説明

Al−Ni系合金配線材料及びそれを用いた素子構造

【課題】ITOなどの透明電極層と直接接合が可能なAl系合金配線材料であって、現像液への耐食性に優れ、コンタクトホール形成時における耐食性にも優れ、大面積のガラス基板において素子を形成した場合においても、そのガラス基板面内に形成された素子の接合抵抗値をより均一にすることができるAl−Ni系合金配線材料を提供する。
【解決手段】アルミニウムにニッケルを含有したAl−Ni系合金配線材料において、セリウムとボロンとを含有し、各濃度は、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦1.0、0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどの表示デバイスの素子に用いられるAl−Ni系合金配線材料に関し、特に、薄膜トランジスタや透明電極を備える表示デバイスに好適なAl−Ni−B−Ce合金配線材料及びそれを用いた素子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器、AV機器、家電製品等の表示デバイスとして、例えば、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと略称する)を採用したディスプレイが、現在、幅広く利用されている。このようなディスプレイには、TFTを代表とするアクティブマトリックス方式による液晶表示(LCD)や自己発光型の有機EL(OELD)、或いはパッシブマトリックス方式による有機EL等、様々な制御構造が提案されており、この制御構造は薄膜により形成された回路により構成される。
【0003】
このような各種表示デバイスは、一般的に、ITO(Indium Tin Oxide)電極を代表とする透明電極、薄膜トランジスタ、配線用の導電性電極などを備える。このような表示デバイスは、その使用する材料が表示品質、電力消費、製品コストなどに直接影響するものであり、その技術改善が日々進められている。
【0004】
この表示デバイスの構造については、液晶表示(LCD)を例にすると、具体的には、次のような改良技術が進行している。
【0005】
表示デバイスの中心となる傾向の液晶表示装置では、高精細化、低コスト化は目覚ましく、その素子としてはTFTを利用した構造が広く採用されつつある。そして、その回路の配線材料としては、アルミニウム(Al)合金が用いられている。これは従来使用されてきたタンタル、クロム、チタンやそれら合金等の高融点材料の比抵抗が高すぎる等の改善策として、比抵抗が低く、配線加工が容易なアルミニウムが代替材料として着目された結果による。
【0006】
このアルミニウム合金による薄膜回路を形成する場合、LCDにおけるITO電極などの透明電極とのコンタクト部分において次のような現象を生じることが知られている。それは、Al合金とITO(Indium Tin Oxide)電極とを直接接合すると、その両者の電気化学的特性の相違により、その接合界面において反応を生じ、接合界面の破壊や抵抗値の増加を生じるのである。そのため、液晶表示素子にAl合金を使用する場合には、MoやCrなどから形成される、いわゆるコンタクトバリアー層(或いは、キャップ層。以下、「コンタクトバリアー層」という用語には、キャップ層を含む概念として用いる)と呼ばれるものが形成される(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
つまり、このAl合金の配線電極を備えるTFTでは、Cr、Mo等を主材料としたコンタクトバリアー層が設けられることが一般的であった。このようなキャップ層の存在は、表示デバイス構造を複雑とし、生産コストの増加に繋がるものであった。また、最近では、このコンタクトバリアー層を構成する材料の一つであるCrの使用を排除する市場動向もあり、キャップ層を形成する技術に大きな制約が生じ始めたという事情もあった。
【0008】
そのため、最近では、上述したコンタクトバリアー層を省略し、ITO電極などの透明電極と直接接合が可能な特定組成のAl−Ni系合金配線材料が提案されている(特許文献1〜特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】内田龍男 編著,「次世代液晶ディスプレイ技術」,初版,株式会社 工業調査会,1994年11月1日,p.36−38
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−214606号公報
【特許文献2】特開2007−142356号公報
【特許文献3】特開2006−261636号公報
【特許文献4】特開平11−284195号公報
【特許文献5】特開2007−073848号公報
【特許文献6】特開2007−072325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記先行技術で提案されているAl−Ni系合金配線材料は、以下に説明するような問題が指摘されている。まず、Al−Ni系合金配線材料により素子の回路形成を形成する場合、回路形成に使用する現像液に接触した際に、Al−Ni系合金が浸食される傾向があり、従来の製造工程に適応されにくい場合が指摘されている。現像液に接触する部分は、エッチング工程において溶かしてしまう部分であり、本来、現像液に浸食されても回路形成には問題とならない。しかし、現像工程でトラブルを生じ、一旦レジストを剥離して、再度、現像工程からやり直す場合、いわゆるフォトリワーク(フォトリソグラフィ リワークの略称)と呼ばれる処理を行う場合には問題となる。このフォトリワークを行う場合、先に行った現像工程で、現像液による浸食が進行すると、既にAl−Ni系合金が溶けてしまい、フォトリワークができなくなるのである。一般に、表示デバイスの製造メーカー、いわゆるパネルメーカーにおいては、このフォトリワークの工程を採用することにより、製造歩留を上げるため、現像液に対する耐食性をある程度備えたAl−Ni系合金配線材料が要求されている。
【0012】
