半導体装置の作製方法
【課題】極めて結晶性に優れた半導体薄膜及びそれを用いた高性能な半導体装置を提供する。
【解決手段】絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成する。
【解決手段】絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する発明は、絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜およびそれを活性層とする半導体装置に関する。特に、半導体薄膜として珪素を主成分とする材料を利用する場合の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜(厚さ数百〜数千Å程度)を用いて薄膜トランジスタ(TFT)を構成する技術が注目されている。薄膜トランジスタはICや電気光学装置のような電子デバイスに広く応用され、特に画像表示装置のスイッチング素子として開発が急がれている。
【0003】
例えば、液晶表示装置においてはマトリクス状に配列された画素領域を個々に制御する画素マトリクス回路、画素マトリクス回路を制御する駆動回路、さらに外部からのデータ信号を処理するロジック回路(プロセッサ回路やメモリ回路など)等のあらゆる電気回路にTFTを応用する試みがなされている。
【0004】
現状においては、活性層として非晶質シリコン膜(アモルファスシリコン膜)を用いたTFTが実用化されているが、駆動回路やロジック回路などの様に、さらなる高速動作性能を求められる電気回路には、結晶シリコン膜(ポリシリコン膜、多結晶シリコン膜等)を利用したTFTが必要とされる。
【0005】
例えば、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成する方法としては、本出願人による特開平7-130652号公報、特開平8-78329 号公報に記載された技術が公知である。これらの公報記載の技術は、非晶質シリコン膜の結晶化を助長する触媒元素を利用することにより、500 〜600 ℃、4時間程度の加熱処理によって結晶性の優れた結晶シリコン膜を形成することを可能とするものである。
【0006】
特に、特開平8-78329 に記載された技術は上記技術を応用して基板面とほぼ平行な結晶成長を行わすものであり、発明者らは形成された結晶化領域を特に横成長領域(またはラテラル成長領域)と呼んでいる。
【0007】
しかし、この様なTFTを用いて駆動回路を構成してもまだまだ要求される性能を完全に満たすには及ばない。特に、メガヘルツからギガヘルツにかけての極めて高速な動作を要求する高速ロジック回路を従来のTFTで構成することは不可能なのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、これまで結晶粒界を有する結晶性珪素膜(多結晶珪素膜と呼ばれる)の結晶性を向上させるために様々な思考錯誤を繰り返してきた。セミアモルファス半導体(特開昭57-160121 号公報等)やモノドメイン半導体(特開平8-139019号公報等)などが挙げられる。
【0009】
上記公報に記載された半導体膜に共通の概念は、結晶粒界の実質的な無害化にある。即ち、結晶粒界を実質的になくし、キャリア(電子または正孔)の移動を円滑に行わせることが最大の課題であった。
【0010】
しかしながら、上記公報に記載された半導体膜をもってしてもロジック回路が要求する高速動作を行うには不十分と言える。即ち、ロジック回路を内蔵したシステム・オン・パネルを実現するためには、従来にない全く新しい材料の開発が求められているのである。
【0011】
本願発明は、その様な要求に答えるものであり、従来のTFTでは作製不可能であった様な高速ロジック回路を構成しうる極めて高性能な半導体装置を実現するための半導体薄膜を提供することを課題とする。また、その様な半導体薄膜を利用した半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書で開示する発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、珪素以外で膜中に存在する元素は少なくともC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)以外の元素から選ばれた一種または複数種の元素であることを特徴とする。
【0013】
また、他の発明の構成は、上記構成において珪素以外で膜中に存在する元素とは、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Cu(銅)、Au(金)から選ばれた一種または複数種の元素であり、且つ、当該元素の濃度は 5×1017atoms/cm3 以下(または0.001atomic%以下)であることを特徴とする。
【0014】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の濃度はSIMSによる検出下限以下であることを特徴とする。
【0015】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)及びS(硫黄)の濃度は 5×1018atoms/cm3 未満(または0.01atomic% 未満)であり、且つ、膜中に存在するO(酸素)の濃度は 1.5×1019atoms/cm3 未満(または0.03atomic% 未満)であることを特徴とする。
【0016】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、任意の結晶粒界では殆どの結晶格子に連続性があることを特徴とする。
【0017】
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、任意の結晶粒界を横切る様にして観測される格子縞の殆どが、前記結晶粒界を形成する異なる結晶粒間で直線的に連続していることを特徴とする。
【0018】
なお、上記全ての構成において、概略{111}配向であることは本発明者らが定義する{111}配向比率が0.9以上であることを意味する。
【0019】
また、上記構成の半導体薄膜を用いて作製した半導体装置は、従来からICを構成するIGFETに匹敵する或いは凌駕する極めて高い性能を有し、且つ、高い信頼性を備えたものである。
【0020】
以上のような本発明の構成について、以下に記載する実施例でもって詳細な説明を行うこととする。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示する発明によれば、実質的に単結晶半導体に匹敵する結晶性を有する半導体薄膜を実現することができる。そして、その様な半導体薄膜を利用することで単結晶上に作製したIGFET(MOSFET)に匹敵する、或いは凌駕する高い性能を有したTFTを実現することができる。
【0022】
以上の様なTFTを用いて構成される半導体回路や電気光学装置およびそれらを具備した電子デバイスは、極めて高い性能を有し、機能性、携帯性、信頼性の面で非常に優れたものとなる。
【実施例1】
【0023】
本実施例では、本願発明である半導体薄膜およびそれを活性層とした半導体装置(具体的にはTFT)の作製工程について説明する。また、作製工程の説明の後には、本願発明のTFTについて、結晶構造および電気特性の観点から得られた知見について説明する。
【0024】
まず、絶縁表面を有する基板として石英基板100上に下地膜101を設けた基板を準備する。下地膜101はプラズマCVD法やスパッタCVD法により形成すれば良い。なお、後述するが本実施例で用いる下地膜はLAL500というエッチャントに対するエッチングレートが50nm/min以上のものを用いる。
【0025】
また、石英基板の代わりにセラミックス基板、シリコン基板またはサファイア基板などを用いることも可能である。
【0026】
102は非晶質珪素膜であり、最終的な膜厚(熱酸化後の膜減りを考慮した膜厚)が10〜75nm(好ましくは15〜45nm)となる様に調節する。成膜は減圧熱CV法で行い、下記条件に従って行う。
成膜温度:465 ℃
成膜圧力:0.5torr
成膜ガス:He(ヘリウム)300sccm
Si2 H6 (ジシラン)250sccm
【0027】
なお、成膜に際して膜中の不純物濃度の管理を徹底的に行うことが重要である。本実施例の場合、非晶質珪素膜102中では結晶化を阻害する不純物であるC(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)の濃度はいずれも 5×1018atoms/cm3 未満、O(酸素)は 1.5×1019atoms/cm3 未満となる様に管理している。
【0028】
なぜならば各不純物がこれ以上の濃度で存在すると、結晶化の際に悪影響を及ぼし、結晶化後の膜質を低下させる原因となるからである。
【0029】
本実施例で用いる減圧熱CVD炉は、定期的にドライクリーニングを行い、成膜室の清浄化を図っている。ドライクリーニングは、 200〜400 ℃程度に加熱した炉内に 100〜300sccm のClF3 (フッ化塩素)ガスを流し、熱分解によって生成したフッ素によって成膜室のクリーニングを行う。
【0030】
なお、炉内温度300 ℃とし、ClF3 (フッ化塩素)ガスの流量を300sccm とした場合、約2μm厚の付着物(主に珪素を主成分する)を4時間で完全に除去することができた。
【0031】
また、非晶質珪素膜102中の水素濃度も非常に重要なパラメータであり、水素含有量を低く抑えた方が結晶性の良い膜が得られる様である。そのため、非晶質珪素膜102の成膜は減圧熱CVD法であることが好ましい。なお、成膜条件を最適化することでプラズマCVD法を用いることも可能である。
【0032】
次に、非晶質珪素膜102の結晶化工程を行う。結晶化の手段としては本発明者による特開平7-130652号公報記載の技術を用いる。同公報の実施例1および実施例2のどちらの手段でも良いが、本願発明では実施例2に記載した技術内容(特開平8-78329 号公報に詳しい)を利用するのが好ましい。
【0033】
特開平8-78329 号公報記載の技術は、まず触媒元素の添加領域を選択するマスク絶縁膜103を形成する。マスク絶縁膜103は触媒元素を添加するために複数箇所の開口部を有している。この開口部の位置によって結晶領域の位置を決定することができる。
【0034】
そして、非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素としてニッケル(Ni)を含有した溶液をスピンコート法により塗布し、Ni含有層104を形成する。なお、触媒元素としてはニッケル以外にも、コバルト(Co)、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、金(Au)等を用いることができる。(図1(A))
【0035】
また、上記触媒元素の添加工程は、レジストマスクを利用したイオン注入法またはプラズマドーピング法を用いることもできる。この場合、添加領域の占有面積の低減、横成長領域の成長距離の制御が容易となるので、微細化した回路を構成する際に有効な技術となる。
【0036】
次に、触媒元素の添加工程が終了したら、450 ℃1時間程度の水素出しの後、不活性雰囲気、水素雰囲気または酸素雰囲気中において 500〜700 ℃(代表的には 550〜650 ℃)の温度で 4〜24時間の加熱処理を加えて非晶質珪素膜102の結晶化を行う。本実施例では窒素雰囲気で570 ℃14時間の加熱処理を行う。
【0037】
この時、非晶質珪素膜102の結晶化はニッケルを添加した領域105で発生した核から優先的に進行し、基板101の基板面に対してほぼ平行に成長した結晶領域106が形成される。本発明者らはこの結晶領域106を横成長領域と呼んでいる。横成長領域は比較的揃った状態で個々の結晶が集合しているため、全体的な結晶性に優れるという利点がある。(図1(B))
【0038】
なお、上述の特開平7-130652号公報の実施例1に記載された技術を用いた場合も微視的には横成長領域と呼びうる領域が形成されている。しかしながら、核発生が面内において不均一に起こるので結晶粒界の制御性の面で難がある。
【0039】
また、上述の結晶化温度及び結晶化時間は非晶質珪素膜102の膜質を鑑みて決定されたものである。減圧熱CVD法で作製した非晶質珪素膜を特開平8-78329 号公報記載の技術で結晶化する場合、570 ℃以上の温度では自然核発生が生じてしまい、横成長領域の成長を阻害してしまう恐れがある。また、この温度では少なくとも12時間(好ましくは14時間)の結晶化時間が必要である。
【0040】
ましてやプラズマCVD法により水素含有量の多い条件で作製された非晶質珪素膜は、自然核発生温度がさらに20℃近くも低いため、それに応じて結晶化温度を決定しなければならない。
【0041】
なお、これらの知見に関する報告は、本発明者らによる特願平9-78979 号の出願明細書に記載してある。
【0042】
この様に、本願発明では水素含有量やC、N、O、Sといった不純物元素の含有量を厳しく管理した非晶質珪素膜を出発膜として用い、且つ、その膜質を鑑みて結晶化条件を決定している点にも特徴がある。
【0043】
結晶化のための加熱処理が終了したら、マスク絶縁膜103を除去してパターニングを行い、横成長領域106のみでなる島状半導体層(活性層)107を形成する。
【0044】
次に、珪素を含む絶縁膜でなるゲイト絶縁膜108を形成する。ゲイト絶縁膜108の膜厚は後の熱酸化工程による増加分も考慮して20〜250nm の範囲で調節すれば良い。また、成膜方法は公知の気相法(プラズマCVD法、スパッタ法等)を用いれば良い。
【0045】
次に、図1(C)に示す様に触媒元素(ニッケル)を除去または低減するための加熱処理(触媒元素のゲッタリングプロセス)を行う。この加熱処理は処理雰囲気中にハロゲン元素を含ませ、ハロゲン元素による金属元素のゲッタリング効果を利用するものである。
【0046】
なお、ハロゲン元素によるゲッタリング効果を十分に得るためには、上記加熱処理を700 ℃を超える温度で行なうことが好ましい。この温度以下では処理雰囲気中のハロゲン化合物の分解が困難となり、ゲッタリング効果が得られなくなる恐れがある。
【0047】
そのため本実施例ではこの加熱処理を700 ℃を超える温度で行い、好ましくは800 〜1000℃(代表的には950 ℃)とし、処理時間は 0.1〜 6hr、代表的には 0.5〜 1hrとする。
【0048】
なお、本実施例では酸素雰囲気中に対して塩化水素(HCl)を0.5 〜10体積%(本実施例では3体積%)の濃度で含有させた雰囲気中において、950 ℃、30分の加熱処理を行う例を示す。HCl濃度を上記濃度以上とすると、活性層107の表面に膜厚程度の凹凸が生じてしまうため好ましくない。
【0049】
また、ハロゲン元素を含む化合物してHClガスを用いる例を示したが、それ以外のガスとして、代表的にはHF、NF3 、HBr、Cl2 、ClF3 、BCl3 、F2 、Br2 等のハロゲンを含む化合物から選ばれた一種または複数種のものを用いることが出来る。
【0050】
この工程においては活性層107中のニッケルが塩素の作用によりゲッタリングされ、揮発性の塩化ニッケルとなって大気中へ離脱して除去されると考えられる。そして、この工程により活性層107中のニッケルの濃度は 5×1017atoms/cm3 以下にまで低減される。
【0051】
なお、本明細書中における各元素の濃度は、SIMS測定結果から得られる最小値をもって定義している。ただし、膜界面等の様に測定誤差の大きい領域における濃度は測定結果として考慮しない。
【0052】
ただし、上述の 5×1017atoms/cm3 という値はSIMS(質量二次イオン分析)測定におけるニッケルの検出下限である。本発明者らが試作したTFTを解析した結果、 1×1018atoms/cm3 以下(好ましくは 5×1017atoms/cm3 以下)ではTFT特性に対するニッケルの影響は確認されなかった。
【0053】
また、上記加熱処理により活性層107とゲイト絶縁膜108の界面では熱酸化反応が進行し、熱酸化膜の分だけゲイト絶縁膜108の膜厚は増加する。この様にして熱酸化膜を形成すると、非常に界面準位の少ない半導体/絶縁膜界面を得ることができる。また、活性層端部における熱酸化膜の形成不良(エッジシニング)を防ぐ効果もある。
【0054】
さらに、上記ハロゲン雰囲気における加熱処理を施した後に、窒素雰囲気中で950 ℃ 1時間程度の加熱処理を行なうことで、ゲイト絶縁膜108の膜質の向上を図ることも有効である。
【0055】
なお、SIMS分析により活性層107中にはゲッタリング処理に使用したハロゲン元素が 1×1015〜 1×1020atoms/cm3 の濃度で残存することも確認されている。また、その際、活性層107と加熱処理によって形成される熱酸化膜との間に前述のハロゲン元素が高濃度に分布することがSIMS分析によって確かめられている。
【0056】
また、他の元素についてもSIMS分析を行った結果、C(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)はいずれも 5×1018atoms/cm3 未満、O(酸素)は 1.5×1019atoms/cm3 未満であることが確認された。
【0057】
