説明

窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子

【課題】多結晶AlN基板を用いつつ結晶性にすぐれた窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子を提供する。
【解決手段】配向性を有する多結晶窒化アルミニウムからなり、主面上に複数のステップ10Sが形成された基板10と、前記基板の前記主面上に設けられた単結晶の窒化物半導体層25とを備えた窒化物半導体ウェーハ1及び前記窒化物半導体層25の上に設けられた電極を備えた窒化物半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子に関し、特に、多結晶窒化アルミニウム(AlN)基板上に形成した窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体、例えば、窒化ガリウム(GaN)は、エネルギーギャップが3eV以上と大きいので、青色LED(Light Emitting diode)素子あるいはLD(Laser diode)素子等の光デバイス以外にも、スイッチング素子やパワー半導体素子、RFスイッチング素子等の半導体デバイスとして使用されつつある。
【0003】
GaNを形成する基板としては、GaN、炭化珪素(SiC)、サファイア、シリコン(Si)などを用いる試みがされている。しかしながら、サファイア基板やシリコン基板では、GaN系材料との格子定数差が大きいため、大口径基板上の成長ウェハでは反りが大きく、その後のプロセスにも支障が出やすいという問題がある。一方、SiC基板やGaN基板は、GaN系材料との格子定数差は数パーセント以内と小さいが、価格がSi基板やサファイア基板の数十倍以上と高い。
【0004】
このため、GaN系を成長させても反りが小さく、かつ比較的安価な成長基板が求められている。そのような基板の候補として、高い熱伝導率とGaNに近い格子定数を有する窒化アルミニウム(AlN)の多結晶基板が挙げられる(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3410863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、多結晶AlN基板を用いつつ結晶性にすぐれた窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
配向性を有する多結晶窒化アルミニウムからなり、主面上に複数のステップが形成された基板と、
前記基板の前記主面上に設けられた単結晶の窒化物半導体層と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体ウェーハが提供される。
【0007】
また、本発明の他の一態様によれば、
配向性を有する多結晶窒化アルミニウムからなり、主面上に複数のステップが形成された基板と、
前記基板の前記主面上に設けられた単結晶の窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の上に設けられた電極と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多結晶AlN基板を用い、結晶性にすぐれた窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの断面構造を例示する模式図である。
また、図2は、図1の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図と、(b)平面図である。
【0010】
すなわち、本具体例の窒化物半導体ウェーハ1は、主面上に複数のステップ10Sが設けられた多結晶窒化アルミニウム(AlN)基板10と、その上に形成されたバッファ層20と、さらにその上に形成された窒化物半導体層25と、を有する。
【0011】
バッファ層20は、例えば、AlNにより形成することができ、その上に形成する窒化物半導体層25の結晶性を向上させるために設けられている。一方、その上に設けられる窒化物半導体層25は、窒化物半導体からなるひとつまたは複数の層を有することものすることができる。この窒化物半導体ウェーハ1は、後に詳述するように、例えばFET(Field Effect Transistor)などの電子デバイスや、LED(Light Emitting Diode)あるいはLD(Laser Diode)などの光デバイスの主要部として用いることができる。そして、その用途に応じて、バッファ層20や、窒化物半導体層25の材料や厚み、積層構造を適宜選択することができる。
【0012】
