説明

排気浄化装置及び排気浄化システム

【課題】 燃費を悪化させることなく、触媒の暖機性能を良好とすることができる排気浄化装置及び排気浄化システムを提供する。
【解決手段】 本発明の排気浄化システム300は、排気流路30内が還元雰囲気になると、自身(これに含まれる酸化セリウム)が還元される排気浄化触媒110を備えている。さらに、エンジン10を停止する際、排気流路30内を還元雰囲気とした後、エンジン10を停止する制御装置(ECU)350を備えている。さらに、排気流路30内のうち排気浄化触媒110よりも下流側に位置し、エンジン10の停止直後に排気流路30を閉じ、エンジン10の始動時に排気流路30を開ける第1流路開閉弁130を備えている。さらに、排気流路30内のうち排気浄化触媒110よりも上流側に位置し、エンジン10の始動時に、排気流路30内に空気を供給する空気供給装置120を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置及び排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの内燃機関の排気を浄化することを目的として、様々な排気浄化装置及び排気浄化システムが提案されている。近年、特に、エンジン始動時に多量に発生するHCを効率良く浄化することを目的として、様々な排気浄化装置及び排気浄化システムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−93832号公報
【特許文献2】特開平5−293384号公報
【0004】
特許文献1に開示されている排気浄化システムでは、排気通路のうち排気浄化触媒よりも上流側の位置にHC吸着材を設けている。これにより、内燃機関始動時に多量に発生するHCを、一時的に、HC吸着材で吸着保持できるので、排気浄化触媒が活性化するまでの間に、浄化されずに外部に排出されてしまうHCの排出量を低減することができる。
【0005】
ところで、HC吸着材としては、ゼオライト、アルミノシリケート、モルデナイトなどを用いることができるが、これらは、HC吸着性に優れていると共に、吸水性にも優れている。このため、内燃機関を停止している間に、HC吸着材が、排気流路内に存在している排気中に含まれている水分を吸収してしまい、内燃機関始動時(冷間始動時)におけるHC吸着性能が低下してしまう問題があった。
【0006】
これに対し、特許文献1に開示されている排気浄化システムでは、HC吸着材の上流側と下流側とに、排気通路を遮断する遮断手段を設け、エンジン停止時には、この遮断手段により排気通路を遮断する。これにより、内燃機関を停止している間、HC吸着材への水分吸着を抑制することができ、内燃機関始動時(冷間始動時)におけるHC吸着性能の低下を抑制することができると記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている排気浄化システムでは、HC吸着材がHC離脱温度に達するまでに、触媒が十分に活性化しないため、HCを十分に浄化することができなかった。特に、排気浄化触媒よりも上流側にHC吸着材を設けることにより、HC吸着材によって排気熱が奪われるため、その下流側に配置されている排気浄化触媒の暖機性が低下してしまうことが、HC浄化率低下の大きな要因であった。
【0008】
また、特許文献2に開示されている排気浄化システムでは、三元性能を有する触媒層と、HC浄化性能を有する触媒層とを設けた排ガス浄化触媒を用いている。この排気浄化システムでは、HCが多量に発生するエンジン始動時に、二次空気を導入して燃料リーン側にすることにより、HCを効率良く浄化できると記載されている。さらに、HCが浄化されるときに発生する反応熱により、触媒の暖機特性を向上させることができると記載されている。
【0009】
しかしながら、二次空気を導入して燃料リーン側にしたときに、ヒータ(ハニカムヒータ)により排ガス浄化触媒を加熱して、触媒を早期に活性化させなければ、HCを効率良く浄化することはできなかった。従って、エンジン始動時に、ヒータ(ハニカムヒータ)により排ガス浄化触媒を加熱しなければ、HCが浄化されるときに発生する反応熱により、触媒の暖機特性を向上させることも期待できなかった。すなわち、特許文献2に開示されている排気浄化システムでは、触媒の暖機性能を良好とするには、ヒータ(ハニカムヒータ)により排ガス浄化触媒を加熱することが不可欠であり、このような手法では、燃費が悪化してしまうため、好ましくなかった。
【0010】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、燃費を悪化させることなく、触媒の暖機性能を良好とすることができる排気浄化装置及び排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の排気浄化装置は、内燃機関の排気流路内に位置する排気浄化触媒であって、上記排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒と、上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、上記排気流路を開閉することが可能な第1流路開閉手段と、上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、酸素含有気体を上記排気流路内に供給することが可能な気体供給手段と、を備える排気浄化装置である。
【0012】
さらに、好ましくは、前記排気浄化触媒は、金属酸化物であって、前記排気流路内が、酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含む上記の排気浄化装置であると良い。
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記排気流路を開閉することが可能な第2流路開閉手段を備える上記いずれかの排気浄化装置であると良い。
【0013】
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備える上記いずれかの排気浄化装置であると良い。
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備え、前記第2流路開閉手段は、上記HC吸着材よりも上流側に位置してなる前記の排気浄化装置であると良い。
【0014】
また、本発明の排気浄化システムは、内燃機関の排気流路内に位置する排気浄化触媒であって、上記排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒と、上記内燃機関を停止する際、上記排気流路内を還元雰囲気とした後、上記内燃機関を停止する内燃機関運転制御手段と、上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、上記排気流路を開閉する第1流路開閉手段であって、上記内燃機関の停止直後に上記排気流路を閉じ、上記内燃機関の始動時に上記排気流路を開ける第1流路開閉手段と、上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記内燃機関の始動時に、酸素含有気体を上記排気流路内に供給する気体供給手段と、を備える排気浄化システムである。
【0015】
さらに、好ましくは、前記内燃機関運転制御手段は、前記内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さくして上記内燃機関を運転させた後、上記内燃機関を停止する上記の排気浄化システムであると良い。
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、前記内燃機関の空燃比を検知する空燃比センサを有し、前記内燃機関運転制御手段は、上記内燃機関を停止するにあたり、上記空燃比センサにおいて上記内燃機関の理論空燃比よりも小さい値が検出されるまで、上記内燃機関の空燃比を上記理論空燃比よりも小さくして上記内燃機関を運転させてから停止させる上記の排気浄化システムであると良い。
【0016】
さらに、好ましくは、前記排気浄化触媒は、金属酸化物であって、前記排気流路内が酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含む上記いずれかの排気浄化システムであると良い。
さらに、好ましくは、前記気体供給手段は、還元状態にある前記排気浄化触媒を酸化させるために必要な量だけ、酸素含有気体を前記排気流路内に供給する上記いずれかの排気浄化システムであると良い。
【0017】
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記排気流路を開閉する第2流路開閉手段であって、前記内燃機関の停止直後に上記排気流路を閉じ、上記内燃機関の始動時に上記排気流路を開ける第2流路開閉手段を備える上記いずれかの排気浄化システムであると良い。
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備える上記いずれかの排気浄化システムであると良い。
【0018】
さらに、好ましくは、前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備え、前記第2流路開閉手段は、上記排気流路内のうち上記HC吸着材よりも上流側に位置する前記の排気浄化システムであると良い。
さらに、好ましくは、前記HC吸着材からHCが離脱する時期を推定するHC離脱時期推定手段を備える上記いずれかの排気浄化システムであると良い。
