説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】
Ge元素を用いることなく、プロセス信頼性や結晶品質が高く、応力管理が容易な、歪みSiを利用した高移動度チャネルを有する半導体装置を提供する。
【解決手段】
Si基板の表面に、300nm以下の段差dがついた絶縁膜12,14を形成し、絶縁膜14の窓あけ部から横方向に延びて該絶縁膜14を覆うように、800℃以上の高温でSi単結晶のエピタキシャル成長を行う。次に、CMP研磨により絶縁膜12をストッパとしてエピタキシャル層22を研磨し、段差dと同じ厚みに制御されたSi層を有するSOI領域を得る。該SOI領域では、Siと絶縁膜の熱膨張率差と、成膜温度及び室温との温度差により残留応力26が発生し、Siに引っ張り応力がかかって格子歪みが発生する。前記SOI領域にMOS構造を形成することで、高移動度チャネルを有する歪みSi−MOSFETが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその製造方法に関し、更に具体的には、歪みSiをチャネルとして利用する半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在主流となっている歪みSi−MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)では、チャネル領域となるSi結晶を、格子定数がSiよりも大きなSiGe上にヘテロエピタキシャルによって形成したり、Si結晶中にGeイオンを打ち込んでSiバルクの内部にSiGeを形成したりする。そして、このSiGeの格子定数が大きいことに頼って、該SiGe領域に隣接するSiの格子を横方向に押し広げ、引っ張り応力を加えるものがほとんどである。このようなトランジスタないし半導体装置としては、例えば、以下の特許文献及び非特許文献に示す技術がある。
【特許文献1】特開2002−76334公報
【特許文献2】特開2001−44425公報
【特許文献3】特開平9−82948号公報
【特許文献4】特開平7−321222号公報
【特許文献5】特開平6−216376号公報
【非特許文献1】東芝レビュー Vol.56,No.1,2001
【非特許文献2】M. V. Fischetti and S. E. Laux, "Band structure, deformation potentials, and carrier mobility in straind Si, Ge, and SiGe alloys", Journal of applied Physics, vol. 80 (4), 15 August, 1996
【非特許文献3】R. People, "Physics and Applications of GexSi(1-x) / Si Strained-Layer HeteroStructures", IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. QE-22, NO. 9, SEPTEMBER, 1986
【0003】
また、以下の特許文献及び非特許文献に示すように、SOI(Silicon On Insulator)構造を、絶縁膜上のエピタキシャル成長により実現する技術も古くから開発されている。
【特許文献6】特開平4−137723号公報
【特許文献7】特開平3−125459号公報
【非特許文献4】L. JASTRZEBSKI, "SOI BY CVD: EPITAXICAL LATERAL OVERGROWTH (ELO) PROCESS - REVIEW", Journal of Crystal Growth, vol. 63, (1983), pp. 493-526
【非特許文献5】Y. Suzuki and T. Nishinaga, "Epitaxial Lateral Overgrowth of Si by LPE with Sn Solution and Its Orientation Dependence", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 28, No. 3, March, 1989, pp. 440-445
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、以上のような背景技術には次のような不都合がある。まず、SiGeによって格子歪みを導入した歪みSi−MOSFETでは、第1に、引っ張り応力をコントロールするために、SiGe層の組成比及び膜厚のコントロールが極めて重要であるが、組成比と膜厚を調整し、安定したプロセスを構築するのが困難であったり、大きなコストを要したりするなどの問題がある。第2に、SiGe上に成膜されるSiは、ヘテロエピタキシーであることから、結晶品質の劣化が常に問題となり、これを回避するためには上述した第1の問題点に戻って設計をやり直すなどの必要があった。
