説明

半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】正孔または電子の移動度を高めるとともに、NMOS領域とPMOS領域との表面の段差を抑制することが可能な半導体装置および半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、NMOS領域AとPMOS領域Bとを同一の基板11に備えた半導体装置であって、NMOS領域Aの基板11上に設けられるとともに、基板11の表面と異なる面方位を有する歪みSi層21と、PMOS領域Bの基板11上に設けられるとともに、基板11の表面と同じ面方位を有する歪み層からなる歪みSiGe層31とを備えたことを特徴とする半導体装置およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関するものであって、特に、チャネル層が歪み層で構成されているCMOSトランジスタ(CMOS)からなる半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置、特にCMOSデバイスでは、性能アップの観点から駆動能力向上および低消費電力化が進められており、ゲート絶縁膜の薄膜化や、ゲート構造の微細化で対応してきたが、リーク電流の増大や短チャネル効果等が顕著になりつつあり、単純な微細化による駆動能力向上が困難になってきている。
【0003】
そこで、近年、デバイス性能の向上を図るため、シリコン(Si)とシリコンゲルマニウム(SiGe)のヘテロ構造を利用する試みがなされている。例えば、NMOSトランジスタ(NMOS)の高速化を図るために、Si基板上にSiとSiよりも格子定数の大きいゲルマニウム(Ge)との混晶層を成長させることで、格子緩和された状態の緩和SiGe層を形成し、その上層に、引っ張り歪み状態の歪みSi層を形成する。この歪みSi層にチャネル領域を形成することで、チャネル領域におけるキャリア移動度(電子移動度)が向上することが知られている。また、例えばPMOSトランジスタ(PMOS)の高速化を図るために、Si基板上に圧縮歪み状態の歪みSiGe層を形成し、この歪みSiGe層にチャネル領域を形成することで、チャネル領域におけるキャリア移動度(正孔移動度)が向上することが知られている。
【0004】
これにより、NMOSのチャネル領域としては歪みSi層を用い、PMOSのチャネル領域としては歪みSiGe層を用いたCMOSデバイスの例が報告されている。このようなCMOSデバイスの製造方法としては、Si基板上に緩和SiGe層、歪みSi層、歪みSiGe層を積層形成した後、NMOS領域の歪みSiGe層を除去するとともに歪みSi層をある程度の深さまで除去することで、歪み率の高い歪みSi層を露出させる。そして、この露出された歪みSi層にNMOSトランジスタのチャネル領域を形成するとともに、歪みSiGe層にPMOSトランジスタのチャネル領域を形成してCMOSデバイスを製造している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、NMOSではSi基板の表面の面方位が(100)>(111)>(110)の順に電子移動度が高く、PMOSではSi基板の表面の面方位が(110)>(111)>(100)の順に正孔移動度が高くなることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−93025号公報
【特許文献2】See M Yang et al,「IEEE Electron Device Letters」(米),2003年,Vol.24,p.339
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したようなNMOSのチャネル領域に歪みSi層、PMOSのチャネル領域に歪みSiGe層を用いたCMOSデバイスであっても、キャリア移動度は十分に得られない。また、上述したようなCMOSデバイスの製造方法では、NMOS領域側の歪みSiGe層とある程度の厚さの歪みSi層を除去して歪みSi層を露出するため、NMOS領域とPMOS領域とで段差が生じてしまう。このため、各領域のゲート電極を形成した後、このゲート電極を覆う状態で絶縁膜を形成し平坦化した場合であっても、段差が残存し易く、絶縁膜の平坦性が悪くなる傾向にある。これにより、その後のコンタクトホールを形成する際の露光時やエッチング時のプロセスマージンが小さくなり、コンタクトホールが精度よく形成されないという問題がある。
【0008】
さらに、通常用いられる表面が面方位(100)のSi基板では、NMOSでの電子移動度は高いものの、PMOSでの正孔移動度は十分に得られないという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したような課題を解決するために、本発明における半導体装置は、第1の素子領域と第2の素子領域とを同一の基板に備えた半導体装置であって、第1の素子領域の基板上に設けられるとともに、基板の表面と異なる面方位を有する第1の半導体層と、第2の素子領域の基板上に設けられるとともに、基板の表面と同じ面方位を有する歪み層からなる第2の半導体層とを備えたことを特徴としている。
【0010】
このような半導体装置によれば、第1の素子領域の基板上に設けられるとともに、基板の表面と異なる面方位を有する第1の半導体層と、第2の素子領域の基板上に設けられるとともに基板の表面と同じ面方位を有する第2の半導体層とが設けられている。これにより、第1の素子領域と第2の素子領域とで、キャリア移動度を向上させるのに最適な面方位で第1の半導体層および第2の半導体層をそれぞれ設けることが可能となる。また、第2の半導体層が歪み層で構成されていることから、第2の半導体層のキャリア移動度をさらに向上させることができる。そして、さらに第1の半導体層が歪み層で構成されている場合には、第1の素子領域と第2の素子領域の両方のキャリア移動度をさらに向上させることができる。
【0011】
また、本発明における半導体装置の製造方法は、第1の素子領域と第2の素子領域とを同一の基板に備えた半導体装置の製造方法であって、次のような工程を順次行うことを特徴としている。まず、第1工程では、基板上に絶縁層を形成するとともに、基板の表面と面方位の異なる第1の半導体層を絶縁層上に貼り合わせる工程を行う。次に、第2工程では、第2の素子領域の絶縁層および第1の半導体層を除去して基板を露出する工程を行う。続いて、第3工程では、露出された第2の素子領域の基板上に、基板の表面の面方位を維持した状態で、歪み層からなる第2の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を行うことを特徴としている。