つまり、上述のような理由により、現像液の浸食によって、Al−Ni系合金自体が溶解されて回路形成が困難となったり、或いはAl−Ni系合金表面が酸化され、透明電極との直接接合の際の接合抵抗を増大させるという不具合を解消できるAl−Ni系合金配線材料を求める傾向があった。そのため、このような現像液の浸食に対しは、Al系合金配線材料の耐食性を向上する方法として、Al合金膜表面を窒化、酸化させる技術が提案されている(特許文献4、参照)。
【0013】
しかしながら、Al系合金膜表面を窒化或いは酸化させることは、薄膜形成時のスパッタリング処理時間が長くなるという不利な面がある。また、窒化、酸化をするために、スパッタリング装置のチャンバー内に窒素ガスや酸素ガスを導入するなどの対応を行う必要があるため、スパッタリングの際に、パーティクルを発生しやすくなり、良好なAl系合金膜の形成が困難となる場合がある。また、窒化膜や酸化膜が形成されたAl系合金膜をエッチングして回路形成する場合、このAl系合金膜表面に形成された窒化膜或いは酸化膜と、その表面以外のAl系合金膜とのエッチングレートが相違するため、Al系合金膜表面側、すなわち、窒化膜或いは酸化膜のエッチングの進行が遅くなるため、Al系合金膜表面側がエッチング残りとなり、回路断面形状が逆テーパー状態になる傾向がある。この回路断面形状を正常化するために、特殊なエッチング液を使用する対応も可能であるが、製造コストの上昇につながり、望ましいものではない。このようなことから、回路形成時に使用する現像液への耐食性に優れたAl系合金配線材料が要求されている。
【0014】
次に、上述した透明電極と直接接合可能なAl−Ni系合金配線材料は、例えば、TFT素子におけるコンタクトホールの形成する際に、コンタクトホール部に露出されるAl−Ni系合金が腐食される傾向があることも指摘されている。
【0015】
TFT素子におけるコンタクトホールの形成は、基板上に形成されたAl−Ni系合金配線材料からなる回路層上に、プラズマCVDやスパッタリングによりSiNxの絶縁層が形成され、その絶縁層の表面にレジストを塗布し、露光・現像処理をして、絶縁層にコンタクトホールを形成するためのパターニングを行う。そして、CFガスやSFガスなど用いたドライエッチング処理により、絶縁層にコンタクトホールが形成される。その後、レジストの剥離処理を行い、洗浄処理、乾燥処理が行われ、コンタクトホールが形成された絶縁層上に、ITOなどの透明電極材料により透明電極層が形成される。
【0016】
このコンタクトホールの形成の際には、Al−Ni系合金配線材料からなる回路表面に、ドライエッチング処理時のガスやレジストの剥離液が接触することになる。そうすると、コンタクトホール部分に露出した、Al−Ni系合金配線材料からなる回路表面に腐食が生じ、黒点のような変質部分が発生する。
【0017】
このようなコンタクトホール形成時における腐食現象を防止する技術として、所定組成のCFガスを用いてドライエッチング処理する方法(特許文献5参照)や、レジストの剥離処理を改善する方法(特許文献6参照)が提案されている。
【0018】
しかしながら、特許文献5が提案するCFガスは、SFガスに比べて、SiNxのエッチング速度が遅い傾向があるため、エッチング時間が長くなり、効率的な製造には好ましい対応ではない。また、特許文献6のように、レジストの剥離処理において、非水系溶液の剥離液を用いると、60℃〜80℃の高温で剥離処理を行う必要があるため、製造コストの増加を招く。また、レジスト剥離後の洗浄処理に、イソプロピルアルコールなどの非水系洗浄液を用いるためには、装置全体を防爆しておく必要もあり、設備コストの増加を招く。そのため、上述した現像液への耐食性に加え、コンタクトホール形成における耐食性にも優れたAl系合金配線材料が要求されている。
【0019】
さらに、近年の表示デバイスは、大画面化の進展がめざましく、製造に供されるガラス基板の面積が非常に大きくなり、従来では予想できなかった次のような問題も指摘されている。現状使用されているガラス基板は、その面積が1000cm以上で、大きいものとしては4000cmもの場合もある。そして、このような大面積のガラス基板を用いると、非常に多くの素子を一枚のガラス基板上に製造することになる。例えば、面積600cmのガラス基板には、10個以上の素子が製造される。このような大面積のガラス基板で、透明電極層とAl系合金配線材料からなる回路層と直接接合した素子の接合抵抗が、その面内においてバラついている現象が確認されたのである。
【0020】
具体的には、従来提案されたAl−Ni系合金配線材料を用い、透明電極層と直接接合した素子構造の表示デバイスを製造する際に、面積1740cmの正方形のガラス基板を用い、その正方形のガラス基板の四隅部分、及び各辺の中央部分、正方形の中心部分の合計9個所の位置に形成された素子の接合抵抗値を測定したところ、60Ω/□10μm〜1500Ω/□10μmの範囲で接合抵抗値のバラツキが認められたのである。
【0021】
このようなガラス基板面内における各素子の接合抵抗値がバラつくことは、製造歩留り、製品の信頼性に大きく影響するもので、極めて重要な問題である。また、一枚のガラス基板面内における素子の接合抵抗を均一化することは、今後、さらに大面積化が進行する傾向がある表示デバイスにおいては非常に重要な課題であり、このような新たな課題を解決できるAl系合金配線材料が強く求められているのが現状である。
【0022】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、ITOなどの透明電極層と直接接合が可能なAl系合金配線材料であって、現像液への耐食性に優れ、コンタクトホール形成時における耐食性にも優れ、大面積のガラス基板において素子を形成した場合においても、そのガラス基板面内に形成された素子の接合抵抗値をより均一にすることができるAl−Ni系合金配線材料、及びそれを用いた素子構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明は、アルミニウムにニッケルを含有したAl−Ni系合金配線材料において、セリウムとボロンとを含有し、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式 0.5≦X≦5.0、 0.01≦Y≦1.0、 0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とする。
【0024】
