説明

結晶性酸化物半導体膜の作製方法

【課題】優れた結晶性を有する酸化物半導体膜を作製する。
【解決手段】酸化物半導体の膜を形成するに際し、基板を第1の温度以上第2の温度未満に加熱しつつ、基板の、典型的な長さが1nm乃至1μmの部分だけ、第2の温度以上の温度に加熱する。ここで、第1の温度とは、何らかの刺激があれば結晶化する温度であり、第2の温度とは、刺激がなくとも自発的に結晶化する温度である。また、典型的な長さとは、その部分の面積を円周率で除したものの平方根である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体装置を作製するために用いる結晶性酸化物半導体膜の作製方法に関する。なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体的な物性を利用する装置全般を指す。したがって、例えば、トランジスタやダイオード等の半導体素子を用いて構成される表示装置、半導体回路および電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体特性を示す酸化物半導体が注目されている。例えば、酸化タングステン、酸化錫、インジウム−ガリウム−亜鉛系の酸化物(In−Ga−Zn系酸化物)などがあり、このような半導体特性を示す酸化物をチャネル形成領域とする薄膜トランジスタが既に知られている(特許文献1及び特許文献2)。また、特に、In−Ga−Zn系酸化物に関しては、その物性面での研究も進められている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−123861号公報
【特許文献2】特開2007−96055号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】神谷、野村、細野「アモルファス酸化物半導体の物性とデバイス開発の現状」,固体物理,Vol.44,p.621−633 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、特にインジウム等のs軌道の重なりが伝導を担うとされる酸化物においては、結晶性の差によって、電気輸送特性(典型的には電界効果移動度)に大きな差が見られないことが報告されていた。そして、量産面を考慮すると、特にばらつきが少ないアモルファス状態であることが好ましいとされてきた(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、本発明者は、アモルファス状態の材料では、高い電圧がかけられた場合や光が照射された場合のトランジスタのしきい値の安定性等、信頼性の面では不十分であること、および、そのような信頼性の面では結晶化度の高い材料が好ましいことを見出した。結晶性酸化物半導体の信頼性がアモルファス状態の酸化物半導体より優れている理由の一つを以下に説明する。
【0007】
結晶性酸化物半導体は、アモルファス酸化物半導体と比較して、金属と酸素の結合(・・−M−O−M−・・、Oは酸素原子、Mは金属原子)が秩序化している。すなわち、酸化物半導体がアモルファス構造の場合は、個々の金属原子によって配位数が異なることも有り得るが、結晶性酸化物半導体ではほぼ一定となる。そのことにより、微視的な酸素の欠損が減少し、後述するような「空間」における水素原子(水素イオンを含む)やアルカリ金属原子の脱着による電荷の移動や不安定性を減少させる効果がある。
【0008】
一方、アモルファス構造の場合は、個々の金属原子によって配位数が異なるため、金属原子や酸素原子の濃度が微視的に不均一となり、場所によっては原子の存在しない部分(「空間」)が存在することがある。そのような「空間」には、例えば、水素原子(水素イオンを含む)やアルカリ金属原子が捕獲され、場合によっては酸素と結合すると考えられる。また、そのような「空間」を伝って、それらの原子が移動することも起こりえる。
【0009】
このような原子の移動は酸化物半導体の特性の変動をもたらすこととなるので、これらの原子の存在は信頼性の面で大きな問題となる。特に、そのような原子の移動は高い電界や光エネルギーを印加することにより生ずるので、酸化物半導体をそのような条件で使用する場合には、特性が不安定となる。すなわち、アモルファス酸化物半導体の信頼性は結晶性酸化物半導体より劣ることとなる。
【0010】
なお、結晶性酸化物半導体においても、上記の「空間」は、例えば、粒界において形成されることが有り得る。すなわち、粒界のある結晶性酸化物半導体は、アモルファス酸化物半導体と同様に、信頼性に問題を抱えているともいえる。
【0011】
また、上記のような信頼性の問題に加え、中途半端な結晶性を有する材料(特に、結晶方位が無秩序な多結晶材料)では、それを用いて半導体素子を作製すると、結晶性のばらつきが特性のばらつきの要因ともなる。以上のような理由より、粒界や欠陥の可能な限り少ない秩序性の高い結晶性材料であることが求められる。このことは、特にチャネル長やチャネル幅が0.5μm以下の半導体素子においては強く求められる。
【0012】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、本発明の一は、結晶性の優れた酸化物半導体膜を作製する方法を提供するものである。また、本発明の一は、新規の半導体装置を提供することを課題とする。さらに、本発明の一は、新規の半導体装置の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様の一は、酸化物半導体の膜を形成するに際し、基板を第1の温度以上第2の温度未満に加熱しつつ、基板の特定の箇所に電子線、電磁波(可視光、紫外光を含む)等のエネルギー線を照射して、典型的な長さが1nm乃至1μmの部分を第2の温度以上の温度とする。
【0014】
本発明の態様の一は、スパッタリング法により、酸化物半導体の膜を形成するに際し、基板を第1の温度以上第2の温度未満に加熱しつつ、典型的な長さが1nm乃至1μmの基板の特定の部分を第2の温度以上の温度に加熱する。
【0015】
本発明の態様の一は、スパッタリング法により、酸化物半導体の膜を形成するに際し、基板を第1の温度以上第2の温度未満に加熱しつつ、基板の特定の箇所に電子線、電磁波(可視光、紫外光を含む)等のエネルギー線を照射して、典型的な長さが1nm乃至1μmの部分を第2の温度以上の温度とする。
【0016】
