説明

表示装置用Al合金膜

【課題】シリコン半導体層および/または透明導電膜との間のバリアメタル層を省略しても、AlとSiの相互拡散を抑制でき、低抵抗のオーミック特性を有する電気的接触が得られると共に、十分な耐熱性を有する表示装置用Al合金膜を提供する。
【解決手段】表示装置の基板上で、透明導電膜および/または薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金、またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金の単層から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ディスプレイ等の表示装置に使用され、薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極および配線材料として有用な表示装置用Al合金膜;上記Al合金膜を備えた薄膜トランジスタ基板および表示装置、並びに上記Al合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。本発明のAl合金膜は、ULSI(超大規模集積回路)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の集積回路、発光素子(LED)やダイオード等の電子装置等にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
以下、液晶ディスプレイを代表例として本発明で対象とする表示装置の背景技術を説明する。ただし、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0003】
液晶ディスプレイ等のアクティブマトリックス型の液晶表示装置においては、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下「TFT」という。)がスイッチング素子として用いられる。図1に、従来のTFT基板の基本的な構造を示す。
【0004】
図1に示すように、TFT素子は、ガラス基板1上に形成されたTFTのオン・オフを制御するゲート電極2と、ゲート絶縁膜3を介して設けられた半導体シリコン層(シリコン半導体層)4と、それに接続するドレイン電極5とソース電極6とを有する。ドレイン電極5には、更に液晶表示部の画素電極に使用される透明導電膜(透明画素電極)7が接続される。ゲート電極2や、ドレイン電極5およびソース電極6に用いられる配線金属には、電気抵抗(比抵抗)が低く、加工が容易である等の理由により、純AlまたはAl合金が汎用されている。
【0005】
従来、Al配線(純AlまたはAl合金)と透明導電膜7との界面及び/又はAl配線膜とTFTの半導体シリコン層4との界面には、これらが直接接触しないよう、Mo、Cr、W等の高融点金属からなるバリアメタル層11を設けていた。バリアメタル層11を介在させずにAl配線膜をTFTの半導体層に直接接触させると、その後の工程(例えば、TFTの上に形成する絶縁層等の成膜工程や、シンタリングやアニーリング等の熱工程等)における高温プロセスによって、Al原子がシリコン半導体層中に拡散してTFT特性を劣化させ、Al配線の電気抵抗が増大させるという問題があった。また、Al配線膜の形成後、CVD法等によってシリコン窒化膜(保護膜)が約100〜300℃の温度で成膜されるがバリアメタル層11がないと、Al配線膜の表面にヒロックと呼ばれるコブ状の突起が形成され、画面の表示品位が低下する等の問題があった。さらに、バリアメタル層11がないと、液晶表示装置の成膜工程で生じる酸素によってAlが酸化され、Al配線膜と透明導電膜(画素電極)との界面や、Al配線膜と半導体層との界面にAl酸化物の絶縁層が生成し、接触抵抗(コンタクト抵抗)が増大して、画素動作の遅延や局所的な発熱が生じるという問題もあった。
【0006】
例えば特許文献1〜3には、Mo、Mo合金、Cr、W、Ti、Ta等のバリアメタル層を介在して、ソース・ドレイン電極と半導体シリコン層を接合する方法が介在している。しかし、バリアメタル層11を形成するためには、ゲート電極2やソース電極6、更にはドレイン電極5の形成に必要な成膜用スパッタ装置に加えて、バリアメタル形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならない。さらにバリアメタル層として使用されるMo、Cr、Wは希少金属であるためAlに比べて材料コストが高く、生産コストを増大する原因となっている。加えて、フォトリソグラフィによる微細加工プロセスの際に、バリアメタルと純AlまたはAl合金の薬液に対するエッチングレートが異なるため微細加工精度が低下することから、生産性の低下も重大な問題であった。
【0007】
このような問題に鑑み、Al合金膜と、半導体シリコン層または透明導電膜との間のバリアメタル層を省略しても上記問題(すなわち、AlとSiとの相互拡散や、透明導電膜/半導体層との接触抵抗の増加や、電気抵抗の増大等の問題)を解決することが可能な直接接触(ダイレクトコンタクト、DC)技術が提案されている(例えば特許文献4〜9を参照)。
【0008】
このうち特許文献4〜6は、主に半導体シリコン層との直接接触が可能なダイレクトコンタクト技術か開示されている。特許文献4には、Niを0.1〜6原子%含むAl合金を用い、半導体層との界面にAlとSiの拡散を防止するシリサイド等のNi含有析出物を形成させる技術が開示されている。また、特許文献5には、Alを母材として、Niを添加し、更にSi及びLaを含むAl合金が開示されており、Siの添加によってAlとSiの相互拡散が抑制され、Laの添加によって耐ヒロック性が向上することが記載されている。更に特許文献6には、Al合金膜と半導体層の界面にシリコン窒化層(窒素含有層)を設けることによってAlとSiの相互拡散を防止する技術が提案されている。
【0009】
一方、特許文献7〜9には、Al合金膜と透明導電膜との間のバリアメタル層を省略するITOダイレクトコンタクト技術として、Ni等の合金成分を含有するAl合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−056153号公報
【特許文献2】特開2007−281155号公報
【特許文献3】特開2008−166789号公報
【特許文献4】特開2007−81385号公報
【特許文献5】特開2008−10844号公報
【特許文献6】特開2008−10801号公報
【特許文献7】特開2004−214606号公報
【特許文献8】特開2005−303003号公報
【特許文献9】特開2006−23388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、シリコン半導体層および/または透明導電膜との間のバリアメタル層を省略しても、AlとSiの相互拡散を抑制でき、低抵抗のオーミック特性を有する電気的接触が得られると共に、例えば表示装置の製造工程における熱処理プロセスにおいてAl合金膜が約100〜300℃の高温に達した場合でも、十分な耐熱性を有する表示装置用Al合金膜を提供することにある。
【0012】
好ましくは、シリコン半導体層との間のバリアメタル層を省略しても、AlとSiの相互拡散を抑制でき、低抵抗のオーミック特性を有する電気的接触が得られると共に、Al配線膜の電気抵抗を低減し、且つ、配線膜の微細加工において、その端面を設計通りのテーパ形状に加工することが可能な表示装置用Al合金膜を提供することにある。
【0013】
好ましくは、ITO(酸化インジウムスズ)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような透明導電膜と直接接触しても、低抵抗のオーミック接触を確保できると共に、例えば表示装置の製造工程における熱処理プロセスにおいてAl合金膜が約100〜300℃の高温に達した場合でも、十分な耐熱性を有する表示装置用Al合金膜を供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、上記Al合金膜をスパッタ法により成膜するために有用なスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決し得た本発明に係る第1の表示装置用Al合金膜(第1のAl合金膜と略記する場合がある。)は、表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層および/または透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足するAl合金の単層からなるところに要旨を有するものである。