本発明は、上記した組成のAl−Ni系合金配線材料により形成された配線回路層と、半導体層と、透明電極層とを備える表示デバイスの素子構造であって、前記配線回路層が、透明電極層に直接接合された部分を有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、上記した組成のAl−Ni系合金配線材料により形成された配線回路層と、半導体層と、透明電極層とを備える表示デバイスの素子構造であって、前記配線回路層が、半導体層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイスの素子に関する。
【0026】
さらに、本発明は、Al−Ni系合金配線材料からなる配線回路を形成するためのスパッタリングターゲットであって、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦1.0、0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とするスパッタリングターゲットに関する。
【0027】
また、本発明は、基板上に配線回路層及び半導体層を含む薄膜トランジスタを形成するステップと、記配線回路層が形成された基板上にフォトレジストをコーティングするステップと、前記所定位置のフォトレジストが除去されるように前記フォトレジストを露光して現像するステップと、前記フォトレジストをマスクとして絶縁膜をエッチングして前記配線回路層の上側一部が露出されるようにコンタクトホールを形成するステップと、前記露出された配線回路層を含む基板をアッシングするステップと、前記フォトレジストをストリップするステップと、前記フォトレジストがストリップされた基板を有機洗浄液で洗浄するステップと、前記絶縁膜上に形成され、前記コンタクトホールを通して配線回路層と連結した透明電極を形成するステップ、とを含む表示デバイスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、現像液への耐食性及びコンタクトホール形成時における耐食性に優れたAl−Ni系合金配線材料を提供できる。そのため、ITOなどの透明電極層との直接接合の構造を有する素子を安定して製造することが可能となる。そして、大面積のガラス基板においても、そのガラス基板面内に形成された素子の接合抵抗値を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】TFT概略断面図。
【図2】アッシングの有無による接触抵抗の測定値を示すグラフ。
【図3】ITO電極を形成する以前に、有機洗浄液を用いて追加洗浄する場合のソース電極部とITOとの間の接触抵抗を示すグラフ。
【図4】黒点腐食評価写真。
【図5】ITO電極層とAl合金電極層とをクロスして積層した試験サンプル概略斜視図。
【図6】接合抵抗面内バラツキの評価サンプルの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明における実施形態について説明する。本発明に係るAl−Ni系合金配線材料は、情報機器、AV機器、家電製品等の表示デバイスにおける配線材料として好適であり、各表示デバイスの高精度画質、高速表示画像などを実現することができる。以下に、本発明が適用可能なアクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイの場合を例にして、説明する。但し、本発明は、アクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイに限らず、各種表示デバイスの配線材料として適用可能である。
【0031】
例えば、アクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイの場合、スイッチング素子としてのTFTや、ITO(Indium Tin Oxide)或いはIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明電極(以下、透明電極層と称する場合がある)と、Al系合金配線材料より形成された配線回路とから素子が構成される。このような素子構造では、Al系合金配線材料による配線回路を、透明電極と接合させる部分やTFT内におけるn−Si(リンドープの半導体層)と接合させる部分が存在する。
【0032】
図1を参照しながら、従来から採用されているアクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイの素子構造について具体的に説明する。図1には、液晶ディスプレイに関するa−Si(アモルファスシリコン)タイプのTFT断面概略図を示している。このTFT構造では、ガラス基板1上に、ゲート電極部Gを構成するAl系合金配線材料からなる配線回路層2と、MoやMo−W合金などからなるキャップ層3(図1では、コンタクトバリアー層をキャップ層と称する。以下、同じ。)とが形成されている。そして、このゲート電極部Gには、その保護としてSiNxのゲート絶縁膜4が設けられている。また、このゲート絶縁膜4上には、a−Si半導体層5、チャネル保護膜層6、n−Si半導体層7、キャップ層3、電極配線回路層2、キャップ層3が順次堆積され、適宜パターン形成されることにより、ドレイン電極部Dとソース電極部Sとが設けられる。このドレイン電極部Dとソース電極部Sとの上には、素子の表面平坦化用樹脂またはSiNxの絶縁膜4’が被覆される。さらに、ソース電極部S側には、絶縁層4’にコンタクトホールCHが設けられ、その部分にITOやIZOの透明電極層7’が形成される。このような電極配線回路層2にAl系合金配線材料を用いる場合では、n−Si半導体層7と電極配線層2との間やコンタクトホールCHにおける透明電極層7’と電極配線層2との間に、キャップ層3を介在させる構造となっている。
【0033】
本発明に係るAl−Ni系合金配線材料を用いると、図1で示したキャップ層3を省略して、透明電極層7に電極配線回路層2を直接接合した状態で素子を形成することが可能となる。従来から使用されているAl系合金配線材料では、図1のような素子を構成する場合、Al系合金配線材料に形成されるアルミニウム酸化物の影響を考慮し、配線回路と透明電極との間に、モリブデン(Mo)やチタニウム(Ti)などの高融点金属材料を、いわゆるキャップ層として形成する場合が多い。本発明に係るAl−Ni系合金配線材料は、このキャップ層を省略して素子を形成することが可能であるが、従来と同様に、キャップ層を設けた素子に適用することもできる。