次に、図示しないアルミニウムを主成分とする金属膜を成膜し、パターニングによって後のゲイト電極の原型109を形成する。本実施例では2wt% のスカンジウムを含有したアルミニウム膜を用いる。なお、これ以外にもタンタル膜、導電性を有する珪素膜等を用いることもできる。(図1(D))
【0058】
ここで本発明者らによる特開平7-135318号公報記載の技術を利用する。同公報には、陽極酸化により形成した酸化膜を利用して自己整合的にソース/ドレイン領域と低濃度不純物領域とを形成する技術が開示されている。
【0059】
まず、アルミニウム膜のパターニングに使用したレジストマスク(図示せず)を残したまま3%シュウ酸水溶液中で陽極酸化処理を行い、多孔性の陽極酸化膜110を形成する。
【0060】
この多孔性の陽極酸化膜110は時間に比例して膜厚が増加する。また、上面にレジストマスクが残っているのでゲイト電極の原型109の側面のみに形成される。なお、特開平7-135318号公報記載の技術では、この膜厚が後に低濃度不純物領域(LDD領域とも呼ばれる)の長さになる。本実施例では膜厚が700 nmとなる様な条件で陽極酸化処理を行う。
【0061】
次に、図示しないレジストマスクを除去した後、エチレングリコール溶液に3%の酒石酸を混合した電解溶液中で陽極酸化処理を行う。この処理では緻密な無孔性の陽極酸化膜111が形成される。なお、多孔性の陽極酸化膜の内部にも電解溶液が浸透するので、その内側にも形成される。
【0062】
この無孔性の陽極酸化膜111は印加する電圧に応じて膜厚が決定する。本実施例では、100 nm程度の膜厚で形成される様に印加電圧を80Vとして陽極酸化処理を行う。
【0063】
そして、上述の2回に渡る陽極酸化処理の後に残ったアルミニウム膜112が実質的にゲイト電極として機能する。
【0064】
こうして図1(E)の状態が得られたら、次にゲイト電極112、多孔性の陽極酸化膜110をマスクとしてゲイト絶縁膜108をドライエッチング法によりエッチングする。そして、多孔性の陽極酸化膜110を除去する。こうして形成されるゲイト絶縁膜113の端部は多孔性の陽極酸化膜110の膜厚分だけ露出した状態となる。(図2(A))
【0065】
次に、一導電性を付与する不純物元素の添加工程を行う。不純物元素としてはN型ならばP(リン)またはAs(砒素)、P型ならばB(ボロン)を用いれば良い。
【0066】
本実施例では、まず1回目の不純物添加を高加速電圧で行い、n- 領域114、115を形成する。この時、加速電圧が80keV 程度と高いので不純物元素は活性層表面だけでなく露出したゲイト絶縁膜の端部の下にも添加される。このn- 領域114、115は不純物濃度が 1×1018〜 1×1019atoms/cm3 となる様に調節する。(図2(B))
【0067】
さらに、2回目の不純物添加を低加速電圧で行い、n+ 領域116、117を形成する。この時は加速電圧が10keV 程度と低いのでゲイト絶縁膜がマスクとして機能する。また、このn+ 領域116、117はシート抵抗が 500Ω以下(好ましくは 300Ω以下)となる様に調節する。(図2(C))
【0068】
以上の工程で形成された不純物領域は、n+ 領域がソース領域116、ドレイン領域117となり、n- 領域が低濃度不純物領域118となる。また、ゲイト電極直下の領域は不純物元素が添加されず、実質的に真性なチャネル形成領域119となる。
【0069】
なお、低濃度不純物領域118はチャネル形成領域119とドレイン領域117との間にかかる高電界を緩和する効果があり、LDD(ライトドープドレイン)領域とも呼ばれる。
【0070】
以上の様にして活性層が完成したら、ファーネスアニール、レーザーアニール、ランプアニール等の組み合わせによって不純物元素の活性化を行う。それと同時に添加工程で受けた活性層の損傷も修復される。
【0071】
次に、層間絶縁膜120を500 nmの厚さに形成する。層間絶縁膜120としては酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜、有機性樹脂膜、或いはそれらの積層膜を用いることができる。
【0072】
なお、有機性樹脂膜としてはポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド等が用いられる。有機性樹脂膜の利点は、(1)成膜方法が簡単である点、(2)容易に膜厚を厚くできる点、(3)比誘電率が低いので寄生容量を低減できる点、(4)平坦性に優れている点などが挙げられる。
【0073】
次に、コンタクトホールを形成した後、ソース電極121、ドレイン電極122を形成する。最後に、基板全体を350 ℃の水素雰囲気で1〜2時間加熱し、素子全体の水素化を行うことで膜中(特に活性層中)のダングリングボンド(不対結合手)を終端する。
【0074】
以上の工程によって、図2(D)に示す様な構造のTFTを作製することができる。以下に、こうして得られたTFTの特徴について述べる。
【0075】
(活性層中に含まれる不純物に関する知見)
本実施例の活性層(半導体薄膜)には結晶化を阻害する元素であるC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)が存在しない、或いは実質的に存在しない点に特徴がある。これは徹底的な不純物(汚染物)管理によってなしうる構成である。
【0076】
前述の様に、少なくともC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)のいずれか一つの元素が結晶化の際に膜中に存在すると、触媒元素を利用した結晶化機構に悪影響を与える。
【0077】
これら不純物元素の代表的な混入経路は基板上への非晶質珪素膜の成膜時が考えられるので、初期成膜時にこれら不純物元素の濃度を極力抑える(好ましくは完全に排除する)ことが、良好な結晶性を確保するためには重要となる。勿論、成膜時以外にも注意を払うことは言うまでもない。
【0078】
本実施例の場合、非晶質珪素膜の成膜にあたってC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の混入を徹底的に避けるので、必然的に最終的な半導体膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)及びS(硫黄)の濃度は少なくとも 5×1018atoms/cm3 未満(0.01atomic% 未満)、O(酸素)の濃度は少なくとも 1.5×1019atoms/cm3 未満(0.03atomic% 未満)となる。
【0079】
なお、純粋に珪素だけからなる半導体膜では珪素の濃度が約 5×1022atoms/cm3 であるので、例えば 5×1018atoms/cm3 の不純物元素は約0.01atomic% の濃度で存在することに相当する。従って、例えば珪素に数%のゲルマニウムを含有させた半導体薄膜などでは「atomic% 」による表示は多少変わってくるが、 5×1018atoms/cm3 という絶対的な濃度は変わるものではない。
【0080】
また、望ましくは最終的な半導体膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の濃度をSIMS分析における検出下限以下、さらに望ましくは完全に存在しない状態とすることが優れた結晶性を得るためには必要であると考える。
【0081】
(活性層の結晶構造に関する知見)
上記作製工程に従って形成した活性層は、微視的に見れば複数の棒状または偏平棒状結晶が互いに概略平行に特定方向への規則性をもって並んだ結晶構造を有する。このことはTEM(透過型電子顕微鏡法)による観察で容易に確認することができる。
【0082】
本発明者らは棒状または偏平棒状結晶同士が接して形成する結晶粒界を 800万倍に拡大したHR−TEM写真で確認した。なお、本明細書中において結晶粒界とは、棒状または偏平棒状結晶が接した境界に形成される粒界を指すものと定義する。従って、例えば横成長領域がぶつかりあって形成される様なマクロな意味あいでの粒界とは区別して考える。
【0083】
ところで前述のHR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡法)とは、試料に対して垂直に電子線を照射し、透過電子や弾性散乱電子の干渉を利用して原子・分子配列を評価する手法である。
【0084】
HR−TEMでは結晶格子の配列状態を格子縞として観察することが可能である。従って、結晶粒界を観察することで、結晶粒界における原子同士の結合状態を推測することができる。
【0085】
本発明者らが得たTEM写真によれば、異なる二つの結晶粒が結晶粒界で接した状態が明瞭に観察された。またこの時、二つの結晶粒は結晶軸に多少のずれが含まれているものの概略{111}配向であった。この事は複数の結晶粒を電子線回折により調べて確認した。
【0086】
なお、多数観察した中には(1−11)面や(−11−1)面(書式の都合上(1−11)などと表記するが、−1の(−)記号は反転を表す論理記号の代わりとして用いている)などもあるはずだが、それら等価な面はまとめて{111}面と表すことにする。この事について図2を用いて説明する。
【0087】
図17(A)は結晶面が{111}面である結晶粒(結晶軸は〈111〉となる)を模式的に表した例である。{111}である結晶面内には〈110〉軸が多方向に含まれる。
【0088】
図17(A)に示す様な表記方法は集合的な指数表記の例である。これを厳密な指数表記にすると図17(B)、(C)の様になる。例えば、図17(B)に示される結晶軸[111]と図17(C)に示される結晶軸[−111]はどちらも等価であり、〈111〉でまとめられる。
【0089】
以上の様に、厳密な結晶方位(結晶軸)で議論すると様々な捉え方ができるので、簡略化を図るために以下の記載は全て集合的な指数表記で表す。勿論、等価な全ての結晶面では同様の物性が得られる。
【0090】
ところで、前述の様なTEM写真による格子縞観察では{111}面内に{110}面に対応する格子縞が観察された。なお、{110}面に対応する格子縞とは、その格子縞に沿って結晶粒を切断した場合に断面に{110}面が現れる様な格子縞を指している。格子縞がどの様な面に対応するかは、簡易的に格子縞と格子縞の間隔から確認できる。
【0091】
この時、本発明者らは本願発明の半導体薄膜のTEM写真を詳細に観察した結果、非常に興味深い知見を得た。写真に見える異なる二つの結晶粒ではどちらにも{110}面に対応する格子縞が見えていた。そして、互いの格子縞が明らかに平行に走っているのが観察されたのである。
【0092】
さらに、結晶粒界の存在と関係なく、結晶粒界を横切る様にして異なる二つの結晶粒の格子縞が繋がっている。即ち、結晶粒界を横切る様にして観測される格子縞の殆どが、異なる結晶粒の格子縞であるにも拘らず直線的に連続していることが確認できた。これは任意の結晶粒界で同様であった。
【0093】
この様な結晶構造は本願発明の結晶性珪素膜の大きな特徴であり、本発明者らが求めた結晶粒界を実現する結晶構造である。
【0094】
この様な結晶構造(正確には結晶粒界の構造)は、結晶粒界において異なる二つの結晶粒が極めて整合性よく接合していることを示している。即ち、結晶粒界において結晶格子が連続的に連なり、結晶欠陥等に起因するトラップ準位を非常に作りにくい構成となっている。換言すれば、結晶粒界において結晶格子に連続性があるとも言える。
【0095】
なお、本発明者らはリファレンスとして従来の高温ポリシリコン膜についても電子線回折およびHR−TEM観察による解析を行った。その結果、結晶面には規則性がなく、{111}面、{110}面{311}面などが不規則に現れる様なランダムな配向であった。
【0096】
また、TEM写真により異なる二つの結晶粒の格子縞を観察した結果、互いの格子縞は全くバラバラに走っており、結晶粒界で整合性よく連続する様な接合は見つけられなかった。なお、この観察ではちょうど{111}配向の結晶粒が並ぶ結晶粒界を探し、{110}に対応する格子縞が見える様な条件で撮影したTEM写真を調べた。
【0097】
また、従来の高温ポリシリコンの場合、結晶粒界では格子縞が途切れた部分が多数確認できた。この様な部分では未結合手(結晶欠陥と呼べる)が存在することになり、トラップ準位としてキャリアの移動を阻害する可能性が高い。
【0098】
なお、上述の様に本願発明の結晶性珪素膜は結晶粒界においても格子が連続性を有しており、この様な結晶欠陥は殆ど確認することができなかった。この点からも本願発明の結晶性珪素膜が従来の高温ポリシコンとは明らかに異なる半導体膜であることが証明されている。
【0099】
ところで、前述の電子線回折による解析では興味ある知見が得られている。本願発明の半導体薄膜の場合、〈111〉入射に対応する回折斑点が比較的きれいに現れ、結晶面が{111}配向であることは明らかであった。
【0100】
この時、各斑点は同心円状の広がりを僅かにもっていたが、これは結晶軸まわりにある程度の回転角度の分布をもつためと予想される。その広がりの程度はパターンから見積もっても5°以内であった。
【0101】
また、多数観測するうちには回折斑点が部分的に見えない場合があった。おそらくは概略{111}配向であるものの、わずかに結晶軸がずれているために回折パターンが見えなったものと思われる。
【0102】
本発明者らは、結晶面内に殆ど必ず{110}面が含まれるという事実を踏まえ、おそらく〈110〉軸まわりの回転角のずれがその様な現象の原因であろうと推測している。
【0103】
(本願発明の半導体薄膜の配向性に関する知見)
本発明者らが開示した特開平7-321339号公報によれば、非晶質珪素膜が結晶化する際、基板と概略平行に成長する棒状または偏平棒状結晶(針状または柱状結晶と呼ぶ場合もある)の成長方向は〈111〉軸である。
【0104】
即ち、Ni(ニッケル)を触媒元素として非晶質珪素膜(a−Si)を結晶化する場合、NiSi2 析出体を媒介として〈111〉軸方向に沿って結晶成長する。これはNiSi2 とSiの結晶面において{111}面同士が構造的に整合性が良いためと考えられる。
【0105】
この時、〈111〉軸方向に沿って成長した棒状または偏平棒状結晶の側面(成長方向に対して平行な面)には様々な面が形成されうるが、最も現れやすい面が{110}面である。これは、側面に形成されうるいくつかの面のうち、{110}面が最も原子密度が高いためと考えられる。
【0106】
こうした理由から、本願発明の様に{111}面を先頭に成長した結晶粒(〈111〉軸方向に沿って成長した結晶粒)では、{110}面が表面(観察面を意味する)に現れることになる。以上の見解は本発明者らによる平成9年6月6日付けで出願した明細書に記載してある。
【0107】
以上の様に、特開平7-130652号公報記載の技術を用いて形成した結晶性珪素膜は、本来ならば概略{110}配向を示すはずである。ところが、本願発明の結晶性珪素膜は主たる配向面が{111}面であった。その理由について本発明者らは以下に示す様なモデルを考えた。
【0108】
前述の平成9年6月6日付けで出願した明細書に記載された結晶性珪素膜と、本願発明の結晶性珪素膜の最も顕著な相違点は、下地の性質である。即ち、下地がどの様なものであるかが結晶面の配向性を決定する上で非常に重要なパラメータとなっていると考えられる。
【0109】
まず、一般的にはSi/SiO2 (珪素/二酸化珪素)界面では{111}面の安定度が特に高いとされている。これは、界面における珪素膜側の結合手の数に起因していると考えられる。ここで表1に示すのは各面指数に対応する結晶面上において二酸化珪素との結合に預かると思われる結合手の密度である。
【0110】
【表1】
【0111】
表1によれば、{111}面は最も結晶面上に結合手密度が小さい。即ち、結合手密度が大きいと二酸化珪素と接合する際に界面付近の結合角がひずみやすく、エネルギー的に不利なため、結合手密度の小さい{111}面がSi/SiO2 界面に現れるのである。
【0112】
しかしながら、石英基板上で特開平7-130652号公報記載の技術を用いて形成した結晶性珪素膜は概略{111}配向を示しており(平成9年6月6日付け出願の明細書参照)、珪素膜側の結合手密度だけで一義的に配向性が決めるのではない様である。
【0113】
そこで、本発明者らは珪素膜側の結合手密度だけでなく、下地側の結合手密度も配向性の決定に大きく関与していると考えた。言うまでもなく下地側の結合手密度は下地の緻密性と密接に関係する。即ち、下地の緻密性とその上に形成される結晶性珪素膜の配向性との間には何らかの相関関係があると推測される。
【0114】
本発明者らは下地の緻密性を評価する手段として下地のエッチングレートを調べ、下地の緻密性とその上に形成された半導体薄膜の配向性との相関関係を調べた。なお、下地のエッチングレートは市販のエッチャントであるLAL500(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物、橋本化成製)を用いて、室温で測定した。その結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2に示す様に、熱酸化膜、石英、窒化珪素膜といった一般的に緻密と考えられている下地の場合には概略{110}配向を示す傾向にあった。逆にスパッタ法やプラズマCVD法で成膜した二酸化珪素膜を下地とした場合には概略{111}配向を示す傾向が観測された。この傾向はエッチングレートの差がそのまま反映した結果と思われる。
【0117】
