半導体装置およびその製造方法
【課題】Ge半導体層に、極浅かつ高濃度のキャリアからなるn型不純物領域を形成する。
【解決手段】n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、半導体基板表面に選択的に設けられ、一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、一対の不純物拡散領域により挟まれた半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、不純物拡散領域の少なくとも一部は、基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有する。
【解決手段】n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、半導体基板表面に選択的に設けられ、一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、一対の不純物拡散領域により挟まれた半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、不純物拡散領域の少なくとも一部は、基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Geを主成分としたチャネル領域を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代LSI開発において、Siにかわる半導体基板としてGeが期待されている。Siに較べて、電子およびホールのバルク移動度が高いからである。それゆえ、Ge基板を用いれば、表面移動度の高いMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:金属/絶縁体/半導体型電界効果トランジスタ)が実現できると予想され、実際にGeのpMISFETではSiのpMISFETよりも高い移動度が示されている。しかし、その一方で、GeのnMISFETでは、まだSiのnMISFETよりも高い移動度を確認したという例がない。これは、nMISFETでは、金属とn+Geのコンタクト抵抗が高いため、本来のnMISFETの性能が充分に引き出せていないからである。
【0003】
金属とn+Geのコンタクト抵抗が高くなる理由はいくつかあるが、そのうちのひとつは、高キャリア(電子)濃度のn+Geが形成できないためである。Ge中のn型不純物は、後に詳述する理由により、拡散が非常に速く、熱処理すると高濃度に不純物を維持できず、そのため電子濃度が高くできない。コンタクト抵抗Rcは、電子濃度nと次式で示される関係にある。
【0004】
Rc∝exp(C/(n1/2)) … (1)
ここで、Cは電子濃度によらない定数である。この式からわかるように、電子濃度nを高くできないと、金属とn+Geのコンタクト抵抗Rcが高くなる。GeのnMISFETを開発するには、極浅かつ高キャリア濃度のn+Geを形成する必要があり、そのために
はGeにおけるn型不純物の拡散を充分に抑制しなければならない。
【0005】
なお、関連技術として、固相拡散法において、不純物の拡散係数を変えることによって、拡散層の所望の濃度、深さ、あるいは導電型を有する不純物層を制御よく形成する方法が知られている(特許文献1参照)。この特許文献の特徴は、固相拡散の方法にあり、AsドープしたSiO2 が水素を含むとAsが拡散しにくくなり、酸化によって還元されるとAsが拡散しやすくなるという性質を利用している。
【0006】
たとえば、AsとBをドープしたSiO2に水素が含まれる場合、Siに固相拡散させるとAsは拡散しにくいので、AsよりもBが拡散される。そして、そのSiO2を酸化することによりAsも拡散されやすくなるため、Siの表面側にAsによるn+Si,内奥側にBによるp-Siが形成され、つまりn+Si/p-Siが形成されることになる。
【0007】
しかしながら、この特許文献1では、Siにおける不純物の拡散の実施例を示しただけであり、Geにおいて特徴的なn型不純物の拡散が速いことやp型不純物の拡散が遅いこと、p型不純物によってn型不純物の拡散が抑制されることなどを全く考慮していない。また最終的に形成される構造がn+Si/p-Siとある。さらに、高温が必要な固相拡散に限定される方法のため、p型不純物の濃度プロファイルは必ず表面に近くなるほど高くなり、n+層を形成するのに望ましくない。それゆえ、この方法だけではそのままGeに適用しても、極浅かつ高濃度の電子からなるpGe層上のn+Geを形成することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3131436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、Ge層に極浅かつ高キャリア濃度のn型不純物拡散領域を有する半導体装置、およびそれを可能にする製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1態様に係る半導体装置は、n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、
前記半導体基板表面に選択的に設けられ、前記一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、前記一対の不純物拡散領域により挟まれた前記半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、前記不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ前記基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の態様に係る半導体装置の製造方法は、Geを主成分とする半導体層の表面に、高濃度の不純物拡散領域を形成する方法であって、前記半導体層の表面に、n型不純物およびp型不純物を導入する工程と、前記n型不純物とp型不純物を導入後、熱処理して、前記半導体層内にn型不純物拡散領域を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Ge層に極浅かつ高キャリア(電子)濃度からなるn型不純物拡散領域が形成された半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】BによってPの拡散を抑制し、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge領域を形成する方法を説明する不純物濃度プロファイルの模式図で、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後を示す。
【図2】Ge基板におけるPの不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図3】図2の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図4】Ge基板にPとBが存在する場合の不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図5】図2のPの不純物プロファイルで、Bが無い場合とBが基板全体にある場合の拡散距離を比較した図。
【図6】図2の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図7】Ge基板の一定深さの領域にBが存在する場合における、不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図8】図2のPの不純物プロファイルで、Bが無い場合とBが基板の一部にある場合(図7)の拡散距離を比較した図。
【図9】図7の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図10】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間が3秒の場合。
【図11】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図10のBが無いものに対応する。
【図12】図10の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図13】図11の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図14】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間95秒の場合。
【図15】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図14のBが無いものに対応。
【図16】図14の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図17】図15の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図18】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間100秒の場合。
【図19】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図18のBが無いものに対応。
【図20】図18の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図21】図19の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図22】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間が10秒の場合。
【図23】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図22のBが無いものに対応。
【図24】図22の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図25】図23の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図26】PとBの両方を導入して形成したGe基板のキャリア濃度プロファイルで、(a)はBのドーズ量が2×1014cm-2、(b)は1×1015cm-2。
【図27】第2の実施形態に係るn+Ge層を形成する方法で、イオン注入を用いた方法を説明するための断面図。
【図28】図27に続く工程の断面図。
【図29】図28に続く工程の断面図。
【図30】図29に続く工程の断面図。
【図31】図30に続く工程の断面図。
【図32】第3の実施形態に係るn+Ge層を形成する方法で、CVDを用いた方法を説明するための断面図。
【図33】図32に続く工程の断面図。
【図34】図33に続く工程の断面図。
【図35】図34に続く工程の断面図。
【図36】本発明の第4の実施形態に係るMIS型トランジスタの断面図。
【図37】本発明の第5の実施形態に係るCMISFETの断面図。
【図38】本発明の第6の実施形態に係るFinMISFETの斜視図。
【図39】第6の実施形態に係る素子領域を形成する方法を説明するための斜視図。
【図40】図39の次の工程を示す斜視図。
【図41】Ge基板中にPをイオン注入したままの状態での不純物濃度(SIMS)プロファイルを表す図。
【図42】Ge基板中にPをイオン注入して熱処理した場合の不純物濃度(SIMS)プロファイルを表す図。
【図43】図42のGe基板中のBとPの不純物濃度プロファイルとその際に形成される半導体の導電型のプロファイルを説明する模式図。
【図44】Ge基板中の高濃度のBによってPの拡散が抑制されることと、その際に形成される半導体の導電型のプロファイルを説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。前述したように、極浅かつ高電子濃度からなるn+Geを形成するためには、熱処理時にn型不純物を拡散させないようにする技術が必要である。
【0015】
Geにおいてn型不純物の拡散のメカニズムは次のように説明される(例えば、 H. Bracht, Phys. Rev. B 75, 035210 (2007)参照)。Ge中でのn型不純物Aの拡散は、格子置換位置(substitutional site)にある正イオンA+Sと二価の負電荷を持つ空孔V2-が
A+S+V2-⇔(AV)- … (2)
の、化学平衡[質量作用の法則]によって表される反応によってペアになり、(AV)-(dopant-vacancy pair)の形を取って拡散する。つまり、A+Sによる直接の拡散はなく、(AV)-という形態(diffusion vehicle)を通して間接的に拡散する。A+Sによる拡散と見なしたとき、拡散方程式は、実効的な拡散係数Deffを持つ下記の式(3)、(4)で表現される。
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
ここで、Cs+(x,t)は、格子置換位置にあるn型不純物の正イオンの濃度であり、xはn型不純物の座標(本明細書では基板表面からの深さと定義)、tは拡散時間、n(x,t)は電子濃度、ni(x,t;T)は真性キャリア濃度(温度Tに依存)、D*(ni)はniに依存した係数である。このように、n型不純物の実効拡散係数は、電子濃度nの自乗の依存性を持っている。これは、A+Sと(AV)-の電荷状態の差に由来している。Ge中のn型不純物は、このDeffの電子濃度の自乗の依存性によって、特異な拡散現象を示す。Ge中にn型不純物しかない場合、不純物濃度が高くなるほど、それに伴って電子濃度も高くなると考えて良い。それゆえ、(4)式より、不純物濃度が高いときにはDeffは大きくなり、不純物濃度が低くなるとDeffは小さくなる。
【0018】
図41は、燐(P)をGeにイオン注入して熱処理したときの不純物濃度プロファイルをSIMSによって分析したものである。Pのドーズ量は5×1015cm-2、加速エネルギーは30keVであり、窒素雰囲気で600℃、30分の熱処理を施している。比較のために、熱処理を加える前、つまりイオン注入しただけの場合のシミュレーションによる結果も示した。熱処理前は、ピーク濃度で略1021cm-3あり、濃度が1×1019cm-3である深さは約100nmである。
【0019】
一方で、熱処理後は、ピーク濃度で2×1019cm-3程度までに大きく減少し、また濃度が1×1019cm-3である深さは400nmを超えるほど拡散してしまう。ここで特徴的なのはその箱形というべきプロファイルの形状である。表面から400nm程度までは緩やかに濃度は減少するが、それよりも深くなると急峻に濃度が減少する。これは、Deffがn2に比例しているためである。つまり、濃度が高いとDeffが大きいため拡散が速く、濃度が低くなるとDeffが小さくなるため、特徴的な箱形プロファイルになると説明できる。
【0020】
このように、Ge中のn型不純物の拡散が(AV)-という形態を通して拡散し、電子濃度の自乗n2に依存する拡散係数を持つのならば、この負電荷を打ち消せば拡散が抑制できるかもしれない,と本発明者らは考えた。そこで、n型不純物を補償するp型不純物としてボロン(B)を選び、Ge基板に導入して、Pの拡散が抑制できるかを確かめた。その結果が図42である。Bを導入したGeにおけるPの不純物プロファイルをSIMS分析によって求めた。Ge基板にBをドーズ量5×1015cm-2、加速エネルギー30keVで導入したあと、図41と同じ条件でPを導入して熱処理している。
【0021】
その結果によると、まず、Bのピーク濃度は約1×1021cm-3であり、またそのプロファイルから熱処理を加えても拡散していないことがわかる。従来までに、BF2をドーズ量4×1015cm-2、加速エネルギー20keVでGeにイオン注入し、650℃,10秒の熱処理を施した場合でも、Bは全く拡散しない、という報告があり(C. O. Chui et al., Appl. Phys. Lett. 83, 3275 (2003)参照))、本発明での結果と矛盾がない。