さらに、好ましくは、前記気体供給手段は、前記HC離脱時期予測手段により推定されるHC離脱時期と、還元状態にある前記排気浄化触媒の酸化反応が終了する酸化終了時期と、が一致するように、前記排気流路内へ酸素含有気体を供給する上記の排気浄化システムであると良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の排気浄化装置では、排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒を備えている。このため、排気流路内を還元雰囲気とした上で、内燃機関を停止させたときには、排気浄化触媒を還元状態とすることができる。なお、排気浄化触媒が還元されるとは、排気浄化触媒に含まれている物質(例えば、酸化セリウムなど)が還元されることを言う。具体的には、酸化セリウムを含む排気浄化触媒では、CeO2がCe23に還元されることを言う。
【0020】
さらに、本発明の排気浄化装置では、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも下流側に位置し、排気流路を開閉することが可能な第1流路開閉手段を備えている。このため、内燃機関を停止させている間、第1流路開閉手段により排気流路を閉じることで、下流側から排気浄化触媒への空気(酸素)の流入を防止できるので、還元状態にある排気浄化触媒の酸化を抑制することができる。
【0021】
さらに、本発明の排気浄化装置では、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも上流側に位置し、酸素含有気体を排気流路内に供給することが可能な気体供給手段を備えている。このため、内燃機関の始動時に、気体供給手段により、酸素含有気体を排気流路内に供給することで、還元状態にある排気浄化触媒の酸化反応を促進させることができる。このときの酸化反応熱により、触媒層を加熱することができるので、触媒を早期に活性化させることができる。なお、酸素含有気体とは、酸素を含む気体のことを言い、空気や酸素などを例示することができる。
【0022】
以上より、本発明の排気浄化装置によれば、触媒の暖機性を良好とすることが可能となる。さらに、本発明の排気浄化装置によれば、ヒータ(ハニカムヒータ)を用いることなく、触媒の暖気性能を向上させることができるので、燃費が悪化してしまう虞もない。
なお、排気浄化触媒は、1つに限らず、複数個設けるようにしても良い。また、排気浄化触媒を複数個設ける場合、気体供給手段は、各排気浄化触媒の上流側の複数箇所に設けるようにすると良い。
【0023】
さらに、本発明の排気浄化装置では、排気浄化触媒は、金属酸化物であって、排気流路内が酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含んでいることが好ましい。このような金属酸化物は、酸化反応の際、比較的大きな酸化反応熱が発生するため、触媒の暖機性をさらに良好とすることができる。なお、金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物としては、例えば、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化コバルトなどが挙げられる。このうち、酸化セリウム、酸化プラセオジウムは、特に大きな酸化反応熱を生じるので好ましい。
【0024】
さらに、本発明の排気浄化装置では、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも上流側に位置し、排気流路を開閉することが可能な第2流路開閉手段を備えていることが好ましい。内燃機関を停止させている間、第1流路開閉手段と共に、第2流路開閉手段により排気流路を閉じることで、上流側からも排気浄化触媒への空気(酸素)の流入を防止できるので、還元状態にある排気浄化触媒の酸化をより一層抑制することができる。これにより、内燃機関の始動時に、気体供給手段により空気(酸素)を供給すると、排気浄化触媒において、より大きな酸化反応熱を発生させることができる。
【0025】
さらには、内燃機関を停止している間、第1,第2流路開閉手段により、排気浄化触媒の上流側と下流側とを閉じることで、排気浄化触媒への水分吸着も抑制することができる。これにより、排気浄化触媒における酸化反応熱のうち、吸着した水分の気化熱として奪われる熱量を小さくすることができる。これにより、触媒の暖機性をさらに良好とすることができる。
【0026】
さらに、本発明の排気浄化装置では、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備えていることが好ましい。これにより、内燃機関始動時に多量に発生するHCを、一時的に、HC吸着材で吸着保持できるので、排気浄化触媒が活性化するまでの間に、浄化されずに外部に排出されてしまうHCの排出量を低減することができる。
【0027】
ところで、従来、排気浄化触媒よりも上流側にHC吸着材を設けた排気浄化装置では、HC吸着材によって排気熱が奪われることにより、その下流側に配置されている排気浄化触媒の暖機性が低下してしまう問題があった。これに対し、本発明の排気浄化装置では、前述のように、内燃機関始動時において、排気浄化触媒の酸化反応熱によって排気浄化触媒自身を加熱させ、触媒を早期に活性化させることが可能である。このため、排気浄化触媒よりも上流側にHC吸着材を設けたとしても、触媒の暖機性を良好とすることが可能である。
【0028】
さらに、本発明の排気浄化装置では、第2流路開閉手段が、HC吸着材よりも上流側に位置していることが好ましい。
HC吸着材として、ゼオライト、アルミノシリケート、モルデナイトなどを用いることができるが、これらは、HC吸着性に優れていると共に、吸水性にも優れている。このため、従来、HC吸着材を備えた排気浄化装置では、内燃機関を停止している間に、HC吸着材が、排気流路内に滞留している排気中に含まれている水分を吸収してしまい、内燃機関の始動時におけるHC吸着性能が低下してしまう問題があった。これに対し、排気流路内のうちHC吸着材の下流側の位置(第1流路開閉手段)に加え、上流側の位置にも第3流路開閉手段を設けることにより、内燃機関が停止している間、両流路開閉手段により排気流路を閉じることで、HC吸着材への水分吸着を抑制することができる。これにより、内燃機関の始動時におけるHC吸着性能の低下を抑制することができる。
【0029】
本発明の排気浄化システムでは、排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒を備えている。さらに、内燃機関を停止する際、排気流路内を還元雰囲気とした後、内燃機関を停止する内燃機関運転制御手段を備えている。これにより、内燃機関を停止したときには、排気浄化触媒を還元状態とすることができる。
【0030】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも下流側に位置し、内燃機関の停止直後に排気流路を閉じ、内燃機関の始動時に排気流路を開ける第1流路開閉手段を備えている。これにより、内燃機関を停止させた後から始動させるまでの間、下流側から排気浄化触媒への空気(酸素)の流入を防止できるので、排気浄化触媒の還元状態を保持することができる。
【0031】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも上流側に位置し、内燃機関の始動時に、酸素含有気体を排気流路内に供給する気体供給手段を備えている。これにより、内燃機関を始動させると共に、還元状態にある排気浄化触媒を酸化させるのに必要十分な酸素含有気体(空気、酸素など)を供給することができ、排気浄化触媒の酸化反応を促進させることができる。このときの酸化反応熱により、触媒層を加熱することができるので、触媒を早期に活性化させることができる。
【0032】
以上より、本発明の排気浄化システムでは、触媒の暖機性を良好とすることができる。さらに、本発明の排気浄化システムでは、ヒータ(ハニカムヒータ)を用いることなく、触媒の暖気性能を向上させることができるので、燃費が悪化してしまう虞もない。
なお、排気浄化触媒は、1つに限らず、複数個設けるようにしても良い。また、排気浄化触媒を複数個設ける場合、気体供給手段は、各排気浄化触媒の上流側に複数箇所に設けるようにしても良い。
【0033】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さくして内燃機関を運転させた後、内燃機関を停止することが好ましい。内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さくして内燃機関を運転させることにより、適切に、排気流路内を還元雰囲気とすることができる。
【0034】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気浄化触媒よりも下流側に、内燃機関の空燃比を検知する空燃比センサを設け、内燃機関を停止するにあたり、この空燃比センサにおいて理論空燃比よりも小さい値が検出されるまで、空燃比を理論空燃比よりも小さくして内燃機関を運転させてから停止させることが好ましい。これにより、内燃機関を停止したときには、確実に、排気浄化触媒を還元状態とすることができる。なお、空燃比センサとしては、例えば、酸素センサを用いることができる。酸素センサの出力から、内燃機関の空燃比を算出(推定)することができる。
【0035】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気浄化触媒が、金属酸化物であって、排気流路内が酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含んでいることが好ましい。このような金属酸化物は、酸化反応の際、比較的大きな酸化反応熱が発生するため、触媒の暖機性をさらに良好とすることができる。
【0036】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、気体供給手段が、還元状態にある排気浄化触媒を酸化させるために必要な量だけ、酸素含有気体を排気流路内に供給することが好ましい。気体供給手段により排気流路内に酸素含有気体を供給するにあたり、酸素含有気体(これに含まれる酸素)の供給量が少ない場合には、還元状態にある排気浄化触媒を十分に酸化することができない。このため、内燃機関の始動時において、酸化反応熱による触媒層の加熱が不十分となってしまう。逆に、酸素含有気体の供給量が過剰の場合には、過剰な酸素(空気)により触媒が冷却されてしまう。
