説明

表示装置用Al合金膜、表示装置およびスパッタリングターゲット

【課題】バリアメタル層を省略して透明画素電極と直接接続させた場合にも低コンタクト抵抗を十分かつ確実に示す表示装置用Al合金膜を提供する。
【解決手段】表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、該Al合金膜は、Geを0.05〜1.0原子%、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群から選ばれる少なくとも1種の元素を0.05〜0.5原子%含有し、かつ、前記Al合金膜中に、長径20nm以上のGe含有析出物が100μm2当たり50個以上存在することを特徴とする表示装置用Al合金膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用Al合金膜、表示装置およびスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野に用いられる液晶表示装置は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transitor、以下「TFT」と呼ぶ。)をスイッチング素子とし、透明画素電極と、ゲート配線およびソース−ドレイン配線等の配線部と、アモルファスシリコン(a−Si)や多結晶シリコン(p−Si)などの半導体層を備えたTFT基板と、TFT基板に対して所定の間隔をおいて対抗配置され共通電極を備えた対向基板と、TFT基板と対向基板との間に充填された液晶層から構成されている。
【0003】
TFT基板において、ゲート配線やソース−ドレイン配線などの配線材料には、電気抵抗が小さく、微細加工が容易であるなどの理由により、純AlまたはAl−NdなどのAl合金(以下、これらをまとめてAl系合金ということがある)が汎用されている。Al系合金配線と透明画素電極の間には、Mo、Cr、Ti、W等の高融点金属からなるバリアメタル層が通常設けられている。この様に、バリアメタル層を介してAl系合金配線を接続する理由は、Al系合金配線を透明画素電極と直接接続すると、接続抵抗(コンタクト抵抗)が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。すなわち、透明画素電極に直接接続する配線を構成するAlは非常に酸化され易く、液晶ディスプレイの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などにより、Al系合金配線と透明画素電極との界面にAl酸化物の絶縁層が生成するためである。また、透明画素電極を構成するITO等の透明導電膜は導電性の金属酸化物であるが、上記のようにして生成したAl酸化物層により、電気的なオーミック接続を行うことができない。
【0004】
しかし、バリアメタル層を形成するためには、ゲート電極やソース電極、更にはドレイン電極の形成に必要な成膜用スパッタ装置に加えて、バリアメタル形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならない。液晶ディスプレイの大量生産に伴い低コスト化が進むにつれて、バリアメタル層の形成に伴う製造コストの上昇や生産性の低下は軽視できなくなっている。
【0005】
そこで、バリアメタル層の形成を省略でき、Al系合金配線を透明画素電極に直接接続することが可能な電極材料や製造方法が提案されている。
【0006】
例えば本願出願人は、バリアメタル層の省略を可能にすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金配線を透明画素電極に対して直接かつ確実に接続し得るダイレクトコンタクト技術を開示している(特許文献1)。
【0007】
詳しくは、特許文献1は、合金成分として、Au、Ag、Zn、Cu、Ni、Sr、Ge、Sm、およびBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を0.1〜6原子%含むAl合金を開示している。Al系合金配線に該Al合金からなるものを用いれば、これら合金成分の少なくとも一部が当該Al系合金配線と透明画素電極との界面で析出物または濃化層として存在することによって、バリアメタル層を省略しても、透明画素電極との接触抵抗を低減させることができる。
【0008】
また本願出願人は、特許文献2で、良好な耐熱性を示しながら、低い熱処理温度でも十分に低い電気抵抗を示すAl合金を開示している。詳しくは、Ni,Ag,Zn,Cu,およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(以下「α成分」と呼ぶ。)、および、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Ce,Pr,Gd,Tb,Sm,Eu,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,およびDyよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(以下「X成分」と呼ぶ。)を含有するAl−α−X合金からなるAl合金膜を開示している。上記Al合金膜を薄膜トランジスタ基板に用いると、バリアメタル層の省略が可能になると共に、工程数を増やすことなく、Al合金膜と導電性酸化膜からなる透明画素電極を直接且つ確実に接触することができるとされている。また、Al合金膜に対し、例えば、約100℃以上300℃以下の低い熱処理温度を適用した場合でも、電気抵抗の低減と優れた耐熱性とを達成できるとされている。
【0009】
また特許文献3には、炭素を含有したアルミニウム合金薄膜において、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を0.5〜7.0at%含有させることによって、ITO膜と同程度の電極電位を有し、シリコンが拡散することなく、比抵抗が低く、耐熱性に優れたアルミニウム合金薄膜を実現できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−214606号公報
【特許文献2】特開2006−261636号公報
