作業車両
【課題】従来の作業運搬車では、水分によりスリップすることがなく、耐久性にも優れ、エンジンブレーキも有効に働く上で、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することは困難であった。
【解決手段】有段式変速装置19を備え、該有段式変速装置19は、奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列への動力断接用の第一クラッチ58と、偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列への動力断接用の第二クラッチ59とを備えており、奇数速度段と偶数速度段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ58及び第二クラッチ59のうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる。
【解決手段】有段式変速装置19を備え、該有段式変速装置19は、奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列への動力断接用の第一クラッチ58と、偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列への動力断接用の第二クラッチ59とを備えており、奇数速度段と偶数速度段それぞれの変速駆動列が選択された状態で該第一クラッチ58及び第二クラッチ59のうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、車軸、及び該エンジンから該車軸へ動力を伝達する手段として有段式変速装置を備えた作業車両、特には作業運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷台下方などにエンジンと車軸とを配置し、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する手段として、ベルト式無段変速装置及びギア式等の有段式副変速装置から成る変速機構を有する作業運搬車が公知となっており(特許文献1参照)、該技術によると、アクセル操作(アクセルペダルの踏み込み操作)に連係して、ベルト式無段変速装置によって、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく連続的に変速を行うことができる。
【特許文献1】特開2000−38042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の作業運搬車においては、水分の付着によりベルトがスリップする、ベルトの耐久性に難点がある、エンジンブレーキがかからない等といった、ベルト式無段変速装置特有の問題があった。更に、副変速装置の操作が、車両を一旦停止させてからでないと行えないなど、煩雑等であるという問題もあった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するため、従来のベルト式無段変速機構とギア式等の有段式副変速装置との組み合わせを、ギア式等の有段式変速装置のみに置き換えることが考えられるが、このような変速装置においては、ギアによる変速に際してのクラッチ切の際に車輪への動力伝達が途切れたり、或いは下り坂での変速時には不測に動いてしまうなど、走行性能が損なわれるという問題があった。
【0005】
さらに、アクセル操作に変速を自動連係させる場合に、単に一律に車速に対しての変速タイミングを設定していると、登り坂走行や車重の大きい場合の加速時には、変速(シフトアップ(速度段上げ))が早すぎてエンストのおそれがあり、下り坂走行時には変速(シフトダウン(速度段下げ))が遅すぎてエンジンブレーキがかからない、エンジンブレーキの制動力よりも坂を下る車両の惰性が打ち勝って車速が上昇してしまうという結果をもたらす可能性がある。
【0006】
本発明は、従来のベルト式無段変速機構と有段式副変速装置との組み合わせに代わる有段式変速装置を備えた作業運搬車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
すなわち、本発明に係る請求項1に記載の作業運搬車は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業運搬車であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるものである。
【0009】
また、請求項2に記載の如く、請求項1記載の作業運搬車において、前記エンジンは、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置において、該エンジンの出力を受ける入力部から前記車軸への出力部までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列している。
【0010】
また、請求項3に記載の如く、請求項1又は請求項2記載の作業運搬車の前記有段式変速装置において、前記奇数速度段の変速駆動列及び前記偶数速度段の変速駆動列をそれぞれ複数備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸と、該複数の偶数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸とを水平方向に並設している。
【0011】
また、請求項4に記載の如く、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記有段式変速装置を収納するケース内の油の油面が、エンジン稼動時に所定高さより低くなるよう、該ケースより油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ、第二クラッチおよび有段式変速装置の潤滑油として、前記ケース内へ放出するタンクを設けている。
【0012】
また、請求項5に記載の如く、請求項4に記載の作業運搬車において、前記第一クラッチ、第二クラッチおよび前記有段式変速装置のシフタ軸の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンクに貯留した油をその作動油として用いる。
【0013】
また、請求項6に記載の如く、請求項5に記載の作業運搬車において、前記タンクへの油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケース内に放出される油量よりも多いものとする。
【0014】
また、請求項7に記載の如く、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記第一クラッチが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねている。
【0015】
或いは、請求項8に記載の如く、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記有段式変速装置における後進段の駆動列は第二クラッチにより動力断接されるように配設され、該第二クラッチと前記第一クラッチとが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねている。
【0016】
また、本発明に係る請求項9に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度の検知情報に応じて変更するものである。
【0017】
また、請求項10に記載の如く、請求項9に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0018】
また、請求項11に記載の如く、請求項9又は請求項10に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0019】
また、本発明に係る請求項12に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の重量の検知情報に応じて変更するものである。
【0020】
また、請求項13に記載の如く、請求項12に記載の作業車両において、車両重量が大きいことを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量が小さい場合に比べ、車速の高い側に変更する。
【0021】
また、本発明に係る請求項14に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて変更するものである。
【0022】
また、請求項15に記載の如く、請求項14に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0023】
また、請求項16に記載の如く、請求項15に記載の作業車両において、車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、さらに車速の高い側に変更する。
【0024】
また、請求項17に記載の如く、請求項14乃至請求項16のいずれか一項に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0025】
また、本発明に係る請求項18に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両の傾斜角度の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0026】
また、請求項19に記載の如く、請求項18に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、高くする。
【0027】
また、請求項20に記載の如く、請求項18又は請求項19に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、低くする。
【0028】
また、請求項21に記載の如く、請求項18乃至請求項20のいずれか一項に記載の作業車両において、前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【0029】
また、本発明に係る請求項22に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両重量の検知情報に応じて、車両発進時における前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0030】
また、請求項23に記載の如く、請求項22に記載の作業車両において、車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい場合に比べ、高くする。
【0031】
また、請求項24に記載の如く、請求項22又は請求項23に記載の作業車両において、前記の車両重量の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【0032】
また、本発明に係る請求項25に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0033】
また、請求項26に記載の如く、請求項25に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合、または車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい状態での平地走行時に比べ、高くする。
【0034】
また、請求項27に記載の如く、請求項26に記載の作業車両において、車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、高くする。
【0035】
また、請求項28に記載の如く、請求項25乃至請求項27のいずれか一項に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、低くする。
【0036】
また、請求項29に記載の如く、請求項25乃至請求項28のいずれか一項に記載の作業車両において、前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
【0038】
すなわち、請求項1に記載の作業運搬車は、その有段式変速装置が、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができ、登り坂時に下がったりすることがなく確実に走行でき、走行性能を大幅に向上させることができる。また、ベルトが水分によりスリップするというベルト式無段変速装置特有の不具合もなく、耐久性にも優れ、エンジンブレーキも有効に働かせることができる。更には、複数の変速機構を組み合わせる必要が無く、変速構造を簡単にして、製造コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0039】
また、請求項2に記載の如き構成により、有段式変速装置を収納するケースの上下幅を小さく抑えることができ、有段式変速装置を荷台下や運転席下に、地上高を低くすることなく容易に配置することができる。さらに、請求項3に記載の如き構成により、有段式変速装置を収納するケースの上下幅を一層小さく抑えることができる。
【0040】
また、請求項4に記載の如き構成により、有段式変速装置のケース内に溜まる油の油面を低くすることができ、有段式変速装置のケース内で高速回転するギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗による伝達動力の損失を軽減することができ、作業運搬車の経済的な高速走行性を向上させることができる。さらに、請求項5に記載の如く構成することにより、作動油供給のための装置を別途設ける必要がなく、構造の簡素化を図ることができる。さらに、請求項6に記載の如く構成することにより、常にケース内の油溜まりの油面が所定位置で安定し、攪拌抵抗損失の軽減効果が得られる。
【0041】
また、請求項7に記載の如く構成することにより、トルクコンバータなどの発進制御装置を不要とし低コスト化、構造簡単化を図ることができる。或いは、請求項8に記載の如く構成することにより、前進段と後進段とを予め選択した状態にしておくことができ、該前進段に接続された第一クラッチと該後進段に接続された第二クラッチとを交互に入切して前後発進を迅速に切り換えることができるため、前後進を何度も繰り返すような作業走行を、クラッチの切換だけで簡単に行うことができる。
【0042】
また、請求項9に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の傾斜状態にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項10に記載の如く制御することにより、登り坂走行時における速度段を上げる変速が、登り坂走行に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。一方、請求項11に記載の如く制御することにより、下り坂走行時における速度段を下げる変速が、下り坂に見合うようにエンジン回転数の減速過程で早めになされるので、エンジンブレーキを有効に働かせることができる。
【0043】
また、請求項12に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の重量にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項13に記載の如く制御することにより、車両の重量が大きい時(重積載荷時)に速度段を上げる変速が、重積載状態での走行に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。
【0044】
また、請求項14に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の傾斜状態及び車両の重量の大小にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項15に記載の如く制御することにより、登り坂走行時や車重が大きい状態での速度段を上げる変速が、その負荷に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。さらに、請求項16に記載の如く制御することにより、車重が大きい状態での登り坂走行時でも、速度段を上げる変速が、その大きい負荷に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われる。一方、請求項17に記載の如く制御することにより、下り坂走行時における速度段を下げる変速が、下り坂に見合うようにエンジン回転数の減速過程で早めになされるので、エンジンブレーキを有効に働かせることができる。
【0045】
また、請求項18に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の傾斜状態に応じてクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。さらに、請求項19に記載の如く制御することにより、登り坂走行時に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または坂の傾斜状態による車両のスリップ等の不具合を回避することができ、また、請求項20に記載の如く制御することにより、下り坂走行時に見合うようにエンジン回転数及び車速の上昇を遅らせて、急激な加速を回避することができる。そして、請求項21に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【0046】
また、請求項22に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の重量(荷重状態)に応じてクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。さらに、請求項23に記載の如く制御することにより、車両の重量が大きい時(重積載時)に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延等の不具合を回避することができる。そして、請求項24に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【0047】
また、請求項25に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の傾斜状態及び車両の重量状態に応じて、確実にクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。また、請求項26に記載の如く制御することにより、登り坂走行時または車両重量の大きい状態に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または車両のスリップ等の不具合を回避することができ、さらに、請求項27に記載の如く制御することにより、車両重量の大きい状態で登り坂走行する時に、さらにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または車両のスリップ等の不具合を回避することができる。一方、請求項28に記載の如く制御することにより、下り坂走行時に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を遅らせて、急激な加速を回避することができる。そして、請求項29に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
次に、本発明の第一実施例に係る作業運搬車について説明する。図1は本発明の第一実施例に係る作業運搬車の全体構成を示す側面図、図2は同じく平面図、図3は第一実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図、図4は第一実施例におけるミッションケースの側面一部断面図、図5は第一実施例におけるミッションケース上部のシリンダ室の底面一部断面図、図6は第一実施例における変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図、図7は第一実施例における変速制御手順を示す模式図、図8は第一実施例における変速点特性モデル図、図9は第一実施例におけるミッションケース内の潤滑構成を示すミッションケースの正面一部断面図である。
【0049】
なお、以下で述べる各部材の位置や方向等は機体進行方向を基準としている。
【0050】
まず、本発明に係わる作業運搬車1の全体構成について、図1、図2により説明する。該作業運搬車1の本体は、前部フレーム2と後部フレーム3とを前後に連接して構成される。このうちの後部フレーム3は、平面視略直方形の水平状床板と、該床板の前後左右端に立設した鉛直状側板とより成るものであり、該後部フレーム3の上方には、荷台4が好ましくは上下回動可能に配設され、該荷台4の支持台を後部フレーム3が兼ねるようにしている。そして、後部フレーム3の前部は低くなって凹んでおり、該凹みには左右一対の座席9・9が載設されており、一方(本実施例では左側の座席9)を運転席9a、もう一方(本実施例では右側の座席9)を助手席9bとし、該運転席9aの前方には丸形ハンドル41を配置している。
【0051】
該運転席9・9の下方で後部フレーム3内には、図示せぬクランク軸が機体前後方向に向くようにしたエンジン5が配置されている。前記運転席9aには走行時に必ず作業者が座り、また、該運転席9a周りにハンドル41等の重量物が配されるので、該エンジン5は、運転席9aに対して左右方向反対側(即ち、助手席9b側)に配設され、これによって、作業者が運転席9aに座った際、機体の左右方向に重量を均等に分散させ、運転中の機体の左右重量バランスを良好に保つことができ、走行性能を向上させることができる。
【0052】
そして、エンジン5の前方にはミッションケース8が配設され、該ミッションケース8の右側(左右方向でエンジン5寄り側)後部より後方に突設した入力軸18には、前記エンジン5から前方に突設された出力軸6が、振動吸収用のフライホイール7を介して略同一軸芯上に接続されている。
【0053】
該ミッションケース8内には、複数のギア列から成る後述の有段式変速装置19が内設されると共に、ミッションケース8の前面からは前出力軸10、後面からは後出力軸11がそれぞれ突設されており、前記入力軸18に入力されたエンジン5からの動力が、ミッションケース8内の有段式変速装置19にて変速(後進設定時には回転方向を反転)された後、前出力軸10と後出力軸11から前後に出力されるようにしている。
【0054】
ミッションケース8の後方には、後車輪駆動装置13が配設されている。該後車輪駆動装置13の前面からは入力軸17が前方に突設され、該入力軸17は、左右水平方向に若干傾いたドライブシャフト15及びジョイント部(ユニバーサルジョイント)20・20を介して、前記後出力軸11と連結されている。後出力軸11は、ミッションケース8の左側(左右方向でエンジン5及び入力軸18と反対側)後部より後方に突出されており、該後出力軸11と該入力軸17との間に介設されたドライブシャフト15等がエンジン5から左右方向にオフセットされるようにしている。
【0055】
一方、ミッションケース8の前方には、後方に突出する入力軸16を有する前車軸駆動装置12が配置されており、ドライブシャフト14及びジョイント部(ユニバーサルジョイント)20・20を介して該入力軸16を前記ミッションケース8の前出力軸10に連結している。ミッションケース8と前車軸駆動装置12との間には、ドライブシャフト14及びジョイント部20・20との干渉を考慮するようなものがないので、入力軸16と前出力軸10とを略同一軸芯上に配置することで、ドライブシャフト14が真っ直ぐ前後方向に延伸され、これら前出力軸10、ドライブシャフト14、及び入力軸16は、機体前後方向で略同一軸芯上に配置されているため、各ジョイント部20にかかる負荷が緩和されており、騒音の発生を大幅に軽減することができる。また、ジョイント部20を、高価なユニバーサルジョイントではなく、簡単な筒状のカップリングとして、低コストに構成することも可能である。
【0056】
後部フレーム3の後半部は、その前半部より一段高くし、その下方の略左右中央位置に前記後車輪駆動装置13が後部フレーム3から延伸させた図外の取付ブラケットに対し防振ゴムを介して配設され、該後車輪駆動装置13内には後輪差動機構27を有している。該後輪差動機構27においては、前記入力軸17の後端にベベルギア21が形成(または固設)され、該ベベルギア21と噛合するブルギア22と一体のデフケージ23内に、左右両第一車軸25・25の内端部を嵌入するとともに、該第一車軸25・25上に固設したサイドギアと両サイドギアに噛合うベベルピニオンとで構成されるベベルギア機構35を収納しており、該ベベルギア機構35を介して左右両第一車軸25・25を差動可能に連結している。そして、該第一車軸25・25は、それぞれ、後部フレーム3の後半部の左右各外側に配した各後輪26の中心軸である後輪軸26aに対し、ユニバーサルジョイント28及び伝動軸29にて駆動連結している。
【0057】
このベベルギア機構35においては、両第一車軸25・25に作用する地面からの負荷が略均等であれば、両方にデフケージ23の回転力が伝達されて、左右両後輪26・26が駆動され、両第一車軸25・25は、それぞれに対する前記負荷に応じて差動回転する。なお、該ベベルギア機構35にはLSD(リミテッドスリップデフ)機構35aが付設されており、両第一車軸25・25に対する前記負荷の差が所定値を越えたときには、該LSD機構35aを介して、負荷の大きな方の車軸25の回転が負荷の小さな方の車軸25に伝達される。該LSD機構35aは、具体的には片方の第一車軸25とデフケージ23との間に、夫々に係止した摩擦板を積層させ、プレッシャ・プレートと電気アクチュエータ35bを介して前記負荷の差に応じた押圧力を付与する。これにより、両車軸25・25間の回転速度差を適切に制御することができ、旋回性能の向上や路面に適した左右後輪の回転制御が可能となるようにしている。
【0058】
なお、後部フレーム3後部左右側端よりそれぞれ外側方には、ステー3aが突設されており、各ステー3aより各後輪軸26aに対し、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される通例のサスペンション機構30を延設し、該サスペンション機構30によって前記両後輪26を懸架している。
【0059】
また、前部フレーム2の前半部は、その後半部より一段高くして、その下方の略左右中央位置に前記前車輪駆動装置12が、前部フレーム2から延伸させた図外の取付ブラケットに対し防振ゴムを介して配設され、該前車輪駆動装置12内には前輪差動機構31を有している。該前輪差動機構31においては、前記入力軸16の前端にベベルギア32が形成(または固設)され、該ベベルギア32と噛合するブルギア33と一体のデフケージ34内に、左右両第二車軸36・36の内端部を嵌入するとともに、該第二車軸36・36上に固設したサイドギアと両サイドギアに噛合うベベルピニオンとで構成されるベベルギア機構35を収納しており、該ベベルギア機構35を介して左右両第二車軸36・36を差動可能に連結している。そして、該第二車軸36・36は、それぞれ、前部フレーム2の前半部の左右各外側にて操舵可能に配した各前輪37の中心軸である前輪軸37aに対し、ユニバーサルジョイント38及び伝動軸39にて駆動連結している。
【0060】
このベベルギア機構35においては、両第二車軸36・36に作用する地面からの負荷が略均等であれば、両方にデフケージ34の回転力が伝達されて、左右両前輪37・37が駆動され、両第二車軸36・36は、それぞれに対する前記負荷に応じて差動回転する。なお、該前輪差動機構31におけるベベルギア機構35にも、両第二車軸36・36に対する前記負荷の差が所定値を越えたときには負荷の大きな方の車軸36の回転が負荷の小さな方の車軸36に伝達されるように、前記第一車軸25・25上に構成したものと同じLSD(リミテッドスリップデフ)機構35aが付設される。これにより、車軸36・36の回転速度差を適切に制御することができ、旋回性能の向上や路面に適した左右前輪の回転制御が可能となるようにしている。また、後述する中央差動機構101と両第二車軸36・36とが機械的に連結されているので、第一車軸25・25のみならず第二車軸36・36にもエンジンブレーキを確実に作用させることができる。
【0061】
なお、前部フレーム2前部左右側端よりそれぞれ外側方には、ステー2aが突設されており、各ステー2aより各前輪軸37aに対し、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される通例のサスペンション機構40を延設し、該サスペンション機構40によって前記両前輪37を懸架している。
【0062】
また、前部フレーム2の前半部上にはフロントカバー2bが立設されており、その後端上部が操作・計器盤になっており、その上方に前記の丸形ハンドル41を配設している。該フロントカバー2b後端より後方の部分上には、踏板を敷設して、水平面状のプラットフォーム2cが形成され、該プラットフォーム2cは左右両外側に延出されている。
【0063】
次に、前記有段式変速装置19について、図3、図6、図9により説明する。ミッションケース8内には、有段式変速装置19の回転軸として、前記入力軸18、クラッチ入力軸51、第一走行変速軸52、第二走行変速軸53、走行出力軸54、中間軸55、走行動力取出軸56が平行に機体前後方向に横架されている。
【0064】
すなわち、前記エンジン5は、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置19において、該エンジン5の出力を受ける入力部である入力軸18から前記車軸25・36への出力部である走行動力取出軸56までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列しているので、有段式変速装置19を収納するケースであるミッションケース8の上下幅を小さく抑えることができ、有段式変速装置19を荷台4下や座席9・9下に、地上高を低くすることなく容易に配置することができる。
【0065】
このうちの入力軸18上の後端側には、ギア57が固設されると共に、該入力軸18の前端は、ミッションケース8より前外方に突出され、この前外方突出部に、ポンプ213及びポンプ214を装着し、該ポンプ213・214をともに入力軸18で駆動できるようにしている。
【0066】
また、前記入力軸18の左上方に、前記クラッチ入力軸51が配置され、該クラッチ入力軸51上には、前から順に、摩擦多板式の第一クラッチ58と第二クラッチ59とが配設されている。該第二クラッチ59の後方にはギア60がクラッチ入力軸51に固設され、該ギア60は前記ギア57と噛合しており、前記入力軸18からの動力をクラッチ入力軸51に常時伝達可能としている。
【0067】
第一クラッチ58前方におけるクラッチ入力軸51上には、第一クラッチ出力ギア61が回転自在に設けられている。該第一クラッチ58が入ると、該第一クラッチ出力ギア61は、該第一クラッチ58を介してクラッチ入力軸51に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために、第一クラッチ油圧シリンダ71が設けられている。同様に、第二クラッチ59後方におけるクラッチ入力軸51上には、第二クラッチ出力ギア66が回転自在に設けられている。第二クラッチ59が入ると、該第二クラッチ出力ギア66は第二クラッチ59を介してクラッチ入力軸51に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために、第二クラッチ油圧シリンダ72が設けられている。そして、これら第一クラッチ油圧シリンダ71と第二クラッチ油圧シリンダ72とは、後述するクラッチ作動機構によって動作し、第一クラッチ58と第二クラッチ59が切状態から入状態までの伝達トルクを徐々に連続的に変化させることができるようにしている。
【0068】