【0037】
これに対し、還元状態にある排気浄化触媒を酸化させるために必要な量だけ、酸素含有気体を排気流路内に供給することで、上記のような問題が生じることなく、内燃機関の始動時において、酸化反応熱により、効率良く好適に、触媒層を加熱することができる。これにより、触媒の暖機性を良好とすることができる。
このような排気浄化システムとしては、例えば、気体供給手段により排気流路内に供給する酸素含有気体の供給量を測定(算出)する手段と、酸素含有気体の供給量が、還元状態にある排気浄化触媒を酸化させるために必要な量に達したときに、気体供給手段から排気流路内への酸素含有気体の供給を停止させる手段と、を備える排気浄化システムが挙げられる。
【0038】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気流路内のうち排気浄化触媒よりも上流側に位置し、内燃機関の停止直後に排気流路を閉じ、内燃機関の始動時に排気流路を開ける第2流路開閉手段を備えていることが好ましい。この排気浄化システムでは、第1流路開閉手段と第2流路開閉手段とにより、内燃機関を停止している間、排気流路のうち排気浄化触媒の上流側と下流側とを閉じることができる。これにより、内燃機関を停止している間、還元状態とした排気浄化触媒の酸化をより一層抑制することができる。このため、内燃機関を始動させると共に、気体供給手段により空気(酸素)を供給すると、排気浄化触媒において、より大きな酸化反応熱を発生させることができる。
【0039】
さらには、内燃機関を停止している間、第1流路開閉手段と第2流路開閉手段とにより、排気流路のうち排気浄化触媒の上流側と下流側とを閉じることで、排気浄化触媒への水分吸着も抑制することができる。これにより、排気浄化触媒における酸化反応熱のうち、吸着した水分の気化熱として奪われる熱量を小さくすることができるので、触媒の暖機性をさらに良好とすることができる。
【0040】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、排気浄化触媒よりも上流側の位置に、HC吸着材を備えていることが好ましい。これにより、内燃機関始動時に多量に発生するHCを、一時的に、HC吸着材で吸着保持できるので、排気浄化触媒が活性化するまでの間に、浄化されずに外部に排出されてしまうHCの排出量を低減することができる。
ところで、前述のように、従来、排気浄化触媒よりも上流側にHC吸着材を設けた場合には、HC吸着材によって排気熱が奪われることにより、その下流側に配置されている排気浄化触媒の暖機性が低下してしまう問題があった。これに対し、本発明の排気浄化システムでは、前述のように、内燃機関の始動時において、排気浄化触媒の酸化反応熱によって排気浄化触媒自身を加熱させ、触媒を早期に活性化させることができるので、排気浄化触媒よりも上流側にHC吸着材を設けたとしても、触媒の暖機性を良好とすることができる。
【0041】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、第2流路開閉手段が、排気流路内のうちHC吸着材よりも上流側に位置していることが好ましい。HC吸着材よりも上流側の位置に第2流路開閉手段を設けることにより、HC吸着材の上流側の位置と下流側の位置とに、排気流路を開閉する流路開閉手段(第1,第2流路開閉手段)を設けることができる。従って、内燃機関が停止している間、第1,第2流路開閉手段により排気流路を閉じることで、吸水性の高いHC吸着材への水分吸着を抑制することができる。これにより、内燃機関の始動時におけるHC吸着性能の低下を抑制することができる。
【0042】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、HC吸着材からHCが離脱する時期を推定するHC離脱時期推定手段を備えていることが好ましい。前述のように、本発明の排気浄化システムでは、気体供給手段から酸素含有気体を供給することにより、還元状態にある排気浄化触媒(例えば、排気浄化触媒に含まれる酸化セリウム)の酸化反応を促進させて、このときの酸化反応熱を触媒の加熱に用いるようにしている。従って、HCを効率良く浄化するためには、HC吸着材からHCが離脱する時期(換言すれば、HC吸着材がHC離脱温度に達する時期)を見据えつつ、気体供給手段により酸素含有気体を供給して、酸化反応熱により触媒を加熱するのが好ましい。これに対し、本発明の排気浄化システムでは、HC離脱時期推定手段によりHC離脱時期を推定できるので、推定されたHC離脱時期を見据えて、気体供給手段により酸素含有気体を供給することにより、HCを効率良く浄化することができる。
【0043】
さらに、本発明の排気浄化システムでは、HC離脱時期予測手段により推定されるHC離脱時期と、還元状態にある排気浄化触媒の酸化反応が終了する酸化終了時期とが一致するように、気体供給手段により排気流路内へ酸素含有気体を供給することが好ましい。
前述のように、本発明の排気浄化システムでは、気体供給手段から酸素含有気体を供給することにより、還元状態にある排気浄化触媒の酸化反応を促進させて、このときの酸化反応熱を触媒の加熱に用いるようにしている。従って、触媒の温度は、排気浄化触媒の酸化が進むにしたがって上昇し、還元状態にある排気浄化触媒の全量が酸化した時点で、酸素含有気体の供給による温度上昇はピークに達する。
【0044】
これに対し、本発明の排気浄化システムでは、HC離脱時期予測手段により推定されるHC離脱時期と、還元状態にある排気浄化触媒の酸化反応が終了する酸化終了時期とが一致するように、気体供給手段により排気流路内へ酸素含有気体を供給するため、HC離脱時期と、酸化反応熱による触媒の温度上昇のピークとを一致させることができる。従って、本発明の排気浄化システムでは、酸化反応熱による触媒の昇温効果を最大限利用することができ、HC吸着材から離脱したHCを、効率良く浄化することができる。
【0045】
(排気浄化触媒の作製)
まず、セル隔壁の厚みが75μm、セル密度が62セル/cm2(400セル/inch2)、容量が0.9Lで、コージェライトからなるハニカム基材を用意した。
次いで、Ptを0.3wt%の割合で担持したCeO2を100g、Ptを1.24wt%の割合で担持したγ−Al23(比表面積が約130m2/g)を100g、Rhを0.66wt%の割合で担持したZrO2(比表面積が約60m2/g)を60g、硝酸アルミニウムを3g、及び水酸化アルミニウムを固形分で3g混合した。さらに、この混合物に、イオン交換水を加えて、固形分35%の触媒スラリーを作製した。
【0046】
次いで、この触媒スラリーを、公知の手法により、ハニカム基材にコーティングした後、余分な触媒スラリーを除去した。次いで、触媒スラリーをコーティングしたハニカム基材を、120℃で加熱乾燥した後、大気中において、250℃で1時間焼成することにより、排気浄化触媒110を作製した。なお、本実施例1では、触媒スラリーのコート量は、240g/lであった。また、触媒の担持量は、ハニカム基材1L当たり、Ptが1.5g、Rhが0.4gであった。
【実施例1】
【0047】
本実施例1の排気浄化装置100は、図1に示すように、排気量2.4Lのガソリンエンジン10の排気流路30に設けられており、排気浄化触媒110、空気供給装置120、第1流路開閉弁130を備えている。排気浄化触媒110は、排気流路30内のうち、通常の実車相当の位置に設けられている。空気供給装置120は、排気流路30内のうち排気浄化触媒110よりも上流側に設けられており、排気流路30内に空気を供給することができる。第1流路開閉弁130は、排気流路30内のうち排気浄化触媒110よりも下流側に設けられており、排気流路30を開閉することができる。
【0048】
なお、本実施例1及び後述する実施例2〜4に用いる排気浄化触媒110は、予め、所定の位置に装着され、エンジン10の空燃比を理論空燃比(ストイキ)とするフィードバック制御を行いつつ、入りガス温度を800℃として、10時間の試運転を行ってある。また、排気流路30のうち、第1流路開閉弁130の下流側の位置には、消音装置21,22が設けられている。
【0049】
このような本実施例1の排気浄化装置100について、暖機性の評価試験を行った。
具体的には、まず、第1流路開閉弁130を開いた状態で、空燃比をストイキの状態(A/F=14.6)として、エンジン10を2000rpmで通常運転を続けた。その後、空燃比を燃料リッチ側(A/F=14.3)にしてアイドル運転した後、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じた。その後、約12時間、室温で放置冷却した。次いで、第1流路開閉弁130を開くと共に、空気供給装置120により、約5秒間、排気流路30内に空気を供給した後、エンジン10を始動させ、エンジン始動後20秒間、アイドル状態におけるHC排出量を測定した。
【実施例2】
【0050】
本実施例2の排気浄化装置200は、図2に示すように、実施例1の排気浄化装置100と比較すると、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、排気浄化触媒110よりも上流側の位置(詳細には、排気浄化触媒110と空気供給装置120との間)にも第2流路開閉弁230を設けた点が異なり、その他についてはほぼ同様である。このような本実施例2の排気浄化装置200についても、実施例1の排気浄化装置100と同様にして、暖機性の評価試験を行い、HC排出量を測定した。なお、本実施例2の排気浄化装置200では、第1流路開閉弁130と同じタイミングで、第2流路開閉弁230を開閉させた。
【0051】
(比較例1)
