させるクルーズコントロール装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−108798号公報
【特許文献2】特開平8−337135号公報
【特許文献3】特開2008−296798号公報
【特許文献4】特開2004−239127号公報
【特許文献5】特許2000−120461号公報
【特許文献6】特開2006−200370号公報
【特許文献7】特開2003−343305号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記従来の各装置のように、例えば、フューエルカットによって燃費を向上させるためには、フューエルカット時間を長くする、言い換えれば、エンジンが駆動力を発生させないで惰行により車両を走行させる時間や距離を長くするほど有効である。しかしながら、車両走行中においては、例えば、渋滞や信号機の存在などによって十分なフューエルカット時間すなわち惰行による走行時間や走行距離を確保できない場合がある。この場合、燃費向上効果が十分に得られない可能性がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、走行中の車両において惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる車両の制御装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、少なくとも走行中の車両のエンジンを始動または停止制御する車両の制御装置において、走行中の車両の車速を検出する車速検出手段と、走行中の車両の車速域を決定する下限側車速と上限側車速とを設定する車速域設定手段と、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以上であるときに前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるとともに、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速未満となったときに前記エンジンを始動させて車両を加速させ、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるエンジン作動制御手段とを備えたことにある。
【0009】
この場合、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるとき、運転者による車両の加速操作に関わらず、前記エンジンを始動または停止させるとよい。また、この場合、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるときの減速度を、車両が走行している路面の勾配に応じて補正するとよい。
【0010】
これらによれば、車両が下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で走行している状況では、エンジン作動制御手段は、車速が下限側車速以上であればエンジンを停止して下限側車速まで車両を惰行により減速させることができ、車速が下限側車速を下回るとエンジンを始動させて上限側車速以下まで加速させることができる。このため、車両を下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で走行させることにより、確実に車両を惰行により走行させることができて惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0011】
また、この場合、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定する停止予測判定手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されて車両が停止するとき、前記エンジンの停止を継続して車両を惰行により減速させるとよい。そして、この場合には、前記停止予測判定手段は、例えば、車両の外部から提供される交通情報に基づいて、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定するとよく、前記交通情報は、例えば、走行中の車両の前方に存在する信号機が赤信号である情報、走行中の車両の前方に発生した渋滞情報および走行中の車両の前方にカーブが存在する情報のうちの少なくとも一つであるとよい。また、この場合には、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されたとき、前記エンジンの始動および停止の制御デューティー比を小さくするとよい。
【0012】
これらによれば、走行中の車両を停止させる必要が予測される場合、例えば、車両前方に存在する信号機が赤信号である場合や、前方に渋滞が発生している場合、前方にカーブが存在する場合などであっても、車両が停止するまで、エンジン作動制御手段はエンジンの停止を継続させて車両を惰行により減速させることができる。したがって、確実に車両を惰行により走行させることができて惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0013】
また、車両を停止させる必要が予測されるときに制御デューティー比を小さくすることにより、エンジンを停止させて惰行により車両を走行させる頻度が相対的に多くなるため、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0014】
また、これらの場合、前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定された車両の停止位置を特定する停止位置特定手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記停止位置特定手段によって特定された車両の停止位置と自車両との間の距離に基づいて前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させるとよい。そして、この場合には、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以下であるときに、前記停止位置特定手段によって特定された停止位置まで制動力を付与するブレーキ装置を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記ブレーキ装置が付与する制動力によって車両に発生する減速度に基づいて前記ブレーキ装置が制動力の付与を開始する時点および車速を決定し、前記決定した時点における車速と前記車速検出手段によって検出された車速とが一致するように前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させるとよい。
【0015】
これらによれば、車両を停止させる必要が予測される場合に、特定した車両の停止位置まで車両を惰行により継続して減速させている状況において、例えば、ブレーキ装置によって制動力が付与される機会を極めて少なくすることができ、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。すなわち、車両が惰行により減速しながら車両の停止位置まで走行するときに、ブレーキ装置によって制動力が付与された結果、車両が停止位置まで走行できなければ、エンジンを始動させて車両を加速する必要がある。これに対して、例えば、惰行により走行している車両に対して、停止位置近傍でブレーキ装置が制動力を付与すれば、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0016】
また、これらの場合、前方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する前方車間距離検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0017】
これによれば、前方を走行する車両と自車両との間の距離が所定の距離以下となる状況では、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。ここで、前記エンジン作動制御手段は、例えば、前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンによるエンジンブレーキを付与することができる。これにより、前方を走行する車両と自車両との間の距離を、エンジンブレーキにより適切に保つことができる。