【特許文献3】特開2003−89864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り純Alに合金元素を添加することによって、純Alでは見られなかった種々の機能が付与されるが、透明画素電極と直接接続させるべく、上記析出物等を析出させた場合に、該析出物が著しく粗大となり、該粗大な析出物に起因して表示装置の製造後に黒点が生じうる場合がある。よって、上記粗大な析出物の析出にかわる技術により、低コンタクト抵抗を十分かつ確実に達成することが求められている。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、バリアメタル層を省略して透明画素電極と直接接続させた場合にも低コンタクト抵抗を十分かつ確実に示す表示装置用Al合金膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成し得た本発明のAl合金膜は、表示装置の基板上で、透明画素電極と直接接続されるAl合金膜であって、該Al合金膜は、Geを0.05〜1.0原子%(好ましくは0.3〜0.7原子%)、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「A元素」ということがある)を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群(好ましくは、Nd、Gd、La、Y、Ce、Pr、Dy)から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「REM」ということがある)を0.05〜0.5原子%含有し、かつ、前記Al合金膜中に、長径20nm以上のGe含有析出物が100μm2当たり50個以上存在するところに特徴を有する。
【0013】
上記Al合金膜は、更に、Cuを0.1〜0.5原子%含んでいてもよい。また、上記Al合金膜中が含有する前記A元素(原子%)と前記REM(原子%)との比(A元素/REM)は、0.1超7以下であることが好ましい。
【0014】
前記Al合金膜において、前記Ge含有析出物が、前記透明導電膜と直接接続している形態であれば、低コンタクト抵抗をより確実に実現できるので好ましい。
【0015】
本発明は、上記Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置も含むものである。
【0016】
また本発明は、表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、Geを0.05〜1.0原子%(好ましくは0.3〜0.7原子%)、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(A元素)を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群(好ましくは、Nd、Gd、La、Y、Ce、Pr、Dy)から選ばれる少なくとも1種の元素(REM)を0.05〜0.5原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物であるところに特徴を有するスパッタリングターゲットも規定する。
【0017】
上記スパッタリングターゲットは、必要に応じて、更にCuを0.1〜0.5原子%含むものであってもよい。また、上記スパッタリングターゲットが含有する前記A元素(原子%)と前記REM(原子%)との比(A元素/REM)は、0.1超7以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バリアメタル層を介在させずに、Al合金膜を透明画素電極(透明導電膜、酸化物導電膜)と直接接続させた場合にも、コンタクト抵抗を十分かつ確実に低減できる。また、本発明のAl合金膜を表示装置に適用すれば、上記バリアメタル層を省略することができる。従って本発明のAl合金膜を用いれば、生産性に優れ、安価で且つ高性能の表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、アモルファスシリコンTFT基板が適用される代表的な液晶ディスプレイの構成を示す概略断面拡大説明図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係るTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図3】図3は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図4】図4は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図5】図5は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図6】図6は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図7】図7は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図8】図8は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図9】図9は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図10】図10は、図2に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施形態に係るTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図12】図12は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図13】図13は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図14】図14は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図15】図15は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図16】図16は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図17】図17は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図18】図18は、図11に示したTFT基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図19】図19は、実施例にて形成した電極パターンを示す図である。
【図20】図20は、実施例におけるNo.5のTEM観察写真である。