本比較例1の排気浄化装置は、実施例1の排気浄化装置100と比較して、空気供給装置120及び第1流路開閉弁130を設けていない点が異なり、その他についてはほぼ同様である。本比較例1の排気浄化装置についても、暖機性の評価試験を行い、HC排出量を測定した。なお、本比較例1では、実施例1と異なり、空燃比を燃料リーン側に(フューエルカットを実施)してアイドル運転を行った後、エンジン10を停止させている。また、本比較例1では、実施例1と異なり、空気供給装置120及び第1流路開閉弁130を設けていないため、空気供給装置による排気流路30内への空気の供給、及び第1流路開閉弁130による排気流路30の開閉は行っていない。
【0052】
次に、実施例1,2の排気浄化装置100,200及び比較例1の排気浄化装置の暖機性評価試験の結果を、図3に示す。なお、図3では、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を示している。図3に示すように、本発明の実施例1,2の排気浄化装置100,200では、共に、比較例1の排気浄化装置よりも、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量が少なかった。これは、本発明の実施例1,2の排気浄化装置100,200では、共に、比較例1の排気浄化装置よりも早期に、触媒を活性化させることができたためと考えられる。
【0053】
ここで、本発明の実施例1,2の排気浄化装置100,200が、比較例1の排気浄化装置よりも早期に、触媒を活性化させることができた理由について検討する。比較例1では、エンジン10の空燃比を燃料リーン側に(フューエルカットを実施)してアイドル運転を行った後、エンジン10を停止した。このため、比較例1では、エンジン10を停止させたとき、排気浄化触媒110(詳細には、排気浄化触媒110に含まれる酸化セリウム)は酸化状態(CeO2)になっていたと考えられる。次いで、冷却後、エンジン10を始動させ、アイドル運転させていることから、比較例1では、排気浄化触媒110が、エンジン10の排気熱のみによって加熱されたと考えられる。
【0054】
これに対し、実施例1,2では、空燃比を燃料リッチ側(A/F=14.3)にしてアイドル運転して、排気流路30内を還元雰囲気にした後、エンジン10を停止させている。これにより、実施例1,2では、エンジン10を停止させたとき、排気浄化触媒110(詳細には、酸化セリウム)を還元状態(Ce23)にすることができたと考えられる。さらに、実施例1,2では、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じている。これにより、下流側から排気浄化触媒110への空気(酸素)の流入を防止でき、還元状態にある排気浄化触媒110(詳細には、Ce23)の酸化を抑制することができたと考えられる。
【0055】
さらに、実施例1,2では、冷却後、エンジン10の始動時に、第1流路開閉弁130を開くと共に、空気供給装置120により、約5秒間、排気流路30内に空気を供給している。これにより、還元状態にある排気浄化触媒110(詳細には、Ce23)の酸化反応を促進させて、このときの酸化反応熱により、触媒層を加熱することができたと考えられる。すなわち、実施例1,2では、エンジン10の排気熱に加えて、Ce23がCeO2に酸化されるときの酸化反応熱により、触媒層を加熱することができたと考えられる。このため、実施例1,2では、比較例1に比して、触媒を早期に活性化させることができたと考えられる。以上より、本発明の実施例1,2の排気浄化装置100,200は、共に、比較例1の排気浄化装置よりも、触媒の暖機性が良好であると言える。
【0056】
次に、実施例1と実施例2との結果を比較すると、実施例2のほうが、実施例1よりもエンジン始動後20秒間の積算HC排出量が少なかった。これは、実施例2では、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、排気浄化触媒110よりも上流側の位置(詳細には、排気浄化触媒110と空気供給装置120との間)にも第2流路開閉弁230を設けたためと考えられる。
【0057】
すなわち、エンジン10を停止させている間、第1流路開閉弁130と共に、第2流路開閉弁230により排気流路30を閉じることで、上流側からも排気浄化触媒110への空気(酸素)の流入を防止でき、還元状態にある排気浄化触媒110(詳細には、Ce23)の酸化をより一層抑制することができたためと考えられる。これにより、実施例2では、実施例1に比して、エンジン10の始動時に、排気浄化触媒110にCe23(還元状態の酸化セリウム)が多く含まれることとなり、エンジン10の始動時に空気供給装置120により空気を供給すると、排気浄化触媒110において、より大きな酸化反応熱を発生させることができたと考えられる。
【0058】
さらには、エンジン10を停止させている間、第1流路開閉弁130と共に、第2流路開閉弁230により排気流路30を閉じることで、排気浄化触媒110への水分吸着も抑制することができたためと考えられる。これにより、実施例2では、実施例1に比して、排気浄化触媒110における酸化反応熱のうち、吸着した水分の気化熱として奪われる熱量を小さくすることができたと考えられる。
以上のような理由で、実施例2の排気浄化装置200では、実施例1の排気浄化装置100に比して、触媒を早期に活性化させることができたと考えられる。従って、実施例2の排気浄化装置200は、実施例1の排気浄化装置100よりも、触媒の暖機性が良好であると言える。
【実施例3】
【0059】
本実施例3の排気浄化システム300は、図4に示すように、排気量2.4Lのガソリンエンジン10の排気流路30に設けられており、排気浄化触媒110、空気供給装置120、第1流路開閉弁130、酸素センサ340、及び制御装置(ECU)350を備えている。具体的には、実施例1の排気浄化装置100に対し、排気流路30のうち排気浄化触媒110の下流側(詳細には、排気浄化触媒110と第1流路開閉弁130との間)の位置に酸素センサ340を設けると共に、空気供給装置120、第1流路開閉弁130、及び酸素センサ340を制御する制御装置350を設けることで、排気浄化システムとしている。
【0060】
本実施例3の排気浄化システム300では、空気供給装置120を制御装置350に接続しているため、制御装置350により、空気供給装置120から排気流路30内へ空気を供給するタイミング、及び空気の供給量を制御することができる。さらに、第1流路開閉弁130を制御装置350に接続しているため、制御装置350により、第1流路開閉弁130が排気流路30を開閉するタイミングを制御することができる。さらに、酸素センサ340を制御装置350に接続しているため、制御装置350により、酸素センサ340の出力を検出し、この出力値に基づいて、現在の空燃比を算出することができる。従って、算出された現在の空燃比と目標空燃比(例えば、理論空燃比)とに基づいて、エンジン10を目標空燃比で運転させるように、空燃比制御を行うことができる。なお、本実施例3では、制御装置350が内燃機関制御手段を含んでいる。
【0061】
ここで、図5に示すフローチャートを参照しつつ、本実施例3の排気浄化システム300における空燃比制御について説明する。なお、本実施例3では、エンジン10の運転中において、所定の時間毎(本実施例3では、16ミリ秒毎)に、図5のフローチャートに示す一連の処理を、繰り返し行うように設定されている。
まず、ステップS1において、制御装置350により、変速ギアポジションがニュートラルであるか否かを判定する。ここで、ニュートラルである場合には、車両が停車しており、まもなくエンジン10を停止すると判断することができる。
【0062】
ステップS1で、ニュートラルである(Yes)と判定された場合には、ステップS3に進み、酸素センサ340の出力が、予め設定した目標値B(V)以上となったか否かを判定する。なお、本実施例3では、通常、空燃比をストイキの状態(A/F=14.6)に設定してエンジン10を運転しており、この場合、酸素センサ340の出力値が約0.42Vを示すことがわかっている。従って、酸素センサ340の出力値が0.42V未満の場合には、排気流路30内の排気が酸化雰囲気になっており、逆に、0.42Vより大きい場合には、排気流路30内が還元雰囲気になっていると判断することができる。
ここで、目標値Bの値は、任意に設定することができるが、本実施例3では、B=0.6,0.8(V)の2種類の異なる値(いずれも、排気流路30内が還元雰囲気であるときの値)に設定して、それぞれ、空燃比制御を行った。
【0063】
一方、ステップS1において、車速が所定値A以上であると判定(No)された場合には、ステップS2に進み、車速が所定値A(例えば、5km/h)未満であるか否かを判定する。すなわち、ステップS2では、まもなく車両が停車するか否かを判定する。
車速が所定値A未満であると判定(Yes)された場合には、ステップS3に進み、逆に、車速が所定値A以上である(No)と判定された場合には、一連の処理を一旦終了し、所定時間経過後、再び、ステップS1から上記の処理を行う。
【0064】
ステップS3において、酸素センサ340の出力が目標値B(例えば、0.6)(V)に達していない(No)場合には、ステップS4に進み、制御装置350により、エンジン10の空燃比(A/F)をC(ストイキよりもリッチ側の値、C<14.6)に設定して、エンジン10を運転させる。このように、燃料リッチ側の状態でエンジン10を運転させることにより、酸素センサ340の出力値を増加させ、目標値B(V)に近づけることができる。
【0065】
一方、ステップS3において、酸素センサ340の出力が目標値B(V)に達した場合(Yes)には、ステップS5に進み、キースイッチがOFFであるか否かを判定する。キースイッチがOFFでない(No)と判定された場合には、所定時間経過後、再び、ステップS1から上記の処理を行う。逆に、キースイッチがOFFであると判定された場合には、ステップS6に進み、エンジン10を停止させる。次いで、ステップS7に進み、第1流路開閉弁130を閉じて、一連の処理を終了する。