【0018】
また、これらの場合、後方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する後方車間距離検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記後方車間距離検出手段によって検出された前記後方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0019】
これによれば、後方を走行する車両と自車両との間の距離が所定の距離以下となる状況では、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。このため、エンジンの始動および停止に伴う後方を走行する車両に対する影響を排除することができる。
【0020】
また、これらの場合、車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記路面勾配検出手段によって検出された前記路面の勾配が予め設定された所定の勾配よりも大きいとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0021】
これによれば、車両を効率よく(燃費を悪化させることなく)加速させたり、惰行によって適切に減速させることが困難な状況で、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。これにより、燃費の悪化を抑制することができる。
【0022】
さらに、これらの場合、車両に搭載されたブレーキ装置におけるブレーキブースタ負圧を検出するブースタ負圧検出手段を備え、前記エンジン作動制御手段は、前記ブースタ負圧検出手段によって検出された前記ブレーキブースタ負圧の絶対値が予め設定された所定の値以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止するとよい。
【0023】
これらによれば、ブレーキ装置のブレーキブースタ負圧(絶対値)が小さいときには、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止を禁止することができる。これにより、エンジンを始動(作動)させてブレーキ装置のブレーキブースタ負圧を常に適正に確保することができる。
【0024】
また、これらの場合、運転者によって操作されて、前記エンジン作動制御手段による前記エンジンの始動および停止を実施するか否かを選択する選択手段を設けるとよい。これにより、エンジン作動制御手段によるエンジンの始動および停止に対して、運転者の意思を反映させることができる。
【0025】
さらに、これらの場合、車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達するトランスミッションに設けられたクラッチを、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを停止させたときに開放状態に制御するとともに前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを作動させたときに係合状態に制御するクラッチ制御手段を備えるとよい。また、車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達する無段変速機を、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを始動および停止するときにギア比をアップシフト側に変更するギア比制御手段を備えるとよい。
【0026】
これらによれば、エンジン作動制御手段によってエンジンが停止されたとき、すなわち、惰行により車両を走行させるときには、クラッチが開放状態に制御されてエンジンとトランスミッションとの機械的な連結が解除される。したがって、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて、燃費を向上させることができる。また、無段変速機が車両に搭載されている場合には、エンジン作動制御手段によってエンジンが停止されたとき、すなわち、惰行により車両を走行させるときに、無段変速機におけるギア比がアップシフト側に変更されて大きなギア比に維持される。なお、この場合、ギア比制御手段は、現在の車速から決定される(求められる)ギア比よりも大きなギア比を維持するように無段変速機のギア比を制御するようにしてもよい。したがって、惰行による走行時間や走行距離を長く確保できて、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の車両の制御装置の構成を概略的に示した概略図である。
【図2】図1の電子制御ユニットに接続される各種センサ、駆動回路およびスイッチを概略的に示したブロック図である。
【図3】図1の電子制御ユニットによって実行されるフリーラン制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】定速フリーランおよび停止フリーランを説明するための図である。
【図5】惰行減速度を説明するためのモデル図である。
【図6】車速と走行に伴う抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】本発明のフリーラン制御におけるタイムチャートである。
【図8】停止フリーラン開始車速の決定を説明するための図である。
【図9】本発明の変形例に係り、エンジンの始動および停止の制御デューティー比の変更を説明するための図である。
【図10】本発明の変形例に係り、路面の勾配に応じた惰行減速度の補正を説明するための図である。
【図11】本発明の変形例に係り、停止フリーラン開始タイミングを調整する場合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の制御装置10の構成を概略的に示している。車両の制御装置10は、内燃機関であるエンジン11の始動および停止をフューエルタンク12に設けられたフューエルポンプ13を作動させることによって制御するとともに、エンジン11による駆動力を駆動輪に伝達するトランスミッション14に設けられたクラッチ15の開放状態および係合状態を制御して、エンジン11の停止に伴う車両の惰性による走行(所謂、フリーラン)を可能とするものである。さらに、車両の制御装置10は、クラッチ15の係合状態によるエンジンブレーキおよびフットブレーキ装置16による制動力を付与することにより、フリーランによって走行している車両を停止させるものである。
【0029】
このため、車両の制御装置10は、図1および図2に示すように、エンジン11(フューエルポンプ13)およびクラッチ15の作動を統括的に制御する電子制御ユニット20を備えている。電子制御ユニット20は、CPU、ROM、RAM、タイマなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することにより、エンジン11(フューエルポンプ13)およびクラッチ15の作動を制御する。したがって、電子制御ユニット20は、本発明のエンジン作動制御手段、クラッチ制御手段(ギア比制御手段)を実現するものである。
【0030】
そして、電子制御ユニット20の入力側には、図2に示すように、エンジンスロットル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、エンジン出力トルクセンサ23、ギア比センサ24、ブースタ負圧センサ25、車間距離センサ26、車速センサ27、重量センサ28および路面勾配センサ29が接続されている。エンジンスロットル開度センサ21は、エンジン11に組み付けられた図示を省略するスロットルの開度Soを検出し、この検出したスロットルの開度Soを表すスロットル開度信号を電子制御ユニット20に出力する。エンジン回転数センサ22は、エンジン11の作動回転数Rを検出し、この検出したエンジン回転数Rを表す回転数信号を電子制御ユニット20に出力する。エンジン出力トルクセンサ23は、エンジン11の出力軸トルクTを検出し、この検出した出力軸トルクTを表す出力トルク信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0031】