【0016】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る第2の表示装置用Al合金膜(第2のAl合金膜と略記する場合がある。)は、表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、純Al膜またはAl合金の第2層と、からなり、前記第1層は、半導体と直接接続されている配線の下地膜であるところに要旨を有するものである。
【0017】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る第3の表示装置用Al合金膜(第3のAl合金膜と略記する場合がある。)は、表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層および透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、純Al膜またはAl合金の第2層と、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第3層と、からなり、前記第1層は前記半導体と直接接続される配線の下地膜であり、前記第3層は前記透明導電膜と直接接続される配線の上層膜であるところに要旨を有するものである。
【0018】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る第4の表示装置用Al合金膜(第4のAl合金膜と略記する場合がある。)は、表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、純Al膜またはAl合金の第2層と、Mo、Cr、Ti、Ta、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する第3層と、からなり、前記第1層は前記半導体と直接接続され配線の下地膜であり、前記第3層は前記透明導電膜と直接接続される配線の上層膜であるところに要旨を有するものである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2〜第4の表示装置用Al合金膜におけるAl合金膜の電気抵抗率は3.0〜12.0μΩcmである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2〜第4の表示装置用Al合金膜における第1層の膜厚は10nm以上100nm以下である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3〜第4の表示装置用Al合金膜における第3層の膜厚は10nm以上100nm以下である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3の表示装置用Al合金膜における第3層のAl合金の組成は第1層のAl合金の組成と同一である。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1の表示装置用Al合金膜における単層の膜厚は10nm以上1000nm以下である。
【0024】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、Moと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有し、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足し、残部:Alおよび不可避的不純物であるところに要旨を有するものである。
【0025】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた薄膜トランジスタ基板や、上記薄膜トランジスタ基板を備えた表示装置も包含される。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上記のように構成されているため、シリコン半導体層および/または透明導電膜との間のバリアメタル層を省略しても、これらとの接触抵抗が低く、AlとSiの相互拡散を抑制でき、低抵抗のオーミック特性を有する電気的接触が得られる表示装置用Al合金膜を提供することができた。本発明のAl合金膜は、耐熱性およびウェットエッチング性にも優れているため、表示装置の製造工程における熱処理プロセスに曝されても高い耐熱性を維持し、配線膜の微細加工において設計通りのテーパー形状に端面を加工することも可能であり、表示装置用Al合金膜として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、薄膜トランジスタの中核部の断面構造を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るアモルファスシリコンTFT基板の実施形態を説明する概略断面図である。
【図3A】図3Aは、実施例1において、Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd合金と純Moの積層膜(従来例)を用いたときのTFT特性を測定したグラフである。
【図3B】図3Bは、実施例1において、純Al(比較例)を用いたときのTFT特性を測定した結果を示すグラフである。
【図3C】図3Cは、実施例1において、Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%NdとAl−30原子%Moの積層膜(本発明に係る第2のAl合金膜)を用いたときのTFT特性を測定したグラフである。
【図4】図4は、実施例3において、Al−1.0原子%Ni−0.3原子%La合金(比較例)とアモルファスシリコンとの界面状態を示す断面TEM写真である。
【図5】図5は、実施例3において、Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd合金とAl−30原子%Moの積層膜(本発明に係る第2のAl合金膜)とアモルファスシリコンとの界面状態を示す断面TEM写真である。
【図6】図6は、Al合金膜と透明画素電極との間のコンタクト抵抗率の測定に用いたケルビンパターンを示す図である。
【図7】図7は、実施例7において、本発明に係る第2のAl合金膜を用いてウェットエッチングを行なった後のAl合金膜の断面形状を示すSEM写真である。
【図8】図8は、実施例7において、比較例のMo/純Al/Mo膜を用いてウェットエッチングを行なった後のAl合金膜の断面形状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の表示装置用Al合金膜は、30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足するAl−Mo−X合金を、配線そのものまたは配線の下地膜として用いたところに特徴がある。このようなAl合金膜を用いれば、Moなどの高融点金属薄膜(バリアメタル)を介さずに、半導体層および/または透明導電膜と電気的に直接接続することが可能であり、直接接触しても、低抵抗なオーミック特性が得られる。詳細には、半導体層および/または透明導電膜との接触抵抗が低く、AlとSiの相互拡散が抑制されてTFT特性にも優れている。
【0029】
詳細には、本発明のAl合金膜は、以下のように第1〜第4のAl合金膜を含むものである。
【0030】
(1)第1のAl合金膜は、薄膜トランジスタの半導体層および/または透明導電膜と直接接続されるものであり、上記のAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金を単層で含むものである。
(2)第2のAl合金膜は、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるものであり、半導体層に上記のAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金(第1層)が直接接続され、その上に、純Al膜またはAl合金の第2層が積層された2層構成であり、Al合金膜全体の好ましい電気抵抗率は、3.0〜12.0μΩcmである。
(3)第3のAl合金膜は、薄膜トランジスタの半導体層および透明導電膜と直接接続されるものであり、上記第2層のAl合金膜の上に、上記のAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金(第3層)が更に積層されて透明導電膜と直接接続された3層構成(サンドイッチ構成)である。
(3)第4のAl合金膜は、第3のAl合金膜の変形態様であり、第3層が、従来のバリアメタル膜(Mo、Cr、Ti、Ta、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の高融点金属元素を含有する膜)で構成されている。すなわち、第3のAl合金膜は、上記第2層のAl合金膜の上に、上記バリアメタルの第3層が積層されて透明導電膜と接続された3層構成(サンドイッチ構成)である。
【0031】