【0022】
また、Pの濃度が1×1019cm-3である深さは約100nmであって、これは熱処理前のプロファイルと同じである。つまりPは全く拡散していない。Bがない場合には、Pの濃度は2×1019cm-3まで低下してしまったが(図41)、Bがある場合にはPはピークで約7×1020cm-3という高濃度を維持している。尚、熱処理前と比較してPの表面付近における濃度がわずかに低下しているのは、Pが基板表面から外方拡散しているためであり、基板内奥側への拡散は抑えられている。適切なキャップ層を基板表面に形成すれば、Pの外方拡散が抑えられ、Pの不純物濃度はほぼ熱処理前と同じだけ高濃度に維持され、高い電子濃度にできると考えられる。
【0023】
こうして、Geにおけるn型不純物の拡散メカニズムに基づき、n型不純物の拡散形態である(PV)-を打ち消すようにp型不純物を導入すれば、n型不純物の拡散が完全に抑制できることを発見した。しかし、BによってPの拡散は完全に抑えられるが、図43からわかるように、基板の全体でPよりもBの濃度が高いため、p+Geが形成されている。Pの拡散が抑制できても、n+Geが形成されないのでは意味がない。
【0024】
Pの拡散を抑制しながらn+Geを形成する方法としては、例えば、図44のような方法が考えられる。p型不純物としてBを基板の奥に高濃度に導入し、n型不純物としてPを基板の表面付近に導入する。熱処理を加えると、Bは拡散しないが、Pは基板の奥に拡散し、Pの濃度に較べてBの濃度が充分に高ければ、BによってPの拡散が抑制される。Pの不純物濃度が高くできるので、電子濃度も高くでき、基板の表面にn+Geが形成されることになる。しかし、この構造では、n+Geが形成されるかもしれないが、高濃度のBが存在するためp+Geも同時に形成されることになる。つまり、n+Ge/p+Ge構造ができてしまい、これではソース/ドレインには適用できない。
【0025】
本発明者らは、上記発見に伴う問題を解決し、p+Geを存在させずに、極浅かつ高キャリア(電子)濃度であるn+Ge構造を形成する方法を見出した。またそれによって形成された理想的なn+Ge構造を見出すことができた。これを以下に実施形態として説明する。本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、各実施形態を通して共通の構成には同一符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図の中には本発明の説明とその理解を促すための模式図があり、その形状や寸法、比などが実際の装置と異なる個所があっても、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0026】
なお、本明細書において「Geを主成分とする」とは、Geの含有量が85at.%以上であることをさす。例えば、Semicond. Sci. Technol. 12(1997)1515-1549には、Siの伝導帯の最小値はΔ点であり、Geの伝導帯の最小値はL点であり、SiGeは組成比に依存して、SixGe1-xの場合、x<0.85でΔとなり、x>0.85でL点となることが報告されている。
【0027】
(第1の実施形態)
ここでは、本発明の第1の実施形態に係わる極浅かつ高電子濃度からなるn+Ge層を有する半導体装置(基板)とその製造方法を説明する。図1は、Ge基板における不純物プロファイルを表す模式図である。
【0028】
図1(a)は熱処理前を示している。一定で低濃度のp型不純物を含む基板に、基板濃度に較べれば高濃度の、n型不純物とp型不純物の二つを導入する。そのとき、p型不純物は基板の内奥側に導入し、n型不純物はそれよりも表面側に導入する。ここで、典型的な例として、n型不純物はP、p型不純物はBを選んだ。このとき、Ge中の各不純物が電気的に活性化していれば、図に示すように、n+Ge/p+Ge/p-Ge構造が形成される。尚、熱処理前にこのように不純物が電気的に活性化している必要は無い。各不純物の濃度は、図41の場合と異なり、Pのピーク濃度の方が、Bのそれよりも充分に高くなっていることが特徴である。
【0029】
この構造に熱処理を加えると、前述したように、Geにおけるn型およびp型不純物の特性から、Pは拡散するが、Bは拡散しない。またGe中におけるPは、(PV)−という形態を通して間接的に拡散するため、プロファイルは箱形の、濃度が急峻に変化するものになる。そして、高濃度にBが存在する領域をPが拡散するとき、Bによって負電荷が打ち消されるため、(PV)−という形態での拡散が起こりにくくなり、Pの拡散が遅くなる。さらに熱処理を続けると、Pは図1(b)のように、Bが高濃度に存在する領域全体に拡散する。Ge中でBよりも常にPの濃度を高くできるので、n+Geを形成できる。
【0030】
つまり、最初はp型不純物を用いてn型不純物の拡散を抑制し、最終的にn型不純物をp型不純物よりも高くできるので、p+Ge領域を残さずに、浅くて高電子濃度からなるn+Ge構造を形成できる。
【0031】
次に、本発明によるn+Geが定量的にどのように形成され、どのような構造になるかを説明する。前述したように、Geにおけるn型不純物の拡散は、(2)〜(4)式の拡散方程式で表現される。p型不純物も共存する場合は、それらに加えて次のことを考慮すれば良い。まず、p型不純物は熱処理をしても拡散しないと仮定する。また、Geは電荷中性条件である(5)式をを満たすと仮定する。
【0032】
n+(NA−pA)=p+(ND−nD) … (5)
ここで、nは電子濃度、pはホール濃度、NAはp型不純物濃度、NDはn型不純物濃度、pAはアクセプターレベルに存在するホール密度、nDはドナーレベルに存在するドナー密度である。n,p,pA,nDは通常の平衡系の統計力学で表現できるとする。この(5)式を用いて、Ge基板の各座標、拡散の各時間におけるnを求めながら、(3)式によって、Geにおけるn型不純物の拡散を計算した。n型不純物と共存するp型不純物の影響は、(5)式から決まるnを通して反映されている。
【0033】
<n+Ge層にn型不純物だけが存在している場合>
図2は、本実施形態によるn+Geが形成される過程を計算した一例であり、不純物濃度と深さの関係である。計算するには拡散係数などが必要であり、それらは実験値とフィッティングして求めた。図2は、n型不純物だけがGeに存在している場合である。ここで、n型不純物の例としてPを選んだ。Pの初期プロファイル(熱処理前のプロファイル)は、Ge基板表面から射影飛程(Projected Range)Rpが5.0nm、標準偏差1.0nm、ドーズ量1×1015cm-2のガウス分布であると想定した。熱処理は短時間(1秒)のスパイクアニールを想定している。温度は773Kである。熱処理中の時間発展を十等分(0,0.1,0.2,…,1.0)にして、Pの不純物濃度プロファイルの経時変化を示した。
【0034】
本例のようにBが無い場合には、図2のプロファイルの経時変化からわかるように、最初に大きく拡散し、徐々にゆっくりになって拡散していく。熱処理前に濃度が1×1019cm-3の位置はRpから3.5nmであるが、0.1秒後は13.2nmまで広がり、0.2秒後では16.8nm、0.3秒後では19.0nmと広がり、1秒後では27.2nmまで拡散する。
【0035】
図3は、図2と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。図2と同様に、熱処理中の時間発展を十等分にして、Pの電子濃度プロファイルの変化を示した。図3を図2と較べるとわかるように、7×1017cm-3以上で不純物と電子濃度はほぼ一致している。これはGe中にn型ドーパントであるPだけが存在するからであり、表面から約33nmの深さまで電子だけからなるn+Geになっている。
【0036】
尚、ここでの電子濃度は、773Kという不純物が拡散する温度のときのものである。そのため、不純物濃度が電子濃度とほぼ同じ、つまりほぼ100%イオン化していると考えている。一方で、室温では不純物が不完全イオン化を起こし、電子濃度が不純物濃度よりも低くなることがある。しかし、不純物が高濃度の場合には金属絶縁体転移により不純物の不完全イオン化はなく、つまり室温でも不純物濃度と電子濃度はほとんど同じと考えて良い。電子濃度が7×1017cm-3の一定領域は、真性キャリア濃度niによるものであり、室温では基板濃度より低くなり、基板が通常の濃度のp型であれば、ホール濃度一定の領域が室温では現れる。
【0037】
<n+Ge層にn型不純物とp型不純物が同時に存在している場合>
図4は、n型不純物と共にp型不純物も同時に存在している場合である。図2の場合に加えて、p型不純物がGe基板全体に2.5×1020cm-3の高濃度で共存している。ここではp型不純物の例としてBを選んだ。
【0038】
BがGe基板全体にある場合でも、Bが無い場合と同様に、最初は大きく拡散し、徐々にゆっくり拡散していく。しかしながら、Bがある場合には、Bが無い場合に較べて、その拡散速度は相対的にゆっくりである。熱処理前に濃度が1×1019cm-3の位置はRpら3.5nmであり、0.1秒後は9.0nmまで広がり、0.2秒後では10.6nm、0.3秒後では11.4nmと広がり、1秒後では14.2nmまで拡散する。
【0039】
図5は、B無しの場合(図2)と有りの場合(図4)のPの拡散距離を比較したものである。濃度が1×1019cm-3の場合の、同じ拡散時間におけるそれぞれの拡散距離(Rpを原点に取ったときの深さ)をプロットした。図から明らかなように、Bがあることによって拡散距離が短くなっており、それは距離が大きくなるほど、言い換えれば拡散時間が長くなるほど、その差は大きくなっていく。このように、Bがあることによって拡散が抑えられることがわかる。
【0040】
図6は、図4と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。BがGe基板全体に2.5×1020cm-3という高濃度で存在しているため、熱処理前の状態でP濃度がB濃度より低い場所では、電子濃度は2.8×1015cm-3になる。(4)式からわかるように実効拡散係数は電子濃度の自乗に比例しているため、電子濃度が低いほど拡散が遅くなる。Bが無い場合には8.4×1017cm-3であるが、Bがある場合には2.8×1015cm-3であり、電子濃度が2桁以上低くなる。それゆえ、Bの存在によって実効拡散係数が小さくなり、拡散がゆっくりになる。
【0041】
こうして、BがあることによってPの拡散を抑えることができ、Bが無いときに較べて、浅くて高濃度のn+Geが表面に形成されることになる。しかし、図4からわかるように、PよりBの濃度が高い領域があるため、これはn+Ge/p+Geである。p+Geにおけるホール濃度pは、図6と質量作用の法則np=ni2(nは電子濃度)の関係式から求められ、それは1.75×1020[=(7×1017)2/(2.8×1015)]cm-3という高濃度である。また、さらに、高濃度のPが存在していてもBによって補償されるため、Pの不純物濃度に較べて電子濃度が低くなっている。
【0042】
<p+Ge層を作らずにn+Geを形成する方法>
p+Ge層を作らず、また表面での電子濃度を下げずに浅くて電子が高濃度のn+Geを形成するには、Bのプロファイルを調整すればよい。図7はBのプロファイルを調整したものである。図3のように全体にBを入れず、2.5×1020cm-3の一定濃度であるという条件は同じままに、表面から7.3nm〜18.9nmまでの深さにだけBが存在するようにした。Pのプロファイルは、図7からわかるように、図4のPのプロファイルとほとんど差がない。また、このように一部にだけBがある場合とBが無い場合のPの拡散距離を比較したものが図8であるが、図5とほぼ同じである。つまり、Bを基板全体に入れずに、一部だけに入れてもPの拡散抑制の効果が同じくらいあるということを意味している。そして、一部だけにBを入れるために、図4からわかるように、熱処理後に最終的に得られるPのプロファイルは、Bよりも基板全体で濃度を高くすることができる。
【0043】
図9は、図7と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。図9以降の類似図面には、熱処理前と熱処理後の注記の記載を省略するが、図2と同様に、放物線状の曲線が熱処理前、テラス状の曲線が熱処理後を示す。図6とは異なり、基板の内奥側では真性キャリア濃度になっていて、Bが無い場合の図3と同じである。つまり、基板の内奥側にはp+Geではなく、もともとのGe基板の状態、例えば通常程度の不純物を含んだpGe基板になっていることがわかる。また、図6と較べて、表面側において電子濃度が高くなっている。これは表面にBが存在しないため、電子濃度の減少、損失などが起こらず、したがって、電子濃度がPの不純物濃度とほぼ同じ濃度になっているためである。PはBによる拡散抑制効果により高い不純物濃度が維持されているので、Bが無い場合よりも高い電子濃度が実現されている。
【0044】
このように、Bを表面と基板の内奥側に入れず、最適な場所に最適な濃度で導入すれば、BによってPの拡散を抑制し、Bがあってもp+Geを残さず、また表面の電子濃度を低くすることなく、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge層を形成することができる。
【0045】
<n型不純物を抑制するために必要なp型不純物の濃度>
つづいて、n型不純物を抑制するためには、どのくらいの濃度のp型不純物が必要かを説明する。ここでもn型不純物としてP,p型不純物としてBを選んだ。Pの初期プロファイル(熱処理前のプロファイル)は、Ge基板表面からRpが5.0nm、標準偏差1.0nm、ドーズ量1×1014cm-2のガウス分布であると想定した。拡散温度は773Kである。Bの濃度を3通りに変化させた場合を示した。BはGe基板表面からPのRpの位置まで存在しない場合を想定した。
【0046】
まず、図10はBを5×1019cm-3の濃度で、Rp(5nm)から10nmまで入れた場合である。拡散時間は3秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には10.4nmまで拡散しており、熱処理前後の差で1.6nmだけ拡散している。
【0047】
図10の場合からBだけを無くしたものが図11である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.8nmであり、熱処理後には14.8nmまで拡散している。拡散した距離は6.0nmである。つまり、Bが無い場合には6.0nm拡散しているが、5×1019cm-3のBがあることによって1.6nm拡散するだけで抑えられている。
【0048】
このときの図10,11の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図12,13である。Bが無い場合(図13)には、不純物濃度プロファイル(図11)に対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は10.4nmである。一方で、Bがある場合(図12)には、不純物濃度プロファイル(図10)に対応して、14.8nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0049】
図14は、図10よりもB濃度を減らして、1×1019cm-3にした場合である。BはRpから25.3nmまで入れた。ここまでの内容から予想されるように、B濃度が低くなれば、Pが拡散する領域も広くなるため、Bを入れる領域も広くした方が良いからである。拡散時間は95秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には25.4nmまで拡散しており、熱処理前後の差で17.0nmだけ拡散している。
【0050】
図14の場合からBだけを無くしたものが図15である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.4nmであり、熱処理後には32.2nmまで拡散している。拡散した距離は23.2nmである。つまり、Bが無い場合には23.2nm拡散しているが、1×1019cm-3のBがあることによって17.0nm拡散するだけで抑えられている。