即ち、下地のエッチングレートが少なくとも40〜50nm/min以下と小さい場合は、その上の結晶性珪素膜が概略{110}配向を示す傾向にあると言える。逆に言えば、エッチングレートがその値以上(50nm/min以上)であれば本願発明に示す様な概略{111}配向の結晶性珪素膜が得られると言える。
【0118】
下地が緻密であるという事は下地表面における結合手密度が高いことを意味しており、珪素膜の結合手とひずみの小さい接合をなし易い。即ち、下地が緻密である場合には、特に{111}面で下地と接する必要がなく、珪素膜の配向性に対して下地の束縛力(配向規制力)が緩いと考えられる。
【0119】
そのため、下地が石英などの様に非常に緻密な絶縁物である場合、珪素膜は結晶成長の際に下地からの束縛を受けず、本来の配向である概略{110}配向となると考えられる。
【0120】
逆に、本願発明の様にLAL500でエッチングレートが50nm/min以上(室温)である様な下地膜の上に結晶性珪素膜を形成した場合、各結晶粒は成長過程において下地の束縛力を受け、最も安定な面で下地と接する様に振る舞う。その結果、結晶性珪素膜の表面(または界面)には、最もひずみの小さい接合をなしうる{111}面が現れる。
【0121】
ここで下地からの束縛を受けた結晶粒が{111}配向に変化する様子を図20を用いて説明する。なお、図20において、棒状または偏平棒状結晶の粒内は実質的に単結晶と見なせるため、c−Siと記載することにする。
【0122】
図20(A)の場合、結晶成長面(先端の結晶面)は概略〈111〉軸に沿っているため、結晶成長面の直後における結晶面(表面または界面)の結晶軸は概略〈110〉軸となっていると考えられる。
【0123】
ところが、この状態で下地からの束縛を受けると結晶粒が転移(約35°の回転と予想される)し、結晶面には概略{111}面が現れる様になる(結晶軸は〈111〉軸が現れる)。
【0124】
また、図20(B)の場合、成長過程において下地からの束縛を受け、基板と平行な方向に対して結晶成長面が約70°傾いた状態で成長している。この場合、結晶成長面の直後の表面に現れる結晶面は結晶方位の関係から必然的に概略{111}面となる。
【0125】
以上に示してきた様に、特開平7-130652号公報に記載の技術で形成された結晶性珪素膜は下地からの束縛力が緩い強いかという要素のせめぎ合いで、その配向性が決定されると推測される。
【0126】
また、ここでは下地に着目して説明を進めたが、特開平7-130652号公報の実施例2に記載された様に横成長領域を形成する場合、非晶質半導体薄膜上に形成されるマスク絶縁膜も配向性に影響を与えると思われる。その場合においても、下地と同様のモデルで配向性が決まると考えられる。
【0127】
なお、本発明者らの経験では、これまでの議論は膜厚は80nm程度までの非晶質半導体薄膜に適用しうる。これ以上の膜厚では下地界面やマスク界面からの束縛力を受けにくくなり、ランダムな配向を示す傾向にある。
【0128】
また、本発明者らは特開平7-321339号公報に記載した手法に従ってX線回折を行い、本願発明の結晶性珪素膜について配向比率を算出した。同公報では下記数1に示す様な算出方法で配向比率を定義している。
【0129】
【数1】
【0130】
なお、測定では{220}面として観察されるが、これは{110}面と等価であることは言うまでもない。上記測定の結果、{111}面が主たる配向であり、配向比率は0.7以上(典型的には0.9以上)であることが判明した。
【0131】
以上に示してきた通り、本願発明の結晶性珪素膜と従来のポリシリコン膜とは全く異なる結晶構造(結晶構成)を有していることが判る。この点からも本願発明の結晶性珪素膜は全く新しい半導体膜であると言える。
【0132】
(TFTの電気特性に関する知見)
上述の様な結晶性珪素膜を活性層として作製したTFTは図4に示す様な電気特性を示す。図4に示すのは横軸にゲイト電圧(Vg)、縦軸にドレイン電圧(Id)の対数をとってプロットしたNチャネル型TFTのId-Vg 曲線(Id-Vg 特性)である。なお、電気特性の測定は市販の装置(ヒューレットパッカード社製:型番4145B)を用いて行った。
【0133】
図13において、1050は上記工程で得られた活性層を利用したTFTの電気特性であり、1051は従来のTFTの電気特性を示している。ここでは従来のTFTとして実施例1においてゲイト絶縁膜形成後の熱処理(ゲッタリングプロセス)を行わなかったTFTを挙げている。
【0134】
両方のトランジスタ特性を比較すると、まず同じゲイト電圧でも1050で示される特性の方が1桁近く大きいオン電流が流れることが確認できる。なお、オン電流とはTFTがオン状態(図13においてゲイト電圧が約0〜20Vの範囲)にある時に流れるドレイン電流のことを指す。
【0135】
また、1050で示される特性の方が優れたサブスレッショルド特性を有していることも確認できる。サブスレッショルド特性とはTFTのスイッチング動作の急峻性を示すパラメータであり、TFTがオン又はオフ状態にスイッチングする際のId-Vg 曲線の立ち上がりが急峻である程、サブスレッショルド特性は良いと言える。
【0136】
なお、本発明で得られるTFTの代表的な電気特性は次に示す様なものであった。
(1)TFTのスイッチング性能(オン/オフ動作の切り換えの俊敏性)を示すパラメータであるサブスレッショルド係数が、N型TFTおよびP型TFTともに60〜100mV/decade(代表的には60〜85mV/decade )と小さい。なお、このデータ値は単結晶シリコンを用いた絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ(IGFET)の場合とほぼ同等である。
(2)TFTの動作速度の速さを示すパラメータである電界効果移動度(μFE)が、N型TFTで200 〜650cm2/Vs (代表的には250 〜300cm2/Vs )、P型TFTで100 〜300cm2/Vs (代表的には150 〜200cm2/Vs )と大きい。
(3)TFTの駆動電圧の目安となるパラメータであるしきい値電圧(Vth)が、N型TFTで-0.5〜1.5 V、P型TFTで-1.5〜0.5 Vと小さい。この事は小さい電源電圧で駆動して消費電力を小さくできることを意味している。
【0137】
以上の様に、本発明で得られるTFTは極めて優れたスイッチング特性および高速動作特性を有している。
【0138】
(本発明のTFTで構成した回路の特性)
次に、本発明者らが本発明で得られるTFTを用いて作製したリングオシレータによる周波数特性を示す。リングオシレータとはCMOS構造でなるインバータ回路を奇数段リング状に接続した回路であり、インバータ回路1段あたりの遅延時間を求めるのに利用される。実験に使用したリングオシレータの構成は次の様になっている。
段数:9段、19段、51段
TFTのゲイト絶縁膜(GI)の膜厚:50nm
TFTのゲイト長: 0.6μm
TFTのゲイト幅:NTFTは10μm、PTFTは20μm
【0139】
上記リングオシレータの発振周波数をスペクトラムアナライザーで測定した結果を図14に示す。図14において、横軸は電源電圧(VDD)、縦軸は発振周波数(fosc )である。図14が示す様に、ゲイト絶縁膜が9段のリングオシレータにおいて1GHz近い発振周波数を実現している。
【0140】
図15に示すのは電源電圧5Vで1.042 GHzの発振周波数を達成した際のスペクトラムアナライザーの出力スペクトルである。横軸には 10 MHz〜1.2 GHzまでの発振周波数をとり、縦軸にはログスケールでとった電圧(出力振幅)をとっている。
【0141】
また、実際にLSI回路のTEGの一つであるシフトレジスタを作製して動作周波数を確認した。その結果、ゲイト絶縁膜の膜厚50nm、ゲイト長 0.6μm、電源電圧5V、段数50段のシフトレジスタ回路において動作周波数100 MHzの出力パルスが得られた。
【0142】
以上の様なリングシレータおよびシフトレジスタの驚異的なデータは、本発明のTFTが単結晶シリコンを利用したIGFETに匹敵する、若しくは凌駕する性能を有していることを示している。
【0143】
それを裏付ける証拠として次の様なデータがある。図16に示すデータは横軸に電源電圧(VDD)、縦軸にF/O=1(ファンアウト比が1)のインバータの1段当たりの遅延時間(τpd)をとったグラフである(ロジックLSI技術の革新,前口賢二他,p108,株式会社サイエンスフォーラム,1995)。
【0144】
なお、図中の様々な曲線(点線で示されるもの)は、単結晶シリコンを利用したIGFETを様々なデザインルールで作製した時のデータであり、いわゆるスケーリング則を示している。
【0145】
この図に上述のリングオシレータを用いて得たインバータの遅延時間と電源電圧との関係を当てはめると、図16において実線で示される曲線となる。注目すべきはチャネル長が 0.5μm、ゲイト絶縁膜の膜厚(tOX)が11nmのIGFETで作製したインバータよりも、チャネル長が 0.6μm、ゲイト絶縁膜の膜厚が50nmのTFTで作製したインバータの方が優れた性能を有している点である。
【0146】
この事は本発明者で得られるTFTがIGFETよりも優れた性能を有していることを如実に示している。例えば、上記TFTを構成するゲイト絶縁膜の膜厚をIGFETの5倍以上としても、性能的に同等もしくはそれ以上のものが得られるのである。即ち、本発明のTFTは同等の特性を動作性能を有するIGFETよりも優れた絶縁耐圧を有していると言える。
【0147】
また同時に、本発明のTFTがスケーリング則に従って微細化されればさらに高い性能を実現することが可能である。例えば、リングオシレータを0.2 μmルールで作製すればスケーリング則によると9GHzの動作周波数を実現しうると予想される(動作周波数fがチャネル長Lの二乗に反比例するため)。
【0148】
以上の様に、本発明のTFTは極めて優れた特性を有し、そのTFTを用いて形成した半導体回路は10GHz以上の高速動作を実現しうる全く新しいTFTであることが確認された。
【実施例2】
【0149】
実施例1では半導体膜として珪素膜を用いる例を示したが、SiX Ge1-X (0<X<1、好ましくは0.9 ≦X≦0.99)で示される様にゲルマニウムを1〜10%含有した珪素膜を用いることも有効である。
【0150】
この様な化合物半導体膜を用いた場合、N型TFTおよびP型TFTを作製した際にしきい値電圧を小さくできる。また、電界効果移動度(モビリティと呼ばれる)を大きくできる。
【実施例3】
【0151】
実施例1では活性層に対して意図的に不純物を添加しないのでチャネル形成領域が真性または実質的に真性となる。なお、実質的に真性であるとは、(1)珪素膜の活性化エネルギーがほぼ1/2 である(フェルミレベルが禁制体のほぼ中央に位置する)こと、(2)スピン密度よりも不純物濃度が低いこと、(3)意図的に不純物を添加していないこと、のいずれかを満たすことである。
【0152】
しかし、本願発明のTFTは公知のチャネルドープ技術を利用することも可能である。チャネルドープ技術とは、しきい値制御のために少なくともチャネル形成領域に対して不純物を添加する技術である。
【0153】
本願発明はもともとしきい値が非常に小さいので不純物を添加する濃度は非常に微量なもので良い。添加濃度が微量ですむということは、キャリアの移動度を落とさずにしきい値制御が可能となるため非常に好ましい。
【実施例4】
【0154】
本実施例では、実施例1に示したハロゲン元素によるゲッタリング効果に加えてリン元素によるゲッタリング効果を得るための構成について説明する。説明には図3を用いる。
【0155】
まず、実施例1の工程に従ってハロゲン元素によるゲッタリングプロセスまで行い、図1(C)の状態を得る。次に、タンタルまたはタンタルを主成分とする材料でなるゲイト電極11を形成する。
【0156】
次に、ゲイト電極11の表面を陽極酸化することによって陽極酸化膜12を形成する。陽極酸化膜12は保護膜として機能する。(図3(A))
【0157】
次に、ゲイト電極11をマスクとしてゲイト絶縁膜108をドライエッチング法によりエッチングする。そして、その状態でリンまたは砒素イオン注入法により添加して不純物領域13、14を形成する。(図3(B))
【0158】
次に、窒化珪素膜を厚く形成した後、ドライエッチング法によるエッチバックを行い、サイドウォール15を形成する。そして、サイドウォール15を形成した後、再びリンまたは砒素イオンを添加してソース領域16、ドレイン領域17を形成する。(図3(C))
【0159】
なお、サイドウォール15の下は2度目のリン元素が添加されず、ソース領域およびドレイン領域よりも低濃度にリン元素を含む一対の低濃度不純物領域18となる。また、ゲイト電極11の下は真性または実質的に真性、或いはしきい値制御のために微量の不純物が添加されたチャネル形成領域19となる。
【0160】
こうして図3(C)の状態が得られたら、450〜650℃(代表的には600℃)で8〜24時間(代表的には12時間)の加熱処理を行う。
【0161】
この加熱処理はリン元素による触媒元素(ここではニッケル)のゲッタリングを目的とした工程であるが、同時に不純物の活性化、活性層が受けたイオン注入時の損傷の回復が行われる。
【0162】
この工程では、加熱処理を行うことでチャネル形成領域19に残存するニッケルがソース/ドレイン領域16、17に移動し、そこでゲッタリングされて不活性化する。即ち、チャネル形成領域19内部に残存するニッケルを除去することが可能である。
【0163】
なお、ソース/ドレイン領域16、17は導電性を有していれば電極としての機能を果たすのでニッケルの有無が電気特性に影響を与える恐れがない。そのため、ゲッタリングサイトとして機能させうるのである。
【0164】
以上の様にして図3(D)の状態が得られたら、実施例1と同様に層間絶縁膜20、ソース電極21、ドレイン電極22を形成して図3(E)に示す薄膜トランジスタが完成する。
【0165】
なお、本実施例ではゲイト電極としてタンタルを用いているが、導電性を有する結晶性珪素膜を用いても良い。また、低濃度不純物領域の形成方法は本実施例の手段に限定されるものではない。
【0166】
本実施例で最も重要な構成は、チャネル形成領域に残存する触媒元素をソース領域およびドレイン領域に移動させてゲッタリングすることにある。これは、リンまたは砒素による金属元素のゲッタリング効果に着目した発明である。
【0167】
なお、本実施例ではN型TFTの例を示したが、P型TFTの場合、ボロン元素だけではゲッタリング効果が得られないので、リン元素とボロン元素の両方をソース/ドレイン領域に添加することが必要である。
【実施例5】
【0168】
本実施例では、実施例1と異なる構造の薄膜トランジスタに本願発明を適用した場合の例について説明する。説明には図4を用いる。
【0169】
まず、石英基板31上にゲイト電極32を形成する。ゲイト電極32は後の熱酸化工程に耐えられる様にタンタル、シリコン等の耐熱性の高い電極を利用することが必要である。
【0170】
次に、ゲイト電極32を覆う様にしてゲイト絶縁膜33を形成する。ゲイト絶縁膜33はスパッタ法またはプラズマCVD法で形成する。この際、概略{111}配向の結晶性珪素膜を得るためには、ゲイト絶縁膜33の膜質を表2を用いて説明した条件に合わせることが必要である。
【0171】
次に、その上には後に活性層となる非晶質珪素膜を50nmの厚さに形成する。そして、実施例1と同様に開口部を有するマスク絶縁膜35を形成した後、ニッケル含有層36を形成する。(図4(A))
【0172】
こうして図4(A)の状態が得られたら、結晶化のための加熱処理を行い、横成長領域でなる結晶性珪素膜37を得る。(図4(B))
【0173】
次に、マスク絶縁膜35を除去してハロゲン元素を含む雰囲気中で加熱処理を行う。条件は実施例1に従えば良い。この工程によって結晶性珪素膜37中からニッケルがゲッタリングされ、気相中へと除去される。(図4(C))
【0174】
こうしてゲッタリングプロセスが完了したら、パターニングにより横成長領域のみでなる活性層38を形成し、その上に窒化珪素膜でなるチャネルストッパー39を形成する。(図4(D))
【0175】
図4(D)の状態が得られたら、N型を呈する結晶性珪素膜を形成してパターニングを施し、ソース領域40、ドレイン領域41を形成する。さらに、ソース電極42、ドレイン電極43を形成する。
【0176】
最後に、素子全体に対して水素雰囲気中で加熱処理を行い、図4(E)に示す様な構造の逆スタガ型TFTが完成する。なお、本実施例に示した構造は逆スタガ型TFTの一例であり、本実施例の構造に限定されるものではない。また、他のボトムゲイト型TFTに適用することも可能である。
【0177】
以上の様なボトムゲイト型TFTの場合、活性層の下地となる絶縁物はゲイト絶縁膜(通常は二酸化珪素膜が用いられる)であるので、必然的に束縛力を受けて{111}配向になりやすい。
【実施例6】
【0178】
本実施例では絶縁表面を有する基板上に本発明によるTFTを形成し、画素マトリクス回路と周辺回路とをモノリシックに構成する例を図5〜7に示す。なお、本実施例ではドライバー回路やロジック回路等の周辺回路の例として、基本回路であるCMOS回路を示す。
【0179】
まず、石英基板50上に酸化珪素膜でなる下地膜51をプラズマCVD法により形成する。そして、その上に75nm厚の非晶質珪素膜52、マスク絶縁膜53を形成し、スピンコート法によりニッケル含有層54を形成する。これらの工程は実施例1に示した通りである。(図5(A))
