薄膜素子用基板の製造方法、薄膜素子の製造方法、薄膜トランジスタの製造方法、薄膜素子、および薄膜トランジスタ
【課題】本発明は、表面平滑性に優れ、薄膜素子の特性劣化を抑制することが可能な薄膜素子用基板が得られる新規な薄膜素子用基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法を提供することにより、上記目的を達成する。
【解決手段】本発明は、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法を提供することにより、上記目的を達成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ、薄膜太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等の薄膜素子に用いられる、金属基材上にポリイミドを含む絶縁層が形成された薄膜素子用基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとして盛んに利用されてきている。
【0003】
ポリイミドは、主にジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、冷凍保存が必要な場合がある等、保存安定性に劣る傾向にある。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入する、もしくは、分子量を小さくするなどにより、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合にはポリイミド前駆体を用いる方式に比べ耐熱性、耐薬品性、線熱膨張係数、吸湿膨張係数などの膜物性などが劣る傾向にある。そのため、目的に応じてポリイミド前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
ポリイミド膜は、溶媒溶解性ポリイミドを用いた場合は、ポリイミド樹脂組成物を基板上に塗布し、熱処理して溶媒を蒸発させることで形成され、ポリイミド前駆体を用いた場合は、ポリイミド樹脂組成物を基板上に塗布し、熱処理して溶媒を蒸発させた後、さらに加熱してイミド化加熱環化させることで形成される。この場合、ポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、基材に対する濡れ性が悪いと、基材上に均一に塗布することが困難になり、製膜後の表面の平坦性に問題が生じるとともに、その影響が顕著になると、ハジキや泡かみが起こり、膜中にピンホールが形成されたりしてしまうといった問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、ポリイミド樹脂組成物にシリコーンオイルからなる界面活性剤を添加することが提案されている(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、界面活性剤が添加されていることにより、膜を形成するときに気泡が発生し難く、気泡による膜の均一性の低下やピンホールの発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−139808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ポリイミドが電子部品の絶縁材料として広く用いられるようになり、種々の性能が要求されるようになってきた。その中でも特に、薄膜トランジスタ(以下、薄膜トランジスタをTFTと称する場合がある。)、薄膜太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。)等の薄膜素子に用いられる、金属基材とポリイミドを含む絶縁層とが積層されている薄膜素子用基板では、絶縁層上に形成される薄膜素子部が薄いため、かつ、金属基材が圧延箔の場合には表面に圧延筋による凹凸が存在し、電解箔の場合にも表面に凹凸が存在するため、凹凸によって薄膜素子の特性が低下するという問題がある。そこで、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することが求められている。
しかしながら、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合、上述のようにポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一な塗布が困難であり、さらにはハジキや泡かみが起こり、金属基材表面には凹凸が存在するため、膜の均一性の低下が顕著となるという問題がある。
【0008】
特許文献1に記載されている界面活性剤が添加されたポリイミド樹脂組成物を用いる手法では、基板表面の凹凸に関係なく表面平滑性に優れる膜を形成することができるとされている。しかしながら、このようなポリイミド樹脂組成物に添加剤を加える方法では、添加剤のポリイミド樹脂組成物との相溶性や、添加剤による膜の耐熱性等の特性の低下など、種々の課題が残されている。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、表面平滑性に優れ、薄膜素子の特性劣化を抑制することが可能な薄膜素子用基板および、そのような薄膜素子用基板が得られる新規な薄膜素子用基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法を提供する。
【0011】
何らの処理も施していない金属基材は、金属基材の製造後から使用までの間に大気中に含まれる有機成分が金属基材表面に付着することがある。また、金属基材には圧延箔や電解箔があるが、圧延箔の場合、圧延箔の製造過程、特に金属の圧延工程にて用いられる圧延油等の有機成分が金属基材表面に付着することがある。このように、多くの有機物成分が金属基材表面に付着しているため、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性が低下している。
【0012】
本発明によれば、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上記有機成分を除去することができ、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる。そのため、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することができ、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することが可能である。したがって、塗膜の均一性が向上し、さらにはピンホールやクレーターが低減され、表面平滑性に優れる絶縁層を形成することができる。金属基材表面に凹凸が存在する場合であっても、金属基材上に絶縁層を形成することで金属基材表面の凹凸を平坦化することができ、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することができる。よって本発明においては、薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能な薄膜素子用基板を得ることができる。さらに本発明によれば、ポリイミド樹脂組成物を用いて絶縁層を形成するので、絶縁性、耐熱性、寸法安定性に優れた絶縁層を形成することが可能となる。また、絶縁層の薄膜化が可能となり絶縁層の熱伝導性が向上し、放熱性に優れる薄膜素子用基板であるとともに、金属基材を有することによってガスバリア性に優れる薄膜素子用基板を得ることが可能である。
【0013】
また、金属基材は、その厚さが薄く、巻き取ることが可能であり、使用量が多量である場合はロール状の金属基材が主に用いられ、また、その厚さが厚く、巻き取ることが困難であったり、使用量が少量であったりする場合はシート状の金属基材が主に用いられている。ここで、何らの処理も施していない金属基材は、金属基材同士もしくは金属基材内において金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきが大きい。特に、金属基材内での上記ポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきは、ロール状の金属基材で顕著となる。これは上述の有機成分の残留程度が金属基材によって相違することが関係するものと考えられる。
そのため、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上記有機成分を除去することにより、金属基材同士もしくは金属基材内での上記ポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を製造することが可能となる。
【0014】
上記発明においては、上記金属基材表面処理工程にて、上記金属基材表面の上記ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことが好ましい。ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角を所定の範囲とし小さくすることで、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性をさらに良くし、塗膜の均一性をさらに高めることができる。また、金属基材同士もしくは金属基材内でのポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を形成することが可能となる。
【0015】
また本発明においては、上記金属基材が鉄を主成分とすることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能である。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0016】
また本発明においては、上記ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有することが好ましい。閉環後のポリイミドは溶媒に溶解しにくいため、ポリイミド前駆体を用いることが好ましいのである。
【0017】
さらに本発明においては、上記金属基材表面処理工程後の上記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましい。検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましい。吸湿膨張係数は吸水性の指標であり、吸湿膨張係数が小さいほど吸水性が小さくなる。したがって、吸湿膨張係数が上記範囲であれば、湿気存在下において高い信頼性を実現することができる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が小さいほど、絶縁層の寸法安定性が向上する。金属基材の吸湿膨張係数はほとんどゼロに近いので、絶縁層の吸湿膨張係数が大きすぎると、絶縁層および金属基材の密着性が低下するおそれがある。
【0019】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましい。絶縁層の線熱膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数を近いものとすることができ、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性を高めることができるからである。
【0020】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数と上記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましい。上述したように、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性が高くなるからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記絶縁層形成工程後に、上記絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する密着層形成工程を有することが好ましい。密着層を形成することで、薄膜素子部との密着性が良好であり、薄膜素子部に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる薄膜素子用基板を得ることができる。
【0022】
上記の場合、上記密着層を構成する上記無機化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの材料を用いることにより、密着性、平滑性、耐熱性、絶縁性などが良好な膜が得られるからである。
【0023】
また上記の場合、上記密着層が多層膜であることが好ましい。この場合、上記密着層が、上記絶縁層上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層と、上記第1密着層上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層とを有することが好ましい。第1密着層により絶縁層と第2密着層との密着性を高めることができ、第2密着層により絶縁層と薄膜素子部との密着性を高めることができる。また、このような構成とすることにより、密着性、平滑性、耐熱性、絶縁性などに優れる密着層とすることができる。
【0024】
また本発明は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とする薄膜素子の製造方法を提供する。
本発明によれば、上述の薄膜素子用基板を用いるので、優れた特性を有する薄膜素子を得ることが可能である。
【0025】
また本発明は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成するTFT形成工程を有することを特徴とするTFTの製造方法を提供する。
【0026】
本発明によれば、上述の薄膜素子用基板を用いるので、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
【0027】
上記発明においては、上記TFTが、酸化物半導体層を有することが好ましい。酸化物半導体は水や酸素の影響によりその電気特性が変化するが、薄膜素子用基板によって水蒸気や酸素の透過を抑制することができるので、半導体の特性劣化を防ぐことができる。
【0028】
また本発明は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子を提供する。
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸による薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能である。
【0029】
上記発明においては、上記金属基材表面の上記絶縁層に用いられるポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下であることが好ましい。ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角を所定の範囲とし小さくすることで、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性をさらに良くし、塗膜の均一性をさらに高めることができる。また、金属基材同士もしくは金属基材内でのポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を形成することが可能となる。
【0030】
また本発明においては、上記金属基材が鉄を主成分とすることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能である。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0031】
さらに本発明においては、上記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましい。検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。
【0032】
また本発明においては、上記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましい。吸湿膨張係数は吸水性の指標であり、吸湿膨張係数が小さいほど吸水性が小さくなる。したがって、吸湿膨張係数が上記範囲であれば、湿気存在下において高い信頼性を実現することができる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が小さいほど、絶縁層の寸法安定性が向上する。金属基材の吸湿膨張係数はほとんどゼロに近いので、絶縁層の吸湿膨張係数が大きすぎると、絶縁層および金属基材の密着性が低下するおそれがある。
【0033】
さらに本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましい。絶縁層の線熱膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数を近いものとすることができ、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性を高めることができるからである。
【0034】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数と上記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましい。上述したように、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性が高くなるからである。
【0035】
さらに本発明は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成されたTFTとを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするTFTを提供する。
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸によるTFTの特性の低下を防ぎ、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明においては、金属基材に薬液処理を施すことにより、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができるので、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することができ、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することができ、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板を得ることが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の薄膜素子用基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の薄膜素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の他の例を示す概略断面図および平面図である。
【図8】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明のTFTの一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明のTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明のTFTの他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の薄膜素子用基板の製造方法、薄膜素子の製造方法、TFTの製造方法、薄膜素子、およびTFTについて詳細に説明する。
【0039】
A.薄膜素子用基板の製造方法
まず、本発明の薄膜素子用基板の製造方法について説明する。
本発明の薄膜素子用基板の製造方法は、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0040】
本発明の薄膜素子用基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように、金属基材2表面を薬液(図示せず)により洗浄する(金属基材表面処理工程)。次に、金属基材2上にポリイミド樹脂組成物13を塗布し(図1(b))、熱処理によりイミド化して絶縁層3を形成する(図1(c))(絶縁層形成工程)。この際、表面粗さRaが30nm以下となる絶縁層が形成される。これにより、薄膜素子用基板1が得られる。
【0041】
本発明によれば、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上述の有機成分を除去することができ、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる。そのため、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することが可能であり、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することが可能である。したがって、塗膜の均一性が向上し、さらにはピンホールやクレーターが低減され、表面平滑性に優れる絶縁層を形成することができる。また、金属基材表面に凹凸が存在する場合であっても、金属基材上に絶縁層を形成することで金属基材表面の凹凸を平坦化することができ、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することができる。よって本発明によれば、薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能となる。
【0042】
図2(a)〜(d)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。図2(a)〜(c)は図1(a)〜(c)と同様である。図2(a)〜(d)に示す薄膜素子用基板の製造方法においては、絶縁層形成工程後、図2(d)に示すように、絶縁層3上に無機化合物を含む密着層4を形成する(密着層形成工程)。これにより、薄膜素子用基板1が得られる。
【0043】
本発明において、絶縁層上に密着層を形成する場合には、薄膜素子部との密着性に優れる薄膜素子用基板を得ることができる。したがって、薄膜素子の製造時に水分や熱が加わって絶縁層の寸法が変化した場合であっても、薄膜素子を構成する部材、例えばTFTを構成する電極や半導体層に、剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0044】
本発明によれば、金属基材によって水分や酸素の透過を低減することができるので、水分や酸素による薄膜素子部の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を保ち、湿度変化による特性の低下を抑制することができる。
さらに、一般に金属基材は熱伝導性に優れるので、放熱性を有する薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、水分の遮断性が高いとともに、熱を速やかに伝導もしくは放射することができる薄膜素子用基板を得ることができる。例えば薄膜素子用基板を有機EL素子に用いる場合、有機EL素子の発光時の発熱による悪影響を抑制することができ、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、金属基材を有することで、強度の高い薄膜素子用基板を得ることができるので、耐久性を向上させることができる。
【0045】
本発明により製造される薄膜素子用基板は、例えば次のように用いられるものである。図3(a)〜図5(b)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの例を示す概略断面図である。
図3(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11と、ソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図3(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成された半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12D上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図4(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13Gを覆うように形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11と、ソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11上に形成された保護膜15とを有している。
図4(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13Gを覆うように形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成された半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12D上に形成された保護膜15とを有している。
図5(a)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成された半導体層11と、半導体層11上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図5(b)に例示するTFT10も、コプレーナ型構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13G上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成された半導体層11と、半導体層11上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11上に形成された保護膜15とを有している。
【0046】
以下、本発明の薄膜素子用基板の製造方法における各工程について説明する。
【0047】
1.金属基材表面処理工程
本発明における金属基材表面処理工程は、金属基材に薬液処理を施す工程である。
【0048】
本発明に用いられる金属基材としては、線熱膨張係数が、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内である。
【0049】
なお、線熱膨張係数は、次のように測定する。まず、金属基材を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。線熱膨張係数は、熱機械分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。測定条件は、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲内の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とする。
【0050】
また、金属基材は耐酸化性を有することが好ましい。薄膜素子部の形成時に高温処理が施される場合があるからである。特に、薄膜素子がTFTであり、TFTが酸化物半導体層を有する場合には、酸素の存在下、高温でアニール処理が行なわれることから、金属基材は耐酸化性を有することが好ましい。
【0051】
金属基材を構成する金属材料としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス鋼(SUS)、銅、銅合金、リン青銅、金、金合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、スズ、スズ合金、チタン、鉄、鉄合金、亜鉛、モリブデン、アルミニウム等が挙げられる。
中でも、金属基材は合金系であることが好ましい。純金属と比較して、組成により多種多様な特性を付与することができるからである。また、合金系の金属基材は、通常、圧延により作製されるものであり、上述したように圧延工程にて使用される圧延油等の有機成分が付着しているため、薬液処理が有用である。
特に、金属基材は鉄を主成分とするものであることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能だからである。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0052】
なお、金属基材が鉄を主成分とするとは、金属基材中の鉄含有量が30質量%以上の場合をいう。
鉄以外に金属基材に含有される金属成分としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、スズ(Sn)等が挙げられる。また、金属基材に含有される非金属成分としては、炭素(C)、珪素(Si)、燐(P)硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、硼素(B)等が挙げられる。
鉄を主成分とする金属基材の具体例としては、炭素鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼。クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼、SUS、インバー、42アロイ、コバール等を挙げることができる。中でも、鉄を主成分とする金属基材はSUSが好ましい。SUSは耐酸化性に優れ、また耐熱性にも優れている上、銅などに比べ線熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れる。また、SUS304については特に入手しやすいという利点があり、SUS430については入手しやすく、線熱膨張係数がSUS304より小さいという利点もある。一方、金属基材および薄膜素子部の線熱膨張係数を考慮すると、線熱膨張係数の観点からは、SUS430よりさらに低線熱膨張係数のインバーが好ましい。ただし、線熱膨張係数のみでなく、耐酸化性、耐熱性、金属基材の展性および延性などに起因する加工性や、コストも考慮に入れて選択するのが望ましい。
【0053】
金属基材の薬液処理の方法としては、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ洗浄、電界脱脂、酸洗等が挙げられる。
アルカリ洗浄とは、アルカリ性の薬液に漬ける、ペースト状のアルカリ洗浄剤を塗る等により、金属基材表面を溶出させて洗う方法である。光沢は出ないが、安価で大型の製品に対応できる。光沢のある部分もつや消し状態になってしまうので、溶接焼けによる黒ずみを取るためなど、外観を問題にしないものであれば、アルカリ洗浄を適用することができる。
電解脱脂は、薬液の中で電気を通す(電解)ことによって、金属基材表面の凸部(ミクロンレベル)を溶出させることで、平滑で光沢のある表面にする方法である。金属基材表面に付いている汚れや不純物を取り除き、皮膜を強化するので、耐食性を向上させることもできる。これは、金属基材表面の鉄が電解で先に溶け出すため、相対的に鉄以外の金属成分(例えばクロム)が濃くなり、不動態皮膜が強固になるためであると考えられる。
酸洗は、強酸性の薬液に漬ける、ペースト状の酸洗剤を塗る等により、金属基材表面を溶出させて洗う方法である。光沢は出ないが、安価で大型の製品に対応できる。光沢のある部分もつや消し状態になってしまうので、溶接焼けによる黒ずみを取るためなど、外観を問題にしないものであれば、酸洗を適用することができる。
【0054】
本発明においては、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が低下するように、薬液処理を施すことが好ましい。具体的には、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことが好ましい。薬液処理後の金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角は30°以下であることが好ましく、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下である。上記接触角が高すぎると、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一な塗布が困難となり、さらにはハジキや泡かみが起こり、塗膜表面が荒れ、絶縁層の平滑性に悪影響を及ぼす可能性があるからである。さらに、ピンホールやクレーターが発生して均一な膜が得られないおそれがあるからである。
【0055】
なお、上記接触角とは、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製DM500型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴1.5μLを滴下して2秒後)して得た値である。
【0056】
また、上記薬液処理後の金属基材表面において、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。検出全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。炭素成分は、金属基材製造時に使用される圧延油等の有機成分や、大気中に含まれる有機成分に由来するものであると考えられ、金属基材表面に炭素成分が多く残留していると、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角や、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性に悪影響を及ぼすものと考えられる。
なお、X線光電子分光分析(XPS)の測定においては、例えばQuantum2000(アルバックファイ社製)を用いて、X線条件をAl mono 200μmφ×30W 15kV、光電子取込角度を45°、帯電中和をIon/Electron 20μAで行うことにより、各元素の測定値を求めることができる。
【0057】
本発明に用いられる金属基材の表面粗さRaは、通常、後述の絶縁層や密着層の表面粗さRaよりも大きいものであり、例えば50nm〜200nm程度である。
なお、上記表面粗さの測定方法については、後述の絶縁層の表面粗さの測定方法と同様である。
【0058】
金属基材の厚みとしては、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択される。金属基材の厚みが薄いほど、可撓性に富んだものとなる。一方、金属基材の厚みが厚いほど、酸素や水蒸気に対するガスバリア性や、面方向への熱拡散に優れたものとなる。具体的に、金属基材の厚みは、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmの範囲内、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内である。金属基材の厚みが薄すぎると、酸素や水蒸気に対するガスバリア性が低下したり、放熱機能を十分に発揮できなかったり、薄膜素子用基板の強度が低下したりするおそれがある。また、金属基材の厚みが厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、コスト高になったりする。
【0059】
金属基材の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、箔状や板状であってもよく、図6に例示するように金属基材2の形状が空気との接触面に凹凸を有する形状であってもよい。