【0051】
このときの図14,15の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図16,17である。Bが無い場合(図17)には、不純物濃度プロファイル(図15)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は32.2nmである。
【0052】
一方で、Bがある場合(図16)には、不純物濃度プロファイル(図14)と対応して、25.4nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0053】
図18は、図10,図14よりもさらにB濃度を減らして、1×1018cm-3にした場合である。BはRpから31.8nmまで入れている。前述したように、B濃度が低くなれば、Pが拡散する領域も広くなるため、Bを入れる領域も広くした方が良いからである。拡散時間は100秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には31.6nmまで拡散しており、熱処理前後の差で22.8nmだけ拡散している。
【0054】
図18の場合からBだけを無くしたものが図19である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.8nmであり、熱処理後には32.6nmまで拡散している。拡散した距離は23.8nmである。つまり、Bが無い場合には23.8nm拡散しているが、1×1018cm-3のBがあることによって22.8nm拡散するだけで抑えられている。
【0055】
このときの図18,図19の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図20,図21である。Bが無い場合(図21)には、不純物濃度プロファイル(図19)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は32.6nmである。一方で、Bがある場合(図20)には、不純物濃度プロファイル(図18)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は31.6nmである。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度niより電子濃度nが低く(ホール濃度pが高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0056】
このように、Pの拡散距離を短くするには、B濃度が高いほど良い。Pの拡散を抑制してn+Geを形成するB濃度の上限は、極限的には、熱処理前のPの濃度Cn(x,0)よりわずかに低くしておく(Cn(x,0)>Cp(x,0))、あるいは、熱処理後に拡散してBよりP濃度が高くなるようにする(Cn(x,t)>Cp(x,t))。ここで、Cn(x,t),Cp(x,t)は、それぞれ、P,Bの深さx,拡散時間tにおける不純物濃度である。熱処理前には、拡散する方向であれば、PよりB濃度を高くしても構わない。また、Pの拡散を抑制する最低限のB濃度Cp(x,0)は、拡散温度Tにおける真性キャリア濃度ni(x,0;T)より高ければ効果がある(Cp(x,0)>ni(x,0;T))。
【0057】
Pの拡散を抑制するためのBのプロファイルとして、一定濃度の矩形領域を考えたが、これは前述したように、Ge中のn型不純物拡散メカニズムにより、n型不純物のプロファイルが一定濃度の領域から急峻に濃度が減少する、いわば箱形プロファイルになるからである。より望ましくは、p型不純物のプロファイルを、最終的に得たいn型不純物のプロファイルに近づけると、さらに浅くて高濃度の電子からなるn+Geが形成できる。
【0058】
ここまでは、BによるPの拡散抑制が最も適した時間の例を示してきた。ここでは、最適な時間を大きく超えた場合に、Pのプロファイルがどのようになるかを示す。図22は、図10と拡散時間だけが違う場合である。図10では拡散時間が3秒であったが、図22では10秒である。図22からわかるように、図10よりPの拡散が進んでいる。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には13.8nmまで移動しており、熱処理前後の差で5.0nmだけ拡散している。
【0059】
図22の場合からBだけを無くしたものが23である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.4nmであり、熱処理後には18.9nmまで拡散している。拡散した距離は10.5nmである。つまり、Bが無い場合には10.5nm拡散してしまうが、1×1019cm-3のBがあることによって5.0nm拡散するだけで抑えられている。ここで注目すべきは、図22から明らかなように、PがBのある領域を大きく超えて拡散しても、Bの濃度がPの濃度を超えることはない、ということである。
【0060】
図22,図23の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図24,25である。Bが無い場合(図25)には、不純物濃度プロファイル(図23)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は18.9nmである。一方で、Bがある場合(図24)には、不純物濃度プロファイル(図22)と対応して、13.8nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなる。そしてこの場合にはBが無い基板内奥側の領域にさらにPは拡散していくが、この位置ではPの濃度が低くなっているため、Pの拡散はゆっくりである。
【0061】
また、Bがある領域から無い領域に遷移する場所で、電子濃度の若干の低下が見られるが、それでも真性キャリア濃度よりも高く、室温では基板濃度よりも充分に電子濃度が高い。尚、これは急峻に高濃度からゼロに落ち込むようなBのプロファイルを想定したからであり、現実には連続的に濃度は変化するため、電子濃度がこのように特異的に低くなることは無い。
【0062】
このように、Pの拡散を抑制する最適な時間を大きく超えても、p+Geが形成されることはなく、B無しの場合に較べて充分に拡散抑制の効果もあり、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できる。
【0063】
<PとBが導入されたGeのキャリア濃度プロファイル>
図26は、PとBの二つを導入して形成したGeのキャリア濃度プロファイルである。Spreading resistance probe分析により求めた。Pのドーズ量は5×1015cm-2であり、窒素雰囲気で30分の熱処理を施したものである。図26(a)、(b)は、それぞれBのドーズ量が2×1014、1×1015cm-2である。熱処理温度は、400,500,600℃の3通りで行った。また、すべての条件において、Bが無い場合のキャリア濃度プロファイルも調べた。基板表面側に高濃度に存在するキャリアはすべて電子であり、また、基板の内奥側に存在する濃度一定領域は基板に含まれる不純物(Ga)により生じたホールである。
【0064】
まず、図26(a)、(b)から、400,500,600℃と温度を高くするほど、電子が高濃度に存在する領域が基板の内奥側に広がっていくことがわかる。また、Bがある場合と無い場合を比較すると、Bがある方が拡散を抑えられている。その傾向はBのドーズ量に強く依存していて、Bのドーズ量が2×1014cm-2より1×1015cm-2の方が、各熱処理温度で拡散が抑制される。また、この高濃度領域はすべて電子であり、Bがあっても、p+Geの無いn+Geが形成できている。
【0065】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、n型不純物層の形成方法の実施形態を説明する。まず、p型Ge基板1にBをイオン注入する(図27)。このとき、イオン注入の加速エネルギーを調整し、基板表面よりも内奥側に注入する。すると、p型Ge基板1の表面より内奥側にBの高濃度層2が形成される(図28)。続いて、p型Ge基板1にPをイオン注入する(図29)。加速エネルギーを調整し、Bの高濃度層2よりも表面側に注入する。p型Ge基板1には表面側にPの高濃度層3が形成され、それよりも基板奥側にBの高濃度層4が形成される(図30)。そして、この基板を熱処理すると、Pは拡散するがBにより拡散が抑制され、最終的にはPがBよりも濃度が高くなるため、p+Ge領域が無くなり、浅くて高濃度の電子濃度からなるn+Ge層が形成される(図31)。このn+Ge層には基板1に含まれるよりも多くのp型不純物が含まれている。
【0066】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、n型不純物拡散層の別の形成方法を示す。まず、p型Ge基板1にBをドープしたGeをCVDによって堆積する(図32)。すると、p型Ge基板1表面にp+Ge層6が形成される(図33)。つづいてPをドープしたGeをCVDによって堆積する。p+Ge層6の上にn+Ge層7が形成される(図34)。このとき基板を加熱しながら堆積、あるいは堆積してから熱処理すると、前述の効果により浅くて高濃度の電子からなるn+Ge層8が形成される(図35)。このプロセスで、図33のp+Ge6を形成せずに、図34のn+Ge層7を堆積すると、n型不純物の拡散が速いため、p型Ge基板1の内奥側に拡散してしまい、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge8が形成できない。本プロセスのように、p+Ge層6を形成すれば、PをドープしたGeを堆積するときに、Pの基板奥側への拡散を防ぐことができる。
【0067】
以上第1〜第3の実施形態によれば、p型不純物の濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型領域を形成することができる。
【0068】
(第4の実施形態)
図36は、上述のn+Ge層を用いた半導体装置(MISFET)の模式断面図である。第4の実施形態の半導体装置は、基板の上に形成されたGeを主成分とするp型半導体10と、p型半導体10の上に形成されたゲート絶縁層12と、ゲート絶縁層12の上に形成されたゲート電極14と、p型半導体10のゲート絶縁層12との境界領域をゲート長方向の両側から挟むようにp型半導体10の表面に選択的に形成された一対のn型不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)18とを備えている。この半導体装置は、n型不純物拡散領域18の全部または一部に、n型不純物を含有すると同時に、p型半導体に含有されるよりも高濃度のp型不純物を含有している。n型不純物拡散領域の表面には、コンタクト電極16が接合されている。
【0069】
p型半導体10は、基板全体がGe、あるいは少なくとも基板表面はGeを主成分としており、p型不純物を含有している。また、p型不純物はn型不純物領域全体にあっても良いが、電子濃度を高くしてコンタクト抵抗を低くするために、基板表面にはないことが望ましい。さらに、n型不純物領域の周りに追加して、いわゆるLDDやn型エクステンション、halo層を形成しても良い。
【0070】
本実施形態によれば、p型不純物の濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型ソース・ドレイン領域18を形成することができる。この結果、微細Geチャネル半導体装置において、短チャネル効果を抑制するとともに寄生抵抗を少なくすることが可能となり、電流駆動力の高いMISFETを提供できる。
【0071】
(第5の実施形態)
図37は、上述のn+Ge層およびp+Ge層を用いたCMISFET(Complementary Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:相補型金属/酸化物/半導体型電界効果トランジスタ)の模式的断面図である。
【0072】
より詳細には、図37はGeチャネルを有するCMISFETのゲート長方向の断面図を表す。基板100の上部表面(主表面)に、Geからなるp型ウェル領域102及びn型ウェル領域104が、素子分離層106によって電気的に分離されて形成される。基板100は、Ge基板や、Si基板や、Si基板上にGe層を形成したものや、Si基板上にSiGe層の中間層を形成しさらにその上にGe層を形成したものであってもよい。素子分離層106は、例えばSiO2 によって形成される。p型ウェル領域102には、nチャネルMISトランジスタが形成され、n型ウェル領域104にはpチャネルMISトランジスタが形成される。
【0073】
nチャネルMISトランジスタの構成としては、p型ウェル領域102内に、電流通路となる領域(チャネル領域)のゲート長両側に一対のn型エクステンション領域108が形成され、これらの外側に一対のn型ディープ領域110が形成される。p型ウェル領域102の上部表面には、対向するn型エクステンション領域108、108のゲート長方向内側の端部にかかるようにしてチャネル領域上にゲート絶縁膜116が形成される。ゲート絶縁膜116の上部表面には、ゲート電極118が積層形成される。ゲート絶縁膜116及びゲート電極118の両側には、ゲート側壁124が形成される。
【0074】
n型ディープ領域110は、n型エクステンション領域108よりもp型ウェル領域102との接合深さが深くなるように構成される。n型エクステンション領域108及びn型ディープ領域110は、nチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域となる。
【0075】
同様に、pチャネルMISトランジスタの構成としては、n型ウェル領域104内に、電流通路となる領域(チャネル領域)のゲート長方向両側に一対のp型エクステンション領域112が形成され、これらの外側に一対のp型ディープ領域114が形成される。n型ウェル領域104の上部表面には、一対のp型エクステンション領域112、112のゲート長方向内側の端部にかかるようにしてチャネル領域上にゲート絶縁膜120が形成される。ゲート絶縁膜120の上部表面には、ゲート電極122が積層形成される。ゲート絶縁膜120及びゲート電極122の両側には、ゲート側壁絶縁膜126が形成される。
【0076】
p型ディープ領域114は、p型エクステンション領域112よりもn型ウェル領域104との接合深さが深くなるように構成される。p型エクステンション領域112及びp型ディープ領域114は、pチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域となる。
【0077】
nチャネルMISトランジスタ及びpチャネルMISトランジスタは、層間絶縁膜130によって覆われている。
【0078】
本実施形態において、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110のどちらか、あるいは両方は、前述の実施形態により形成されたものであり、p型ドーパントを含んでいる。尚、このp型ドーパントは、p型エクステンション領域112、p型ディープ領域114に含まれているp型ドーパントと同じものにすることも可能である。
【0079】
次に、図17を参照して上記のCMISFETの製造方法について説明する。まず、基板100の主表面上に素子分離層106を形成する。基板は、Ge基板や、Si基板や、Si基板の上にGe層を形成したものや、Si基板上にSiGe層の中間層を挟みGe層を形成したものであってよい。素子分離層106の形成方法は、局所酸化法や、STI(Shallow Trench Isolation)法であってもよく、素子分離層106の形状は、メサ型でもよい。素子分離層106を形成した後、p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104を形成する。p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104の形成には、Ge層に対する通常のイオン注入法を用いてもよいし、Ge層をエピタキシャル成長させた後にイオン注入を行ってもよい。