【0005】
第3に、Geのイオン打ち込みでSiバルク結晶内にSiGeを形成する場合は、のちにMOSチャネルとなるSi領域をGeイオンが通過することから、結晶品質が損なわれるという問題があり、これを回復するためにアニール工程を入れるなどの手間がかかる。第4に、SiGe層の形成は、CVDあるいはイオン打ち込みのどちらの方法をとっても、工程に時間がかかり、スループットが低いという問題がある。
【0006】
更に、第5に、Geのソースとしては、モノゲルマンガスを使用するのが主流であるが、モノゲルマンガスは自己分解性があると言われており、極めてまれに、突発的に爆発することがあり、安全性が十分高いとはいえない。また、そもそも、Si(シリコン),O(酸素),ドーパミンとしてのP(リン),As(ヒ素),Sb(アンチモン),B(ホウ素)しか存在しない系に、Ge(ゲルマニウム)という新たな元素を導入することは、プロセス技術に大きな負担をかけるため、可能であるならば避けるほうが望ましい。
【0007】
一方、SOI構造を絶縁膜上のエピタキシャル成長により実現する技術のうち、前記非特許文献5に記載されている実験では、液相エピタキシャル成長により酸化膜上に800〜950℃の温度範囲で形成されたSOI膜が、常温において引っ張り応力を受けていることを確認している。しかしながら、この実験は、(111)面を主面とするSi基板を用いて行われており、このような(111)面を主面としてMOSFETを形成すると、(111)面がMOSチャネルとならざるを得ない。Si結晶において、(111)面にMOSチャネルを形成すると、界面準位が高密度で発生することが知られており、Vth(しきい値電圧)の上昇や、チャネル移動度(MOSチャネル領域でのキャリア移動度)の低下を招くため、一般に望ましくないとされている。また、(111)面における歪みによるキャリア移動度の上昇効果も十分に調べられていない。一方、Siの(100)面は界面準位の密度が低く、MOSチャネルの形成にあたって最も好適とされており、現在、量産ベースのSi製MOSFETの大半が(100)面にMOSチャネルを形成する構成となっている。また、歪みによるキャリア移動度の上昇効果も十分に研究されており、上記SiGe/Si系を使った歪みSi−MOSFETは一部で量産出荷が開始されている。従って、MOSチャネルを(100)面に形成するようにすると都合がよい。
【0008】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、Ge元素を用いることなく、プロセス信頼性や結晶品質が高く、かつ、応力管理が容易で、高速動作が可能な半導体装置及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の半導体基板の製造方法は、Si基板の表面に、該Si基板と熱膨張率が異なる絶縁層を形成する工程,前記絶縁層を窓あけし、前記Si基板の表面を露出させる工程,前記Si基板の表面露出部から、Si結晶を横方向に高温エピタキシャル成長させ、前記絶縁層を被覆する工程,エピタキシャル成長させたSi層を研磨し、SOI領域を形成する工程,前記SOI領域に、少なくとも一つ以上のMOS構造を形成する工程,を含むとともに、前記研磨工程において、前記SOI領域のSi層の厚さを300nm以下としたことを特徴とする。好ましくは、前記SOI領域のSi層の厚さを、200nm以下としたことを特徴とする。
【0010】
主要な形態の一つは、(1)前記Si基板表面に形成した絶縁層に段差を形成する工程,
を含むとともに、前記研磨工程において、前記SOI領域のSi層の厚さを、前記段差を利用して制御することを特徴とする,あるいは、(2)前記SOI領域のSi層の厚さを、CMP研磨による膜厚管理又は時間管理によって制御することを特徴とする。
【0011】
他の形態は、前記エピタキシャル成長を、800℃以上で行うことを特徴とする。更に他の形態は、前記エピタキシャル成長を行うためのSi基板の表面露出部が、略櫛歯状に連結されていることを特徴とする。
【0012】
更に他の形態は、(1)前記MOS構造におけるドレイン領域又はソース領域と前記Si基板とが、前記絶縁層を貫通する少なくとも1つ以上の連結部によって、電気的に接続されていること,(2)前記絶縁層を貫通して前記MOS構造と前記Si基板とを連結する連結部を、絶縁化する工程,を含むこと,(3)前記絶縁層を貫通して前記MOS構造と前記Si基板とを連結する連結部を除去することによって、前記MOS構造と前記Si基板とを絶縁する工程,を含むことのいずれかであることを特徴とする。
【0013】