金属基材が空気との接触面に凹凸を有する場合には、熱拡散が良好となり、放熱性を高めることができる。凹凸の形成方法としては、例えば金属基材の表面に直接、エンボス加工、エッチング加工、サンドブラスト加工、フロスト加工、スタンプ加工などの加工を施す方法、フォトレジスト等を用いて凹凸パターンを形成する方法、めっき方法、箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とを貼り合わせる方法が挙げられる。エンボス加工の場合、例えば表面に凹凸を有する圧延ロールを用いてもよい。エッチング加工の場合、金属基材の種類に応じて薬剤が選択される。箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とを貼り合わせる方法の場合、例えば、ロウ付け、溶接、半田等により金属層同士を接合する、あるいは、エポキシ樹脂等の接着剤を介して金属層同士を貼り合わせることができる。この場合、箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とは、同じ金属材料で構成されていてもよく、異なる金属材料で構成されていてもよい。中でも、コスト面から、エンボス加工、エッチング加工が好ましく用いられる。
凹凸の寸法や形状としては、金属基材の空気との接触面における表面積を増やすことができれば特に限定されるものではない。凹凸の幅、高さ、ピッチ等としては、金属基材の種類や薄膜素子用基板の用途等に応じて適宜選択され、例えばシミュレーションにより熱伝導に好適な範囲を求めることができる。
【0060】
金属基材の作製方法としては、一般的な方法を用いることができ、金属材料の種類や金属基材の厚みなどに応じて適宜選択される。金属基材が金属箔である場合、金属箔は圧延箔であってもよく電解箔であってもよいが、ガスバリア性が良好であることから、圧延箔が好ましい。
【0061】
2.絶縁層形成工程
本発明における絶縁層形成工程は、上記金属基材上に上記ポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する工程である。
以下、ポリイミド樹脂組成物、絶縁層の形成方法、および絶縁層について説明する。
【0062】
(1)ポリイミド樹脂組成物
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド成分と溶媒を含有するものである。
以下、ポリイミド樹脂組成物における各成分について説明する。
【0063】
(a)ポリイミド成分
ポリイミド成分としては、ポリイミドおよびポリイミド前駆体のいずれであってもよい。具体的には、下記式(1)で表される構造を有するポリイミド、および下記式(2)、(3)で表される構造を有するポリイミド前駆体が挙げられる。
【0064】
【化1】
【0065】
(式(1)〜(3)中、R1は4価の有機基、R2は2価の有機基、R3は水素原子もしくは1価の有機基であり、繰り返されるR1同士、R2同士、R3同士はそれぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。nは1以上の自然数である。)
【0066】
また、式(3)については、左右非対称であるが、1つのポリマー分子鎖中に左右の向きが異なるものが含まれていてもよい。
【0067】
本発明におけるポリイミド成分としては、上記式(1)、式(2)および式(3)のそれぞれの構造のみを有するポリマーのみ用いてもよく、上記式(1)、式(2)および式(3)のそれぞれの構造のみを有するポリマーを混合して用いてもよく、1つのポリマー分子鎖中に上記式(1)、式(2)および式(3)の構造が混在するものを用いてもよい。
【0068】
上記式(1)〜(3)において、一般に、R1はテトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、R2はジアミン由来の構造である。
【0069】
本発明に用いられるポリイミド成分を製造する方法としては、従来公知の手法を適用することができる。例えば、上記(2)で表される構造を有するポリイミド前駆体の形成方法としては、(i)酸二無水物とジアミンからポリアミック酸を合成する手法や、(ii)酸二無水物に1価のアルコールやアミノ化合物、エポキシ化合物等を反応させ合成したエステル酸やアミド酸モノマーのカルボン酸に、ジアミノ化合物やその誘導体を反応させて形成する手法などが挙げられるがこれに限定されない。
また、上記(3)で表される構造を有するポリイミド前駆体または上記(1)で表されるポリイミドの形成方法としては、上記(2)で表されるポリイミド前駆体を加熱によりイミド化する方法が挙げられる。
【0070】
本発明において上記ポリイミド成分に適用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ピリジンテトラカルボン酸二無水物、スルホニルジフタル酸無水物、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス−(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、9−フェニル−9−(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、12,14−ジフェニル−12,14−ビス(トリフルオロメチル)−12H,14H−5,7−ジオキサペンタセン−2,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物、1,4−ビス(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1−(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0071】
一方、上記ポリイミド成分に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンのような芳香族アミン;1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカンのような脂肪族アミン;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンのような脂環式ジアミンなどが挙げられる。グアナミン類としては、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどを挙げることができ、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0072】
本発明におけるポリイミド樹脂組成物の耐熱性および絶縁性を向上させるためには、上記ポリイミド成分が、芳香族骨格を含むことが好ましい。芳香族骨格を含有するポリイミド成分を加熱硬化することにより得られるポリイミド樹脂は、その剛直で平面性の高い骨格に由来して、耐熱性や薄膜での絶縁性に優れ、低アウトガスであることから、本発明の薄膜素子用基板の絶縁層に好ましく用いられるからである。
また、ポリイミド成分は、酸二無水物由来の部分が芳香族構造を有し、さらにジアミン由来の部分も芳香族構造を含むことが望ましい。それゆえジアミン成分由来の構造も芳香族ジアミンから誘導される構造であることが好ましい。特に、酸二無水物由来の部分およびジアミン由来の部分のすべてが芳香族構造を含む全芳香族ポリイミドもしくは全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。
【0073】
ここで、全芳香族ポリイミド前駆体とは、芳香族酸成分と芳香族アミン成分の共重合、又は、芳香族酸/アミノ成分の重合により得られるポリイミド前駆体及びその誘導体である。また、芳香族酸成分とは、ポリイミド骨格を形成する4つの酸基が全て芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族アミン成分とは、ポリイミド骨格を形成する2つのアミノ基が両方とも芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族酸/アミノ成分とはポリイミド骨格を形成する酸基とアミノ基がいずれも芳香族環上に置換している化合物である。ただし、前述した原料の芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの具体例から明らかなように、全ての酸基又はアミノ基が同じ芳香環上に存在する必要はない。
以上の理由から、ポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミド樹脂に耐熱性及び寸法安定性を求める場合には、芳香族酸成分及び/又は芳香族アミン成分の共重合割合ができるだけ大きいことが好ましい。具体的には、イミド構造の繰り返し単位を構成する酸成分に占める芳香族酸成分の割合が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましく、イミド構造の繰り返し単位を構成するアミン成分に占める芳香族アミン成分の割合が40モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましく、全芳香族ポリイミドもしくは全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。
【0074】
また、上記式(1)、式(3)に含まれるイミド化後の環構造の部分は、上記式(2)、式(3)に含まれるイミド化前のカルボン酸の部分よりも、溶剤への溶解性が低いため、イミド化前の構造を多く含む、溶解性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましい。酸無水物由来のカルボキシル基(もしくはそのエステル)が全体の50%以上あることが望ましく、75%以上であることがさらに好ましく、全て、上記式(2)からなるポリアミック酸(およびその誘導体)であることが好ましい。
また、上記式(2)からなるポリアミック酸(およびその誘導体)については、合成の容易さおよびアルカリ現像液に対する溶解性の高さから、R3が全て水素原子であるポリアミック酸であることが特に好ましい。
【0075】
本発明においては、なかでも、上記式(1)〜(3)で表される構造を有するポリイミド成分におけるR1のうち33モル%以上が、下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂となるというメリットがあるからである。
【0076】
【化2】
【0077】
(式(4)中、aは0または1以上の自然数、Aは単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)、エステル結合のいずれかであり、全てが同じであっても、各々異なっていてもよい。結合基は、芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは3,4位に結合する。)
【0078】
本発明においては、特に、上記(1)〜(3)で表される構造を有するポリイミド成分が上記式(4)で表される構造を含むと、上記ポリイミド樹脂が低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
【0079】
上記のような構造を有するポリイミド成分は、高耐熱性、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂を形成可能である。そのため、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)〜(3)中のR1のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、少なくとも上記式(1)〜(3)中のR1のうち33%以上含有すればよい。中でも、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)〜(3)中のR1のうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0080】
本発明において、ポリイミド樹脂を低吸湿にする酸二無水物の構造としては、下記式(5)で表わされるものが挙げられる。
【0081】
【化3】
【0082】
(式(5)中、aは0または1以上の自然数、Aは単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)、エステル結合のいずれかであり、全てが同じであっても、各々異なっていてもよい。酸無水物骨格(―CO−O−CO−)は、隣接する芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは、3,4位に結合する。)
【0083】
上記式(5)において、Aが単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)である酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などが挙げられる。これらは、吸湿膨張係数を低減させる観点ならびに、ジアミンの選択性を広げる観点から、好ましい。
【0084】
上記式(5)において、Aがエステル結合であるフェニルエステル系の酸二無水物は、ポリイミド樹脂を低吸湿にする観点から、特に好ましい。例えば、下記式で表わされる酸二無水物が挙げられる。具体的には、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物などが挙げられる。これらは、吸湿膨張係数を低減させる観点ならびに、ジアミンの選択性を広げる観点から、特に好ましい。
【0085】
【化4】
【0086】
(式中、aは0または1以上の自然数である。酸無水物骨格(―CO−O−CO−)は、隣接する芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは3,4位に結合する。)
【0087】
上述の吸湿膨張係数が小さいテトラカルボン酸二無水物の場合、後述するジアミンとしては幅広く選択することができる。
【0088】
併用するテトラカルボン酸二無水物として、下記式で表わされるような少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。フッ素が導入されたテトラカルボン酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミド樹脂の吸湿膨張係数が低下する。少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物としては、中でも、フルオロ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基を有することが好ましい。具体的には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。しかしながら、上記ポリイミド成分として含まれるポリイミド前駆体がフッ素を含んだ骨格を有する場合、上記ポリイミド前駆体が、塩基性水溶液に溶解しづらい傾向にあり、上記ポリイミド前駆体の状態で、レジスト等を用いてパターニングを行う際には、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある場合がある。
【0089】
【化5】
【0090】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性、すなわち、低アウトガス化の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いてもよい。
【0091】
また、上記ポリイミド成分においては、上記式(1)〜(3)中のR2のうち33モル%以上が下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0092】
【化6】
【0093】
(R11は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、またはスルホン基であり、R12およびR13は1価の有機基、またはハロゲン原子である。)
【0094】
上記ポリイミド成分が上記式のいずれかの構造を含むと、これら剛直な骨格に由来し、低線熱膨張および低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
上記のような構造を有する場合、上記ポリイミド樹脂の耐熱性が向上し、線熱膨張係数が小さくなる。そのため、上記式(1)〜(3)中のR2のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、上記式(1)〜(3)中のR2のうち少なくとも33%以上含有すればよい。中でも上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のR2のうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0095】
上記ポリイミド樹脂をより低吸湿膨張とする観点からは、ジアミンの構造としては、下記式(6−1)〜(6−3)、(7)で表わされるものが好ましい。
【0096】
【化7】
【0097】
(式(6−2)〜(6−3)中、同一の芳香環に2つアミノ基が結合していてもよい。
式(7)中、aは0または1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位またはパラ位に結合する。また、芳香環上の水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換されていてもよい。)
【0098】
上記式(6−1)〜(6−3)で表されるジアミンとしては、具体的には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
【0099】
上記式(7)で表わされるジアミンとしては、具体的には、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0100】
また、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると、上記ポリイミド樹脂の吸湿膨張係数を低減させることができる。例えば、上記式(7)で表わされるジアミンの中でフッ素が導入された構造としては、下記式で表わされるものが挙げられる。しかしながら、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、基板上に低アウトガス感光性ポリイミド絶縁層を部分的に形成する場合には、上記絶縁層の加工の際に、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0101】
【化8】
【0102】
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物に感光性を付与し、感光性ポリイミド樹脂組成物として用いる際には、感度を高め、マスクパターンを正確に再現するパターン形状を得るために、1μmの膜厚のときに、露光波長に対して少なくとも5%以上の透過率を示すことが好ましく、15%以上の透過率を示すことが更に好ましい。
【0103】
また、一般的な露光光源である高圧水銀灯を用いて露光を行う場合には、少なくとも436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で好ましくは5%以上、更に好ましくは15%、より更に好ましくは50%以上である。
露光波長に対してポリイミド成分の透過率が高いということは、それだけ、光のロスが少ないということであり、高感度の感光性ポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
【0104】
ポリイミド成分として、透過率をあげるためには、酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いることが望ましい。しかし、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、耐熱性が低下し、低アウトガス性を損なう恐れがあるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
本発明においては、透過率をあげるためには酸二無水物としてフッ素が導入された芳香族の酸二無水物を用いることが、耐熱性を維持しつつ(芳香族なので)、吸湿膨張も低減することが可能である点からさらに好ましい。
【0105】
本発明において用いられる少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物としては、上述のフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、なかでも、フルオロ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基を有することが好ましい。具体的には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。
しかしながら、フッ素を含んだ骨格を有するポリイミド前駆体は、塩基性水溶液に溶解しづらい傾向にあり、ポリイミド前駆体の状態で、レジスト等を用いてパターニングを行う際には、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある場合がある。
【0106】
また、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミド樹脂の線熱膨張係数が小さくなるが、透明性の向上を阻害する傾向があるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
【0107】
ポリイミド成分として、透過率をあげるためには、ジアミンとしてフッ素が導入されたジアミンや、脂環骨格を有するジアミンを用いることが望ましい。しかし、脂環骨格を有するジアミンを用いると、耐熱性が低下し、低アウトガス性を損なう恐れがあるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
透過率をあげるためにはジアミンとしてフッ素が導入された芳香族のジアミンを用いることが、耐熱性を維持しつつ(芳香族なので)、吸湿膨張も低減することが可能である点からさらに好ましい。
【0108】
フッ素が導入された芳香族のジアミンとしては、具体的には、上述のフッ素が導入された構造を有するものを挙げることができ、より具体的には、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
しかしながら、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、基板上に低アウトガス感光性ポリイミド絶縁層を部分的に形成する場合には、上記絶縁層の加工の際に、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0109】
また、上記式(1)および(3)に含まれるイミド化後の環構造の部分は、それぞれ、上記式(3)および(2)で示されるポリイミド前駆体に含まれるイミド化前のカルボン酸の部分よりも、透過率が低い傾向にあるため、イミド化前の構造を多く含む、透明性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましい。酸無水物由来のカルボキシル基(もしくはそのエステル)が全体の50%以上あることが望ましく、75%以上であることがさらに好ましく、全て、上記式(2)で示されるポリイミド前駆体、すなわち、ポリアミック酸(およびその誘導体)であることが好ましい。
また、アルカリ現像液を用いて現像する際には、上記式(2)および(3)に含まれるイミド化前のカルボン酸部分の残存量によりアルカリ現像液に対する溶解性を変えることができる。現像速度を速める観点からは、イミド化前の構造を多く含む、溶解性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましく、上記式(2)および(3)におけるR3が全て水素原子であるポリアミック酸であることが好ましい。しかしながら、現像速度が速すぎて、パターン残存部の溶解性が高すぎる場合には、イミド化が進行したものを用いるもしくは、上記式(2)および(3)におけるR3に1価の有機基を導入して溶解速度を下げることができる。
【0110】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、基板との密着性を改善したり、上記ポリイミド樹脂の弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させたりすることができる。
【0111】
本発明に用いられるポリイミド成分の重量平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミド樹脂などの高分子とした際の膜の強度も低くなる。一方、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値のことをいい、ポリイミド前駆体そのものの分子量でも良いし、無水酢酸等で化学的イミド化処理を行った後のものでも良い。
【0112】
本発明に用いられるポリイミド成分の含有量としては、得られるパターンの膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、上記ポリイミド樹脂組成物の固形分全体に対し、50重量%以上であることが好ましく、なかでも、70重量%以上であることが好ましい。
なお、ポリイミド樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0113】
(b)溶媒
ポリイミド前駆体またはポリイミドを溶解、分散または希釈する溶媒としては、各種の汎用溶媒を用いることができる。また、ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有する場合には、ポリアミック酸の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、そこに必要に応じて他の成分を混合してもよい。
【0114】
使用可能な汎用溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、および、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
【0115】
中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホアミド、N−アセチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等の極性溶媒が好適なものとして挙げられる。
【0116】
また、後述するように絶縁層形成工程前に脱気工程を行う場合であって、真空下でポリイミド樹脂組成物を脱気する場合には、溶媒の常温での蒸気圧は、25,000Pa以下であることが好ましく、中でも10,000Pa〜1Paの範囲内、特に1,000Pa〜10Paの範囲内であることが好ましい。溶媒の蒸気圧が高いと、脱気の際に溶媒が蒸発してポリイミド樹脂組成物の濃度や粘度が変化するおそれがあるからである。また、溶媒の蒸気圧が低すぎると、ポリイミド樹脂組成物の乾燥時に溶媒が除去され難いからである。
【0117】
(c)その他の成分
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物は、少なくともポリイミド前駆体もしくはポリイミドおよび溶媒を含有していればよい。
ポリイミド樹脂組成物は、感光性ポリイミド樹脂組成物であってもよい。感光性ポリイミド樹脂組成物は、公知の手法を用いて得ることができる。例えば、ポリアミック酸のカルボキシル基にエステル結合やイオン結合でエチレン性二重結合を導入し、得られるポリイミド前駆体に光ラジカル開始剤を混合し、溶剤現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とすることができる。また例えば、ポリアミック酸やその部分エステル化物にナフトキノンジアジド化合物を添加し、アルカリ現像ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物とする、あるいは、ポリアミック酸にニフェジピン系化合物を添加しアルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とするなど、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加し、アルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とすることができる。
【0118】
これらの感光性ポリイミド樹脂組成物には、ポリイミド成分の重量に対して15%〜35%の感光性付与成分が添加されている。そのため、パターン形成後に300℃〜400℃で加熱したとしても、感光性付与成分由来の残渣がポリイミド中に残存する。これらの残存物が線熱膨張係数や吸湿膨張係数を大きくする原因となることから、感光性ポリイミド樹脂組成物を用いると、非感光性のポリイミド樹脂組成物を用いた場合に比べて、素子の信頼性が低下する傾向にある。しかしながら、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加した感光性ポリイミド樹脂組成物は、添加剤である光塩基発生剤の添加量を15%以下にしてもパターン形成可能であることから、ポリイミドとした後も添加剤由来の分解残渣が少なく、線熱膨張係数や吸湿膨張係数などの特性の劣化が少なく、さらにアウトガスも少ないため、本発明に適用可能な感光性ポリイミド樹脂組成物としては最も好ましい。
【0119】
ポリイミド樹脂組成物は、塩基性水溶液によって現像可能であることが、金属基材上に絶縁層を部分的に形成する際に、作業環境の安全性確保およびプロセスコストの低減の観点から好ましい。塩基性水溶液は、安価に入手でき、廃液処理費用や作業安全性確保のための設備費用が安価であるため、より低コストでの生産が可能となる。
【0120】
ポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0121】
(2)絶縁層の形成方法
本発明においては、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する。
【0122】
金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する方法としては、平滑性の良好な絶縁層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
ポリイミド樹脂組成物の塗布後は、ポリイミド前駆体のガラス転移温度以上に加熱することで、膜の流動性を高め、平滑性を良くすることもできる。
【0123】
ポリイミド樹脂組成物の塗布後は、熱処理により溶媒を除去する。この際、ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有する場合には、熱処理によりポリイミド前駆体のイミド化も行う。
ポリイミド前駆体をイミド化する際、熱処理の好ましい温度範囲は、通常200℃〜400℃程度である。熱処理温度が200℃より低いと、イミド化の進行が完全に進まず、物性面で不十分となる。一方、熱処理温度が高温になると、最終硬化膜の物性は向上する傾向にあるが、400℃超の高温となると、他の構成部材に悪影響を与えるおそれがあるので、他の構成部材の耐熱性を考慮に入れた上で、イミド化温度を決定することが望ましい。また、熱処理前に、熱処理温度より低温の50℃〜200℃で事前加熱を行ってもよい。熱処理としては、具体的には、250℃〜350℃で、10分〜120分加熱を行うことができる。
この熱処理は、公知の方法であればいずれの方法でもよく、具体的に例示すると、空気又は窒素雰囲気下の循環オーブン、ホットプレートによる加熱などが挙げられる。
【0124】
また、絶縁層を金属基材上に部分的に形成する場合、その形成方法としては、印刷法、フォトリソグラフィー法、レーザー等で直接加工する方法を用いることができる。フォトリソグラフィー法としては、例えば、ポリイミド樹脂組成物の塗布後、塗膜上にレジスト層を形成し、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成し、その後、そのパターンをマスクとして、パターン開口部の塗膜を除去した後、レジストパターンを除去し、ポリアミック酸をイミド化する方法;上記レジストパターンの形成時に同時に塗膜も現像し、その後、レジストパターンを除去し、ポリアミック酸をイミド化する方法;絶縁層の形成後、絶縁層上にレジストパターンを形成し、そのパターンに沿って絶縁層をウェットエッチング法またはドライエッチング法によりエッチングした後、レジストパターンを除去する方法;金属基材と絶縁層と金属基材とが積層された積層体を準備し、その積層体の一方の金属基材をパターニングし、そのパターンをマスクとして絶縁層をエッチングした後、金属パターンを除去する方法;感光性ポリイミド樹脂組成物を用いて、金属基材上に直接、絶縁層のパターンを形成する方法が挙げられる。印刷法としては、グラビア印刷やフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法など公知の印刷技術を用いた方法を例示することができる。
【0125】
(3)絶縁層
絶縁層の表面粗さRaは、50μm×50μmのエリアで測定した際に、30nm以下であり、好ましくは100μm×100μmのエリアで測定した際に、30nm以下である。
なお、上記表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)もしくは走査型白色干渉計を用いて測定した値である。例えば、50μm×50μmのエリアで測定する場合には、AFMまたは走査型白色干渉計を用いてRaを算出することができる。また、100μm×100μmのエリアで測定した際に、30nm以下である。絶縁層が上記の平滑性を有することによのエリアで測定する場合には、走査型白色干渉計を用いてRaを算出することができる。具体的に、AFMを用いて測定する場合は、Nanoscope V multimode(Veeco社製)を用いて、タッピングモードで、カンチレバー:MPP11100、走査範囲:50μm×50μm、走査速度:0.5Hzにて、表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。また、走査型白色干渉計を用いて測定する場合は、New View 5000(Zygo社製)を用いて、対物レンズ:100倍、ズームレンズ:2倍、Scan Length:15μmにて、50μm×50μmの範囲の表面形状を撮像する、あるいは、対物レンズ:100倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、100μm×100μmの範囲の表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。
【0126】
絶縁層はポリイミドを含むものである。一般にポリイミドは吸水性を有する。TFT、薄膜太陽電池、EL素子等に用いられる半導体材料には水分に弱いものが多いことから、素子内部の水分を低減し、湿気存在下において高い信頼性を実現するために、絶縁層は吸水性が比較的小さいことが好ましい。吸水性の指標の一つとして、吸湿膨張係数がある。したがって、絶縁層の吸湿膨張係数は小さければ小さいほど好ましく、具体的には0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/%RH〜12ppm/%RHの範囲内、さらに好ましくは0ppm/%RH〜10ppm/%RHの範囲内である。吸湿膨張係数が小さいほど、吸水性が小さくなる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層の吸水性を十分小さくすることができ、薄膜素子用基板の保管が容易であり、薄膜素子の製造工程が簡便になる。さらに、吸湿膨張係数が小さいほど、寸法安定性が向上する。絶縁層の吸湿膨張係数が大きいと、吸湿膨張係数がほとんどゼロに近い金属基材との膨張率の差によって、湿度の上昇とともに薄膜素子用基板が反ったり、絶縁層および金属基材の密着性が低下したりする場合がある。したがって、薄膜素子の製造過程においてウェットプロセスが行われる場合にも、吸湿膨張係数が小さいことが好ましい。
【0127】