【図21】図21は、実施例におけるNo.14のTEM観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
バリアメタル層を省略して透明画素電極と直接接続させた場合に、低コンタクト抵抗を十分かつ確実に示す表示装置用Al合金膜を実現することを目的に、Alに添加する合金元素と、該合金元素を含む析出物の形態とがコンタクト抵抗に及ぼす影響について検討した。これまでにも、例えば特許文献1にも記載されている通り、Alに添加した合金元素を含む析出物を、透明画素電極とのコンタクト界面に析出させれば、該析出物を通して電気が流れやすくなり、低コンタクト抵抗化を図ることができると考えられてきた。しかし例えばAl−Ni析出物等の様に析出物の種類によっては著しく粗大となり、製造工程で使用される剥離液により腐食され、黒点が生じる場合がある。また析出物があまりにも小さいと、コンタクト抵抗低減への寄与は小さく、コンタクトエッチングや洗浄の工程で除去されてしまうことも考えられる。
【0021】
この様な観点から、上記Al−Ni等の析出物にかわる好ましい形態の析出物について検討を行ったところ、Ge含有析出物が、著しく粗大になることなく(よって、上記黒点の原因となり難く)、かつ低コンタクト抵抗に有効に作用することを見出し、更に長径20nm以上のGe含有析出物を数多く存在させれば、低コンタクト抵抗を確実に実現できることがわかった。
【0022】
上記Al−Ni等の析出物よりも小さいGe含有析出物が、低コンタクト抵抗の実現に有効である理由は十分明らかではないが、後述する実施例の結果から、Al合金膜と透明画素電極との界面に、上記長径20nm以上のGe含有析出物を数多く存在させることによって、Al合金膜と透明画素電極(例えばITO)との間で、Ge含有析出物を通して大部分のコンタクト電流が流れ、コンタクト抵抗を低く抑えることができるものと思われる。後述する成分組成のAl合金膜における上記Ge含有析出物としては、Al−(Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種)−Ge、Al−Ge−REM(希土類元素)、(Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種)−Ge−REM、Ge−REMなどが挙げられる。
【0023】
上記析出物の長径は20nm以上であればよく、Ge含有析出物について、その上限には特に問わないが、操業上の観点から、Ge含有析出物の長径の最大値は150nm程度となる。また、十分な低コンタクトを図るには、上記長径20nm以上のGe含有析出物を100μm2当たり50個以上存在させる必要がある。好ましくは100μm2当たり100個以上であり、より好ましくは100μm2当たり500個以上である。
【0024】
尚、上記Ge含有析出物の長径および密度の測定方法は、後述する実施例に示す通りである。
【0025】
本発明では、上記形態のGe含有析出物を容易に析出させると共に、耐熱性にも優れたAl合金膜を得るべく、該Al合金膜の成分組成について検討した。以下、本発明で該成分組成を規定した理由について詳述する。
【0026】
本発明のAl合金膜は、上記の通り、Ge含有析出物が存在するものであり、Al合金膜中の合金元素として、Geを0.05〜1.0原子%(at%)を必須成分として含む。該Ge含有析出物を一定量以上確保するには、Geを0.05原子%以上含有させる必要がある。好ましくは0.1原子%以上、より好ましくは0.3原子%以上である。一方、Ge量が多過ぎると配線としての電気抵抗が増加するため、Ge量の上限は1.0原子%とする。好ましくはGe量を0.7原子%以下、より好ましくは0.5原子%以下とする。
【0027】
本発明のAl合金膜は、上記Geと共に、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(A元素)を0.03〜2.0原子%含むものである。この様に規定量のA元素とGeを併せて含有させることにより、20nm以上と比較的大きなGe含有析出物を容易に確保することができ、コンタクト抵抗を低く抑えることができる。
【0028】
前記A元素によるこれらの作用効果を十分発揮させるには、A元素の含有量を0.03原子%以上とする必要がある。好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上である。しかし、A元素の含有量が過剰になると、Al合金膜自体の電気抵抗が高まるうえ、Al−A元素系析出物(例えば、Al3Ni)が多量に析出してしまい、Al合金膜の剥離液に対する耐食性が劣化する。すなわち、Al−A元素系析出物はAlマトリクスとの電位差が大きいため、例えば、フォトレジスト(樹脂)を剥離する洗浄処理において、有機剥離液の成分であるアミン類が水と接触した瞬間にガルバニック腐食が生じることとなる。この場合、電気化学的に卑であるAlがイオン化して溶出し、ピット状の孔食(黒点)が形成されて透明導電膜(ITO膜)が不連続になってしまい、外観検査で欠陥として認識されることがあり、歩留まりの低下を招く。この様な観点から、本発明ではA元素の含有量の上限を2.0原子%とする。好ましくは0.6原子%以下、より好ましくは0.3原子%以下である。
【0029】
本発明では、耐熱性および耐食性を高めるべく、希土類元素群(好ましくは、Nd、Gd、La、Y、Ce、Pr、Dy)から選ばれる少なくとも1種の元素(REM)も含有させる。
【0030】
Al合金膜が形成された基板は、その後、CVD法などによって窒化シリコン膜(保護膜)が形成されるが、このとき、Al合金膜に施される高温の熱によって基板との間に熱膨張の差が生じ、ヒロック(コブ状の突起物)が形成されると推察されている。しかし、上記希土類元素を含有させることによって、ヒロックの形成を抑制することができる。また、希土類元素を含有させることにより、耐食性として感光性樹脂の剥離に用いる剥離液に対する耐性を向上させることもできる。
【0031】
上記の通り、耐熱性を確保すると共に耐食性を高めるには、希土類元素群(好ましくは、Nd、Gd、La、Y、Ce、Pr、Dy)から選ばれる少なくとも1種の元素を0.05原子%以上含有させる。好ましくは0.2原子%以上である。しかし希土類元素量が過剰になると、熱処理後のAl合金膜自体の電気抵抗が増大する。そこで希土類元素の総量を、0.5原子%以下(好ましくは0.3原子%以下)と定めた。
【0032】
尚、ここでいう希土類元素とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する。