また、前記クラッチ入力軸51の左上方には、第一走行変速軸52が配置され、該第一走行変速軸52の前半分には、後から順に、前進1速駆動ギア81、前進3速駆動ギア83、入力用のギア76、後進駆動ギア85が固設されている。このうちのギア76は前記第一クラッチ出力ギア61と噛合して、前記クラッチ入力軸51からの動力を、第一クラッチ58を介して第一走行変速軸52に伝達できるようにしている。
【0069】
そして、前記クラッチ入力軸51の左下方には、第二走行変速軸53が配置され、該第二走行変速軸53の後半分には、後から順に、入力用のギア77、前進2速駆動ギア82、前進4速駆動ギア84が固設されている。このうちのギア77は前記第二クラッチ出力ギア66と噛合して、前記クラッチ入力軸51からの動力を、第二クラッチ59を介して第二走行変速軸53に伝達できるようにしている。
【0070】
更に、前記第一走行変速軸52の左下方で第二走行変速軸53の左上方には、前記走行出力軸54が配置され、該走行出力軸54上には相対回転可能に、後から順に、前進2速従動ギア92、前進4速従動ギア94、前進1速従動ギア91、前進3速従動ギア93、後進従動ギア95が環設されている。このうちの前進1速従動ギア91、前進3速従動ギア93は、前記第一走行変速軸52に固設した前記前進1速駆動ギア81、前進3速駆動ギア83にそれぞれ噛合し、前進2速従動ギア92、前進4速従動ギア94は、第二走行変速軸53に固設した前記前進2速駆動ギア82、前進4速駆動ギア84とそれぞれ噛合している。後進従動ギア95については、第一走行変速軸52と走行出力軸54との間に機体前後方向に設けられた中間軸55上のアイドルギア86と噛合し、該アイドルギア86が前記後進駆動ギア85と噛合されている。
【0071】
このような構成において、ギア81・91より成る前進1速ギア列、ギア82・92より成る前進2速ギア列、ギア83・93より成る前進3速ギア列、ギア84・94より成る前進4速ギア列、及びギア85・86・95より成る後進ギア列が形成されている。
【0072】
また、前記走行出力軸54上において、前記前進1速従動ギア91と前進3速従動ギア93との間には同期装置を介してスプラインハブ96を、前記前進2速従動ギア92と前進4速従動ギア94との間には同期装置を介してスプラインハブ97を、前記後進従動ギア95の後方(前進3速従動ギア93の前方)には同期装置を介してスプラインハブ98を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ96にはシフタ96aが、スプラインハブ97にはシフタ97aが、スプラインハブ98にはシフタ98aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。
【0073】
そして、前進1速と前進3速の従動ギア91・93でスプラインハブ96側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部91a・93aが形成され、前進2速と前進4速の従動ギア92・94でスプラインハブ97側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部92a・94aが形成され、後進の受動ギア95でスプラインハブ98側に向かう部分には、クラッチ歯部95aが形成されている。
【0074】
このような構成において、該クラッチ歯部91a・92a・93a・94a・95aのいずれかを、後述のシフタ作動機構によって前記シフタ96a・97a・98aのいずれかに同期装置を介して係合させることで、その該当する従動ギアを走行出力軸54に相対回転不能に係合させることができ、該走行出力軸54には、前記第一走行変速軸52又は第二走行変速軸53からの動力を、選択したギア列を介して円滑に伝達できるようにしている。
【0075】
また、該走行出力軸54上で前記前進2速従動ギア92の後方にはギア99が固設され、該ギア99は中央差動機構101のブルギア100に噛合しており、走行出力軸54からの動力は、ブルギア100から、デフケージ102内のベベルギア機構35を介して前後に適切に差動分配される。
【0076】
中央差動機構101から前方に延出された前記走行動力取出軸56は、ミッションケース8の左前面に設けられたPTOギアケース103内に突出されると共に、走行動力取出軸56の前端にはギア104が固設され、該ギア104は前記前出力軸10上に固設されたギア105と噛合している。これにより、走行出力軸54からの動力が、中央差動機構101を介して前出力軸10に伝達され、更に、ドライブシャフト14から前記前車輪駆動装置12に伝達されるようにしている。
【0077】
一方、中央差動機構101から後方に延出された前記後出力軸11は、前記ドライブシャフト15に連結されており、これにより、走行出力軸54からの動力が、中央差動機構101を介してドライブシャフト15から前記後車輪駆動装置13に伝達されるようにしている。なお、中央差動機構101のベベルギア機構35は、前記後輪差動機構27や前輪差動機構31の各ベベルギア機構35と同様にLSD機構35a付きのベベルギア機構35となっている。
【0078】
また、このように構成では、前記第一クラッチ58は前進1速ギア列等と接続されているため、前進1速の変速段に設定した状態で前記第一クラッチ58を入れて前進1速で発進することができ、発進操作を第一クラッチ58の入切で行うことができる。なお、前進2速の変速段に設定した状態で前記第二クラッチ59を入れれば前進2速で発進することができ、発進操作を第二クラッチ59の入切で行うことができる。そして、このように発進時に用いるクラッチ58または59のクラッチ圧を適宜に設定することで、クリープ状態を現出することができる。
【0079】
すなわち、前記第一クラッチ58、または前記第二クラッチ59が発進クラッチを兼ねているので、トルクコンバータなどの発進制御装置を不要とし、低コスト化、構造簡単化を図ることができる。
【0080】
次に、前記シフタ及びクラッチの作動機構について、図3乃至図6及び図9により説明する。前記シフタ96a・97a・98aには、第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108の先部がそれぞれ係合され、該第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108基部の各ボス部には、第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118がそれぞれ挿通固定されている。
【0081】
該第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118は、前記ミッションケース8上部に設けられたシフタケース125から垂設された前後の軸受壁109・110の間に、互いに平行に前後摺動可能に挿通され、水平方向に並設されており、更に、該第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118には、前記第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108の各ボス部が、ピン115等を介して相対回転不能でかつ軸方向移動不能に固定されている。これにより、第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108が、第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118とそれぞれ一体的となって、機体前後方向に摺動できるようにしている。
【0082】
この場合、前記第一シフタ軸116を前後に摺動すると、第一フォーク106がシフタ96aを動かして、該シフタ96aがスプラインハブ96に対して従動ギア91・93のいずれかを係合させ、該従動ギア91を含む前進1速ギア列と従動ギア93を含む前進3速ギア列とから成る奇数速度段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができる。一方、第二シフタ軸117を前後に摺動すると、第二フォーク107がシフタ97aを動かして、該シフタ97aを従動ギア92・94のいずれかに係合させ、該従動ギア92を含む前進2速ギア列と従動ギア94を含む前進4速ギア列とから成る偶数速度段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができる。
【0083】
すなわち、前記有段式変速装置19において、前記奇数速度段の複数の変速駆動列である前進1速と3速のギア列、及び前記偶数速度段の複数の変速駆動列である前進2速と4速のギア列を備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列より一つの変速駆動列を選択するための第一シフタ軸116と、該複数の偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列より一つの変速駆動列を選択するための第二シフタ軸117とを水平方向に並設しているので、有段式変速装置16を収納するケースの上下幅を一層小さく抑えることができる。
【0084】
ここで、前記第一シフタ軸116の外周面には、前進1速位置、中立位置、前進3速位置の位置決めのための環状の溝116a、116b、116cが後から順に形成され、該溝116a、116b、116cには、前記軸受壁109の下面から上方に穿孔された穴109aの下部が垂直に連通されており、該穴109a内には、付勢バネ112とデテント球113とが、該デテント球113の先端が前記溝116a、116b、116cに臨むように嵌入されて、デテント機構111が構成されている。
【0085】
これにより、付勢バネ112によってデテント球113が溝116a、116b、116cに向かって常時押圧されるので、第一シフタ軸116を機体前後方向に摺動して所定の変速位置に移動させる際には、デテント球113が溝116a(前進3速位置)、116b(中立位置)、116c(前進1速位置)のいずれかに係止されるため、移動後もずれることなく第一シフタ軸116を所定変速位置に確実に保持することができる。第二シフタ軸117にも前進2速位置、中立位置、前進4速位置の位置決めのために、第三シフタ軸118にも後進位置、中立位置の位置決めのために、同様のデテント機構がそれぞれに設けられている。
【0086】
また、シフタケース125内には、第一油圧シリンダ126、第二油圧シリンダ127、第三油圧シリンダ128が平行に機体前後方向に配設され、該第一油圧シリンダ126、第二油圧シリンダ127、第三油圧シリンダ128の各ロッド129・134・139の一端からは連結アーム87が垂設され、各連結アーム87の下端は、前記第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118の一端にそれぞれ連結されている。
【0087】
そして、このうちの第一油圧シリンダ126においては、前記ロッド129の他端には、大径部130aと小径部130bとからなる第一ピストン130が固設され、該小径部130bには、前記大径部130aよりも大きな外径を有する円筒状の第二ピストン131が、小径部130b上を軸芯方向に摺動可能に外嵌されている。これら第一ピストン130と第二ピストン131とからなるピストン146を挟んで機体前後方向には、油室132・133が形成され、該油室132・133は、それぞれ電磁切換弁119・120に接続されている。
【0088】
このような構成において、中立状態の場合には、電磁切換弁119・120(ともに非励磁状態)から油路143・144を介して両油室132・133にそれぞれ圧油が供給されるが、第一ピストン130と第二ピストン131との間がドレン通路145に開放されているため、第一ピストン130は紙面右方へ移動し、第二ピストン131は紙面左方へ移動して両内端面同士が当接する。このとき、第二ピストン131の油室133側の受圧面積の方が油室132側の受圧面積よりも大きいため、図4に示すように第二ピストン131の内側外周角部がシフタケース125の肩部125aに当接した位置で保持される。この保持位置を中立位置と規定する。これにより、ピストン146を中立位置に精度良く位置決めすることができる。
【0089】
前進1速の場合には、前記電磁切換弁120による油室133への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁120のみを励磁する)ことにより、ピストン146が油室132内の油圧によって油室133側(紙面右方)に押動され、該油室133の最外端に相当する前進1速位置に保持される。前進3速の場合には、前記電磁切換弁119による油室132への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁119のみを励磁)ことにより、ピストン146が油室133内の油圧によって油室132側(紙面左方)に押動され、前記肩部125aに阻まれて移動不能な第二ピストン131を残した状態で第一ピストン130だけが油室132の最外端に相当する前進3速位置まで摺動して保持される。
【0090】
第二油圧シリンダ127においても、同様にして、前進2速位置、中立位置、前進4速位置の位置決めが行われる。すなわち、前記ロッド134の他端に、大径部135aと小径部135bとからなる第一ピストン135が固設され、該小径部135bには、前記大径部135aよりも大きな外径を有する円筒状の第二ピストン136が、小径部135b上を軸芯方向に摺動可能に外嵌されている。該第二ピストン136も、バネ等によって大径部135a側に常時付勢され、小径部135bから軸芯方向に脱着しないようにしている。これら第一ピストン135と第二ピストン136とからなるピストン147を挟んで機体前後方向には、油室137・138が形成され、該油室137・138は、それぞれ電磁切換弁121・122に接続されている。
【0091】
このような構成において、中立状態の場合には、電磁切換弁121・122(ともに非励磁状態)から油路148・149を介して両油室137・138にそれぞれ圧油が供給されるが、第一ピストン135と第二ピストン136との間がドレン通路150に開放されているため、第一ピストン135は紙面左方へ移動し、第二ピストン136は紙面右方へ移動して両内端面同士が当接する。このとき、第二ピストン136の油室138側の受圧面積の方が油室137側の受圧面積よりも大きいため、第二ピストン136の内側外周角部がシフタケース125の肩部125bに当接した位置で保持される。この保持位置を中立位置と規定する。これにより、ピストン147を中立位置に精度良く位置決めすることができる。
【0092】
前進2速の場合には、前記電磁切換弁122による油室138への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁122のみ励磁する)ことにより、ピストン147が油室137内の油圧によって油室138側に押動され、該油室138の最外端に相当する前進2速位置に保持される。前進4速の場合には、前記電磁切換弁121による油室137への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁121のみ励磁する)ことにより、ピストン147が油室138内の油圧によって油室137側に押動され、前記肩部125bに阻まれて移動不能な第二ピストン136を残した状態で第一ピストン135だけが油室137の最外端に相当する前進4速位置まで摺動して保持される。
【0093】
変速油路154は、両電磁切換弁121・122及び両電磁切換弁119・120への分岐後、電磁切換弁123に接続される。第三油圧シリンダ128においては、前記ロッド139の他端にはピストン140が固設され、該ピストン140を挟んで機体前後方向には油室142・153が形成され、両油路142・153は、それぞれの油路151・152を介して、電磁切換弁123に接続される。
【0094】
電磁切換弁123は、前進設定時及び中立状態の時は非励磁であり、油室142に変速油路154からの油を供給し、油室153より油をドレンして、ピストン140及びロッド139を中立位置にするものである。後進設定時には電磁切換弁123が励磁され、変速油路154からの油を油室153に供給し、油室142から油をドレンして、ピストン140及びロッド139を紙面左側に摺動し、後進位置に切り換える。
【0095】
エンジン始動時は、全ての電磁切換弁119・120・121・122・123が図示のように非励磁位置にあるため、有段変速装置は中立状態に保持される。前記電磁切換弁119乃至123のうちの所定の電磁切換弁に変速指令信号が送られると、前述のようにして所定の変速位置にピストン146・147・140が移動し、該ピストン146・147・140に固設されたロッド129・134・139が、連結アーム87、シフタ軸116・117・118、フォーク106・107・108を介して、前記シフタ96a・97a・98aを各変速段の従動ギア91・92・93・94・95に係合させる。すると、該従動ギア91・92・93・94・95からの変速動力が、シフタ96a・97a・98aを介して走行出力軸54に伝達され、中央差動機構101を介して、一方は前出力軸10から前記前車輪駆動装置12に、他方は後出力軸11から後車輪駆動装置13に伝達されて、作業運搬車1が選択した速度段で走行される。
【0096】
また、前記ポンプ214によってタンク201からオイルフィルター220を介して吸入された油は、分岐して一方は前記変速油路154に、他方はクラッチ制御用のクラッチ油路155に流れ込む。そして、該クラッチ油路155内の圧油は、リリーフ弁69によって最高圧が回路保護のために規制された状態で、ラインフィルタ62、電磁比例減圧弁67、ラインフィルタ63を介して、前記第一クラッチ油圧シリンダ71に供給されると共に、ラインフィルタ64、電磁比例減圧弁68、ラインフィルタ65を介して、前記第二クラッチ油圧シリンダ72にも供給される。
【0097】
これにより、前記電磁比例減圧弁67・68を使って、前記第一クラッチ油圧シリンダ71・第二クラッチ油圧シリンダ72のピストン156・157を徐々に連続的に移動させることができ、例えば、前記第一クラッチ58・第二クラッチ59が多板式の摩擦クラッチの場合には、ピストン156・157によって摩擦板間の挟持力を連続的に変化させ、クラッチの切状態から入状態までの伝達トルク間を連続的に変化させることができるのである。
【0098】
なお、前記リリーフ弁69の下流側の油路158にはリリーフ弁70が設けられ、該リリーフ弁70によって潤滑油としての最高圧が規制された状態で、前記有段変速装置19に含まれる各部材の被潤滑部位159や前記第一クラッチ58・第二クラッチ59に、潤滑油として供給される。
【0099】
以上のような構成から成る有段式変速装置19の変速制御については図外のアクセルペダルの踏み込み量とそのときの車速との関係で自動変速されるものであって、この自動変速過程について、図3乃至図8により説明する。
【0100】
前進1速で走行中に前進2速へとシフトアップする場合の変速制御を例に説明する。図7に示すように、前進1速で走行中は、前記第一クラッチ58は入状態(ON)となっている。即ち、第一クラッチ油圧シリンダ71により現出される第一クラッチ58のクラッチ圧が規定値となっている。この時、前記第一シフタ軸116は、前進1速位置に保持されている(電磁切換弁120が励磁している)ため、前記第一フォーク106を介してシフタ96aが前進1速従動ギア91に係合されており、走行出力軸54が、前記前進1速ギア列81・91を介して前記第一クラッチ58と接続されている。これにより、エンジン5からの動力は、入力軸18、クラッチ入力軸51、第一クラッチ58、第一走行変速軸52の順に伝達された後、前進1速ギア列81・91で前進1速に変速され、該前進1速の動力が走行出力軸54から前後の車輪駆動装置12・13へと伝達されている。一方、前記第二クラッチ59は切断(OFF)されている。即ち、第二クラッチ油圧シリンダ72により現出される第二クラッチ59のクラッチ圧が最低値となっている。この時、前記第二シフタ軸117は中立位置に保持されており、前記第二フォーク107を介してシフタ97aも中立位置に保持されている。
【0101】
そして、A時点で例えばアクセルペダルの踏み込み量を多くして、前進1速から前進2速への変速指令信号が図示せぬ制御装置から発せられると、第一クラッチ58の入状態、該第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列(ギア81・91)の走行出力軸54との係合状態、及び第二クラッチ59の切状態はそのままで変更されることなく、一方、該第二クラッチ59に接続される前進2速ギア列(ギア82・92)が、前記走行出力軸54と係合状態になる。つまり、前記電磁切換弁122が切り替え制御(非励磁→励磁)されて第二油圧シリンダ127のロッド134が移動され、第二シフタ軸117が前進2速位置まで移動される。すると、前記第二フォーク107を介してシフタ97aが中立位置から前進2速従動ギア92まで摺動し係合され、その結果、走行出力軸54が前記前進2速ギア列を介して前記第二クラッチ59と接続される。ただし、該第二クラッチ59自体は依然切状態(OFF)にあり、エンジン5から前進2速ギア列への動力は切断されたままであるため、前進2速ギア列と走行出力軸54との係合に伴う伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0102】
変速指令信号が発せられてから前進2速ギア列の走行出力軸54に対する係合状態を確認したB時点になると、第一クラッチ58は徐々に切断が進み、第二クラッチ59は徐々に接続が進む内容のクラッチ断接指令信号が制御装置から発せられる。すると、前記電磁比例減圧弁67・68が比例減圧制御されて、前記第一クラッチ油圧シリンダ71のピストン156と第二クラッチ油圧シリンダ72のピストン157が徐々に連続的に移動し、第一クラッチ58は現在の入状態から切状態に離間作動(クラッチ圧の低減)が進み、第二クラッチ59は現在の切状態から入状態に接合作動(クラッチ圧の上昇)が進み、これら離間作動と接合作動とが並行して行われる。
【0103】
更に、前記B時点から時間が経過したC時点まではクラッチ断接指令信号が継続して発せられ続け、該C時点で前記第一クラッチ58は完全に切状態(OFF)、第二クラッチ59を完全に入状態(ON)となる。つまり、このクラッチ断接指令信号が発せられている間は、前進1速ギア列、前進2速ギア列は走行出力軸54と常時係合状態にあることから、第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列へのエンジン5からの動力は徐々に減少していく一方、第二クラッチ59に接続された前進2速ギア列へのエンジン5からの動力は徐々に増加していくこととなる。即ち、変速過程において、第一クラッチ58及び第二クラッチ59がともに半クラッチとなる状態を現出する。これにより、前進1速ギア列と前進2速ギア列から走行出力軸54への動力は、A時点を境に徐々に前進1速から前進2速に切り替わっていき、C時点で前進2速に変速され、この間は、エンジン5からの動力は途切れない。なお、このように、シフトチェンジ中に一方のクラッチのクラッチ圧低減と他方のクラッチのクラッチ圧上昇とを示す経時曲線がクロスするようなクラッチ圧制御を、後述の、様々な関連の実施例において、「クロス波形制御」と称するものとする。
【0104】
C時点から若干時間が経過したD時点になると、変速完了信号が制御装置から発せられ、第二クラッチ59の入状態、該第二クラッチ59に接続された前進2速ギア列の走行出力軸54との係合状態、及び第一クラッチ58の切状態はそのまま変更されることなく、一方、該第一クラッチ58に接続される前進1速ギア列を、前記走行出力軸54と非係合状態にする。つまり、前記電磁切換弁120が切り替え制御(励磁→非励磁)されて第一油圧シリンダ126のロッド129が移動され、第一シフタ軸116が中立位置まで移動され、前記第一フォーク106を介してシフタ96aが前進1速従動ギア91から中立位置まで摺動される。このように、第一クラッチ58を切状態、第二クラッチ59を入状態とした上で、第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列を走行出力軸54と非係合状態とすることができ、前進1速から前進2速への変速が完了する。従って、第一クラッチ58は切状態にあり、エンジン5から前進1速ギア列への動力は既に切断されているため、前進1速ギア列を走行出力軸54と非係合状態にする時に伴う伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0105】
他の変速段間(2速→3速のシフトアップ、3速→4速のシフトアップ等)の変速制御も上記と同様なプロセスで実施される。すなわち、エンジン5と、車軸25・36と、該エンジン5から該車軸25・36に駆動力を伝達する有段式変速装置19とを配設した構造の作業運搬車1であって、該有段式変速装置19は、奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列への動力断接用の第一クラッチ58と、偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列への動力断接用の第二クラッチ59とを備えており、アクセル操作(アクセルペダルの踏み込み)と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジン5から該車軸25・26への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ58及び第二クラッチ59のうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるので、エンジン5から車軸25・36への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができ、登り坂時に下がったりすることがなく確実に走行でき、走行性能を大幅に向上させることができる。また、水分によりスリップすることがなく、耐久性にも優れ、エンジンブレーキも有効に働き、ベルト式無段変速装置特有の問題を解消することができる。更には、複数の変速機構を組み合わせる必要が無く、変速構造を簡単にして、製造コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができるのである。
【0106】
また、作業運搬車1において、アクセルペダルの踏み込み量とその時の車速で変速段が自動的に変速される自動変速制御が行われる際には、図8に示すような変速点特性モデル図と、センサにより実際に検出されたエンジン5のスロットル開度及び車速とに基づいて、前記変速指令信号と変速完了信号の発信時期であるA時点とD時点が決定される。図8中の変速点特性曲線に基づく変速制御の特徴として、減速時(前進2速から前進1速へのシフトダウン線図D021、前進3速から前進2速へのシフトダウン線図D032、前進4速から前進3速へのシフトダウン線図D043)の車速変化を、増速時(前進1速から前進2速へのシフトアップ線図U012、前進2速から前進3速へのシフトアップ線図U023、前進3速から前進4速へのシフトアップ線図U034)よりも小さくしている。また、低速段(例えば前進1速から前進2速へのシフトアップ線図U012)の車速変化を、高速段(例えば前進3速から前進4速へのシフトアップ線図U034)よりも小さくしている。これによりオペレータの意図的なキック(シフト)ダウンや、走行負荷の増加に伴う車速低下に応じた自動減速がスムーズに行えるようになる。
【0107】
次に、以上のような構成の有段式変速装置19を収納するミッションケース8内の潤滑構成について、図6、図9により説明する。ミッションケース8の底部には、該ミッションケース8の内壁から水平方向に板状の隔壁160が延設され、該隔壁160によってミッションケース8の内部空間が上下に仕切られて、隔壁160上方には、前記有段式変速装置19を収納する収納部161が形成され、隔壁160下方には、前記有段式変速装置19から流下してきた油を溜めるための油溜まり162が形成される。
【0108】
そして、前記隔壁160の最左部で前記走行動力取出軸56の下方には開口部169が設けられており、これにより、前記油圧シリンダ71、72、126乃至128、電磁弁67、68、119乃至123等から油路145・147等を介して漏出する作動油や、前記クラッチ58・59(油圧シリンダ71、72)、被潤滑部159等を潤滑した後の潤滑油が、ミッションケース8の内部壁面沿いに流下する等して、開口部169から前記油溜まり162内に流入するようにしている。
【0109】
更に、油溜まり162のミッションケース8側壁には、ストレーナ付きの排油口164が開口され、該排油口164は配管165を介して前記ポンプ213に接続され、該ポンプ213は配管166を介して前記タンク201上部の流入口201aに接続されている。タンク201の下部は、前記オイルフィルター220を介して流出口201bに連通され、該流出口201bは、配管167を介して前記ポンプ214に接続され、該ポンプ214は、前記油路154・155を介して前記油圧シリンダ71、72、126:127、128、電磁弁67、68、119、120、121、122、123等に接続されている。
【0110】
このような構成において、車両走行時、油溜まり162に貯まった油は、エンジン5からの出力軸18と直結したポンプ213によって吸入され、前記排油口164からミッションケース8外部に設けたタンク201まで、前記配管165、ポンプ213、配管166を介して強制的に排出される。これにより、車両走行時のエンジン5稼働時には、タンク201によってミッションケース8内の油を回収して、油面163の高さを、前記有段変速装置19の比較的高速回転するギアの下端より低くなるように設定することができる。そして、タンク201内に貯溜された油は、エンジン5からの出力軸18と直結したポンプ214によって吸入され、配管167、ポンプ214、油路154・155を介して、潤滑油や作動油として再びミッションケース8内の有段式変速装置19に供給される。
【0111】
すなわち、前記有段式変速装置19を収納するケースであるミッションケース8内の油の油面163が、エンジン5稼動時に所定高さより低くなるよう、該ミッションケース8より油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ58、第二クラッチ59および前記有段式変速装置19の潤滑油として、前記ミッションケース8内へ放出するタンク201を設けているので、有段式変速装置19のミッションケース8内に溜まる油の油面163を低くすることができ、有段式変速装置19のミッションケース8内で高速回転するギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗による伝達動力の損失を軽減することができ、作業運搬車1の経済的な高速走行性を向上させることができる。
【0112】
また、前述の如く、前記第一クラッチ58、第二クラッチ59および前記有段式変速装置19のシフタ軸116・117・118の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンク201に貯留した油をその作動油として用いるので、作動油供給のための装置を別途設ける必要がなく、構造の簡素化を図ることができる。
【0113】
ここで、前記隔壁160によって、ミッションケース8内にあふれた油を油溜まり162内に一時的に隔離することができ、たとえ悪路等で車両が左右に傾斜した姿勢で走行して油溜まり162の油が左右のいずれかに偏った場合等でも、高速回転するギアが油内に深くまで浸漬するのを防止して、ギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗を大幅に軽減することができる。なお、本実施例では、前述したように、隔壁160の開口部169は、該有段式変速装置19の回転軸のうち、走行動力取出軸56の下方に設けているが、これは、ギアによる攪拌抵抗の影響が最小限に抑えられる意味で、油が左右のいずれかに偏った場合等でも低速回転する走行動力取出軸56上のギアだけが油中に浸漬するようにしているからである。
【0114】
また、前述の如く、前記ポンプ213・214のいずれも、前記エンジン5からの入力軸18に連結されて駆動されているため、タンク201内への油の回収量は、エンジン5の回転数に比例することとなる。従って、たとえエンジン5の回転数が増してミッションケース8内に放出される油量が増加しても、タンク201内への油の回収量も増加させることができるのである。