【0012】
このような半導体装置の製造方法によれば、第1の素子領域の基板上に、基板の表面と面方位と異なる第1の半導体層を形成することから、同一の基板に設けられる第1の素子領域と第2の素子領域とで、面方位の異なる第1の半導体層と第2の半導体層とがそれぞれ形成される。これにより、キャリア移動度を向上させるのに最適な面方位で第1の半導体層と第2の半導体層をそれぞれ形成することで、第1の素子領域と第2の素子領域のキャリア移動度を向上させることが可能となる。また、第2の半導体層を歪み層で形成することで、第1の素子領域のキャリア移動度をさらに向上させることが可能となる。さらに、第1の半導体層を歪み層で形成する場合には、第1の素子領域と第2の素子領域の両方のキャリア移動度をさらに向上させることが可能となる。また、第2の素子領域の絶縁層および第1の半導体層が除去された基板上に、第2の半導体層を成長させることから、第1の素子領域と第2の素子領域との間での段差が抑制される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明における半導体装置およびその製造方法によれば、同一基板に設けられた第1の素子領域および第2の素子領域のキャリア移動度を向上させることができる。これにより、第1の素子領域がCMOSデバイスにおけるNMOS領域およびPMOS領域の一方であり、第2の素子領域が上記NMOS領域および上記PMOS領域の他方である場合には、NMOS領域およびPMOS領域の両方でキャリア移動度を向上させることができるため、CMOSのデバイス性能を向上させることができる。また、NMOS領域とPMOS領域との間での段差が抑制されることから、各領域に形成されるトランジスタと接続するコンタクトホールを精度よく形成することができるとともに、歩留まりを向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のCMOSデバイスの断面構成図である。この図に示すように、表面が面方位(110)のSi単結晶層からなるp型のSi基板(基板11)には、NMOS領域(第1の素子領域)AとPMOS領域(第2の素子領域)Bとが設けられている。基板11上には、基板11の表面の面方位(110)を維持した状態で緩和SiGe層12が設けられている。この緩和SiGe層12は、ここでの図示は省略したが、例えば上層に向けてSi層中のGe組成比が0からxとなるまで徐々に多くなるように、Si層中にGeを混入した傾斜SiGe層と、この傾斜SiGe層上に設けられたSi層中のGe組成比がxのSi1-xGex層とで構成されることとする。
【0015】
そして、NMOS領域Aの緩和SiGe層12上には、酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁層13が設けられており、この絶縁層13上には、引っ張り歪み状態の歪み層からなる歪みSi層21が設けられている。この歪みSi層21は、基板11の面方位(110)とは異なり、電子移動度を他の面方位よりも向上させることが可能な面方位(100)で形成されることとする。また、歪みSi層21は、引っ張り歪み状態であることで、歪みのないSi層よりも電子移動度が高くなるように構成されている。なお、ここでは、引っ張り歪み状態の歪みSi層21を用いることとしたが、電子移動度を向上させることが可能な引っ張り歪み状態の歪み層であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
この歪みSi層21は、後述する製造方法において詳細に説明するように、第1の基板11とは異なる、表面が(100)の面方位のSi単結晶層からなるp型のSi基板(接合基板)からこの面方位を維持した状態で形成される。そして、NMOS領域Aは、この歪みSi層21を絶縁層13上に貼り合わせることで、SOI(Silicon On Insulator)構造、具体的には、SSOI(Strained-Silicon On Insulator)構造を有した状態となっている。
【0017】
一方、PMOS領域Bの緩和SiGe層12上には、例えば、緩和SiGe層12のSi1-xGex層よりも高いGe組成比を有するSi1-yGey層(x<y)からなる圧縮歪み状態の歪み層からなる歪みSiGe層31が設けられている。この歪みSiGe層31は圧縮歪み状態であることで、歪みのないSi層よりも正孔移動度が高くなるように構成されている。また、歪みSiGe層31は、緩和SiGe層12の面方位を維持した状態、すなわち、基板11の表面の面方位(110)を維持した状態でエピタキシャル成長により形成してなることで、正孔移動度を他の面方位よりも向上させる面方位(110)で構成されている。なお、ここでは、圧縮歪み状態の歪みSiGe層31を用いることとしたが、正孔移動度を向上させることが可能な圧縮歪み状態の歪み層であれば、特に限定されるものではない。
【0018】
ここで、上述した緩和SiGe層12のSi1-xGex層のSiとGeの組成比と、歪みSiGe層31のSiとGeの組成比とで、歪みSiGe層31の歪み率が決定されるため、歪みSiGe層31が正孔移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、緩和SiGe層12のSi1-xGex層と、歪みSiGe層31のSi1-yGey層の組成比が調整されることとする。
【0019】
また、歪みSiGe層31上には、例えばSiからなる薄膜状のキャップ膜32が設けられている。キャップ膜32は、この歪みSiGe層31と後述するゲート電極33との界面状態を向上させるために必要であり、キャップ膜32の表面側またはキャップ膜32自体が熱酸化処理されることでゲート絶縁膜となるように構成されている。
【0020】
上述したNMOS領域AとPMOS領域Bとの間の表面側には、緩和SiGe層12の内部に達する状態のトレンチ14が設けられており、このトレンチ14内にはSiO2からなる素子分離膜15が設けられていることとする。この素子分離膜15により分離されたNMOS領域AとPMOS領域Bとには、NMOSトランジスタ20とPMOSトランジスタ30とがそれぞれ設けられている。
【0021】
NMOSトランジスタ20は、歪みSi層21上にゲート絶縁膜(図示省略)を介してゲート電極22が設けられており、ゲート電極22の両側にはサイドウォール23が設けられている。また、ゲート電極22の両側における歪みSi層21には、LDD領域24を介してソース・ドレイン領域25が形成された構成となっている。そして、上記歪みSi層21におけるLDD領域24を介してソース・ドレイン領域(N+型拡散領域)25に挟まれた領域がチャネル領域26となる。また、ゲート電極22とソース・ドレイン領域25の表面側にはシリサイド層27が設けられている。
