説明

半導体薄膜及びその製造方法

【課題】結晶シリコンで構成された薄膜トランジスタなどの半導体素子において結晶粒界の欠陥や結晶シリコン中に含まれる触媒金属や不純物の影響を受けない半導体薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】基板上に第1の結晶シリコン層102が形成され、第1の結晶シリコン層102の上に第2の結晶シリコン層103が形成される半導体薄膜において、第2の結晶シリコン層103は、第1の結晶シリコン層102の結晶性を継承するようにエピタキシャル成長によって形成され、第2の結晶シリコン層103には、第1の結晶シリコン層102よりも、不純物の量が少なく、水素又はハロゲン元素が多く含まれることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶シリコン層が形成される半導体薄膜及びその製造方法に関し、特に薄膜シリコントランジスタ(TFT)や三次元LSIなどの半導体素子に使用される半導体薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多結晶シリコンで構成されたTFTを用いた液晶表示装置や有機EL表示装置、三次元LSIなどの実現に向けて、絶縁性基板の上に単結晶シリコンで構成された半導体素子に匹敵する高性能なTFTが開発されている。
【0003】
とくに携帯電話やデジタルカメラのモニターとしての対角1.5〜3インチの小型パネルにおいては、ガラス基板上にメモリ回路やロジック回路を内蔵したシステムオンパネルの開発がさかんに進められている。
【0004】
従来の携帯電話又はデジタルカメラのモニターパネルは、対角2インチで10万画素程度の精細度で十分であった。
【0005】
しかし、携帯電話へのインターネットブラウザ機能の搭載や、デジタルカメラにおける大画面モニターの搭載など、商品の差別化が進んでおり、大画面化かつ高精細化が進んでいる。
【0006】
さらに今後は、携帯電話でテレビ画像を受信したり、デジタルカメラのモニターパネルで被写体のフレーミングをしたり、小型パネルでの動画再生も欠かせないものになっている。
【0007】
例えば、QVGA(Quarter Video Graphics Array)やVGAクラスの高精細な画像を表示するには、画素数が多い上に、短時間で各画素に書き込まれなければ、動画を表示することが不可能である。
【0008】
そのため、液晶パネルや有機ELパネルのソース駆動回路用のトランジスタには高速動作が要求され、高い電界効果移動度が必要となっている。現在、単結晶によるMOSトランジスタか、結晶性が高い多結晶シリコンで構成されたTFTで構成されている。
【0009】
また、ソース駆動回路用の高い精度のディジタル−アナログ変換器(DAC)を構成するためにはトランジスタのしきい電圧Vthのバラツキが小さいことが要求される。
【0010】
多結晶シリコンにおいては、結晶粒と結晶粒との境界領域に、欠陥準位が高密度で分布する結晶粒界が存在する。この欠陥準位の存在とドレイン端に印加される電界との相乗効果によってオフ電流が増加してしまう。
【0011】
この対策として、水素プラズマ等の水素化処理が提案されており、多結晶シリコンに水素原子を注入することで、欠陥を終端させて、より安定な特性を有する半導体素子の実現を可能にしている。
【0012】
ただし、上記の水素化処理においては、多結晶シリコン粒界やゲート絶縁膜へ注入される水素量のバラツキに起因して、Vthにもバラツキが生じてしまうことがあった(特許文献1)。
【0013】
非晶質シリコンに結晶化を促進する触媒金属を添加した後、加熱処理を施し、従来方法に比べて、低温・短時間の加熱処理で、結晶の配向性が揃った良好な結晶シリコンが得られる方法が特許文献2に開示されている。
【0014】
特許文献2によると、触媒金属を用いて得られた結晶シリコンをそのまま用いて作製したTFTには、オフ電流が増加するということがある。結晶シリコン中では触媒金属が不規則、とくに結晶粒界において偏析し、この偏析した触媒金属が電流経路となり、オフ電流の増加を引き起こしていると考えられている。
【0015】
そこで、結晶シリコンの作製工程の後、触媒金属を半導体膜中から移動させて、半導体膜中の金属触媒の濃度を低減させる方法(ゲッタリング)が必要であった。
【0016】