このように上記第2〜第4のAl合金膜は、第1のAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金膜の上に、以下に詳述するように種々の特性付与を目的として第2および第3の層が積層されたものであり、用途や要求特性などに応じて、上記Al合金膜を使い分けすることができる。
【0032】
例えば比較的配線抵抗のスペックが厳しくない小型パネルの場合、単層構造(第1層のAl合金のみ)から構成される第1のAl合金膜を好適に使用することができる。一方、例えば、低い配線抵抗が求められる大型パネルにおいては、電気抵抗率の低い純AlまたはAl合金が第2層として第1層Al合金上に積層された2層構造から構成される第2のAl合金膜を好適に使用することができる。上記第2のAl合金膜は、第1層と第2層との間で薬液によるエッチングレート差が小さく、ウェットエッチング性に優れているため、良好なテーパ形状のAl配線が得られるという利点もある。
【0033】
一方、第2のAl合金膜のように、上層(第2層)に純Alなどが形成されている場合において、透明導電膜と直接接触させると、Al薄膜の界面に高抵抗のAl酸化層が形成されて透明導電膜との接触抵抗が非常に高くなる。透明導電膜との接触抵抗低減の目的で、第4のAl合金膜の場合のように、MoやCr等のバリアメタルを介して透明導電膜と接続した3層構造としても良いが、あるいは、第3のAl合金膜(第1層と同じ構成の第3層を第2層の上に積層したサンドイッチ構成)を好適に使用することができる。これにより、バリアメタルを省略しても、透明導電膜と低抵抗のオーミック特性を実現することができる。
【0034】
従って、本発明のAl合金膜は、TFT基板の電極または配線膜として好適に用いられる。例えば、TFTのソース・ドレイン用電極としてシリコン半導体に低抵抗で直接接触が可能であると共に、配線膜として透明電極に低抵抗で直接接触も可能である。
【0035】
以下、各Al合金膜について説明する。
【0036】
(1)第1のAl合金膜(単層)
第1のAl合金膜は、透明導電膜および/または薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、上記のとおり30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金、またはAl−Mo−X合金[Al−Mo−X合金について、詳細には、Moと;Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する]を単層として含んでいるところに特徴がある。
【0037】
本発明を最も特徴付けるAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金を構成するMoおよびX群の元素(X群元素)は、高融点金属薄膜などのバリアメタルを介さずに半導体層および透明導電膜に直接接触しても低抵抗なオーミック特性が得られるための元素として有用である。
【0038】
ここでMoの作用についてもう少し詳しく説明する。以下に詳述するように本発明のAl合金膜は、スパッタリング法で形成されるが、スパッタリング蒸着直後のAl合金膜は微結晶であり、高密度の粒界が存在するので、添加元素は、Alの粒界に沿って移動し、Al合金膜の表面(すなわち、半導体層との界面)へ拡散し易い状態にある。本発明では、Al合金膜の中央部近傍での添加元素Moの濃度を出来るだけ低くし、Al合金膜表面での添加元素Moの濃度を極力高く制御することにより、Al中へ拡散する半導体層由来のSiとMoとが反応してシリサイドがAl合金膜と半導体層との界面に形成されることを狙っている。このシリサイドは、AlとSiとの相互拡散を抑制するため拡散バリアとして機能するため、低抵抗のオーミック接触が得られるようになる。
【0039】
本発明者らの検討結果によれば、Si半導体層中へのAl元素の拡散は、Al合金膜蒸着後における高温プロセスにおいて著しいことがわかった。この高温プロセスとしては、例えばSiN絶縁膜の蒸着(約200〜400℃)や、電極と半導体層、ゲート絶縁体界面の安定化処理(約200〜400℃)が挙げられ、これらの熱処理中に、ソース・ドレイン電極と半導体層界面でAl、Si原子の著しい拡散が生じると考えられる。一方、Moを添加することで半導体層界面のMo濃度は高くなるため、MoがSiと反応してシリサイドが形成され、Al側へのSi拡散が抑制されると同時にSi側へのAl拡散も抑制される。また、Moを添加することで高温プロセスにおけるAlの結晶成長が抑制され、Al合金と半導体層界面における結晶成長に伴う応力が減少するため、Al、Siの相互拡散が起こりにくくなると推察される。
【0040】
(Al−Mo合金)
本発明では、X群元素を含有しないAl−Mo合金を用いることができる。MoによるAlとSiの相互拡散防止作用を有効に発揮させるためには、Moの含有量を30原子%以上とする。好ましいMo量は40原子%以上である。ただし、Moを過剰に添加すると、フォトレジストとの密着性が低下して配線の加工精度が低下する問題があるため、その上限を80原子%とすることが好ましい。より好ましいMo量は60原子%以下である。
【0041】
(Al−Mo−X合金)
本発明では、上記Al−Mo合金の代わりに、MoとX群元素を両方含むAl−Mo−X合金を用いることができる。上記X群元素は、Moと同様、Al電極とSi半導体層界面においてAlとSiの相互拡散を抑制する作用を有するものである。Al−Mo−X合金では、Al−Mo合金に比べてMoの量を少なくしているため、Moによる上記作用が十分に発揮されない場合があるが、それを補完する目的で、X群元素を添加したのである。
【0042】
すなわち、Si半導体層と接触する第1層に、X群元素を含有しないAl−Mo合金層を形成し、その上に第2層(純AlまたはAl合金層)を形成すると、Mo添加量が30原子%未満と低い領域では第2層中のAl原子が第1層のAl−Mo合金中を拡散し、更にSi半導体中を拡散するようになる。第1層中のAl原子は、主にAl結晶粒界を通って移動すると考えられる。同時にSi半導体中のSiは第1層中のAl合金の粒界を拡散するようになる。そこで本発明では、このようなAl電極とSi半導体層界面におけるAlとSiの相互拡散を抑制する目的で、第1層中にX群元素を添加した。本発明で規定するAl−Mo−X合金を第1層として用いれば、半導体層と電極層との界面におけるAlとSiの拡散が抑制され、良好な界面を得ることができる。
【0043】
X群元素の添加によって上記作用が発揮される理由は詳細には不明であるが、X群元素を添加することによりAl合金がアモルファス化し、Al、Si原子の主要な拡散経路である結晶粒界が消滅するためであると推察される。また、Al合金がアモルファス化することによって、高温プロセスにおけるAl合金の結晶成長が抑制されるため、Al合金とSi半導体との界面の応力が緩和され、拡散が発生し難くなると考えられる。
【0044】
添加元素Xは、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。このうち好ましい元素はMn、Ndであり、より好ましくはMnである。
【0045】
上記第1のAl合金膜において、Moの含有量を[Mo]、X群元素の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する。X群元素の含有量は、単独で使用する場合は単独の量であり、2種類以上を含有する場合は合計量である。[Mo]が10原子%未満、および[Mo]+[X]が30原子%未満の場合は、上記作用が有効に発揮されず、Si半導体層中へのAl原子拡散を抑制できず、TFT動作が劣化してしまう。一方、[Mo]+[X]が80原子%を超えると、コストが上昇する上、フォトレジストとの密着性が低下し、配線加工精度が低くなる。また、下層に用いたAl−Mo−X合金と上層のAl合金とのエッチングレート差が生じるため、ウェットエッチングの際に配線加工性が低下する。[Mo]+[X]のより好ましい含有量は、40原子%以上70原子%以下であり、更に好ましい含有量は、45原子%以上65原子%以下である。
【0046】
なお、[Mo]の好ましい上限は、[Mo]+[X]が上記範囲を満足するように適宜調整すれば良いが、おおむね、20原子%であり、より好ましくは30原子%である。同様に、[X]も、[Mo]+[X]が上記範囲を満足するように適宜調整すれば良いが、好ましい[X]は、20原子%以上40原子%以下であり、より好ましくは25原子%以上35原子%以下である。
【0047】
上記第1のAl合金膜において、好ましい膜厚は、10nm以上1000nm以下である。膜厚が10nmより薄いと、均一なAl合金膜が形成できなくなるほか、配線抵抗が大きくなり、TFT動作劣化の原因となる。一方、膜厚が1000nmを超えて厚くなると、全体の膜厚が厚くなるため密着性の低下や、スパッタ時間が長くなるため工程が長時間化するなどの問題がある。より好ましい膜厚は、100nm以上500nm以下であり、更に好ましい膜厚は、200nm以上400nm以下である。