なお、吸湿膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、耐熱フィルム(ユーピレックス S 50S(宇部興産(株)製))やガラス基板上に絶縁層フィルムを作製した後、絶縁層フィルムを剥離する方法や金属基板上に絶縁層フィルムを作製した後、金属をエッチングで除去し絶縁層フィルムを得る方法などがある。次いで、得られた絶縁層フィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。吸湿膨張係数は、湿度可変機械的分析装置(Thermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。例えば、温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持する。その後、湿度を50%RHに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値をサンプル長で割った値を吸湿膨張係数(C.H.E.)とする。測定の際、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重は1g/25000μm2とする。
【0128】
また、絶縁層の線熱膨張係数は、寸法安定性の観点から、金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm/℃以下、さらに好ましくは5ppm/℃以下である。絶縁層と金属基材との線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りが抑制されるとともに、薄膜素子用基板の熱環境が変化した際に、絶縁層と金属基材との界面の応力が小さくなり密着性が向上する。また、薄膜素子用基板は、取り扱い上、0℃〜100℃の範囲の温度環境下では反らないことが好ましいのであるが、絶縁層の線熱膨張係数が大きいために絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が大きく異なると、薄膜素子用基板が熱環境の変化により反ってしまう。
なお、薄膜素子用基板に反りが発生していないとは、薄膜素子用基板を幅10mm、長さ50mmの短冊状に切り出し、得られたサンプルの一方の短辺を水平で平滑な台上に固定した際に、サンプルのもう一方の短辺の台表面からの浮上距離が1.0mm以下であることをいう。
【0129】
具体的に、絶縁層の線熱膨張係数は、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内、最も好ましくは0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内である。
【0130】
なお、線熱膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、上述したとおりである。次いで、得られた絶縁層を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。線熱膨張係数は、熱機械分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。測定条件は、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲内の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とする。
【0131】
絶縁層は絶縁性を備えるものである。具体的に、絶縁層の体積抵抗は、1.0×109Ω・m以上であることが好ましく、1.0×1010Ω・m以上であることがより好ましく、1.0×1011Ω・m以上であることがさらに好ましい。
なお、体積抵抗は、JIS K6911、JIS C2318、ASTM D257 などの規格に準拠する手法で測定することが可能である。
【0132】
絶縁層の吸湿膨張係数や線熱膨張係数は、例えばポリイミド成分の構造を適宜選択することで、制御することが可能である。
一般に金属基材の線熱膨張係数、すなわち金属の線熱膨張係数はある程度定まっているため、使用する金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド成分の構造を適宜選択することが好ましい。また、薄膜素子部の線熱膨張係数に応じて金属基材の線熱膨張係数を決定し、その金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド成分の構造を適宜選択することが好ましい。
【0133】
絶縁層は、金属基材上に全面に形成されていてもよく、金属基材上に部分的に形成されていてもよい。すなわち、金属基材の絶縁層および密着層が形成されている面に、絶縁層および密着層が存在せず、金属基材が露出している金属基材露出領域が設けられていてもよい。このような金属基材露出領域を有する場合には、薄膜素子用基板を用いて有機EL素子を作製する際に、封止部材と金属基材とを直に密着させることが可能となり、有機EL素子への水分の浸入をより強固に防ぐことが可能となる。また、封止部を金属基材露出領域に選択的に形成することで、有機EL素子を面内で区分けしたり、多面付けした状態で封止したりすることが可能となり、高い生産性で素子を製造できるといった利点を有する。また、金属基材露出領域は、絶縁層および密着層を貫通し金属基材に電気的に導通をとるための貫通孔にもなり得る。
【0134】
絶縁層が金属基材上に部分的に形成されている場合、図7(a)、(b)に例示するように、絶縁層3は、少なくとも金属基材2の外縁部を除いて形成されていてもよい。なお、図7(a)は図7(b)のA−A線断面図であり、図7(b)において密着層は省略されている。薄膜素子用基板を用いて有機EL素子等を作製した場合に、金属基材の全面に絶縁層が形成されており絶縁層の端部が露出していると、一般にポリイミドは吸湿性を示すため、製造時や駆動時に絶縁層の端面から素子内部に水分が浸入するおそれがある。この水分によって、素子性能が劣化したり、絶縁層の寸法が変化したりする。そのため、金属基材の外縁部には絶縁層が形成されておらず、直接外気にポリイミドを含有する絶縁層が曝される部分をできる限り少なくすることが好ましい。
【0135】
なお、本発明において、絶縁層が金属基材上に部分的に形成されているとは、絶縁層が金属基材の全面に形成されていないことを意味する。
絶縁層は、金属基材の外縁部を除いて金属基材上に一面に形成されていてもよく、金属基材の外縁部を除いて金属基材上にさらにパターン状に形成されていてもよい。
【0136】
絶縁層の厚みは、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されないが、具体的には、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmの範囲内、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内である。絶縁層の厚みが薄すぎると、絶縁性が維持できなかったり、金属基材表面の凹凸を平坦化することが困難であったりするからである。また、絶縁層の厚みが厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、製膜時の乾燥が困難になったり、材料使用量が増えるためにコストが高くなったりするからである。さらには、本発明により製造される薄膜素子用基板に放熱機能を付与する場合には、絶縁層の厚みが厚いとポリイミドは金属よりも熱伝導率が低いために熱伝導性が低下する。
【0137】
3.密着層形成工程
本発明における密着層形成工程は、絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する工程である。密着層は、絶縁層と薄膜素子部との間で十分な密着力を得るために設けられる層である。
【0138】
密着層の形成に用いられる無機化合物としては、後述する特性を満たす密着層を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロム、酸化チタンを挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0139】
密着層は、単層であってもよく多層であってもよい。
多層膜の密着層を形成する場合、上述の無機化合物からなる層を複数層積層してもよく、上述の無機化合物からなる層と金属からなる層とを積層してもよい。この場合に用いられる金属としては、後述の特性を満たす密着層を形成することができれば特に限定されるものではなく、例えば、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素を挙げることができる。
また、多層膜の密着層を形成する場合、密着層の最表層は酸化ケイ素膜であることが好ましい。すなわち、酸化ケイ素膜上に薄膜素子部を形成することが好ましい。酸化ケイ素膜は後述の特性を十分に満たすからである。この場合の酸化ケイ素はSiOx(Xは1.5〜2.0の範囲内)であることが好ましい。
【0140】
中でも、密着層4は、図8に例示するように、絶縁層3上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層4aと、第1密着層4a上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層4bとを有することが好ましい。第1密着層により絶縁層と第2密着層との密着性を高めることができ、第2密着層により絶縁層と薄膜素子部との密着性を高めることができるからである。また、酸化ケイ素からなる第2密着層は後述の特性を十分に満たすからである。
【0141】
密着層の形成方法としては、上述の無機化合物からなる層や上述の金属からなる層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、DC(直流)スパッタリング法、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD(化学気相蒸着)法等を挙げることができる。中でも、上述の無機化合物からなる層を形成する場合であって、アルミニウムやケイ素を含む層を形成する場合には、反応性スパッタリング法を用いることが好ましい。絶縁層との密着性に優れる膜が得られるからである。
【0142】
密着層は平滑性を有することが好ましい。密着層の表面粗さRaは、金属基材の表面粗さRaよりも小さければよく、具体的に、25nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。密着層の表面粗さRaが大きすぎると、本発明により製造される薄膜素子用基板上に薄膜素子部を作製した際に、薄膜素子の特性が劣化するおそれがあるからである。
なお、上記表面粗さの測定方法については、上記絶縁層の表面粗さの測定方法と同様である。
【0143】
また、密着層は耐熱性を有することが好ましい。薄膜素子部の形成時に、高温処理が施される場合があるからである。密着層の耐熱性としては、密着層の5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましい。
なお、5%重量減少温度の測定については、熱分析装置(DTG−60((株)島津製作所製))を用いて、雰囲気:窒素雰囲気、温度範囲:30℃〜600℃、昇温速度:10℃/minにて、熱重量・示差熱(TG−DTA)測定を行い、試料の重量が5%減る温度を5%重量減少温度(℃)とした。
【0144】
密着層は、通常、絶縁性を有する。薄膜素子用基板には絶縁性が求められるからである。
【0145】
また、薄膜素子がTFTである場合、密着層は、絶縁層に含まれる不純物イオンなどがTFTの半導体層に拡散するのを防ぐものであることが好ましい。具体的に、密着層のイオン透過性としては、鉄(Fe)イオン濃度が0.1ppm以下であることが好ましく、あるいはナトリウム(Na)イオン濃度が50ppb以下であることが好ましい。なお、Feイオン、Naイオンの濃度の測定方法としては、密着層上に形成された層をサンプリングして抽出した後、イオンクロマトグラフィー法により分析する方法が用いられる。
【0146】
密着層の厚みは、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されないが、具体的には、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。中でも、密着層が上述したように第1密着層および第2密着層を有する場合、第2密着層の厚みは第1密着層よりも厚く、第1密着層は比較的薄く、第2密着層は比較的厚いことが好ましい。この場合、第1密着層の厚みは、0.1nm〜50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは1nm〜10nmの範囲内である。また、第2密着層の厚みは、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは50nm〜300nmの範囲内、さらに好ましくは80nm〜120nmの範囲内である。厚みが薄すぎると、十分な密着性が得られないおそれがあり、厚みが厚すぎると、密着層にクラックが生じるおそれがあるからである。
【0147】
密着層は、金属基材上に全面に形成してもよく、金属基材上に部分的に形成してもよい。中でも、絶縁層を金属基材上に部分的に形成する場合には、図7(a)に例示するように、密着層4も絶縁層3と同様に金属基材2上に部分的に形成することが好ましい。金属基材上に直に無機化合物を含む密着層を形成すると、密着層にクラックなどが生じる場合があるからである。すなわち、密着層および絶縁層は同様の形状であることが好ましい。
【0148】
4.脱気工程
本発明においては、上記絶縁層形成工程前に、下記方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する脱気工程を行うことが好ましい。
<相対溶存酸素飽和率の算出方法>
まず、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒を用いて、全く酸素が溶存していない上記溶媒の溶存酸素量の測定値が0、上記溶存酸素飽和溶媒の溶存酸素量の測定値が100となるように、溶存酸素量計の校正を行う。次に、校正された上記溶存酸素量計により、ポリイミド樹脂組成物を大気下で1時間以上静置した基準ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値と、ポリイミド樹脂組成物を脱気した脱気ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値とを測定する。そして、上記基準ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値を100%としたときの、上記脱気ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値を、相対溶存酸素飽和率とする。
【0149】
ここで、液体中の泡は、気体がガス状のままで液体中に混合している状態である。この泡は、外部から混入するだけでなく、液体から発生することが非常に多く見られる。一方、溶存気体とは、液体中に溶解している気体を意味し、これは泡のように目で見ることはできない。本工程においては、この液体中の「溶存気体」を除去する。
気体の液体に対する溶解量は、液体の種類、温度や圧力、さらには接液材質によって変化し、飽和量以上の溶存気体は泡となって出現する。つまり、泡のない状態の液体であっても、温度や圧力等が変化すると泡を発生することになる。一方で、液体中に泡が存在しても、所定の温度や圧力等である場合、または気体の溶解量が飽和値に満たない場合、泡は液体中に溶解してなくなってしまう。すなわち、単に泡を除去するだけでは不十分であり、溶存気体を除去することが重要である。
【0150】
したがって、ポリイミド樹脂組成物が大気と充分な時間接していて、ポリイミド樹脂組成物に空気が定常的に溶解した状態においては、少しの圧力や温度の変化で飽和量以上の溶存気体が泡として発生してしまうことが予想される。しかしながら、空気が定常的に溶解した状態のポリイミド樹脂組成物の溶存気体量を100%としたとき、ポリイミド樹脂組成物の溶存気体量が95%程度である場合には、圧力や温度の変化によってもすぐには溶存気体の飽和量を超えることがないため、泡の発生を抑制することが可能になる。
【0151】
溶存気体について、ポリイミド樹脂組成物が大気に接している状況下では、ポリイミド樹脂組成物中に溶解している気体の大部分は窒素または酸素となる(大気中の存在量が酸素の次に多いアルゴンでも酸素の1/20以下であるため)。窒素は不活性ガスのため測定が困難であるが、酸素は測定可能である。また、多くの溶媒に関して同一温度・同一圧力下での溶媒に対する酸素と窒素の溶解度の比は1.4〜2.0であり(酸素の方が溶解しやすい)、大気中では窒素の分圧は酸素の分圧より3.7倍程度高いので、ヘンリーの法則から、大気に接している状態では、窒素が酸素の1.9〜2.7倍程度溶解していると考えられる。この比は、圧力が高くない状態では、溶媒の種類が同じであれば一定であり、溶媒の種類が変わっても変動幅は1.9〜2.7倍程度とさほど大きくないので、溶存酸素量を求めることにより、窒素および酸素を合せた溶存気体の量を見積ることが可能である。
【0152】
溶存酸素量は、水以外の溶媒中では絶対値を測定することが困難である。そこで、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒の溶存酸素量を基準として、相対値(相対溶存酸素飽和率)で評価する。
【0153】
ポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合、ポリイミド樹脂組成物を塗布して乾燥する際に塗膜の表面にスキン層が生成し、溶媒や水が蒸発し難くなったり、気体が脱離し難くなったりするおそれがある。そのため、ポリイミド樹脂組成物中に気泡が含まれていたり、ポリイミド樹脂組成物中に気体が溶存していたりすると、気泡を内包する絶縁層が形成されてしまう。
薄膜素子用基板では、薄膜素子部が薄いため、薄膜素子部に影響を及ぼすようなナノメートルオーダーの気泡を低減することが好ましい。特に、TFTではチャネル形成領域に影響を及ぼすようなナノメートルオーダーの気泡を低減することが好ましい。ナノメートルオーダーの気泡は、マイクロメートルオーダーの気泡とは異なり、大気との界面から混入するのみではなく、ポリイミド樹脂組成物中に溶存している気体から発生することが多い。
【0154】
本発明において、絶縁層を形成する前に、所定の方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する場合には、絶縁層においてマイクロメートルオーダーの気泡だけでなくナノメートルオーダーの気泡も低減することができる。これにより、絶縁層の表面平滑性をさらに高めることが可能である。
【0155】
ポリイミド樹脂組成物を脱気する方法としては、所定の方法で算出した相対溶存酸素飽和率を95%以下とすることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、真空脱気、超音波脱気、多孔質膜を用いた脱気、非多孔質膜を用いた脱気などが挙げられる。真空脱気は、ポリイミド樹脂組成物を減圧して溶存気体の溶解度を下げる方法である。超音波脱気は、ポリイミド樹脂組成物に超音波振動を与えて分子振動で溶存気体を追い出す方法である。多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気は、膜への気体透過とポリイミド樹脂組成物中の気体の濃度差、圧力差を応用してポリイミド樹脂組成物中の溶存気体を除去する方法である。これらの脱気方法は、単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。中でも、真空脱気、真空脱気および超音波脱気の併用、インラインでの多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気が好ましい。
【0156】
真空脱気の際の圧力としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、ポリイミド樹脂組成物に用いる溶媒の蒸気圧に応じて適宜設定することが好ましい。中でも、真空脱気の際の圧力は、ポリイミド組成物に用いる溶媒の蒸気圧の1.1倍以上であることが好ましい。具体的に、真空脱気の際の圧力は、50,000Pa〜1Paの範囲内であることが好ましく、中でも10,000Pa〜1Paの範囲内、特に1,000Pa〜1Paの範囲内であることが好ましい。圧力が高いと脱気の効果が得られにくく、圧力が低いと溶媒が揮発してポリイミド樹脂組成物の濃度や粘度が変わり絶縁層の形成に悪影響を及ぼすからである。
また、真空脱気の際の時間としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、例えば1分〜60分程度とすることができる。
【0157】
超音波脱気の際の超音波の周波数としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではないが、15kHz〜400kHz程度であることが好ましい。
【0158】
超音波脱気の際の温度としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではないが、0℃〜100℃の範囲内であることが好ましく、中でも0℃〜80℃の範囲内、特に0℃〜50℃の範囲内が好ましい。温度が低いとポリイミド樹脂組成物の粘度が高い場合には脱気効率が低下し、温度が高いとポリイミド樹脂組成物の保存安定性等の特性が変化するおそれがあるからである。
また、超音波脱気の際の時間としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、例えば1分〜60分程度とすることができる。
【0159】
多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気には、例えば、ERC社製の脱気装置を用いることができる。
【0160】
本発明において、脱気工程は上記絶縁層形成工程の直前に行うことが好ましい。ここで、絶縁層に気泡が内包される理由としては、上述したようなポリイミド樹脂組成物に含まれる気泡やポリイミド樹脂組成物中に溶存する気体、さらにはポリイミド樹脂組成物に含まれる水が関係するものと考えられる。脱気後のポリイミド樹脂組成物を任意の時間で放置すると、ポリイミド樹脂組成物中で気泡が発生したり、ポリイミド樹脂組成物中に気体が溶解したり、ポリイミド樹脂組成物が吸湿したりするおそれがある。したがって、絶縁層に内包される気泡を効果的に低減するには、絶縁層形成工程の直前に脱気工程を行うことが好ましいのである。
【0161】
なお、「直前」とは、ポリイミド樹脂組成物を脱気した後、ポリイミド樹脂組成物を塗布するまでの時間が60分以下である場合をいう。上記時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下である。
【0162】
本工程においては、上記方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する。
上記の溶存酸素量の測定に用いられる溶存酸素量計としては、例えば「B−506」(飯島電子工業株式会社製)などの酸素センサーを用いることができる。
上記相対溶存酸素飽和率は、95%以下であり、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0163】
5.その他の工程
本発明においては、上記絶縁層形成工程後に、金属基材をパターニングする金属基材パターニング工程を行ってもよい。これにより、金属基材が部分的に形成された薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、金属基材は、絶縁層に対して全面に形成されていてもよく、絶縁層に対して部分的に形成されていてもよい。さらに言い換えると、金属基材は、薄膜素子用基板の全面に形成されていてもよく、薄膜素子用基板に部分的に形成されていてもよい。金属基材が薄膜素子用基板の全面に形成されている場合には、酸素や水蒸気に対するガスバリア性を付与することができ、また放熱性を高めることができる。一方、金属基材が部分的に形成されている場合には、不必要な金属基材部分を除去することにより、軽量化を図ることができる。
【0164】
金属基材のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法、レーザー等で直接加工する方法を用いることができる。フォトリソグラフィー法としては、例えば、金属基材および絶縁層の積層体の状態で、金属基材上にドライフィルムレジストをラミネートし、ドライフィルムレジストをパターニングし、そのパターンに沿って金属基材をエッチングした後、ドライフィルムレジストを除去する方法が挙げられる。
【0165】
B.薄膜素子の製造方法
次に、本発明の薄膜素子の製造方法について説明する。
本発明の薄膜素子の製造方法は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とするものである。
【0166】
本発明においては、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板上に薄膜素子部を形成するので、特性に優れる薄膜素子を得ることができる。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、例えば薄膜素子部として有機EL素子を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、薄膜素子用基板において絶縁層上に密着層が形成されている場合には、薄膜素子用基板上に密着性良く薄膜素子部を形成することができ、薄膜素子の製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、薄膜素子部を構成する部材に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0167】
なお、「薄膜素子」とは、膜厚150nm以下の機能層を有する電子素子をいう。すなわち、「薄膜素子部」とは、膜厚150nm以下の機能層を有する電子素子部をいう。機能層の膜厚は100nm以下であることが好ましい。
機能層としては、絶縁層、電極層、半導体層、誘電体層、密着層、シード層などが挙げられる。その中でも、機能層は、絶縁層、電極層、半導体層、誘電体層であることが好ましい。これらの層は、ナノメートルオーダーの凸凹により、断線、ショート、欠陥等、素子の動作に対して重大な影響を与える不具合が生じることになるため、平坦性が高いことが特に好ましいからである。
機能層は、薄膜素子用基板上に直に形成されていてもよく、薄膜素子用基板上に中間層を介して形成されていてもよい。中間層は、薄膜素子用基板の表面粗さを著しく変化させるものでなければ特に限定されるものではない。
【0168】
なお、薄膜素子用基板については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。以下、本発明の薄膜素子の製造方法における薄膜素子部形成工程について説明する。
【0169】
本発明における薄膜素子部形成工程は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する工程である。
【0170】
薄膜素子部としては、上記機能層を有する電子素子部であれば特に限定されるものではなく、例えば、TFT、薄膜太陽電池、EL素子、RFID(Radio Frequency IDentification:ICタグ)、メモリー等が挙げられる。
なお、TFTについては後述の「C.TFTの製造方法」の項に記載するのでここでの説明は省略する。
薄膜太陽電池としては、CIGS(Cu(銅),In(インジウム),Ga(ガリウム),Se(セレン))太陽電池、有機薄膜太陽電池等が挙げられる。
EL素子としては、有機EL素子および無機EL素子のいずれであってもよい。
薄膜素子部の形成方法としては、薄膜素子部の種類に応じて適宜選択され、一般的な方法を採用することができる。
【0171】
C.TFTの製造方法
次に、本発明のTFTの製造方法について説明する。
本発明のTFTの製造方法は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成するTFT形成工程を有することを特徴とするものである。
【0172】
図3(a)〜図5(b)は、本発明のTFTの製造方法により製造されるTFTの例を示す概略断面図である。図3(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図3(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図4(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図4(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図5(a)、(b)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えている。なお、図3(a)〜図5(b)に示すTFTの各構成については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0173】
本発明においては、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板上にTFTを形成するので、電気的性能の良好なTFTを得ることができる。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合には水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、またTFTを用いて電子ペーパーを作製した場合には素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による表示特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、薄膜素子用基板において絶縁層上に密着層が形成されている場合には、薄膜素子用基板上に密着性良くTFTを形成することができ、TFTの製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、電極や半導体層に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0174】
以下、本発明のTFTの製造方法におけるTFT形成工程およびその他の点について説明する。
【0175】
1.TFT形成工程
本発明におけるTFT形成工程は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成する工程である。
なお、薄膜素子用基板については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0176】
TFTの構造としては、例えば、トップゲート構造(正スタガ型)、ボトムゲート構造(逆スタガ型)、コプレーナ型構造を挙げることができる。トップゲート構造(正スタガ型)およびボトムゲート構造(逆スタガ型)の場合には、さらにトップコンタクト構造、ボトムコンタクト構造を挙げることができる。これらの構造は、TFTを構成する半導体層の種類に応じて適宜選択される。
TFTの形成は、TFTの構造に応じて適宜選択される。
【0177】
TFTを構成する半導体層としては、薄膜素子用基板上に形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコン、酸化物半導体、有機半導体が用いられる。
【0178】
シリコンとしては、ポリシリコン、アモルファスシリコンを用いることができる。
酸化物半導体としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgxZn1−xO)、酸化カドミウム亜鉛(CdxZn1−xO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化タングステン(WO)、InGaZnO系、InGaSnO系、InGaZnMgO系、InAlZnO系、InFeZnO系、InGaO系、ZnGaO系、InZnO系を用いることができる。
有機半導体としては、例えば、π電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等を挙げることができる。より具体的には、ペンタセン、テトラセン、チオフェンオリゴマ誘導体、フェニレン誘導体、フタロシアニン化合物、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、シアニン色素等が挙げられる。
【0179】
中でも、半導体層は、上述の酸化物半導体からなる酸化物半導体層であることが好ましい。酸化物半導体は水や酸素の影響によりその電気特性が変化するが、薄膜素子用基板は上述したように水蒸気に対するガスバリア性を有するため、半導体の特性劣化を抑制することができる。また、TFTを有機EL表示装置に用いる場合には、有機EL表示装置は水や酸素に対する耐性に劣るが、金属基材によって酸素および水蒸気の透過を抑制することができるので、素子性能の劣化を抑制することができる。
半導体層の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0180】
TFTを構成するゲート電極、ソース電極およびドレイン電極としては、所望の導電性を備えるものであれば特に限定されるものではなく、一般的にTFTに用いられる導電性材料を用いることができる。このような材料の例としては、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、Au、Ag、Pt、Mo−Ta合金、W−Mo合金、ITO、IZO等の無機材料、および、PEDOT/PSS等の導電性を有する有機材料を挙げることができる。
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0181】
TFTを構成するゲート絶縁膜としては、一般的なTFTにおけるゲート絶縁膜と同様のものを用いることができ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の絶縁性無機材料、および、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の絶縁性有機材料を用いることができる。
ゲート絶縁膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0182】
TFT上には保護膜が形成されていてもよい。保護膜は、TFTを保護するために設けられるものである。例えば、半導体層が空気中に含有される水分等に曝露されることを防止することができる。保護膜が形成されていることにより、TFT性能の経時劣化を低減することができるのである。このような保護膜としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素等の絶縁性無機材料、および、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の絶縁性有機材料が用いられる。
保護膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
半導体層が酸化物半導体層である場合、酸化物半導体層上に保護膜をスパッタリング法等により形成すると、酸化物半導体では酸素が欠損するおそれがあるが、保護膜の形成後に酸素の存在下でアニール処理を行なうことで、酸素欠陥を補うことができる。このアニール処理は数百度と高温で行なわれるため、ポリイミドを含む絶縁層の寸法変化が懸念されるが、本発明においては密着層が形成されているので、アニール処理によって絶縁層の寸法が変化した場合であっても、絶縁層とTFTとの密着性を維持することができ、TFTの剥離やクラックを抑制することが可能である。
【0183】
2.用途
本発明のTFTの製造方法により製造されるTFTは、例えば、有機EL表示装置、電子ペーパー、反射型液晶表示装置、RFIDなどの回路、およびセンサーなどに用いることができる。中でも、有機EL表示装置、電子ペーパーが好適である。
【0184】
D.薄膜素子
本発明の薄膜素子は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0185】