特許文献3には、触媒金属を用いて結晶化された結晶シリコンの一部に、ゲッタリング領域として非晶質化された領域を形成する方法が開示されている。
【0017】
また、特許文献4には、リン、ヒ素等の第5族Bに属する元素を利用して、TFTのチャネル形成領域からソース及びドレイン領域へ触媒元素を移動させることにより、ゲッタリングを行う方法が開示されている。
【0018】
しかしながら、これらの方法を用いても、一部の領域では、ゲッタリング不足によるオフ動作時のリーク電流が増大するなど、TFT素子によるバラツキが発生していた。
【0019】
特許文献5には、非晶質シリコンを約1100℃の高温にてアニールすることで再結晶化し、さらに1000℃にまで温度を下げ気相にて結晶シリコンをエピタキシャル成長させる技術が開示されている。このようにすることにより、基板からの不純物拡散を防いでいる。
【0020】
また、特許文献6には、非晶質シリコンをレーザーなどの光源を用いてアニール再結晶化した膜の上に、不純物を含まず粒径が大きい結晶シリコン膜をエピタキシャル成長させることが開示されている。ただし、エピタキシャル成長には熱CVDなどが用いられており、温度に関する詳細な記述はない。
【0021】
従来から結晶シリコン基板上に、結晶シリコン膜を低温で形成する方法がよく知られている。
【0022】
非特許文献1によると、結晶シリコン上にプラズマCVDで微結晶シリコンを堆積した場合、微結晶シリコン膜の結晶性はプラズマ条件など成膜条件だけでなく、基板依存性を持つことが明らかにされている。
【0023】
さらには、適切な結晶シリコン基板の表面状態を準備することにより、基板温度300℃程度の低温でエピタキシャル成長され、ストリーク状の高速反射電子回折(RHEED)パターンが見られることが記述されている。
【0024】
上記のことから、結晶シリコン基板の上にプラズマCVDなどの気相成長で結晶シリコン膜を低温で形成すると、基板からの不純物拡散が少ない半導体薄膜を形成することが可能になると考えられる。
【0025】
しかしながら、単結晶シリコン基板の上でエピタキシャル成長する成膜条件でも、多種多様な面方位を有する結晶粒で構成された多結晶シリコン基板の上においてもエピタキシャル成長するとは限らないことがあった。
【0026】
また、プラズマCVDなどの気相成長方法では、プラズマに含まれる水素イオンなどによる基板へのイオン衝撃により、基板に含まれる不純物が固相拡散し、エピタキシャル成長している結晶シリコン層内に取り込まれることがあった。
【特許文献1】特開2005−294638号公報
【特許文献2】特開2005−251794号公報
【特許文献3】特開平8−213317号公報
【特許文献4】特開平8−330602号公報
【特許文献5】特開昭61−141118号公報
【特許文献6】特開2004−327578号公報
【非特許文献1】「シリコン系へテロデバイス」丸善株式会社、1991年、p.129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものである。すなわち、結晶シリコンで構成された薄膜トランジスタなどの半導体素子において、結晶粒界の欠陥及び結晶シリコン中に含まれる触媒金属や不純物の影響を受けない、半導体薄膜を提供することを目的とする。
【0028】
また、そのような半導体薄膜を低コストに製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、基板上に第1の結晶シリコン層が形成され、該第1の結晶シリコン層の上に第2の結晶シリコン層が形成される半導体薄膜において、前記第2の結晶シリコン層は、前記第1の結晶シリコン層の結晶性を継承するようにエピタキシャル成長によって形成され、前記第2の結晶シリコン層には、前記第1の結晶シリコン層よりも、不純物の量が少なく、水素又はハロゲン元素が多く含まれることを特徴とする。
【0030】