ギア比センサ24は、トランスミッション14がクラッチ15を有さない無段変速機(CVT)である場合にギアポジションなどに基づいてギア比Geを検出し、この検出したギア比Geを表すギア比信号を電子制御ユニット20に出力する。ブースタ負圧センサ25は、フットブレーキ装置16に設けられた図示しないブースタ内の負圧Bを検出し、この検出した負圧Bを表す負圧信号を電子制御ユニット20に出力する。車間距離センサ26は、自車両と先行車との車間距離Lfおよび自車両と後続車との車間距離Lrをそれぞれ検出し、検出した先行車との車間距離Lfを表す先行車間距離信号および後続車との車間距離Lrを表す後続車間距離信号を電子制御ユニット20に出力する。車速センサ27は、車両の車速Vを検出し、この検出した車速Vを表す車速信号を電子制御ユニット20に出力する。重量センサ28は、車両の重量Wを検出し、この検出した重量Wを表す車両重量信号を電子制御ユニット20に出力する。路面勾配センサ29は、車両が走行している路面の勾配Pを検出し、この検出した勾配Pを表す路面勾配信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0032】
また、電子制御ユニット20の出力側には、エンジン11の図示しないスロットルに設けられたスロットルアクチュエータ11aを作動させるための駆動回路30、エンジン11に燃料を供給するフューエルポンプ13を作動させるための駆動回路31およびクラッチ15を電磁的に作動させるための駆動回路32が接続されている。これにより、電子制御ユニット20は、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを電気的に作動制御することによって、エンジン11の回転数および出力トルクを制御することができる。また、電子制御ユニット20は、駆動回路31を介してフューエルポンプを電気的に制御することによって、エンジン11に燃料を供給して始動させ、また、燃料を遮断(カット)することによりエンジン11を停止させることができる。さらに、電子制御ユニット20は、駆動回路32を介して電磁クラッチ15を電気的に制御することによって、エンジン11による駆動力の駆動輪への伝達を制御することができる。
【0033】
また、電子制御ユニット20には、運転者によって操作されて、車両をフリーランにより走行させるか否かを選択するフリーラン選択スイッチ33が接続されている。フリーラン選択スイッチ33は、運転者によってオン状態が選択されると車両をフリーランにより走行させることが選択されたことを表す信号を電子制御ユニット20に出力し、運転者によってオフ状態が選択されると車両をフリーランにより走行させないことが選択されたことを表す信号を電子制御ユニット20に出力する。
【0034】
次に、電子制御ユニット20によるフリーラン制御を詳細に説明する。電子制御ユニット20は、図3に示すフリーラン制御プログラムを実行することにより、車両をフリーランにより走行させる。すなわち、電子制御ユニット20(より詳しくは、CPU)は、図3に示すフリーラン制御プログラムを所定の短い時間間隔によりステップS10にて実行を開始する。そして、電子制御ユニット20は、続くステップS11にて、各センサ21〜29によって検出された各検出値So,R,T,Ge,B,Lf,Lr,V,W,Pを表す各信号を入力して、ステップS12に進む。
【0035】
ステップS12においては、電子制御ユニット20は、フリーラン選択スイッチ33が運転者によって操作されて、同スイッチ33が車両をフリーランさせることを表すオン状態に操作されているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット20は、フリーラン選択スイッチ33がオン状態に選択されていれば、運転者が車両をフリーランさせることを意図しているため、「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、フリーラン選択スイッチ33が操作されておらずオフ状態に維持されていれば、運転者が車両をフリーランさせることを意図していないため、電子制御ユニット20は、ステップS12にてフリーラン選択スイッチ33がオン状態に操作されるまで「No」の判定を繰り返す。
【0036】
ステップS13においては、電子制御ユニット20は、車両をフリーランさせるためのフリーラン許可条件が成立しているか否かを判定する。以下、このフリーラン許可条件の成否について詳細に説明する。本実施形態においては、フリーラン許可条件として、現在車両が走行している路面の勾配と、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離と、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離と、ブースタの負圧とがそれぞれ予め設定された所定範囲にあることを条件とする。
【0037】
具体的に、路面の勾配については、前記ステップS11にて路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pが予め設定された下限側所定値Plと上限側所定値Puとによって設定される所定範囲にある条件である。言い換えれば、路面の勾配Pが下限側所定値Pl(所定の勾配)未満であるとき、または、路面の勾配Pが上限側所定値Pu(所定の勾配)よりも大きいとき、すなわち、車両が急坂路上にあるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0038】
また、先行車と自車両との車間距離については、前記ステップS11にて車間距離センサ26から入力した先行車間距離信号によって表される先行車との車間距離Lfが予め設定された所定の距離Llaよりも大きい所定範囲にある条件である。後続車と自車両との車間距離については、前記ステップS11にて車間距離センサ26から入力した後続車間距離信号によって表される後続車との車間距離Lrが予め設定された所定の距離Llbよりも大きい所定範囲にある条件である。言い換えれば、車間距離Lfが所定の距離Lla以下であるとき、または、車間距離Lrが所定の距離Llb以下であるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0039】
さらに、ブースタ負圧については、前記ステップS11にてブースタ負圧センサ25から入力した負圧信号によって表されるブースタの負圧B(絶対値)が予め設定された所定の負圧Buよりも大きい所定範囲にある条件である。言い換えれば、ブースタの負圧B(絶対値)が所定の負圧Bu以下であるときには、電子制御ユニット20は、エンジン11の始動および停止を禁止してフリーランを許可しない。
【0040】
ここで、本実施形態においては、現在車両が走行している路面の勾配Pと、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離Lfと、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離Lrと、ブースタの負圧Bとが全て予め設定された所定範囲にあることをフリーラン許可条件として実施するが、これらの条件のうちの少なくとも一つをフリーラン許可条件として実施してもよい。この場合、望ましくは、少なくとも、ブースタの負圧Bに関する条件を含んでいるとよい。
【0041】
そして、電子制御ユニット20は、上記各条件の全てが成立するときには、フリーランを許可するために「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、上記各条件のうちの少なくとも一つが不成立であるときには、フリーランを許可しないため、電子制御ユニット20は「No」と判定してステップS21に進み、フリーラン制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間経過の後、ふたたび、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
【0042】
ステップS14においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS11にてエンジンスロットル開度センサ21から入力したスロットル開度信号によって表されるスロットルの開度Soに基づき、車両をフリーランにより走行させる車速域を決定するための目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定する。具体的に、電子制御ユニット20は、図示を省略するが、スロットルの開度と車速との予め設定された関係に基づき、入力したスロットル開度信号によって表されるスロットルの開度Soを用いて、まず、図4に示すように、現在運転者が意図している車速域の下限となる目標下限車速V0を設定する。続いて、このように目標下限車速V0を設定すると、電子制御ユニット20は、設定した目標下限車速V0に対してΔVだけ大きくなるように、より詳しくは、エンジン11による出力トルクと回転数とにより定まる最良燃費領域となるように決定されて車両を走行させる車速域の上限となる目標上限車速V1を設定する。そして、電子制御ユニット20は、目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定すると、ステップS15に進む。