【0033】
上記Al合金膜は、A元素、GeおよびREMを含み、残部Alおよび不可避不純物であるが、このようなAl−A元素−Ge−REM系合金で形成される析出物としては、前記したようなもの(例えば、Al−A元素−Ge、A元素−Ge−REM)が挙げられる。ここで、Al合金膜の耐食性を劣化させるAl−A元素系析出物の析出を抑制するためには、A元素を含有するGe含有析出物を多量に析出させることにより、Al−A元素系析出物を形成させるのに必要となるA元素を消費することが有効である。つまり、Al合金膜中に含有されるA元素量とGe含有析出物量を制御することが有効である。
【0034】
そして、Al合金膜中に含有されるGe量が一定である場合、Ge含有析出物量は、Al合金膜中に含有されるREM量に依存することとなる。従って、Al−A元素系析出物の形成を抑制する観点から、Al合金膜中に含有されるA元素(原子%)とREM(原子%)の比(A元素/REM)は、0.1超7以下とすることが好ましい。前記比(A元素/REM)は、より好ましくは0.2以上4以下、更に好ましくは0.2以上1以下である。
【0035】
上記Al合金膜は、上記規定量のNi、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種、Ge、および希土類元素群から選ばれる少なくとも1種の元素を含み、残部Alおよび不可避不純物であるが、更に、上記Ge含有析出物を多数析出させるべく、Cuを含有させることも有効である。
【0036】
Cuは、Ge含有析出物の微細な核として析出し、該Ge含有析出物をより多く析出させるのに有効な元素である。Cuによるこの様な効果を十分に発現させるには、Cuを0.1原子%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.3原子%以上である。しかし、Cuが過剰になると、耐食性が低下する。そこでCu量は、0.5原子%以下とすることが好ましい。
【0037】
上記Al合金膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0038】
また、上記スパッタリング法で、上記透明導電膜と直接接続されるAl合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、Geを0.05〜1.0原子%、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(A元素)を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群から選ばれる少なくとも1種の元素(REM)を0.05〜0.5原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるものであって、所望のAl合金膜と同一の組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレすることなく、所望の成分・組成のAl合金膜を形成することができるのでよい。
【0039】
上記スパッタリングターゲットとしては、成膜されるAl合金膜の成分組成に応じて、前記希土類元素群が、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなるものや、含有されるA元素(原子%)とREM(原子%)との比(A元素/REM)が0.1超7以下であるもの、更に、Cuを0.1〜0.5原子%含むものを用いてもよい。
【0040】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0041】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、Al基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0042】
Al合金膜において、上記長径20nm以上のGe含有析出物を所定量析出させるには、上記スパッタリング法でAl合金膜を成膜後、下記の条件で熱処理を施すことが有効である。具体的には、230℃以上(より好ましくは250℃以上、更に好ましくは280℃以上)290℃以下で、30分間以上(より好ましくは60分間以上、更に好ましくは90分間以上)保持する加熱を行って析出物を十分に成長させることが好ましい。今回の処理では、室温で熱処理炉に投入し、5℃/分の昇温速度で昇温して所望の温度で一定時間保持後、100℃まで降温して取り出しを行った。
【0043】
上記熱処理における加熱温度、加熱保持時間の上限は、特に限定されないが、生産性の観点から、加熱温度の上限はおおよそ350℃、加熱保持時間の上限はおおよそ120分間となる。
【0044】
また、上述したようにAl−A元素系析出物(例えば、Al3Ni)はAl合金膜の耐食性に悪影響を及ぼすため、このようなAl−A元素系析出物を析出させることなく、ダイレクトコンタクト性(DC性)を確保するためのGe含有析出物を多量に析出させることが好ましい。ここで、Ge含有析出物は250℃付近で析出が開始し、Al3Niは290℃超300℃以下で析出が開始する。すなわち、加熱温度を急激に290℃超まで上昇させた場合、Al−A元素系析出物の析出量が増加するおそれがある。
【0045】
これらの事情から、Ge含有析出物を多量に析出させるための熱処理は、最高到達温度にかかわらず、250℃以上290℃以下の温度範囲に長時間保持することが好ましい。Ge含有析出物には微量ながらA元素が含まれるため、加熱温度290℃以下でGe含有析出物を多量に析出させることにより、過剰量のA元素の消費につながり、ひいてはAl−A元素形析出物の析出を抑制することができる。そのため、加熱保持温度までの昇温速度は、10℃/分以下、好ましくは5℃/分以下、さらに好ましくは3℃/分以下である。この様に比較的時間をかけてゆっくりと昇温させることが望ましい。加熱時の雰囲気は、真空もしくは窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0046】
なお、Al−A元素系析出物は、上記のように昇温速度を制御することにより析出を抑制することができる。しかしながら、本発明のAl合金膜では、前述のように、A元素の含有量の上限を2.0原子%と規定しているため、昇温速度を特に制御しなくとも、Al−A元素系析出物の析出が抑制される。
【0047】
本発明では、前記Al合金膜中に存在するGe含有析出物が、前記透明導電膜と直接接続していると、より確実にコンタクト抵抗を低減できるので好ましい。