【0022】
一方、PMOSトランジスタ30は、歪みSiGe層31上にゲート絶縁膜(キャップ膜32)を介してゲート電極33が形成され、ゲート電極33の両側にはサイドウォール34が設けられている。また、ゲート電極33の両側における歪みSiGe層31には、LDD領域35を介してソース・ドレイン領域(P+型拡散領域)36が形成された構成となっている。そして、上記歪みSiGe層31におけるLDD領域35を介してソース・ドレイン領域36に挟まれた領域がチャネル領域37となる。また、ゲート電極33とソース・ドレイン領域36の表面側にはシリサイド層38が設けられている。
【0023】
次に、上述したCMOSデバイスの製造方法を、図2〜図6の製造工程断面図に示す。
【0024】
図2(a)に示すように、例えば、表面が面方位(110)のSi単結晶層を成長させたp型のSi基板からなる基板11には、後工程でNMOSトランジスタを形成するNMOS領域(NMOS形成領域)Aと、PMOSトランジスタを形成するPMOS領域(PMOS形成領域)Bとが設けられていることとする。ここでは、NMOS領域Aが請求項の第1の素子領域に相当し、PMOS領域Bが第2の素子領域に相当する。
【0025】
まず、基板11上に、表面の面方位(110)を維持した状態で、緩和SiGe層12をエピタキシャル成長させる。この場合には、上層に向けてSiに対するGeの組成比を0からxまで徐々に増大させた傾斜SiGe層をエピタキシャル成長させた後、この傾斜SiGe層上に、SiとGeの組成比が1−x:xのSi1-xGex層をエピタキシャル成長させることで、傾斜SiGe層とSi1-xGex層とからなる緩和SiGe層12を形成する。
【0026】
ここで、緩和SiGe層12のSi1-xGex層のSiとGeの組成比と、後工程でPMOS領域Bの緩和SiGe層12上に形成する歪みSiGe層のSiとGeの組成比とで、歪みSiGe層の歪み率が決定され、この歪みSiGe層にはPMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、正孔移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、緩和SiGe層12のSi1-xGex層の組成比を設定することとする。
【0027】
次に、この緩和SiGe層12上に、例えばSiO2からなる絶縁層13を形成する。ここで、この絶縁層13の膜厚を調整することで、この絶縁層13上に歪みSi層を形成して設けられるNMOS領域Aの表面の高さを調整する。これにより、この後の工程で、PMOS領域B側の歪みSi層と絶縁層13を除去して緩和SiGe層12を露出した後、この緩和SiGe層12上に歪みSiGe層を成長させてPMOS領域Bの表面層を形成する際、NMOS領域AとPMOS領域Bとの表面の高さが同程度となるように、調整されることとする。
【0028】
一方、基板11の表面の面方位(110)とは面方位の異なる、例えば表面が面方位(100)のp型のSi基板からなる接合基板41上に、この面方位(100)を維持した状態で、緩和SiGe層42をエピタキシャル成長させる。この場合には、上層に向けてSiに対するGeの組成比を0からzまで徐々に増大させた傾斜SiGe層をエピタキシャル成長させた後、この傾斜SiGe層上に、SiとGeの組成比が1−z:zのSi1-zGez層をエピタキシャル成長させることで、傾斜SiGe層とSi1-zGez層とからなる緩和SiGe層42を形成する。ここで、Si1-zGez層の組成比により、後工程で緩和SiGe層42上に形成する歪みSi層の歪み率が決定される。そして、この歪みSi層にはNMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、電子移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、Si1-zGez層のSiとGeの組成比を設定する。
【0029】
続いて、緩和SiGe層42上に引っ張り歪み状態の歪みSi層(第1の半導体層)21を形成する。ここで、歪みSi層21の膜厚によっても、NMOS領域Aの表面の高さを調整することは可能であるが、歪みSi層21の膜厚は歪み率である程度決定されることから、上述したように、絶縁層13の膜厚でNMOS領域Aの表面の高さを調整することが好ましい。
【0030】
次に、基板11の絶縁層13形成面と、接合基板41の歪みSi層21の形成面を対向させて、絶縁層13と歪みSi層21とを貼り合わせる。これにより、基板11上に、基板11とは面方位の異なる面方位(100)の歪みSi層21が形成される。
【0031】
その後、図2(b)に示すように、接合基板41(前記図2(a)参照)と緩和SiGe層42(前記図2(a)参照)とに水素を導入して、接合基板41と緩和SiGe層42とをエッチング除去することで、基板11は、歪みSi層21が絶縁膜13上に設けられたSOI構造、具体的には、SSOI構造を有した状態となる。
【0032】
次に、図2(c)に示すように、歪みSi層21上に、SiO2膜16を形成した後、SiO2膜16上に、窒化シリコン(SiN)層17を形成する。続いて、図3(d)に示すように、POS領域B側のSiN膜17を露出させた状態で、レジストパターンRを形成する。次いで、図3(e)に示すように、このレジストパターンR(前記図3(d)参照)をマスクに用いたエッチングにより、SiN膜17とSiO2膜16を除去する。その後、レジストパターンRを除去する。
【0033】
次いで、図3(f)に示すように、SiN膜17とSiO2膜16をマスクに用いたエッチングにより、PMOS領域B側の、歪みSi層21と絶縁層13とを除去することで、緩和SiGe層12の表面を露出させる。
【0034】
次に、図4(g)に示すように、NMOS領域A側のSiN膜17、SiO2膜16、歪みSi層21および絶縁層13を覆う状態で、緩和SiGe層12上に、SiNからなる保護膜18を形成する。その後、図4(h)に示すように、この保護膜18をエッチバックすることで、NMOS領域A側の絶縁層13、歪みSi層21、SiO2膜16およびSiN膜17の側壁を覆う状態の保護膜18を残存させるとともに、PMOS領域B側の緩和SiGe層12の表面を露出させる。この保護膜18は、後工程で、PMOS領域B側の緩和SiGe層12上に、圧縮状態の歪みSiGe層をエピタキシャル成長させる際に、NMOS領域A側の歪みSi層21から横方向へSiGe層が成長することを防止するために設けられるものである。