【0043】
ステップS15においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS14にて設定した目標下限車速V0および目標上限車速V1によって決定される車両の車速域内で車両をフリーランにより走行させるための惰行減速度G1(図4参照)を決定する。以下、この惰行減速度G1の決定を詳細に説明する。
【0044】
本発明における車両のフリーランは、エンジン11を始動させることによって車両の車速Vが目標上限車速V1となるまで加速させ、目標上限車速V1まで車両を加速させると、エンジン11を停止させることによって目標下限車速V0となるまで惰性により減速させて車両を走行させるものである。したがって、電子制御ユニット20は、図5に示すモデルの運動方程式に基づく下記式1に従い、車両が惰性により走行するときの惰行減速度G1(負の値)を演算して決定する。
【数1】
ただし、前記式1中のMは車両の質量を表し、gは重力加速度を表すものである。したがって、前記式1中のMgは前記ステップS11にて重量センサ28から入力した車両重量信号によって表される車両の重量Wとなる。また、前記式1中のPは前記ステップS11にて路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配を表す。また、前記式1中のNはタイヤと路面との間に発生するころがり抵抗を表し、kは所定の比例係数を表し、Vは前記ステップS11にて車速センサ27から入力した車速信号によって表される車速を表す。ここで、図6に示すように、ころがり抵抗Nは車速Vに依存することなくほぼ一定の値であり、前記式1中におけるkV2は空気抵抗を表すものであって車速Vの2乗に比例するものである。
【0045】
このように目標下限車速V0および目標上限車速V1を設定するとともに、惰行減速度G1を決定することにより、電子制御ユニット20は、目標下限車速V0および目標上限車速V1によって決定される一定の車速域内で車両を定速フリーランにより走行させることができる。すなわち、電子制御ユニット20は、図7にタイムチャートを示すように、車両が発進し、車速センサ27によって検出された車速Vが前記一定の車速域内まで到達すると、定速フリーランにより車両を走行させる。この定速フリーランは、エンジン11の始動および停止を繰り返し実行して、前記一定の車速域内で車両を走行させるものである。すなわち、定速フリーランにおいては、電子制御ユニット20は、エンジン11を始動させることによって目標上限車速V1まで加速させると、エンジン11を停止させ、惰行減速度G1によって目標下限車速V0まで減速させる。そして、車速Vが目標下限車速V0まで減速すると、ふたたび、エンジン11を始動させて目標上限車速V1まで加速させる。
【0046】
ここで、この定速フリーランにおいては、電子制御ユニット20は、図7に示すように、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを作動させて開度Soを小さくする(スロットルを閉じる)。そして、電子制御ユニット20は、車両を目標上限車速V1まで加速させるときには、駆動回路31を介してフューエルポンプを作動させてエンジン11に燃料を供給するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を係合状態(on状態)に制御する。これにより、エンジン11は始動されてエンジン出力軸トルクTを発生し、発生したトルクTによって車両が目標上限車速V1まで加速する。
【0047】
一方、電子制御ユニット20は、車両を目標下限車速V0まで減速させるときには、駆動回路31を介してフューエルポンプを停止させてエンジン11への燃料を遮断(所謂、フューエルカット)するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を開放状態(off状態)に制御する。これにより、エンジン11は停止されて車両は惰行減速度G1で目標下限車速V0まで減速する。
【0048】
なお、定速フリーランにおいては、周期的にエンジン11を始動させるため、エンジン11の回転数Rはほぼ一定の回転数を維持する。また、トランスミッション14がCVTである場合には、電子制御ユニット20は、定速フリーランにおいてギア比Geをアップシフト側に変更して大きなギア比(Hi側)に維持する。なお、この場合、電子制御ユニット20は、車速センサ27から入力した車速信号によって表される車速Vから決定される(求められる)ギア比Geよりも大きな所定のギア比を維持するように制御することも可能である。
【0049】
このように、エンジン11の始動と停止を繰り返し行う定速フリーランにおいては、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)が長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)が長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0050】
前記ステップS15において前記式1に従って惰行減速度G1を演算すると、電子制御ユニット20は、ステップS16に進む。ステップS16においては、電子制御ユニット20は、例えば、定速フリーランにより走行中の車両の前方に信号機が存在してこの信号機が赤信号になって停車する必要が予測されるとき、車両が前方の赤信号まで惰性による走行を継続して効率よく停車できるようするための車速Vf(以下、停止フリーラン開始車速Vfという)を演算する。以下、この停止フリーラン開始車速Vfの演算を詳細に説明する。
【0051】
まず、電子制御ユニット20は、停止フリーラン開始車速Vfを演算するにあたり、走行中の車両の前方に信号機が存在しているか否かを判定する。この場合、電子制御ユニット20は、例えば、車両に搭載されたナビゲーション装置(図示省略)を利用して前方に信号機が存在するか否かを判定したり、車両に搭載された路車間通信装置(図示省略)を利用して外部から得られる情報に基づいて前方に信号機が存在するか否かを判定することができる。
【0052】
そして、車両の前方に信号機が存在する場合、車両が信号機に到達するまでの時間(信号到達時間)を原点とし、車速Vが目標下限車速V0になった時点でエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始したときの時間tと信号機までの距離xとの関係は、図8(a)に示すようになる。このとき、制動を開始する(時点t2)までの間に車両が走行する距離xの変化は、惰行減速度G1を用いた下記式2により表すことができる。
【数2】
ただし、図8(a)に示すように、前記式2におけるt2は信号到達時間を原点としたときの制動時間を表し、x2は時点t2における信号機から車両までの距離を表す。
【0053】
一方で、制動を開始したときの時間tと信号機までの距離xとの関係は、時間tと車速Vとの関係として、図8(b)のように示すことができる。この場合、制動を開始する(時点t2)までの間における車両の車速Vの変化は、目標下限車速V0および惰行減速度G1を用いた下記式3により表すことができる。
【数3】
【0054】
そして、前記式2および前記式3について、時間項(t-t2)を消去すると、下記式4が成立する。
【数4】
ここで、前記式4における惰行減速度G1は前記式1により表される。また、前記式4における距離x2は図8(a),(b)に示した下記式5,6から下記式7により表される。
【数5】
【数6】
【数7】
ただし、前記式5〜7におけるG2は、図8(a),(b)に示すように、エンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動に伴って発生する減速度(以下、制動減速度という)である。
【0055】