【0048】
本発明は、上記Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置も含むものであり、その態様として、前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース電極および/またはドレイン電極並びに信号線に用いられ、ドレイン電極が透明導電膜に直接接続されているものが挙げられる。
【0049】
本発明の透明導電膜としては、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)が好ましい。
【0050】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る表示装置の好ましい実施形態を説明する。以下では、アモルファスシリコンTFT基板またはポリシリコンTFT基板を備えた液晶表示装置(例えば図1、詳細については後述する)を代表的に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0051】
(実施形態1)
図2を参照しながら、アモルファスシリコンTFT基板の実施形態を詳細に説明する。
【0052】
図2は、上記図1(本発明に係る表示装置の一例)中、Aの要部拡大図であって、本発明に係る表示装置のTFT基板(ボトムゲート型)の好ましい実施形態を説明する概略断面説明図である。
【0053】
本実施形態では、ソース−ドレイン電極/信号線(34)およびゲート電極/走査線(25、26)として、Al合金膜を使用している。従来のTFT基板では、走査線25の上、ゲート電極26の上、信号線34(ソース電極28およびドレイン電極29)の上または下に、それぞれ、バリアメタル層が形成されているのに対し、本実施形態のTFT基板では、これらのバリアメタル層を省略することができる。
【0054】
すなわち、本実施形態によれば、上記バリアメタル層を介在させることなく、TFTのドレイン電極29に用いられるAl合金膜を透明画素電極5と直接接続することができ、この様な実施形態においても、従来のTFT基板と同程度以上の良好なTFT特性を実現できる。
【0055】
次に、図3から図10を参照しながら、図2に示す本発明に係るアモルファスシリコンTFT基板の製造方法の一例を説明する。薄膜トランジスタは、水素化アモルファスシリコンを半導体層として用いたアモルファスシリコンTFTである。図3から図10には、図2と同じ参照符号を付している。
【0056】
まず、ガラス基板(透明基板)1aに、スパッタリング法を用いて、厚さ200nm程度のAl合金膜を積層する。スパッタリングの成膜温度は、150℃とした。このAl合金膜をパターニングすることにより、ゲート電極26および走査線25を形成する(図3を参照)。このとき、後記する図4において、ゲート絶縁膜27のカバレッジが良くなる様に、ゲート電極26および走査線25を構成するAl合金膜の周縁を約30°〜40°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0057】
次いで、図4に示すように、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、厚さ約300nm程度の酸化シリコン膜(SiOx)でゲート絶縁膜27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。続いて、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、ゲート絶縁膜27の上に、厚さ50nm程度の水素化アモルファスシリコン膜(aSi−H)および厚さ300nm程度の窒化シリコン膜(SiNx)を成膜する。
【0058】
続いて、ゲート電極26をマスクとする裏面露光により、図5に示すように窒化シリコン膜(SiNx)をパターニングし、チャネル保護膜を形成する。更にその上に、リンをドーピングした厚さ50nm程度のn+型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si−H)56を成膜した後、図6に示すように、ノンドーピング水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55およびn+型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si−H)56をパターニングする。
【0059】
次に、その上に、スパッタリング法を用いて、厚さ50nm程度のバリアメタル層(Mo膜)53と厚さ300nm程度のAl合金膜を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、150℃とした。次いで、図7に示す様にパターニングすることにより、信号線と一体のソース電極28と、透明画素電極5に直接接触されるドレイン電極29とが形成される。そして、長径20nm以上のGe含有析出物を所定量析出させるべく、230℃以上で3分間以上保持する熱処理を施す。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、チャネル保護膜(SiNx)上のn+型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si−H)56をドライエッチングして除去する。
【0060】
次に、図8に示すように、例えばプラズマCVD装置などを用いて、厚さ300nm程度の窒化シリコン膜30を成膜し、保護膜を形成する。このときの成膜温度は、例えば250℃程度で行なわれる。次いで、窒化シリコン膜30上にフォトレジスト31を形成した後、窒化シリコン膜30をパターニングし、例えばドライエッチング等によって窒化シリコン膜30にコンタクトホール32を形成する。同時に、パネル端部のゲート電極上のTABとの接続に当たる部分にコンタクトホール(図示せず)を形成する。
【0061】
次に、例えば酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、図9に示すように、例えばアミン系等の剥離液を用いてフォトレジスト31を剥離する。最後に、例えば保管時間(8時間程度)の範囲内で、図10に示すように、例えば厚さ40nm程度のITO膜を成膜し、ウェットエッチングによるパターニングを行うことによって透明画素電極5を形成する。同時に、パネル端部のゲート電極のTABとの接続部分に、TABとのボンディングのためITO膜をパターニングすると、TFT基板1が完成する。