【0066】
本実施例3では、上記の一連の処理を繰り返し行うことにより、酸素センサ340の出力値を目標値B(具体的には、0.6Vまたは0.8V)にした後、エンジン10を停止させることができる。すなわち、排気流路30内の排気を還元雰囲気にした後、エンジン10を停止させることができる。なお、上記の一連の処理のうち、ステップS1〜S6が内燃機関運転制御手段に含まれる。
その後、実施例1と同様にして、それぞれ、約12時間、室温で放置冷却した後、暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を測定した。
【0067】
(比較例2)
本比較例2の排気浄化システムは、実施例3の排気浄化システム300と比較して、制御装置(ECU)における空燃比制御が異なり、その他についてはほぼ同様である。具体的には、本比較例2では、図15に示すように、実施例3の空燃比制御(図5参照)と比較すると、ステップS3,S4の処理に代えてステップV3,V4の処理を行うように設定されており、その他の処理については同様である。
【0068】
ステップV3では、酸素センサ340の出力値が目標値B(V)以下となったか否かを判定する。なお、本比較例2では、B=0.1,0.3(V)の2種類の異なる値(いずれも、排気流路30内の排気が酸化雰囲気であるときの値)に設定して、それぞれ、空燃比制御を行った。酸素センサ340の出力が目標値B(V)よりも大きい(No)場合には、ステップV4に進み、制御装置により、エンジン10の空燃比(A/F)をD(ストイキよりもリーン側の値、>14.6)に設定して、エンジン10を運転させる。このように、燃料リーン側の状態でエンジン10を運転させることにより、酸素センサ340の出力値を低減させ、目標値B(V)に近づけることができる。
【0069】
一方、酸素センサ340の出力が目標値B(V)以下となった場合(Yes)には、一連の処理を終了し、エンジン10を停止する。なお、比較例2においても、実施例1と同様に、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じるようにしている。
その後、実施例1と同様にして、それぞれ、約12時間、室温で放置冷却した後、暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を測定した。
【0070】
次に、実施例3の排気浄化システム300及び比較例2の排気浄化システムの暖機性評価試験の結果を、図6に示す。なお、図6では、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を示している。図6で×印で示す比較例2の排気浄化システム(目標値B=0.1,0.3)では、積算HC排出量が110〜120mg程度であった。これに対し、●印で示す実施例3の排気浄化システム300(目標値B=0.6,0.8)では、積算HC排出量を70〜80mg程度にまで低減することができた。この結果より、実施例3の排気浄化システム300では、比較例2の排気浄化システムよりも触媒の暖機性を良好にすることができたと言える。
【0071】
ここで、図6のグラフを検討すると、目標値B=0.42(V)を境界として、0.42(V)より小さい値に設定するとHC積算量が大きく上昇し、0.42(V)より大きな値に設定するとHC積算量が大きく低下することがわかる。この結果より、目標値B=0.42(V)を境界として、0.42(V)より小さい値に設定すると触媒の暖機性が大きく低下し、0.42(V)より大きな値に設定すると触媒の暖機性が大きく上昇すると言える。従って、酸素センサ340の出力値Bが0.42より小さくなるまで、空燃比を理論空燃比より小さい値に制御してエンジン10を運転させた後、エンジン10を停止させることにより、触媒の暖機性を良好にすることができると言える。
【0072】
これは、上記のように空燃比を制御することにより、確実に、排気流路30内の排気を還元雰囲気にさせることができ、排気浄化触媒110(詳細には、酸化セリウム)を確実に還元状態にすることができたためであると考えられる。これにより、酸化セリウムの酸化反応熱を利用して、触媒の暖機性を良好にすることができたと考えられる。
【実施例4】
【0073】
本実施例4の排気浄化システム400は、図4に示すように、実施例3の排気浄化システム300と比較して、制御装置(ECU)450における制御内容が異なり、その他については、ほぼ同様である。具体的には、本実施例4の排気浄化システム400では、制御装置450により、予め設定した目標供給量だけ、空気供給装置120から排気流路30内へ空気が供給されるように、空気供給量を制御することが可能となっている。
【0074】
ここで、図7に示すフローチャートを参照しつつ、本実施例4の排気浄化システム400における空気供給量の制御について説明する。なお、本実施例4では、エンジン10の運転中において、所定の時間毎(例えば、16ミリ秒毎)に、図7のフローチャートに示す一連の処理を、繰り返し行うように設定されている。また、エンジン10を始動させる前は、実施例1と同様の条件で、エンジン10を停止させ、その後、約12時間、室温で放置冷却している。
【0075】
エンジン10のキースイッチをONにすると、まず、ステップT1において、制御装置450により、空気供給装置120の駆動条件が成立しているか否か(例えば、空気供給装置120が正常に作動するか否か)を確認する。駆動条件が成立している場合(Yes)には、ステップT2に進み、空気供給装置120から排気流路30内に供給した積算空気供給量が、予め設定した目標供給量Eに達したか否かを判定する。ここで、積算空気供給量は、空気供給装置120から供給される単位時間あたりの空気供給量に、空気供給装置120の駆動時間を乗じて算出することができる。
【0076】
ステップT2において、積算空気供給量が目標供給量Eに達していないと判定された場合(No)には、ステップT3に進み、空気供給装置120を駆動させる(既に、駆動している場合には、継続して駆動させる)。次いで、ステップT4に進み、空気供給装置120の駆動時間を積算する。その後、所定の時間経過後、再び、ステップT1から処理を行う。
なお、ステップT1において、空気供給装置120の駆動条件が成立していないと判定された場合(No)には、ステップT5に進み、空気供給装置120の駆動積算時間をリセットする。次いで、ステップT6に進み、空気供給装置120を停止させ、排気流路30内への空気の供給を終了する。
【0077】
一方、ステップT2において、積算空気供給量が目標供給量Eに達したと判定された場合(Yes)には、ステップT7に進み、空気供給装置120を停止させ、排気流路30内への空気の供給を終了する。ここで、目標供給量Eは、任意の値に設定することができるが、本実施例4では、次のようにして設定した。排気浄化触媒110に含まれる酸化セリウムの含有量に基づいて、Ce23(還元状態の酸化セリウム)全量を酸化するのに必要な酸素を算出し、この酸素量を含む空気量を基準空気量とする。そして、空気供給装置120から供給される空気のうち、Ce23の酸化に用いられない空気(酸素)が20%程度存在すると見積もって、この基準空気量に対し、1.2倍の空気量を目標供給量Eに設定した。
本実施例4では、上記のように目標供給量Eを設定して、エンジン10の始動時に、上述のように排気流路30内への空気の供給量を制御しつつ、実施例1と同様に暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を測定した。
【0078】
(比較例3)
本比較例3の排気浄化システムは、実施例4の排気浄化システム400と比較して、空気供給装置120により排気流路30内へ供給する空気の目標供給量Eが異なり、その他については同様である。具体的には、本比較例3では、目標供給量Eを基準空気量の0.5倍の値に設定した場合と、2.5倍の値に設定した場合とについて、それぞれ、実施例4と同様に、ステップT1〜T7の処理を行った。本比較例3においても、上述のように排気流路30内への空気の供給量を制御しつつ、実施例1と同様に暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を測定した。
【0079】
次に、実施例4の排気浄化システム400及び比較例3の排気浄化システムの暖機性評価試験の結果を、図8に示す。なお、図8では、エンジン始動後20秒間の積算HC排出量を示している。図8に示すように、●印で示す実施例4の排気浄化システム400(目標供給量Eが基準空気量の1.2倍)では、△印と×印で示す比較例3の排気浄化システム(目標供給量Eが基準空気量の0.5倍及び2.5倍)と比較して、積算HC排出量を大きく低減することができた。この理由は、次のように考えられる。
【0080】
比較例3のうち目標供給量Eを基準空気量の0.5倍とした場合(△印)には、還元状態にある酸化セリウム(Ce23)全体を酸化するのに十分な酸素を供給することができない。このため、酸化反応熱により還元状態にある排気浄化触媒110を十分に酸化することができず、エンジン10の始動時において、酸化反応熱による触媒の加熱が不十分であったと考えられる。逆に、目標供給量Eを基準空気量の2.5倍とした場合(×印)には、過剰に供給された空気により触媒が冷却されてしまうので、やはり、エンジン10の始動時において、触媒の加熱が不十分であったと考えられる。このように、比較例3では、エンジン10の始動時において、触媒の加熱が不十分であったため、HCを十分に浄化することができなかったと考えられる。
【0081】
これに対し、実施例4の排気浄化システム400では、目標供給量Eを基準空気量の1.2倍としている。すなわち、還元状態にある酸化セリウム(Ce23)全量を酸化できるように目標供給量Eを設定し、空気供給装置120により、目標供給量Eに達するまで、空気を排気流路30内に供給するようにした。これにより、還元状態にある酸化セリウム(Ce23)全体を酸化させることができ、また、過剰な空気により触媒が冷却されてしまう虞もないので、内燃機関の始動時において、酸化反応熱により、効率良く好適に、触媒を加熱することができたと考えられる。