多結晶AlN基板10は、複数のAlN単結晶粒が集合した多結晶構造を有する。これらAlN単結晶粒の平均粒径は、例えば3〜10マイクロメータ程度とすることができる。また、これらAlN単結晶粒は、特定の結晶軸が略同方向を向く配向性を有する。例えば、多結晶AlN基板10を構成するそれぞれのAlN単結晶粒は、それらのc軸が略平行となる配向性を有する。そして、この場合、基板10の主面に対してc軸は略垂直方向とされている。つまり、基板10を構成するそれぞれのAlN単結晶粒は、その<0001>方向が基板10の主面に対して垂直またはこれに近い方向となるような結晶方位を有する。ただしこの場合に、これらAlN単結晶粒のa軸方向すなわち<11−20>方向、あるいはm軸すなわち<10−10>方向は、特に配向性を有さず、ランダムな方位であってもよい。
【0013】
そして、多結晶AlN基板10の表面には、高さHが例えば数ナノメータ程度の複数のステップ10Sが互いに略平行となるように形成されている。隣接するステップ10Sの間隔Wは、例えば数100ナノメータ〜数マイクロメータ程度とすることができる。また、ステップ10Sは、必ずしも直線状である必要はなく、屈曲部や湾曲部を有していてもよい。つまり、巨視的に見て、基板10の主面に複数のテラスが形成されていればよい。
【0014】
このような基板10の上に窒化物半導体を成長させると、そのc軸は成長方向に対してほぼ平行となり、さらに、a軸あるいはm軸はステップ10Sの延在方向に対してほぼ平行または垂直となる。つまり、多結晶AlN基板10の上に単結晶の窒化物半導体層を成長させることができる。
【0015】
図3は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの製造方法を表すフローチャートである。
【0016】
また、図4は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの製造方法を例示する工程断面図である。
まず、図4(a)に表したように、一方向に高低差のあるテラス状のステップを有する多結晶AlN基板10を形成する(ステップS100)。多結晶AlN基板10は、例えば、以下のような方法で製造できる。すなわち、還元窒化法あるいは直接窒化法により得られたAlN粉末に、焼結を促進させる焼結助剤粉末、例えば希土類酸化物粉末等を数パーセント程度添加して乾式混合する。この粉末に成形性を良好にする液状及び固形状の有機バインダーを適量添加して、ボールトンミリング機や攪拌機を用いて均一混合して湿粉状あるいはスラリー状の調製粉末にする。この調製粉末を押出成型機やテープ成形機に供給しシート状を形成した後、金型等でプレスして所望形状の成形体を作製する。次いで、この成形体を脱脂炉に投入し、空気あるいは非酸化性雰囲気の大気圧下、温度350〜600℃、2〜6時間保持して有機バインダーを除去する。そして、焼成炉に投入して非酸化性雰囲気下、常圧あるいは加圧しつつ温度1650〜1900℃、0.5〜6時間保持すると、高密度の多結晶AlN基板が得られる。
【0017】
このような方法により得られた多結晶AlN基板の表面にステップ10Sを形成する。ステップ10Sは、例えば、c軸に配向した多結晶AlN基板の表面を、c軸に対してほぼ垂直な平坦面に鏡面加工した後に、特定の方向に傾斜させて表面を研磨することにより形成することができる。この時、傾斜角度を調節することにより、ステップ10Sの高さや間隔を調整できる。例えば、基板の主面をc軸に対して垂直な方向から約0.1度傾斜させて化学的機械的研磨法(chemical mechanical polishing:CMP)により研磨すると、ステップ10Sの高さHと間隔Wとの比率を、およそ1:100とすることができる。つまり、ステップ10Sの高さHが10ナノメータで、間隔Wが1マイクロメータ程度のテラス状の表面を形成することが可能である。この時、最終的な仕上げ面の平滑性を調節することにより、ステップの高さHを調節できる。つまり、仕上げ面の平滑性(あるいは鏡面度)を高くすれば、ステップの高さHを低く(すなわち、間隔Wを広く)することが可能である。
【0018】
次に、この多結晶AlN基板10の上にバッファ層20を成長させる。この際の成長方法としては、例えば有機金属気相成長(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)や、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、あるいはハイドライドCVDやクロライドCVDなどの方法を用いることが可能である。
多結晶AlN基板10の上に、例えばAlNからなるバッファ層20の成長を開始すると、まず、ステップ10Sの近傍に、AlNバッファ層20が島状に成長し始める(ステップS110)。この時、島状のバッファ層20のc軸は、基板10のc軸の方位に対してほぼ同方向となる。つまり、基板10の主面に対してほぼ垂直方向がc軸となるようにAlNバッファ層20が成長を開始する。
【0019】
さらに成長を続けると、島状のAlNバッファ層20は、ステップ10Sからラテラル方向にステップフロー成長を始める。この時、図4(b)に矢印で表したステップフロー成長の方向は、c軸に対して垂直方向のa軸方向<11−20>方向あるいはm軸方向<10−10>となる。そして、ステップフロー成長が進行することにより、図4(c)に表したように、基板10の表面を覆ってレイヤー状のバッファ層20が形成される。