【0062】
このようにして作製されたTFT基板は、ドレイン電極29と透明画素電極5とが直接接続されている。
【0063】
上記では、透明画素電極5として、ITO膜を用いたが、IZO膜を用いてもよい。また、活性半導体層として、アモルファスシリコンの代わりにポリシリコンを用いてもよい(後記する実施形態2を参照)。
【0064】
このようにして得られるTFT基板を使用し、例えば、以下に記載の方法によって、前述した図1に示す液晶表示装置を完成させる。
【0065】
まず、上記のようにして作製したTFT基板1の表面に、例えばポリイミドを塗布し、乾燥してからラビング処理を行って配向膜を形成する。
【0066】
一方、対向基板2は、ガラス基板上に、例えばクロム(Cr)をマトリックス状にパターニングすることによって遮光膜9を形成する。次に、遮光膜9の間隙に、樹脂製の赤、緑、青のカラーフィルタ8を形成する。遮光膜9とカラーフィルタ8上に、ITO膜のような透明導電性膜を共通電極7として配置することによって対向電極を形成する。そして、対向電極の最上層に例えばポリイミドを塗布し、乾燥した後、ラビング処理を行って配向膜11を形成する。
【0067】
次いで、TFT基板1と対向基板2の配向膜11が形成されている面とを夫々対向するように配置し、樹脂製などのシール材16により、液晶の封入口を除いてTFT基板1と対向基板22枚とを貼り合わせる。このとき、TFT基板1と対向基板2との間には、スペーサー15を介在させるなどして2枚の基板間のギャップを略一定に保つ。
【0068】
このようにして得られる空セルを真空中に置き、封入口を液晶に浸した状態で徐々に大気圧に戻していくことにより、空セルに液晶分子を含む液晶材料を注入して液晶層を形成し、封入口を封止する。最後に、空セルの外側の両面に偏光板10を貼り付けて液晶ディスプレイを完成させる。
【0069】
次に、図1に示したように、液晶表示装置を駆動するドライバ回路13を液晶ディスプレイに電気的に接続し、液晶ディスプレイの側部あるいは裏面部に配置する。そして、液晶ディスプレイの表示面となる開口を含む保持フレーム23と、面光源をなすバックライト22と導光板20と保持フレーム23によって液晶ディスプレイを保持し、液晶表示装置を完成させる。
【0070】
(実施形態2)
図11を参照しながら、ポリシリコンTFT基板の実施形態を詳細に説明する。
【0071】
図11は、本発明に係るトップゲート型のTFT基板の好ましい実施形態を説明する概略断面説明図である。
【0072】
本実施形態は、活性半導体層として、アモルファスシリコンの代わりにポリシリコンを用いた点、ボトムゲート型ではなくトップゲート型のTFT基板を用いた点において、前述した実施形態1と主に相違している。詳細には、図11に示す本実施形態のポリシリコンTFT基板では、活性半導体膜は、リンがドープされていないポリシリコン膜(poly−Si)と、リンもしくはヒ素がイオン注入されたポリシリコン膜(n+poly−Si)とから形成されている点で、前述した図2に示すアモルファスシリコンTFT基板と相違する。また、信号線は、層間絶縁膜(SiOx)を介して走査線と交差するように形成されている。
【0073】
本実施形態においても、ソース電極28およびドレイン電極29の上に形成されるバリアメタル層を省略することができる。
【0074】
次に、図12から図18を参照しながら、図11に示す本発明に係るポリシリコンTFT基板の製造方法の一例を説明する。薄膜トランジスタは、ポリシリコン膜(poly−Si)を半導体層として用いたポリシリコンTFTである。図12から図18には、図11と同じ参照符号を付している。
【0075】
まず、ガラス基板1a上に、例えばプラズマCVD法などにより、基板温度約300℃程度で、厚さ50nm程度の窒化シリコン膜(SiNx)、厚さ100nm程度の酸化シリコン膜(SiOx)、および厚さ約50nm程度の水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)を成膜する。次に、水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)をポリシリコン化するため、熱処理(約470℃で1時間程度)およびレーザーアニールを行う。脱水素処理を行った後、例えばエキシマレーザアニール装置を用いて、エネルギー約230mJ/cm2程度のレーザーを水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)に照射することにより、厚さが約0.3μm程度のポリシリコン膜(poly−Si)を得る(図12)。
【0076】
次いで、図13に示すように、プラズマエッチング等によってポリシリコン膜(poly−Si)をパターニングする。次に、図14に示すように、厚さが約100nm程度の酸化シリコン膜(SiOx)を成膜し、ゲート絶縁膜27を形成する。ゲート絶縁膜27の上に、スパッタリング等によって、厚さ約200nm程度のAl合金膜および厚さ約50nm程度のバリアメタル層(Mo薄膜)52を積層した後、プラズマエッチング等の方法でパターニングする。これにより、走査線と一体のゲート電極26が形成される。
【0077】
続いて、図15に示すように、フォトレジスト31でマスクを形成し、例えばイオン注入装置などにより、例えばリンを50keV程度で1×1015個/cm2程度ドーピングし、ポリシリコン膜(poly−Si)の一部にn+型ポリシリコン膜(n+poly−Si)を形成する。次に、フォトレジスト31を剥離し、例えば500℃程度で熱処理することによってリンを拡散させる。
【0078】
次いで、図16に示すように、例えばプラズマCVD装置などを用いて、厚さ500nm程度の酸化シリコン膜(SiOx)を基板温度約250℃程度で成膜し、層間絶縁膜を形成した後、同様にフォトレジストによってパターニングしたマスクを用いて層間絶縁膜(SiOx)とゲート絶縁膜27の酸化シリコン膜をドライエッチングし、コンタクトホールを形成する。スパッタリングにより、厚さ50nm程度のバリアメタル層(Mo膜)53と厚さ450nm程度のAl合金膜を成膜した後、パターニングすることによって、信号線と一体のソース電極28およびドレイン電極29を形成する。
【0079】
そして、長径20nm以上のGe含有析出物を所定量析出させるべく、230℃以上で3分間以上保持する熱処理を施す。尚、ソース電極28とドレイン電極29は、各々コンタクトホールを介してn+型ポリシリコン膜(n+poly−Si)にコンタクトされる。
【0080】