ここで、第1の温度とは、何らかの刺激があれば結晶化する温度であり、第2の温度とは、刺激がなくとも自発的に結晶化する温度である。また、典型的な長さとは、第2の温度以上の部分の大きさを規定する長さのことで、その部分の面積を円周率で除したものの平方根と定義する。その部分の形状が円形であれば半径がそれに相当する。なお、上記の部分の形状は円形に限らず、正方形、長方形、楕円形その他の形状としてもよい。
【0017】
上記の条件で成膜をおこなうと、第2の温度以上の温度となった領域のみが優先的に結晶化する。その他の部分に関しても、第1の温度以上であるので、隣接する部分で結晶化すれば、それに刺激されて結晶化する。すなわち、優先的に結晶化した部分から周囲に結晶化が進行する。しかも、優先的に結晶化した部分の結晶方位を維持した結晶成長が起こる。
【0018】
なお、同様なことはアモルファス状態の材料を成膜した後の加熱処理によっても起こりえるが、その場合には、膜全体を結晶化させることは困難であり、特にアモルファス状態の基板(ガラス等)上に形成したアモルファス状態の材料において、第2の温度未満では基板との界面付近ではほとんど結晶化しない。これは、既に固体であるため、原子の移動のために大きなエネルギーが必要とされるためである。
【0019】
これに対し、成膜時においては、原子の移動が容易であるので、原子の再配列とその結果である結晶成長が容易に起こる。そのため、上記のようなアモルファス状態の部分の体積は十分に低減できる。
【0020】
上記において、第1の温度、第2の温度は酸化物半導体材料によって異なる。例えば、酸化亜鉛や酸化インジウムは室温でも自発的に結晶化するので、第1の温度、第2の温度ともに低い。一方、In−Ga−Zn系酸化物のあるもの(特にガリウムの濃度の高いもの)は250℃以上でないと、自発的な結晶化は見られないので、その酸化物では第2の温度は250℃以上である。
【0021】
優先的に結晶化する領域の大きさは、良好な結晶性酸化物半導体膜を得る上で重要な要素である。例えば、その領域が多くの結晶を含む場合には、周囲の結晶はそれぞれの結晶方位の影響を受けて結晶化するので、得られる結晶性酸化物半導体膜は、結晶方位がばらばらで粒界を含む膜となる。
【0022】
逆に優先的に結晶化する領域に結晶が1つしかない場合には、周囲の結晶はその1つの結晶の結晶方位の影響を受けて結晶化するので、得られる結晶性酸化物半導体膜は単結晶あるいは実質的に単結晶とみなせる膜となる。
【0023】
優先的に結晶化する領域の大きさも酸化物半導体材料によって異なる。それは、自発的な結晶成長によって得られる結晶粒径と同程度と考えればよく、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウムは自発的な結晶成長で、直径数100nm程度であり、In−Ga−Zn系酸化物では、直径数nm程度である。
【0024】
なお、欠陥の少ない結晶性酸化物半導体膜を得るためには、スパッタリング成膜に用いるターゲットの不純物も極力、低減することが求められる。例えば、水素原子や水素イオン、アルカリ金属、アルカリ土類金属等である。
【0025】
具体的には、二次イオン質量分析(SIMS)法によって測定されるターゲットの含有アルカリ金属濃度を5×1016cm−3以下、含有水素濃度を1×1018cm−3以下、好ましくは1×1017cm−3以下、さらに好ましくは1×1016cm−3未満とすることで、良質な結晶性酸化物半導体膜が得られる。
【0026】
より詳細には、SIMS法によって測定されるナトリウムの濃度を5×1016cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、さらに好ましくは1×1015cm−3以下とする。また、SIMS法によって測定されるリチウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とする。また、SIMS法によって測定されるカリウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とする。
【0027】
これらの不純物を低減することは、良質な結晶性酸化物半導体膜を得るために必要であるのみならず、それを用いて作製される半導体素子の特性を良好なものとする上でも欠かすことができない。
【0028】
非特許文献1では、酸化物半導体は不純物に対して鈍感であり、膜中にはかなりの金属不純物が含まれていても問題がなく、ナトリウムのようなアルカリ金属が多量に含まれる廉価なソーダ石灰ガラスも使えると指摘されている。しかし、このような指摘は適切でない。
【0029】
本発明者の知見では、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属は酸化物半導体層を用いたトランジスタにとっては悪性の不純物であり、少ないほうがよい。特にアルカリ金属のうち、Naは酸化物半導体層に接する絶縁膜が酸化物であった場合、その中に拡散し、Naとなる。
【0030】
また、酸化物半導体層内において、金属と酸素の結合を分断し、あるいは結合中に割り込む。その結果、トランジスタ特性の劣化(例えば、ノーマリオン化(しきい値の負へのシフト)、移動度の低下等)をもたらす。加えて、特性のばらつきの原因ともなる。
【0031】
このような問題は、特に酸化物半導体層中の水素の濃度が十分に低い場合において顕著となる。したがって、酸化物半導体層中の水素の濃度が1×1018cm−3以下、特に1×1017cm−3以下である場合には、アルカリ金属の濃度を上記の値にすることが強く求められる。上記の要求は、ターゲットだけではなく、得られる結晶性酸化物半導体膜においても満たすことが好ましい。
【0032】
なお、SIMS法は、その原理上、試料表面近傍や、材質が異なる膜との積層界面近傍のデータを正確に得ることが困難であることが知られている。不純物濃度の厚さ方向の分布を、SIMS法で分析する場合、不純物濃度は、対象となる物体の存在する範囲において、極端な変動が無く、ほぼ一定の強度が得られる領域における最低値を採用する。
【0033】
また、測定の対象となる物体の厚さが小さい薄膜である場合、隣接する膜中の不純物濃度の影響を受けて、ほぼ一定の強度の得られる領域を見いだせない場合がある。この場合、当該膜の存在する領域における、最低値を、不純物濃度として採用する。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様は、欠陥の少ない単結晶あるいは実質的に単結晶な酸化物半導体膜を提供することが可能である。このような酸化物半導体膜を用いて、トランジスタ等を作製すると、良好な特性で、かつ、信頼性、あるいは電気的安定性に優れたものを得ることができる。加えて、素子間の特性のばらつきも低減できる。特に、チャネル長あるいはチャネル幅が0.5μm以下の半導体素子においては、その効果が顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】成膜装置の概要を示す図。