【0048】
(2)第2のAl合金膜(2層)
第2のAl合金膜は、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、前述したAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金の第1層と、純Al膜またはAl合金の第2層と、からなり、前記第1層は、半導体層と直接接続されている配線の下地膜であるところに特徴がある。
【0049】
上記第1層の上に形成される第2層は、純Al膜またはAl合金から構成されている。この第2層は、Al合金膜全体(第1層+第2層)の電気抵抗率低減の目的で形成されたものであり、Al合金膜全体の電気抵抗率がMoより低い3.0〜12.0μΩcmを満足する限り、特に限定されない。具体的には、Al合金膜全体の電気抵抗率が3.0〜12.0μΩcmとなるように、第2層の電気抵抗率は、おおむね2.8〜6.0μΩcmの範囲内に制御されていることが好ましい。
【0050】
上記第2層に用いられるAl合金は特に限定されず、合金元素の組成や含有量を適切に制御して用いることができる。例えば、電気抵抗率の低い元素を用いることができる。あるいは、電気抵抗率の高い元素であっても含有量を低く抑えることによって、Al合金膜全体の電気抵抗を低く抑えることができる。
【0051】
上記第2層に用いられるAl合金として、例えば前述した特許文献4〜6に記載されている透明導電膜との直接接続が可能な元素(透明導電膜DC用元素)を好ましく用いることができる。この透明導電膜DC用元素を用いたときは、上記第2層を透明導電膜と直接接続することができる。
【0052】
上記第2層に用いられる透明導電膜DC用元素として、代表的には、Niおよび/またはCoを含むAl合金であり、更にCuおよび/またはGeや、耐熱性向上に有用な希土類元素を含有しても良い。これら元素の含有量は、Al合金膜全体の電気抵抗率が上記範囲を満足するように、できるだけ低く抑えることが好ましく、具体的には使用する合金元素の種類によっても相違するが、おおむね、合金元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種類以上を併用する場合は合計量である)を、0.1〜5原子%程度とすることが好ましい。具体的には、Niおよび/またはCoを合計で約0.1〜2原子%、Cuおよび/またはGeを合計で約0.2〜2原子%、希土類元素を合計で約0.1〜2原子%含有することが好ましい。
【0053】
本発明では、上記第2層に用いられるAl合金を、透明導電膜DC用元素を含むものに限定する趣旨ではなく、Al合金膜全体の電気抵抗率が3.0〜12.0μΩcmを満足する限り、DC用以外の他の元素[例えばFe、Si、Cu、希土類元素(代表的にはNd、La、Y、Taなど)]を使用することもできる。上述したFe,Si,Cuなどの元素を含有させることにより、耐熱性や加工性が向上する。このような耐熱性に優れたAl合金を第2層として用いると下層膜(第1層)の耐熱性も向上するため、第1層のAl合金においてAl表面に発生する欠陥を抑制する必要性が低くなり、Al合金膜全体からみれば、より高温の熱履歴にも耐えられるようになる。また、第1層と第2層とを同じ熱処理プロセスで形成する場合、耐熱性に優れたAl合金を第2層として用いると第1層のAl合金の膜厚を薄くすることができなどの利点も得られる。
【0054】
これらの元素は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。また、これら元素の含有量は、Al合金膜全体の電気抵抗率が上記範囲を満足するように、できるだけ低く抑えることが好ましく、具体的には使用する合金元素の種類によっても相違するが、おおむね、合金元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種類以上を併用する場合は合計量である)を、0.1〜5%程度とすることが好ましい。
【0055】
上記Al合金膜全体の電気抵抗率は3.0〜12.0μΩcmである。この電気抵抗率について、下限は純Alの電気抵抗率、上限はMoの電気抵抗率をもとに設定されたものである。電気抵抗率は低い程良く、おおむね、3.0〜6.0μΩcmであることが好ましい。
【0056】
上記第2のAl合金膜において、第1層の膜厚は、10nm以上100nm以下であることが好ましい。膜厚が10nmより薄いと、半導体中へのAlの拡散を抑制できなくなり、TFT特性の劣化の原因となる。一方、膜厚が100nmを超えて厚くなると、全体の膜厚が厚くなるため密着性の低下や、スパッタ時間が長くなるため工程が長時間化するなどの問題がある。より好ましい膜厚は、15nm以上60nm以下であり、更に好ましい膜厚は、20nm以上50nm以下である。
【0057】
上記Al合金全体の膜厚(第1層+第2層)は、おおむね100nm以上500nm以下であることが好ましく、200nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0058】
(3)第3のAl合金膜(3層)
第3のAl合金膜は、薄膜トランジスタの半導体層および透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、前述したAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金の第1層と、前述した純Al膜またはAl合金の第2層と、上記第1層と構成が同じであるAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金の第3層と、からなり、前記第1層は半導体層と直接接続される配線の下地膜であり、前記第3層は透明導電膜と直接接続される配線の上層膜であるところに特徴がある。
【0059】
このように第1層および第3層は、Al−Mo合金またはAl−Mo−X合金で構成されているが、全く同じ組成である必要はなく、上述したAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金の要件を満足する限り、組成は異なっていても良い。生産性を向上させるために、第1層と第3層を同一組成とすることが好ましい。
【0060】
上記第3のAl合金膜において、第1層および第2層の好ましい膜厚は、上記のとおりであり、第3層の好ましい膜厚は、第1層と同じである。また、Al合金全体の膜厚(第1層+第2層+第3層)は、おおむね100nm以上500nm以下であることが好ましく、200nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0061】
上記第3のAl合金膜によれば、半導体層および透明導電膜との接触抵抗が低く、AlとSiとの拡散も抑えられるAl−Mo−X合金を、第1層および第3層に用いたサンドイッチ構成としているため、半導体層および透明導電膜との両方に直接接続することができる。
【0062】
(4)第4のAl合金膜(3層)
第4のAl合金膜は、第3のAl合金膜において、第3層を従来のバリアメタル膜に置き換えたものである。詳細には、第3層として、Mo、Cr、Ti、Ta、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する金属膜または合金膜としたものである。この態様は、第4のAl合金膜を構成する第2層(純AlまたはAl合金)として、純Alや、DC用元素以外の元素で構成されるAl合金(代表的にはAl−Ndなど)を用いたときに有用であり、この場合は、上記のバリアメタルを介して透明導電膜と接続することができる。
【0063】
本発明のAl合金膜は、上記のようにAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金を含むものであり、これを単層(第1のAl合金膜)、2層(第2のAl合金膜)、3層(第3および第4のAl合金膜)などの態様で含むものであり、残部はAlおよび不可避的不純物である。
【0064】
以上、本発明のAl合金膜について説明した。
【0065】
本発明のAl合金膜は、走査線や信号線などの配線;ゲー電極、ソース電極、ドレイン電極などの電極の材料として好適に用いられる。特に、バリアメタル層を介在させずに透明導電膜や半導体層との直接接続が可能なダイレクトコンタクト用の電極・配線の材料として好適に用いられる。
【0066】
上記Al合金膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0067】