【0180】
次に、450 ℃1時間程度の水素出しの後、窒素雰囲気中において590 ℃ 8時間の加熱処理を行い、結晶性領域55〜58を得る。なお、55、56はニッケル添加領域であり、57、58は横成長領域である。(図5(B))
【0181】
結晶化のための加熱処理が終了したら、マスク絶縁膜53を除去してパターニングを行い、横成長領域57、58のみでなる島状半導体層(活性層)59〜61を形成する。(図5(C))
【0182】
ここで59はCMOS回路を構成するN型TFTの活性層、60はCMOS回路を構成するP型TFTの活性層、61は画素マトリクス回路を構成するN型TFT(画素TFT)の活性層である。
【0183】
活性層59〜61を形成したら、その上に珪素を含む絶縁膜でなるゲイト絶縁膜62を成膜する。そして、次に触媒元素のゲッタリングプロセスを行う。この工程の条件は実施例1に従えば良い。(図5(D))
【0184】
次に、図示しないアルミニウムを主成分とする金属膜を成膜し、パターニングによって後のゲイト電極の原型63〜65を形成する。本実施例では2wt% のスカンジウムを含有したアルミニウム膜を用いる。(図6(A))
【0185】
次に、実施例1と同様に特開平7-135318号公報記載の技術により多孔性の陽極酸化膜66〜68、無孔性の陽極酸化膜69〜71、ゲイト電極72〜74を形成する。(図6(B))
【0186】
こうして図6(B)の状態が得られたら、次にゲイト電極72〜74、多孔性の陽極酸化膜66〜68をマスクとしてゲイト絶縁膜62をエッチングする。そして、多孔性の陽極酸化膜66〜68を除去して図6(C)の状態を得る。なお、75〜77で示されるのは加工後のゲイト絶縁膜である。
【0187】
次に、実施例1と同様の手順に従ってN型を付与する不純物イオンを2回に分けて添加する。まず1回目の不純物添加を高加速電圧で行い、n- 領域を形成し、次に2回目の不純物添加を低加速電圧で行い、n+ 領域を形成する。
【0188】
以上の工程を経て、CMOS回路を構成するN型TFTのソース領域78、ドレイン領域79、低濃度不純物領域80、チャネル形成領域81が形成される。また、画素TFTを構成するN型TFTのソース領域82、ドレイン領域83、低濃度不純物領域84、チャネル形成領域85が画定する。(図6(D))
【0189】
なお、図6(D)に示す状態ではCMOS回路を構成するP型TFTの活性層もN型TFTの活性層と同じ構成となっている。
【0190】
次に、N型TFTを覆ってレジストマスク86を設け、P型を付与する不純物イオン(本実施例ではボロンを用いる)の添加を行う。
【0191】
この工程も前述の不純物添加工程と同様に2回に分けて行うが、N型をP型に反転させる必要があるため、前述のPイオンの添加濃度の数倍程度の濃度のB(ボロン)イオンを添加する。
【0192】
こうしてCMOS回路を構成するP型TFTのソース領域87、ドレイン領域88、低濃度不純物領域89、チャネル形成領域90が形成される。(図7(A))
【0193】
以上の様にして活性層が完成したら、ファーネスアニール、レーザーアニール、ランプアニール等の組み合わせによって不純物イオンの活性化を行う。それと同時に添加工程で受けた活性層の損傷も修復される。
【0194】
次に、層間絶縁膜91として酸化珪素膜と窒化珪素膜との積層膜を形成し、コンタクトホールを形成した後、ソース電極92〜94、ドレイン電極95、96を形成して図7(B)に示す状態を得る。
【0195】
なお、本実施例では画素TFTのドレイン電極96を補助容量の下部電極として利用するので、それに対応する様な形状に加工しておく。
【0196】
次に、10〜50nmの厚さの窒化珪素膜97を形成し、その上に補助容量を形成するための容量電極98を 100nmの厚さに形成する。本実施例では容量電極98としてチタン膜を用い、ドレイン電極96との間で補助容量を形成する。
【0197】
前述の窒化珪素膜97は比誘電率が高いので誘電体として好適である。また、容量電極98としてはチタン膜以外にもアルミニウム膜やクロム膜等を用いても構わない。
【0198】
なお、本実施例は反射型液晶表示装置のアクティブマトリクス基板(TFT側基板)を作製する例であるので、透過型と違って後に形成される画素電極の下を自由に利用できる(開口率を気にする必要がない)。それ故に上述の様な補助容量の形成が可能となる。
【0199】
次に、有機性樹脂膜でなる第2の層間絶縁膜99を 0.5〜3 μmの厚さに形成する。そして、層間絶縁膜99上に導電膜を形成してパターニングにより画素電極10を形成する。本実施例は反射型の例であるため画素電極10を構成する導電膜としてアルミニウムを主成分とする材料を用い、画素電極10に反射膜としての機能を持たせる。
【0200】
次に、基板全体を350 ℃の水素雰囲気で1〜2時間加熱し、素子全体の水素化を行うことで膜中(特に活性層中)のダングリングボンド(不対結合手)を補償する。以上の工程を経て同一基板上にCMOS回路および画素マトリクス回路を作製することができる。
【実施例7】
【0201】
本実施例では、実施例6とは異なるTFT構造を採用した場合の例について説明する。まず、図8(A)は低濃度不純物領域を形成するにあたってサイドウォールを利用する例である。
【0202】
この場合、図6(A)に示す状態で無孔性の陽極酸化膜を形成し、ゲイト電極とその陽極酸化膜をマスクとしてゲイト絶縁膜をエッチングする。その状態でn- 領域およびp- 領域を形成するための不純物添加を行う。
【0203】
次に、サイドウォール1001〜1003をエッチバック法で形成した後、n+ 領域およびp+ 領域を形成するための不純物添加を行う。この様な工程でサイドウォール1001〜1003の下には低濃度不純物領域(n- 領域およびp- 領域)が形成される。
【0204】
また、図8(A)では公知のサリサイド技術を利用して金属シリサイド1004〜1006を形成している。シリサイド化するための金属としてはチタン、タンタル、タングステン、モリブデン等を用いることができる。
【0205】
また、図8(B)に示す構成は、ゲイト電極1007〜1009が一導電性を付与した結晶性珪素膜で形成されている点に特徴がある。通常、N型導電性を持たせるが、N型TFTとP型TFTとで導電性を異ならせるデュアルゲイト型TFTとすることも可能である。
【0206】
さらに、図8(B)に示す構造でもサリサイド構造を適用しているが、この場合、ゲイト電極1007〜1009の上面にも金属シリサイド1010〜1012が形成される。
【0207】
本実施例に示した構造は、動作速度の速いTFTに適した構造となる様に設計されている。特に、サリサイド構造は数GHzレベルの動作周波数を実現する上で非常に有効な技術である。
【実施例8】
【0208】
本実施例では、実施例6とは異なる構成で補助容量を形成する場合の例について説明する。
【0209】
まず、図9(A)は活性層のドレイン領域1020を大きめに形成しておき、その一部を補助容量の下部電極として活用する。この場合、ドレイン領域1020の上にはゲイト絶縁膜1021があり、その上に容量電極1022が形成される。この容量電極1022はゲイト電極と同一材料で形成される。
【0210】
この時、ドレイン領域1020のうち補助容量を形成する部分は、予め不純物を添加して導電性を持たせておいても良いし、容量電極1022に定電圧をかけて形成される反転層を利用しても良い。
【0211】
図9(A)は反射型液晶表示装置の例であるため、画素電極の裏側を最大限に活用して補助容量を形成できる。そのため、非常に大きな容量を確保することができる。勿論、透過型液晶表示装置にも適用できるが、その場合、補助容量の占有面積を大きくしてしまうと開口率が落ちるので注意が必要である。
【0212】
次に、図9(B)は透過型液晶表示装置の例である。図9(B)の構成ではドレイン電極1023を補助容量の下部電極とし、その上に窒化珪素膜1024、ブラックマスク1025を形成し、ドレイン電極1023とブラックマスク1025との間で補助容量を形成する。
【0213】
この様に、図9(B)の構成ではブラックマスク1025が補助容量の上部電極を兼ねる点が特徴である。
【0214】
また、1026は画素電極であり、透過型であるので透明導電膜(例えばITO膜)を用いる。
【0215】
図9(B)に示す様な構成では、広い面積を占めやすい補助容量をTFTの上に形成することで開口率を広くすることが可能である。また、誘電率の高い窒化珪素膜を25nm程度の薄さで利用できるので、少ない面積で非常に大きな容量を確保することが可能である。
【実施例9】
【0216】
本実施例では本願発明を利用して液晶パネルを構成する場合の例を示す。図10に示すのはアクティブマトリクス型液晶パネルの断面を簡略化した図であり、ドライバー回路やロジック回路を構成する領域にはCMOS回路を、画素マトリクス回路を構成する領域には画素TFTを示している。
【0217】
なお、実施例6〜8でCMOS回路と画素マトリクス回路の構造(TFT構造)に関する説明を既に行ったので、本実施例では必要な箇所のみを説明することにする。
【0218】
まず、実施例6に示した作製工程に従って図7(C)の状態を得る。なお、画素TFTをマルチゲイト構造とするなどの変更は実施者の自由である。
【0219】
そして、アクティブマトリクス基板の準備として配向膜1030を形成する。次に、対向基板を用意する。対向基板は、ガラス基板1031、透明導電膜1032、配向膜1033とで構成される。なお、対向基板側には必要に応じてブラックマスクやカラーフィルターが形成されるがここでは省略する。
【0220】
こうして用意したアクティブマトリクス基板と対向基板とを公知のセル組み工程によって貼り合わせる。そして、両基板の間に液晶材料1034を封入して図10に示す様な液晶パネルが完成する。
【0221】
液晶材料1034は液晶の動作モード(ECBモード、ゲストホストモード等)によって自由に選定することができる。
【0222】
また、図7(C)に示した様なアクティブマトリクス基板の外観を図11に簡略化して示す。図11において、1040は石英基板、1041は画素マトリクス回路、1042はソースドライバー回路、1043はゲイトドライバー回路、1044はロジック回路である。
【0223】
ロジック回路1044は広義的にはTFTで構成される論理回路全てを含むが、ここでは従来から画素マトリクス回路、ドライバー回路と呼ばれている回路と区別するため、それ以外の信号処理回路(メモリ、D/Aコンバータ、パルスジェネレータ等)を指す。
【0224】
また、こうして形成された液晶パネルには外部端子としてFPC(Flexible Print Circuit)端子が取り付けられる。一般的に液晶モジュールと呼ばれるのはFPCを取り付けた状態の液晶パネルである。
【実施例10】
【0225】
本願発明は実施例9に示した液晶表示装置以外にも、アクティブマトリクス型のEL(エレクトロルミネッセンス)表示装置やEC(エレクトロクロミクス)表示装置等の他の電気光学装置を作製することも可能である。
【実施例11】
【0226】
本実施例では、本発明を利用した電気光学装置を利用する電子デバイス(応用製品)の一例を図12に示す。本発明を利用した応用製品としてはビデオカメラ、スチルカメラ、プロジェクター、ヘッドマウントディスプレイ、カーナビゲーション、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話等)などが挙げられる。
【0227】
図12(A)は携帯電話であり、本体2001、音声出力部2002、音声入力部2003、表示装置2004、操作スイッチ2005、アンテナ2006で構成される。本発明は表示装置2004に適用することができる。
【0228】
図12(B)はビデオカメラであり、本体2101、表示装置2102、音声入力部2103、操作スイッチ2104、バッテリー2105、受像部2106で構成される。本発明は表示装置2102に適用することができる。
【0229】
図12(C)はモバイルコンピュータ(モービルコンピュータ)であり、本体2201、カメラ部2202、受像部2203、操作スイッチ2204、表示装置2205で構成される。本発明は表示装置2205に適用できる。
【0230】
図12(D)はヘッドマウントディスプレイであり、本体2301、表示装置2302、バンド部2303で構成される。本発明は表示装置2302に適用することができる。
【0231】
図12(E)はリア型プロジェクターであり、本体2401、光源2402、表示装置2403、偏光ビームスプリッタ2404、リフレクター2405、2406、スクリーン2407で構成される。本発明は表示装置2403に適用することができる。
【0232】
図12(F)はフロント型プロジェクターであり、本体2501、光源2502、表示装置2503、光学系2504、スクリーン2505で構成される。本発明は表示装置2503に適用することができる。
【0233】
以上の様に、本発明の応用範囲は極めて広く、あらゆる分野の表示媒体に適用することが可能である。また、本発明のTFTはIC、LSIといった半導体回路を構成することもできるので、その様な半導体回路を必要とする製品であれば用途を問わない。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図2】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図3】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図4】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図5】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図6】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図7】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図8】アクティブマトリクス基板の構造を示す図。
【図9】アクティブマトリクス基板の構造を示す図。
【図10】液晶表示装置の断面を示す図。
【図11】アクティブマトリクス基板を上面から見た図。
【図12】電子デバイス(応用製品)の一例を示す図。
【図13】薄膜トランジスタの電気特性を示す図。
【図14】リングオシレータの周波数特性を示す図。
【図15】リングオシレータの出力スペクトルを示す写真。
【図16】スケーリング則を示す図。
【図17】結晶の方位関係を模式的に表した図。
【図18】結晶成長の様子を模式的に表した図。
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する発明は、絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜およびそれを活性層とする半導体装置に関する。特に、半導体薄膜として珪素を主成分とする材料を利用する場合の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁表面を有する基板上に形成された半導体薄膜(厚さ数百〜数千Å程度)を用いて薄膜トランジスタ(TFT)を構成する技術が注目されている。薄膜トランジスタはICや電気光学装置のような電子デバイスに広く応用され、特に画像表示装置のスイッチング素子として開発が急がれている。
【0003】
例えば、液晶表示装置においてはマトリクス状に配列された画素領域を個々に制御する画素マトリクス回路、画素マトリクス回路を制御する駆動回路、さらに外部からのデータ信号を処理するロジック回路(プロセッサ回路やメモリ回路など)等のあらゆる電気回路にTFTを応用する試みがなされている。
【0004】
現状においては、活性層として非晶質シリコン膜(アモルファスシリコン膜)を用いたTFTが実用化されているが、駆動回路やロジック回路などの様に、さらなる高速動作性能を求められる電気回路には、結晶シリコン膜(ポリシリコン膜、多結晶シリコン膜等)を利用したTFTが必要とされる。
【0005】
例えば、ガラス基板上に結晶性珪素膜を形成する方法としては、本出願人による特開平7-130652号公報、特開平8-78329 号公報に記載された技術が公知である。これらの公報記載の技術は、非晶質シリコン膜の結晶化を助長する触媒元素を利用することにより、500 〜600 ℃、4時間程度の加熱処理によって結晶性の優れた結晶シリコン膜を形成することを可能とするものである。
【0006】
特に、特開平8-78329 に記載された技術は上記技術を応用して基板面とほぼ平行な結晶成長を行わすものであり、発明者らは形成された結晶化領域を特に横成長領域(またはラテラル成長領域)と呼んでいる。
【0007】
しかし、この様なTFTを用いて駆動回路を構成してもまだまだ要求される性能を完全に満たすには及ばない。特に、メガヘルツからギガヘルツにかけての極めて高速な動作を要求する高速ロジック回路を従来のTFTで構成することは不可能なのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、これまで結晶粒界を有する結晶性珪素膜(多結晶珪素膜と呼ばれる)の結晶性を向上させるために様々な思考錯誤を繰り返してきた。セミアモルファス半導体(特開昭57-160121 号公報等)やモノドメイン半導体(特開平8-139019号公報等)などが挙げられる。