【0035】
次いで、図4(i)に示すように、PMOS領域B側の露出された緩和SiGe層12上に、圧縮歪み状態の歪みSiGe層(第2の半導体層)31をエピタキシャル成長させる。この圧縮歪み状態の歪みSiGe層31は、緩和SiGe層12を構成する上層側のSi1-xGex層よりも高いGe組成比を有するSi1-yGey層(x<y)で形成されることとする。この歪みSiGe層31には、後工程でPMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、正孔移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、Si1-yGey層のSiとGeの組成比を設定することとする。また、この際、歪みSiGe層31をNMOS領域A側の歪みSi層21と同程度の高さまで成長させることが好ましく、後工程で歪みSiGe層31上に形成するキャップ膜の膜厚を差し引いた高さまで成長させれば、より好ましい。ただし、この歪みSiGe層31の膜厚は上述したような歪みSiGe層31の歪み率である程度決定されることから、図2(a)を用いて説明したように絶縁層13の膜厚でNMOS領域A側の高さを調整することが好ましい。
【0036】
その後、この歪みSiGe層31上に、例えばSiからなるキャップ膜32を形成する。この場合には、Si層を歪みSiGe層31上に選択的にエピタキシャル成長させる。これにより、Si層からなるキャップ膜32は歪みを有して形成される。
【0037】
次に、図5(j)に示すように、NMOS領域A側のSiN膜17(前記図4(i)参照)およびSiO2膜16(前記図4(i)参照)を除去することで、歪みSi層21の表面を露出させる。この際、NMOS領域A側の歪みSi層21の表面の高さと、PMOS領域B側のキャップ膜32の表面の高さが同程度に設けられることとする。
【0038】
次いで、図5(k)に示すように、NMOS領域AとPMOS領域Bとの間に通常のSTI(Shallow Trench Isolation)技術により各素子を分離するための素子分離領域を形成する。具体的には、NMOS領域AとPMOS領域Bとの間の保護膜18(前記図5(j)参照)を含む領域に、レジストパターン(図示省略)をマスクに用いたエッチングにより、緩和SiGe層12の内部に達する深さのトレンチ14を形成し、このトレンチ14の内部を例えばSiO2からなる素子分離膜15で埋め込む。
【0039】
この後の工程は、通常のCMOSトランジスタと同様の工程で行うこととする。すなわち、図5(l)に示すように、熱酸化処理を行うことで、NMOS領域Aの歪みSi層21の表面とPMOS領域Bのキャップ膜32の表面にSiO2からなるゲート絶縁膜(図示省略)を形成する。この際、キャップ膜32の表面側のみが酸化されてもよく、キャップ膜32の膜厚方向の全域が酸化されてもよい。次いで、このゲート絶縁膜上にゲート電極膜(図示省略)を成膜した後、このゲート電極膜をパターンニングすることで、NMOS領域AおよびPMOS領域Bにそれぞれ、ゲート電極22、33を形成する。
【0040】
次に、NMOS領域Aにおけるゲート電極22の両側の歪みSi層21の表面側に、例えば砒素(As+)からなるn型不純物を導入し、LDD領域24を形成する。また、PMOS領域Bのゲート電極33の表面側に、例えばホウ素(B+)からなるp型不純物を導入し、LDD領域35を形成する。その後、ゲート電極22、33を覆うように、歪みSiGe層31上および歪みSi層21上に、例えばSiO2からなる絶縁膜(図示省略)を成膜する。続いて、この絶縁膜を反応性イオンエッチングによりエッチバック除去して、ゲート電極22、33の側壁にサイドウォール23、34をそれぞれ形成する。
【0041】
次いで、NMOS領域Aにおけるサイドウォール23が形成されたゲート電極22の両側の歪みSi層21の表面側にAs+からなるn型不純物を導入し、ソース・ドレイン(SD)領域25を形成する。また、PMOS領域Bにおけるサイドウォール34が形成されたゲート電極33の両側の歪みSiGe層31の表面側にB+からなるp型不純物を導入し、SD領域36を形成する。その後、不活性ガス雰囲気下で800℃〜1050℃の熱処理を行うことにより、LDD領域24、35およびSD領域25、36の不純物を拡散し、活性化させる。これにより、NMOS領域Aの歪みSi層21に、LDD領域24を介してソース・ドレイン領域25に挟まれたチャネル領域26が形成される。また、PMOS領域Bの歪みSiGe層31に、LDD領域35を介してSD領域36に挟まれたチャネル領域37が形成される。
【0042】
その後、サイドウォール23、34が形成されたゲート電極22、33を覆うように、歪みSiGe層31上、素子分離膜15上および歪みSi層上に、例えばコバルト(Co)またはニッケル(Ni)からなる高融点金属膜(図示省略)を全面に形成する。次に、熱処理を行い、ゲート電極22、33およびSD領域25、36の表面側をシリサイド化する。これにより、ゲート電極22、33およびSD領域25、36の表面側にシリサイド層27、38が形成された半導体装置を得ることができる。その後、未反応の高融点金属膜を除去する。
【0043】
このような半導体装置およびその製造方法によれば、基板11上に設けられたNMOS領域Aのチャネル領域26は、電子移動度が最も向上する面方位(100)の引っ張り歪み状態の歪みSi層21に形成されるとともに、PMOS領域Bのチャネル領域37は、正孔移動度が最も向上する面方位(110)を有する圧縮歪み状態の歪みSiGe層31に形成される。これにより、CMOSデバイスにおけるNMOSトランジスタ20のキャリア移動度(電子移動度)とPMOSトランジスタ30のキャリア移動度(正孔移動度)とを向上させることが可能となる。したがって、CMOSデバイスの性能を向上させることができる。
【0044】
また、NMOS領域AとPMOS領域Bとの表面層の高さが同程度となるように調整することで、NMOS領域AとPMOS領域Bとの間での段差が抑制されることから、各領域に形成されるトランジスタと接続するコンタクトホールを精度よく形成することができるとともに、CMOSデバイスの歩留まりを向上させることが可能である。
【0045】