また、上記スパッタリング法で上記Al合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、前述し元素を含むものであって、所望のAl合金膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成のAl合金膜を形成することができるのでよい。
【0068】
従って、本発明には、前述したAl合金膜と同じ組成のスパッタリングターゲットも本発明の範囲内に包含される。詳細には、Moと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有し、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足し、残部:Alおよび不可避的不純物のスパッタリングターゲットである。
【0069】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0070】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、Al基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0071】
本発明は、上記Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置も含むものである。その態様として、前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース電極および/またはドレイン電極並びに信号線に用いられ、ドレイン電極が透明導電膜に直接接続されているものや、ゲート電極および走査線に用いられているものなどが挙げられる。
【0072】
また前記ゲート電極および走査線と、前記ソース電極および/またはドレイン電極ならびに信号線が、同一組成のAl合金膜であるものが態様として含まれる。
【0073】
本発明に用いられる透明画素電極は特に限定されず、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などが挙げられる。
【0074】
また、本発明に用いられるシリコン半導体層も特に限定されず、水素化アモルファスシリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンなどが挙げられる。すなわち、本発明のAl合金膜を用いれば、シリコン薄膜の種類にかかわらず、低抵抗のオーミック特性を有するダイレクトコンタクト技術を提供することができる。
【0075】
本発明には、上記のAl合金膜を含むTFT基板や、上記TFT基板を備えた表示装置も包含される。具体的には、上記Al合金膜がTFTのソース・ドレイン電極およびゲート電極に用いられた表示装置、更に、Al合金膜が透明導電膜に直接接触された表示装置等が挙げられる。
【0076】
本発明のAl合金膜を備えた表示装置を製造するにあたっては、表示装置の一般的な工程を採用することができ、例えば、前述した特許文献4〜9に記載の製造方法を参照すれば良い。
【0077】
以下、図2を参照しながら、本発明に係るTFT基板の好ましい実施形態を説明する。以下では、アモルファスシリコンTFT基板を備えた液晶表示装置を代表的に挙げて説明するが、これに限定する趣旨ではない。本発明のAl合金膜は、ソース−ドレイン電極として有用であるほか、例えば、反射型液晶表示デバイスなどの反射電極、外部への信号入出力のために使用されるTAB(タブ)接続電極にも同様に適用できることを実験により確認している。
【0078】
図2は、本発明に係るアモルファスシリコンTFT基板の実施形態を説明する概略断面図である。図2において、ソース電極28およびドレイン電極29は低抵抗のAl合金第2層から形成され、アモルファスシリコンと電気的に接続されるソース-ドレイン配線は、Al合金第1層で形成されている。従来例ではソース・ドレイン配線はMo、Cr等のバリアメタルが使用されるが、これを本発明のAl合金に置き換えることで配線材料を低コスト化することができる。
【0079】
次に、図2に示す本実施形態に係るTFT基板の製造方法を説明する。以下では、本発明に係る第2のAl合金膜(第1層=Al−30原子%Mo−30原子%Mn、第2層=Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd)を用いたが、これに限定する趣旨ではない。
【0080】
まず、図2に示すように、ガラス基板上に、スパッタリングなどの方法を用いて、厚さ20nm程度のAl合金薄膜(Al−30原子%Mo−30原子%Mn)と、および厚さ280nm程度の純AlまたはAl合金系薄膜(Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd)を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は室温とした。この積層薄膜上に、フォトリソグラフィによってレジストをパターニングした後、レジストをマスクとしてAl合金積層薄膜をエッチングすることにより、ゲート電極26を形成する。このとき、後に成膜されるゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上記積層薄膜の周縁を約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0081】
次いで、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、厚さ約300nm程度のSi窒化膜(ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。続いて、例えば、プラズマCVD法などの方法を用いて、Si窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ200nm程度のアンドープト水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)および厚さ約40nmのリンをドーピングしたn+水素化アモルファスシリコン膜(n+ a−Si−H)を順次積層し、水素化アモルファスシリコン積層膜33を形成する。n+型水素化アモルファスシリコン膜は、SiH4、PH3を原料としたプラズマCVDを行うことによって形成される。
【0082】
次いで、水素化アモルファスシリコン膜の上に、スパッタリングなどの方法を用いて、厚さ20nm程度の第1層のAl金薄膜53(Al−30原子%Mo−30原子%Mn)、その上に低抵抗の第2層のAl合金薄膜28、29(Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd)を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は室温とし、第1層と第2層Al合金薄膜の形成は真空中で連続製膜により形成した。次に、フォトリソグラフィによってレジストをパターニングした後、レジストをマスクとしてAl合金積層膜28、29、53をエッチングすることにより、ソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される。更に、ソース電極28及びドレイン電極29をマスクとして、n+型水素化アモルファスシリコン膜をドライエッチングして除去する。
【0083】
次に、例えばプラズマ窒化装置などを用いて厚さ300nm程度のSi窒化膜(保護膜)34を形成する。このときの成膜は、約270℃で行った。次に、Si窒化膜34上にレジストをパターニングし、ドライエッチングなどを行うことによってコンタクトホールを形成する。
【0084】
次に、例えばアミン系などの剥離液を用いてフォトレジスト層(不図示)を剥離する。最後に、厚さ50nm程度のITO膜(酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加)を成膜する。次いで、ウェットエッチングによるパターニングを行って透明画素電極5を形成すると、TFTが完成する。
【0085】
本実施形態によれば、アモルファスシリコンチャネル薄膜がAl合金系薄膜と直接接合されたTFT基板が得られる。
【0086】
上記では、透明画素電極5として、ITO幕を用いたが、IZO膜を用いてもよい。また、活性半導体層としてアモルファスシリコンの代わりに多結晶シリコンを用いてもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0088】
以下の実施例において、種々の合金組成のAl合金膜の形成には、真空溶解法で作製した種々の組成のAl合金ターゲットをスパッタリングターゲットとして用いた。
【0089】
また実施例で用いた種々のAl合金膜における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0090】
実施例1(TFT特性の評価)