したがって、前記式1および前記式7を用いることにより、前記式4によれば、車速Vは距離xの関数となり、現在の車両の位置と前方の信号機までの距離xが決まれば、停止フリーラン開始車速Vfを一義的に決定することができる。言い換えれば、前記式4は、停止フリーラン開始車速Vfを演算して決定するための停止フリーラン開始車速関数であり、図4に概略的に示すように、車両の車速Vが前記式4によって決定される停止フリーラン開始車速Vfに到達した時点で車両を停止させるための停止フリーランを開始すれば、信号機手前にてエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始する時点t2(言い換えれば、タイミング)に合わせて、例えば、車速Vを目標下限車速V0に一致させることができて、燃費を最大にすることができる。このように、前記式4(厳密には、前記式4、前記式1および前記式7)に従って停止フリーラン開始車速Vfを演算して決定すると、電子制御ユニット20は、ステップS17に進む。
【0056】
ステップS17においては、電子制御ユニット20は、前記ステップS11にて入力した車速信号によって表される現在の車速Vが前記ステップS16にて演算して決定した停止フリーラン開始車速Vfであるか否かを判定する。ここで、電子制御ユニット20は、現在の車速Vが停止フリーラン開始車速Vfであるか否かを判定することに合わせて、例えば、路車間通信装置を利用して得られた交通情報に基づき前方に存在する信号機が赤信号となっているか否かを予測判定する。すなわち、電子制御ユニット20は、路車間通信装置を介して得られた交通情報に基づき車両が前方の信号機を通過するタイミングで赤信号になっていると予測される場合には、車両を停止させる必要があると判定する。そして、電子制御ユニット20は、車両を停止させる必要があると予測される状況で、現在の車速Vが停止フリーラン開始車速Vfとなっていれば、「Yes」と判定して、ステップS18に進む。
【0057】
ステップS18においては、電子制御ユニット20は、前方の信号機が赤信号であると予測されるため、車両を停車させる停止フリーランを開始する。すなわち、電子制御ユニット20は、エンジン11を停止させた状態で、図4に示すように、例えば、現在の車速Vが目標下限車速V0となるまで惰行減速度G1で車両を減速させる。そして、電子制御ユニット20は、停止フリーランを開始すると、ステップS20に進む。
【0058】
ここで、この停止フリーランにおいても、電子制御ユニット20は、図7に示すように、駆動回路30を介してスロットルアクチュエータを作動させて開度Soを小さくする(スロットルを閉じる)。そして、電子制御ユニット20は、駆動回路31を介してフューエルポンプを停止させてエンジン11への燃料を遮断(所謂、フューエルカット)するとともに、駆動回路32を介してクラッチ15を開放状態(off状態)に制御する。これにより、エンジン11は停止されて車両は惰行減速度G1で目標下限車速V0まで減速する。なお、停止フリーランにおいては、エンジン11を始動させないため、エンジン11の回転数Rは一様に減少する。また、トランスミッション14がCVTである場合には、電子制御ユニット20は、停止フリーランにおいてギア比Geをアップシフト側に変更して大きなギア比(Hi側)に維持する。このように、エンジン11を停止させる停止フリーランにおいては、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)が車両が停車するまで長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)が長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0059】
一方、前記ステップS17にて、路車間通信装置を介して得られた交通情報に基づき車両が前方の信号機を通過するタイミングで青信号になっていると予測される場合、または、未だ車速Vがフリーラン開始車速Vfとなっていなければ、電子制御ユニット20は、車速Vがフリーラン開始車速Vfとなるまで「No」と判定し続けてステップS19に進む。
【0060】
ステップS19においては、電子制御ユニット20は、上述した定速フリーランと同様に、目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域、言い換えれば、最良燃費領域内で車両を加速させる。ここで、最良燃費領域内で車両を加速させることにより、この加速は、エンジン11が発生する出力軸トルクに対する燃費が最良となる最良燃費曲線に沿ったものとなる。すなわち、最良燃費領域内で車両を加速させることによって、燃費を悪化させることを回避することができる。そして、電子制御ユニット20は、ふたたび、ステップS13に戻り、フリーラン許可条件が成立していればステップS14以降の各ステップ処理を実行し、フリーラン許可条件が成立していなければステップS21にてプログラムの実行を一旦終了する。
【0061】
ステップS20においては、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了させるための停止フリーラン終了条件が成立しているか否かを判定する。以下、この停止フリーラン終了条件の成否について詳細に説明する。本実施形態においては、停止フリーラン終了条件として、現在の車速Vが目標下限車速V0未満となっていること、または、現在車両が走行している路面の勾配、前方を走行する車両(先行車)と自車両との車間距離、後方を走行する車両(後続車)と自車両との車間距離およびブースタの負圧のうちのいずれかがそれぞれ予め設定された所定範囲にないことを条件とする。
【0062】
具体的に、車速については、車速センサ27によって検出された車速Vが目標下限車速V0未満であるとき、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。路面の勾配については、路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pが予め設定された下限側所定値Plと上限側所定値Puとによって設定される所定範囲にない条件である。言い換えれば、路面の勾配Pが下限側所定値Pl(所定の勾配)未満であるとき、または、路面の勾配Pが上限側所定値Pu(所定の勾配)よりも大きいとき、すなわち、車両が急坂路上にあるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0063】
また、先行車と自車両との車間距離については、車間距離センサ26から入力した先行車間距離信号によって表される先行車との車間距離Lfが予め設定された所定の距離Llaよりも大きい所定範囲にない条件である。後続車と自車両との車間距離については、車間距離センサ26から入力した後続車間距離信号によって表される後続車との車間距離Lrが予め設定された所定の距離Llbよりも大きい所定範囲にない条件である。言い換えれば、車間距離Lfが所定の距離Lla以下であるとき、または、車間距離Lrが所定の距離Llb以下であるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0064】
さらに、ブースタ負圧については、ブースタ負圧センサ25から入力した負圧信号によって表されるブースタの負圧B(絶対値)が予め設定された所定の負圧Buよりも大きい所定範囲にない条件である。言い換えれば、ブースタの負圧B(絶対値)が所定の負圧Bu以下であるときには、電子制御ユニット20は、停止フリーランを終了する。
【0065】
そして、電子制御ユニット20は、上記各条件のうちのいずれか一つが成立するときには、停止フリーランを終了するために「Yes」と判定してステップS21に進み、フリーラン制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間経過の後、ふたたび、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。一方、上記各条件の全てが成立するときには、停止フリーランを終了しないため、電子制御ユニット20は「No」と判定し続け、ステップS20を繰り返し実行する。
【0066】
ここで、停止フリーランが終了すると、例えば、図4に示すように、車速Vが目標下限車速V0となった時点t2でエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を開始して制動減速度G2で車両を減速させて停車させる。一方で、電子制御ユニット20は、エンジン11によるエンジンブレーキによって車両を制動減速度G2で減速させるために、図7に示すように、駆動回路32を介してクラッチ15を係合状態(on状態)に制御する。あるいは、図示しないブレーキアクチュエータを電磁的に制御して、フットブレーキ装置16を自動的に作動させて車両を制動減速度G2で減速させる。そして、車両が信号機の手前で停止すると、例えば、運転者によるブレーキ操作によりフットブレーキ装置16が作動して、車両を停車状態に維持する。