また、本発明は、基板上に第1の結晶シリコン層を形成し、該第1の結晶シリコン層の上に該第1の結晶シリコン層の結晶性を継承するようにエピタキシャル成長させることにより第2の結晶シリコン層を形成する半導体薄膜の製造方法において、前記第2の結晶シリコン層は、前記第1の結晶シリコン層を形成するときよりも低温で形成され、前記第2の結晶シリコン層が形成される際には、水素ガス又はハロゲンガスを含むプラズマが用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、半導体内に含まれる炭素や金属などの不純物が少ない、結晶シリコン薄膜を得ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、水素パッシベーションが効果的に行なわれた結晶シリコン薄膜を得ることができる。これにより、結晶シリコン薄膜を薄膜トランジスタなどの半導体素子に用いることで、電気的特性が改善され、さらには電気的特性のバラツキが抑制された素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態としての半導体薄膜を示す模式断面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態は、基板101上に、第1の結晶シリコン層102が形成され、第1の結晶シリコン層102上に第2の結晶シリコン層103が形成されている。
【0036】
第2の結晶シリコン層103は、第1の結晶シリコン層102上に形成されているので、第1の結晶シリコン層102の結晶性を継承して、エピタキシャル成長している。
【0037】
本実施の形態の半導体素子の製造方法は、大きく二つの工程で構成されている。
【0038】
基板101上に第1の結晶シリコン層102を形成する工程と、第1の結晶シリコン層102の上に第2の結晶シリコン層103を形成する工程とである。
【0039】
基板101には、低融点のガラスや、低融点の金属配線回路が包含されるSiウェハ上の層間絶縁膜などを用いた。もちろん、高融点の石英ガラスなどあっても構わない。
【0040】
第1の結晶シリコン層102には、非晶質シリコンをレーザーなどの光源を用いて再結晶化させた低温多結晶シリコン膜か、ニッケルなどの触媒金属を用いて再結晶化させた低温多結晶シリコン膜を用いたほうがよい。これ以外には、高温プロセスで成膜された高温多結晶シリコン膜であっても構わない。
【0041】
図2は、第2の結晶シリコン層103を成膜するために用いたプラズマCVD装置の概略を示す断面図である。
【0042】
基本的な構造は、一般的なプラズマCVD装置と同じである。
【0043】
排気管208を通じて、不図示の真空排気系で成膜室201内を排気する。
【0044】
上部電極202はガス供給のための無数の小穴が設けられており、不図示のガス供給系より原料ガスがシャワー状に供給される。
【0045】
原料ガスにはSiH、Siなどのシリコン系ガスと、HやHe、Arなどの希釈ガスとの混合ガスが用いられる。
【0046】
上部電極202と下部電極203に不図示の高周波電源からの放電電力を供給し、プラズマ放電を生起させる。
【0047】
第1の結晶シリコン層が形成された基板204を下部電極203の上に設置し、第2の結晶シリコン層を成膜する。
【0048】
基板の温度は、下部電極203の直下に設けた、温度の調節が可能な温度制御装置205で制御される。
【0049】
第2の結晶シリコン層は、第1の結晶シリコン層の結晶性を継承し、エピタキシャル成長している。
【0050】
上記のRHEED回折像の観察によって、エピタキシャル成長を確認した。
【0051】
ただし、第1の結晶シリコン層が多結晶シリコンでは、結晶粒の結晶方位が揃っていないため、RHEED回折像でエピタキシャル成長しているか判断することが困難である。
【0052】
そこで、表面をHF処理し、自然酸化膜を除去した単結晶シリコンウェハを準備し、プラズマCVDによりシリコン薄膜を堆積し、RHEED回折像がストリーク状かつスポット状になることを確認した。
【0053】
とくに重要なのは、結晶方位が変わってもエピタキシャル成長することである。
【0054】
すなわち、多結晶シリコンは上記のように結晶方位が揃っていないため、エピタキシャル成長に結晶方位選択性があると、本発明が実施できない。
【0055】
本発明者らは、鋭意検討の結果、成膜条件の最適化により、結晶シリコン(100)、(110)、(111)基板のいずれにおいてもエピタキシャル成長する成膜条件が存在することを確認した。
【0056】
また、第2の結晶シリコン層103は、第1の結晶シリコン層102を形成する工程よりも低温の工程で実施される。
【0057】
すなわち、第1の結晶シリコン層の不純物が、第2の結晶シリコン層を成膜する際に、拡散しないために、プロセス温度をより低温化することが望ましい。