【0080】
次に、p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104の上部表面にゲート絶縁膜116及び120を形成する。ゲート絶縁膜116及び120の形成方法については、例えば、Ge酸化物膜を熱酸化法で形成してもよく、Ge酸窒化膜をプラズマ酸窒化法で形成してもよく、Hf,Zr,La,Y,Alなどから選ばれる金属元素を含む酸化物からなる高誘電率膜をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法で堆積させてもよい。その後、既存の成膜技術を用いて、ゲート絶縁膜116及び120の上部表面にゲート電極118及び122となる単層または多層の導電膜を形成する。ここでは、一例として次の手法を用いる。ゲート電極118(nチャネルMISトランジスタ用)にタンタルカーバイドを、ゲート電極122(pチャネルMISトランジスタ用)にタングステンを、PVD(Physical Vapor deposition:物理気相蒸着)により10nm成膜する。その後、その上部表面にチタンナイトライドをPVDにより10nm成膜する。さらにその後、その上部表面に多結晶Si層を減圧CVD法により50nm成膜する。
【0081】
ゲート電極118(nチャネルMISトランジスタ用)には、タンタルシリサイド、窒化タンタルシリサイド、窒化チタンシリサイド、タングステンシリサイド、窒化タングステンシリサイド等を用いることができる。また、ゲート電極122(pチャネルMISトランジスタ用)には、ルテニウム、窒化チタン、窒化チタンアルミニウム、白金、白金イリジウム等を用いることができる。
【0082】
その後、フォトリソグラフィ技術によるパターニングを行い、異方性エッチングにより不要な膜を削除し、ゲート電極118及び122を形成する。その後、例えば、前述の実施形態による方法を用いて、側壁絶縁膜124、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110を形成する。
【0083】
次に、自己整合ゲート方式により、pチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域を形成する。ここで、「自己整合ゲート方法」とは、まずゲート積層を形成し、その後イオン注入等によってソース・ドレイン領域を形成する、という手法である。すなわち、ゲート電極122を傘として用いてボロン(B)のイオン注入を行い、pチャネル型MISトランジスタのp型エクステンション領域112を形成する。その後、ゲート電極122とソース・ドレイン領域(p型エクステンション領域112及びp型ディープ領域114)の間の絶縁のための側壁絶縁膜124を形成する。その後、p型エクステンション領域112を作製した場合よりも大きな加速電圧によりボロン(B)のイオン注入を行い、p型ディープ領域114を形成する。
【0084】
ソース・ドレイン領域(n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110、p型エクステンション領域112、及びp型ディープ領域114)の活性化プロセス温度としては、ゲート積層部(ゲート絶縁膜116、ゲート電極118、ゲート絶縁膜120、及びゲート電極122)及びソース・ドレイン領域のnp接合部の特性を劣化させない温度が望ましく、例えば600℃とすることができる。
【0085】
また、ソース・ドレイン領域の活性化処理方法としては、フラッシュランプアニール、レーザアニール等を用いることもできる。これらによれば、より短時間の処理で半導体中の不純物の活性化を実現できるため、ゲート電極118、122/ゲート絶縁膜116、120/半導体(p型ウェル領域102、n型ウェル領域104、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110、p型エクステンション領域112、及びp型ディープ領域114)の構造を有する半導体装置の熱による劣化を低減することができる。
【0086】
その後、減圧CVDにより層間絶縁膜130となるSi酸化膜を堆積し、CMP(Chemical Mechanical Planarization:化学機械平坦化)によりゲート電極118及び122の上端を露出させる。その後、スパッタ法等によりゲート電極118及び122の上面にニッケル層を50nm成膜する。その後、500℃の低温熱処理を行うことによって、ニッケルと多結晶Siとの界面領域からシリサイドが形成され、Ni2Siが形成される。ここで、本実施形態においては多結晶Siが全てシリサイドへと変換されているが、Niの膜厚をより薄くすることによって多結晶Siの一部だけをシリサイド化してもよい。その後、硫酸と過酸化水素水との混合溶液等を用いて未反応のNiを除去する。
【0087】
以上説明した製造方法により、図37に表す構造のCMOSFET半導体装置が作製される。p型ドーパントの濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型ソース・ドレイン領域(n型エクステンション領域108及びn型ディープ領域110)を形成することができる。この結果、微細Geチャネル半導体装置において、短チャネル効果を抑制するとともに寄生抵抗を少なくすることが可能となり、電流駆動力が高くなる。
【0088】
(第6の実施形態)
図38は、第6の実施形態に係るFinMISFETの模式的斜視図である。本実施形態は、前述のn+Ge/pGe構造をFinMISFETに応用した例である。より詳細には、図38において、208は支持基板、209は絶縁層、210はGe層であり、208〜210でGOI(Germanium on Insulator)基板211を形成している。GOI層210を加工して線状(直方体状)の素子領域202が形成されている。素子領域202の中央部分には、ゲート絶縁膜203を介してゲート電極204が形成されている。ゲート電極204を挟む素子領域202の部分がソース・ドレイン領域205となる。
【0089】
次に、本実施形態のFinMISFETの製造方法を説明する。まず図39に示すように、GOI層210に対し、例えばBイオンを100keV、2.0×1012cm-2で注入し、その後に、例えば500℃、30秒の熱工程を施す。続いて、例えばRIE法(反応性イオンエッチング法)等の異方性エッチングを施す事により、素子領域202以外の領域のGOI層210を除去し、素子領域202を形成する。
【0090】
次に図39に示すように、例えばCVD法(化学的気相成長法)等の方法を用いることにより、例えば厚さ5nmのHfO2膜212を形成する。次に、図40に示すように、HfO2膜212の上に、例えばCVD法により、例えば厚さ100nmの、例えばタングステン等の高融点金属膜を堆積し、例えばRIE法等の異方性エッチングを施すことにより、高融点金属膜を加工してゲート電極204を形成する。続いて、例えばRIE法等の異方性エッチングを施すことにより、HfO2膜212を加工して、ゲート絶縁膜203を形成する。
【0091】
次に、第1の実施形態と同様に、例えば、Bを基板上方より全面に注入し、続いてPを注入する。PとBの注入の順序は逆でも良い。またこのとき、P注入の後にRIE法等によってゲート電極204,ゲート絶縁膜212をさらに細く加工してもよい。その後にBを注入すれば、GOI層210のチャネル側にBだけを導入できる。そして熱工程によりn+Geからなるソース・ドレイン領域5を形成すれば、MOSFETが形成される。このようにすれば、表面を高キャリア濃度のn+Geにすることができ、またPの拡散を抑制できるので、チャネル領域への横方向への拡散も抑制できる。以後は通常の層間絶縁膜形成工程、配線孔開孔工程、配線工程等を経て半導体装置が形成される。
【0092】
本実施形態によれば、n+Geからなるソース・ドレイン領域5を極浅かつ高キャリア濃度に形成することができ、高性能のFinMISFETを提供することができる。
【0093】
なお実施形態を通じ、n型不純物としてPを例に取ったが、他のものでも良く、例えば、As,Sb,Biなどの一つ以上であっても良い。p型不純物も同様であり、他のものでも良く、例えば、B,Al,Ga,Inなどの一つ以上であっても良い。また本発明ではBが拡散しない温度773Kを想定したが、Pよりも拡散が遅ければBが拡散する高い温度でも効果があるし、もちろん低い温度でも効果があり、温度には制限がない。不純物を導入する方法として、CVD、イオン注入の例を示したが、その他の方法でも構わない。
【0094】
基板としてGe主成分とするp型半導体を例に取り説明したが、n型半導体でもよく、あるいは化合物半導体などの他の半導体でも構わない。その半導体にとってn型不純物となるものが、本発明で説明したGeにおけるn型不純物の拡散メカニズムと同様に、空孔とペアになり、それが電荷を帯びているのならば、その電荷を打ち消すp型不純物を本発明と同様に用いれば、本発明と同様の効果があり、n型不純物の拡散が抑制され、極浅かつ高キャリア濃度のn型不純物領域が形成できる。
【0095】
また半導体として、Ge主成分とする半導体を例に取り示したが、化合物半導体でも構わない。化合物半導体としては、例えば、III−V族半導体があり、GaAs、InP,InSb,GaN,InGaAsなどがある。GaAsにおいてp型ドーパントは、例えばZn、n型ドーパントは、例えばSiが用いられる。GaAs中でのZnの拡散は、次の化学平衡で表されるkick-outメカニズムによって説明される[例えば、H. Bracht et al., Physica B, 308, 831 (2001)参照]。
【0096】
Zn+i ⇔ Zn-Ga+I2+Ga (6)
ここで、Zn+i は格子間 (interstitial)のZn、Zn-GaはGaのサイトを占めるZn、I2+Gaはself-interstitialのGaである。Zn+i は格子間を拡散し、Gaが格子間にkick-outされて(I2+Ga)、Gaのサイトが空いたところにZnが入り込む(Zn-Ga)。Znが1020cm-3を超える高濃度では、kink-and-tailメカニズムに従うという報告もあるが、いずれにしても、p型ドーパントとして働くZnの拡散を防ぐためには、電荷を補償、つまり打ち消すように、n型ドーパントとして働くSiを導入してやればよい。Znの拡散係数は大きいので、拡散係数の小さいSiと組み合わせれば、本発明の効果によって、最初はZnの拡散をSiによって抑え、最終的には浅くて高キャリア濃度のp+GaAsが形成できる。
【0097】
また、p型不純物層はGe基板の内奥側に形成した場合を述べたが、p型半導体基板の表面側にp型不純物層を形成して、熱処理の際におけるn型不純物の外方拡散、すなわち表面から外側への拡散を抑制するバリア層としても用いることができる。このとき、p型不純物層は、p型不純物を含むGeでも良いし、Siでもよく、あるいはSiO2などでも構わない。熱処理後、p型不純物層は除去しても良い。
【0098】
さらにp型不純物層は、n型不純物の基板内奥側への拡散抑制だけでなく、チャネルのある横方向への拡散を抑えるように形成しても良い。その場合には、n型不純物拡散層のチャネル側にp型不純物が含まれることになる。また素子分離の方向へn型不純物が抜けて不純物濃度が低下するのを防ぐようにp型不純物を用いても良い。その場合には、n型不純物拡散層は、素子分離側にp型不純物を含む構造になる。このようにp型不純物は、n型不純物の拡散を防ぐ方向に形成し、拡散を抑制した後、n型不純物に補償させて、n+Geだけが形成されるように用いることができる。
【0099】
また、今までの説明を、nとpとを反対に置き換え、正負の符号を逆に取れば、n+層形成に限らず、p+層形成にも適用できる。n型不純物がp型不純物よりも拡散が速ければ、p型不純物はn型不純物の拡散抑制に利用できるし、反対にp型不純物がn型不純物よりも拡散が速ければ、n型不純物はp型不純物の拡散抑制に利用できるからである。つまり、拡散の遅い不純物を利用して、拡散の速い不純物の拡散を抑制することで、拡散の速い不純物からなる浅くて高キャリア濃度の不純物拡散層の形成が可能になる。
【0100】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0101】
また、前述した実施形態は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0102】
1…p型Ge基板、2…高濃度のBが存在するGe層、3…高濃度のPが存在するGe層
4…高濃度のPとBが共存するGe層、5…p型不純物を含むn+Ge層、6…p+Ge層、
7…n+Ge層、8…p型不純物を含むn+Ge層、10…p型半導体基板、12…ゲート絶縁層、14…ゲート電極、16…コンタクト電極、18…n型不純物拡散領域、100…基板、102…p型ウェル領域、104…n型ウェル領域、106…素子分離層、108…n型エクステンション領域、110…n型ディープ領域、112…p型エクステンション領域、114…p型ディープ領域、116…ゲート絶縁膜、118…ゲート電極、120…ゲート絶縁膜、122…ゲート電極、124、126…ゲート側壁絶縁膜、130…層間絶縁膜、202…素子(半導体)領域、203…ゲート絶縁膜、204…ゲート電極、205…ソース・ドレイン領域、208…支持基板、209…埋め込み絶縁層、210…Ge層、211…GOI基板、212…HfO2 膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、Geを主成分としたチャネル領域を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代LSI開発において、Siにかわる半導体基板としてGeが期待されている。Siに較べて、電子およびホールのバルク移動度が高いからである。それゆえ、Ge基板を用いれば、表面移動度の高いMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:金属/絶縁体/半導体型電界効果トランジスタ)が実現できると予想され、実際にGeのpMISFETではSiのpMISFETよりも高い移動度が示されている。しかし、その一方で、GeのnMISFETでは、まだSiのnMISFETよりも高い移動度を確認したという例がない。これは、nMISFETでは、金属とn+Geのコンタクト抵抗が高いため、本来のnMISFETの性能が充分に引き出せていないからである。
【0003】
金属とn+Geのコンタクト抵抗が高くなる理由はいくつかあるが、そのうちのひとつは、高キャリア(電子)濃度のn+Geが形成できないためである。Ge中のn型不純物は、後に詳述する理由により、拡散が非常に速く、熱処理すると高濃度に不純物を維持できず、そのため電子濃度が高くできない。コンタクト抵抗Rcは、電子濃度nと次式で示される関係にある。
【0004】
Rc∝exp(C/(n1/2)) … (1)
ここで、Cは電子濃度によらない定数である。この式からわかるように、電子濃度nを高くできないと、金属とn+Geのコンタクト抵抗Rcが高くなる。GeのnMISFETを開発するには、極浅かつ高キャリア濃度のn+Geを形成する必要があり、そのために
はGeにおけるn型不純物の拡散を充分に抑制しなければならない。
【0005】
なお、関連技術として、固相拡散法において、不純物の拡散係数を変えることによって、拡散層の所望の濃度、深さ、あるいは導電型を有する不純物層を制御よく形成する方法が知られている(特許文献1参照)。この特許文献の特徴は、固相拡散の方法にあり、AsドープしたSiO2 が水素を含むとAsが拡散しにくくなり、酸化によって還元されるとAsが拡散しやすくなるという性質を利用している。
【0006】
たとえば、AsとBをドープしたSiO2に水素が含まれる場合、Siに固相拡散させるとAsは拡散しにくいので、AsよりもBが拡散される。そして、そのSiO2を酸化することによりAsも拡散されやすくなるため、Siの表面側にAsによるn+Si,内奥側にBによるp-Siが形成され、つまりn+Si/p-Siが形成されることになる。
【0007】