更に他の形態は、前記Si基板の裏面を研磨し、薄型化する工程,を含むことを特徴とする。更に他の形態は、前記薄型化したSi基板の裏面を選択的に酸化する工程,を含むことを特徴とする。更に他の形態は、前記Si基板の主面が(100)面又はこれと等価な面であり、前記エピタキシャル成長を行うための表面露出部が、<010>又はこれと等価な方位を向いたストライプ形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明の半導体装置は、請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法で形成されたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、歪みSiをチャネルとして用いる半導体装置において、絶縁層(ないし絶縁膜)上のエピタキシャル成長技術を用いる際に、SOI領域の厚みを制御するとともに、Siと絶縁層の熱膨張率差と、成膜温度及び室温との温度差を利用して、Si層中に引っ張り応力を導入することとした。このため、電気特性のばらつきを抑制するとともに、プロセス信頼性及び結晶品質が高く、かつ、応力管理が容易で高速動作可能な半導体装置が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
最初に、図1〜図5を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1〜図5は、本実施例の製造工程の一例を示す図である。本実施例は、本発明を歪みSiをチャネルとするMOSFETに適用したものであり、SOI領域中にMOS構造を有する構成となっている。なお、本実施例では、半導体装置としてMOSFETを例に挙げているが、本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート(型)バイポーラトランジスタ)や絶縁ゲート型サイリスタなど、MOS構造を有する全ての半導体装置に適用可能である。以下、本実施例の製造方法を、順を追って説明するが、以下の説明中、p型とn型を入れ換えて実施するようにしてもよい。
【0018】
まず、図1(A)の断面図に示すように、Si基板11を準備し、その表面に熱酸化またはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などによって、絶縁膜(ないし絶縁性マスク)12を形成する。前記Si基板11の主面は、のちに形成するMOSチャネルにおいて界面準位密度が最も低いという観点から、(100)面であることが望ましい。前記Si基板11は、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法によって製造したSiウエハであり、導電型はデバイスの用途によって、n型,p型,ノンドープのいずれとしてもよく、不純物濃度も用途に応じて適宜範囲内で選択すればよい。本実施例では、p−型のSi基板11を選択したものとする。また、前記絶縁膜12は、一般的には、熱酸化膜を使用すると、信頼性・量産性の点からも優れているので好都合であるが、CVD法によるHTO,TEOSなどの酸化膜を用いるようにしてもよいし、窒化膜を用いるようにしてもよい。
【0019】
次に、図示しないマスクを用いて、フォトリソグラフィーなどによって、前記絶縁膜12に窓あけを行い、図1(B)の断面図及び図1(C)の斜視図に示すように、Si基板11の表面を露出させる。前記図1(B)は、図1(C)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面に相当する。窓あけ部12Aの面積は、SOI領域に作り込む半導体素子のサイズや個数に応じて適宜設定される。続いて、Si基板11の表面に、新たに他の絶縁膜(ないし絶縁性マスク)14を形成する。該絶縁膜14としては、例えば、熱酸化膜が用いられ、その場合は、図1(D)の断面図に示すように、新たに酸化される領域が前記絶縁膜12とSi基板11との界面であることから、絶縁膜14は、先に形成された絶縁膜12の下にもぐり込む構造となる。
【0020】
あるいは、絶縁膜14として、CVD法によるHTO,TEOSなどの酸化膜あるいは窒化膜を用いる場合には、図1(E)に示すように、絶縁膜14が、先に形成した絶縁膜12の表面を覆うようになる。本実施例では、前記図1(D)に示すように、絶縁膜14として熱酸化膜を用いるものとして以下の工程を説明するが、絶縁膜12及び14の積層順序を入れ替えることにより、容易に図1(E)の構造を選択した場合に読み替えることが可能である。なお、図1(D)又は(E)において、絶縁膜の段差dは、200nm以下とするのが望ましい。しかしながら、後述する工程でのCMP(Chemical Mechanical Polishing)による磨耗量が無視できないような場合には、300nm程度以下となるようにすればよい。このような絶縁膜12及び14を利用した段差dは、後述する研磨工程において、Si層の厚みを制御するために利用されるものである。
【0021】