【0034】
本発明に係るAl−Ni系合金配線材料は、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式 0.5≦X≦5.0,0.01≦Y≦1.0,0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とする。
【0035】
ニッケルは、熱処理によりアルミニウムとの金属間化合物を形成し、透明電極層との直接接合における接合特性を良好にする作用を有する。但し、ニッケル含有量が多くなると、配線回路自体の比抵抗が高くなり実用的でなくなる。また、ニッケル含有量が少ないと、アルミニウムとの金属間化合物の生成量が減少し、透明電極層との直接接合ができなくなり、耐熱性(熱によるAl−Ni系合金配線材料の塑性変形発生に対する抑止作用)も低下する傾向となる。これらのことからニッケル含有量は0.5at%〜5.0at%であることが望ましい。
【0036】
具体的には、ニッケル含有量が5.0at%を超えると、配線材料の比抵抗値が大きくなりすぎるとともに、ディンプルと呼ばれる窪み状の欠陥が配線材料表面に形成され易く、耐熱性を確保できなくなる傾向となり、コンタクトホール形成時の黒点腐食が発生しやすくなる。一方、0.5at%未満であると、いわゆるヒロックと呼ばれる突起物が配線材料表面に形成され易くなり、耐熱性を確保できなくなる傾向となる。そして、形成した素子を連続通電した場合に、ITOと直接接合させたコンタクト部が時間の経過とともに破壊されやすくなる。このディンプルとは、Al−Ni系合金配線材料を熱処理した際に生じる応力ひずみによって材料表面に形成される微小な窪み状の欠陥のことをいい、このディンプルが発生すると、接合特性に悪影響を与え、接合信頼性が低下する。一方、ヒロックとは、ディンプルとは逆に、Al−Ni系合金配線材料を熱処理した際に生じる応力ひずみによって材料表面に形成される突起物であるが、このヒロックが発生しても、接合特性に悪影響を与え、接合信頼性が低下する。このディンプルとヒロックとは、熱によるAl−Ni系合金配線材料の塑性変形である点で共通するものであり、総称してストレスマイグレーションと呼ばれる現象で、これらの欠陥の発生レベルによりAl−Ni系合金配線材料の耐熱性を判断することができる。
【0037】
そして、本発明のように、アルミニウムに、セリウムを含有させると、現像液に対する耐食性を向上し、コンタクトホール形成時にAl−Ni系合金配線材料の表面に生じる黒点腐食を抑制することができる。セリウム含有量は、0.01at%〜1.0at%であることが望ましい。セリウム含有量が0.01at%未満であると、コンタクトホール形成時の黒点腐食が多くなる傾向があり、1.0at%を超えると、配線材料自体の比抵抗値と透明電極層との直接接合における接合抵抗値とが高くなる傾向となり、膜を形成するためのスパッタリングターゲット中にAl11Ceの共晶の結晶組織が粗大化し、Ceの偏析が生じて均一なスパッタリングが困難となる。
【0038】
さらに、アルミニウムにセリウムに加えて、ボロンを含有させることにより、n−Siなどの半導体層と直接接合をした際に、接合界面におけるAlとSiとの相互拡散を効果的に防止することができる。このボロンは、ニッケルと同様に耐熱性にも作用するもので、ボロンを含有させることにより、熱処理した際に生成される金属間化合物の析出物をさらに小さくする傾向になる。ボロン含有量は、0.01at%〜1.0at%であることが望ましい。ボロン含有量が、1.0at%を超える含有量であると配線材料自体の比抵抗値と透明電極層との直接接合における接合抵抗値とが高くなる傾向となり、膜を形成するためのスパッタリングターゲット中にCeBやAlBが析出し、スプラッシュが発生しやすくなり、正常な成膜が困難となる。逆に、ボロン含有量が0.01at%未満の含有量であると、AlとSiとの相互拡散の防止能力が低下し、半導体層との直接接合ができなくなる。具体的には、半導体層とAl−Ni−Ce−B合金配線材料を直接接合し、所定温度で熱処理した際に、接合部分においてAlとSiとの相互拡散が生じ易くなるのである。さらに加えて、ディンプルも発生し易い傾向となる。また、ボロン含有量が0.01at%未満であると、形成した素子を連続通電した場合に、ITOと直接接合させたコンタクト部が時間の経過とともに破壊されやすくなる。
【0039】
以上のような理由から、本発明に係るAl−Ni系合金配線材料は、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式 0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦1.0、0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にあること望ましい。このニッケル、セリウム、ボロンの含有量は、0.5≦X≦2.5、0.01≦Y≦0.5、0.01≦Z≦0.5の各式を満足する領域で範囲内にあることがより好ましい。この範囲であると、320℃熱処理後の配線材料自体の比抵抗値が約4.5μΩcm以下となり、コンタクトホール形成時の黒点腐食の発生が少なくなり、透明電極層との直接接合における接合抵抗値が100Ω/□10μm以下となる。そして、現像液への耐食性が確保でき、具体的には、現像液によるエッチングレートを24Å/S以下となる。
【0040】
上記した本発明に係るAl−Ni系合金配線材料により、表示ディスプレイの素子を製造する場合には、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式0.5≦X≦5.0,0.01≦Y≦1.0,0.01≦Z≦1.0の各式を満足する領域の範囲内にあるスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。このような組成のスパッタリングターゲットを用いる場合、スパッタリング時の成膜条件に多少左右されることもあるが、ターゲット組成とほぼ同じ組成のAl−Ni−Ce−B合金薄膜を容易に形成できる。