次いで、図17に示すように、プラズマCVD装置などにより、厚さ500nm程度の窒化シリコン膜(SiNx)を基板温度250℃程度で成膜し、層間絶縁膜を形成する。層間絶縁膜の上にフォトレジスト31を形成した後、窒化シリコン膜(SiNx)をパターニングし、例えばドライエッチングによって窒化シリコン膜(SiNx)にコンタクトホール32を形成する。
【0081】
次に、図18に示すように、例えば酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、前述した実施形態1と同様にしてアミン系の剥離液などを用いてフォトレジストを剥離してから、ITO膜を成膜し、ウェットエッチングによるパターニングを行って透明画素電極5を形成する。
【0082】
このようにして作製されたポリシリコンTFT基板では、ドレイン電極29は透明画素電極5に直接接続されている。
【0083】
次に、トランジスタの特性を安定させるため、例えば250℃程度で1時間程度アニールすると、ポリシリコンTFT基板が完成する。
【0084】
第2の実施形態に係るTFT基板、および該TFT基板を備えた液晶表示装置によれば、前述した第1の実施形態に係るTFT基板と同様の効果が得られる。
【0085】
このようにして得られるTFT基板を用い、前述した実施形態1のTFT基板と同様にして例えば前記図1に示す液晶表示装置を完成させる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
表1に示す種々の合金組成のAl合金膜(膜厚=300nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法(基板=ガラス基板(コーニング社製 Eagle2000)、雰囲気ガス=アルゴン、圧力=266mPa(2mTorr)、基板温度=25℃(室温))によって成膜した。
【0088】
尚、上記種々の合金組成のAl合金膜の形成には、真空溶解法で作製した種々の組成のAl合金ターゲットをスパッタリングターゲットとして用いた。
【0089】
また実施例で用いた種々のAl合金膜における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0090】
上記のようにして成膜したAl合金膜に対し、フォトリソグラフィ、エッチングを順次施して図19に示す電極パターンを形成した。次いで、熱処理を施して合金元素を析出物として析出させた。上記熱処理は、N雰囲気中の熱処理炉にて、330℃まで30分間かけて昇温させた後、330℃で30分間保持し、その後100℃以下に冷却させてから取り出した。続いて、CVD装置にて330℃の温度でSiN膜の成膜を行った。さらにフォトリソグラフィとRIE(Reactive Ion Etching)装置でのエッチングを行って、SiN膜にコンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成後、バレルアッシャーにて酸素プラズマアッシングを行い反応生成物を除去し、東京応化工業(株)製のアミン系レジスト剥離液「TOK106」水溶液にさらして残ったレジストを完全に除去した。このとき、水洗時にリンス水がアミンと水を含むアルカリ性の液になるため、Alが若干削られる。その後、ITO膜(透明導電膜)をスパッタリングで下記の条件で成膜し、フォトリソグラフィとパターンニングを行って10μm角のコンタクトホールが50個直列につながったコンタクトチェーンパターン(前記図19)を形成した。
【0091】
(ITO膜の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=106.4mPa(0.8mTorr)
・基板温度=25℃(室温)
【0092】
上記コンタクトチェーンの全抵抗(コンタクト抵抗、接続抵抗)を、該コンタクトチェーンパターンの両端のパッド部にプローブを接触させ、2端子測定にてI−V特性を測定することによって求めた。そして、コンタクト1個に換算したコンタクト抵抗値を求めた。また、Ge含有析出物のサイズ(長径)、長径20nm以上のGe含有析出物の密度は走査電子顕微鏡の反射電子像を用いて求めた。具体的には、1視野(100μm2)内の長径20nm以上のGe含有析出物の個数を測定し、3視野の平均値を求め、Ge含有析出物の密度とした。また、3視野内において、Ge含有析出物の個々の長径を測定し、最も長径が大きなものを最大Ge含有析出物とし、その長径を記録した。析出物に含まれる元素はTEM−EDX分析により判断した。これらの結果を表1に示す。
【0093】
また、表1に示す一部の組成について、上記と同様にして、Al合金膜(膜厚=300nm)を成膜し、熱処理を施して合金元素を析出物として析出させ、腐食密度測定用試料を作製した。上記熱処理は、N雰囲気中の熱処理炉にて、330℃まで30分間かけて昇温させた後、330℃で30分間保持し、その後100℃以下に冷却させてから取り出した。得られた試料について、以下のようにして腐食密度を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
(腐食密度の測定)
上記試料に対しアミン系レジスト剥離液(東京応化工業製、「TOK106」)を用いて、洗浄処理を施した。洗浄処理は、pH=10.5に調整した剥離液水溶液に1分間浸漬;pH=9.5に調整した剥離液水溶液に5分間浸漬;純水で水洗;乾燥;の順に行った。そして、洗浄処理後の試料を、光学顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察し、腐食密度(単位面積あたりの黒点(析出物起点の腐食痕)の個数)を測定した。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示す結果から、次のことが分かる。まず規定量のNi等(A元素)、Geおよび希土類元素(REM)を含むAl合金膜とすることで、長径20nm以上のGe含有析出物を一定量以上確保でき、結果としてITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗を大幅に低減、即ち、低コンタクト抵抗を十分かつ確実に達成できることがわかる。
【0097】
尚、Cuを含むAl合金膜とすることによっても、Ge含有析出物を一定量以上確保でき、コンタクト抵抗を低減できていることがわかる。
【0098】