【図2】基板の温度分布の概念図。
【図3】表示装置の作製工程を説明する断面図。
【図4】ハイブリッド型半導体装置の作製工程を説明する断面図。
【図5】表示装置の作製工程を説明する図。
【図6】ハイブリッド型半導体装置の作製工程およびその回路を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。ゆえに本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施の形態のいずれかで開示された構造や条件等の項目は、他の実施の形態においても適宜、組み合わせることができる。
【0037】
なお、以下の実施の形態では、主としてトランジスタを用いた半導体装置について本発明の技術思想を適用した例を示すが、本発明の技術思想はトランジスタに限られないことは容易に理解される。また、以下の実施の形態で用いるゲート、ソース、ドレイン等の用語は、説明を簡略におこなうために用いるものであり、それらの意味を限定的に解釈すべきではない。
【0038】
例えば、本来であれば、「半導体領域上に設けられた絶縁膜上に半導体領域を横断するように設けられた導電性領域およびそれと一体のもの」と表現すべきものを、本明細書では、単に「ゲート電極」と呼ぶ。また、ソースとドレインは本明細書では特に区別せず、一方をソースと呼んだ場合に他方をドレインと呼ぶ。
【0039】
さらに、本明細書で酸化物というのは、その物質(化合物を含む)に含まれる酸素の割合(原子%)が全体の40%以上のもののことである。
【0040】
また、本明細書で金属元素とは、希ガス元素、水素、ホウ素、炭素、窒素、16族元素(酸素等)、17族元素(フッ素等)、珪素、燐、ゲルマニウム、砒素、アンチモン以外の全ての元素のことである。
【0041】
さらに、本明細書において、ある(1つの)金属元素を主たる金属成分とする、とはその物質中に金属元素が複数ある中で、当該金属元素が金属元素全体の50%以上を占める場合を言う。また、n種の金属元素M、M、・・、Mを主たる金属成分とするとは、金属元素M、M、・・、Mのそれぞれの占める比率の総和が金属元素全体の{(1−2−n)×100}[%]以上を占める場合を言う。
【0042】
(実施の形態1)
本実施の形態では、結晶性の優れた酸化物半導体膜を作製する装置について図1および図2を用いて説明する。図1には、本実施の形態で説明する成膜装置の概要を示す。この成膜装置ではスパッタリング法により酸化物半導体膜を作製する。
【0043】
成膜装置は、成膜室101、排気システム102、ガスシステム103(ここでは、アルゴンのライン103_Arと酸素のライン103_O)、基板ホルダー104、光学システム106、ターゲットホルダー107、窓109、電源111を有する。
【0044】
排気システム102はターボ分子ポンプ等の真空ポンプを有し、成膜室101を真空排気し、あるいは成膜室101を成膜するのに最適な圧力に保つために使用する。特に酸化物半導体は、水素原子、あるいは水素イオン(陽子)が混入することで、特性が大きく変化するので、十分な排気性能を有するものが好ましく、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプなどの吸着型の真空ポンプ、あるいは、ターボ分子ポンプにコールドトラップを加えたものを用いるとよい。
【0045】
以上のような排気手段を用いて排気した成膜室は、水素分子や、水(HO)などの水素原子を含む化合物などが(より好ましくは炭素原子を含む化合物とともに)除去されているため、当該成膜室で成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減でき、得られる酸化物半導体膜の結晶性を向上させることができる。
【0046】
また、排気システム102からの逆流防止も図ることが好ましい。なお、同様な理由から、成膜室101を含む成膜装置のリークレートを1×10−10Pa・m/秒以下とすることも好ましい。
【0047】
同様な理由から成膜に用いるガスに関しても、水素、水、水酸基、水素化物などの水素を含む不純物が十分に除去された高純度ガス(純度99.9999%(6N)以上、好ましくは99.99999%(7N)以上)を用いることが望ましい。ガスシステム103はそのような高純度ガスを適切に扱えるものであることが求められ、配管内に大気が混入することのないような措置が講じられることが好ましい。
【0048】
基板ホルダー104上には、基板105を固定する。基板ホルダー104はヒーターあるいは冷却装置を有し、基板の温度を均一に制御できることが好ましい。ターゲットホルダー107には、ターゲット108を取り付ける。ターゲット108は、酸化物半導体を構成する金属元素を有する酸化物焼結体を用いるとよく、また、それ以外の金属元素の濃度(原子比)は、100ppm以下であることが望ましい。特に、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の濃度は全体の10ppm以下とすることが好ましい。
【0049】
より具体的には、SIMS法により測定されるナトリウムの濃度を5×1016cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、さらに好ましくは1×1015cm−3以下とする。また、SIMS法により測定されるリチウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とする。また、SIMS法により測定されるカリウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とする。
【0050】
なお、本発明者の調べたところ、成膜時の基板温度を高くすると、アルカリ金属の濃度は低減することがわかっている。これは、アルカリ金属の蒸気圧が、酸化物半導体を構成する他の金属元素の蒸気圧よりも高いために、成膜時に気化するためである。しかしながら、後述するように本実施の形態では、基板温度を十分に高くできない場合がある。その場合には、上記のようなアルカリ金属の気化により、濃度を低減することはできない。したがって、ターゲットに含有されているアルカリ金属の濃度を十分に低くすること以外には有効な方法はない。
【0051】