【0067】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、車両が目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域内で走行している状況すなわち定速フリーランでは、電子制御ユニット20は、車速Vが目標下限車速V0以上であればエンジン11を停止して目標下限車速V0まで車両を惰行により減速させることができ、車速Vが目標下限車速V0を下回るとエンジン11を始動させて目標上限車速V1以下まで加速させることができる。このため、車両を目標下限車速V0と目標上限車速V1とによって決定される車速域内で定速フリーランにより走行させることにより、確実に車両を惰行により走行させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0068】
また、例えば、車両前方に存在する信号機が赤信号であり、走行中の車両を停止させる必要が予測される場合であっても、車両が停止するまで、電子制御ユニット20はエンジン11の停止を継続させて車両を惰行により減速させるすなわち停止フリーランにより走行させることができる。したがって、確実に車両を惰行により走行させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0069】
ここで、例えば、前方の信号機まで車両を停止フリーランにより走行させている状況においては、エンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力が付与される機会を極めて少なくすることができ、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される。すなわち、車両が停止フリーランにより前方の信号機まで走行するときに、エンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力が付与された結果、車両が前方の信号機まで走行できなければ、エンジン11を始動させて車両を加速する必要がある。これに対して、上記実施形態においては、停止フリーランにより車両を信号機近傍まで走行させてエンジン11によるエンジンブレーキやフットブレーキ装置16による制動力を付与することができるため、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0070】
上記実施形態においては、定速フリーランにおいて、電子制御ユニット20がエンジン11を始動および停止させるときの制御デューティー比を一定として実施した。この場合、図9に示すように、制御デューティー比が細かくなるように変更して実施することも可能である。このように制御デューティー比を細かくすることによって、例えば、最良燃費曲線に沿って車両を加速させるタイミングと、エンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動のタイミングとを合わせやすくなる、すなわち、定速フリーランにおいて惰行減速度G1で減速しているときにエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動を行うことがなく、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0071】
また、例えば、渋滞発生時においては、車両を低速で加速または減速する頻度が増加する。この場合、制御デューティー比を細かくすることによって、低速走行時であっても、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。これにより、燃費を向上させることができる。
【0072】
また、上記実施形態においては、前記式1に従って惰行減速度G1を演算して決定する際に路面の勾配Pを用いて演算するように実施した。この場合、図10に示すように、惰行減速度G1の大きさは、現在、車両が登坂路を走行しているか降坂路を走行しているかによって異なる場合がある。このため、路面勾配センサ29から入力した路面勾配信号によって表される路面の勾配Pを用いることに加えて、例えば、車両に搭載されたナビゲーション装置または路車間通信装置を利用して、現在、車両が登坂路を走行しているか降坂路を走行しているかを判定し、前記式1に従って演算される惰行減速度G1を、登坂路または降坂路に応じて補正するように実施することも可能である。
【0073】
この場合、車両が登坂路を走行している状況では前記式1に従って演算される惰行減速度G1が大きくなるように補正し、車両が降坂路を走行している状況では前記式1に従って演算される惰行減速度G1が小さくなるように補正するとよい。これにより、惰行減速度G1によって車両を目標下限車速V0まで確実に減速させることができ、その結果、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。したがって、燃費を向上させることができる。
【0074】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20が、例えば、路車間通信装置を利用して外部から得た交通情報に基づき車両の前方に存在する信号機が赤信号であるか否かを予測して判定し、信号機が赤信号であるときには、停止フリーランにより車両を減速させるように実施した。この場合、車両の前方に存在する信号機が赤信号であるか否かを予測して判定するタイミングや車両が走行する道路事情によっては、青信号で通過できると判定したにもかかわらず、信号機が赤信号となる状況が生じる。このような状況においては、車両を定速フリーランから停止フリーランによる走行に移行する際に運転者が違和感を覚える可能性がある。
【0075】
したがって、このような場合には、電子制御ユニット20は、定速フリーランにより車両を走行させているときに、図11に示すように、例えば、駆動回路32を介して一時的にクラッチ15を係合状態に制御してエンジン11によるエンジンブレーキを発生させ、停止フリーランへの移行タイミングを調整することも可能である。これにより、定速フリーランから停止フリーランにスムーズに移行させることができて、運転者が違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20は、フリーラン許可条件が成立しているときに、定速フリーランおよび停止フリーランにより車両を走行させるように実施した。この場合、原則、電子制御ユニット20はフリーラン許可条件が成立しなくなるとエンジン11の始動および停止を禁止する。しかしながら、先行車との間の車間距離Lfが所定の距離Lla以下となる可能性があるときには、例えば、駆動回路32を介して一時的にクラッチ15を係合状態に制御してエンジン11によるエンジンブレーキを発生させて、車間距離Lfを十分に確保するように実施してもよい。これにより、定速フリーランおよび停止フリーランを継続することができるため、惰行減速度G1での減速時間(減速距離)がより長く確保される、言い換えれば、フューエルカットされる時間(距離)がより長く確保される。したがって、燃費を向上させることができる。
【0077】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット20は、フリーラン許可条件が成立しているときに、定速フリーランおよび停止フリーランにより車両を走行させるように実施した。この場合、上記説明したフリーラン許可条件に代えて、または、加えて、例えば、自車両に対して後続車が存在する場合にはフリーランを許可しない条件、車両がエンジン11によるエンジンブレーキや惰行減速度G1によって適切に減速できない急降坂路を走行している場合にはフリーランを許可しない条件、エンジン11を始動させても最適燃費曲線に沿って加速できない急登坂路を走行している場合にはフリーランを許可しない条件などを設定して実施することも可能である。このような条件を設けることにより、定速フリーランおよび停止フリーランを適切に実施することができて、燃費を向上させることができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、惰行減速度G1を演算する前記式1において、ころがり抵抗Nが一定の値であるとして実施した。しかし、ころがり抵抗Nについては、例えば、タイヤの空気圧が増減することによって変化する可能性がある。これにより、演算される惰行減速度G1および停止フリーラン開始車速Vfの精度が悪化することが懸念される。このため、電子制御ユニット20は、例えば、ナビゲーション装置を利用して現在走行している道路を特定し、過去に走行した際の定速フリーランで目標下限車速V0まで減速できたにもかかわらず、今回、同一の道路における定速フリーランで目標下限車速V0まで減速できない場合には、ころがり抵抗Nの値を修正するとともに惰行減速度G1を用いて停止フリーラン開始車速Vfを演算する前記式4(停止フリーラン開始車速関数)を補正することができる。この場合、ころがり抵抗Nが変化したことを運転者に報知することもできる。