しかしながら、この特許文献1では、Siにおける不純物の拡散の実施例を示しただけであり、Geにおいて特徴的なn型不純物の拡散が速いことやp型不純物の拡散が遅いこと、p型不純物によってn型不純物の拡散が抑制されることなどを全く考慮していない。また最終的に形成される構造がn+Si/p-Siとある。さらに、高温が必要な固相拡散に限定される方法のため、p型不純物の濃度プロファイルは必ず表面に近くなるほど高くなり、n+層を形成するのに望ましくない。それゆえ、この方法だけではそのままGeに適用しても、極浅かつ高濃度の電子からなるpGe層上のn+Geを形成することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3131436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、Ge層に極浅かつ高キャリア濃度のn型不純物拡散領域を有する半導体装置、およびそれを可能にする製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1態様に係る半導体装置は、n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、
前記半導体基板表面に選択的に設けられ、前記一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、前記一対の不純物拡散領域により挟まれた前記半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極とを備え、前記不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ前記基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の態様に係る半導体装置の製造方法は、Geを主成分とする半導体層の表面に、高濃度の不純物拡散領域を形成する方法であって、前記半導体層の表面に、n型不純物およびp型不純物を導入する工程と、前記n型不純物とp型不純物を導入後、熱処理して、前記半導体層内にn型不純物拡散領域を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Ge層に極浅かつ高キャリア(電子)濃度からなるn型不純物拡散領域が形成された半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】BによってPの拡散を抑制し、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge領域を形成する方法を説明する不純物濃度プロファイルの模式図で、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後を示す。
【図2】Ge基板におけるPの不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図3】図2の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図4】Ge基板にPとBが存在する場合の不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図5】図2のPの不純物プロファイルで、Bが無い場合とBが基板全体にある場合の拡散距離を比較した図。
【図6】図2の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図7】Ge基板の一定深さの領域にBが存在する場合における、不純物濃度プロファイルの熱処理前後を示す図。
【図8】図2のPの不純物プロファイルで、Bが無い場合とBが基板の一部にある場合(図7)の拡散距離を比較した図。
【図9】図7の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図10】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間が3秒の場合。
【図11】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図10のBが無いものに対応する。
【図12】図10の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図13】図11の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図14】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間95秒の場合。
【図15】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図14のBが無いものに対応。
【図16】図14の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図17】図15の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図18】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間100秒の場合。
【図19】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図18のBが無いものに対応。
【図20】図18の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図21】図19の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図22】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、拡散時間が10秒の場合。
【図23】Ge基板においてBがPの不純物濃度プロファイルに及ぼす影響を示す図で、図22のBが無いものに対応。
【図24】図22の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図25】図23の不純物濃度プロファイルに対応するキャリア濃度プロファイル。
【図26】PとBの両方を導入して形成したGe基板のキャリア濃度プロファイルで、(a)はBのドーズ量が2×1014cm-2、(b)は1×1015cm-2。
【図27】第2の実施形態に係るn+Ge層を形成する方法で、イオン注入を用いた方法を説明するための断面図。
【図28】図27に続く工程の断面図。
【図29】図28に続く工程の断面図。
【図30】図29に続く工程の断面図。
【図31】図30に続く工程の断面図。
【図32】第3の実施形態に係るn+Ge層を形成する方法で、CVDを用いた方法を説明するための断面図。
【図33】図32に続く工程の断面図。
【図34】図33に続く工程の断面図。
【図35】図34に続く工程の断面図。
【図36】本発明の第4の実施形態に係るMIS型トランジスタの断面図。
【図37】本発明の第5の実施形態に係るCMISFETの断面図。
【図38】本発明の第6の実施形態に係るFinMISFETの斜視図。
【図39】第6の実施形態に係る素子領域を形成する方法を説明するための斜視図。
【図40】図39の次の工程を示す斜視図。
【図41】Ge基板中にPをイオン注入したままの状態での不純物濃度(SIMS)プロファイルを表す図。
【図42】Ge基板中にPをイオン注入して熱処理した場合の不純物濃度(SIMS)プロファイルを表す図。
【図43】図42のGe基板中のBとPの不純物濃度プロファイルとその際に形成される半導体の導電型のプロファイルを説明する模式図。
【図44】Ge基板中の高濃度のBによってPの拡散が抑制されることと、その際に形成される半導体の導電型のプロファイルを説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。前述したように、極浅かつ高電子濃度からなるn+Geを形成するためには、熱処理時にn型不純物を拡散させないようにする技術が必要である。
【0015】
Geにおいてn型不純物の拡散のメカニズムは次のように説明される(例えば、 H. Bracht, Phys. Rev. B 75, 035210 (2007)参照)。Ge中でのn型不純物Aの拡散は、格子置換位置(substitutional site)にある正イオンA+Sと二価の負電荷を持つ空孔V2-が
A+S+V2-⇔(AV)- … (2)
の、化学平衡[質量作用の法則]によって表される反応によってペアになり、(AV)-(dopant-vacancy pair)の形を取って拡散する。つまり、A+Sによる直接の拡散はなく、(AV)-という形態(diffusion vehicle)を通して間接的に拡散する。A+Sによる拡散と見なしたとき、拡散方程式は、実効的な拡散係数Deffを持つ下記の式(3)、(4)で表現される。
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
ここで、Cs+(x,t)は、格子置換位置にあるn型不純物の正イオンの濃度であり、xはn型不純物の座標(本明細書では基板表面からの深さと定義)、tは拡散時間、n(x,t)は電子濃度、ni(x,t;T)は真性キャリア濃度(温度Tに依存)、D*(ni)はniに依存した係数である。このように、n型不純物の実効拡散係数は、電子濃度nの自乗の依存性を持っている。これは、A+Sと(AV)-の電荷状態の差に由来している。Ge中のn型不純物は、このDeffの電子濃度の自乗の依存性によって、特異な拡散現象を示す。Ge中にn型不純物しかない場合、不純物濃度が高くなるほど、それに伴って電子濃度も高くなると考えて良い。それゆえ、(4)式より、不純物濃度が高いときにはDeffは大きくなり、不純物濃度が低くなるとDeffは小さくなる。
【0018】
図41は、燐(P)をGeにイオン注入して熱処理したときの不純物濃度プロファイルをSIMSによって分析したものである。Pのドーズ量は5×1015cm-2、加速エネルギーは30keVであり、窒素雰囲気で600℃、30分の熱処理を施している。比較のために、熱処理を加える前、つまりイオン注入しただけの場合のシミュレーションによる結果も示した。熱処理前は、ピーク濃度で略1021cm-3あり、濃度が1×1019cm-3である深さは約100nmである。
【0019】
一方で、熱処理後は、ピーク濃度で2×1019cm-3程度までに大きく減少し、また濃度が1×1019cm-3である深さは400nmを超えるほど拡散してしまう。ここで特徴的なのはその箱形というべきプロファイルの形状である。表面から400nm程度までは緩やかに濃度は減少するが、それよりも深くなると急峻に濃度が減少する。これは、Deffがn2に比例しているためである。つまり、濃度が高いとDeffが大きいため拡散が速く、濃度が低くなるとDeffが小さくなるため、特徴的な箱形プロファイルになると説明できる。
【0020】
このように、Ge中のn型不純物の拡散が(AV)-という形態を通して拡散し、電子濃度の自乗n2に依存する拡散係数を持つのならば、この負電荷を打ち消せば拡散が抑制できるかもしれない,と本発明者らは考えた。そこで、n型不純物を補償するp型不純物としてボロン(B)を選び、Ge基板に導入して、Pの拡散が抑制できるかを確かめた。その結果が図42である。Bを導入したGeにおけるPの不純物プロファイルをSIMS分析によって求めた。Ge基板にBをドーズ量5×1015cm-2、加速エネルギー30keVで導入したあと、図41と同じ条件でPを導入して熱処理している。
【0021】
その結果によると、まず、Bのピーク濃度は約1×1021cm-3であり、またそのプロファイルから熱処理を加えても拡散していないことがわかる。従来までに、BF2をドーズ量4×1015cm-2、加速エネルギー20keVでGeにイオン注入し、650℃,10秒の熱処理を施した場合でも、Bは全く拡散しない、という報告があり(C. O. Chui et al., Appl. Phys. Lett. 83, 3275 (2003)参照))、本発明での結果と矛盾がない。
【0022】
また、Pの濃度が1×1019cm-3である深さは約100nmであって、これは熱処理前のプロファイルと同じである。つまりPは全く拡散していない。Bがない場合には、Pの濃度は2×1019cm-3まで低下してしまったが(図41)、Bがある場合にはPはピークで約7×1020cm-3という高濃度を維持している。尚、熱処理前と比較してPの表面付近における濃度がわずかに低下しているのは、Pが基板表面から外方拡散しているためであり、基板内奥側への拡散は抑えられている。適切なキャップ層を基板表面に形成すれば、Pの外方拡散が抑えられ、Pの不純物濃度はほぼ熱処理前と同じだけ高濃度に維持され、高い電子濃度にできると考えられる。
【0023】
こうして、Geにおけるn型不純物の拡散メカニズムに基づき、n型不純物の拡散形態である(PV)-を打ち消すようにp型不純物を導入すれば、n型不純物の拡散が完全に抑制できることを発見した。しかし、BによってPの拡散は完全に抑えられるが、図43からわかるように、基板の全体でPよりもBの濃度が高いため、p+Geが形成されている。Pの拡散が抑制できても、n+Geが形成されないのでは意味がない。
【0024】
Pの拡散を抑制しながらn+Geを形成する方法としては、例えば、図44のような方法が考えられる。p型不純物としてBを基板の奥に高濃度に導入し、n型不純物としてPを基板の表面付近に導入する。熱処理を加えると、Bは拡散しないが、Pは基板の奥に拡散し、Pの濃度に較べてBの濃度が充分に高ければ、BによってPの拡散が抑制される。Pの不純物濃度が高くできるので、電子濃度も高くでき、基板の表面にn+Geが形成されることになる。しかし、この構造では、n+Geが形成されるかもしれないが、高濃度のBが存在するためp+Geも同時に形成されることになる。つまり、n+Ge/p+Ge構造ができてしまい、これではソース/ドレインには適用できない。
【0025】
本発明者らは、上記発見に伴う問題を解決し、p+Geを存在させずに、極浅かつ高キャリア(電子)濃度であるn+Ge構造を形成する方法を見出した。またそれによって形成された理想的なn+Ge構造を見出すことができた。これを以下に実施形態として説明する。本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、各実施形態を通して共通の構成には同一符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図の中には本発明の説明とその理解を促すための模式図があり、その形状や寸法、比などが実際の装置と異なる個所があっても、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0026】
なお、本明細書において「Geを主成分とする」とは、Geの含有量が85at.%以上であることをさす。例えば、Semicond. Sci. Technol. 12(1997)1515-1549には、Siの伝導帯の最小値はΔ点であり、Geの伝導帯の最小値はL点であり、SiGeは組成比に依存して、SixGe1-xの場合、x<0.85でΔとなり、x>0.85でL点となることが報告されている。
【0027】
(第1の実施形態)
ここでは、本発明の第1の実施形態に係わる極浅かつ高電子濃度からなるn+Ge層を有する半導体装置(基板)とその製造方法を説明する。図1は、Ge基板における不純物プロファイルを表す模式図である。
【0028】
図1(a)は熱処理前を示している。一定で低濃度のp型不純物を含む基板に、基板濃度に較べれば高濃度の、n型不純物とp型不純物の二つを導入する。そのとき、p型不純物は基板の内奥側に導入し、n型不純物はそれよりも表面側に導入する。ここで、典型的な例として、n型不純物はP、p型不純物はBを選んだ。このとき、Ge中の各不純物が電気的に活性化していれば、図に示すように、n+Ge/p+Ge/p-Ge構造が形成される。尚、熱処理前にこのように不純物が電気的に活性化している必要は無い。各不純物の濃度は、図41の場合と異なり、Pのピーク濃度の方が、Bのそれよりも充分に高くなっていることが特徴である。
【0029】