本実施例では、本発明で規定する第2のAl−Mo合金膜(2層)をソース−ドレイン電極として用いたときのTFT特性は、Moなどのバリアメタルを用いた従来例と同程度に優れていることを実証する。本実施例では、前述した図2に示す構造のTFTを用いてTFT特性を評価した。
【0091】
(TFT特性の評価)
上記のTFTを用い、TFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。ここでは、TFTのスイッチングのオフ時に流れるリーク電流(ゲート電圧に負電圧を印加したときのドレイン電流値、オフ電流)と、TFTのスイッチングのオン時に流れるオン電流とを以下のようにして測定した。
【0092】
ゲート長(L)10μm、ゲート幅(W)100μmのTFTを用い、TFTのスイッチング特性(Id−Vg特性)を測定した。測定時のドレイン電圧は10Vとし、ゲート電圧を−10Vから20Vまで変化させた。オフ電流はゲート電圧(−10V)を印加したときの電流と定義し、オン電流はゲート電圧が20Vとなるときの電圧と定義した。
【0093】
はじめに、図3Aおよび図3Bについて説明する。
【0094】
このうち図3Aは、ソース−ドレイン電極として、Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd(膜厚250nm)と純Mo層(膜厚50nm)との積層膜(Moのバリアメタル層を介在させた従来例)を用いたときのTFT特性を測定した結果を示すグラフである。図3Aに示すように、従来例のオフ電流は1.8×10-12Aであり、オン電流は2.4×10-6Aであった。
【0095】
図3Bは、ソース−ドレイン電極として、純Alのみを用いたときのTFT特性を測定した結果を示すグラフである。純Alを用いると、オフ電流が1×10-9A以上と高く、オフ電流リークが見られた。これは、Moのバリアメタル層を介在させなかったため、Alとアモルファスシリコンとの界面でAlとSiとの相互拡散が発生したため、TFT特性が劣化したものと考えられる。
【0096】
本実施例では、バリアメタルとしてMoを用いた上記図3A(Al合金/純Moの積層構造)の結果に基づき算出したオフ電流の各値を基準値とし、オフ電流が、上記基準値の1桁の増加の範囲内(すなわち、1.0×10-11A未満)に含まれるものを良好(○)、上記範囲を超えるものを不良(×)とした。
【0097】
次に図3Cについて考察する。
【0098】
図3Cは、ソース−ドレイン電極として、本発明で規定する第1のAl−Mo合金膜(2層)を用いたときのTFT特性を測定した結果を示すグラフであり、詳細には、アモルファスシリコンと直接接触する第1層(下地)にAl−30原子%Mo(膜厚50nm)を形成し、第1層上に低抵抗Al合金(Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd、膜厚250nm)の第2層を形成したときのTFT特性を示している。図3Cより、オフ電流が8.0×10-13A、オン電流1.7×10-6Aであり、良好なTFT特性を示している。
【0099】
図3Cの結果より、本発明に用いられるAl−Mo合金をバリアメタルの代わりに下地層として用いても、いずれも良好なTFT特性を示すことが分かる。よって、これらのAl合金膜は、Moなどのバリアメタルの代替合金として極めて有用であることが実証された。
【0100】
実施例2
本実施例では、本発明で規定する第2のAl合金膜(2層)において、半導体層と直接接続する第1層のAl−Mo合金またはAl−Mo−X合金(膜厚20nm)の組成を表1〜5に記載のように変化させ、第2層(膜厚280nm)としてAl−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Ndの低抵抗Al合金を用いたときのTFT特性(オフ電流)、電気抵抗率、およびエッチング形状を調べた。このうちFT特性(オフ電流)は、前述した実施例1と同様にして測定した。
【0101】
(電気抵抗率の測定)
電気抵抗率測定用試料として、ガラス基板(コーニング社製 Eagle2000)上にアモルファスシリコンを膜厚200nm成膜した後、その上に表1および表2に記載の種々のAl合金膜を、DCマグネトロン・スパッタ法(雰囲気ガス=アルゴン、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温))によって順次成膜したものを用いた。成膜後のAl合金膜に10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成したものに、TFT作製工程にかかる熱履歴を想定して、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて300℃で30分間の熱処理を行った後、4端子法で電気抵抗Rを測定した。電気抵抗率は第1層Al合金の膜厚をt(nm)、配線幅をd(μm)、配線の長さをL(μm)としたとき、ρ=R×t×d/Lより算出した。
【0102】
本実施例では、電気抵抗率が12μΩcm以下であるものを○、12μΩcmを超えるものを×として判定した。
【0103】
(エッチング加工性の評価)
ガラス基板上に、第1層のAl合金(組成は表1〜5に示すとおりであり膜厚は20nm)、および第2層のAl合金(組成:Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd:膜厚280nm)を順次積層した配線膜を、前述した実施例1と同様にスパッタリング法を用いて形成した。次に、レジストを塗布した後、フォトリソグラフィ工程によりレジストをパターニングし、Al合金用エッチング液(ナガセケムテックス社製の「AC101」)を使用して上記Al合金膜のウェットエッチングを行った。エッチング時の薬液温度は30℃であり、浸漬時間は目視でAl合金の薄膜が消失する時間の50%をオーバーエッチングとして行った。ウェットエッチング後のAl合金膜の断面形状を示すSEM写真(倍率5万倍)で観察し、下地の第1層Al合金膜にアンダーカットがみられたものを×(エッチング形状不良)、アンダーカットがなく良好なエッチング形状が得られたものを○として判定した。
【0104】
これらの結果を表1〜5にまとめて示す。各表において、Al合金の残部はAlおよび不可避的不純物である。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
表1は、第1層として、Al−Mo合金、またはMoとX群元素(X=Mn)を含むAl−Mo−X合金を用いた場合において、MoおよびX群元素の量を種々変化させたときの結果をまとめたものである。同様に表2〜5は、Al−Mo−X合金を用いた場合において、X群元素としてNd,Ni,Mg,Feの各元素を含むAl−Mo−X合金を用いた場合において、Mo量および各X群元素の量を種々変化させたときの結果をまとめたものである。
【0111】
表1より、Al−Mo合金を用いたときは、Mo量が30原子%以上のときにTFT特性、電気抵抗率、およびエッチング形状の全てにおいて良好な特性が発揮されるのに対し、Mo量が30原子%未満ではTFT特性が低下することが分かる。
【0112】
また、表1より、Al−Mo−Mn合金(X群元素=Mn)を用いたときは、Mo量が10原子%以上であり、且つ、Mo量とMn量の合計量が30〜80原子%のときに、すべての特性が良好であり、これらの合計量が80原子%を超えると、ウェットエッチングにおけるAl合金のテーパー形状にアンダーカットが入り、配線膜として適さないことが分った。
【0113】
また、Mo量に着目して、X群元素(Mn)を含まない上記Al−Mo合金を用いたときの結果(例えばNo.1とNo.4)と対比すると、10原子%Moを含みX群元素を含まないNo.1に対し、10原子%MoとX群元素(Mn)を20原子%含むNo.4では、TFT特性が著しく向上した。更にX群元素(Mn)の量を増やして50原子%含むNo.5では、TFT特性は更に向上した。これらの結果より、MoとX群元素の添加により複合効果が得られていることが分かる。
【0114】
表1と同様の結果は、他のX群元素を用いた表2〜5についても見られた。以上の実験結果に基づき、本発明では、Al−Mo合金およびAl−Mo−X合金における各元素の含有量を決定した。
【0115】
前述したように、TFT用配線では、液晶パネルの駆動速度の高速化や低消費電力化の観点から低配線抵抗であることが求められる。本発明に係る第2のAl合金膜は、半導体層の上に第1層のAl合金が形成され、その上に電気抵抗率の低い第2層のAl合金が積層されているので、第1層形成によるSi中へのAlの拡散防止(バリア性)を維持しつつ、低抵抗且つエッチング形状に優れた配線膜の形成を実現できた。
【0116】
実施例3(断面TEM観察)
本実施例では、本発明に係る第2のAl合金膜とアモルファスシリコンとの界面の断面TEM観察を調べた。