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸による薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能である。
また本発明によれば、金属基材によって水分や酸素の透過を低減することができるので、水分や酸素による薄膜素子部の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を保ち、湿度変化による特性の低下を抑制することができる。
さらに、一般に金属基材は熱伝導性に優れるので、放熱性を有する薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、水分の遮断性が高いとともに、熱を速やかに伝導もしくは放射することができる薄膜素子用基板を得ることができる。例えば薄膜素子部が有機EL素子である場合、有機EL素子の発光時の発熱による悪影響を抑制することができ、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、金属基材を有することで、強度の高い薄膜素子用基板を得ることができるので、耐久性を向上させることができる。
以下、本発明の薄膜素子における各構成について説明する。
【0186】
1.薄膜素子用基板
本発明における薄膜素子用基板は、金属基材と、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層とを有し、絶縁層上に無機化合物を含む密着層が形成されていないものである。
以下、薄膜素子用基板における各構成について説明する。
【0187】
(1)絶縁層
本発明における絶縁層は、金属基材上に形成され、ポリイミドを含有し、表面粗さRaが30nm以下であるものである。
【0188】
なお、絶縁層の表面粗さについては、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法 2.絶縁層形成工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
絶縁層の表面粗さRaを30nm以下とするには、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載する薄膜素子用基板の製造方法により薄膜素子用基板を作製することが好ましい。
【0189】
絶縁層はポリイミドを含むものであり、好ましくはポリイミドを主成分とする。
なお、絶縁層のその他の点については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法 2.絶縁層形成工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0190】
(2)金属基材
本発明における金属基材は、上記の絶縁層を支持するものである。
なお、金属基材については、上記「A.フレキシブルデバイス用基板 1.金属基材表面処理工程および5.その他の工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0191】
2.薄膜素子部
本発明における薄膜素子部は、薄膜素子用基板の絶縁層上に直に形成されるものである。
なお、薄膜素子部については、上記「B.薄膜素子の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0192】
E.TFT
本発明のTFTは、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成されたTFTとを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0193】
図9(a)〜図11(b)は、本発明のTFTの例を示す概略断面図である。図9(a)〜図11(b)において、TFT10はいずれも、金属基材2および金属基材2上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層3を有する薄膜素子用基板1と、薄膜素子用基板1の絶縁層3上に直に形成されたTFTとを有している。図9(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図9(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図10(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図10(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図11(a)、(b)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えている。なお、図9(a)〜図11(b)に示すTFTの各構成については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載した図3(a)〜図5(b)に示すTFTの各構成と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0194】
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合には水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、またTFTを用いて電子ペーパーを作製した場合には素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による表示特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
【0195】
なお、TFTについては、上記「C.TFTの製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0196】
TFTを構成する半導体層、電極、ゲート絶縁膜等の絶縁層と接する層は絶縁層と良好な密着性を有することが好ましい。例えば半導体層が絶縁層と接する場合、半導体層は有機半導体層であることが好ましい。ここで、本発明における絶縁層は表面平滑性に優れるので、薄膜素子用基板の絶縁層上に直に半導体層を形成する場合には、密着性が低下する傾向にある。これに対し、半導体層として有機半導体層を用いることにより、絶縁層および有機半導体層の密着性を良好なものとすることができるとともに、有機半導体層は、シリコンや酸化物半導体からなる半導体層に比べて、柔軟性を有するため、TFTの製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、有機半導体層に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0197】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0198】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[製造例]
1.ポリイミド樹脂組成物(ポリイミド前駆体溶液)の調製
(製造例1)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA) 4.0g(20mmol)とパラフェニレンジアミン(PPD) 8.65g(80mmol)とを500mlのセパラブルフラスコに投入し、200gの脱水されたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ、窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、そこへ、少しずつ30分かけて3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2無水物(BPDA) 29.1g(99mmol)を添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液1を得た。
【0199】
(製造例2)
反応温度および溶液の濃度が、17重量%〜19重量%になるようにNMPの量を調整した以外は、製造例1と同様の方法で、下記表1に示す配合比でポリイミド前駆体溶液2〜15およびポリイミド前駆体溶液Z(比較例)を合成した。
酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物(TAHQ)、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物(BPTME)を用いた。ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、1,4-Bis(4-aminophenoxy)benzene(4APB)、2,2′-Dimethyl-4,4′-diaminobiphenyl(TBHG)、2,2′-Bis(trifluoromethyl)-4,4′-diaminobiphenyl(TFMB)の1種または2種を用いた。
【0200】
【表1】
【0201】
(製造例3)
感光性ポリイミドとするために、上記ポリイミド前駆体溶液1に{[(4,5-dimethoxy-2-nitrobenzyl) oxy]carbonyl} 2,6-dimethyl piperidine (DNCDP)を溶液の固形分の15重量%添加し、感光性ポリイミド前駆体溶液1とした。
【0202】
(製造例4)
感光性ポリイミドとするために、上記ポリイミド前駆体溶液1に2−ヒドロキシ−5−メトキシ−桂皮酸とピペリジンとから合成したアミド化合物(HMCP)を溶液の固形分の10重量%添加し、感光性ポリイミド前駆体溶液2とした。
【0203】
【化9】
【0204】
(線熱膨張係数および吸湿膨張係数の評価)
上記ポリイミド前駆体溶液1〜15およびポリイミド前駆体溶液Zを、ガラス上に貼り付けた耐熱フィルム(ユーピレックスS 50S:宇部興産(株)製)に塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、耐熱フィルムから剥離し、膜厚15μm〜20μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚9μm〜15μmのポリイミド1〜15およびポリイミドZのフィルムを得た。
また、上記感光性ポリイミド前駆体溶液1および2を、ガラス上に貼り付けた耐熱フィルム(ユーピレックスS 50S:宇部興産(株)製)に塗布し、100℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、高圧水銀灯により365nmの波長の照度換算で2000mJ/cm2露光後、ホットプレート上で170℃10分加熱した後、耐熱フィルムより剥離し、膜厚10μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚6μmの感光性ポリイミド1および感光性ポリイミド2のフィルムを得た。
【0205】
<線熱膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とした。
【0206】
<湿度膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。湿度膨張係数は、湿度可変機械的分析装置Thermo Plus TMA8310改(リガク社製)によって測定した。温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持した。その後、湿度を50%RHに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値をサンプル長で割った値を湿度膨張係数(C.H.E.)とした。この際、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。
【0207】
(基板反り評価)
厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記のポリイミド前駆体溶液1〜15およびZ、ならびに感光性ポリイミド前駆体溶液1,2を用い、イミド化後の膜厚が10μm±1μmになるように線熱膨張係数評価のサンプル作成と同様のプロセス条件で、ポリイミド1〜15およびZのポリイミド膜、ならびに感光性ポリイミド1,2のポリイミド膜を形成した。その後、SUS304箔およびポリイミド膜の積層体を幅10mm×長さ50mmに切断し、基板反り評価用のサンプルとした。
【0208】
このサンプルを、SUS板表面にサンプルの短辺の片方のみをカプトンテープにより固定し、100℃のオーブンで1時間加熱した後、100℃に加熱されたオーブン内で、サンプルの反対側の短辺のSUS板からの距離を測定した。そのときの距離が、0mm以上0.5mm以下のサンプルを○、0.5mm超1.0mm以下のサンプルを△、1.0mm超のサンプルを×と判断した。
同様にこのサンプルを、SUS板表面にサンプルの短辺の片方のみをカプトンテープにより固定し、23℃85%Rhの状態の恒温恒湿槽に1時間静置したときの、サンプルの反対側の短辺のSUS板からの距離を測定した。そのときの距離が、0mm以上0.5mm以下のサンプルを○、0.5mm超1.0mm以下のサンプルを△、1.0mm超のサンプルを×と判断した。
これらの評価結果を以下に示す。
【0209】
【表2】
【0210】
SUS304箔の線熱膨張係数は17ppm/℃であることから、ポリイミド膜と金属箔との線熱膨張係数の差が大きいと積層体の反りが大きいことが確認された。
また、表2より、ポリイミド膜の吸湿膨張係数が小さいほど高湿環境下での積層体の反りが小さいことがわかる。
【0211】
2.絶縁層の形成
(絶縁層の形成1)
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1〜15をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚6μm〜12μmのポリイミド1〜15のポリイミド膜を形成し、積層体1〜15を得た。
積層体1〜15のうち、積層体1,2,3,5,6,8,9,10,12,15は、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。一方、積層体4,7,11,13,14は、反りが目立った。
【0212】
(絶縁層の形成2(絶縁層パターン))
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、ポリイミド前駆体膜上に、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅でレジストが除去されるように、レジスト製版し現像と同時にポリイミド前駆体膜を現像し、その後、レジストパターンを剥離したのち、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、外縁部の絶縁層が除去された積層体1Pを得た。
積層体1Pは、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0213】
(絶縁層の形成3(絶縁層パターン))
上記積層体10のポリイミド膜上に、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅でレジストが除去されるように、レジストパターンを形成した。ポリイミド膜が露出している部分を、ポリイミドエッチング液TPE-3000(東レエンジニアリング製)を用いて、除去後、レジストパターンを剥離し、外縁部の絶縁層が除去された積層体10Pを得た。
積層体10Pは、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0214】
(絶縁層の形成4(絶縁層パターン))
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記感光性ポリイミド前駆体溶液1および2をそれぞれダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた。次いで、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅で(紫外線が照射されないように)マスクし、高圧水銀灯により365nmの波長の照度換算で2000mJ/cm2露光後、ホットプレート上で170℃10分加熱した後、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚3μmの感光性ポリイミド1および感光性ポリイミド2のポリイミド膜を形成し、積層体11および12を得た。
積層体11,12は、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0215】
3.SUS箔の表面処理
厚さ20μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)を15cm角に切り出し、下記表3に示す薬液および処理条件にて表面処理を行った。
表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔表面の、ポリイミド樹脂組成物の溶媒であるNMPに対する接触角について、接触角測定器(協和界面化学(株)製DM500型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴1.5μLを滴下して2秒後)した。接触角については、同一サンプル上で5点測定し、その平均値から算出した。
また、X線光電子分光分析(XPS)を用いて、表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔表面における検出全元素と炭素の原子数の存在比を算出した。
さらに、表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔について、上記ポリイミド前駆体溶液1をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させて、塗布性を確認した。その結果、表面処理前のサンプルについては、時折ピンホールが発生した。また、処理例4については、時折塗布ムラが発生した。処理例1,2,3,5,6のサンプルについては、ピンホールや塗布ムラは発生せず、塗布性は良好であった。
【0216】
【表3】
【0217】
また、表面処理を施していない各種のSUS箔について、ポリイミド樹脂組成物の溶媒であるNMPに対する接触角を測定した。
【0218】
【表4】
【0219】
表面処理を施していない各種のSUS箔については、接触角の値にばらつきが見られた。これは、SUS箔表面の有機成分の残存度合いに差があるためだと思われる。
【0220】
4.ポリイミド前駆体溶液(ポリイミド樹脂組成物)の脱気
上記ポリイミド前駆体溶液1を固形分10%となるようにNMP溶媒で希釈した後、ガラス製のサンプル管に50mLずつ分取した。
(脱気方法)
(1)超音波
分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。
(2)真空
分取したサンプルについて、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後15分間減圧処理を行った。この際、最終到達圧力は230Paであった。
【0221】
(溶存酸素量の測定)
脱気したサンプルについて直ちに、酸素センサー「B−506」「MA−300G」「WA−BRP」(飯島電子工業株式会社製)を用いて溶存酸素量の測定を行った。
まず、基準として、N−メチルピロリドン(NMP)に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒(溶存酸素飽和NMP)について、酸素センサーを用いて溶存酸素量を測定し、全く酸素が溶存していないNMPの溶存酸素量の測定値が0、溶存酸素飽和NMPの溶存酸素量の測定値が100となるように、酸素センサーの校正を行った。次に、校正した酸素センサーにより、大気下で1時間静置した基準ポリイミド前駆体溶液の溶存酸素量の相対値と、脱気したサンプルの溶存酸素量の相対値とを測定した。続いて、脱気したサンプルについて、基準ポリイミド前駆体溶液の溶存酸素量の相対値を100%としたときの、脱気したサンプルの溶存酸素量の相対値(相対溶存酸素飽和率)を算出した。比較として、大気下で1時間静置したNMPについても測定を行った。
【0222】
【表5】
【0223】
真空と比べて、超音波のみでは脱気の効果が小さいことが明らかとなった。また、真空のみでも、超音波と真空を組み合わせても、脱気の効果としてはさほど変わらないことが明らかとなった。
【0224】
(脱気後の経時変化)
超音波(10分)および真空(15分)にて脱気したサンプルについて、さらに大気下で静置し、溶存酸素量の経時変化を観測した。10分後までは低い溶存酸素量が維持されたが、それ以上の時間が経過すると大気からの吸収により脱気の効果が下がり、120分経過では脱気前に完全に戻ることがわかった。
【0225】
【表6】
【0226】
5.絶縁層の平坦性
(絶縁層1の形成)
上記表3の処理例1の表面処理を施したSUS箔上に、上記ポリイミド前駆体溶液1をイミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のホットプレートで15分間乾燥後、窒素雰囲気下、350℃1時間熱処理し(昇温速度10℃/分、自然放冷)、絶縁層1を形成した。
(絶縁層2の形成)
上記表3の表面処理前のSUS箔を用いて、上記絶縁層1の形成と同様にして、絶縁層2を形成した。
(絶縁層3の形成)
ポリイミド前駆体溶液1をガラス製のサンプル管に50mL分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。その後、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後20分間減圧処理を行った。次いで、上記表3の処理例1の表面処理を施したSUS箔上に、脱気後のポリイミド前駆体溶液1を、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のホットプレートで。15分間乾燥後、窒素雰囲気下、350℃1時間熱処理し(昇温速度10℃/分、自然放冷)、絶縁層3を形成した。
【0227】
(表面粗さの測定)
絶縁層1〜3の表面粗さRaを測定した。
New View 5000(Zygo社製)を用いて、(1)対物レンズ:10倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、1000μm×1000μmの範囲、(2)対物レンズ:50倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、200μm×200μmの範囲、(3)対物レンズ:100倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、100μm×100μmの範囲、(4)対物レンズ:100倍、ズームレンズ:2倍、Scan Length:15μmにて、50μm×50μmの範囲の表面形状をそれぞれ撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することより、各絶縁層の表面粗さRa(単位:nm)を求めた。
【0228】
【表7】
【0229】
表面処理により、絶縁層表面の平坦性が上がることが明らかとなった。また、脱気を併用することによりさらに効果が上がることも明らかとなった。
【0230】
6.密着層の平坦性
(密着層の形成)
ポリイミド前駆体溶液1をガラス製のサンプル管に50mL分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。その後、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後20分間減圧処理を行った。
10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、脱気処理を行ったポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。
次に、絶縁層上に、第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0231】
(表面粗さの測定)
絶縁層について、New View 5000(Zygo社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは13.2nmであった。
密着層について、New View 5000(Zygo社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは23.5nmであった。また、Nanoscope V multimode(Veeco社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは15.9nmであった。
【0232】
[実施例1]
10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。
次に、絶縁層上に、第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0233】
ボトムゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記薄膜素子用基板上に作製した。まず、厚さ100nmのアルミニウム膜をゲート電極膜として成膜した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に燐酸溶液でウェットエッチングし、アルミニウム膜を所定パターンにパターニングしてゲート電極を形成した。次に、そのゲート電極を覆うように厚さ300nmの酸化ケイ素をゲート絶縁膜として全面に形成した。このゲート絶縁膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、6インチのSiO2ターゲットに投入電力:1.0kW(=3W/cm2)、圧力:1.0Pa、ガス:アルゴン+O2(50%)の成膜条件で形成した。この後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施し、コンタクトホールを形成した。次に、ゲート絶縁膜上の全面に厚さ100nmのチタン膜、アルミニウム膜、IZO膜をソース電極及びドレイン電極とするために蒸着した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に過酸化水素水溶液、燐酸溶液で連続的にウェットエッチングし、チタン膜を所定パターンにパターニングしてソース電極及びドレイン電極を形成した。このとき、ソース電極及びドレイン電極は、ゲート絶縁膜上であってゲート電極の中央部直上以外に離間したパターンとなるように形成した。
【0234】
次に、ソース電極及びドレイン電極を覆うように、全面に、In:Ga:Znが1:1:1のInGaZnO系アモルファス酸化物薄膜(InGaZnO4)を厚さ25nmとなるように形成した。アモルファス酸化物薄膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、室温(25℃)、Ar:O2を30:50とした条件下で、4インチのInGaZnO(In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いて形成した。その後、アモルファス酸化物薄膜上にレジストパターンをフォトリソグラフィーで形成した後、シュウ酸溶液でウェットエッチングし、そのアモルファス酸化物薄膜をパターニングし、所定パターンからなるアモルファス酸化物薄膜を形成した。こうして得られたアモルファス酸化物薄膜は、ゲート絶縁膜上であってソース電極及びドレイン電極に両側で接触するとともに該ソース電極及びドレイン電極を跨ぐように形成されていた。続いて全体を覆うように、厚さ100nmの酸化ケイ素を保護膜としてRFマグネトロンスパッタリング法で形成した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施した。その後、大気中300℃1時間のアニールを施し、TFTを作製した。
【0235】
[比較例]
表面処理を施していないSUS基材を用いたこと以外は実施例と同様にして、TFTの作製を行った。
【0236】
[評価結果]
表面処理を行っていないSUS基材上に作製したTFT(比較例)の電気特性を評価したところ、表面処理を行ったSUS基材上に作製したTFT(実施例1)に比べ、電界効果移動度の低下が見られた。また、比較例のTFTの一部でゲート電極とソース電極またはドレイン電極間に短絡が見られた。これらはSUS基材上に形成された絶縁層の表面平坦性が低いことに起因すると考えられる。尚、このような電極間の短絡はTFT以外でも、ディスプレイなどの配線にも起こりうる。この為、SUS基材上に形成された絶縁層の平坦化は必要である。
【0237】
[実施例2]
まず、上記ポリイミド前駆体溶液1を上記表5の脱気方法3にて脱気した。10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、脱気したポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0238】
トップゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記薄膜素子用基板上に作製した。まず、Crをターゲットにしたスパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−730)により、マスクを用いてパターン状のソース電極およびドレイン電極を形成した。このときソース電極およびドレイン電極の厚みは50nmとした。
次いで、チオフェン系有機半導体を用いて、アルバック社製蒸着装置VPC−060によって、マスクを用いてパターン形成することにより有機半導体層を形成した。このとき、有機半導体層の膜厚は50nmとした。
次に、上記のソース電極、ドレイン電極および有機半導体層が形成された基板にゲート絶縁膜としてフォトレジスト(アクリル系ネガレジスト)をスピンコートした。その後、基板を120℃で2分乾燥させ、350mJ/cm2でパターン露光し、現像し、200℃のオーブンで30分熱処理させることにより、パターン状のゲート絶縁膜を形成した。
続いて、上記ゲート絶縁膜が形成された面上に、Crをターゲットにしたスパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−730)により、パターン状のゲート電極形状の開口部を有するメタルマスクを用いて、膜厚50nmのクロム膜を形成した。次いで、200nmのアルミニウム膜を蒸着し、ゲート電極を形成することにより、TFTを作製した。
【0239】
[評価]
作製したTFTのトランジスタ特性を測定した結果、電界効果移動度の低下や、ゲート電極とソース電極またはドレイン電極との間で短絡が見られることがなく、トランジスタとして駆動していることを確認した。
【符号の説明】
【0240】
1 … 薄膜素子用基板
2 … 金属基材
3 … 絶縁層
4 … 密着層
10 … TFT
13 … ポリイミド樹脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ、薄膜太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等の薄膜素子に用いられる、金属基材上にポリイミドを含む絶縁層が形成された薄膜素子用基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとして盛んに利用されてきている。
【0003】
ポリイミドは、主にジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、冷凍保存が必要な場合がある等、保存安定性に劣る傾向にある。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入する、もしくは、分子量を小さくするなどにより、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合にはポリイミド前駆体を用いる方式に比べ耐熱性、耐薬品性、線熱膨張係数、吸湿膨張係数などの膜物性などが劣る傾向にある。そのため、目的に応じてポリイミド前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
ポリイミド膜は、溶媒溶解性ポリイミドを用いた場合は、ポリイミド樹脂組成物を基板上に塗布し、熱処理して溶媒を蒸発させることで形成され、ポリイミド前駆体を用いた場合は、ポリイミド樹脂組成物を基板上に塗布し、熱処理して溶媒を蒸発させた後、さらに加熱してイミド化加熱環化させることで形成される。この場合、ポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、基材に対する濡れ性が悪いと、基材上に均一に塗布することが困難になり、製膜後の表面の平坦性に問題が生じるとともに、その影響が顕著になると、ハジキや泡かみが起こり、膜中にピンホールが形成されたりしてしまうといった問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、ポリイミド樹脂組成物にシリコーンオイルからなる界面活性剤を添加することが提案されている(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、界面活性剤が添加されていることにより、膜を形成するときに気泡が発生し難く、気泡による膜の均一性の低下やピンホールの発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−139808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ポリイミドが電子部品の絶縁材料として広く用いられるようになり、種々の性能が要求されるようになってきた。その中でも特に、薄膜トランジスタ(以下、薄膜トランジスタをTFTと称する場合がある。)、薄膜太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。)等の薄膜素子に用いられる、金属基材とポリイミドを含む絶縁層とが積層されている薄膜素子用基板では、絶縁層上に形成される薄膜素子部が薄いため、かつ、金属基材が圧延箔の場合には表面に圧延筋による凹凸が存在し、電解箔の場合にも表面に凹凸が存在するため、凹凸によって薄膜素子の特性が低下するという問題がある。そこで、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することが求められている。
しかしながら、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合、上述のようにポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一な塗布が困難であり、さらにはハジキや泡かみが起こり、金属基材表面には凹凸が存在するため、膜の均一性の低下が顕著となるという問題がある。
【0008】
特許文献1に記載されている界面活性剤が添加されたポリイミド樹脂組成物を用いる手法では、基板表面の凹凸に関係なく表面平滑性に優れる膜を形成することができるとされている。しかしながら、このようなポリイミド樹脂組成物に添加剤を加える方法では、添加剤のポリイミド樹脂組成物との相溶性や、添加剤による膜の耐熱性等の特性の低下など、種々の課題が残されている。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、表面平滑性に優れ、薄膜素子の特性劣化を抑制することが可能な薄膜素子用基板および、そのような薄膜素子用基板が得られる新規な薄膜素子用基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法を提供する。
【0011】
何らの処理も施していない金属基材は、金属基材の製造後から使用までの間に大気中に含まれる有機成分が金属基材表面に付着することがある。また、金属基材には圧延箔や電解箔があるが、圧延箔の場合、圧延箔の製造過程、特に金属の圧延工程にて用いられる圧延油等の有機成分が金属基材表面に付着することがある。このように、多くの有機物成分が金属基材表面に付着しているため、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性が低下している。