なお、本実施形態では、NMOSトランジスタ20が歪みSi層(第1の半導体層)21に設けられることとしたが、本発明はこれに限定されず、第1の半導体層は歪みのないSi層でもよい。この場合には、図2(a)を用いて説明した工程において、絶縁層13上に表面の面方位が(100)のSi層からなる接合基板41を直接貼り合わせてNMOSトランジスタ20のSOI構造を形成し、この接合基板41にNMOSトランジスタ20を形成する。これにより、NMOSトランジスタ20を電子移動度の最も高い面方位(100)を有する第1の半導体層に形成することができる。ただし、第1の半導体層を歪みSi層21で形成した方が、NMOSトランジスタ20の電子移動度をより向上させることができるため、好ましい。
【0046】
また、本実施形態ではNMOS領域Aに面方位(100)の歪みSi層(第1の半導体層)21を用い、PMOS領域Bに面方位(110)の歪みSiGe層(第2の半導体層)31を用いることとしたが、本発明はこれに限定されず、第1の半導体層または第2の半導体層のどちらか一方に、面方位(111)を有する半導体層を用いてもよい。背景技術でも説明したように、電子移動度は面方位(100)>(111)>(110)の順に高く、正孔移動度は(110)>(111)>(100)の順に高くなることから、面方位(111)を有する半導体層は電子移動度も正孔移動度も中程度の移動度を示す。
【0047】
これにより、NMOS領域Aにおいて、面方位(111)の第1の半導体層を用いることで、面方位(110)の半導体層を用いた場合よりも電子移動度を向上させることができる。この場合には、接合基板41に表面の面方位が(111)のSi単結晶層からなるSi基板を用い、この面方位を維持した状態で、緩和SiGe層42を介して、面方位(111)の歪みSi層21を形成し、絶縁層13上に貼り合わせる。
【0048】
また、PMOS領域Bにおいて、面方位(111)の第2の半導体層を用いることで、面方位(100)の半導体層を用いた場合よりも正孔移動度を向上させることができる。この場合には、基板11に表面の面方位が(111)のSi単結晶層からなるSi基板を用い、この面方位を維持した状態で、緩和SiGe層12を介して、面方位(111)の歪みSiGe層31をエピタキシャル成長させる。
【0049】
ただし、NMOS領域Aに面方位(100)の第1の半導体層を用い、PMOS領域Bに面方位(110)の第2の半導体層を用いた方が、電子移動度および正孔移動度をより向上させることができるため、好ましい。
【0050】
(第2実施形態)
図6に本実施形態のCMOSトランジスタの断面構成図を示す。この図に示すように、本実施形態では、第1実施形態における基板11に表面が(100)の面方位のSi単結晶層からなるp型のSi基板を用い、この基板11上に、PMOS領域(第1の素子領域)B’とNMOS領域(第2の素子領域)A’とが設けられた例について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付して説明することとする。
【0051】
この図に示すように、基板11上には、基板11の表面の面方位(100)を維持した状態で緩和SiGe層12が設けられている。この緩和SiGe層12は、ここでの図示は省略したが、例えば上層に向けてSi層中のGe組成比が0からxとなるまで徐々に多くなるように、Si層中にGeを混入した傾斜SiGe層と、この傾斜SiGe層上に設けられたSi層中のGe組成比がxのSi1-xGex層とで構成されることとする。
【0052】
ここで、この緩和SiGe層12のSi1-xGex層のSiとGeの組成比で、緩和SiGe層12上に設けられる歪みSi層21の歪み率が決定されるため、歪みSi層21が電子移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、緩和SiGe層12のSi1-xGex層の組成比が調整されることとする。
【0053】
そして、PMOS領域B’の緩和SiGe層12上には、SiO2からなる絶縁層13が設けられており、この絶縁層13上には、圧縮歪み状態の歪みSiGe層(第1の半導体層)31が設けられている。この歪みSiGe層31は、基板11の面方位(100)とは異なり、正孔移動度を他の面方位よりも向上させることが可能な面方位(110)で形成されることとする。また、歪みSiGe層31は、圧縮歪み状態であることで、歪みのないSi層よりも正孔移動度が高くなるように構成されている。
【0054】
この歪みSiGe層31は、後述する製造方法において詳細に説明するように、基板11とは異なる、表面が面方位(110)のSi単結晶層からなるp型のSi基板(接合基板)からこの面方位を維持した状態で形成される。そして、PMOS領域B’は、この歪みSiGe層31を絶縁層13上に貼り合わせた状態で構成されている。また、歪みSiGe層31上には例えばSiからなる薄膜状のキャップ膜32が設けられている。
【0055】
一方、NMOS領域A’の緩和SiGe層12上には、引っ張り歪み状態の歪みSi層(第2の半導体層)21が設けられている。この歪みSi層21は、引っ張り歪み状態であることで、歪みのないSi層よりも電子移動度が高くなるように構成されている。また、歪みSi層21は、緩和SiGe層12の面方位を維持した状態、すなわち、基板11の表面の面方位(100)を維持した状態で設けられることから、電子移動度を他の面方位よりも向上させる面方位(100)で構成されている。なお、ここでは、引っ張り歪み状態の歪みSi層21が設けられることとしたが、電子移動度を向上させることが可能な引っ張り歪み状態の歪み層であれば、特に限定されるものではない。
【0056】
上述したNMOS領域A’とPMOS領域B’の間の表面側には、緩和SiGe層12の内部に達する状態のトレンチ14が設けられており、このトレンチ14内にはSiO2からなる素子分離膜15が設けられていることとする。この素子分離膜15により分離されたNMOS領域A’とPMOS領域B’には、NMOSトランジスタ20とPMOSトランジスタ30がそれぞれ設けられている。これらのトランジスタは第1実施形態と同様の構成で設けられていることとする。
【0057】
すなわち、NMOSトランジスタ20は、歪みSi層21上にゲート絶縁膜(図示省略)を介してゲート電極22が設けられており、ゲート電極22の両側にはサイドウォール23が設けられている。また、ゲート電極22の両側における歪みSi層21には、LDD領域24を介してSD領域25が形成された構成となっている。そして、上記歪みSi層21におけるLDD領域24を介してSD領域(N+型拡散領域)25に挟まれた領域がチャネル領域26となる。また、ゲート電極22とSD領域25の表面側にはシリサイド層27が設けられている。
【0058】