【0117】
詳細には、前述した実施例1と同様にして作製したTFTについて、Al合金とアモルファスシリコンとの界面でAlとSiとの相互拡散が抑制されているか調べるために、界面の断面TEM観察(倍率90万倍)を行った。
【0118】
図4は、比較例のAl合金(組成はAl−1.0原子%Ni−0.3原子%La、膜厚300nm)の断面TEM写真であり、アモルファスシリコン層側のコントラストが部分的に変化した。これは、Al合金とアモルファスシリコンとの界面でAlとSiとの相互拡散が発生し、Alがアモルファスシリコン中に拡散したためである。
【0119】
一方、図5は、ソース・ドレイン電極として、第1のAl合金膜[第2層のAl−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd(膜厚250nm)と、第1層のAl−30原子%Mo合金(膜厚50nm)との積層膜)を使用したときの断面TEM写真である。前述した図4と異なり、図5では、アモルファスシリコン側のコントラストの変化は見られず、AlとSiの相互拡散が抑制されていることがわかる。
【0120】
本実施例によれば、バリアメタルなしにAl合金をアモルファスシリコンと直接接合しても、界面においてAlとSiの相互拡散が抑制されていることを示している。Al−Mo合金の結晶粒サイズは微細でアモルファスライクであり、Al合金膜の結晶成長が抑制され、Si原子の主要な拡散経路である結晶粒界が減少しているため、良好な拡散抑制作用を発揮していると考えられる。また、Moは低温域でSiと反応し、Al合金とアモルファスシリコンとの界面でシリサイドが形成され、これが拡散バリアとして有効に作用している推測される。
【0121】
実施例4(膜厚依存性)
本実施例では、第1層のAl合金(下地Al合金)の膜厚がTFT特性および電気抵抗率に及ぼす影響を調べた。ここでは、第2のAl合金膜(2層)を用いて実験を行なった。
【0122】
詳細には、第2のAl合金膜として、第2層のAl−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd(膜厚250nm)と、第1層のAl−30原子%Mo−30原子%Mn合金との積層膜を用い、第1層のAl合金の膜厚を表6に示すように変化させたときのTFT特性および電気抵抗率を、前述した実施例2と同様にして測定した。これらの結果を表6に記載する。
【0123】
【表6】

【0124】
表6より、第1層のAl合金の膜厚が5nmではオフ電流が上昇し、TFT特性が低下した。また、電気抵抗率も膜厚が厚い他の例に比べて上昇した。これは、AlがSi半導体層中に拡散したためTFTのオフ電流が増加し、半導体層中のSiがAl膜中に拡散したために電気抵抗が上昇したものと考えられる。これに対し、第1層のAl合金の膜厚10nm以上では十分に低いオフ電流および電気抵抗率が得られており、膜厚を10nm以上に高めれば、良好なTFT特性が得られることがわかった。これは、膜厚が10nm以上であれば、第1層Al合金は面内に均一に成膜されるため、膜厚に依存せずに所望とする拡散バリア性が発揮されるためと推察される。
【0125】
実施例5
本実施例では、本発明で規定するAl合金膜をソース−ドレイン電極として用いれば、バリアメタル層を省略して上記Al合金膜を透明画素電極と直接接続しても、良好なダイレクト接触抵抗(コンタクト抵抗)が得られることを調べた。ここでは、第2のAl合金膜(2層)および第3のAl合金膜(3層)を用い、第2層および第3層のAl合金の組成をそれぞれ、表7および表8に示すように種々変えたときの電気抵抗率およびITOとのコンタクト抵抗を調べた。
【0126】
詳細には、第2のAl合金膜(2層)としては、下地である第1層のAl合金としてAl−30原子%Mo―30原子%Mn(膜厚20nm)を使用し、ITO膜と接触する第2層のAl合金(膜厚280nm)として表7に記載の透明導電膜DC用元素を含むAl合金を用いたときの電気抵抗率を前述した実施例2と同様にして測定すると共に、コンタクト抵抗を以下のようにして測定した。また、第3のAl合金膜(3層)としては、下地である第1層、および第3層のAl合金として表8に記載のもの(膜厚は、第1層、第3層ともに20nm)を使用し、第2層として純Al(膜厚280nm)を用いたときの電気抵抗率およびコンタクト抵抗を同様に測定した。
【0127】
(コンタクト抵抗率の測定法)
まず、上記第2層または第3層のAl合金の上にITO膜が形成された試料を以下のスパッタリング条件で形成した。ITO膜は、酸化インジウムに10質量%の酸化スズを加えたものを使用した。
アルゴンガス雰囲気下、3mTorrの圧力、200℃で20分間の加熱。
【0128】
上記試料を用い、ITOとのダイレクト接触抵抗(コンタクト抵抗)を以下のようにして測定し、評価した。詳細には、図6に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:10μm角)を作製し、4端子測定[ITO−Al合金に電流を流し、別の端子でITO(またはIZO)−Al合金間の電圧降下を測定する方法]を行った。すなわち、図6のI1―I2間に電流Iを流し、V1―V2間の電圧Vをモニターすることにより、接触部Cのダイレクト接触抵抗率Rを[R=(V2―V1)/I2]として求めた。コンタクト抵抗率は、Mo薄膜とITOとのコンタクト抵抗値(100Ω以下)を基準値とし、上記基準値の範囲内にあるものを良好(○)、上記基準値を超えるものを不良(×)とした。
【0129】
これらの結果を表7および表8にまとめて記載する。
【0130】
【表7】

【0131】
【表8】

【0132】
表7より、本実施例では、本発明で規定する第2のAl合金膜(2層)を用いているため、コンタクト抵抗は全て、基準値の範囲内であり、ITOと良好な低コンタクト抵抗を示すことがわかった。また、これらは電気抵抗率も低く抑えられた。
【0133】
表8には、本発明に係る第3のAl合金膜(3層)を使用したときの結果を示している。ここでは、従来の表示デバイス用薄膜トランジスタに使用される構造(Mo/純Al/Moの3層構造)を模擬し、Moの代わりに本発明に規定するAl−Mo−X(X=Mn,Nd,Ni、Mg,Fe)合金を使用しており、第1層と第3層のAl合金は膜厚および組成は全く同じである。本実施例では、本発明で規定する第2のAl合金膜(3層)を用いているため、コンタクト抵抗は全て、基準値の範囲内であり、ITOと良好な低コンタクト抵抗を示すことがわかった。また、これらは電気抵抗率も低く抑えられた。
【0134】
実施例6
本実施例では、本発明に係る第3のAl合金膜[第1層=Al−30原子%Mo−30原子%Mn(膜厚20nm)、第2層=Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd(膜厚300nm)、第3層=Al−30原子%Mo−30原子%Mn(膜厚20nm)の3層構造]を用い、表9に示すように第3層の膜厚を変化させたときのITOとのコンタクト抵抗を測定した。これらの結果を表9に記載する。
【0135】
【表9】

【0136】
表9より、第3層のAl合金の膜厚が5nmの場合、コンタクト抵抗が1.1kΩと基準値を大きく超えたのに対し、膜厚を10nm以上に制御するとコンタクト抵抗は100Ω以下となり、十分に低い抵抗が得られた。
【0137】
その理由は詳細には不明であるが、第3層の膜厚が10nm以上に厚くなると、第3層を構成するAl−Mo−Mn合金は面内に均一に成膜されるため、膜厚に依存せずに所望とする拡散バリア性が発揮されるためと推察される。
【0138】
実施例7(エッチング加工性の評価)
本実施例では、本発明のAl合金膜をソース・ドレインおよびゲート配線の下地材として使用すれば、ウェットエッチングによる配線加工の際に良好なテーパ形状が得られることを調べた。ここでは、第2のAl合金膜(2層)を用いた。
【0139】
具体的には、ガラス基板上に、第1層のAl合金(Al−40原子%Mo、膜厚50nm)および第2層のAl合金(組成:Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Nd、膜厚250nm)を順次積層した配線膜を、前述した実施例1と同様にスパッタリング法を用いて形成した。次に、レジストを塗布した後、フォトリソグラフィ工程によりレジストをパターニングし、Al合金用エッチング液(ナガセケムテックス社製の「AC101」)を使用して上記Al合金膜のウェットエッチングを行った。エッチング時の薬液温度は30℃であり、浸漬時間は目視でAl合金の薄膜が消失する時間の50%をオーバーエッチングとして行った。図7に、ウェットエッチング後のAl合金膜の断面形状を示すSEM写真(倍率5万倍)を示す。
【0140】