次に、レジスト16を基板全面に塗布し、図示しないマスクを用いてパターニングを行い、前記レジスト16をマスクとして、絶縁膜14をエッチングし、図2(A)に示す窓あけ部18を形成する。絶縁膜14のエッチング方法は、フッ酸処理によって行ってもよいが、近年ではドライエッチングの方が制御性がよいため、ドライエッチングにより行うようにしてもよい。続いて、前記レジスト16をマスクとしたまま、配線領域を形成するため、イオン打ち込みを行う。配線がn型伝導の場合はAsまたはPイオンを、p型伝導の場合はBイオンを打ち込む。ドーズ量は、1×1014〜1×1015cm−2台となるように多めにして、配線抵抗を減らすのが望ましい。なお、本実施例では、n型伝導を用いるものとし、後述する工程で高温になる際に拡散が少ないAsイオンを選択し、1×1015cm−2台のドーズ量で打ち込むこととした。
【0022】
図2(A)に示すようにイオン打ち込みを行い、図2(B)に示すn+型配線領域20を形成したら、レジスト16を除去する。ここで、イオン打ち込みとレジスト16の除去の順序は、上述した順序で行うのが望ましい。仮に、図2(B)で示すようにレジスト16を除去してから絶縁膜14をマスクとしてイオン打ち込みを行うとすると、前記絶縁膜14でストップされたイオンが、後述する工程でMOSFETのチャネルを形成するSOI領域に染み出してきて、MOSFETの特性を損なう恐れがあるからである。従って、イオン打ち込みを行った後に、レジスト16の除去を行うようにすると、後述する工程に影響を与えることがないので好都合である。
【0023】
図2(B)の断面図及び図2(C)の斜視図に示すように、窓あけ部18に相当する部分には、イオン打ち込みによるn+型配線領域20が形成されている。前記図2(B)は、図2(C)を#B−#B線に沿って切断し矢印方向に見た断面に相当する。なお、前記工程で打ち込みしたイオンは、後述するエピタキシャル成膜工程において高温にさらされて、必ず活性化されるため、この段階で活性化処理を行う必要はない。ここで、Asイオンの打ち込みによりn+型配線領域20が露出している窓あけ部18は、図2(C)に示すように、櫛歯状ないし略櫛歯状としておくのが好ましい。これは、後述するエピタキシャル成膜工程において、図5(C)に示すように、横方向成長してきたエピタキシャル膜が、両サイドから衝突して、転位(結晶欠陥)62が発生するのを回避するためである。このような櫛歯状の窓あけによって転位の発生が解消される例は、例えば、Z. Yan, Y. Hamaoka, S. Naritsuka and T. Nishinaga, "Coalescence in microchannel epitaxy of InP", Journal of Crystal Growth, vol. 212 (2000) pp. 1-10や、特開2000−114278号公報に開示されている(ただし、前記学術論文に記載の実験は、InPの液層成長(LPE:Liquid Phase Epitaxy)によって行われたものである)。
【0024】
また、図2(B)及び(C)において、窓あけ部18(すなわち、n+型配線領域20)のストライプ方向は、<010>方向又はこれと等価な方向であることが望ましい。このような構成とすると、後述するエピタキシャル成膜工程において形成されるELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)層は、主面を(100)面とし、側面を(010)面及び(0 −1 0)面としながら成長する。原子配列でみると、(100)面,(010)面,(0 −1 0)面は等価な面であるから、成膜速度も同じであり、ELO層の断面の縦横比はほぼ1:1となる。本来、SOI構造を得ることを目的とする場合には、ELO層はもっと横に延びるのが望ましい。しかしながら、主面を(100)面としてCVD法による成膜を行う限りでは、最も横に伸びる方位が本実施例の構成であり、最大限の縦横比が1:1である。なお、成膜温度やガス種の変更,ストライプ方位の変更により、更に横方向に伸ばせる条件を見出して、その条件に従って後述するエピタキシャル成膜を行うようにしてもよい。一方、主面を(111)面とした場合は、(111)面が成膜速度の極めて遅い面であることから、縦横比を横にかせぐのは容易であるが、このような構成については、他の実施例で説明する。
【0025】
図2(B)及び(C)に示す状態を得たのち、前記窓あけ部18にSiのエピタキシャル成膜を行う。成膜条件は、例えば、上述した非特許文献5に示された800℃以上とする。実際には、量産性とプロセス安定性を考慮すると、CVD法が最も適しており、水素をキャリアガスとし、SiH4,SiH3Cl,SiH2Cl2,SiHCl3,SiCl4などのシラン系ガスを成膜ガスとして用い、絶縁膜12及び14の表面に、ポリシリコンが核形成して巨大化しないように、HClなどのハロゲン系エッチングガスを添加して供給する。また、CVD法では、成膜温度を900℃以上に設定しなければ十分な成膜速度が得られないことから、900〜1100℃程度の範囲内で成膜温度を設定することが望ましい。更に、CVD反応炉内の圧力は、常圧でも実施可能であるが、絶縁膜12及び14の表面に、ポリシリコンが核形成して巨大化しないように、HClの添加量を増やす必要がある。一方、減圧下でのCVD法によれば、絶縁膜12及び14の表面にポリシリコンが核形成して巨大化するリスクは減り、HClの添加量も減らすことができるが、成膜速度が遅くなるという問題がある。従って、減圧で実施する場合であっても、少なくとも、炉内圧力を、30Torr以上として実施すると都合がよい。