【0012】
本発明によれば、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上記有機成分を除去することができ、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる。そのため、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することができ、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することが可能である。したがって、塗膜の均一性が向上し、さらにはピンホールやクレーターが低減され、表面平滑性に優れる絶縁層を形成することができる。金属基材表面に凹凸が存在する場合であっても、金属基材上に絶縁層を形成することで金属基材表面の凹凸を平坦化することができ、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することができる。よって本発明においては、薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能な薄膜素子用基板を得ることができる。さらに本発明によれば、ポリイミド樹脂組成物を用いて絶縁層を形成するので、絶縁性、耐熱性、寸法安定性に優れた絶縁層を形成することが可能となる。また、絶縁層の薄膜化が可能となり絶縁層の熱伝導性が向上し、放熱性に優れる薄膜素子用基板であるとともに、金属基材を有することによってガスバリア性に優れる薄膜素子用基板を得ることが可能である。
【0013】
また、金属基材は、その厚さが薄く、巻き取ることが可能であり、使用量が多量である場合はロール状の金属基材が主に用いられ、また、その厚さが厚く、巻き取ることが困難であったり、使用量が少量であったりする場合はシート状の金属基材が主に用いられている。ここで、何らの処理も施していない金属基材は、金属基材同士もしくは金属基材内において金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきが大きい。特に、金属基材内での上記ポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきは、ロール状の金属基材で顕著となる。これは上述の有機成分の残留程度が金属基材によって相違することが関係するものと考えられる。
そのため、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上記有機成分を除去することにより、金属基材同士もしくは金属基材内での上記ポリイミド樹脂組成物の濡れ性のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を製造することが可能となる。
【0014】
上記発明においては、上記金属基材表面処理工程にて、上記金属基材表面の上記ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことが好ましい。ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角を所定の範囲とし小さくすることで、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性をさらに良くし、塗膜の均一性をさらに高めることができる。また、金属基材同士もしくは金属基材内でのポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を形成することが可能となる。
【0015】
また本発明においては、上記金属基材が鉄を主成分とすることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能である。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0016】
また本発明においては、上記ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有することが好ましい。閉環後のポリイミドは溶媒に溶解しにくいため、ポリイミド前駆体を用いることが好ましいのである。
【0017】
さらに本発明においては、上記金属基材表面処理工程後の上記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましい。検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましい。吸湿膨張係数は吸水性の指標であり、吸湿膨張係数が小さいほど吸水性が小さくなる。したがって、吸湿膨張係数が上記範囲であれば、湿気存在下において高い信頼性を実現することができる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が小さいほど、絶縁層の寸法安定性が向上する。金属基材の吸湿膨張係数はほとんどゼロに近いので、絶縁層の吸湿膨張係数が大きすぎると、絶縁層および金属基材の密着性が低下するおそれがある。
【0019】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましい。絶縁層の線熱膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数を近いものとすることができ、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性を高めることができるからである。
【0020】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数と上記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましい。上述したように、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性が高くなるからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記絶縁層形成工程後に、上記絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する密着層形成工程を有することが好ましい。密着層を形成することで、薄膜素子部との密着性が良好であり、薄膜素子部に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる薄膜素子用基板を得ることができる。
【0022】
上記の場合、上記密着層を構成する上記無機化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの材料を用いることにより、密着性、平滑性、耐熱性、絶縁性などが良好な膜が得られるからである。
【0023】
また上記の場合、上記密着層が多層膜であることが好ましい。この場合、上記密着層が、上記絶縁層上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層と、上記第1密着層上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層とを有することが好ましい。第1密着層により絶縁層と第2密着層との密着性を高めることができ、第2密着層により絶縁層と薄膜素子部との密着性を高めることができる。また、このような構成とすることにより、密着性、平滑性、耐熱性、絶縁性などに優れる密着層とすることができる。
【0024】
また本発明は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とする薄膜素子の製造方法を提供する。
本発明によれば、上述の薄膜素子用基板を用いるので、優れた特性を有する薄膜素子を得ることが可能である。
【0025】
また本発明は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成するTFT形成工程を有することを特徴とするTFTの製造方法を提供する。
【0026】
本発明によれば、上述の薄膜素子用基板を用いるので、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
【0027】
上記発明においては、上記TFTが、酸化物半導体層を有することが好ましい。酸化物半導体は水や酸素の影響によりその電気特性が変化するが、薄膜素子用基板によって水蒸気や酸素の透過を抑制することができるので、半導体の特性劣化を防ぐことができる。
【0028】
また本発明は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子を提供する。
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸による薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能である。
【0029】
上記発明においては、上記金属基材表面の上記絶縁層に用いられるポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下であることが好ましい。ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角を所定の範囲とし小さくすることで、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性をさらに良くし、塗膜の均一性をさらに高めることができる。また、金属基材同士もしくは金属基材内でのポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角のばらつきを低減し、安定的に絶縁層を形成することが可能となる。
【0030】
また本発明においては、上記金属基材が鉄を主成分とすることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能である。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0031】
さらに本発明においては、上記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましい。検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。
【0032】
また本発明においては、上記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましい。吸湿膨張係数は吸水性の指標であり、吸湿膨張係数が小さいほど吸水性が小さくなる。したがって、吸湿膨張係数が上記範囲であれば、湿気存在下において高い信頼性を実現することができる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が小さいほど、絶縁層の寸法安定性が向上する。金属基材の吸湿膨張係数はほとんどゼロに近いので、絶縁層の吸湿膨張係数が大きすぎると、絶縁層および金属基材の密着性が低下するおそれがある。
【0033】
さらに本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましい。絶縁層の線熱膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数を近いものとすることができ、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性を高めることができるからである。
【0034】
また本発明においては、上記絶縁層の線熱膨張係数と上記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましい。上述したように、絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りを抑制できるとともに絶縁層および金属基材の密着性が高くなるからである。
【0035】
さらに本発明は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成されたTFTとを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするTFTを提供する。
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸によるTFTの特性の低下を防ぎ、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明においては、金属基材に薬液処理を施すことにより、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができるので、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することができ、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することができ、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板を得ることが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の薄膜素子用基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の薄膜素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の他の例を示す概略断面図および平面図である。
【図8】本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明のTFTの一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明のTFTの他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明のTFTの他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の薄膜素子用基板の製造方法、薄膜素子の製造方法、TFTの製造方法、薄膜素子、およびTFTについて詳細に説明する。
【0039】
A.薄膜素子用基板の製造方法
まず、本発明の薄膜素子用基板の製造方法について説明する。
本発明の薄膜素子用基板の製造方法は、金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、上記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0040】
本発明の薄膜素子用基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように、金属基材2表面を薬液(図示せず)により洗浄する(金属基材表面処理工程)。次に、金属基材2上にポリイミド樹脂組成物13を塗布し(図1(b))、熱処理によりイミド化して絶縁層3を形成する(図1(c))(絶縁層形成工程)。この際、表面粗さRaが30nm以下となる絶縁層が形成される。これにより、薄膜素子用基板1が得られる。
【0041】
本発明によれば、金属基材に薬液処理を施すことによって、金属基材表面に残留する上述の有機成分を除去することができ、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる。そのため、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一に塗布することが可能であり、さらにはハジキ、泡かみの発生を抑制することが可能である。したがって、塗膜の均一性が向上し、さらにはピンホールやクレーターが低減され、表面平滑性に優れる絶縁層を形成することができる。また、金属基材表面に凹凸が存在する場合であっても、金属基材上に絶縁層を形成することで金属基材表面の凹凸を平坦化することができ、薄膜素子用基板の表面平滑性を改善することができる。よって本発明によれば、薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能となる。
【0042】
図2(a)〜(d)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法の他の例を示す工程図である。図2(a)〜(c)は図1(a)〜(c)と同様である。図2(a)〜(d)に示す薄膜素子用基板の製造方法においては、絶縁層形成工程後、図2(d)に示すように、絶縁層3上に無機化合物を含む密着層4を形成する(密着層形成工程)。これにより、薄膜素子用基板1が得られる。
【0043】
本発明において、絶縁層上に密着層を形成する場合には、薄膜素子部との密着性に優れる薄膜素子用基板を得ることができる。したがって、薄膜素子の製造時に水分や熱が加わって絶縁層の寸法が変化した場合であっても、薄膜素子を構成する部材、例えばTFTを構成する電極や半導体層に、剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0044】
本発明によれば、金属基材によって水分や酸素の透過を低減することができるので、水分や酸素による薄膜素子部の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を保ち、湿度変化による特性の低下を抑制することができる。
さらに、一般に金属基材は熱伝導性に優れるので、放熱性を有する薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、水分の遮断性が高いとともに、熱を速やかに伝導もしくは放射することができる薄膜素子用基板を得ることができる。例えば薄膜素子用基板を有機EL素子に用いる場合、有機EL素子の発光時の発熱による悪影響を抑制することができ、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、金属基材を有することで、強度の高い薄膜素子用基板を得ることができるので、耐久性を向上させることができる。
【0045】
本発明により製造される薄膜素子用基板は、例えば次のように用いられるものである。図3(a)〜図5(b)は、本発明の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板を備えるTFTの例を示す概略断面図である。
図3(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11と、ソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図3(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成された半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12D上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図4(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13Gを覆うように形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11と、ソース電極12Sおよびドレイン電極12Dならびに半導体層11上に形成された保護膜15とを有している。
図4(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13Gを覆うように形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成された半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11ならびにソース電極12Sおよびドレイン電極12D上に形成された保護膜15とを有している。
図5(a)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成された半導体層11と、半導体層11上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成されたゲート電極13Gとを有している。
図5(b)に例示するTFT10も、コプレーナ型構造を有するTFTを備えており、薄膜素子用基板1の密着層4上に形成されたゲート電極13Gと、ゲート電極13G上に形成されたゲート絶縁膜14と、ゲート絶縁膜14上に形成された半導体層11と、半導体層11上に形成されたソース電極12Sおよびドレイン電極12Dと、半導体層11上に形成された保護膜15とを有している。
【0046】
以下、本発明の薄膜素子用基板の製造方法における各工程について説明する。
【0047】
1.金属基材表面処理工程
本発明における金属基材表面処理工程は、金属基材に薬液処理を施す工程である。
【0048】
本発明に用いられる金属基材としては、線熱膨張係数が、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内である。
【0049】
なお、線熱膨張係数は、次のように測定する。まず、金属基材を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。線熱膨張係数は、熱機械分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。測定条件は、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲内の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とする。
【0050】
また、金属基材は耐酸化性を有することが好ましい。薄膜素子部の形成時に高温処理が施される場合があるからである。特に、薄膜素子がTFTであり、TFTが酸化物半導体層を有する場合には、酸素の存在下、高温でアニール処理が行なわれることから、金属基材は耐酸化性を有することが好ましい。
【0051】
金属基材を構成する金属材料としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス鋼(SUS)、銅、銅合金、リン青銅、金、金合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、スズ、スズ合金、チタン、鉄、鉄合金、亜鉛、モリブデン、アルミニウム等が挙げられる。
中でも、金属基材は合金系であることが好ましい。純金属と比較して、組成により多種多様な特性を付与することができるからである。また、合金系の金属基材は、通常、圧延により作製されるものであり、上述したように圧延工程にて使用される圧延油等の有機成分が付着しているため、薬液処理が有用である。
特に、金属基材は鉄を主成分とするものであることが好ましい。鉄を主成分とする金属基材は多種多様な組成が開発されており、用途に必要特性に合わせた選択が可能だからである。また、鉄を主成分とする金属基材は薬液耐性が高く、種々の薬液処理が適用可能である。さらに、鉄を主成分とする金属基材は、耐熱性、耐酸化性、低膨張などの物性面で優れているという利点も有する。
【0052】
なお、金属基材が鉄を主成分とするとは、金属基材中の鉄含有量が30質量%以上の場合をいう。
鉄以外に金属基材に含有される金属成分としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、スズ(Sn)等が挙げられる。また、金属基材に含有される非金属成分としては、炭素(C)、珪素(Si)、燐(P)硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、硼素(B)等が挙げられる。
鉄を主成分とする金属基材の具体例としては、炭素鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼。クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼、SUS、インバー、42アロイ、コバール等を挙げることができる。中でも、鉄を主成分とする金属基材はSUSが好ましい。SUSは耐酸化性に優れ、また耐熱性にも優れている上、銅などに比べ線熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れる。また、SUS304については特に入手しやすいという利点があり、SUS430については入手しやすく、線熱膨張係数がSUS304より小さいという利点もある。一方、金属基材および薄膜素子部の線熱膨張係数を考慮すると、線熱膨張係数の観点からは、SUS430よりさらに低線熱膨張係数のインバーが好ましい。ただし、線熱膨張係数のみでなく、耐酸化性、耐熱性、金属基材の展性および延性などに起因する加工性や、コストも考慮に入れて選択するのが望ましい。
【0053】
金属基材の薬液処理の方法としては、金属基材に対するポリイミド樹脂組成物の濡れ性を良くすることができる方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ洗浄、電界脱脂、酸洗等が挙げられる。
アルカリ洗浄とは、アルカリ性の薬液に漬ける、ペースト状のアルカリ洗浄剤を塗る等により、金属基材表面を溶出させて洗う方法である。光沢は出ないが、安価で大型の製品に対応できる。光沢のある部分もつや消し状態になってしまうので、溶接焼けによる黒ずみを取るためなど、外観を問題にしないものであれば、アルカリ洗浄を適用することができる。
電解脱脂は、薬液の中で電気を通す(電解)ことによって、金属基材表面の凸部(ミクロンレベル)を溶出させることで、平滑で光沢のある表面にする方法である。金属基材表面に付いている汚れや不純物を取り除き、皮膜を強化するので、耐食性を向上させることもできる。これは、金属基材表面の鉄が電解で先に溶け出すため、相対的に鉄以外の金属成分(例えばクロム)が濃くなり、不動態皮膜が強固になるためであると考えられる。
酸洗は、強酸性の薬液に漬ける、ペースト状の酸洗剤を塗る等により、金属基材表面を溶出させて洗う方法である。光沢は出ないが、安価で大型の製品に対応できる。光沢のある部分もつや消し状態になってしまうので、溶接焼けによる黒ずみを取るためなど、外観を問題にしないものであれば、酸洗を適用することができる。
【0054】
本発明においては、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が低下するように、薬液処理を施すことが好ましい。具体的には、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことが好ましい。薬液処理後の金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角は30°以下であることが好ましく、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下である。上記接触角が高すぎると、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する際に、均一な塗布が困難となり、さらにはハジキや泡かみが起こり、塗膜表面が荒れ、絶縁層の平滑性に悪影響を及ぼす可能性があるからである。さらに、ピンホールやクレーターが発生して均一な膜が得られないおそれがあるからである。
【0055】
なお、上記接触角とは、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製DM500型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴1.5μLを滴下して2秒後)して得た値である。
【0056】
また、上記薬液処理後の金属基材表面において、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。検出全元素に対する炭素(C)の元素量の比が上記範囲であれば、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が小さくなり、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性を良好なものとすることができるからである。炭素成分は、金属基材製造時に使用される圧延油等の有機成分や、大気中に含まれる有機成分に由来するものであると考えられ、金属基材表面に炭素成分が多く残留していると、金属基材表面のポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角や、金属基材上へのポリイミド樹脂組成物の塗布性に悪影響を及ぼすものと考えられる。
なお、X線光電子分光分析(XPS)の測定においては、例えばQuantum2000(アルバックファイ社製)を用いて、X線条件をAl mono 200μmφ×30W 15kV、光電子取込角度を45°、帯電中和をIon/Electron 20μAで行うことにより、各元素の測定値を求めることができる。
【0057】
本発明に用いられる金属基材の表面粗さRaは、通常、後述の絶縁層や密着層の表面粗さRaよりも大きいものであり、例えば50nm〜200nm程度である。
なお、上記表面粗さの測定方法については、後述の絶縁層の表面粗さの測定方法と同様である。
【0058】
金属基材の厚みとしては、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択される。金属基材の厚みが薄いほど、可撓性に富んだものとなる。一方、金属基材の厚みが厚いほど、酸素や水蒸気に対するガスバリア性や、面方向への熱拡散に優れたものとなる。具体的に、金属基材の厚みは、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmの範囲内、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内である。金属基材の厚みが薄すぎると、酸素や水蒸気に対するガスバリア性が低下したり、放熱機能を十分に発揮できなかったり、薄膜素子用基板の強度が低下したりするおそれがある。また、金属基材の厚みが厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、コスト高になったりする。
【0059】
金属基材の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、箔状や板状であってもよく、図6に例示するように金属基材2の形状が空気との接触面に凹凸を有する形状であってもよい。
金属基材が空気との接触面に凹凸を有する場合には、熱拡散が良好となり、放熱性を高めることができる。凹凸の形成方法としては、例えば金属基材の表面に直接、エンボス加工、エッチング加工、サンドブラスト加工、フロスト加工、スタンプ加工などの加工を施す方法、フォトレジスト等を用いて凹凸パターンを形成する方法、めっき方法、箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とを貼り合わせる方法が挙げられる。エンボス加工の場合、例えば表面に凹凸を有する圧延ロールを用いてもよい。エッチング加工の場合、金属基材の種類に応じて薬剤が選択される。箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とを貼り合わせる方法の場合、例えば、ロウ付け、溶接、半田等により金属層同士を接合する、あるいは、エポキシ樹脂等の接着剤を介して金属層同士を貼り合わせることができる。この場合、箔状や板状等の金属層と表面に凹凸を有する金属層とは、同じ金属材料で構成されていてもよく、異なる金属材料で構成されていてもよい。中でも、コスト面から、エンボス加工、エッチング加工が好ましく用いられる。
凹凸の寸法や形状としては、金属基材の空気との接触面における表面積を増やすことができれば特に限定されるものではない。凹凸の幅、高さ、ピッチ等としては、金属基材の種類や薄膜素子用基板の用途等に応じて適宜選択され、例えばシミュレーションにより熱伝導に好適な範囲を求めることができる。
【0060】
金属基材の作製方法としては、一般的な方法を用いることができ、金属材料の種類や金属基材の厚みなどに応じて適宜選択される。金属基材が金属箔である場合、金属箔は圧延箔であってもよく電解箔であってもよいが、ガスバリア性が良好であることから、圧延箔が好ましい。
【0061】
2.絶縁層形成工程
本発明における絶縁層形成工程は、上記金属基材上に上記ポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する工程である。
以下、ポリイミド樹脂組成物、絶縁層の形成方法、および絶縁層について説明する。
【0062】
(1)ポリイミド樹脂組成物
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド成分と溶媒を含有するものである。
以下、ポリイミド樹脂組成物における各成分について説明する。
【0063】
(a)ポリイミド成分
ポリイミド成分としては、ポリイミドおよびポリイミド前駆体のいずれであってもよい。具体的には、下記式(1)で表される構造を有するポリイミド、および下記式(2)、(3)で表される構造を有するポリイミド前駆体が挙げられる。
【0064】
【化1】
【0065】
(式(1)〜(3)中、R1は4価の有機基、R2は2価の有機基、R3は水素原子もしくは1価の有機基であり、繰り返されるR1同士、R2同士、R3同士はそれぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。nは1以上の自然数である。)
【0066】
また、式(3)については、左右非対称であるが、1つのポリマー分子鎖中に左右の向きが異なるものが含まれていてもよい。
【0067】
本発明におけるポリイミド成分としては、上記式(1)、式(2)および式(3)のそれぞれの構造のみを有するポリマーのみ用いてもよく、上記式(1)、式(2)および式(3)のそれぞれの構造のみを有するポリマーを混合して用いてもよく、1つのポリマー分子鎖中に上記式(1)、式(2)および式(3)の構造が混在するものを用いてもよい。
【0068】
上記式(1)〜(3)において、一般に、R1はテトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、R2はジアミン由来の構造である。
【0069】
本発明に用いられるポリイミド成分を製造する方法としては、従来公知の手法を適用することができる。例えば、上記(2)で表される構造を有するポリイミド前駆体の形成方法としては、(i)酸二無水物とジアミンからポリアミック酸を合成する手法や、(ii)酸二無水物に1価のアルコールやアミノ化合物、エポキシ化合物等を反応させ合成したエステル酸やアミド酸モノマーのカルボン酸に、ジアミノ化合物やその誘導体を反応させて形成する手法などが挙げられるがこれに限定されない。
また、上記(3)で表される構造を有するポリイミド前駆体または上記(1)で表されるポリイミドの形成方法としては、上記(2)で表されるポリイミド前駆体を加熱によりイミド化する方法が挙げられる。
【0070】
本発明において上記ポリイミド成分に適用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ピリジンテトラカルボン酸二無水物、スルホニルジフタル酸無水物、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス−(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、9−フェニル−9−(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、12,14−ジフェニル−12,14−ビス(トリフルオロメチル)−12H,14H−5,7−ジオキサペンタセン−2,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物、1,4−ビス(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1−(トリフルオロメチル)−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0071】