【0079】
さらに、上記実施形態においては、制動減速度G2がエンジン11によるエンジンブレーキまたはフットブレーキ装置16による制動に伴って発生する減速度であるとし、その値が一定であるとして実施した。この場合、制動減速度G2の大きさに関しては、運転者の好みに合わせて変更することが可能である。具体的には、電子制御ユニット20は、運転者がフットブレーキ装置16を操作して車両を停止させるときの制動タイミングや減速度の大きさを検知して記憶する。そして、電子制御ユニット20は、記憶した制動タイミングや減速度の大きさを停止フリーランにより車両を停止させるときの制動減速度G2に反映させる。これにより、停止フリーランにより車両を停止させる場合に、運転者の好みに合わせて制動減速度G2を発生させることができるため、運転者が覚える違和感を抑制することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…車両の制御装置、11…エンジン、12…フューエルタンク、13…フューエルポンプ、14…トランスミッション、15…クラッチ、16…フットブレーキ装置、20…電子制御ユニット、21…エンジンスロットル開度センサ、22…エンジン回転数センサ、23…エンジン出力トルクセンサ、24…ギア比センサ、25…ブースタ負圧センサ、26…車間距離センサ、27…車速センサ、28…重量センサ、29…路面勾配センサ、30,31,32…駆動回路、33…フリーラン選択スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも走行中の車両のエンジンを始動または停止制御する車両の制御装置において、
走行中の車両の車速を検出する車速検出手段と、
走行中の車両の車速域を決定する下限側車速と上限側車速とを設定する車速域設定手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以上であるときに前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるとともに、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速未満となったときに前記エンジンを始動させて車両を加速させ、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるエンジン作動制御手段とを備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の制御装置において、さらに、
走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定する停止予測判定手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されて車両が停止するとき、前記エンジンの停止を継続して車両を惰行により減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されたとき、前記エンジンの始動および停止の制御デューティー比を小さくすることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した車両の制御装置において、さらに、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定された車両の停止位置を特定する停止位置特定手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止位置特定手段によって特定された車両の停止位置と自車両との間の距離に基づいて前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載した車両の制御装置において、さらに、
前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以下であるときに、前記停止位置特定手段によって特定された停止位置まで制動力を付与するブレーキ装置を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記ブレーキ装置が付与する制動力によって車両に発生する減速度に基づいて前記ブレーキ装置が制動力の付与を開始する時点および車速を決定し、前記決定した時点における車速と前記車速検出手段によって検出された車速とが一致するように前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
前方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する前方車間距離検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンによるエンジンブレーキを付与することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
後方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する後方車間距離検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記後方車間距離検出手段によって検出された前記後方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記路面勾配検出手段によって検出された前記路面の勾配が予め設定された所定の勾配よりも大きいとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されたブレーキ装置におけるブレーキブースタ負圧を検出するブースタ負圧検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記ブースタ負圧検出手段によって検出された前記ブレーキブースタ負圧の絶対値が予め設定された所定の値以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
運転者によって操作されて、前記エンジン作動制御手段による前記エンジンの始動および停止を実施するか否かを選択する選択手段を設けたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達するトランスミッションに設けられたクラッチを、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを停止させたときに開放状態に制御するとともに前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを作動させたときに係合状態に制御するクラッチ制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達する無段変速機を、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを始動および停止するときにギア比をアップシフト側に変更するギア比制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項14】
請求項2に記載した車両の制御装置において、
前記停止予測判定手段は、
車両の外部から提供される交通情報に基づいて、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項15】
請求項14に記載した車両の制御装置において、
前記交通情報は、
走行中の車両の前方に存在する信号機が赤信号である情報、走行中の車両の前方に発生した渋滞情報および走行中の車両の前方にカーブが存在する情報のうちの少なくとも一つであることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項16】