【0020】
このようにして所定の厚みの単結晶のバッファ層20を成長した後に、図4(d)に表したように窒化物半導体層25をエピタキシャル成長させることができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、c軸に配向した多結晶AlN基板10の上に窒化物半導体層を成長させることにより、成長層のc軸の方向を規定することができ、さらに、基板10の表面にステップ10Sを設けることにより、成長層のa軸あるいはm軸の方位を規定することが可能となる。このようにして、多結晶AlN基板10の上に、結晶方位を規定した単結晶の窒化物半導体層を成長させることができる。また、ステップ10Sによりa軸あるいはm軸の方位を規定することにより、バッファ層20の成長の初期段階での結晶性を大幅に改善することができる。その結果として、バッファ層20全体、およびその上に成長させる窒化物半導体層25の結晶性も大幅に改善することができる。
【0022】
本実施形態において用いる多結晶AlN基板10は、サファイア基板などと同程度の電気的特性を有し、さらにサファイア基板より放熱性に優れる。さらにまた、窒化物半導体との格子定数の「ずれ」が小さい点でも特に有利である。例えば、サファイア基板やシリコン基板などの場合、基板の直径が4インチ以上になるとウェーハの反りが大きくなる。その結果として、例えば、ステッパにチャッキングできず、プロセスを進めることが困難となる。これに対して、本実施形態において用いる多結晶AlN基板10は、窒化物半導体との格子定数の差が極めて小さいので、基板の直径が4インチ以上の場合もほとんど反りが生じない。
また一方、例えばSiC基板などの場合は、高価であり、しかも大口径の基板ができないが、本実施形態において用いる多結晶AlN基板10はSiC基板と比較して約一桁程度安価であり、しかも大口径の基板を製造することも容易である点で有利である。
【0023】
本発明者は、本実施形態の窒化物半導体ウェーハと、比較例の窒化物半導体ウェーハとを比較検討した。
図5(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの模式断面図であり、図5(b)は比較例の窒化物半導体ウェーハを表す模式断面図である。
【0024】
本実施形態の窒化物半導体ウェーハの場合、ステップ10Sの平均高さHはおよそ10ナノメータであり、平均の間隔Wはおよそ500ナノメータとした。一方、比較例の窒化物半導体ウェーハは、ステップが設けられていない多結晶AlN基板500の上に形成した。そして、いずれもAlNバッファ層20を介して厚み3マイクロメータのGaN層30を成長させた。
【0025】
図6(a)及び図6(b)は、それぞれ図5(a)及び図5(b)に表した窒化物半導体ウェーハのGaN層30の(0002)X線回折ピーク波形を表す模式図である。
(0002)回折ピークの半値幅を比較すると、本実施形態の窒化物半導体ウェーハのGaN層30の半値幅ΔW1(図6(a))は、ステップの無い基板を用いた比較例の半値幅ΔW2(図6(b))の半分程度であり、結晶性が優れていることが分かった。これは、多結晶AlN基板10の表面にステップ10Sを形成することにより、その上に成長する成長層の成長初期段階でa軸またはm軸の方位が規定され、成長層の結晶方位が揃いやすくなるからであると推定される。このように窒化物半導体層の結晶性を改善することにより、これを用いた各種の電子デバイスや光デバイスの初期特性や信頼性を向上させることが可能となる。
【0026】
図7は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の具体例を表す模式断面図である。
本具体例の窒化物半導体素子は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)型のトランジスタである。すなわち、多結晶AlN基板10の上には、アンドープのAlNバッファ層20、膜厚が約100ナノメータのp型窒化ガリウム(GaN)層30、膜厚が約3マイクロメータのアンドープGaNチャネル層40、膜厚が約30ナノメータのアンドープAlGaNバリア層(アルミニウム組成比25パーセント)50がこの順で設けられている。
また、AlGaNバリア層50の上には、ゲート電極90と、これを挟むようにソース電極80とドレイン電極100とが設けられている。また、バリア層50の表面は、窒化珪素(SiN)保護膜60により覆われている。
一方、多結晶AlN基板10の裏面側からその側面を介して、AlNバッファ層20と、p型GaN層30の側面に沿って、p側電極70が設けられている。
【0027】
AlNバッファ層20は、多結晶AlN基板10の上に形成される成長初期の結晶欠陥を緩和し、その上に形成される窒化物半導体層の結晶性を向上させる役割を有する。p型GaN層30は、HEMTに電圧が印加されてアバランシェ降伏が生じた場合に、正孔(ホール)をp側電極70から排出させることにより、素子の耐圧を上げる役割を有する。
【0028】