一方、上記ポリイミド成分に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンのような芳香族アミン;1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカンのような脂肪族アミン;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンのような脂環式ジアミンなどが挙げられる。グアナミン類としては、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどを挙げることができ、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0072】
本発明におけるポリイミド樹脂組成物の耐熱性および絶縁性を向上させるためには、上記ポリイミド成分が、芳香族骨格を含むことが好ましい。芳香族骨格を含有するポリイミド成分を加熱硬化することにより得られるポリイミド樹脂は、その剛直で平面性の高い骨格に由来して、耐熱性や薄膜での絶縁性に優れ、低アウトガスであることから、本発明の薄膜素子用基板の絶縁層に好ましく用いられるからである。
また、ポリイミド成分は、酸二無水物由来の部分が芳香族構造を有し、さらにジアミン由来の部分も芳香族構造を含むことが望ましい。それゆえジアミン成分由来の構造も芳香族ジアミンから誘導される構造であることが好ましい。特に、酸二無水物由来の部分およびジアミン由来の部分のすべてが芳香族構造を含む全芳香族ポリイミドもしくは全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。
【0073】
ここで、全芳香族ポリイミド前駆体とは、芳香族酸成分と芳香族アミン成分の共重合、又は、芳香族酸/アミノ成分の重合により得られるポリイミド前駆体及びその誘導体である。また、芳香族酸成分とは、ポリイミド骨格を形成する4つの酸基が全て芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族アミン成分とは、ポリイミド骨格を形成する2つのアミノ基が両方とも芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族酸/アミノ成分とはポリイミド骨格を形成する酸基とアミノ基がいずれも芳香族環上に置換している化合物である。ただし、前述した原料の芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの具体例から明らかなように、全ての酸基又はアミノ基が同じ芳香環上に存在する必要はない。
以上の理由から、ポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミド樹脂に耐熱性及び寸法安定性を求める場合には、芳香族酸成分及び/又は芳香族アミン成分の共重合割合ができるだけ大きいことが好ましい。具体的には、イミド構造の繰り返し単位を構成する酸成分に占める芳香族酸成分の割合が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましく、イミド構造の繰り返し単位を構成するアミン成分に占める芳香族アミン成分の割合が40モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましく、全芳香族ポリイミドもしくは全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。
【0074】
また、上記式(1)、式(3)に含まれるイミド化後の環構造の部分は、上記式(2)、式(3)に含まれるイミド化前のカルボン酸の部分よりも、溶剤への溶解性が低いため、イミド化前の構造を多く含む、溶解性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましい。酸無水物由来のカルボキシル基(もしくはそのエステル)が全体の50%以上あることが望ましく、75%以上であることがさらに好ましく、全て、上記式(2)からなるポリアミック酸(およびその誘導体)であることが好ましい。
また、上記式(2)からなるポリアミック酸(およびその誘導体)については、合成の容易さおよびアルカリ現像液に対する溶解性の高さから、R3が全て水素原子であるポリアミック酸であることが特に好ましい。
【0075】
本発明においては、なかでも、上記式(1)〜(3)で表される構造を有するポリイミド成分におけるR1のうち33モル%以上が、下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂となるというメリットがあるからである。
【0076】
【化2】
【0077】
(式(4)中、aは0または1以上の自然数、Aは単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)、エステル結合のいずれかであり、全てが同じであっても、各々異なっていてもよい。結合基は、芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは3,4位に結合する。)
【0078】
本発明においては、特に、上記(1)〜(3)で表される構造を有するポリイミド成分が上記式(4)で表される構造を含むと、上記ポリイミド樹脂が低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
【0079】
上記のような構造を有するポリイミド成分は、高耐熱性、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂を形成可能である。そのため、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)〜(3)中のR1のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、少なくとも上記式(1)〜(3)中のR1のうち33%以上含有すればよい。中でも、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)〜(3)中のR1のうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0080】
本発明において、ポリイミド樹脂を低吸湿にする酸二無水物の構造としては、下記式(5)で表わされるものが挙げられる。
【0081】
【化3】
【0082】
(式(5)中、aは0または1以上の自然数、Aは単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)、エステル結合のいずれかであり、全てが同じであっても、各々異なっていてもよい。酸無水物骨格(―CO−O−CO−)は、隣接する芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは、3,4位に結合する。)
【0083】
上記式(5)において、Aが単結合(ビフェニル構造)、酸素原子(エーテル結合)である酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などが挙げられる。これらは、吸湿膨張係数を低減させる観点ならびに、ジアミンの選択性を広げる観点から、好ましい。
【0084】
上記式(5)において、Aがエステル結合であるフェニルエステル系の酸二無水物は、ポリイミド樹脂を低吸湿にする観点から、特に好ましい。例えば、下記式で表わされる酸二無水物が挙げられる。具体的には、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物などが挙げられる。これらは、吸湿膨張係数を低減させる観点ならびに、ジアミンの選択性を広げる観点から、特に好ましい。
【0085】
【化4】
【0086】
(式中、aは0または1以上の自然数である。酸無水物骨格(―CO−O−CO−)は、隣接する芳香環の結合部位から見て、芳香環の2,3位もしくは3,4位に結合する。)
【0087】
上述の吸湿膨張係数が小さいテトラカルボン酸二無水物の場合、後述するジアミンとしては幅広く選択することができる。
【0088】
併用するテトラカルボン酸二無水物として、下記式で表わされるような少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。フッ素が導入されたテトラカルボン酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミド樹脂の吸湿膨張係数が低下する。少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物としては、中でも、フルオロ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基を有することが好ましい。具体的には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。しかしながら、上記ポリイミド成分として含まれるポリイミド前駆体がフッ素を含んだ骨格を有する場合、上記ポリイミド前駆体が、塩基性水溶液に溶解しづらい傾向にあり、上記ポリイミド前駆体の状態で、レジスト等を用いてパターニングを行う際には、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある場合がある。
【0089】
【化5】
【0090】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性、すなわち、低アウトガス化の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いてもよい。
【0091】
また、上記ポリイミド成分においては、上記式(1)〜(3)中のR2のうち33モル%以上が下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0092】
【化6】
【0093】
(R11は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、またはスルホン基であり、R12およびR13は1価の有機基、またはハロゲン原子である。)
【0094】
上記ポリイミド成分が上記式のいずれかの構造を含むと、これら剛直な骨格に由来し、低線熱膨張および低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
上記のような構造を有する場合、上記ポリイミド樹脂の耐熱性が向上し、線熱膨張係数が小さくなる。そのため、上記式(1)〜(3)中のR2のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、上記式(1)〜(3)中のR2のうち少なくとも33%以上含有すればよい。中でも上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のR2のうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0095】
上記ポリイミド樹脂をより低吸湿膨張とする観点からは、ジアミンの構造としては、下記式(6−1)〜(6−3)、(7)で表わされるものが好ましい。
【0096】
【化7】
【0097】
(式(6−2)〜(6−3)中、同一の芳香環に2つアミノ基が結合していてもよい。
式(7)中、aは0または1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位またはパラ位に結合する。また、芳香環上の水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換されていてもよい。)
【0098】
上記式(6−1)〜(6−3)で表されるジアミンとしては、具体的には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
【0099】
上記式(7)で表わされるジアミンとしては、具体的には、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0100】
また、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると、上記ポリイミド樹脂の吸湿膨張係数を低減させることができる。例えば、上記式(7)で表わされるジアミンの中でフッ素が導入された構造としては、下記式で表わされるものが挙げられる。しかしながら、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、基板上に低アウトガス感光性ポリイミド絶縁層を部分的に形成する場合には、上記絶縁層の加工の際に、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0101】
【化8】
【0102】
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物に感光性を付与し、感光性ポリイミド樹脂組成物として用いる際には、感度を高め、マスクパターンを正確に再現するパターン形状を得るために、1μmの膜厚のときに、露光波長に対して少なくとも5%以上の透過率を示すことが好ましく、15%以上の透過率を示すことが更に好ましい。
【0103】
また、一般的な露光光源である高圧水銀灯を用いて露光を行う場合には、少なくとも436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で好ましくは5%以上、更に好ましくは15%、より更に好ましくは50%以上である。
露光波長に対してポリイミド成分の透過率が高いということは、それだけ、光のロスが少ないということであり、高感度の感光性ポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
【0104】
ポリイミド成分として、透過率をあげるためには、酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いることが望ましい。しかし、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、耐熱性が低下し、低アウトガス性を損なう恐れがあるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
本発明においては、透過率をあげるためには酸二無水物としてフッ素が導入された芳香族の酸二無水物を用いることが、耐熱性を維持しつつ(芳香族なので)、吸湿膨張も低減することが可能である点からさらに好ましい。
【0105】
本発明において用いられる少なくとも1つのフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物としては、上述のフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、なかでも、フルオロ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基を有することが好ましい。具体的には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。
しかしながら、フッ素を含んだ骨格を有するポリイミド前駆体は、塩基性水溶液に溶解しづらい傾向にあり、ポリイミド前駆体の状態で、レジスト等を用いてパターニングを行う際には、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある場合がある。
【0106】
また、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミド樹脂の線熱膨張係数が小さくなるが、透明性の向上を阻害する傾向があるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
【0107】
ポリイミド成分として、透過率をあげるためには、ジアミンとしてフッ素が導入されたジアミンや、脂環骨格を有するジアミンを用いることが望ましい。しかし、脂環骨格を有するジアミンを用いると、耐熱性が低下し、低アウトガス性を損なう恐れがあるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
透過率をあげるためにはジアミンとしてフッ素が導入された芳香族のジアミンを用いることが、耐熱性を維持しつつ(芳香族なので)、吸湿膨張も低減することが可能である点からさらに好ましい。
【0108】
フッ素が導入された芳香族のジアミンとしては、具体的には、上述のフッ素が導入された構造を有するものを挙げることができ、より具体的には、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
しかしながら、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、基板上に低アウトガス感光性ポリイミド絶縁層を部分的に形成する場合には、上記絶縁層の加工の際に、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0109】
また、上記式(1)および(3)に含まれるイミド化後の環構造の部分は、それぞれ、上記式(3)および(2)で示されるポリイミド前駆体に含まれるイミド化前のカルボン酸の部分よりも、透過率が低い傾向にあるため、イミド化前の構造を多く含む、透明性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましい。酸無水物由来のカルボキシル基(もしくはそのエステル)が全体の50%以上あることが望ましく、75%以上であることがさらに好ましく、全て、上記式(2)で示されるポリイミド前駆体、すなわち、ポリアミック酸(およびその誘導体)であることが好ましい。
また、アルカリ現像液を用いて現像する際には、上記式(2)および(3)に含まれるイミド化前のカルボン酸部分の残存量によりアルカリ現像液に対する溶解性を変えることができる。現像速度を速める観点からは、イミド化前の構造を多く含む、溶解性が高いポリイミド前駆体を用いることが望ましく、上記式(2)および(3)におけるR3が全て水素原子であるポリアミック酸であることが好ましい。しかしながら、現像速度が速すぎて、パターン残存部の溶解性が高すぎる場合には、イミド化が進行したものを用いるもしくは、上記式(2)および(3)におけるR3に1価の有機基を導入して溶解速度を下げることができる。
【0110】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、基板との密着性を改善したり、上記ポリイミド樹脂の弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させたりすることができる。
【0111】
本発明に用いられるポリイミド成分の重量平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミド樹脂などの高分子とした際の膜の強度も低くなる。一方、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値のことをいい、ポリイミド前駆体そのものの分子量でも良いし、無水酢酸等で化学的イミド化処理を行った後のものでも良い。
【0112】
本発明に用いられるポリイミド成分の含有量としては、得られるパターンの膜物性、特に膜強度や耐熱性の点から、上記ポリイミド樹脂組成物の固形分全体に対し、50重量%以上であることが好ましく、なかでも、70重量%以上であることが好ましい。
なお、ポリイミド樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0113】
(b)溶媒
ポリイミド前駆体またはポリイミドを溶解、分散または希釈する溶媒としては、各種の汎用溶媒を用いることができる。また、ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有する場合には、ポリアミック酸の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、そこに必要に応じて他の成分を混合してもよい。
【0114】
使用可能な汎用溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、および、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
【0115】
中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホアミド、N−アセチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等の極性溶媒が好適なものとして挙げられる。
【0116】
また、後述するように絶縁層形成工程前に脱気工程を行う場合であって、真空下でポリイミド樹脂組成物を脱気する場合には、溶媒の常温での蒸気圧は、25,000Pa以下であることが好ましく、中でも10,000Pa〜1Paの範囲内、特に1,000Pa〜10Paの範囲内であることが好ましい。溶媒の蒸気圧が高いと、脱気の際に溶媒が蒸発してポリイミド樹脂組成物の濃度や粘度が変化するおそれがあるからである。また、溶媒の蒸気圧が低すぎると、ポリイミド樹脂組成物の乾燥時に溶媒が除去され難いからである。
【0117】
(c)その他の成分
本発明に用いられるポリイミド樹脂組成物は、少なくともポリイミド前駆体もしくはポリイミドおよび溶媒を含有していればよい。
ポリイミド樹脂組成物は、感光性ポリイミド樹脂組成物であってもよい。感光性ポリイミド樹脂組成物は、公知の手法を用いて得ることができる。例えば、ポリアミック酸のカルボキシル基にエステル結合やイオン結合でエチレン性二重結合を導入し、得られるポリイミド前駆体に光ラジカル開始剤を混合し、溶剤現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とすることができる。また例えば、ポリアミック酸やその部分エステル化物にナフトキノンジアジド化合物を添加し、アルカリ現像ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物とする、あるいは、ポリアミック酸にニフェジピン系化合物を添加しアルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とするなど、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加し、アルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド樹脂組成物とすることができる。
【0118】
これらの感光性ポリイミド樹脂組成物には、ポリイミド成分の重量に対して15%〜35%の感光性付与成分が添加されている。そのため、パターン形成後に300℃〜400℃で加熱したとしても、感光性付与成分由来の残渣がポリイミド中に残存する。これらの残存物が線熱膨張係数や吸湿膨張係数を大きくする原因となることから、感光性ポリイミド樹脂組成物を用いると、非感光性のポリイミド樹脂組成物を用いた場合に比べて、素子の信頼性が低下する傾向にある。しかしながら、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加した感光性ポリイミド樹脂組成物は、添加剤である光塩基発生剤の添加量を15%以下にしてもパターン形成可能であることから、ポリイミドとした後も添加剤由来の分解残渣が少なく、線熱膨張係数や吸湿膨張係数などの特性の劣化が少なく、さらにアウトガスも少ないため、本発明に適用可能な感光性ポリイミド樹脂組成物としては最も好ましい。
【0119】
ポリイミド樹脂組成物は、塩基性水溶液によって現像可能であることが、金属基材上に絶縁層を部分的に形成する際に、作業環境の安全性確保およびプロセスコストの低減の観点から好ましい。塩基性水溶液は、安価に入手でき、廃液処理費用や作業安全性確保のための設備費用が安価であるため、より低コストでの生産が可能となる。
【0120】
ポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0121】
(2)絶縁層の形成方法
本発明においては、金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する。
【0122】
金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布する方法としては、平滑性の良好な絶縁層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
ポリイミド樹脂組成物の塗布後は、ポリイミド前駆体のガラス転移温度以上に加熱することで、膜の流動性を高め、平滑性を良くすることもできる。
【0123】
ポリイミド樹脂組成物の塗布後は、熱処理により溶媒を除去する。この際、ポリイミド樹脂組成物がポリイミド前駆体を含有する場合には、熱処理によりポリイミド前駆体のイミド化も行う。
ポリイミド前駆体をイミド化する際、熱処理の好ましい温度範囲は、通常200℃〜400℃程度である。熱処理温度が200℃より低いと、イミド化の進行が完全に進まず、物性面で不十分となる。一方、熱処理温度が高温になると、最終硬化膜の物性は向上する傾向にあるが、400℃超の高温となると、他の構成部材に悪影響を与えるおそれがあるので、他の構成部材の耐熱性を考慮に入れた上で、イミド化温度を決定することが望ましい。また、熱処理前に、熱処理温度より低温の50℃〜200℃で事前加熱を行ってもよい。熱処理としては、具体的には、250℃〜350℃で、10分〜120分加熱を行うことができる。
この熱処理は、公知の方法であればいずれの方法でもよく、具体的に例示すると、空気又は窒素雰囲気下の循環オーブン、ホットプレートによる加熱などが挙げられる。
【0124】
また、絶縁層を金属基材上に部分的に形成する場合、その形成方法としては、印刷法、フォトリソグラフィー法、レーザー等で直接加工する方法を用いることができる。フォトリソグラフィー法としては、例えば、ポリイミド樹脂組成物の塗布後、塗膜上にレジスト層を形成し、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成し、その後、そのパターンをマスクとして、パターン開口部の塗膜を除去した後、レジストパターンを除去し、ポリアミック酸をイミド化する方法;上記レジストパターンの形成時に同時に塗膜も現像し、その後、レジストパターンを除去し、ポリアミック酸をイミド化する方法;絶縁層の形成後、絶縁層上にレジストパターンを形成し、そのパターンに沿って絶縁層をウェットエッチング法またはドライエッチング法によりエッチングした後、レジストパターンを除去する方法;金属基材と絶縁層と金属基材とが積層された積層体を準備し、その積層体の一方の金属基材をパターニングし、そのパターンをマスクとして絶縁層をエッチングした後、金属パターンを除去する方法;感光性ポリイミド樹脂組成物を用いて、金属基材上に直接、絶縁層のパターンを形成する方法が挙げられる。印刷法としては、グラビア印刷やフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法など公知の印刷技術を用いた方法を例示することができる。
【0125】
(3)絶縁層
絶縁層の表面粗さRaは、50μm×50μmのエリアで測定した際に、30nm以下であり、好ましくは100μm×100μmのエリアで測定した際に、30nm以下である。
なお、上記表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)もしくは走査型白色干渉計を用いて測定した値である。例えば、50μm×50μmのエリアで測定する場合には、AFMまたは走査型白色干渉計を用いてRaを算出することができる。また、100μm×100μmのエリアで測定した際に、30nm以下である。絶縁層が上記の平滑性を有することによのエリアで測定する場合には、走査型白色干渉計を用いてRaを算出することができる。具体的に、AFMを用いて測定する場合は、Nanoscope V multimode(Veeco社製)を用いて、タッピングモードで、カンチレバー:MPP11100、走査範囲:50μm×50μm、走査速度:0.5Hzにて、表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。また、走査型白色干渉計を用いて測定する場合は、New View 5000(Zygo社製)を用いて、対物レンズ:100倍、ズームレンズ:2倍、Scan Length:15μmにて、50μm×50μmの範囲の表面形状を撮像する、あるいは、対物レンズ:100倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、100μm×100μmの範囲の表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。
【0126】
絶縁層はポリイミドを含むものである。一般にポリイミドは吸水性を有する。TFT、薄膜太陽電池、EL素子等に用いられる半導体材料には水分に弱いものが多いことから、素子内部の水分を低減し、湿気存在下において高い信頼性を実現するために、絶縁層は吸水性が比較的小さいことが好ましい。吸水性の指標の一つとして、吸湿膨張係数がある。したがって、絶縁層の吸湿膨張係数は小さければ小さいほど好ましく、具体的には0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/%RH〜12ppm/%RHの範囲内、さらに好ましくは0ppm/%RH〜10ppm/%RHの範囲内である。吸湿膨張係数が小さいほど、吸水性が小さくなる。また、絶縁層の吸湿膨張係数が上記範囲であれば、絶縁層の吸水性を十分小さくすることができ、薄膜素子用基板の保管が容易であり、薄膜素子の製造工程が簡便になる。さらに、吸湿膨張係数が小さいほど、寸法安定性が向上する。絶縁層の吸湿膨張係数が大きいと、吸湿膨張係数がほとんどゼロに近い金属基材との膨張率の差によって、湿度の上昇とともに薄膜素子用基板が反ったり、絶縁層および金属基材の密着性が低下したりする場合がある。したがって、薄膜素子の製造過程においてウェットプロセスが行われる場合にも、吸湿膨張係数が小さいことが好ましい。
【0127】
なお、吸湿膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、耐熱フィルム(ユーピレックス S 50S(宇部興産(株)製))やガラス基板上に絶縁層フィルムを作製した後、絶縁層フィルムを剥離する方法や金属基板上に絶縁層フィルムを作製した後、金属をエッチングで除去し絶縁層フィルムを得る方法などがある。次いで、得られた絶縁層フィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。吸湿膨張係数は、湿度可変機械的分析装置(Thermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。例えば、温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持する。その後、湿度を50%RHに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値をサンプル長で割った値を吸湿膨張係数(C.H.E.)とする。測定の際、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重は1g/25000μm2とする。
【0128】
また、絶縁層の線熱膨張係数は、寸法安定性の観点から、金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm/℃以下、さらに好ましくは5ppm/℃以下である。絶縁層と金属基材との線熱膨張係数が近いほど、薄膜素子用基板の反りが抑制されるとともに、薄膜素子用基板の熱環境が変化した際に、絶縁層と金属基材との界面の応力が小さくなり密着性が向上する。また、薄膜素子用基板は、取り扱い上、0℃〜100℃の範囲の温度環境下では反らないことが好ましいのであるが、絶縁層の線熱膨張係数が大きいために絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が大きく異なると、薄膜素子用基板が熱環境の変化により反ってしまう。
なお、薄膜素子用基板に反りが発生していないとは、薄膜素子用基板を幅10mm、長さ50mmの短冊状に切り出し、得られたサンプルの一方の短辺を水平で平滑な台上に固定した際に、サンプルのもう一方の短辺の台表面からの浮上距離が1.0mm以下であることをいう。
【0129】
具体的に、絶縁層の線熱膨張係数は、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内、最も好ましくは0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内である。
【0130】
なお、線熱膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、上述したとおりである。次いで、得られた絶縁層を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。線熱膨張係数は、熱機械分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。測定条件は、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲内の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とする。
【0131】
絶縁層は絶縁性を備えるものである。具体的に、絶縁層の体積抵抗は、1.0×109Ω・m以上であることが好ましく、1.0×1010Ω・m以上であることがより好ましく、1.0×1011Ω・m以上であることがさらに好ましい。
なお、体積抵抗は、JIS K6911、JIS C2318、ASTM D257 などの規格に準拠する手法で測定することが可能である。
【0132】
絶縁層の吸湿膨張係数や線熱膨張係数は、例えばポリイミド成分の構造を適宜選択することで、制御することが可能である。
一般に金属基材の線熱膨張係数、すなわち金属の線熱膨張係数はある程度定まっているため、使用する金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド成分の構造を適宜選択することが好ましい。また、薄膜素子部の線熱膨張係数に応じて金属基材の線熱膨張係数を決定し、その金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド成分の構造を適宜選択することが好ましい。
【0133】
絶縁層は、金属基材上に全面に形成されていてもよく、金属基材上に部分的に形成されていてもよい。すなわち、金属基材の絶縁層および密着層が形成されている面に、絶縁層および密着層が存在せず、金属基材が露出している金属基材露出領域が設けられていてもよい。このような金属基材露出領域を有する場合には、薄膜素子用基板を用いて有機EL素子を作製する際に、封止部材と金属基材とを直に密着させることが可能となり、有機EL素子への水分の浸入をより強固に防ぐことが可能となる。また、封止部を金属基材露出領域に選択的に形成することで、有機EL素子を面内で区分けしたり、多面付けした状態で封止したりすることが可能となり、高い生産性で素子を製造できるといった利点を有する。また、金属基材露出領域は、絶縁層および密着層を貫通し金属基材に電気的に導通をとるための貫通孔にもなり得る。
【0134】
絶縁層が金属基材上に部分的に形成されている場合、図7(a)、(b)に例示するように、絶縁層3は、少なくとも金属基材2の外縁部を除いて形成されていてもよい。なお、図7(a)は図7(b)のA−A線断面図であり、図7(b)において密着層は省略されている。薄膜素子用基板を用いて有機EL素子等を作製した場合に、金属基材の全面に絶縁層が形成されており絶縁層の端部が露出していると、一般にポリイミドは吸湿性を示すため、製造時や駆動時に絶縁層の端面から素子内部に水分が浸入するおそれがある。この水分によって、素子性能が劣化したり、絶縁層の寸法が変化したりする。そのため、金属基材の外縁部には絶縁層が形成されておらず、直接外気にポリイミドを含有する絶縁層が曝される部分をできる限り少なくすることが好ましい。
【0135】
なお、本発明において、絶縁層が金属基材上に部分的に形成されているとは、絶縁層が金属基材の全面に形成されていないことを意味する。