同様に、成膜時の基板温度を高くすることにより、膜中の水素濃度を低減できるが、やはり本実施の形態では、基板温度を十分に高くできない場合があるので、ターゲットに含有されている水素の濃度を十分に低くすることが有効である。SIMS法によって測定されるターゲット中の水素の濃度(水素原子、水素イオン(陽子))は、1×1018cm−3以下、好ましくは1×1017cm−3以下、さらに好ましくは1×1016cm−3未満とする。なお、膜中の水素濃度は、成膜後に適切な雰囲気でより高温での熱処理をおこなうことによっても低減できる。
【0052】
窓109は、成膜室の反応を観察する目的とともに、レーザー光110を成膜室内に導入する目的で設けられる。したがって、使用するレーザー光に対して透明であることが求められる。さらに、成膜に伴って、窓が曇ることがあるので、成膜後は窓に付着した堆積物を除去できるような構造となっていることが好ましい。
【0053】
光学システム106は成膜室に入射したレーザー光110を基板105上に適切に誘導するためのものである。光学システム106も、成膜により堆積物が形成されることがあるので、成膜後はそのような堆積物を除去できるような構造となっていることが好ましい。
【0054】
電源111は、ターゲット108表面にプラズマを発生させるためのものである。図では、交流電源を用いているが、直流を用いてもよい。また、RF電源等の高周波電源を用いる場合には、電力が有効に成膜室内に誘導されるようにマッチングボックス等を設ければよい。
【0055】
図2に成膜時の基板105の温度分布を模式的に示す。図1に示された矢印xにおける基板105の温度は、基板のほとんどの部分で、第1の温度TC1以上第2の温度TC2未満である。ここで、第1の温度TC1とは、何らかの刺激があれば結晶化する温度であり、第2の温度TC2とは、刺激がなくとも自発的に結晶化する温度である。
【0056】
したがって、第1の温度TC1以上第2の温度TC2未満の温度域では、自発的な結晶成長はおこらないものの、外部からの何らかの刺激により結晶化がおこる温度であり、例えば、隣接する部分が結晶化すれば、その影響を受けて、その部分でも結晶化する。
【0057】
また、レーザー光が照射された領域近傍の温度はTC2以上である。温度がTC2以上である領域の大きさ(典型的な長さ)は、1nm以上1μm以下とするとよいが、最適な値は、作製する酸化物半導体によって異なる。この領域が広すぎると、領域内に複数の結晶が独立して成長することとなる。したがって、得られる酸化物半導体膜はそれらの影響を受けて、結晶方位のばらばらな膜となる。温度がTC2以上である領域が十分に小さければ、そこに成長する結晶を1つとすることができ、したがって、得られる酸化物半導体膜は結晶方位の揃った、単結晶あるいは実質的に単結晶の膜となる。
【0058】
温度TC1、TC2は作製する酸化物半導体によって異なるので、それに応じて、基板を加熱あるいは冷却する必要がある。また、レーザー光の強度を適切なものとすることが求められる。特に、成膜時にはプラズマの影響で温度が上昇することもあるので、そのことも考慮して温度を設定することが好ましい。
【0059】
上記から明らかなように、基板のほとんどの部分の温度はTC1以上TC2未満である。例えば、In−Ga−Zn系酸化物のあるものでは、TC1は150℃以下、TC2は250℃程度であるので、比較的低温で結晶性酸化物半導体膜を得ることができる。すなわち、基板として耐熱性の十分でない材料を用いることもできる。
【0060】
なお、成膜の初期段階において、十分な結晶性のある酸化物半導体膜が堆積できるので、その後は、レーザー光を照射しなくても、結晶性の高い酸化物半導体膜を形成できる。例えば、厚さ20nmの酸化物半導体膜を作製する場合、最初の5nmだけレーザー光を照射しながら作製し、その後は、レーザー光の照射を止めてもよい。
【0061】
本実施の形態では、基板の局所的な加熱の目的のために、レーザー光を用いる例を示したが、同様なことは電子ビームを用いてもおこなえる。電子ビームは、レーザー光に比べてはるかにビーム径を小さくできるので、良質な結晶性酸化物半導体膜を得る目的には好ましい。また、微小なヒーターを用いてもよい。例えば、走査型トンネル顕微鏡等の探針に用いられるような微小な構造物を用いて局所的な加熱をおこなってもよい。
【0062】
また、酸化物半導体膜を形成する方法はスパッタリング法に限られず、真空蒸着法、原子層堆積法等を用いてもよい。
【0063】
(実施の形態2)
本実施の形態では上記の成膜装置を用いて作製した酸化物半導体を用いてトランジスタを有する表示装置を作製する例を示す。図3(A)乃至(E)に本実施の形態の表示装置の作製工程断面を示す。本実施の形態に示すトランジスタは、ゲート電極が半導体層に対して基板の反対側に位置するトップゲート型で、かつ、ソース電極とドレイン電極がともに半導体層の上面にコンタクトするトップコンタクト型である。
【0064】
以下、作製工程の概略を説明する。図3(A)に示すように、絶縁表面を有する基板201上に下地絶縁膜202を形成する。
【0065】
基板201に使用することができる基板に大きな制限はないが、絶縁表面を有する必要がある。例えば、バリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板を用いるとよい。また、これ以外にも、石英、サファイヤ等の絶縁体、あるいは炭化珪素のように十分に絶縁性の高い半導体を用いてもよい。さらには、珪素、ゲルマニウム、ガリウム砒素等、それほど絶縁性の高くない半導体の表面、あるいはドーピングによって導電性を高めた半導体の表面、さらには銅、アルミニウム等の金属の表面に絶縁膜を形成したものを用いてもよい。
【0066】
下地絶縁膜202は、多層もしくは単層とし、最上層には、水素の濃度が1×1019cm−3以下、好ましくは1×1018cm−3以下で、また、過剰な酸素を含有するようにスパッタ法で成膜された厚さ300nm以上の酸化物膜を用いることが好ましい。また、基板にトランジスタにとって好ましくない不純物が含まれている場合には、それらをブロッキングする機能を有する絶縁性の材料(例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化珪素等)の膜を下層に設けることが望ましい。
【0067】
下地絶縁膜202の表面は十分に平坦であること、および、その表面に異物が付着していないことが好ましい。平坦性(表面粗さ)に関しては、自乗平均平方根(RMS)が1nm以下、好ましくは0.3nm以下、より好ましくは0.1nm以下であるとよい。これらの条件は、優れた結晶性を有する酸化物半導体膜を作製する上で有効である。このような平坦な表面を得るためには、基板201あるいは下地絶縁膜202の表面を研磨して十分に平坦とするとよい。