請求項1に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるとき、運転者による車両の加速操作に関わらず、前記エンジンを始動または停止させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項17】
請求項1に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるときの減速度を、車両が走行している路面の勾配に応じて補正することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
少なくとも走行中の車両のエンジンを始動または停止制御する車両の制御装置において、
走行中の車両の車速を検出する車速検出手段と、
走行中の車両の車速域を決定する下限側車速と上限側車速とを設定する車速域設定手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以上であるときに前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるとともに、前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速未満となったときに前記エンジンを始動させて車両を加速させ、前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるエンジン作動制御手段とを備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の制御装置において、さらに、
走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定する停止予測判定手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されて車両が停止するとき、前記エンジンの停止を継続して車両を惰行により減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定されたとき、前記エンジンの始動および停止の制御デューティー比を小さくすることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した車両の制御装置において、さらに、
前記停止予測判定手段によって車両を停止させる必要があると予測判定された車両の停止位置を特定する停止位置特定手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記停止位置特定手段によって特定された車両の停止位置と自車両との間の距離に基づいて前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載した車両の制御装置において、さらに、
前記車速検出手段によって検出された車速が前記車速域設定手段によって設定された下限側車速以下であるときに、前記停止位置特定手段によって特定された停止位置まで制動力を付与するブレーキ装置を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記ブレーキ装置が付与する制動力によって車両に発生する減速度に基づいて前記ブレーキ装置が制動力の付与を開始する時点および車速を決定し、前記決定した時点における車速と前記車速検出手段によって検出された車速とが一致するように前記エンジンを停止させ、車両を惰行により継続して減速させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
前方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する前方車間距離検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記前方車間距離検出手段によって検出された前記前方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンによるエンジンブレーキを付与することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
後方を走行する車両と自車両との間の距離を検出する後方車間距離検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記後方車間距離検出手段によって検出された前記後方を走行する車両と自車両との間の距離が予め設定された所定の距離以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記路面勾配検出手段によって検出された前記路面の勾配が予め設定された所定の勾配よりも大きいとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されたブレーキ装置におけるブレーキブースタ負圧を検出するブースタ負圧検出手段を備え、
前記エンジン作動制御手段は、
前記ブースタ負圧検出手段によって検出された前記ブレーキブースタ負圧の絶対値が予め設定された所定の値以下のとき、前記エンジンの始動および停止を禁止することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
運転者によって操作されて、前記エンジン作動制御手段による前記エンジンの始動および停止を実施するか否かを選択する選択手段を設けたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達するトランスミッションに設けられたクラッチを、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを停止させたときに開放状態に制御するとともに前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを作動させたときに係合状態に制御するクラッチ制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一つに記載した車両の制御装置において、さらに、
車両に搭載されて前記エンジンによる駆動力を伝達する無段変速機を、前記エンジン作動制御手段が前記エンジンを始動および停止するときにギア比をアップシフト側に変更するギア比制御手段を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項14】
請求項2に記載した車両の制御装置において、
前記停止予測判定手段は、
車両の外部から提供される交通情報に基づいて、走行中の車両を停止させる必要があるか否かを予測して判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項15】
請求項14に記載した車両の制御装置において、
前記交通情報は、
走行中の車両の前方に存在する信号機が赤信号である情報、走行中の車両の前方に発生した渋滞情報および走行中の車両の前方にカーブが存在する情報のうちの少なくとも一つであることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項16】
請求項1に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記車速域設定手段によって設定された下限側車速と上限側車速とによって決定される車速域内で車両を走行させるとき、運転者による車両の加速操作に関わらず、前記エンジンを始動または停止させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項17】
請求項1に記載した車両の制御装置において、
前記エンジン作動制御手段は、
前記エンジンを停止させて車両を惰行により減速させるときの減速度を、車両が走行している路面の勾配に応じて補正することを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−47148(P2012−47148A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192181(P2010−192181)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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