【0026】
上述したエピタキシャル成膜工程により、まず、図3(A)及び(B)に示すように、窓あけ部18から上方向にエピタキシャル層22が形成される。前記図3(A)は、図3(B)を#C−#C線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。前記エピタキシャル層22は、次に横方向にも成長し、前記絶縁膜14の表面に沿って成長する。このとき、図3(B)に示したV字形状24が、凹入角効果により、通常の横方向成長よりも速い成長を促し、上述した図5(C)に示す転位62が発生するのを防止することができる。前記窓あけ部18の形状を櫛歯状としたのは、V字形状24の導入による凹入角効果を利用するためである。なお、凹入角効果については公知であり、詳細な説明は、例えば、特開2004−158835公報に記載されている。なお、本実施例におけるエピタキシャル層22の伝導型は、n−型又はノンドープとするのが好ましい。以上のようにしてエピタキシャル成膜を続けると、図3(C)の断面図及び図3(D)の斜視図に示すように、エピタキシャル層22が、絶縁膜14の表面を全て覆うとともに、絶縁膜12の表面よりも若干盛り上がった状態となる。前記図3(C)は、図3(D)を#D―#D線に沿って切断し矢印方向に見た断面に相当する。
【0027】
次に、前記絶縁膜12をストッパとするCMP研磨によって、図4(A)の断面図に示すように、エピタキシャル層22の盛り上がった部分を研磨除去してSOI領域を形成する。通常、酸化膜をストッパとするシリコン研磨では、研磨レートの選択比は1:100以上が得られ、酸化膜は極めて強いストッパとして作用する。ただし、CMP装置の構成によっては、酸化膜もやや磨耗する場合があるため、その際は、予め磨耗分を見込んで、絶縁膜12をやや厚めにしておくとよい。例えば、図4(A)において、SOI領域におけるエピタキシャル層22の厚み(すなわち段差dの厚み)は、200nm以下であることが望ましいが、上述したように絶縁膜12の磨耗が見込まれる場合には、はじめに前記段差dを300nm程度としておき、磨耗後に200nmの段差が残るようにするという具合である。このように、SOI領域のエピタキシャル層(Si層)22の厚みを、200nm(ないし300nm)程度以下とするのは、前記厚みが大きすぎると、Siの格子歪みが緩和され、歪みSi−MOSFETが得られないためである。
【0028】
更に、図4(A)の状態において、絶縁膜14近傍(上方)のエピタキシャル層22は、引っ張りの残留応力26を受けている。これは、例えば、絶縁膜14が酸化膜である場合は、酸化膜の熱膨張係数が0.5×10−6/Kであるのに対して、Siの熱膨張係数は2.4×10−6/Kである。そのため、900℃以上の高温で成膜されたあと、常温に戻る際に、Siのほうがより縮もうとし、これに対して酸化膜はあまり縮まない。その結果、Siに引っ張りの残留応力26が発生し、酸化膜には圧縮の残留応力がそれぞれ発生することになる。SiO酸化膜(絶縁膜14)にエピタキシャル成膜したSi単結晶(エピタキシャル層22)は、SiOとの密着性が高いため、両者が剥離することによって応力が緩和される可能性は少ない。また、図4(A)に示す断面構造の場合、エピタキシャル成膜されたSi層(エピタキシャル層22)とSi基板11からなる単結晶のSiのリングで、酸化膜(絶縁膜14)を締め付ける構造となっている。従って、万が一、SiとSiOが剥離しても、機械的に前記残留応力26が残る。残留応力26による格子歪みの大きさを大まかに見積もると、例えば、1050℃でCVD法によりエピタキシャル成膜を実施し、室温に戻したとすると、約1000℃の温度差を生じる。酸化膜とSiとの熱膨張率差は、1×10−6/K台であるから、これに1000Kをかけると、1×10−3台の格子歪みが残ることになる。この数字は、ちょうどSiGe/Si系で得られる歪み量とほぼ同等である。
【0029】
続いて、図示しないマスクを用いて、nチャネル型MOSFETのチャネルを形成する領域に、Bイオンを打ち込み、図4(B)の断面図に示すp型チャネル領域28を得る。Bイオンのドーズ量は、所望のVthに合うように調整する。なお、Bイオンの打ち込みの前又は後に、エピタキシャル層22の表面に、希フッ酸処理あるいは軽くRCA洗浄などを施しておくのが望ましい。これは、エピタキシャル層22の表面には、のちにゲート絶縁膜を形成するが、CMPという機械的な工程を経た直後の表面にゲート絶縁膜を形成すると、信頼性が低下するおそれがあるためである。