【0009】
上記公報に記載された半導体膜に共通の概念は、結晶粒界の実質的な無害化にある。即ち、結晶粒界を実質的になくし、キャリア(電子または正孔)の移動を円滑に行わせることが最大の課題であった。
【0010】
しかしながら、上記公報に記載された半導体膜をもってしてもロジック回路が要求する高速動作を行うには不十分と言える。即ち、ロジック回路を内蔵したシステム・オン・パネルを実現するためには、従来にない全く新しい材料の開発が求められているのである。
【0011】
本願発明は、その様な要求に答えるものであり、従来のTFTでは作製不可能であった様な高速ロジック回路を構成しうる極めて高性能な半導体装置を実現するための半導体薄膜を提供することを課題とする。また、その様な半導体薄膜を利用した半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書で開示する発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、珪素以外で膜中に存在する元素は少なくともC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)以外の元素から選ばれた一種または複数種の元素であることを特徴とする。
【0013】
また、他の発明の構成は、上記構成において珪素以外で膜中に存在する元素とは、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Cu(銅)、Au(金)から選ばれた一種または複数種の元素であり、且つ、当該元素の濃度は 5×1017atoms/cm3 以下(または0.001atomic%以下)であることを特徴とする。
【0014】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の濃度はSIMSによる検出下限以下であることを特徴とする。
【0015】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)及びS(硫黄)の濃度は 5×1018atoms/cm3 未満(または0.01atomic% 未満)であり、且つ、膜中に存在するO(酸素)の濃度は 1.5×1019atoms/cm3 未満(または0.03atomic% 未満)であることを特徴とする。
【0016】
また、他の発明の構成は、
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、任意の結晶粒界では殆どの結晶格子に連続性があることを特徴とする。
【0017】
珪素を主成分とする複数の棒状または偏平棒状結晶の集合体からなる半導体薄膜であって、
面方位は概略{111}配向であり、且つ、任意の結晶粒界を横切る様にして観測される格子縞の殆どが、前記結晶粒界を形成する異なる結晶粒間で直線的に連続していることを特徴とする。
【0018】
なお、上記全ての構成において、概略{111}配向であることは本発明者らが定義する{111}配向比率が0.9以上であることを意味する。
【0019】
また、上記構成の半導体薄膜を用いて作製した半導体装置は、従来からICを構成するIGFETに匹敵する或いは凌駕する極めて高い性能を有し、且つ、高い信頼性を備えたものである。
【0020】
以上のような本発明の構成について、以下に記載する実施例でもって詳細な説明を行うこととする。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示する発明によれば、実質的に単結晶半導体に匹敵する結晶性を有する半導体薄膜を実現することができる。そして、その様な半導体薄膜を利用することで単結晶上に作製したIGFET(MOSFET)に匹敵する、或いは凌駕する高い性能を有したTFTを実現することができる。
【0022】
以上の様なTFTを用いて構成される半導体回路や電気光学装置およびそれらを具備した電子デバイスは、極めて高い性能を有し、機能性、携帯性、信頼性の面で非常に優れたものとなる。
【実施例1】
【0023】
本実施例では、本願発明である半導体薄膜およびそれを活性層とした半導体装置(具体的にはTFT)の作製工程について説明する。また、作製工程の説明の後には、本願発明のTFTについて、結晶構造および電気特性の観点から得られた知見について説明する。
【0024】
まず、絶縁表面を有する基板として石英基板100上に下地膜101を設けた基板を準備する。下地膜101はプラズマCVD法やスパッタCVD法により形成すれば良い。なお、後述するが本実施例で用いる下地膜はLAL500というエッチャントに対するエッチングレートが50nm/min以上のものを用いる。
【0025】
また、石英基板の代わりにセラミックス基板、シリコン基板またはサファイア基板などを用いることも可能である。
【0026】
102は非晶質珪素膜であり、最終的な膜厚(熱酸化後の膜減りを考慮した膜厚)が10〜75nm(好ましくは15〜45nm)となる様に調節する。成膜は減圧熱CV法で行い、下記条件に従って行う。
成膜温度:465 ℃
成膜圧力:0.5torr
成膜ガス:He(ヘリウム)300sccm
Si2 H6 (ジシラン)250sccm
【0027】
なお、成膜に際して膜中の不純物濃度の管理を徹底的に行うことが重要である。本実施例の場合、非晶質珪素膜102中では結晶化を阻害する不純物であるC(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)の濃度はいずれも 5×1018atoms/cm3 未満、O(酸素)は 1.5×1019atoms/cm3 未満となる様に管理している。
【0028】
なぜならば各不純物がこれ以上の濃度で存在すると、結晶化の際に悪影響を及ぼし、結晶化後の膜質を低下させる原因となるからである。
【0029】
本実施例で用いる減圧熱CVD炉は、定期的にドライクリーニングを行い、成膜室の清浄化を図っている。ドライクリーニングは、 200〜400 ℃程度に加熱した炉内に 100〜300sccm のClF3 (フッ化塩素)ガスを流し、熱分解によって生成したフッ素によって成膜室のクリーニングを行う。
【0030】
なお、炉内温度300 ℃とし、ClF3 (フッ化塩素)ガスの流量を300sccm とした場合、約2μm厚の付着物(主に珪素を主成分する)を4時間で完全に除去することができた。
【0031】
また、非晶質珪素膜102中の水素濃度も非常に重要なパラメータであり、水素含有量を低く抑えた方が結晶性の良い膜が得られる様である。そのため、非晶質珪素膜102の成膜は減圧熱CVD法であることが好ましい。なお、成膜条件を最適化することでプラズマCVD法を用いることも可能である。
【0032】
次に、非晶質珪素膜102の結晶化工程を行う。結晶化の手段としては本発明者による特開平7-130652号公報記載の技術を用いる。同公報の実施例1および実施例2のどちらの手段でも良いが、本願発明では実施例2に記載した技術内容(特開平8-78329 号公報に詳しい)を利用するのが好ましい。
【0033】
特開平8-78329 号公報記載の技術は、まず触媒元素の添加領域を選択するマスク絶縁膜103を形成する。マスク絶縁膜103は触媒元素を添加するために複数箇所の開口部を有している。この開口部の位置によって結晶領域の位置を決定することができる。
【0034】
そして、非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素としてニッケル(Ni)を含有した溶液をスピンコート法により塗布し、Ni含有層104を形成する。なお、触媒元素としてはニッケル以外にも、コバルト(Co)、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、金(Au)等を用いることができる。(図1(A))
【0035】
また、上記触媒元素の添加工程は、レジストマスクを利用したイオン注入法またはプラズマドーピング法を用いることもできる。この場合、添加領域の占有面積の低減、横成長領域の成長距離の制御が容易となるので、微細化した回路を構成する際に有効な技術となる。
【0036】
次に、触媒元素の添加工程が終了したら、450 ℃1時間程度の水素出しの後、不活性雰囲気、水素雰囲気または酸素雰囲気中において 500〜700 ℃(代表的には 550〜650 ℃)の温度で 4〜24時間の加熱処理を加えて非晶質珪素膜102の結晶化を行う。本実施例では窒素雰囲気で570 ℃14時間の加熱処理を行う。
【0037】
この時、非晶質珪素膜102の結晶化はニッケルを添加した領域105で発生した核から優先的に進行し、基板101の基板面に対してほぼ平行に成長した結晶領域106が形成される。本発明者らはこの結晶領域106を横成長領域と呼んでいる。横成長領域は比較的揃った状態で個々の結晶が集合しているため、全体的な結晶性に優れるという利点がある。(図1(B))
【0038】
なお、上述の特開平7-130652号公報の実施例1に記載された技術を用いた場合も微視的には横成長領域と呼びうる領域が形成されている。しかしながら、核発生が面内において不均一に起こるので結晶粒界の制御性の面で難がある。
【0039】
また、上述の結晶化温度及び結晶化時間は非晶質珪素膜102の膜質を鑑みて決定されたものである。減圧熱CVD法で作製した非晶質珪素膜を特開平8-78329 号公報記載の技術で結晶化する場合、570 ℃以上の温度では自然核発生が生じてしまい、横成長領域の成長を阻害してしまう恐れがある。また、この温度では少なくとも12時間(好ましくは14時間)の結晶化時間が必要である。
【0040】
ましてやプラズマCVD法により水素含有量の多い条件で作製された非晶質珪素膜は、自然核発生温度がさらに20℃近くも低いため、それに応じて結晶化温度を決定しなければならない。
【0041】
なお、これらの知見に関する報告は、本発明者らによる特願平9-78979 号の出願明細書に記載してある。
【0042】
この様に、本願発明では水素含有量やC、N、O、Sといった不純物元素の含有量を厳しく管理した非晶質珪素膜を出発膜として用い、且つ、その膜質を鑑みて結晶化条件を決定している点にも特徴がある。
【0043】
結晶化のための加熱処理が終了したら、マスク絶縁膜103を除去してパターニングを行い、横成長領域106のみでなる島状半導体層(活性層)107を形成する。
【0044】
次に、珪素を含む絶縁膜でなるゲイト絶縁膜108を形成する。ゲイト絶縁膜108の膜厚は後の熱酸化工程による増加分も考慮して20〜250nm の範囲で調節すれば良い。また、成膜方法は公知の気相法(プラズマCVD法、スパッタ法等)を用いれば良い。
【0045】
次に、図1(C)に示す様に触媒元素(ニッケル)を除去または低減するための加熱処理(触媒元素のゲッタリングプロセス)を行う。この加熱処理は処理雰囲気中にハロゲン元素を含ませ、ハロゲン元素による金属元素のゲッタリング効果を利用するものである。
【0046】
なお、ハロゲン元素によるゲッタリング効果を十分に得るためには、上記加熱処理を700 ℃を超える温度で行なうことが好ましい。この温度以下では処理雰囲気中のハロゲン化合物の分解が困難となり、ゲッタリング効果が得られなくなる恐れがある。
【0047】
そのため本実施例ではこの加熱処理を700 ℃を超える温度で行い、好ましくは800 〜1000℃(代表的には950 ℃)とし、処理時間は 0.1〜 6hr、代表的には 0.5〜 1hrとする。
【0048】
なお、本実施例では酸素雰囲気中に対して塩化水素(HCl)を0.5 〜10体積%(本実施例では3体積%)の濃度で含有させた雰囲気中において、950 ℃、30分の加熱処理を行う例を示す。HCl濃度を上記濃度以上とすると、活性層107の表面に膜厚程度の凹凸が生じてしまうため好ましくない。
【0049】
また、ハロゲン元素を含む化合物してHClガスを用いる例を示したが、それ以外のガスとして、代表的にはHF、NF3 、HBr、Cl2 、ClF3 、BCl3 、F2 、Br2 等のハロゲンを含む化合物から選ばれた一種または複数種のものを用いることが出来る。
【0050】
この工程においては活性層107中のニッケルが塩素の作用によりゲッタリングされ、揮発性の塩化ニッケルとなって大気中へ離脱して除去されると考えられる。そして、この工程により活性層107中のニッケルの濃度は 5×1017atoms/cm3 以下にまで低減される。
【0051】
なお、本明細書中における各元素の濃度は、SIMS測定結果から得られる最小値をもって定義している。ただし、膜界面等の様に測定誤差の大きい領域における濃度は測定結果として考慮しない。
【0052】
ただし、上述の 5×1017atoms/cm3 という値はSIMS(質量二次イオン分析)測定におけるニッケルの検出下限である。本発明者らが試作したTFTを解析した結果、 1×1018atoms/cm3 以下(好ましくは 5×1017atoms/cm3 以下)ではTFT特性に対するニッケルの影響は確認されなかった。
【0053】
また、上記加熱処理により活性層107とゲイト絶縁膜108の界面では熱酸化反応が進行し、熱酸化膜の分だけゲイト絶縁膜108の膜厚は増加する。この様にして熱酸化膜を形成すると、非常に界面準位の少ない半導体/絶縁膜界面を得ることができる。また、活性層端部における熱酸化膜の形成不良(エッジシニング)を防ぐ効果もある。
【0054】
さらに、上記ハロゲン雰囲気における加熱処理を施した後に、窒素雰囲気中で950 ℃ 1時間程度の加熱処理を行なうことで、ゲイト絶縁膜108の膜質の向上を図ることも有効である。
【0055】
なお、SIMS分析により活性層107中にはゲッタリング処理に使用したハロゲン元素が 1×1015〜 1×1020atoms/cm3 の濃度で残存することも確認されている。また、その際、活性層107と加熱処理によって形成される熱酸化膜との間に前述のハロゲン元素が高濃度に分布することがSIMS分析によって確かめられている。
【0056】
また、他の元素についてもSIMS分析を行った結果、C(炭素)、N(窒素)、S(硫黄)はいずれも 5×1018atoms/cm3 未満、O(酸素)は 1.5×1019atoms/cm3 未満であることが確認された。
【0057】
次に、図示しないアルミニウムを主成分とする金属膜を成膜し、パターニングによって後のゲイト電極の原型109を形成する。本実施例では2wt% のスカンジウムを含有したアルミニウム膜を用いる。なお、これ以外にもタンタル膜、導電性を有する珪素膜等を用いることもできる。(図1(D))
【0058】
ここで本発明者らによる特開平7-135318号公報記載の技術を利用する。同公報には、陽極酸化により形成した酸化膜を利用して自己整合的にソース/ドレイン領域と低濃度不純物領域とを形成する技術が開示されている。
【0059】
まず、アルミニウム膜のパターニングに使用したレジストマスク(図示せず)を残したまま3%シュウ酸水溶液中で陽極酸化処理を行い、多孔性の陽極酸化膜110を形成する。
【0060】
この多孔性の陽極酸化膜110は時間に比例して膜厚が増加する。また、上面にレジストマスクが残っているのでゲイト電極の原型109の側面のみに形成される。なお、特開平7-135318号公報記載の技術では、この膜厚が後に低濃度不純物領域(LDD領域とも呼ばれる)の長さになる。本実施例では膜厚が700 nmとなる様な条件で陽極酸化処理を行う。
【0061】
次に、図示しないレジストマスクを除去した後、エチレングリコール溶液に3%の酒石酸を混合した電解溶液中で陽極酸化処理を行う。この処理では緻密な無孔性の陽極酸化膜111が形成される。なお、多孔性の陽極酸化膜の内部にも電解溶液が浸透するので、その内側にも形成される。
【0062】
この無孔性の陽極酸化膜111は印加する電圧に応じて膜厚が決定する。本実施例では、100 nm程度の膜厚で形成される様に印加電圧を80Vとして陽極酸化処理を行う。
【0063】
そして、上述の2回に渡る陽極酸化処理の後に残ったアルミニウム膜112が実質的にゲイト電極として機能する。
【0064】
こうして図1(E)の状態が得られたら、次にゲイト電極112、多孔性の陽極酸化膜110をマスクとしてゲイト絶縁膜108をドライエッチング法によりエッチングする。そして、多孔性の陽極酸化膜110を除去する。こうして形成されるゲイト絶縁膜113の端部は多孔性の陽極酸化膜110の膜厚分だけ露出した状態となる。(図2(A))
【0065】
次に、一導電性を付与する不純物元素の添加工程を行う。不純物元素としてはN型ならばP(リン)またはAs(砒素)、P型ならばB(ボロン)を用いれば良い。
【0066】
本実施例では、まず1回目の不純物添加を高加速電圧で行い、n- 領域114、115を形成する。この時、加速電圧が80keV 程度と高いので不純物元素は活性層表面だけでなく露出したゲイト絶縁膜の端部の下にも添加される。このn- 領域114、115は不純物濃度が 1×1018〜 1×1019atoms/cm3 となる様に調節する。(図2(B))
【0067】
さらに、2回目の不純物添加を低加速電圧で行い、n+ 領域116、117を形成する。この時は加速電圧が10keV 程度と低いのでゲイト絶縁膜がマスクとして機能する。また、このn+ 領域116、117はシート抵抗が 500Ω以下(好ましくは 300Ω以下)となる様に調節する。(図2(C))
【0068】