GaNチャネル層40は、キャリアを走行させる役割を有する。すなわち、バンドギャップの大きいAlGaNバリア層50と、それよりもバンドギャップが小さいGaNチャネル層40とを接合することにより、この接合界面に2次元電子ガス(2DEG:2-dimensional electron gas)が形成され、キャリアが高い移動度で輸送される。SiN保護膜60は、湿気や腐食性雰囲気などから半導体素子を保護するために設けられ、この他にも例えば二酸化珪素(SiO)等を用いてもよい。
【0029】
ソース電極80とドレイン電極100間は、ドレイン電極100側が正極になるように電気的に接続され、ゲート電極90とソース電極80間は、ゲート電極90が負極になるように電気的に接続される。ここで、ゲート電極90とドレイン電極100間の距離Dgdが、ソース電極80とゲート電極90間の距離Dsgより長くして非対称な構造を形成することにより(Dgd>Dsg)、素子の耐圧を向上させることができる。
【0030】
また、図7においては、ゲート電極90とAlGaNバリア層50とをショットキー接合させているが、後に詳述するように、それらの間にゲート絶縁膜を挟持したMIS(metal-insulator-semiconductor)ゲート構造や局所的にAlGaN層50を薄くしたリセスゲート構造としても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0031】
そして、本具体例によれば、AlN基板10として、c軸が主面に対して略垂直方向に配向した多結晶体を用い、さらにその主面に複数のステップ10Sを設けることにより、図1〜図6に関して前述したように、良好な結晶性の単結晶層を成長させることができる。その結果として、チャネル層40とバリア層50との界面に形成される2DEGの移動度を上げて、オン抵抗を下げ、また、素子の耐圧も向上させることができる。
【0032】
図8は、本具体例の窒化物半導体素子の製造方法を例示する工程断面図である。
まず、図8(a)に表したように、一方向に高低差のあるテラス状のステップを有する多結晶AlN基板10を形成する。その形成方法は、図4(a)に関して前述した如くである。この多結晶AlN基板10を、例えばMOCVD装置内のサセプタ上に載置し、水素(H)ガスを毎分10リッターの流量で流しながら、1150℃程度の温度で約10分間、気相エッチングを施して、表面に形成された酸化物層を除去する。
【0033】
しかる後に、1100℃に温度を下げて、トリメチルアルミニウム(TMA)ガスを毎分25ミリリッターと、アンモニア(NH)ガスを毎分5リッター流すと、図8(b)に表したように、各ステップ10Sの近傍にAlNバッファ層20が島状に成長し始め、a軸方向<11−20>方向あるいはm軸方向<10−10>に沿ってステップフロー成長が進行する。さらに成長を続けると、図8(c)に表したように、AlNバッファ層20が、ステップ10Sを覆って連続的なAlNバッファ層20が形成する。なおこの際、多結晶AlN基板10を自転させながらAlNバッファ層20を形成した場合も、気流方向にかかわらず、AlN層バッファ層20はそれぞれのステップ10Sからステップフロー成長する。
【0034】
次に、バッファ層20の上に窒化物半導体の積層構造をエピタキシャル成長させる。すなわち、1100℃でトリメチルガリウム(TMG)ガスを毎分25ミリリッター、アンモニア(NH)ガスを毎分5リッター、Hガスを毎分10リッター、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C:CpMg)ガスを毎分100ミリリッター、の気流中で15分間成膜し、AlNバッファ層20の上にp型GaN層30を成長させる。しかる後に、CpMgガスのみを止めて、アンドープのGaN層40を成長させる。
【0035】
しかる後に、TMGガスを毎分25ミリリッター、TMAガスを毎分25ミリリッター、NHガスを毎分5リッター、Hガスを毎分10リッター、を10分間流してAlGaN層50を成長させる。
【0036】
しかる後に、350℃まで降温した後、シラン(SiH)を毎分24ミリリッター、アンモニア(NH)ガスを毎分18ミリリッター、窒素ガスを336ミリリッター流し、SiN保護膜60を形成する。その後、ソース電極80、ゲート電極90、ドレイン電極100を形成し、基板10の裏面からp型GaN層40の側面に至るp側電極70を形成すると、本具体例の窒化物半導体素子の要部が完成する。ここで、同一のチャンバ内でAlGaN層50とSiN保護膜60とを連続的に成膜することにより、AlGaN層50の酸化を防止でき、電流コラプスを抑制することができる。
【0037】
本具体例において用いる多結晶AlN基板10は、サファイア基板等と同程度の電気的特性を有し、サファイア基板より放熱性に優れ、4インチ以上のサイズにおいてもほとんど反りがなく、大口径基板を安価に製造できる点で有利である。
【0038】
以上、本実施形態の窒化物半導装置の製造方法について説明した。
以下に、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハまたは窒化物半導体素子の他の具体例を説明する。