一方、PMOSトランジスタ30は、歪みSiGe層31上にゲート絶縁膜(キャップ膜32)を介してゲート電極33が形成され、ゲート電極33の両側にはサイドウォール34が設けられている。また、ゲート電極33の両側に歪みSiGe層31には、LDD領域35を介してSD領域(P+型拡散領域)36が形成された構成となっている。そして、上記歪みSiGe層31におけるLDD領域35を介してSD領域36に挟まれた領域がチャネル領域37となる。また、ゲート電極33とSD領域36の表面側にはシリサイド層38が設けられている。
【0059】
次に、上述したCMOSデバイスの製造方法を、図7〜図11の製造工程断面図に示す。
【0060】
図7(a)に示すように、例えば、表面が(100)の面方位のSi単結晶層を成長させたp型のSi基板からなる基板11には、後工程でNMOSトランジスタを形成する、NMOS領域(NMOS形成領域)A’とPMOSトランジスタを形成するPMOS領域(PMOS形成領域)B’とが設けられていることとする。ここでは、NMOS領域A’が請求項の第2の素子領域に相当し、PMOS領域B’が第1の素子領域に相当する。
【0061】
まず、基板11上に、この面方位(100)を維持した状態で、緩和SiGe層12をエピタキシャル成長させる。この場合には、上層に向けてSiに対するGeの組成比を0からxまで徐々に増大させた傾斜SiGe層をエピタキシャル成長させた後、この傾斜SiGe層上に、SiとGeの組成比が1−x:xのSi1-xGex層をエピタキシャル成長させることで、傾斜SiGe層とSi1-xGex層とからなる緩和SiGe層12を形成する。
【0062】
ここで、緩和SiGe層12のSi1-xGex層のSiとGeの組成比で、後工程で、緩和SiGe層12上に形成される歪みSi層の歪み率が決定され、この歪みSi層にはNMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、電子移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、緩和SiGe層12のSi1-xGex層の組成比を設定する。
【0063】
次に、この緩和SiGe層12上に、例えばSiO2からなる絶縁層13を形成する。ここで、この絶縁層13の膜厚を調整することで、この絶縁層13上に歪みSiGe層およびキャップ膜を形成して設けられるPMOS領域B’の表面の高さを調整する。これにより、この後の工程で、NMOS領域A’側の歪みSiGe層と絶縁層13を除去して緩和SiGe層12を露出した後、この緩和SiGe層12上に歪みSi層を成長させてNMOS領域A’の表面層を形成する際、NMOS領域A’とPMOS領域B’との表面の高さが同程度となるように、調整されることとする。
【0064】
一方、基板11の表面の面方位(100)とは面方位の異なる、表面が面方位(110)のp型のSi基板からなる接合基板41上に、この接合基板41の面方位(110)を維持した状態で、緩和SiGe層42をエピタキシャル成長させる。この場合には、上層に向けてSiに対するGeの組成比を0からzまで徐々に増大させた傾斜SiGe層をエピタキシャル成長させた後、この傾斜SiGe層上に、SiとGeの組成比が1−z:zのSi1-zGez層をエピタキシャル成長させることで、傾斜SiGe層とSi1-zGez層とからなる緩和SiGe層42を形成する。
【0065】
ここで、この緩和SiGe層42のSi1-zGez層のSiとGeの組成比と、後工程で緩和SiGe層42上に形成する歪みSiGe層のSiとGeの組成比とで、歪みSiGe層の歪み率が決定され、この歪みSiGe層にはPMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、正孔移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、Si1-zGez層の組成比を設定する。
【0066】
次いで、緩和SiGe層42上に、圧縮歪み状態の歪みSiGe層(第1の半導体層)31をエピタキシャル成長させる。この圧縮歪み状態の歪みSiGe層31は、緩和SiGe層42を構成する上層側のSi1-zGez層よりも高いGe組成比を有するSi1-yGey層(z<y)で形成されることとする。この歪みSiGe層31には、後工程でPMOSトランジスタのチャネル領域が形成されることから、正孔移動度を向上させるのに最適な歪み率となるように、Si1-yGey層のSiとGeの組成比を設定することとする。ここで、歪みSiGe層31の膜厚によっても、PMOS領域Bの表面の高さを調整することは可能であるが、歪みSiGe層31の膜厚は歪み率である程度決定されることから、上述したように、絶縁層13の膜厚でPMOS領域B’の表面の高さを調整することが好ましい。
【0067】
次に、基板11の絶縁層13形成面と、接合基板41の歪みSiGe層31の形成面を対向させて、絶縁層13と歪みSiGe層31とを貼り合わせる。これにより、基板11上に、基板11とは面方位の異なる面方位(110)の歪みSiGe層31が形成される。
【0068】
その後、図7(b)に示すように、接合基板41(前記図7(a)参照)と緩和SiGe層42(前記図7(a)参照)とに水素を導入して、接合基板41と緩和SiGe層42とをエッチング除去することで、基板11は、歪みSiGe層31が絶縁層13上に設けられた状態となる。
【0069】
次に、図7(c)に示すように、歪みSiGe層31上に、SiO2膜16を形成した後、SiO2膜16上にSiN膜17を形成する。続いて、図8(d)に示すように、NMOS領域A’側のSiN膜17を露出させた状態で、レジストパターンRを形成する。次いで、図8(e)に示すように、このレジストパターンR(前記図8(d)参照)をマスクに用いたエッチングにより、SiN膜17とSiO2膜16を除去する。その後、レジストパターンRを除去する。
【0070】
次いで、図8(f)に示すように、SiN膜17とSiO2膜16をマスクに用いたエッチングにより、NMOS領域A’側の、歪みSiGe層31と絶縁層13とを除去することで、緩和SiGe層12の表面を露出させる。
【0071】
次に、図9(g)に示すように、PMOS領域B’側のSiN膜17、SiO2膜16、歪みSiGe層31および絶縁層13を覆う状態で、緩和SiGe層12上に、SiNからなる保護膜18を形成する。その後、図9(h)に示すように、この保護膜18をエッチバックすることで、PMOS領域B’側の緩和SiGe層12上の絶縁層13、歪みSiGe層31、SiO2膜16およびSiN膜17の側壁を覆う状態の保護膜18を残存させるとともに、NMOS領域A’側の緩和SiGe層12の表面を露出させる。この保護膜18は、後工程で、NMOS領域A’側の緩和SiGe層12上に、歪みSi層をエピタキシャル成長させる際に、PMOS領域B’側の歪みSiGe層31から横方向へSi層が成長することを防止するために設けられるものである。