以上の工程で形成された不純物領域は、n+ 領域がソース領域116、ドレイン領域117となり、n- 領域が低濃度不純物領域118となる。また、ゲイト電極直下の領域は不純物元素が添加されず、実質的に真性なチャネル形成領域119となる。
【0069】
なお、低濃度不純物領域118はチャネル形成領域119とドレイン領域117との間にかかる高電界を緩和する効果があり、LDD(ライトドープドレイン)領域とも呼ばれる。
【0070】
以上の様にして活性層が完成したら、ファーネスアニール、レーザーアニール、ランプアニール等の組み合わせによって不純物元素の活性化を行う。それと同時に添加工程で受けた活性層の損傷も修復される。
【0071】
次に、層間絶縁膜120を500 nmの厚さに形成する。層間絶縁膜120としては酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜、有機性樹脂膜、或いはそれらの積層膜を用いることができる。
【0072】
なお、有機性樹脂膜としてはポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド等が用いられる。有機性樹脂膜の利点は、(1)成膜方法が簡単である点、(2)容易に膜厚を厚くできる点、(3)比誘電率が低いので寄生容量を低減できる点、(4)平坦性に優れている点などが挙げられる。
【0073】
次に、コンタクトホールを形成した後、ソース電極121、ドレイン電極122を形成する。最後に、基板全体を350 ℃の水素雰囲気で1〜2時間加熱し、素子全体の水素化を行うことで膜中(特に活性層中)のダングリングボンド(不対結合手)を終端する。
【0074】
以上の工程によって、図2(D)に示す様な構造のTFTを作製することができる。以下に、こうして得られたTFTの特徴について述べる。
【0075】
(活性層中に含まれる不純物に関する知見)
本実施例の活性層(半導体薄膜)には結晶化を阻害する元素であるC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)が存在しない、或いは実質的に存在しない点に特徴がある。これは徹底的な不純物(汚染物)管理によってなしうる構成である。
【0076】
前述の様に、少なくともC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)のいずれか一つの元素が結晶化の際に膜中に存在すると、触媒元素を利用した結晶化機構に悪影響を与える。
【0077】
これら不純物元素の代表的な混入経路は基板上への非晶質珪素膜の成膜時が考えられるので、初期成膜時にこれら不純物元素の濃度を極力抑える(好ましくは完全に排除する)ことが、良好な結晶性を確保するためには重要となる。勿論、成膜時以外にも注意を払うことは言うまでもない。
【0078】
本実施例の場合、非晶質珪素膜の成膜にあたってC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の混入を徹底的に避けるので、必然的に最終的な半導体膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)及びS(硫黄)の濃度は少なくとも 5×1018atoms/cm3 未満(0.01atomic% 未満)、O(酸素)の濃度は少なくとも 1.5×1019atoms/cm3 未満(0.03atomic% 未満)となる。
【0079】
なお、純粋に珪素だけからなる半導体膜では珪素の濃度が約 5×1022atoms/cm3 であるので、例えば 5×1018atoms/cm3 の不純物元素は約0.01atomic% の濃度で存在することに相当する。従って、例えば珪素に数%のゲルマニウムを含有させた半導体薄膜などでは「atomic% 」による表示は多少変わってくるが、 5×1018atoms/cm3 という絶対的な濃度は変わるものではない。
【0080】
また、望ましくは最終的な半導体膜中に存在するC(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びS(硫黄)の濃度をSIMS分析における検出下限以下、さらに望ましくは完全に存在しない状態とすることが優れた結晶性を得るためには必要であると考える。
【0081】
(活性層の結晶構造に関する知見)
上記作製工程に従って形成した活性層は、微視的に見れば複数の棒状または偏平棒状結晶が互いに概略平行に特定方向への規則性をもって並んだ結晶構造を有する。このことはTEM(透過型電子顕微鏡法)による観察で容易に確認することができる。
【0082】
本発明者らは棒状または偏平棒状結晶同士が接して形成する結晶粒界を 800万倍に拡大したHR−TEM写真で確認した。なお、本明細書中において結晶粒界とは、棒状または偏平棒状結晶が接した境界に形成される粒界を指すものと定義する。従って、例えば横成長領域がぶつかりあって形成される様なマクロな意味あいでの粒界とは区別して考える。
【0083】
ところで前述のHR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡法)とは、試料に対して垂直に電子線を照射し、透過電子や弾性散乱電子の干渉を利用して原子・分子配列を評価する手法である。
【0084】
HR−TEMでは結晶格子の配列状態を格子縞として観察することが可能である。従って、結晶粒界を観察することで、結晶粒界における原子同士の結合状態を推測することができる。
【0085】
本発明者らが得たTEM写真によれば、異なる二つの結晶粒が結晶粒界で接した状態が明瞭に観察された。またこの時、二つの結晶粒は結晶軸に多少のずれが含まれているものの概略{111}配向であった。この事は複数の結晶粒を電子線回折により調べて確認した。
【0086】
なお、多数観察した中には(1−11)面や(−11−1)面(書式の都合上(1−11)などと表記するが、−1の(−)記号は反転を表す論理記号の代わりとして用いている)などもあるはずだが、それら等価な面はまとめて{111}面と表すことにする。この事について図2を用いて説明する。
【0087】
図17(A)は結晶面が{111}面である結晶粒(結晶軸は〈111〉となる)を模式的に表した例である。{111}である結晶面内には〈110〉軸が多方向に含まれる。
【0088】
図17(A)に示す様な表記方法は集合的な指数表記の例である。これを厳密な指数表記にすると図17(B)、(C)の様になる。例えば、図17(B)に示される結晶軸[111]と図17(C)に示される結晶軸[−111]はどちらも等価であり、〈111〉でまとめられる。
【0089】
以上の様に、厳密な結晶方位(結晶軸)で議論すると様々な捉え方ができるので、簡略化を図るために以下の記載は全て集合的な指数表記で表す。勿論、等価な全ての結晶面では同様の物性が得られる。
【0090】
ところで、前述の様なTEM写真による格子縞観察では{111}面内に{110}面に対応する格子縞が観察された。なお、{110}面に対応する格子縞とは、その格子縞に沿って結晶粒を切断した場合に断面に{110}面が現れる様な格子縞を指している。格子縞がどの様な面に対応するかは、簡易的に格子縞と格子縞の間隔から確認できる。
【0091】
この時、本発明者らは本願発明の半導体薄膜のTEM写真を詳細に観察した結果、非常に興味深い知見を得た。写真に見える異なる二つの結晶粒ではどちらにも{110}面に対応する格子縞が見えていた。そして、互いの格子縞が明らかに平行に走っているのが観察されたのである。
【0092】
さらに、結晶粒界の存在と関係なく、結晶粒界を横切る様にして異なる二つの結晶粒の格子縞が繋がっている。即ち、結晶粒界を横切る様にして観測される格子縞の殆どが、異なる結晶粒の格子縞であるにも拘らず直線的に連続していることが確認できた。これは任意の結晶粒界で同様であった。
【0093】
この様な結晶構造は本願発明の結晶性珪素膜の大きな特徴であり、本発明者らが求めた結晶粒界を実現する結晶構造である。
【0094】
この様な結晶構造(正確には結晶粒界の構造)は、結晶粒界において異なる二つの結晶粒が極めて整合性よく接合していることを示している。即ち、結晶粒界において結晶格子が連続的に連なり、結晶欠陥等に起因するトラップ準位を非常に作りにくい構成となっている。換言すれば、結晶粒界において結晶格子に連続性があるとも言える。
【0095】
なお、本発明者らはリファレンスとして従来の高温ポリシリコン膜についても電子線回折およびHR−TEM観察による解析を行った。その結果、結晶面には規則性がなく、{111}面、{110}面{311}面などが不規則に現れる様なランダムな配向であった。
【0096】
また、TEM写真により異なる二つの結晶粒の格子縞を観察した結果、互いの格子縞は全くバラバラに走っており、結晶粒界で整合性よく連続する様な接合は見つけられなかった。なお、この観察ではちょうど{111}配向の結晶粒が並ぶ結晶粒界を探し、{110}に対応する格子縞が見える様な条件で撮影したTEM写真を調べた。
【0097】
また、従来の高温ポリシリコンの場合、結晶粒界では格子縞が途切れた部分が多数確認できた。この様な部分では未結合手(結晶欠陥と呼べる)が存在することになり、トラップ準位としてキャリアの移動を阻害する可能性が高い。
【0098】
なお、上述の様に本願発明の結晶性珪素膜は結晶粒界においても格子が連続性を有しており、この様な結晶欠陥は殆ど確認することができなかった。この点からも本願発明の結晶性珪素膜が従来の高温ポリシコンとは明らかに異なる半導体膜であることが証明されている。
【0099】
ところで、前述の電子線回折による解析では興味ある知見が得られている。本願発明の半導体薄膜の場合、〈111〉入射に対応する回折斑点が比較的きれいに現れ、結晶面が{111}配向であることは明らかであった。
【0100】
この時、各斑点は同心円状の広がりを僅かにもっていたが、これは結晶軸まわりにある程度の回転角度の分布をもつためと予想される。その広がりの程度はパターンから見積もっても5°以内であった。
【0101】
また、多数観測するうちには回折斑点が部分的に見えない場合があった。おそらくは概略{111}配向であるものの、わずかに結晶軸がずれているために回折パターンが見えなったものと思われる。
【0102】
本発明者らは、結晶面内に殆ど必ず{110}面が含まれるという事実を踏まえ、おそらく〈110〉軸まわりの回転角のずれがその様な現象の原因であろうと推測している。
【0103】
(本願発明の半導体薄膜の配向性に関する知見)
本発明者らが開示した特開平7-321339号公報によれば、非晶質珪素膜が結晶化する際、基板と概略平行に成長する棒状または偏平棒状結晶(針状または柱状結晶と呼ぶ場合もある)の成長方向は〈111〉軸である。
【0104】
即ち、Ni(ニッケル)を触媒元素として非晶質珪素膜(a−Si)を結晶化する場合、NiSi2 析出体を媒介として〈111〉軸方向に沿って結晶成長する。これはNiSi2 とSiの結晶面において{111}面同士が構造的に整合性が良いためと考えられる。
【0105】
この時、〈111〉軸方向に沿って成長した棒状または偏平棒状結晶の側面(成長方向に対して平行な面)には様々な面が形成されうるが、最も現れやすい面が{110}面である。これは、側面に形成されうるいくつかの面のうち、{110}面が最も原子密度が高いためと考えられる。
【0106】
こうした理由から、本願発明の様に{111}面を先頭に成長した結晶粒(〈111〉軸方向に沿って成長した結晶粒)では、{110}面が表面(観察面を意味する)に現れることになる。以上の見解は本発明者らによる平成9年6月6日付けで出願した明細書に記載してある。
【0107】
以上の様に、特開平7-130652号公報記載の技術を用いて形成した結晶性珪素膜は、本来ならば概略{110}配向を示すはずである。ところが、本願発明の結晶性珪素膜は主たる配向面が{111}面であった。その理由について本発明者らは以下に示す様なモデルを考えた。
【0108】
前述の平成9年6月6日付けで出願した明細書に記載された結晶性珪素膜と、本願発明の結晶性珪素膜の最も顕著な相違点は、下地の性質である。即ち、下地がどの様なものであるかが結晶面の配向性を決定する上で非常に重要なパラメータとなっていると考えられる。
【0109】
まず、一般的にはSi/SiO2 (珪素/二酸化珪素)界面では{111}面の安定度が特に高いとされている。これは、界面における珪素膜側の結合手の数に起因していると考えられる。ここで表1に示すのは各面指数に対応する結晶面上において二酸化珪素との結合に預かると思われる結合手の密度である。
【0110】
【表1】
【0111】
表1によれば、{111}面は最も結晶面上に結合手密度が小さい。即ち、結合手密度が大きいと二酸化珪素と接合する際に界面付近の結合角がひずみやすく、エネルギー的に不利なため、結合手密度の小さい{111}面がSi/SiO2 界面に現れるのである。
【0112】
しかしながら、石英基板上で特開平7-130652号公報記載の技術を用いて形成した結晶性珪素膜は概略{111}配向を示しており(平成9年6月6日付け出願の明細書参照)、珪素膜側の結合手密度だけで一義的に配向性が決めるのではない様である。
【0113】
そこで、本発明者らは珪素膜側の結合手密度だけでなく、下地側の結合手密度も配向性の決定に大きく関与していると考えた。言うまでもなく下地側の結合手密度は下地の緻密性と密接に関係する。即ち、下地の緻密性とその上に形成される結晶性珪素膜の配向性との間には何らかの相関関係があると推測される。
【0114】
本発明者らは下地の緻密性を評価する手段として下地のエッチングレートを調べ、下地の緻密性とその上に形成された半導体薄膜の配向性との相関関係を調べた。なお、下地のエッチングレートは市販のエッチャントであるLAL500(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物、橋本化成製)を用いて、室温で測定した。その結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2に示す様に、熱酸化膜、石英、窒化珪素膜といった一般的に緻密と考えられている下地の場合には概略{110}配向を示す傾向にあった。逆にスパッタ法やプラズマCVD法で成膜した二酸化珪素膜を下地とした場合には概略{111}配向を示す傾向が観測された。この傾向はエッチングレートの差がそのまま反映した結果と思われる。
【0117】
即ち、下地のエッチングレートが少なくとも40〜50nm/min以下と小さい場合は、その上の結晶性珪素膜が概略{110}配向を示す傾向にあると言える。逆に言えば、エッチングレートがその値以上(50nm/min以上)であれば本願発明に示す様な概略{111}配向の結晶性珪素膜が得られると言える。
【0118】
下地が緻密であるという事は下地表面における結合手密度が高いことを意味しており、珪素膜の結合手とひずみの小さい接合をなし易い。即ち、下地が緻密である場合には、特に{111}面で下地と接する必要がなく、珪素膜の配向性に対して下地の束縛力(配向規制力)が緩いと考えられる。
【0119】
そのため、下地が石英などの様に非常に緻密な絶縁物である場合、珪素膜は結晶成長の際に下地からの束縛を受けず、本来の配向である概略{110}配向となると考えられる。
【0120】
逆に、本願発明の様にLAL500でエッチングレートが50nm/min以上(室温)である様な下地膜の上に結晶性珪素膜を形成した場合、各結晶粒は成長過程において下地の束縛力を受け、最も安定な面で下地と接する様に振る舞う。その結果、結晶性珪素膜の表面(または界面)には、最もひずみの小さい接合をなしうる{111}面が現れる。
【0121】
ここで下地からの束縛を受けた結晶粒が{111}配向に変化する様子を図20を用いて説明する。なお、図20において、棒状または偏平棒状結晶の粒内は実質的に単結晶と見なせるため、c−Siと記載することにする。
【0122】
図20(A)の場合、結晶成長面(先端の結晶面)は概略〈111〉軸に沿っているため、結晶成長面の直後における結晶面(表面または界面)の結晶軸は概略〈110〉軸となっていると考えられる。
【0123】
ところが、この状態で下地からの束縛を受けると結晶粒が転移(約35°の回転と予想される)し、結晶面には概略{111}面が現れる様になる(結晶軸は〈111〉軸が現れる)。
【0124】
また、図20(B)の場合、成長過程において下地からの束縛を受け、基板と平行な方向に対して結晶成長面が約70°傾いた状態で成長している。この場合、結晶成長面の直後の表面に現れる結晶面は結晶方位の関係から必然的に概略{111}面となる。
【0125】
以上に示してきた様に、特開平7-130652号公報に記載の技術で形成された結晶性珪素膜は下地からの束縛力が緩い強いかという要素のせめぎ合いで、その配向性が決定されると推測される。
【0126】
また、ここでは下地に着目して説明を進めたが、特開平7-130652号公報の実施例2に記載された様に横成長領域を形成する場合、非晶質半導体薄膜上に形成されるマスク絶縁膜も配向性に影響を与えると思われる。その場合においても、下地と同様のモデルで配向性が決まると考えられる。
【0127】
なお、本発明者らの経験では、これまでの議論は膜厚は80nm程度までの非晶質半導体薄膜に適用しうる。これ以上の膜厚では下地界面やマスク界面からの束縛力を受けにくくなり、ランダムな配向を示す傾向にある。
【0128】