【0115】
すなわち、前記タンク201への油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケースであるミッションケース8内に放出される油量よりも多いので、常にミッションケース8内の油溜まりの油面163が所定位置で安定し、攪拌抵抗損失の軽減効果が得られる。
【0116】
なお、前記タンク201は、ミッションケース8の側方に配置されると共に、略水平な配管168を介してミッションケース8内と連通されており、流入する油が過剰となってタンク201の油面が高くなってもオーバーフローしてミッションケース8内に戻るようにし、油面が前記流入口201aを塞がないようにしている。これにより、たとえ走行中にミッションケース8内の油面が低下して排油口164から排出される油にエアが多量に混入しても、タンク201に貯溜される間にガス抜きされて、エアのない油を潤滑油や作動油として再びミッションケース8内の有段式変速装置19に供給することができる。また、タンク201は、ミッションケース8の内部に区画したスペースに適用して内蔵させてもよい。
【0117】
次に、有段式変速装置の第二実施例(有段式変速装置42)について、図10より説明する。図10は第二実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図である。
【0118】
有段式変速装置42のミッションケース43内には、前記入力軸18、クラッチ入力軸44、第一走行変速軸45、第二走行変速軸46、走行出力軸47、中間軸48、前記走行動力取出軸56が平行に機体前後方向に横架されている。
【0119】
このうちの入力軸18上にはギア170が固設され、該ギア170は、前記クラッチ入力軸44上に固設されたギア171と噛合し、前記入力軸18からの動力をクラッチ入力軸44に常時伝達可能としている。そして、このクラッチ入力軸44上でギア171よりも前方には、第一クラッチ172aと第二クラッチ172bとが一体化されたクラッチ172が配設されている。
【0120】
このうちの第一クラッチ172a前方のクラッチ入力軸44上にはギア173が相対回転自在に設けられており、第一クラッチ172aが入ると、該ギア173は第一クラッチ172aを介してクラッチ入力軸44に相対回転不能に係合される。同様に、第二クラッチ172b後方のクラッチ入力軸44上にはギア174が相対回転自在に設けられており、第二クラッチ172bが入ると、該ギア174は第二クラッチ172bを介してクラッチ入力軸44に相対回転不能に係合される。
【0121】
また、前記第一走行変速軸45の前半分には、後から順に、入力用のギア175、前進1速駆動ギア181、前進3速駆動ギア183が固設されている。このうちのギア175は前記第一クラッチ出力ギア173と噛合して、前記クラッチ入力軸44からの動力を、第一クラッチ172aを介して第一走行変速軸45に伝達できるようにしている。
【0122】
そして、該第一走行変速軸45の後半分周りには、筒状の前記第二走行変速軸46が回動可能に軸支され、該第二走行変速軸46の外周には、後から順に、後進駆動ギア185、前進4速駆動ギア184、前進2速駆動ギア182、入力用のギア176が固設されている。該ギア176は前記第二クラッチ出力ギア174と噛合して、前記クラッチ入力軸44からの動力を、第二クラッチ172bを介して第二走行変速軸46に伝達できるようにしている。
【0123】
このように第二走行変速軸46を、中空の筒軸として第一走行変速軸45と同軸上で、しかも第一走行変速軸45の一部に外嵌させて設けたので、有段式変速装置42内の伝動軸の本数を低減することができ、ミッションケース43の大きさを小さくして機体の軽量化とコンパクト化を図ることができる。更に、ミッションケース43の上下方向の厚みを特に薄くすることができ、地上高さを高くすることなく、前記荷台4の下にミッションケース43を容易に収納することができる。
【0124】
また、前記該走行出力軸47上には相対回転可能に、後から順に、後進従動ギア195、前進4速従動ギア194、前進2速従動ギア192、前進1速従動ギア191、前進3速従動ギア193、が環設されている。このうちの前進1速従動ギア191、前進3速従動ギア193は、それぞれ前記第一走行変速軸45に固設した前記前進1速駆動ギア181、前進3速駆動ギア183に噛合し、前進2速従動ギア192、前進4速従動ギア194は、それぞれ第二走行変速軸46に固設した前記前進2速駆動ギア182、前進4速駆動ギア184と噛合している。後進従動ギア195については、第二走行変速軸46と走行出力軸47との間に機体前後方向に設けられた中間軸48上のアイドルギア49と噛合し、該アイドルギア49が前記後進駆動ギア185と噛合されている。
【0125】
このような構成において、ギア181・191より成る前進1速ギア列、ギア182・192より成る前進2速ギア列、ギア183・193より成る前進3速ギア列、ギア184・194より成る前進4速ギア列、及びギア185・49・195より成る後進ギア列が形成されている。
【0126】
そして、前記走行出力軸47上において、前記前進1速従動ギア191と前進3速従動ギア193との間にはスプラインハブ186を、前記前進2速従動ギア192と前進4速従動ギア194との間にはスプラインハブ187を、前記後進従動ギア195の前方(前進4速従動ギア194の後方)にはスプラインハブ188を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ186にはシフタ186aが、スプラインハブ187にはシフタ187aが、スプラインハブ188にはシフタ188aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。
【0127】
このような構成において、前記シフタ作動機構によって、前記シフタ186a・187a・188aのいずれかを従動ギア191・192・193・194・195のいずれかに係合させることで、その該当する従動ギアを走行出力軸47に相対回転不能に係合させることができ、該走行出力軸47には、前記第一走行変速軸45又は第二走行変速軸46からの動力を前記各ギア列を介して伝達できるようにしている。
【0128】
このような構成において、ギア181・191より成る前進1速ギア列は前記第一クラッチ172aに接続される一方、ギア185・49・195より成る後進ギア列は前記第二クラッチ172bに接続されているため、前進1速ギアと後進ギアを入れたままの状態で、両クラッチ172a・172bの入切操作を行うことができる。
【0129】
すなわち、前記有段変速装置19における後進段の駆動列は第二クラッチ172bにより動力断接されるように配設しておけば前進段と後進段とが選択状態におくことができ、該第二クラッチ172bと前記第一クラッチ172aとが発進クラッチを兼ねているので、該前進段に接続された第一クラッチ172bと該後進段に接続された第二クラッチ172aとを交互に入切すれば前後発進を迅速に切換えることができ、前後進を何度も繰り返すような作業走行を、クラッチの切り替えだけで簡単に行うことができる。
【0130】
次に、図11乃至図24より、前記有段式変速装置に適用される、前述のクラッチ制御を、いくつかのパラメータ(特に車両傾斜角度及び車重(積載荷重))に基づいて補正するものとした、クラッチの補正制御について、いくつかの実施例を説明する。
【0131】
なお、以下の制御実施例を用いるのに好適な有段式変速装置19の基本的構成は第一実施例のもの(図3等参照)と同一であるので詳細な説明を省略する。上述したように、有段式変速装置19においては、第一クラッチと第二クラッチとを備えている。第一クラッチは奇数速度段の第1速及び第3速に連係し、第二クラッチは偶数速度段の第2速及び第4速に連係している。また、油圧回路の構成も第一実施例のもの(図6参照)と同一であるので説明を省略する。さらに、適用可能な範囲において、図10の有段式変速装置42の制御実施例として考えてもよい。
【0132】
まず、以下に説明するクラッチ制御に関する制御システムについて説明する。図11は、有段式変速装置の変速制御システムブロック図である。図11に示すように、有段式変速装置19のクラッチ制御のための制御パラメータとして、アクセルペダル角度センサやスロットル開度センサ等の入力回転数検出手段301よりエンジン入力回転数(スロット開度)の検知情報が、エンジン回転数検出手段302よりエンジン出力回転数の検知情報が、アクセルペダル踏み込み速度検出手段303よりアクセルペダル踏み込み速度の検知情報が、負荷状態(車軸トルク)検出手段304よりエンジン負荷状態(車軸トルク)の検知情報が、車両傾斜角検出手段305より車両傾斜角度の検知情報が、車重検出手段306より車重(積載荷重)の検知情報が、ブレーキペダル踏み込み速度検出手段307よりブレーキペダル踏み込み有無の検知情報が、それぞれ、CPUに入力される。これらの情報に基づき、CPUはクラッチ切り換えのタイミング等を判断し、シフタ制御用の制御弁119・120・121・122・123の制御指令、及び、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67並びに第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68の制御指令を送出する。
【0133】
車両には、前記各検出手段301〜307が備えてあり、これらのうち、前記車両傾斜角検出手段305とて、車両の進行方向における傾斜角度を検知する車両傾斜センサ、及び、前記車重検出手段306として、積載荷重を検知する車重センサを搭載している。なお、これら車両傾斜センサ、車重センサのうち少なくとも一つを有段式変速装置19に組み入れてもよい。
【0134】
まず、図12乃至図17により、車両発進時における変速クラッチ(発進クラッチ)の制御パターンについて説明する。なお、これは、ブレーキペダルを踏み込んでおいてから、キースイッチをONする等によりエンジンを起動し、その後、該ブレーキペダルの踏み込みを解除することに連動してクラッチが入る(アクセルペダルを踏み込んでもよい)という、一連の車両発進行程における変速クラッチ制御を指すものである。
【0135】
図12、図13にて示す実施例について説明する。図12は、車両傾斜センサ検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図13は、車両傾斜センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。車両傾斜センサによる検知情報に基づいてクラッチ圧の加圧パターンを変化させるのは、路面の傾斜状況(登り坂、下り坂等)に関係なく、発進時のクリープ状態を確保し、また、アクセル操作に対する車両の反応速度を実質的に同一状態にするためである。
【0136】
図12に示すように、例えばキースイッチをONにする等の車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダル踏み込み速度検出手段307によりブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルの踏み込みが解除された状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と傾斜センサの情報(ステップS4)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0137】
図13は、このような図12に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図13(a)、図13(b)、図13(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0138】
図13(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0139】
図中の加圧パターンR11は平地を走行する時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0140】
これに対して、加圧パターンR12は傾斜センサにより、車両が登り坂を走行する状態であると検知された場合の加圧パターンであり、平地走行時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、平地時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0141】
一方、加圧パターンR13は傾斜センサにより、車両が下り坂を走行する状態であると検知された場合の加圧パターンであり、平地走行時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が緩やかである。そして、平地時よりも低く設定されたクリープ圧にとどまり、該クリープ圧に至ってから一定に推移する。
【0142】
図13(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、平地走行時(R21)、登り坂走行時(R22)、下り坂走行時(R23)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。登り坂走行時の加圧パターンR22は平地走行時の加圧パターンR21よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。一方、下り坂走行時の加圧パターンR23は平地走行時の加圧パターンR21よりもクラッチ圧の経時上昇率が緩やかに設定されている。
【0143】
図13(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、平地走行時(R31)、登り坂走行時(R32)、下り坂走行時(R33)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。ただし、平地走行時(R31)、登り坂走行時(R32)、下り坂走行時(R33)のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0144】
なお、アクセルペダルの踏み込みについては、正確には、瞬時の、より詳しくは同じ時間内で、踏み込み量が小さい場合を示すのが図13(b)であり、踏み込み量が大きい場合を示すのが図13(c)である。そういう意味では、図13(b)と図13(c)のパターンの変化は、アクセルペダルの踏み込み速度の違いに連係させるものということもできる。従って、図12のステップS3におけるスロットル開度確認を、アクセルペダルの踏み込み速度確認に置き換えてもよい。以後の図14、図15の制御実施例、及び図16、図17の制御実施例においても同様とする。
【0145】
次に、図14及び図15に示す実施例について説明する。図14は、車重センサ検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図15は、車重センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。車重センサによる検知情報に基づいてクラッチ圧の加圧パターンを変化させるのは、積載重量が増した場合であっても、発進時のクリープ状態を確保し、また、アクセル操作に対する車両の反応速度を、積載重量が小さい時と実質的に同一状態にするためである。
【0146】
図14に示すように、車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルが踏み込まれていない状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と車重センサ(ステップS7)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0147】
図15は、このような図14に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図15(a)、図15(b)、図15(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0148】
図15(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0149】
図中の加圧パターンP11は車重が小さい(軽積載状態)時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0150】
これに対して、加圧パターンP12は、車重センサにより、車重が大きい状態(重積載状態)であると検知された場合の加圧パターンであり、車重が小さい時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、車重が小さい時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0151】
図15(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、軽積載時(P21)、重積載時(P22)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。重積載時の加圧パターンP22は軽積載時の加圧パターンP21よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。
【0152】
図15(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、軽積載時(P31)、重積載時(P32)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。また、重積載時の加圧パターンP32は軽積載時の加圧パターンP31よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。ただし、軽積載時(R31)、重積載時(R32)のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0153】
次に、図16及び図17に示す実施例について説明する。図16は、車両傾斜センサ及び車重センサの検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図17は、車両傾斜センサ及び車重センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。
【0154】
図16に示すように、車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルが踏み込まれていない状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と車両傾斜センサ(ステップS4)と車重センサ(ステップS7)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0155】
図17は、このような図16に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図17(a)、図17(b)、図17(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0156】
図17(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0157】
図中の加圧パターンQ10は、車重が小さい状態(軽積載状態)での平地走行時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0158】
これに対して、加圧パターンQ11は、車重が大きい状態(重積載状態)での平地走行、或いは車重が小さい状態(軽積載状態)での登り坂走行であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での平地走行時の加圧パターンQ10に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、軽積載状態での平地走行時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0159】
さらに、加圧パターンQ12は、車重が大きい状態(重積載状態)での登り坂走行であると検知された場合の加圧パターンであり、重積載状態での平地走行時、或いは軽積載状態での登り坂走行時の加圧パターンQ11よりもさらに、クラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、重積載状態での平地走行時、或いは軽積載状態での登り坂走行時のクリープ圧よりもさらに高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0160】
一方、加圧パターンQ13は、車重が小さい状態(軽積載状態)で、車両傾斜センサにて、下り坂走行状態であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での平地走行時の加圧パターンQ10よりもクラッチ圧の経時上昇率が穏やかである。そして、軽積載状態での平地走行時のクリープ圧よりも低く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0161】
加圧パターンQ14は、車重が大きい状態(重積載状態)で、車両傾斜センサにて、下り坂走行状態であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での下り坂走行時の加圧パターンQ13よりもさらにクラッチ圧の経時上昇率が穏やかである。そして、軽積載状態での下り坂走行時のクリープ圧よりも低く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0162】
図17(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、軽積載状態の平地走行時(Q20)、軽積載状態での登り坂走行時又は重積載状態での平地走行時(Q21)、重積載状態での登り坂走行時(Q22)、軽積載状態での下り坂走行時(Q23)、重積載状態での下り坂走行時(Q24)のいずれの場合も、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。加圧パターンQ24、Q23、Q20、Q21、Q22の順に、クラッチ圧の経時上昇率が段々と大きくなるように設定している。
【0163】
図17(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。軽積載状態の平地走行時(Q30)、軽積載状態での登り坂走行時又は重積載状態での平地走行時(Q31)、重積載状態での登り坂走行時(Q32)、軽積載状態での下り坂走行時(Q33)、重積載状態での下り坂走行時(Q34)のいずれの場合も、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。ただし、各時のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0164】
次に、シフトチェンジ、即ち、前記有段式変速装置19における偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時のクラッチ制御について説明する。
【0165】
図18は車両変速時のタイミングチャートの一モデルを示している。該タイミングチャート図では、平地走行時において、ブレーキペダルを踏み込んだ車両停止状態から、ブレーキを解除し、アクセルペダルを踏み込んで速度を上げて第1速から第4速までシフトアップを行った後、アクセルペダルの踏み込みを解除しながら速度を下げて、第1速までシフトダウンを行い、最後にブレーキペダルを踏み込んで停止するまでの一連の動作を示している。
【0166】
シフトアップ(速度段を一段上げる)又はシフトダウン(速度段を一段下げる)は、図8に示す予め設定された平地走行時のシフトパターン(変速点特性モデル図)に従って行われる。
【0167】
図18のタイミングチャートについて詳述する。まず、ブレーキペダルを踏み込んで車両が停止したタイミングT0をタイミングチャートの起点とする。
【0168】
タイミングT0〜T2までの過程は上述した車両発進時の動作(図13(a)参照)であり、まず第1速にシフタが連係した状態で、第一クラッチがクリープ圧(クリープ状態を現出するためのクラッチ圧)まで加圧される。さらにアクセルペダルを踏み込みつづける(スロットル開度を増加しつづける)ことにより、タイミングT2〜T3間において、第一クラッチのクラッチ圧は、暫くクリープ圧で保持された後、上昇して最大クラッチ圧に達し、その後、タイミングT4まで最大クラッチ圧が保持され、該タイミングT2〜T4の間、車速は増加を続ける。
【0169】
そして、タイミングT4において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ線図U012に従い、シフトアップの指令が出され、第一クラッチの切断及び第二クラッチの接続をオーバーラップさせる(クロス波形制御)ことにより、第1速から第2速へシフトアップが行われる。
【0170】
その後、アクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)及び車速ともに増加を続け、タイミングT7〜T8間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ特性曲線U023に従って、クロス波形制御により第2速から第3速へシフトアップが行われる。
【0171】
タイミングT9においてアクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)は最深位置に達し、その後、この踏み込み位置が保持されるが、車速は増加を続け、タイミングT10〜T11間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ特性曲線U034に従って、クロス波形制御により第3速から最高速段の第4速へシフトアップが行われ、車速はタイミングT11にて最高速度に達する。その後は、アクセルペダルを最深踏み込み位置に保持する限り、第4速により最高速度が保持される。
【0172】
タイミングT14において、最深位置におけるアクセルペダルの踏み込みを緩め始める(スロットル開度を低減し始める)と同時に車速が減少を始める。
【0173】
タイミングT15において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D043に基づいてシフトダウンの指令が出され、クロス波形制御により第4速から第3速へシフトダウンが行われる。
【0174】
その後、アクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)及び車速ともに減少を続け、タイミングT18〜T19間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D032に基づいて、クロス波形制御により第3速から第2速へシフトダウンが行われる。
【0175】
そして、タイミングT21〜T22間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D021に基づいて、クロス波形制御により第2速から最低速段の第1速へシフトダウンが行われる。
【0176】
タイミングT23において、アクセルペダルの踏み込みを完全に解除すると、車速はクリープ速にまで減少し、該クリープ速で保持される。そして、タイミングT24においてブレーキペダルを踏み込むことにより、クラッチが切断されてさらに車速が減速し、タイミングT25において車両は完全に停止する。
【0177】
このように、平地では、図18のタイミングチャート及び図8の変速点特性モデル図をもとに変速のためのクラッチ制御がなされるが、これを、車両の傾斜状態及び車重(積載荷量)状態の検出をもとにして補正する実施例を以下に説明する。
【0178】
まず、図19乃至図21により、車両の傾斜状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車両傾斜センサ(図11における車両傾斜角検出手段305)によって車両の進行方向に対する傾斜角度が常時検知されており、検知された傾斜角度に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0179】
図19に示すように、車両傾斜センサにより車両の傾斜角が検知され(ステップS11)、これを設定傾斜角と比較し(ステップS12)、その結果、車両が平地を走行していると判断されると、変速点特性モデル図において、通常のシフトパターンが維持される(ステップS13)。車両が登り坂を走行していると判断されると、失速状態を回避すべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトアップ線図を自動的に変更する(ステップS14)。また、車両が下り坂を走行していると判断されると、エンジンブレーキを有効にすべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトダウン線図を自動的に変更する(ステップS15)。
【0180】
図20を参照して、登り坂走行時におけるシフトアップ線図の変更について説明する。図中のU012、U023、U034は、それぞれ、平地走行時における第1速から第2速へ、第2速から第3速へ、第3速から第4速への通常のシフトアップ線図である(図8参照)。これに対して、U112、U123、U134は、それぞれ、登り坂走行時における第1速から第2速へ、第2速から第3速へ、第3速から第4速へのシフトアップ線図である。図に示すように、登り坂走行時には、失速状態を補うために、シフトアップを行う車速を高速側へずらせるようにシフトアップ線図を変更する。なお、登り坂走行時において、シフトダウン線図は変更されず、平地走行時と同じシフトダウン線図(D021、D032、D043)が用いられる。
【0181】
このようにシフトアップ線図を変更する結果、図18のタイミングチャートにおいては、加速時におけるシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11が、車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では右側)にずれる。つまり、シフトアップのタイミングは平地走行時より遅くなる。なお、減速時のシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜22は、通常時における車速(アクセルペダルの踏み込み量)に対するタイミングで維持される。
【0182】
図21を参照して、下り坂走行時におけるシフトダウン線図の変更について説明する。図中のD021、D032、D043は、それぞれ、平地走行時における第2速から第1速へ、第3速から第2速へ、第4速から第3速への通常のシフトダウン線図である(図8参照)。これに対して、D121、D132、D143は、それぞれ、下り坂走行時における第2速から第1速へ、第3速から第2速へ、第4速から第3速へのシフトダウン線図である。図に示すように、下り坂走行時には、エンジンブレーキを有効に活用するように、シフトダウンを行う車速を高速側へずらせるようにシフトダウン線図を変更する。なお、下り坂走行時において、シフトアップ線図は変更されず、平地走行時と同じシフトアップ線図(U012、U023、U034)が用いられる。
【0183】
このようにシフトダウン線図を変更する結果、図18のタイミングチャートにおいては、減速時におけるシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜22が、車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では左側)にずれる。つまり、シフトダウンのタイミングは平地走行時より早くなる。なお、加速時のシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11は、通常時における車速(アクセルペダルの踏み込み量)に対するタイミングで維持される。