【0072】
次いで、図9(i)に示すように、緩和SiGe層12上に、引っ張り歪み状態の歪みSi層21をエピタキシャル成長させる。この際、歪みSi層21をPMOS領域B’側の歪みSiGe層31と同程度の高さまで成長させることが好ましい。ただし、この歪みSi層21の膜厚は上述したような歪みSi層21の歪み率である程度決定されることから、図7(a)を用いて説明したように絶縁層13の膜厚でPMOS領域B’側の表面の高さを調整することが好ましい。
【0073】
次に、図10(j)に示すように、PMOS領域B’側のSiN膜17(前記図9(i)参照)およびSiO2膜16(前記図9(i)参照)を除去することで、歪みSiGe層31の表面を露出させる。その後、この歪みSiGe層31上に、例えばSiからなるキャップ膜32を形成する。この場合には、Si層を歪みSiGe層31上にエピタキシャル成長させることとする。これにより、Si層からなるキャップ膜32は歪みを有して形成される。また、この際、歪みSi層21の表面も露出されていることから、歪みSi層21上にSi層がさらに成長した状態となる。
【0074】
なお、ここでは、歪みSi層21を成長させた後、歪みSiGe層31の表面を露出させて、キャップ膜32を形成することとしたが、図7(b)を用いて説明した工程において、絶縁層13上に歪みSiGe層31を形成した後、歪みSiGe層31の表面にSi層をエピタキシャル成長させてキャップ膜32を形成してもよい。この場合には、その後の図8(f)を用いて説明した工程において、NMOS領域A’側の絶縁層13および歪みSiGe層31を除去する際、NMOS領域A’のキャップ膜32も一緒に除去される。
【0075】
次いで、図10(k)に示すように、NMOS領域A’とPMOS領域B’との間の保護膜18(前記図10(j)参照)を含む領域に、レジストパターンをマスクに用いたエッチングにより、緩和SiGe層12の内部に達する深さのトレンチ14を形成し、このトレンチ14の内部を例えばSiO2からなる素子分離膜15で埋め込む。
【0076】
この後の工程は、第1実施形態と同様に、通常のCMOSトランジスタと同様の工程で行うことで、図10(l)に示すように、NMOS領域A’にNMOSトランジスタ20を形成するとともに、PMOS領域B’にPMOSトランジスタ30を形成する。
【0077】
このような半導体装置およびその製造方法であっても、NMOS領域A’では、電子移動度が最も向上する面方位(100)を有する引っ張り歪み状態の歪みSi層21にNMOSトランジスタ20が形成されるとともに、PMOS領域B’では、正孔移動度が最も向上する面方位(110)の圧縮歪み状態の歪みSiGe層31にPMOSトランジスタ30が形成される。これにより、CMOSデバイスにおけるNMOSトランジスタ20の電子移動度とPMOSトランジスタ30の正孔移動度を向上させることが可能となる。したがって、CMOSデバイスの性能を向上させることができる。
【0078】
また、NMOS領域A’とPMOS領域B’の表面の高さが同程度となるように調整することで、NMOS領域A’とPMOS領域B’との間での段差が抑制されることから、各領域に形成されるトランジスタと接続するコンタクトホールを精度よく形成することができるとともに、CMOSデバイスの歩留まりを向上させることが可能である。
【0079】
なお、本実施形態では、PMOSトランジスタ30が歪みSiGe層31に設けられることとしたが、本発明はこれに限定されず、歪みのないSi層でもよい。この場合には、図7(a)を用いて説明した工程において、絶縁層13上に表面の面方位が(110)のSi層からなる接合基板41を直接貼り合わせる。そして、この接合基板41にPMOSトランジスタ30を形成する。これにより、PMOSトランジスタ30を正孔移動度の最も高い面方位(110)を有する第1の半導体層に形成することができる。ただし、PMOSトランジスタ30を圧縮歪み状態の歪みSiGe層31に形成した方が、PMOSトランジスタ30の正孔移動度をより向上させることができるため、好ましい。
【0080】
また、本実施形態ではPMOS領域(第1の素子領域)B’に面方位(110)の歪みSiGe層(第1の半導体層)31を用い、NMOS領域(第2の素子領域)A’に面方位(100)の歪みSi層(第2の半導体層)21を用いることとしたが、本発明はこれに限定されず、第1実施形態と同様に、第1の半導体層または第2の半導体層のどちらか一方に、面方位(111)を有する半導体層を用いてもよい。
【0081】
これにより、NMOS領域A’において、面方位(111)の第2の半導体層を用いることで、面方位(110)の半導体層を用いた場合よりも電子移動度を向上させることができる。この場合には、基板11に表面の面方位が(111)のSi単結晶層からなるSi基板を用い、この面方位を維持した状態で、緩和SiGe層12を介して、面方位(111)の歪みSi層21をエピタキシャル成長させる。
【0082】
また、PMOS領域B’において、面方位(111)の第1の半導体層を用いることで、面方位(110)の半導体層を用いた場合よりも正孔移動度を向上させることができる。この場合には、接合基板41に表面の面方位が(111)のSi単結晶層からなるSi基板を用い、この面方位を維持した状態で、緩和SiGe層42を介して、面方位(111)の歪みSiGe層31を形成し、絶縁層13上に貼り合わせる。
【0083】
ただし、NMOS領域A’に面方位(100)の第2の半導体層を用い、PMOS領域B’に面方位(110)の第1の半導体層を用いた方が、電子移動度および正孔移動度をより向上させることができるため、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の半導体装置に係る第1実施形態を説明するための断面構成図である。
【図2】本発明の半導体装置の製造方法に係る第1実施形態を説明するための製造工程断面図(その1)である。
【図3】本発明の半導体装置の製造方法に係る第1実施形態を説明するための製造工程断面図(その2)である。
【図4】本発明の半導体装置の製造方法に係る第1実施形態を説明するための製造工程断面図(その3)である。
【図5】本発明の半導体装置の製造方法に係る第1実施形態を説明するための製造工程断面図(その4)である。
【図6】本発明の半導体装置に係る第2実施形態を説明するための断面構成図である。