また、本発明者らは特開平7-321339号公報に記載した手法に従ってX線回折を行い、本願発明の結晶性珪素膜について配向比率を算出した。同公報では下記数1に示す様な算出方法で配向比率を定義している。
【0129】
【数1】
【0130】
なお、測定では{220}面として観察されるが、これは{110}面と等価であることは言うまでもない。上記測定の結果、{111}面が主たる配向であり、配向比率は0.7以上(典型的には0.9以上)であることが判明した。
【0131】
以上に示してきた通り、本願発明の結晶性珪素膜と従来のポリシリコン膜とは全く異なる結晶構造(結晶構成)を有していることが判る。この点からも本願発明の結晶性珪素膜は全く新しい半導体膜であると言える。
【0132】
(TFTの電気特性に関する知見)
上述の様な結晶性珪素膜を活性層として作製したTFTは図4に示す様な電気特性を示す。図4に示すのは横軸にゲイト電圧(Vg)、縦軸にドレイン電圧(Id)の対数をとってプロットしたNチャネル型TFTのId-Vg 曲線(Id-Vg 特性)である。なお、電気特性の測定は市販の装置(ヒューレットパッカード社製:型番4145B)を用いて行った。
【0133】
図13において、1050は上記工程で得られた活性層を利用したTFTの電気特性であり、1051は従来のTFTの電気特性を示している。ここでは従来のTFTとして実施例1においてゲイト絶縁膜形成後の熱処理(ゲッタリングプロセス)を行わなかったTFTを挙げている。
【0134】
両方のトランジスタ特性を比較すると、まず同じゲイト電圧でも1050で示される特性の方が1桁近く大きいオン電流が流れることが確認できる。なお、オン電流とはTFTがオン状態(図13においてゲイト電圧が約0〜20Vの範囲)にある時に流れるドレイン電流のことを指す。
【0135】
また、1050で示される特性の方が優れたサブスレッショルド特性を有していることも確認できる。サブスレッショルド特性とはTFTのスイッチング動作の急峻性を示すパラメータであり、TFTがオン又はオフ状態にスイッチングする際のId-Vg 曲線の立ち上がりが急峻である程、サブスレッショルド特性は良いと言える。
【0136】
なお、本発明で得られるTFTの代表的な電気特性は次に示す様なものであった。
(1)TFTのスイッチング性能(オン/オフ動作の切り換えの俊敏性)を示すパラメータであるサブスレッショルド係数が、N型TFTおよびP型TFTともに60〜100mV/decade(代表的には60〜85mV/decade )と小さい。なお、このデータ値は単結晶シリコンを用いた絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ(IGFET)の場合とほぼ同等である。
(2)TFTの動作速度の速さを示すパラメータである電界効果移動度(μFE)が、N型TFTで200 〜650cm2/Vs (代表的には250 〜300cm2/Vs )、P型TFTで100 〜300cm2/Vs (代表的には150 〜200cm2/Vs )と大きい。
(3)TFTの駆動電圧の目安となるパラメータであるしきい値電圧(Vth)が、N型TFTで-0.5〜1.5 V、P型TFTで-1.5〜0.5 Vと小さい。この事は小さい電源電圧で駆動して消費電力を小さくできることを意味している。
【0137】
以上の様に、本発明で得られるTFTは極めて優れたスイッチング特性および高速動作特性を有している。
【0138】
(本発明のTFTで構成した回路の特性)
次に、本発明者らが本発明で得られるTFTを用いて作製したリングオシレータによる周波数特性を示す。リングオシレータとはCMOS構造でなるインバータ回路を奇数段リング状に接続した回路であり、インバータ回路1段あたりの遅延時間を求めるのに利用される。実験に使用したリングオシレータの構成は次の様になっている。
段数:9段、19段、51段
TFTのゲイト絶縁膜(GI)の膜厚:50nm
TFTのゲイト長: 0.6μm
TFTのゲイト幅:NTFTは10μm、PTFTは20μm
【0139】
上記リングオシレータの発振周波数をスペクトラムアナライザーで測定した結果を図14に示す。図14において、横軸は電源電圧(VDD)、縦軸は発振周波数(fosc )である。図14が示す様に、ゲイト絶縁膜が9段のリングオシレータにおいて1GHz近い発振周波数を実現している。
【0140】
図15に示すのは電源電圧5Vで1.042 GHzの発振周波数を達成した際のスペクトラムアナライザーの出力スペクトルである。横軸には 10 MHz〜1.2 GHzまでの発振周波数をとり、縦軸にはログスケールでとった電圧(出力振幅)をとっている。
【0141】
また、実際にLSI回路のTEGの一つであるシフトレジスタを作製して動作周波数を確認した。その結果、ゲイト絶縁膜の膜厚50nm、ゲイト長 0.6μm、電源電圧5V、段数50段のシフトレジスタ回路において動作周波数100 MHzの出力パルスが得られた。
【0142】
以上の様なリングシレータおよびシフトレジスタの驚異的なデータは、本発明のTFTが単結晶シリコンを利用したIGFETに匹敵する、若しくは凌駕する性能を有していることを示している。
【0143】
それを裏付ける証拠として次の様なデータがある。図16に示すデータは横軸に電源電圧(VDD)、縦軸にF/O=1(ファンアウト比が1)のインバータの1段当たりの遅延時間(τpd)をとったグラフである(ロジックLSI技術の革新,前口賢二他,p108,株式会社サイエンスフォーラム,1995)。
【0144】
なお、図中の様々な曲線(点線で示されるもの)は、単結晶シリコンを利用したIGFETを様々なデザインルールで作製した時のデータであり、いわゆるスケーリング則を示している。
【0145】
この図に上述のリングオシレータを用いて得たインバータの遅延時間と電源電圧との関係を当てはめると、図16において実線で示される曲線となる。注目すべきはチャネル長が 0.5μm、ゲイト絶縁膜の膜厚(tOX)が11nmのIGFETで作製したインバータよりも、チャネル長が 0.6μm、ゲイト絶縁膜の膜厚が50nmのTFTで作製したインバータの方が優れた性能を有している点である。
【0146】
この事は本発明者で得られるTFTがIGFETよりも優れた性能を有していることを如実に示している。例えば、上記TFTを構成するゲイト絶縁膜の膜厚をIGFETの5倍以上としても、性能的に同等もしくはそれ以上のものが得られるのである。即ち、本発明のTFTは同等の特性を動作性能を有するIGFETよりも優れた絶縁耐圧を有していると言える。
【0147】
また同時に、本発明のTFTがスケーリング則に従って微細化されればさらに高い性能を実現することが可能である。例えば、リングオシレータを0.2 μmルールで作製すればスケーリング則によると9GHzの動作周波数を実現しうると予想される(動作周波数fがチャネル長Lの二乗に反比例するため)。
【0148】
以上の様に、本発明のTFTは極めて優れた特性を有し、そのTFTを用いて形成した半導体回路は10GHz以上の高速動作を実現しうる全く新しいTFTであることが確認された。
【実施例2】
【0149】
実施例1では半導体膜として珪素膜を用いる例を示したが、SiX Ge1-X (0<X<1、好ましくは0.9 ≦X≦0.99)で示される様にゲルマニウムを1〜10%含有した珪素膜を用いることも有効である。
【0150】
この様な化合物半導体膜を用いた場合、N型TFTおよびP型TFTを作製した際にしきい値電圧を小さくできる。また、電界効果移動度(モビリティと呼ばれる)を大きくできる。
【実施例3】
【0151】
実施例1では活性層に対して意図的に不純物を添加しないのでチャネル形成領域が真性または実質的に真性となる。なお、実質的に真性であるとは、(1)珪素膜の活性化エネルギーがほぼ1/2 である(フェルミレベルが禁制体のほぼ中央に位置する)こと、(2)スピン密度よりも不純物濃度が低いこと、(3)意図的に不純物を添加していないこと、のいずれかを満たすことである。
【0152】
しかし、本願発明のTFTは公知のチャネルドープ技術を利用することも可能である。チャネルドープ技術とは、しきい値制御のために少なくともチャネル形成領域に対して不純物を添加する技術である。
【0153】
本願発明はもともとしきい値が非常に小さいので不純物を添加する濃度は非常に微量なもので良い。添加濃度が微量ですむということは、キャリアの移動度を落とさずにしきい値制御が可能となるため非常に好ましい。
【実施例4】
【0154】
本実施例では、実施例1に示したハロゲン元素によるゲッタリング効果に加えてリン元素によるゲッタリング効果を得るための構成について説明する。説明には図3を用いる。
【0155】
まず、実施例1の工程に従ってハロゲン元素によるゲッタリングプロセスまで行い、図1(C)の状態を得る。次に、タンタルまたはタンタルを主成分とする材料でなるゲイト電極11を形成する。
【0156】
次に、ゲイト電極11の表面を陽極酸化することによって陽極酸化膜12を形成する。陽極酸化膜12は保護膜として機能する。(図3(A))
【0157】
次に、ゲイト電極11をマスクとしてゲイト絶縁膜108をドライエッチング法によりエッチングする。そして、その状態でリンまたは砒素イオン注入法により添加して不純物領域13、14を形成する。(図3(B))
【0158】
次に、窒化珪素膜を厚く形成した後、ドライエッチング法によるエッチバックを行い、サイドウォール15を形成する。そして、サイドウォール15を形成した後、再びリンまたは砒素イオンを添加してソース領域16、ドレイン領域17を形成する。(図3(C))
【0159】
なお、サイドウォール15の下は2度目のリン元素が添加されず、ソース領域およびドレイン領域よりも低濃度にリン元素を含む一対の低濃度不純物領域18となる。また、ゲイト電極11の下は真性または実質的に真性、或いはしきい値制御のために微量の不純物が添加されたチャネル形成領域19となる。
【0160】
こうして図3(C)の状態が得られたら、450〜650℃(代表的には600℃)で8〜24時間(代表的には12時間)の加熱処理を行う。
【0161】
この加熱処理はリン元素による触媒元素(ここではニッケル)のゲッタリングを目的とした工程であるが、同時に不純物の活性化、活性層が受けたイオン注入時の損傷の回復が行われる。
【0162】
この工程では、加熱処理を行うことでチャネル形成領域19に残存するニッケルがソース/ドレイン領域16、17に移動し、そこでゲッタリングされて不活性化する。即ち、チャネル形成領域19内部に残存するニッケルを除去することが可能である。
【0163】
なお、ソース/ドレイン領域16、17は導電性を有していれば電極としての機能を果たすのでニッケルの有無が電気特性に影響を与える恐れがない。そのため、ゲッタリングサイトとして機能させうるのである。
【0164】
以上の様にして図3(D)の状態が得られたら、実施例1と同様に層間絶縁膜20、ソース電極21、ドレイン電極22を形成して図3(E)に示す薄膜トランジスタが完成する。
【0165】
なお、本実施例ではゲイト電極としてタンタルを用いているが、導電性を有する結晶性珪素膜を用いても良い。また、低濃度不純物領域の形成方法は本実施例の手段に限定されるものではない。
【0166】
本実施例で最も重要な構成は、チャネル形成領域に残存する触媒元素をソース領域およびドレイン領域に移動させてゲッタリングすることにある。これは、リンまたは砒素による金属元素のゲッタリング効果に着目した発明である。
【0167】
なお、本実施例ではN型TFTの例を示したが、P型TFTの場合、ボロン元素だけではゲッタリング効果が得られないので、リン元素とボロン元素の両方をソース/ドレイン領域に添加することが必要である。
【実施例5】
【0168】
本実施例では、実施例1と異なる構造の薄膜トランジスタに本願発明を適用した場合の例について説明する。説明には図4を用いる。
【0169】
まず、石英基板31上にゲイト電極32を形成する。ゲイト電極32は後の熱酸化工程に耐えられる様にタンタル、シリコン等の耐熱性の高い電極を利用することが必要である。
【0170】
次に、ゲイト電極32を覆う様にしてゲイト絶縁膜33を形成する。ゲイト絶縁膜33はスパッタ法またはプラズマCVD法で形成する。この際、概略{111}配向の結晶性珪素膜を得るためには、ゲイト絶縁膜33の膜質を表2を用いて説明した条件に合わせることが必要である。
【0171】
次に、その上には後に活性層となる非晶質珪素膜を50nmの厚さに形成する。そして、実施例1と同様に開口部を有するマスク絶縁膜35を形成した後、ニッケル含有層36を形成する。(図4(A))
【0172】
こうして図4(A)の状態が得られたら、結晶化のための加熱処理を行い、横成長領域でなる結晶性珪素膜37を得る。(図4(B))
【0173】
次に、マスク絶縁膜35を除去してハロゲン元素を含む雰囲気中で加熱処理を行う。条件は実施例1に従えば良い。この工程によって結晶性珪素膜37中からニッケルがゲッタリングされ、気相中へと除去される。(図4(C))
【0174】
こうしてゲッタリングプロセスが完了したら、パターニングにより横成長領域のみでなる活性層38を形成し、その上に窒化珪素膜でなるチャネルストッパー39を形成する。(図4(D))
【0175】
図4(D)の状態が得られたら、N型を呈する結晶性珪素膜を形成してパターニングを施し、ソース領域40、ドレイン領域41を形成する。さらに、ソース電極42、ドレイン電極43を形成する。
【0176】
最後に、素子全体に対して水素雰囲気中で加熱処理を行い、図4(E)に示す様な構造の逆スタガ型TFTが完成する。なお、本実施例に示した構造は逆スタガ型TFTの一例であり、本実施例の構造に限定されるものではない。また、他のボトムゲイト型TFTに適用することも可能である。
【0177】
以上の様なボトムゲイト型TFTの場合、活性層の下地となる絶縁物はゲイト絶縁膜(通常は二酸化珪素膜が用いられる)であるので、必然的に束縛力を受けて{111}配向になりやすい。
【実施例6】
【0178】
本実施例では絶縁表面を有する基板上に本発明によるTFTを形成し、画素マトリクス回路と周辺回路とをモノリシックに構成する例を図5〜7に示す。なお、本実施例ではドライバー回路やロジック回路等の周辺回路の例として、基本回路であるCMOS回路を示す。
【0179】
まず、石英基板50上に酸化珪素膜でなる下地膜51をプラズマCVD法により形成する。そして、その上に75nm厚の非晶質珪素膜52、マスク絶縁膜53を形成し、スピンコート法によりニッケル含有層54を形成する。これらの工程は実施例1に示した通りである。(図5(A))
【0180】
次に、450 ℃1時間程度の水素出しの後、窒素雰囲気中において590 ℃ 8時間の加熱処理を行い、結晶性領域55〜58を得る。なお、55、56はニッケル添加領域であり、57、58は横成長領域である。(図5(B))
【0181】
結晶化のための加熱処理が終了したら、マスク絶縁膜53を除去してパターニングを行い、横成長領域57、58のみでなる島状半導体層(活性層)59〜61を形成する。(図5(C))
【0182】
ここで59はCMOS回路を構成するN型TFTの活性層、60はCMOS回路を構成するP型TFTの活性層、61は画素マトリクス回路を構成するN型TFT(画素TFT)の活性層である。
【0183】
活性層59〜61を形成したら、その上に珪素を含む絶縁膜でなるゲイト絶縁膜62を成膜する。そして、次に触媒元素のゲッタリングプロセスを行う。この工程の条件は実施例1に従えば良い。(図5(D))
【0184】
次に、図示しないアルミニウムを主成分とする金属膜を成膜し、パターニングによって後のゲイト電極の原型63〜65を形成する。本実施例では2wt% のスカンジウムを含有したアルミニウム膜を用いる。(図6(A))
【0185】
次に、実施例1と同様に特開平7-135318号公報記載の技術により多孔性の陽極酸化膜66〜68、無孔性の陽極酸化膜69〜71、ゲイト電極72〜74を形成する。(図6(B))
【0186】
こうして図6(B)の状態が得られたら、次にゲイト電極72〜74、多孔性の陽極酸化膜66〜68をマスクとしてゲイト絶縁膜62をエッチングする。そして、多孔性の陽極酸化膜66〜68を除去して図6(C)の状態を得る。なお、75〜77で示されるのは加工後のゲイト絶縁膜である。
【0187】
次に、実施例1と同様の手順に従ってN型を付与する不純物イオンを2回に分けて添加する。まず1回目の不純物添加を高加速電圧で行い、n- 領域を形成し、次に2回目の不純物添加を低加速電圧で行い、n+ 領域を形成する。
【0188】
以上の工程を経て、CMOS回路を構成するN型TFTのソース領域78、ドレイン領域79、低濃度不純物領域80、チャネル形成領域81が形成される。また、画素TFTを構成するN型TFTのソース領域82、ドレイン領域83、低濃度不純物領域84、チャネル形成領域85が画定する。(図6(D))
【0189】
なお、図6(D)に示す状態ではCMOS回路を構成するP型TFTの活性層もN型TFTの活性層と同じ構成となっている。
【0190】
次に、N型TFTを覆ってレジストマスク86を設け、P型を付与する不純物イオン(本実施例ではボロンを用いる)の添加を行う。
【0191】
この工程も前述の不純物添加工程と同様に2回に分けて行うが、N型をP型に反転させる必要があるため、前述のPイオンの添加濃度の数倍程度の濃度のB(ボロン)イオンを添加する。
【0192】
こうしてCMOS回路を構成するP型TFTのソース領域87、ドレイン領域88、低濃度不純物領域89、チャネル形成領域90が形成される。(図7(A))