比較のため、基板側から順に、純Mo(膜厚50nm)/純Al(膜厚300nm)/純Mo(膜厚50nm)の3層構造配線膜を上記と同様にして形成し、ウェットエッチングを行なった。図8に、ウェットエッチング後のAl合金膜の断面形状を示すSEM写真(倍率5万倍)を示す。
【0141】
図8より、下地Mo膜にアンダーカットが入っていることが分かる。このような形状は、その後のSiNパッシベーション成膜時に十分カバレッジできないなどの不具合を招く原因となる。
【0142】
これに対し、本発明のAl合金膜を用いた図7では、上記のアンダーカットはみられず、良好なテーパー形状を実現できた。これは、下地材として用いたAl−Mo合金が純Moと比較してエッチング速度が遅いためであり、本発明のAl合金膜はウェットエッチング加工性に優れていることがわかった。
【0143】
上記の実施例1〜4、6、7では、第2層のAl合金としてAl−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%Ndの低抵抗Al合金を用いたが、これに限定されず、他の低抵抗Al合金(純Al、Al−Nd合金、Al−Cu合金、Al−Si合金等)を用いても同様の効果が得られることを確認している。本発明では、第1層Al合金の組成および含有量を特定したところに特徴があり、これにより、Al合金とアモルファスシリコンとの界面にAlとSiの拡散を防止し得る拡散バリア状態を形成させたところに特徴があるのであって、第2層Al合金の組成は、第2層を構成する元素がSi中へ拡散して悪影響を及ぼすものでない限り、特に限定されないからである。
【0144】
実施例8
本実施例では、本発明で規定する第1のAl合金膜(単層、膜厚300nm)をソース・ドレイン電極として用いたときのTFT特性およびITOとのコンタクト抵抗を測定した。詳細には、表10に示すように種々のAl合金膜を用いたときの特性について、TFT特性は前述した実施例1と同様にして測定し、ITOとのコンタクト抵抗は前述した実施例5と同様にして測定した。これらの結果を表10に併記する。
【0145】
【表10】

【0146】
表10より、本発明で規定するMo量、またはMo量およびX群元素の量を含むものは、良好な特性が得られており、配線膜として十分使用可能であることが分った。
【0147】
実施例9
本実施例では、本発明で規定する第3のAl合金膜(3層)をソース・ドレイン電極として用いたときのヒロック密度(耐熱性)および電気抵抗率を測定した。詳細には、表11に記載の種々の組成および膜厚を有する3層構造のAl合金膜を用い、前述した実施例2と同様にして電気抵抗率を測定すると共に、以下のようにしてヒロック密度を測定した。
【0148】
(ヒロック密度の測定法)
前述した実施例2と同様にしてAl合金膜に10μm幅のラインアンドペースパターンを形成したものを用意し、その表面を光学顕微鏡観察を用いて観察し、直径0.1μm以上のヒロック密度をカウントした。判定基準は、1.0×109個/m2以下であるものを○、3.3×108個/m2未満であった場合を◎とした。
【0149】
これらの結果を表11に記載する。
【0150】
【表11】

【0151】
表11より、第2層としてFe、Si、Cuのいずれかを含むAl合金を用いたものは、純Alを用いたものと同程度の低い電気抵抗率を有しており、且つ、純Alに比べてヒロック密度が低減しており、耐熱性に優れていることが分かる。このような効果は、第1層の膜厚を厚くしたときにも同様に認められた。なお、表には示していないが、これらのAl合金膜のTFT特性およびITOとのコンタクト抵抗を測定したところ、いずれも良好な特性を示していることも確認された。
【符号の説明】
【0152】
1 ガラス基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜
28 ソース電極
29 ドレイン電極
33 絶縁性保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層および/または透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、
前記Al合金膜は、
30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;または
Moと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足するAl合金の単層からなることを特徴とする表示装置用Al合金膜。
【請求項2】
表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、
前記Al合金膜は、
30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、
純Al膜またはAl合金の第2層と、からなり、
前記第1層は、半導体と直接接続されている配線の下地膜であることを特徴とする表示装置用Al合金膜。
【請求項3】
表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層および透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、
前記Al合金膜は、
30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、
純Al膜またはAl合金の第2層と、
30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;またはMoと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第3層と、からなり、
前記第1層は前記半導体と直接接続される配線の下地膜であり、前記第3層は前記透明導電膜と直接接続される配線の上層膜であることを特徴とする表示装置用Al合金膜。
【請求項4】
表示装置の基板上で、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続されるAl合金膜であって、
前記Al合金膜は、
30原子%以上のMoを含有するAl−Mo合金;または Moと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有するAl−Mo−X合金であって、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足する第1層と、
純Al膜またはAl合金の第2層と、
Mo、Cr、Ti、Ta、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する第3層と、からなり、
前記第1層は前記半導体と直接接続され配線の下地膜であり、前記第3層は前記透明導電膜と直接接続される配線の上層膜であることを特徴とする表示装置用Al合金膜。
【請求項5】
前記Al合金膜の電気抵抗率は3.0〜12.0μΩcmである請求項2〜4のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項6】
前記第1層の膜厚は10nm以上100nm以下である請求項2〜5のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項7】
前記第3層の膜厚が10nm以上100nm以下である請求項3〜6のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項8】
前記第3層のAl合金の組成は前記第1層のAl合金の組成と同一である請求項3、5〜7のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項9】
前記単層の膜厚は10nm以上、1000nm以下である請求項1に記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項10】
Moと、Mn、Nd、Ni、Mg、およびFeよりなるX群から選択される少なくとも1種とを含有し、Moの含有量を[Mo]、X群の含有量を[X]としたとき、30原子%≦[Mo]+[X]≦80原子%、且つ、[Mo]≧10原子%を満足し、残部:Alおよび不可避的不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた薄膜トランジスタ基板。
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜トランジスタ基板を備えた表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−232654(P2011−232654A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104474(P2010−104474)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】