【0041】
尚、本発明に係るAl−Ni系合金配線材料は、上記したようにスパッタリング法により成膜することが実用的に望ましいが、他の異なる方法を採用しても良い。例えば、蒸着法、スプレーホーミング法などの乾式法によってもよく、本発明のAl−Ni系合金組成からなる合金粒子を配線材料として用い、エアロゾルディポジッション法で配線回路を形成することや、インクジェット法により配線回路を形成することなどが挙げられる。
【0042】
上記したアクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイのTFT構造を製造する場合、詳細には次のように行う。まず、ガラス基板1上にゲート電極部Gを構成するAl系合金配線材料を含んでなる配線回路層2とMoとMo−W合金などからなるキャップ層3を形成し、このゲート電極部G上にはその保護としてSiNxのゲート絶縁膜4を形成する。
【0043】
また、このゲート絶縁膜4上には、a-Si半導体層5、チャンネル保護膜層6、n+−Si半導体層7、キャップ層3、電極配線回路層2、キャップ層3を順次に堆積し、適切にパターンを形成して、ドレイン電極部Dとソース電極部Sを設置する。
【0044】
このドレイン電極部Dとソース電極部Sの上には、素子の表面平坦化用樹脂又はSiNxの絶縁膜4’を被服する。尚、ソース電極部S側には、絶縁層4’にコンタクトホールCHを設置する。
【0045】
前記コンタクトホールCHを設置するためには、フォトリソグラフィを用いる。前記フォトリソグラフィの過程は、次の通りである。まず、電極部Dとソース電極部Sと前記素子の絶縁膜4’が順次に形成された基板上にレジストをコーティングした後、コンタクトホールCH位置のフォトレジストが除去されるようにフォトレジストを露光して現像する。その後、前記フォトレジストをマスクとして絶縁膜4’をエッチングして前記ソース電極部Sの上側一部が露出されるようにコンタクトホールCHを形成する。次に、前記ソース電極部Sの露出された上側一部を含んだ前記基板をプラズマによりアッシングする。前記アッシングは、エッチングの後、表面に残留する有機物を除去するためのものである。この表面に残留する有機物は、工程が進行される間、層間の界面に残ることがあり、接触抵抗の増加の原因となる。そのため、前記アッシングを通して残りの有機物を除去することで、後工程で形成される、ITOのような透明電極と前記ソース電極部Sとの接合部分の接触抵抗を減少させることができる。図2は、アッシングの有無による接触抵抗の測定値を示すグラフとして、1500Wで、酸素流量を400sccmにして、60秒間プラズマアッシングを行った場合と、アッシングを行っていない場合の接触抵抗を測定した結果を示している。図2に示すように、アッシングを行った場合、接触抵抗が大幅に減少したことが確認できる。
【0046】
アッシング後には、残りのフォトレジストを、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を含むアルカリ現像液で剥離する。アッシング後にも前記ソース電極部S上に残っている有機物は、有機洗浄液で追加洗浄する。追加洗浄には、TMAHを含む有機溶媒や商品名PRS2000((株)ドンウファインケム)などの有機溶媒を使用する。このTMAHを含む有機溶媒やPRS2000を用いた洗浄は、Al−Ni系合金がこれらの有機溶媒に対する耐性が弱いことを利用し、その表面を一部エッチングすることによって、表面の不純物層を除去して接触抵抗を改善するために行うものである。図3は、ITO電極を形成する以前に、TMAHを含む有機溶媒、或いはPRS2000を使用して追加洗浄した場合のソース電極部SとITO間の接触抵抗を示すグラフである。図3では、既存の純水(DI)洗浄、純水に0.4%濃度になるように記載したTMAHを含む有機溶媒とPRS2000とを用いて追加洗浄した場合における接触抵抗を測定した結果を示している。図3に示すように、TMAHを含む有機溶媒或いはPRS2000を用いて追加洗浄した場合、純水洗浄の場合よりも接触抵抗が大幅に減少することが確認できる。
【0047】
前記コンタクトホールには、以後、その部分にITOやIZOの透明電極層7’を形成する。
【0048】
このような電極配線回路層2でAl系合金配線材料を用いる場合には、n−Si半導体層7と電極配線層2との間や、コンタクトホールCHで透明電極層7’と電極配線層2との間にキャップ層3を介在させる構造となっている。そして、このような従来から採用されているアクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイの素子構造に、本発明に係るAl−Ni系合金配線材料を用いると、図1で示したキャップ層3を省略して、透明電極層7に電極配線回路層2を直接接合した状態で素子を形成することも可能となる。
【実施例】
【0049】
続いて、本発明に係るAl−Ni系合金配線材料に関し、実施例を参照しながら具体的に説明する。
【0050】
本実施例では、各種組成のAl−Ni−Ce−B合金に関して、その材料特性を評価した。表1〜表7に示す各試料NoにおけるNi、Ce、Bの含有量を変化させたスパッタリングターゲットを形成した。スパッタリングターゲットは、各組成含有量となるように各金属を混合して、真空中で溶解攪拌した後、不活性ガス雰囲気中で鋳造した後、得られたインゴットを圧延、成型加工をし、スパッタに供する表面を平面加工して製造した。
【0051】
そして、各試料Noの組成となったスパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成し、その膜特性、素子特性を評価した。この特性評価は、膜の比抵抗、現像液耐食性、コンタクトホールにおける黒点発生、ITO接合抵抗及び連続通電耐久性、接合抵抗の面内バラツキについて行った。以下に各特性評価の条件について説明する。
【0052】
膜の比抵抗:各組成の膜の比抵抗値は、ガラス基板上にスパッタリングにより単膜(厚み2800Å)を形成し、大気中、320℃、30分間の熱処理を行った後、4端子抵抗測定装置により測定した。スパッタリング条件は、マグネトロン・スパッタリング装置を用い、投入電力3.0W/cm、アルゴンガス流量100sccm、アルゴン圧力0.5Paとした。