この構造に熱処理を加えると、前述したように、Geにおけるn型およびp型不純物の特性から、Pは拡散するが、Bは拡散しない。またGe中におけるPは、(PV)−という形態を通して間接的に拡散するため、プロファイルは箱形の、濃度が急峻に変化するものになる。そして、高濃度にBが存在する領域をPが拡散するとき、Bによって負電荷が打ち消されるため、(PV)−という形態での拡散が起こりにくくなり、Pの拡散が遅くなる。さらに熱処理を続けると、Pは図1(b)のように、Bが高濃度に存在する領域全体に拡散する。Ge中でBよりも常にPの濃度を高くできるので、n+Geを形成できる。
【0030】
つまり、最初はp型不純物を用いてn型不純物の拡散を抑制し、最終的にn型不純物をp型不純物よりも高くできるので、p+Ge領域を残さずに、浅くて高電子濃度からなるn+Ge構造を形成できる。
【0031】
次に、本発明によるn+Geが定量的にどのように形成され、どのような構造になるかを説明する。前述したように、Geにおけるn型不純物の拡散は、(2)〜(4)式の拡散方程式で表現される。p型不純物も共存する場合は、それらに加えて次のことを考慮すれば良い。まず、p型不純物は熱処理をしても拡散しないと仮定する。また、Geは電荷中性条件である(5)式をを満たすと仮定する。
【0032】
n+(NA−pA)=p+(ND−nD) … (5)
ここで、nは電子濃度、pはホール濃度、NAはp型不純物濃度、NDはn型不純物濃度、pAはアクセプターレベルに存在するホール密度、nDはドナーレベルに存在するドナー密度である。n,p,pA,nDは通常の平衡系の統計力学で表現できるとする。この(5)式を用いて、Ge基板の各座標、拡散の各時間におけるnを求めながら、(3)式によって、Geにおけるn型不純物の拡散を計算した。n型不純物と共存するp型不純物の影響は、(5)式から決まるnを通して反映されている。
【0033】
<n+Ge層にn型不純物だけが存在している場合>
図2は、本実施形態によるn+Geが形成される過程を計算した一例であり、不純物濃度と深さの関係である。計算するには拡散係数などが必要であり、それらは実験値とフィッティングして求めた。図2は、n型不純物だけがGeに存在している場合である。ここで、n型不純物の例としてPを選んだ。Pの初期プロファイル(熱処理前のプロファイル)は、Ge基板表面から射影飛程(Projected Range)Rpが5.0nm、標準偏差1.0nm、ドーズ量1×1015cm-2のガウス分布であると想定した。熱処理は短時間(1秒)のスパイクアニールを想定している。温度は773Kである。熱処理中の時間発展を十等分(0,0.1,0.2,…,1.0)にして、Pの不純物濃度プロファイルの経時変化を示した。
【0034】
本例のようにBが無い場合には、図2のプロファイルの経時変化からわかるように、最初に大きく拡散し、徐々にゆっくりになって拡散していく。熱処理前に濃度が1×1019cm-3の位置はRpから3.5nmであるが、0.1秒後は13.2nmまで広がり、0.2秒後では16.8nm、0.3秒後では19.0nmと広がり、1秒後では27.2nmまで拡散する。
【0035】
図3は、図2と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。図2と同様に、熱処理中の時間発展を十等分にして、Pの電子濃度プロファイルの変化を示した。図3を図2と較べるとわかるように、7×1017cm-3以上で不純物と電子濃度はほぼ一致している。これはGe中にn型ドーパントであるPだけが存在するからであり、表面から約33nmの深さまで電子だけからなるn+Geになっている。
【0036】
尚、ここでの電子濃度は、773Kという不純物が拡散する温度のときのものである。そのため、不純物濃度が電子濃度とほぼ同じ、つまりほぼ100%イオン化していると考えている。一方で、室温では不純物が不完全イオン化を起こし、電子濃度が不純物濃度よりも低くなることがある。しかし、不純物が高濃度の場合には金属絶縁体転移により不純物の不完全イオン化はなく、つまり室温でも不純物濃度と電子濃度はほとんど同じと考えて良い。電子濃度が7×1017cm-3の一定領域は、真性キャリア濃度niによるものであり、室温では基板濃度より低くなり、基板が通常の濃度のp型であれば、ホール濃度一定の領域が室温では現れる。
【0037】
<n+Ge層にn型不純物とp型不純物が同時に存在している場合>
図4は、n型不純物と共にp型不純物も同時に存在している場合である。図2の場合に加えて、p型不純物がGe基板全体に2.5×1020cm-3の高濃度で共存している。ここではp型不純物の例としてBを選んだ。
【0038】
BがGe基板全体にある場合でも、Bが無い場合と同様に、最初は大きく拡散し、徐々にゆっくり拡散していく。しかしながら、Bがある場合には、Bが無い場合に較べて、その拡散速度は相対的にゆっくりである。熱処理前に濃度が1×1019cm-3の位置はRpら3.5nmであり、0.1秒後は9.0nmまで広がり、0.2秒後では10.6nm、0.3秒後では11.4nmと広がり、1秒後では14.2nmまで拡散する。
【0039】
図5は、B無しの場合(図2)と有りの場合(図4)のPの拡散距離を比較したものである。濃度が1×1019cm-3の場合の、同じ拡散時間におけるそれぞれの拡散距離(Rpを原点に取ったときの深さ)をプロットした。図から明らかなように、Bがあることによって拡散距離が短くなっており、それは距離が大きくなるほど、言い換えれば拡散時間が長くなるほど、その差は大きくなっていく。このように、Bがあることによって拡散が抑えられることがわかる。
【0040】
図6は、図4と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。BがGe基板全体に2.5×1020cm-3という高濃度で存在しているため、熱処理前の状態でP濃度がB濃度より低い場所では、電子濃度は2.8×1015cm-3になる。(4)式からわかるように実効拡散係数は電子濃度の自乗に比例しているため、電子濃度が低いほど拡散が遅くなる。Bが無い場合には8.4×1017cm-3であるが、Bがある場合には2.8×1015cm-3であり、電子濃度が2桁以上低くなる。それゆえ、Bの存在によって実効拡散係数が小さくなり、拡散がゆっくりになる。
【0041】
こうして、BがあることによってPの拡散を抑えることができ、Bが無いときに較べて、浅くて高濃度のn+Geが表面に形成されることになる。しかし、図4からわかるように、PよりBの濃度が高い領域があるため、これはn+Ge/p+Geである。p+Geにおけるホール濃度pは、図6と質量作用の法則np=ni2(nは電子濃度)の関係式から求められ、それは1.75×1020[=(7×1017)2/(2.8×1015)]cm-3という高濃度である。また、さらに、高濃度のPが存在していてもBによって補償されるため、Pの不純物濃度に較べて電子濃度が低くなっている。
【0042】
<p+Ge層を作らずにn+Geを形成する方法>
p+Ge層を作らず、また表面での電子濃度を下げずに浅くて電子が高濃度のn+Geを形成するには、Bのプロファイルを調整すればよい。図7はBのプロファイルを調整したものである。図3のように全体にBを入れず、2.5×1020cm-3の一定濃度であるという条件は同じままに、表面から7.3nm〜18.9nmまでの深さにだけBが存在するようにした。Pのプロファイルは、図7からわかるように、図4のPのプロファイルとほとんど差がない。また、このように一部にだけBがある場合とBが無い場合のPの拡散距離を比較したものが図8であるが、図5とほぼ同じである。つまり、Bを基板全体に入れずに、一部だけに入れてもPの拡散抑制の効果が同じくらいあるということを意味している。そして、一部だけにBを入れるために、図4からわかるように、熱処理後に最終的に得られるPのプロファイルは、Bよりも基板全体で濃度を高くすることができる。
【0043】
図9は、図7と同じ条件のものであり、その電子濃度プロファイルを示したものである。図9以降の類似図面には、熱処理前と熱処理後の注記の記載を省略するが、図2と同様に、放物線状の曲線が熱処理前、テラス状の曲線が熱処理後を示す。図6とは異なり、基板の内奥側では真性キャリア濃度になっていて、Bが無い場合の図3と同じである。つまり、基板の内奥側にはp+Geではなく、もともとのGe基板の状態、例えば通常程度の不純物を含んだpGe基板になっていることがわかる。また、図6と較べて、表面側において電子濃度が高くなっている。これは表面にBが存在しないため、電子濃度の減少、損失などが起こらず、したがって、電子濃度がPの不純物濃度とほぼ同じ濃度になっているためである。PはBによる拡散抑制効果により高い不純物濃度が維持されているので、Bが無い場合よりも高い電子濃度が実現されている。
【0044】
このように、Bを表面と基板の内奥側に入れず、最適な場所に最適な濃度で導入すれば、BによってPの拡散を抑制し、Bがあってもp+Geを残さず、また表面の電子濃度を低くすることなく、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge層を形成することができる。
【0045】
<n型不純物を抑制するために必要なp型不純物の濃度>
つづいて、n型不純物を抑制するためには、どのくらいの濃度のp型不純物が必要かを説明する。ここでもn型不純物としてP,p型不純物としてBを選んだ。Pの初期プロファイル(熱処理前のプロファイル)は、Ge基板表面からRpが5.0nm、標準偏差1.0nm、ドーズ量1×1014cm-2のガウス分布であると想定した。拡散温度は773Kである。Bの濃度を3通りに変化させた場合を示した。BはGe基板表面からPのRpの位置まで存在しない場合を想定した。
【0046】
まず、図10はBを5×1019cm-3の濃度で、Rp(5nm)から10nmまで入れた場合である。拡散時間は3秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には10.4nmまで拡散しており、熱処理前後の差で1.6nmだけ拡散している。
【0047】
図10の場合からBだけを無くしたものが図11である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.8nmであり、熱処理後には14.8nmまで拡散している。拡散した距離は6.0nmである。つまり、Bが無い場合には6.0nm拡散しているが、5×1019cm-3のBがあることによって1.6nm拡散するだけで抑えられている。
【0048】
このときの図10,11の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図12,13である。Bが無い場合(図13)には、不純物濃度プロファイル(図11)に対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は10.4nmである。一方で、Bがある場合(図12)には、不純物濃度プロファイル(図10)に対応して、14.8nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0049】
図14は、図10よりもB濃度を減らして、1×1019cm-3にした場合である。BはRpから25.3nmまで入れた。ここまでの内容から予想されるように、B濃度が低くなれば、Pが拡散する領域も広くなるため、Bを入れる領域も広くした方が良いからである。拡散時間は95秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には25.4nmまで拡散しており、熱処理前後の差で17.0nmだけ拡散している。
【0050】
図14の場合からBだけを無くしたものが図15である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.4nmであり、熱処理後には32.2nmまで拡散している。拡散した距離は23.2nmである。つまり、Bが無い場合には23.2nm拡散しているが、1×1019cm-3のBがあることによって17.0nm拡散するだけで抑えられている。
【0051】
このときの図14,15の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図16,17である。Bが無い場合(図17)には、不純物濃度プロファイル(図15)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は32.2nmである。
【0052】
一方で、Bがある場合(図16)には、不純物濃度プロファイル(図14)と対応して、25.4nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0053】
図18は、図10,図14よりもさらにB濃度を減らして、1×1018cm-3にした場合である。BはRpから31.8nmまで入れている。前述したように、B濃度が低くなれば、Pが拡散する領域も広くなるため、Bを入れる領域も広くした方が良いからである。拡散時間は100秒とした。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には31.6nmまで拡散しており、熱処理前後の差で22.8nmだけ拡散している。
【0054】
図18の場合からBだけを無くしたものが図19である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.8nmであり、熱処理後には32.6nmまで拡散している。拡散した距離は23.8nmである。つまり、Bが無い場合には23.8nm拡散しているが、1×1018cm-3のBがあることによって22.8nm拡散するだけで抑えられている。
【0055】
このときの図18,図19の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図20,図21である。Bが無い場合(図21)には、不純物濃度プロファイル(図19)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は32.6nmである。一方で、Bがある場合(図20)には、不純物濃度プロファイル(図18)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は31.6nmである。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度niより電子濃度nが低く(ホール濃度pが高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなり、つまりp+Ge領域が無くて、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できている。
【0056】
このように、Pの拡散距離を短くするには、B濃度が高いほど良い。Pの拡散を抑制してn+Geを形成するB濃度の上限は、極限的には、熱処理前のPの濃度Cn(x,0)よりわずかに低くしておく(Cn(x,0)>Cp(x,0))、あるいは、熱処理後に拡散してBよりP濃度が高くなるようにする(Cn(x,t)>Cp(x,t))。ここで、Cn(x,t),Cp(x,t)は、それぞれ、P,Bの深さx,拡散時間tにおける不純物濃度である。熱処理前には、拡散する方向であれば、PよりB濃度を高くしても構わない。また、Pの拡散を抑制する最低限のB濃度Cp(x,0)は、拡散温度Tにおける真性キャリア濃度ni(x,0;T)より高ければ効果がある(Cp(x,0)>ni(x,0;T))。
【0057】
Pの拡散を抑制するためのBのプロファイルとして、一定濃度の矩形領域を考えたが、これは前述したように、Ge中のn型不純物拡散メカニズムにより、n型不純物のプロファイルが一定濃度の領域から急峻に濃度が減少する、いわば箱形プロファイルになるからである。より望ましくは、p型不純物のプロファイルを、最終的に得たいn型不純物のプロファイルに近づけると、さらに浅くて高濃度の電子からなるn+Geが形成できる。
【0058】