【0068】
次に、実施の形態1に示した方法で結晶性酸化物半導体膜203を形成する。結晶性酸化物半導体膜203を形成するための酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが好ましい。
【0069】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0070】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0071】
ここで、酸化インジウムとは、インジウムを主たる金属元素とする(すなわち、金属元素の50%以上を占める)酸化物、という意味であり、インジウム以外の金属元素を含んでもよい。同様に、In−Sn−Ga−Zn系酸化物とは、インジウム、錫、ガリウム、亜鉛を主たる金属元素とする(すなわち、これらの4つの金属元素が金属元素全体の93.8%以上を占める)酸化物、という意味であり、インジウム、錫、ガリウム、亜鉛の比率は問わない。インジウム、錫、ガリウム、亜鉛以外の金属元素を含んでもよい。
【0072】
また、酸化物半導体として、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0073】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)あるいはIn:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)の原子比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)の原子比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0074】
また、酸化物半導体としてIn−Zn−O系の材料を用いる場合、用いるターゲットの組成比は、原子数比で、In:Zn=50:1〜1:2、好ましくはIn:Zn=20:1〜1:1、さらに好ましくはIn:Zn=15:1〜1.5:1とする。さらに、原子数比がIn:Zn:O=1:1:Xのとき、X>1、好ましくはX>1.5とするとよい。
【0075】
しかし、これらに限られず、必要とする半導体特性(移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0076】
例えば、In−Sn−Zn系酸化物では比較的容易に高い移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物でも、バルク内欠陥密度を下げることにより移動度を上げることができる。
【0077】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)である酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)の酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、
(a―A)+(b―B)+(c―C)≦r
を満たすことをいい、rは、例えば、0.05とすればよい。他の酸化物でも同様である。
【0078】
本実施の形態では厚さ1nm以上30nm以下の酸化物半導体膜をIn−Ga−Zn系酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=1:1:1[原子比])を用いて成膜する。ターゲットの充填率は、90%以上100%以下、好ましくは95%以上99%以下とする。充填率の高いターゲットを用いることにより、得られる結晶性酸化物半導体膜203を結晶性の良好な膜とすることができる。
【0079】
結晶性酸化物半導体膜203が大気やその後の工程で形成されるレジスト等の有機物に触れることを避けるために、その上に、例えば、厚さ、10nm乃至50nmの酸化珪素等のバリヤ膜204を設ける。バリヤ膜204は結晶性酸化物半導体膜203を形成した後、結晶性酸化物半導体膜203の表面を大気に触れさせないように、連続的に形成することが好ましい。
【0080】
次いで、バリヤ膜204を成膜後、雰囲気を窒素、または乾燥空気とし、加熱処理を行う。加熱処理の温度は、200℃以上450℃以下、好ましくは250℃以上380℃以下とする。また、加熱処理の時間は1分以上24時間以下とする。
【0081】
この加熱処理には、結晶性酸化物半導体膜203やバリヤ膜204に含まれる水素や水などを除去する効果がある。この加熱処理は、上記のタイミングに限らず、結晶性酸化物半導体膜203を形成した後のどのタイミングにおいておこなうことも可能である。また、同様な脱水化処理、脱水素化処理は、一回に限らず複数回おこなってもよい。
【0082】
この加熱処理は、例えば、抵抗発熱体などを用いた電気炉に被処理物を導入し、窒素雰囲気下でおこなうことができる。この間、結晶性酸化物半導体膜203の表面を大気に触れさせず、水や水素が結晶性酸化物半導体膜203に混入しないようにする。
【0083】
この加熱処理に用いる装置は電気炉に限られず、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導、または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。
【0084】
LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて熱処理をおこなう装置である。ガスとしては、アルゴンなどの希ガス、または窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0085】
例えば、加熱処理として、熱せられた不活性ガス雰囲気中に被処理物を投入し、数分間加熱した後、当該不活性ガス雰囲気から被処理物を取り出すGRTA処理をおこなってもよい。GRTA処理を用いると短時間での高温熱処理が可能となる。また、被処理物の耐熱温度を超える温度条件であっても適用が可能となる。
【0086】
なお、不活性ガス雰囲気としては、窒素、または希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン等)を主成分とする雰囲気であって、水、水素などが含まれない雰囲気を適用するのが望ましい。例えば、熱処理装置に導入する窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(すなわち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。