【0184】
次に、図22により、車重状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車重センサ(図11における車重検出手段306)によって車両の重量(積載荷重)が常時検知されており、検知された車重に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0185】
図22に示すように、車両車重センサにより車重が検知され(ステップS21)、これを設定車重と比較し(ステップS22)、その結果、車重が小さいと判断されると、変速点特性モデル図において、通常のシフトパターンが維持される(ステップS23)。車重が大きいと判断されると、失速状態を回避すべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトアップ線図、シフトダウン線図を自動的に変更する(ステップS24)。
【0186】
車重が大きい場合のシフトパターンの変更については、図20及び図21の変更状態を引用する。即ち、車重が大きいと判断された時は、図20に示した、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそれぞれ、車速の高速側にずらせたパターンである、登り坂時シフトアップ線図U112、U123、U134を、重量が大きい場合のシフトアップ線図として用いるものであり、また、図21に示した、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそれぞれ、車速の高速側にずらせたパターンである、下り坂時シフトダウン線図D121、D132、D143を、車重が大きい場合のシフトダウン線図として用いるものである。
【0187】
また、車重が大きい場合に、シフトアップ線図及びシフトダウン線図を変更することによる図18のタイミングチャートの変更については、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)は登り坂走行時と同様に車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では右側)にずれ(遅くなり)、シフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)も下り坂走行時と同様に車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では左側)にずれる(早くなる)。
【0188】
次に、図23、図24、図25により、車両の傾斜及び車重状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車両傾斜センサ及び車重センサの検出値に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0189】
図23に示すように、車両傾斜センサにより車両の傾斜角が検知され(ステップS31)、これを設定傾斜角と比較(ステップS32)することで、車両が、平地走行、登り坂走行、下り坂走行のいずれの状態であるかが検知される。さらに、それぞれの走行状態の検知の後に、車重センサの検出(ステップS33、S37、S41)をもとに、該車重センサの検出値を、設定車重と比較する(ステップS34、S38、S42)。
【0190】
平地走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS34)の結果、車重が小さいと判断されれば、図24(または図25)の変速点モデル図において、通常シフトアップ線図U012、U023、U034及び通常シフトダウン線図D021、D032、D043がそのまま用いられる(ステップS35)。
【0191】
一方、平地走行時において、車重が大きいと判断されれば、図24(または図25)の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、通常シフトアップ線図U012、U023、U034より高速側にずらせた第一補正シフトアップ線図U212、U223、U234を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043より高速側にずらせた第一補正シフトダウン線図D221、D232、D243を用いるものとする(ステップS36)。
【0192】
図23におけるステップS36のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図22のフローチャートをもととするタイミングチャートの変更と同様に、車重の小さい状態での平地走行時の、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)及びシフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)ともに車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で、シフトアップタイミングは右側、シフトダウンタイミングは左側)にずれる。即ち、シフトアップは遅く、シフトダウンは早くなる。
【0193】
登り坂走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS38)の結果、車重が小さいと判断されれば、図24の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、通常シフトアップ線図U012、U023、U034より高速側にずらせた第二補正シフトアップ線図U312、U323、U334を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそのまま用いる(ステップS39)。図23におけるステップS39のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図19及び図20をもととする登り坂走行時のタイミングチャートの変更と同様に、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)が車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で右側)にずれる。即ち、シフトアップが遅くなる。
【0194】
一方、登り坂走行時において、車重が大きいと判断されれば、図24の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、第二補正シフトアップ線図U312、U323、U334よりさらに高速側にずらせた第三補正シフトアップ線図U412、U423、U434を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそのまま用いる(ステップS40)。図23におけるステップS40のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、加速時のシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11を、前述の、ステップS39のシフトパターン変更による、車速の高速側へのずれ幅よりも、さらに高速側(アクセルペダルの踏み込み量のさらに大きい側。図18でさらに右側)にずらせることとなる。即ち、シフトアップがさらに遅くなる。
【0195】
下り坂走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS42)の結果、車重が小さいと判断されれば、図25の変速点モデル図において、シフトダウン線図として、通常シフトダウン線図D021、D032、D043より高速側にずらせた第二補正シフトダウン線図D321、D332、D343を用いるものとし、シフトアップ線図については、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそのまま用いる(ステップS43)。図23におけるステップS43のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図19及び図21をもととする下り坂走行時のタイミングチャートの変更と同様に、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)が車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で左側)にずれる。即ち、シフトダウンが早くなる。
【0196】
一方、下り坂走行時において、車重が大きいと判断されれば、図25の変速点モデル図において、シフトダウン線図として、第二補正シフトダウン線図D321、D332、D343よりさらに高速側にずらせた第三補正シフトダウン線図D421、D432、D443を用いるものとし、シフトアップ線図については、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそのまま用いる(ステップS44)。図23におけるステップS44のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、減速時のシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜T22を、前述の、ステップS43のシフトパターン変更による、車速の高速側へのずれ幅よりも、さらに高速側(アクセルペダルの踏み込み量のさらに大きい側。図18でさらに左側)にずらせることとなる。即ち、シフトダウンがさらに早くなる。
【0197】
次に、ブレーキ操作に連係しての減速制御(有段式変速装置19のシフトダウン制御)について、図26より説明する。
【0198】
基本的には、走行中(アクセルペダルを一定位置に踏み込んで、エンジン回転数を一定値ERfに保持したままの状態)にブレーキペダルを踏み込んだ場合に、車速の減速に対応して、第一クラッチ・第二クラッチのうち、一方の離間作動、他方の接合作動を行って自動的にシフトダウンを行うのであるが、このシフトダウン時におけるクラッチ圧の変化パターンとして、三つのパターンを図26に示している。
【0199】
図26(a)は、クラッチ圧変化の第一パターンによって、3速走行からブレーキペダルを踏み込んで2速走行へシフトダウンし、再びブレーキペダルの踏み込みを解除し、加速して3速走行へシフトアップする場合のタイミングチャートを示している。第一パターンでは、ブレーキペダルを踏み込むと同時に、まず、第一クラッチのクラッチ圧を設定圧(半クラッチ圧)まで下げ、該半クラッチ圧を暫く保持(半クラッチ状態を保持)する。半クラッチ圧保持後のシフトダウンポイント(シフトダウン線図)に、第一クラッチのクラッチ圧下降開始とともに、第二クラッチのクラッチ圧を0から上昇させて、第一クラッチのクラッチ圧下降と第二クラッチのクラッチ圧上昇とをオーバーラップさせ(クロス波形制御)、該第二クラッチのクラッチ圧を半クラッチ圧まで上げ、第一クラッチに代わって、第二クラッチにより半クラッチ状態を現出する。このように、第一パターンを用いた場合の第一・第二クラッチのクラッチ圧に関するクロス波形制御は、両クラッチのクラッチ圧が半クラッチ圧以下の状態でなされる。
【0200】
ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、クラッチの半クラッチ圧は保持される。即ち、ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、半クラッチ状態が保持される。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、クラッチのクラッチ圧は最大圧まで上昇し、車速の増加に伴い、再びクロス波形制御により第2速から第3速へのシフトアップが行われる。
【0201】
この制御パターンでは、ブレーキをかけた時に、半クラッチ状態を現出し、保持することで、ブレーキにエンジントルクが直接かかるのを防ぎ、ブレーキの負担を抑制することができる。また、ブレーキを解除した直後は、第二クラッチのクラッチ圧が半クラッチ圧から最大クラッチ圧まで立ち上がることによる加速が行われるので、図26(a)の車速の変化パターンでわかるように、加速がゆるやかである。
【0202】
図26(b)は、クラッチ圧変化の第二パターンによって、3速走行からブレーキペダルを踏み込んで2速走行へシフトダウンし、再びブレーキペダルの踏み込みを解除し、加速して3速走行へシフトアップする場合のタイミングチャートを示している。第二パターンでは、ブレーキペダルを踏み込んですぐに第一クラッチのクラッチ圧を下降させるのではなく、実際に車速が一定値まで減速した時に初めてクラッチ圧の下降を開始するものであって、この第一クラッチ圧の下降と同時に第二クラッチのクラッチ圧も0から上昇開始させる。こうして、通常のクロス波形制御(両クラッチに半クラッチ圧よりも高いクラッチ圧が同時に現出する状態)により、第3速から第2速へシフトダウンを行う。シフトダウンして接続された第二クラッチのクラッチ圧は最大圧まで上昇する。ここまでの間、ブレーキペダルは踏み込まれた状態である。
【0203】
シフトダウン後は、ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、第二速(第二クラッチは最大クラッチ圧で接合している)での駆動力伝達が行われている。従って、ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、直ちに車速が上昇を開始し、制動されていない状態における第二速による車速まで上昇し、さらに車速の増加に伴い、再びクロス波形制御により第2速から第3速へのシフトアップが行われる。
【0204】
この制御パターンでは、ブレーキをかけた時に、半クラッチ状態にはならないので、エンジンブレーキがよくかかる。また、図26(b)の車速の変化パターンでわかるように、ブレーキを解除すると直ちに車速が上昇し、加速感がよい。
【0205】
上述の、ブレーキペダル操作に伴う減速時(3速→2速)のシフトダウン制御の第一パターンと第二パターンとの間の切り換えについては、車両にスイッチを設けておき、運転者のスイッチ操作等により行うことができるものとしてもよい。
【0206】
また、図26(c)は、2速走行からブレーキペダルを踏み込んで、車両を完全に停止させる場合のタイミングチャートを示している。2速走行中にブレーキペダルを踏み込み、シフトダウン線図により、第二クラッチのクラッチ圧下降と、第一クラッチのクラッチ圧上昇とが開始し、通常のクロス波形制御により、第2速から第1速へシフトダウンが行われる。
【0207】
第1速となった後もブレーキペダルを踏み続けることにより、車速は低下しつづけ、車速が設定された停止速度まで落ちると同時に第一クラッチのクラッチ圧下降を開始し、第一クラッチを離間し(即ち、両クラッチを離間し)て、車両を完全停止する。
【0208】
次に、図27を参照して、ブレーキペダルを踏み込まず、アクセルペダルの踏み込み解除により自然減速する場合のシフトダウン制御について説明する。
【0209】
図27のタイミングチャート図では、4速走行時からアクセルペダルの踏み込み量を低減させていく。車速の減少に伴い、第4速から第3速へ、第3速から第2速へ、第2速から第1速への各シフトダウンが順次、第一・第二クラッチのクラッチ圧の通常のクロス波形制御で行われる。
【0210】
第1速に切り換わってから、さらに車速が設定された停止速度以下まで落ちると、第一クラッチのクラッチ圧は最大圧からクリープ速度圧まで減圧するように制御され、車速はクリープ速まで自然減速する。このクリープ圧は、アクセルペダルの踏み込み量が0になった(エンジン回転数がアイドル回転数ER1になった)後も保持される。いいかえれば、エンジンがアイドリングしている状態でブレーキをかけない限り、第一クラッチの半クラッチ状態が保持される。この半クラッチ状態は、例えばブレーキペダルを踏み込むことにより、解除して、完全にクラッチ切り状態になるものとしてもよい。
【0211】
次に、前述のデュアルクラッチを備える有段式変速装置について、第一・第二クラッチのクラッチ圧のクロス波形制御を行うのに好適な様態に変容した二つの実施例について、図28、図29より説明する。
【0212】
図28のデュアルクラッチ型有段式変速装置は、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とが分離した構成となっている。本実施例の油圧回路は上述の第一実施例、第二実施例の有段式変速装置に共通に適用することができる。有段式変速装置の駆動列の構成は第一実施例・第二実施例のものと共通であるので説明を省略する。また、図28において、第一実施例の油圧回路(図6参照)と共通の要素には同一の符号を付している。
【0213】
図28に示すように、本実施例の油圧回路では、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側の油圧源とを独立させている。さらに、第一クラッチと第二クラッチの油圧源を独立させている。シフト側回路への専用の油圧源としてポンプ414が設けられており、シフト側油路内の圧力はリリーフ弁69により調整されている。また、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67は、該弁67専用のポンプ415によって作動油の供給を受ける。第一クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁417により調整されている。同様に、第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68は、該弁68専用のポンプ416によって作動油の供給を受ける。第二クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁418により調整されている。
【0214】
以上のように、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側回路の油圧源とが独立しているため、第一クラッチ及び第二クラッチの断接をオーバーラップさせるクロス波形制御の精度を向上させることができる。
【0215】
次に、図29に示す実施例を説明する。本実施例の特徴は、図28の実施例と同様に、デュアルクラッチを備える有段式変速装置において、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とが分離した構成となっていることである。本実施例の油圧回路は上述の第一実施例、第二実施例の有段式変速装置に共通に適用することができる。有段式変速装置の駆動列の構成は第一実施例、第二実施例のものと共通であるので説明を省略する。また、図29において、第一実施例の油圧回路(図6参照)と共通の要素には同一の符号を付している。
【0216】
図29に示すように、シフト側回路と油圧クラッチ側との油圧源とは独立している。シフト側回路への専用の油圧源としてポンプ514が設けられており、シフト側油路内の圧力はリリーフ弁69により調整されている。クラッチ側の油圧回路においては、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67と第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68は、共通の油圧源であるポンプ515より分流弁516を介して作動油の供給を受ける。第一クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁517により調整されている。第二クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁518により調整されている。
【0217】
以上のように、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側回路の油圧源とが独立しているため、第一クラッチ及び第二クラッチの断接をオーバーラップさせるクロス波形制御の精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明は、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速できるようにしたものであり、更に、高速走行性や発進操作性にも優れており、作業運搬車以外に、荒地走行用のバギー車等、高い走行性、操作性の要求される様々な種類の車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】本発明の第一実施例に係る作業運搬車の全体構成を示す側面図。
【図2】同じく平面図。
【図3】第一実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図。
【図4】第一実施例におけるミッションケースの側面一部断面図。
【図5】第一実施例におけるミッションケース上部のシリンダ室の底面一部断面図。
【図6】第一実施例における変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図。
【図7】第一実施例における変速制御手順を示す模式図。
【図8】第一実施例における変速点特性モデル図。
【図9】第一実施例におけるミッションケース内の潤滑構成を示すミッションケースの正面一部断面図。
【図10】第二実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図。
【図11】有段式変速装置のクラッチ制御に関する制御システムブロック図。
【図12】傾斜センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図13】傾斜センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図14】車重センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図15】車重センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図16】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図17】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図18】変速操作(車速変化)に対応するクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図19】傾斜センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図20】登り坂走行(発進)時シフトアップ線図の変更を示す変速点特性モデル図。
【図21】下り坂走行(発進)時シフトダウン線図の変更を示す変速点特性モデル図。
【図22】車重センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図23】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図24】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく平地及び登り坂走行時のシフトパターンの変更を示す変速点特性モデル図。
【図25】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく平地及び下り坂走行時のシフトパターンの変更を示す変速点特性モデル図。
【図26】ブレーキ作動に連係しての車両減速/停止時のクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図27】ブレーキを作動しない場合の車両減速/停止時のクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図28】デュアルクラッチを備えた有段式変速装置用の油圧回路であって、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とを分離させた構成の、一実施例を示す油圧回路図。
【図29】デュアルクラッチを備えた有段式変速装置用の油圧回路であって、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とを分離させた構成の、他の実施例を示す油圧回路図。
【符号の説明】
【0220】
1 作業運搬車
4 荷台
5 エンジン
8 ケース
18 入力部
19 有段式変速装置
25・36 車軸
56 出力部
58・172a 第一クラッチ
59・172b 第二クラッチ
116・117 シフタ軸
163 油面
201 タンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、車軸、及び該エンジンから該車軸へ動力を伝達する手段として有段式変速装置を備えた作業車両、特には作業運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷台下方などにエンジンと車軸とを配置し、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する手段として、ベルト式無段変速装置及びギア式等の有段式副変速装置から成る変速機構を有する作業運搬車が公知となっており(特許文献1参照)、該技術によると、アクセル操作(アクセルペダルの踏み込み操作)に連係して、ベルト式無段変速装置によって、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく連続的に変速を行うことができる。
【特許文献1】特開2000−38042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の作業運搬車においては、水分の付着によりベルトがスリップする、ベルトの耐久性に難点がある、エンジンブレーキがかからない等といった、ベルト式無段変速装置特有の問題があった。更に、副変速装置の操作が、車両を一旦停止させてからでないと行えないなど、煩雑等であるという問題もあった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するため、従来のベルト式無段変速機構とギア式等の有段式副変速装置との組み合わせを、ギア式等の有段式変速装置のみに置き換えることが考えられるが、このような変速装置においては、ギアによる変速に際してのクラッチ切の際に車輪への動力伝達が途切れたり、或いは下り坂での変速時には不測に動いてしまうなど、走行性能が損なわれるという問題があった。
【0005】
さらに、アクセル操作に変速を自動連係させる場合に、単に一律に車速に対しての変速タイミングを設定していると、登り坂走行や車重の大きい場合の加速時には、変速(シフトアップ(速度段上げ))が早すぎてエンストのおそれがあり、下り坂走行時には変速(シフトダウン(速度段下げ))が遅すぎてエンジンブレーキがかからない、エンジンブレーキの制動力よりも坂を下る車両の惰性が打ち勝って車速が上昇してしまうという結果をもたらす可能性がある。
【0006】
本発明は、従来のベルト式無段変速機構と有段式副変速装置との組み合わせに代わる有段式変速装置を備えた作業運搬車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
すなわち、本発明に係る請求項1に記載の作業運搬車は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業運搬車であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるものである。
【0009】
また、請求項2に記載の如く、請求項1記載の作業運搬車において、前記エンジンは、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置において、該エンジンの出力を受ける入力部から前記車軸への出力部までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列している。
【0010】
また、請求項3に記載の如く、請求項1又は請求項2記載の作業運搬車の前記有段式変速装置において、前記奇数速度段の変速駆動列及び前記偶数速度段の変速駆動列をそれぞれ複数備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸と、該複数の偶数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸とを水平方向に並設している。
【0011】
また、請求項4に記載の如く、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記有段式変速装置を収納するケース内の油の油面が、エンジン稼動時に所定高さより低くなるよう、該ケースより油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ、第二クラッチおよび有段式変速装置の潤滑油として、前記ケース内へ放出するタンクを設けている。
【0012】
また、請求項5に記載の如く、請求項4に記載の作業運搬車において、前記第一クラッチ、第二クラッチおよび前記有段式変速装置のシフタ軸の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンクに貯留した油をその作動油として用いる。
【0013】
また、請求項6に記載の如く、請求項5に記載の作業運搬車において、前記タンクへの油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケース内に放出される油量よりも多いものとする。
【0014】
また、請求項7に記載の如く、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記第一クラッチが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねている。
【0015】
或いは、請求項8に記載の如く、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車において、前記有段式変速装置における後進段の駆動列は第二クラッチにより動力断接されるように配設され、該第二クラッチと前記第一クラッチとが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねている。
【0016】
また、本発明に係る請求項9に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度の検知情報に応じて変更するものである。
【0017】
また、請求項10に記載の如く、請求項9に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0018】
また、請求項11に記載の如く、請求項9又は請求項10に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0019】
また、本発明に係る請求項12に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の重量の検知情報に応じて変更するものである。
【0020】
また、請求項13に記載の如く、請求項12に記載の作業車両において、車両重量が大きいことを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量が小さい場合に比べ、車速の高い側に変更する。
【0021】
また、本発明に係る請求項14に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて変更するものである。
【0022】
また、請求項15に記載の如く、請求項14に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0023】
また、請求項16に記載の如く、請求項15に記載の作業車両において、車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、さらに車速の高い側に変更する。
【0024】