【実施例5】
【0082】
本実施例5の排気浄化装置500は、図9に示すように、実施例1の排気浄化装置100と比較すると、排気浄化触媒110よりも上流側の位置(さらには、空気供給装置120よりも上流側の位置)に、HC吸着材560を設けた点が異なり、その他についてはほぼ同様である。このHC吸着材560は、排気浄化触媒110のハニカム基材と同一のハニカム基材を用い、これに、ZSM−5型ゼオライトとUSY型ゼオライトとを1:1の重量比で混合したものを200g/Lの割合でコートすることにより作製した。
【0083】
このような本実施例5の排気浄化装置500について、暖機性の評価試験を行った。
具体的には、まず、実施例1と同様に、第1流路開閉弁130を開いた状態で、空燃比をストイキの状態(A/F=14.6)として、エンジン10を2000rpmで通常運転を続けた。その後、空燃比を燃料リッチ側(A/F=14.3)にしてアイドル運転した後、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じた。
【0084】
その後、実施例1とは異なり、約36時間(実施例1では、約12時間)、室温で放置冷却した。次いで、実施例1と同様に、第1流路開閉弁130を開くと共に、空気供給装置120により、約5秒間、排気流路30内に空気を供給した後、エンジン10を始動させ、エンジン始動後20秒間、アイドル状態を保持した。次いで、実施例1とは異なり、10秒間で車速40km/hまで加速させた後、車速40km/hの状態を40秒間保持した。この間(エンジン始動後70秒間)におけるHC排出量を測定した。このように、本実施例5では、実施例1よりもHCが大量に発生する条件で、暖機性の評価試験を行った。
【0085】
なお、本実施例5及び後述する実施例6〜10に用いる排気浄化触媒110及びHC吸着材560は、上記の暖機性評価試験に用いる前に、予め、所定の位置に装着され、エンジン10の空燃比を理論空燃比(ストイキ)とするフィードバック制御を行いつつ、入りガス温度を800℃とする試運転が、50時間行われている。
【実施例6】
【0086】
本実施例6の排気浄化装置600は、図10に示すように、実施例5の排気浄化装置500と比較すると、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、排気浄化触媒110よりも上流側の位置(詳細には、排気浄化触媒110と空気供給装置120との間)にも第2流路開閉弁230を設けた点が異なり、その他についてはほぼ同様である。このような本実施例6の排気浄化装置600についても、実施例5の排気浄化装置500と同様にして、暖機性の評価試験を行い、HC排出量を測定した。なお、本実施例5の排気浄化装置500では、第1流路開閉弁130と同じタイミングで、第2流路開閉弁230を開閉させた。
【実施例7】
【0087】
本実施例7の排気浄化装置700は、図11に示すように、実施例5の排気浄化装置500と比較すると、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、HC吸着材560よりも上流側の位置に第2流路開閉弁230を設けた点が異なり、その他についてはほぼ同様である。このような本実施例7の排気浄化装置700についても、実施例5の排気浄化装置500と同様にして、暖機性の評価試験を行い、HC排出量を測定した。なお、本実施例7の排気浄化装置700では、第1流路開閉弁130と同じタイミングで、第2流路開閉弁230を開閉させた。
【0088】
(比較例4)
本比較例4の排気浄化装置は、実施例5の排気浄化装置500と比較して、空気供給装置120及び第1流路開閉弁130を設けていない点が異なり、その他についてはほぼ同様である。本比較例4の排気浄化装置についても、暖機性の評価試験を行い、HC排出量を測定した。なお、本比較例4では、実施例5と異なり、空燃比を燃料リーン側に(フューエルカットを実施)してアイドル運転を行った後、エンジン10を停止させている。また、本比較例1では、実施例1と異なり、空気供給装置120及び第1流路開閉弁130を設けていないため、空気供給装置による排気流路30内への空気の供給、及び第1流路開閉弁130による排気流路30の開閉は行っていない。
【0089】
次に、実施例5〜7の排気浄化装置500〜700及び比較例4の排気浄化装置の暖機性評価試験の結果を、図12に示す。なお、図12では、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量を示している。図12に示すように、本発明の実施例5〜7の排気浄化装置500〜700では、いずれも、比較例4の排気浄化装置よりも、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量が少なかった。これは、本発明の実施例5〜7の排気浄化装置500〜700では、いずれも、比較例4の排気浄化装置よりも早期に、触媒を活性化させることができたためと考えられる。この理由は、前述したように、実施例1,2と比較例1とを比較検討したときと同様に考えることができる。
【0090】
次に、実施例5と実施例6との結果を比較すると、実施例6のほうが、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量が少なかった。これは、実施例6では、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、排気浄化触媒110よりも上流側の位置(詳細には、排気浄化触媒110と空気供給装置120との間)にも第2流路開閉弁230を設けているためと考えられる。
【0091】
すなわち、実施例6では、エンジン10を停止させている間、第1流路開閉弁130と共に、第2流路開閉弁230により排気流路30を閉じることで、上流側からも排気浄化触媒110への空気(酸素)の流入を防止でき、還元状態にある排気浄化触媒110(詳細には、Ce23)の酸化をより一層抑制することができたためと考えられる。これにより、実施例6では、実施例5に比して、エンジン10の始動時に、排気浄化触媒110にCe23(還元状態の酸化セリウム)が多く含まれることとなり、エンジン10の始動時に空気供給装置120により空気を供給すると、排気浄化触媒110において、より大きな酸化反応熱を発生させることができたと考えられる。
【0092】
さらには、エンジン10を停止させている間、第1流路開閉弁130と共に、第2流路開閉弁230により排気流路30を閉じることで、排気浄化触媒110への水分吸着も抑制することができたためと考えられる。これにより、実施例6では、実施例5に比して、排気浄化触媒110における酸化反応熱のうち、吸着した水分の気化熱として奪われる熱量を小さくすることができたと考えられる。
以上のような理由で、実施例6の排気浄化装置600では、実施例5の排気浄化装置500に比して、触媒を早期に活性化させることができたと考えられる。従って、実施例6の排気浄化装置600は、実施例5の排気浄化装置500よりも、暖機性が良好であると言える。
【0093】
また、実施例5と実施例7との結果を比較すると、実施例7のほうが、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量が少なかった。これは、実施例7では、排気浄化触媒110の下流側に位置する第1流路開閉弁130に加え、HC吸着材560よりも上流側の位置に第2流路開閉弁230を設けているためと考えられる。
すなわち、実施例7では、エンジン10を停止させている間、第1流路開閉弁130とと第2流路開閉弁230とにより、HC吸着材560の上流側と下流側との位置で、排気流路30を閉じることができたため、HC吸着材560への排気の流入を防止することができたと考えられる。これにより、エンジン10を停止させている間、HC吸着材560への水分吸着を抑制することができたと考えられる。
【0094】
実施例5〜7では、HC吸着材560として、ゼオライト(具体的には、ZSM−5とUSY)を含有させているが、ゼオライトは、HC吸着性に優れていると共に、吸水性にも優れている。このため、実施例5では、エンジン10を停止している間に、HC吸着材560が、排気流路30内に滞留している排気中に含まれている水分を吸収してしまい、エンジン10の始動時におけるHC吸着性能が低下してしまったと考えられる。
これに対し、実施例7では、エンジン10を停止している間、HC吸着材560への水分吸着を抑制することができたため、エンジン10の始動時におけるHC吸着性能の低下を抑制することができたと考えられる。従って、エンジン10の始動時に、浄化されずに排出されるHC排出量を低減することができたと考えられる。
【実施例8】
【0095】
本実施例8の排気浄化システム800は、図13に示すように、排気量2.4Lのガソリンエンジン10の排気流路30に設けられており、排気浄化触媒110、空気供給装置120、第1流路開閉弁130、酸素センサ340、HC吸着材560、及び制御装置(ECU)350を備えている。すなわち、実施例3の排気浄化システム300(図4参照)に、HC吸着材560を追加したものである。
【0096】
本実施例8の排気浄化システム800について、実施例3の排気浄化システム300と同様に、図5のフローチャートに示すような空燃比制御を行い、酸素センサ340の出力が目標値B(V)に達した後(具体的には、目標値B=0.6,0.8に設定)、エンジン10を停止させるようにした。すなわち、排気流路30内の排気を還元雰囲気にした後、エンジン10を停止させるようにした。なお、本実施例8においても、実施例3と同様に、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じるようにしている。その後、実施例5と同様にして、それぞれ、約36時間、室温で放置冷却した後、暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量を測定した。