【0053】
現像液耐食性:各組成の膜に関する現像液耐食性は、上記膜の比抵抗と同様な条件で単膜(厚み2800Å)を形成し、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドを含むアルカリ現像液(以下、TMAH現像液と略す)を用いて、その単膜のエッチングレートを測定することにより評価を行った。エッチングレートは、濃度2.38%、液温23℃のTMAH現像液により、形成した各単膜を60秒間、エッチング処理をし、エッチングされた厚みを測定して算出した。
【0054】
コンタクトホール黒点発生:このコンタクトホールの黒点発生評価は、以下に説明する手順によりコンタクトホールを形成し、そのコンタクトホール内に露出したAl−Ni系合金配線材料表面を観察することにより行った。
【0055】
コンタクトホールの形成は、まず、ガラス基板上に、各組成のAl−Ni系合金ターゲットを用い、スパッタリング条件、投入電力3.0W/cm、アルゴンガス流量100ccm、アルゴン圧力0.5Paとしてマグネトロン・スパッタリング装置を用い、厚み2800Åのアルミニウム合金層を形成した。そして、アルミニウム合金層表面にレジスト(TFR−970:東京応化工業(株))を被覆し、20μm幅回路形成用パターンフィルムを配置して露光処理をし、濃度2.38%、液温23℃のTMAH現像液で現像処理をした。現像処理後、リン酸系混酸エッチング液(関東化学(株)社製)により回路形成を行い、アミン水系剥離液(40℃:TST−AQ8:東京応化工業(株)製)によりレジストの除去を行って、50μm幅のアルミニウム合金層回路を形成した。
【0056】
そして、50μm幅のアルミニウム合金層回路を形成した基板を、純水洗浄、乾燥処理を行い、その表面にSiNxの絶縁層(厚み4200Å)を形成した。この絶縁層の成膜は、CVD装置(PD−2202L:サムコ(株)製)を用い、投入電力RF250W、アンモニアガス流量10ccm、SiHガス100ccm、窒素ガス流量200ccm、圧力80Pa、基板温度350℃のCVD条件により行った。
【0057】
続いて、絶縁層表面にポジ型レジスト(東京応化工業(株)社製:TFR−970)を被覆し、10μm×10μm角のコンタクトホール開口用パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液により現像処理をした。そして、SFとOとの混合ドライエッチングガスを用いて、コンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成条件は、SFガス流量60ccm、Oガス流量5ccm、圧力4.0Pa、出力100Wとした。
【0058】
そして、コンタクトホールを形成した基板について、そのコンタクトホール内に露出したアルミニウム合金層表面を、金属顕微鏡(倍率7000倍)により、その表面に発生した黒点を観察した。この黒点発生に関する評価は、図4に示すような5段階に分け、レベル1(黒点0個)及びレベル2(黒点10個未満)は合格(OK)、レベル3(黒点10個〜20個未満)、レベル4(20個〜50未満)、レベル5(50個以上)は不合格(NG)とした。尚、この黒点は、走査電子顕微鏡(SEM)で調べたところ、金属間化合物周辺の腐食によるものであった。
【0059】
ITO接合抵抗:ITOと直接接合した際の接合抵抗値は、図5の概略斜視図に示すようにガラス基板上にITO(In−10wt%SnO)電極層(500Å厚、回路幅50μm)を形成し、その上に各組成アルミニウム合金膜層(2800Å厚、回路幅50μm)をクロスするように形成した試験サンプル(ケルビン素子)を用いて評価した。
【0060】
試験サンプルの作製は、まず、ガラス基板上に、各組成のAl−Ni系合金ターゲットを用い、上記スパッタリング条件(マグネトロン・スパッタリング装置、投入電力3.0W/cm、アルゴンガス流量100ccm、アルゴン圧力0.5Pa)にて、厚み2800Åのアルミニウム合金膜を形成した。このスパッタリング時の基板温度は、100℃に設定した。そして、形成したアルミニウム合金膜表面にレジスト(粘度15cp、TFR−970:東京応化工業(株))を被覆し、50μm幅回路形成用パターンフィルムを配置して露光処理をし、濃度2.38%、液温23℃のTMAH現像液で現像処理をした。現像処理後、リン酸系混酸エッチング液(関東化学(株)社製)により回路形成を行い、アミン水系剥離液(40℃:TST−AQ8:東京応化工業(株)製)によりレジストの除去を行って、50μm幅のアルミニウム合金層回路を形成した。
【0061】
そして、10μm幅のアルミニウム合金層回路を形成した基板を、純水洗浄、乾燥処理を行い、その表面にSiNxの絶縁層(厚み4200Å)を形成した。この絶縁層の成膜は、CVD装置(PD−2202L:サムコ(株)製)を用い、投入電力RF250W、アンモニアガス流量10ccm、SiHガス100ccm、窒素ガス流量200ccm、圧力80Pa、基板温度350℃のCVD条件により行った。
【0062】
続いて、絶縁層表面にポジ型レジスト(東京応化工業(株)社製:TFR−970)を被覆し、10μm×10μm角のコンタクトホール開口用パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液により現像処理をした。そして、SFのドライエッチングガスを用いて、コンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成条件は、SFガス流量50sccm、酸素ガス流量5sccm、圧力4.0Pa、出力100Wとした。
【0063】
アミン水系剥離液(40℃:TST−AQ8:東京応化工業(株)製)によりレジストの剥離処理を行った。そして、イソプロピルアルコールを用いて残存剥離液を除去した後、水洗、乾燥処理を行った。このレジストの剥離処理が終了した各サンプルに対し、ITOターゲット(組成In−10wt%SnO)を用いて、コンタクトホール内及びその周囲にITOの透明電極層を形成した。透明電極層の形成は、スパッタリング(基板温度70℃、投入電力1.8W/cm、アルゴンガス流量80sccm、酸素ガス流量0.7sccm、圧力0.37Pa)を行い、厚み1000ÅのITO膜を形成した。
【0064】