【0087】
さらに、処理中に、不活性ガスを、酸素を含むガスに切り替えてもよい。酸素を含む雰囲気において加熱処理をおこなうことで、酸素欠損に起因するエネルギーギャップ中の欠陥準位を低減することができるためである。
【0088】
なお、この加熱処理によって、結晶性酸化物半導体膜203に含まれる不純物を低減するのみならず、下地絶縁膜202から結晶性酸化物半導体膜203に酸素が供給され、真性または真性に限りなく近い半導体とすることができる。すなわち、ドナーに由来するキャリア濃度は1×1014cm−3未満、好ましくは1×1012cm−3未満、さらに好ましくは1×1011cm−3未満とすることができる。
【0089】
次いで、結晶性酸化物半導体膜203を加工して島状の結晶性酸化物半導体層203aを形成する。その際、バリヤ膜204も同様にエッチングされ、バリヤ層204aとなる。バリヤ層204aおよび結晶性酸化物半導体層203aへの加工は、所望の形状のレジストのマスク205をバリヤ膜204上に形成した後、当該バリヤ膜204および結晶性酸化物半導体膜203を選択的にエッチングすることによっておこなうことができる。マスク205は、フォトリソグラフィなどの方法を用いて形成することができる。または、インクジェット法などの方法を用いて形成してもよい(図3(C)参照)。
【0090】
結晶性酸化物半導体膜203のエッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよい。もちろん、これらを組み合わせて用いてもよい。エッチング後、マスク205を除去する。さらに、ドライエッチング法等によりバリヤ層204aを除去する。
【0091】
バリヤ層204aを除去した後、結晶性酸化物半導体層203aの表面が大気に触れないような状態で、N型の導電性を示す酸化物膜と金属等の導電膜を堆積する。すなわち、バリヤ層204aをエッチングする装置と、上記のN型の導電性を示す酸化物膜と金属等の導電膜を成膜する装置が、連結されていて、基板を装置外に取り出さずに連続して処理できる構造であることが好ましい。これらの成膜にはスパッタリング法を用いればよい。
【0092】
N型の酸化物膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、In−Sn系酸化物、Al−Zn系酸化物等を用いればよい。なお、N型の酸化物膜は、その上に形成されるソース電極やドレイン電極と結晶性酸化物半導体層203aとの接触抵抗を低減する目的で設けるが、ソース電極やドレイン電極に用いる金属の種類によっては設けなくてもよい。
【0093】
導電膜としては、例えば、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステン等から選ばれた元素を含む金属膜、または上述した元素を主たる金属成分とする金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)等を用いることができる。
【0094】
また、Al、Cuなどの金属膜の下又は上の一方または双方にチタン、モリブデン、タングステンなどの高融点金属膜またはそれらの金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)を積層させた構成としてもよい。
【0095】
そして、これらを所望の形状に加工し、N型酸化物層206aおよび206bと、ソース電極207aとドレイン電極207bを形成する(図3(D)参照)。なお、導電膜のエッチングの際に、結晶性酸化物半導体層203aの一部もエッチングされ、結晶性酸化物半導体層203aに溝部(凹部)が形成されることもある。
【0096】
上記のエッチング後、結晶性酸化物半導体層203aの表面が大気に触れないような状態で、ゲート絶縁膜208を形成する。すなわち、導電膜やN型の酸化物膜をエッチングする装置とゲート絶縁膜208を成膜する装置が連結されていて、基板を装置外に取り出さずに連続して処理できる構造であることが好ましい。ゲート絶縁膜208は公知のスパッタリング法、CVD法等で、酸化珪素、酸窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム等を用いて形成すればよい。
【0097】
また、ゲート絶縁膜208の厚さは10nm乃至200nmとするとよい。なお、最適なゲート絶縁膜の厚さは、ゲート電極に印加される電圧等によって適宜設定されるものである。一般に、印加される電圧が低ければ、ゲート絶縁膜は薄く設定され、印加される電圧が高ければ、ゲート絶縁膜は厚く設定される。
【0098】
さらに、ゲート電極209を形成する。ゲート電極209は、モリブデン、チタン、クロム、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅等の金属元素またはこれらを主たる金属元素とする合金材料を用いて、単層または積層して形成することができる。ゲート電極209に用いる材料の仕事関数により、得られるトランジスタのしきい値等が変化するので、それに応じた選択をする必要がある。以上でトランジスタの基本的な構造が完成する。
【0099】
さらに、スパッタ法あるいはCVD法等で第1の層間絶縁物210を形成する。第1の層間絶縁物210は、代表的には酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム、または酸化窒化アルミニウムなどの無機絶縁物を用いて形成することができる。特に、水素原子や水素イオンを透過しない材料であることが好ましい。
【0100】
第1の層間絶縁物210の形成後、表面が平坦な第2の層間絶縁物211を形成する。第2の層間絶縁物211は各種有機材料を用いて形成すればよい。そして、ゲート絶縁膜208、第1の層間絶縁物210と第2の層間絶縁物211を選択的にエッチングして、ドレイン電極207bに達するコンタクトホールを形成する。このコンタクトホールを介して、ドレイン電極207bと接触する表示用電極212を形成する(図3(E)参照)。
【0101】
表示用電極212には、透光性の電極や反射性の電極を用いることができる。透光性の電極としては、In−Sn系酸化物やAl−Zn系酸化物等のバンドギャップが3電子ボルト以上の導電性材料を用いることができる。また、金属ナノワイヤ−や厚さ3nm以下の炭素膜(グラフェン等)を用いることもできる。反射性の電極としては、各種金属材料(アルミニウム、銀等)の膜を用いることができる。反射性の電極においては白色を表示するには、その表面に不規則な凹凸を設けるとよい。
【0102】