また、請求項17に記載の如く、請求項14乃至請求項16のいずれか一項に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更する。
【0025】
また、本発明に係る請求項18に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両の傾斜角度の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0026】
また、請求項19に記載の如く、請求項18に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、高くする。
【0027】
また、請求項20に記載の如く、請求項18又は請求項19に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、低くする。
【0028】
また、請求項21に記載の如く、請求項18乃至請求項20のいずれか一項に記載の作業車両において、前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【0029】
また、本発明に係る請求項22に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両重量の検知情報に応じて、車両発進時における前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0030】
また、請求項23に記載の如く、請求項22に記載の作業車両において、車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい場合に比べ、高くする。
【0031】
また、請求項24に記載の如く、請求項22又は請求項23に記載の作業車両において、前記の車両重量の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【0032】
また、本発明に係る請求項25に記載の作業車両は、エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成であって、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更するものである。
【0033】
また、請求項26に記載の如く、請求項25に記載の作業車両において、車両が登り坂走行時であることを検出した場合、または車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい状態での平地走行時に比べ、高くする。
【0034】
また、請求項27に記載の如く、請求項26に記載の作業車両において、車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、高くする。
【0035】
また、請求項28に記載の如く、請求項25乃至請求項27のいずれか一項に記載の作業車両において、車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、低くする。
【0036】
また、請求項29に記載の如く、請求項25乃至請求項28のいずれか一項に記載の作業車両において、前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行う。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
【0038】
すなわち、請求項1に記載の作業運搬車は、その有段式変速装置が、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができ、登り坂時に下がったりすることがなく確実に走行でき、走行性能を大幅に向上させることができる。また、ベルトが水分によりスリップするというベルト式無段変速装置特有の不具合もなく、耐久性にも優れ、エンジンブレーキも有効に働かせることができる。更には、複数の変速機構を組み合わせる必要が無く、変速構造を簡単にして、製造コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0039】
また、請求項2に記載の如き構成により、有段式変速装置を収納するケースの上下幅を小さく抑えることができ、有段式変速装置を荷台下や運転席下に、地上高を低くすることなく容易に配置することができる。さらに、請求項3に記載の如き構成により、有段式変速装置を収納するケースの上下幅を一層小さく抑えることができる。
【0040】
また、請求項4に記載の如き構成により、有段式変速装置のケース内に溜まる油の油面を低くすることができ、有段式変速装置のケース内で高速回転するギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗による伝達動力の損失を軽減することができ、作業運搬車の経済的な高速走行性を向上させることができる。さらに、請求項5に記載の如く構成することにより、作動油供給のための装置を別途設ける必要がなく、構造の簡素化を図ることができる。さらに、請求項6に記載の如く構成することにより、常にケース内の油溜まりの油面が所定位置で安定し、攪拌抵抗損失の軽減効果が得られる。
【0041】
また、請求項7に記載の如く構成することにより、トルクコンバータなどの発進制御装置を不要とし低コスト化、構造簡単化を図ることができる。或いは、請求項8に記載の如く構成することにより、前進段と後進段とを予め選択した状態にしておくことができ、該前進段に接続された第一クラッチと該後進段に接続された第二クラッチとを交互に入切して前後発進を迅速に切り換えることができるため、前後進を何度も繰り返すような作業走行を、クラッチの切換だけで簡単に行うことができる。
【0042】
また、請求項9に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の傾斜状態にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項10に記載の如く制御することにより、登り坂走行時における速度段を上げる変速が、登り坂走行に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。一方、請求項11に記載の如く制御することにより、下り坂走行時における速度段を下げる変速が、下り坂に見合うようにエンジン回転数の減速過程で早めになされるので、エンジンブレーキを有効に働かせることができる。
【0043】
また、請求項12に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の重量にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項13に記載の如く制御することにより、車両の重量が大きい時(重積載荷時)に速度段を上げる変速が、重積載状態での走行に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。
【0044】
また、請求項14に記載の作業車両は、その有段式変速装置におけるクラッチ制御により、車両の傾斜状態及び車両の重量の大小にかかわらず、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができる。さらに、請求項15に記載の如く制御することにより、登り坂走行時や車重が大きい状態での速度段を上げる変速が、その負荷に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われ、エンスト等の不具合を回避できる。さらに、請求項16に記載の如く制御することにより、車重が大きい状態での登り坂走行時でも、速度段を上げる変速が、その大きい負荷に見合うようにエンジン回転数が十分に高まってから行われる。一方、請求項17に記載の如く制御することにより、下り坂走行時における速度段を下げる変速が、下り坂に見合うようにエンジン回転数の減速過程で早めになされるので、エンジンブレーキを有効に働かせることができる。
【0045】
また、請求項18に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の傾斜状態に応じてクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。さらに、請求項19に記載の如く制御することにより、登り坂走行時に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または坂の傾斜状態による車両のスリップ等の不具合を回避することができ、また、請求項20に記載の如く制御することにより、下り坂走行時に見合うようにエンジン回転数及び車速の上昇を遅らせて、急激な加速を回避することができる。そして、請求項21に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【0046】
また、請求項22に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の重量(荷重状態)に応じてクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。さらに、請求項23に記載の如く制御することにより、車両の重量が大きい時(重積載時)に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延等の不具合を回避することができる。そして、請求項24に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【0047】
また、請求項25に記載の作業車両は、その有段式変速装置における車両発進時の発進クラッチの制御により、車両の傾斜状態及び車両の重量状態に応じて、確実にクリープ状態を得られ、或いは、アクセル操作で設定した速度を得るまで、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに加速させることができる。また、請求項26に記載の如く制御することにより、登り坂走行時または車両重量の大きい状態に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または車両のスリップ等の不具合を回避することができ、さらに、請求項27に記載の如く制御することにより、車両重量の大きい状態で登り坂走行する時に、さらにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を早めにして、車両発進時の遅延または車両のスリップ等の不具合を回避することができる。一方、請求項28に記載の如く制御することにより、下り坂走行時に見合うようにクラッチ圧の圧力および車軸の駆動力の上昇を遅らせて、急激な加速を回避することができる。そして、請求項29に記載の如く、車両発進時に確実に行われるブレーキの踏み込み状態から解除状態への移行操作にこのようなクラッチ制御を連係させることで、前記の発進クラッチにおけるクラッチ制御を確実に車両発進時に現出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
次に、本発明の第一実施例に係る作業運搬車について説明する。図1は本発明の第一実施例に係る作業運搬車の全体構成を示す側面図、図2は同じく平面図、図3は第一実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図、図4は第一実施例におけるミッションケースの側面一部断面図、図5は第一実施例におけるミッションケース上部のシリンダ室の底面一部断面図、図6は第一実施例における変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図、図7は第一実施例における変速制御手順を示す模式図、図8は第一実施例における変速点特性モデル図、図9は第一実施例におけるミッションケース内の潤滑構成を示すミッションケースの正面一部断面図である。
【0049】
なお、以下で述べる各部材の位置や方向等は機体進行方向を基準としている。
【0050】
まず、本発明に係わる作業運搬車1の全体構成について、図1、図2により説明する。該作業運搬車1の本体は、前部フレーム2と後部フレーム3とを前後に連接して構成される。このうちの後部フレーム3は、平面視略直方形の水平状床板と、該床板の前後左右端に立設した鉛直状側板とより成るものであり、該後部フレーム3の上方には、荷台4が好ましくは上下回動可能に配設され、該荷台4の支持台を後部フレーム3が兼ねるようにしている。そして、後部フレーム3の前部は低くなって凹んでおり、該凹みには左右一対の座席9・9が載設されており、一方(本実施例では左側の座席9)を運転席9a、もう一方(本実施例では右側の座席9)を助手席9bとし、該運転席9aの前方には丸形ハンドル41を配置している。
【0051】
該運転席9・9の下方で後部フレーム3内には、図示せぬクランク軸が機体前後方向に向くようにしたエンジン5が配置されている。前記運転席9aには走行時に必ず作業者が座り、また、該運転席9a周りにハンドル41等の重量物が配されるので、該エンジン5は、運転席9aに対して左右方向反対側(即ち、助手席9b側)に配設され、これによって、作業者が運転席9aに座った際、機体の左右方向に重量を均等に分散させ、運転中の機体の左右重量バランスを良好に保つことができ、走行性能を向上させることができる。
【0052】
そして、エンジン5の前方にはミッションケース8が配設され、該ミッションケース8の右側(左右方向でエンジン5寄り側)後部より後方に突設した入力軸18には、前記エンジン5から前方に突設された出力軸6が、振動吸収用のフライホイール7を介して略同一軸芯上に接続されている。
【0053】
該ミッションケース8内には、複数のギア列から成る後述の有段式変速装置19が内設されると共に、ミッションケース8の前面からは前出力軸10、後面からは後出力軸11がそれぞれ突設されており、前記入力軸18に入力されたエンジン5からの動力が、ミッションケース8内の有段式変速装置19にて変速(後進設定時には回転方向を反転)された後、前出力軸10と後出力軸11から前後に出力されるようにしている。
【0054】
ミッションケース8の後方には、後車輪駆動装置13が配設されている。該後車輪駆動装置13の前面からは入力軸17が前方に突設され、該入力軸17は、左右水平方向に若干傾いたドライブシャフト15及びジョイント部(ユニバーサルジョイント)20・20を介して、前記後出力軸11と連結されている。後出力軸11は、ミッションケース8の左側(左右方向でエンジン5及び入力軸18と反対側)後部より後方に突出されており、該後出力軸11と該入力軸17との間に介設されたドライブシャフト15等がエンジン5から左右方向にオフセットされるようにしている。
【0055】
一方、ミッションケース8の前方には、後方に突出する入力軸16を有する前車軸駆動装置12が配置されており、ドライブシャフト14及びジョイント部(ユニバーサルジョイント)20・20を介して該入力軸16を前記ミッションケース8の前出力軸10に連結している。ミッションケース8と前車軸駆動装置12との間には、ドライブシャフト14及びジョイント部20・20との干渉を考慮するようなものがないので、入力軸16と前出力軸10とを略同一軸芯上に配置することで、ドライブシャフト14が真っ直ぐ前後方向に延伸され、これら前出力軸10、ドライブシャフト14、及び入力軸16は、機体前後方向で略同一軸芯上に配置されているため、各ジョイント部20にかかる負荷が緩和されており、騒音の発生を大幅に軽減することができる。また、ジョイント部20を、高価なユニバーサルジョイントではなく、簡単な筒状のカップリングとして、低コストに構成することも可能である。
【0056】
後部フレーム3の後半部は、その前半部より一段高くし、その下方の略左右中央位置に前記後車輪駆動装置13が後部フレーム3から延伸させた図外の取付ブラケットに対し防振ゴムを介して配設され、該後車輪駆動装置13内には後輪差動機構27を有している。該後輪差動機構27においては、前記入力軸17の後端にベベルギア21が形成(または固設)され、該ベベルギア21と噛合するブルギア22と一体のデフケージ23内に、左右両第一車軸25・25の内端部を嵌入するとともに、該第一車軸25・25上に固設したサイドギアと両サイドギアに噛合うベベルピニオンとで構成されるベベルギア機構35を収納しており、該ベベルギア機構35を介して左右両第一車軸25・25を差動可能に連結している。そして、該第一車軸25・25は、それぞれ、後部フレーム3の後半部の左右各外側に配した各後輪26の中心軸である後輪軸26aに対し、ユニバーサルジョイント28及び伝動軸29にて駆動連結している。
【0057】
このベベルギア機構35においては、両第一車軸25・25に作用する地面からの負荷が略均等であれば、両方にデフケージ23の回転力が伝達されて、左右両後輪26・26が駆動され、両第一車軸25・25は、それぞれに対する前記負荷に応じて差動回転する。なお、該ベベルギア機構35にはLSD(リミテッドスリップデフ)機構35aが付設されており、両第一車軸25・25に対する前記負荷の差が所定値を越えたときには、該LSD機構35aを介して、負荷の大きな方の車軸25の回転が負荷の小さな方の車軸25に伝達される。該LSD機構35aは、具体的には片方の第一車軸25とデフケージ23との間に、夫々に係止した摩擦板を積層させ、プレッシャ・プレートと電気アクチュエータ35bを介して前記負荷の差に応じた押圧力を付与する。これにより、両車軸25・25間の回転速度差を適切に制御することができ、旋回性能の向上や路面に適した左右後輪の回転制御が可能となるようにしている。
【0058】
なお、後部フレーム3後部左右側端よりそれぞれ外側方には、ステー3aが突設されており、各ステー3aより各後輪軸26aに対し、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される通例のサスペンション機構30を延設し、該サスペンション機構30によって前記両後輪26を懸架している。
【0059】
また、前部フレーム2の前半部は、その後半部より一段高くして、その下方の略左右中央位置に前記前車輪駆動装置12が、前部フレーム2から延伸させた図外の取付ブラケットに対し防振ゴムを介して配設され、該前車輪駆動装置12内には前輪差動機構31を有している。該前輪差動機構31においては、前記入力軸16の前端にベベルギア32が形成(または固設)され、該ベベルギア32と噛合するブルギア33と一体のデフケージ34内に、左右両第二車軸36・36の内端部を嵌入するとともに、該第二車軸36・36上に固設したサイドギアと両サイドギアに噛合うベベルピニオンとで構成されるベベルギア機構35を収納しており、該ベベルギア機構35を介して左右両第二車軸36・36を差動可能に連結している。そして、該第二車軸36・36は、それぞれ、前部フレーム2の前半部の左右各外側にて操舵可能に配した各前輪37の中心軸である前輪軸37aに対し、ユニバーサルジョイント38及び伝動軸39にて駆動連結している。
【0060】
このベベルギア機構35においては、両第二車軸36・36に作用する地面からの負荷が略均等であれば、両方にデフケージ34の回転力が伝達されて、左右両前輪37・37が駆動され、両第二車軸36・36は、それぞれに対する前記負荷に応じて差動回転する。なお、該前輪差動機構31におけるベベルギア機構35にも、両第二車軸36・36に対する前記負荷の差が所定値を越えたときには負荷の大きな方の車軸36の回転が負荷の小さな方の車軸36に伝達されるように、前記第一車軸25・25上に構成したものと同じLSD(リミテッドスリップデフ)機構35aが付設される。これにより、車軸36・36の回転速度差を適切に制御することができ、旋回性能の向上や路面に適した左右前輪の回転制御が可能となるようにしている。また、後述する中央差動機構101と両第二車軸36・36とが機械的に連結されているので、第一車軸25・25のみならず第二車軸36・36にもエンジンブレーキを確実に作用させることができる。
【0061】
なお、前部フレーム2前部左右側端よりそれぞれ外側方には、ステー2aが突設されており、各ステー2aより各前輪軸37aに対し、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される通例のサスペンション機構40を延設し、該サスペンション機構40によって前記両前輪37を懸架している。
【0062】
また、前部フレーム2の前半部上にはフロントカバー2bが立設されており、その後端上部が操作・計器盤になっており、その上方に前記の丸形ハンドル41を配設している。該フロントカバー2b後端より後方の部分上には、踏板を敷設して、水平面状のプラットフォーム2cが形成され、該プラットフォーム2cは左右両外側に延出されている。
【0063】
次に、前記有段式変速装置19について、図3、図6、図9により説明する。ミッションケース8内には、有段式変速装置19の回転軸として、前記入力軸18、クラッチ入力軸51、第一走行変速軸52、第二走行変速軸53、走行出力軸54、中間軸55、走行動力取出軸56が平行に機体前後方向に横架されている。
【0064】
すなわち、前記エンジン5は、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置19において、該エンジン5の出力を受ける入力部である入力軸18から前記車軸25・36への出力部である走行動力取出軸56までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列しているので、有段式変速装置19を収納するケースであるミッションケース8の上下幅を小さく抑えることができ、有段式変速装置19を荷台4下や座席9・9下に、地上高を低くすることなく容易に配置することができる。
【0065】
このうちの入力軸18上の後端側には、ギア57が固設されると共に、該入力軸18の前端は、ミッションケース8より前外方に突出され、この前外方突出部に、ポンプ213及びポンプ214を装着し、該ポンプ213・214をともに入力軸18で駆動できるようにしている。
【0066】
また、前記入力軸18の左上方に、前記クラッチ入力軸51が配置され、該クラッチ入力軸51上には、前から順に、摩擦多板式の第一クラッチ58と第二クラッチ59とが配設されている。該第二クラッチ59の後方にはギア60がクラッチ入力軸51に固設され、該ギア60は前記ギア57と噛合しており、前記入力軸18からの動力をクラッチ入力軸51に常時伝達可能としている。
【0067】
第一クラッチ58前方におけるクラッチ入力軸51上には、第一クラッチ出力ギア61が回転自在に設けられている。該第一クラッチ58が入ると、該第一クラッチ出力ギア61は、該第一クラッチ58を介してクラッチ入力軸51に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために、第一クラッチ油圧シリンダ71が設けられている。同様に、第二クラッチ59後方におけるクラッチ入力軸51上には、第二クラッチ出力ギア66が回転自在に設けられている。第二クラッチ59が入ると、該第二クラッチ出力ギア66は第二クラッチ59を介してクラッチ入力軸51に相対回転不能に係合される。このクラッチ入切のために、第二クラッチ油圧シリンダ72が設けられている。そして、これら第一クラッチ油圧シリンダ71と第二クラッチ油圧シリンダ72とは、後述するクラッチ作動機構によって動作し、第一クラッチ58と第二クラッチ59が切状態から入状態までの伝達トルクを徐々に連続的に変化させることができるようにしている。
【0068】
また、前記クラッチ入力軸51の左上方には、第一走行変速軸52が配置され、該第一走行変速軸52の前半分には、後から順に、前進1速駆動ギア81、前進3速駆動ギア83、入力用のギア76、後進駆動ギア85が固設されている。このうちのギア76は前記第一クラッチ出力ギア61と噛合して、前記クラッチ入力軸51からの動力を、第一クラッチ58を介して第一走行変速軸52に伝達できるようにしている。
【0069】
そして、前記クラッチ入力軸51の左下方には、第二走行変速軸53が配置され、該第二走行変速軸53の後半分には、後から順に、入力用のギア77、前進2速駆動ギア82、前進4速駆動ギア84が固設されている。このうちのギア77は前記第二クラッチ出力ギア66と噛合して、前記クラッチ入力軸51からの動力を、第二クラッチ59を介して第二走行変速軸53に伝達できるようにしている。
【0070】
更に、前記第一走行変速軸52の左下方で第二走行変速軸53の左上方には、前記走行出力軸54が配置され、該走行出力軸54上には相対回転可能に、後から順に、前進2速従動ギア92、前進4速従動ギア94、前進1速従動ギア91、前進3速従動ギア93、後進従動ギア95が環設されている。このうちの前進1速従動ギア91、前進3速従動ギア93は、前記第一走行変速軸52に固設した前記前進1速駆動ギア81、前進3速駆動ギア83にそれぞれ噛合し、前進2速従動ギア92、前進4速従動ギア94は、第二走行変速軸53に固設した前記前進2速駆動ギア82、前進4速駆動ギア84とそれぞれ噛合している。後進従動ギア95については、第一走行変速軸52と走行出力軸54との間に機体前後方向に設けられた中間軸55上のアイドルギア86と噛合し、該アイドルギア86が前記後進駆動ギア85と噛合されている。
【0071】
このような構成において、ギア81・91より成る前進1速ギア列、ギア82・92より成る前進2速ギア列、ギア83・93より成る前進3速ギア列、ギア84・94より成る前進4速ギア列、及びギア85・86・95より成る後進ギア列が形成されている。
【0072】
また、前記走行出力軸54上において、前記前進1速従動ギア91と前進3速従動ギア93との間には同期装置を介してスプラインハブ96を、前記前進2速従動ギア92と前進4速従動ギア94との間には同期装置を介してスプラインハブ97を、前記後進従動ギア95の後方(前進3速従動ギア93の前方)には同期装置を介してスプラインハブ98を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ96にはシフタ96aが、スプラインハブ97にはシフタ97aが、スプラインハブ98にはシフタ98aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。
【0073】
そして、前進1速と前進3速の従動ギア91・93でスプラインハブ96側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部91a・93aが形成され、前進2速と前進4速の従動ギア92・94でスプラインハブ97側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部92a・94aが形成され、後進の受動ギア95でスプラインハブ98側に向かう部分には、クラッチ歯部95aが形成されている。
【0074】
このような構成において、該クラッチ歯部91a・92a・93a・94a・95aのいずれかを、後述のシフタ作動機構によって前記シフタ96a・97a・98aのいずれかに同期装置を介して係合させることで、その該当する従動ギアを走行出力軸54に相対回転不能に係合させることができ、該走行出力軸54には、前記第一走行変速軸52又は第二走行変速軸53からの動力を、選択したギア列を介して円滑に伝達できるようにしている。
【0075】
また、該走行出力軸54上で前記前進2速従動ギア92の後方にはギア99が固設され、該ギア99は中央差動機構101のブルギア100に噛合しており、走行出力軸54からの動力は、ブルギア100から、デフケージ102内のベベルギア機構35を介して前後に適切に差動分配される。
【0076】
中央差動機構101から前方に延出された前記走行動力取出軸56は、ミッションケース8の左前面に設けられたPTOギアケース103内に突出されると共に、走行動力取出軸56の前端にはギア104が固設され、該ギア104は前記前出力軸10上に固設されたギア105と噛合している。これにより、走行出力軸54からの動力が、中央差動機構101を介して前出力軸10に伝達され、更に、ドライブシャフト14から前記前車輪駆動装置12に伝達されるようにしている。
【0077】
一方、中央差動機構101から後方に延出された前記後出力軸11は、前記ドライブシャフト15に連結されており、これにより、走行出力軸54からの動力が、中央差動機構101を介してドライブシャフト15から前記後車輪駆動装置13に伝達されるようにしている。なお、中央差動機構101のベベルギア機構35は、前記後輪差動機構27や前輪差動機構31の各ベベルギア機構35と同様にLSD機構35a付きのベベルギア機構35となっている。
【0078】
また、このように構成では、前記第一クラッチ58は前進1速ギア列等と接続されているため、前進1速の変速段に設定した状態で前記第一クラッチ58を入れて前進1速で発進することができ、発進操作を第一クラッチ58の入切で行うことができる。なお、前進2速の変速段に設定した状態で前記第二クラッチ59を入れれば前進2速で発進することができ、発進操作を第二クラッチ59の入切で行うことができる。そして、このように発進時に用いるクラッチ58または59のクラッチ圧を適宜に設定することで、クリープ状態を現出することができる。
【0079】
すなわち、前記第一クラッチ58、または前記第二クラッチ59が発進クラッチを兼ねているので、トルクコンバータなどの発進制御装置を不要とし、低コスト化、構造簡単化を図ることができる。
【0080】
次に、前記シフタ及びクラッチの作動機構について、図3乃至図6及び図9により説明する。前記シフタ96a・97a・98aには、第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108の先部がそれぞれ係合され、該第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108基部の各ボス部には、第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118がそれぞれ挿通固定されている。
【0081】
該第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118は、前記ミッションケース8上部に設けられたシフタケース125から垂設された前後の軸受壁109・110の間に、互いに平行に前後摺動可能に挿通され、水平方向に並設されており、更に、該第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118には、前記第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108の各ボス部が、ピン115等を介して相対回転不能でかつ軸方向移動不能に固定されている。これにより、第一フォーク106、第二フォーク107、第三フォーク108が、第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118とそれぞれ一体的となって、機体前後方向に摺動できるようにしている。
【0082】
この場合、前記第一シフタ軸116を前後に摺動すると、第一フォーク106がシフタ96aを動かして、該シフタ96aがスプラインハブ96に対して従動ギア91・93のいずれかを係合させ、該従動ギア91を含む前進1速ギア列と従動ギア93を含む前進3速ギア列とから成る奇数速度段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができる。一方、第二シフタ軸117を前後に摺動すると、第二フォーク107がシフタ97aを動かして、該シフタ97aを従動ギア92・94のいずれかに係合させ、該従動ギア92を含む前進2速ギア列と従動ギア94を含む前進4速ギア列とから成る偶数速度段のギア列のうちから、一つのギア列を選択することができる。
【0083】
すなわち、前記有段式変速装置19において、前記奇数速度段の複数の変速駆動列である前進1速と3速のギア列、及び前記偶数速度段の複数の変速駆動列である前進2速と4速のギア列を備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列より一つの変速駆動列を選択するための第一シフタ軸116と、該複数の偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列より一つの変速駆動列を選択するための第二シフタ軸117とを水平方向に並設しているので、有段式変速装置16を収納するケースの上下幅を一層小さく抑えることができる。