図9は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ1の第2の具体例を表す(a)断面図及び(b)平面図である。図9以降の図面については、既出の図面に関して説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
また、図10は、図9の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【0039】
本具体例においても、c軸配向した多結晶AlNからなる基板10が用いられ、基板10の主面には、複数のステップ10Sが延在して設けられている。ただし、これらステップ10Sの間のテラス部10Tは、多結晶AlNのc軸すなわち<0001>方向に対して垂直方向から角度θだけ傾斜している。つまり、テラス部10Tの法線Vは、<0001>方向から角度θだけ傾斜している。
【0040】
このようにテラス部10Tをc軸に対して傾斜させると、その表面に窒化物半導体層を成長させる時の、堆積種の表面マイグレーションを促進させる効果が得られる場合がある。堆積種の表面マイグレーションを促進させることにより、ステップフロー成長が促進され、a軸あるいはm軸方向への方位優先性がより強く出現する。つまり、基板10の上に成長する窒化物半導体の面内の結晶方位をより確実に揃えることができる。その結果として、多結晶AlN基板10の上に、良好な結晶性を有する単結晶の窒化物半導体を成長させることが可能となる。
【0041】
図11は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第2の具体例を表す模式断面図である。
本具体例においては、多結晶AlN基板10の上にMgドープAlNバッファ層20Aと、MgアンドープAlNバッファ層20Bと、が順に積層されている。
【0042】
MgドープAlNバッファ層20Aの形成方法としては、例えば、成膜時にCpMgガスを添加すればよい。マグネシウムをドープすると、成長フロントにおける堆積種のマイグレーションが促進される場合がある。つまり、基板10Sの主面に飛来した堆積種がステップ10Sに移動し、ここからより円滑なステップフロー成長が進行する。その結果として、多結晶AlN基板10の上に、より高品質の単結晶の窒化物半導体を成長することが可能となる。
【0043】
図12は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第3の具体例を表す模式断面図である。
本具体例においては、ゲート電極90とAlGaNバリア層50との間に、例えばSiO等からなるゲート絶縁層110が挟持されたMIS構造が形成されている。このような構造の素子についても、本発明を同様に適用して同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
またさらに、本発明は、いわゆる「リセスゲート構造」を用いた窒化物半導体素子にも適応が可能である。
図13は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第4の具体例を表す模式断面図である。
本具体例においては、ソース電極80とドレイン電極100と間のAlGaNバリア層50には、リセス部50Rが設けられ、このリセス部50Rに収容させるようにゲート電極90が設けられている。このように、ゲート電極90直下のAlGaNバリア層50の厚みを選択的に低下させることにより、ピエゾ効果などに起因する2DEGの発生をリセス部50Rの下で選択的に抑制し、ゲート電圧を印加しないときには、「オフ状態」、つまり「ノーマリ・オフ型」のスイッチング素子を実現できる。
一方、本発明は、光半導体素子にも適応できる。
【0045】
図14は、本発明の実施形態にかかる光半導体素子の具体例を表す模式断面図である。
本具体例の窒化物半導体素子200は、半導体レーザであり、複数のステップ10Sが形成された多結晶AlN基板10の上に、AlNバッファ層20、アンドープGaN層40、n型GaNコンタクト層204、が積層され、このn型GaNコンタクト層204の主面上には、それよりも面積の小さいn型AlGaNクラッド層205とn側電極230とが設けられている。そして、n型AlGaNクラッド層205の上には、n型GaNガイド層206、多重量子井戸(multiple-quantum well:MQW)活性層207、p型GaNガイド層208、p型AlGaNクラッド層209、第1p型GaN層210、n型GaN電流阻止層211、第2p型GaN層212、第3p型GaN層213、p型GaNコンタクト層214、p側電極231、がこの順に積層されている。また、素子の側面には保護膜115が適宜設けられている。
【0046】
GaNコンタクト層204、214は、電極と半導体との接触抵抗を低くする役割を有する。ガイド層206、208は、発振パターンの形状を整える役割を果たす。MQW活性層207を挟持するAlGaNクラッド層205、209は、注入されたキャリアと発生した光を閉じこめる役割を有する。