図5(A)乃至図5(C)には上記の作製工程を上方より見た様子を示す。図5の点Aと点Bを結ぶ点線の断面が図3に相当するが、ここでは、バリヤ膜204、ゲート絶縁膜208等は表示していない。図5(A)は、図3(C)に相当するものである。図5(B)は図3(D)に相当する。また、図5(C)は図3(D)で示される工程と、図3(E)で示される工程の中間の状態を示す。すなわち、図3(D)の工程の後、ゲート電極209を形成した直後の様子を示す。
【0103】
(実施の形態3)
図4および図6を用いて本実施の形態を説明する。図6は上面図であり、図4はその断面図である。なお、図6(A)乃至図6(C)の一点鎖線A−Bの断面図を図4に示す。本実施の形態は、単結晶半導体基板上に形成された半導体回路の上に、酸化物半導体を用いた別の半導体回路を形成する、いわゆるハイブリッド型半導体装置の例である。
【0104】
本実施の形態で作製される半導体装置は、図6(D)にその回路図を示す半導体メモリ装置である。図には左右2つのメモリ素子が示されている。各メモリ素子は、酸化物半導体を用いた第1のトランジスタと、単結晶半導体を用いた第2のトランジスタと、容量素子を各1つ有し、第1のトランジスタのソースと第2のトランジスタのゲート(304a、304b)と容量素子の電極は接続されている。
【0105】
また、書き込みワード線311a、311dはそれぞれ、左右のメモリ素子の第1のトランジスタのゲートに接続する。また、読み出しワード線311b、311cはそれぞれ、左右のメモリ素子の容量素子のもう一方の電極に接続する。また、ビット線314は、左右のメモリ素子の第1のトランジスタのドレインと第2のトランジスタのドレインに接続する。また、ソース線315は左右のメモリ素子の第2のトランジスタのソースに接続している。
【0106】
データを書き込む際には、書き込みワード線に行選択信号を与えることにより第1のトランジスタをオンとし、同時にビット線の電位を書き込むデータに応じたものとすることで、容量素子に電荷を蓄積する。データ書き込み後は、書き込みワード線の電位を操作して、第1のトランジスタがオフとなるようにする。その結果、第2のトランジスタのゲートはフローティングとなる。
【0107】
データを読み出す際には、読み出しワード線に行選択信号を与えて、容量素子を介して第2のトランジスタのゲートの電位を操作し、それに応じて第2のトランジスタがオンオフするので、その変化を、ビット線の電位によって察知することでおこなう。
【0108】
上記の説明から明らかなように、この構造のメモリ素子では、データの読み出しによって容量素子から電荷が流出することはないため、容量素子からのリーク電流を可能な限り低減することで極めて長期間にわたりデータを保存できる。例えば、容量素子の容量を1×10−17F、第1のトランジスタの非選択時のソースとドレイン間の抵抗を1×1026Ωとし、他に電荷のリークする要因がなければ、容量素子の電荷は10年後でも、当初の73%が保持されている。
【0109】
実施の形態2で説明したように、酸化物半導体はキャリア濃度を極めて低くできるため、非選択時のソースとドレイン間の抵抗を上述のように大きくできる。一方、このような半導体メモリ装置は、微細化が求められるため、チャネル長、チャネル幅とも500nm以下、典型的には100nm以下である。そのような微細な半導体素子においては、半導体特性のばらつきを低減させるためにも、酸化物半導体の結晶性が十分であることが求められる。
【0110】
単結晶半導体素子および半導体回路の作製は公知の技術を用いればよい。図4(A)に示すように、珪素等の単結晶基板301上に素子分離絶縁物302を形成し、第2のトランジスタのドレイン306a、306c、第2のトランジスタのソース306b、第2のトランジスタのゲート絶縁膜303a、303b、第2のトランジスタのゲート304a、304bを形成する。第2のトランジスタのゲート304a、304bの側面にはサイドウォールを設けてもよい。また、第2のトランジスタのドレイン306a、306c、第2のトランジスタのソース306bの表面には、シリサイド層305a、305b、305cを設けて、導電性を高めるとよい。このうち、シリサイド層305bは、上記のソース線315としても機能する。なお、この後、水素化処理をおこなってもよい。
【0111】
図4(A)を上方より見た様子を図6(A)に示す。なお、第2のトランジスタのゲート304a、304bの側面のサイドウォールは省略してある。
【0112】
続いて、多層または単層の第1の層間絶縁物307を形成する。第1の層間絶縁物307の表面は十分に平坦であることが好ましく、表面粗さのRMSを1nm以下、好ましくは0.3nm以下、より好ましくは0.1nm以下とするとよい。そのためには、CMP法等の処理をおこなうとよい。また、第1の層間絶縁物307のうち、単結晶半導体素子および半導体回路に接する部分は窒化珪素等の水素を10%以上含む絶縁膜で形成するとよく、その厚さは50nm以上とするとよい。また、第1の層間絶縁物307の最上層は、水素の濃度が、1×1018cm−3以下、特に1×1017cm−3以下である酸化珪素等で形成するとよく、その厚さは300nm以上とするとよい。
【0113】
その後、実施の形態1で示した方法で、単結晶の酸化物半導体膜を形成する。本実施の形態では、厚さ3nm乃至10nmのIn−Ga−Zn系酸化物半導体膜を形成する。そして、これを所望の形状にエッチングすることで酸化物半導体層308a、308bを形成する(図4(B)参照)。その後、実施の形態2で示したような加熱処理を施す。
【0114】
さらに、第1の層間絶縁物307にシリサイド層305a、305cおよび第2のトランジスタのゲート304a、304bに達するコンタクトホールを形成し、導電膜を形成して、これをエッチングし、第1の接続電極309a、309b、309c、309dを形成する。第1の接続電極309a、309dは、各メモリ素子の第1のトランジスタおよび第2のトランジスタのドレイン電極となる。また、第1の接続電極309b、309cは、各メモリ素子の第1のトランジスタのソース電極となる。
【0115】
その後、第1のトランジスタのゲート絶縁膜310を形成する。第1のトランジスタのゲート絶縁膜310は公知のスパッタリング法、CVD法等で、酸化珪素、酸窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム等を用いて形成すればよい。また、第1のトランジスタのゲート絶縁膜310の厚さは10nm乃至20nmとするとよい。
【0116】