【0084】
ここで、前記第一シフタ軸116の外周面には、前進1速位置、中立位置、前進3速位置の位置決めのための環状の溝116a、116b、116cが後から順に形成され、該溝116a、116b、116cには、前記軸受壁109の下面から上方に穿孔された穴109aの下部が垂直に連通されており、該穴109a内には、付勢バネ112とデテント球113とが、該デテント球113の先端が前記溝116a、116b、116cに臨むように嵌入されて、デテント機構111が構成されている。
【0085】
これにより、付勢バネ112によってデテント球113が溝116a、116b、116cに向かって常時押圧されるので、第一シフタ軸116を機体前後方向に摺動して所定の変速位置に移動させる際には、デテント球113が溝116a(前進3速位置)、116b(中立位置)、116c(前進1速位置)のいずれかに係止されるため、移動後もずれることなく第一シフタ軸116を所定変速位置に確実に保持することができる。第二シフタ軸117にも前進2速位置、中立位置、前進4速位置の位置決めのために、第三シフタ軸118にも後進位置、中立位置の位置決めのために、同様のデテント機構がそれぞれに設けられている。
【0086】
また、シフタケース125内には、第一油圧シリンダ126、第二油圧シリンダ127、第三油圧シリンダ128が平行に機体前後方向に配設され、該第一油圧シリンダ126、第二油圧シリンダ127、第三油圧シリンダ128の各ロッド129・134・139の一端からは連結アーム87が垂設され、各連結アーム87の下端は、前記第一シフタ軸116、第二シフタ軸117、第三シフタ軸118の一端にそれぞれ連結されている。
【0087】
そして、このうちの第一油圧シリンダ126においては、前記ロッド129の他端には、大径部130aと小径部130bとからなる第一ピストン130が固設され、該小径部130bには、前記大径部130aよりも大きな外径を有する円筒状の第二ピストン131が、小径部130b上を軸芯方向に摺動可能に外嵌されている。これら第一ピストン130と第二ピストン131とからなるピストン146を挟んで機体前後方向には、油室132・133が形成され、該油室132・133は、それぞれ電磁切換弁119・120に接続されている。
【0088】
このような構成において、中立状態の場合には、電磁切換弁119・120(ともに非励磁状態)から油路143・144を介して両油室132・133にそれぞれ圧油が供給されるが、第一ピストン130と第二ピストン131との間がドレン通路145に開放されているため、第一ピストン130は紙面右方へ移動し、第二ピストン131は紙面左方へ移動して両内端面同士が当接する。このとき、第二ピストン131の油室133側の受圧面積の方が油室132側の受圧面積よりも大きいため、図4に示すように第二ピストン131の内側外周角部がシフタケース125の肩部125aに当接した位置で保持される。この保持位置を中立位置と規定する。これにより、ピストン146を中立位置に精度良く位置決めすることができる。
【0089】
前進1速の場合には、前記電磁切換弁120による油室133への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁120のみを励磁する)ことにより、ピストン146が油室132内の油圧によって油室133側(紙面右方)に押動され、該油室133の最外端に相当する前進1速位置に保持される。前進3速の場合には、前記電磁切換弁119による油室132への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁119のみを励磁)ことにより、ピストン146が油室133内の油圧によって油室132側(紙面左方)に押動され、前記肩部125aに阻まれて移動不能な第二ピストン131を残した状態で第一ピストン130だけが油室132の最外端に相当する前進3速位置まで摺動して保持される。
【0090】
第二油圧シリンダ127においても、同様にして、前進2速位置、中立位置、前進4速位置の位置決めが行われる。すなわち、前記ロッド134の他端に、大径部135aと小径部135bとからなる第一ピストン135が固設され、該小径部135bには、前記大径部135aよりも大きな外径を有する円筒状の第二ピストン136が、小径部135b上を軸芯方向に摺動可能に外嵌されている。該第二ピストン136も、バネ等によって大径部135a側に常時付勢され、小径部135bから軸芯方向に脱着しないようにしている。これら第一ピストン135と第二ピストン136とからなるピストン147を挟んで機体前後方向には、油室137・138が形成され、該油室137・138は、それぞれ電磁切換弁121・122に接続されている。
【0091】
このような構成において、中立状態の場合には、電磁切換弁121・122(ともに非励磁状態)から油路148・149を介して両油室137・138にそれぞれ圧油が供給されるが、第一ピストン135と第二ピストン136との間がドレン通路150に開放されているため、第一ピストン135は紙面左方へ移動し、第二ピストン136は紙面右方へ移動して両内端面同士が当接する。このとき、第二ピストン136の油室138側の受圧面積の方が油室137側の受圧面積よりも大きいため、第二ピストン136の内側外周角部がシフタケース125の肩部125bに当接した位置で保持される。この保持位置を中立位置と規定する。これにより、ピストン147を中立位置に精度良く位置決めすることができる。
【0092】
前進2速の場合には、前記電磁切換弁122による油室138への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁122のみ励磁する)ことにより、ピストン147が油室137内の油圧によって油室138側に押動され、該油室138の最外端に相当する前進2速位置に保持される。前進4速の場合には、前記電磁切換弁121による油室137への圧油の供給のみを停止する(電磁切換弁121のみ励磁する)ことにより、ピストン147が油室138内の油圧によって油室137側に押動され、前記肩部125bに阻まれて移動不能な第二ピストン136を残した状態で第一ピストン135だけが油室137の最外端に相当する前進4速位置まで摺動して保持される。
【0093】
変速油路154は、両電磁切換弁121・122及び両電磁切換弁119・120への分岐後、電磁切換弁123に接続される。第三油圧シリンダ128においては、前記ロッド139の他端にはピストン140が固設され、該ピストン140を挟んで機体前後方向には油室142・153が形成され、両油路142・153は、それぞれの油路151・152を介して、電磁切換弁123に接続される。
【0094】
電磁切換弁123は、前進設定時及び中立状態の時は非励磁であり、油室142に変速油路154からの油を供給し、油室153より油をドレンして、ピストン140及びロッド139を中立位置にするものである。後進設定時には電磁切換弁123が励磁され、変速油路154からの油を油室153に供給し、油室142から油をドレンして、ピストン140及びロッド139を紙面左側に摺動し、後進位置に切り換える。
【0095】
エンジン始動時は、全ての電磁切換弁119・120・121・122・123が図示のように非励磁位置にあるため、有段変速装置は中立状態に保持される。前記電磁切換弁119乃至123のうちの所定の電磁切換弁に変速指令信号が送られると、前述のようにして所定の変速位置にピストン146・147・140が移動し、該ピストン146・147・140に固設されたロッド129・134・139が、連結アーム87、シフタ軸116・117・118、フォーク106・107・108を介して、前記シフタ96a・97a・98aを各変速段の従動ギア91・92・93・94・95に係合させる。すると、該従動ギア91・92・93・94・95からの変速動力が、シフタ96a・97a・98aを介して走行出力軸54に伝達され、中央差動機構101を介して、一方は前出力軸10から前記前車輪駆動装置12に、他方は後出力軸11から後車輪駆動装置13に伝達されて、作業運搬車1が選択した速度段で走行される。
【0096】
また、前記ポンプ214によってタンク201からオイルフィルター220を介して吸入された油は、分岐して一方は前記変速油路154に、他方はクラッチ制御用のクラッチ油路155に流れ込む。そして、該クラッチ油路155内の圧油は、リリーフ弁69によって最高圧が回路保護のために規制された状態で、ラインフィルタ62、電磁比例減圧弁67、ラインフィルタ63を介して、前記第一クラッチ油圧シリンダ71に供給されると共に、ラインフィルタ64、電磁比例減圧弁68、ラインフィルタ65を介して、前記第二クラッチ油圧シリンダ72にも供給される。
【0097】
これにより、前記電磁比例減圧弁67・68を使って、前記第一クラッチ油圧シリンダ71・第二クラッチ油圧シリンダ72のピストン156・157を徐々に連続的に移動させることができ、例えば、前記第一クラッチ58・第二クラッチ59が多板式の摩擦クラッチの場合には、ピストン156・157によって摩擦板間の挟持力を連続的に変化させ、クラッチの切状態から入状態までの伝達トルク間を連続的に変化させることができるのである。
【0098】
なお、前記リリーフ弁69の下流側の油路158にはリリーフ弁70が設けられ、該リリーフ弁70によって潤滑油としての最高圧が規制された状態で、前記有段変速装置19に含まれる各部材の被潤滑部位159や前記第一クラッチ58・第二クラッチ59に、潤滑油として供給される。
【0099】
以上のような構成から成る有段式変速装置19の変速制御については図外のアクセルペダルの踏み込み量とそのときの車速との関係で自動変速されるものであって、この自動変速過程について、図3乃至図8により説明する。
【0100】
前進1速で走行中に前進2速へとシフトアップする場合の変速制御を例に説明する。図7に示すように、前進1速で走行中は、前記第一クラッチ58は入状態(ON)となっている。即ち、第一クラッチ油圧シリンダ71により現出される第一クラッチ58のクラッチ圧が規定値となっている。この時、前記第一シフタ軸116は、前進1速位置に保持されている(電磁切換弁120が励磁している)ため、前記第一フォーク106を介してシフタ96aが前進1速従動ギア91に係合されており、走行出力軸54が、前記前進1速ギア列81・91を介して前記第一クラッチ58と接続されている。これにより、エンジン5からの動力は、入力軸18、クラッチ入力軸51、第一クラッチ58、第一走行変速軸52の順に伝達された後、前進1速ギア列81・91で前進1速に変速され、該前進1速の動力が走行出力軸54から前後の車輪駆動装置12・13へと伝達されている。一方、前記第二クラッチ59は切断(OFF)されている。即ち、第二クラッチ油圧シリンダ72により現出される第二クラッチ59のクラッチ圧が最低値となっている。この時、前記第二シフタ軸117は中立位置に保持されており、前記第二フォーク107を介してシフタ97aも中立位置に保持されている。
【0101】
そして、A時点で例えばアクセルペダルの踏み込み量を多くして、前進1速から前進2速への変速指令信号が図示せぬ制御装置から発せられると、第一クラッチ58の入状態、該第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列(ギア81・91)の走行出力軸54との係合状態、及び第二クラッチ59の切状態はそのままで変更されることなく、一方、該第二クラッチ59に接続される前進2速ギア列(ギア82・92)が、前記走行出力軸54と係合状態になる。つまり、前記電磁切換弁122が切り替え制御(非励磁→励磁)されて第二油圧シリンダ127のロッド134が移動され、第二シフタ軸117が前進2速位置まで移動される。すると、前記第二フォーク107を介してシフタ97aが中立位置から前進2速従動ギア92まで摺動し係合され、その結果、走行出力軸54が前記前進2速ギア列を介して前記第二クラッチ59と接続される。ただし、該第二クラッチ59自体は依然切状態(OFF)にあり、エンジン5から前進2速ギア列への動力は切断されたままであるため、前進2速ギア列と走行出力軸54との係合に伴う伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0102】
変速指令信号が発せられてから前進2速ギア列の走行出力軸54に対する係合状態を確認したB時点になると、第一クラッチ58は徐々に切断が進み、第二クラッチ59は徐々に接続が進む内容のクラッチ断接指令信号が制御装置から発せられる。すると、前記電磁比例減圧弁67・68が比例減圧制御されて、前記第一クラッチ油圧シリンダ71のピストン156と第二クラッチ油圧シリンダ72のピストン157が徐々に連続的に移動し、第一クラッチ58は現在の入状態から切状態に離間作動(クラッチ圧の低減)が進み、第二クラッチ59は現在の切状態から入状態に接合作動(クラッチ圧の上昇)が進み、これら離間作動と接合作動とが並行して行われる。
【0103】
更に、前記B時点から時間が経過したC時点まではクラッチ断接指令信号が継続して発せられ続け、該C時点で前記第一クラッチ58は完全に切状態(OFF)、第二クラッチ59を完全に入状態(ON)となる。つまり、このクラッチ断接指令信号が発せられている間は、前進1速ギア列、前進2速ギア列は走行出力軸54と常時係合状態にあることから、第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列へのエンジン5からの動力は徐々に減少していく一方、第二クラッチ59に接続された前進2速ギア列へのエンジン5からの動力は徐々に増加していくこととなる。即ち、変速過程において、第一クラッチ58及び第二クラッチ59がともに半クラッチとなる状態を現出する。これにより、前進1速ギア列と前進2速ギア列から走行出力軸54への動力は、A時点を境に徐々に前進1速から前進2速に切り替わっていき、C時点で前進2速に変速され、この間は、エンジン5からの動力は途切れない。なお、このように、シフトチェンジ中に一方のクラッチのクラッチ圧低減と他方のクラッチのクラッチ圧上昇とを示す経時曲線がクロスするようなクラッチ圧制御を、後述の、様々な関連の実施例において、「クロス波形制御」と称するものとする。
【0104】
C時点から若干時間が経過したD時点になると、変速完了信号が制御装置から発せられ、第二クラッチ59の入状態、該第二クラッチ59に接続された前進2速ギア列の走行出力軸54との係合状態、及び第一クラッチ58の切状態はそのまま変更されることなく、一方、該第一クラッチ58に接続される前進1速ギア列を、前記走行出力軸54と非係合状態にする。つまり、前記電磁切換弁120が切り替え制御(励磁→非励磁)されて第一油圧シリンダ126のロッド129が移動され、第一シフタ軸116が中立位置まで移動され、前記第一フォーク106を介してシフタ96aが前進1速従動ギア91から中立位置まで摺動される。このように、第一クラッチ58を切状態、第二クラッチ59を入状態とした上で、第一クラッチ58に接続された前進1速ギア列を走行出力軸54と非係合状態とすることができ、前進1速から前進2速への変速が完了する。従って、第一クラッチ58は切状態にあり、エンジン5から前進1速ギア列への動力は既に切断されているため、前進1速ギア列を走行出力軸54と非係合状態にする時に伴う伝達系への過剰な負荷は発生しない。
【0105】
他の変速段間(2速→3速のシフトアップ、3速→4速のシフトアップ等)の変速制御も上記と同様なプロセスで実施される。すなわち、エンジン5と、車軸25・36と、該エンジン5から該車軸25・36に駆動力を伝達する有段式変速装置19とを配設した構造の作業運搬車1であって、該有段式変速装置19は、奇数速度段の変速駆動列である前進1速と3速のギア列への動力断接用の第一クラッチ58と、偶数速度段の変速駆動列である前進2速と4速のギア列への動力断接用の第二クラッチ59とを備えており、アクセル操作(アクセルペダルの踏み込み)と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジン5から該車軸25・26への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ58及び第二クラッチ59のうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるので、エンジン5から車軸25・36への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができ、登り坂時に下がったりすることがなく確実に走行でき、走行性能を大幅に向上させることができる。また、水分によりスリップすることがなく、耐久性にも優れ、エンジンブレーキも有効に働き、ベルト式無段変速装置特有の問題を解消することができる。更には、複数の変速機構を組み合わせる必要が無く、変速構造を簡単にして、製造コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができるのである。
【0106】
また、作業運搬車1において、アクセルペダルの踏み込み量とその時の車速で変速段が自動的に変速される自動変速制御が行われる際には、図8に示すような変速点特性モデル図と、センサにより実際に検出されたエンジン5のスロットル開度及び車速とに基づいて、前記変速指令信号と変速完了信号の発信時期であるA時点とD時点が決定される。図8中の変速点特性曲線に基づく変速制御の特徴として、減速時(前進2速から前進1速へのシフトダウン線図D021、前進3速から前進2速へのシフトダウン線図D032、前進4速から前進3速へのシフトダウン線図D043)の車速変化を、増速時(前進1速から前進2速へのシフトアップ線図U012、前進2速から前進3速へのシフトアップ線図U023、前進3速から前進4速へのシフトアップ線図U034)よりも小さくしている。また、低速段(例えば前進1速から前進2速へのシフトアップ線図U012)の車速変化を、高速段(例えば前進3速から前進4速へのシフトアップ線図U034)よりも小さくしている。これによりオペレータの意図的なキック(シフト)ダウンや、走行負荷の増加に伴う車速低下に応じた自動減速がスムーズに行えるようになる。
【0107】
次に、以上のような構成の有段式変速装置19を収納するミッションケース8内の潤滑構成について、図6、図9により説明する。ミッションケース8の底部には、該ミッションケース8の内壁から水平方向に板状の隔壁160が延設され、該隔壁160によってミッションケース8の内部空間が上下に仕切られて、隔壁160上方には、前記有段式変速装置19を収納する収納部161が形成され、隔壁160下方には、前記有段式変速装置19から流下してきた油を溜めるための油溜まり162が形成される。
【0108】
そして、前記隔壁160の最左部で前記走行動力取出軸56の下方には開口部169が設けられており、これにより、前記油圧シリンダ71、72、126乃至128、電磁弁67、68、119乃至123等から油路145・147等を介して漏出する作動油や、前記クラッチ58・59(油圧シリンダ71、72)、被潤滑部159等を潤滑した後の潤滑油が、ミッションケース8の内部壁面沿いに流下する等して、開口部169から前記油溜まり162内に流入するようにしている。
【0109】
更に、油溜まり162のミッションケース8側壁には、ストレーナ付きの排油口164が開口され、該排油口164は配管165を介して前記ポンプ213に接続され、該ポンプ213は配管166を介して前記タンク201上部の流入口201aに接続されている。タンク201の下部は、前記オイルフィルター220を介して流出口201bに連通され、該流出口201bは、配管167を介して前記ポンプ214に接続され、該ポンプ214は、前記油路154・155を介して前記油圧シリンダ71、72、126:127、128、電磁弁67、68、119、120、121、122、123等に接続されている。
【0110】
このような構成において、車両走行時、油溜まり162に貯まった油は、エンジン5からの出力軸18と直結したポンプ213によって吸入され、前記排油口164からミッションケース8外部に設けたタンク201まで、前記配管165、ポンプ213、配管166を介して強制的に排出される。これにより、車両走行時のエンジン5稼働時には、タンク201によってミッションケース8内の油を回収して、油面163の高さを、前記有段変速装置19の比較的高速回転するギアの下端より低くなるように設定することができる。そして、タンク201内に貯溜された油は、エンジン5からの出力軸18と直結したポンプ214によって吸入され、配管167、ポンプ214、油路154・155を介して、潤滑油や作動油として再びミッションケース8内の有段式変速装置19に供給される。
【0111】
すなわち、前記有段式変速装置19を収納するケースであるミッションケース8内の油の油面163が、エンジン5稼動時に所定高さより低くなるよう、該ミッションケース8より油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ58、第二クラッチ59および前記有段式変速装置19の潤滑油として、前記ミッションケース8内へ放出するタンク201を設けているので、有段式変速装置19のミッションケース8内に溜まる油の油面163を低くすることができ、有段式変速装置19のミッションケース8内で高速回転するギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗による伝達動力の損失を軽減することができ、作業運搬車1の経済的な高速走行性を向上させることができる。
【0112】
また、前述の如く、前記第一クラッチ58、第二クラッチ59および前記有段式変速装置19のシフタ軸116・117・118の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンク201に貯留した油をその作動油として用いるので、作動油供給のための装置を別途設ける必要がなく、構造の簡素化を図ることができる。
【0113】
ここで、前記隔壁160によって、ミッションケース8内にあふれた油を油溜まり162内に一時的に隔離することができ、たとえ悪路等で車両が左右に傾斜した姿勢で走行して油溜まり162の油が左右のいずれかに偏った場合等でも、高速回転するギアが油内に深くまで浸漬するのを防止して、ギアが油を攪拌する際の攪拌抵抗を大幅に軽減することができる。なお、本実施例では、前述したように、隔壁160の開口部169は、該有段式変速装置19の回転軸のうち、走行動力取出軸56の下方に設けているが、これは、ギアによる攪拌抵抗の影響が最小限に抑えられる意味で、油が左右のいずれかに偏った場合等でも低速回転する走行動力取出軸56上のギアだけが油中に浸漬するようにしているからである。
【0114】
また、前述の如く、前記ポンプ213・214のいずれも、前記エンジン5からの入力軸18に連結されて駆動されているため、タンク201内への油の回収量は、エンジン5の回転数に比例することとなる。従って、たとえエンジン5の回転数が増してミッションケース8内に放出される油量が増加しても、タンク201内への油の回収量も増加させることができるのである。
【0115】
すなわち、前記タンク201への油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケースであるミッションケース8内に放出される油量よりも多いので、常にミッションケース8内の油溜まりの油面163が所定位置で安定し、攪拌抵抗損失の軽減効果が得られる。
【0116】
なお、前記タンク201は、ミッションケース8の側方に配置されると共に、略水平な配管168を介してミッションケース8内と連通されており、流入する油が過剰となってタンク201の油面が高くなってもオーバーフローしてミッションケース8内に戻るようにし、油面が前記流入口201aを塞がないようにしている。これにより、たとえ走行中にミッションケース8内の油面が低下して排油口164から排出される油にエアが多量に混入しても、タンク201に貯溜される間にガス抜きされて、エアのない油を潤滑油や作動油として再びミッションケース8内の有段式変速装置19に供給することができる。また、タンク201は、ミッションケース8の内部に区画したスペースに適用して内蔵させてもよい。
【0117】
次に、有段式変速装置の第二実施例(有段式変速装置42)について、図10より説明する。図10は第二実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図である。
【0118】
有段式変速装置42のミッションケース43内には、前記入力軸18、クラッチ入力軸44、第一走行変速軸45、第二走行変速軸46、走行出力軸47、中間軸48、前記走行動力取出軸56が平行に機体前後方向に横架されている。
【0119】
このうちの入力軸18上にはギア170が固設され、該ギア170は、前記クラッチ入力軸44上に固設されたギア171と噛合し、前記入力軸18からの動力をクラッチ入力軸44に常時伝達可能としている。そして、このクラッチ入力軸44上でギア171よりも前方には、第一クラッチ172aと第二クラッチ172bとが一体化されたクラッチ172が配設されている。
【0120】
このうちの第一クラッチ172a前方のクラッチ入力軸44上にはギア173が相対回転自在に設けられており、第一クラッチ172aが入ると、該ギア173は第一クラッチ172aを介してクラッチ入力軸44に相対回転不能に係合される。同様に、第二クラッチ172b後方のクラッチ入力軸44上にはギア174が相対回転自在に設けられており、第二クラッチ172bが入ると、該ギア174は第二クラッチ172bを介してクラッチ入力軸44に相対回転不能に係合される。
【0121】
また、前記第一走行変速軸45の前半分には、後から順に、入力用のギア175、前進1速駆動ギア181、前進3速駆動ギア183が固設されている。このうちのギア175は前記第一クラッチ出力ギア173と噛合して、前記クラッチ入力軸44からの動力を、第一クラッチ172aを介して第一走行変速軸45に伝達できるようにしている。
【0122】
そして、該第一走行変速軸45の後半分周りには、筒状の前記第二走行変速軸46が回動可能に軸支され、該第二走行変速軸46の外周には、後から順に、後進駆動ギア185、前進4速駆動ギア184、前進2速駆動ギア182、入力用のギア176が固設されている。該ギア176は前記第二クラッチ出力ギア174と噛合して、前記クラッチ入力軸44からの動力を、第二クラッチ172bを介して第二走行変速軸46に伝達できるようにしている。
【0123】
このように第二走行変速軸46を、中空の筒軸として第一走行変速軸45と同軸上で、しかも第一走行変速軸45の一部に外嵌させて設けたので、有段式変速装置42内の伝動軸の本数を低減することができ、ミッションケース43の大きさを小さくして機体の軽量化とコンパクト化を図ることができる。更に、ミッションケース43の上下方向の厚みを特に薄くすることができ、地上高さを高くすることなく、前記荷台4の下にミッションケース43を容易に収納することができる。
【0124】
また、前記該走行出力軸47上には相対回転可能に、後から順に、後進従動ギア195、前進4速従動ギア194、前進2速従動ギア192、前進1速従動ギア191、前進3速従動ギア193、が環設されている。このうちの前進1速従動ギア191、前進3速従動ギア193は、それぞれ前記第一走行変速軸45に固設した前記前進1速駆動ギア181、前進3速駆動ギア183に噛合し、前進2速従動ギア192、前進4速従動ギア194は、それぞれ第二走行変速軸46に固設した前記前進2速駆動ギア182、前進4速駆動ギア184と噛合している。後進従動ギア195については、第二走行変速軸46と走行出力軸47との間に機体前後方向に設けられた中間軸48上のアイドルギア49と噛合し、該アイドルギア49が前記後進駆動ギア185と噛合されている。
【0125】
このような構成において、ギア181・191より成る前進1速ギア列、ギア182・192より成る前進2速ギア列、ギア183・193より成る前進3速ギア列、ギア184・194より成る前進4速ギア列、及びギア185・49・195より成る後進ギア列が形成されている。
【0126】
そして、前記走行出力軸47上において、前記前進1速従動ギア191と前進3速従動ギア193との間にはスプラインハブ186を、前記前進2速従動ギア192と前進4速従動ギア194との間にはスプラインハブ187を、前記後進従動ギア195の前方(前進4速従動ギア194の後方)にはスプラインハブ188を、それぞれ相対回転不能に係合している。このうちのスプラインハブ186にはシフタ186aが、スプラインハブ187にはシフタ187aが、スプラインハブ188にはシフタ188aが、それぞれ、軸芯方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。
【0127】
このような構成において、前記シフタ作動機構によって、前記シフタ186a・187a・188aのいずれかを従動ギア191・192・193・194・195のいずれかに係合させることで、その該当する従動ギアを走行出力軸47に相対回転不能に係合させることができ、該走行出力軸47には、前記第一走行変速軸45又は第二走行変速軸46からの動力を前記各ギア列を介して伝達できるようにしている。
【0128】
このような構成において、ギア181・191より成る前進1速ギア列は前記第一クラッチ172aに接続される一方、ギア185・49・195より成る後進ギア列は前記第二クラッチ172bに接続されているため、前進1速ギアと後進ギアを入れたままの状態で、両クラッチ172a・172bの入切操作を行うことができる。
【0129】
すなわち、前記有段変速装置19における後進段の駆動列は第二クラッチ172bにより動力断接されるように配設しておけば前進段と後進段とが選択状態におくことができ、該第二クラッチ172bと前記第一クラッチ172aとが発進クラッチを兼ねているので、該前進段に接続された第一クラッチ172bと該後進段に接続された第二クラッチ172aとを交互に入切すれば前後発進を迅速に切換えることができ、前後進を何度も繰り返すような作業走行を、クラッチの切り替えだけで簡単に行うことができる。
【0130】
次に、図11乃至図24より、前記有段式変速装置に適用される、前述のクラッチ制御を、いくつかのパラメータ(特に車両傾斜角度及び車重(積載荷重))に基づいて補正するものとした、クラッチの補正制御について、いくつかの実施例を説明する。
【0131】
なお、以下の制御実施例を用いるのに好適な有段式変速装置19の基本的構成は第一実施例のもの(図3等参照)と同一であるので詳細な説明を省略する。上述したように、有段式変速装置19においては、第一クラッチと第二クラッチとを備えている。第一クラッチは奇数速度段の第1速及び第3速に連係し、第二クラッチは偶数速度段の第2速及び第4速に連係している。また、油圧回路の構成も第一実施例のもの(図6参照)と同一であるので説明を省略する。さらに、適用可能な範囲において、図10の有段式変速装置42の制御実施例として考えてもよい。
【0132】
まず、以下に説明するクラッチ制御に関する制御システムについて説明する。図11は、有段式変速装置の変速制御システムブロック図である。図11に示すように、有段式変速装置19のクラッチ制御のための制御パラメータとして、アクセルペダル角度センサやスロットル開度センサ等の入力回転数検出手段301よりエンジン入力回転数(スロット開度)の検知情報が、エンジン回転数検出手段302よりエンジン出力回転数の検知情報が、アクセルペダル踏み込み速度検出手段303よりアクセルペダル踏み込み速度の検知情報が、負荷状態(車軸トルク)検出手段304よりエンジン負荷状態(車軸トルク)の検知情報が、車両傾斜角検出手段305より車両傾斜角度の検知情報が、車重検出手段306より車重(積載荷重)の検知情報が、ブレーキペダル踏み込み速度検出手段307よりブレーキペダル踏み込み有無の検知情報が、それぞれ、CPUに入力される。これらの情報に基づき、CPUはクラッチ切り換えのタイミング等を判断し、シフタ制御用の制御弁119・120・121・122・123の制御指令、及び、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67並びに第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68の制御指令を送出する。