このITO膜表面にレジスト(TFR−970:東京応化工業(株)製)を被覆し、パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液で現像処理をし、しゅう酸系混酸エッチング液(ITO07N:関東化学(株))により50μm幅回路の形成を行った。ITO膜回路形成後、アミン水系剥離液(40℃:TST−AQ8:東京応化工業(株)製)によりレジストを除去した。
【0065】
以上のような作製方法により得られた各試験サンプルを、大気雰囲気中、250℃、30分間の熱処理を行った後、図5に示す試験サンプルの矢印部分の端子部から連続通電(3mA)をして抵抗を測定した。
【0066】
連続通電耐久性:この連続通電耐久性評価は、上記ITO接合抵抗評価の試験サンプルにおいて、1000時間の連続通電を行い、素子が破壊されて通電不能となるか否かを確認する方法により行った。この連続通電耐久性(表1〜7では耐通電性と記載している)評価は、同じ組成の8個の試験サンプルについて連続通電を行い、その8個中何個が通電不能になるかを調査することにより行った。
【0067】
接合抵抗面内バラツキ:この接合抵抗面内バラツキに関するサンプルとしては、図6に示すように50mm×50mm基板上に、上記ITO接合抵抗で説明した素子構造(図5)を合計16個形成し、その中から8個の素子(図6中、符号1〜8で示した測定ポイントの素子)を選択して、その接合抵抗値を測定することにより行った。素子の形成方法、接合抵抗値の測定方法については、上記ITO接合抵抗で説明した方法と同じとした。また、この評価においては、Al−2.0at%Ni−0.3at%Ce−0.2at%BとAl−1.5at%Ni−0.005at%Ce−0.005at%Bとの2つの組成に関して、それぞれ2枚の基板を作製して、接合抵抗値を測定した。その結果を表8に示す。
【0068】
上述した各評価方法によって得られた結果を表1〜表7及び表8に示す。表1〜表7に示す各試料Noに記載した組成単位はat%である。また、各表に記載した比抵抗の単位はμΩcm、耐食性の単位はÅ/S、接合抵抗値はΩ/□10μm、耐通電性は個数である。また、コンタクトホール形成時の黒点については、図4で示したレベル値を記載している。そして、接合抵抗面内バラツキの単位は、Ω/□10μmである。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【0077】
表1〜表7には、Ni含有量を0.4at%〜6.0at%、Ce含有量を0.01at%〜1.5at%、B含有量を0at%〜1at%の範囲で、それぞれ変化させた場合の各特性の評価結果を示している。まず、コンタクトホール形成時の黒点腐食の評価について検討すると、Ceを含有させることにより、黒点腐食を抑制できることが判明した。そして、Ce含有量が0.01at%以下であると、黒点腐食が発生する傾向が強くなることが分かった(表1の試料No.1−1、表6の試料No.6−1、表7の試料No.7−1)。また、Ce含有量が1.0at%を超える場合、スパッタリングターゲット中にAl11Ceの共晶の結晶組織が粗大化し、Ceの偏析が生じて均一なスパッタリングが困難となった。
【0078】
次に、耐通電性の評価結果より、Ni及びCeの含有量が少なく、B含有量が0.01at%以下であると、素子を連続通電した場合に、ITOと直接接合させたコンタクト部が時間の経過とともに破壊される傾向を示すことが判明した(表1のすべての試料、表2試料No.2−1、No.2−2)。また、B含有量が1.0at%を超える場合、スパッタリングターゲット中にCeBやAlBが析出し、スプラッシュが発生しやすくなり、正常な成膜が困難となることが判明した。
【0079】
そして、表1〜表7におけるNi含有量に着目すると、Ni含有量が0.5at%以下であると素子を連続通電した場合に、ITOと直接接合させたコンタクト部が時間の経過とともに破壊される傾向を示し、一方、5.0at%を超えるとコンタクトホール形成時の黒点腐食が発生する傾向を示すことが判明した。
【0080】
また、Ni含有量が0.5at%〜2.5at%、Ce含有量0.01at%〜0.5at%、B含有量が0.01at%〜0.5at%の範囲内であると、320℃熱処理後の配線材料自体の比抵抗値が約4.5μΩcm以下となり、コンタクトホール形成時の黒点腐食が相対的に少なく発生した。また、透明電極層との直接接合における接合抵抗値が100Ω/□10μm以下となった。さらに、現像液への耐食性が確保でき、具体的には、現像液によるエッチングレートを24Å/S以下となる。
【0081】
接合抵抗面内バラツキについては、表8に示すように、本発明の組成範囲に含まれるAl−2.0at%Ni−0.3at%Ce−0.2at%Bの場合、基板内の素子の位置に関わらず、バラツキの小さい接合抵抗値を示し、接合抵抗値のバラツキを表すσで5.0〜6.0程度であることが判明した。これに対して、本発明の組成範囲外のAl−1.5at%Ni−0.005at%Ce−0.005at%Bの場合では、基板内の素子の位置により、かなり大きなバラツキの接合抵抗値が測定され、σで19〜24程度になることが判明した。
【0082】
表示デバイスを構成する基板(パネル)において、その一枚の基板面内で接合抵抗値のある程度のバラツキが生じても、通常の素子の駆動周波数が60Hzであれば特に大きな問題は生じないが、2倍の駆動周波数120Hzになった場合には、動作不良を生じ、正常に表示されないことが生じる。そのため、本発明の組成範囲にあるAl−Ni−Ce−B合金配線材料であれば、ITOとの良好な接合状態を実現でき、従来の2倍速の駆動周波数であっても、正常な表示が可能な表示デバイスを製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のAl−Ni系合金配線材料は、現像液への耐食性及びコンタクトホール形成時における耐食性に優れるため、ITOなどの透明電極層との直接接合をする構造を有する素子を安定して製造することが可能となる。そして、大面積のガラス基板においても、そのガラス基板面内に形成された素子の接合抵抗値を均一にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムにニッケルを含有したAl−Ni系合金配線材料において、