その後、導電性の材料で書き込みワード線311a、311d、読み出しワード線311b、311cを形成する。書き込みワード線311a、311dは、各メモリセルの第1のトランジスタのゲート電極としても機能するものであるので、その目的に適した仕事関数のものを選択するとよい。第1のトランジスタの非選択時のソースドレイン間の抵抗を大きくするためには、仕事関数が大きなものを用いるとよい。
【0117】
書き込みワード線311a、311d、読み出しワード線311b、311cを形成した状態を上方より見た様子を図6(B)に示す。なお、第1の接続電極309a、309b、309c、309d、第1のトランジスタのゲート絶縁膜310等は省略してある。
【0118】
その後、表面の平坦な第2の層間絶縁物312を形成し、これと第1のトランジスタのゲート絶縁膜310をエッチングして、第1の接続電極309a、309dに達するコンタクトホールを形成した後、第2の接続電極313a、313bを埋め込む。この工程は公知の半導体技術を援用すればよい。さらに、第2の接続電極313a、313bと接するビット線314を導電性材料で形成する(図4(C)参照)。
【0119】
図4(C)を上方より見た様子を図6(C)に示す。なお、第2の層間絶縁物312等は省略してある。本実施の形態では、単結晶半導体素子を形成後のプロセス温度の最高は380℃以下とすることができる。単結晶半導体素子はドナーやアクセプタの拡散技術を用いているが、高温で処理すると、ドナーやアクセプタが再拡散するためである。この問題はチャネル長0.1μm以下の微細な半導体素子では大きな問題となる。この点に関し、本実施の形態で示した方法では、ドナーやアクセプタの再拡散が問題とならない温度で実施できるという特徴がある。
【0120】
(実施の形態4)
実施の形態2に開示する表示装置あるいは実施の形態3に開示する半導体装置は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビ、またはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【符号の説明】
【0121】
101 成膜室
102 排気システム
103 ガスシステム
104 基板ホルダー
105 基板
106 光学システム
107 ターゲットホルダー
108 ターゲット
109 窓
110 レーザー光
111 電源
201 基板
202 下地絶縁膜
203 結晶性酸化物半導体膜
203a 結晶性酸化物半導体層
204 バリヤ膜
204a バリヤ層
205 マスク
206a N型酸化物層
206b N型酸化物層
207a ソース電極
207b ドレイン電極
208 ゲート絶縁膜
209 ゲート電極
210 第1の層間絶縁物
211 第2の層間絶縁物
212 表示用電極
301 基板
302 素子分離絶縁物
303a ゲート絶縁膜
303b ゲート絶縁膜
304a 第2のトランジスタのゲート
304b 第2のトランジスタのゲート
305a シリサイド層
305b シリサイド層
305c シリサイド層
306a 第2のトランジスタのドレイン
306b 第2のトランジスタのソース
306c 第2のトランジスタのドレイン
307 第1の層間絶縁物
308a 酸化物半導体層
308b 酸化物半導体層
309a 第1の接続電極
309b 第1の接続電極
309c 第1の接続電極
309d 第1の接続電極
310 第1のトランジスタのゲート絶縁膜
311a 書き込みワード線
311b 読み出しワード線
311c 読み出しワード線
311d 書き込みワード線
312 第2の層間絶縁物
313a 第2の接続電極
313b 第2の接続電極
314 ビット線
315 ソース線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体の膜を形成するに際し、
何らかの刺激があれば前記酸化物半導体が結晶化する温度を第1の温度とし、
刺激がなくとも自発的に前記酸化物半導体が結晶化する温度を第2の温度とし、
典型的な長さをある部分の面積を円周率で除したものの平方根と定義するとき、
スパッタリング法により酸化物半導体の膜が形成された基板を前記第1の温度以上前記第2の温度未満に加熱しつつ、エネルギー線を照射して、前記典型的な長さが1nm乃至1μmの部分だけ、前記第2の温度以上の温度とすることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。
【請求項2】
酸化物半導体の膜を形成するに際し、
何らかの刺激があれば前記酸化物半導体が結晶化する温度を第1の温度とし、
刺激がなくとも自発的に前記酸化物半導体が結晶化する温度を第2の温度とし、
典型的な長さをある部分の面積を円周率で除したものの平方根と定義するとき、
酸化物半導体の膜が形成された基板を前記第1の温度以上前記第2の温度未満に加熱しつつ、エネルギー線を照射して、前記典型的な長さが1nm乃至1μmの部分だけ、前記第2の温度以上の温度とすることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。
【請求項3】
請求項1もしくは2のいずれか一において、前記エネルギー線はレーザー光であることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。
【請求項4】
酸化物半導体の膜を形成するに際し、
何らかの刺激があれば前記酸化物半導体が結晶化する温度を第1の温度とし、
刺激がなくとも自発的に前記酸化物半導体が結晶化する温度を第2の温度とし、
典型的な長さをある部分の面積を円周率で除したものの平方根と定義するとき、
酸化物半導体の膜が形成された基板を前記第1の温度以上前記第2の温度未満に加熱しつつ、前記典型的な長さが1nm乃至1μmの部分だけ、前記第2の温度以上の温度とすることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一において、前記酸化物半導体はインジウムとガリウムと亜鉛を主たる金属元素として含むことを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一において、前記結晶性酸化物半導体膜は単結晶であることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−84863(P2012−84863A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197842(P2011−197842)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】