【0133】
車両には、前記各検出手段301〜307が備えてあり、これらのうち、前記車両傾斜角検出手段305とて、車両の進行方向における傾斜角度を検知する車両傾斜センサ、及び、前記車重検出手段306として、積載荷重を検知する車重センサを搭載している。なお、これら車両傾斜センサ、車重センサのうち少なくとも一つを有段式変速装置19に組み入れてもよい。
【0134】
まず、図12乃至図17により、車両発進時における変速クラッチ(発進クラッチ)の制御パターンについて説明する。なお、これは、ブレーキペダルを踏み込んでおいてから、キースイッチをONする等によりエンジンを起動し、その後、該ブレーキペダルの踏み込みを解除することに連動してクラッチが入る(アクセルペダルを踏み込んでもよい)という、一連の車両発進行程における変速クラッチ制御を指すものである。
【0135】
図12、図13にて示す実施例について説明する。図12は、車両傾斜センサ検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図13は、車両傾斜センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。車両傾斜センサによる検知情報に基づいてクラッチ圧の加圧パターンを変化させるのは、路面の傾斜状況(登り坂、下り坂等)に関係なく、発進時のクリープ状態を確保し、また、アクセル操作に対する車両の反応速度を実質的に同一状態にするためである。
【0136】
図12に示すように、例えばキースイッチをONにする等の車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダル踏み込み速度検出手段307によりブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルの踏み込みが解除された状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と傾斜センサの情報(ステップS4)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0137】
図13は、このような図12に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図13(a)、図13(b)、図13(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0138】
図13(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0139】
図中の加圧パターンR11は平地を走行する時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0140】
これに対して、加圧パターンR12は傾斜センサにより、車両が登り坂を走行する状態であると検知された場合の加圧パターンであり、平地走行時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、平地時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0141】
一方、加圧パターンR13は傾斜センサにより、車両が下り坂を走行する状態であると検知された場合の加圧パターンであり、平地走行時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が緩やかである。そして、平地時よりも低く設定されたクリープ圧にとどまり、該クリープ圧に至ってから一定に推移する。
【0142】
図13(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、平地走行時(R21)、登り坂走行時(R22)、下り坂走行時(R23)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。登り坂走行時の加圧パターンR22は平地走行時の加圧パターンR21よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。一方、下り坂走行時の加圧パターンR23は平地走行時の加圧パターンR21よりもクラッチ圧の経時上昇率が緩やかに設定されている。
【0143】
図13(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、平地走行時(R31)、登り坂走行時(R32)、下り坂走行時(R33)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。ただし、平地走行時(R31)、登り坂走行時(R32)、下り坂走行時(R33)のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0144】
なお、アクセルペダルの踏み込みについては、正確には、瞬時の、より詳しくは同じ時間内で、踏み込み量が小さい場合を示すのが図13(b)であり、踏み込み量が大きい場合を示すのが図13(c)である。そういう意味では、図13(b)と図13(c)のパターンの変化は、アクセルペダルの踏み込み速度の違いに連係させるものということもできる。従って、図12のステップS3におけるスロットル開度確認を、アクセルペダルの踏み込み速度確認に置き換えてもよい。以後の図14、図15の制御実施例、及び図16、図17の制御実施例においても同様とする。
【0145】
次に、図14及び図15に示す実施例について説明する。図14は、車重センサ検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図15は、車重センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。車重センサによる検知情報に基づいてクラッチ圧の加圧パターンを変化させるのは、積載重量が増した場合であっても、発進時のクリープ状態を確保し、また、アクセル操作に対する車両の反応速度を、積載重量が小さい時と実質的に同一状態にするためである。
【0146】
図14に示すように、車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルが踏み込まれていない状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と車重センサ(ステップS7)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0147】
図15は、このような図14に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図15(a)、図15(b)、図15(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0148】
図15(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0149】
図中の加圧パターンP11は車重が小さい(軽積載状態)時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0150】
これに対して、加圧パターンP12は、車重センサにより、車重が大きい状態(重積載状態)であると検知された場合の加圧パターンであり、車重が小さい時の加圧パターンR11に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、車重が小さい時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0151】
図15(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、軽積載時(P21)、重積載時(P22)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。重積載時の加圧パターンP22は軽積載時の加圧パターンP21よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。
【0152】
図15(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、軽積載時(P31)、重積載時(P32)ともに、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。また、重積載時の加圧パターンP32は軽積載時の加圧パターンP31よりもクラッチ圧の経時上昇率が急峻に設定されている。ただし、軽積載時(R31)、重積載時(R32)のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0153】
次に、図16及び図17に示す実施例について説明する。図16は、車両傾斜センサ及び車重センサの検知情報に基づく車両発進時のクラッチ圧制御の流れを示すフローチャートであり、図17は、車両傾斜センサ及び車重センサの検知情報に基づくクラッチ圧の加圧パターンの変化を示す経時図である。
【0154】
図16に示すように、車両発進時(ステップS1)には、ステップS2にてブレーキペダルの踏み込みを検出する。ブレーキペダルが踏み込まれた状態(ON)であると、クラッチを切った状態(ステップS6)とし、車両を発進させない。ブレーキペダルが踏み込まれていない状態(OFF)であると、スロットル開度(ステップS3)と車両傾斜センサ(ステップS4)と車重センサ(ステップS7)を確認して、クラッチの加圧状態(ステップS5)を決定する。
【0155】
図17は、このような図16に示すフローに沿っての、アクセルペダルの踏み込み量(エンジン回転数)、発進クラッチのクラッチ圧、変速段の設定状態、ブレーキペダルの踏み込み状態の、同時系図を示している。また、ブレーキペダルの踏み込み解除を確認してからのアクセルペダルの踏み込み操作の違いによって分けた、三つのパターン(図17(a)、図17(b)、図17(c))を示し、それぞれのパターン毎に該同時系図を示している。
【0156】
図17(a)は、車両停止状態からアクセルを踏み込むことなくブレーキペダルを解除したときのクラッチの加圧状態の制御パターンである。エンジン回転数はアイドリング回転数ER1で一定である。変速段は第1速又は第2速に入れられた状態となっている。第1速で発進する場合は第一クラッチを、第2速で発進する場合は第二クラッチを接続する。ブレーキペダルを踏み込んだ状態では、クラッチ圧はゼロとなっている。即ち、クラッチは切れた状態となっている。
【0157】
図中の加圧パターンQ10は、車重が小さい状態(軽積載状態)での平地走行時のクラッチ圧の経時変化を示している。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると同時にクラッチ圧は上昇し、クリープ速度となる設定クリープ圧に至り、その後、このクリープ圧が保持される。
【0158】
これに対して、加圧パターンQ11は、車重が大きい状態(重積載状態)での平地走行、或いは車重が小さい状態(軽積載状態)での登り坂走行であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での平地走行時の加圧パターンQ10に比べてクラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、軽積載状態での平地走行時よりも高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0159】
さらに、加圧パターンQ12は、車重が大きい状態(重積載状態)での登り坂走行であると検知された場合の加圧パターンであり、重積載状態での平地走行時、或いは軽積載状態での登り坂走行時の加圧パターンQ11よりもさらに、クラッチ圧の経時上昇率が急峻である。そして、重積載状態での平地走行時、或いは軽積載状態での登り坂走行時のクリープ圧よりもさらに高く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0160】
一方、加圧パターンQ13は、車重が小さい状態(軽積載状態)で、車両傾斜センサにて、下り坂走行状態であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での平地走行時の加圧パターンQ10よりもクラッチ圧の経時上昇率が穏やかである。そして、軽積載状態での平地走行時のクリープ圧よりも低く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0161】
加圧パターンQ14は、車重が大きい状態(重積載状態)で、車両傾斜センサにて、下り坂走行状態であると検知された場合の加圧パターンであり、軽積載状態での下り坂走行時の加圧パターンQ13よりもさらにクラッチ圧の経時上昇率が穏やかである。そして、軽積載状態での下り坂走行時のクリープ圧よりも低く設定されたクリープ圧に至って、その後、該クリープ圧が保持される。
【0162】
図17(b)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2(例えば2300rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。この場合は、軽積載状態の平地走行時(Q20)、軽積載状態での登り坂走行時又は重積載状態での平地走行時(Q21)、重積載状態での登り坂走行時(Q22)、軽積載状態での下り坂走行時(Q23)、重積載状態での下り坂走行時(Q24)のいずれの場合も、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。加圧パターンQ24、Q23、Q20、Q21、Q22の順に、クラッチ圧の経時上昇率が段々と大きくなるように設定している。
【0163】
図17(c)は、ブレーキペダルを解除した直後にアクセルを踏み込み、エンジン回転数をER2より高いER3(例えば3600rpm)まで上げる場合のクラッチの加圧パターンを示している。軽積載状態の平地走行時(Q30)、軽積載状態での登り坂走行時又は重積載状態での平地走行時(Q31)、重積載状態での登り坂走行時(Q32)、軽積載状態での下り坂走行時(Q33)、重積載状態での下り坂走行時(Q34)のいずれの場合も、上述のエンジン回転数をER2まで上げる場合と同様に、クラッチは最大クラッチ圧まで加圧される。ただし、各時のクラッチ圧の経時上昇率は、エンジン回転数ER2の場合の各時の上昇率よりも緩やかに設定されている。このように、発進時のエンジン回転数を高く(急加速)する場合は、エンジン回転数の上昇に対してのクラッチ上昇率を抑えることにより、急激な車速の上昇を防止するものである。
【0164】
次に、シフトチェンジ、即ち、前記有段式変速装置19における偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時のクラッチ制御について説明する。
【0165】
図18は車両変速時のタイミングチャートの一モデルを示している。該タイミングチャート図では、平地走行時において、ブレーキペダルを踏み込んだ車両停止状態から、ブレーキを解除し、アクセルペダルを踏み込んで速度を上げて第1速から第4速までシフトアップを行った後、アクセルペダルの踏み込みを解除しながら速度を下げて、第1速までシフトダウンを行い、最後にブレーキペダルを踏み込んで停止するまでの一連の動作を示している。
【0166】
シフトアップ(速度段を一段上げる)又はシフトダウン(速度段を一段下げる)は、図8に示す予め設定された平地走行時のシフトパターン(変速点特性モデル図)に従って行われる。
【0167】
図18のタイミングチャートについて詳述する。まず、ブレーキペダルを踏み込んで車両が停止したタイミングT0をタイミングチャートの起点とする。
【0168】
タイミングT0〜T2までの過程は上述した車両発進時の動作(図13(a)参照)であり、まず第1速にシフタが連係した状態で、第一クラッチがクリープ圧(クリープ状態を現出するためのクラッチ圧)まで加圧される。さらにアクセルペダルを踏み込みつづける(スロットル開度を増加しつづける)ことにより、タイミングT2〜T3間において、第一クラッチのクラッチ圧は、暫くクリープ圧で保持された後、上昇して最大クラッチ圧に達し、その後、タイミングT4まで最大クラッチ圧が保持され、該タイミングT2〜T4の間、車速は増加を続ける。
【0169】
そして、タイミングT4において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ線図U012に従い、シフトアップの指令が出され、第一クラッチの切断及び第二クラッチの接続をオーバーラップさせる(クロス波形制御)ことにより、第1速から第2速へシフトアップが行われる。
【0170】
その後、アクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)及び車速ともに増加を続け、タイミングT7〜T8間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ特性曲線U023に従って、クロス波形制御により第2速から第3速へシフトアップが行われる。
【0171】
タイミングT9においてアクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)は最深位置に達し、その後、この踏み込み位置が保持されるが、車速は増加を続け、タイミングT10〜T11間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトアップ特性曲線U034に従って、クロス波形制御により第3速から最高速段の第4速へシフトアップが行われ、車速はタイミングT11にて最高速度に達する。その後は、アクセルペダルを最深踏み込み位置に保持する限り、第4速により最高速度が保持される。
【0172】
タイミングT14において、最深位置におけるアクセルペダルの踏み込みを緩め始める(スロットル開度を低減し始める)と同時に車速が減少を始める。
【0173】
タイミングT15において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D043に基づいてシフトダウンの指令が出され、クロス波形制御により第4速から第3速へシフトダウンが行われる。
【0174】
その後、アクセルペダルの踏み込み(スロットル開度)及び車速ともに減少を続け、タイミングT18〜T19間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D032に基づいて、クロス波形制御により第3速から第2速へシフトダウンが行われる。
【0175】
そして、タイミングT21〜T22間において、図8の変速点特性モデル図におけるシフトダウン特性曲線D021に基づいて、クロス波形制御により第2速から最低速段の第1速へシフトダウンが行われる。
【0176】
タイミングT23において、アクセルペダルの踏み込みを完全に解除すると、車速はクリープ速にまで減少し、該クリープ速で保持される。そして、タイミングT24においてブレーキペダルを踏み込むことにより、クラッチが切断されてさらに車速が減速し、タイミングT25において車両は完全に停止する。
【0177】
このように、平地では、図18のタイミングチャート及び図8の変速点特性モデル図をもとに変速のためのクラッチ制御がなされるが、これを、車両の傾斜状態及び車重(積載荷量)状態の検出をもとにして補正する実施例を以下に説明する。
【0178】
まず、図19乃至図21により、車両の傾斜状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車両傾斜センサ(図11における車両傾斜角検出手段305)によって車両の進行方向に対する傾斜角度が常時検知されており、検知された傾斜角度に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0179】
図19に示すように、車両傾斜センサにより車両の傾斜角が検知され(ステップS11)、これを設定傾斜角と比較し(ステップS12)、その結果、車両が平地を走行していると判断されると、変速点特性モデル図において、通常のシフトパターンが維持される(ステップS13)。車両が登り坂を走行していると判断されると、失速状態を回避すべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトアップ線図を自動的に変更する(ステップS14)。また、車両が下り坂を走行していると判断されると、エンジンブレーキを有効にすべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトダウン線図を自動的に変更する(ステップS15)。
【0180】
図20を参照して、登り坂走行時におけるシフトアップ線図の変更について説明する。図中のU012、U023、U034は、それぞれ、平地走行時における第1速から第2速へ、第2速から第3速へ、第3速から第4速への通常のシフトアップ線図である(図8参照)。これに対して、U112、U123、U134は、それぞれ、登り坂走行時における第1速から第2速へ、第2速から第3速へ、第3速から第4速へのシフトアップ線図である。図に示すように、登り坂走行時には、失速状態を補うために、シフトアップを行う車速を高速側へずらせるようにシフトアップ線図を変更する。なお、登り坂走行時において、シフトダウン線図は変更されず、平地走行時と同じシフトダウン線図(D021、D032、D043)が用いられる。
【0181】
このようにシフトアップ線図を変更する結果、図18のタイミングチャートにおいては、加速時におけるシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11が、車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では右側)にずれる。つまり、シフトアップのタイミングは平地走行時より遅くなる。なお、減速時のシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜22は、通常時における車速(アクセルペダルの踏み込み量)に対するタイミングで維持される。
【0182】
図21を参照して、下り坂走行時におけるシフトダウン線図の変更について説明する。図中のD021、D032、D043は、それぞれ、平地走行時における第2速から第1速へ、第3速から第2速へ、第4速から第3速への通常のシフトダウン線図である(図8参照)。これに対して、D121、D132、D143は、それぞれ、下り坂走行時における第2速から第1速へ、第3速から第2速へ、第4速から第3速へのシフトダウン線図である。図に示すように、下り坂走行時には、エンジンブレーキを有効に活用するように、シフトダウンを行う車速を高速側へずらせるようにシフトダウン線図を変更する。なお、下り坂走行時において、シフトアップ線図は変更されず、平地走行時と同じシフトアップ線図(U012、U023、U034)が用いられる。
【0183】
このようにシフトダウン線図を変更する結果、図18のタイミングチャートにおいては、減速時におけるシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜22が、車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では左側)にずれる。つまり、シフトダウンのタイミングは平地走行時より早くなる。なお、加速時のシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11は、通常時における車速(アクセルペダルの踏み込み量)に対するタイミングで維持される。
【0184】
次に、図22により、車重状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車重センサ(図11における車重検出手段306)によって車両の重量(積載荷重)が常時検知されており、検知された車重に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0185】
図22に示すように、車両車重センサにより車重が検知され(ステップS21)、これを設定車重と比較し(ステップS22)、その結果、車重が小さいと判断されると、変速点特性モデル図において、通常のシフトパターンが維持される(ステップS23)。車重が大きいと判断されると、失速状態を回避すべく、シフトパターン(変速点特性モデル図)のシフトアップ線図、シフトダウン線図を自動的に変更する(ステップS24)。
【0186】
車重が大きい場合のシフトパターンの変更については、図20及び図21の変更状態を引用する。即ち、車重が大きいと判断された時は、図20に示した、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそれぞれ、車速の高速側にずらせたパターンである、登り坂時シフトアップ線図U112、U123、U134を、重量が大きい場合のシフトアップ線図として用いるものであり、また、図21に示した、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそれぞれ、車速の高速側にずらせたパターンである、下り坂時シフトダウン線図D121、D132、D143を、車重が大きい場合のシフトダウン線図として用いるものである。
【0187】
また、車重が大きい場合に、シフトアップ線図及びシフトダウン線図を変更することによる図18のタイミングチャートの変更については、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)は登り坂走行時と同様に車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では右側)にずれ(遅くなり)、シフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)も下り坂走行時と同様に車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量が大きい側。図18では左側)にずれる(早くなる)。
【0188】
次に、図23、図24、図25により、車両の傾斜及び車重状態の検出に基づく補正制御について説明する。即ち、車両傾斜センサ及び車重センサの検出値に基づいてシフトパターンの(変速点特性モデル図)の変更をなすものである。
【0189】
図23に示すように、車両傾斜センサにより車両の傾斜角が検知され(ステップS31)、これを設定傾斜角と比較(ステップS32)することで、車両が、平地走行、登り坂走行、下り坂走行のいずれの状態であるかが検知される。さらに、それぞれの走行状態の検知の後に、車重センサの検出(ステップS33、S37、S41)をもとに、該車重センサの検出値を、設定車重と比較する(ステップS34、S38、S42)。
【0190】
平地走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS34)の結果、車重が小さいと判断されれば、図24(または図25)の変速点モデル図において、通常シフトアップ線図U012、U023、U034及び通常シフトダウン線図D021、D032、D043がそのまま用いられる(ステップS35)。
【0191】
一方、平地走行時において、車重が大きいと判断されれば、図24(または図25)の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、通常シフトアップ線図U012、U023、U034より高速側にずらせた第一補正シフトアップ線図U212、U223、U234を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043より高速側にずらせた第一補正シフトダウン線図D221、D232、D243を用いるものとする(ステップS36)。
【0192】
図23におけるステップS36のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図22のフローチャートをもととするタイミングチャートの変更と同様に、車重の小さい状態での平地走行時の、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)及びシフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)ともに車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で、シフトアップタイミングは右側、シフトダウンタイミングは左側)にずれる。即ち、シフトアップは遅く、シフトダウンは早くなる。
【0193】
登り坂走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS38)の結果、車重が小さいと判断されれば、図24の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、通常シフトアップ線図U012、U023、U034より高速側にずらせた第二補正シフトアップ線図U312、U323、U334を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそのまま用いる(ステップS39)。図23におけるステップS39のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図19及び図20をもととする登り坂走行時のタイミングチャートの変更と同様に、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトアップタイミング(T4〜T5、T7〜T8、T10〜T11)が車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で右側)にずれる。即ち、シフトアップが遅くなる。
【0194】
一方、登り坂走行時において、車重が大きいと判断されれば、図24の変速点モデル図において、シフトアップ線図として、第二補正シフトアップ線図U312、U323、U334よりさらに高速側にずらせた第三補正シフトアップ線図U412、U423、U434を用いるものとし、シフトダウン線図については、通常シフトダウン線図D021、D032、D043をそのまま用いる(ステップS40)。図23におけるステップS40のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、加速時のシフトアップのタイミングT4〜T5、T7〜T8、T10〜T11を、前述の、ステップS39のシフトパターン変更による、車速の高速側へのずれ幅よりも、さらに高速側(アクセルペダルの踏み込み量のさらに大きい側。図18でさらに右側)にずらせることとなる。即ち、シフトアップがさらに遅くなる。
【0195】
下り坂走行時における車重検出値と設定車重との比較(ステップS42)の結果、車重が小さいと判断されれば、図25の変速点モデル図において、シフトダウン線図として、通常シフトダウン線図D021、D032、D043より高速側にずらせた第二補正シフトダウン線図D321、D332、D343を用いるものとし、シフトアップ線図については、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそのまま用いる(ステップS43)。図23におけるステップS43のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、前述の、図19及び図21をもととする下り坂走行時のタイミングチャートの変更と同様に、図23におけるステップS35のシフトパターンの場合に比べ、シフトダウンタイミング(T15〜T16、T18〜T19、T21〜T22)が車速の高速側(アクセルペダルの踏み込み量の大きい側。図18で左側)にずれる。即ち、シフトダウンが早くなる。
【0196】
一方、下り坂走行時において、車重が大きいと判断されれば、図25の変速点モデル図において、シフトダウン線図として、第二補正シフトダウン線図D321、D332、D343よりさらに高速側にずらせた第三補正シフトダウン線図D421、D432、D443を用いるものとし、シフトアップ線図については、通常シフトアップ線図U012、U023、U034をそのまま用いる(ステップS44)。図23におけるステップS44のシフトパターンの変更に基づく図18のタイミングチャートの変更については、減速時のシフトダウンのタイミングT15〜T16、T18〜T19、T21〜T22を、前述の、ステップS43のシフトパターン変更による、車速の高速側へのずれ幅よりも、さらに高速側(アクセルペダルの踏み込み量のさらに大きい側。図18でさらに左側)にずらせることとなる。即ち、シフトダウンがさらに早くなる。