【0097】
(比較例5)
本比較例5の排気浄化システムは、実施例8の排気浄化システム800と比較して、制御装置(ECU)における空燃比制御が異なり、その他についてはほぼ同様である。具体的には、本比較例5では、図15に示すように、実施例3の空燃比制御(図5参照)と比較すると、ステップS3,S4の処理に代えてステップV3,V4の処理を行うように設定されており、その他の処理については同様である。すなわち、前述した比較例2と同様の空燃比制御を行うように設定されている。
【0098】
本比較例5の排気浄化システムでは、排気流路30内の排気を酸化雰囲気にした後(具体的には、目標値B=0.1,0.3に設定)、エンジン10を停止させるようにした。なお、本比較例5においても、実施例8と同様に、エンジン10を停止させると共に、第1流路開閉弁130を閉じるようにしている。その後、実施例5と同様にして、それぞれ、約36時間、室温で放置冷却した後、暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量を測定した。
【0099】
実施例8及び比較例5の暖機性評価試験の結果を比較すると、実施例3及び比較例2の結果と同様に、比較例5に比して、実施例8では積算HC排出量を大きく低減することができた。さらに、目標値B=0.42(V)を境界として、0.42(V)より小さい値に設定すると触媒の暖機性が大きく低下し、0.42(V)より大きな値に設定すると触媒の暖機性が大きく上昇することがわかった。この結果より、HC吸着材560を設けた排気浄化システムにおいても、エンジン10を停止する際、空燃比を理論空燃比よりも小さく制御してエンジン10を運転させて、排気流路30内を還元雰囲気にした後、エンジン10を停止させることにより、触媒の暖機性を良好にすることができると言える。
【実施例9】
【0100】
本実施例9の排気浄化システム900は、図13に示すように、実施例8の排気浄化システム800と比較して、制御装置(ECU)450における制御が異なり、その他については、ほぼ同様である。具体的には、本実施例9の排気浄化システム900では、制御装置450により、予め設定した所定量(目標供給量)の空気が、空気供給装置120から排気流路30内へ供給されるように制御することが可能となっている。すなわち、実施例4の排気浄化システム400(図4参照)に、HC吸着材560を追加したものである。
【0101】
本実施例9でも、実施例4と同様に、基準空気量(理論上、排気浄化触媒110に含まれるCe23全量を酸化するのに必要な酸素を含む空気量)に対し1.2倍の空気量を目標供給量Eに設定して、エンジン10の始動時に、図7のフローチャートに示すような制御を行った。そして、このような制御を行いつつ、実施例8と同様に暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量を測定した。なお、本実施例9においても、エンジン10の始動前は、実施例8と同じ条件でエンジン10を停止させ、その後、約36時間、室温で放置冷却している。
【0102】
(比較例6)
本比較例6の排気浄化システムは、実施例9の排気浄化システム900と比較して、空気供給装置120により排気流路30内へ供給する空気の目標供給量Eが異なり、その他については同様である。具体的には、本比較例9では、目標供給量Eを基準空気量の0.5倍の値に設定した場合と、2.5倍の値に設定した場合とについて、それぞれ、実施例9と同様の制御を行った。そして、このような制御を行いつつ、実施例9と同様に暖機性の評価試験を行い、エンジン始動後70秒間の積算HC排出量を測定した。なお、本比較例6においても、エンジン10の始動前は、実施例8と同じ条件でエンジン10を停止させ、その後、約36時間、室温で放置冷却している。
【0103】
実施例9及び比較例6の暖機性評価試験の結果を比較すると、実施例4及び比較例3の結果と同様に、実施例9では、比較例6に比して、積算HC排出量を大きく低減することができた。この結果より、HC吸着材560を設けた排気浄化システムにおいても、還元状態にある酸化セリウム(Ce23)全体を酸化するのに必要な酸素を含む空気を供給することにより、触媒の暖機性をさらに良好にすることができると言える。
【実施例10】
【0104】
本実施例10の排気浄化システム1000は、図13に示すように、実施例8の排気浄化システム800と比較して、制御装置(ECU)1050における制御が異なり、その他については、ほぼ同様である。具体的には、本実施例10の排気浄化システム1000では、制御装置(ECU)1050により、エンジン10の吸入空気量の積算値に基づいて、HC吸着材560の温度がHC離脱温度(一旦吸着したHCが離脱し始める温度、HC吸着材560の仕様から決まるHC吸着材560に固有の温度である)に達するまでの時間t1を算出することが可能となっている。詳細には、予め取得した、エンジン10の吸入空気量とHC吸着材560の温度との関係式に基づいて、エンジン10の吸入空気量の積算値から、HC吸着材560の温度を推定することができ、この推定温度からHC吸着材560がHC離脱温度に達するまでの時間t1(以下、これをHC離脱温度到達時間t1とも言う)を算出することができる。
【0105】
また、空気供給装置120による所定の空気供給速度(L/s)に基づいて、空気供給装置120により空気の供給を開始してから、排気浄化触媒110に含まれる還元状態の酸化セリウム(Ce23)を酸化を完了させるまでに要する時間(以下、これを触媒酸化所要時間とも言う)を推定することができる。
【0106】
そこで、本実施例10の排気浄化システム1000では、HC離脱温度到達時間t1と、触媒酸化所要時間とが一致するように(すなわち、HC離脱時期と酸化終了時期とが一致するように)、空気供給装置120から排気流路30内への空気の供給を制御するようにした。これにより、HC吸着材560からのHC離脱時期と、酸化反応熱による触媒の温度上昇のピークとを一致させることができるので、酸化反応熱による触媒の昇温効果を最大限利用することができ、HC吸着材560から離脱したHCを、効率良く浄化することが可能となる。
【0107】
ここで、図14に示すフローチャートを参照しつつ、本実施例10の排気浄化システム1000における空気供給の制御について説明する。なお、本実施例10では、エンジン10の始動時において、所定の時間毎(例えば、16ミリ秒毎)に、図14のフローチャートに示す一連の処理を、繰り返し行うように設定されている。
【0108】
エンジン10のキースイッチをONにすると、まず、ステップU1において、制御装置1050により、エンジン10の吸入空気量を積算する。次いで、ステップU2に進み、エンジン10の吸入空気量の積算値からHC吸着材560の温度を推定する。ここでは、前述のように、予め取得した、エンジン10の吸入空気量とHC吸着材560の温度との関係式に基づいて、HC吸着材560の温度を推定する。
【0109】
次いで、ステップU3に進み、空気供給装置120にかかる空気供給完了フラグがONであるか否かを判断する。空気完了フラグがONでない場合(NO)には、ステップU4に進み、空気供給装置120が駆動中であるか否かを判定する。ステップU4において、空気供給装置120が駆動していないと判定された場合(NO)には、ステップU5に進み、空気供給装置120の駆動時間t2をリセットする。次いで、ステップU6に進み、HC吸着材560の推定温度からHC離脱温度到達時間t1を算出する。
【0110】
次いで、ステップU7に進み、ステップU6で算出したHC離脱温度到達時間t1が、予め取得している触媒酸化所要時間に達したか否かを判定する。ステップU7において、HC離脱温度到達時間t1が触媒酸化所要時間より大きい(NO)と判定された場合には、一連の処理を一旦終了し、所定時間経過後、再び、ステップU1から処理を行う。反対に、ステップU7において、HC離脱温度到達時間t1が触媒酸化所要時間以下となった(Yes)と判定された場合には、空気供給装置120を駆動させ、排気流路30内へ空気の供給を開始する。
【0111】
その後、再び、ステップU1から順に処理を行い、ステップU4において、空気供給装置120が駆動していると判定された場合(Yes)には、ステップU9に進み、空気供給装置120の駆動時間t2を積算する。次いで、ステップUAに進み、空気供給装置120の積算駆動時間t2が、触媒酸化所要時間以上となったか否かを判定する。空気供給装置120の積算駆動時間t2が、未だ触媒酸化所要時間よりも小さいと判定された場合(No)には、一連の処理を一旦終了し、所定時間経過後、再び、ステップU1から処理を行う。
【0112】
一方、ステップUAにおいて、空気供給装置120の積算駆動時間t2が、触媒酸化所要時間以上となったと判定された場合(Yes)には、ステップUBに進み、空気供給装置120による排気流路30内への空気の供給を停止させる。次いで、ステップUCに進み、空気供給完了フラグをONにする。その後は、再び、ステップU1から順に処理が進み、ステップU3において、空気供給完了フラグがONである(Yes)と判定される処理が繰り返し行われる。
【0113】
上述したように、本実施例10では、HC離脱温度到達時間t1が触媒酸化所要時間以下となると、空気供給装置120を駆動させ、排気流路30内へ空気の供給を開始するように制御している。これにより、HC吸着材560がHC離脱温度に達する時期と、Ce23の酸化反応熱による排気浄化触媒110の加熱が完了する時期とを一致させることができる。従って、HCがHC吸着材560から離脱する時期と、酸化反応熱により排気浄化触媒110の温度上昇がピークに達する時期とを一致させることができる。