セリウムとボロンとを含有し、
ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、式
0.5≦X≦5.0
0.01≦Y≦1.0
0.01≦Z≦1.0
の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とするAl−Ni系合金配線材料。
【請求項2】
配線回路層と、半導体層と、透明電極層とを備え、
前記配線回路層はアルミニウム、ニッケル、セリウム及びボロンを含有し、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムYat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とする場合、ニッケルとセリウム及びボロンが各々、式
0.5≦X≦5.0
0.01≦Y≦1.0
0.01≦Z≦1.0
の各式を満足する領域の範囲内にあり、
前記配線回路層が、透明電極層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイスの素子。
【請求項3】
請求項2に記載の前記配線回路層が、半導体層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイスの素子。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に形成され、ゲート電極部を含む第1電極配線回路層と、
前記ゲート電極部が形成された基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成された半導体層と、
前記半導体層上に形成され、ソース電極部とドレイン電極部を含む第2電極配線回路層と、
前記ソース電極部とドレイン電極部上に形成され、前記ソース電極部側に形成されたコンタクトホールを有する絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成され、前記コンタクトホールを通して前記ソース電極部と連結する透明電極と、を含み、
前記第1及び第2電極配線回路層は
アルミニウム、ニッケル、セリウム及びボロンを含有し、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とする場合、ニッケルとセリウム及びボロンが各々、式
0.5≦X≦5.0
0.01≦Y≦1.0
0.01≦Z≦1.0
の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とする表示デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の前記第2電極配線回路層が前記透明電極層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイス。
【請求項6】
請求項4に記載の前記第2電極配線回路層が前記半導体層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイス。
【請求項7】
請求項4に記載の前記第1及び第2電極配線回路層のうち少なくとも一つの上に形成されたコンタクトバリアー層をさらに含むことを特徴とする表示デバイス。
【請求項8】
ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムの原子百分率Yat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とした場合、ニッケルとセリウム及びボロンが各々、式
0.5≦X≦5.0
0.01≦Y≦1.0
0.01≦Z≦1.0
の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項9】
基板上に配線回路層及び半導体層を含む薄膜トランジスタを形成するステップと、
前記配線回路層が形成された基板上にフォトレジストをコーティングするステップと、
前記所定位置のフォトレジストが除去されるように前記フォトレジストを露光して現像するステップと、
前記フォトレジストをマスクとして絶縁膜をエッチングして前記配線回路層の上側一部が露出されるようにコンタクトホールを形成するステップと、
前記露出された配線回路層を含む基板をアッシングするステップと、
前記フォトレジストをストリップするステップと、
前記フォトレジストがストリップされた基板を有機洗浄液で洗浄するステップと、
前記絶縁膜上に形成され、前記コンタクトホールを通して配線回路層と連結した透明電極を形成するステップ、とを含む表示デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の前記電極配線回路層は
アルミニウム、ニッケル、セリウム及びボロンを含有し、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、セリウム含有量をセリウムYat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Zat%とする場合、ニッケルとセリウム及びボロンが各々、式
0.5≦X≦5.0
0.01≦Y≦1.0
0.01≦Z≦1.0
の各式を満足する領域の範囲内にあることを特徴とする表示デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の前記電極配線回路層はスパッタリングで形成することを特徴とする表示デバイスの製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の前記有機洗浄液は、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を含むことを特徴とする表示デバイス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−236023(P2010−236023A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85484(P2009−85484)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】