【0197】
次に、ブレーキ操作に連係しての減速制御(有段式変速装置19のシフトダウン制御)について、図26より説明する。
【0198】
基本的には、走行中(アクセルペダルを一定位置に踏み込んで、エンジン回転数を一定値ERfに保持したままの状態)にブレーキペダルを踏み込んだ場合に、車速の減速に対応して、第一クラッチ・第二クラッチのうち、一方の離間作動、他方の接合作動を行って自動的にシフトダウンを行うのであるが、このシフトダウン時におけるクラッチ圧の変化パターンとして、三つのパターンを図26に示している。
【0199】
図26(a)は、クラッチ圧変化の第一パターンによって、3速走行からブレーキペダルを踏み込んで2速走行へシフトダウンし、再びブレーキペダルの踏み込みを解除し、加速して3速走行へシフトアップする場合のタイミングチャートを示している。第一パターンでは、ブレーキペダルを踏み込むと同時に、まず、第一クラッチのクラッチ圧を設定圧(半クラッチ圧)まで下げ、該半クラッチ圧を暫く保持(半クラッチ状態を保持)する。半クラッチ圧保持後のシフトダウンポイント(シフトダウン線図)に、第一クラッチのクラッチ圧下降開始とともに、第二クラッチのクラッチ圧を0から上昇させて、第一クラッチのクラッチ圧下降と第二クラッチのクラッチ圧上昇とをオーバーラップさせ(クロス波形制御)、該第二クラッチのクラッチ圧を半クラッチ圧まで上げ、第一クラッチに代わって、第二クラッチにより半クラッチ状態を現出する。このように、第一パターンを用いた場合の第一・第二クラッチのクラッチ圧に関するクロス波形制御は、両クラッチのクラッチ圧が半クラッチ圧以下の状態でなされる。
【0200】
ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、クラッチの半クラッチ圧は保持される。即ち、ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、半クラッチ状態が保持される。ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、クラッチのクラッチ圧は最大圧まで上昇し、車速の増加に伴い、再びクロス波形制御により第2速から第3速へのシフトアップが行われる。
【0201】
この制御パターンでは、ブレーキをかけた時に、半クラッチ状態を現出し、保持することで、ブレーキにエンジントルクが直接かかるのを防ぎ、ブレーキの負担を抑制することができる。また、ブレーキを解除した直後は、第二クラッチのクラッチ圧が半クラッチ圧から最大クラッチ圧まで立ち上がることによる加速が行われるので、図26(a)の車速の変化パターンでわかるように、加速がゆるやかである。
【0202】
図26(b)は、クラッチ圧変化の第二パターンによって、3速走行からブレーキペダルを踏み込んで2速走行へシフトダウンし、再びブレーキペダルの踏み込みを解除し、加速して3速走行へシフトアップする場合のタイミングチャートを示している。第二パターンでは、ブレーキペダルを踏み込んですぐに第一クラッチのクラッチ圧を下降させるのではなく、実際に車速が一定値まで減速した時に初めてクラッチ圧の下降を開始するものであって、この第一クラッチ圧の下降と同時に第二クラッチのクラッチ圧も0から上昇開始させる。こうして、通常のクロス波形制御(両クラッチに半クラッチ圧よりも高いクラッチ圧が同時に現出する状態)により、第3速から第2速へシフトダウンを行う。シフトダウンして接続された第二クラッチのクラッチ圧は最大圧まで上昇する。ここまでの間、ブレーキペダルは踏み込まれた状態である。
【0203】
シフトダウン後は、ブレーキペダルを踏み込んでいる限り、第二速(第二クラッチは最大クラッチ圧で接合している)での駆動力伝達が行われている。従って、ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、直ちに車速が上昇を開始し、制動されていない状態における第二速による車速まで上昇し、さらに車速の増加に伴い、再びクロス波形制御により第2速から第3速へのシフトアップが行われる。
【0204】
この制御パターンでは、ブレーキをかけた時に、半クラッチ状態にはならないので、エンジンブレーキがよくかかる。また、図26(b)の車速の変化パターンでわかるように、ブレーキを解除すると直ちに車速が上昇し、加速感がよい。
【0205】
上述の、ブレーキペダル操作に伴う減速時(3速→2速)のシフトダウン制御の第一パターンと第二パターンとの間の切り換えについては、車両にスイッチを設けておき、運転者のスイッチ操作等により行うことができるものとしてもよい。
【0206】
また、図26(c)は、2速走行からブレーキペダルを踏み込んで、車両を完全に停止させる場合のタイミングチャートを示している。2速走行中にブレーキペダルを踏み込み、シフトダウン線図により、第二クラッチのクラッチ圧下降と、第一クラッチのクラッチ圧上昇とが開始し、通常のクロス波形制御により、第2速から第1速へシフトダウンが行われる。
【0207】
第1速となった後もブレーキペダルを踏み続けることにより、車速は低下しつづけ、車速が設定された停止速度まで落ちると同時に第一クラッチのクラッチ圧下降を開始し、第一クラッチを離間し(即ち、両クラッチを離間し)て、車両を完全停止する。
【0208】
次に、図27を参照して、ブレーキペダルを踏み込まず、アクセルペダルの踏み込み解除により自然減速する場合のシフトダウン制御について説明する。
【0209】
図27のタイミングチャート図では、4速走行時からアクセルペダルの踏み込み量を低減させていく。車速の減少に伴い、第4速から第3速へ、第3速から第2速へ、第2速から第1速への各シフトダウンが順次、第一・第二クラッチのクラッチ圧の通常のクロス波形制御で行われる。
【0210】
第1速に切り換わってから、さらに車速が設定された停止速度以下まで落ちると、第一クラッチのクラッチ圧は最大圧からクリープ速度圧まで減圧するように制御され、車速はクリープ速まで自然減速する。このクリープ圧は、アクセルペダルの踏み込み量が0になった(エンジン回転数がアイドル回転数ER1になった)後も保持される。いいかえれば、エンジンがアイドリングしている状態でブレーキをかけない限り、第一クラッチの半クラッチ状態が保持される。この半クラッチ状態は、例えばブレーキペダルを踏み込むことにより、解除して、完全にクラッチ切り状態になるものとしてもよい。
【0211】
次に、前述のデュアルクラッチを備える有段式変速装置について、第一・第二クラッチのクラッチ圧のクロス波形制御を行うのに好適な様態に変容した二つの実施例について、図28、図29より説明する。
【0212】
図28のデュアルクラッチ型有段式変速装置は、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とが分離した構成となっている。本実施例の油圧回路は上述の第一実施例、第二実施例の有段式変速装置に共通に適用することができる。有段式変速装置の駆動列の構成は第一実施例・第二実施例のものと共通であるので説明を省略する。また、図28において、第一実施例の油圧回路(図6参照)と共通の要素には同一の符号を付している。
【0213】
図28に示すように、本実施例の油圧回路では、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側の油圧源とを独立させている。さらに、第一クラッチと第二クラッチの油圧源を独立させている。シフト側回路への専用の油圧源としてポンプ414が設けられており、シフト側油路内の圧力はリリーフ弁69により調整されている。また、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67は、該弁67専用のポンプ415によって作動油の供給を受ける。第一クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁417により調整されている。同様に、第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68は、該弁68専用のポンプ416によって作動油の供給を受ける。第二クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁418により調整されている。
【0214】
以上のように、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側回路の油圧源とが独立しているため、第一クラッチ及び第二クラッチの断接をオーバーラップさせるクロス波形制御の精度を向上させることができる。
【0215】
次に、図29に示す実施例を説明する。本実施例の特徴は、図28の実施例と同様に、デュアルクラッチを備える有段式変速装置において、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とが分離した構成となっていることである。本実施例の油圧回路は上述の第一実施例、第二実施例の有段式変速装置に共通に適用することができる。有段式変速装置の駆動列の構成は第一実施例、第二実施例のものと共通であるので説明を省略する。また、図29において、第一実施例の油圧回路(図6参照)と共通の要素には同一の符号を付している。
【0216】
図29に示すように、シフト側回路と油圧クラッチ側との油圧源とは独立している。シフト側回路への専用の油圧源としてポンプ514が設けられており、シフト側油路内の圧力はリリーフ弁69により調整されている。クラッチ側の油圧回路においては、第一クラッチ制御用の電磁比例減圧弁67と第二クラッチ制御用の電磁比例減圧弁68は、共通の油圧源であるポンプ515より分流弁516を介して作動油の供給を受ける。第一クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁517により調整されている。第二クラッチ制御用油路内の圧力はリリーフ弁518により調整されている。
【0217】
以上のように、シフト側回路の油圧源と油圧クラッチ側回路の油圧源とが独立しているため、第一クラッチ及び第二クラッチの断接をオーバーラップさせるクロス波形制御の精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明は、エンジンから車軸への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速できるようにしたものであり、更に、高速走行性や発進操作性にも優れており、作業運搬車以外に、荒地走行用のバギー車等、高い走行性、操作性の要求される様々な種類の車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】本発明の第一実施例に係る作業運搬車の全体構成を示す側面図。
【図2】同じく平面図。
【図3】第一実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図。
【図4】第一実施例におけるミッションケースの側面一部断面図。
【図5】第一実施例におけるミッションケース上部のシリンダ室の底面一部断面図。
【図6】第一実施例における変速操作やクラッチ操作のための油圧回路図。
【図7】第一実施例における変速制御手順を示す模式図。
【図8】第一実施例における変速点特性モデル図。
【図9】第一実施例におけるミッションケース内の潤滑構成を示すミッションケースの正面一部断面図。
【図10】第二実施例における有段式変速装置の伝達構成を示すスケルトン図。
【図11】有段式変速装置のクラッチ制御に関する制御システムブロック図。
【図12】傾斜センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図13】傾斜センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図14】車重センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図15】車重センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図16】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づき車両発進時のクラッチ加圧状態を決定するフローチャートを示す図。
【図17】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく車両発進時のタイミングチャート図。
【図18】変速操作(車速変化)に対応するクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図19】傾斜センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図20】登り坂走行(発進)時シフトアップ線図の変更を示す変速点特性モデル図。
【図21】下り坂走行(発進)時シフトダウン線図の変更を示す変速点特性モデル図。
【図22】車重センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図23】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づくシフトパターンの変更フローチャート図。
【図24】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく平地及び登り坂走行時のシフトパターンの変更を示す変速点特性モデル図。
【図25】傾斜センサ及び車重センサ情報に基づく平地及び下り坂走行時のシフトパターンの変更を示す変速点特性モデル図。
【図26】ブレーキ作動に連係しての車両減速/停止時のクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図27】ブレーキを作動しない場合の車両減速/停止時のクラッチ制御に関するタイミングチャート図。
【図28】デュアルクラッチを備えた有段式変速装置用の油圧回路であって、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とを分離させた構成の、一実施例を示す油圧回路図。
【図29】デュアルクラッチを備えた有段式変速装置用の油圧回路であって、シフト側油圧回路とクラッチ側油圧回路とを分離させた構成の、他の実施例を示す油圧回路図。
【符号の説明】
【0220】
1 作業運搬車
4 荷台
5 エンジン
8 ケース
18 入力部
19 有段式変速装置
25・36 車軸
56 出力部
58・172a 第一クラッチ
59・172b 第二クラッチ
116・117 シフタ軸
163 油面
201 タンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業運搬車であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせることを特徴とする作業運搬車。
【請求項2】
前記エンジンは、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置において、該エンジンの出力を受ける入力部から前記車軸への出力部までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列していることを特徴とする請求項1に記載の作業運搬車。
【請求項3】
前記有段式変速装置において、前記奇数速度段の変速駆動列及び前記偶数速度段の変速駆動列をそれぞれ複数備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸と、該複数の偶数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸とを水平方向に並設していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業運搬車。
【請求項4】
前記有段式変速装置を収納するケース内の油の油面が、エンジン稼動時に所定高さより低くなるよう、該ケースより油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ、第二クラッチおよび有段式変速装置の潤滑油として、前記ケース内へ放出するタンクを設けていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項5】
前記第一クラッチ、第二クラッチおよび前記有段式変速装置のシフタ軸の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンクに貯留した油をその作動油として用いることを特徴とする請求項4に記載の作業運搬車。
【請求項6】
前記タンクへの油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケース内に放出される油量よりも多いことを特徴とする請求項5に記載の作業運搬車。
【請求項7】
前記第一クラッチと第二クラッチのいずれかが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項8】
前記有段式変速装置における後進段の駆動列は第二クラッチにより動力断接されるように配設され、該第二クラッチと前記第一クラッチとが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項9】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項10】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項9に記載の作業車両。
【請求項11】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の作業車両。
【請求項12】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の重量の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項13】
車両重量が大きいことを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量が小さい場合に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項12に記載の作業車両。
【請求項14】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項15】
車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項14に記載の作業車両。
【請求項16】
車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、さらに車速の高い側に変更することを特徴とする請求項15に記載の作業車両。
【請求項17】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項14乃至請求項16のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項18】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両の傾斜角度の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項19】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、高くすることを特徴とする請求項18に記載の作業車両。
【請求項20】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、低くすることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の作業車両。
【請求項21】
前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項18乃至請求項20のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項22】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両重量の検知情報に応じて、車両発進時における前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項23】
車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい場合に比べ、高くすることを特徴とする請求項22に記載の作業車両。
【請求項24】
前記の車両重量の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項22又は請求項23に記載の作業車両。
【請求項25】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項26】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合、または車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい状態での平地走行時に比べ、高くすることを特徴とする請求項25に記載の作業車両。
【請求項27】
車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、高くすることを特徴とする請求項26に記載の作業車両。
【請求項28】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、低くすることを特徴とする請求項25乃至請求項27のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項29】
前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項25乃至請求項28のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項1】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業運搬車であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換時に、該第一クラッチ及び第二クラッチのうち、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせることを特徴とする作業運搬車。
【請求項2】
前記エンジンは、クランク軸が機体前後方向に向くよう配設されており、前記有段式変速装置において、該エンジンの出力を受ける入力部から前記車軸への出力部までの伝動軸を、機体前後方向に延設し、機体左右方向に並列していることを特徴とする請求項1に記載の作業運搬車。
【請求項3】
前記有段式変速装置において、前記奇数速度段の変速駆動列及び前記偶数速度段の変速駆動列をそれぞれ複数備えており、該複数の奇数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸と、該複数の偶数速度段の変速駆動列より一つの変速駆動列を選択するためのシフタ軸とを水平方向に並設していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業運搬車。
【請求項4】
前記有段式変速装置を収納するケース内の油の油面が、エンジン稼動時に所定高さより低くなるよう、該ケースより油を回収して貯留し、この貯留した油を前記第一クラッチ、第二クラッチおよび有段式変速装置の潤滑油として、前記ケース内へ放出するタンクを設けていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項5】
前記第一クラッチ、第二クラッチおよび前記有段式変速装置のシフタ軸の各々が油圧駆動式に構成されると共に、前記タンクに貯留した油をその作動油として用いることを特徴とする請求項4に記載の作業運搬車。
【請求項6】
前記タンクへの油の回収量は、エンジン回転数の増加につれて増加するものであって、潤滑油及び作動油としてケース内に放出される油量よりも多いことを特徴とする請求項5に記載の作業運搬車。
【請求項7】
前記第一クラッチと第二クラッチのいずれかが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項8】
前記有段式変速装置における後進段の駆動列は第二クラッチにより動力断接されるように配設され、該第二クラッチと前記第一クラッチとが、車両発進時に接合する発進クラッチを兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の作業運搬車。
【請求項9】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項10】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項9に記載の作業車両。
【請求項11】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の作業車両。
【請求項12】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の重量の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項13】
車両重量が大きいことを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量が小さい場合に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項12に記載の作業車両。
【請求項14】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを配設した構造の作業車両であって、該有段式変速装置は、奇数速度段の変速駆動列への動力断接用の第一クラッチと、偶数速度段の変速駆動列への動力断接用の第二クラッチとを備えており、アクセル操作と車速に応じて偶数速度段・奇数速度段いずれか一方の変速駆動列が選択されて該エンジンから該車軸への駆動力伝達を行うものにおいて、車速に対する前記の偶数速度段・奇数速度段間での速度段切換タイミングを、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて変更することを特徴とする作業車両。
【請求項15】
車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項14に記載の作業車両。
【請求項16】
車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を上げるための前記速度段切換タイミングを、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、さらに車速の高い側に変更することを特徴とする請求項15に記載の作業車両。
【請求項17】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、速度段を下げるための前記速度段切換タイミングを、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、車速の高い側に変更することを特徴とする請求項14乃至請求項16のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項18】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両の傾斜角度の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項19】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、高くすることを特徴とする請求項18に記載の作業車両。
【請求項20】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、平地走行時に比べ、低くすることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の作業車両。
【請求項21】
前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項18乃至請求項20のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項22】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両重量の検知情報に応じて、車両発進時における前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項23】
車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい場合に比べ、高くすることを特徴とする請求項22に記載の作業車両。
【請求項24】
前記の車両重量の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項22又は請求項23に記載の作業車両。
【請求項25】
エンジンと、車軸と、該エンジンから該車軸に駆動力を伝達する有段式変速装置とを搭載し、該有段式変速装置における変速用クラッチのいずれかを車両発進時に接合する発進クラッチとした構成の作業車両において、車両の傾斜角度及び車両の重量の検知情報に応じて、車両発進時における該発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項26】
車両が登り坂走行時であることを検出した場合、または車両重量が大きいことを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量が小さい状態での平地走行時に比べ、高くすることを特徴とする請求項25に記載の作業車両。
【請求項27】
車両重量が大きい状態で登り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両が登り坂走行時、または車両重量が大きい状態のいずれかを検出した場合に比べ、高くすることを特徴とする請求項26に記載の作業車両。
【請求項28】
車両が下り坂走行時であることを検出した場合に、前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率を、車両重量の小さい状態での平地走行時に比べ、低くすることを特徴とする請求項25乃至請求項27のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項29】
前記の車両の傾斜角度の検知情報に応じての前記発進クラッチのクラッチ圧の経時上昇率の変更を、ブレーキをかけた状態から解除された状態に移行したことが確認された直後に行うことを特徴とする請求項25乃至請求項28のいずれか一項に記載の作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図6】
【図16】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図6】
【図16】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2007−51764(P2007−51764A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71929(P2006−71929)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】
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