ここまでは、BによるPの拡散抑制が最も適した時間の例を示してきた。ここでは、最適な時間を大きく超えた場合に、Pのプロファイルがどのようになるかを示す。図22は、図10と拡散時間だけが違う場合である。図10では拡散時間が3秒であったが、図22では10秒である。図22からわかるように、図10よりPの拡散が進んでいる。例えば、P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前には8.8nmであったのが、熱処理後には13.8nmまで移動しており、熱処理前後の差で5.0nmだけ拡散している。
【0059】
図22の場合からBだけを無くしたものが23である。P濃度が1×1018cm-3の位置は、熱処理前は同じ8.4nmであり、熱処理後には18.9nmまで拡散している。拡散した距離は10.5nmである。つまり、Bが無い場合には10.5nm拡散してしまうが、1×1019cm-3のBがあることによって5.0nm拡散するだけで抑えられている。ここで注目すべきは、図22から明らかなように、PがBのある領域を大きく超えて拡散しても、Bの濃度がPの濃度を超えることはない、ということである。
【0060】
図22,図23の不純物濃度プロファイルに対応する電子濃度プロファイルは、それぞれ、図24,25である。Bが無い場合(図25)には、不純物濃度プロファイル(図23)と対応して、電子濃度が1×1018cm-3の位置は18.9nmである。一方で、Bがある場合(図24)には、不純物濃度プロファイル(図22)と対応して、13.8nmまでn+Geの領域が広がっている。また図からわかるように、拡散している途中はBによって補償されるため、真性キャリア濃度より電子濃度が低く(ホール濃度が高く)、つまりp+Geが形成されている。そのとき、電子濃度が低いのでゆっくり拡散し、最終的には電子濃度が真性キャリア濃度より低い領域が無くなる。そしてこの場合にはBが無い基板内奥側の領域にさらにPは拡散していくが、この位置ではPの濃度が低くなっているため、Pの拡散はゆっくりである。
【0061】
また、Bがある領域から無い領域に遷移する場所で、電子濃度の若干の低下が見られるが、それでも真性キャリア濃度よりも高く、室温では基板濃度よりも充分に電子濃度が高い。尚、これは急峻に高濃度からゼロに落ち込むようなBのプロファイルを想定したからであり、現実には連続的に濃度は変化するため、電子濃度がこのように特異的に低くなることは無い。
【0062】
このように、Pの拡散を抑制する最適な時間を大きく超えても、p+Geが形成されることはなく、B無しの場合に較べて充分に拡散抑制の効果もあり、極浅かつ高濃度の電子濃度からなるn+Geだけが形成できる。
【0063】
<PとBが導入されたGeのキャリア濃度プロファイル>
図26は、PとBの二つを導入して形成したGeのキャリア濃度プロファイルである。Spreading resistance probe分析により求めた。Pのドーズ量は5×1015cm-2であり、窒素雰囲気で30分の熱処理を施したものである。図26(a)、(b)は、それぞれBのドーズ量が2×1014、1×1015cm-2である。熱処理温度は、400,500,600℃の3通りで行った。また、すべての条件において、Bが無い場合のキャリア濃度プロファイルも調べた。基板表面側に高濃度に存在するキャリアはすべて電子であり、また、基板の内奥側に存在する濃度一定領域は基板に含まれる不純物(Ga)により生じたホールである。
【0064】
まず、図26(a)、(b)から、400,500,600℃と温度を高くするほど、電子が高濃度に存在する領域が基板の内奥側に広がっていくことがわかる。また、Bがある場合と無い場合を比較すると、Bがある方が拡散を抑えられている。その傾向はBのドーズ量に強く依存していて、Bのドーズ量が2×1014cm-2より1×1015cm-2の方が、各熱処理温度で拡散が抑制される。また、この高濃度領域はすべて電子であり、Bがあっても、p+Geの無いn+Geが形成できている。
【0065】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、n型不純物層の形成方法の実施形態を説明する。まず、p型Ge基板1にBをイオン注入する(図27)。このとき、イオン注入の加速エネルギーを調整し、基板表面よりも内奥側に注入する。すると、p型Ge基板1の表面より内奥側にBの高濃度層2が形成される(図28)。続いて、p型Ge基板1にPをイオン注入する(図29)。加速エネルギーを調整し、Bの高濃度層2よりも表面側に注入する。p型Ge基板1には表面側にPの高濃度層3が形成され、それよりも基板奥側にBの高濃度層4が形成される(図30)。そして、この基板を熱処理すると、Pは拡散するがBにより拡散が抑制され、最終的にはPがBよりも濃度が高くなるため、p+Ge領域が無くなり、浅くて高濃度の電子濃度からなるn+Ge層が形成される(図31)。このn+Ge層には基板1に含まれるよりも多くのp型不純物が含まれている。
【0066】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、n型不純物拡散層の別の形成方法を示す。まず、p型Ge基板1にBをドープしたGeをCVDによって堆積する(図32)。すると、p型Ge基板1表面にp+Ge層6が形成される(図33)。つづいてPをドープしたGeをCVDによって堆積する。p+Ge層6の上にn+Ge層7が形成される(図34)。このとき基板を加熱しながら堆積、あるいは堆積してから熱処理すると、前述の効果により浅くて高濃度の電子からなるn+Ge層8が形成される(図35)。このプロセスで、図33のp+Ge6を形成せずに、図34のn+Ge層7を堆積すると、n型不純物の拡散が速いため、p型Ge基板1の内奥側に拡散してしまい、浅くて高濃度の電子からなるn+Ge8が形成できない。本プロセスのように、p+Ge層6を形成すれば、PをドープしたGeを堆積するときに、Pの基板奥側への拡散を防ぐことができる。
【0067】
以上第1〜第3の実施形態によれば、p型不純物の濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型領域を形成することができる。
【0068】
(第4の実施形態)
図36は、上述のn+Ge層を用いた半導体装置(MISFET)の模式断面図である。第4の実施形態の半導体装置は、基板の上に形成されたGeを主成分とするp型半導体10と、p型半導体10の上に形成されたゲート絶縁層12と、ゲート絶縁層12の上に形成されたゲート電極14と、p型半導体10のゲート絶縁層12との境界領域をゲート長方向の両側から挟むようにp型半導体10の表面に選択的に形成された一対のn型不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)18とを備えている。この半導体装置は、n型不純物拡散領域18の全部または一部に、n型不純物を含有すると同時に、p型半導体に含有されるよりも高濃度のp型不純物を含有している。n型不純物拡散領域の表面には、コンタクト電極16が接合されている。
【0069】
p型半導体10は、基板全体がGe、あるいは少なくとも基板表面はGeを主成分としており、p型不純物を含有している。また、p型不純物はn型不純物領域全体にあっても良いが、電子濃度を高くしてコンタクト抵抗を低くするために、基板表面にはないことが望ましい。さらに、n型不純物領域の周りに追加して、いわゆるLDDやn型エクステンション、halo層を形成しても良い。
【0070】
本実施形態によれば、p型不純物の濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型ソース・ドレイン領域18を形成することができる。この結果、微細Geチャネル半導体装置において、短チャネル効果を抑制するとともに寄生抵抗を少なくすることが可能となり、電流駆動力の高いMISFETを提供できる。
【0071】
(第5の実施形態)
図37は、上述のn+Ge層およびp+Ge層を用いたCMISFET(Complementary Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:相補型金属/酸化物/半導体型電界効果トランジスタ)の模式的断面図である。
【0072】
より詳細には、図37はGeチャネルを有するCMISFETのゲート長方向の断面図を表す。基板100の上部表面(主表面)に、Geからなるp型ウェル領域102及びn型ウェル領域104が、素子分離層106によって電気的に分離されて形成される。基板100は、Ge基板や、Si基板や、Si基板上にGe層を形成したものや、Si基板上にSiGe層の中間層を形成しさらにその上にGe層を形成したものであってもよい。素子分離層106は、例えばSiO2 によって形成される。p型ウェル領域102には、nチャネルMISトランジスタが形成され、n型ウェル領域104にはpチャネルMISトランジスタが形成される。
【0073】
nチャネルMISトランジスタの構成としては、p型ウェル領域102内に、電流通路となる領域(チャネル領域)のゲート長両側に一対のn型エクステンション領域108が形成され、これらの外側に一対のn型ディープ領域110が形成される。p型ウェル領域102の上部表面には、対向するn型エクステンション領域108、108のゲート長方向内側の端部にかかるようにしてチャネル領域上にゲート絶縁膜116が形成される。ゲート絶縁膜116の上部表面には、ゲート電極118が積層形成される。ゲート絶縁膜116及びゲート電極118の両側には、ゲート側壁124が形成される。
【0074】
n型ディープ領域110は、n型エクステンション領域108よりもp型ウェル領域102との接合深さが深くなるように構成される。n型エクステンション領域108及びn型ディープ領域110は、nチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域となる。
【0075】
同様に、pチャネルMISトランジスタの構成としては、n型ウェル領域104内に、電流通路となる領域(チャネル領域)のゲート長方向両側に一対のp型エクステンション領域112が形成され、これらの外側に一対のp型ディープ領域114が形成される。n型ウェル領域104の上部表面には、一対のp型エクステンション領域112、112のゲート長方向内側の端部にかかるようにしてチャネル領域上にゲート絶縁膜120が形成される。ゲート絶縁膜120の上部表面には、ゲート電極122が積層形成される。ゲート絶縁膜120及びゲート電極122の両側には、ゲート側壁絶縁膜126が形成される。
【0076】
p型ディープ領域114は、p型エクステンション領域112よりもn型ウェル領域104との接合深さが深くなるように構成される。p型エクステンション領域112及びp型ディープ領域114は、pチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域となる。
【0077】
nチャネルMISトランジスタ及びpチャネルMISトランジスタは、層間絶縁膜130によって覆われている。
【0078】
本実施形態において、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110のどちらか、あるいは両方は、前述の実施形態により形成されたものであり、p型ドーパントを含んでいる。尚、このp型ドーパントは、p型エクステンション領域112、p型ディープ領域114に含まれているp型ドーパントと同じものにすることも可能である。
【0079】
次に、図17を参照して上記のCMISFETの製造方法について説明する。まず、基板100の主表面上に素子分離層106を形成する。基板は、Ge基板や、Si基板や、Si基板の上にGe層を形成したものや、Si基板上にSiGe層の中間層を挟みGe層を形成したものであってよい。素子分離層106の形成方法は、局所酸化法や、STI(Shallow Trench Isolation)法であってもよく、素子分離層106の形状は、メサ型でもよい。素子分離層106を形成した後、p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104を形成する。p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104の形成には、Ge層に対する通常のイオン注入法を用いてもよいし、Ge層をエピタキシャル成長させた後にイオン注入を行ってもよい。
【0080】
次に、p型ウェル領域102及びn型ウェル領域104の上部表面にゲート絶縁膜116及び120を形成する。ゲート絶縁膜116及び120の形成方法については、例えば、Ge酸化物膜を熱酸化法で形成してもよく、Ge酸窒化膜をプラズマ酸窒化法で形成してもよく、Hf,Zr,La,Y,Alなどから選ばれる金属元素を含む酸化物からなる高誘電率膜をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法で堆積させてもよい。その後、既存の成膜技術を用いて、ゲート絶縁膜116及び120の上部表面にゲート電極118及び122となる単層または多層の導電膜を形成する。ここでは、一例として次の手法を用いる。ゲート電極118(nチャネルMISトランジスタ用)にタンタルカーバイドを、ゲート電極122(pチャネルMISトランジスタ用)にタングステンを、PVD(Physical Vapor deposition:物理気相蒸着)により10nm成膜する。その後、その上部表面にチタンナイトライドをPVDにより10nm成膜する。さらにその後、その上部表面に多結晶Si層を減圧CVD法により50nm成膜する。
【0081】
ゲート電極118(nチャネルMISトランジスタ用)には、タンタルシリサイド、窒化タンタルシリサイド、窒化チタンシリサイド、タングステンシリサイド、窒化タングステンシリサイド等を用いることができる。また、ゲート電極122(pチャネルMISトランジスタ用)には、ルテニウム、窒化チタン、窒化チタンアルミニウム、白金、白金イリジウム等を用いることができる。
【0082】
その後、フォトリソグラフィ技術によるパターニングを行い、異方性エッチングにより不要な膜を削除し、ゲート電極118及び122を形成する。その後、例えば、前述の実施形態による方法を用いて、側壁絶縁膜124、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110を形成する。
【0083】
次に、自己整合ゲート方式により、pチャネルMISトランジスタのソース・ドレイン領域を形成する。ここで、「自己整合ゲート方法」とは、まずゲート積層を形成し、その後イオン注入等によってソース・ドレイン領域を形成する、という手法である。すなわち、ゲート電極122を傘として用いてボロン(B)のイオン注入を行い、pチャネル型MISトランジスタのp型エクステンション領域112を形成する。その後、ゲート電極122とソース・ドレイン領域(p型エクステンション領域112及びp型ディープ領域114)の間の絶縁のための側壁絶縁膜124を形成する。その後、p型エクステンション領域112を作製した場合よりも大きな加速電圧によりボロン(B)のイオン注入を行い、p型ディープ領域114を形成する。
【0084】
ソース・ドレイン領域(n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110、p型エクステンション領域112、及びp型ディープ領域114)の活性化プロセス温度としては、ゲート積層部(ゲート絶縁膜116、ゲート電極118、ゲート絶縁膜120、及びゲート電極122)及びソース・ドレイン領域のnp接合部の特性を劣化させない温度が望ましく、例えば600℃とすることができる。
【0085】
また、ソース・ドレイン領域の活性化処理方法としては、フラッシュランプアニール、レーザアニール等を用いることもできる。これらによれば、より短時間の処理で半導体中の不純物の活性化を実現できるため、ゲート電極118、122/ゲート絶縁膜116、120/半導体(p型ウェル領域102、n型ウェル領域104、n型エクステンション領域108、n型ディープ領域110、p型エクステンション領域112、及びp型ディープ領域114)の構造を有する半導体装置の熱による劣化を低減することができる。
【0086】