【0047】
この窒化物半導体素子200の電極230、231に順方向バイアスを印加すると、n側電極230から電子、p側電極231からホール、がそれぞれ注入し、GaNコンタクト層204、214と、AlGaNクラッド層205、209と、GaNガイド層206、208を介してMQW活性層207で再結合し、励起されたキャリアが基底状態に遷移する際に光を発する。この光によりレーザ発振が生じ、レーザ光が放出される。
【0048】
そして、図1乃至図13に関して前述したように、c軸配向した多結晶AlN基板10の主面に複数のステップ10Sを設けることにより、その上に形成する窒化物半導体層のc軸を規定し、さらにステップ10Sが延伸する方向にa軸方向<11−20>あるいはm軸方向<10−10>を規定することができる。その結果として、多結晶AlN基板10の上に、良質の単結晶の窒化物半導体層を形成できる。また、その結晶方位もステップ10Sの方向により規定できるので、レーザの共振器端面を形成することが容易となる。本具体例によれば、多結晶AlN基板10の上に良好な結晶性を有する窒化物半導体層を形成できるため、サファイア基板の上に形成した場合よりも初期特性及び信頼性を向上させることができる。具体的には、例えば、波長410ナノメータで室温発振させ、また、デバイス寿命はサファイア基板を用いた場合の10倍程度、長寿命化することが可能である。
【0049】
図15は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの第3の具体例を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【0050】
また、図16は、図15の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【0051】
本具体例においても、c軸に配向した多結晶AlN基板10の主面に複数のステップ10Sが設けられている。ただし、これらステップ10Sは、一方向に向けて連続的に高くなる(低くなる)ようには設けられず、上向きのステップと下向きのステップとが交互に配置された構造を有する。このような構造においても、ステップ10の部分から堆積種がステップフロー成長するので、成長させるバッファ層20の面内の結晶方位を規定することができる。その結果として、多結晶AlN基板10の上に、良好な結晶性を有する窒化物半導体層を成長させることができる。
【0052】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0053】
例えば、本発明の窒化物半導体ウェーハあるいは窒化物半導体素子を構成する基板のステップ形状、高さ、間隔、バッファ層やその上に形成する窒化物半導体層の組成、厚み、導電型、パターニング形状、などについては、当業者が適宜変更を加えたものであっても、本発明の要旨を包含する限りのいて本発明の範囲に包含される。
【0054】
例えば、図7や図11などに関して前述した具体例においては、GaNチャネル層40とAlGaNバリア層50とを組み合わせた素子について説明したが、AlGaNチャネル層とこれよりもバンドギャップの大きいAlGaNバリア層や、InGaNチャネル層とGaNバリア層またはAlGaNバリア層、InAlGaNバリア層など、各種の組合せを用いた場合も本発明の範囲に包含される。
【0055】
また、前述した各具体例の構造は、技術的に可能な限りにおいてお互いに適宜組み合わせることが可能であり、そのように組み合わせて得られた窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体素子も、本発明の範囲に包含される。
【0056】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BAlGaIn1−x−y−zN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させたすべての組成の半導体を含むものとする。また、導電型を制御するために添加される各種の不純物のいずれかをさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの断面構造を例示する模式図である。
【図2】図1の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図と、(b)平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの製造方法を表すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの製造方法を例示する工程断面図である。
【図5】(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの模式断面図であり、(b)は比較例の窒化物半導体ウェーハを表す模式断面図である。