【0058】
ここで、不純物とは、炭素若しくは酸素又はこれらの元素を含む有機化合物を含むものである。
【0059】
具体的には、基板温度170〜240℃が好適であり、室温であっても構わないが、プラズマ条件などの最適化により決定される。
【0060】
さらには、第2の結晶シリコン層を形成する工程において、水素又はハロゲン元素を含むガスを混合したプラズマを用いる。ハロゲン元素は、フッ素又は塩素である。具体的には、SiF、SiHClが好適に用いられる。
【0061】
水素ガス又はハロゲンガスを用いることで、より広範囲のプラズマ条件で結晶性が高くなり、不純物が偏析している第1の結晶シリコン層の表面部分を、初期プラズマによって効果的にエッチングし、不純物を除去することができる。
【0062】
図2における放電シールド206のプラズマ放電側表面又は上部電極202表面には、非晶質かつ多孔質なシリコン膜が存在し、不純物粒子を吸着することができる。
【0063】
水素ガス又はハロゲンガスが混合されたプラズマを用いることで、第1の結晶シリコン層からエッチングした不純物は成膜室201内を拡散するが、放電シールドのプラズマ放電側表面又は上部電極表面の多孔質シリコン膜に吸着する。
【0064】
不純物は、第2の結晶シリコン層の形成とともに、成膜室201内から減少するため、第2の結晶シリコン層においては、徐々に取り込まれ量が減る。
【0065】
さらには、多孔質で吸着性のある部材で構成された捕集パネル207を、非プラズマ放電領域に設置することで、パネルに拡散してきた触媒金属や炭素などの荷電粒子を、選択的に捕集することも可能となる。
【0066】
とくに、プラズマ放電によってイオン化された粒子を、捕集パネル207にDC電圧を印加することで、より選択的に捕集することができる。
【0067】
例えば、シリコンの結晶化を助長する金属元素としては、Fe、Co、Ni、Pt、Cuがあるが、これらの金属元素は1価〜3価のプラスイオンになるため、捕集パネル207にはマイナスのDC電圧を印加することが望ましい。
【0068】
(実施例)
[実施例1]
本発明の第1の実施例として、図1に示した構造において、第1の結晶シリコン層を通常の低温形成工程で作製した、低温ポリシリコンとした半導体薄膜の形成例を示す。
【0069】
はじめに、ガラスやシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの、絶縁性の表面を有する基板101の上に、プラズマCVD法により、膜厚40nmの非晶質シリコン膜を設けた。
【0070】
次に、この非晶質シリコン膜に対して、KrFエキシマレーザー光を約240mJ/cmのエネルギー密度で30nsec間照射し、非晶質シリコン膜を溶融再結晶化させ、第1の結晶シリコン層102を得た。
【0071】
次に、この第1の結晶シリコン層102が形成された基板101を、図2に示すプラズマCVD装置における下部電極203の直上の位置204に配置した。
【0072】
基板204を、温度調整器で190〜195℃まで加熱し、基板温度が安定したところで、上部電極202から原料ガスとしてSiH及びSiF、Hの混合ガスを供給した。
【0073】
不図示の自動圧力制御器により、成膜室201内の真空度を266Paに保持し、周波数100MHzの高周波電力を500mW/cmの電力密度で印加、プラズマ放電を生起させる。このようにして、膜厚40nmの第2の結晶シリコン層103を成膜した。なお、本実施例では、捕集パネル207は用いていない。
【0074】
本実施例とは別に、204の位置に結晶シリコン(100)、(110)、(111)基板を設置し、いずれの結晶シリコン基板においてもエピタキシャル成長する成膜条件を予め確認し、その成膜条件で第2の結晶シリコン層103を成膜した。
【0075】
得られた半導体薄膜の断面形状を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、第1の結晶シリコン層102の粒界を維持したまま、第2の結晶シリコン層103が成長していることを確認した。
【0076】
次に、2次イオン質量分析(SIMS)によって、半導体素子に含まれる不純物濃度を測定した。
【0077】
第2の結晶シリコン層103に含まれる炭素濃度及び酸素濃度は、第1の結晶シリコン層102に含まれる炭素濃度及び酸素濃度に対して、それぞれ2%と10%であった。