絶縁層は、金属基材の外縁部を除いて金属基材上に一面に形成されていてもよく、金属基材の外縁部を除いて金属基材上にさらにパターン状に形成されていてもよい。
【0136】
絶縁層の厚みは、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されないが、具体的には、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmの範囲内、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内である。絶縁層の厚みが薄すぎると、絶縁性が維持できなかったり、金属基材表面の凹凸を平坦化することが困難であったりするからである。また、絶縁層の厚みが厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、製膜時の乾燥が困難になったり、材料使用量が増えるためにコストが高くなったりするからである。さらには、本発明により製造される薄膜素子用基板に放熱機能を付与する場合には、絶縁層の厚みが厚いとポリイミドは金属よりも熱伝導率が低いために熱伝導性が低下する。
【0137】
3.密着層形成工程
本発明における密着層形成工程は、絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する工程である。密着層は、絶縁層と薄膜素子部との間で十分な密着力を得るために設けられる層である。
【0138】
密着層の形成に用いられる無機化合物としては、後述する特性を満たす密着層を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロム、酸化チタンを挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0139】
密着層は、単層であってもよく多層であってもよい。
多層膜の密着層を形成する場合、上述の無機化合物からなる層を複数層積層してもよく、上述の無機化合物からなる層と金属からなる層とを積層してもよい。この場合に用いられる金属としては、後述の特性を満たす密着層を形成することができれば特に限定されるものではなく、例えば、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素を挙げることができる。
また、多層膜の密着層を形成する場合、密着層の最表層は酸化ケイ素膜であることが好ましい。すなわち、酸化ケイ素膜上に薄膜素子部を形成することが好ましい。酸化ケイ素膜は後述の特性を十分に満たすからである。この場合の酸化ケイ素はSiOx(Xは1.5〜2.0の範囲内)であることが好ましい。
【0140】
中でも、密着層4は、図8に例示するように、絶縁層3上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層4aと、第1密着層4a上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層4bとを有することが好ましい。第1密着層により絶縁層と第2密着層との密着性を高めることができ、第2密着層により絶縁層と薄膜素子部との密着性を高めることができるからである。また、酸化ケイ素からなる第2密着層は後述の特性を十分に満たすからである。
【0141】
密着層の形成方法としては、上述の無機化合物からなる層や上述の金属からなる層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、DC(直流)スパッタリング法、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD(化学気相蒸着)法等を挙げることができる。中でも、上述の無機化合物からなる層を形成する場合であって、アルミニウムやケイ素を含む層を形成する場合には、反応性スパッタリング法を用いることが好ましい。絶縁層との密着性に優れる膜が得られるからである。
【0142】
密着層は平滑性を有することが好ましい。密着層の表面粗さRaは、金属基材の表面粗さRaよりも小さければよく、具体的に、25nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。密着層の表面粗さRaが大きすぎると、本発明により製造される薄膜素子用基板上に薄膜素子部を作製した際に、薄膜素子の特性が劣化するおそれがあるからである。
なお、上記表面粗さの測定方法については、上記絶縁層の表面粗さの測定方法と同様である。
【0143】
また、密着層は耐熱性を有することが好ましい。薄膜素子部の形成時に、高温処理が施される場合があるからである。密着層の耐熱性としては、密着層の5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましい。
なお、5%重量減少温度の測定については、熱分析装置(DTG−60((株)島津製作所製))を用いて、雰囲気:窒素雰囲気、温度範囲:30℃〜600℃、昇温速度:10℃/minにて、熱重量・示差熱(TG−DTA)測定を行い、試料の重量が5%減る温度を5%重量減少温度(℃)とした。
【0144】
密着層は、通常、絶縁性を有する。薄膜素子用基板には絶縁性が求められるからである。
【0145】
また、薄膜素子がTFTである場合、密着層は、絶縁層に含まれる不純物イオンなどがTFTの半導体層に拡散するのを防ぐものであることが好ましい。具体的に、密着層のイオン透過性としては、鉄(Fe)イオン濃度が0.1ppm以下であることが好ましく、あるいはナトリウム(Na)イオン濃度が50ppb以下であることが好ましい。なお、Feイオン、Naイオンの濃度の測定方法としては、密着層上に形成された層をサンプリングして抽出した後、イオンクロマトグラフィー法により分析する方法が用いられる。
【0146】
密着層の厚みは、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されないが、具体的には、1nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。中でも、密着層が上述したように第1密着層および第2密着層を有する場合、第2密着層の厚みは第1密着層よりも厚く、第1密着層は比較的薄く、第2密着層は比較的厚いことが好ましい。この場合、第1密着層の厚みは、0.1nm〜50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは1nm〜10nmの範囲内である。また、第2密着層の厚みは、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは50nm〜300nmの範囲内、さらに好ましくは80nm〜120nmの範囲内である。厚みが薄すぎると、十分な密着性が得られないおそれがあり、厚みが厚すぎると、密着層にクラックが生じるおそれがあるからである。
【0147】
密着層は、金属基材上に全面に形成してもよく、金属基材上に部分的に形成してもよい。中でも、絶縁層を金属基材上に部分的に形成する場合には、図7(a)に例示するように、密着層4も絶縁層3と同様に金属基材2上に部分的に形成することが好ましい。金属基材上に直に無機化合物を含む密着層を形成すると、密着層にクラックなどが生じる場合があるからである。すなわち、密着層および絶縁層は同様の形状であることが好ましい。
【0148】
4.脱気工程
本発明においては、上記絶縁層形成工程前に、下記方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する脱気工程を行うことが好ましい。
<相対溶存酸素飽和率の算出方法>
まず、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒を用いて、全く酸素が溶存していない上記溶媒の溶存酸素量の測定値が0、上記溶存酸素飽和溶媒の溶存酸素量の測定値が100となるように、溶存酸素量計の校正を行う。次に、校正された上記溶存酸素量計により、ポリイミド樹脂組成物を大気下で1時間以上静置した基準ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値と、ポリイミド樹脂組成物を脱気した脱気ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値とを測定する。そして、上記基準ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値を100%としたときの、上記脱気ポリイミド樹脂組成物の溶存酸素量の相対値を、相対溶存酸素飽和率とする。
【0149】
ここで、液体中の泡は、気体がガス状のままで液体中に混合している状態である。この泡は、外部から混入するだけでなく、液体から発生することが非常に多く見られる。一方、溶存気体とは、液体中に溶解している気体を意味し、これは泡のように目で見ることはできない。本工程においては、この液体中の「溶存気体」を除去する。
気体の液体に対する溶解量は、液体の種類、温度や圧力、さらには接液材質によって変化し、飽和量以上の溶存気体は泡となって出現する。つまり、泡のない状態の液体であっても、温度や圧力等が変化すると泡を発生することになる。一方で、液体中に泡が存在しても、所定の温度や圧力等である場合、または気体の溶解量が飽和値に満たない場合、泡は液体中に溶解してなくなってしまう。すなわち、単に泡を除去するだけでは不十分であり、溶存気体を除去することが重要である。
【0150】
したがって、ポリイミド樹脂組成物が大気と充分な時間接していて、ポリイミド樹脂組成物に空気が定常的に溶解した状態においては、少しの圧力や温度の変化で飽和量以上の溶存気体が泡として発生してしまうことが予想される。しかしながら、空気が定常的に溶解した状態のポリイミド樹脂組成物の溶存気体量を100%としたとき、ポリイミド樹脂組成物の溶存気体量が95%程度である場合には、圧力や温度の変化によってもすぐには溶存気体の飽和量を超えることがないため、泡の発生を抑制することが可能になる。
【0151】
溶存気体について、ポリイミド樹脂組成物が大気に接している状況下では、ポリイミド樹脂組成物中に溶解している気体の大部分は窒素または酸素となる(大気中の存在量が酸素の次に多いアルゴンでも酸素の1/20以下であるため)。窒素は不活性ガスのため測定が困難であるが、酸素は測定可能である。また、多くの溶媒に関して同一温度・同一圧力下での溶媒に対する酸素と窒素の溶解度の比は1.4〜2.0であり(酸素の方が溶解しやすい)、大気中では窒素の分圧は酸素の分圧より3.7倍程度高いので、ヘンリーの法則から、大気に接している状態では、窒素が酸素の1.9〜2.7倍程度溶解していると考えられる。この比は、圧力が高くない状態では、溶媒の種類が同じであれば一定であり、溶媒の種類が変わっても変動幅は1.9〜2.7倍程度とさほど大きくないので、溶存酸素量を求めることにより、窒素および酸素を合せた溶存気体の量を見積ることが可能である。
【0152】
溶存酸素量は、水以外の溶媒中では絶対値を測定することが困難である。そこで、ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒の溶存酸素量を基準として、相対値(相対溶存酸素飽和率)で評価する。
【0153】
ポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合、ポリイミド樹脂組成物を塗布して乾燥する際に塗膜の表面にスキン層が生成し、溶媒や水が蒸発し難くなったり、気体が脱離し難くなったりするおそれがある。そのため、ポリイミド樹脂組成物中に気泡が含まれていたり、ポリイミド樹脂組成物中に気体が溶存していたりすると、気泡を内包する絶縁層が形成されてしまう。
薄膜素子用基板では、薄膜素子部が薄いため、薄膜素子部に影響を及ぼすようなナノメートルオーダーの気泡を低減することが好ましい。特に、TFTではチャネル形成領域に影響を及ぼすようなナノメートルオーダーの気泡を低減することが好ましい。ナノメートルオーダーの気泡は、マイクロメートルオーダーの気泡とは異なり、大気との界面から混入するのみではなく、ポリイミド樹脂組成物中に溶存している気体から発生することが多い。
【0154】
本発明において、絶縁層を形成する前に、所定の方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する場合には、絶縁層においてマイクロメートルオーダーの気泡だけでなくナノメートルオーダーの気泡も低減することができる。これにより、絶縁層の表面平滑性をさらに高めることが可能である。
【0155】
ポリイミド樹脂組成物を脱気する方法としては、所定の方法で算出した相対溶存酸素飽和率を95%以下とすることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、真空脱気、超音波脱気、多孔質膜を用いた脱気、非多孔質膜を用いた脱気などが挙げられる。真空脱気は、ポリイミド樹脂組成物を減圧して溶存気体の溶解度を下げる方法である。超音波脱気は、ポリイミド樹脂組成物に超音波振動を与えて分子振動で溶存気体を追い出す方法である。多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気は、膜への気体透過とポリイミド樹脂組成物中の気体の濃度差、圧力差を応用してポリイミド樹脂組成物中の溶存気体を除去する方法である。これらの脱気方法は、単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。中でも、真空脱気、真空脱気および超音波脱気の併用、インラインでの多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気が好ましい。
【0156】
真空脱気の際の圧力としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、ポリイミド樹脂組成物に用いる溶媒の蒸気圧に応じて適宜設定することが好ましい。中でも、真空脱気の際の圧力は、ポリイミド組成物に用いる溶媒の蒸気圧の1.1倍以上であることが好ましい。具体的に、真空脱気の際の圧力は、50,000Pa〜1Paの範囲内であることが好ましく、中でも10,000Pa〜1Paの範囲内、特に1,000Pa〜1Paの範囲内であることが好ましい。圧力が高いと脱気の効果が得られにくく、圧力が低いと溶媒が揮発してポリイミド樹脂組成物の濃度や粘度が変わり絶縁層の形成に悪影響を及ぼすからである。
また、真空脱気の際の時間としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、例えば1分〜60分程度とすることができる。
【0157】
超音波脱気の際の超音波の周波数としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではないが、15kHz〜400kHz程度であることが好ましい。
【0158】
超音波脱気の際の温度としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではないが、0℃〜100℃の範囲内であることが好ましく、中でも0℃〜80℃の範囲内、特に0℃〜50℃の範囲内が好ましい。温度が低いとポリイミド樹脂組成物の粘度が高い場合には脱気効率が低下し、温度が高いとポリイミド樹脂組成物の保存安定性等の特性が変化するおそれがあるからである。
また、超音波脱気の際の時間としては、ポリイミド樹脂組成物中の溶存酸素を除去することができれば特に限定されるものではなく、例えば1分〜60分程度とすることができる。
【0159】
多孔質膜または非多孔質膜を用いた脱気には、例えば、ERC社製の脱気装置を用いることができる。
【0160】
本発明において、脱気工程は上記絶縁層形成工程の直前に行うことが好ましい。ここで、絶縁層に気泡が内包される理由としては、上述したようなポリイミド樹脂組成物に含まれる気泡やポリイミド樹脂組成物中に溶存する気体、さらにはポリイミド樹脂組成物に含まれる水が関係するものと考えられる。脱気後のポリイミド樹脂組成物を任意の時間で放置すると、ポリイミド樹脂組成物中で気泡が発生したり、ポリイミド樹脂組成物中に気体が溶解したり、ポリイミド樹脂組成物が吸湿したりするおそれがある。したがって、絶縁層に内包される気泡を効果的に低減するには、絶縁層形成工程の直前に脱気工程を行うことが好ましいのである。
【0161】
なお、「直前」とは、ポリイミド樹脂組成物を脱気した後、ポリイミド樹脂組成物を塗布するまでの時間が60分以下である場合をいう。上記時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下である。
【0162】
本工程においては、上記方法で算出した相対溶存酸素飽和率が95%以下となるように、ポリイミド樹脂組成物を脱気する。
上記の溶存酸素量の測定に用いられる溶存酸素量計としては、例えば「B−506」(飯島電子工業株式会社製)などの酸素センサーを用いることができる。
上記相対溶存酸素飽和率は、95%以下であり、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0163】
5.その他の工程
本発明においては、上記絶縁層形成工程後に、金属基材をパターニングする金属基材パターニング工程を行ってもよい。これにより、金属基材が部分的に形成された薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、金属基材は、絶縁層に対して全面に形成されていてもよく、絶縁層に対して部分的に形成されていてもよい。さらに言い換えると、金属基材は、薄膜素子用基板の全面に形成されていてもよく、薄膜素子用基板に部分的に形成されていてもよい。金属基材が薄膜素子用基板の全面に形成されている場合には、酸素や水蒸気に対するガスバリア性を付与することができ、また放熱性を高めることができる。一方、金属基材が部分的に形成されている場合には、不必要な金属基材部分を除去することにより、軽量化を図ることができる。
【0164】
金属基材のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法、レーザー等で直接加工する方法を用いることができる。フォトリソグラフィー法としては、例えば、金属基材および絶縁層の積層体の状態で、金属基材上にドライフィルムレジストをラミネートし、ドライフィルムレジストをパターニングし、そのパターンに沿って金属基材をエッチングした後、ドライフィルムレジストを除去する方法が挙げられる。
【0165】
B.薄膜素子の製造方法
次に、本発明の薄膜素子の製造方法について説明する。
本発明の薄膜素子の製造方法は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とするものである。
【0166】
本発明においては、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板上に薄膜素子部を形成するので、特性に優れる薄膜素子を得ることができる。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、例えば薄膜素子部として有機EL素子を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、薄膜素子用基板において絶縁層上に密着層が形成されている場合には、薄膜素子用基板上に密着性良く薄膜素子部を形成することができ、薄膜素子の製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、薄膜素子部を構成する部材に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0167】
なお、「薄膜素子」とは、膜厚150nm以下の機能層を有する電子素子をいう。すなわち、「薄膜素子部」とは、膜厚150nm以下の機能層を有する電子素子部をいう。機能層の膜厚は100nm以下であることが好ましい。
機能層としては、絶縁層、電極層、半導体層、誘電体層、密着層、シード層などが挙げられる。その中でも、機能層は、絶縁層、電極層、半導体層、誘電体層であることが好ましい。これらの層は、ナノメートルオーダーの凸凹により、断線、ショート、欠陥等、素子の動作に対して重大な影響を与える不具合が生じることになるため、平坦性が高いことが特に好ましいからである。
機能層は、薄膜素子用基板上に直に形成されていてもよく、薄膜素子用基板上に中間層を介して形成されていてもよい。中間層は、薄膜素子用基板の表面粗さを著しく変化させるものでなければ特に限定されるものではない。
【0168】
なお、薄膜素子用基板については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。以下、本発明の薄膜素子の製造方法における薄膜素子部形成工程について説明する。
【0169】
本発明における薄膜素子部形成工程は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する工程である。
【0170】
薄膜素子部としては、上記機能層を有する電子素子部であれば特に限定されるものではなく、例えば、TFT、薄膜太陽電池、EL素子、RFID(Radio Frequency IDentification:ICタグ)、メモリー等が挙げられる。
なお、TFTについては後述の「C.TFTの製造方法」の項に記載するのでここでの説明は省略する。
薄膜太陽電池としては、CIGS(Cu(銅),In(インジウム),Ga(ガリウム),Se(セレン))太陽電池、有機薄膜太陽電池等が挙げられる。
EL素子としては、有機EL素子および無機EL素子のいずれであってもよい。
薄膜素子部の形成方法としては、薄膜素子部の種類に応じて適宜選択され、一般的な方法を採用することができる。
【0171】
C.TFTの製造方法
次に、本発明のTFTの製造方法について説明する。
本発明のTFTの製造方法は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成するTFT形成工程を有することを特徴とするものである。
【0172】
図3(a)〜図5(b)は、本発明のTFTの製造方法により製造されるTFTの例を示す概略断面図である。図3(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図3(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図4(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図4(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図5(a)、(b)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えている。なお、図3(a)〜図5(b)に示すTFTの各構成については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0173】
本発明においては、表面平滑性に優れる薄膜素子用基板上にTFTを形成するので、電気的性能の良好なTFTを得ることができる。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合には水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、またTFTを用いて電子ペーパーを作製した場合には素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による表示特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、薄膜素子用基板において絶縁層上に密着層が形成されている場合には、薄膜素子用基板上に密着性良くTFTを形成することができ、TFTの製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、電極や半導体層に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0174】
以下、本発明のTFTの製造方法におけるTFT形成工程およびその他の点について説明する。
【0175】
1.TFT形成工程
本発明におけるTFT形成工程は、上述の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、TFTを形成する工程である。
なお、薄膜素子用基板については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0176】
TFTの構造としては、例えば、トップゲート構造(正スタガ型)、ボトムゲート構造(逆スタガ型)、コプレーナ型構造を挙げることができる。トップゲート構造(正スタガ型)およびボトムゲート構造(逆スタガ型)の場合には、さらにトップコンタクト構造、ボトムコンタクト構造を挙げることができる。これらの構造は、TFTを構成する半導体層の種類に応じて適宜選択される。
TFTの形成は、TFTの構造に応じて適宜選択される。
【0177】
TFTを構成する半導体層としては、薄膜素子用基板上に形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコン、酸化物半導体、有機半導体が用いられる。
【0178】
シリコンとしては、ポリシリコン、アモルファスシリコンを用いることができる。
酸化物半導体としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgxZn1−xO)、酸化カドミウム亜鉛(CdxZn1−xO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化タングステン(WO)、InGaZnO系、InGaSnO系、InGaZnMgO系、InAlZnO系、InFeZnO系、InGaO系、ZnGaO系、InZnO系を用いることができる。
有機半導体としては、例えば、π電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等を挙げることができる。より具体的には、ペンタセン、テトラセン、チオフェンオリゴマ誘導体、フェニレン誘導体、フタロシアニン化合物、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、シアニン色素等が挙げられる。
【0179】
中でも、半導体層は、上述の酸化物半導体からなる酸化物半導体層であることが好ましい。酸化物半導体は水や酸素の影響によりその電気特性が変化するが、薄膜素子用基板は上述したように水蒸気に対するガスバリア性を有するため、半導体の特性劣化を抑制することができる。また、TFTを有機EL表示装置に用いる場合には、有機EL表示装置は水や酸素に対する耐性に劣るが、金属基材によって酸素および水蒸気の透過を抑制することができるので、素子性能の劣化を抑制することができる。
半導体層の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0180】
TFTを構成するゲート電極、ソース電極およびドレイン電極としては、所望の導電性を備えるものであれば特に限定されるものではなく、一般的にTFTに用いられる導電性材料を用いることができる。このような材料の例としては、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、Au、Ag、Pt、Mo−Ta合金、W−Mo合金、ITO、IZO等の無機材料、および、PEDOT/PSS等の導電性を有する有機材料を挙げることができる。
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0181】
TFTを構成するゲート絶縁膜としては、一般的なTFTにおけるゲート絶縁膜と同様のものを用いることができ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の絶縁性無機材料、および、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の絶縁性有機材料を用いることができる。
ゲート絶縁膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0182】
TFT上には保護膜が形成されていてもよい。保護膜は、TFTを保護するために設けられるものである。例えば、半導体層が空気中に含有される水分等に曝露されることを防止することができる。保護膜が形成されていることにより、TFT性能の経時劣化を低減することができるのである。このような保護膜としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素等の絶縁性無機材料、および、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の絶縁性有機材料が用いられる。
保護膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
半導体層が酸化物半導体層である場合、酸化物半導体層上に保護膜をスパッタリング法等により形成すると、酸化物半導体では酸素が欠損するおそれがあるが、保護膜の形成後に酸素の存在下でアニール処理を行なうことで、酸素欠陥を補うことができる。このアニール処理は数百度と高温で行なわれるため、ポリイミドを含む絶縁層の寸法変化が懸念されるが、本発明においては密着層が形成されているので、アニール処理によって絶縁層の寸法が変化した場合であっても、絶縁層とTFTとの密着性を維持することができ、TFTの剥離やクラックを抑制することが可能である。
【0183】
2.用途
本発明のTFTの製造方法により製造されるTFTは、例えば、有機EL表示装置、電子ペーパー、反射型液晶表示装置、RFIDなどの回路、およびセンサーなどに用いることができる。中でも、有機EL表示装置、電子ペーパーが好適である。
【0184】
D.薄膜素子
本発明の薄膜素子は、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部とを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0185】
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、微細な凹凸による薄膜素子の特性の低下を防ぐことが可能である。
また本発明によれば、金属基材によって水分や酸素の透過を低減することができるので、水分や酸素による薄膜素子部の劣化を抑制することができ、また素子内の湿度を保ち、湿度変化による特性の低下を抑制することができる。
さらに、一般に金属基材は熱伝導性に優れるので、放熱性を有する薄膜素子用基板を得ることができる。すなわち、水分の遮断性が高いとともに、熱を速やかに伝導もしくは放射することができる薄膜素子用基板を得ることができる。例えば薄膜素子部が有機EL素子である場合、有機EL素子の発光時の発熱による悪影響を抑制することができ、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
また、金属基材を有することで、強度の高い薄膜素子用基板を得ることができるので、耐久性を向上させることができる。
以下、本発明の薄膜素子における各構成について説明する。
【0186】
1.薄膜素子用基板
本発明における薄膜素子用基板は、金属基材と、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層とを有し、絶縁層上に無機化合物を含む密着層が形成されていないものである。
以下、薄膜素子用基板における各構成について説明する。
【0187】
(1)絶縁層
本発明における絶縁層は、金属基材上に形成され、ポリイミドを含有し、表面粗さRaが30nm以下であるものである。
【0188】
なお、絶縁層の表面粗さについては、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法 2.絶縁層形成工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
絶縁層の表面粗さRaを30nm以下とするには、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載する薄膜素子用基板の製造方法により薄膜素子用基板を作製することが好ましい。
【0189】
絶縁層はポリイミドを含むものであり、好ましくはポリイミドを主成分とする。
なお、絶縁層のその他の点については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法 2.絶縁層形成工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0190】
(2)金属基材
本発明における金属基材は、上記の絶縁層を支持するものである。
なお、金属基材については、上記「A.フレキシブルデバイス用基板 1.金属基材表面処理工程および5.その他の工程」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0191】
2.薄膜素子部
本発明における薄膜素子部は、薄膜素子用基板の絶縁層上に直に形成されるものである。
なお、薄膜素子部については、上記「B.薄膜素子の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0192】
E.TFT
本発明のTFTは、金属基材、および、上記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、上記絶縁層上に直に形成されたTFTとを有し、上記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とするものである。
【0193】
図9(a)〜図11(b)は、本発明のTFTの例を示す概略断面図である。図9(a)〜図11(b)において、TFT10はいずれも、金属基材2および金属基材2上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層3を有する薄膜素子用基板1と、薄膜素子用基板1の絶縁層3上に直に形成されたTFTとを有している。図9(a)に例示するTFT10は、トップゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図9(b)に例示するTFT10は、トップゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図10(a)に例示するTFT10は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するTFTを備え、図10(b)に例示するTFT10は、ボトムゲート・トップコンタクト構造を有するTFTを備えている。図11(a)、(b)に例示するTFT10は、コプレーナ型構造を有するTFTを備えている。なお、図9(a)〜図11(b)に示すTFTの各構成については、上記「A.薄膜素子用基板の製造方法」の項に記載した図3(a)〜図5(b)に示すTFTの各構成と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0194】
本発明によれば、絶縁層が表面平滑性に優れるので、電気的性能の良好なTFTを得ることが可能である。
また、薄膜素子用基板は酸素や水蒸気に対するガスバリア性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合には水分や酸素による素子性能の劣化を抑制することができ、またTFTを用いて電子ペーパーを作製した場合には素子内の湿度を一定に保ち湿度変化による表示特性の劣化を抑制することができる。さらに、薄膜素子用基板はガスバリア性だけでなく放熱性を有するので、TFTを用いて有機EL表示装置を作製した場合、発光特性を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、発光ムラのない均一な発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊を低減することが可能である。
【0195】
なお、TFTについては、上記「C.TFTの製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0196】