その後、減圧CVDにより層間絶縁膜130となるSi酸化膜を堆積し、CMP(Chemical Mechanical Planarization:化学機械平坦化)によりゲート電極118及び122の上端を露出させる。その後、スパッタ法等によりゲート電極118及び122の上面にニッケル層を50nm成膜する。その後、500℃の低温熱処理を行うことによって、ニッケルと多結晶Siとの界面領域からシリサイドが形成され、Ni2Siが形成される。ここで、本実施形態においては多結晶Siが全てシリサイドへと変換されているが、Niの膜厚をより薄くすることによって多結晶Siの一部だけをシリサイド化してもよい。その後、硫酸と過酸化水素水との混合溶液等を用いて未反応のNiを除去する。
【0087】
以上説明した製造方法により、図37に表す構造のCMOSFET半導体装置が作製される。p型ドーパントの濃度および分布を制御することによって、極浅く、かつ高濃度キャリア密度を有するn型ソース・ドレイン領域(n型エクステンション領域108及びn型ディープ領域110)を形成することができる。この結果、微細Geチャネル半導体装置において、短チャネル効果を抑制するとともに寄生抵抗を少なくすることが可能となり、電流駆動力が高くなる。
【0088】
(第6の実施形態)
図38は、第6の実施形態に係るFinMISFETの模式的斜視図である。本実施形態は、前述のn+Ge/pGe構造をFinMISFETに応用した例である。より詳細には、図38において、208は支持基板、209は絶縁層、210はGe層であり、208〜210でGOI(Germanium on Insulator)基板211を形成している。GOI層210を加工して線状(直方体状)の素子領域202が形成されている。素子領域202の中央部分には、ゲート絶縁膜203を介してゲート電極204が形成されている。ゲート電極204を挟む素子領域202の部分がソース・ドレイン領域205となる。
【0089】
次に、本実施形態のFinMISFETの製造方法を説明する。まず図39に示すように、GOI層210に対し、例えばBイオンを100keV、2.0×1012cm-2で注入し、その後に、例えば500℃、30秒の熱工程を施す。続いて、例えばRIE法(反応性イオンエッチング法)等の異方性エッチングを施す事により、素子領域202以外の領域のGOI層210を除去し、素子領域202を形成する。
【0090】
次に図39に示すように、例えばCVD法(化学的気相成長法)等の方法を用いることにより、例えば厚さ5nmのHfO2膜212を形成する。次に、図40に示すように、HfO2膜212の上に、例えばCVD法により、例えば厚さ100nmの、例えばタングステン等の高融点金属膜を堆積し、例えばRIE法等の異方性エッチングを施すことにより、高融点金属膜を加工してゲート電極204を形成する。続いて、例えばRIE法等の異方性エッチングを施すことにより、HfO2膜212を加工して、ゲート絶縁膜203を形成する。
【0091】
次に、第1の実施形態と同様に、例えば、Bを基板上方より全面に注入し、続いてPを注入する。PとBの注入の順序は逆でも良い。またこのとき、P注入の後にRIE法等によってゲート電極204,ゲート絶縁膜212をさらに細く加工してもよい。その後にBを注入すれば、GOI層210のチャネル側にBだけを導入できる。そして熱工程によりn+Geからなるソース・ドレイン領域5を形成すれば、MOSFETが形成される。このようにすれば、表面を高キャリア濃度のn+Geにすることができ、またPの拡散を抑制できるので、チャネル領域への横方向への拡散も抑制できる。以後は通常の層間絶縁膜形成工程、配線孔開孔工程、配線工程等を経て半導体装置が形成される。
【0092】
本実施形態によれば、n+Geからなるソース・ドレイン領域5を極浅かつ高キャリア濃度に形成することができ、高性能のFinMISFETを提供することができる。
【0093】
なお実施形態を通じ、n型不純物としてPを例に取ったが、他のものでも良く、例えば、As,Sb,Biなどの一つ以上であっても良い。p型不純物も同様であり、他のものでも良く、例えば、B,Al,Ga,Inなどの一つ以上であっても良い。また本発明ではBが拡散しない温度773Kを想定したが、Pよりも拡散が遅ければBが拡散する高い温度でも効果があるし、もちろん低い温度でも効果があり、温度には制限がない。不純物を導入する方法として、CVD、イオン注入の例を示したが、その他の方法でも構わない。
【0094】
基板としてGe主成分とするp型半導体を例に取り説明したが、n型半導体でもよく、あるいは化合物半導体などの他の半導体でも構わない。その半導体にとってn型不純物となるものが、本発明で説明したGeにおけるn型不純物の拡散メカニズムと同様に、空孔とペアになり、それが電荷を帯びているのならば、その電荷を打ち消すp型不純物を本発明と同様に用いれば、本発明と同様の効果があり、n型不純物の拡散が抑制され、極浅かつ高キャリア濃度のn型不純物領域が形成できる。
【0095】
また半導体として、Ge主成分とする半導体を例に取り示したが、化合物半導体でも構わない。化合物半導体としては、例えば、III−V族半導体があり、GaAs、InP,InSb,GaN,InGaAsなどがある。GaAsにおいてp型ドーパントは、例えばZn、n型ドーパントは、例えばSiが用いられる。GaAs中でのZnの拡散は、次の化学平衡で表されるkick-outメカニズムによって説明される[例えば、H. Bracht et al., Physica B, 308, 831 (2001)参照]。
【0096】
Zn+i ⇔ Zn-Ga+I2+Ga (6)
ここで、Zn+i は格子間 (interstitial)のZn、Zn-GaはGaのサイトを占めるZn、I2+Gaはself-interstitialのGaである。Zn+i は格子間を拡散し、Gaが格子間にkick-outされて(I2+Ga)、Gaのサイトが空いたところにZnが入り込む(Zn-Ga)。Znが1020cm-3を超える高濃度では、kink-and-tailメカニズムに従うという報告もあるが、いずれにしても、p型ドーパントとして働くZnの拡散を防ぐためには、電荷を補償、つまり打ち消すように、n型ドーパントとして働くSiを導入してやればよい。Znの拡散係数は大きいので、拡散係数の小さいSiと組み合わせれば、本発明の効果によって、最初はZnの拡散をSiによって抑え、最終的には浅くて高キャリア濃度のp+GaAsが形成できる。
【0097】
また、p型不純物層はGe基板の内奥側に形成した場合を述べたが、p型半導体基板の表面側にp型不純物層を形成して、熱処理の際におけるn型不純物の外方拡散、すなわち表面から外側への拡散を抑制するバリア層としても用いることができる。このとき、p型不純物層は、p型不純物を含むGeでも良いし、Siでもよく、あるいはSiO2などでも構わない。熱処理後、p型不純物層は除去しても良い。
【0098】
さらにp型不純物層は、n型不純物の基板内奥側への拡散抑制だけでなく、チャネルのある横方向への拡散を抑えるように形成しても良い。その場合には、n型不純物拡散層のチャネル側にp型不純物が含まれることになる。また素子分離の方向へn型不純物が抜けて不純物濃度が低下するのを防ぐようにp型不純物を用いても良い。その場合には、n型不純物拡散層は、素子分離側にp型不純物を含む構造になる。このようにp型不純物は、n型不純物の拡散を防ぐ方向に形成し、拡散を抑制した後、n型不純物に補償させて、n+Geだけが形成されるように用いることができる。
【0099】
また、今までの説明を、nとpとを反対に置き換え、正負の符号を逆に取れば、n+層形成に限らず、p+層形成にも適用できる。n型不純物がp型不純物よりも拡散が速ければ、p型不純物はn型不純物の拡散抑制に利用できるし、反対にp型不純物がn型不純物よりも拡散が速ければ、n型不純物はp型不純物の拡散抑制に利用できるからである。つまり、拡散の遅い不純物を利用して、拡散の速い不純物の拡散を抑制することで、拡散の速い不純物からなる浅くて高キャリア濃度の不純物拡散層の形成が可能になる。
【0100】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0101】
また、前述した実施形態は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0102】
1…p型Ge基板、2…高濃度のBが存在するGe層、3…高濃度のPが存在するGe層
4…高濃度のPとBが共存するGe層、5…p型不純物を含むn+Ge層、6…p+Ge層、
7…n+Ge層、8…p型不純物を含むn+Ge層、10…p型半導体基板、12…ゲート絶縁層、14…ゲート電極、16…コンタクト電極、18…n型不純物拡散領域、100…基板、102…p型ウェル領域、104…n型ウェル領域、106…素子分離層、108…n型エクステンション領域、110…n型ディープ領域、112…p型エクステンション領域、114…p型ディープ領域、116…ゲート絶縁膜、118…ゲート電極、120…ゲート絶縁膜、122…ゲート電極、124、126…ゲート側壁絶縁膜、130…層間絶縁膜、202…素子(半導体)領域、203…ゲート絶縁膜、204…ゲート電極、205…ソース・ドレイン領域、208…支持基板、209…埋め込み絶縁層、210…Ge層、211…GOI基板、212…HfO2 膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、
前記半導体基板表面に選択的に設けられ、前記一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、
前記一対の不純物拡散領域により挟まれた前記半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極と、
を備え、前記不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ前記基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
Geを主成分とするp型半導体層と、
前記p型半導体層の表面に選択的に設けられた一対のn型不純物拡散領域と、
前記一対のn型不純物拡散領域により挟まれた前記p型半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上に設けられたゲート電極と、
を備え、前記n型不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記p型半導体のp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記n型不純物拡散領域に含有される前記p型不純物濃度は、前記n型拡散領域の表面側よりも内奥側において高いことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
Geを主成分とする半導体層の表面に、高濃度の不純物拡散領域を形成する方法であって、
前記半導体層の表面に、n型不純物およびp型不純物を導入する工程と、
前記n型不純物とp型不純物を導入後、熱処理して、前記半導体層内にn型不純物拡散領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記n型不純物およびp型不純物を導入する工程において、前記n型不純物は、前記p型不純物に比して、前記半導体層の表面側に形成することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記n型不純物およびp型不純物を導入する工程において、前記n型不純物を導入した後に、前記p型不純物を導入することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記n型不純物拡散領域に含有される前記p型不純物は、前記熱処理の温度における真性キャリア濃度よりも高いことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体層はp型不純物を含有し、前記n型不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記半導体層のp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項1】
n型とp型のうちの一方の導電型の半導体基板と、
前記半導体基板表面に選択的に設けられ、前記一方の導電型と異なる導電型の一対の不純物拡散領域と、
前記一対の不純物拡散領域により挟まれた前記半導体基板上に設けられたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層の上に設けられたゲート電極と、
を備え、前記不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記基板に含まれる不純物と同じ導電型で、かつ前記基板の不純物濃度より高い不純物濃度を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
Geを主成分とするp型半導体層と、
前記p型半導体層の表面に選択的に設けられた一対のn型不純物拡散領域と、
前記一対のn型不純物拡散領域により挟まれた前記p型半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上に設けられたゲート電極と、
を備え、前記n型不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記p型半導体のp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記n型不純物拡散領域に含有される前記p型不純物濃度は、前記n型拡散領域の表面側よりも内奥側において高いことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
Geを主成分とする半導体層の表面に、高濃度の不純物拡散領域を形成する方法であって、
前記半導体層の表面に、n型不純物およびp型不純物を導入する工程と、
前記n型不純物とp型不純物を導入後、熱処理して、前記半導体層内にn型不純物拡散領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記n型不純物およびp型不純物を導入する工程において、前記n型不純物は、前記p型不純物に比して、前記半導体層の表面側に形成することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記n型不純物およびp型不純物を導入する工程において、前記n型不純物を導入した後に、前記p型不純物を導入することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記n型不純物拡散領域に含有される前記p型不純物は、前記熱処理の温度における真性キャリア濃度よりも高いことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体層はp型不純物を含有し、前記n型不純物拡散領域の少なくとも一部は、前記半導体層のp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【公開番号】特開2012−99510(P2012−99510A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55267(P2009−55267)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト/次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト(一般会計)/新構造極限CMOSトランジスタ「関連技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト/次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト(一般会計)/新構造極限CMOSトランジスタ「関連技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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