【0078】
第2の結晶シリコン層103に含まれる水素濃度及びフッ素濃度は、第1の結晶シリコン層102に含まれる水素濃度及びフッ素濃度に対し、それぞれ約2倍と約10倍であった。
【0079】
さらに、第2の結晶シリコン層303を設ける工程の前後で、第1の結晶シリコン層302に含まれる水素濃度が、約2倍になっていることを確認した。
【0080】
これは、第2の結晶シリコンを成膜する工程において、第1の結晶シリコン層302も水素化されていると考えられる。
【0081】
次に、この半導体薄膜を用いて図3に示すような薄膜トランジスタを作製した。
【0082】
基板301の上に、第1の結晶シリコン層302及び第2の結晶シリコン層303までを、上記方法で形成した。
【0083】
その後、通常のシリコン薄膜トランジスタの低温形成方法によって、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁層304とゲート電極305を成膜し、幅1μmの領域を除いてゲート電極305を除去した。
【0084】
次に、残されたゲート電極305をマスクとするセルフアライン方式で、それ以外の領域にホウ素をドープし、ゲート領域、ソース領域及びドレイン領域を形成した。
【0085】
その後、水素を含む窒化シリコン絶縁膜からなるパッシベーション層306を成膜し、ソース領域及びドレイン領域上のパッシベーション層306に開口部を設けた。
【0086】
アルミ配線層を成膜し、これをパターニングすることによってソース電極307及びドレイン電極308を形成し、MOS型TFTを得た。
【0087】
最後に、300〜450℃で加熱することでパッシベーション層306の水素で第2の結晶シリコン層303及びゲート絶縁層304の界面欠陥を終端させた。
【0088】
得られたMOS型TFTの動作特性を計測した。第2の結晶シリコン層303を設けずに第1の結晶シリコン層302の膜厚を厚くした以外は、同一形状の素子に比べて、移動度の平均値で1.2倍以上高速に動作することが確認された。
【0089】
また、素子特性のバラツキを比較すると、移動度のバラツキは約0.7倍、しきい値電圧のバラツキは約0.5倍に低減した。
【0090】
これらは、第2の結晶シリコン層の成膜工程で行なわれる、第1の結晶シリコン層の直接的な水素パッシベーションによる効果と、第2の結晶シリコン層の炭素及び酸素などの不純物が減少した効果であると考えられる。
【0091】
また、第2の結晶シリコン層303の成膜条件を、結晶シリコン(100)、(110)、(111)基板のいずれにおいてもエピタキシャル成長する成膜条件とは異なる条件で形成した素子は、大きく動作特性が低下した。
【0092】
例えば、結晶シリコン(100)基板においてのみエピタキシャル成長する成膜条件で形成した素子では、MOS型TFTの移動度が0.5倍程度にまで減少した。
【0093】
結晶シリコン層の表面を高分解能な結晶方位解析手段である、後方散乱電子回折像法(EBSP)にて観察した。その結果、第1の結晶シリコン層に比べて、結晶シリコン粒が小さくなった部分や粒径が10〜20nmの微結晶シリコンになっている部分が見られた。
【0094】
このことから、第1の結晶シリコン層は多結晶シリコンであることがわかる。
【0095】
結晶シリコン(100)の面方位を有する結晶シリコン粒においてのみエピタキシャル成長しても、他の面方位を有する結晶シリコン粒にはエピタキシャル成長せずに、粒径が小さな微結晶シリコンが成長すると考えられる。この理由としては、粒径及び面方位が多様であるためである。
【0096】
粒径が小さな微結晶シリコンは、多結晶シリコンと比べて粒界が多いことから、MOS型TFTの移動度は小さくなると考えられる。
【0097】
本発明者らは、鋭意検討の末、少なくとも、シリコン(100)、(110)、(111)の面方位に対して、エピタキシャル成長する成膜条件でないと良好なMOS型TFTは得られないことを確認した。
【0098】
[実施例2]
本発明の第2の実施例として、図1に示した構造において、第1の結晶シリコン層を、ニッケルなどの触媒金属を用いて低温形成した低温ポリシリコンとした半導体薄膜の形成例を示す。
【0099】
実施例1と同様の基板101の上に、プラズマCVD法により、膜厚40nmの非晶質シリコン膜を形成した。