【0030】
次に、図4(C)の断面図に示すように、前記エピタキシャル層22の表面領域に、ゲート絶縁膜30を形成し、続いて、ポリシリコンゲート電極32をCVDなどの手法によって形成する。前記ゲート絶縁膜30は、通常、熱酸化膜を用いるのが一般的である。熱酸化を行うと、前記エピタキシャル層22の表面領域のSiが酸化により消費され、SOI領域の厚みが更に薄くなり、より強い引っ張り応力を受けている部分がチャネルとなるので好都合である。しかしながら、HTOなどの堆積型の酸化膜も、近年は信頼性が上がってきており、ゲート絶縁膜30として使用しても熱酸化膜に遜色ない性能を示すため、HTOを用いるようにしてもよい。なお、本実施例においては、熱酸化でゲート絶縁膜30を形成するものとする。
【0031】
続いて、チャネル領域以外のポリシリコンゲート電極32とゲート絶縁膜30を適宜手法で除去し、セルフアライン的にAs又はPイオンを打ち込み、図4(D)の断面図に示すように、ソース・ドレイン領域となるn+型半導体領域34を形成する。前記ソース・ドレイン領域の不純物を活性化するためのアニールの際、AsイオンやPイオンの拡散によって、前記n+型半導体領域34は、前記n+型配線領域20と電気的に接続される(図5(A)参照)。次に、通常のMOSFETの形成方法に従って、図5(A)に示すように、層間絶縁膜36及び引き出し電極38を形成し、歪みSi−MOSFET10が完成する。
【0032】
なお、参考のため、図5(A)の歪みSi−MOSFET10から、前記層間絶縁膜36と引き出し電極38を除去した様子を、図5(B)の斜視図に示す。近隣のFET間の電気的配線は、前記n+型配線領域20(ないし、n+型半導体領域34)を利用して行うことが可能となっている。しかしながら、n+型配線領域20の配線抵抗が無視できないほど離れたFET間の接続は、前記引き出し電極38を接触させることで行うようにすればよい。
【0033】
本実施例によれば、引っ張り応力の大きさは、Si単結晶と絶縁膜14の熱膨張率の差と、SOI領域形成時のエピタキシャル成膜温度と常温との温度差によって決定される。このさい、Si単結晶と絶縁膜14の熱膨張率は物性値であるから、ばらつくことはない。前記絶縁膜14としては、具体的には、熱酸化膜や、HTO,窒化膜などを用いるのが現実的と考えられるが、熱酸化膜は組成が安定しており、熱膨張率などの物性値がばらつくことは、まずない。また、HTOや窒化膜も近年は安定した組成で成膜することができるため、熱膨張率などの物性値も安定していると考えられる。一方、成膜温度は、熱電対やパイロメーターなどで正確な測定が可能であるから、ウエハ間やロット間でのばらつきは、最大でも5℃以内におさめられる。本発明においては、SOI領域にかかる常温における引っ張り応力は、前記各パラメータで規定されるため、ばらつきや不安定性を生じる要因が極めて少ない。従って、本発明によれば、従来のSiGe/Si系を用いた歪みSi−MOSFETよりも、電気特性が安定した歪みSi−MOSFET10を、高スループット,低コストで生産することができる。
【0034】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)Ge元素を一切用いることなく、歪みSi−MOSFET10を形成することとしたので、プロセスの簡略化とともに、動作の安定化,低コスト化を図ることができる。
(2)SOI領域のSiの厚みを、絶縁膜12及び14の段差dによって正確に規定することができるため、チャネル領域の格子歪み量も安定し、電気特性のばらつきを抑えることができる。
(3)引っ張り応力の大きさが、Si単結晶と絶縁膜の熱膨張係数差と、成膜温度と室温(常温)との差により決定されるため、ばらつきや不安定性を生じる要因が少なく、電気特性が安定した歪みSi−MOSFET10を、高スループットかつ低コストで製造することができる。
【実施例2】
【0035】
次に、図6(A)を参照しながら、本発明の実施例2を説明する。なお、上述した実施例1と同一ないし対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例についても同様)。上述した実施例1において、n+型配線領域20が不要で邪魔になる場合には、前記実施例でn+型配線領域20を形成したAsイオン打ち込み工程を割愛すればよい。FET同士を孤立させるために、更に強い絶縁性が必要な場合には、図6(A)に示すように、各FET間に酸素イオン打ち込みによって、酸化膜40を形成し、絶縁化すればよい。あるいは、トレンチを掘って絶縁性物質を埋め込むなどの方法により絶縁を図るようにしてもよい。また、本実施例のように、各FETを孤立させて絶縁して使用する場合には、前記図5(B)にみられるように、窓あけ部18で規定されたストライプに直交してFETを形成する必要はなく、ストライプに平行な方向にソース・ゲート・ドレインを並べて形成してもよい。