【図7】本発明の半導体装置の製造方法に係る第2実施形態を説明するための製造工程断面図(その1)である。
【図8】本発明の半導体装置の製造方法に係る第2実施形態を説明するための製造工程断面図(その2)である。
【図9】本発明の半導体装置の製造方法に係る第2実施形態を説明するための製造工程断面図(その3)である。
【図10】本発明の半導体装置の製造方法に係る第2実施形態を説明するための製造工程断面図(その4)である。
【符号の説明】
【0085】
11…基板、13…絶縁層、21…歪みSi層、31…歪みSiGe層、A,A’…NMOS領域、B,B’…PMOS領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の素子領域と第2の素子領域とを同一の基板に備えた半導体装置であって、
前記第1の素子領域の基板上に設けられるとともに、前記基板の表面と異なる面方位を有する第1の半導体層と、
前記第2の素子領域の基板上に設けられるとともに、前記基板の表面と同じ面方位を有する歪み層からなる第2の半導体層とを備えた
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1の素子領域はNMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はPMOSトランジスタ領域であり、
前記第1の半導体層の面方位は(100)であるとともに、前記第2の半導体層は圧縮歪み状態の歪み層からなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1の素子領域はPMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はNMOSトランジスタ領域であり、
前記第1の半導体層の面方位は(110)であるともに、前記第2の半導体層は引っ張り歪み状態の歪み層からなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1の半導体層が歪み層で形成されている
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記第1の素子領域はNMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はPMOSトランジスタ領域であり、
前記第1の半導体層は、面方位(100)の引っ張り歪み状態の歪み層からなり、
前記第2の半導体層は、面方位(110)の圧縮歪み状態の歪み層からなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記第1の素子領域はPMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はNMOSトランジスタ領域であり、
前記第1の半導体層は、面方位(110)の圧縮歪み状態の歪み層からなり、
前記第2の半導体層は、面方位(100)の引っ張り歪み状態の歪み層からなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1の半導体層は、前記基板上に絶縁膜を介して貼り合わせてなるとともに
前記第2の半導体層は、前記基板上にエピタキシャル成長により形成してなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
第1の素子領域と第2の素子領域とを同一の基板に備えた半導体装置の製造方法であって、
前記基板上に絶縁層を形成するとともに、前記基板の表面と面方位の異なる第1の半導体層を前記絶縁層上に貼り合わせる第1工程と、
前記第2の素子領域の前記絶縁層および前記第1の半導体層を除去して前記基板を露出する第2工程と、
露出された第2の素子領域の基板上に、前記基板の表面の面方位を維持した状態で、歪み層からなる第2の半導体層をエピタキシャル成長させる第3工程とを有する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の素子領域はNMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はPMOSトランジスタ領域であり、
前記第1工程では、面方位(100)の前記第1の半導体層を前記絶縁層上に貼り合わせるとともに、
前記第3工程では、圧縮歪み状態の歪み層からなる前記第2の半導体層をエピタキシャル成長させる
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の素子領域はPMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はNMOSトランジスタ領域であり、
前記第1工程では、面方位(110)の前記第1の半導体層を前記絶縁層上に貼り合わせるとともに、
前記第3工程では、引っ張り歪み状態の歪み層からなる前記第2の半導体層をエピタキシャル成長させる
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の半導体層が歪み層で形成されている
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の素子領域はNMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はPMOSトランジスタ領域であり、
前記第1工程では、面方位(100)の引っ張り歪み状態の歪み層からなる前記第1の半導体層を前記絶縁層上に貼り合わせるとともに、
前記第3工程では、面方位(110)の圧縮歪み状態の歪み層からなる前記第2の半導体層をエピタキシャル成長させる
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1の素子領域はPMOSトランジスタ領域であるとともに、前記第2の素子領域はNMOSトランジスタ領域であり、
前記第1工程では、面方位(110)の圧縮歪み状態の歪み層からなる前記第1の半導体層を前記絶縁層上に貼り合わせるとともに、
前記第3工程では、面方位(100)の引っ張り歪み状態の歪み層からなる前記第2の半導体層をエピタキシャル成長させる
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−108468(P2006−108468A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294562(P2004−294562)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】