【0100】
その後、この非晶質シリコン膜に、シリコンの結晶化を助長する金属元素であるニッケルを含んだ溶液としてニッケル酢酸塩溶液をスピンコート法により塗布した。
【0101】
その後、温度550℃で4時間、加熱処理を施した。
【0102】
この工程により第1の結晶シリコン層102を得た。電子線顕微鏡(SEM)で表面を観察したところ、粒径10μmに近い多結晶シリコン層が得られていた。
【0103】
その後、実施例1と同様にして、図2のプラズマCVD装置を用いて膜厚40nmの第2の結晶シリコン層103を成膜した。
【0104】
なお、本実施例では捕集パネル207は用いていない。
【0105】
得られた半導体薄膜の断面形状をTEMで観察したところ、実施例1と同様、第1の結晶シリコン層102の粒界を維持したまま、第2の結晶シリコン層103が成長していることを確認した。
【0106】
次に、SIMS及び誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)によって、半導体素子に含まれる不純物濃度、とくにニッケル濃度について分析した。
【0107】
第2の結晶シリコン層103に含まれるニッケル濃度は、第1の結晶シリコン層に対して約1%程度になっていた。
【0108】
また、X線マイクロアナライザー(XMA)による元素分析から、成膜室201内壁に付着したパーティクルに、ニッケルが含まれることを確認した。
【0109】
このことから、ハロゲンを含む原料ガスを用いて、第2の結晶シリコン層を成膜すると次のようになると考えられる。
【0110】
すなわち、第1の結晶シリコン層の表面に残存していたニッケルがエッチングされ、成膜室201内に拡散し、一部は成膜室201内に留まり、一部は不図示の真空排気系で排気されたと考えられる。
【0111】
次に、この半導体薄膜を用いて実施例1と同様、図3に示すような薄膜トランジスタを作製した。
【0112】
得られたMOS型TFTの動作特性を計測した。その結果、第2の結晶シリコン層303を設けずに、第1の結晶シリコン層302の膜厚を厚くすることで、同一工程、同一形状で形成した素子に比べて、移動度の平均値で1.5倍以上高速に動作することが確認された。さらにはオフ電流が約2桁減少した。
【0113】
また、素子特性のバラツキを比較すると、移動度のバラツキは約0.5倍、しきい値電圧のバラツキは約0.2倍低減した。
【0114】
これらは、第2の結晶シリコン層形成時の水素による、第1の結晶シリコン層のパッシベーション効果の増大と、第2の結晶シリコン層のニッケルが大きく減少したためと考えられる。
【0115】
本発明では、触媒金属のゲッタリングなど特殊な工程を含まないため、製造装置が安くなり、さらにはスループットが高いため、低コストで高性能の半導体素子を製造することが可能である。
【0116】
[実施例3]
本発明の第3の実施例として、実施例2と同様の構成とし、プラズマCVD装置に捕集パネル207を設けて、第2の結晶シリコン層を成膜した例を示す。
【0117】
捕集パネル207には、電解析出法にて酸化亜鉛をステンレス基板に成膜し、その後、約400℃で加熱脱水し、酸化亜鉛を、穴径数十nm〜数μmの多孔質にしたものを用いた。
【0118】
捕集パネル207を、成膜室201内に取り付けた状態で、第2の結晶シリコンを成膜した半導体薄膜では、ニッケル濃度が第1の結晶シリコン層に対して、約0.1%程度であった。
【0119】
すなわち、捕集パネル207に気相拡散したニッケルが吸着し、再び第2の結晶シリコン層に取り込まれることがない状態になる、と考えられる。
【0120】
さらに、捕集パネル207にマイナス10VのDC電圧を印加して、第2の結晶シリコン層を成膜したところ、第2の結晶シリコン層のニッケル濃度は第1の結晶シリコン層のニッケル濃度の約0.01%であった。
【0121】
プラズマCVD装置のプラズマによって、ニッケルをイオン化し、捕集パネル207に印加したDC電圧で、さらに捕集効率を高めることができたと考えられる。
【0122】
次に、この半導体薄膜を用いて実施例2と同様、図3に示すような薄膜トランジスタを作製した。
【0123】
得られたMOS型TFTの動作特性を計測したところ、実施例2で作製した素子に比べて、オフ電流が約1桁減少した。
【0124】