【実施例3】
【0036】
次に、図6(B)を参照して、本発明の実施例3を説明する。図6(B)は、本実施例の単体の縦型電力用MOSFET50を示す主要断面図であり、n−型半導体領域52の上面側に、絶縁膜14を介してp型またはp+型半導体領域54が形成されている様子が示されている。また、ソース電極56及びドレイン電極58も形成されている。このような単体の縦型電力用MOSFET50においても、上述した実施例と同様に、チャネル部分を厚さ200nm以下で形成することより、チャネル部の移動度が上昇して、低イオン抵抗化に寄与することが可能である。
【実施例4】
【0037】
次に、図6(C)を参照して、本発明の実施例4を説明する。上述した実施例2において、絶縁膜14の下地のSi基板11の電位が、電気特性に対して無視できない影響を与えるために絶縁したい場合には、Si基板11を裏面からバックグラインドして削り、Si基板11の厚みを60μm以下まで追い込んで薄ウエハとする。薄型化したのち、裏面だけを選択的に酸化することにより、図6(C)に示す酸化膜60を形成すればよい。このようにすることにより、Si基板11の電位を無視することができる。なお、選択的酸化ではなく、イオン打ち込みによってSi基板の絶縁化を図るようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示したレジストやイオン打ち込みに用いる元素は一例であり、同様の作用を奏するように適宜変更可能である。
(2)前記実施例に示した形状や寸法も一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更してよい。また、窓あけ部12Aに作りこむFETの数も任意であり、必要に応じて適宜増減してよい。
【0039】
(3)前記実施例に示した製造手順や製造条件は一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更してよい。例えば、上述した実施例では、前記Si基板の主面が(100)面又はこれと等価な面であり、前記エピタキシャル成長を行うための表面露出部が、<010>又はこれと等価な方位を向いたストライプ形状であることとした。しかしながら、前記Si基板11の主面を(111)面又はこれと等価な面とし、窓あけ部18のストライプ方向を<1 −1 2>又はこれと等価な方位にとると、エピタキシャル層22が横方向によく延び、縦方向にはあまり伸びず、SOI構造を形成する際にエピタキシャル成膜時間を削減することができる。また、エピタキシャル層22が縦方向にあまり延びないということは、絶縁膜12又は14をストッパとして行うCMP研磨において、研磨量が少なくて済むため、CMP工程の時間削減が可能になるとともに、CMP装置の磨耗部品も長持ちするという利点もある。また、前記実施例1では、絶縁膜の段差dによって、SOI領域のSi層の厚みを規定することとしたが、これも一例であり、CMP研磨による膜厚管理または時間管理によって、厚さ約200nm程度のエピタキシャル層22を残すようにしてもよい。
【0040】
(4)前記実施例では、本発明をトランジスタに適用したが、横方向のエピタキシャル成長を利用した公知のMOSゲート構造を有するIGBTや、絶縁ゲート型サイリスタのMOS構造部分を、本発明にならって厚さ200nm以下で形成すれば、チャネル部の移動度が上昇して、低イオン抵抗化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、絶縁層(絶縁膜)上のエピタキシャル成長技術を用いるとともに、SOI領域のSi層の厚みを制御して電気特性のばらつきを抑制する。また、Siと絶縁層の熱膨張率差と、成膜温度と室温(ないし常温)の温度差を利用して、Si層中に引っ張り応力を導入することとしたので、歪みSiをチャネルとして利用する半導体装置の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1の製造工程の一例を示す図である。
【図2】前記実施例1の製造工程の一例を示す図である。
【図3】前記実施例1の製造工程の一例を示す図である。
【図4】前記実施例1の製造工程の一例を示す図である。
【図5】前記実施例1の製造工程の一例を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例の主要断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10:歪みSi−MOSFET
11:Si基板
12,14:絶縁膜(ないし絶縁性マスク)
12A,18:窓あけ部
16:レジスト
20:n+型配線領域
22:エピタキシャル層
24:V字形状
26:残留応力
28:p型チャネル領域
30:ゲート絶縁膜
32:ポリシリコンゲート電極
34:n+型半導体領域
36:層間絶縁膜
38:引き出し金属
40:酸化膜
50:縦型電力用MOSFET
52:n−型半導体領域