かくして、HC吸着材560からHCが離脱したときには、排気浄化触媒110を、HC浄化可能な状態(触媒活性化状態)としておくことができる。あるいは、極めて短い期間の後、浄化可能な状態(触媒活性化状態)とすることができる。
【0114】
さらに、本実施例10では、空気供給装置120の積算駆動時間t2が触媒酸化所要時間に達した後、空気供給装置120によりそれ以上の空気が供給されないように制御している。すなわち、還元状態にある酸化セリウムを酸化させるために必要な量だけ、空気供給装置120により排気流路30内へ空気を供給することができる。このため、空気供給過剰による排気浄化触媒110の冷却を防止することもできる。従って、本実施例10の排気浄化システム1000では、最も効率良く、HC吸着材560から離脱したHCを浄化することができる。なお、還元状態にある酸化セリウムを酸化させるために必要な空気量は、実施例4,9と同様に、排気浄化触媒110の構造、材質、空気供給装置120の特性、排気流路30の構造等を考慮して、基準空気量に対し、酸化に寄与しない酸素量を考慮した空気の量(例えば、基準空気量の1.2倍)であることは言うまでもない。
【0115】
以上において、本発明を実施例1〜10に即して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施例3,4の排気浄化システム300,400では、排気流路30を開閉する流路開閉手段として、排気浄化触媒110よりも下流側の位置に第1流路開閉弁130のみを設けた。しかしながら、第1流路開閉弁130に加えて、排気浄化触媒110よりも上流側の位置にも、第2流路開閉弁230を設けるようにしても良い。これにより、排気浄化触媒110に含まれる還元状態の酸化セリウムの酸化をさらに抑制することができる共に、排気浄化触媒110への水分の吸着も抑制することができるので、触媒の暖機性がさらに良好となる。
【0116】
また、実施例8〜10の排気浄化システム800〜1000においても、排気流路30を開閉する流路開閉手段として、排気浄化触媒110よりも下流側の位置に第1流路開閉弁130のみを設けた。しかしながら、触媒の暖機性がさらに良好とするためには、第1流路開閉弁130に加えて、排気浄化触媒110よりも上流側の位置にも、第2流路開閉弁230を設けるようにするのが好ましい。あるいは、HC吸着材560よりも上流側の位置に第2流路開閉弁230を設けるようにしても良い。これにより、エンジン停止中にHC吸着材560への水分吸着を抑制することができるので、HC吸着材560のHC吸着性能の低下を抑制することができる。従って、エンジン始動時におけるHC排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例1の排気浄化装置100の模式図である。
【図2】実施例2の排気浄化装置200の模式図である。
【図3】実施例1,2及び比較例1の暖機性評価試験の結果を示すグラフである。
【図4】実施例3,4の排気浄化システム300,400の模式図である。
【図5】実施例3の排気浄化システム300にかかるフローチャートである。
【図6】実施例3の排気浄化システム300にかかる暖機性評価試験の結果を示すグラフである。
【図7】実施例4の排気浄化システム400にかかるフローチャートである。
【図8】実施例4の排気浄化システム400にかかる暖機性評価試験の結果を示すグラフである。
【図9】実施例5の排気浄化装置500の模式図である。
【図10】実施例6の排気浄化装置600の模式図である。
【図11】実施例7の排気浄化装置700の模式図である。
【図12】実施例5,6,7及び比較例4の暖機性評価試験の結果を示すグラフである。
【図13】実施例8,9,10の排気浄化システム800,900,1000の模式図である。
【図14】実施例10の排気浄化システム1000にかかるフローチャートである。
【図15】比較例2の排気浄化システムにかかるフローチャートである。
【符号の説明】
【0118】
100,200,500,600,700 排気浄化装置
300,400,800,900,1000 排気浄化システム
110 排気浄化触媒
120 空気供給装置(気体供給手段)
130 第1流路開閉弁(第1流路開閉手段)
230 第2流路開閉弁(第2流路開閉手段)
340 酸素センサ(空燃比センサ)
350,450,1050 制御装置(内燃機関運転制御手段)
560 HC吸着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気流路内に位置する排気浄化触媒であって、上記排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒と、
上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、上記排気流路を開閉することが可能な第1流路開閉手段と、
上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、酸素含有気体を上記排気流路内に供給することが可能な気体供給手段と、を備える
排気浄化装置。
【請求項2】
前記排気浄化触媒は、
金属酸化物であって、
前記排気流路内が、酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含む
請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記排気流路を開閉することが可能な第2流路開閉手段を備える
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備える
請求項1乃至請求項3に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備え、
前記第2流路開閉手段は、上記HC吸着材よりも上流側に位置してなる
請求項3に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
内燃機関の排気流路内に位置する排気浄化触媒であって、上記排気流路内が還元雰囲気になると、自身が還元される排気浄化触媒と、
上記内燃機関を停止する際、上記排気流路内を還元雰囲気とした後、上記内燃機関を停止する内燃機関運転制御手段と、
上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、上記排気流路を開閉する第1流路開閉手段であって、上記内燃機関の停止直後に上記排気流路を閉じ、上記内燃機関の始動時に上記排気流路を開ける第1流路開閉手段と、
上記排気流路内のうち上記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記内燃機関の始動時に、酸素含有気体を上記排気流路内に供給する気体供給手段と、を備える
排気浄化システム。
【請求項7】
前記内燃機関運転制御手段は、
前記内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも小さくして上記内燃機関を運転させた後、上記内燃機関を停止する
請求項6に記載の排気浄化システム。
【請求項8】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも下流側に位置し、前記内燃機関の空燃比を検知する空燃比センサを有し、
前記内燃機関運転制御手段は、
上記内燃機関を停止するにあたり、上記空燃比センサにおいて上記内燃機関の理論空燃比よりも小さい値が検出されるまで、上記内燃機関の空燃比を上記理論空燃比よりも小さくして上記内燃機関を運転させてから停止させる
請求項7に記載の排気浄化システム。
【請求項9】
前記排気浄化触媒は、
金属酸化物であって、
前記排気流路内が、酸化雰囲気になる場合と還元雰囲気になる場合とにおいて、当該金属酸化物をなす金属元素の酸化数変化を伴う酸化還元反応を生じる金属酸化物を含む
請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の排気浄化システム。
【請求項10】
前記気体供給手段は、還元状態にある前記排気浄化触媒を酸化させるために必要な量だけ、酸素含有気体を前記排気流路内に供給する
請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の排気浄化システム。
【請求項11】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側に位置し、上記排気流路を開閉する第2流路開閉手段であって、前記内燃機関の停止直後に上記排気流路を閉じ、上記内燃機関の始動時に上記排気流路を開ける第2流路開閉手段を備える
請求項6乃至請求項10に記載の排気浄化システム。
【請求項12】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備える
請求項6乃至請求項11のいずれか一項に記載の排気浄化システム。
【請求項13】
前記排気流路内のうち前記排気浄化触媒よりも上流側の位置に、排気中のHCを吸着するHC吸着材を備え、
前記第2流路開閉手段は、上記排気流路内のうち上記HC吸着材よりも上流側に位置する
請求項11に記載の排気浄化システム。
【請求項14】
前記HC吸着材からHCが離脱する時期を推定するHC離脱時期推定手段を備える
請求項12または請求項13に記載の排気浄化システム。
【請求項15】
前記気体供給手段は、
前記HC離脱時期予測手段により推定されるHC離脱時期と、
還元状態にある前記排気浄化触媒の酸化反応が終了する酸化終了時期と、
が一致するように、前記排気流路内へ酸素含有気体を供給する
請求項14に記載の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−29216(P2006−29216A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209472(P2004−209472)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】