これらのことから、捕集パネル207に印加したDC電圧で、触媒金属であるニッケルの捕集効率が高まり、良好なトランジスタ性能が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置のTFTに利用できる。又は、スチルカメラ等の撮像装置や、記憶装置や中央演算装置を構成する三次元LSIなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の一実施形態としての半導体薄膜を示す模式断面図である。
【図2】第2の結晶シリコン層103を成膜するために用いたプラズマCVD装置の概略を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての半導体薄膜を利用して作製した半導体素子の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0127】
101、301 基板
102、302 第1の結晶シリコン層
103、303 第2の結晶シリコン層
201 成膜室
202 上部電極
203 下部電極
204 基板
205 温度調整器
206 放電シールド
207 捕集パネル
208 排気口
304 ゲート絶縁層
305 ゲート電極
306 パッシベーション層
307 ソース電極
308 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の結晶シリコン層が形成され、該第1の結晶シリコン層の上に第2の結晶シリコン層が形成される半導体薄膜において、
前記第2の結晶シリコン層は、前記第1の結晶シリコン層の結晶性を継承するようにエピタキシャル成長によって形成され、
前記第2の結晶シリコン層には、前記第1の結晶シリコン層よりも、不純物の量が少なく、水素又はハロゲン元素が多く含まれることを特徴とする半導体薄膜。
【請求項2】
前記不純物は、炭素若しくは酸素又はこれらの元素を含む有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の半導体薄膜。
【請求項3】
前記ハロゲン元素は、フッ素又は塩素であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体薄膜。
【請求項4】
基板上に第1の結晶シリコン層を形成し、該第1の結晶シリコン層の上に該第1の結晶シリコン層の結晶性を継承するようにエピタキシャル成長させることにより第2の結晶シリコン層を形成する半導体薄膜の製造方法において、
前記第2の結晶シリコン層は、前記第1の結晶シリコン層を形成するときよりも低温で形成され、
前記第2の結晶シリコン層が形成される際には、水素ガス又はハロゲンガスを含むプラズマが用いられることを特徴とする半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲンガスは、フッ素又は塩素であることを特徴とする請求項4記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記第2の結晶シリコン層は、結晶シリコン(100)、(110)及び(111)のいずれの基板においてもエピタキシャル成長することを特徴とする請求項4又は5記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記第2の結晶シリコン層を形成する際に、非プラズマ放電領域において荷電粒子を選択的に捕集することを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記荷電粒子を捕集する際には、多孔質の部材によって捕集することを特徴とする請求項7記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記荷電粒子を捕集する際には、該捕集するための捕集パネルにDC電圧を加えて捕集することを特徴とする請求項7又は8記載の半導体薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−311286(P2008−311286A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155154(P2007−155154)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】