これに対し、Geを含まない場合やGe量が不足している場合は、長径20nm以上のGe含有析出物を一定量確保することができず、低コンタクト抵抗を達成することができていない。また、Ni等を含まない場合やNi等の含有量が不足している場合も、長径20nm以上のGe含有析出物を確保することができず、低コンタクト抵抗を達成できていない。
【0099】
また、Ni、Ag、Co、Znのうち、特にNiを含有させると、より低いコンタクト抵抗を達成できることがわかる。
【0100】
尚、Al−0.2原子%Ni−0.5原子%Ge−0.5原子%Laの電気抵抗率は4.7μΩ・cm(250℃で30分間の熱処理後)であるのに対し、Al−0.2原子%Ni−1.2原子%Ge−0.5原子%Laは5.5μΩ・cm(250℃で30分間の熱処理後)と、Ge量が過剰である場合は、Al合金膜の電気抵抗率が高くなった。
【0101】
析出物を観察した一例として、No.5とNo.14のTEM観察写真をそれぞれ図20、図21に示す。図20より、本発明の要件を満たすAl合金膜(No.5)では、長径20nm以上のGe含有析出物が分散しているのに対し、Geを含有しないAl合金膜(No.14)では、図21に示す通り、析出物が比較的粗大なAl−Ni等のみが析出していることがわかる。
【0102】
さらに、Al合金膜中のA元素とREMとの比が、本発明の好ましい要件(0.1超7以下)を満足するNo.4,5,13,20〜23は、腐食密度が5.1個/100μm2以下であり、耐食性にも優れていることがわかる。また、上記比(A元素/REM)が小さいほど腐食密度が小さくなっており、特に、上記比(A元素/REM)が1.0以下であるNo.4,5,20〜23では、腐食密度をほぼ0個/100μm2に抑えることができた。
【符号の説明】
【0103】
1 TFT基板
2 対向基板
3 液晶層
4 薄膜トランジスタ(TFT)
5 透明画素電極(透明導電膜)
6 配線部
7 共通電極
8 カラーフィルタ
9 遮光膜
10 偏光板
11 配向膜
12 TABテープ
13 ドライバ回路
14 制御回路
15 スペーサー
16 シール材
17 保護膜
18 拡散板
19 プリズムシート
20 導光板
21 反射板
22 バックライト
23 保持フレーム
24 プリント基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 保護膜(窒化シリコン膜)
31 フォトレジスト
32 コンタクトホール
33 アモルファスシリコンチャネル膜(活性半導体膜)
34 信号線
52、53 バリアメタル層
55 ノンドーピング水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)
56 n+型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si−H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、
該Al合金膜は、Geを0.05〜1.0原子%、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(A元素)を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群から選ばれる少なくとも1種の元素(REM)を0.05〜0.5原子%含有し、かつ、
前記Al合金膜中に、長径20nm以上のGe含有析出物が100μm2当たり50個以上存在することを特徴とする表示装置用Al合金膜。
【請求項2】
前記希土類元素群は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなるものである請求項1に記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項3】
更に、Cuを0.1〜0.5原子%含む請求項1または2に記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項4】
前記A元素(原子%)と前記REM(原子%)との比(A元素/REM)が、0.1超7以下である請求項1〜3のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項5】
Geを0.3〜0.7原子%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項6】
前記Al合金膜中に存在するGe含有析出物が、前記透明導電膜と直接接続している請求項1〜5のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置。
【請求項8】
表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、
Geを0.05〜1.0原子%、Ni、Ag、CoおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種(A元素)を0.03〜2.0原子%、および希土類元素群から選ばれる少なくとも1種の元素(REM)を0.05〜0.5原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物であることを特徴とするAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記希土類元素群は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなるものである請求項8に記載のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項10】
更に、Cuを0.1〜0.5原子%含む請求項8または9に記載のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記A元素(原子%)と前記REM(原子%)との比(A元素/REM)が、0.1超7以下である請求項8〜10のいずれかに記載のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項12】
Geを0.3〜0.7原子%含有する請求項8〜11のいずれかに記載のAl合金スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−134458(P2010−134458A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254359(P2009−254359)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】