TFTを構成する半導体層、電極、ゲート絶縁膜等の絶縁層と接する層は絶縁層と良好な密着性を有することが好ましい。例えば半導体層が絶縁層と接する場合、半導体層は有機半導体層であることが好ましい。ここで、本発明における絶縁層は表面平滑性に優れるので、薄膜素子用基板の絶縁層上に直に半導体層を形成する場合には、密着性が低下する傾向にある。これに対し、半導体層として有機半導体層を用いることにより、絶縁層および有機半導体層の密着性を良好なものとすることができるとともに、有機半導体層は、シリコンや酸化物半導体からなる半導体層に比べて、柔軟性を有するため、TFTの製造時に水分や熱が加わってポリイミドを含む絶縁層の寸法が変化した場合であっても、有機半導体層に剥離やクラックが生じるのを防ぐことができる。
【0197】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0198】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[製造例]
1.ポリイミド樹脂組成物(ポリイミド前駆体溶液)の調製
(製造例1)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA) 4.0g(20mmol)とパラフェニレンジアミン(PPD) 8.65g(80mmol)とを500mlのセパラブルフラスコに投入し、200gの脱水されたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ、窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、そこへ、少しずつ30分かけて3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2無水物(BPDA) 29.1g(99mmol)を添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液1を得た。
【0199】
(製造例2)
反応温度および溶液の濃度が、17重量%〜19重量%になるようにNMPの量を調整した以外は、製造例1と同様の方法で、下記表1に示す配合比でポリイミド前駆体溶液2〜15およびポリイミド前駆体溶液Z(比較例)を合成した。
酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、p−フェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物(TAHQ)、p−ビフェニレンビストリメリット酸モノエステル酸二無水物(BPTME)を用いた。ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、1,4-Bis(4-aminophenoxy)benzene(4APB)、2,2′-Dimethyl-4,4′-diaminobiphenyl(TBHG)、2,2′-Bis(trifluoromethyl)-4,4′-diaminobiphenyl(TFMB)の1種または2種を用いた。
【0200】
【表1】
【0201】
(製造例3)
感光性ポリイミドとするために、上記ポリイミド前駆体溶液1に{[(4,5-dimethoxy-2-nitrobenzyl) oxy]carbonyl} 2,6-dimethyl piperidine (DNCDP)を溶液の固形分の15重量%添加し、感光性ポリイミド前駆体溶液1とした。
【0202】
(製造例4)
感光性ポリイミドとするために、上記ポリイミド前駆体溶液1に2−ヒドロキシ−5−メトキシ−桂皮酸とピペリジンとから合成したアミド化合物(HMCP)を溶液の固形分の10重量%添加し、感光性ポリイミド前駆体溶液2とした。
【0203】
【化9】
【0204】
(線熱膨張係数および吸湿膨張係数の評価)
上記ポリイミド前駆体溶液1〜15およびポリイミド前駆体溶液Zを、ガラス上に貼り付けた耐熱フィルム(ユーピレックスS 50S:宇部興産(株)製)に塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、耐熱フィルムから剥離し、膜厚15μm〜20μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚9μm〜15μmのポリイミド1〜15およびポリイミドZのフィルムを得た。
また、上記感光性ポリイミド前駆体溶液1および2を、ガラス上に貼り付けた耐熱フィルム(ユーピレックスS 50S:宇部興産(株)製)に塗布し、100℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、高圧水銀灯により365nmの波長の照度換算で2000mJ/cm2露光後、ホットプレート上で170℃10分加熱した後、耐熱フィルムより剥離し、膜厚10μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚6μmの感光性ポリイミド1および感光性ポリイミド2のフィルムを得た。
【0205】
<線熱膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とした。
【0206】
<湿度膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。湿度膨張係数は、湿度可変機械的分析装置Thermo Plus TMA8310改(リガク社製)によって測定した。温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持した。その後、湿度を50%RHに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値をサンプル長で割った値を湿度膨張係数(C.H.E.)とした。この際、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。
【0207】
(基板反り評価)
厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記のポリイミド前駆体溶液1〜15およびZ、ならびに感光性ポリイミド前駆体溶液1,2を用い、イミド化後の膜厚が10μm±1μmになるように線熱膨張係数評価のサンプル作成と同様のプロセス条件で、ポリイミド1〜15およびZのポリイミド膜、ならびに感光性ポリイミド1,2のポリイミド膜を形成した。その後、SUS304箔およびポリイミド膜の積層体を幅10mm×長さ50mmに切断し、基板反り評価用のサンプルとした。
【0208】
このサンプルを、SUS板表面にサンプルの短辺の片方のみをカプトンテープにより固定し、100℃のオーブンで1時間加熱した後、100℃に加熱されたオーブン内で、サンプルの反対側の短辺のSUS板からの距離を測定した。そのときの距離が、0mm以上0.5mm以下のサンプルを○、0.5mm超1.0mm以下のサンプルを△、1.0mm超のサンプルを×と判断した。
同様にこのサンプルを、SUS板表面にサンプルの短辺の片方のみをカプトンテープにより固定し、23℃85%Rhの状態の恒温恒湿槽に1時間静置したときの、サンプルの反対側の短辺のSUS板からの距離を測定した。そのときの距離が、0mm以上0.5mm以下のサンプルを○、0.5mm超1.0mm以下のサンプルを△、1.0mm超のサンプルを×と判断した。
これらの評価結果を以下に示す。
【0209】
【表2】
【0210】
SUS304箔の線熱膨張係数は17ppm/℃であることから、ポリイミド膜と金属箔との線熱膨張係数の差が大きいと積層体の反りが大きいことが確認された。
また、表2より、ポリイミド膜の吸湿膨張係数が小さいほど高湿環境下での積層体の反りが小さいことがわかる。
【0211】
2.絶縁層の形成
(絶縁層の形成1)
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1〜15をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚6μm〜12μmのポリイミド1〜15のポリイミド膜を形成し、積層体1〜15を得た。
積層体1〜15のうち、積層体1,2,3,5,6,8,9,10,12,15は、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。一方、積層体4,7,11,13,14は、反りが目立った。
【0212】
(絶縁層の形成2(絶縁層パターン))
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、ポリイミド前駆体膜上に、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅でレジストが除去されるように、レジスト製版し現像と同時にポリイミド前駆体膜を現像し、その後、レジストパターンを剥離したのち、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、外縁部の絶縁層が除去された積層体1Pを得た。
積層体1Pは、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0213】
(絶縁層の形成3(絶縁層パターン))
上記積層体10のポリイミド膜上に、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅でレジストが除去されるように、レジストパターンを形成した。ポリイミド膜が露出している部分を、ポリイミドエッチング液TPE-3000(東レエンジニアリング製)を用いて、除去後、レジストパターンを剥離し、外縁部の絶縁層が除去された積層体10Pを得た。
積層体10Pは、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0214】
(絶縁層の形成4(絶縁層パターン))
15cm角に切り出した厚さ18μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)上に、上記感光性ポリイミド前駆体溶液1および2をそれぞれダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた。次いで、正方形のSUS箔の三辺について外縁部より15mm幅で(紫外線が照射されないように)マスクし、高圧水銀灯により365nmの波長の照度換算で2000mJ/cm2露光後、ホットプレート上で170℃10分加熱した後、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚3μmの感光性ポリイミド1および感光性ポリイミド2のポリイミド膜を形成し、積層体11および12を得た。
積層体11,12は、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0215】
3.SUS箔の表面処理
厚さ20μmのSUS304−HTA箔(東洋精箔製)を15cm角に切り出し、下記表3に示す薬液および処理条件にて表面処理を行った。
表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔表面の、ポリイミド樹脂組成物の溶媒であるNMPに対する接触角について、接触角測定器(協和界面化学(株)製DM500型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴1.5μLを滴下して2秒後)した。接触角については、同一サンプル上で5点測定し、その平均値から算出した。
また、X線光電子分光分析(XPS)を用いて、表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔表面における検出全元素と炭素の原子数の存在比を算出した。
さらに、表面処理前のSUS箔および表面処理後の各SUS箔について、上記ポリイミド前駆体溶液1をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させて、塗布性を確認した。その結果、表面処理前のサンプルについては、時折ピンホールが発生した。また、処理例4については、時折塗布ムラが発生した。処理例1,2,3,5,6のサンプルについては、ピンホールや塗布ムラは発生せず、塗布性は良好であった。
【0216】
【表3】
【0217】
また、表面処理を施していない各種のSUS箔について、ポリイミド樹脂組成物の溶媒であるNMPに対する接触角を測定した。
【0218】
【表4】
【0219】
表面処理を施していない各種のSUS箔については、接触角の値にばらつきが見られた。これは、SUS箔表面の有機成分の残存度合いに差があるためだと思われる。
【0220】
4.ポリイミド前駆体溶液(ポリイミド樹脂組成物)の脱気
上記ポリイミド前駆体溶液1を固形分10%となるようにNMP溶媒で希釈した後、ガラス製のサンプル管に50mLずつ分取した。
(脱気方法)
(1)超音波
分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。
(2)真空
分取したサンプルについて、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後15分間減圧処理を行った。この際、最終到達圧力は230Paであった。
【0221】
(溶存酸素量の測定)
脱気したサンプルについて直ちに、酸素センサー「B−506」「MA−300G」「WA−BRP」(飯島電子工業株式会社製)を用いて溶存酸素量の測定を行った。
まず、基準として、N−メチルピロリドン(NMP)に空気を30分以上バブリングした溶存酸素飽和溶媒(溶存酸素飽和NMP)について、酸素センサーを用いて溶存酸素量を測定し、全く酸素が溶存していないNMPの溶存酸素量の測定値が0、溶存酸素飽和NMPの溶存酸素量の測定値が100となるように、酸素センサーの校正を行った。次に、校正した酸素センサーにより、大気下で1時間静置した基準ポリイミド前駆体溶液の溶存酸素量の相対値と、脱気したサンプルの溶存酸素量の相対値とを測定した。続いて、脱気したサンプルについて、基準ポリイミド前駆体溶液の溶存酸素量の相対値を100%としたときの、脱気したサンプルの溶存酸素量の相対値(相対溶存酸素飽和率)を算出した。比較として、大気下で1時間静置したNMPについても測定を行った。
【0222】
【表5】
【0223】
真空と比べて、超音波のみでは脱気の効果が小さいことが明らかとなった。また、真空のみでも、超音波と真空を組み合わせても、脱気の効果としてはさほど変わらないことが明らかとなった。
【0224】
(脱気後の経時変化)
超音波(10分)および真空(15分)にて脱気したサンプルについて、さらに大気下で静置し、溶存酸素量の経時変化を観測した。10分後までは低い溶存酸素量が維持されたが、それ以上の時間が経過すると大気からの吸収により脱気の効果が下がり、120分経過では脱気前に完全に戻ることがわかった。
【0225】
【表6】
【0226】
5.絶縁層の平坦性
(絶縁層1の形成)
上記表3の処理例1の表面処理を施したSUS箔上に、上記ポリイミド前駆体溶液1をイミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のホットプレートで15分間乾燥後、窒素雰囲気下、350℃1時間熱処理し(昇温速度10℃/分、自然放冷)、絶縁層1を形成した。
(絶縁層2の形成)
上記表3の表面処理前のSUS箔を用いて、上記絶縁層1の形成と同様にして、絶縁層2を形成した。
(絶縁層3の形成)
ポリイミド前駆体溶液1をガラス製のサンプル管に50mL分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。その後、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後20分間減圧処理を行った。次いで、上記表3の処理例1の表面処理を施したSUS箔上に、脱気後のポリイミド前駆体溶液1を、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のホットプレートで。15分間乾燥後、窒素雰囲気下、350℃1時間熱処理し(昇温速度10℃/分、自然放冷)、絶縁層3を形成した。
【0227】
(表面粗さの測定)
絶縁層1〜3の表面粗さRaを測定した。
New View 5000(Zygo社製)を用いて、(1)対物レンズ:10倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、1000μm×1000μmの範囲、(2)対物レンズ:50倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、200μm×200μmの範囲、(3)対物レンズ:100倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、100μm×100μmの範囲、(4)対物レンズ:100倍、ズームレンズ:2倍、Scan Length:15μmにて、50μm×50μmの範囲の表面形状をそれぞれ撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することより、各絶縁層の表面粗さRa(単位:nm)を求めた。
【0228】
【表7】
【0229】
表面処理により、絶縁層表面の平坦性が上がることが明らかとなった。また、脱気を併用することによりさらに効果が上がることも明らかとなった。
【0230】
6.密着層の平坦性
(密着層の形成)
ポリイミド前駆体溶液1をガラス製のサンプル管に50mL分取したサンプルについて、サンプル管の蓋を閉めたまま超音波洗浄機UT−106(シャープマニファクチャリングシステム株式会社製)を用いて、100W 37kHzで室温で10分間超音波処理をした。その後、サンプル管の蓋をあけて、検体乾燥機に入れ、真空ポンプを用いて減圧し、圧力が300Pa未満に到達後20分間減圧処理を行った。
10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、脱気処理を行ったポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。
次に、絶縁層上に、第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0231】
(表面粗さの測定)
絶縁層について、New View 5000(Zygo社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは13.2nmであった。
密着層について、New View 5000(Zygo社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは23.5nmであった。また、Nanoscope V multimode(Veeco社製)を用いて測定した50μm×50μmにおける表面粗さRaは15.9nmであった。
【0232】
[実施例1]
10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、上記ポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。
次に、絶縁層上に、第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0233】
ボトムゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記薄膜素子用基板上に作製した。まず、厚さ100nmのアルミニウム膜をゲート電極膜として成膜した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に燐酸溶液でウェットエッチングし、アルミニウム膜を所定パターンにパターニングしてゲート電極を形成した。次に、そのゲート電極を覆うように厚さ300nmの酸化ケイ素をゲート絶縁膜として全面に形成した。このゲート絶縁膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、6インチのSiO2ターゲットに投入電力:1.0kW(=3W/cm2)、圧力:1.0Pa、ガス:アルゴン+O2(50%)の成膜条件で形成した。この後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施し、コンタクトホールを形成した。次に、ゲート絶縁膜上の全面に厚さ100nmのチタン膜、アルミニウム膜、IZO膜をソース電極及びドレイン電極とするために蒸着した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に過酸化水素水溶液、燐酸溶液で連続的にウェットエッチングし、チタン膜を所定パターンにパターニングしてソース電極及びドレイン電極を形成した。このとき、ソース電極及びドレイン電極は、ゲート絶縁膜上であってゲート電極の中央部直上以外に離間したパターンとなるように形成した。
【0234】
次に、ソース電極及びドレイン電極を覆うように、全面に、In:Ga:Znが1:1:1のInGaZnO系アモルファス酸化物薄膜(InGaZnO4)を厚さ25nmとなるように形成した。アモルファス酸化物薄膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、室温(25℃)、Ar:O2を30:50とした条件下で、4インチのInGaZnO(In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いて形成した。その後、アモルファス酸化物薄膜上にレジストパターンをフォトリソグラフィーで形成した後、シュウ酸溶液でウェットエッチングし、そのアモルファス酸化物薄膜をパターニングし、所定パターンからなるアモルファス酸化物薄膜を形成した。こうして得られたアモルファス酸化物薄膜は、ゲート絶縁膜上であってソース電極及びドレイン電極に両側で接触するとともに該ソース電極及びドレイン電極を跨ぐように形成されていた。続いて全体を覆うように、厚さ100nmの酸化ケイ素を保護膜としてRFマグネトロンスパッタリング法で形成した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施した。その後、大気中300℃1時間のアニールを施し、TFTを作製した。
【0235】
[比較例]
表面処理を施していないSUS基材を用いたこと以外は実施例と同様にして、TFTの作製を行った。
【0236】
[評価結果]
表面処理を行っていないSUS基材上に作製したTFT(比較例)の電気特性を評価したところ、表面処理を行ったSUS基材上に作製したTFT(実施例1)に比べ、電界効果移動度の低下が見られた。また、比較例のTFTの一部でゲート電極とソース電極またはドレイン電極間に短絡が見られた。これらはSUS基材上に形成された絶縁層の表面平坦性が低いことに起因すると考えられる。尚、このような電極間の短絡はTFT以外でも、ディスプレイなどの配線にも起こりうる。この為、SUS基材上に形成された絶縁層の平坦化は必要である。
【0237】
[実施例2]
まず、上記ポリイミド前駆体溶液1を上記表5の脱気方法3にて脱気した。10%硫酸に1分間浸漬させた、厚さ100μmのSUS304−HTA基材(小山鋼材社製)上に、脱気したポリイミド前駆体溶液1を用いて、イミド化後の膜厚が7μm±1μmになるようにスピンコーターでコーティングし、100℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、絶縁層を形成した。これにより、薄膜素子用基板を得た。
【0238】
トップゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記薄膜素子用基板上に作製した。まず、Crをターゲットにしたスパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−730)により、マスクを用いてパターン状のソース電極およびドレイン電極を形成した。このときソース電極およびドレイン電極の厚みは50nmとした。
次いで、チオフェン系有機半導体を用いて、アルバック社製蒸着装置VPC−060によって、マスクを用いてパターン形成することにより有機半導体層を形成した。このとき、有機半導体層の膜厚は50nmとした。
次に、上記のソース電極、ドレイン電極および有機半導体層が形成された基板にゲート絶縁膜としてフォトレジスト(アクリル系ネガレジスト)をスピンコートした。その後、基板を120℃で2分乾燥させ、350mJ/cm2でパターン露光し、現像し、200℃のオーブンで30分熱処理させることにより、パターン状のゲート絶縁膜を形成した。
続いて、上記ゲート絶縁膜が形成された面上に、Crをターゲットにしたスパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−730)により、パターン状のゲート電極形状の開口部を有するメタルマスクを用いて、膜厚50nmのクロム膜を形成した。次いで、200nmのアルミニウム膜を蒸着し、ゲート電極を形成することにより、TFTを作製した。
【0239】
[評価]
作製したTFTのトランジスタ特性を測定した結果、電界効果移動度の低下や、ゲート電極とソース電極またはドレイン電極との間で短絡が見られることがなく、トランジスタとして駆動していることを確認した。
【符号の説明】
【0240】
1 … 薄膜素子用基板
2 … 金属基材
3 … 絶縁層
4 … 密着層
10 … TFT
13 … ポリイミド樹脂組成物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、
前記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程と
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項2】
前記金属基材表面処理工程にて、前記金属基材表面の前記ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属基材が鉄を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂組成物が、ポリイミド前駆体を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属基材表面処理工程後の前記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁層の線熱膨張係数と前記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層形成工程後に、前記絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する密着層形成工程を有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項10】
前記密着層を構成する前記無機化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項11】
前記密着層が多層膜であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項12】
前記密着層が、前記絶縁層上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層と、前記第1密着層上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層とを有することを特徴とする請求項11に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とする薄膜素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項12までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜トランジスタを形成する薄膜トランジスタ形成工程を有することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記薄膜トランジスタが、酸化物半導体層を有することを特徴とする請求項14に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項16】
金属基材、および、前記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、
前記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部と
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子。
【請求項17】
前記金属基材表面の前記絶縁層に用いられるポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下であることを特徴とする請求項16に記載の薄膜素子。
【請求項18】
前記金属基材が鉄を主成分とすることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の薄膜素子。
【請求項19】
前記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることを特徴とする請求項16から請求項18までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項20】
前記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることを特徴とする請求項16から請求項19までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項21】
前記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることを特徴とする請求項16から請求項20までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項22】
前記絶縁層の線熱膨張係数と前記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることを特徴とする請求項16から請求項21までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項23】
金属基材、および、前記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、
前記絶縁層上に直に形成された薄膜トランジスタと
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項1】
金属基材に薬液処理を施す金属基材表面処理工程と、
前記金属基材上にポリイミド樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する絶縁層形成工程と
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項2】
前記金属基材表面処理工程にて、前記金属基材表面の前記ポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下となるように、薬液処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属基材が鉄を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂組成物が、ポリイミド前駆体を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属基材表面処理工程後の前記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁層の線熱膨張係数と前記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層形成工程後に、前記絶縁層上に、無機化合物を含む密着層を形成する密着層形成工程を有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項10】
前記密着層を構成する前記無機化合物が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項11】
前記密着層が多層膜であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項12】
前記密着層が、前記絶縁層上に形成され、クロム、チタン、アルミニウム、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化クロムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種からなる第1密着層と、前記第1密着層上に形成され、酸化ケイ素からなる第2密着層とを有することを特徴とする請求項11に記載の薄膜素子用基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜素子部を形成する薄膜素子部形成工程を有することを特徴とする薄膜素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項12までのいずれかに記載の薄膜素子用基板の製造方法により製造される薄膜素子用基板上に、薄膜トランジスタを形成する薄膜トランジスタ形成工程を有することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記薄膜トランジスタが、酸化物半導体層を有することを特徴とする請求項14に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項16】
金属基材、および、前記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、
前記絶縁層上に直に形成された薄膜素子部と
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜素子。
【請求項17】
前記金属基材表面の前記絶縁層に用いられるポリイミド樹脂組成物に含まれる溶媒に対する接触角が30°以下であることを特徴とする請求項16に記載の薄膜素子。
【請求項18】
前記金属基材が鉄を主成分とすることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の薄膜素子。
【請求項19】
前記金属基材表面にて、X線光電子分光分析(XPS)により検出された全元素に対する炭素(C)の元素量の比が0.25以下であることを特徴とする請求項16から請求項18までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項20】
前記絶縁層の吸湿膨張係数が0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であることを特徴とする請求項16から請求項19までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項21】
前記絶縁層の線熱膨張係数が0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることを特徴とする請求項16から請求項20までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項22】
前記絶縁層の線熱膨張係数と前記金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることを特徴とする請求項16から請求項21までのいずれかに記載の薄膜素子。
【請求項23】
金属基材、および、前記金属基材上に形成され、ポリイミドを含む絶縁層を有する薄膜素子用基板と、
前記絶縁層上に直に形成された薄膜トランジスタと
を有し、前記絶縁層の表面粗さRaが30nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−233858(P2011−233858A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218533(P2010−218533)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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