【図6】(a)及び(b)は、それぞれ図5(a)及び(b)に表した窒化物半導体ウェーハのGaN層30の(0002)X線回折ピーク波形を表す模式図である。
【図7】本発明の実施形態にかかる窒化物半導体素子の具体例を表す模式断面図である。
【図8】本具体例の窒化物半導体素子の製造方法を例示する工程断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの第2の具体例を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【図10】図9の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第2の具体例を表す模式断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第3の具体例を表す模式断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る窒化物半導体素子の第4の具体例を表す模式断面図である。
【図14】本発明の実施形態にかかる光半導体素子の具体例を表す模式断面図である。
【図15】本発明の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの第3の具体例を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【図16】図15の窒化物半導体ウェーハに用いられる基板10を表す(a)断面図及び(b)平面図である。
【符号の説明】
【0058】
5 窒化物半導体素子、10 多結晶AlN基板、20 AlNバッファ層、
20A MgドープAlN層、20B MgアンドープAlNバッファ層、
30 p型GaN層、40 アンドープGaN層
50 AlGaN層、 60 SiN保護膜、 70 p型電極、 80 ソース電極、
90 ゲート電極、100 ドレイン電極、110 ゲート絶縁膜、115 保護膜、
200 光半導体素子、204 n型GaNコンタクト層、
205 n型AlGaNクラッド層、206 n型GaNガイド層、207 MQW層、
208 p型GaNガイド層、209 p型AlGaNクラッド層、
210 第1p型GaN層、211 n型GaN電流阻止層、212 第2p型GaN層、213 第3p型GaN層、214 p型GaNコンタクト層、230 n側電極、
231 p側電極、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性を有する多結晶窒化アルミニウムからなり、主面上に複数のステップが形成された基板と、
前記基板の前記主面上に設けられた単結晶の窒化物半導体層と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体ウェーハ。
【請求項2】
前記多結晶窒化アルミニウムは、<0001>方向が前記主面に対して略垂直な方向に平行となる配向性を有し、
前記単結晶の窒化物半導体層は、<0001>方向が前記主面に対して略垂直な方向となり且つ<11−20>方向あるいは<10−10>方向は、前記ステップの延在方向に対して略垂直であることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項3】
配向性を有する多結晶窒化アルミニウムからなり、主面上に複数のステップが形成された基板と、
前記基板の前記主面上に設けられた単結晶の窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の上に設けられた電極と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記多結晶窒化アルミニウムは、<0001>方向が前記主面に対して略垂直な方向に平行となる配向性を有し、
前記単結晶の窒化物半導体層は、<0001>方向が前記主面に対して略垂直な方向となり且つ<11−20>方向あるいは<10−10>方向は、前記ステップの延在方向に対して略垂直であることを特徴とする請求項3記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記窒化物半導体層は、窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層の上に設けられ前記チャネル層よりもバンドギャップが大なる窒化物半導体からなるバリア層と、を含み、
前記電極は、前記バリア層の上に設けられたゲート電極と、前記バリア層の上において前記ゲート電極の両側に設けられたソース電極及びドレイン電極と、を有することを特徴とする請求項3または4に記載の窒化物半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−112633(P2007−112633A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302308(P2005−302308)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】