54:p型またはp+型半導体領域
56:ソース電極
58:ドレイン電極
60:酸化膜
62:転位(結晶欠陥)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板の表面に、該Si基板と熱膨張率が異なる絶縁層を形成する工程,
前記絶縁層を窓あけし、前記Si基板の表面を露出させる工程,
前記Si基板の表面露出部から、Si結晶を横方向に高温エピタキシャル成長させ、前記絶縁層を被覆する工程,
エピタキシャル成長させたSi層を研磨し、SOI領域を形成する工程,
前記SOI領域に、少なくとも一つ以上のMOS構造を形成する工程,
を含むとともに、
前記研磨工程において、前記SOI領域のSi層の厚さを300nm以下としたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
好ましくは、前記SOI領域のSi層の厚さを、200nm以下としたことを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記Si基板表面に形成した絶縁層に段差を形成する工程,
を含むとともに、
前記研磨工程において、前記SOI領域のSi層の厚さを、前記段差を利用して制御することを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記SOI領域のSi層の厚さを、CMP研磨による膜厚管理又は時間管理によって制御することを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記エピタキシャル成長を、800℃以上で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記エピタキシャル成長を行うためのSi基板の表面露出部が、略櫛歯状に連結されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記MOS構造におけるドレイン領域又はソース領域と前記Si基板とが、前記絶縁層を貫通する少なくとも1つ以上の連結部によって、電気的に接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記エピタキシャル成長を行うためのSi基板の表面露出部に、n+型又はp+型の低抵抗領域を形成する工程,
を含むとともに、
前記低抵抗領域を介して、前記SOI領域に形成された複数のMOS構造が電気的に接続されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記低抵抗領域を、前記Si基板の表面露出部へのイオン打ち込み又は気相拡散により形成することを特徴とする請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁層を貫通して前記MOS構造と前記Si基板とを連結する連結部を、絶縁化する工程,
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
イオン打ち込みによって、前記連結部を絶縁化することを特徴とする請求項10記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記絶縁層を貫通して前記MOS構造と前記Si基板とを連結する連結部を除去することによって、前記MOS構造と前記Si基板とを絶縁する工程,
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
ドライエッチング又はウェットエッチングによって、前記連結部を除去することを特徴とする請求項12記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記Si基板の裏面を研磨し、薄型化する工程,
を含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記薄型化したSi基板の裏面を選択的に酸化する工程,
を含むことを特徴とする請求項14記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記Si基板の主面が(100)面又はこれと等価な面であり、前記エピタキシャル成長を行うための表面露出部が、<010>又はこれと等価な方位を向いたストライプ形状であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法で形成されたことを特徴とする半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−253446(P2006−253446A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68836(P2005−68836)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】