【0193】
以上の様にして活性層が完成したら、ファーネスアニール、レーザーアニール、ランプアニール等の組み合わせによって不純物イオンの活性化を行う。それと同時に添加工程で受けた活性層の損傷も修復される。
【0194】
次に、層間絶縁膜91として酸化珪素膜と窒化珪素膜との積層膜を形成し、コンタクトホールを形成した後、ソース電極92〜94、ドレイン電極95、96を形成して図7(B)に示す状態を得る。
【0195】
なお、本実施例では画素TFTのドレイン電極96を補助容量の下部電極として利用するので、それに対応する様な形状に加工しておく。
【0196】
次に、10〜50nmの厚さの窒化珪素膜97を形成し、その上に補助容量を形成するための容量電極98を 100nmの厚さに形成する。本実施例では容量電極98としてチタン膜を用い、ドレイン電極96との間で補助容量を形成する。
【0197】
前述の窒化珪素膜97は比誘電率が高いので誘電体として好適である。また、容量電極98としてはチタン膜以外にもアルミニウム膜やクロム膜等を用いても構わない。
【0198】
なお、本実施例は反射型液晶表示装置のアクティブマトリクス基板(TFT側基板)を作製する例であるので、透過型と違って後に形成される画素電極の下を自由に利用できる(開口率を気にする必要がない)。それ故に上述の様な補助容量の形成が可能となる。
【0199】
次に、有機性樹脂膜でなる第2の層間絶縁膜99を 0.5〜3 μmの厚さに形成する。そして、層間絶縁膜99上に導電膜を形成してパターニングにより画素電極10を形成する。本実施例は反射型の例であるため画素電極10を構成する導電膜としてアルミニウムを主成分とする材料を用い、画素電極10に反射膜としての機能を持たせる。
【0200】
次に、基板全体を350 ℃の水素雰囲気で1〜2時間加熱し、素子全体の水素化を行うことで膜中(特に活性層中)のダングリングボンド(不対結合手)を補償する。以上の工程を経て同一基板上にCMOS回路および画素マトリクス回路を作製することができる。
【実施例7】
【0201】
本実施例では、実施例6とは異なるTFT構造を採用した場合の例について説明する。まず、図8(A)は低濃度不純物領域を形成するにあたってサイドウォールを利用する例である。
【0202】
この場合、図6(A)に示す状態で無孔性の陽極酸化膜を形成し、ゲイト電極とその陽極酸化膜をマスクとしてゲイト絶縁膜をエッチングする。その状態でn- 領域およびp- 領域を形成するための不純物添加を行う。
【0203】
次に、サイドウォール1001〜1003をエッチバック法で形成した後、n+ 領域およびp+ 領域を形成するための不純物添加を行う。この様な工程でサイドウォール1001〜1003の下には低濃度不純物領域(n- 領域およびp- 領域)が形成される。
【0204】
また、図8(A)では公知のサリサイド技術を利用して金属シリサイド1004〜1006を形成している。シリサイド化するための金属としてはチタン、タンタル、タングステン、モリブデン等を用いることができる。
【0205】
また、図8(B)に示す構成は、ゲイト電極1007〜1009が一導電性を付与した結晶性珪素膜で形成されている点に特徴がある。通常、N型導電性を持たせるが、N型TFTとP型TFTとで導電性を異ならせるデュアルゲイト型TFTとすることも可能である。
【0206】
さらに、図8(B)に示す構造でもサリサイド構造を適用しているが、この場合、ゲイト電極1007〜1009の上面にも金属シリサイド1010〜1012が形成される。
【0207】
本実施例に示した構造は、動作速度の速いTFTに適した構造となる様に設計されている。特に、サリサイド構造は数GHzレベルの動作周波数を実現する上で非常に有効な技術である。
【実施例8】
【0208】
本実施例では、実施例6とは異なる構成で補助容量を形成する場合の例について説明する。
【0209】
まず、図9(A)は活性層のドレイン領域1020を大きめに形成しておき、その一部を補助容量の下部電極として活用する。この場合、ドレイン領域1020の上にはゲイト絶縁膜1021があり、その上に容量電極1022が形成される。この容量電極1022はゲイト電極と同一材料で形成される。
【0210】
この時、ドレイン領域1020のうち補助容量を形成する部分は、予め不純物を添加して導電性を持たせておいても良いし、容量電極1022に定電圧をかけて形成される反転層を利用しても良い。
【0211】
図9(A)は反射型液晶表示装置の例であるため、画素電極の裏側を最大限に活用して補助容量を形成できる。そのため、非常に大きな容量を確保することができる。勿論、透過型液晶表示装置にも適用できるが、その場合、補助容量の占有面積を大きくしてしまうと開口率が落ちるので注意が必要である。
【0212】
次に、図9(B)は透過型液晶表示装置の例である。図9(B)の構成ではドレイン電極1023を補助容量の下部電極とし、その上に窒化珪素膜1024、ブラックマスク1025を形成し、ドレイン電極1023とブラックマスク1025との間で補助容量を形成する。
【0213】
この様に、図9(B)の構成ではブラックマスク1025が補助容量の上部電極を兼ねる点が特徴である。
【0214】
また、1026は画素電極であり、透過型であるので透明導電膜(例えばITO膜)を用いる。
【0215】
図9(B)に示す様な構成では、広い面積を占めやすい補助容量をTFTの上に形成することで開口率を広くすることが可能である。また、誘電率の高い窒化珪素膜を25nm程度の薄さで利用できるので、少ない面積で非常に大きな容量を確保することが可能である。
【実施例9】
【0216】
本実施例では本願発明を利用して液晶パネルを構成する場合の例を示す。図10に示すのはアクティブマトリクス型液晶パネルの断面を簡略化した図であり、ドライバー回路やロジック回路を構成する領域にはCMOS回路を、画素マトリクス回路を構成する領域には画素TFTを示している。
【0217】
なお、実施例6〜8でCMOS回路と画素マトリクス回路の構造(TFT構造)に関する説明を既に行ったので、本実施例では必要な箇所のみを説明することにする。
【0218】
まず、実施例6に示した作製工程に従って図7(C)の状態を得る。なお、画素TFTをマルチゲイト構造とするなどの変更は実施者の自由である。
【0219】
そして、アクティブマトリクス基板の準備として配向膜1030を形成する。次に、対向基板を用意する。対向基板は、ガラス基板1031、透明導電膜1032、配向膜1033とで構成される。なお、対向基板側には必要に応じてブラックマスクやカラーフィルターが形成されるがここでは省略する。
【0220】
こうして用意したアクティブマトリクス基板と対向基板とを公知のセル組み工程によって貼り合わせる。そして、両基板の間に液晶材料1034を封入して図10に示す様な液晶パネルが完成する。
【0221】
液晶材料1034は液晶の動作モード(ECBモード、ゲストホストモード等)によって自由に選定することができる。
【0222】
また、図7(C)に示した様なアクティブマトリクス基板の外観を図11に簡略化して示す。図11において、1040は石英基板、1041は画素マトリクス回路、1042はソースドライバー回路、1043はゲイトドライバー回路、1044はロジック回路である。
【0223】
ロジック回路1044は広義的にはTFTで構成される論理回路全てを含むが、ここでは従来から画素マトリクス回路、ドライバー回路と呼ばれている回路と区別するため、それ以外の信号処理回路(メモリ、D/Aコンバータ、パルスジェネレータ等)を指す。
【0224】
また、こうして形成された液晶パネルには外部端子としてFPC(Flexible Print Circuit)端子が取り付けられる。一般的に液晶モジュールと呼ばれるのはFPCを取り付けた状態の液晶パネルである。
【実施例10】
【0225】
本願発明は実施例9に示した液晶表示装置以外にも、アクティブマトリクス型のEL(エレクトロルミネッセンス)表示装置やEC(エレクトロクロミクス)表示装置等の他の電気光学装置を作製することも可能である。
【実施例11】
【0226】
本実施例では、本発明を利用した電気光学装置を利用する電子デバイス(応用製品)の一例を図12に示す。本発明を利用した応用製品としてはビデオカメラ、スチルカメラ、プロジェクター、ヘッドマウントディスプレイ、カーナビゲーション、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話等)などが挙げられる。
【0227】
図12(A)は携帯電話であり、本体2001、音声出力部2002、音声入力部2003、表示装置2004、操作スイッチ2005、アンテナ2006で構成される。本発明は表示装置2004に適用することができる。
【0228】
図12(B)はビデオカメラであり、本体2101、表示装置2102、音声入力部2103、操作スイッチ2104、バッテリー2105、受像部2106で構成される。本発明は表示装置2102に適用することができる。
【0229】
図12(C)はモバイルコンピュータ(モービルコンピュータ)であり、本体2201、カメラ部2202、受像部2203、操作スイッチ2204、表示装置2205で構成される。本発明は表示装置2205に適用できる。
【0230】
図12(D)はヘッドマウントディスプレイであり、本体2301、表示装置2302、バンド部2303で構成される。本発明は表示装置2302に適用することができる。
【0231】
図12(E)はリア型プロジェクターであり、本体2401、光源2402、表示装置2403、偏光ビームスプリッタ2404、リフレクター2405、2406、スクリーン2407で構成される。本発明は表示装置2403に適用することができる。
【0232】
図12(F)はフロント型プロジェクターであり、本体2501、光源2502、表示装置2503、光学系2504、スクリーン2505で構成される。本発明は表示装置2503に適用することができる。
【0233】
以上の様に、本発明の応用範囲は極めて広く、あらゆる分野の表示媒体に適用することが可能である。また、本発明のTFTはIC、LSIといった半導体回路を構成することもできるので、その様な半導体回路を必要とする製品であれば用途を問わない。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図2】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図3】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図4】薄膜トランジスタの作製工程を示す図。
【図5】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図6】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図7】アクティブマトリクス基板の作製工程を示す図。
【図8】アクティブマトリクス基板の構造を示す図。
【図9】アクティブマトリクス基板の構造を示す図。
【図10】液晶表示装置の断面を示す図。
【図11】アクティブマトリクス基板を上面から見た図。
【図12】電子デバイス(応用製品)の一例を示す図。
【図13】薄膜トランジスタの電気特性を示す図。
【図14】リングオシレータの周波数特性を示す図。
【図15】リングオシレータの出力スペクトルを示す写真。
【図16】スケーリング則を示す図。
【図17】結晶の方位関係を模式的に表した図。
【図18】結晶成長の様子を模式的に表した図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
絶縁表面を有する基板上にスパッタ法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが80〜90nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項3】
絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜に選択的に非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素を添加し、
前記触媒元素を添加した非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項4】
絶縁表面を有する基板上にスパッタ法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが80〜90nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜に選択的に非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素を添加し、
前記触媒元素を添加した非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の前記結晶性珪素膜中に存在する炭素、窒素及び硫黄の濃度は、それぞれ5×1018atoms/cm3未満または0.01atomic%未満であり、且つ、膜中に存在する酸素の濃度は1.5×1019atoms/cm3未満または0.03atomic%未満であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の前記非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素は、ニッケル、コバルト、鉄、パラジウム、白金、銅又は金の元素であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項1】
絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
絶縁表面を有する基板上にスパッタ法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが80〜90nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項3】
絶縁表面を有する基板上にプラズマCVD法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが150〜200nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜に選択的に非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素を添加し、
前記触媒元素を添加した非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項4】
絶縁表面を有する基板上にスパッタ法によってフッ化水素酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤の混合物に対するエッチングレートが80〜90nm/minである二酸化珪素膜からなる下地膜を形成し、
前記下地膜上に非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜に選択的に非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素を添加し、
前記触媒元素を添加した非晶質珪素膜を結晶化することによって面方位が概略{111}配向の結晶性珪素膜を形成し、
前記結晶性珪素膜をエッチングすることによって島状半導体層を形成し、
前記島状半導体層上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上にゲイト電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の前記結晶性珪素膜中に存在する炭素、窒素及び硫黄の濃度は、それぞれ5×1018atoms/cm3未満または0.01atomic%未満であり、且つ、膜中に存在する酸素の濃度は1.5×1019atoms/cm3未満または0.03atomic%未満であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の前記非晶質珪素膜の結晶化を助長する触媒元素は、ニッケル、コバルト、鉄、パラジウム、白金、銅又は金の元素であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図15】
【公開番号】特開2007−201486(P2007−201486A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55158(P2007−55158)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【分割の表示】特願平9−173151の分割
【原出願日】平成9年6月13日(1997.6.13)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【分割の表示】特願平9−173151の分割
【原出願日】平成9年6月13日(1997.6.13)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
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